(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】光導波路構造
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20220926BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20220926BHJP
H01S 5/227 20060101ALI20220926BHJP
H01S 5/125 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G02B6/122
G02B6/12 301
G02B6/12 361
H01S5/227
H01S5/125
(21)【出願番号】P 2018567454
(86)(22)【出願日】2018-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2018004124
(87)【国際公開番号】W WO2018147307
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017020621
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 康貴
(72)【発明者】
【氏名】川北 泰雅
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-172026(JP,A)
【文献】特開2012-174938(JP,A)
【文献】国際公開第99/031774(WO,A1)
【文献】特開平11-054841(JP,A)
【文献】特開平06-097604(JP,A)
【文献】特開2016-054168(JP,A)
【文献】特開2007-025583(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0185689(US,A1)
【文献】特開2014-149323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H01S 5/12
5/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に直接形成された下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に位置する光導波層と、
前記光導波層上に位置する上部クラッド層と、
前記上部クラッド層上に位置するヒータと、
を備え、前記上部クラッド層と前記下部クラッド層との間に前記光導波層が配置されており、前記下部クラッド層、前記光導波層、および前記上部クラッド層はメサ構造を構成しており、前記光導波層は前記上部クラッド層よりも熱伝導率が低い材料で構成されており、前記光導波層はGaInAsPで構成され、前記下部クラッド層および前記上部クラッド層はInPで構成されており、前記メサ構造のメサ幅をW
mesa、前記光導波層の幅をW
wgとすると、下記式が成り立ち、前記メサ構造の幅方向において、前記光導波層が占める割合が1/3以上であり、さらに、前記上部クラッド層の上面から熱量を加えた際に、前記上部クラッド層の上面の温度がどの程度上昇するかを示す熱抵抗が、下記式が成り立つ範囲で前記メサ幅が
小さくなると上昇し、実効屈折率については、W
mesaが
大きくなるとW
mesaの値に依らずに略一定であ
るものがあり、
前記メサ構造を覆うように、前記メサ構造の半導体とは異なる材料からなる保護膜が設けられ、かつ前記保護膜が形成された前記メサ構造の側部は絶縁部材で埋められており、
さらに、前記光導波層は、両脇が電流ブロッキング構造によって埋め込まれることを特徴とする光導波路構造。
W
wg
<W
mesa
≦3×W
wg
【請求項2】
W
mesa≦4μm
が成り立つことを特徴とする請求項
1に記載の光導波路構造。
【請求項3】
1μm≦W
wg≦3μm、かつ、2μm≦W
mesa≦4μm
が成り立つことを特徴とする請求項1
または2に記載の光導波路構造。
【請求項4】
前記光導波層に対して前記上部クラッド層側または前記下部クラッド層側に位置する回折格子層をさらに備えることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の光導波路構造。
【請求項5】
前記光導波層に対して前記基板側に位置する低熱伝導率領域をさらに備えることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一つに記載の光導波路構造。
【請求項6】
前記光導波層と接続する活性コア層をさらに備えることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載の光導波路構造。
【請求項7】
前記活性コア層を伝搬する所定の波長の光のモードフィールド径または伝搬定数と、前記光導波層を伝搬する前記所定の波長の光のモードフィールド径または伝搬定数とが、互いに異なることを特徴とする請求項
6に記載の光導波路構造。
【請求項8】
前記活性コア層と前記光導波層とがモードフィールド変換構造を介して接続していることを特徴とする請求項
7に記載の光導波路構造。
【請求項9】
前記上部クラッド層の幅は、前記光導波層および前記両脇の前記電流ブロッキング構造で規定される幅と等し
いことを特徴とする請求項1~
8のいずれか一つに記載の光導波路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光導波路構造を備える半導体レーザ素子において、光導波路構造を構成する光導波層や回折格子層の屈折率を、ヒータによって加熱することで変化させて、レーザ発振波長を変化させる技術が知られている(たとえば、特許文献1)。ヒータによる加熱の効率を高めるために、光導波層と基板との間に熱伝導率が低い層や領域を設ける技術が特許文献2~4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/152274号
【文献】特開2015-12176号公報
【文献】特許第5303580号公報
【文献】米国特許第8236589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2~4にも開示されているように、ヒータによる加熱の効率を高めることが要求されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ヒータによる加熱効率を高めた光導波路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光導波路構造は、基板上に位置する下部クラッド層と、前記下部クラッド層上に位置する光導波層と、前記光導波層上に位置する上部クラッド層と、前記上部クラッド層上に位置するヒータと、を備え、前記下部クラッド層、前記光導波層、および前記上部クラッド層はメサ構造を構成しており、前記メサ構造のメサ幅をWmesa、前記光導波層の幅をWwgとすると、下記式
Wwg≦Wmesa≦3×Wwg
が成り立つことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、Wwg≦Wmesa≦2×Wwgが成り立つことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、Wmesa≦4μmが成り立つことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、1μm≦Wwg≦3μm、かつ、2μm≦Wmesa≦4μmが成り立つことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記光導波層は、前記上部クラッド層よりも熱伝導率が低い材料で構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記光導波層はGaInAsPで構成され、前記下部クラッド層および前記上部クラッド層はInPで構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記光導波層に対して前記上部クラッド層側または前記下部クラッド層側に位置する回折格子層をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記光導波層に対して前記基板側に位置する低熱伝導率領域をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記光導波層と接続する活性コア層をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記活性コア層を伝搬する所定の波長の光のモードフィールド径または伝搬定数と、前記光導波層を伝搬する前記所定の波長の光のモードフィールド径または伝搬定数とが、互いに異なることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る光導波路構造は、前記活性コア層と前記光導波層とがモードフィールド変換構造を介して接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヒータによる加熱効率を高めた光導波路構造を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光導波路構造を含む波長可変レーザ素子の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、計算例1、計算例2における規格化熱抵抗および計算例1における実効屈折率を示す図である。
【
図5】
図5は、計算例1、計算例2における規格化熱抵抗および実施例1~3における規格化熱抵抗を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、計算例1~6における規格化熱抵抗を示す図ある。
【
図6B】
図6Bは、計算例1、3~6における実効屈折率を示す図である。
【
図7】
図7は、光導波路構造の変形例1を示す図である。
【
図8】
図8は、光導波路構造の変形例2を示す図である。
【
図9】
図9は、光導波路構造の変形例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、図中で適宜xyz座標軸を示し、これにより方向を説明する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光導波路構造を含む波長可変レーザ素子の構成を示す模式図である。波長可変レーザ素子100は、共通の基部S上に形成された、第1光導波路部10と第2光導波路部20とを備えている。基部Sはたとえばn型InPからなる。なお、基部Sの裏面にはn側電極30が形成されている。n側電極30は、たとえばAuGeNiを含んで構成され、基部Sとオーミック接触する。
【0021】
第1光導波路部10は、光導波路11も含んでいる半導体メサ部12と、p側電極13と、Tiからなるマイクロヒータ14と、2つの電極パッド15とを備えている。第1光導波路部10は、埋め込み構造を有しており、光導波路11は、半導体メサ部12内にz方向に延伸するように形成されている。半導体メサ部12は、InP系半導体層が積層して構成されており、光導波路11に対するクラッド部の機能等を備える。
【0022】
図2は、第1光導波路部10の上面図である。なお、
図2では、p側電極13、マイクロヒータ14、および電極パッド15は図示を省略している。第1光導波路部10は、第1光導波路構造部10Aと、第2光導波路構造部10Bと、第3光導波路構造部10Cと、2つのサポートメサ部10Dと、を有している。第1光導波路構造部10Aと、第2光導波路構造部10Bと、第3光導波路構造部10Cとは、この順番で接続している。また、第2光導波路構造部10Bおよび第3光導波路構造部10Cとサポートメサ部10Dとの間には絶縁部材17が設けられている。絶縁部材17はたとえばポリイミドからなる。
【0023】
p側電極13は、第1光導波路構造部10Aにおける半導体メサ部12上において、光導波路11に沿うように配置されている。なお、半導体メサ部12には後述するSiN保護膜が形成されており、p側電極13はSiN保護膜に形成された開口部を介して半導体メサ部12に接触している。マイクロヒータ14は、第3光導波路構造部10Cにおける半導体メサ部12のSiN保護膜上において、光導波路11に沿うように配置されている。各電極パッド15は、各サポートメサ部10Dにおける半導体メサ部12のSiN保護膜上に配置されている。各電極パッド15は、マイクロヒータ14と、絶縁部材17上に設けられた不図示の配線パターンを介して電気的に接続している。マイクロヒータ14は、各電極パッド15を介して電流を供給されることによって発熱する。
【0024】
図3A、3B、3Cは、それぞれ、
図2のA-A線断面、B-B線断面、C-C線断面を示す図である。
図3A、3B、3Cは、それぞれ、第1光導波路構造部10A、第2光導波路構造部10B、第3光導波路構造部10Cの断面を含んでいる。
【0025】
まず、第1光導波路構造部10Aについて説明する。
図3Aに示すように、第1光導波路構造部10Aの半導体メサ部12は、基部Sを構成するn型InP基板上に、n型InPからなる下部クラッド層12aを有している。下部クラッド層12a上には、第1光導波路構造部10Aにおける光導波路11である活性コア層11aが積層している。さらに活性コア層11a上には、p型InPからなる第1の上部クラッド層12bが積層している。下部クラッド層12aの上部、活性コア層11aおよび第1の上部クラッド層12bは、エッチング等により、1.55μm帯の光をシングルモードで光導波するのに適した幅(たとえば2μm)にされたストライプメサ構造になっている。ストライプメサ構造の両脇(紙面左右方向)は、p型InP埋め込み層12cおよびn型InP電流ブロッキング層12dからなる電流ブロッキング構造を有した埋め込み構造となっている。さらに、第1の上部クラッド層12bおよび埋め込み構造の上には、p型半導体層12eが積層している。p型半導体層12eは、p型InPからなる第2の上部クラッド層12eaと、第2の上部クラッド層12ea上に積層したp型InGaAsからなり半導体メサ部12の最上層を形成するコンタクト層12ebとで構成されている。p型半導体層12eは、少なくとも第1の上部クラッド層12bの直上からその両脇の埋め込み構造にわたって設けられている。第1の上部クラッド層12bと第2の上部クラッド層12eaとは、一体となって光導波路11に対して上部クラッド層として機能する。半導体メサ部12には半導体メサ部12を覆うようにSiN保護膜16が形成されている。p側電極13はAuZnを含んで構成されており、コンタクト層12eb上に形成されて、SiN保護膜16の開口部16aを介してコンタクト層12ebとオーミック接触している。以上の構成により、n側電極30およびp側電極13から活性コア層11aへの電流注入が可能になっている。また、第1光導波路構造部10Aは、埋め込み構造自体がメサ構造となっている。
【0026】
活性コア層11aは、交互に積層された複数の井戸層と複数のバリア層を含んで構成された多重量子井戸構造と、多重量子井戸構造を上下から挟む下部および上部光閉じ込め層とを有しており、電流注入により発光する。この活性コア層11aの多重量子井戸構造を構成する井戸層およびバリア層は、各々組成が異なるGaInAsPからなり、活性コア層11aからの発光波長帯は、本実施形態では1.55μm帯である。下部光閉じ込め層はn型GaInAsPからなる。上部光閉じ込め層はp型GaInAsPからなる。下部および上部光閉じ込め層のバンドギャップ波長は、活性コア層11aのバンドギャップ波長より短い波長に設定されている。
【0027】
つぎに、第2光導波路構造部10Bについて説明する。
図3Bに示すように、第2光導波路構造部10Bの半導体メサ部12は、
図3Aに示す構造において、活性コア層11aを、GaInAsPからなる光導波層11bに置き換え、コンタクト層12ebを削除した構造を有している。光導波層11bは、第2光導波路構造部10Bにおける光導波路11である。光導波層11bのバンドギャップ波長は、活性コア層11aのバンドギャップ波長より短いことが好ましく、たとえば1.2μmである。
【0028】
また、第2光導波路構造部10Bは、
図2に示すように、埋め込み構造自体がメサ構造となっており、そのメサ幅が、第1光導波路構造部10A側から第3光導波路構造部10C側に向かって連続的に狭くなっており、テーパ形状となっている。第1光導波路構造部10Aとの接続部における第2光導波路構造部10Bのメサ幅Wmは、たとえば10μmである。第2光導波路構造部10Bの長さLは、たとえば100μm、120μm、または150μmである。
【0029】
つぎに、実施形態に係る光導波路構造である第3光導波路構造部10Cについて説明する。
図3Cに示すように、第3光導波路構造部10Cの半導体メサ部12は、
図3Bに示す構造において、光導波層11bおよび第1の上部クラッド層12bを、光導波層11ca、スペーサ層12f、および回折格子層11cbに置き換えた構造を有している。また、マイクロヒータ14が、SiN保護膜16上に設けられている。光導波層11ca、スペーサ層12f、および回折格子層11cbが、第3光導波路構造部10Cにおける光導波路11である。
【0030】
光導波層11caは、GaInAsPからなる。光導波層11caのバンドギャップ波長は、活性コア層11aのバンドギャップ波長より短いことが好ましく、たとえば1.2μmである。
【0031】
回折格子層11cbは、p型InPからなるスペーサ層12fを挟んで光導波層11caの近傍かつ直上に光導波層11caに沿って設けられた標本化回折格子(Sampled Grating)を含む層であり、DBR(Distributed Bragg Reflector)型の回折格子層として形成されている。すなわち、回折格子層11cbは、光導波層11caに対して第2の上部クラッド層12ea側に位置する。回折格子層11cbは、p型GaInAsP層にz方向に沿って標本化回折格子が形成され、回折格子の溝はInPで埋め込まれた構成を有する。回折格子層11cbにおいて回折格子の格子間隔は一定であるが標本化されており、これにより波長に対し略周期的な反射応答を示す。回折格子層11cbのp型GaInAsP層のバンドギャップ波長は活性コア層11aのバンドギャップ波長より短いことが好ましく、たとえば1.2μmである。
【0032】
また、第3光導波路構造部10Cは、埋め込み構造自体がメサ構造となっている。このメサ構造は、下部クラッド層12a、光導波層11ca、および第2の上部クラッド層12eaを少なくとも含むものである。さらに、上述したように、マイクロヒータ14は、各電極パッド15を介して電流を供給されることによって発熱し、回折格子層11cbを加熱する。供給される電流量を変化させることによって回折格子層11cbの温度が変化し、その屈折率が変化する。
【0033】
図1に戻って、第2光導波路部20について説明する。第2光導波路部20は、2分岐部21と、2つのアーム部22、23と、リング状導波路24と、Tiからなるマイクロヒータ25とを備えている。
【0034】
2分岐部21は、1×2型の多モード干渉型(MMI)導波路21aを含む1×2型の分岐型導波路で構成され、2ポート側が2つのアーム部22、23のそれぞれに接続されるとともに1ポート側が第1光導波路部10側に接続されている。2分岐部21により、2つのアーム部22、23は、その一端が統合され、回折格子層11cbと光学的に結合される。
【0035】
アーム部22、23は、いずれもz方向に延伸し、リング状導波路24を挟むように配置されている。アーム部22、23はリング状導波路24と近接し、いずれも同一の結合係数κでリング状導波路24と光学的に結合している。κの値はたとえば0.2である。アーム部22、23とリング状導波路24とは、リング共振器フィルタRF1を構成している。また、リング共振器フィルタRF1と2分岐部21、及び、以下で説明する位相調整部27とは、反射ミラーM1を構成している。マイクロヒータ25はリング状であり、リング状導波路24を覆うように形成されたSiN保護膜上に配置されている。マイクロヒータ25は、電流を供給されることによって発熱し、リング状導波路24を加熱する。供給される電流量を変化させることによってリング状導波路24の温度が変化し、その屈折率が変化する。
【0036】
2分岐部21、アーム部22、23、およびリング状導波路24は、いずれも、GaInAsPからなる光導波層20aがn型InPからなる下部クラッド層およびp型InPからなる上部クラッド層によって挟まれたハイメサ導波路構造を有している。
【0037】
また、アーム部23の一部のSiN保護膜上には、マイクロヒータ26が配置されている。アーム部23のうちマイクロヒータ26の下方の領域は、光の位相を変化させる位相調整部27として機能する。マイクロヒータ26は、電流を供給されることによって発熱し、位相調整部27を加熱する。供給される電流量を変化させることによって位相調整部27の温度が変化し、その屈折率が変化する。
【0038】
第1光導波路部10と第2光導波路部20は、互いに光学的に接続された一組の波長選択要素である回折格子層11cbと反射ミラーM1とにより構成される、光共振器C1を構成している。反射ミラーM1は、2分岐部21、アーム部22、アーム部23(位相調整部27を含む)、およびリング状導波路24以外に、位相調整部27も含んでいる。位相調整部27は反射ミラーM1内に配置される。
【0039】
波長可変レーザ素子100において、回折格子層11cbは、略所定の波長間隔で略周期的な反射特性を有する第一の櫛状反射スペクトルを生成する。一方、リング共振器フィルタRF1は、略所定の波長間隔で略周期的な反射特性を有する第二の櫛状反射スペクトルを生成する。第二の櫛状反射スペクトルは、第一の櫛状反射スペクトルのピークの半値全幅よりも狭い半値全幅のピークを有し、第一の櫛状反射スペクトルの波長間隔とは異なる波長間隔で略周期的な反射特性を有する。但し、屈折率の波長分散を考慮すると、スペクトル成分は厳密には等波長間隔になっていないことに注意が必要である。
【0040】
各櫛状反射スペクトルの特性について例示すると、第一の櫛状反射スペクトルのピーク間の波長間隔(自由スペクトル領域:FSR)は光の周波数で表すと373GHzである。また、第二の櫛状反射スペクトルのピーク間の波長間隔(FSR)は光の周波数で表すと400GHzである。
【0041】
波長可変レーザ素子100において、レーザ発振を実現するために、第一の櫛状反射スペクトルのピークの一つと第二の櫛状反射スペクトルのピークの一つとを波長軸上で重ね合わせ可能に構成されている。このような重ね合わせは、マイクロヒータ14およびマイクロヒータ25の少なくともいずれか一つを用いて、マイクロヒータ14により回折格子層11cbを加熱して熱光学効果によりその屈折率を変化させて第一の櫛状反射スペクトルを波長軸上で全体的に移動させて変化させる、および、マイクロヒータ25によりリング状導波路24を加熱してその屈折率を変化させて第二の櫛状反射スペクトルを波長軸上で全体的に移動させて変化させる、の少なくともいずれか一つを行うことにより、実現することができる。
【0042】
一方、波長可変レーザ素子100において、光共振器C1による共振器モードが存在する。波長可変レーザ素子100においては、共振器モードの間隔(縦モード間隔)は25GHz以下となるように光共振器C1の共振器長が設定されている。なお、光共振器C1の共振器モードの波長は、マイクロヒータ26を用いて位相調整部27を加熱してその屈折率を変化させて共振器モードの波長を波長軸上で全体的に移動させることにより微調整することができる。すなわち、位相調整部27は、光共振器C1の光路長を能動的に制御するための部分である。
【0043】
波長可変レーザ素子100は、n側電極30およびp側電極13から活性コア層11aへ電流を注入し、活性コア層11aを発光させると、第一の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分のピーク、第二の櫛状反射スペクトルのスペクトル成分のピーク、および光共振器C1の共振器モードの一つが一致した波長、たとえば1550nmでレーザ発振し、レーザ光L1を出力するように構成されている。
【0044】
また、波長可変レーザ素子100では、バーニア効果を利用してレーザ発振波長を変化させることができる。たとえば、回折格子層11cbをマイクロヒータ14で加熱すると、熱光学効果により回折格子層11cbの屈折率が上昇し、回折格子層11cbの反射スペクトル(第一の櫛状反射スペクトル)は全体的に長波側にシフトする。その結果、1550nm付近における、第一の櫛状反射スペクトルのピークは、リング共振器フィルタRF1の反射スペクトル(第二の櫛状反射スペクトル)のピークとの重なりが解かれ、長波側に存在する、第二の櫛状反射スペクトルの別のピーク(たとえば1556nm付近)に重なる。さらに、位相調整部27をチューニングして共振器モードを微調し、共振器モードの1つを、2つの櫛状反射スペクトルに重ねることで、1556nm付近でのレーザ発振を実現できる。
【0045】
ここで、上述したように、波長可変レーザ素子100では、レーザ発振の実現およびレーザ発振波長の変化のために、回折格子層11cbをマイクロヒータ14で加熱する。マイクロヒータ14による加熱効率を高めるために、回折格子層11cbを含む第3光導波路構造部10Cの構造を、以下の条件式が成り立つようにしている。
【0046】
すなわち、
図3Cに示すように、第3光導波路構造部10Cにおけるメサ構造のメサ幅をW
mesa、光導波層11caの幅をW
wgとすると、下記式
W
wg≦W
mesa≦3×W
wg
が成り立つ。これにより、メサ構造の幅方向において、第2の上部クラッド層12eaを構成する材料(InP)よりも熱伝導率が低い材料(GaInAsP)で構成される光導波層11caが占める割合が大きいので、マイクロヒータ14による回折格子層11cbの加熱効率を高くすることができる。
【0047】
以下、シミュレーションによる計算例を用いて具体的に説明する。以下では、計算例1として、InPで構成された基板上に、InPで構成された上部クラッド層と下部クラッド層との間にGaInAsPで構成された光導波層を配置したメサ構造の光導波路構造を計算モデルとした。そして、この計算モデルに対して、光導波層の実効屈折率、および、クラッド層上面から熱を加えた際の熱抵抗を計算した。なお、各計算モデルにおいて、光導波層の幅は一定とし、メサ構造のメサ幅は各計算モデルごとに異なる値とした。また、計算モデルにおいて、メサ幅が光導波層の幅と等しいものは、ハイメサ構造の光導波路構造であり、メサ幅が光導波層の幅よりも大きいものは、埋め込み構造の光導波路構造である。埋め込み構造において光導波層の両側面に配置されている層を埋め込み層と呼ぶ。
【0048】
計算に使用した具体的な計算パラメータは以下の通りである。まず、光導波層は、厚さ0.3μm、幅(Wwg)2μmである。また、光導波層は、バンドギャップ波長が1.2μmとなる組成を有し、波長1.55μmにおける屈折率が3.3542であり、熱伝導率が5W/KmであるGaInAsPである。また、上部クラッド層、下部クラッド層、埋め込み層は、いずれも、波長1.55μmにおける屈折率が3.165であり、熱伝導率が68W/KmであるInPである。上部クラッド層の厚さは1.5μmであり、下部クラッド層の厚さは1.0μmである。
【0049】
さらに、計算例2として、計算例1の計算モデルの光導波路構造において光導波層をクラッド層と同じInPからなる層に置き換えたものを計算モデルとして、クラッド層上面から熱を加えた際の熱抵抗を計算した。
【0050】
図4は、計算例1、計算例2における規格化熱抵抗および計算例1における実効屈折率を示す図である。規格化熱抵抗は、上部クラッド層の上面から1Wの熱量を加えた際に、上部クラッド層の上面の温度が何ケルビン上昇するかを示した量である。実効屈折率は、波長1.55μmにおける値である。
【0051】
図4に示すように、計算例1では、メサ幅を約10μmから小さくしていくと、規格化熱抵抗は緩やかに上昇するが、メサ幅が6μm以下になると急激に上昇する。すなわち、W
wg≦W
mesa≦3×W
wgが成り立つ範囲では、熱抵抗が顕著に高くなるので、ヒータによる加熱効率を高めることができる。また、W
wg≦W
mesa≦2×W
wgが成り立つ範囲では、熱抵抗がさらに顕著に高くなるので、ヒータによる加熱効率をより一層高めることができるのでより好ましい。なお、計算例2でも、規格化熱抵抗はメサ幅が6μm以下で急激に上昇するが、熱伝導率が低い光導波層が存在する計算例1の場合の方が、上昇がより顕著である。
【0052】
計算例2の場合の熱抵抗の上昇は、与えた熱が流れていく流路の幅(メサ幅)が狭くなっていくことで、熱勾配が大きくなることによる効果であり、メサ幅と熱抵抗とが反比例の関係にあるものと考えられる。これに対して、計算例1の場合は、計算例2の結果から予測されるよりも熱抵抗が大幅に上昇するということが確認された。
【0053】
なお、上記計算例1では、光導波層は、バンドギャップ波長が1.2μmとなる組成を有し、熱伝導率が5W/KmであるGaInAsPである。したがって、熱伝導率が68W/KmであるInPよりも熱伝導率が大幅に小さい。ただし、GaInAsPについては、波長1.3μm~1.6μmの光に対して透明であるような組成であれば、その熱伝導率はInPよりも大幅に小さい。したがって、波長1.3μm~1.6μmの光に対して透明であり、かつInPよりも屈折率が高い組成のGaInAsPに対しても、メサ幅と規格化熱抵抗との関係は
図4に示す結果と同様のものになると考えられる。
【0054】
また、
図4に示すように、メサ幅が6μm、すなわちW
mesa=3×W
wgの場合は光導波層の実効屈折率は3.208であるが、メサ幅が4μmより小さくなると急激に減少する。このことは、W
mesa≦2×W
wgの場合はメサ幅がW
mesa=3×W
wgのようにW
mesaよりも十分に大きい場合と比較して、メサ幅が狭いことによって光導波層における光の伝搬状態が影響を受けることを意味している。
【0055】
つぎに、実施例1、2、3として、計算例1の計算モデルに従う光導波路構造を作製し、その熱抵抗を実測した。なお、実施例1、2、3のメサ幅は、それぞれ2μm、3μm、8μmとした。
図5は、計算例1、計算例2における規格化熱抵抗および実施例1~3における規格化熱抵抗を示す図である。
図5に示す実施例1~3の規格化熱抵抗(右縦軸)は、実施例3、つまりメサ幅が8μmの場合の規格化熱抵抗[K/W]で規格化した値であり、無次元である。
図5に示すように、実施例1~3における規格化熱抵抗のメサ幅依存性は、計算例1における規格化熱抵抗のメサ幅依存性と同じような傾向を示し、計算モデルの妥当性が確認された。
【0056】
図6Aは、計算例1、2における規格化熱抵抗と、計算例1の計算モデルにおいて光導波層の幅(W
wg)を変更して1μm(計算例3)、1.5μm(計算例4)、2.5μm(計算例5)、3μm(計算例6)とした場合の規格化熱抵抗とを示す図である。
図6Bは、計算例1、3~6における実効屈折率を示す図である。計算例1、3~6は、少なくとも1μm≦W
wg≦3μm、かつ、2μm≦W
mesa≦4μmが成り立つ範囲において計算を行ったものである。また、表1は、計算例1、4、5から、1μm≦W
wg≦3μm、かつ、2μm≦W
mesa≦4μmが成り立つ範囲のW
wg、W
mesaの値における実効屈折率と規格化熱抵抗とを抜粋して示す。
【0057】
【0058】
図6Aに示すように、W
wgの値に関わらず、W
mesa≦4μmが成り立てば、熱抵抗が高くなり、ヒータによる加熱効率を高めるという効果を享受できる。また、
図6Bに示すように、実効屈折率については、W
mesaが4μmより大きい場合はW
mesaの値に依らずに略一定であり、W
mesa≦4μmの場合はW
mesaが小さくなるにつれて小さくなる。このことは、上述したように、メサ幅が狭くなると光導波層における光の伝搬状態が影響を受けることを意味している。
【0059】
ここで、第3光導波路構造部10Cにおいて、W
wg≦W
mesa≦2×W
wgが成り立つとする。このとき、第3光導波路構造部10Cは、メサ幅が狭いことによって光導波層における光の伝搬状態が影響を受けている状態である。一方、第1光導波路構造部10Aでは、光導波層である活性コア層11aの幅に対してメサ幅が十分に広く、たとえば250μm以上となっている。したがって、第1光導波路構造部10Aは、
図6Bにおける、メサ幅に依らず実効屈折率が略一定の状態である。したがって、第1光導波路構造部10Aにおいて活性コア層11aを伝搬する所定の波長(たとえば1.55μm)の光のモードフィールド径または伝搬定数と、第3光導波路構造部10Cにおいて光導波層11caを伝搬する同じ波長の光のモードフィールド径または伝搬定数とは、互いに異なる。このような光のモードフィールド径または伝搬定数が異なる導波路同士を直接的に接続すると、接続箇所においてモードフィールド径または伝搬定数が不連続に変化することとなるので、大きな光損失や光反射が発生する。
【0060】
そこで、波長可変レーザ素子100においては、活性コア層11aと光導波層11caとが、モードフィールド変換構造としての第2光導波路構造部10Bを介して接続している。上述したように、第2光導波路構造部10Bは、埋め込み構造のメサ幅が第1光導波路構造部10A側から第3光導波路構造部10C側に向かって連続的に狭くなるテーパ形状を有している(
図2参照)。その結果、第2光導波路構造部10Bにおける光導波層11bを伝搬する光のモードフィールド径または伝搬定数も、活性コア層11aにおける値から光導波層11caにおける値まで連続的に変化することとなるので、光損失や光反射が抑制される。好ましくは、第2光導波路構造部10Bの埋め込み構造のメサ幅は、第1光導波路構造部10A側では光導波層11bにおけるモードフィールド径または伝搬定数が活性コア層11aにおけるモードフィールド径または伝搬定数と略等しくなるようなメサ幅となっており、第3光導波路構造部10C側では第3光導波路構造部10Cと同じメサ幅となっていれば、光損失や光反射を一層効果的に抑制することができる。
【0061】
以上説明したように、波長可変レーザ素子100の第3光導波路構造部10Cにおいては、マイクロヒータ14による回折格子層11cbの加熱効率を高くすることができる。
【0062】
なお、波長可変レーザ素子100は、以下のような工程で製造することができる。まず基部Sを構成するn型InP基板上に、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法を用いて、下部クラッド層12aおよび第2光導波路部20における下部クラッド層、活性コア層11a、第1の上部クラッド層12bを順次堆積する。
【0063】
つづいて、全面にSiN膜を堆積した後、SiN膜にパターニングを施す。その後、SiN膜をマスクとしてエッチングし、第1光導波路構造部10Aを形成する領域以外の領域の活性コア層11aおよび第1の上部クラッド層12bを全て除去する。さらに、SiN膜のマスクをそのまま選択成長マスクとして、MOCVD法により、光導波層11b、11caおよび第2光導波路部20における光導波層20a、スペーサ層12f、回折格子層11cbとなるp型InGaAsP層、第2の上部クラッド層12eaの一部を順次堆積する。
【0064】
つづいて、SiN膜のマスクを除去した後に、全面にSiN膜を堆積した後、回折格子層11cbを形成する領域のSiN膜に、回折格子のパターニングを施す。そして、SiN膜をマスクとしてエッチングし、p型InGaAsP層に回折格子となる格子溝を形成するとともに、回折格子層11cbを形成する位置以外の位置のp型InGaAsP層を全て取り除く。
【0065】
つづいて、SiN膜のマスクを除去した後に、全面にp型InP層を再成長する。その後、新たにSiN膜を堆積し、第1光導波路部10における光導波路11および第2光導波路部20における光導波層に対応するパターンになるようにパターニングを施す。そして、このSiN膜をマスクとしてエッチングして、第1光導波路部10および第2光導波路部20にストライプメサ構造を形成するとともに、下部クラッド層12aを露出させる。この時、2分岐部21、アーム部22、23、リング状導波路24に相当する領域は、それらを含む広い領域の形状でエッチングを行う。
【0066】
つづいて、直前の工程で用いたSiN膜マスクを選択成長マスクとして、MOCVD法を用いて、露出した下部クラッド層12a上に、p型InP埋め込み層12c、n型InP電流ブロッキング層12dを順次堆積して埋め込み構造を形成する。つづいて、SiN膜のマスクを除去した後、MOCVD法を用いて、全面に、第2の上部クラッド層12eaおよび第2光導波路部20における上部クラッド層の残りの部分となるp型InP層、コンタクト層12ebを順次堆積する。つづいて、第1光導波路構造部10Aを形成する領域以外のコンタクト層12ebを除去する工程を行う。つづいて、全面にSiN膜を堆積した後、第1光導波路構造部10A、第2光導波路構造部10B、第3光導波路構造部10Cの形状のパターニングおよび2分岐部21、アーム部22、23、リング状導波路24に相当する導波路のパターニングを施す。そして、このSiN膜をマスクとしてエッチングを行い、第1光導波路構造部10A、第2光導波路構造部10B、第3光導波路構造部10Cのメサ構造、サポートメサ部10D、および第2光導波路部20におけるハイメサ導波路構造を形成する。このエッチングは、たとえば基部Sに到る深さまで行う。その後、SiN保護膜16、絶縁部材17、n側電極30、マイクロヒータ14、26および電極パッド15および配線パターンを形成する。最後に、基板を波長可変レーザ素子100が複数並んだバー状に劈開し、第3光導波路構造部10C側端面、アーム部22、23の端面に反射防止膜をコートしたのち、各波長可変レーザ素子100ごとに素子分離することにより、波長可変レーザ素子100が完成する。
【0067】
(変形例)
本発明に係る光導波路構造は、上記実施形態の態様に限られず、様々な態様に変形することができる。
図7は、光導波路構造の変形例1を示す図である。実施形態に係る光導波路構造の変形例1である光導波路構造110Cは、第3光導波路構造部10Cの半導体メサ部12における回折格子層11cbの位置と光導波層11caの位置とを入れ換えた構造の半導体メサ部112を有する。すなわち、光導波路構造110Cでは、回折格子層11cbは、光導波層11caに対して下部クラッド層12a側に位置する。光導波路構造110Cにおいても、メサ構造のメサ幅W
mesa、光導波層11caの幅W
wgについて、W
wg≦W
mesa≦3×W
wgが成り立つ。また、W
mesaが4μm以下となっている。これにより、回折格子層11cbが光導波層11caに対してマイクロヒータ14とは反対側に位置する構造であっても、マイクロヒータ14による回折格子層11cbの加熱効率を高くすることができる。
【0068】
図8は、光導波路構造の変形例2を示す図である。変形例2である光導波路構造210Cは、第3光導波路構造部10Cの半導体メサ部12を、半導体メサ部212に置き換えた構造を有する。半導体メサ部212は、半導体メサ部12から回折格子層11cbおよびスペーサ層12fを削除した構成を有している。そのため半導体メサ部212において第2の上部クラッド層212eaは光導波層11caの直上の領域まで形成されている。このような光導波路構造210Cは、マイクロヒータ14によって光導波層11caを加熱し、その屈折率を変化させ、位相調整などの所定の機能を発揮するものである。光導波路構造210Cにおいても、メサ構造のメサ幅W
mesa、光導波層11caの幅W
wgについて、W
wg≦W
mesa≦3×W
wgが成り立つ。これにより、マイクロヒータ14による光導波層11caの加熱効率を高くすることができる。なお、光導波層11caが回折格子の機能を備える場合には加熱により反射波長を変化させることができる。また、光導波路構造210Cがファブリーペロー型の半導体レーザ素子の光共振器内の光導波路に適用され、光導波層11caが活性コア層の機能を備える場合には、加熱によりレーザ発振波長を変化させることができる。いずれの場合も、マイクロヒータ14による光導波層11caの加熱効率を高くすることができる。
【0069】
図9は、光導波路構造の変形例3を示す図である。変形例3である光導波路構造310Cは、第3光導波路構造部10Cの半導体メサ部12を、半導体メサ部312に置き換えた構造を有する。半導体メサ部312は、半導体メサ部12の下部クラッド層12aを、下部クラッド層312aおよび低熱伝導率層312gに置き換えた構造を有する。下部クラッド層312aは、下部クラッド層312aaと下部クラッド層312abとからなる。低熱伝導率層312gは、下部クラッド層312aaと下部クラッド層312abとに挟まれており、光導波層11caに対して基部S側に位置する。低熱伝導率層312gは、下部クラッド層312aを構成するInPよりも低熱伝導率であるn型の材料(たとえばAlInAsPや、酸化されたGaAlInAsP)からなり、低熱伝導率領域を構成する。
【0070】
光導波路構造310Cは、このような低熱伝導率層312gを備えることにより、マイクロヒータ14から与えられた熱が基部S側に拡散されることが抑制されるので、Wwg≦Wmesa≦3×Wwgが成り立つことによる効果と合わせて、マイクロヒータ14による光導波層11caの加熱効率を、より一層高くすることができる。
【0071】
なお、酸化されたGaAlInAsPで低熱伝導率層312gを構成する場合は、以下のように行う。まず、半導体メサ部312を形成する工程において低熱伝導率層312gを形成すべき位置にGaAlInAsP層を堆積する。その後、メサ構造を形成した後に、側面が露出したGaAlInAsP層に対して、水蒸気雰囲気下でアニールを行い、露出した側面からGaAlInAsP層を熱酸化する。
【0072】
図10は、光導波路構造の変形例4を示す図である。変形例4である光導波路構造410Cは、第3光導波路構造部10Cの半導体メサ部12を、半導体メサ部412に置き換えた構造を有する。半導体メサ部412は、半導体メサ部12の下部クラッド層12aを、メサ構造に対して一方の側方に延在した支持領域412aaを備えた下部クラッド層412aに置き換え、下部クラッド層412aの支持領域412aaと基部Sとの間に支持層412hを設けた構成を有する。支持層412hはたとえばn型のAlInAsからなる。上記構成により、下部クラッド層412aのメサ構造の部分と基部との間に、低熱伝導率領域としての空洞領域412iが形成される。空洞領域412iは空気などの気体で満たされた領域である。
【0073】
光導波路構造410Cは、このような空洞領域412iを備えることにより、マイクロヒータ14から与えられた熱が基部S側に拡散されることが抑制されるので、Wwg≦Wmesa≦3×Wwgが成り立つことによる効果と合わせて、マイクロヒータ14による光導波層11caの加熱効率を、より一層高くすることができる。
【0074】
光導波路構造410Cの製造方法を以下に例示する。まず、n型InP基板上に、支持層412hとなるAlInAs層を堆積した後、下部クラッド層412aより上の層を堆積する。その後、メサ構造を形成する際に、まず下部クラッド層412aに支持領域412aaが残るようにエッチングを行い、その後、支持領域412aaとは反対側の側面でAlInAs層の一部が露出するようにエッチングを行う。その後、たとえばフッ酸系のエッチング液を用いて、メサ構造におけるAlInAs層を選択的にエッチング除去し、支持層412hと空洞領域412iとを形成する。
【0075】
なお、上記実施形態および変形例では、回折格子は標本化回折格子であるが、回折格子の種類はこれに限られず、超構造回折格子(Superstructure Grating)や重畳回折格子(Superimposed Grating)でもよい。
【0076】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る光導波路構造は、たとえば半導体レーザ素子に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0078】
10 第1光導波路部
10A 第1光導波路構造部
10B 第2光導波路構造部
10C 第3光導波路構造部
10D サポートメサ部
11 光導波路
11a 活性コア層
11b、11ca 光導波層
11cb 回折格子層
12、212、312、412 半導体メサ部
12a、312a312aa、312ab、412a 下部クラッド層
12b 第1の上部クラッド層
12c p型InP埋め込み層
12cb 回折格子層
12d n型InP電流ブロッキング層
12e p型半導体層
12ea、212ea 第2の上部クラッド層
12eb コンタクト層
12f スペーサ層
13 p側電極
14、25、26 マイクロヒータ
15 電極パッド
16 SiN保護膜
16a 開口部
17 絶縁部材
20 第2光導波路部
21a MMI導波路
22、23 アーム部
24 リング状導波路
27 位相調整部
30 n側電極
100 波長可変レーザ素子
110C、210C、310C、410C 光導波路構造
312g 低熱伝導率層
412aa 支持領域
412h 支持層
412i 空洞領域
C1 光共振器
L1 レーザ光
M1 反射ミラー
RF1 リング共振器フィルタ
S 基部