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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】銀微粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20220926BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220926BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20220926BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220926BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/102
H01B1/22 A
B22F9/24 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019546740
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2018036905
(87)【国際公開番号】W WO2019069936
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】15/724,378
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】寺川 真悟
(72)【発明者】
【氏名】樋之津 崇
(72)【発明者】
【氏名】ホイ デイブ
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフ マイケル ステファン
(72)【発明者】
【氏名】グリックスマン ハワード ディヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ハイシン
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0318618(US,A1)
【文献】国際公開第2017/033911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00- 9/30
B22F 1/00
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)粒子径(D50)が50~300nmである銀微粒子を60~95質量%、
(ii)溶剤を4.5~39質量%、及び
(iii)ガラス転移温度(Tg)が70~300℃の樹脂を0.1~3質量%
み、
前記銀微粒子が、炭素数8~12のアミンである有機保護材で被覆されており、
前記溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、
銀微粒子分散液(ただし、質量分率は前記銀微粒子分散液の質量に基づく)。
【請求項2】
前記銀微粒子の一次粒子径が1~180nmである、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項3】
前記溶剤の沸点が150~350℃である、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項4】
前記樹脂の重量平均分子量が10,000~300,000である、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項5】
前記樹脂がセルロース樹脂である、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項6】
前記樹脂がヒドロキシプロピルセルロース樹脂(HPC)、エチルセルロース樹脂又はこれらの混合物である、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項7】
前記樹脂及び溶剤が、該樹脂と溶剤の質量比1:9(樹脂:溶剤)の混合物の粘度が0.7~16Pa・sであるものである、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【請求項8】
前記銀微粒子分散液の粘度が30~350Pa・sである、請求項1に記載の銀微粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には銀微粒子分散液に関する。より具体的には、本発明は電気装置の伝導性厚膜の形成に使用される銀微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
溶剤中に分散した銀微粒子を含む銀微粒子分散液には、品質安定性が求められる。
【0003】
US2016/0297982は銀粒子分散液を開示している。この銀微粒子分散液は、一次粒子径が1~100nmであり、有機保護材として機能するオクチルアミンなどの炭素数8~12のアミンで被覆された銀微粒子と(銀微粒子分散溶液における銀の含有量は30~90質量%である)、沸点が150~300℃の極性溶剤(5~70質量%)と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくとも一つである分散剤などのアクリル分散剤(銀微粒子に対して1.5~5質量%)とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US2016/0297982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目的は、抵抗についての保存安定性を有する銀微粒子分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様は、(i)粒子径(D50)が50~300nmである銀微粒子を60~95質量%、(ii)溶剤を4.5~39質量%、及び(iii)ガラス転移温度(Tg)が70~300℃の樹脂を0.1~3質量%含む、銀微粒子分散液(ただし、質量分率は前記銀微粒子分散液の質量に基づく)に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抵抗についての保存安定性を有する銀微粒子分散液が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
銀微粒子分散液
銀微粒子分散液は、銀微粒子、溶剤及び樹脂を含む。
【0009】
銀微粒子
一態様において、銀微粒子は有機保護材で被覆されている。一態様において、この有機保護材は炭素数8~12のアミンである。一態様において、このアミンは、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、及びこれらの組合せからなる群より選ばれてもよい。別の態様では、アミンはオクチルアミンを含んでもよい。銀微粒子をアミンで被覆することで、銀微粒子同士の焼結を防止して、隣接する銀微粒子間の距離を適切に保持することができる。
【0010】
銀微粒子の粒子径(D50)は50~300nmであり、別の態様では55~250nmであり、別の態様では75~210nmであり、別の態様では95~180nmである。溶剤中に分散した後の銀微粒子の粒子径(D50)は、動的光散乱(Nanotrac Wave-EX150、日機装株式会社)により測定することのできる体積基準の粒子径分布における累積50%値である。
【0011】
一態様において、銀微粒子の一次粒子径は、1~180nmであり、別の態様では10~150nmであり、別の態様では25~110nmであり、別の態様では30~85nmである。一次粒子径は、画像分析ソフトウェア(A像くん(登録商標)、旭化成エンジニアリング株式会社)を用いて画像写真を分析することにより測定される。画像写真は、走査型電子顕微鏡(SEM)(S-4700、日立ハイテクノロジーズ株式会社)又は透過型電子顕微鏡(TEM)(JEM-1011、日本電子株式会社)により撮ることができる。
【0012】
銀微粒子は、銀微粒子分散液の質量に基づいて60~95質量%であり、一態様においては65~90質量%であり、別の態様では68~88質量%であり、別の態様では70~85質量%である。
【0013】
溶剤
銀微粒子は溶剤中に分散される。一態様において、溶剤の沸点は150~350℃であり、別の態様では175~310℃であり、別の態様では195~260℃である。
【0014】
一態様において、溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ターピネオール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる。
【0015】
溶剤は、銀微粒子分散液の質量に基づいて4.5~39質量%であり、一態様においては8.5~32質量%であり、別の態様では10~29質量%であり、別の態様では12~26質量%である。
【0016】
樹脂
銀微粒子分散液は、0.1~3質量%の樹脂を含む。この樹脂のガラス転移温度(Tg)は70~300℃である。樹脂のガラス転移温度(Tg)は、別の態様では70~270℃であり、別の態様では85~250℃であり、別の態様では97~200℃であり、別の態様では120~160℃である。
【0017】
樹脂の分子量は、一態様においては10,000~300,000であり、別の態様では23,000~280,000であり、別の態様では38,000~220,000であり、別の態様では50,000~200,000である。「分子量」は、ここでは重量平均分子量として使用される。
【0018】
樹脂は一態様においてはセルロースであり、別の態様ではヒドロキシプロピルセルロース樹脂(HPC)、エチルセルロース樹脂又はこれらの混合物であり、別の態様ではエチルセルロース樹脂である。
【0019】
エチルセルロース樹脂はダウ・ケミカル・カンパニーより商業的に入手可能である。ダウ・ケミカル・カンパニーからのエチルセルロース樹脂の例としては、エトセル(R)ブランド(STD4、7、10、14、20、45、100、200、及び300を含む)が挙げられる。
【0020】
樹脂の含有量は、銀微粒子分散液の質量に基づいて0.1~3質量%であり、一態様においては0.2~2.9質量%であり、別の態様では0.3~2.7質量%であり、別の態様では0.5~2.5質量%である。
【0021】
何らかの理論に縛られるものではないが、所定の樹脂及び溶剤の組合せを銀微粒子分散液に組み入れることによって、分散液の安定性が高まるものと考えられる。特に、樹脂及び溶剤は、樹脂と溶剤が1:9(樹脂:溶剤)の質量比で組み合わされた10%樹脂溶液の粘度を試験することで評価されうる。一態様においては、粒子分散液における樹脂及び溶剤は、試験10%樹脂溶液の粘度が0.1~30Pa・sであるものである。別の態様では、10質量%樹脂溶液の粘度は0.3~25Pa・sであり、別の態様では0.5~21Pa・sであり、別の態様では0.7~16Pa・sである。10%樹脂溶液の粘度は、シアレート15.7s-1で25℃にて、C35/2のコーンプレートを有する粘度測定装置(HAAKE RheoStress 600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)により測定される。
【0022】
特定の理論に限定されるわけではないが、少ない高分子固体で同様の溶液粘度が得られるため樹脂の分子量が高いことが好まれる一方、分子量が高すぎると、銀微粒子が凝集することになりうる。
銀微粒子分散液は、一態様においては、ガラスフリットを含まない。
【0023】
銀微粒子分散液の製造方法
銀微粒子分散液は、以下の工程を含む方法により製造することができる:(i)アミンなどの有機保護材及び還元剤の存在下、水中で銀化合物を還元して、その有機保護材で被覆された銀微粒子を含む水スラリーを得ることで、銀微粒子を製造する工程、(ii)デカンテーション後の水スラリーからいくらかの液体を除去して銀微粒子を得る工程、(iii)少なくとも溶剤及び樹脂を含む樹脂溶液に、濃縮された銀微粒子スラリーを添加する工程。一態様においては、銀微粒子分散液を更に窒素雰囲気中に12時間以上おいて、その中の水分を除去してもよい。一態様においては、その雰囲気の温度は室温であってもよい。別の態様では、その雰囲気の温度は80℃と100℃の間に加熱してもよい。別の態様では、水分は加熱により除去してもよい。別の態様では、水分を除去するために真空条件を利用することも可能である。
【0024】
上記銀化合物は、一態様においては銀塩又は銀酸化物である。銀塩は別の態様では硝酸銀(AgNO)である。銀化合物は、一態様においては、水中の銀イオンの濃度が0.01~1.0mol/Lの範囲になるように添加され、別の態様では0.03~0.2mol/Lの範囲になるように添加される。
【0025】
有機保護剤の銀化合物の銀に対するモル比(有機保護材/銀)は、一態様においては0.05~6である。
【0026】
銀化合物の還元処理は、一態様においては60℃以下で、別の態様では10~50℃で行われる。そのような温度により、銀微粒子は凝集しないように、有機保護材により十分に被覆されることができる。還元処理における反応時間は、一態様においては30分以下であり、別の態様では10分以下である。
【0027】
銀を還元する限り、いずれの還元剤も使用可能である。一態様においては、還元剤は塩基性還元剤である。別の態様では、還元剤はヒドラジン又は水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)である。銀化合物の銀に対する還元剤のモル比(還元剤/銀)は、一態様においては0.1~2.0である。
【0028】
別の態様では、銀微粒子分散液に対してさらに、3本ロールミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、または超音波ホモジナイザーにより混練及び脱気することができる。
【0029】
銀微粒子分散液のシアレート15.7s-1で25℃における粘度は、別の態様では30~350Pa・sであり、別の態様では40~300Pa・sであり、別の態様では60~280Pa・sであり、別の態様では80~220Pa・sである。銀微粒子分散液の粘度は、シアレート15.7s-1で25℃にて、C35/2のコーンプレートを有する粘度測定装置(HAAKE RheoStress 600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)により測定することができる。
【0030】
銀微粒子分散液の用途
銀微粒子分散液を使用して、電気的伝導性厚膜を形成することができる。この電気的伝導性厚膜は、一態様においては、回路、電極又は電気的伝導性接合層を形成するのに使用しうる。
【0031】
電気的伝導性厚膜の製造方法は、(a)基板上に銀微粒子分散液を塗布し、塗布された銀微粒子分散液を80~1000℃で加熱する工程を有しており、前記銀微粒子分散液は、(i)粒子径(D50)が50~300nmである銀微粒子を60~95質量%、(ii)溶剤を4.5~39質量%、及び(iii)ガラス転移温度(Tg)が70~300℃の樹脂を0.1~3質量%含んでいる(ただし、質量%は前記銀微粒子分散液の質量に基づく)。
【0032】
前記基板は特に限定されない。基板は一態様においては、ポリマーフィルム、ガラス基板、セラミック基板、半導体基板又は金属基板であってもよい。
【0033】
銀微粒子分散液は、一態様においては、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、スピンコート、ブレードコートまたはノズル吐出により塗布される。銀微粒子分散液は、別の態様では、基板上にスクリーン印刷される。
【0034】
一態様においては、加熱温度は900℃以下であり、別の態様では820℃以下であり、別の態様では700℃以下であり、別の態様では550℃以下であり、別の態様では410℃以下であり、別の態様では320℃以下であり、別の態様では260℃以下である。加熱温度は、一態様においては95℃以上であり、別の態様では120℃以上であり、別の態様では140℃以上である。加熱時間は、一態様においては10~200分であり、別の態様では15~160分であり、別の態様では25~120分であり、別の態様では40~95分であり、別の態様では48~80分である。銀微粒子は、以上の温度及び時間での加熱において十分に焼結することができる。
【0035】
電気的伝導性厚膜は、一態様においては厚さ1~100μmであり、別の態様では厚さ8~85μmであり、別の態様では厚さ15~65μmであり、別の態様では厚さ19~55μmであり、別の態様では厚さ24~48μmである。
【0036】
電気装置は本発明の組成物を使用して製造される一以上の電気的伝導性の厚膜を有する。この電気装置は、一態様においては、太陽電池、LED、ディスプレイ、電力モジュール、チップ抵抗器、チップ導体、フィルター、アンテナ、ワイヤレス充電器、静電容量センサー及び触覚デバイスからなる群より選ばれる。
【0037】
電気的伝導性ペースト
一態様においては、銀微粒子分散液は電気的伝導性ペーストを形成するのに使用することができる。電気的伝導性ペーストは、一態様においては銀微粒子分散液及びガラスフリットを含んでいる。ガラスフリットは銀微粒子の焼結を促進し、焼成時に基板に接着しうる。
【0038】
ガラスフリットの粒子径(D50)は、一態様においては0.1~7μmであり、別の態様では0.3~5μmであり、別の態様では0.4~3μmであり、別の態様では0.5~1μmである。粒子径(D50)は、伝導性粉末について上述したようにして得ることができる。
【0039】
一態様において、ガラスフリットの軟化点は310~600℃であることができ、別の態様では350~500℃であることができ、別の態様では410~460℃であることができる。軟化点が前記の範囲にあると、ガラスフリットは適切に溶融して上記の効果を得ることができる。ここで、「軟化点」とはASTM C338-57の繊維伸び法(fiber elongation method)により得られる軟化点である。
【0040】
ここでのガラスフリットの化学組成は限定されない。電気的伝導性ペーストへの使用に適したいずれのガラスフリットも許容可能である。ガラスフリットは、ケイ酸鉛ガラスフリット、ホウケイ酸鉛ガラスフリット、鉛テルルガラスフリット、ホウケイ酸亜鉛ガラスフリット、鉛フリービスマスホウ素ガラスフリット又はこれらの混合物を含む。
【0041】
ガラスフリットの量は、銀微粒子の量に基づいて決定することができる。銀微粒子とガラスフリットの質量比(銀微粒子:ガラスフリット)は、一態様においては10:1~100:1とすることができ、別の態様では25:1~80:1とすることができ、別の態様では30:1~68:1とすることができ、別の態様では42:1~53:1とすることができる。そのような量のガラスフリットにより、伝導性粉末の焼結と電極-基板間の接着を十分なものとすることができる。
【0042】
ガラスフリットは、伝導性ペーストの100質量部に基づいて、一態様においては0.5~8質量部であり、別の態様では0.8~6質量部であり、別の態様では1.0~3質量部である。
【0043】
電気的伝導性ペーストは、別の態様では、銀微粒子分散液及び追加の銀粉末を含む。追加の銀粉末は形成される電極の伝導性を高めうる。
【0044】
追加の銀粉末の粒子径(D50)は、一態様においては0.4~10μmであり、別の態様では0.6~8μmであり、別の態様では0.8~5μmであり、別の態様では1~3μmである。
【0045】
追加の銀粉末の粒子径(D50)は、レーザー回折散乱法を使用することにより測定された粒子径分布から決定される。マイクロトラックモデルX-100は、粒子径分布測定を実行するのに有用な商業的に入手可能な装置の例である。
【0046】
追加の銀粉末の形状は、一態様においてはフレーク又は球状である。
【0047】
追加の銀粉末は、伝導性ペーストの100質量部に基づいて、一態様においては10~60質量部であり、別の態様では18~53質量部であり、別の態様では26~49質量部である。
【0048】
電気的伝導性ペーストは、別の態様では銀微粒子分散液、ガラスフリット及び追加の銀粉末を含む。
【0049】
電気的伝導性ペーストの用途
伝導性ペーストを使用することにより、電気的伝導性厚膜を形成することができる。この電気的伝導性厚膜は、一態様においては、上述したように回路、電極又は電気的伝導性接合層を形成しうる。
【0050】
電気的伝導性厚膜の製造方法は、(a)基板上に伝導性ペーストを塗布する工程と、(b)塗布された伝導性ペーストを600~1000℃で焼成する工程とを有し、前記伝導性ペーストは銀微粒子分散液及びガラスフリットを含み、前記銀微粒子分散液は(i)粒子径(D50)が50~300nmである銀微粒子を60~95質量%、(ii)溶剤を4.5~39質量%、及び(iii)ガラス転移温度(Tg)が70~300℃の樹脂を0.1~3質量%含む(ただし、質量%は銀微粒子分散液の質量に基づく)。電気的伝導性厚膜の製造方法に使用される伝導性ペーストは、別の態様では、追加の銀粉末をガラスフリットの代わりに、又はガラスフリット共に含むことができる。
【0051】
前記基板は、一態様においてはガラス基板、セラミック基板又は半導体基板である。伝導性ペーストは、一態様においてはスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、スピンコート、ブレードコートまたはノズル吐出により塗布される。伝導性ペーストは別の態様では基板上にスクリーン印刷される。
【0052】
一態様においては、焼成温度は920℃以下であり、別の態様では880℃以下であり、別の態様では830℃以下であり、別の態様では780℃以下である。焼成温度は、一態様においては650℃以上であり、別の態様では700℃以上である。焼成時間は、一態様においては5秒以上であり、別の態様では30秒以上であり、別の態様では1分以上であり、別の態様では7分以上であり、別の態様では15分以上であり、別の態様では25分以上である。焼成時間は、一態様においては200分以下であり、別の態様では160分以下であり、別の態様では110分以下であり、別の態様では95分以下であり、別の態様では75分以下である。
【実施例
【0053】
本発明を以下の実施例により説明するが、それらに限定されない。
【0054】
実施例1~3
反応媒体としての純水3422gを5L反応器に入れ、温度を40℃に調整した。有機保護材としてのオクチルアミン51.1g及び還元剤としての80%ヒドラジン水和物6.2gを反応器に添加した。オクチルアミンの銀に対するモル比(オクチルアミン/銀)は2だった。ヒドラジン水和物の銀に対するモル比(ヒドラジン水和物/銀)は0.5だった。反応器中の混合液を、羽根つきの撹拌棒で345rpmにて撹拌した。不活性ガスとしての窒素ガスを2L/分の流量で反応器に吹き込んだ。33.6gの硝酸銀水溶液(東洋化学工業株式会社)を130gの純水に分散させたものを、反応器に添加した。追加で2分間反応器中の混合液を撹拌することによって、オクチルアミンに被覆された銀微粒子を含む水分散液を得た。
【0055】
このようにして作製された銀微粒子の一次粒子径を測定するため、水分散液2~3滴をガラスプレート上に取った。ガラスプレート上の水分散液を60℃で乾燥し、銀微粒子が残るようにした。ガラスプレート上に残った銀微粒子の画像写真を、走査型顕微鏡(SEM)(S-4700、日立ハイテクノロジーズ株式会社)にて拡大倍率50,000倍で撮影し、画像分析ソフトウェア(A像くん(登録商標)、旭化成エンジニアリング株式会社)で分析した。100を超える粒子の直径を測定し、それらの平均、すなわちそれらの平均一次粒子径を得た。SEM画像における多くの凝集粒子や不定形状の粒子は測定不能と判断した。
【0056】
水分散液中のウェットな銀微粒子は、銀微粒子を沈降させた後、デカンテーションによりほとんどの液体を除去して回収した。
【0057】
エチルセルロース樹脂(エトセル(TM) STD10、Mw:77,180、Tg:130℃、ダウ・ケミカル・カンパニー)をジエチレングリコールモノブチルエーテル(DGBE)に溶解し、マグネチックスターラーで60℃で6時間撹拌した。撹拌速度は1000rpmとした。ジエチレングリコールモノブチルエーテルは、沸点が230℃で溶解パラメータ値が9.5の極性溶剤だった。
【0058】
上記で得られたウェットな銀微粒子を、エチルセルロース樹脂溶液に分散させた。ウェットな銀微粒子と樹脂溶液の混合液を室温で窒素雰囲気中で24時間乾燥して水分を除去することによって、銀微粒子分散液を得た。銀微粒子分散液の各成分の量を表1に示す。
【0059】
上記で得られた銀微粒子分散液をさらに、3本ロールミルで混合し、脱気した。銀微粒子分散液の粘度を、C35/2コーンプレートを有する粘度測定装置(HAAKE RheoStress 600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で、シアレート15.7s-1で25℃にて測定した。銀微粒子の粒子径(D50)を、動的光散乱(Nanotrac Wave-EX150、日機装株式会社)により測定した。ジエチレングリコールモノブチルエーテルを銀微粒子分散液に添加して銀微粒子分散液を10,000倍希釈し、続けて超音波プローブで超音波処理した。銀微粒子分散液の10,000倍希釈液を、粒子径(D50)の測定に使用した。結果を表1に示す。
【0060】
別に、樹脂10質量部を溶剤90質量部に溶解することで、10質量%樹脂溶液を調製した。10質量%樹脂溶液の粘度(Pa・s)を、C35/2コーンプレートを有する粘度測定装置(HAAKE RheoStress 600、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で、シアレート15.7s-1で25℃にて測定した。結果を表1に示す。
【0061】
銀微粒子分散液を25℃の室温で100日保存して、室温における保存安定性をみた。5日目及び100日目において、保存された銀微粒子分散液をガラス基板にマスク印刷することで、伝導性厚膜を形成した。そして伝導性厚膜を、熱風乾燥器(DKM400、ヤマト科学株式会社)中で150℃で60分加熱した。印刷パターンは、長さ10mm、幅10mm、厚さ30μmの正方形だった。銀微粒子は、加熱の間に焼結した。
【0062】
加熱された伝導性厚膜の抵抗を、表面抵抗測定装置(MCP-T610、株式会社三菱ケミカルアナリテック)で測定し、厚さ測定装置(SURFCOM 1500DX、東洋精密工業株式会社)を使用して膜厚を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例1~3において、100日目の抵抗は、初期に測定された抵抗としての5日目の抵抗と同様であり、良好な安定性が示された。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例4~8
他の樹脂及び溶剤を試験した。表2に示されるように、異なる樹脂であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)又は異なる溶剤であるターピネオール(TPO)又はジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(DGBA)を使用した以外は、実施例1と同じようにして伝導性厚膜を形成した。HPCのガラス転移温度(Tg)は105℃だった。TPOは沸点が219℃で溶解パラメータ値が19.1MPa1/2の極性溶剤だった。DGBAは沸点が247℃で溶解パラメータ値が18.5MPa1/2の極性溶剤だった。銀微粒子分散液の粘度、10質量%の樹脂溶液の粘度及び粒子径(D50)を、実施例1について記載したようにして測定した。結果を表2に示す。
【0066】
保存1日目及び10日目に、実施例1と同様の方法で伝導性厚膜の抵抗を測定した。実施例4~8のそれぞれにおいて、10日目の抵抗は1日目の抵抗からそれほど増加しなかった。
【0067】
【表2】
【0068】
参考例1~4
表3に示されるように、分子量(Mw)の異なるエチルセルロースを使用した以外は実施例1と同様にして、伝導性厚膜を形成した。ヒドロキシプロピルセルロース樹脂(HPC)のガラス転移温度は105℃だった。銀微粒子分散液の粘度、10質量%樹脂溶液の粘度及び粒子径(D50)を、実施例1について記載したようにして測定した。結果を表3に示す。
【0069】
実施例1におけるのと同様な方法で加熱した直後に伝導性厚膜の抵抗を測定した。結果を表3に示す。全ての参考例(Ref.)1~4において、抵抗は十分に低かった。
【0070】
【表3】
【0071】
比較例1及び2
表4に示すように、異なる樹脂であるアクリル樹脂又はイソブチルメタクリレート樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして伝導性厚膜を形成した。アクリル樹脂及びイソブチルメタクリレート樹脂はともにガラス転移温度(Tg)が50℃であった。比較例1及び2において、初期の測定としての5日目又は1日目と100日目とにおいて、実施例1と同様にして抵抗を測定した。
【0072】
結果を表4に示す。比較例1において、抵抗は5日目にしてすでに27μΩ・cmを超えており、100日目には測定できないほど高い抵抗となった。比較例2において、抵抗は5日目に対して100日目において1.5倍に増加した。
【0073】
【表4】