(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220926BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220926BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220926BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220926BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20220926BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220926BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20220926BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B13/00 503Z
C09D5/24
C09D7/61
C09D7/40
C09D201/00
B05D5/12 B
B05D7/24 303C
B05D7/24 303A
B05D7/24 303B
(21)【出願番号】P 2020502809
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018043885
(87)【国際公開番号】W WO2019167365
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018032864
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】小村 和史
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189447(JP,A)
【文献】特開2012-142138(JP,A)
【文献】特開2016-156045(JP,A)
【文献】特開2016-131078(JP,A)
【文献】特開2007-169770(JP,A)
【文献】特開2015-140418(JP,A)
【文献】特開2017-069012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 13/00
C09D 5/24
C09D 7/61
C09D 7/40
C09D 201/00
B05D 5/12
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子と、前記銅粒子の融着促進剤と、溶媒とを含む導電膜形成用組成物であって、
前記融着促進剤中の、銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量M
Reactと、前記銅粒子の総質量M
Cuの比の値M
React/M
Cuが0.020~0.25であり、
前記銅粒子の平均粒子径が25nm~1500nmの範囲内であ
り、
前記融着促進剤が、塩素、臭素またはヨウ素を含むハロゲン化合物、含硫黄化合物、ならびに、リン酸およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも1つである、導電膜形成用組成物。
【請求項2】
前記融着促進剤が
前記ハロゲン化合物であり、
前記導電膜形成用組成物中の、前記ハロゲン化合物中のハロゲンの合計質量M
Halogenと、前記銅粒子の総質量M
Cuの比の値M
Halogen/M
Cuが0.020~0.25である、請求項
1に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項3】
前記
ハロゲン化合物が、
塩素、臭素またはヨウ素を含むハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物
、塩化水素、臭化水素、および、ヨウ化水素からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
2に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項4】
前記
ハロゲン化合物が、
塩素、臭素またはヨウ素を含むハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物である、請求項
3に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項5】
前記
塩素、臭素またはヨウ素を含むハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物が、
塩素、臭素またはヨウ素を含む、アルカリ金属のハロゲン化物
、および
、塩素、臭素またはヨウ素を含む、アルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
4に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項6】
バインダーを含まない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項7】
さらにバインダーを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項8】
前記導電膜形成用組成物中の前記バインダーの総質量M
Binderと前記銅粒子の総質量M
Cuの比の値M
Binder/M
Cuが0.010~0.20である、請求項
7に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項9】
前記銅粒子の前記導電膜形成用組成物中の含有量が、前記導電膜形成用組成物中の固形分の全質量に対して90質量%超100質量%未満である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項10】
前記銅粒子の前記導電膜形成用組成物中の含有量が、前記導電膜形成用組成物の全質量に対して40質量%以上100質量%未満である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項11】
前記銅粒子の平均粒子径が25nm~1500nmの範囲内である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項12】
銅粒子と、前記銅粒子の融着促進剤と、溶媒とを含み、前記融着促進剤中の、銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量M
React
と、前記銅粒子の総質量M
Cu
の比の値M
React
/M
Cu
が0.020~0.25であり、前記銅粒子の平均粒子径が25nm~1500nmの範囲内である、導電膜形成用組成物を基板上に付与して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を150℃以下の温度で乾燥して導電膜を形成する導電膜形成工程と
を備える、導電膜の製造方法。
【請求項13】
前記導電膜形成工程において前記塗膜の乾燥が酸化的雰囲気下で行われる、請求項
12に記載の導電膜の製造方法。
【請求項14】
前記導電膜形成工程の後に、
前記導電膜を前記導電膜形成工程における塗膜の乾燥温度よりも高く、かつ、150℃以下の温度で加熱する加熱工程を備える、請求項
12または
13に記載の導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に導電膜を形成する方法として、銅粒子を含む導電膜形成用組成物を印刷法により基板に塗布し、加熱または光照射により焼成して導電膜または回路基板における配線等の電気的導通部位を形成する技術が知られている。
【0003】
このような導電膜形成用組成物として、例えば、特許文献1には、アゾール化合物で被覆された平均粒径1~100nmの銅微粒子と、平均粒径0.3~20μmの銅粗粒子と、樹脂と、塩素化合物と、グリコール系溶剤とを含むことを特徴とする導電性ペーストが記載されている(請求項1)。そして、この導電性ペーストを基板に塗布して予備焼成した後、光を照射して焼成することにより、基板上に導電膜を形成することができる(請求項9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年では、大気中、かつ、より低い温度で銅粒子を融着させて導電膜を形成することができる導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法が求められている。
本発明者が検討したところ、特許文献1に記載の導電性ペーストを用いて導電膜を形成するには、光照射等の手段により高温で焼成することが必須であり、低温で焼成したのでは、優れた導電性を有する導電膜を形成できなかった。
【0006】
そこで、本発明は、酸化的雰囲気であっても、低温で乾燥することにより、優れた導電性を有する導電膜を形成することができる導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、銅粒子と、銅粒子の融着促進剤と、溶媒とを含む導電膜形成用組成物であって、融着促進剤中の銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量MReactと銅粒子の総質量MCuの比の値MReact/MCuが0.020~0.25である、導電膜形成用組成物を用いると、酸化的雰囲気であっても、低温で乾燥することにより、優れた導電性を有する導電膜を形成することができることを知得し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、次の[1]~[15]を提供する。
[1] 銅粒子と、上記銅粒子の融着促進剤と、溶媒とを含む導電膜形成用組成物であって、
上記融着促進剤中の、銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量MReactと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MReact/MCuが0.020~0.25である、導電膜形成用組成物。
[2] 上記融着促進剤が、ハロゲン化合物、含硫黄化合物ならびにリン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[1]に記載の導電膜形成用組成物。
[3] 上記融着促進剤がハロゲン化合物であり、
上記導電膜形成用組成物中の、上記ハロゲン化合物中のハロゲンの合計質量MHalogenと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MHalogen/MCuが0.020~0.25である、上記[1]または[2]に記載の導電膜形成用組成物。
[4] 上記融着促進剤が、ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物およびハロゲン化水素からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[3]に記載の導電膜形成用組成物。
[5] 上記融着促進剤が、ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物である、上記[4]に記載の導電膜形成用組成物。
[6] 上記ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物が、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1つである、上記[5]に記載の導電膜形成用組成物。
[7] バインダーを含まない、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物。
[8] さらにバインダーを含む、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物。
[9] 上記導電膜形成用組成物中の上記バインダーの総質量MBinderと上記銅粒子の総質量MCuの比の値MBinder/MCuが0.010~0.20である、上記[8]に記載の導電膜形成用組成物。
[10] 上記銅粒子の上記導電膜形成用組成物中の含有量が、上記導電膜形成用組成物中の固形分の全質量に対して90質量%超100質量%未満である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物。
[11] 上記銅粒子の上記導電膜形成用組成物中の含有量が、上記導電膜形成用組成物の全質量に対して40質量%以上100質量%未満である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物。
[12] 上記銅粒子の平均粒子径が25nm~1500nmの範囲内である、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物。
[13] 上記[1]~[12]のいずれか1つに記載の導電膜形成用組成物を基板上に付与して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
上記塗膜を150℃以下の温度で乾燥して導電膜を形成する導電膜形成工程と
を備える、導電膜の製造方法。
[14] 上記導電膜形成工程において上記塗膜の乾燥が酸化的雰囲気下で行われる、上記[13]に記載の導電膜の製造方法。
[15] 上記導電膜形成工程の後に、
上記導電膜を上記導電膜形成工程における塗膜の乾燥温度よりも高く、かつ、150℃以下の温度で加熱する加熱工程を備える、上記[13]または[14]に記載の導電膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化的雰囲気であっても、低温で乾燥することにより、優れた導電性を有する導電膜を形成することができる導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の導電膜形成用組成物および導電膜の製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明において、「~」を用いて表される範囲は、その範囲に「~」の前後に記載された両端を含む範囲を意味する。
【0011】
[導電膜形成用組成物]
本発明の導電膜形成用組成物は、銅粒子と、銅粒子の融着促進剤と、溶媒とを含む導電膜形成用組成物であって、融着促進剤中の銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量MReactと銅粒子の総質量MCuの比の値MReact/MCuが0.020~0.25である、導電膜形成用組成物である。
【0012】
〈銅粒子〉
上記銅粒子は、導電膜中の金属導体となるものである。導電膜形成用組成物を乾燥することにより、銅粒子どうしが融着し、導電膜中の金属導体を構成する。
上記銅粒子としては、導電膜形成用組成物に一般的に用いられる従来公知の銅粒子を用いることができる。上記銅粒子は、一次粒子であってもよいし、二次粒子であってもよい。また、上記銅粒子の形状は、特に限定されず、球状であってもよいし、板状であってもよい。
【0013】
(銅粒子の平均粒子径)
上記銅粒子の平均粒子径は、特に限定されず、一次粒子の場合には一次粒子の平均粒子径であり、二次粒子の場合には二次粒子の平均粒子径であるが、25nm~1500nmの範囲内が好ましく、30nm~1000nmの範囲内がより好ましく、50nm~500nmの範囲内がさらに好ましい。
なお、銅粒子(A)の平均粒子径は、粒度分布測定装置によって測定した粒度分布の積算%の分布曲線が50%の軸と交差するポイントの粒子径(メジアン径、50%粒子径、D50)である。
【0014】
(銅粒子の含有量-固形分中)
本発明の導電膜形成用組成物中の上記銅粒子の含有量は、特に限定されないが、本発明の導電膜形成用組成物中の固形分の全質量に対して、90質量%超100質量%未満が好ましく、95質量%以上100質量%未満がより好ましく、99質量%以上100質量%未満がさらに好ましい。
上記銅粒子の本発明の導電膜形成用組成物中の含有量が上記の範囲内であると、本発明の導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜の導電性が、より優れたものとなる。
これは、本発明の導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の導体である銅の含有量が多くなるためであると考えられる。
【0015】
(銅粒子の含有量-全組成物中)
また、本発明の導電膜形成用組成物中の上記銅粒子の含有量は、特に限定されないが、本発明の導電膜形成用組成物の全質量に対して、40質量%以上100質量%未満が好ましく、40質量%~90質量%がより好ましく、40質量%~70質量%がさらに好ましく、40質量%以上50質量%未満がいっそう好ましい。
上記銅粒子の本発明の導電膜形成用組成物中の含有量が上記の範囲内であると、本発明の導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜の導電性が、より優れたものとなる。
これは、本発明の導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の導体である銅の含有量が多くなるためであると考えられる。
【0016】
〈融着促進剤〉
上記融着促進剤は、上記銅粒子どうしの融合・融着を促進するものである。
本発明において上記融着促進剤が上記銅粒子どうしの融合・融着を促進するメカニズムは、その詳細が明らかになっているわけではないが、上記銅粒子では、その表面エネルギーが著しく増大しているため、互いに凝集して粒子間で融合・融着しやすくなっていると考えられる。本発明は、銅に作用してその結晶構造を不安定させる原子が、銅粒子の表面に作用することにより、不安定化エネルギーを増加させた結果、銅粒子の融合・融着が促進されるものと考えられる。そして、銅粒子が融合・融着することにより、導電体が形成される。
【0017】
(融着促進剤の含有量)
本発明の導電膜形成用組成物において、上記融着促進剤の含有量は、上記融着促進剤中の、銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子の総質量MReactと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MReact/MCuが、0.020~0.25となる量であり、0.020~0.20となる量が好ましく、0.020~0.10となる量がより好ましく、0.020~0.050となる量がさらに好ましい。
MReact/MCuがこの範囲内であると、融着促進剤が銅粒子の融合・融着を促進する効果がよく発揮されるとともに、導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の融着促進剤の残留量が少なく、導電膜の導電性に与える悪影響が少ない。
【0018】
上記融着促進剤は、ハロゲン化合物、含硫黄化合物ならびにリン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0019】
《ハロゲン化合物》
ハロゲン化合物は、ハロゲンを含む化合物であれば特に限定されないが、ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物およびハロゲン化水素からなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物がより好ましい。
【0020】
なお、本発明において、ハロゲンとは、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)周期表の第17族元素のうち、フッ素(元素記号:F)、塩素(元素記号:Cl)、臭素(元素記号:Br)およびヨウ素(元素記号:I)をいい、塩素、臭素およびヨウ素をいうことが好ましく、塩素および臭素をいうことがより好ましく、塩素をいうことがさらに好ましい。また、本発明において、アスタチン(元素記号:At)およびテネシン(元素記号:Ts)は、ハロゲンに含めないものとする。
【0021】
(ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物)
上記ハロゲン化物イオンを含むイオン性化合物は、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、有機アミンのハロゲン化水素塩およびハロゲン化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つであり、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、アルカリ金属のハロゲン化物がより好ましい。
【0022】
(アルカリ金属のハロゲン化物)
上記アルカリ金属のハロゲン化物の例は、塩化リチウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウム等の塩化物、臭化リチウム、臭化ナトリウムおよび臭化カリウム等の臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウムおよびヨウ化カリウム等のヨウ化物、ならびにフッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウム等のフッ化物などである。
上記アルカリ金属のハロゲン化物は、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウムおよびヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムおよびヨウ化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つがさらに好ましく、塩化ナトリウムがいっそう好ましい。
【0023】
なお、本発明において、アルカリ金属とは、IUPAC周期表の第1族元素のうち、リチウム(元素記号:Li)、ナトリウム(元素記号:Na)、カリウム(元素記号:K)、ルビジウム(元素記号:Rb)およびセシウム(元素記号:Cs)をいい、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびルビジウムをいうことが好ましく、リチウム、ナトリウムおよびカリウムをいうことがより好ましく、ナトリウムおよびカリウムをいうことがさらに好ましい。本発明において、フランシウム(元素記号:Fr)は、アルカリ金属に含めないものとする。
【0024】
(アルカリ土類金属のハロゲン化物)
上記アルカリ土類金属のハロゲン化物の例は、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化ベリリウムおよび塩化マグネシウム等の塩化物、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化ベリリウムおよび臭化マグネシウム等の臭化物、ならびにヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ベリリウムおよびヨウ化マグネシウム等のヨウ化物などである。
上記アルカリ土類金属のハロゲン化物は、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムおよびヨウ化バリウムからなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウムおよび臭化バリウムからなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび塩化バリウムからなる群から選択される少なくとも1つがさらに好ましく、塩化カルシウムがいっそう好ましい。
【0025】
なお、本発明において、アルカリ土類金属とは、IUPAC周期表の第2族元素のうち、ベリリウム(元素記号:Be)、マグネシウム(元素記号:Mg)、カルシウム(元素記号:Ca)、ストロンチウム(元素記号:Sr)およびバリウム(元素記号:Ba)をいい、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムをいうことが好ましく、カルシウムをいうことがより好ましい。本発明において、ラジウム(元素記号:Ra)は、アルカリ土類金属に含めないものとする。
【0026】
(有機アミンのハロゲン化水素塩)
上記有機アミンのハロゲン化水素塩の例は、トリエチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン臭化水素酸塩、トリエチルアミンヨウ化水素酸塩、トリエチルアミンフッ化水素酸塩、ピリジン塩酸塩、ピリジン臭化水素酸塩、ピリジンヨウ化水素酸塩、ピリジンフッ化水素酸塩、ベタイン塩酸塩、ベタイン臭化水素酸塩、ベタインヨウ化水素酸塩およびベタインフッ化水素酸塩などである。
上記有機アミンのハロゲン化水素塩としては、N,N,N-トリメチルグリシン塩酸塩が好ましい。
【0027】
(ハロゲン化アンモニウム)
上記ハロゲン化アンモニウムの例は、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウムおよびフッ化アンモニウムなどである。
上記ハロゲン化アンモニウムとしては、塩化アンモニウムが好ましい。
【0028】
(ハロゲン化水素)
上記ハロゲン化水素の例は、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素およびフッ化水素などである。
上記ハロゲン化水素は、塩化水素、臭化水素およびヨウ化水素からなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、塩化水素および臭化水素からなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、塩化水素がさらに好ましい。
【0029】
(ハロゲン化合物の含有量)
本発明の導電膜形成用組成物において、上記ハロゲン化合物の含有量は、上記ハロゲン化合物中の、ハロゲンの合計質量MHalogenと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MHalogen/MCuが、0.020~0.25となる量であり、0.020~0.20となる量が好ましく、0.020~0.10となる量がより好ましく、0.020~0.050となる量がさらに好ましい。
MHalogen/MCuがこの範囲内であると、融着促進剤が銅粒子の融合・融着を促進する効果がよく発揮されるとともに、導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の融着促進剤の残留量が少なく、導電膜の導電性に与える悪影響が少ない。
【0030】
《含硫黄化合物》
上記含硫黄化合物は、イオウ原子を有する化合物であれば特に限定されないが、例として、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、チオフェノール、システイン、グルタチオン、チオグリコール酸、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン―2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、硫化水素、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムおよび硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0031】
上記含硫黄化合物は、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、チオグリコール酸、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、および硫酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つがさらに好ましく、硫酸がいっそう好ましい。
【0032】
(含硫黄化合物の含有量)
本発明の導電膜形成用組成物において、上記含硫黄化合物の含有量は、上記含硫黄化合物中の、イオウ原子の総質量MSと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MS/MCuが、0.020~0.25となる量であり、0.020~0.20となる量が好ましく、0.020~0.10となる量がより好ましく、0.020~0.050となる量がさらに好ましい。
MS/MCuがこの範囲内であると、融着促進剤が銅粒子の融合・融着を促進する効果がよく発揮されるとともに、導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の融着促進剤の残留量が少なく、導電膜の導電性に与える悪影響が少ない。
【0033】
《リン酸およびその塩》
上記リン酸およびその塩は、特に限定されないが、例として、リン酸およびリン酸のアルカリ金属塩を挙げることができる。ここで、アルカリ金属は上記したものである。
リン酸のアルカリ金属塩の例は、リン酸三リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸三カリウム(K3PO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)およびリン酸二水素カリウム(KH2PO4)である。
上記リン酸のアルカリ金属塩は、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムからなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つがより好ましく、リン酸がさらに好ましい。
【0034】
(リン酸およびその塩の含有量)
本発明の導電膜形成用組成物において、上記リン酸およびその塩の含有量は、上記リン酸およびその塩中の、リン酸、リン酸イオン、リン酸水素イオンまたはリン酸二水素イオンを構成するリン原子の総質量MPと、上記銅粒子の総質量MCuの比の値MP/MCuが、0.020~0.25となる量であり、0.020~0.20となる量が好ましく、0.020~0.10となる量がより好ましく、0.020~0.050となる量がさらに好ましい。
MP/MCuがこの範囲内であると、融着促進剤が銅粒子の融合・融着を促進する効果がよく発揮されるとともに、導電膜形成用組成物を乾燥して得られる導電膜中の融着促進剤の残留量が少なく、導電膜の導電性に与える悪影響が少ない。
【0035】
〈溶媒〉
上記溶媒は、上記銅粒子を分散し、かつ、上記融着促進剤を溶解または分散することができるものであれば特に限定されない。
上記溶媒の具体例は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種であり、水、メタノール、エタノール、プロパノールおよび2プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、水、メタノールおよびエタノールからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、水がさらに好ましい。上記水としては、イオン交換水、RO(Reverse Osmosis:逆浸透)水もしくは蒸留水その他の純水、またはASTM D 1193-06タイプ1グレードその他の超純水が好ましい。
【0036】
〈バインダー〉
本発明の導電膜形成用組成物は、バインダーを含まなくてもよいし、含んでもよい。
ここで、バインダーとしては、樹脂および分子量1000以上の有機化合物が挙げられる。
【0037】
上記樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂が挙げられる。
上記熱硬化性樹脂の具体例は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂およびオキサジン樹脂等が挙げられ、上記熱可塑性樹脂の具体例は、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ケトン樹脂、ポリスチレン樹脂および熱可塑性ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0038】
上記分子量1000以上の有機化合物は、特に限定されないが、例えば、分子量1000以上の有機酸、分子量1000以上のポリアルキレングリコール、分子量1000以上の糖アルコール、オリゴ糖および多糖が挙げられる。
【0039】
バインダーは、導電膜の基板への密着性を向上させる効果があるが、同時に、導電性を低下させるおそれがある。そのため、本発明の導電膜形成用組成物がバインダーを含むときのバインダーの含有量は、導電膜形成用組成物中のバインダーの総質量MBinderと上記銅粒子の総質量MCuの比の値MBinder/MCuが、0.010~0.20となる量が好ましく、0.010~0.15となる量がより好ましく、0.010~0.10となる量がさらに好ましい。
本発明の導電膜形成用組成物において、上記MBinder/MCuがこの範囲内であると、バインダーを含むことによる導電膜の密着性改善効果を発揮することができ、導電性に対する悪影響も最小限に抑えることができる。
【0040】
〈導電膜形成用組成物の調製方法〉
本発明導電膜形成用組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、以下に記載するようにすることができる。
【0041】
(銅粒子、融着促進剤および溶媒の混合)
銅粒子、融着促進剤および溶媒を混合する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
例えば、溶媒中に、銅粒子と、融着促進剤とを添加した後、超音波法(例えば、超音波ホモジナイザーによる処理)、ミキサー法、3本ロール法、および、ボールミル法などの公知の手段により成分を分散させることによって、組成物を得ることができる。
融着促進剤が固体である場合は、溶媒に溶解または分散してから添加してもよい。また、融着促進剤が気体である場合は、溶媒に溶解してから添加してもよい。
例えば、塩化水素を添加する場合は、水溶液である塩酸として添加してもよい。ただし、この場合、塩化水素の溶媒である水は、導電膜形成用組成物に含む溶媒として取り扱う。
【0042】
[導電膜の製造方法]
本発明の導電膜の製造方法は、上記導電膜形成用組成物を基板上に付与して塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を150℃以下の温度で乾燥して導電膜を形成する導電膜形成工程とを備える、導電膜の製造方法である。
【0043】
〈基板〉
上記基板は、従来公知のものを用いることができる。
また、上記基板に使用される材料の具体例は、樹脂、紙、ガラス、シリコン系半導体、化合物半導体、金属、金属酸化物、金属窒化物、木材、またはこれらの複合物であるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
上記樹脂の具体例は、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、およびセルロース誘導体であるが、これらに限定されるものではない。
上記紙の具体例は、塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(アート紙、コート紙)、特殊印刷用紙、コピー用紙(PPC用紙)、未晒包装紙(重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙)、晒包装紙(晒クラフト紙、純白ロール紙)、コートボール、チップボール、および段ボールであるが、これらに限定されるものではない。
上記ガラスの具体例は、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、および石英ガラスであるが、これらに限定されるものではない。
上記シリコン系半導体の具体例は、アモルファスシリコンおよびポリシリコンであるが、これらに限定されるものではない。
上記化合物半導体の具体例は、CdS、CdTeおよびGaAsであるが、これらに限定されるものではない。
上記金属の具体例は、銅、鉄、およびアルミであるが、これらに限定されるものではない。
上記金属酸化物の具体例は、アルミナ、サファイア、ジルコニア、チタニア、酸化イットリウム、酸化インジウム、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、ネサ(酸化錫)、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、フッ素ドープ酸化錫、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、およびガリウムドープ酸化亜鉛であるが、これらに限定されるものではない。
上記金属窒化物の具体例は、窒化アルミニウムであるが、これに限定されるものではない。
また、上記複合物の具体例は、紙-フェノール樹脂、紙-エポキシ樹脂、紙-ポリエステル樹脂等の紙-樹脂複合物、ガラス布-エポキシ樹脂(ガラスエポキシ樹脂)、ガラス布-ポリイミド系樹脂、およびガラス布-フッ素樹脂であるが、これらに限定されるものではない。
本発明の導電膜を形成する基板は、特に限定されないが、ガラス基板、ポリイミド基板、またはポリエチレンテレフタレート(PET)基板が好ましい。
【0045】
〈導電膜形成用組成物を基板上に付与する方法〉
上記導電膜形成用組成物を基板上に付与する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、および、インクジェット法などの塗布法が挙げられる。
塗布の形状は特に制限されず、基板全面を覆う面状であっても、パターン状(例えば、配線状、ドット状)であってもよい。
【0046】
基板上への導電膜形成用組成物の塗布量としては、所望する導電膜の膜厚に応じて適宜調整すればよいが、通常、塗膜の膜厚(厚み)は、2μm~600μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましく、10μm~200μmがさらに好ましい。
【0047】
〈導電膜形成工程〉
導電膜形成工程においては、塗膜を、150℃以下の温度で乾燥して、基板上に、導電膜を得る。
本発明の導電膜の製造方法においては、150℃以下の低温で塗膜を乾燥することにより、優れた導電性を有する導電膜を製造することができる。
【0048】
(乾燥の方法)
導電膜形成工程における乾燥の方法としては、温風乾燥機などを用いて乾燥する方法などを用いることができる。
【0049】
(乾燥の際の温度)
導電膜形成工程においては、上記塗膜の乾燥は、150℃以下の温度で行えば特に限定されないが、0℃~120℃が好ましく、0℃~100℃がより好ましく、15℃~100℃がさらに好ましい。
【0050】
(乾燥の際の雰囲気)
上記導電膜形成工程においては、上記絶縁性塗膜と上記融着促進剤との接触は、酸化的雰囲気下で行われてもよいし、不活性雰囲気下または還元的雰囲気下で行われてもよいが、酸化的雰囲気下であっても、優れた導電性を有する導電膜を形成できることが、本発明の効果のひとつである。
酸化的雰囲気としては、例えば、大気もしくは空気、または大気もしくは空気と不活性ガスの混合ガスもしくは大気もしくは空気と気体状態もしくは気化した融着促進剤との混合ガスであって、酸素を5.0%(v/v)以上含むものが好ましく、5.0%(v/v)以上21.0%(v/v)未満含むものより好ましい。
不活性雰囲気または還元的雰囲気としては、例えば、不活性ガスが挙げられ、酸素の含有量が0.005%(v/v)以下であるものが好ましく、不可避的微量であるものがより好ましい。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガスおよびキセノンガス等が挙げられる。還元性ガスとしては、水素ガスおよびギ酸ガス等が挙げられる。
【0051】
(乾燥時間)
乾燥の際の時間(以下「乾燥時間」という場合がある。)は、特に限定されないが、1秒~96時間が好ましく、5秒~72時間がより好ましく、10秒~48時間がさらに好ましい。ただし、乾燥時間は塗膜から溶媒を実質的に全部除去できればよく、乾燥の際の温度によって適宜設定することができる。
【0052】
〈加熱工程〉
本発明の導電膜の製造方法は、上記導電膜形成工程の後に、上記導電膜を導電膜形成工程における塗膜の乾燥温度よりも高く、かつ、150℃以下の温度で加熱する加熱工程を備えてもよい。
導電膜形成工程で得られた導電膜を、導電膜形成工程における塗膜の乾燥温度よりも高く、かつ、150℃以下の温度で加熱することにより、導電膜の導電性をより優れたものとすることができる。
【0053】
(加熱の方法)
加熱工程における加熱の方法は、特に限定されず、乾燥の方法と同様にして行ってもよいし、ホットプレート等の加熱器具を用いて加熱してもよい。
【0054】
(加熱の際の温度)
加熱工程においては、上記導電膜の加熱は、導電膜形成工程における塗膜の乾燥温度よりも高く、かつ、150℃以下の温度で行えば特に限定されない。
【0055】
(加熱の際の雰囲気)
加熱工程においては、上記導電膜の加熱は、酸化的雰囲気下で行われてもよいし、還元的雰囲気下で行われてもよい。酸化的雰囲気および還元的雰囲気は、導電膜形成工程におけるものと同様である。
【0056】
(加熱時間)
加熱の際の時間(以下「加熱時間」という場合がある。)は、特に限定されないが、1秒~96時間が好ましく、5秒~72時間がより好ましく、10秒~48時間がさらに好ましい。ただし、加熱時間は、加熱の際の温度によって適宜設定することができる。
【0057】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
[遠心分離]
以下の実施例および比較例において、遠心分離は、超遠心分離機(CS150GXL、Himac社製)を用い、50000rpm×10分の条件で行った。
【0059】
[平均粒子径]
以下の実施例および比較例において、平均粒子径は、ナノ粒子解析装置(nano Partica SZ-100、堀場製作所社製)を用いて測定したメジアン径(D50)である。
【0060】
[実施例1]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
銅粒子インク(平均粒子径80nm、固形分濃度50質量%の銅粒子含有エチレングリコールインク;Promethean Particles社製)20質量部に、塩化ナトリウム(和光純薬)の20%水溶液2.45質量部を添加して銅インク(以下「導電膜形成用組成物1」という。)を調製した。
【0061】
〈導電膜の製造〉
ガラス基板(縦76mm×横26mm×厚み0.9mm;松波硝子社製)を大気中でUV-オゾン処理を1分間行い、親水化処理をしたガラス基板を準備した。
このガラス基板上に、導電膜形成用組成物1をコイルバーにより、縦61mm×横26mm×ウェット厚み40μmに塗布して、ガラス基板の表面に塗膜を形成した。
ガラス基板上に形成した塗膜を、大気中において100℃で1分間乾燥して、ガラス基板上に導電膜を形成した。
【0062】
〈導電性の評価〉
得られた導電膜の体積抵抗値を測定して、導電性を評価した。
導電膜の体積抵抗値は、四端子法により測定した。
測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0063】
[実施例2]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
酸素濃度を70ppmに管理したグローブボックス内で、3つ口フラスコにポリアクリル酸(分子量:5000;和光純薬社製)0.67質量部、イオン交換水2972質量部、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)0.37質量部を溶解させた。ついで硝酸銅10質量部、イオン交換水90質量部からなる溶液を添加し260rpmで30分間撹拌した。撹拌速度を500rpmに変更し、室温でヒドラジン1水和物(和光純薬社製)13.1質量部とイオン交換水87.1質量部からなる水溶液を添加して1時間撹拌した。得られた水溶液を遠心分離チューブに詰め、上述の条件で遠心沈降させた。得られた沈降物をイオン交換水に懸濁させ再度遠心沈降させた。上述の条件で平均粒子径を測定したところ80nmであった。後述の条件のX線回折分析より純銅であることを確認した。
得られた沈降物をイオン交換水に懸濁させ、固形分濃度50%の銅粒子分散液を作製した。銅粒子分散液20質量部に塩化ナトリウムの20%水溶液2.45質量部を添加して銅インク(以下「導電膜形成用組成物2」という。)を調製した。
【0064】
〈導電膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物2を用いて、実施例1と同様の手順で導電膜を製造し、得られた導電膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0065】
〈X線回折分析〉
上記X線回折分析は、X線回折装置(RINT Ultima III X-Ray Diffractometer,リガク社製)を用いて、以下の測定条件により行った。
2Θ/ω 30-45度
サンプリングステップ 0.01度
スキャンスピード 10度/分
減衰器(ATT: Attenuator) 開放
発散スリット(DS: Divergence slit) 1.00mm
散乱スリット(SS: Scattering slit) 開放
受光スリット(RS: Receiving slit) 開放
光学系パラレルスリット PB
入射縦制限ソーラースリット V5
縦制限スリット 10×10
平行スリットアナライザー PSA
【0066】
X線回折分析の結果、Cu2Oに由来する(111)ピークが検出されなかったことにぃより、銅粒子が純銅であることを確認した。
ここで、Cu2Oに由来する(111)ピークが「検出されなかった」とは、X線回折分析によるCu2Oに由来する(111)ピーク強度とCuに由来する(111)ピーク強度の比率Z[Z={Cu2Oに由来する(111)ピーク強度/Cuに由来する(111)ピーク強度}×100(%)〕が0.1%未満であることをいい、「検出された」とは、上記Zが0.1%以上であることをいう。
【0067】
[実施例3]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
塩化ナトリウムの20%水溶液2.45質量部を、塩化アンモニウム(和光純薬)20%水溶液2.65質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で銅インク(以下「導電膜形成用組成物3」という。)を調製した。
【0068】
〈導電膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物3を用いて、実施例1と同様の手順で導電膜を製造し、得られた導電膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0069】
[実施例4]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
塩化ナトリウムの20%水溶液2.45質量部を、塩化アンモニウム(和光純薬)20%水溶液2.65質量部に変更した点以外は実施例2と同様の方法で銅インク(以下「導電膜形成用組成物4」という。)を調製した。
【0070】
〈導電膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物4を用いて、実施例1と同様の手順で導電膜を製造し、得られた導電膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0071】
[比較例1]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
塩化ナトリウムの20%水溶液を用いなかった点以外は実施例1と同様の方法で銅インク(以下「導電膜形成用組成物5」という。)を調製した。
【0072】
〈膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物5を用いて、実施例1と同様の手順で膜を製造し、得られた膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0073】
[比較例2]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
実施例2で作成した溶液に、塩化ナトリウム水溶液22.05質量部およびポリアクリル酸ナトリウムの50質量%水溶液3.2質量部を追加で添加して銅インク(以下「導電膜形成用組成物6」という。)を調製した。
【0074】
〈膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物6を用いて、実施例1と同様の手順で膜を製造し、得られた膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0075】
[比較例3]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
塩化ナトリウムの20%水溶液2.45質量部を、塩化ナトリウムの20%水溶液1.50質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で銅インク(以下「導電膜形成用組成物7」という。)を調製した。
【0076】
〈膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物7を用いて、実施例1と同様の手順で膜を製造し、得られた膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0077】
[比較例4]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
塩化ナトリウムの20%水溶液2.45質量部を、塩化ナトリウムの20%水溶液22.5質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で銅インク(以下「導電膜形成用組成物8」という。)を調製した。
【0078】
〈膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物8を用いて、実施例1と同様の手順で膜を製造し、得られた膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0079】
[比較例5]
〈導電膜形成用組成物の調製〉
銅粒子インク(平均粒子径80nm、固形分濃度50質量%の銅粒子含有エチレングリコールインク;Promethean Particles社製)20質量部に、塩化ナトリウム(和光純薬)の20%水溶液1.25質量部、ポリビニルピロリドン(K-30;日本触媒社製)の20%水溶液4.50質量部を添加して銅インク(以下「導電膜形成用組成物9」という。)を調製した。
【0080】
〈膜の製造・導電性の評価〉
調製した導電膜形成用組成物9を用いて、実施例1と同様の手順で膜を製造し、得られた膜の導電性を評価した。測定した体積抵抗値を表1の該当欄に示す。
【0081】
なお、表1中、「塩素/銅」は、銅に作用してその結晶構造を不安定化させる原子である塩素原子の総質量と、銅粒子の総質量との比を表す。
「バインダー/銅」は、バインダーの質量と、銅の質量との比を表す。
【0082】
【0083】
本発明の導電膜形成用組成物を用いて導電膜を製造した実施例1~4は、導電膜形成用組成物を、大気中において、100℃という低温で乾燥することにより、優れた導電性を有する導電膜が得られた。
これに対し、導電膜形成用組成物中に融着促進剤を含まない比較例1、融着促進剤が本発明の範囲よりも少ない比較例3および5、融着促進剤が本発明の範囲よりも多い比較例2および4では、導電膜形成用組成物を乾燥して得られた膜の導電性が不良であった。