(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】PC桁の残存プレストレス力推定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20220927BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220927BHJP
E04C 3/26 20060101ALI20220927BHJP
G01L 1/22 20060101ALI20220927BHJP
G01L 1/24 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
G01L1/00 D
E01D22/00 A
E04C3/26
G01L1/00 B
G01L1/22 Z
G01L1/24 A
(21)【出願番号】P 2018227665
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】恒國 光義
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】平間 昭信
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 剛
(72)【発明者】
【氏名】飛田 一彬
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第5343463(JP,B2)
【文献】特許第5095258(JP,B2)
【文献】特許第3534659(JP,B2)
【文献】特許第3759144(JP,B2)
【文献】特開2011-180064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げひび割れが発生したPC桁の残存プレストレス力を推定する方法であって、
前記PC桁の表面に前記PC桁の圧縮側と引張側のひずみを計測するためのひずみ計測手段を取り付けるとともに、前記PC桁のひび割れの開口幅を計測するためのひび割れ開口幅計測手段を取り付け、
前記ひずみ計測手段と前記ひび割れ開口幅計測手段の計測結果を用いて、前記PC桁の引張鉄筋の平均ひずみと、前記PC桁の断面に作用する曲げモーメント又は荷重との関係を求め、
前記関係が変化する屈曲点をひび割れ再開口の開始点とし、
当該ひび割れ再開口の開始点における曲げモーメント又は荷重をひび割れ開口が発生するときの曲げモーメント又は荷重とし、
当該ひび割れ開口が発生するときの曲げモーメント又は荷重を用いて前記PC桁の残存プレストレス力を推定することを特徴とするPC桁の残存プレストレス力推定方法。
【請求項2】
請求項1記載のPC桁の残存プレストレス力推定方法において、
前記ひび割れ開口幅計測手段としてπ型変位計を用い、
ひび割れ開口前の前記引張鉄筋の平均ひずみε
smを下記の式(1)、ひび割れ開口後の前記引張鉄筋の平均ひずみε
smを下記の式(2)を用いて算出することを特徴とするPC桁の残存プレストレス力推定方法。
【数1】
【数2】
ここで、ε
gはひび割れ間の下縁ひずみゲージの値、w
maxはひび割れ部のπ型変位計の値、l
maxは最大ひび割れ間隔、d
pはπ型変位計標点距離である。
【請求項3】
請求項1記載のPC桁の残存プレストレス力推定方法において、
前記ひび割れ開口幅計測手段として光ファイバを用い、複数のひび割れを含む計測区間全体のひび割れの開口幅をまとめて光ファイバで計測する場合には、
ひび割れ開口前の前記引張鉄筋の平均ひずみε
smを下記の式(3)、ひび割れ開口後の前記引張鉄筋の平均ひずみε
smを下記の式(4)及び式(5)を用いて算出することを特徴とするPC桁の残存プレストレス力推定方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、ε
gはひび割れ間下縁ひずみゲージの値、ε
oは下縁光ファイバの値、nは計測範囲に含まれるひび割れ本数、w
meanは平均ひび割れ幅、l
meanは平均ひび割れ間隔、d
oは光ファイバの長さである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC桁の残存プレストレス力(PC鋼材緊張力)を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PC桁のPC鋼材の評価、残存プレストレス力の推定に関する研究が数多くなされている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、橋軸直交方向に延びるひび割れが発生したPC桁に対し、桁下縁ひずみとひび割れ開口幅の関係を求め、この荷重増分時に桁下縁ひずみとひび割れ開口幅の関係が変化する屈曲点をひび割れが開口し始める開始点(ひび割れ再開口の開始点)とし、このひび割れ再開口の開始点における桁の断面方向のひずみ分布から圧縮コンクリート、引張コンクリート、PC鋼材のそれぞれの合力の中立軸周りのモーメントを算出し、設計式を用いてPC鋼材のプレストレス力を推定する。
【0004】
特許文献1では、後工程のコンクリート削孔の円周方向に沿って、予め複数の円周方向ひずみゲージと、その外側に半径方向ひずみゲージを貼設しておき、この状態でコアドリルによる削孔を行う。そして、削孔後のひずみゲージの測定値の組合せのパターンからコンクリート構造物に作用する応力を推定する。
【0005】
特許文献2では、コンクリート表面に2軸ひずみゲージを貼り付け、コンクリートコアカッターによって切込みを入れ、切込みによって解放されるひずみを求める。また、プレストレス力の作用方向の解放ひずみと、作用方向に直交する直角方向の解放ひずみの差を用いて内部拘束(乾燥収縮およびクリープひずみの影響)によるひずみ成分を取り除き、提案式を用いて有効応力度を求める。
【0006】
特許文献3では、構造物の計測対象領域の中心部をコンクリート削孔して構造物に作用している応力を解放し、応力の解放によって削孔の周辺に生じるひずみ変化を検出することによって、計測対象域の現状の応力を解析で求める。
【0007】
特許文献4では、鉄筋の透磁率と応力、及び透磁率と温度の関数を含む初期値を計測し、被測定体(鉄筋)の現有応力を直接測定し、ここから構造物(PC構造物)の応力状態並びに応力変化を求める。また、鉄筋の現状応力とその後の変化からプレストレスの減少量を求め、PC構造物の応力状態を推定する。
【0008】
特許文献5では、マルチストランドを構成する1本のPC鋼線の端部に計測器を接続し、この計測器によって両端部間の電気特性値を計測することで、健全性を評価する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】恒国光義,加藤佳孝,魚本健人:既設PC桁の構造劣化診断に関する検討、公益社団法人日本コンクリート工学会、コンクリート工学年次論文集,Vol.28,No.1,pp.1967-1972,2006年
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-60490号公報
【文献】特許第5095258号公報
【文献】特開2007-303916号公報
【文献】特開2004-264022号公報
【文献】特開2000-193620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、非特許文献1では、PC鋼材の緊張力によって閉合している曲げひび割れが荷重増加時に再び開口する特徴に基づいてPC鋼材の緊張力を逆算し、また、荷重増加時の曲げひび割れ再開口の開始点を、荷重増加時の桁下縁のひずみとひび割れ幅との関係が変化する屈曲点(勾配の変化点)としている。
【0012】
しかしながら、非特許文献1においては、このようにPC鋼材の緊張力によって閉合している曲げひび割れが荷重増加時に再び開口する特徴に基づいてPC鋼材の緊張力を逆算し、また、荷重増加時の曲げひび割れ再開口の開始点を、荷重増加時の桁下縁のひずみとひび割れ幅との関係が変化する屈曲点から評価していることで、荷重増加時の桁下縁のひずみとひび割れ幅との関係がコンクリートの引張軟化の影響等により緩やかに変化して明瞭に屈曲点が現れず、ひび割れ再開口の開始点の読み取り(判定/特定)にばらつきが生じてしまうケースがある。
【0013】
これにより、非特許文献1では曲げモーメントに基づくPC鋼材の緊張力の逆算値の精度を十分に確保することができず、精度よくPC鋼材の残存プレストレス力を推定できないおそれがあった。
【0014】
なお、非特許文献1においては、桁の下縁のひずみの計測位置の設定に明確な根拠がなく、その設定位置によってひび割れ再開口の開始点が変わってしまう。これにより、桁の断面方向のひずみ分布に基づくひび割れ再開口時の曲げモーメントの評価にばらつきが生じ、この点からも、精度よくPC鋼材の残存プレストレス力を推定することが難しい。
【0015】
特許文献1、特許文献2、特許文献3においては、特定箇所のコンクリートの応力解放を利用する手法であり、応力の開放に伴うコンクリートのひずみを計測からその箇所の圧縮応力を推定する。このように応力を解放するためのコアの削孔などが必要であり、破壊試験もしくは微破壊試験となってしまう。
【0016】
また、局部的なひずみの計測であるため、乾燥収縮やクリープに対する鋼材の内部拘束の影響を受けやすく、その影響を除いて精度を確保するために、ひずみゲージを多方向に貼設したり、別途解析を援用するなどの対策が必要になる。
【0017】
特許文献4、特許文献5においては、コンクリート内部の鉄筋あるいはPC鋼材の応力を直接計測する手法である。鉄筋やPC鋼材はコンクリート内部にあることから、既設のPCT桁へ適用する場合、深さの大きいはつりが必要になり、現実的には適用が困難である。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑み、簡便に且つ精度よくPC桁の残存プレストレス力を推定することが可能なPC桁の残存プレストレス力推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0020】
本発明のPC桁の残存プレストレス力推定方法は、曲げひび割れが発生したPC桁の残存プレストレス力を推定する方法であって、前記PC桁の表面に前記PC桁の圧縮側と引張側のひずみを計測するためのひずみ計測手段を取り付けるとともに、前記PC桁のひび割れの開口幅を計測するためのひび割れ開口幅計測手段を取り付け、前記ひずみ計測手段と前記ひび割れ開口幅計測手段の計測結果を用いて、前記PC桁の引張鉄筋の平均ひずみと、前記PC桁の断面に作用する曲げモーメント又は荷重との関係を求め、前記関係が変化する屈曲点をひび割れ再開口の開始点とし、当該ひび割れ再開口の開始点における曲げモーメント又は荷重をひび割れ開口が発生するときの曲げモーメント又は荷重とし、当該ひび割れ開口が発生するときの曲げモーメント又は荷重を用いて前記PC桁の残存プレストレス力を推定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明のPC桁の残存プレストレス力推定方法においては、前記ひび割れ開口幅計測手段としてπ型変位計を用い、ひび割れ開口前の前記引張鉄筋の平均ひずみεsmを下記の式(1)、ひび割れ開口後の前記引張鉄筋の平均ひずみεsmを下記の式(2)を用いて算出する。
【0022】
【0023】
【0024】
εgはひび割れ間の下縁ひずみゲージの値、wmaxはひび割れ部のπ型変位計の値、lmaxは最大ひび割れ間隔、dpはπ型変位計標点距離である。
【0025】
さらに、本発明のPC桁の残存プレストレス力推定方法においては、前記ひび割れ開口幅計測手段として光ファイバを用い、複数のひび割れを含む計測区間全体のひび割れの開口幅をまとめて光ファイバで計測する場合に、ひび割れ開口前の前記引張鉄筋の平均ひずみεsmを下記の式(3)、ひび割れ開口後の前記引張鉄筋の平均ひずみεsmを下記の式(4)及び式(5)を用いて算出する。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
εgはひび割れ間下縁ひずみゲージの値、εoは下縁光ファイバの値、nは計測範囲に含まれるひび割れ本数、wmeanは平均ひび割れ幅、lmeanは平均ひび割れ間隔、doは光ファイバの長さである。
【発明の効果】
【0030】
本発明のPC桁の残存プレストレス力推定方法においては、自動車荷重などを利用して、PC桁のひび割れ開口前後での曲げモーメントと引張鉄筋平均ひずみの関係を捉え、その関係から曲げひび割れ再開口の開始点を定めることによって、非破壊で、且つ従来よりも高精度で、PC桁の残存プレストレス力(PC鋼材の緊張力)を推定することが可能になる。
【0031】
また、荷重作用時の引張鉄筋ひずみを用いることにより、応力解放法等での局部的なコンクリート応力の推定で問題となる乾燥収縮やクリープ等の影響を受けることがなく、この点からも高精度でPC桁の残存プレストレス力の推定を行うことが可能になる。
【0032】
さらに、ひび割れ間の健全部での断面高さ方向のひずみの計測を行なうことにより、桁に作用している曲げモーメントの推定を同時に行なうことができ、自動車荷重などを直接計測する必要がなく、簡便で精度よくPC桁の残存プレストレス力(PC鋼材の緊張力)を推定することが可能になる。また、同一箇所での繰返しの計測による推定結果の信頼性の向上を図ることができ、且つ継続的な監視も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法の考え方/手順を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法において、ひずみ計測手段、ひび割れ開口幅計測手段のPC桁への設置例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法において、ひずみ計測手段、ひび割れ開口幅計測手段のPC桁への設置例を示す図である。
【
図4】引張鉄筋の平均ひずみと、PC桁のひずみ等を計測した位置のPC桁の断面に作用する曲げモーメントとの関係を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法で推定した推定曲げモーメントと、実際に計測した計測曲げモーメントとを比較した図である。
【
図6】引張鉄筋の平均ひずみと、PC桁のひずみ等を計測した位置のPC桁の断面に作用する曲げモーメントとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、
図1から
図6を参照し、本発明の一実施形態に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法について説明する。
【0035】
はじめに、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法は、
図1に示すように、残存プレストレス力によって死荷重作用時には閉じているひび割れ、もしくは開口幅が変化しないひび割れに対し、活荷重が作用して再び開口する挙動を計測する。そして、このときの桁の下縁(引張縁)の応力がゼロであるものとしてPC桁の残存プレストレス力(PC鋼材の緊張力)を推定する。
【0036】
すなわち、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、
図2、
図3に示すようにPC桁1に軸直角方向の曲げひび割れ2が発生していることが前提であり、そのひび割れ2を利用して残存プレストレス力を推定する。なお、「PC桁1に発生した軸直角方向のひび割れ2」は、略軸直角方向のひび割れを含み、言い換えれば、軸方向O1と交差する方向に延びるひび割れを意味するものである。
【0037】
具体的に、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、
図2、
図3に示すように、PC桁1に対し、圧縮側と引張側の健全部の表面にそれぞれ、単数もしくは複数のひずみ計測手段3を取り付けてひずみを計測するとともに、ひび割れ開口幅計測手段4を下縁(下端面)に取り付けて曲げひび割れの開口幅を計測する。
【0038】
ひずみ計測手段3、ひび割れ開口幅計測手段4は特に限定を必要としないが、例えば、ひずみ計測手段3としては周知のひずみケージ3aや光ファイバ3b、ひび割れ開口幅計測手段4としてはπ型変位計4aや光ファイバ4bなどが挙げられる。
【0039】
また、1本のひび割れ2の開口幅(1本ごとのひび割れ2の開口幅)をπ型変位計4a、光ファイバ3b等で計測しても、複数のひび割れ2の開口幅、すなわち複数のひび割れ2を含む計測区間全体のひび割れ2の開口幅をまとめて光ファイバ4b等で計測するようにしてもよい。3本以上のひび割れ2が認められる場合には(
図3参照)、隣り合うひび割れ2の間隔が最大の部分を特定し、この最大の部分の隣り合うひび割れ2の間を健全部として引張側のひずみ計測手段3(3a)を取り付け、これら隣り合うひび割れ2を連続的に跨ぐようにひび割れ開口幅計測手段4としての光ファイバ4bを取り付けることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、自動車などが走行して活荷重が変化する供用中の橋梁のPC桁1のひずみとひび割れ開口幅をひずみ計測手段3、ひび割れ開口幅計測手段4で計測する。なお、ダンプトラックなどを所定位置に停止させたり、走行させるなどして、意図的にPC桁1に死荷重、活荷重を作用させ、そのときのPC桁1のひずみとひび割れ開口幅をひずみ計測手段3、ひび割れ開口幅計測手段4で計測するようにしても勿論構わない。
【0041】
そして、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、ひずみ計測手段3、ひび割れ開口幅計測手段4による計測結果からひび割れ再開口の開始点を特定/推定し、ひび割れ再開口の開始点に基づいてPC桁1の残存プレストレス力を推定する。
【0042】
具体的に、ひび割れ再開口の推定では、ひずみ計測手段3、ひび割れ開口幅計測手段4による計測結果から、
図4に示す引張鉄筋の平均ひずみ(ε
s)と、PC桁1のひずみ等を計測した位置のPC桁1の断面に作用する曲げモーメント(M)との関係を求める。
【0043】
PC桁のひずみ等を計測した位置のPC桁の断面に作用する曲げモーメントは、活荷重作用時の引張側と圧縮側に設置したひずみゲージ3aや光ファイバ3bなどのひずみ計測手段3で計測したひずみと各ひずみ計測手段3の設置高さとから、次の式(6)を用いて求める。
【0044】
【0045】
Eはコンクリート弾性係数(kN/m2)、Iは断面二次モーメント(m4)、εlは引張縁のひずみ計測手段のひずみ(計測値)、εfは圧縮側のひずみ計測手段のひずみ(計測値)、hlは引張縁側のひずみ計測手段の設置高さ(m)、hfは圧縮側のひずみ計測手段の設置高さ(m)である。
【0046】
図5は、異なるプレストレス力のPC桁に対して、初期ひび割れ時の計測断面の曲げモーメント(推定曲げモーメント)を式(6)で求めた結果と、実際に曲げモーメント(計測曲げモーメント)を計測して求めた結果とを比較したものである。
図5には、本来の設計値に対する現在の導入率(%)が表されている。図において、100%の場合は、設計値と同一のプレストレスが作用している状態を意味する。この図に示す通り、本実施形態の手法を用いることにより、いずれの導入プレストレス力に対しても高い精度で曲げモーメントを求めることが可能なことが確認されている。
【0047】
次に、
図4において、状態Iはひび割れ発生前(ひび割れ再開口の発生前)、状態IIはひび割れ発生後(ひび割れ再開口後)を示す。
状態Iの引張鉄筋ひずみがε
s1であり、ε
smはひび割れ発生後のコンクリートの引張負担を考慮したときのひずみを示している。一方、ε
s2は、引張を鉄筋がすべて負担すると仮定し、コンクリートの引張負担がないとしたときのひずみを示している。
【0048】
本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、曲げモーメントが小さい範囲では残存プレストレス力による圧縮応力によって曲げひび割れが閉じており(あるいはひび割れ幅が変化しない状態であり)、ひび割れ発生前の弾性挙動と等しいと仮定する。すなわち、引張鉄筋のひずみは、状態Iのεs1と等しいと仮定する。
【0049】
また、曲げモーメントが大きくなり、ひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみをεsmとする。
【0050】
そして、状態Iのεs1とひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみεsmとの交点/屈曲点を求め、この交点/屈曲点を、引張鉄筋の平均ひずみと、PC桁のひずみ等を計測した位置のPC桁の断面に作用する曲げモーメントとの関係が変化する屈曲点をひび割れ再開口の開始点Pとする。また、このひび割れ再開口の開始点Pにおける作用曲げモーメントMdec、すなわち、ひび割れ再開口が発生するときの曲げモーメントMdecを求める。
【0051】
本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法においては、非特許文献1のように荷重増加時の桁下縁のひずみとひび割れ幅との関係ではなく、上記のように引張鉄筋の平均ひずみと、PC桁のひずみ等を計測した位置のPC桁の断面に作用する曲げモーメントとの関係を求め、この関係が変化する屈曲点をひび割れ再開口の開始点とすることにより、明瞭にひび割れ再開口の開始点を特定することが可能になる。
【0052】
ここで、
図6に示すように、PC桁のひび割れが開口した後、さらに曲げモーメントが大きくなると、プレストレスのないRC(鉄筋コンクリート;図中の「仮想RC」)のように曲げモーメントと引張鉄筋の平均ひずみの関係がほぼ直線関係になる。この特徴を利用し、ひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみε
smを直線近似し、直線近似した引張鉄筋のひずみε
sm(上に-)と、状態Iのε
s1との交点/屈曲点を求め、この交点/屈曲点をひび割れ再開口の開始点P’としてもよい。このようにひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみε
smを直線近似してからひび割れ再開口の開始点を求めることにより、さらに明瞭にひび割れ再開口の開始点を特定することが可能になる。なお、ひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみε
smを直線近似してひび割れ再開口の開始点を特定する場合は、以下の説明において、ひび割れ再開口が発生するときの曲げモーメントM
decをM
crに置き換えればよい。
【0053】
本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、このように定めたひび割れ再開口の開始点における曲げモーメントを「引張縁の圧縮応力がゼロとなってひび割れが再開口するときのモーメントMdec」とし、残存プレストレス力を推定する。
【0054】
一方、本実施形態では、状態Iのεs1と、ひび割れが再開口した後の引張鉄筋のひずみεsmとをそれぞれ、次のようにして求める。
【0055】
まず、状態IIの引張鉄筋のひずみは、次の式(7)で示す考え方に基づいている。すなわち、式(7)は隣り合うひび割れの間の鉄筋ひずみとコンクリートひずみとの差分をひび割れ間の距離で積分したものがひび割れ幅に相当するという考え方を、平均ひずみを用いて示したものである。
【0056】
【数7】
wはひび割れ幅、lはひび割れ間隔、ε
smはひび割れ間の鉄筋の平均引張ひずみ、ε
cmはひび割れ間のコンクリートの平均引張ひずみである。
【0057】
図2に示すように、1本のひび割れの開口幅(1本ごとのひび割れの開口幅)をπ型変位計で計測した場合、π型変位計では、圧縮応力によって閉じたひび割れが開口するまでのひずみも計測してしまい、そのままではひび割れ再開口の開始点の設定精度、ひいてはPC桁の残存プレストレス力の推定精度の低下を招くため、この影響を除去する必要がある。
【0058】
これに対し、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法では、1本のひび割れの開口幅をπ型変位計で計測する場合に、引張鉄筋の平均ひずみεsmを、ひずみゲージとπ型変位計を用いることによる荷重増加時のひび割れ間のコンクリートのひずみ変化、及びひび割れ部の長さ変化の計測から次の式(8)、式(9)を用いて算出する。
式(8)はひび割れ開口前の引張鉄筋の平均ひずみεsm、式(9)はひび割れ開口後の引張鉄筋の平均ひずみεsmに適用する。
【0059】
【0060】
【0061】
εgはひび割れ間の下縁ひずみゲージの値、wmaxはひび割れ部のπ型変位計の値(mm)、lmaxは最大ひび割れ間隔(mm)、dpはπ型変位計標点距離(mm)である。
【0062】
なお、1本のひび割れを対象とする場合は、配筋(鉄筋のかぶり、鋼材の中心間隔、鋼材径)から求めることができるひび割れ間隔を最大ひび割れ間隔とする。複数のひび割れが発生している場合には、最大ひび割れ間隔の区間を対象とした計測を行なうことが好ましい。上記「配筋からひび割れ間隔を求めることができる」ことは、公益社団法人土木学会:コンクリート標準示方書 設計編 2012年制定,pp.223「2.3.4 曲げひび割れ幅の設計応答値の算定」、及び大塚浩司,庄谷征美,外門正直,原忠勝:鉄筋コンクリート工学,pp.73「(5.24)式」の記載に基づく。
【0063】
そして、式(9)で、ひび割れ間のひずみゲージの値にπ型変位計の評点距離を乗じた弾性変形分をπ型変位計の値から差し引き、ひび割れが再開口した後の計測にひび割れが再開口する前の評点距離間の長さ変化が付加されることがないため、式(8)、式(9)を用いて引張鉄筋の平均ひずみεsmを求めることにより、ひび割れ再開口後の引張鉄筋の平均ひずみの推定精度の向上を図ることが可能になる。
【0064】
次に、
図3に示すように、複数のひび割れを含む計測区間全体のひび割れの開口幅をまとめて光ファイバで計測する場合には、その長さに含まれるひび割れ部の長さ変化を同時に計測してしまう。このため、光ファイバで計測したひずみから、ひずみゲー ジで計測したひずみを差し引いて、光ファイバの評点距離(例えば、1000mm)を乗じたものをひび割れ部の長さ変化とする。そして、光ファイバの評点距離に含まれるひび割れ本数でひび割れ部の長さ変化を除すことで、ひび割れ1本あたりの平均的なひび割れ幅を求める。
【0065】
すなわち、複数のひび割れを含む計測区間全体のひび割れの開口幅をまとめて光ファイバで計測する場合には、ひずみゲージと光ファイバを用いることによる荷重増加時のひび割れ間のコンクリートのひずみ変化、及びひび割れ部の長さ変化の計測から、引張鉄筋の平均ひずみεsmを次の式(10)、式(11)、式(12)を用いて算出する。
式(10)はひび割れ開口前の引張鉄筋の平均ひずみεsm、式(11)、式(12)はひび割れ開口後の引張鉄筋の平均ひずみεsmに適用する。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
εgはひび割れ間下縁ひずみゲージの値、εoは下縁光ファイバの値、nは計測範囲に含まれるひび割れ本数、wmeanは平均ひび割れ幅(mm)、lmeanは平均ひび割れ間隔(mm)、doは光ファイバの長さ(mm)である。
【0070】
式(12)に示すように光ファイバで計測した下縁のひずみからひび割れ間の下縁のひずみゲージの値を差し引いたものをひび割れ部の長さ変化とし、それを本数で除することでひび割れ1本の幅として評価することができ、これにより、ひび割れ再開口後の引張鉄筋の平均ひずみの推定精度を向上させることができる。
【0071】
そして、PC桁の残存プレストレス力を推定する際には、PC桁の設計において引張縁のプレストレス力を算出するための次の式(13)(式(14))を用いる。
【0072】
【0073】
【0074】
Wcはコンクリートの断面係数、Weはコンクリートの有効断面係数、Acはコンクリートの断面積、epはコンクリート断面図心とPC鋼材群の図心間の距離、Mdは死荷重による曲げモーメントである。
【0075】
活荷重によって曲げひび割れが再開口した瞬間では、式(13)に示すように、引張縁のプレストレス力、左辺がゼロとなる。右辺の断面積Ac、断面係数Wc、We、断面図心からPC鋼材群までの距離ep、及び死荷重による曲げモーメントMdを竣工図等から求めれば、式(13)の未知数は有効プレストレス力Peのみとなる。その有効プレストレス力について展開した式(14)を用いることにより、ひび割れが再開口するときのプレストレス力、すなわち、残存プレストレス力を推定することが可能になる。
【0076】
したがって、本実施形態のPC桁の残存プレストレス力推定方法においては、一般走行している自動車荷重などを利用して、PC桁のひび割れ開口前後での曲げモーメントと引張鉄筋平均ひずみの関係を捉え、その関係から曲げひび割れ再開口の開始点を定めることによって、非破壊で、且つ従来よりも高精度で、PC桁の残存プレストレス力(PC鋼材の緊張力)を推定することが可能になる。
【0077】
言い換えれば、コンクリート表面のひずみを利用して計測断面に作用する曲げモーメントを推定するようにしたことで、走行する自動車などの重量を計測する必要がなく、非破壊で簡便に、精度よくPC桁の残存プレストレス力(PC鋼材の緊張力)を推定することが可能になる。
【0078】
また、荷重作用時の引張鉄筋ひずみを用いることにより、応力解放法等での局部的なコンクリート応力の推定で問題となる乾燥収縮やクリープ等の影響を受けることがなく、この点からも高精度でPC桁の残存プレストレス力の推定を行うことが可能になる。
【0079】
さらに、同一箇所での繰返しの計測による推定結果の信頼性の向上を図ることができ、且つ継続的な監視も可能になる。
【0080】
また、安価なひずみゲージやπ型変位計で精度よくPC桁の残存プレストレス力を推定できるため、多数の橋梁への適用も可能になる。すなわち、汎用性にも優れたPC桁の残存プレストレス力の推定手法を実現/提供することが可能になる。
【0081】
以上、本発明に係るPC桁の残存プレストレス力推定方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0082】
例えば、本実施形態では、ひずみ計測手段とひび割れ開口幅計測手段の計測結果からPC桁の計測断面に作用する曲げモーメントを求めるものとしたが、ひずみ計測手段とひび割れ開口幅計測手段の計測結果からPC桁の計測断面に作用する荷重を求め、PC桁の引張鉄筋の平均ひずみと、PC桁の断面に作用する荷重との関係が変化する屈曲点をひび割れ再開口の開始点としてもよい。すなわち、本実施形態における曲げモーメントを荷重に置き換えても、本発明の構成(論理構成)、作用効果を成立させることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 PC桁
2 ひび割れ
3 ひずみ計測手段
3a ひずみゲージ
3b 光ファイバ
4 ひび割れ開口幅計測手段
4a π型変位計
4b 光ファイバ
O1 軸方向(橋軸方向)
P ひび割れ開口の開始点(屈曲点)
P’ ひび割れ開口の開始点(屈曲点)