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特許7146340苦味のマスキング剤、苦味のマスキング方法、及び苦味のマスキングされた飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】苦味のマスキング剤、苦味のマスキング方法、及び苦味のマスキングされた飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20220927BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20220927BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L27/20 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018101394
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019205362
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】折原 由希子
(72)【発明者】
【氏名】桑原 昌巳
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-200210(JP,A)
【文献】特開2009-118743(JP,A)
【文献】特開2005-336078(JP,A)
【文献】ウェブサイト「350ml.net」に掲載された2010年10月19日付け更新のウェブページ「スポーツドリンク比較(定番ブランド)」,2010年,[オンライン],[検索日:2022年 1月25日],URL,https://350ml.net/labo/sportsdrink/major.html
【文献】ブログ「薬剤師オジーの薬の味情報室」に掲載された2016年 2月29日付け記事「分岐鎖アミノ酸製剤の味情報」,2016年,[オンライン],[検索日:2022年 1月25日],URL,https://www.ozy89314.com/entry/%E5%91%B3%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%88%86%E5%B2%90%E9%8E%96%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%B8%E8%A3%BD%E5%89%A4
【文献】味の素ヘルシーサプライ株式会社のウェブサイトに掲載された2015年 2月10日付け商品カタログ「次世代アミノ酸系甘味料ADVANTAME」,2015年,[オンライン],[検索日:2022年 1月25日],URL,http://www.ahs.ajinomoto.com/products/food/pdf/advan.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋蜂蜜及びスクラロースを有効成分とする、バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキング剤であって、飲食品中のバリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上の混合物1質量部あたり、該純正蜂蜜は3~15倍質量部、及び該スクラロースは0.0015~0.0075倍質量部添加される、前記マスキング剤。
【請求項2】
バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上を含有する組成物に、該バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上の混合物1質量部あたり、純粋蜂蜜を3~15倍質量部、及び該スクラロースを0.0015~0.0075倍質量部配合することを特徴とする、前記バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキング方法。
【請求項3】
バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上の混合物を0.5~5質量%、純粋蜂蜜を3~15質量%及び、スクラロースを0.001~0.05質量%含有し、かつ、該バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上の混合物1質量部あたり、純粋蜂蜜を3~15倍質量部、及びスクラロースを0.0015~0.0075倍質量部含有する、前記バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキングされた飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蜂蜜及び高感度甘味料を有効成分とする、バリン、ロイシン、及びイソロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキング剤、蜂蜜及び高感度甘味料を用いた前記苦味のマスキング方法、及び、蜂蜜、高感度甘味料、並びにバリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上を含有する前記苦味のマスキングされた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は栄養素の一つであるたんぱく質の構成成分であり、医薬品やサプリメント等の原料に広く用いられている。中でも、分岐鎖アミノ酸(以下、BCAAともいう)であるバリン、ロイシン、イソロイシンは、筋たんぱく質の合成を促進し、分解を抑制する働きがあり、高齢者の筋肉維持や、激しい運動時の筋肉損傷の抑制と疲労回復の目的から、BCAAを配合した飲食品が市販されている。
しかし、BCAAは独特の苦味が非常に強いため、飲食品に配合した場合、十分に満足のいく風味の飲食品を得ることが極めて困難であった。また、この苦味は、飲料において特に強く感じられるため、継続して飲用することが困難であった。
【0003】
上記の問題を解決する方法をして、バリン、イソロイシン、ロイシンを固溶体とする方法(特許文献1)が報告されているが、前記固溶体は、飲料等の液体に溶解した場合は、苦味の低減ができない問題があった。また、増粘剤とポリ-γ-グルタミン酸とを用いる方法(特許文献2)も報告されているが、ポリ-γ-グルタミン酸はアレルギー反応を惹起することがあるため、利用に制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2010/050168
【文献】特開2009-118743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)に由来する苦味のマスキング剤、前記苦味のマスキング方法、及び、前記苦味のマスキングされた飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、蜂蜜と高感度甘味料とを組み合わせて使用することで、BCAAに由来する苦味をマスキングできることを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)蜂蜜及び高感度甘味料を有効成分とする、バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキング剤。
(2)前記高感度甘味料がアスパルテーム、ネオテーム及びスクラロースから選ばれる1種又は2種以上である(1)に記載のマスキング剤。
(3)バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上を含有する組成物に、蜂蜜及び高感度甘味料を配合することを特徴とする前記バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキング方法。
(4)前記高感度甘味料がアスパルテーム、ネオテーム及びスクラロースから選ばれる1種又は2種以上である(3)に記載のマスキング方法。
(5)バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上を0.5~5質量%、蜂蜜を3~15質量%及び、高感度甘味料を0.001~0.05質量%含有する、前記バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上に由来する苦味のマスキングされた飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、BCAAに由来する苦味のマスキング剤、苦味のマスキング方法、及び前記苦味のマスキングされた飲食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[マスキング剤]
本発明のマスキング剤は、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)に由来する苦味をマスキングする効果を有し、蜂蜜及び高感度甘味料を有効成分とする。ここで、本発明におけるマスキングとは、BCAAに由来する苦味を低減又は消失させる効果を指す。具体的には、官能評価試験を用いて、BCAAに由来するトップの苦味(最初に感じる苦味)と後味の苦味の両方について、低減又は消失したことが確認された効果を指す。また、本発明におけるBCAAとは、食品原料に使用されるBCAAであれば特に限定されず、L-バリン、L-ロイシン及びL-イソロイシンから選ばれる1種のみ、又は2種以上の混合物を指す。
【0010】
本発明のマスキング剤は、例えば、BCAA含有飲食品の製造工程において添加され、BCAAに由来する苦味のマスキングされた飲食品を得ることができる。本発明のマスキング剤を飲食品に添加する方法は、特に限定されず、飲食品に均一に混合すればよい。本発明のマスキング剤は、効果を得やすい観点から、特に、BCAAを含有する飲料に対して用いることができる。
【0011】
[蜂蜜]
本発明のマスキング剤に使用する蜂蜜は、純粋蜂蜜であり、純粋蜂蜜から臭いや色素等を取り除いた精製蜂蜜や、純粋蜂蜜に異性化液糖や他の糖類を加えた加糖蜂蜜とは明確に区別される。純粋蜂蜜は、蜜蜂が花から集めた蜜を主原料として作りだし、巣の中に貯蔵している天然の甘味物である。本発明に使用する蜂蜜は、純粋蜂蜜であれば、特に制限されることなく市販品等を使用することができる。一般的に純粋蜂蜜は、果糖30~45重量%、ブドウ糖22~41重量%、水分12~23重量%、ショ糖0.2~8重量%を含有し、その他、ミネラルやビタミン等を含有する。
【0012】
[高感度甘味料]
本発明のマスキング剤に使用する高感度甘味料は、ショ糖と比較して甘味度が特に高い(ショ糖の100倍以上)物質であり、食品で使用される甘味料であれば特に制限されない。本発明に使用する高感度甘味料は、特に、BCAAに由来する後味の苦味のマスキング効果に優れる。
本発明のマスキング剤に使用する高感度甘味料は、具体的には、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、グリチルリチン、フィロズルチン、ラカンカ、ソーマチン、モネリン、サッカリン、アセスルファムカリウム、ネオテーム、アリテーム、アドバンテーム、チクロ等が挙げられる。また、本発明に使用する高感度甘味料は、利便性から賦形剤等で倍散された製剤を使用することもできる。
本発明に使用する高感度甘味料は、蜂蜜と組み合わせることで苦味のマスキング効果の相乗作用が得やすい観点から、アスパルテーム、ネオテーム及びスクラロースから選ばれる1種又は2種以上を使用することが好ましく、スクラロースを使用することがより好ましい。
【0013】
[マスキング方法]
本発明のマスキング方法は、上記で説明した本発明のマスキング剤を、BCAA含有飲食品に添加することを含む。これにより、飲食品のBCAAに由来する苦味を低減又は消失できる。本発明のマスキング剤を飲食品に添加する方法は、特に限定されず、飲食品に均一に混合すればよい。本発明のマスキング方法は、効果を得やすい観点から、特に、BCAAを含有する飲料に対して用いることが好ましい。
【0014】
本発明のマスキング剤のBCAA含有飲食品への添加量は、BCAAに由来する苦味のマスキング効果が得られる限りにおいて制限されないが、蜂蜜は、飲食品中のBCAAの1質量部あたり、3~15倍質量部が好ましく、5~10倍質量部がより好ましい。蜂蜜の添加量が上記の範囲にあると、蜂蜜の甘味をほとんど感じることなく、苦味をマスキングすることができる。また、高感度甘味料は、飲食品中のBCAAの1質量部あたり、アスパルテームを添加する場合は、0.005~0.025倍質量部が好ましく、0.01~0.02倍質量部がより好ましく、スクラロースを添加する場合は、0.0015~0.0075倍質量部が好ましく、0.003~0.006倍質量部がより好ましく、ネオテームを添加する場合は、0.0001~0.0005倍質量部が好ましく、0.0002~0.0004倍質量部がより好ましい。高感度甘味料の添加量が上記の範囲にあると、高感度甘味料の甘味をほとんど感じることなく、苦味をマスキングすることができる。
【0015】
[苦味のマスキングされた飲食品]
本発明のBCAAに由来する苦味のマスキングされた飲食品は、上記で説明した本発明のマスキング剤を含有する。BCAA含有飲食品に本発明のマスキング剤を含有させる方法は、特に限定されず、飲食品に均一に混合すればよい。本発明のマスキング剤を含有することにより、飲食品のBCAAに由来する苦味が低減又は消失される。本発明の対象となるBCAA含有飲食品とは、例えば、スポーツ飲料、ゼリー飲料、サプリメントや錠菓などの機能性食品などが挙げられる。
本発明のBCAAに由来する苦味のマスキングされた飲食品は、バリン、イソロイシン、及びロイシンから選ばれる1種又は2種以上を0.5~5質量%、蜂蜜を3~15質量%及び、高感度甘味料を0.001~0.05質量%含有する。前記飲食品中のBCAAの含有量は、好ましくは、1~3質量%であり、蜂蜜の含有量は、好ましくは4~12質量%、より好ましくは6~10質量%である。また、前記飲食品中の高感度甘味料の含有量は、スクラロースの場合は、好ましくは0.001~0.005質量%、より好ましくは0.002~0.004質量%である。
【実施例
【0016】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0017】
[ロイシン溶液の苦味のマスキング効果の確認]
表1~3に示すように、1質量%のL-ロイシンと蜂蜜及び/又は高感度甘味料とを含有する水溶液を調製した(実施例1~6、比較例1~6)。なお、蜂蜜は、純粋蜂蜜((株)加藤美蜂園本舗製、商品名:サクラ印UF膜濾過はちみつU-28)、精製蜂蜜(健栄製薬(株)製、商品名:日局ハチミツ)、及び加糖蜂蜜((株)梅屋ハネー製、商品名:加糖ハチミツ)を使用した。また、スクラロース製剤は製剤中にスクラロースを10質量%含有し、ネオテーム製剤は製剤中にネオテームを2質量%含有するものを使用した。
【0018】
苦味のマスキング効果の確認は、上記で調整した各種ロイシン溶液(品温:22℃)について、5名の専門パネルが官能試験を行い下記の採点基準に従い、トップの苦味と後味の苦味について分けて採点をし、5名の合計点から下記の評価基準に従って評価した。また、それぞれの評価結果から、下記の基準に従って総合評価した。評価結果を表1~3に示す。
(採点基準)
2点:苦味を感じない
1点:若干苦味を感じる
0点:苦味を感じる
(評価基準)
9点以上、10点以下:◎(非常に良好)
5点以上、8点以下 :○(良好)
0点以上、4点以下 :×(不良)
(総合評価)
トップの苦味、及び後味の苦味の評価の両方が“◎”である:◎(非常に良好)
トップの苦味、及び後味の苦味の評価いづれかが“○”であり、“×”を含まない:○(良好)
トップの苦味、及び後味の苦味の評価のいづれか、又は両方が“×”である:×(不良)
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
[BCAA溶液の苦味のマスキング効果の確認]
表4~6に示すように、1質量%のBCAA(L-ロイシン0.5質量%、L-イソロイシン0.25質量%、L-バリン0.25質量%)と蜂蜜及び/又は高感度甘味料とを含有する水溶液を調製した(実施例7~12、比較例7~12)。各種の原料は、上記のロイシン溶液の苦味のマスキング効果の確認で使用した原料と同等のものを使用した。また、苦味のマスキング効果の確認も、上記と同様の方法で実施した。評価結果を表4~6に示す。
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【表6】
【0026】
[BCAA含有ゼリー飲料の調製]
表7に記載の配合に従い、まず、粉体の原料を85℃の温水に溶解した。次に前記溶解液を70~75℃に保持し、リンゴ果汁、クエン酸、及び純粋蜂蜜(比較例13を除く)を順番に均一に溶解し、スパウトパウチに120g充填後、85℃/20分間のボイル殺菌を行い、冷却ゲル化してゼリー飲料(実施例13、比較例13及び比較例14)を調製した。
調製したゼリー飲料について、BCAAに由来する苦味のマスキング効果の評価を、5名の専門パネルが上記と同様の方法で実施した。評価結果を表7に示す。
【0027】
【表7】
【0028】
表7の結果より、BCAAの質量部当たり、蜂蜜を8倍質量部及びスクラロースを0.003倍質量部含有するゼリー飲料(実施例13)は、BCAAに由来する苦味がマスキングされた。他方、蜂蜜又はスクラロースのみを含有するゼリー飲料(比較例13及び14)は、BCAAに由来する苦味がマスキングされなかった。