(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】基板ホルダ及びめっき装置
(51)【国際特許分類】
C25D 21/00 20060101AFI20220927BHJP
C25D 7/12 20060101ALI20220927BHJP
C25D 17/08 20060101ALI20220927BHJP
C25D 17/06 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C25D21/00 J
C25D21/00 Z
C25D7/12
C25D17/08 S
C25D17/06 C
(21)【出願番号】P 2019025572
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【氏名又は名称】小野 達己
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 正行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潔
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132058(JP,A)
【文献】特開平09-031686(JP,A)
【文献】特開2002-131334(JP,A)
【文献】特開2018-179879(JP,A)
【文献】特開2010-002184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/00
C25D 7/12
C25D 17/00-17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持してめっき処理するための基板ホルダであって、
前記基板の少なくとも外周部を密閉するためのシール部と、
前記基板が保持された際に、前記シール部で密閉されたシール空間内に配置され、前記基板の導電層に接触する電気接点と、
を備え、
前記電気接点は、ステンレスの基体と、前記基体上に形成されたAu層と、前記Au層上に形成されたRh層と、を備える、
基板ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の基板ホルダにおいて、
前記Rh層の表面
の算術平均粗さ
Saが0.1μm以下である、基板ホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の基板ホルダにおいて、
前記Rh層の表面は、電解研磨により研磨された電解研磨面を有する、基板ホルダ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記電気接点は、めっき浴温度が40℃以上のめっき処理において使用される、
基板ホルダ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記Rh層は、電解めっき層である、基板ホルダ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記基板の前記導電層は、Cuシード層であり、
前記電気接点は、前記基板のCuシード層に接触して使用される、
基板ホルダ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記基板ホルダは、前記基板を保持した状態で、めっき処理、洗浄処理に繰り返し使用される、基板ホルダ。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の基板ホルダと、
前記基板ホルダに保持された前記基板をめっき処理するためのめっき槽と、
前記基板ホルダに保持された前記基板を水洗するための水洗槽と、
を備えるめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板ホルダ及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハ等の表面に設けられた微細な配線用溝、ホール、又はレジスト開口部に配線を形成したり、半導体ウェハ等の表面にパッケージの電極等と電気的に接続するバンプ(突起状電極)を形成したりすることが行われている。このような配線及びバンプを形成する方法として、例えば、電解めっき法、蒸着法、印刷法、ボールバンプ法等が知られている。近年の半導体チップのI/O数の増加、細ピッチ化に伴い、微細化が可能で性能が比較的安定している電解めっき法が多く用いられるようになってきている。
【0003】
電解めっき法に用いるめっき装置では、半導体ウェハ等の基板の端面及び裏面をシールし、表面(被めっき面)を露出させて保持する基板ホルダを使用する場合がある。本めっき装置において基板表面にめっき処理を行うときは、基板を保持した基板ホルダをめっき液中に浸漬させる。
【0004】
基板ホルダは、特開2012-62570(特許文献1)に記載されているように、基板に接触するコンタクトと称される電気接点を有する。基板には、例えば、Cuからなるシード層が設けられており、基板ホルダの電気接点(コンタクト)がシード層に接触し、電気接点からシード層にめっき電流が供給されるようになっている。電気接点の配置される空間はシールにより密閉され、電気接点とめっき液は接触しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出願人は、基板のめっき処理後に基板を基板ホルダから取り外す際に、基板ホルダのシール際に存在する洗浄水等の水が、わずかに基板ホルダのシール空間に入り込み、電気接点と接触する場合があることを発見した。電気接点としては、例えばSUSにAuめっきを施したものが知られている。シール空間に洗浄水が侵入した基板ホルダをその後の処理に使用し、電気接点のAu層と基板のCuシード層との接触部位において水が介在すると、CuとAuの標準電極電位の差により電位の低いCuが腐食され(異種金属間腐食)、シード層上に酸化銅が生じる問題がある。酸化銅が生じると、電気接点とシード層との間の接触抵抗が増大する問題がある。また、Cuシード層上の酸化銅が基板ホルダの電気接点に付着すると、電気接点の電気抵抗が大きくなり、その基板ホルダを用いて後続の別の基板を処理する際にも、シード層と電気接点との間の接触抵抗が増大する問題がある。
【0007】
上述した問題は、基板ホルダの電気接点の寿命に影響を及ぼす可能性がある。また、シード層及び/又は電気接点の劣化によりめっきの均一性に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、上述した課題の少なくとも一部を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、基板を保持してめっき処理するための基板ホルダであって、
前記基板の少なくとも外周部を密閉するためのシール部と、 前記基板が保持された際
に、前記シール部で密閉されたシール空間内に配置され、前記基板の導電層に接触する電気接点と、を備え、 前記電気接点は、 ステンレスの基体と、 前記基体上に形成されたAu層と、 前記Au層上に形成されたRh層と、を備える、基板ホルダが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る基板ホルダを備えためっき装置の全体配置図である。
【
図2】本実施形態に係る基板ホルダの斜視図である。
【
図3A】基板保持前の基板ホルダの電気接点近傍を示す断面図である。
【
図3B】基板保持後の基板ホルダの電気接点近傍を示す断面図である。
【
図4】電気接点の構造を模式的に示す断面図である。
【
図5A】電解研磨後の電気接点の接触表面を撮影した写真である。
【
図5B】電解研磨後の電気接点の接触表面を撮影した写真である。
【
図5C】電解研磨なしの電気接点の接触表面を撮影した写真である。
【
図7A】電気接点とシード層との接触による腐食を説明する説明図である。
【
図7B】電気接点とシード層との接触によるキズの発生を説明する説明図である。
【
図7C】シード層にキズがある場合の電気接点への腐食物質の付着を説明する説明図である。
【
図8】基板保持後の基板ホルダのシール空間内に侵入した水を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、より詳細な実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する図面において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る基板ホルダを備えためっき装置の全体配置図を示す。
図1に示すように、このめっき装置1には、半導体ウェハ等の基板を収納したカセット10を搭載する2台のカセットテーブル12と、基板のオリフラ(オリエンテーションフラット)やノッチなどの位置を所定の方向に合わせるアライナ14と、載置された基板ホルダ18に対して基板の着脱を行う基板着脱部20と、めっき処理後の基板を高速回転させて乾燥させるスピンドライヤ16と、が備えられている。これらのユニットの略中央には、これらのユニット間で基板を搬送する、例えば搬送用ロボットである基板搬送装置22が配置されている。基板は、半導体ウェハ、プリント基板、液晶基板、MEMS等の任意の基板であり得る。基板は、円形、角形、その他任意の形状であってよい。以下の説明では、被研磨部材を単に基板又はウェハと称する。
【0013】
基板着脱部20は、レール50に沿って水平方向にスライド可能な平板状の載置プレート52を備えている。基板搬送装置22は、2個の基板ホルダ18が水平状態で並列に載置プレート52に載置された状態で、一方の基板ホルダ18と基板の受渡しを行う。その後、基板搬送装置22は、載置プレート52を水平方向にスライドさせて、他方の基板ホルダ18と基板の受渡しを行う。
【0014】
また、めっき装置1には、基板ホルダ18の保管及び仮置きを行うためのストッカ24、基板を純水に浸漬させるためのプリウェット槽26、基板の表面に形成したシード層表面の酸化膜をエッチング除去するためのプリソーク槽28、基板の表面を純水で水洗するための第1の水洗槽30a、洗浄後の基板の水切りを行うためのブロー槽32、第2の水洗槽30b、及びめっき槽34が配置されている。
【0015】
めっき槽34は、オーバーフロー槽36と、この内部に収納された複数のめっきユニット38とを備えている。各めっきユニット38は、基板を保持した基板ホルダ18を内部
に収納して、銅めっき等のめっき処理を行う。なお、この例では、銅めっきについて説明するが、ニッケルやはんだ、銀、金等のめっきにおいても同様のめっき装置1を用いることができる。また、オーバーフロー槽36の側方には、各めっきユニット38の内部に位置しめっき液を攪拌するパドル(図示せず)を駆動するパドル駆動装置46が配置されている。
【0016】
さらに、めっき装置1には、基板ホルダ18を基板とともに搬送する基板ホルダ搬送装置40が備えられている。基板ホルダ搬送装置40は、例えばリニアモータ方式であり、基板着脱部20及び上記各槽の側方に位置する。基板ホルダ搬送装置40は、基板着脱部20とストッカ24との間で基板を搬送する第1のトランスポータ42と、ストッカ24、プリウェット槽26、プリソーク槽28、水洗槽30a,30b、ブロー槽32及びめっき槽34との間で基板を搬送する第2のトランスポータ44と、を有している。なお、上記搬送経路は、一例であり、第1のトランスポータ42及び第2のトランスポータ44の各々は、他の搬送経路を採用することも可能である。また、第2のトランスポータ44を備えることなく、第1のトランスポータ42のみを備えるようにしてもよい。
【0017】
(基板ホルダ)
図2は、
図1に示しためっき装置1で使用される本実施形態に係る基板ホルダ18の斜視図を示す。基板ホルダ18は、
図2に示すように、例えば塩化ビニル製で矩形平板状の第1保持部材54と、この第1保持部材54にヒンジ56を介して開閉自在に取付けられた第2保持部材58と、を有している。なお、この例では、第2保持部材58を、ヒンジ56を介して開閉自在に構成した例を示しているが、例えば第2保持部材58を第1保持部材54に対峙した位置に配置し、この第2保持部材58を第1保持部材54に向けて前進させて開閉するようにしてもよい。基板ホルダ18の第1保持部材54の略中央部には基板を保持するための保持面80が設けられている。また、第1保持部材54の保持面80の外側には、保持面80の円周に沿って、内方に突出する突出部を有する逆L字状のクランパ74が等間隔に設けられている。
【0018】
基板ホルダ18の第1保持部材54の端部には、基板ホルダ18を搬送したり吊下げ支持したりする際の支持部となる一対の略T字状のハンド82が連結されている。
図1に示したストッカ24内において、ストッカ24の周壁上面にハンド82を引っ掛けることで、基板ホルダ18が垂直に吊下げ支持される。また、この吊下げ支持された基板ホルダ18のハンド82を基板ホルダ搬送装置40の第1のトランスポータ42又は第2のトランスポータ44で把持して基板ホルダ18が搬送される。なお、プリウェット槽26、プリソーク槽28、水洗槽30a,30b、ブロー槽32及びめっき槽34内においても、基板ホルダ18は、ハンド82を介してそれらの周壁に吊下げ支持される。
【0019】
また、ハンド82には、外部の電力供給部に接続するための図示しない外部接点が設けられている。この外部接点は、複数の配線を介して保持面80の外周に設けられた複数の導電体88(
図3A、
図3B参照)と電気的に接続されている。
【0020】
第2保持部材58は、ヒンジ56に固定された基部61と、基部61に固定されたリング状のシールホルダ62と、を備えている。第2保持部材58のシールホルダ62には、シールホルダ62を第1保持部材54に押し付けて固定するための押えリング64が回転自在に装着されている。押さえリング64は、その外周部において外方に突出する複数の突条部64aを有している。突条部64aの上面とクランパ74の内方突出部の下面は、回転方向に沿って互いに逆方向に傾斜するテーパ面を有する。
【0021】
基板を保持するときは、まず、第2保持部材58を開いた状態で、第1保持部材54の保持面80に基板Wを載置し、ヒンジ56を介して第2保持部材58を閉じる。続いて、
押えリング64を時計回りに回転させて、押えリング64の突条部64aをクランパ74の内方突出部の内部(下側)に滑り込ませる。これにより、押えリング64とクランパ74にそれぞれ設けられたテーパ面を介して、第1保持部材54と第2保持部材58とが互いに締付けられてロックされ、基板が保持される。基板の保持を解除するときは、第1保持部材54と第2保持部材58とがロックされた状態において、押えリング64を反時計回りに回転させる。これにより、押えリング64の突起部64aが逆L字状のクランパ74から外されて、基板の保持が解除される。
【0022】
図3A及び
図3Bは、
図2に示した基板ホルダ18の電気接点近傍を示す断面図であり、
図3Aは基板保持前の状態を示し、
図3Bは基板保持後の状態を示す。
図3Aに示すように、第1保持部材54の保持面80には基板Wが支持されており、保持面80と第1保持部材54との間には、ハンド82に設けられた外部接点から延びる複数の配線に接続された複数の(図示では1つの)導電体88が配置されている。導電体88は、第1保持部材54の保持面80上に基板Wを載置した際、この導電体88の端部が基板Wの側方で第1保持部材54の表面にばね特性を有した状態で露出するように基板Wの円周外側に複数配置されている。基板Wの表面には、基板ホルダ18から給電を受ける導電層としてのシード層101(
図7A等参照)が形成されており、シード層101は基板Wの外周部において露出している。
【0023】
シールホルダ62の、第1保持部材54と対向する面(図中下面)には、基板ホルダ18で基板Wを保持したときに基板Wの表面外周部及び第1保持部材54に圧接されるシール部材60が取付けられている。シール部材60は、基板Wの表面をシールするリップ部60a(基板シール部)と、第1保持部材54の表面をシールするリップ部60b(ホルダシール部)とを有する。基板ホルダ18は、基板Wを保持した状態で、リップ部60a(基板シール部)とリップ部60b(ホルダシール部)とによりシール(密閉)されたシール空間を有する。
【0024】
シール部材60の一対のリップ部60a,60bで挟まれたシール空間の内部には、支持体90が取付けられる。支持体90には、導電体88から給電可能に構成された電気接点(コンタクト)92が、例えばねじ等で固定されている。支持体90は、基板Wの円周に沿って複数配置されている。
【0025】
電気接点92は、保持面80の内側へ向かって延びる電気接点端部92aと、支持体90の導電体88に対向した位置(図中下面)に、導電体88から給電可能に構成された脚部92bと、を有する。電気接点端部92aの基板Wと接触する部分は、基板Wのシード101層(
図7A等)上に配置される。この電気接点92の電気接点端部92aは、基板Wの中心方向に板ばね状に突出するように形成されている。なお、
図3A、
図3Bでは、電気接点92の電気接点端部92aが上方に凸の形状である例を示すが、これは一例であり、
図4に示すように、電気接点92の電気接点端部92aが下方に凸の形状であってもよく、直線状の形状、その他の形状であってもよい。
【0026】
図2に示した第1保持部材54と第2保持部材58とがロックされると、
図3Bに示すように、シール部材60の内周面側のリップ部60aが基板Wの表面に、外周面側のリップ部60bが第1保持部材54の表面にそれぞれ押圧される。これにより、リップ部60a及びリップ部60b間が確実にシールされるとともに、基板Wが保持される。なお、以下の説明において、リップ部60a及びリップ部60b間でシールされた空間をシール空間と称する場合がある。
【0027】
シール部材60でシールされたシール空間、即ちシール部材60の一対のリップ部60a,60bで挟まれたシール空間において、導電体88が電気接点92の脚部93bに電
気的に接続され、且つ電気接点端部92aが基板Wのシード層101に接触する。これにより、基板Wをシール部材60によるシール空間でシールしつつ基板ホルダ18で保持した状態で、電気接点92を介して基板Wに給電することができる。
【0028】
(電気接点)
図4は、電気接点の構造を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、基板ホルダ18の電気接点(コンタクト)92は、基体93と、基体93上に形成された第1層94と、第1層94上に形成された第2層95とを備えている。第1層94及び第2層95の少なくとも一方は、めっき層であり、例えば、電解めっきによる電解めっき層とすることができる。基体93は、例えば、ステンレス(SUS)から形成される。第1層94は、例えば、金(Au)から形成され、例えば、電解めっきにより基体93上にAuめっき層として形成される。第1層94は、単層のめっき層でもよいし、複数回のめっきが施された複数層のめっき層であってもよい。第1層94は、良好な電気導電性を有し、基体93及び第2層95との密着性が良好な物質であれば、Au以外の物質であってもよい。第2層95は、例えば、ロジウム(Rh)から形成され、例えば、電解めっきにより第1層94上にRhめっき層として形成される。第2層95は、単層のめっき層でもよいし、複数回のめっきが施された複数層のめっき層であってもよい。基体93、第1層94、第2層95として、ステンレス、Au層、Rh層を採用した場合、Au層は、Rhめっきの下地層として機能し、Rh層95の基体93への密着性を向上させる。
【0029】
従来の電気接点は、例えば、SUSの基体にAuめっき層が施されたものが使用されている。一方、めっき処理の対象となる基板のシード層としては、銅(Cu)に限定されるものではないが、Cuの層が使用される場合が多い。この場合、基板ホルダに基板を保持した際に、電気接点のAuめっき層がCuシード層に接触することになる。ところで、基板Wのめっき処理後に基板Wを基板ホルダ18から取り外す際に、基板ホルダ18のシール際に存在する洗浄水等の水が、わずかに基板ホルダ18のシール空間に入り込む場合がある。シール空間に水が浸入すると、水が電気接点に直接付着したり、水蒸気となり電気接点に再付着したり、その他の経路で基板シード層と基板ホルダの電気接点との間に水が介在する可能性がある。表1に示すように、AuとCuの標準電極電位の差が大きいため、電気接点のAu層とCuシード層との間に水が介在すると、
図7Aに示すように、CuとAuの標準電極電位の差により電位の低いCuが腐食され(異種金属間腐食)、シード層101表面のCuが酸化銅101aに変化し、シード層101が劣化する可能性がある。この結果、シード層101表面の接触抵抗を増加させるおそれがある。また、腐食物質(酸化銅等)が電気接点92’に付着し、電気接点92’の接触抵抗を増加させ、電気接点の寿命に影響を与えるおそれがある。さらに、シード層の劣化及び/電気接点の劣化がめっきの均一性に影響を与えるおそれがある。
【0030】
【0031】
そこで、本実施形態では、電気接点92の接触層である外層を、Cuとの標準電極電位の差が小さいRh層(第2層95)とした。表1から分かるように、CuとAuの標準電極電位の差(Cu2+、Au+の場合)は、1.83-0.340=1.49Vであり、
CuとRhの標準電極電位の差は、0.758-0.340=0.418Vであり、標準電極電位の差は三分の1以下となる。このように、RhとCuの標準電極電位の差は、AuとCuの標準電極電位の差よりもかなり小さいので、仮に、Rh層とCu層との間に水が介在したとしても、Au層とCu層との間の場合と比較して、Cuが腐食される可能性を大幅に低減することができる。この結果、シード層101の腐食、及び、電気接点92への腐食物質(酸化銅)の付着を抑制ないし防止することができる。また、電気接点92への酸化銅の付着を抑制ないし防止できることにより、電気接点92の接触抵抗が増大することを効果的に抑制することができる。以上の結果、シード層の劣化を抑制ないし防止するとともに、電気接点の寿命を延長することができる。電気接点の寿命を延長できることにより、電気接点の交換時期ひいては基板ホルダの交換時期を延長することができる。また、シード層及び/又は電気接点の劣化がめっきの均一性に悪影響を与えることを抑制ないし防止することができる。特に、基板ホルダは複数の基板に対して繰り返し使用されるため、基板ホルダの電気接点の劣化を抑制できることは、めっきの均一性を維持するのに有利である。
【0032】
また、
図3Aから
図3B、並びに
図7Bに示すように、基板ホルダ18の構造上、基板ホルダ18の第1保持部材54と第2保持部材58とが閉じて基板Wを保持する際に、電気接点92の電気接点端部92aは、基板Wのシード層101上を径方向外方に若干スライドしつつシード層101上に接触する。このとき、電気接点92’とシード層101の摩擦により、
図7Bに示すように、シード層101上にコンタクトマークと呼ばれるキズ102を生じさせることがある。また、電気接点92’とシード層101の摩擦により、電気接点92’に腐食物質(酸化銅等)が付着し易いという問題がある。
図6は、Cu板表面上で電気接点がスライドした場合のコンタクトマークを撮影した写真である。このようなキズ102が生じると、シード層101のキズ102の部分での表面積が増大し、シード層101表面が更に酸化され易くなる。つまり、電気接点が若干スライドする際に、摩擦によりキズを生じてシード層が腐食され易くなること、並びに、摩擦により電気接点に腐食物質が付着し易くなることの両方の要因により、
図7Cに示すように、電気接点に付着する腐食物質が増大する可能性がある。
【0033】
そこで、出願人は、電気接点の表面粗さに着目し、電気接点の接触表面の表面粗さを低減した構成を採用することにより、電気接点がシード層上をスライドした際のキズの発生及び/又は電気接点への腐食物質の付着を抑制することを見出した。本実施形態では、電気接点92の接触表面であるRh層95の表面を電解研磨することにより、Rh層95の表面粗さSaを0.1μm以下とする。ここで、表面粗さSaは、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を算出した値で定義される。電解研磨は、研磨対象を陽極として対極となる陰極との間に電解液を介して直流電流を流すことで研磨する研磨方法である。なお、Rh層95は、バフ研磨後に電解研磨するようにしてもよい。
【0034】
図5A~Cは、Rh層の表面を撮影したSEM写真(倍率1000倍)である。
図5Aは、電解研磨を3分間施したRh層の表面の写真である。
図5Bは、電解研磨を6分間施したRh層の表面の写真である。
図5Cは、比較例として電解研磨なしのRh層の表面の写真である。電解研磨を3分間施したRh層の表面は、表面粗さ0.092μmであり、電解研磨を6分間施したRh層の表面は、表面粗さ0.096μmであり、何れの場合も表面粗さ0.1μm以下が達成されている。これは、電解研磨なしのRh層の表面粗さ0.148μmの約3分の2であり、電解研磨により表面粗さを顕著に低減できることが分かる。このように、電気接点92のRh層95の表面粗さを0.1μm以下とすることにより、シード層101の表面にキズ102を生じさせることを効果的に抑制することができる。これにより、キズ102に起因するシード層101の表面の腐食促進を抑制ないし防止することができる。また、Rh層95の表面粗さが小さく滑らかであるため、電気接点92への酸化銅101aの付着を抑制ないし防止することができる。電気接点92への
酸化銅の付着を抑制ないし防止できることにより、電気接点92の接触抵抗が増大することを効果的に抑制することができる。この結果、シード層の劣化を更に抑制ないし防止するとともに、電気接点の寿命を更に延長することができる。また、電気接点の交換時期ひいては基板ホルダの交換時期を更に延長することができる。また、シード層及び/又は電気接点の劣化がめっきの均一性に悪影響を与えることを更に抑制ないし防止することができる。特に、基板ホルダは複数の基板に対して繰り返し使用されるため、基板ホルダの電気接点の劣化を抑制できることは、めっきの均一性を維持するのに有利である。
【0035】
めっき装置1で使用される基板ホルダ18では、めっき処理後に水洗槽等で洗浄した基板ホルダ18から基板Wを取り外す際に、シール部材60と基板W及び第1保持部材54との間の接触部の近傍(シール際)に付着していた水がシール空間内に侵入し、その水が直接、電気接点92に付着する場合がある。また、
図8に示すように、基板ホルダ18から基板Wを取り外す際に、シール空間内に侵入した水103が電気接点92に接触しない状態で止まる場合がある。このような場合であっても、後続の基板を基板ホルダ18に保持した状態でめっきユニット38に搬入されると、高温のめっき浴温度(例えば40℃以上)により、シール空間内の水103が蒸発し、水滴として電気接点92に再付着するおそれがある。また、高温の環境下では、シード層及びシード層からの腐食物質(酸化銅、異物等)の酸化が進行しやすい。また、基板ホルダがめっき装置における洗浄、乾燥、めっきを含む一連の処理に繰り返し使用される環境下では、基板及び基板ホルダの周囲温度が上昇及び下降を繰り返し、シード層及び腐食物質が膨張及び収縮を繰り返して、腐食物質がシード層から離れ易くなり、電気接点に付着し易くなるとも予測される。このように、めっき装置1で使用される基板ホルダ18の電気接点92は、一般的な電気接点と比較して、多湿かつ高温の環境下で使用されるため、電気接点92及びシード層101の腐食抑制をより確実に行うことが必要とされる。そこで、本実施形態では、電気接点92の接触表面である第2層95をシード層材料(例えば、Cu)の標準電極電位に近いRh層とするとともに、接触表面であるRh層を電解研磨により表面粗さ0.1μm以下の電解研磨面とすることにより、シード層101の腐食及びキズ、電気接点92への酸化銅の付着を効果的に抑制するものとした。これにより、シード層の劣化を抑制ないし防止するとともに、電気接点の寿命を延長することができる。電気接点の寿命を延長できることにより、電気接点の交換時期ひいては基板ホルダの交換時期を延長することができる。また、シード層及び/又は電気接点の劣化がめっきの均一性に悪影響を与えることを抑制ないし防止することができる。特に、基板ホルダは複数の基板に対して繰り返し使用されるため、基板ホルダの電気接点の劣化を抑制できることは、めっきの均一性を維持するのに有利である。
【0036】
(他の実施形態)
上記では、片面めっきの基板ホルダについて説明したが、上記実施形態は、両面めっき用の基板ホルダにも適用可能である。また、円形、角形、その他任意の形状の基板の基板ホルダに適用可能である。
【0037】
上記実施形態から少なくとも以下の技術的思想が把握される。
第1形態によれば、 基板を保持してめっき処理するための基板ホルダであって、 前記基板の少なくとも外周部を密閉するためのシール部と、 前記基板が保持された際に、前記シール部で密閉されたシール空間内に配置され、前記基板の導電層に接触する電気接点と、を備え、 前記電気接点は、 ステンレスの基体と、 前記基体上に形成されたAu層と、 前記Au層上に形成されたRh層と、を備える、基板ホルダが提供される。基板の導電層は、例えば、シード層である。
【0038】
この形態によれば、電気接点と基板の導電層との間の標準電極電位の差を低減することができる。これにより、シール空間内に何らかの原因で水が侵入して電気接点に水が付着
し、基板の導電層と電気接点との間に水が介在する場合にも、基板の導電層の腐食、電気接点への腐食物質の付着を抑制ないし防止し、基板の導電層及び/又は電気接点の接触抵抗の増加を抑制ないし防止することができる。この結果、基板の導電層の劣化を抑制ないし防止するとともに、電気接点の寿命を延長することができる。電気接点の寿命を延長できることにより、電気接点の交換時期ひいては基板ホルダの交換時期を延長することができる。また、導電層及び/又は電気接点の劣化がめっきの均一性に悪影響を与えることを抑制ないし防止することができる。特に、基板ホルダは複数の基板に対して繰り返し使用されるため、基板ホルダの電気接点の劣化を抑制できることは、めっきの均一性を維持するのに有利である。
【0039】
基板ホルダの電気接点からめっき電流の供給を受ける基板の導電層は、Cuから形成される場合が多いが、電気接点の接触表面である外層をRh層とすることで、Rh層とCu層との間の標準電極電位の差を低減し、Cu層の腐食を抑止ないし防止することができる。Rh層とCu層間の標準電極電位の差は、従来のAuめっきの電気接点の場合のAu層とCu層間の標準電極電位の際と比較して、半分未満となるため、効果的にCu層の腐食を抑制ないし防止することができる。
【0040】
また、基体上にAu層を介してRh層を形成するため、Au層がRh層の良好な下地となり、Rh層の基体への密着性を向上させることができ、電気接点の良好な導電性を確保することができる。
【0041】
第2形態によれば、第1形態の基板ホルダにおいて、 前記Rh層の表面粗さが0.1μm以下である。
【0042】
この形態によれば、電気接点の接触箇所(接触表面)の表面粗さが0.1μm以下と非常に小さく滑らかであるため、基板ホルダに基板を固定する際に、電気接点が基板の導電層上をスライドしたとしても、基板の導電層上にキズを生じにくい。このため、導電層上のキズに起因する導電層の腐食の促進を抑制ないし防止することができる。また、電気接点の接触箇所の表面粗さが小さく滑らかであるため、導電層上に腐食物質が生じたとしても、電気接点に付着することを抑制ないし防止することができる。これにより、シード層の劣化を更に抑制ないし防止するとともに、電気接点の寿命を更に延長することができる。また、電気接点の交換時期ひいては基板ホルダの交換時期を更に延長することができる。また、シード層及び/又は電気接点の劣化がめっきの均一性に悪影響を与えることを更に抑制ないし防止することができる。特に、基板ホルダは複数の基板に対して繰り返し使用されるため、基板ホルダの電気接点の劣化を抑制できることは、めっきの均一性を維持するのに有利である。
【0043】
第3形態によれば、第2形態の基板ホルダにおいて、 前記Rh層の表面は、電解研磨により研磨された電解研磨面を有する。この形態によれば、電解研磨面により、表面粗さ0.1μm以下という滑らかな面を実現することができる。
【0044】
第4形態によれば、第1乃至3形態の何れかの基板ホルダにおいて、前記電気接点は、めっき浴温度が40℃以上のめっき処理において使用される。
【0045】
基板取り外し時に基板ホルダのシール空間に侵入し電気接点まで到達していない水が存在する場合、その水がめっき処理中に周囲温度により蒸発し、電気接点に再度付着する場合がある。この形態によれば、そのような状況においても、基板の導電層の腐食、電気接点への腐食物質の付着を抑制ないし防止し、基板の導電層及び/又は電気接点の接触抵抗の増加を抑制ないし防止することができる。
【0046】
第5形態によれば、第1乃至第4形態の基板ホルダにおいて、 前記Rh層は、電解めっき層である。この形態によれば、Rh層をめっき層とすることにより、密着性及び導電性が良好な電気接点を形成することができる。
【0047】
第6形態によれば、第1乃至5形態の基板ホルダにおいて、 前記基板の前記導電層は、Cuシード層であり、 前記電気接点は、前記基板のCuシード層に接触して使用される。
【0048】
この形態では、基板の導電層がCuシード層であるため、電気接点の接触表面をRh層とすることにより、基板導電層と電気接点との間の標準電極電位の差を小さくすることが可能である。これにより、基板の導電層の腐食、電気接点への腐食物質の付着を抑制ないし防止し、基板の導電層及び/又は電気接点の接触抵抗の増加を抑制ないし防止することができる。
【0049】
第7形態によれば、第1乃至6形態の何れかの基板ホルダにおいて、 前記基板ホルダは、前記基板を保持した状態で、めっき処理、洗浄処理に繰り返し使用される。
【0050】
この形態によれば、基板取り外し時に基板ホルダのシール空間に水が侵入した場合にも、基板の導電層の腐食、電気接点への腐食物質の付着を抑制ないし防止しつつ、めっきの均一性を長期間に亘って継続することができる。
【0051】
第8形態によれば、第1乃至7形態の何れかの基板ホルダと、 前記基板ホルダに保持された前記基板をめっき処理するためのめっき槽と、 前記基板ホルダに保持された前記基板を水洗するための水洗槽と、を備えるめっき装置が提供される。この形態によれば、上述した作用効果を奏する。
【0052】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 めっき装置
10 カセット
12 カセットテーブル
14 アライナ
16 スピンドライヤ16
18 基板ホルダ
20 基板着脱部
22 基板搬送装置
24 ストッカ
26 プリウェット槽
28 プリソーク槽
30a 第1の水洗槽
30b 第2の水洗槽
32 ブロー槽32
34 めっき槽34
36 オーバーフロー槽
38 めっきユニット
40 基板ホルダ搬送装置
42 第1のトランスポータ
44 第2のトランスポータ
46 パドル駆動装置
50 レール
52 載置プレート
54 第1保持部材
56 ヒンジ
58 第2保持部材
60 シール部材
60a リップ部
60b リップ部
61 基部
62 シールホルダ
64 押さえリング
64a 突条部
74 クランパ
80 保持面
82 ハンド
88 導電体
90 支持体
92 電気接点
92a 電気接点端部
92b 脚部
92’ 電気接点
93 基体
94 第1層
95 第2層
101 シード層
101a 酸化銅
102 キズ
103 水