(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池用負極及びその製造方法並びにアルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20220927BHJP
H01M 4/26 20060101ALI20220927BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20220927BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20220927BHJP
C22C 19/00 20060101ALI20220927BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20220927BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
H01M4/38 A
H01M4/26 J
H01M4/24 J
B22F9/04 C
C22C19/00 F
C22F1/10 A
C22F1/00 621
C22F1/00 641A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
(21)【出願番号】P 2019155477
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智幸
(72)【発明者】
【氏名】松山 晃大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】近 真紀雄
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155399(WO,A1)
【文献】特開2017-168362(JP,A)
【文献】特開2017-050223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
B22F 9/04
C22C19/00
C22F 1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体からなる集電体と、結着剤と、該結着剤を介して前記集電体に保持された粉末状の活物質とを有するアルカリ蓄電池用負極であって、
前記活物質は、
組成がZr
(1-x-y-z)Ti
xNb
yMg
zNi
w(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である水素吸蔵合金から構成されているコア部と、
Niの水酸化物を含有し、前記コア部の表面に存在する表面層とを有している、アルカリ蓄電池用負極。
【請求項2】
前記コア部におけるMgに対するNbの原子数比率Nb/Mgは0.15以上2.00以下である、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用負極。
【請求項3】
前記表面層は、Niの水酸化物を含む微粒子から構成されている、請求項1または2に記載のアルカリ蓄電池用負極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ蓄電池用負極を有するアルカリ蓄電池。
【請求項5】
組成がZr
(1-x-y-z)Ti
xNb
yMg
zNi
w(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である水素吸蔵合金の鋳塊を準備し、
前記鋳塊を粉砕して粉末状の活物質を作製し、
導体からなる集電体に、結着剤を介して前記活物質を保持させることにより電極部材を作製し、
強アルカリ水溶液中で煮沸する活性化処理を前記電極部材に施すことにより、前記活物質の表面にNiの水酸化物を含む表面層を形成する、アルカリ蓄電池用負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用負極及びその製造方法並びにアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車等の車載用電源、鉄道用定置電源及び小型電気機器用の電源等には、ニッケル水素電池等のアルカリ蓄電池が広く使用されている。ニッケル水素電池の負極活物質には、水素吸蔵合金が用いられている。
【0003】
水素吸蔵合金は、水素との親和力が高いA元素群と、水素との親和力が低いB元素群との合金から構成されており、AB5型合金、AB2型合金及びAB型合金等が知られている。例えば、複数の希土類金属を含むミッシュメタル(Mm)と、ニッケル(Ni)との合金であるMmNi5は、ニッケル水素電池用の負極活物質として既に実用化されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1の水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池の放電容量は、既に理論容量に近い値に到達している。そのため、特許文献1の水素吸蔵合金を用いる場合、アルカリ蓄電池の放電容量を更に高くすることは難しい。
【0005】
アルカリ蓄電池の放電容量を更に高くするためには、より水素吸蔵量の高い水素吸蔵合金を負極活物質として使用する必要がある。このような水素吸蔵合金として、AB型の組成を有するZrNi合金がある(非特許文献1)。ZrNi合金の水素吸蔵量は、MmNi5合金よりも60%程度高い。そのため、ZrNi合金を負極活物質として使用することにより、アルカリ蓄電池の理論容量をより高くし、ひいてはエネルギー密度をより高くすることが期待できる。
【0006】
しかし、ZrNi合金は、吸蔵した水素と反応することにより、ZrNiH3やZrNiHなどの水素化物を生成する。これらの水素化物は化学的な安定性が高いため、水素化物から水素を脱離させることが難しい。それ故、ZrNi合金を負極活物質として使用する場合には、充放電を繰り返すと水素吸蔵量が急激に低下し、放電容量の低下を招くという問題があった。
【0007】
そこで、ZrNi合金からの水素の放出を促進させるために、Zrの一部をTiで置換するとともに、Niの一部をV(バナジウム)で置換した4元系の水素吸蔵合金(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-210809号公報
【文献】特開平5-239574号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Dantzer P, Millet P, Flanagan TB. Thermodynamic Characterization of Hydride Phase Gas Growth in ZrNi-H2. Metall Mater Trans A. 2001;32A:29-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1や特許文献2に記載された水素吸蔵合金は、充放電サイクルの初回においては放電容量が低く、サイクルが進むにつれて徐々に高くなるという特性を有している。しかし、実用的には、充放電サイクルの初回から高い放電容量を有し、かつ、充放電を繰り返した際に、高い放電容量を長期間に亘って維持することのできる水素吸蔵合金が望まれている。
【0011】
また、特許文献2の水素吸蔵合金は、産出地域の偏在性が高いVを含有しているため、社会情勢等の変化に応じて価格が変動し易い。そのため、特許文献2の水素吸蔵合金は、原料コストの変動が比較的大きいという問題がある。
【0012】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、価格の安定性に優れ、充放電サイクルの初回から高い放電容量を有し、高い放電容量を長期間に亘って維持することができるアルカリ蓄電池用負極及びその製造方法並びにこの負極を有するアルカリ蓄電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、導体からなる集電体と、結着剤と、該結着剤を介して前記集電体に保持された粉末状の活物質とを有するアルカリ蓄電池用負極であって、
前記活物質は、
組成がZr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である水素吸蔵合金から構成されているコア部と、
Niの水酸化物を含有し、前記コア部の表面に存在する表面層とを有している、アルカリ蓄電池用負極にある。
【0014】
本発明の他の態様は、前記の態様のアルカリ蓄電池用負極を有するアルカリ蓄電池にある。
【0015】
本発明の更に他の態様は、組成がZr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である水素吸蔵合金の鋳塊を準備し、
前記鋳塊を粉砕して粉末状の活物質を作製し、
導体からなる集電体に、結着剤を介して前記活物質を保持させることにより電極部材を作製し、
強アルカリ水溶液中で煮沸する活性化処理を前記電極部材に施すことにより、前記活物質の表面にNiの水酸化物を含む表面層を形成する、アルカリ蓄電池用負極の製造方法にある。
【発明の効果】
【0016】
前記アルカリ蓄電池用負極(以下、適宜「負極」ということがある。)は、前記集電体と、前記集電体に保持された粉末状の前記活物質とを有している。前記活物質は、前記特定の組成を有する水素吸蔵合金からなるコア部と、Niの水酸化物を含有する前記表面層とを有している。そして、前記表面層中は、Ni(ニッケル)の水酸化物が含まれている。このように構成された前記活物質を前記負極に適用することにより、前記負極の放電容量を、充放電サイクルの初回から高くすることができる。
【0017】
また、前記コア部の組成を前記特定の範囲とすることにより、コア部中に、Zr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相を析出させることができる。この相は、ZrNi合金と同様のB33型の結晶構造を有しているため、前記活物質の水素吸蔵量を増大させることができる。さらに、Zr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相は、ZrNi合金におけるZrの一部がTi、微量のNb及び微量のMgに置換されていることにより、ZrNi合金に比べて水素の放出を促進させることができる。
【0018】
このように、Zr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相が含まれた前記活物質は、水素吸蔵量が多く、水素が放出されやすいという、アルカリ蓄電池の負極用として好適な特性を有している。それ故、前記活物質が保持された前記負極は、高い放電容量を長期間に亘って維持することができる。
【0019】
また、前記活物質には、V(バナジウム)のような、価格が不安定な金属が含まれていない。そのため、前記活物質の原料コストを容易に低くすることができるとともに、原料コストの乱高下を容易に回避することができる。その結果、前記負極は、価格の安定性に優れている。
【0020】
以上のように、前記活物質を用いることにより、価格の安定性に優れ、充放電サイクルの初回から高い放電容量を有し、高い放電容量を長期間に亘って維持することができる負極を得ることができる。
【0021】
前記負極は、前述したように、アルカリ蓄電池用として好適な充放電特性を有している。そのため、前記負極を有するアルカリ蓄電池は、より放電容量を高くすることができ、ひいてはよりエネルギー密度を高くすることができる。
【0022】
前記負極は、例えば、前記の態様の製造方法により作製することができる。前記製造方法においては、前記特定の組成を有する水素吸蔵合金の鋳塊を粉砕することにより、粉末状の活物質が作製される。そして、前記活物質を前記集電体に保持させて前記電極部材を作製した後、電極部材に前記活性化処理が施される。これにより、前記活物質の表面に、Niの水酸化物を含む前記表面層を形成することができる。その結果、充放電サイクルの初回から高い放電容量を有する前記負極を作製することができる。
【0023】
前記活性化処理により充放電サイクル特性が改善する理由としては、例えば以下のような理由が考えられる。前記鋳塊を粉砕した後、活物質の表面には、ZrO2やTiO2などの絶縁性化合物が自然に形成される。従来のZrNi系合金を用いた負極は、この絶縁性化合物の存在により、充放電サイクルの初回における放電容量の低下を招いていたと考えられる。
【0024】
これに対し、前記製造方法では、前記活性化処理を行うことにより、前記活物質の表面に存在するZrO2やTiO2を除去することができる。また、前記活性化処理により、活物質の表面に存在するNiが水酸化物となる。そして、Niの水酸化物を含む表面層は、活物質の内部に存在するZrやTiの酸化を抑制することができる。以上の結果、前記活性化処理を施すことにより、ZrO2やTiO2等の絶縁性化合物による悪影響を抑制することができ、ひいては充放電サイクル特性を改善することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例における、アルカリ蓄電池用負極の要部を示す一部断面図である。
【
図2】実施例における、試験体1~4の充放電サイクル試験の結果を示す説明図である。
【
図3】実施例における、試験体1~4の放電レート特性評価の結果を示す説明図である。
【
図4】実施例における、試験体2及び試験体5の放電曲線を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前記負極において、集電体としては、例えば、金属箔、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル及び金属メッシュ等の種々の態様の導体を適用することができる。
【0027】
結着剤は、集電体と活物質との間に介在することにより、活物質を集電体に保持する作用を有している。結着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール等を用いることができる。また、結着剤中には、必要に応じて、増粘剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0028】
負極中には、必要に応じて、Cu(銅)粉末などの公知の導電剤や導電助剤が含まれていてもよい。これらの導電剤や導電助剤は、活物質と同様に、結着剤を介して集電体に保持されている。
【0029】
活物質を構成する個々の粒子は、コア部と、コア部の表面に存在する表面層とを有している。コア部は、水素親和力の高いA元素としてのZr、Ti、Nb及びMgと、水素親和力の低いB元素としてのNiとからなるAB型の水素吸蔵合金から構成されている。コア部を構成する水素吸蔵合金の組成は、Zr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である。前記組成式中のxの値、yの値、zの値及びwの値を前記特定の範囲にすることにより、B33型の結晶構造を有するZr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相をコア部中に析出させやすくすることができる。
【0030】
前記組成式中のxの値を前記特定の範囲とすることにより、水素吸蔵合金に吸蔵される水素吸蔵量を多くするとともに、水素吸蔵合金に吸蔵された水素をより容易に放出させることができる。その結果、負極の放電容量を高くするとともに、充放電の繰り返しに伴う放電容量の低下を抑制することができる。
【0031】
前記組成式中のxの値が0.466以下である場合には、Tiの原子数比率が低いため、前記水素吸蔵合金中に吸蔵された水素が水素吸蔵合金から放出されにくくなるおそれがある。その結果、充放電のサイクル数の増加に伴って放電容量が低下しやすくなるおそれがある。
【0032】
一方、前記組成式中のxの値が0.473以上である場合には、コア部中に、例えばTiNi相やZr9Ni11相等の、B33型以外の結晶構造を有する相が析出しやすくなる。これらの相は、Zr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相に比べて水素吸蔵量が低い。それ故、xの値が0.473以上である場合には、水素吸蔵量が低下し、放電容量の低下を招くおそれがある。
【0033】
前記組成式中のyの値を前記特定の範囲とすることにより、B33型以外の結晶構造を有する相の析出を抑制しつつ、Tiの置換量を多くすることができる。前記組成式中のyの値が0.009以下である場合には、コア部中にB33型以外の結晶構造を有する相が析出しやすくなり、放電容量の低下を招くおそれがある。一方、前記組成式中のyの値が0.013以上である場合には、かえってコア部中にB33型以外の結晶構造を有する相が析出しやすくなり、水素吸蔵量の低下を招くおそれがある。
【0034】
前記組成式中のzの値を前記特定の範囲とすることにより、A元素としては比較的水素親和力が低いMgを水素吸蔵合金内に適度に存在させることができる。これにより、高い水素吸蔵量を維持しつつ、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素を水素吸蔵合金からより容易に放出させることができる。その結果、負極の放電容量を高くするとともに、充放電の繰り返しに伴う放電容量の低下を抑制することができる。
【0035】
また、前記組成式中のzの値を前記特定の範囲とすることにより、放電時の負極の電位をより低くすることができる。そのため、前記コア部を備えた活物質を含む負極を正極と組み合わせることにより、アルカリ蓄電池の放電電圧、つまり、放電時の正極の電位と負極の電位との電位差をより高くすることができる。
【0036】
さらに、前記組成式中のzの値を前記特定の範囲とすることにより、負極の放電容量をより大きくするとともに、放電レート、つまり、放電時の電流密度を高くした場合の放電容量の低下を抑制することができる。それ故、zの値が前記特定の範囲内である活物質は、高率放電を行うことが求められるアルカリ蓄電池の負極に好適に使用することができる。
【0037】
前述した負極の放電容量を増大する効果、充放電の繰り返しに伴う放電容量の低下を抑制する効果、放電時の負極の電位を低くする効果及び放電レートを高くした場合の放電容量の低下を抑制する効果をより高める観点からは、前記組成式中のzの値は、0.006<z<0.050であることが好ましく、0.010<z<0.040であることがより好ましく、0.015<z<0.035であることがさらに好ましい。
【0038】
前記組成式中のzの値が0.005以下である場合には、コア部に含まれるMgの原子数比率が低いため、水素吸蔵合金中に吸蔵された水素が水素吸蔵合金から放出されにくくなるおそれがある。その結果、充放電のサイクル数の増加に伴って放電容量が低下しやすくなるおそれがある。一方、前記組成式中のzの値が0.064以上である場合には、コア部中にB33型以外の結晶構造を有する相が析出しやすくなり、水素吸蔵量の低下を招くおそれがある。その結果、放電容量の低下を招くおそれがある。
【0039】
また、前記組成式中のwの値、即ちZr、Ti、Nb及びMgの合計に対するNiの原子数比率を前記特定の範囲とすることにより、コア部中にZr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相を容易に析出させることができる。wの値が前記特定の範囲外である場合には、B33型以外の結晶構造を有する相が析出しやすくなる。その結果、活物質の水素吸蔵量が低くなり、放電容量の低下を招くおそれがある。
なお、前記の「B33型の結晶構造」は、例えば「金属 vol.80(2010)No.7 32頁」等で明らかにされているCrB型構造と同一である。
【0040】
コア部におけるMgに対するNbの原子数比率Nb/Mgは0.15以上2.00以下であることが好ましい。この場合には、負極の放電容量をより大きくするとともに、放電レートを高くした場合の放電容量の低下をより効果的に抑制することができる。さらに、この場合には、放電時の負極の電位をより低くすることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、Mgに対するNbの原子数比率Nb/Mgは0.40以上1.50以下であることがより好ましい。
【0041】
コア部の表面には、Niの水酸化物を含む表面層が存在している。表面層には、Niの水酸化物の他に、Niの酸化物や、活性化処理後に残留したZrO2、TiO2等の絶縁性化合物が含まれることがある。また、表面層は、Niの水酸化物を含む微粒子から構成されていてもよい。
【0042】
前記負極は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、前記特定の組成を有する水素吸蔵合金を鋳造する。鋳造時の組成を前記特定の範囲とすることにより、鋳塊中にZr(1-x-y-z)TixNbyMgzNiw相を析出させることができる。次いで、得られた鋳塊を粉砕して粉末状の活物質を作製する。このとき、鋳塊を粉砕する前に、不活性ガス雰囲気中において鋳塊を加熱することにより、前記特定の結晶構造を維持しつつ、凝固過程などにおいて生じた転位や欠陥を除去することができる。そして、転位等が除去された水素吸蔵合金を用いて負極を作製することにより、前記負極の放電容量をより高くすることができる。
【0043】
次に、前記集電体に、前記結着剤を介して前記活物質を保持させることにより、電極部材を作製する。その後、強アルカリ水溶液中で煮沸する活性化処理を電極部材に施す。これにより、活物質を構成する個々の粒子の表面に前記表面層を形成することができる。強アルカリ水溶液としては、例えば、温度105℃以上、pH14以上の水溶液を使用することができる。
【実施例】
【0044】
前記負極及びその製造方法の実施例について、図を用いて説明する。
図1に示すように、本例の負極1は、導体からなる集電体2と、結着剤3と、結着剤3を介して集電体2に保持された粉末状の活物質4とを有しており、アルカリ蓄電池用負極として構成されている。活物質4を構成する個々の粒子41は、水素吸蔵合金からなるコア部412と、Niの水酸化物を含有し、コア部412の表面に存在する表面層411とを有している。表1に示すように、コア部412の組成はZr
(1-x-y-z)Ti
xNb
yMg
zNi
w(但し、0.466<x<0.473、0.009<y<0.013、0.005<z<0.064、0.95≦w≦1.05)である。
【0045】
本例では、まず、組成を表1に示すように種々変更して粉末状の活物質4を作製した。次いで、別途準備した集電体2に結着剤3を介して活物質4を保持させることにより電極部材を作製した。その後、電極部材に表1に示す処理条件で活性化処理を施すことにより、活物質4を構成する個々の粒子41の表面に表面層411を形成した。以上により、負極1(試験体1~3)を作製した。以下に、負極1の製造方法をより詳細に説明する。
【0046】
[活物質の作製]
アーク溶解炉を用いて、Zr(株式会社高純度化学研究所製、ワイヤーカット品、純度98.0%)、Ti(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.0%)、Nb(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.0%)、Mg(株式会社高純度化学研究所製、粒状、純度99.9%)及びNi(株式会社高純度化学研究所製、粉末、純度99.9%)を溶融させ、表1に示す組成を有する水素吸蔵合金の鋳塊を作製した。この鋳塊をアルゴン雰囲気中で400~480℃に加熱し、鋳塊内の転位や欠陥を低減させた。
【0047】
湿式切断機を用いて得られた鋳塊を二等分し、一方の鋳塊を用いて比重の測定及び組織観察を行った。また、他方の鋳塊にディスクミルによる粗粉砕、タングステンカーバイド製乳鉢による微粉砕及び篩い分けを順次行うことにより、粉末状の活物質4を作製した。活物質を構成する個々の粒子41の直径は20~40μmであった。
【0048】
次に、得られた活物質4、Ni粉末、結着剤3としてのPVA(ポリビニルアルコール)及びCMC(カルボキシメチルセルロース)を、活物質4:Ni粉末:PVA:CMC=79:19:0.5:1.5の質量比で混合し、ペースト状の負極合剤を調製した。この負極合剤を、別途準備した集電体2としてのNiメッシュに充填した。その後、ロールプレスを用いてNiメッシュを圧延し、負極合剤をNiメッシュに密着させた。以上により、電極部材を作製した。
【0049】
その後、6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中で3~4時間煮沸する活性化処理を電極部材に施し、活物質4を構成する個々の粒子41の表面に表面層411を形成した。以上により、試験体1~3を得た。なお、水酸化カリウム水溶液の温度は105℃であった。
【0050】
本例においては、試験体1~3との比較のため、コア部の組成が前記特定の範囲外である活物質を備えた試験体4及びMgを含まない活物質を備えた試験体5を準備した。試験体4は、水素吸蔵合金の組成を表1に示すように変更した以外は、試験体1~3と同様の手順により作製した試験体である。試験体5は、水素吸蔵合金の組成をZr0.536Ti0.468Nb0.013Ni0.983とした以外は、試験体1~3と同様の手順により作製した試験体である。
【0051】
以上により得られた負極(試験体1~5)を、市販のNi(OH)2/NiOOH正極及びHg/HgO参照極と組み合わせ、6mol/Lの水酸化カリウム及び1mol/Lの水酸化リチウムを含む電解液を用いて三極式の電池セルを構成した。ポテンショスタット(Bio-Logic社製 VMP3)を用いて電池セルの充放電及び放電容量の測定を行うことにより、充放電サイクル特性、放電レート特性及び放電電位の評価を行った。
【0052】
[充放電サイクル特性]
試験体1~4を用いて30℃の温度で充放電を繰り返す充放電サイクル試験を行い、各充放電サイクルにおける放電容量を測定した。1回の充放電サイクルは、電流密度100mA/gで5時間充電を行うステップと、10分休止をして電位を安定させるステップと、電流密度25mA/gでHg/HgOの電位を基準として-0.5Vの電位まで放電するステップとから構成されている。
図2に、各充放電サイクルにおける放電容量の測定結果を示す。なお、
図2の縦軸は放電容量(mAh/g)であり、横軸はサイクル数(回)である。
【0053】
前記の3ステップからなる充放電サイクルを10回繰り返した後、10サイクル後の放電容量を初回の放電容量で割ることにより、容量維持率を算出した。初回の放電容量、10サイクル後の放電容量及び容量維持率を表1に示す。
【0054】
[放電レート特性]
試験体1~4を用い、放電時の電流密度を種々の値に変更した場合の放電容量を測定した。具体的には、温度30℃、電流密度100mA/gの条件で5時間充電を行った後、10分休止をして電位を安定させた。次いで、25mA/g、50mA/g、100mA/g、250mA/gまたは500mA/gの電流密度でHg/HgOの電位を基準として-0.5Vの電位まで放電させた時の放電容量を測定した。
【0055】
表2及び
図3に、前記各電流密度で放電を行った時の放電容量を示す。なお、
図3の縦軸は電流密度25mA/gにおける放電容量に対する各電流密度での放電容量の比を百分率(%)で表した値であり、横軸は放電時の電流密度(mA/g)である。また、表2の「高率放電特性」欄には、電流密度25mA/gにおける放電容量に対する電流密度500mA/gにおける放電容量の比率を百分率(%)で表した値を記載した。
【0056】
[放電電位]
試験体3及び試験体5を用いて30℃の温度で放電させた際の放電曲線を測定した。具体的には、温度30℃、電流密度100mA/gの条件で5時間充電を行った後、10分休止をして電位を安定させた。次いで、25mA/gの電流密度でHg/HgOの電位を基準として-0.5Vの電位まで放電させた時の放電曲線を測定した。
図4に、試験体3及び試験体5の放電曲線を示す。なお、
図4の縦軸はHg/HgOの電位を基準とした時の試験体の電位(V vs Hg/HgO)であり、横軸は、放電開始時点から試験体の電位が縦軸の値となった時点までに放電された容量(mAh/g)である。
【0057】
【0058】
【0059】
表1及び
図2に示すように、コア部の組成が前記特定の範囲内である試験体1~3は、コア部の組成が前記特定の範囲から外れている試験体4に比べて充放電サイクルの初回から高い放電容量を有するとともに、高い放電容量を長期間に亘って維持することができた。これらの結果から、コア部412の組成を前記特定の範囲とすることにより、優れた充放電サイクル特性を有する負極1が得られることが理解できる。
【0060】
また、表2及び
図3に示すように、試験体1~3は、試験体4に比べて放電時の電流密度を高くした場合の放電容量の低下を抑制することができた。従って、コア部の組成が前記特定の範囲である活物質を負極に適用することにより、高率放電を行うことが求められるアルカリ蓄電池に好適な負極1が得られることが理解できる。
【0061】
更に、
図4に示すように、Mgを含むコア部を備えた試験体3は、Mgを含まない試験体5に比べて放電曲線の平坦部分における電位を約0.2V低くすることができた。かかる結果によれば、Mgを含むコア部を備えた負極をアルカリ蓄電池に組み込むことにより、放電時における陽極と負極との電位差、つまり放電電位をより高くすることが可能であることが理解できる。
【符号の説明】
【0062】
1 アルカリ蓄電池用負極
2 集電体
3 結着剤
4 活物質
41 粒子
411 表面層
412 コア部