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  • 特許-メタクリル酸エステル重合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】メタクリル酸エステル重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/58 20060101AFI20220928BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08F4/58
C08F20/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018076589
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019183025
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直正
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 央士
(72)【発明者】
【氏名】新納 洋
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327007(JP,A)
【文献】特開昭63-117012(JP,A)
【文献】特開平11-315127(JP,A)
【文献】特開平10-139822(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合触媒の存在下でメタクリル酸エステルを重合することを含む、rrトリアッド%が75%以上のメタクリル酸エステル重合体の製造方法であって、
前記重合触媒が、下記式(1)で表される有機アルミニウム化合物(A)と下記式(2)で表される有機リン化合物(B)とを含み、
温度35℃以上の条件下でメタクリル酸エステルを重合する、メタクリル酸エステル重合体の製造方法
Al(OAr)(OAr) (1)
[式(1)中、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子を表す。Rは炭素数2~10の炭化水素基を表す。Ar、Arは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。]
PR (2)
[式(2)中、Pはリン原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基のいずれかである。]
【請求項2】
前記式(1)中のRが、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基及びn-ヘキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のメタクリル酸エステル重合体の製造方法
【請求項3】
一般式(1)中のRが、イソブチル基である、請求項1に記載のメタクリル酸エステル重合体の製造方法
【請求項4】
前記メタクリル酸エステルが、その総質量に対して、メタクリル酸メチル80質量%以上含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタクリル酸エステル重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸エステル重合体を製造するための重合触媒、及び、メタクリル酸エステル重合体の製造方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、高度な立体規則性を有するメタクリル酸エステル重合体を、高収率で、安定に製造することのできる新しい重合触媒及びメタクリル酸エステル重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル樹脂は、優れた透明性や耐候性を有することから、車両用部品、光学材料、照明用材料、建築用材料等、様々な分野で用いられている。
近年、(メタ)アクリル樹脂の成形体は、部品の薄肉化や細密化に伴い、さらなる高性能化が求められている。その性能の1つとして耐熱性が挙げられる。特に、テールランプやヘッドランプ等の車両用部品の用途では、車両用部品が高温環境下に曝されるため、より耐熱性に優れた(メタ)アクリル樹脂に対する需要がある。(メタ)アクリル樹脂の耐熱性を向上する手法としては、(メタ)アクリル樹脂の立体規則性(シンジオタクティシティー)を高くする方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の有機アルミニウム化合物と、窒素原子に直接結合した水素原子を持たない有機窒素化合物(B1)及びリン原子に直接結合した水素原子を持たない有機リン化合物(B2)から選ばれる少なくとも1種の化合物とを組み合わせた触媒系で、アクリル酸エステルを-20℃の低温でアニオン重合する技術が開示されている。
特許文献2には、特定の有機アルミニウム化合物、フェノール類、及びビスオキサゾリン化合物とを組み合わせた触媒系で、メタクリル酸エステルを溶媒を用いて重合する技術が開示されている
また、非特許文献1には、第三級ホスフィンと特定のアルミニウムフェノキシドとを組み合わせた触媒系で、メタクリル酸エステルを-60~-95℃の極低温で重合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-327007号公報
【文献】特開平10-139822号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】高分子学会予稿集Vol.44,No.2(1995),p.153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術においては、重合反応を低温で進める必要があり、工業的な規模で実施することは困難であった。また、メクリル酸エステルに適用した場合、重合効率が不十分であった。さらに、アクリル酸エステルに対して、過剰な量の溶媒を必要とするため、反応効率や生産性に課題があった。
特許文献2に開示されている技術においては、合成が必ずしも容易ではない、非常に高価なビスオキサゾリン化合物を使用する必要があり、工業的な規模で実施することは困難であった。また、実施例に開示されているオキサゾリン化合物は架橋基に置換基を有していないため常温では不安定であり、さらに、アクリル酸エステルに対して、過剰な量の溶媒を必要とするため、反応効率や生産性に課題があった。
特許文献3に開示されている技術においては、重合反応を極低温で進める必要があり、工業的な規模で実施することは困難であった。
【0007】
また、重合反応を室温以下の温度で行う場合、重合反応に伴って発生する重合発熱により、反応系内の温度制御が困難となる傾向があった。
【0008】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、過剰な溶剤を必要とせずに、室温よりも高い温度で、高い立体規則性を有するメクリル酸エステル重合体を安定に製造するための重合触媒、及び、高い立体規則性を有するメクリル酸エステル重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の要旨は、下記式(1)で表される有機アルミニウム化合物(A)と下記式(2)で表される有機リン化合物(B)とを含む、メタクリル酸エステルからメタクリル酸エステル重合体を製造するための重合触媒にある。
Al(OAr)(OAr) (1)
[式(1)中、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子を表す。Rは炭素数2~10の炭化水素基を表す。Ar、Arは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。]
PR (2)
[式(2)中、Pはリン原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基のいずれかである。]
本発明の第2の要旨は、前記重合触媒の存在下でメタクリル酸エステルを重合することを含む、メタクリル酸エステル重合体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、過剰な溶剤を必要とせずに、室温よりも高い温度で、高い立体規則性を有するメクリル酸エステル重合体を安定に製造するための重合触媒を提供することができる。
さらに、本発明により、高い立体規則性を有するメクリル酸エステル重合体の製造方法を提供することができる。
本発明の重合触媒及び製造方法を用いて製造されたメクリル酸エステル重合体は、透明性に優れ、且つ、高い立体規則性を有しているので耐熱性に優れている。このようなメクリル酸エステル重合体は、テールランプやヘッドランプ等の車両用部品等の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1で得られたメタクリル酸エステル重合体のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有量を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0014】
本発明は、上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
<重合触媒>
本発明の重合触媒は、後述する有機アルミニウム化合物(A)と後述する有機リン化合物(B)とを含む、メタクリル酸エステルからメタクリル酸エステル重合体を製造するための重合触媒である。
【0015】
<有機アルミニウム化合物(A)>
有機アルミニウム化合物(A)は、本発明の重合触媒の構成成分の一つである。
有機アルミニウム化合物(A)は、下記式(1)で表される。
Al(OAr)(OAr) (1)
[式(1)中、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子を表す。Rは炭素数2~10の炭化水素基を表す。Ar、Arは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。]
【0016】
本発明において、式(1)中、Rは、炭素数2~10の炭化水素基を表す。Rは新たなモノマーに立体的相互作用を及ぼし、立体選択性及び重合活性が大きく影響すると考えられている。したがって、Rの炭素数が少なすぎると立体選択性が低くなる傾向にある。また、Rの炭素数が過度に多いと、モノマーの侵入が阻害される傾向がある。このため、好ましいRとしては、炭素数2~8、さらに好ましい炭素数は2~6である。
【0017】
の具体的な例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基を挙げることが出来る。このうち、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基が好ましく、さらにエチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基が好ましい。
【0018】
本発明において、式(1)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表す。
Ar及びArは、アルミニウムAlの近傍にあって、立体的及び/又は電子的にAlに相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、Ar及びArは、かさ高い置換基を含有することが好ましい。かさ高い置換基は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~7の芳香族炭化水素基である。
【0019】
ヘテロ原子含有基中に含まれるヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、ケイ素が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、窒素、ケイ素が好ましい。また、これらのヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基としては、酸素含有基として、アルコキシ基、アリーロキシ基が挙げられ、窒素含有基としては、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基が挙げられ、リン含有置換基としては、ジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基が挙げられ、硫黄含有基としては、チオアルコキシ基やチオアリーロキシ基が挙げられ、ケイ素含有基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基が挙げられる。これらのヘテロ原子含有基のうち、もっとも好ましいのは、アルコキシ基、アリーロキシ基、トリアルキルシリル基である。
【0020】
かさ高い置換基の具体的な例としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル(t-ブチル)基、ネオペンチル基、シクロヘキシル基などの炭化水素基、フェニル基などの芳香族炭化水素基、イソプロポキシ基、イソブチロキシ基、t-ブトキシ基、ネオペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基などのアリーロキシ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリル基などが挙げられる。
かさ高い置換基を含有する芳香族炭化水素基の母核の具体的な例としては、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が挙げられる(ただし、Al-O-Ar結合の付け根の炭素位置を1としている)。これらのうち、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基が好ましい。
【0021】
かさ高い置換基が、芳香族炭化水素基の母核のどこについても問題はないが、Alに立体的及び/又は電子的に相互作用を及ぼす位置が好ましい。
具体的な位置は、2位、6位、2位及び6位、2位及び4位及び6位が挙げられる。それらのうち、2位及び6位、2位及び4位及び6位が好ましい。
【0022】
Ar及びArの具体的な例としては、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソブチルフェニル基、2,6-ジイソブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソブトキシフェニル基、2,6-ジイソブトキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソブトキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェノキシフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基が挙げられる。
【0023】
これらのうち、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェノキシフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基が好ましい。
【0024】
これらのうち、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基がさらに好ましい。
【0025】
有機アルミニウム化合物(A)の具体的な例としては、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)が挙げられる。
【0026】
これらのうち、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)が好ましい。
【0027】
<有機リン化合物(B)>
有機リン化合物(B)は、本発明の重合触媒の構成成分の一つである。
有機リン化合物(B)は、下記式(2)で表される。
PR (2)
[式(2)中、Pはリン原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基のいずれかである。]
【0028】
本発明において、式(2)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表す。
【0029】
、R、及びRにおいて、ヘテロ原子としては、酸素、窒素、ケイ素、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、窒素、ケイ素、塩素、フッ素が好ましい。また、これらのヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基としては、酸素含有基として、アルコキシアリール基、アリーロキシ基が挙げられ、窒素含有基としては、ジアルキルアミノアリール基、ジアリールアミノアリール基が挙げられ、ケイ素含有基としては、トリアルキルシリルアリール基、ジアルキルアリールシリルアリール基、アルキルジアリールシリルアリール基が挙げられ、塩素含有基としては、塩素化アリール基が挙げられ、フッ素含有基としては、フッ素化アリール基が挙げられる。
【0030】
、R、及びRの具体的例としては(フェニル基上の置換基の位置を特に指定しない場合、例えば、メチルフェニル基と記載している場合は3-又は4-メチルフェニル基を表す)、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などの炭化水素基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n-ブチルフェニル基、イソブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、n-プロポキシフェニル基、イソプロポキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基などのジアルキルアミノ基含有アリール基、ジフェニルアミノフェニル基などのジアリールアミノ基含有アリール基、クロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基などの塩素化アリール基、フルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基などのフッ素化アリール基などが挙げられる。
そのうち、メチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭化水素基、フェニル基、メチルフェニル基、t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、クロロフェニル基などの塩素化アリール基、フルオロフェニル基などのフッ素化アリール基が好ましい。
【0031】
これらのなかで、メチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭化水素基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、4-メトキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、4-クロロフェニル基などの塩素化アリール基、4-フルオロフェニル基などのフッ素化アリール基がさらに好ましい。
【0032】
有機リン化合物(B)の具体的例としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-t-ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、t-ブチルジフェニルホスフィン、シクロペンチルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、フェニルジフェニルホスフィナイト、ジメチルフェニルホスフィン、ジ(t-ブチル)フェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンが挙げられる。
【0033】
これらのうち、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)、トリス(4-t-ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、t-ブチルジフェニルホスフィン、シクロペンチルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、フェニルジフェニルホスフィナイト、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンが好ましい。
【0034】
<メタクリル酸エステル>
本発明に用いられるメタクリル酸エステルは、メタクリル酸、及び、脂肪族基、脂環族、芳香族基、芳香脂肪族基、複素環族の各種のアルコール、又はヒドロキシ化合物由来の官能基を側鎖に有するメタクリル酸エステルである。
具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
或いは又、本発明に用いられるメタクリル酸エステルは、得られるメタクリル酸エステル重合体の耐熱性、透明性、耐候性、力学特性が良好となることから、総質量に対して、メタクリ酸メチル(MMA)を80質量%以上含むことが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル(MMA)100質量%の単独物、又は、80質量%以上100質量%未満のMMAと、0質量%を超え20質量%以下の他の単量体とを含有する単量体混合物が挙げられる。
【0035】
前記他の単量体は、MMAと共重合可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、例えば、以下のa)~f)が挙げられる。
a)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチルなどのMMA以外の(メタ)アクリル酸エステル化合物。
b)スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、α-ビニルナフタレン、2-ビニルフルオレンなどの芳香族ビニル化合物。
c)アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどの不飽和ニトリル化合物。
d)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどのエチレン性不飽和エーテル化合物。
e)塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2-ジブロモエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物。
f)1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖及び側鎖共役ヘキサジエンなどの脂肪族共役ジエン系化合物。
【0036】
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの他の単量体の中でも、メタクリル系樹脂本来の性能を損ないにくく、成形体の耐熱分解性に優れる傾向にあることから、アルキル基部分の炭素数が1~8個のアクリル酸アルキルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルがより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがさらに好ましい。
【0037】
<メタクリル酸エステル重合体の製造方法>
本発明のメタクリル酸エステル重合体の製造方法は、本発明の重合触媒の存在下でメタクリル酸エステルを重合することを含む。
本発明の製造方法において、重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等が挙げられる。これらの重合方法の中でも、ゲル効果により少量の重合開始剤で重合転化率を上げることができる観点や、重合発熱が発生した場合でも重合反応系内の温度制御が容易でありメタクリル酸エステル重合体の製造安定性に優れる観点から、塊状重合法が好ましい。特に、本発明の重合触媒は、メタクリル酸エステルの重合触媒としての機能を室温以上の高温でも十分に有していることから、塊状重合法に好適に用いることができる。塊状重合法としては、単量体であるメタクリル酸エステルを重合溶媒として用いるいわゆるバルク重合法や、触媒と反応して触媒を失活させたり、単量体と反応してそれを変質させたりするものでなければ適宜な重合溶剤の存在下で単量体を重合するいわゆる溶液重合法が好適である。
溶液重合法の重合溶媒としては、不活性溶媒であれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、溶解性、反応性、分離性に優れることから、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロホルムが好ましい。
【0038】
塊状重合法の重合温度の下限は、特に制限されるものではないが、得られるメタクリル酸エステル重合体の立体規則性(rrトリアッド%)が高くなり、耐熱性が良好となる観点や、重合発熱が発生した場合でも重合反応系内の温度制御が容易となる観点から、35℃以上が好ましい。40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましい。一方、重合温度の上限は、特に制限されるものではなく、メタクリル酸エステル又は使用する溶媒の沸点以上の温度とすることもできる。重合温度が高くなると、得られるメタクリル酸エステル重合体の立体規則性(rrトリアッド%)が低下する傾向があることから、120℃以下が好ましい。110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
塊状重合法としてはバッチ式及び連続式のいずれも採用できるが、例えば、単量体成分及び重合開始剤等を反応容器の中に連続的に供給しながら、反応容器内に所定時間滞留させて得られる部分重合体を連続的に抜き出す方法により、高い生産性で重合体を得ることができる。
【0039】
本発明の重合触媒の構成成分の割合は、特に限定しないが、有機アルミニウム化合物(A)と有機リン化合物(B)は、(A):(B)=1:99~99:1(モル比)を、0~100℃のトルエンやベンゼン等の有機溶媒中で、減圧~加圧下で1~86,400秒間接触させることにより、得ることができる。
反応終了後、重合触媒以外に(A)、(B)由来の他の成分や用いた溶媒成分が共存するが、本発明の重合反応又は共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。
得られた重合触媒に(メタ)アクリル酸エステルを添加して重合を開始してもよいし、(メタ)アクリル酸エステルに得られた重合触媒を添加してもよい。
また、接触させる前に(メタ)アクル酸エステルを混合させてもよい。すなわち、触媒成分(A)と(メタ)アクリル酸エステルとの混合液に、触媒成分(B)を添加して重合を開始してもよし、触媒成分(B)と(メタ)アクリル酸エステルとの混合液に、触媒成分(A)を添加して重合を開始してもよい。
添加は一度に入れてもよいし、ある一定の周期で添加してもよい。
【0040】
公知の揮発性成分除去装置を用いて、部分重合体中の揮発性成分を脱揮し、メタクリル酸エステル重合体を得ることができる。揮発性成分除去装置は、脱揮効率に優れることから、単軸押出機、二軸押出機等の脱揮押出機が好ましい。揮発性成分を脱揮する時の、脱揮温度や減圧度は、当業者であれば、周知技術に基づいて適宜設定することができる。
【0041】
<メタクリル酸エステル重合体>
本発明のメタクリル酸エステル重合体は、上述したメタクリル酸エステルの重合物であり、MMA単独重合体、又は、MMA由来の繰り返し単位80質量%以上100質量%未満と上述した他の単量体由来の繰り返し単位0質量%を超え20質量%以下とを含有するMMA共重合体である。
本発明のメタクリル酸エステル重合体は、本発明の重合触媒を用いて製造されるので、rrトリアッド%(シンジオタクテイシティー)が75%以上という高い立体規則性を有しており、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れている。
具体的には、実施例で開示するように、メタクリル酸エステル重合体がMMA単独重合体の場合、rrトリアッド%75~80%で、ガラス転移温度130~131℃を得ることができる。なお、本発明のメタクリル酸エステル重合体が、このようなMMA単独重合体に限定されるものではない。
【0042】
本発明のメタクリル酸エステル重合体は、例えば成形材料として用いることができる。メタクリル酸エステル重合体から成形体を得る方法としては、例えば、公知の射出成形法、押出成形法、加圧成形法等の公知の成形方法が挙げられる。
その際には、必要に応じて、高級アルコール類や高級脂肪酸エステル類等の滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃化剤等の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有させてもよい。
【実施例
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実験に使用する窒素は、窒素雰囲気下300℃で焼成したモレキュラーシーブ(キシダ化学社製、製品名「モレキュラシーブ4A」)を使用して脱水した後、ガスクリーン・ドライカラム(日化精工(株)社製、製品名「GASCLEAN GC-RX」)を用いて酸素を除去した、精製窒素を用いた。
実験に用いた溶媒と試薬はすべて、公知の方法で精製・脱気・脱水した後、精製窒素雰囲気下で保存したものを用いた。
空気又は水分で容易に分解される化合物の取り扱う時はシュレンク・カニュラーテクニック及び精製窒素で満たされたドライボックスを用いた。重合触媒の合成及びメタクリル酸エステルの重合操作は、精製窒素で満たされたフラスコ中で行った。
【0044】
本実施例における各測定・評価方法は以下の通りである。
【0045】
[測定・評価]
<重合体のシンジオタクテイシティーの定量(rrトリアッド%)>
H-NMR測定装置(Bruker社製、「AVANCE400」)を用いて、重合体の立体選択性の測定を以下の手順で実施した。
濃度が約5質量%になるように、重合体をクロロホルム-d溶媒に溶解させ、積算回数32回、測定温度20℃の条件で測定を行った。H-NMRのケミカルシフトの積分比から、rrトリアッド%(以下、「rr%」と略する。)を算出し、これを重合体のシンジオタクテイシティーの値とした。
【0046】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査型熱量測定装置(DSC)(PerkinElmer社製、「DiamondDSC」)を用いて、以下の手順でガラス転移温度(Tg)を測定した。重合体約10mgをサンプル容器に入れ、20℃で1分間保持した。次いで、20℃から180℃まで昇温速度10℃/分で昇温して、180℃で4分間保持した。次いで、180℃から0℃まで冷却速度10℃/分で冷却して、0℃で4分間保持した。その後、0℃から180℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、この時のガラス転移温度(Tg)(単位:℃)を求めた。
【0047】
<メルトフローインデックス(MI)>
手動・卓上型メルトインデクサ-(立山科学工業(株)社製、「L260」)を用いて、日本工業規格ISO8257-1に準じて、230℃、荷重3.8kgf(37N)の条件下で直径2mm、長さ8mmのノズルから吐出される重合体の吐出量(単位:g)を測定した。吐出される重合体の切り取り間隔は、重合体の流動性に応じ10秒~180秒として、10分間当たりの吐出量(単位:g/10分)に換算し、これを重合体のメルトフローインデックス(MI)とした。
【0048】
(原材料)
実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
PCy:トリシクロヘキシルホスフィン
有機アルミニウム化合物(A-1):イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、化学式:iBuAl(BHT)、「J.App.Poly.Sci.2016、133、43276」に記載の方法に準じて、下記の製造例1で得た有機アルミニウム化合物。
有機アルミニウム化合物(A-2):メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、化学式:MeAl(BHT)、東京化成工業社製。
【0049】
[製造例1(iBuAl(BHT)の合成)]
2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(7.58g、0.034mol)のトルエン溶液(8.0mL)に、トリイソブチルアルミニウム(2.90g、0.017mol)のトルエン溶液(11.5mL)を25℃で30分間で滴下した。その混合物を同温度で1時間撹拌することで、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)を合成し、これを有機アルミニウム化合物(A-1)(以下、「iBuAl(BHT)」ともいう。)とした。
【0050】
[実施例1]
300mLの4つ口セパラブルフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、MMA23.3g、PCyの0.6Mトルエン溶液0.16mL(PCy:0.10mmol)を加え、精製窒素雰囲気下で、40℃で5分間メカニカルスターラーで撹拌して混合物を得た。
得られた混合物に、重合触媒として、iBuAl(BHT)の0.60mol/Lトルエン溶液を0.33mL(iBuAl(BHT)の添加量として0.20mmol)を加え、精製窒素雰囲気下、43℃で36分間撹拌した。次いで、メタノール3mLとクロロホルム80mLを加え、40℃で30分撹拌して、反応溶液を得た。
得られた反応溶液を、メタノール(800mL)と1N塩酸(10mL)の混合物(x2)に、ゆっくりと滴下して、沈殿物(MMAの重合物)を得た。得られた沈殿物を、桐山ロート濾過して取り出した後、クロロホルムを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を数回繰り返して、沈殿物を洗浄した。洗浄後の沈殿物を一晩風乾した後、最後に25℃で4時間減圧下で乾燥させ、メタクリル酸エステル重合体を9.0g得た。得られたメタクリル酸エステル重合体の評価結果を、表1に示す。
【0051】
[実施例2]
重合温度を52℃、重合触媒としてiBuAl(BHT)の添加量を0.12mmolとした以外は、実施例1と同様に操作を行ない、メタクリル酸エステル重合体を得た。得られたメタクリル酸エステル重合体の評価結果を、表1に示す。
【0052】
[実施例3]
重合温度を71℃とした以外は、実施例2と同様に操作を行ない、メタクリル酸エステル重合体を得た。得られたメタクリル酸エステル重合体の評価結果を、表1に示す。
[比較例1~3]
重合触媒として用いる有機アルミニウム化合物(A-2)(以下、「MeAl(BHT)」ともいう。)の0.60mol/Lトルエン溶液0.30mL(MeAl(BHT)の添加量として0.18mmol)に変更し、表1に示す重合温度とした以外は、実施例1と同様に操作を行ない、メタクリル酸エステル重合体を得た。得られたメタクリル酸エステル重合体の評価結果を、表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1~3の製造方法では、本発明の重合触媒を使用しているため、立体選択性と耐熱性に優れたメタクリル酸エステル重合体を、43~71℃という高い温度で製造することができた。
一方、比較例1~3の製造方法で得られたメタクリル酸エステル重合体は、本発明の重合触媒を使用して製造していないため、ほぼ同じ重合温度で実施した実施例1~3で得られたメタクリル酸エステル重合体と比較すると、立体選択性と耐熱性に劣った。
図1