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特許7147452亜鉛硫化物除去用の濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法
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  • 特許-亜鉛硫化物除去用の濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】亜鉛硫化物除去用の濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20220928BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20220928BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20220928BHJP
   B01D 24/48 20060101ALI20220928BHJP
   B01D 29/60 20060101ALI20220928BHJP
   B01D 29/66 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
B01D29/36 D
B01D29/38 520A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018193697
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020059909
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-038251(JP,A)
【文献】特開2008-132430(JP,A)
【文献】特開2017-201056(JP,A)
【文献】特開2009-191328(JP,A)
【文献】特開2013-185178(JP,A)
【文献】特開2011-225908(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 3/22
C22B 3/44
B01D 24/48
B01D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位ニッケル酸化鉱石の浸出液を中和処理してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程と、該中和終液に硫化処理を施して生成した亜鉛硫化物を含むスラリーを、スラリーポンプ及びその吐出側の濾過機からなる濾過ユニットが複数基並列に接続された濾過設備に導入して該亜鉛硫化物を除去する脱亜鉛工程と、該脱亜鉛工程で得た脱亜鉛終液を硫化処理してニッケル及びコバルトを混合硫化物として回収する硫化工程とからなるニッケルコバルト混合硫化物の製造方法であって、
前記複数の濾過機のうちの1台を逆洗する際、その上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーをバルブを備えた連通管を介してその他の濾過機の1次側に導入することを特徴とするニッケルコバルト混合硫化物の製造方法。
【請求項2】
前記中和工程、前記脱亜鉛工程及び前記硫化工程の立ち上げの際も、前記複数の濾過機のうちのいずれか1台の上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーをバルブを備えた連通管を介してその他の濾過機に導入することを特徴とする、請求項1に記載のニッケルコバルト混合硫化物の製造方法。
【請求項3】
低品位ニッケル酸化鉱石の浸出液に対して中和処理後に硫化処理を施して生成した亜鉛硫化物を含むスラリーから該亜鉛硫化物を除去して脱亜鉛終液を得る濾過設備であって、スラリーポンプ及びその吐出側の濾過機からなる濾過ユニットが複数基並列に接続されており、且つ該複数の濾過ユニットの該スラリーポンプと該濾過機の1次側との接続配管がバルブを備えた連通管で相互に接続されていることを特徴とする濾過設備。
【請求項4】
前記濾過機が密閉型であることを特徴とする、請求項3に記載の濾過設備。
【請求項5】
前記濾過機がケーキ濾過型であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の濾過設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛硫化物の除去用の濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法に関し、特に、低品位ニッケル酸化鉱石の浸出液に硫化処理を施すことで生成した亜鉛硫化物を除去してニッケルを含む脱亜鉛終液を得る際に用いる濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラテライト型のニッケル鉱床に一般的に認められるリモナイト鉱等の低品位ニッケル酸化鉱石から、ニッケル、コバルト等の有価金属を回収する湿式製錬法として、高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が知られている。この方法は、乾燥や焙焼等の乾式処理工程を含まないためエネルギーコストを抑えることができる点や、原料鉱石中に高品位で含有される鉄をヘマタイトとして固定できるため余分な酸やこれを中和するための薬剤使用量を抑えることができる点で、経済的に優れている。一般的には、高温加圧酸浸出法によって低品位ニッケル酸化鉱石から浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属を含む溶液は、例えば硫化水素ガスなどの硫化剤を添加することで硫化処理される。これにより、ニッケル、コバルト等の有価金属は、それらを高品位で含む混合硫化物の形態で回収される。
【0003】
例えば特許文献1には、原料の低品位ニッケル酸化鉱石を篩別して粒径数mm以下の酸化鉱石を含む濃縮鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程と、上記濃縮鉱石スラリーに高温加圧下で硫酸を添加することで、ニッケル、コバルト等の有価金属を浸出する高温加圧酸浸出工程と、上記浸出により得た浸出スラリーに後工程の中和工程の前工程として石灰石等の中和剤を添加することで、遊離硫酸や不純物金属を中和処理する予備中和工程と、上記予備中和により得た予備中和後スラリーを濃縮浸出残渣スラリーと粗硫酸ニッケル水溶液とに固液分離する固液分離工程と、上記粗硫酸ニッケル水溶液に石灰石等の中和剤を添加することで中和澱物を析出させ、これを除去して粗硫酸ニッケル水溶液を得る中和工程と、上記粗硫酸ニッケル水溶液に対して微加圧された反応槽内において硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる亜鉛を硫化して亜鉛硫化物を生成し、これを固液分離によって除去して脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、上記脱亜鉛終液に対して加圧された反応槽内において硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで脱亜鉛終液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化してニッケルコバルト混合硫化物を生成し、これを固液分離によって回収する硫化工程と、上記硫化工程から排出される製錬廃液と上記固液分離工程から排出される濃縮浸出残渣スラリーとを中和により無害化する最終中和工程とを含む湿式製錬法が開示されている。
【0004】
上記のような湿式製錬法では、脱亜鉛工程の固液分離に濾過機が用いられるが、これにより除去される亜鉛硫化物は硫化水素ガス等の硫化剤を使用して生成したものであるため、特許文献2に開示されているように濾過機のタイプはフィルタープレスに代表されるような開放型濾過機ではなく、ポリッシングフィルターに代表されるような密閉型濾過機を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開2014-133925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濾過機による固液分離では、濾布においてスラリー供給側(1次側とも称する)の表面に分離した固形分が湿潤状態のいわゆるケーキの形態で徐々に堆積していくため、これが抵抗となり濾布の通液流量が徐々に低下する。この通液流量の低下は、濾過機に導入するスラリーに含まれる粒子の粒径やスラリー濃度、該濾過機の1次側配管系のスケーリングにも影響される。そこで、定期的にケーキを剥離することが必要となる。上記の密閉型濾過機の場合は、濾液の排出側(2次側とも称する)から上記1次側に向けて濾過時とは逆向きに濾布に水を通過させる逆洗によって上記ケーキの剥離が行われる。なお、上記の湿式製錬法の脱亜鉛工程では、剥離した亜鉛硫化物からなるケーキを回収してスラリー化し、上記の最終中和工程に送って無害化している。
【0007】
上記の逆洗を行うことにより濾布の通液流量(濾過流束若しくは透過流束又は単に流束とも称する)を再び高めることが可能になるが、逆洗によるケーキ剥離中はスラリーを濾過することができないため、1台の濾過機でスラリーの濾過を行う場合は少なくとも当該濾過設備において稼働率が低下する。その対策として、複数の濾過機を並列に接続してこれらを順番に逆洗することで濾過設備の運転を継続することが可能になる。
【0008】
ところで、高温加圧酸浸出法による湿式製錬法では、上記脱亜鉛工程でのスラリーの濾過が湿式製錬プラントの処理能力に影響を及ぼす場合が多いため、濾過機における通液流量を高く維持するのが好ましい。脱亜鉛工程において濾過機の通液流量を高く維持するためには、例えば(a)濾過機の増強又は増設を行うか、(b)濾過機に導入するスラリーに含まれる亜鉛硫化物の粒径を増大化するか、(c)濾過機に導入するスラリーのスラリー濃度を低下するか、(d)濾過機の1次側の配管内スケーリングを除去することが考えられる。
【0009】
しかしながら、上記(a)の方法はかなりの設備コストがかかるため好ましくない。上記(b)及び(c)の方法は、脱亜鉛工程で添加する硫化水素等の硫化剤の量や硫化反応時の温度条件等を適宜調整することである程度濾過性を高めることができるものの、亜鉛以外の不純物の影響によりスラリーの性状が変動しうるので、脱亜鉛終液中の亜鉛濃度を所定の管理値以下に調整するのが困難になる。上記(d)の方法は、濾過設備を一旦停止する必要があるため、これは生産量の低下につながるので好ましくない。従って、既存の濾過設備を効率的に運転することで、脱亜鉛工程での濾過工程における通液流量を高く維持するための方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、原料の低品位ニッケル酸化鉱石に対して高温加圧酸浸出法によりニッケルコバルト混合硫化物を製造する湿式製錬プロセスにおいて、その脱亜鉛工程において生成した亜鉛硫化物を高い処理能力で除去することが可能な濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るニッケルコバルト混合硫化物の製造方法は、低品位ニッケル酸化鉱石の浸出液を中和処理してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程と、該中和終液に硫化処理を施して生成した亜鉛硫化物を含むスラリーを、スラリーポンプ及びその吐出側の濾過機からなる濾過ユニットが複数基並列に接続された濾過設備に導入して該亜鉛硫化物を除去する脱亜鉛工程と、該脱亜鉛工程で得た脱亜鉛終液を硫化処理してニッケル及びコバルトを混合硫化物として回収する硫化工程とからなるニッケルコバルト混合硫化物の製造方法であって、前記複数の濾過機のうちの1台を逆洗する際、その上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーをバルブを備えた連通管を介してその他の濾過機の1次側に導入することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る濾過設備は、低品位ニッケル酸化鉱石の浸出液に対して中和処理後に硫化処理を施して生成した亜鉛硫化物を含むスラリーから該亜鉛硫化物を除去して脱亜鉛終液を得る濾過設備であって、スラリーポンプ及びその吐出側の濾過機からなる濾過ユニットが複数基並列に接続されており、且つ該複数の濾過ユニットの該スラリーポンプと該濾過機の1次側との接続配管がバルブを備えた連通管で相互に接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脱亜鉛工程で使用する濾過設備の通液流量を高く維持することができ、よって、該脱亜鉛工程を含む湿式製錬プロセスの処理能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の濾過設備が好適に適用される低品位ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出による湿式製錬法の工程図である。
図2】本発明の実施形態の濾過設備の模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.湿式製錬プロセス
先ず、本発明の実施形態の濾過設備が使用される脱亜鉛工程を含んだ低品位ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて図1を参照しながら説明する。この図1に示す湿式製錬プロセスは、原料としての低品位ニッケル酸化鉱石に対して粉砕及び篩別等の前処理を行って所定の粒度にすると共に水を加えてスラリーの形態に調製する鉱石スラリー調製工程S1と、該鉱石スラリー調製工程S1で調製された鉱石スラリーに硫酸を添加して高温加圧下で浸出処理を施す高温加圧酸浸出工程S2と、該高温加圧酸浸出工程S2で得た浸出スラリーに中和剤を添加してpHを所定範囲に調整する予備中和工程S3と、該予備中和工程S3でpH調整された浸出スラリーを多段洗浄することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む貴液を浸出残渣から分離する固液分離工程S4と、該貴液にpH調整剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S5と、該中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを濾過により除去してニッケル及びコバルトを含む脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程S6と、該脱亜鉛終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成した後、固液分離により該混合硫化物を回収する硫化工程S7と、該硫化工程S7の固液分離の際に排出される貧液に溶存する金属を除去(無害化とも称する)する最終中和工程S8とを有している。以下、これら工程の各々について説明する。
【0016】
(1)鉱石スラリー調製工程
鉱石スラリー調製工程S1では、原料としての低品位ニッケル酸化鉱石を必要に応じてジョークラッシャーなどの粉砕機に投入して粉砕した後、所定の目開きを有するスクリーンで篩別して所定の粒度を有する鉱石を作製する。上記篩別は湿式で行ってもよく、この場合は粉砕した鉱石を適量の水と共に湿式スクリーンに導入することで、所定の粒度を有する鉱石を所望のスラリー濃度を有する鉱石スラリーの形態で篩下側に回収することができる。
【0017】
この鉱石スラリー調製工程S1で処理される低品位ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般に0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。この低品位ニッケル酸化鉱石は、鉄の含有量が10~50質量%であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しており、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。鉱石スラリー調製工程S1の原料には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する例えば深海底に賦存するマンガン瘤等の酸化鉱石が用いられることがある。
【0018】
(2)高温加圧酸浸出工程
高温加圧酸浸出工程S2では、上記鉱石スラリー調製工程S1で調製された鉱石スラリーをオートクレーブと称する圧力容器に硫酸と共に装入し、該鉱石スラリーに対して攪拌しながら3~4.5MPaG、220~280℃程度の高温高圧条件下で高圧酸浸出処理を施すことによって、pH0.1~1.0程度の浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。この高温加圧酸浸出工程S2では、浸出反応及び高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。但し、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほかに2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0019】
(3)予備中和工程
予備中和工程S3では、上記高温加圧酸浸出工程S2にて得た浸出スラリーに例えば炭酸カルシウム等の中和剤を添加することで該浸出スラリーのpHを好ましくは2.0~6.0程度の範囲内に調整する。これにより、該浸出スラリーに含まれるフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、以下遊離硫酸ともいう)の中和処理が行われる。この浸出スラリーのpHが2.0より低いと、後工程の装置の接液部の腐食対策にかなりのコストがかかるので好ましくない。逆に浸出スラリーのpHが6.0より高いと、浸出スラリー中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で析出して残渣として沈殿し、実収率を低下させるおそれがあるので好ましくない。
【0020】
(4)固液分離工程
固液分離工程S4では、上記予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを直列に連結した複数基のシックナーからなる沈降分離設備に導入し、洗浄液を用いた連続向流洗浄法(CCD法)により多段洗浄しながら凝集剤を用いて固液分離を行う。これにより浸出残渣が除去され、ニッケル及びコバルトのほか亜鉛等の不純物元素を含む粗硫酸ニッケル水溶液からなる貴液が得られる。シックナーから抜き出された浸出残渣を含むスラリーは、必要に応じて後述する最終中和工程S8で中和処理された後、テーリングダムに移送される。なお、上記の洗浄液には、後工程の硫化工程S7において混合硫化物を固液分離により回収する時に液相側に排出される低pHの貧液を繰り返して利用するのが好ましい。
【0021】
(5)中和工程
中和工程S5では、上記固液分離工程S4において浸出残渣から分離された粗硫酸ニッケル水溶液からなる貴液に炭酸カルシウム等のpH調整剤を添加してpH調整することで該貴液の酸化を抑制しながら不純物元素を含む中和澱物を生成する。この中和澱物を固液分離により除去することで、ニッケル及びコバルトのほか、主に亜鉛からなる不純物元素を含む中和終液が得られる。この中和工程S5では、中和終液のpHが4.0以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように上記pH調整を行うのが好ましく、これにより貴液中に残留する主に3価の鉄イオンやアルミニウムイオンを中和澱物として除去できる。
【0022】
(6)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S6では、微加圧された容器内に導入した上記中和工程S5で処理された粗硫酸ニッケル水溶液からなる中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込むことで硫化処理を施し、これによりニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化して亜鉛硫化物を生成させる。この亜鉛硫化物を濾過により除去することで、ニッケル及びコバルトを含む硫酸溶液からなる脱亜鉛終液が得られる。なお、この脱亜鉛終液は、通常は不純物成分として鉄、アルミニウム、マンガン等の金属イオンを各々数g/L程度含んでいる。
【0023】
(7)硫化工程
硫化工程S7では、加圧された容器内に導入した上記脱亜鉛終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込むことで硫化処理を施し、これによりニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)を生成させる。このニッケルコバルト混合硫化物は濾過などの固液分離により回収することができ、その際、液相側に貧液が排出される。なお、この硫化工程S7で処理される脱亜鉛終液には前述したようにFe、Al、Mn等の不純物金属イオンが含まれている場合があるが、これら不純物成分はニッケル及びコバルトに比べて硫化物としての安定性が低く、よって上記ニッケルコバルト混合硫化物にはほとんど含有されない。
【0024】
(8)最終中和工程
最終中和工程S8では、上記硫化工程S7の固液分離の際に排出される鉄、アルミニウム、マンガン等の不純物金属イオン及び未反応のNiイオンを含む貧液に対して、所定のpH範囲に調整する中和処理を施すことで、これら金属イオンをその濃度が排出基準を満たすまで除去する。なお、この最終中和工程S8では、上記の固液分離工程S4において貴液を固液分離する際に排出される浸出残渣スラリーも併せて排液として処理してもよい。これにより浸出残渣スラリーの液相に含まれる重金属の濃度も上記貧液と同程度に低減することが可能になる。
【0025】
2.脱亜鉛処理設備
次に、上記の脱亜鉛工程S6において用いられる本発明の実施形態の濾過設備を備えた脱亜鉛処理設備について説明する。この脱亜鉛処理設備は、上記中和工程S5で処理された粗硫酸ニッケル水溶液からなる中和終液を装入すると共に、この中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を行う脱亜鉛反応槽と、該硫化反応により生成した亜鉛硫化物と硫化反応終液とからなるスラリーを貯留するスラリータンクと、該スラリータンクから抜き出されたスラリーを濾過して該亜鉛硫化物(硫化亜鉛澱物)を除去する濾過設備とを有している。以下、該脱亜鉛処理設備を構成するこれら機器の各々について説明する。
【0026】
(1)脱亜鉛反応槽
脱亜鉛反応槽には上述した中和工程S5にて中和処理された粗硫酸ニッケル水溶液からなる中和終液が装入されると共に、この脱亜鉛反応槽内に装入した粗硫酸ニッケル水溶液に硫化水素ガスが吹き込まれる。これにより硫化反応が生じ、粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる亜鉛から亜鉛硫化物が生成し、ニッケル回収用の母液となる。硫化処理後の脱亜鉛終液には亜鉛がほとんど含まれなくなる。この亜鉛硫化物を含むスラリーは、脱亜鉛反応槽から抜き出されてスラリータンクに移送される。
【0027】
(2)スラリータンク
上記脱亜鉛反応槽において生成された亜鉛硫化物を含むスラリーは、後段の濾過設備に送液される前にスラリータンク内に一時的に貯留される。このスラリータンクはバッファータンクの役割を担っており、通常の操業時において濾過設備に供給するスラリーの流量が所定の流量を維持するように調整することが可能になる。なお、このスラリータンクに貯留されるスラリーは、一般的には温度が50~80℃程度、スラリー濃度が200~500mg/L程度、pHが2.4~4.0程度である。
【0028】
(3)濾過設備
上記スラリータンクから抜き出されたスラリーを濾過する濾過設備は、濾過機に導入するスラリーの昇圧を行うスラリーポンプと、その吐出側の所定の目開きのフィルター(濾布)を有する好適には密閉型でケーキ濾過型の濾過機とからなる濾過ユニットが3基並列に接続された構造を有している。この濾過設備は、更に該濾過機で固形分が分離された後の濾液を貯留する濾液タンクと、該濾過機を逆洗する逆洗ユニットと、これら複数の濾過ユニットのスラリーポンプと濾過機との接続配管を相互に連通させる連通管とを有している。かかる構造の濾過設備により、前段のスラリータンクから送液される亜鉛硫化物を含むスラリーから該亜鉛硫化物が除去される。
【0029】
具体的に説明すると、本発明の実施形態の濾過設備は、図2に示すように、スラリータンク1から抜き出されたスラリーの送液配管が3本に分岐しており、これら3本の分岐管の各々にスラリーポンプとその吐出側の濾過機とからなる濾過ユニットが設けられている。すなわち、第1の分岐管11にはスラリータンク1から抜き出されたスラリーを昇圧するスラリーポンプ12と、その吐出側の濾過機13とからなる第1の濾過ユニットが設けられている。このスラリーポンプ12の吐出側で且つ濾過機13の1次側及び2次側配管にはそれぞれ1次側バルブ14及び2次側バルブ15が設けられている。
【0030】
同様に、第2の分岐管21にはスラリーポンプ22とその吐出側の濾過機23とからなる第2の濾過ユニットが設けられており、スラリーポンプ22の吐出側で且つ該濾過機23の1次側及び2次側にはそれぞれバルブ24、25が設けられている。また、第3の分岐管31にはスラリーポンプ32とその吐出側の濾過機33とからなる第3の濾過ユニットが設けられており、スラリーポンプ32の吐出側で且つ該濾過機33の1次側及び2次側にはそれぞれバルブ34、35が設けられている。これら濾過ユニットで固形分が分離されることで、該濾過ユニットから濾液として排出される硫化反応終液は濾液タンク2に送られる。
【0031】
上記の濾過機13、23、33に用いる濾布の材質には特に限定はないが、透過流束0.5~3.0m/hr・m程度を達成可能なポリプロピレン製が好ましい。また、濾過機13、23、33における濾過面積(濾過可能面積)にも特に限定はなく、目的とするスラリー流量等に応じて適宜設定することができるが、一般的には10~30m程度が好ましい。上記の濾布を、例えばポリッシングフィルター等のように籠状の支持枠によって支持するのが好ましく、この支持枠の材質には、限定するものではないが、チタン製やステンレス製が好ましい。
【0032】
上記の濾過機13、23、33においては、その濾布に目詰まりが発生する場合がある。この濾布の目詰まりは、濾過機13、23、33に供給されるスラリーの圧力(1次側圧力)と、濾過機13、23、33から排出される濾液の圧力(2次側圧力)との差分であるフィルター差圧を監視することによって判断することができる。差圧による目詰まりの有無の判断は、濾過するスラリーの性状や濾過設備の規模等の諸条件によって異なるが、上記脱亜鉛工程S6の場合は差圧が100kPaに達した時点で目詰まりが発生したと判断するのが好ましい。
【0033】
濾過機13、23、33のいずれかにおいて目詰まりが発生したと判断した場合は、その濾過機に対して、逆洗ユニット40から供給される温水等の逆洗液を逆洗液供給配管系41を介して導入し、通常の通液方向(すなわち1次側から2次側)とは逆の方向(すなわち2次側から1次側)に逆洗液を流す。この逆洗操作により、目詰まりの原因となっている微細な粒子で構成される湿潤ケーキを剥離して洗い流すことができる。この逆洗操作は、従来はプラントの処理量を下げたり負荷を下げたりしなければならない場合があった。この場合は、例えば液抜きを行った後の立ち下げに合わせて逆洗を行い、その後、装置の点検とプラントの立ち上げ操作を行うことによって通常操業に復帰させることになる。このように、逆洗操作はプラントの稼働率を低下させるため、頻度を極力少なくすることが望まれていた。
【0034】
また、目詰まりの程度が酷く、上述した逆洗を行っても濾布の性能が回復しなかったり、逆洗後の通常運転復帰後に直ぐに逆洗を要する差圧まで上昇したりすることがあった。この場合は、濾布を交換することが必要になるため、通常操業に復帰させるまでの時間がより一層長くなるだけでなく、濾布のコストもかさむことになる。このような濾過機の目詰まりに伴う問題をできるだけ抑えることが望まれていた。
【0035】
これに対して、本発明の濾過設備は、図2に示すように、3つの濾過ユニットの上記スラリーポンプと上記濾過機とを接続する配管が、繋ぎ込みバルブ51、52、53を備えた連通管50で相互に接続されている。これにより、上記の複数の濾過機13、23、33のうちの1台を逆洗する際、その上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーを該繋ぎ込みバルブ51、52、53を備えた連通管50を経由させてその他の濾過機に導入することができるので、逆洗操作時に稼働率が極力低下しないようにできる。
【0036】
3.濾過設備の操業方法
次に、上記した本発明の実施形態の濾過設備の操業方法について説明する。通常の濾過運転時では、脱亜鉛反応槽で生成した亜鉛硫化物を含むスラリーは連続的にスラリータンク1に送られる。このスラリータンク1から抜き出されたスラリーは、スラリーポンプ12、22及び32で昇圧された後、分岐管11、21及び31を経てそれぞれ濾過機13、23及び33に導入される。これら濾過機13、23及び33で亜鉛硫化物の分離除去が行われた後、濾液として脱亜鉛終液が排出される。この脱亜鉛終液は濾液タンク2に送られる。
【0037】
濾過機13、23及び33では、一定量のスラリーの濾過が行われると、濾布上に蓄積したケーキにより差圧が高くなって濾過流束が低下するため、該ケーキの剥離が必要となる。このケーキの剥離のために逆洗が行われる。なお、濾過設備を連続的かつ安定的に運転するため、濾過機13、23及び33の各々の逆洗によるケーキ剥離作業が互いに重複しないように、時間差をつけて逆洗が行われるように調整されている。この逆洗操作について、以下、濾過機13に対して逆洗を行う場合を想定して図2を参照しながら説明を行う。なお、図2において、閉状態のバルブは黒色で、開状態のバルブは白色で示している。
【0038】
逆洗ユニット40が停止しており且つ連通管50の繋ぎ込みバルブ51、52、53が全て閉じられている状態において、3基の濾過ユニットで濾過操作を行っている時に濾過機13の差圧が所定の閾値を超えた場合、先ずスラリーポンプ12を停止すると共に、濾過機13の1次側バルブ14及び2次側バルブ15を閉じる。この状態で逆洗ユニット40を起動し、逆洗液供給配管系41を介して逆洗液を濾過機13に導入して逆洗を行う。この逆洗により剥離されたケーキは、洗浄排液と共に逆洗排液排出配管系42を介して系外に排出される。
【0039】
この濾過機13の逆洗の際、濾過機23及び33は通常の濾過が継続して行われているので、連通管50の第1の分岐管11の繋ぎ込みバルブ51を開けると共に、第3の分岐管31の繋ぎ込みバルブ53を開け、再度スラリーポンプ12を起動させる。これにより、該スラリーポンプ12で昇圧されたスラリーが、連通管50を経て濾過機33に導入される。このように、3基の濾過ユニットのスラリーポンプと濾過機との接続配管を連通管で相互に接続することで、本来は濾過機13にスラリーを供給するためのスラリーポンプ12を、一時的に濾過機33へのスラリー供給ポンプとして利用することができる。
【0040】
その結果、濾過機33においては、本来のスラリーポンプ32に加えてスラリーポンプ12からもスラリーが供給されるため、通液流量を増やすことができる。なお、濾過機13の前後のバルブ14、15の閉動作と、連通管50の繋ぎ込みバルブ51、53の開動作とを素早く行うことで、スラリーポンプ12を一旦停止させずに運転させたまま上記スラリーポンプ12のスラリー移送先の切り替えを行ってもよい。また、上記の例では第3の分岐管31の繋ぎ込みバルブ53を開けてスラリーポンプ12で昇圧したスラリーを連通管50を経て濾過機33に導入したが、これに代えてあるいはこれに加えて第2の分岐管21の繋ぎ込みバルブ52を開けてスラリーポンプ12で昇圧したスラリーを連通管50を経て濾過機23に導入してもよい。濾過機23又は濾過機33の差圧が閾値を超えた時に逆洗を行う場合についても、上記の濾過機13の場合と同様にして連通管50を介してスラリーポンプ22又はスラリーポンプ32のスラリー移送先を切り替えることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態の濾過設備及びこれを用いたニッケルコバルト混合硫化物の製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更例や代替例を含むことができる。例えば、前述した中和工程、脱亜鉛工程及び硫化工程等を行う湿式製錬プラントの立ち上げの際に、複数の濾過機のうちのいずれか1台の上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーを連通管を介してその他の濾過機に導入してもよい。次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0042】
実施例として、図1に示すような低品位ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法による湿式製錬プロセスの脱亜鉛工程において生成した亜鉛硫化物(平均粒径5.0μm)を含む温度67℃のスラリー(スラリー濃度200~500mg/L)を、図2に示すような、スラリーポンプ及びその吐出側の濾過機からなる濾過ユニットが3基並列に接続された濾過設備に導入し、3日間継続して該亜鉛硫化物の除去を行った。そして、濾過機13、23及び33の各々の逆洗のうち、濾過機13の逆洗の時だけ繋ぎ込みバルブ51及び53を開けて(この時繋ぎ込みバルブ52は閉)スラリーポンプ12で昇圧させたスラリーを連通管50を介して濾過機33に導入した。
【0043】
なお、上記の3基の濾過ユニットにそれぞれ含まれる濾過機13、23及び33には、いずれもOutotec社のLarox(登録商標)濾過機を用いた。但し、濾過機13には濾板18枚の型式LSF E/18/36-AV5(型番LS047)を使用し、濾過機23及び33の各々には濾板36枚の型式LSF E/36/36-AV5(型番はそれぞれLS045及びLS046)を使用した。そして、濾過機13は逆洗によるケーキ剥離作業を8時間に1回の頻度で行い、濾過機23及び33は、逆洗によるケーキ剥離作業を15時間に1回の頻度で行った。また、濾過機13、23及び33の逆洗によるケーキ剥離時間はいずれも1時間とした。
【0044】
比較例として、連通管50を用いずに濾過機13の逆洗時はその1次側のスラリーポンプ12を停止したままにしたこと以外は上記と同様にして3日間継続して該亜鉛硫化物の除去を行った。上記3台の濾過機13、23及び33の稼動時の平均流量及びその合計を下記表1に示す。なお、稼動時平均流量とは、逆洗によるケーキ剥離作業中を除く、濾過中における平均流量のことである。
【0045】
【表1】
【0046】
上記表1から分かるように、濾過機13での逆洗によるケーキ剥離作業中においてもスラリーポンプ12を停止せずに、該スラリーポンプ12で昇圧したスラリーを濾過機33に導入した実施例の方が比較例に比べて濾過機33の稼動時平均流量が大きくなっている。すなわち、複数の濾過機のうちの1台の逆洗の際、その上流側のスラリーポンプで昇圧したスラリーを連通管を介してその他の濾過機に導入することで、濾過設備の処理能力を高めることができることが分かる。
【符号の説明】
【0047】
1 スラリータンク
2 濾液タンク
11、21、31 分岐管
12、22、32 スラリーポンプ
13、23、33 濾過機
14、24、34 1次側バルブ
15、25、35 2次側バルブ
40 逆洗ユニット
41 逆洗液供給配管系
42 逆洗排液排出配管系
50 連通管
51、52、53 繋ぎ込みバルブ
図1
図2