(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20220928BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220928BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220928BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20220928BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220928BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220928BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08G59/62
C08L63/00 B
C08K3/013
C08L63/00 Z
C08L35/00
H01L23/30 R
C08F22/40
(21)【出願番号】P 2019089575
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2018096042
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】串原 直行
(72)【発明者】
【氏名】大石 宙輝
(72)【発明者】
【氏名】浜本 佳英
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08F
C08G59
C08G73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)及び(C)成分を含
み、下記の(A)成分と(D)成分の質量比が(A):(D)=100:0~60:40である半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
(A)25℃で固体であるマレイミド化合物であって、
分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つのマレイミド基を有する
下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるマレイミド化合物
【化1】
(一般式(1)中、Aは芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Qは炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、A’は芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Q’は炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。R’は夫々独立に炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n’は1~10の数を表す。mは1~10の数を表す。)
(B)無機充填材
(C)硬化促進剤
(D)エポキシ樹脂
【請求項2】
さらに(E)成分として硬化剤を含む請求項
1に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項3】
(E)成分の硬化剤がフェノール樹脂及び/又はベンゾオキサジン樹脂であることを特徴とする請求項
2に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のA及び一般式(2)中のA’が下記構造のいずれかで表されるものである請求項
1~3のいずれか1項に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(1)及び(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイスは樹脂封止型のダイオード、トランジスター、IC、LSI、超LSIが主流であり、エポキシ樹脂が他の熱硬化性樹脂に比べて成形性、接着性、電気特性、機械特性などの点で優れているため、エポキシ樹脂組成物で半導体を封止することが一般的である。近年、半導体デバイスは、車、電車、風力発電、太陽光発電等の高圧電力環境下で使用される頻度が高くなり、それに伴って優れた耐トラッキング特性(高CTI(Comparative Tracking Index))を有することが求められている。
【0003】
さらに使用されるパッケージは軽薄短小化が進み、絶縁距離も十分に確保することが難しくなるという状況下で、これまで使用されてきた一般的なエポキシ樹脂組成物では必ずしも電気特性、特に絶縁特性が十分ではない。この原因はエポキシ樹脂中に存在するフェニル基によるものであると考えられている。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂そのもので耐トラッキング性を高める目的でジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を必須成分とする組成物が開示されているが、耐トラッキング性を高めるためには、ジシクロペンタジエン系エポキシ樹脂の単独使用だけでは十分ではない。
【0005】
特許文献2、3、4及び5には、エポキシ樹脂組成物中に金属水酸化物や、球状のシリコーンパウダーやシリコーンゴム、球状のクリストバライトを添加することによって耐トラッキング性を改善しようとした組成物が開示されているが、耐熱性や流動性が低下したり、耐トラッキング性が不十分なままであり、耐トラッキング性及び他の特性を満足するものではなかった。
【0006】
特許文献6、7にエポキシ樹脂組成物にマレイミド化合物を混合することでガラス転移温度(Tg)の向上、高温信頼性、耐湿信頼性、誘電特性に優れる硬化物が得られることが開示されているが、硬化物の弾性率が高くなる傾向にあるため、半導体素子へのストレスが高く改善の必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-213299号公報
【文献】特開2008-143950号公報
【文献】特開2009-275146号公報
【文献】特開2013-112710号公報
【文献】特開2013-203865号公報
【文献】特開2006-299246号公報
【文献】特開2017-145366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、耐トラッキング性に優れた硬化物を与える熱硬化性マレイミド樹脂組成物と、その樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置とを提供することである。さらには誘電特性にも優れ、低比誘電率、低誘電正接の硬化物を与える樹脂組成物と、その樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性マレイミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の半導体用熱硬化性マレイミド樹脂組成物、該組成物の硬化物及び該硬化物で封止された半導体装置を提供するものである。
【0010】
[1]
下記の(A)、(B)及び(C)成分を含む半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
(A)25℃で固体であるマレイミド化合物であって、
分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つのマレイミド基を有するマレイミド化合物
(B)無機充填材
(C)硬化促進剤
【0011】
[2]
さらに(D)成分としてエポキシ樹脂を含む[1]に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【0012】
[3]
さらに(E)成分として硬化剤を含む[2]に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【0013】
[4]
(E)成分の硬化剤がフェノール樹脂及び/又はベンゾオキサジン樹脂であることを特徴とする[3]に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【0014】
[5]
(A)成分のマレイミド化合物が下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるものである請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Aは芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Qは炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、A’は芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Q’は炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。R’は夫々独立に炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n’は1~10の数を表す。mは1~10の数を表す。)
【0015】
[6]
前記一般式(1)中のA及び一般式(2)中のA’が下記構造のいずれかで表されるものである[5]に記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化3】
(なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(1)及び(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0016】
[7]
[1]から[6]のいずれかに記載の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の半導体用熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物は、耐トラッキング性が高く、誘電特性にも優れるため、半導体装置用封止材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0019】
<(A)マレイミド化合物>
(A)成分はマレイミド化合物であって、25℃で固体であるマレイミド化合物であって、分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つのマレイミド基を有するマレイミド化合物である。炭素数6以上の直鎖アルキレン基を有することで優れた誘電特性を有するだけでなく、フェニル基の含有比率を低下させ、耐トラッキング性を向上させることができる。また、直鎖アルキレン基を有することで低弾性化することができ、硬化物による半導体装置へのストレス低減にも効果的である。
【0020】
また、中でも(A)成分のマレイミド化合物としては中でも、下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるものを使用することが好ましい。
【化4】
一般式(1)中、Aは芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Qは炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。
【化5】
一般式(2)中、A’は芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖である。Q’は炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。R’は夫々独立に炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n’は1~10の数を表す。mは1~10の数を表す。
【0021】
式(1)中のQ及び式(2)中のQ’は直鎖のアルキレン基であり、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上20以下であり、より好ましくは7以上15以下である。また、式(1)中のRの炭素数及び式(2)中のR’の炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上12以下であり、R及びR’は直鎖でも分岐のアルキル基でも構わない。
【0022】
式(1)中のA及び式(2)中のA’は芳香族環または脂肪族環を含む4価の有機基を示し、特に、下記構造式:
【化6】
(なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(1)及び(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
で示される4価の有機基のいずれかで表されるものであることが好ましい。
また、式(2)中のBは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン鎖であり、該アルキレン鎖の炭素数は好ましくは8以上15以下である。式(2)中のBは下記構造式で示される脂肪族環を有するアルキレン鎖のいずれかであることが好ましい。
【化7】
(なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(2)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
式(1)中のnは1~10の数であり、好ましくは2~7の数である。式(2)中のn’は1~10の数であり、好ましくは2~7の数である。式(2)中のmは1~10の数であり、好ましくは2~7の数である。
【0023】
(A)成分のマレイミド化合物の重量平均分子量(Mw)は、室温で固体である範囲であれば特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した重量平均分子量が2,000~50,000であることが好ましく、特に好ましくは2,500~40,000、更に好ましくは3,000~20,000である。該分子量が2,000以上であれば、得られるマレイミド化合物は固形化しやすく、該分子量が50,000以下であれば、得られる組成物は粘度が高くなりすぎて流動性が低下するおそれがなく、成形性が良好となる。
なお、本発明中で言及するMwとは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.35mL/min
検出器:RI
カラム:TSK-GEL Hタイプ(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL
【0024】
(A)成分のマレイミド化合物としては、BMI-2500、BMI-2560、BMI-3000,BMI-5000、BMI-6100(以上、Designer Molecules Inc.製)等の市販品を用いることができる。
【0025】
また、マレイミド化合物は単独で使用しても複数のものを併用しても構わない。
本発明の組成物中、(A)成分は、8~80質量%含有することが好ましく、10~85質量%含有することがより好ましく、12~75質量%含有することがさらに好ましい。
【0026】
<(B)無機充填材>
(B)成分の無機充填材は、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の強度を高めるために配合される。(B)成分の無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられる。さらに誘電特性改善のためにフッ素樹脂含有又はコーティングフィラーも挙げられる。
【0027】
(B)成分の無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、平均粒径は通常0.1~40μmである。(B)成分としては、平均粒径が0.5~40μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0028】
また、得られる組成物の高流動化の観点から、複数の粒径範囲の無機充填材を組み合わせてもよく、このような場合では、0.1~3μmの微細領域、3~7μmの中粒径領域、及び10~40μmの粗領域の球状シリカを組み合わせて使用することが好ましい。さらなる高流動化のためには、平均粒径がさらに大きい球状シリカを用いることが好ましい。
【0029】
(B)成分の無機充填材の充填量は、(A)成分、(D)成分及び(E)成分の総和100質量部に対し、300~1,000質量部、特に400~800質量部が好ましい。300質量部未満では、十分な強度を得ることができないおそれがあり、1,000質量部を超えると、増粘による未充填不良や柔軟性が失われることで、素子内の剥離等の不良が発生する場合がある。なお、この無機充填材は、組成物全体の10~90質量%、特に20~85質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0030】
<(C)硬化促進剤>
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物には(C)成分として硬化促進剤を含む。硬化促進剤は(A)成分のマレイミドの反応を促進するためのものだけでなく、後述する(D)成分のエポキシ樹脂、(E)成分のエポキシ樹脂の硬化剤の反応を促進させたり、(A)成分、(D)成分及び(E)成分の反応を促進させたりするために使用し、その種類に関しては特に限定されない。
【0031】
(A)成分の反応のみを進行させる硬化促進剤(重合開始剤)としては、特に限定されないが加熱による成形を行うことを考慮すると熱ラジカル重合開始剤が好ましく、その種類に関しては限定されない。熱ラジカル重合開始剤の具体例としてはジクミルパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。
光ラジカル重合開始剤の使用はハンドリング性、保存性の観点からあまり好ましくない。
【0032】
後述する(D)成分及び/又は(E)成分を含む場合の硬化促進剤(触媒)としては、一般的なエポキシ樹脂組成物の硬化反応を促進させるものであれば特に限定されない。触媒としては、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン等のアミン系化合物、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスフォニウム・テトラボレート塩等の有機リン系化合物、2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等が挙げられる。
【0033】
これらの硬化促進剤は、種類に関わらず1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。(C)成分の添加量としては(A)成分、(D)成分及び(E)成分の総和100質量部に対して、0.1質量部から10質量部、好ましくは0.2質量部から5質量部である。
【0034】
本発明は、上記成分に加え、下記の任意の成分を配合することができる。
【0035】
<(D)エポキシ樹脂>
(D)成分のエポキシ樹脂は、本発明の組成物の流動性や機械特性を向上、改善するのに用いることができる後述する(E)成分の硬化剤や、(A)成分のマレイミド化合物と反応することで三次元的な結合を作る。エポキシ樹脂としては1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、特に制限なく使用することができるが、ハンドリング性の観点から室温で固体であることが好ましく、より好ましくは融点が40℃以上150℃以下または軟化点が50℃以上160℃以下の固体である。
【0036】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂、及び4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂等のビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、フェノールビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、及びフェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂、トリアジン誘導体エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。中でもジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0037】
(D)成分は、(A)成分と(D)成分との配合比が、質量比として(マレイミド化合物):(エポキシ樹脂)=100:0~10:90、好ましくは100:0~15:85となるように配合される。
【0038】
<(E)硬化剤>
(E)成分の硬化剤としては、フェノール樹脂、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられ、半導体封止材用途としてはフェノール樹脂及び/又はベンゾオキサジン樹脂が好ましい。
【0039】
フェノール樹脂としては1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であれば、特に制限なく使用することができるが、ハンドリング性の観点から室温(25℃)で固体であることが好ましく、より好ましくは融点が40℃以上150℃以下または軟化点が50℃以上160℃以下の固体である。フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等が挙げられる。これらフェノール樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、中でもクレゾールノボラック樹脂やジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
(E)成分は、(D)成分のエポキシ基に対して(E)成分中のフェノール性水酸基の当量比が、0.5~2.0の範囲、好ましくは0.7~1.5の範囲となるように配合される。該当量比が、0.5未満、又は2.0を超える場合には、硬化物の硬化性、機械特性等が低下するおそれがある。
【0041】
ベンゾオキサジン樹脂も特に制限なく使用することができ、下記一般式(3)及び(4)で表されるものを好適に用いることができる。
【化8】
【化9】
(一般式(3)、(4)中、X
1、X
2はそれぞれ独立に、炭素数1から10のアルキレン基、-O-、-NH-、-S-、-SO
2-、または単結合からなる群から選択される。R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1から6の炭化水素基である。a、bはそれぞれ独立に0から4の整数である。)
前記フェノール樹脂とベンゾオキサジン樹脂とを併用して用いる場合は、その好ましい配合比率は質量比として(フェノール樹脂):(ベンゾオキサジン樹脂)=50:50~10:90である。
【0042】
(A)成分、(D)成分及び(E)成分の比率としては(A)成分:(D)成分+(E)成分の質量部比で100:0~10:90の範囲であることが好ましい。(A)成分の量が少ないと耐トラッキング性や誘電特性が低下する。
【0043】
<(F)離型剤>
本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、離型剤を配合することができる。(F)成分の離型剤は、成形時の離型性を高めるために配合するものである。離型剤としては、一般的な熱硬化性エポキシ樹脂組成物に使用するものであれば制限はない。離型剤としては天然ワックス(例えば、カルナバワックス、ライスワックス等)及び合成ワックス(例えば、酸ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル等)があるが、硬化物の離型性の観点からカルナバワックスが好ましい。
【0044】
(F)成分の配合量は、(A)、(D)及び(E)成分の総和に対して、0.05~5.0質量%、特には1.0~3.0質量%が好ましい。該配合量が0.05質量%未満では、本発明の組成物の硬化物において、十分な離型性が得られない場合があり、5.0質量%を超えると、本発明の組成物の沁み出しや該組成物の硬化物の接着性不良等が生じる場合がある。
【0045】
<(G)難燃剤>
本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、難燃性を高めるために難燃剤を配合することができる。該難燃剤は、特に制限されず、公知のものを使用することができる。該難燃剤としては、例えばホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。該難燃剤の配合量は、(A)成分、(D)成分及び(E)成分の総和100質量部に対して2~20質量部であり、好ましくは3~10質量部である。
【0046】
<(H)カップリング剤>
本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、(A)成分、(D)成分及び/又は(E)成分の樹脂成分と(B)成分の無機充填材との結合強度を強くしたり、該樹脂成分と金属リードフレームとの接着性を高くしたりするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤を配合することができる。
【0047】
このようなカップリング剤としては、エポキシ官能性アルコキシシラン(例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等)、メルカプト官能性アルコキシシラン(例えばγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等)、アミン官能性アルコキシシラン(例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。
【0048】
カップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではなく、常法に従って行えばよい。
また、無機充填材を予めカップリング剤で処理してもよいし、(A)成分、(D)成分及び/又は(E)成分の樹脂成分と(B)成分の無機充填材とを混練する際に、(H)成分のカップリング剤を添加して表面処理しながら組成物を製造してもよい。
(H)成分の含有量は、(A)成分、(D)成分及び(E)成分の総和に対して、0.1~8.0質量%とすることが好ましく、特に0.5~6.0質量%とすることが好ましい。該含有量が0.1質量%未満であると、基材への接着効果が十分でなく、また8.0質量%を超えると、粘度が極端に低下して、ボイドの原因となるおそれがある。
【0049】
<その他の添加剤>
本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。該添加剤として本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂特性を改善するためにオルガノポリシロキサン、シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光安定剤、顔料、染料等を配合してもよいし、電気特性を改善するためにイオントラップ剤等を配合してもよい。さらには誘電特性を改善するために含フッ素材料等を配合してもよい。
【0050】
<製造方法>
本発明の組成物の製造方法は特に制限されるものでない。例えば、(A)~(C)成分及び必要に応じてその他の成分を所定の組成比で配合し、ミキサー等によって十分に均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合し、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕すればよい。得られた樹脂組成物は封止材料として使用できる。
【0051】
該樹脂組成物の最も一般的な成形方法としては、トランスファー成形法や圧縮成形法が挙げられる。トランスファー成形法では、トランスファー成形機を用い、成形圧力5~20N/mm2、成形温度120~190℃で成形時間30~500秒、好ましくは成形温度150~185℃で成形時間30~180秒で行う。また、圧縮成形法では、コンプレッション成形機を用い、成形温度は120~190℃で成形時間30~600秒、好ましくは成形温度130~160℃で成形時間120~300秒で行う。更に、いずれの成形法においても、後硬化を150~225℃で0.5~20時間行ってもよい。
【0052】
このような方法で成形された本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物は、耐トラッキング性に優れ、また、誘電特性にも優れている。本発明の半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、特に薄型小型化の半導体や車載用各種モジュールや高周波向け材料等を封止するのに適している。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
<(A)マレイミド化合物>
(A-1)下記式で示されるマレイミド化合物-1(BMI-2500:Designer Molecules Inc.製)
【化10】
(A-2)下記式で示されるマレイミド化合物-2(BMI-3000:Designer Molecules Inc.製)
【化11】
(A-3)4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-1000:大和化成(株)製)(比較例用)
【0055】
<(B)無機充填材>
(B-1)溶融球状シリカ(RS-8225H/53C、(株)龍森製、平均粒径13μm)
【0056】
<(C)硬化促進剤>
(C-1)過酸化物(パークミルD、日油(株)製)
(C-2)イミダゾール系触媒(1B2PZ、四国化成(株)製)
【0057】
<(D)エポキシ樹脂>
(D-1)多官能系エポキシ樹脂(EPPN-501H、日本化薬(株)製、エポキシ当量:165)
(D-2)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(HP-7200、DIC(株)、エポキシ当量:259)
【0058】
<(E)硬化剤>
(E-1)フェノールノボラック樹脂(TD-2131:DIC(株)製、フェノール性水酸基当量:104)
(E-2)ベンゾオキサジン樹脂(P-d型:四国化成(株)製、ベンゾオキサジン当量:217)
【0059】
<(F)離型剤>
(F-1)カルナバワックス(TOWAX-131:東亜化成(株)製)
【0060】
[実施例1~7、比較例1~4]
表1に示す配合(質量部)で、各成分を溶融混合し、冷却、粉砕して樹脂組成物を得た。これらの組成物につき、以下の諸特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
<スパイラルフロー値>
EMMI規格に準じた金型を使用して、成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で、上記樹脂組成物の成形体のスパイラルフロー値を測定した。
【0062】
<曲げ強さ、曲げ弾性率>
JIS K 6911:2006規格に準じた金型を使用して、成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で上記樹脂組成物の硬化物を作製し、該硬化物を180℃4時間ポストキュアーした。
ポストキュアー後の硬化物から作製した試験片について、JIS K 6911:2006規格に準じて室温(25℃)にて、曲げ強さ、曲げ弾性率を測定した。
【0063】
<耐トラッキング特性(CTI)試験>
成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で厚み3mm、直径50mmの円板を成形し、該硬化物を180℃4時間ポストキュアーした。その硬化物を用いてJIS C 2134(IEC60112)の方法に基づき、耐トラッキング特性試験を実施した。耐トラッキング特性電圧として、測定個数n=5の評価において、50滴以上の塩化アンモニウム0.1%水溶液で、すべての硬化物が破壊しない最大電圧を測定した。
【0064】
<吸水率>
成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で厚み3mm、直径50mmの円板を成形し、該硬化物を180℃4時間ポストキュアーした。その硬化物を用いて121℃、2.1気圧の飽和水蒸気下で24時間処理した前後の重量増加率から吸水率を算出した。
【0065】
<比誘電率、誘電正接>
成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で厚み1mm、1辺70mm四方の成形片を成形し、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記成形片の周波数1.0GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0066】
表1に示すように、本発明の組成物の硬化物は、耐トラッキング性が高く、比誘電率、誘電正接の値が小さい。したがって、本発明の組成物は半導体装置封止用材料として有用である。
【表1】