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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】電解液及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220928BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220928BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20220928BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20220928BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220928BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220928BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220928BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/587
H01M4/48
H01G11/64
H01G11/42
H01G11/30
H01M4/36 E
H01M10/052
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019521311
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021036
(87)【国際公開番号】W WO2018221676
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/020484
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018032310
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】今野 馨
(72)【発明者】
【氏名】山田 薫平
(72)【発明者】
【氏名】福田 龍一郎
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/054621(WO,A1)
【文献】特開2016-126855(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029653(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/059709(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102372732(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102723528(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M4/00-4/62
H01G11/30、11/42、11/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含有し、該化合物の含有量が電解液全量を基準として10質量%以下である、非水電解液二次電池用電解液。
【化1】

[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素原子を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは下記式(2)で表される基である。
【化2】

式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示し、*は結合手を示す。]
【請求項2】
前記R~Rの少なくとも1つはフッ素原子である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用電解液。
【請求項3】
正極と、負極と、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用電解液と、を備える非水電解液二次電池
【請求項4】
前記負極は炭素材料を含有する、請求項3に記載の非水電解液二次電池
【請求項5】
前記炭素材料は黒鉛を含有する、請求項4に記載の非水電解液二次電池
【請求項6】
前記負極は、ケイ素及びスズからなる群の少なくとも1種の元素を含む材料を更に含有する、請求項4又は5に記載の非水電解液二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器、電気自動車等の普及により、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池、キャパシタ等の高性能な電気化学デバイスが必要とされている。電気化学デバイスの性能を向上させる手段としては、例えば、電解液に所定の添加剤を添加する方法が検討されている。特許文献1には、サイクル特性及び内部抵抗特性を改善するために、特定のシロキサン化合物を含有させた非水電解液電池用電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-005329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているとおり、電気化学デバイスの抵抗を低減させることは重要である。そこで本発明は、電気化学デバイスの抵抗を低減できる電解液を提供することを目的とする。また、本発明は、抵抗が低減された電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ケイ素原子及び窒素原子を含む特定の化合物を電解液に含有させることにより、電気化学デバイスの抵抗を低減できることを見出した。
【0006】
なお、電気化学デバイスに要求される他の特性の一つとして、低温入力特性が挙げられる。電気化学デバイスの低温(例えば0℃以下)での充電容量は、常温(例えば25℃)での充電容量に比べて低下するが、電気化学デバイスには、その充電容量の低下を可能な限り抑制すること、すなわち、低温入力特性に優れていることも求められる。本発明者らは、ケイ素原子及び窒素原子を含む特定の化合物を電解液に含有させることにより、電気化学デバイスの低温入力特性を向上させ得ることも見出した。
【0007】
また、特許文献1に記載されているとおり、電気化学デバイスのサイクル特性を向上させることも重要である。また、電気化学デバイスの放電レート特性を向上させることも重要である。さらに、電気化学デバイスの経時的な体積増加(膨張)が抑制されることも求められる。当該化合物を電解液に含有させることにより、電気化学デバイスのこれらの特性を向上させ得ることも本発明者らにより見出された。
【0008】
本発明は、第1の態様として、下記式(1)で表される化合物を含有し、該化合物の含有量が電解液全量を基準として10質量%以下である、電解液を提供する。
【化1】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素原子を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、窒素原子を含む有機基を示す。]
【0009】
は、好ましくは、下記式(2)で表される基である。
【化2】
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示し、*は結合手を示す。]
【0010】
~Rの少なくとも1つは、好ましくはフッ素原子である。
【0011】
本発明は、第2の態様として、正極と、負極と、上記の電解液と、を備える電気化学デバイスを提供する。
【0012】
負極は、好ましくは炭素材料を含有する。炭素材料は、好ましくは黒鉛を含有する。負極は、好ましくは、ケイ素及びスズからなる群の少なくとも1種の元素を含む材料を更に含有する。
【0013】
電気化学デバイスは、好ましくは非水電解液二次電池又はキャパシタである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気化学デバイスの抵抗を低減できる電解液を提供することができる。また、本発明によれば、抵抗が低減された電気化学デバイスを提供することができる。加えて、本発明の一態様によれば、電気化学デバイスの低温入力特性及び/又はサイクル特性を向上させることができる電解液、並びに、低温入力特性及び/又はサイクル特性に優れる電気化学デバイスを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る電気化学デバイスとしての非水電解液二次電池を示す斜視図である。
図2図1に示した二次電池の電極群を示す分解斜視図である。
図3】実施例1及び比較例1の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例2~4及び比較例2~3の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図5】実施例2及び比較例2~3のサイクル特性の評価結果を示すグラフである。
図6】実施例5~6及び比較例4の抵抗(上限電圧4.2V)の測定結果を示すグラフである。
図7】実施例5及び比較例4の抵抗(上限電圧4.3V)の測定結果を示すグラフである。
図8】実施例7~8及び比較例5の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図9】実施例9~10及び比較例6の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図10】実施例11~12及び比較例7の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図11】実施例13及び比較例8の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図12】実施例14及び比較例8のサイクル特性の評価結果を示すグラフである。
図13】実施例13及び比較例8の放電レート特性の評価結果を示すグラフである。
図14】実施例15及び比較例9~10の抵抗の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例15及び比較例9~10の体積変化量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、一実施形態に係る電気化学デバイスを示す斜視図である。本実施形態において、電気化学デバイスは非水電解液二次電池である。図1に示すように、非水電解液二次電池1は、正極、負極及びセパレータから構成される電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備えている。正極及び負極には、それぞれ正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極及び負極が非水電解液二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。電池外装体3内には、電解液(図示せず)が充填されている。非水電解液二次電池1は、上述したようないわゆる「ラミネート型」以外の形状の電池(コイン型、円筒型、積層型等)であってもよい。
【0018】
電池外装体3は、例えばラミネートフィルムで形成された容器であってよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってよい。
【0019】
図2は、図1に示した非水電解液二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。図2に示すように、電極群2は、正極6と、セパレータ7と、負極8とをこの順に備えている。正極6及び負極8は、正極合剤層10側及び負極合剤層12側の面がそれぞれセパレータ7と対向するように配置されている。
【0020】
正極6は、正極集電体9と、正極集電体9上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。
【0021】
正極集電体9は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等で形成されている。正極集電体9は、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウム、銅等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。正極集電体9の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0022】
正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含有する。正極合剤層10の厚さは、例えば20~200μmである。
【0023】
正極活物質は、例えばリチウム酸化物であってよい。リチウム酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn及びLiMn2-y(各式中、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す(ただし、Mは、各式中の他の元素と異なる元素である)。x=0~1.2、y=0~0.9、z=2.0~2.3である。)が挙げられる。LiNi1-yで表されるリチウム酸化物は、LiNi1-(y1+y2)Coy1Mny2(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y1=0~0.9、y2=0~0.9であり、且つ、y1+y2=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.22、LiNi0.8Co0.1Mn0.1であってよい。LiNi1-yで表されるリチウム酸化物は、LiNi1-(y3+y4)Coy3Aly4(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y3=0~0.9、y4=0~0.9であり、且つ、y3+y4=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05であってもよい。
【0024】
正極活物質は、例えばリチウムのリン酸塩であってもよい。リチウムのリン酸塩としては、例えば、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)及びリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が挙げられる。
【0025】
正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0026】
導電剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、グラフェン等の炭素材料、カーボンナノチューブなどであってよい。導電剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は1質量%以上であってよく、50質量%以下、30質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0027】
結着剤は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1、2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素含有樹脂;ニトリル基含有モノマーをモノマー単位として有する樹脂;アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。
【0028】
結着剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.1質量%以上、1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0029】
セパレータ7は、正極6及び負極8間を電子的には絶縁する一方でイオンを透過させ、且つ、正極6側における酸化性及び負極8側における還元性に対する耐性を備えるものであれば、特に制限されない。このようなセパレータ7の材料(材質)としては、樹脂、無機物等が挙げられる。
【0030】
樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。セパレータ7は、電解液に対して安定で、保液性に優れる観点から、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンで形成された多孔質シート又は不織布等である。
【0031】
無機物としては、アルミナ、二酸化珪素等の酸化物、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩が挙げられる。セパレータ7は、例えば、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜状基材に、繊維状又は粒子状の無機物を付着させたセパレータであってよい。
【0032】
負極8は、負極集電体11と、負極集電体11上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0033】
負極集電体11は、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、アルミニウム-カドミウム合金等で形成されている。負極集電体11は、接着性、導電性、耐還元性向上の目的で、銅、アルミニウム等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。負極集電体11の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0034】
負極合剤層12は、例えば、負極活物質と、結着剤とを含有する。
【0035】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限されない。負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属複合酸化物、錫、ゲルマニウム、ケイ素等の第四族元素の酸化物又は窒化物、リチウムの単体、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、Si等のリチウムと合金を形成可能な金属などが挙げられる。負極活物質は、安全性の観点からは、好ましくは炭素材料及び金属複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である。負極活物質はこれらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。負極活物質の形状は、例えば、粒子状であってよい。
【0036】
炭素材料としては、非晶質炭素材料、天然黒鉛、天然黒鉛に非晶質炭素材料の被膜を形成した複合炭素材料、人造黒鉛(エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂原料、又は、石油、石炭等から得られるピッチ系原料を焼成して得られるもの)などが挙げられる。金属複合酸化物は、高電流密度充放電特性の観点からは、好ましくはチタン及びリチウムのいずれか一方又は両方を含有し、より好ましくはリチウムを含有する。
【0037】
負極活物質の中でも炭素材料は、導電性が高く、低温特性及びサイクル安定性に特に優れている。炭素材料の中でも高容量化の観点からは、黒鉛が好ましい。黒鉛においては、好ましくはX線広角回折法における炭素網面層間(d002)が0.34nm未満であり、より好ましくは0.3354nm以上0.337nm以下である。このような条件を満たす炭素材料を、擬似異方性炭素と称する場合がある。
【0038】
負極活物質には、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料が更に含まれていてもよい。ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料は、ケイ素又はスズの単体、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であってよい。当該化合物は、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む合金であってよく、例えば、ケイ素及びスズの他に、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む合金である。ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物は、酸化物、窒化物、又は炭化物であってもよく、具体的には、例えば、SiO、SiO、LiSiO等のケイ素酸化物、Si、SiO等のケイ素窒化物、SiC等のケイ素炭化物、SnO、SnO、LiSnO等のスズ素酸化物などであってよい。
【0039】
負極8は、電気化学デバイスの低温入力特性を更に向上させる観点から、負極活物質として、好ましくは炭素材料を含み、より好ましくは黒鉛を含み、更に好ましくは、炭素材料と、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料との混合物を含み、特に好ましくは、黒鉛とケイ素酸化物との混合物を含む。当該混合物におけるケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料(ケイ素酸化物)に対する炭素材料(黒鉛)の含有量は、当該混合物全量を基準として、1質量%以上、又は3質量%以上であってよく、30質量%以下であってよい。
【0040】
負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0041】
結着剤及びその含有量は、上述した正極合剤層における結着剤及びその含有量と同様であってよい。
【0042】
負極合剤層12は、粘度を調節するために増粘剤を含有してもよい。増粘剤は、特に制限されないが、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等であってよい。増粘剤は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。
【0043】
負極合剤層12が増粘剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。増粘剤の含有量は、負極合剤層の塗布性の観点からは、負極合剤層全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。増粘剤の含有量は、電池容量の低下又は負極活物質間の抵抗の上昇を抑制する観点からは、正極合剤層全量を基準として、5質量%以下であってよく、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。
【0044】
電解液は、一実施形態において、下記式(1)で表される化合物と、電解質塩と、非水溶媒とを含有する。
【化3】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素原子を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは、窒素原子を含む有機基を示す。
【0045】
~Rで表されるアルキル基の炭素数は、1以上であってよく、3以下であってよい。R~Rは、メチル基、エチル基、又はプロピル基であってよく、直鎖状でも分岐状でもよい。R~Rの少なくとも1つは、好ましくはフッ素原子である。
【0046】
で表されるアルキレン基の炭素数は、1以上又は2以上であってよく、5以下又は4以下であってよい。Rで表されるアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はペンチレン基であってよく、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0047】
は、電気化学デバイスの抵抗を更に低減させ、低温入力特性を更に向上させる観点から、一実施形態において、下記式(2)で表される基であってよい。
【化4】
式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示す。R又はRで表されるアルキル基は、上述したR~Rで表されるアルキル基と同様であってよい。*は結合手を示す。
【0048】
一実施形態において、式(1)で表される化合物1分子中のケイ素原子の数は、1個である。すなわち、一実施形態において、Rで表される有機基は、ケイ素原子を含まない。
【0049】
式(1)で表される化合物の含有量は、電気化学デバイスの抵抗を更に低減させ、低温入力特性を更に向上させる観点から、電解液全量を基準として、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、更に好ましくは0.01質量%以上である。式(1)で表される化合物の含有量は、同様の観点から、電解液全量を基準として、好ましくは、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、又は1質量%以下である。式(1)で表される化合物の含有量は、電気化学デバイスの低温入力特性を更に向上させる観点から、電解液全量を基準として、好ましくは、0.001~10質量%、0.001~7質量%、0.001~5質量%、0.001~3質量%、0.001~2質量%、0.001~1.5質量%、0.001~1質量%、0.005~10質量%、0.005~7質量%、0.005~5質量%、0.005~3質量%、0.005~2質量%、0.005~1.5質量%、0.005~1質量%、0.01~10質量%、0.01~7質量%、0.01~5質量%、0.01~3質量%、0.01~2質量%、0.01~1.5質量%、又は0.01~1質量%である。
【0050】
電解質塩は、例えばリチウム塩であってよい。リチウム塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiB(C、LiCHSO、CFSOOLi、LiN(SOF)(Li[FSI]、リチウムビスフルオロスルホニルイミド)、LiN(SOCF(Li[TFSI]、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、及びLiN(SOCFCFからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。リチウム塩は、溶媒に対する溶解性、二次電池の充放電特性、出力特性、サイクル特性等に更に優れる観点から、好ましくはLiPFを含む。
【0051】
電解質塩の濃度は、充放電特性に優れる観点から、非水溶媒全量を基準として、好ましくは0.5mol/L以上、より好ましくは0.7mol/L以上、更に好ましくは0.8mol/L以上であり、また、好ましくは1.5mol/L以下、より好ましくは1.3mol/L以下であり、更に好ましくは1.2mol/L以下である。
【0052】
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチルラクトン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、酢酸メチル等であってよい。非水溶媒は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよく、好ましくは2種以上の混合物である。
【0053】
電解液は、式(1)で表される化合物、電解質塩及び溶媒以外のその他の材料を更に含有してもよい。その他の材料は、例えば、窒素、硫黄、又は窒素及び硫黄を含有する複素環化合物、環状カルボン酸エステル、フッ素含有環状カーボネート、その他の分子内に不飽和結合を有する化合物等であってよい。
【0054】
本発明者らは、様々な構造及び官能基を有する化合物を検討した結果、上述した式(1)で表される化合物を電解液に適用することによって、顕著に低温での入力特性が向上し、抵抗が低減したことを明らかにした。本発明者らは、式(1)で表される化合物を電解液に用いることによる作用効果を以下のように推察している。式(1)で表される化合物は、正極又は負極上で安定な被膜を形成する。これにより、電解液の分解物が正極又は負極上に堆積することに起因する低温での出力特性の低下が抑制される。さらに、電解質塩の分解に起因する低温での容量低下及び抵抗増加が抑制される。その結果、非水電解液二次電池1の低温入力特性が向上する。さらに、式(1)で表される化合物自身がSiを含む骨格を有していることにより、化合物由来のガス発生が少なくなり、非水電解液二次電池1を高温保存した場合の体積膨張を抑制することができる。
【0055】
続いて、非水電解液二次電池1の製造方法を説明する。非水電解液二次電池1の製造方法は、正極6を得る第1の工程と、負極8を得る第2の工程と、電極群2を電池外装体3に収容する第3の工程と、電解液を電池外装体3に注液する第4の工程と、を備える。
【0056】
第1の工程では、正極合剤層10に用いる材料を混練機、分散機等を用いて分散媒に分散させてスラリー状の正極合剤を得た後、この正極合剤をドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により正極集電体9上に塗布し、その後分散媒を揮発させることにより正極6を得る。分散媒を揮発させた後、必要に応じて、ロールプレスによる圧縮成型工程が設けられてもよい。正極合剤層10は、上述した正極合剤の塗布から分散媒の揮発までの工程を複数回行うことにより、多層構造の正極合剤層として形成されてもよい。分散媒は、水、1-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう。)等であってよい。
【0057】
第2の工程は、上述した第1の工程と同様であってよく、負極集電体11に負極合剤層12を形成する方法は、上述した第1の工程と同様の方法であってよい。
【0058】
第3の工程では、作製した正極6及び負極8の間にセパレータ7を挟み、電極群2を形成する。次いで、この電極群2を電池外装体3に収容する。
【0059】
第4の工程では、電解液を電池外装体3に注入する。電解液は、例えば、電解質塩をはじめに溶媒に溶解させてから、その他の材料を溶解させることにより調製することができる。
【0060】
他の実施形態として、電気化学デバイスはキャパシタであってもよい。キャパシタは、上述した非水電解液二次電池1と同様に、正極、負極及びセパレータから構成される電極群と、電極群を収容する袋状の電池外装体とを備えていてよい。キャパシタにおける各構成要素の詳細は、非水電解液二次電池1と同様であってよい。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
[正極の作製]
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(95質量%)に、導電剤としての繊維状の黒鉛(1質量%)及びアセチレンブラック(AB)(1質量%)と、結着剤(3質量%)とを順次添加し、混合した。得られた混合物に対し、分散媒としてのNMPを添加し、混練することによりスラリー状の正極合剤を調製した。この正極合剤を正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度3.6g/cmまで圧密化して、正極を得た。
【0063】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛に、結着剤と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを添加した。これらの質量比については、負極活物質:結着剤:増粘剤=98:1:1とした。得られた混合物に対し、分散媒としての水を添加し、混練することによりスラリー状の負極合剤を調製した。この負極合剤を負極集電体としての厚さ10μmの圧延銅箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度1.6g/cmまで圧密化して、負極を得た。
【0064】
[リチウムイオン二次電池の作製]
13.5cmの四角形に切断した正極電極を、セパレータであるポリエチレン製多孔質シート(商品名:ハイポア(登録商標)、旭化成株式会社製、厚さ30μm)で挟み、さらに14.3cmの四角形に切断した負極を重ね合わせて電極群を作製した。この電極群を、アルミニウム製のラミネートフィルム(商品名:アルミラミネートフィルム、大日本印刷株式会社製)で形成された容器(電池外装体)に収容した。次いで、容器の中に電解液を1mL添加し、容器を熱溶着させ、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を1質量%と、下記式(3)で表される化合物Aを電解液全量基準で1質量%(電解液全量基準)添加したものを使用した。
【化5】
【0065】
(比較例1)
実施例1において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
[初回充放電]
作製したリチウムイオン電池について以下に示す方法で初回充放電を実施した。まず、25℃の環境下において0.1Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.01Cとした。その後、0.1Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行った。この充放電サイクルを3回繰り返した(電流値の単位として用いた「C」とは、「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。)。
【0067】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
初回充放電後に、実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗を交流インピーダンス測定にて評価した。作製したリチウムイオン電池を25℃の環境下において0.1Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.01Cとした。それらのリチウムイオン二次電池について、25℃の環境下で、10mVの振幅で20mHz~200kHzの周波数範囲で交流インピーダンス測定装置(1260型、Solartron社製)を用いて抵抗を測定した。測定結果を図3に示す。
【0068】
[低温入力特性の評価]
初回充放電後に、実施例1及び比較例1の各二次電池の低温入力特性を評価した。具体的には、まず、25℃の環境下で0.1Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行った。この充電時の容量を25℃での充電容量C1とした。次に、25℃の環境下で0.1Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行った。その後、-10℃の環境下に1時間保持した後、―10℃のまま0.1Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行った。この充電時の充電容量を低温(-10℃)での充電容量C2とした。そして、以下の式により低温入力特性を算出した。結果を表1に示す。
低温入力特性(%)=C2/C1×100
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例2)
実施例1において、負極活物質として更にケイ素酸化物を加え、負極を作製した以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。負極における負極活物質、結着剤及び増粘剤の質量比は、黒鉛:ケイ素酸化物:結着剤:増粘剤=92:5:1.5:1.5とした。
【0071】
(実施例3~4)
実施例2において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で、それぞれ0.5質量%(実施例3)及び0.1質量%(実施例4)に変更した以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0072】
(比較例2)
実施例2において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0073】
(比較例3)
実施例2において、化合物Aに代えて、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(フルオロエチレンカーボネート;FEC)を電解液全量基準で1質量%添加したこと以外は、実施例2と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0074】
[初回充放電]
実施例1及び比較例1における方法と同様の方法により、実施例2~4及び比較例2~3の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0075】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例1及び比較例1における評価と同様の方法により、実施例2~4及び比較例2~3の各二次電池の抵抗を測定した。結果を図4に示す。
【0076】
[サイクル特性の評価]
初回充放電後、充放電を繰り返すサイクル試験によって、実施例2及び比較例2~3の各二次電池のサイクル特性を評価した。充電パターンとしては、45℃の環境下で、実施例2及び比較例2~3の二次電池を0.5Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.05Cとした。放電については、1Cで定電流放電を2.5Vまで行い、放電容量を求めた。この一連の充放電を200サイクル繰返し、充放電の度に放電容量を測定した。比較例2における1サイクル目の充放電後の放電容量を1として、実施例2及び比較例3における各サイクルでの放電容量の相対値(放電容量比率)を求めた。サイクル数と放電容量の相対値との関係を、図5に示す。
【0077】
[低温入力特性の評価]
実施例1及び比較例1における評価と同様の方法により、実施例2~4及び比較例2の各二次電池の低温入力特性を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
図3及び表1に示すように、負極活物質として黒鉛を用い、更に化合物Aを1質量%含む電解液を適用した実施例1のリチウムイオン二次電池は、化合物Aを含まない電解液を適用した比較例1のリチウムイオン二次電池と比較して、抵抗が低減され、且つ低温(-10℃)での入力特性が良好であった。また、図4及び表2に示すように、黒鉛及びケイ素酸化物を含む負極活物質を用い、更に化合物Aを1、0.5、0.1質量%含む電解液を適用した実施例2~4のリチウムイオン二次電池は、化合物Aを含まない比較例2のリチウムイオン二次電池と比較して、抵抗が低減され、且つ低温(-10℃)での入力特性が良好であった。この特性の向上メカニズムは必ずしも明らかではないが、化合物Aの添加によって正極又は負極上において安定でイオン伝導性の良好な被膜が形成されたこと、化合物Aがリチウムイオンと相互作用することによって、リチウム塩(LIPF)が安定化したこと、又は、リチウムの脱溶媒和のための活性化エネルギーが低下したことによると考えられる。
【0080】
図5に示すように、黒鉛及びケイ素酸化物を含む負極活物質を用い、更に化合物Aを1質量%含む電解液を適用した実施例2のリチウムイオン二次電池は、化合物Aを含まない比較例2~3のリチウムイオン二次電池と比較してサイクル特性が良好であった。このサイクル特性の向上メカニズムは必ずしも明らかではないが、化合物Aの添加によって正極又は負極上においてFECの影響で形成される被膜よりも安定でイオン伝導性の良好な被膜が形成されたこと、また、それに伴う電解液の分解の抑制、更にはリチウム塩(LIPF)の安定化に寄与したためと考えられる。
【0081】
(実施例5)
[正極の作製]
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3、91質量%)に、導電剤としてアセチレンブラック(AB)(5質量%)と、結着剤(4質量%)とを順次添加し、混合した。得られた混合物に対し、分散媒としてのNMPを添加し、混練することによりスラリー状の正極合剤を調製した。この正極合剤を正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度2.8g/cmまで圧密化して、正極を得た。
【0082】
[負極の作製]
圧密化する際の密度を1.2g/cmに変更した以外は、実施例1と同様の方法により負極を得た。
【0083】
[リチウムイオン二次電池の作製]
実施例1と同様の方法により、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を1質量%と、上述した化合物Aを0.2質量%(電解液全量基準)添加したものを使用した。
【0084】
(実施例6)
実施例5において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で0.5質量%に変更した以外は、実施例5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0085】
(比較例4)
実施例5において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
[初回充放電]
定電流放電の終止電圧を2.7Vとした以外は、実施例1及び比較例1における方法と同様の方法により、実施例5~6及び比較例4の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0087】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
初回充放電後に、実施例5~6及び比較例4のリチウムイオン二次電池の抵抗を交流インピーダンス測定にて評価した。作製したリチウムイオン電池を25℃の環境下において0.2Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.01Cとした。それらのリチウムイオン二次電池について、25℃の環境下で、10mVの振幅で20mHz~200kHzの周波数範囲で交流インピーダンス測定装置(VSP、Bio-Logic社)を用いて、抵抗を測定した。測定結果を図6に示す。
【0088】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.3V)]
実施例5及び比較例4の各二次電池について、上限電圧を4.3Vとした以外は、上限電圧を4.2Vとしたときの方法と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図7に示す。
【0089】
(実施例7)
実施例5において、負極活物質として更にケイ素酸化物を加え、圧密化する際の密度を1.6g/cmに変更して負極を作製した以外は、実施例5と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。負極における負極活物質、結着剤及び増粘剤の質量比は、黒鉛:ケイ素酸化物:結着剤:増粘剤=92:5:1.5:1.5とした。
【0090】
(実施例8)
実施例7において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で0.5質量%に変更した以外は、実施例7と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(比較例5)
実施例7において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例7と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
[初回充放電]
実施例5~6及び比較例4における方法と同様の方法により、実施例7~8及び比較例5の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0093】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例7~8及び比較例5の各二次電池について、実施例5~6及び比較例4における方法(上限電圧を4.2Vとしたときの方法)と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図8に示す。
【0094】
(実施例9)
実施例5において、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)を使用した以外は、実施例5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
(実施例10)
実施例9において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で0.5質量%に変更した以外は、実施例9と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0096】
(比較例6)
実施例9において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例9と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
[初回充放電]
実施例5~6及び比較例4における方法と同様の方法により、実施例9~10及び比較例6の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0098】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例9~10及び比較例6の各二次電池について、実施例5~6及び比較例4における方法(上限電圧を4.2Vとしたときの方法)と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図9に示す。
【0099】
(実施例11)
実施例5において、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(90質量%)を用い、結着剤の含有量を5質量%に変更し、圧密化する際の密度を2.0g/cmに変更して正極を作製した以外は、実施例5と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0100】
(実施例12)
実施例11において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で0.5質量%に変更した以外は、実施例11と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
(比較例7)
実施例11において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例11と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
[初回充放電]
実施例5~6及び比較例4における方法と同様の方法により、実施例11~12及び比較例7の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0103】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例11~12及び比較例7の各二次電池について、実施例5~6及び比較例4における方法(上限電圧を4.2Vとしたときの方法)と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図10に示す。
【0104】
(実施例13)
[正極の作製]
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi0.6Co0.2Mn0.2、91質量%)に、導電剤としてアセチレンブラック(AB)(5質量%)と、結着剤(4質量%)とを順次添加し、混合した。得られた混合物に対し、分散媒としてのNMPを添加し、混練することによりスラリー状の正極合剤を調製した。この正極合剤を正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度2.8g/cmまで圧密化して、正極を得た。
【0105】
[負極の作製]
実施例1と同様の方法により負極を得た。
【0106】
[リチウムイオン二次電池の作製]
実施例1と同様の方法により、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を1質量%と、上述した化合物Aを0.5質量%(電解液全量基準)添加したものを使用した。
【0107】
(実施例14)
実施例13において、化合物Aの含有量を、電解液全量基準で0.2質量%に変更した以外は、実施例13と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0108】
(比較例8)
実施例13において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例13と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
[初回充放電]
実施例5~6及び比較例4における方法と同様の方法により、実施例13~14及び比較例8の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0110】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例13及び比較例8の各二次電池について、実施例5~6及び比較例4における方法(上限電圧を4.2Vとしたときの方法)と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図11に示す。
【0111】
[サイクル特性の評価]
実施例14及び比較例8の各二次電池について、実施例2及び比較例2~3における評価方法と同様の方法によりサイクル特性を評価した。比較例8における1サイクル目の充放電後の放電容量を1として、実施例14及び比較例8における各サイクルでの放電容量の相対値(放電容量比率)を求めた。サイクル数と放電容量の相対値との関係を、図12に示す。実施例14における200サイクル後の放電容量比率は、比較例8における200サイクル後の放電容量比率よりも高く、実施例14が比較例8に比べてサイクル特性に優れることが分かる。
【0112】
[放電レート特性の評価]
実施例13及び比較例8の各二次電池について、サイクル特性評価後のリチウムイオン二次電池の出力特性を、以下に示す方法で評価した。0.2Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.02Cとした。その後、0.2Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行い、この放電時の容量を電流値0.2Cにおける放電容量とした。次に、0.2Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った後(充電終止条件は、電流値0.02Cとした。)、0.5Cの電流値で終止電圧2.5Vの定電流放電を行い、この放電時の容量を電流値0.5Cにおける放電容量とした。同様の充放電から1C、2Cの放電容量を評価した。以下の式により出力特性を算出した。実施例13及び比較例8の評価結果を図13に示す。
放電容量維持率(%)=(電流値0.2C、0.5C、1C、2Cにおける放電容量/電流値0.2Cにおける放電容量)×100
【0113】
(実施例15)
[正極の作製]
正極活物質としてのニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(95質量%)に、導電剤としてアセチレンブラック(AB)(3質量%)と、結着剤(2質量%)とを順次添加し、混合した。得られた混合物に対し、分散媒としてのNMPを添加し、混練することによりスラリー状の正極合剤を調製した。この正極合剤を正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔に均等且つ均質に所定量塗布した。その後、分散媒を揮発させてから、プレスすることにより密度3.0g/cmまで圧密化して、正極を得た。
【0114】
[負極の作製]
実施例1と同様の方法により負極を得た。
【0115】
[リチウムイオン二次電池の作製]
実施例1と同様の方法により、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を1質量%と、上述した化合物Aを0.1質量%(電解液全量基準)添加したものを使用した。
【0116】
(比較例9)
実施例15において、化合物Aを使用しなかった以外は、実施例13と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0117】
(比較例10)
実施例15において、化合物Aに代えて、FECを電解液全量基準で0.5質量%添加したこと以外は、実施例15と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
[初回充放電]
実施例5~6及び比較例4における方法と同様の方法により、実施例15及び比較例9~10の各二次電池の初回充放電を実施した。
【0119】
[交流インピーダンス測定による抵抗測定(上限電圧4.2V)]
実施例15及び比較例9~10の各二次電池について、実施例5~6及び比較例4における方法(上限電圧を4.2Vとしたときの方法)と同様の方法により各二次電池の抵抗を測定した。測定結果を図14に示す。
【0120】
[体積変化量の測定]
実施例15及び比較例9~10の各二次電池を7日間80℃で保管した。1日毎に二次電池の体積をアルキメデス法に基づく電子比重計(電子比重計MDS-300、アルファミラージュ社製)により測定し、保管前(0日目)の二次電池の体積との差をそれぞれ求めた。結果を図15に示す。
【0121】
図6~11、14に示すように、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、又はニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムを用いた場合においても、化合物Aを所定量含む電解液を適用した実施例5~13、15のリチウムイオン二次電池は、化合物Aを含まない電解液を適用した比較例4~9のリチウムイオン二次電池と比較して、抵抗が低かった。このメカニズムは必ずしも明らかではないが、正極活物質としてコバルト酸リチウムを使用した場合と同様に、化合物Aの添加によって正極又は負極上において安定でイオン伝導性の良好な被膜が形成されたこと、化合物Aがリチウムイオンと相互作用することによって、リチウム塩(LIPF)が安定化したこと、又は、リチウムの脱溶媒和のための活性化エネルギーが低下したことによると考えられる。
【符号の説明】
【0122】
1…非水電解液二次電池(電気化学デバイス)、6…正極、7…セパレータ、8…負極。
図1
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図15