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特許7147844リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220928BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20220928BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220928BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M10/0525
H01M4/36 D
H01M10/058
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020529903
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026235
(87)【国際公開番号】W WO2020012586
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 賢匠
(72)【発明者】
【氏名】内山 慶紀
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152113(WO,A1)
【文献】特開2019-175852(JP,A)
【文献】特開2017-091886(JP,A)
【文献】特開2017-142932(JP,A)
【文献】特開2016-197611(JP,A)
【文献】特開2011-175842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/36、4/62
H01M10/0525、10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10であり、前記累積頻度が10個数%であるときの円形度が0.70以上である黒鉛質粒子を含む負極と、
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極と、
電解質と、
を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%であるときの円形度が、0.70~0.91である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛質粒子の体積平均粒子径が、2μm~30μmである請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛質粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける、1580cm-1~1620cm-1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm-1~1400cm-1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10~0.60である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極が、フロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.94以下である炭素粒子をさらに含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10であり、前記累積頻度が10個数%であるときの円形度が0.70以上である黒鉛質粒子を含む負極合剤を、負極集電体の表面に配置して、負極を作製する工程と、
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極合剤を、正極集電体の表面に配置して、正極を作製する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池)は、軽量で高エネルギー密度の二次電池であり、その特性を活かして、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル機器の電源に使用されている。
近年では、リチウムイオン二次電池は、ポータブル機器等の民生用途にとどまらず、車載用途、太陽光発電、風力発電等といった自然エネルギー向け大規模蓄電システム用途などとしても展開されている。特に、自動車分野への適用において、回生によるエネルギーの利用効率の向上のために、リチウムイオン二次電池には、優れた入力特性が要求されている。また、リチウムイオン二次電池には、優れた長期寿命特性も要求されている。
例えば、特許文献1では、最適なラマンR値(結晶性)が異なる2種類の黒鉛質粒子を含み、そのうち1種類がフロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.9以上であることにより、高容量、急速充放電特性、及び高サイクル特性を示す非水二次電池用負極材が提案されている。
また、特許文献2では、平均円形度が0.9以上である黒鉛質粒子と、高アスペクト比の黒鉛粒子との混合により、低い不可逆容量で充放電効率に優れた特性を示す非水二次電池用負極材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-251315号公報
【文献】特開2015-164143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、2種類の黒鉛を単に混合しただけであり、従来技術に比べて連続急速入力特性には優れるものの、パルスでの充電特性には効果が希薄であることが、本発明者等の検討により明らかとなった。また、特許文献2では、2種類の黒鉛を混合し、そのうち1種類の黒鉛が高アスペクト比であることで、不可逆容量の抑制を図っているが、パルスでの充電に関しては何ら着目されていない。さらに、高アスペクト比の黒鉛質粒子は、パルスでの充電特性には効果が希薄であることが、発明者等の検討により明らかとなった。
上記従来の事情に鑑み、本開示は、不可逆容量が小さく、パルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む負極と、
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極と、
電解質と、
を含むリチウムイオン二次電池。
<2> 前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%であるときの円形度が、0.70~0.91である<1>に記載のリチウムイオン二次電池。
<3> 前記黒鉛質粒子の体積平均粒子径が、2μm~30μmである<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池。
<4> 前記黒鉛質粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける、1580cm-1~1620cm-1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm-1~1400cm-1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10~0.60である<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
<5> 前記負極が、フロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.94以下である炭素粒子をさらに含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
<6> フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む負極合剤を、負極集電体の表面に配置して、負極を作製する工程と、
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極合剤を、正極集電体の表面に配置して、正極を作製する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、不可逆容量が小さく、パルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、本開示の技術的思想の範囲内において、当業者による様々な変更及び修正が可能である。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、正極合剤又は負極合剤の「固形分」とは、正極合剤のスラリー又は負極合剤のスラリーから有機溶剤等の揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0009】
≪リチウムイオン二次電池≫
本開示のリチウムイオン二次電池は、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む負極と、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極と、電解質と、を含む。
本開示のリチウムイオン二次電池は、不可逆容量が小さく、パルス充電特性に優れる。その理由は必ずしも明らかではないが、特定の負極活物質を含む負極、及び特定のリチウム化合物を含む正極を併用することによって、上記特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるものと考えられる。
【0010】
まず、リチウムイオン二次電池の概要について簡単に説明する。リチウムイオン二次電池は、上述の負極、正極、及び電解質を含む。
【0011】
一実施形態において、リチウムイオン二次電池は、電池容器内に、正極、負極、セパレータ、及び電解質を含む非水電解液を有する構成としてもよい。このとき、セパレータは正極と負極との間に配置される。
当該実施形態において、リチウムイオン二次電池を充電する際には、正極と負極との間に充電器を接続する。充電時には、正極活物質内に挿入されているリチウムイオンが脱離し、非水電解液中に放出される。非水電解液中に放出されたリチウムイオンは、非水電解液中を移動し、セパレータを通過して、負極に到達する。負極に到達したリチウムイオンは、負極を構成する負極活物質内に挿入される。
当該実施形態において、放電時には、正極と負極の間に外部負荷を接続する。放電時には、負極活物質内に挿入されていたリチウムイオンが脱離して非水電解液中に放出される。このとき、負極から電子が放出される。そして、非水電解液中に放出されたリチウムイオンは、非水電解液中を移動し、セパレータを通過して、正極に到達する。この正極に到達したリチウムイオンは、正極を構成する正極活物質内に挿入される。正極活物質にリチウムイオンが挿入されることにより、正極に電子が流れ込む。このようにして、負極から正極に電子が移動することにより放電が行われる。
【0012】
このように、リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを正極活物質と負極活物質との間で挿入及び脱離することにより、充放電することができる。なお、実際のリチウムイオン二次電池の構成例については、後述する(例えば、図1参照)。
次いで、本開示のリチウムイオン二次電池の構成要素である負極、正極、電解質、及び必要に応じて設けられるその他の構成部材に関し順次説明する。
【0013】
<負極>
本開示のリチウムイオン二次電池に用いる負極は、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差(以下、「特定範囲における円形度の標準偏差」と称することがある。)が、0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む。黒鉛質粒子は、負極活物質として機能しうるものである。なお、以下、負極活物質としての上記黒鉛質粒子を含む負極材料を「負極材」ともいう。
【0014】
(黒鉛質粒子)
黒鉛質粒子の特定範囲における円形度の標準偏差は0.06~0.10であることが好ましく、0.06~0.09であることがより好ましく、0.06~0.08であることがさらに好ましい。
黒鉛質粒子の円形度は、フロー式粒子解析計(例えば、マルバーン社製 湿式フロー式粒子径・形状分析装置 FPIA-3000)を用いて測定することができる。また、円形度の測定結果に基づく、累積頻度分布、平均円形度、及び特定範囲における円形度の標準偏差の解析等は、FPIA-3000学術資料(2006年8月31日第2版発行)を基に実施することができる。
なお、測定温度は25℃とし、測定試料の濃度は10質量%とし、カウントする粒子の数は10000個とする。また、分散用の溶媒として水を用いる。
黒鉛質粒子の円形度を測定する際には、黒鉛質粒子を予め分散させておくことが好ましい。例えば、超音波分散、ボルテックスミキサー等を使用して黒鉛質粒子を分散させることが可能である。黒鉛質粒子の粒子崩壊又は粒子破壊の影響を抑制するため、測定する黒鉛質粒子の強度に鑑みて適宜撹拌の強さ及び時間を調整してもよい。
超音波処理としては、例えば、超音波洗浄器(例えば、ASU-10D、アズワン株式会社製)の槽内に任意の量の水を貯めた後、黒鉛質粒子の分散液の入った試験管をホルダーごと1分間~10分間超音波処理することが好ましい。この時間内であると黒鉛質粒子の粒子崩壊、粒子破壊、試料温度の上昇等を抑制したまま分散させやすい。
【0015】
特定範囲における円形度の標準偏差が0.05~0.10の範囲であれば、黒鉛質粒子の平均円形度は特に制限されない。例えば、黒鉛質粒子の平均円形度は、0.70以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることがさらに好ましい。黒鉛質粒子の平均円形度は、0.90超であってもよく、0.92超であってもよく、0.94超であってもよい。黒鉛質粒子の平均円形度が0.70以上であることで、連続での充電受け入れ性が向上する傾向にある。
また、一実施形態では、黒鉛質粒子の平均円形度は、後述する炭素粒子の平均円形度より大きい値であってもよい。
【0016】
また、黒鉛質粒子の累積頻度(フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度)が10個数%であるときの円形度は、0.70~0.91であることが好ましく、0.80~0.91であってもよく、0.85~0.91であってもよい。
【0017】
黒鉛質粒子の体積平均粒子径は特に制限されず、2μm~30μmであることが好ましく、2.5μm~25μmであることがより好ましく、3μm~20μmであることがさらに好ましく、5μm~20μmであることが特に好ましい。黒鉛質粒子の体積平均粒子径が30μm以下であると、放電容量及び放電特性が向上する傾向にある。黒鉛質粒子の体積平均粒子径が2μm以上であると、初期充放電効率が向上する傾向にある。
なお、体積平均粒子径は、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD-3000)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、d50(メジアン径)として求めることができる。
【0018】
黒鉛質粒子のBET比表面積は特に制限されず、0.8m/g~8.0m/gであることが好ましく、1.0m/g~7.0m/gであることがより好ましく、1.5m/g~6.0m/gであることがさらに好ましい。黒鉛質粒子のBET比表面積が0.8m/g以上であると、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、黒鉛質粒子のBET比表面積が8.0m/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電材等の他の材料との混合性が良好になる傾向にある。
BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製:AUTOSORB-1(商品名)を用いることができる。BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
【0019】
本開示における黒鉛質粒子とは、黒鉛を成分として含み、X線広角回折法における平均面間隔(d002)が0.3400nm未満のものである。なお、黒鉛結晶の平均面間隔(d002)の理論値は0.3354nmであり、この値に近いほどエネルギー密度が大きくなる傾向にある。
平均面間隔(d002)は、X線(CuKα線)を試料に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定して得られる回折プロファイルにおいて、回折角2θが24°~27°となる付近に現れる、炭素002面に対応する回折ピークに基づいて、ブラッグの式を用いて算出することができる。
平均面間隔(d002)は、以下の条件で測定を行うことができる。
線源:CuKα線(波長=0.15418nm)
出力:40kV、20mA
サンプリング幅:0.010°
走査範囲:10°~35°
スキャンスピード:0.5°/min
【0020】
ブラッグの式:2dsinθ=nλ
ここで、dは1周期の長さ、θは回折角度、nは反射次数、λはX線波長を示している。
【0021】
黒鉛質粒子としては、塊状の天然黒鉛を粉砕して得られたものを用いてもよい。なお、塊状の天然黒鉛を粉砕して得られた黒鉛質粒子には不純物が含まれていることがあるため、天然黒鉛を精製処理によって高純度化することが好ましい。
天然黒鉛の精製処理の方法は特に制限されず、通常用いられる精製処理方法から適宜選択することができる。例えば、浮遊選鉱、電気化学処理、薬品処理等を挙げることができる。
【0022】
天然黒鉛の純度は、質量基準で、99.8%以上(灰分0.2%以下)であることが好ましく、99.9%以上(灰分0.1%以下)であることがより好ましい。純度が99.8%以上であることで電池の安全性がより向上し、電池性能がより向上する傾向にある。
天然黒鉛の純度は、例えば、100gの黒鉛を空気雰囲気で800℃の炉に48時間以上静置したのち、灰分に由来する残量を測定することで算出することができる。
【0023】
黒鉛質粒子としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂系材料、石油、石炭等から得られるピッチ系材料などを焼成して得られる人造黒鉛を粉砕したものを用いてもよい。
【0024】
人造黒鉛を得るための方法としては、特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂、ナフタレン、アントラセン、フェナントロリン、コールタール、タールピッチ等の原料を800℃以上の不活性雰囲気中でか焼して、焼成物である人造黒鉛を得る方法が挙げられる。次いで、得られた焼成物をジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法により粉砕し、2μm~40μm程度に体積平均粒子径を調整することで人造黒鉛由来の黒鉛質粒子を作製することができる。また、か焼する前に予め原料に熱処理を施してもよい。原料に熱処理を施す場合は、例えば、オートクレーブ等の機器により予め熱処理を施し、既知の方法により粗粉砕した後、上記と同様に800℃以上の不活性雰囲気中で熱処理された原料をか焼し、得られた焼成物である人造黒鉛を粉砕して2μm~40μm程度に体積平均粒子径を調整することで人造黒鉛由来の黒鉛質粒子を得ることができる。
【0025】
黒鉛質粒子は、黒鉛以外の他の材料によって改質されていてもよい。黒鉛質粒子は、例えば、核となる黒鉛の表面に低結晶炭素層を有していてもよい。黒鉛質粒子が黒鉛の表面に低結晶炭素層を有する場合、黒鉛1質量部に対する低結晶炭素層の比率(質量比)は0.005~10であることが好ましく、0.005~5であることがより好ましく、0.005~0.08であることがさらに好ましい。黒鉛に対する低結晶炭素層の比率(質量比)が0.005以上であると、初期充放電効率及び寿命特性に優れる傾向にある。また、10以下であると、出力特性に優れる傾向にある。
黒鉛質粒子が黒鉛以外の他の材料によって改質されている場合、黒鉛質粒子に含まれる黒鉛及び黒鉛以外の他の材料の含有率は、例えば、TG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis、示差熱-熱重量同時測定)を用いて、空気気流中での重量変化を測定し、500℃から600℃まで昇温したときの重量減少比率に基づいて算出することができる。このとき、500℃から600℃までの温度域における重量変化を、黒鉛以外の他の材料由来の重量変化に帰属することができる。一方、加熱処理終了後の残部を、黒鉛の量に帰属することができる。
【0026】
黒鉛質粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける、1580cm-1~1620cm-1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm-1~1400cm-1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)は、特に制限されない。例えば、当該ラマンR値は、0.10~0.60であることが好ましく、0.15~0.55であることがより好ましく、0.20~0.50であることがさらに好ましい。
ラマンスペクトルは、ラマン分光装置(例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック製、DXR)を用いて測定することができる。
【0027】
-平均円形度が0.94以下である炭素粒子-
一実施形態において、負極は、フロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.94以下である炭素粒子(以下、単に「炭素粒子」ともいう)を含んでいてもよい。本開示において「炭素粒子」とは、炭素粒子であって、粒度分布及び円形度分布(平均円形度、特定範囲における円形度の標準偏差等)の少なくとも一方が前述の「黒鉛質粒子」のものと異なる集合を包括的に表す。炭素粒子の材質は黒鉛質粒子と同じであってもよく、異なっていてもよい。
炭素粒子としては、鱗片状天然黒鉛、鱗片状天然黒鉛を球形化した球状天然黒鉛等の天然黒鉛類、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。入力特性の観点からは、炭素粒子は天然黒鉛を含むことが好ましい。
【0028】
炭素粒子の平均円形度は0.94以下であり、好ましくは0.81~0.94であり、より好ましくは0.85~0.92である。平均円形度が0.94以下であると、入力特性とサイクル特性を向上させることができる傾向にある。この理由は必ずしも明らかではないが、平均円形度が0.94以下である炭素粒子を含有させることで効率的な導電パスを得やすいことが一因と推測される。
炭素粒子の平均円形度は、黒鉛質粒子の平均円形度と同様の方法で測定することができる。
【0029】
炭素粒子について、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲での、円形度の標準偏差は特に限定されない。例えば、当該標準偏差は、0.06~0.65であってもよく、0.10~0.60であってもよく、0.10を超え0.60以下であってもよい。
【0030】
炭素粒子について、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%であるときの円形度は特に制限されない。例えば、当該円形度は0.40~0.85であってもよく、0.40以上0.85未満であってもよく、0.45~0.80であってもよく、0.45以上0.80未満であってもよく、0.45~0.69であってもよく、0.45~0.65であってもよい。
【0031】
炭素粒子の体積平均粒子径は特に制限されず、0.5μm~15μmであることが好ましく、1μm~10μmであることがより好ましく、1μm~7μmであることがさらに好ましい。炭素粒子の体積平均粒子径が0.5μm~15μmの範囲であると、電解液の過剰な分解が抑制されサイクル特性を向上させることができる傾向にある。炭素粒子の体積平均粒子径は、黒鉛質粒子の体積平均粒子径と同様の方法によって測定することができる。
【0032】
炭素粒子のBET比表面積は特に制限されず、2m/g~50m/gであることが好ましく、2m/g~40m/gであることがより好ましく、3m/g~30m/gであることがさらに好ましい。炭素粒子のBET比表面積が2m/g~50m/gの範囲であると、電解液の過剰な分解が抑制され入力特性を向上させることができる傾向にある。炭素粒子のBET比表面積は、黒鉛質粒子のBET比表面積と同様の方法によって測定することができる。
【0033】
炭素粒子における、X線回折法により求められる平均面間隔(d002)は、0.3354nm~0.3400nmであることが好ましく、0.3354nm~0.3380nmであることがより好ましい。炭素粒子の平均面間隔(d002)が0.3400nm以下であると、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率とエネルギー密度の双方に優れる傾向にある。
【0034】
炭素粒子の平均面間隔(d002)の値は、例えば、負極材を作製する際の熱処理の温度を高くすることで小さくなる傾向がある。したがって、負極材を作製する際の熱処理の温度を調節することで、負極材の平均面間隔(d002)を制御することができる。
【0035】
炭素粒子は、必要に応じて当該炭素粒子とは異なる炭素性物質をその表面の少なくとも一部に有していてもよい。
【0036】
炭素粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける1580cm-1~1620cm-1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm-1~1400cm-1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)は特に制限されない。例えば、当該ラマンR値は、0.10~1.00であることが好ましく、0.20~0.80であることがより好ましく、0.20~0.70であることがさらに好ましい。ラマンR値が0.10以上であると、リチウムイオンの挿入及び脱離に用いられる格子欠陥が充分存在し、入出力特性の低下が抑制される傾向にある。R値が1.00以下であると、電解液の分解反応が充分に抑制され、初回効率の低下が抑制される傾向にある。
【0037】
負極が黒鉛質粒子と炭素粒子とを含む場合、負極材における黒鉛質粒子と炭素粒子の質量比(黒鉛質粒子:炭素粒子)は、51:49~99:1であることが好ましく、65:35~98:2であることがより好ましく、80:20~95:5であることがさらに好ましい。
【0038】
負極が黒鉛質粒子と炭素粒子とを含む場合、炭素粒子の体積平均粒子径は黒鉛質粒子の体積平均粒子径よりも小さいことが好ましい。これにより、サイクル特性が向上する傾向にある。
また、負極が黒鉛質粒子と炭素粒子とを含む場合、黒鉛質粒子と炭素粒子の体積平均粒子径の比(黒鉛質粒子:炭素粒子)は10:0.1~10:9であることが好ましく、10:0.3~10:8であることがより好ましく、10:0.5~10:5であることがさらに好ましい。黒鉛粒子と炭素粒子の体積平均粒子径の比が10:0.1~10:9であると、優れたパルス充電特性、サイクル特性、及び保存特性が得られやすい傾向にある。
【0039】
負極が黒鉛質粒子と炭素粒子とを含む場合、負極が、特定範囲における円形度の標準偏差が、0.05~0.10である黒鉛質粒子と、平均円形度が0.94以下である炭素粒子と、を含むことは以下のように確認することができる。負極に用いられる負極材を、超音波分離装置(例えば、アズワン株式会社、ASU-6D)によって、黒鉛質粒子と炭素粒子とに分離する。得られた黒鉛質粒子及び炭素粒子について、前述のように特定範囲における円形度の標準偏差及び平均円形度を求める。
【0040】
(その他の粒子)
負極は、負極活物質として、黒鉛質粒子及び必要に応じて含まれる上述の炭素粒子以外の粒子を含んでもよい。例えば、酸化錫、酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、Si等のリチウムと合金形成可能な材料などの粒子を併用してもよい。これらの粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
一実施形態において、負極は、負極活物質として、珪素原子を含有する粒子を含んでもよい。珪素原子を含有する粒子は、ケイ素(Si)及びその他の含ケイ素化合物から選択することができ、容量、サイクル特性等の観点からケイ素酸化物であることが好ましい。ケイ素酸化物としては、ケイ素を含む酸化物であればよく、例えば、一酸化ケイ素(酸化ケイ素ともいう)、二酸化ケイ素、及び亜酸化ケイ素が挙げられる。これらは1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ケイ素酸化物の中で、酸化ケイ素及び二酸化ケイ素は、一般的には、それぞれ一酸化ケイ素(SiO)及び二酸化ケイ素(SiO)として表されるが、表面状態(例えば、酸化皮膜の存在)、化合物の生成状況によって、含まれる元素の実測値(又は換算値)として組成式SiOx(xは0<x≦2)で表される場合があり、この場合もケイ素酸化物とする。なお、xの値は、例えば、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法にてケイ素酸化物中に含まれる酸素を定量することにより算出することができる。また、粒子Aの製造工程中に、ケイ素酸化物の不均化反応(2SiO→Si+SiO)を伴う場合は、化学反応上、ケイ素及び二酸化ケイ素(場合によって酸化ケイ素)を含む状態で表される場合があり、この場合もケイ素酸化物とする。
【0042】
ケイ素酸化物の不均化反応によりケイ素酸化物粒子を作製する場合、原料となるケイ素酸化物は、例えば、二酸化ケイ素と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素の気体を冷却及び析出させる公知の昇華法にて得ることができる。また、酸化ケイ素、一酸化ケイ素、Silicon Monoxide等として市場から入手することができる。
【0043】
珪素原子を含有する粒子は、ケイ素酸化物粒子中にケイ素の結晶子が分散した構造を有していてもよい。ケイ素酸化物粒子中にケイ素の結晶子が存在しているか否かは、例えば、粉末X線回折(XRD)測定により確認することができる。ケイ素酸化物粒子中にケイ素の結晶子が存在している場合は、波長0.15418nmのCuKα線を線源とする粉末X線回折(XRD)測定を行ったとき、2θ=28.4°付近にSi(111)に由来する回折ピークが観察される。ケイ素酸化物中にケイ素の結晶子が存在すると、初期の放電容量の高容量化と良好な初期の充放電効率が得られやすい。
【0044】
金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵、及び放出可能なものであれば特に制限はなく、Ti、Li又はTi及びLiの双方を含有するものが、放電特性の観点で好ましい。
【0045】
負極材が負極活物質として黒鉛質粒子及び必要に応じて含まれる上述の炭素粒子以外の粒子を含有する場合、負極材に占める黒鉛質粒子及び炭素粒子以外の粒子の割合は、0.5質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~15質量%であることがより好ましい。
【0046】
〔負極の具体的構成〕
以下に、一実施形態における負極の具体的構成について説明する。なお、本開示のリチウムイオン二次電池に用いられる負極は、以下の具体的構成に限定されない。
【0047】
一実施形態において、負極(負極板)は、集電体(負極集電体)及びその表面に配置された負極合剤層を有する。負極合剤層は、集電体の表面に配置された負極活物質を含む負極合剤の層である。本開示において、負極合剤は、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が、0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む。
【0048】
次に、負極合剤層及び集電体について詳細に説明する。負極合剤層は、負極活物質、必要に応じて用いられる結着剤等を含有し、集電体上に配置される。負極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。負極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電材、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて負極合剤のスラリーとし、これを集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで負極合剤層を形成することができる。
【0049】
負極合剤層中の負極材の含有率は、電池の高容量化の観点から、負極合剤層全量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。ここで、負極材とは、フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が、0.05~0.10である黒鉛質粒子、及び必要に応じて含まれるその他の負極活物質を合わせた負極材料とする。
【0050】
負極用の導電材としては、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材に係る黒鉛質粒子以外の天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素などを用いることができる。負極用の導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このように、導電材を添加することにより、電極の抵抗を低減する等の効果を奏する傾向にある。
【0051】
負極合剤層の質量に対する導電材の含有率は、導電性の向上及び初期不可逆容量の低減の観点から、1質量%~45質量%であることが好ましく、2質量%~42質量%であることがより好ましく、3質量%~40質量%であることがさらに好ましい。導電材の含有率が1質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電材の含有率が45質量%以下であると、電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0052】
負極用の結着剤としては、非水電解液又は電極の形成の際に用いる分散溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、負極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、SBR、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子等を用いることが好ましい。
【0053】
負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、0.6質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、負極活物質を充分に結着でき、充分な負極合剤層の機械的強度が得られる傾向にある。結着剤の含有率が20質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0054】
なお、結着剤として、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として用いる場合の負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、1質量%~15質量%であることが好ましく、2質量%~10質量%であることがより好ましく、3質量%~8質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
増粘剤は、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
増粘剤を用いる場合の負極合剤層の質量に対する増粘剤の含有率は、入出力特性及び電池容量の観点から、0.1質量%~5質量%であることが好ましく、0.5質量%~3質量%であることがより好ましく、0.6質量%~2質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、負極活物質、及び必要に応じて用いられる結着剤、導電材又は増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒又は有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコール及び水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。有機系溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤を用いることが好ましい。
【0058】
集電体上に形成された負極合剤層は、負極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
圧密化した負極合剤層の密度は、0.7g/cm~2g/cmであることが好ましく、0.8g/cm~1.9g/cmであることがより好ましく、0.9g/cm~1.8g/cmであることがさらに好ましい。
負極合剤層の密度が0.7g/cm以上であると、負極活物質間の導電性が向上し電池抵抗の増加を抑制することができ、単位容積あたりの容量を向上できる傾向にある。負極合剤層の密度が2g/cm以下であると、初期不可逆容量の増加及び集電体と負極活物質との界面付近への非水電解液の浸透性の低下による放電特性の劣化を招く恐れが少なくなる傾向にある。
また、負極合剤層を形成する際の負極合剤のスラリーの集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、負極合剤の固形分として、30g/m~150g/mであることが好ましく、40g/m~140g/mであることがより好ましく、45g/m~130g/mであることがさらに好ましい。
負極合剤のスラリーの集電体への片面塗布量及び負極合剤層の密度を考慮すると、負極合剤層の平均厚みは、10μm~150μmであることが好ましく、15μm~140μmであることがより好ましく、15μm~120μmであることがさらに好ましい。
【0059】
負極用の集電体の材質としては特に制限はなく、具体例としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。中でも、加工のし易さとコストの観点から銅が好ましい。
【0060】
集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。具体例としては、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられる。中でも、金属薄膜が好ましく、銅箔がより好ましい。銅箔には、圧延法により形成された圧延銅箔と、電解法により形成された電解銅箔とがあり、どちらも集電体として好適である。
【0061】
集電体の平均厚みは特に限定されない。例えば、5μm~50μmであることが好ましく、8μm~40μmであることがより好ましく、9μm~30μmであることがさらに好ましい。
なお、集電体の平均厚みが25μm未満の場合、純銅よりも強銅合金(リン青銅、チタン銅、コルソン合金、Cu-Cr-Zr合金等)を用いることでその強度を向上させることができる。
【0062】
<正極>
本開示のリチウムイオン二次電池に用いられる正極(以下、単に「正極」という場合がある)は、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む。当該リチウム化合物は正極活物質として機能しうるものである。
これらのリチウム化合物を正極として用いることにより、上述した負極によってもたらされる性能が効果的に発揮可能となる。例えば、上記正極を、既述の負極と組み合わせることによって、不可逆容量が小さく、パルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、当該リチウムイオン二次電池は保存特性にも優れる傾向にある。
【0063】
なお、上記リチウム化合物の化学式中に示されていないが、リチウムのモル比は1に限定されるものではなく、充放電により増減する値である。例えば、上記リチウム化合物の化学式中のリチウムのモル比は、0を超え1.2以下の範囲であってよい。
【0064】
また、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)で示されるリチウム化合物において、エネルギー密度の観点から、0.2<x<1であることが好ましく、0.2<x<0.9であることがより好ましい。また、入手容易性等の観点からは、0<y<0.8であることが好ましく、0<y<0.5であることがより好ましく、0.1<y<0.5であることがさらに好ましい。中でも、0.2<x<1、且つ、0<y<0.5であることが好ましい。
【0065】
LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)で示されるリチウム化合物としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi5/10Mn3/10Co2/10、LiNi6/10Mn2/10Co2/10、LiNi8/10Mn1/10Co1/10等が挙げられる。
【0066】
LiNi2-xMn(0<x≦2)で示されるリチウム化合物において、0.4<x≦2であることが好ましく、0.4<x<2であってもよい。
【0067】
LiNi2-xMn(0<x≦2)で示されるリチウム化合物としては、例えば、LiNi0.5Mn1.5、LiMn等が挙げられる。
【0068】
これらのリチウム化合物の中でも、サイクル特性及び熱安定性の観点からは、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、LiFePOがより好ましい。エネルギー密度、初期充放電効率、パルス充電特性、保存特性等のバランスの観点からは、LiNiMnCo1-x-yが好ましい。
【0069】
上記リチウム化合物は、さらに異種金属、セラミックス等で修飾されていてもよい。
この場合の修飾方法及び修飾状態は特に制限されない。例えば、正極に用いられる上記リチウム化合物の一部が異種金属、セラミックス等により置換されていてもよい。また、上記リチウム化合物の粒子の表面に、異種金属、セラミックス等が付着又は被覆していてもよい。
修飾に用いられる物質は特に制限されず、Al、Mg等の金属、MgO、ZnO、CeO、LiTi12等の酸化物などを使用することができる。
【0070】
上記リチウム化合物は、粒子の状態で、正極活物質として用いられる。粒子形状は特に制限されず、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等であってもよい。
【0071】
正極活物質の粒子の体積平均粒子径(d50)(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子の体積平均粒子径(d50))は、タップ密度(充填性)、電極の形成の際における他の材料との混合性の観点から、1μm~30μmであることが好ましく、3μm~25μmであることがより好ましく、5μm~15μmであることがさらに好ましい。正極活物質の粒子の体積平均粒子径(d50)は、黒鉛質粒子の場合と同様にして測定することができる。
【0072】
正極活物質の粒子のBET比表面積の範囲は、0.2m/g~4.0m/gであることが好ましく、0.3m/g~2.5m/gであることがより好ましく、0.4m/g~1.5m/gであることがさらに好ましい。
正極活物質の粒子のBET比表面積が0.2m/g以上であると、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、正極活物質の粒子のBET比表面積が4.0m/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電材等の他の材料との混合性が良好になる傾向にある。BET比表面積は、黒鉛質粒子の場合と同様にして測定することができる。
【0073】
正極は、上記リチウム化合物に加えて、その他の正極活物質を含んでもよい。上記リチウム化合物以外の正極活物質としては、この分野で常用されるものを使用してもよい。例えば、上記リチウム化合物以外のリチウム含有複合金属酸化物、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。
【0074】
リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBが挙げられ、Mn、Al、Co、Ni及びMgが好ましい。異種元素は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
併用してもよいリチウム含有複合金属酸化物としては、LiNiO、LiCoNi1-y、LiCo 1-y(LiCo 1-y中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、LiNi1-y (LiNi1-y 中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)等が挙げられる。ここで、xは0<x≦1.2の範囲であり、yは0~0.9の範囲であり、zは2.0~2.3の範囲である。また、リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。
カルコゲン化合物としては、二硫化チタン、二硫化モリブデン等が挙げられる。これらの正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物の合計含有率は、エネルギー密度の観点から、正極合剤層全量に対して65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0076】
〔正極の具体的構成〕
以下に、一実施形態における正極の具体的構成について説明する。なお、本開示のリチウムイオン二次電池に用いられる正極は、以下の実施形態に限定されない。
【0077】
一実施形態において、正極(正極板)は、集電体(正極集電体)及びその表面に配置された正極合剤層を有する。正極合剤層は、集電体の表面に配置された少なくとも正極活物質を含む層である。正極合剤は、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む。
【0078】
次に、正極合剤層及び集電体について詳細に説明する。正極合剤層は、正極活物質、必要に応じて用いられる結着剤等を含有し、集電体上に配置される。正極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。正極活物質、及び必要に応じて用いられる結着剤、導電材、増粘剤等の材料を乾式で混合してシート状にし、これを集電体に圧着する(乾式法)ことで正極合剤層を形成することができる。または、正極活物質、及び必要に応じて用いられる結着剤、導電材、増粘剤等の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて正極合剤のスラリーとし、これを集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで正極合剤層を形成することができる。
正極活物質、及び必要に応じて用いられる結着剤、導電材、増粘剤等の材料の混合は、撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置を用いて行うことができる。
【0079】
正極用の導電材としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料などが挙げられる。なお、正極用の導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
正極合剤層の質量に対する導電材の含有率は、0.01質量%~50質量%であることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、1質量%~15質量%であることがさらに好ましい。導電材の含有率が0.01質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電材の含有率が50質量%以下であると、電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0081】
正極用の結着剤としては、特に限定されず、湿式法により正極合剤層を形成する場合には、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、セルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、正極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極の安定性の観点から、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)又はポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0082】
正極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~60質量%であることが好ましく、1質量%~40質量%であることがより好ましく、3質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、正極活物質を充分に結着でき、充分な正極合剤層の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が向上する傾向にある。結着剤の含有率が60質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0083】
増粘剤は、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
増粘剤を用いる場合の正極合剤層の質量に対する増粘剤の含有率は、入出力特性及び電池容量の観点から、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、1質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0085】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、正極活物質、及び必要に応じて用いられる結着剤、導電材又は増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒又は有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコール及び水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。有機系溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤を用いることが好ましい。
【0086】
湿式法又は乾式法を用いて集電体上に形成された正極合剤層は、正極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
圧密化した正極合剤層の密度は、入出力特性及び安全性のさらなる向上の観点から、2.5g/cm~3.5g/cmの範囲であることが好ましく、2.55g/cm~3.15g/cmの範囲であることがより好ましく、2.6g/cm~3.0g/cmの範囲であることがさらに好ましい。
また、正極合剤層を形成する際の正極合剤のスラリーの集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、正極合剤の固形分として、30g/m~170g/mであることが好ましく、40g/m~160g/mであることがより好ましく、40g/m~150g/mであることがさらに好ましい。
正極合剤のスラリーの集電体への片面塗布量及び正極合剤層の密度を考慮すると、正極合剤層の平均厚みは、19μm~68μmであることが好ましく、23μm~64μmであることがより好ましく、36μm~60μmであることがさらに好ましい。本開示において、合剤層の平均厚みは、任意の10箇所における厚みの平均値とする。
【0087】
正極用の集電体の材質としては特に制限はなく、中でも金属材料が好ましい。金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金が挙げられる。中でも、集電体としてはアルミニウムが好ましい。
【0088】
集電体の形状としては特に制限はなく、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等、種々の形状に加工された材料を用いることができる。金属材料については、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等の形状としたものが挙げられ、中でも、金属薄膜を用いることが好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0089】
集電体の平均厚みは特に限定されるものではなく、集電体として必要な強度及び良好な可とう性が得られる観点から、1μm~1mmであることが好ましく、3μm~100μmであることがより好ましく、5μm~100μmであることがさらに好ましい。
【0090】
正極は、負極と同様に、リチウムイオン二次電池用正極材及び有機結着材を溶剤とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、正極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して正極合剤層を形成する、又は、ペースト状の正極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0091】
本開示のリチウムイオン二次電池に用いられる負極と正極とは、上述した負極及び正極の範囲内であれば特に制限なく組み合わせて用いることができる。
【0092】
なお、負極活物質として珪素原子を含有する粒子を用いる場合、容量の観点からは、鉄又はニッケルを含む正極を用いることが好ましい。例えば、負極がSiOを含有する粒子を含む場合には、容量及び効率の観点から、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)を含む正極と組み合わせることが好ましい。また、負極がSiを含有する粒子を含む場合には、効率の観点から、LiCoOを含む正極と組み合わせることが好ましい。サイクル性の観点からは、負極がSiOを含む場合、及び負極がSiを含む場合のいずれであっても、LiFePOを含む正極と組み合わせることが好ましい。
【0093】
<電解質>
リチウムイオン二次電池は、電解質としてリチウム塩を含む。
リチウム塩としては、リチウムイオン二次電池用の非水電解液の電解質として使用可能なリチウム塩であれば特に制限はなく、以下に示す無機リチウム塩、含フッ素有機リチウム塩、オキサラトボレート塩等が挙げられる。
無機リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF等の無機フッ化物塩、LiClO、LiBrO、LiIO等の過ハロゲン酸塩、LiAlCl等の無機塩化物塩などが挙げられる。
含フッ素有機リチウム塩としては、LiCFSO等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CFSO等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;Li[PF(CFCFCF)]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF)]、Li[PF(CFCFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩などが挙げられる。
オキサラトボレート塩としては、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等が挙げられる。
リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、溶媒に対する溶解性、リチウムイオン二次電池とした場合の充放電特性、出力特性、サイクル特性等を総合的に判断すると、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が好ましい。
【0094】
電解質は、非水電解液中に存在してもよい。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とリチウム塩(電解質)とを含む。
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート及び環状スルホン酸エステルが挙げられる。
環状カーボネートとしては、環状カーボネートを構成するアルキレン基の炭素数が2~6のものが好ましく、2~4のものがより好ましい。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが好ましい。
鎖状カーボネートとしては、ジアルキルカーボネートが好ましく、2つのアルキル基の炭素数が、それぞれ1~5のものが好ましく、1~4のものがより好ましい。ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート等の対称鎖状カーボネート類;エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート等の非対称鎖状カーボネート類などが挙げられる。中でも、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートが好ましい。ジメチルカーボネートはジエチルカーボネートよりも耐酸化性及び耐還元性に優れるためサイクル特性を向上させやすい傾向にある。エチルメチルカーボネートは、分子構造が非対称であり、融点が低いため低温特性を向上させることができる傾向にある。エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを組み合わせた混合溶媒が、広い温度範囲で電池特性を確保できるため特に好ましい。
環状カーボネート及び鎖状カーボネートの含有率は、電池特性の観点から、非水溶媒全量を基準として、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
また、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合の環状カーボネート及び鎖状カーボネートの混合割合は、電池特性の観点から、環状カーボネート/鎖状カーボネート(体積比)が1/9~6/4であることが好ましく、2/8~5/5であることがより好ましい。
環状スルホン酸エステルとしては、1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、1,4-ブテンスルトン等が挙げられる。中でも、1,3-プロパンスルトン及び1,4-ブタンスルトンがより直流抵抗を低減できる観点から特に好ましい。
非水電解液は、さらに、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、環状スルホン等を含んでいてもよい。
鎖状エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。中でも、低温特性の改善の観点から酢酸メチルを用いることが好ましい。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等が挙げられる。
環状スルホンとしては、スルホラン、3-メチルスルホラン等が挙げられる。
【0095】
非水電解液は、リン酸シリルエステル化合物を含有していてもよい。
リン酸シリルエステル化合物の具体例としては、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸ジメチルトリメチルシリル、リン酸メチルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジエチルトリメチルシリル、リン酸エチルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジプロピルトリメチルシリル、リン酸プロピルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジブチルトリメチルシリル、リン酸ブチルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジオクチルトリメチルシリル、リン酸オクチルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジフェニルトリメチルシリル、リン酸フェニルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジ(トリフルオロエチル)(トリメチルシリル)、リン酸トリフルオロエチルビス(トリメチルシリル)、前述のリン酸シリルエステルのトリメチルシリル基をトリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等で置換した化合物、リン酸エステル同士が縮合してリン原子が酸素を介して結合した、いわゆる縮合リン酸エステルの構造を有する化合物などが挙げられる。
これらの中でもリン酸トリス(トリメチルシリル)(TMSP)を用いることが好ましい。リン酸トリス(トリメチルシリル)は、他のリン酸シリルエステル化合物と比較して、より少ない添加量で、抵抗上昇を抑制することができる。
これらのリン酸シリルエステルは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
非水電解液がリン酸シリルエステル化合物を含有する場合、リン酸シリルエステル化合物の含有率は、非水電解液の全量に対して0.1質量%~5質量%であることが好ましく、0.3質量%~3質量%であることがより好ましく、0.4質量%~2質量%であることがさらに好ましい。
特に、非水電解液がリン酸トリス(トリメチルシリル)(TMSP)を含有する場合、リン酸トリス(トリメチルシリル)(TMSP)の含有率は、非水電解液の全量に対して0.1質量%~0.5質量%であることが好ましく、0.1質量%~0.4質量%であることがより好ましく、0.2質量%~0.4質量%であることがさらに好ましい。TMSPの含有率が上記範囲であると、薄いSEI(Solid Electrolyte Interphase)の作用等によって、寿命特性を向上させることができる傾向にある。
【0096】
また、非水電解液は、ビニレンカーボネート(VC)を含有してもよい。VCを用いることにより、リチウムイオン二次電池の充電の際に、負極の表面に安定な被膜が形成される。この被膜は負極表面での非水電解液の分解を抑制する効果を有する。
ビニレンカーボネートの含有率は、非水電解液の全量に対し0.3質量%~1.6質量%であることが好ましく、0.3質量%~1.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%~1.3質量%であることがさらに好ましい。ビニレンカーボネートの含有率が上記範囲であると、寿命特性を向上させることができ、リチウムイオン二次電池の充放電の際に過剰のVCが分解されて充放電効率を低下させる作用を防ぐことができる傾向にある。
【0097】
非水電解液中の電解質の濃度に特に制限はない。電解質の濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、0.6mol/L以上であることがより好ましく、0.7mol/L以上であることがさらに好ましい。また、電解質の濃度は、2mol/L以下であることが好ましく、1.8mol/L以下であることがより好ましく、1.7mol/L以下であることがさらに好ましい。電解質の濃度が0.5mol/L以上であると、非水電解液の電気伝導度が充分となる傾向にある。電解質の濃度が2mol/L以下であると、非水電解液の粘度上昇が抑制されるため、電気伝導度が上昇する傾向にある。非水電解液の電気伝導度が上昇することにより、リチウムイオン二次電池の性能が向上する傾向にある。
【0098】
<セパレータ>
リチウムイオン二次電池は、セパレータを有していてもよい。
セパレータは、正極及び負極間を電子的には絶縁しつつもイオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物等が用いられる。
樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。非水電解液に対して安定で、保液性の優れた材料の中から選ぶのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等を用いることが好ましい。
無機物としては、アルミナ、二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物類、ガラスなどが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布としたもの、織布としたもの又は微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。薄膜形状の基材としては、孔径が0.01μm~1μmであり、平均厚みが5μm~50μmのものが好適に用いられる。また、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、樹脂等の結着剤を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることもできる。また、この複合多孔層を他のセパレータの表面に形成し、多層セパレータとしてもよい。さらに、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。
【0099】
<その他の構成部材>
リチウムイオン二次電池はその他の構成部材を有していてもよい。例えば、リチウムイオン二次電池は、開裂弁を設けてもよい。開裂弁が開放することで、電池内部の圧力上昇を抑制でき、安全性を向上させることができる。
また、温度上昇に伴い不活性ガス(例えば、二酸化炭素)を放出する構成部材を設けてもよい。このような構成部材を設けることで、電池内部の温度が上昇した場合に、不活性ガスの発生により速やかに開裂弁を開けることができ、安全性を向上させることができる。上記構成部材に用いられる材料としては、炭酸リチウム、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等が好ましい。
【0100】
〔リチウムイオン二次電池の具体的態様〕
次に、図面を参照して、本開示を18650タイプの円柱状リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。図1は、本開示の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池の断面図である。
図1に示すように、本開示のリチウムイオン二次電池1は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器6を有している。電池容器6には、帯状の正極板2及び負極板3がポリエチレン製多孔質シートのセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回された電極捲回群5が収容されている。セパレータ4は、例えば、幅が58mm、平均厚みが30μmに設定される。電極捲回群5の上端面には、一端部を正極板2に固定されたアルミニウム製でリボン状の正極タブ端子が導出されている。正極タブ端子の他端部は、電極捲回群5の上側に配置され正極外部端子となる円盤状の電池蓋の下面に超音波溶接で接合されている。一方、電極捲回群5の下端面には、一端部を負極板3に固定された銅製でリボン状の負極タブ端子が導出されている。負極タブ端子の他端部は、電池容器6の内底部に抵抗溶接で接合されている。従って、正極タブ端子及び負極タブ端子は、それぞれ電極捲回群5の両端面の互いに反対側に導出されている。なお、電極捲回群5の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。電池蓋は、絶縁性の樹脂製ガスケットを介して電池容器6の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池1の内部は密封されている。また、電池容器6内には、図示しない非水電解液が注液されている。
【0101】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、
フロー式粒子解析計で求められる円形度に対する累積頻度分布において、前記円形度が低い側からの累積頻度が10個数%~90個数%である範囲で、円形度の標準偏差が0.05~0.10である黒鉛質粒子を含む負極合剤を、負極集電体の表面に配置して、負極を作製する工程と、
LiCoO、LiNiMnCo1-x-y(0<x<1、0<y<1、x+y<1)、LiNi2-xMn(0<x≦2)及びLiFePOからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を含む正極合剤を、正極集電体の表面に配置して、正極を作製する工程と、
を含む。
上記黒鉛質粒子、負極合剤、負極集電体、負極、リチウム化合物、正極合剤、正極集電体、正極の詳細は前述した通りである。
【実施例
【0102】
以下、本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
[正極板の作製]
正極板の作製を以下のように行った。正極活物質として(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が6.5μm)を用いた。この正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック(商品名:HS-100、体積平均粒子径48nm(デンカ株式会社カタログ値)、デンカ株式会社製)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを順次添加し、混合することにより正極材料の混合物を得た。質量比は、正極活物質:導電材:結着剤=80:13:7とした。さらに上記混合物に対し、分散溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、混練することによりスラリーを形成した。このスラリーを正極用の集電体である平均厚みが20μmのアルミニウム箔の両面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度2.7g/cmまでプレスにより圧密化した。
【0104】
[負極板の作製]
負極板の作製を以下のように行った。
負極活物質として表1に記載の体積平均粒子径(d50)、特定範囲における円形度の標準偏差(円形度の標準偏差)、円形度が低い側からの累積頻度が10個数%であるときの円形度(10個数%円形度)、ラマンR値(R値)、及びBET比表面積(BET)を示す黒鉛質粒子(C軸方向の面間隔d002=0.336nm)を用いた。
この負極活物質に増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と結着剤としてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)を添加した。これらの質量比は、負極活物質:CMC:SBR=98:1:1とした。これに分散溶媒である精製水を添加し、混練することにより各実施例及び比較例のスラリーを形成した。このスラリーを負極用の集電体である平均厚みが10μmの圧延銅箔の両面に実質的に均等かつ均質に塗布した。負極合剤層の密度は1.3g/cmとした。
【0105】
[リチウムイオン二次電池の作製]
上記正極板及び負極板をそれぞれ所定の大きさに裁断し、裁断した正極と負極の間に平均厚み30μmのポリエチレンの単層セパレータ(商品名:ハイポア、旭化成株式会社製、「ハイポア」は登録商標)を挟んだ状態で捲回し、ロール状の電極体を形成した。このとき電極体の直径は、17.15mmになるよう、正極、負極、セパレータの長さを調整した。この電極体に集電用リードを付設し、18650型電池ケースに挿入し、次いで電池ケース内に非水電解液を注入した。非水電解液には環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)と、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、それぞれの体積比が2:3:2となるように混合した混合溶媒に、リチウム塩(電解質)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.2mol/Lの濃度で溶解させ、かつ、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%添加したものを用いた。最後に電池ケースを密封して、リチウムイオン二次電池を完成させた。
【0106】
[電池特性(初期充放電効率)の評価]
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下において、0.5Cで4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01Cになるまで定電圧充電した(充電1)。その後、0.5Cの定電流放電で、2.7Vまで放電した(放電1)。これを3サイクル実施した。なお、各充放電間には30分の休止を入れた。3サイクル実施後のリチウムイオン二次電池を、初期状態と称する。なお3サイクル実施後の放電容量を放電容量1とする。
初期充放電効率は、下記の式から算出した。結果を表1に示す。
初期充放電効率=(放電1の容量(mAh))/(充電1の容量(mAh))×100
【0107】
[パルス充電特性の評価]
パルス充電特性は、Liの析出状態から判断した。初期状態にした電池を-30℃の恒温槽内に電池内部が環境温度に近くなるように5時間静置した後、20C相当の電流値である20Aで5秒間充電したのちに、電池を解体して、Liの析出状態をSEM(Scanning electron microscope、株式会社キーエンス社製、SU3500)にて確認した。得られた結果を表1に示す。Liの析出が観察されない場合に、パルス充電特性に優れると判断した。
【0108】
[高温特性(保存特性)評価]
初期状態の電池を25℃の環境下において、0.5Cで4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01Cになるまで定電圧充電した。その後、60℃の環境下で90日間静置した。静置した電池を25℃の環境下で6時間置き、0.5Cの定電流放電で、2.7Vまで放電した。次いで、0.5Cで4.2Vまで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.01Cになるまで定電圧充電した。30分の休止後に0.5Cの定電流放電で、2.7Vまで放電した(放電2)このときの放電容量を放電容量2とする。保存特性は、以下のように評価した。
保存特性(%)=(放電容量2(mAh))/(放電容量1(mAh))×100
【0109】
<実施例2、8、9、及び比較例3>
正極活物質として(LiNi5/10Mn3/10Co2/10)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が6.5μm)を用い、負極活物質として表1に記載の黒鉛質粒子を用いた以外は実施例1と同様である。
【0110】
<実施例3>
正極活物質として(LiNi6/10Mn2/10Co2/10)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が6.5μm)を用いた以外は実施例1と同様である。
【0111】
<実施例4>
正極活物質として(LiNi8/10Mn1/10Co1/10)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が6.5μm)を用いた以外は実施例1と同様である。
【0112】
<実施例5、10、11>
正極活物質として(LiCoO)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が7.0μm)を用い、負極活物質として表1に記載の黒鉛質粒子を用いた以外は実施例1と同様である。
【0113】
<実施例6、12、13>
正極活物質として(LiFePO)(BET比表面積が0.4m/g、平均粒子径(d50)が10μm)を用い、負極活物質として表1に記載の黒鉛質粒子を用い、初期充放電効率、及び保存特性の評価における充電電圧を3.6Vとした以外は実施例1と同様である。
【0114】
<実施例7、14、15>
正極活物質としてスピネル型(LiMn)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が11μm)を用い、負極活物質として表1に記載の黒鉛質粒子を用いた以外は実施例1と同様である。
【0115】
<比較例1、4>
正極活物質として、(LiMnPO)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が10μm)を用い、負極活物質として表1に記載の黒鉛質粒子を用いた以外は実施例1と同様である。
【0116】
<比較例2>
正極活物質として(LiNiO)(BET比表面積が0.4m/g、体積平均粒子径(d50)が10μm)を用いた以外は実施例1と同様である。
【0117】
【表1】
【0118】
表1から明らかなように、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、初期充放電効率及びパルス充電特性に優れることが分かる。
【0119】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
【符号の説明】
【0120】
1…リチウムイオン二次電池、2…正極板、3…負極板、4…セパレータ、5…電極捲回群、6…電池容器
図1