(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】自己接着性シリコーンゲル組成物及びその硬化物からなるシリコーンゲル
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20220928BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20220928BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L83/07
C08K5/098
(21)【出願番号】P 2021511889
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013510
(87)【国際公開番号】W WO2020203597
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019069645
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-25232(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118992(WO,A1)
【文献】特開2018-53015(JP,A)
【文献】特開2004-323764(JP,A)
【文献】特開2003-213134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/05
C08L 83/07
C08K 5/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
R
aR
1
bSiO
(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R
1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001~0.2の正数であり、bは1.7~2.2の正数であり、但しa+bは1.9~2.4の正数である。)
で表される1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記平均組成式(2)
R
1
cSiO
(4-c)/2 (2)
(式中、R
1は上記と同じであり、cは1.9~2.4の正数である。)
で表されるオルガノポリシロキサン: 20~200質量部、
(C)下記平均組成式(3)
R
2
dH
eSiO
(4-d-e)/2 (3)
(式中、R
2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、dは0.7~2.2の正数であり、eは0.001~1の正数であり、但しd+eは0.8~3の正数である。)
で表される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 組成物全体中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.01~3個となる量、
(D)白金族金属系触媒: 有効量、
(E)下記一般式(4)
Si(OR
3)
4 (4)
(式中、R
3は独立に炭素原子数1~10の脂肪族一価炭化水素基である。)
で示される加水分解性シランの部分加水分解縮合物であり、該部分加水分解縮合物全体中における一般式(4)で示される加水分解性シランの残存率が1.0モル%以下であり、かつ該部分加水分解縮合物の含有率が99.0モル%以上である該部分加水分解縮合物: 0.1~30質量部、
(F)下記一般式(5)
(R
4COO)
fM (5)
(式中、R
4は同一又は異種の一価炭化水素基であり、Mはセリウム、鉄、ニッケル及びニオブから選ばれる金属原子であり、fは、Mがセリウム又は鉄の場合は3又は4、Mがニッケルの場合は2、Mがニオブの場合は4又は5である。)
で示されるカルボン酸金属塩:組成物全体の質量に対して1~1,000ppm
を含有し、(E)成分以外に加水分解性シランを含有しない
自己接着性シリコーンゲル組成物。
【請求項2】
前記一般式(4)において、R
3がメチル基、エチル基又はプロピル基である請求項1に記載の自己接着性シリコーンゲル組成物。
【請求項3】
硬化してJIS K2220で規定される針入度が10~100であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである請求項1又は2に記載の自己接着性シリコーンゲル組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の自己接着性シリコーンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化して優れた耐熱性を有し、かつ高温条件下においても各種の基材に対して優れた接着性を発現するシリコーンゲル硬化物を与える自己接着性シリコーンゲル組成物に係り、特に、銅、アルミニウムのような金属基材に対して接着性が良好で、かつ接着後に基材からの剥離やボイドの発生を抑制でき、高温条件下での絶縁耐圧性に優れたシリコーンゲル硬化物を与えるシリコーンゲル組成物及びその硬化物(シリコーンゲル)に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲル組成物は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び白金族金属系触媒を含有し、前記ケイ素原子に結合した水素原子のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物として調製される。このシリコーンゲル組成物を加熱することにより硬化したシリコーンゲル硬化物は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、低弾性率かつ低応力であることにより、車載電子部品、民生用電子部品等の電子部品の保護に用いられている。シリコーンゲル硬化物の特徴である低弾性率かつ低応力であることは、他のエラストマー製品には見られない。また、近年では、車載電子部品や民生用電子部品の高信頼性化などの要求から、封止に用いられるシリコーンゲル材料に対しては、150℃を超えるような非常に高い耐熱性、エンジニアリングプラスチックや銅などの電子部品に対する基材との高い接着性、また電子基板の絶縁耐圧性が高いシリコーンゲルの要求が高まっている。
【0003】
まず、耐熱性向上に関する研究について調査すると、一般的なシリコーンゴムにおいてはカーボン、酸化鉄等のフィラーを充填することが有効であることが分かる。しかし、低粘度、かつ透明性が要求されるシリコーンゲル材料としてはフィラーの充填による手段は、透明性の低下、フィラーの沈降、粘度増大に伴う作業性の低下などのデメリットが発生するため、容易に受け容れられる手段ではない。そのような背景のもと、特開2008-291148号公報(特許文献1)に記載されるような、セリウムの金属塩を用いた耐熱性付与や、特開2015-007203号公報(特許文献2)に記載されるような、鉄のカルボン酸塩を用いた耐熱付与、また特許第6409704号公報(特許文献3)に記載されるような、ニッケルやニオブのカルボン酸塩を用いた耐熱付与の手段があるが、いずれもシリコーンゲル中のフリーオイル量が多くなると、耐熱中にシリコーンゲルの軟化劣化が著しくなり、自重により形状を保持することができず軟化してしまうという欠点があるため、上記シリコーンゲルを使用した電子部品を縦置きして使用することができず、これらの不具合を解決する手法が望まれていた。
【0004】
次に、耐熱性向上に関する研究については、特公平07-098902号公報(特許文献4)、特許第5025917号公報(特許文献5)、特許第5179302号公報(特許文献6)、特許第5587148号公報(特許文献7)、特許第5602385号公報(特許文献8)、特許第5631964号公報(特許文献9)、特開2002-338833号公報(特許文献10)などは、高接着性を発現するような接着成分、すなわち分子内にメトキシ基、エトキシ基等の分子内に加水分解性基と、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアヌル基等の官能性基を有するシランカップリング剤を用いる接着性の向上が挙げられている。しかしながら、上記のような加水分解性基を有する物質を添加した場合、水分との加水分解により生じた副生成物、すなわちメタノールやエタノール等のアルコールが電子材料から放出される熱によりガス化することで、基材との界面から剥離したり、ボイドと呼ばれる空隙が発生するという問題を生じるため、絶縁耐圧性の低下や使用するシランカップリング剤によっては、硬化触媒として使用する白金触媒の触媒能を低下させるため、経時で柔軟性が変化したり、未硬化となったりしてしまうという問題もあった。また、特開昭63-199276号公報(特許文献11)、特公平04-078655号公報(特許文献12)、特公平05-067673号公報(特許文献13)、特許第2741460号公報(特許文献14)では、有機過酸化物の添加による接着性向上技術が紹介されているが、こちらも副生成物として発生する酸素により剥離やボイドという問題が生じることで絶縁耐圧性の低下が起こってしまう。
【0005】
更に、特開2000-309711号公報(特許文献15)、特開2005-350582号公報(特許文献16)、特許第4960620号公報(特許文献17)では、用いるオルガノポリシロキサンの構造やヒドロシリル基(Si-H)等の構造等を変えることで、接着性を向上する技術が紹介されているが、本手法では確かに基材との密着性は高まるものの、接着までは至っていないため長期間の使用により密着性が低下するという問題を生じていた。
【0006】
また近年、特許第6465219号公報(特許文献18)では、イソシアネート含有脂肪族有機物を用いる方法、特開2018-119021号公報(特許文献19)では、特定の加水分解性基を有するテトラオルガノキシチタンを用いる方法、特開2019-001885号公報(特許文献20)では、ケテンシリルアセタールを用いる方法が紹介されているが、これらを添加することで密着性は向上するものの、フリーオイル量が多くなった場合、良好な密着性を得ることができなかった。
【0007】
絶縁耐圧性に関しては、上記のようなボイド発生により絶縁耐圧性が低下することは分かっていたが、絶縁耐圧性を向上する技術は知られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-291148号公報
【文献】特開2015-007203号公報
【文献】特許第6409704号公報
【文献】特公平07-098902号公報
【文献】特許第5025917号公報
【文献】特許第5179302号公報
【文献】特許第5587148号公報
【文献】特許第5602385号公報
【文献】特許第5631964号公報
【文献】特開2002-338833号公報
【文献】特開昭63-199276号公報
【文献】特公平04-078655号公報
【文献】特公平05-067673号公報
【文献】特許第2741460号公報
【文献】特開2000-309711号公報
【文献】特開2005-350582号公報
【文献】特許第4960620号公報
【文献】特許第6465219号公報
【文献】特開2018-119021号公報
【文献】特開2019-001885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、高温での耐熱性に優れ、かつ電子基板の一部として存在する銅(Cu)、アルミニウム(Al)等から構成される金属基材に対しても十分な接着性を有し、さらに高温条件下においても接着後に剥離やボイドの発生が抑制可能で絶縁耐圧性が高いシリコーンゲル硬化物を与えることができる自己接着性シリコーンゲル組成物及びその硬化物(シリコーンゲル)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、付加反応硬化型のシリコーンゲル組成物中に、特定の無官能性オルガノポリシロキサンをフリーオイルとして所定量添加することによりシリコーンゲル硬化物が基板に密着(接着)した時の絶縁耐圧性が向上すると共に、特定のカルボン酸金属塩を所定量添加することによりシリコーンゲル硬化物に耐熱性を付与し得、なおかつ、特定の加水分解性シランの部分加水分解縮合物を所定量添加することにより前記フリーオイルの添加により損なわれる高温条件下での基材に対する密着性(接着性)を格段に向上させることができ、なおかつ、前記カルボン酸金属塩と加水分解性シランの部分加水分解縮合物との併用によって、前記フリーオイルの添加により損なわれる高温での形状保持性を飛躍的に向上させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の自己接着性シリコーンゲル組成物及びその硬化物(シリコーンゲル)を提供する。
1.
(A)下記平均組成式(1)
RaR1
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001~0.2の正数であり、bは1.7~2.2の正数であり、但しa+bは1.9~2.4の正数である。)
で表される1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記平均組成式(2)
R1
cSiO(4-c)/2 (2)
(式中、R1は上記と同じであり、cは1.9~2.4の正数である。)
で表されるオルガノポリシロキサン: 20~200質量部、
(C)下記平均組成式(3)
R2
dHeSiO(4-d-e)/2 (3)
(式中、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、dは0.7~2.2の正数であり、eは0.001~1の正数であり、但しd+eは0.8~3の正数である。)
で表される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 組成物全体中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.01~3個となる量、
(D)白金族金属系触媒: 有効量、
(E)下記一般式(4)
Si(OR3)4 (4)
(式中、R3は独立に炭素原子数1~10の脂肪族一価炭化水素基である。)
で示される加水分解性シランの部分加水分解縮合物であり、該部分加水分解縮合物全体中における一般式(4)で示される加水分解性シランの残存率が1.0モル%以下であり、かつ該部分加水分解縮合物の含有率が99.0モル%以上である該部分加水分解縮合物: 0.1~30質量部、
(F)下記一般式(5)
(R4COO)fM (5)
(式中、R4は同一又は異種の一価炭化水素基であり、Mはセリウム、鉄、ニッケル及びニオブから選ばれる金属原子であり、fは、Mがセリウム又は鉄の場合は3又は4、Mがニッケルの場合は2、Mがニオブの場合は4又は5である。)
で示されるカルボン酸金属塩:組成物全体の質量に対して1~1,000ppm
を含有し、(E)成分以外に加水分解性シランを含有しない自己接着性シリコーンゲル組成物。
2.
前記一般式(4)において、R3がメチル基、エチル基又はプロピル基である1に記載の自己接着性シリコーンゲル組成物。
3.
硬化してJIS K2220で規定される針入度が10~100であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである1又は2に記載の自己接着性シリコーンゲル組成物。
4.
1~3のいずれかに記載の自己接着性シリコーンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物は、高温での耐熱性に優れ、かつ電子基板の一部として存在する銅(Cu)、アルミニウム(Al)等から構成される金属基材に対しても十分な接着性を有し、さらに高温条件下においても接着後に剥離やボイドの発生が抑制可能で絶縁耐圧性が高いシリコーンゲル硬化物を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例におけるシリコーンゲル硬化物のフリーオイル量と絶縁耐圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物は、下記の(A)~(F)成分を必須成分として含有すると共に、下記(E)成分以外に加水分解性シランを含有しないものである。なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物(又はシリコーンゲル)とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)による針入度が10~100のものを意味する。これは、JIS K6253によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程低硬度(即ち、軟らか)であり、かつ低応力性であるものに相当し、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【0015】
以下、各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、粘度は23℃における値である。
【0016】
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
(A)成分は、本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である。該(A)成分は、下記平均組成式(1)で表される、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基(本明細書中において「ケイ素原子結合アルケニル基」という)を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサンである。
RaR1
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001~0.2の正数であり、bは1.7~2.2の正数であり、但しa+bは1.9~2.4の正数である。)
【0017】
上記式(1)中、Rは独立に、通常炭素原子数2~6、好ましくは2~4、より好ましくは2~3のアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0018】
R1は独立に、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1~10、好ましくは1~6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0019】
また、aは0.0001~0.2の正数であることが必要であり、好ましくは0.0005~0.1の正数である。bは1.7~2.2の正数であることが必要であり、好ましくは1.9~2.02の正数である。但し、a+bは1.9~2.4の正数であり、好ましくは1.95~2.05の正数である。
【0020】
(A)成分は、1分子中にケイ素原子結合アルケニル基を少なくとも1個有することが必要であり、好ましくは2~50個、より好ましくは2~10個有する。このケイ素原子結合アルケニル基の条件を満たすように前記a及びbの値を選択すればよい。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状であっても、例えば、RSiO
3/2単位、R
1SiO
3/2単位(R、R
1は上記と同じ)、SiO
4/2単位等を少量含む分岐鎖状であってもよいが、下記一般式(1a):
【化1】
(式中、R
5は独立に、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R
6は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基又はアルケニル基であり、R
7はアルケニル基であり、但し1分子中に少なくとも1個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~10個のアルケニル基を含み、分子鎖両末端のR
6のいずれかがアルケニル基である場合には、kは40~1,200の整数であり、mは0~50の整数であり、nは0~24の整数であり、分子鎖両末端のR
6のいずれもがアルケニル基でない場合には、kは40~1,200の整数であり、mは1~50の整数であり、nは0~24の整数であり、但しm+nは1以上である。)
で表されるオルガノポリシロキサン、即ち主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0022】
上記式(1a)中、R5で表されるアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基は、通常炭素原子数1~10、好ましくは1~6のものである。その具体例としては、R1で例示したものが挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0023】
また、R6で表される独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基は、通常炭素原子数1~10、好ましくは1~6のものである。その具体例としては、R1で例示したものが挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。R6、R7で表されるアルケニル基は、通常炭素原子数2~6、好ましくは2~4、より好ましくは2~3のものである。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0024】
上記式(1a)中、分子鎖両末端のR6のいずれかがアルケニル基である場合には、kは40~1,200の整数であり、mは0~50の整数であり、nは0~24の整数であり、好ましくは、kは100~1,000の整数であり、mは0~40の整数であり、nは0である。また、分子鎖両末端のR6のいずれもアルケニル基でない場合には、kは40~1,200の整数であり、mは1~50の整数であり、nは0~24の整数であり、但しm+nは1以上であり、好ましくは、kは100~1,000の整数であり、mは2~40の整数であり、nは0である。
【0025】
上記式(1a)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、例えば、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ビニルメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0026】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、組成物の取扱作業性、得られる硬化物の強度、及び流動性が良好となる点から、23℃における粘度が50~100,000mPa・sであることが好ましく、100~10,000mPa・sであることがより好ましい。なお、粘度は、回転粘度計により測定することができる(以下、同じ)。
【0027】
なお、本発明において、オルガノポリシロキサンの主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位の繰り返し数の合計(又は重合度)は、通常、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる(以下、同じ)。
【0028】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
〔(B)オルガノポリシロキサン〕
(B)成分は、本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物中に含まれるフリーオイル、すなわち架橋(硬化反応)に関与しない無官能性のシリコーンオイル成分である。該(B)成分は、下記平均組成式(2)で表される、分子鎖末端及び分子鎖非末端(分子鎖途中)に反応性基(即ち、本発明の組成物の硬化反応に関与するアルケニル基及びSiH基)を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサンである。
R1
cSiO(4-c)/2 (2)
(式中、R1は上記と同じであり、cは1.9~2.4の正数である。)
【0030】
上記式(2)中、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1~10、好ましくは1~6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
また、cは1.9~2.4の正数であり、好ましくは1.95~2.05の正数である。
【0031】
(B)成分の無官能性オルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状であっても、環状であっても、例えば、R1Si3/2単位(R1は上記と同じ)、SiO4/2単位等を少量含む分岐鎖状であってもよいが、好ましくは、主鎖がR1
2SiO1/2で示されるジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がR1
3SiO1/2で示されるトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが望ましい。
【0032】
(B)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、組成物の取扱作業性、得られる硬化物の強度、及び流動性が良好となる点から、23℃における粘度が10~50,000mPa・sであることが好ましく、30~10,000mPa・sであることがより好ましい。
【0033】
また、同様の理由により、(B)成分の重合度(又は主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位の繰り返し数)は、通常10~1,200の整数、好ましくは30~1,000の整数、より好ましくは50~800程度の整数であることが望ましい。
【0034】
(B)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(B)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対し、20~200質量部、好ましくは20~180質量部、より好ましくは20~160質量部である。(B)成分の添加量が20質量部未満となると、シリコーンゲル硬化物中に含まれるフリーオイル量が少なくなり、絶縁耐圧が低くなるため電子部品の信頼性が低下することが起こりえる。また、(B)成分の添加量が200質量部を超えてくると、得られたシリコーンゲル組成物が硬化しなくなったり、得られたシリコーンゲル硬化物からフリーオイルとなる(B)成分がブリードアウトを起こして電子部品を汚染してしまったり、絶縁耐圧性が経時で低下するなどの不具合を生じる可能性がある。
【0036】
〔(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
次に、(C)成分は、分子中に少なくとも2個有するSiH基が上記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基とヒドロシリル化付加反応して、本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物の架橋剤(硬化剤)として作用するものである。
【0037】
該(C)成分は、下記平均組成式(3)
R2
dHeSiO(4-d-e)/2 (3)
(式中、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、dは0.7~2.2の正数であり、eは0.001~1の正数であり、但しd+eは0.8~3の正数である。)
で表される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンが1分子中に有するケイ素原子結合水素原子(SiH基)は、好ましくは2~500個、より好ましくは2~100個、特に好ましくは2~80個である。
【0038】
上記式(3)中、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の一価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1~10、好ましくは1~6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも好ましくはアルキル基、アリール基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。
【0039】
また、dは0.7~2.2の正数であり、1.0~2.1の正数であることが好ましい。eは0.001~1の正数であり、好ましくは0.005~0.5の正数であり、0.015~0.1の正数であることがより好ましい。また、d+eは0.8~3の正数であり、1.0~2.5であることが好ましく、1.5~2.2であることがより好ましい。
【0040】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの1分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は、通常10~1,000個であるが、組成物の取扱作業性及び得られる硬化物の特性(低弾性率、低応力)が良好となる点から、好ましくは20~500個、より好ましくは20~100個である。
【0041】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に制限されず、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが望ましい。
【0042】
上記式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0043】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)は、分子鎖末端のケイ素原子に結合したものであっても、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したものであっても、これらの両者であってもよいが、硬化したシリコーンゲルのせん断接着力等の点から、分子鎖両末端にのみそれぞれ1個ずつSiH基を有する2官能性の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(即ち、両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)と、分子鎖非末端(分子鎖途中)のシロキサン単位の一部にのみSiH基を有する多官能性直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(即ち、両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体)との組み合わせが好ましい。なお、分子鎖非末端(分子鎖途中)のシロキサン単位の一部にのみSiH基を有する多官能性直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが1分子中に有するケイ素原子結合水素原子(SiH基)は、3~500個、特には5~100個、とりわけ10~80個であることが好ましい。この場合の含有比率(両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン/両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体)は、(両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン中のSiH基のモル数/両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体中のSiH基のモル数)の比率で0.01~5.0、特に0.1~3.0程度であることが好ましい。
【0044】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、組成物の取扱作業性などの点から、23℃における粘度が1~1,000mPa・sであることが好ましく、5~500mPa・sであることがより好ましい。
【0045】
(C)成分の添加量は、組成物全体(特には、上記(A)成分)中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)が0.01~3個、好ましくは0.05~2個、より好ましくは0.2~1.6個となる量である。この(C)成分からのケイ素原子に結合した水素原子が、組成物全体のアルケニル基1個に対して、0.01個より少なくなると、硬化物が得られなくなる。また、3個より多い場合は、硬化物の耐熱性が低下する。
【0046】
〔(D)白金族金属系触媒〕
本発明の(D)成分は、前記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と前記(C)成分中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化付加反応を促進させるための触媒として使用されるものである。該(D)成分は白金族金属系触媒(白金又は白金系化合物)であり、公知のものを使用することができる。その具体例としては、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸等のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などが例示される。
【0047】
(D)成分の配合量は有効量でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができるが、通常、(A)成分及び(C)成分の合計質量に対して、白金原子の換算質量で、通常0.1~1,000ppm、好ましくは1~300ppmの範囲である。この配合量が多すぎると得られる硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0048】
〔(E)加水分解性シランの部分加水分解縮合物〕
(E)成分は、下記一般式(4):
Si(OR3)4 (4)
(式中、R3は独立に炭素原子数1~10の脂肪族一価炭化水素基である。)
で示される加水分解性シランの部分加水分解縮合物であって、該部分加水分解縮合物の全体中における一般式(4)で示される加水分解性シランの残存率が1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下であり、かつ該部分加水分解縮合物の含有率が99.0モル%以上、好ましくは99.5モル%以上である該部分加水分解縮合物であり、本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物において、前記(B)成分の無官能性オルガノポリシロキサン(フリーオイル)を多く含む組成においても該組成物の硬化物(シリコーンゲル)に各種基材に対する優れた接着性を付与するシランカップリング剤として作用するものであって、なおかつ、耐熱条件下においてはシリコーンゲル硬化物が軟化劣化することを抑制するための必須成分である。
なお、(E)加水分解性シランの部分加水分解縮合物は、加水分解時に副生するアルコール化合物を(E)成分全体の質量に対して約0.5質量%程度以下の微小量で含有する(残存する)ものであってもよい。
【0049】
式(4)中、R3は炭素原子数が1~10である一価の脂肪族炭化水素基であり、直鎖状又は1個の分岐鎖を有するアルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1~3のアルキル基であり、特にメチル基が好ましい。また、各R3は同一であっても異種であってもよい。
【0050】
上記加水分解性シランの部分加水分解縮合物(シランカップリング剤)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、オルトケイ酸テトラペンチル、オルトケイ酸テトラヘプチル、オルトケイ酸テトラオクチルなどのテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物などが例示され、それらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランの部分加水分解縮合物が好ましく、その中でも特にテトラメトキシシランの部分加水分解縮合物が好ましい。なお、本発明において「部分加水分解縮合物」とは、加水分解性シランを部分的に加水分解・縮合して生成する、分子中に残存加水分解性基を少なくとも2個、好ましくは3個以上有する、加水分解性(オルガノ)シロキサンオリゴマーを意味する。
【0051】
更に、本発明において、電子基板の一部として存在する銅(Cu)、アルミニウム(Al)等から構成される金属基材に対して十分な接着性を付与させるためには、(E)成分の部分加水分解縮合物の全体中における上記一般式(4)で示される加水分解性シラン(原料)の残存率が1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下であり、かつ、該部分加水分解縮合物の含有率が99.0モル%以上、好ましくは99.5モル%以上である該部分加水分解縮合物であることが必要である。これは、一般式(4)で示される加水分解性シラン(原料)の残存率が1.0モル%を超えると、当然(E)成分全体中における部分加水分解縮合物の含有率が低下し、期待する密着性を得ることができないことや耐熱条件下においてシリコーンゲル硬化物と基材との間にボイドができやすくなり絶縁耐圧性が低下するからである。また、加水分解性シランが揮発しやすくなり、人体への影響も大きくなる。
(E)成分における加水分解性シラン(原料)の残存率及び部分加水分解縮合物の含有率の測定方法はガスクロマトグラフィー(GC)分析によることが好ましい。
【0052】
(E)成分の加水分解性シランの部分加水分解縮合物の数平均重合度は2~50であることが好ましく、2~30であることがより好ましい。また、その数平均分子量は242~5,000であることが好ましく、242~3,000であることがより好ましい。
【0053】
この(E)成分の加水分解性シランの部分加水分解縮合物としては、市販品を使用することができ、例えば、MKCシリケートMS51(三菱化学社製、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、部分加水分解縮合物の含有率99.8モル%以上、原料テトラメトキシシラン0.2モル%以下)などのMKCシリケートシリーズなどを適用することができる。
【0054】
なお、(E)成分の加水分解性シランの部分加水分解縮合物の添加量は、前記(A)成分100質量部に対し0.1~30質量部、好ましくは0.5~10質量部の範囲が好ましい。(E)成分の添加量が0.1質量部未満である場合、基材に対して期待する接着性を得ることができない。また、(E)成分の添加量が30質量部を超える場合、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が損なわれたり、機械的特性が低下したりする。
【0055】
〔(F)カルボン酸金属塩〕
(F)成分は、下記式(5)で示される、セリウム、鉄、ニッケル及びニオブから選ばれる金属のカルボン酸金属塩であり、本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物に優れた耐熱性を付与するための必須成分である。
(R4COO)fM (5)
(式中、R4は同一又は異種の一価炭化水素基であり、Mはセリウム、鉄、ニッケル及びニオブから選ばれる金属原子であり、fは、Mがセリウム又は鉄の場合は3又は4、Mがニッケルの場合は2、Mがニオブの場合は4又は5である。)
【0056】
上記式(5)中、R4は同一又は異種の好ましくは炭素原子数1~20、より好ましくは1~18の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、1-エチルペンチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、オクタデセニル基、(Z)-8-ヘプタデセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられ、その中でも特に1-エチルペンチル基、オクチル基、オクタデセニル基、ウンデシル基、ヘプタデシル基が好ましい。
【0057】
上記セリウム、鉄、ニッケル、ニオブのいずれか1つから選ばれるカルボン酸金属塩として、具体的には、ノナン酸、2-エチルヘキサン酸、ナフテン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などのカルボン酸と、セリウム、鉄、ニッケル、ニオブから選ばれる金属との化合物(金属塩)が例示できる。
【0058】
上記式(5)中、fの値は、Mがセリウム又は鉄の場合は3又は4、Mがニッケルの場合は2、Mがニオブの場合は4又は5、好ましくは4である。
【0059】
なお、本発明の(F)成分の添加量は、組成物全体の質量に対して1~1,000ppm、好ましくは50~800ppm、より好ましくは90~550ppmである。(F)成分の含有量が1ppm未満の場合、シリコーンゲル硬化物の高温での耐熱性向上の効果が見られず、逆に1,000ppmを超えた場合、シリコーンゲル硬化物の絶縁性が大幅に低下したり、硬化性が低下したりする。
【0060】
〔その他の任意成分〕
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物には、上記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。ただし、(E)成分以外に加水分解性シラン(アルコキシシラン、特にはテトラアルコキシシラン)は含まないものとする。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン(ただし、(B)、(E)成分を除く)、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0061】
反応抑制剤は、上記組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0062】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0063】
〔組成物の硬化〕
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物は、上記(A)~(F)成分(任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて均一に混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部と(B)成分の一部及び(D)、(F)成分からなるパートと、(A)成分の残部、(B)成分の残部及び(C)、(E)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。常温にて未硬化組成物を保管する際は、(A)成分の一部と(B)成分の一部及び(D)、(F)成分からなるパートと、(A)成分の残部、(B)成分の残部及び(C)、(E)成分からなるパートとに分割することがより好ましい。
【0064】
その後、本発明の組成物を室温(23℃±15℃)もしくは用途に応じた温度条件下、例えば温度は60℃から150℃の範囲内、硬化時間は10分から2時間程度で硬化させることによりシリコーンゲル硬化物が得られる。
【0065】
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物は、得られる硬化物が、特に銅、アルミニウムなどの金属の基材に対しても良好な接着性を示すことから、電気・電子部品の封止もしくは充填に用いることが好適である。
【0066】
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル)は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度が10~100であることが好ましく、より好ましくは15~90、更に好ましくは20~80である。針入度が10未満になると、シリコーンゲルが硬すぎるため、剥離させる際に非常に大きな力が必要になることや、剥離する際の応力に耐えきれず、電子回路の一部が破断したり、シリコーンゲル硬化物内部にクラックが生成したりする場合がある。また、針入度が100を超えると、柔らかすぎるためシリコーンゲル硬化物に大変形を与えた場合、シリコーンゲル硬化物自体が破壊しやすくなる場合がある。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表し、「Vi」は「ビニル基」を表す。また、針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM-101を用いて測定した。
【0068】
[実施例1]
下記式(6)で示される23℃での粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体100部、下記式(7)で示され、23℃での粘度が700mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体(無官能性メチルフェニルシリコーンオイル)100部、下記式(8)で示され、23℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体0.70部、下記式(9)で示され、23℃での粘度が18mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン7.7部(このとき、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数(以下、H/Viという)は1.30であった。)、白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.10部、エチニルシクロヘキサノール0.05部、及び2-エチルヘキサン酸鉄0.10部(当該組成物中において約500ppm)を均一に混合して分散させたのち、(E)成分であるMKCシリケートMS51(テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、三菱化学社製、部分加水分解縮合物の含有率99.8モル%以上、テトラメトキシシラン0.2モル%以下)を1.15部添加し均一に混合して組成物1を得た。
【化2】
得られた組成物1を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度45のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、2-エチルヘキサン酸鉄を0.10部用いる代わりに、2-エチルヘキサン酸ニオブを0.02部(当該組成物中において約100ppm)用い、それ以外は実施例1と同様にして、組成物2を得た。この組成物2を(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0070】
[実施例3]
実施例1において、2-エチルヘキサン酸鉄を0.10部用いる代わりに、2-エチルヘキサン酸ニッケルを0.05部(当該組成物中において約250ppm)用い、それ以外は実施例1と同様にして、組成物3を得た。この組成物3を(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度47のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0071】
[実施例4]
実施例1において、2-エチルヘキサン酸鉄を0.10部用いる代わりに、2-エチルヘキサン酸セリウムを0.10部(当該組成物中において約500ppm)用い、それ以外は実施例1と同様にして、組成物4を得た。この組成物4を(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度48のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0072】
[実施例5]
上記式(6)で示される23℃での粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体100部、上記式(7)で示され、23℃での粘度が700mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体(無官能性メチルフェニルシリコーンオイル)20部、上記式(8)で示され、23℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体0.70部、上記式(9)で示され、23℃での粘度が18mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン7.7部(このとき、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数(H/Vi)は1.30であった。)、白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.07部、エチニルシクロヘキサノール0.04部、及び2-エチルヘキサン酸鉄0.07部(当該組成物中において約500ppm)を均一に混合して分散させたのち、(E)成分であるMKCシリケートMS51(テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、三菱化学社製、部分加水分解縮合物の含有率99.8モル%以上、テトラメトキシシラン0.2モル%以下)を0.65部添加し均一に混合して組成物5を得た。
得られた組成物5を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度46のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0073】
[実施例6]
上記式(6)で示される23℃での粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体100部、上記式(7)で示され、23℃での粘度が700mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体(無官能性メチルフェニルシリコーンオイル)155部、上記式(8)で示され、23℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体1.20部、上記式(9)で示され、23℃での粘度が18mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン7.8部(このとき、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数(H/Vi)は1.56であった。)、白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.07部、エチニルシクロヘキサノール0.04部、及び2-エチルヘキサン酸鉄0.07部(当該組成物中において約500ppm)を均一に混合して分散させたのち、(E)成分であるMKCシリケートMS51(テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、三菱化学社製、部分加水分解縮合物の含有率99.8モル%以上、テトラメトキシシラン0.2モル%以下)を1.40部添加し均一に混合して組成物6を得た。
得られた組成物6を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、MKCシリケートMS51を用いず、それ以外は実施例1と同様にして、組成物7を得た。この組成物7を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度44のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0075】
[比較例2]
実施例1において、2-エチルヘキサン酸鉄を用いず、それ以外は実施例1と同様にして、組成物8を得た。この組成物8を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度45のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0076】
[比較例3]
上記式(6)で示される23℃での粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体100部、上記式(8)で示され、23℃での粘度が100mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体0.30部、上記式(9)で示され、23℃での粘度が18mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン6.0部(このとき、組成物中のケイ素原子結合アルケニル基1個あたりの(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数(以下、H/Viという)は0.89であった。)、白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.10部、エチニルシクロヘキサノール0.05部、及び2-エチルヘキサン酸鉄0.05部(約500ppm)を均一に混合して分散させたのち、(E)成分であるMKCシリケートMS51(テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、三菱化学社製、部分加水分解縮合物の含有率99.8モル%以上、テトラメトキシシラン0.2モル%以下)を1.10部添加し均一に混合して組成物9を得た。
得られた組成物9を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度40のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0077】
[比較例4]
実施例1において、MKCシリケートMS51を用いる代わりにテトラメトキシシランを1.15部用い、それ以外は実施例1と同様にして、組成物10を得た。この組成物10を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度44のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0078】
[比較例5]
実施例1において、MKCシリケートMS51を用いる代わりにMKCシリケートMS51とテトラメトキシシランの質量比1:1の混合物(純度約50%)を1.15部用い、それ以外は実施例1と同様にして、組成物11を得た。この組成物11を容器(寸法:30mmφ×15mm)に入れて80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度45のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0079】
[評価試験]
上記実施例1~6及び比較例1~5で得られた組成物及び硬化物を用いて、以下の評価試験を実施した。これらの結果を表1に示す。
〇接着性の評価;
幅25mm、長さ100mmの各種被着体(無酸素銅、アルミニウム)を用いて接着面積2.5mm2、接着厚さ2mmのせん断接着試験体が作製できる様に上記により得られた組成物を流し込み、80℃にて60分間加熱して硬化させた。その後、JIS K6249に準ずる方法にて測定を行い、せん断接着力と凝集破壊率を確認し、凝集破壊率の合格値を80%とした。
〇耐熱性の評価:
上記実施例及び比較例で得られた硬化物を垂直に立て、250℃×100時間の耐熱試験を実施し、試験後の形状保持性並びに耐熱試験後の針入度を測定した。形状が変わらずボイドの発生がなかったものを合格と判定し、形状が保持できず、容器から脱落したものやボイドが発生したものを不合格と判定した。また、耐熱試験後の針入度が初期針入度の数値に比べ±15以内となった場合を合格と判定し、+15超あるいは-15未満になった場合については不合格と判定した。
〇絶縁耐圧試験:特許第6205824号公報と同様の次の条件で実施した。
・測定温度:25℃
・カットオフ電流:5mA
・昇圧条件:AC2.0kVから10秒ごとに0.2kV昇圧
上記条件にて通電した電圧を絶縁耐圧とした。
〇フリーオイル量の測定;
円筒ろ紙にシリコーンゲル硬化物を測りとり、約24時間トルエンに浸漬した。その後、トルエンを除去し、乾燥させ質量変化を測定した。質量が減少した量のトルエン浸漬前の質量に対する割合をフリーオイル含有量(フリーオイル量(質量%))とし算出した。
【0080】
【0081】
[評価]
実施例1~6の組成物は、本発明の要件を満たすものであり、良好な柔軟性及び銅やアルミニウムに対して良好な接着性を有するシリコーンゲル硬化物が得られ、かつ250℃の耐熱下に垂直状態で晒されても形状保持し、かつボイドの発生もなく、250℃×100時間後においても初期針入度とほぼ変わらない柔軟性を有するシリコーンゲル硬化物であることが分かる。
なお、本実施例におけるシリコーンゲル硬化物のフリーオイル量と絶縁耐圧との間には
図1に示すように良い相関関係を示すことも確認された。
これに対し、比較例1の組成物は、本発明の(E)成分を含まない、即ち本発明の必須成分であるテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物の含有要件を満たさないものであり、密着性の悪化及び250℃耐熱下における形状保持性が悪化していることが分かる。また、比較例2の組成物は、本発明の(F)成分を含まない、即ち本発明の必須成分であるセリウム、鉄、ニッケル、ニオブのカルボン酸塩の含有要件を満たさないものであり、250℃×100時間後の針入度が9と硬化劣化を起こしてしまうことが分かる。次に比較例3の組成物は、本発明の(B)成分を含まない、即ち本発明の必須成分である反応性基を含有しないオルガノポリシロキサン(無官能性シリコーンオイル)の含有要件を満たさないものであり、密着性や形状保持性は良好であるものの、250℃×100時間後の針入度が20とわずかに硬化劣化を起こしていることが分かる。また比較例3のシリコーンゲルを内包した電子基板の絶縁耐圧が5.8kVと最も低いことから、(B)成分の配合量が絶縁耐圧性に影響を与えることが分かる。比較例4の組成物は、本発明(E)成分の部分加水分解縮合物ではなく、モノマーであるテトラアルコキシシランを用いる場合であるが、この場合は、密着性と形状保持性が悪化してしまった。このことからテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を使用することが有効であることが分かる。また、比較例5においては、(E)成分に代えて意図的にテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物の含有率を低下させ、テトラアルコキシシランの残存率が高い接着成分を作製し添加した結果であるが、この場合も密着性が低下する結果となっている。また、耐熱性においては、テトラアルコキシシランの残存率が高いため、シリコーンゲル硬化物内にボイドと呼ばれる気泡が生成してしまい、耐熱性が悪化していることが分かる。
上記の結果を総括すると、本発明の必須成分が所定量添加されている自己接着性シリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル)は、銅やアルミニウム等の金属基板に対する接着性に優れ、かつ耐熱性(形状保持性および柔軟性保持)に優れた絶縁耐圧性が高いシリコーンゲルとなっているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の自己接着性シリコーンゲル組成物を硬化することにより得られるシリコーンゲル硬化物は、銅やアルミニウム等の金属基板に対する接着性に優れているため、ICやハイブリッドIC等の電子部品の保護用途として有効であり、縦置きの状態で高温の雰囲気下に晒されても流動やボイドを発生することがないシリコーンゲル硬化物を得ることができる。そのため、電子機器の省スペース化や長期耐久性の向上が期待される。