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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】同軸ケーブル及びケーブルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20220928BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01B11/18 C
H01B7/18 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022082363
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2021015262の分割
【原出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022103384
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2020105218
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 才志
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】岡田 良平
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-45244(JP,A)
【文献】特開2010-153191(JP,A)
【文献】特開2014-191884(JP,A)
【文献】特開平6-203664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲に有する絶縁体と、
前記絶縁体の周囲に有するシールド層と、を備え、
前記シールド層は、前記絶縁体の周囲に複数の金属素線が螺旋状に巻き付けされた横巻きシールド部と、前記横巻きシールド部の周囲に有する一括めっき部と、前記複数の金属素線と前記一括めっき部との間に有する金属間化合物と、を有し、
前記シールド層は、前記横巻きシールド部の少なくとも一部において、周方向に隣り合う前記複数の金属素線が離間しており、離間した前記複数の金属素線同士が前記一括めっき部を介して互いに連結された連結部を有し、
前記一括めっき部は、前記連結部において、前記絶縁体と対向する内面が凹んだ形状を有する、
同軸ケーブル。
【請求項2】
前記金属間化合物の厚さは、0.2μm以上1.5μm以下である、
請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記シールド層は、前記連結部において、前記一括めっき部の前記内面から径方向に沿った厚さが前記金属素線の外径の30%以上130%以下である、
請求項1または2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
20GHzでの周波数帯域における挿入損失(S21)が50dBより小さい、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
26GHzでの周波数帯域における挿入損失(S21)が60dBより小さい、
請求項4に記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の同軸ケーブルと、
前記同軸ケーブルの少なくとも一方の端部に設けられた端末部材と、を備えた、
ケーブルアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブル及びケーブルアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転等に用いられる撮像装置や、スマートフォン、タブレット端末等電子機器の内部配線、あるいは、産業用ロボット等の工作機械で配線として用いられる高周波信号伝送用のケーブルとして、同軸ケーブルが用いられている。
【0003】
従来の同軸ケーブルとして、樹脂層上に銅箔を設けた銅テープ等のテープ部材を、絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けてシールド層を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-285747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の同軸ケーブルでは、所定の周波数帯域(例えば、1.25GHz等の数GHzの帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまうという課題がある。
【0006】
これに対して、例えば、絶縁体の外表面にめっきを施してシールド層を構成することで、サックアウトの発生を抑制することが可能である。しかし、同軸ケーブルを繰り返し曲げたときに、めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生することがある。めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生すると、シールド効果が低下してしまう。すなわち、同軸ケーブルに生じるノイズをシールド層よって遮蔽する効果が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル及びケーブルアセンブリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲に有する絶縁体と、前記絶縁体の周囲に有するシールド層と、を備え、前記シールド層は、前記絶縁体の周囲に複数の金属素線が螺旋状に巻き付けされた横巻きシールド部と、前記横巻きシールド部の周囲に有する一括めっき部と、前記複数の金属素線と前記一括めっき部との間に有する金属間化合物と、を有し、前記シールド層は、前記横巻きシールド部の少なくとも一部において、周方向に隣り合う前記複数の金属素線が離間しており、離間した前記複数の金属素線同士が前記一括めっき部を介して互いに連結された連結部を有し、前記一括めっき部は、前記連結部において、前記絶縁体と対向する内面が凹んだ形状を有する、同軸ケーブルを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、同軸ケーブルと、前記同軸ケーブルの少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材と、を備えた、ケーブルアセンブリを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル及びケーブルアセンブリを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る同軸ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
図2】周波数特性の評価結果を示すグラフ図である。
図3】インピーダンスプロファイルの解析結果を示すグラフ図である。
図4】シールド性能の評価結果を示すグラフ図である。
図5】本発明の一実施の形態に係るケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
図6】本発明の一変形例に係る同軸ケーブルの要部を拡大した断面図である。
図7】本発明の一変形例に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る同軸ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、同軸ケーブル1は、導体2と、導体2の周囲を覆うように設けられている絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うように設けられているシールド層4と、シールド層4の周囲を覆うように設けられているシース5と、を備えている。
【0015】
導体2は、複数本の金属素線21を撚り合わせた撚線導体からなる。本実施の形態では、外径0.02mmの軟銅線からなる金属素線21を7本撚り合わせた導体2を用いた。これに限らず、導体2としては、金属素線21を撚り合わせた後、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体を用いることもできる。導体2として圧縮撚線導体を用いることで、導電率が向上し良好な伝送特性が得られると共に、曲げやすさも維持できる。また、金属素線21は、導電率や機械的強度を向上させる観点から、錫(Sn)、銀(Ag)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等を含む銅合金線であってもよい。
【0016】
絶縁体3は、例えば、PFAやFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる。絶縁体3は、発泡樹脂であってもよく、耐熱性を向上すべく架橋された樹脂で構成されてもよい。また、絶縁体3は、さらに多層構造となっていてもよい。例えば、導体2の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第1非発泡層を設け、第1非発泡層の周囲に発泡ポリエチレンからなる発泡層を設け、発泡層の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第2非発泡層を設けた3層構成とすることもできる。本実施の形態では、導体2の周囲に、PFAからなる絶縁体3をチューブ押出しにより形成した。絶縁体3をチューブ押出しにより形成することで、端末加工時に導体2から絶縁体3を剥がし易くなり、端末加工性が向上する。
【0017】
本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、シールド層4は、絶縁体3の周囲に複数の金属素線411を螺旋状に巻き付けた横巻きシールド部41と、横巻きシールド部41の周囲を一括して覆うように設けられた導電性の一括めっき部42と、を有する。なお、周方向に隣り合う全ての金属素線411同士が接触し、その周囲を覆うように一括めっき部42が設けられていてもよいし、周方向に隣り合う一部の金属素線411間に隙間が存在し、当該隙間を塞ぐように横巻きシールド部41の周囲に一括めっき部42が設けられていてもよい。つまり、周方向に隣り合う全ての金属素線411同士が接触することは必須ではなく、周方向に隣り合う一部の金属素線411が離間しており一括めっき部42を介して互いに連結されていてもよい。一括めっき部42は、周方向および軸方向において横巻きシールド部41の周囲全体(ただし、後述する内周部分4bを除く)を一括して覆い、複数の金属素線411を機械的及び電気的に接続するように設けられることが望ましい。
【0018】
シールド層4では、横巻きシールド部41の少なくとも一部において、周方向に隣り合う一部の金属素線411が離間しており、金属素線411の離間部分が一括めっき部42を介して互いに連結された連結部43を有していることが望ましい。連結部43を有することにより、周方向に隣り合う全ての金属素線411同士が接触する場合と比べて、曲げや捩れを加えたときに一括めっき部42が割れたり剥がれたりしにくくなる。すなわち、金属素線441同士が離間している部分が一括めっき部42によって連結された連結部43は、金属素線411よりも柔軟性のある溶融めっきからなる一括めっき部42のみで構成される。曲げや捻回が加わったときに、連結部分の一括めっき部42が伸張するように作用し、シールド層4全体の柔軟性が向上する。これにより、曲げや捩れを加えたときに一括めっき部42が割れたり剥がれたりしにくくなる。なお、周方向に隣り合う金属素線411同士が離間する距離は、一方の金属素線411の表面から他方の金属素線411までの最短距離が金属素線411の外径の半分以下であると、上述した作用効果が得られやすい。
【0019】
また、連結部43における一括めっき部42の径方向に沿った厚さW(連結部43における一括めっき部42の内面から外面までの最小の直線距離)は、例えば、金属素線411の外径(直径)dの30%(0.3×d)以上であると、一括めっき部42の割れが生じにくくなる。特に、連結部43における一括めっき部42の厚さWは、金属素線411の外径(直径)dと同じか、それよりも大きい場合に、金属素線411同士の接合強度が大きくなり、更に割れが生じにくくなる。また、同軸ケーブル1では、一括めっき部42が上述したような連結部43を有することにより、ケーブルアセンブリを行うときに、横巻シールド部41を構成する複数の金属素線411が一括めっき部42にくっついた状態で、複数の金属素線411の巻き方向に沿って螺旋状に巻き回しながらシールド層4が除去しやすくなる。連結部43における一括めっき部42の厚さWの上限値としては、例えば、金属素線411の外径dの130%(1.3×d)であるとよい。なお、金属素線411の外径dは、例えば、0.02mm~0.10mmである。金属素線411が表面にめっき層を有する場合は、めっき層を含めた外径を金属素線411の外径dとする。連結部43の厚さWや金属素線411の外径dは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、同軸ケーブル1の横断面(同軸ケーブル1の長手方向に垂直な断面)を観察することにより求められる。
【0020】
例えば、シールド層4を横巻きシールド部41のみで構成すると、金属素線411間に隙間が発生してノイズ特性が低下してしまう。さらに、金属素線411の間に生じる隙間の影響により、所定の周波数帯域(例えば、10GHz~25GHzの帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまう。本実施の形態のように、横巻きシールド部41の周囲全体を覆うように溶融めっきからなる一括めっき部42を設けることで、一括めっき部42により金属素線411間の隙間を塞ぐことができ、シールド効果を向上できる。これにより、信号伝送の損失が生じにくくなる。さらに、金属素線411間の隙間がなくなることにより、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。
【0021】
さらに、横巻きシールド部41の周囲を覆うように一括めっき部42を設けることで、端末加工時にケーブル端末部においてシース5を除去しシールド層4を露出させた際に、金属素線411が解けにくくなり、端末加工を容易に行うことが可能になる。さらにまた、横巻きシールド部41の周囲を覆うように一括めっき部42を設けることで、ケーブル長手方向においてインピーダンスを安定して一定に維持することも可能になる。
【0022】
図1(b)に示すように、一括めっき部42は、横巻きシールド部41を構成する各金属素線411の外形に沿って波形に形成される。すなわち、一括めっき部42は、周方向に隣り合う金属素線42の間に相当する周方向位置(すなわち連結部43の位置)において凹んだ形状となっており、その凹んだ部分の一括めっき部42とシース5との間に、空隙6を有している。連結部43に空隙6を有することにより、同軸ケーブル1を屈曲した際に、当該屈曲に追従するように一括めっき部42の外面が伸びることが可能となるため、一括めっき部42が割れにくくなる。また、連結部43に空隙6を有することで、同軸ケーブル1の可とう性も向上する。
【0023】
本実施の形態では、一括めっき部42によって金属素線411が固定されることになるため、同軸ケーブル1の曲げやすさを確保するために、金属素線411としては、塑性変形しやすい低耐力な材質からなるものを用いる必要がある。より具体的には、金属素線411としては、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、かつ伸びが7%以上20%以下であるものを用いるとよい。
【0024】
本実施の形態では、金属素線411として、軟銅線からなる金属線411aの周囲に銀からなるめっき層411bを有する銀めっき軟銅線を用いた。なお、金属線411aとしては、軟銅線に限らず、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、あるいは純銅に微量の金属元素(例えば、チタン、マグネシウム等)を添加した低軟化温度の線材等を用いることができる。また、めっき層411bを構成する金属は銀に限らず、例えば錫や金であってもよく、めっき層411bを省略することも可能である。ここでは、外径0.02mmの銀めっき軟銅線からなる金属素線411を26本用いることで、横巻きシールド部41を形成した。
【0025】
また、本実施の形態では、溶融めっきからなる一括めっき部42として、錫からなるものを用いた。ただし、これに限らず、一括めっき部42として、例えば銀、金、銅、亜鉛等からなるものを用いることができる。ただし、製造の容易さの観点から、錫からなる一括めっき部42を用いることがより好ましいといえる。
【0026】
絶縁体3の周囲に複数本の金属素線411を撚り合わせて横巻きシールド部41を形成した後、溶融した錫を貯留した槽に通すことで、一括めっき部42が形成される。すなわち、一括めっき部42は、溶融めっきによって形成された溶融めっき層である。横巻きシールド部41の周囲に錫が付着しやすくするために、横巻きシールド部41の周囲にフラックスを塗布した後に、溶融した錫を貯留した槽に通すことが望ましい。フラックスとしては、例えばロジン系のフラックス等を用いることができる。横巻きシールド部41の周囲全体に錫が一括して付着しやすくするために、横巻きシールド部41の周囲にフラックスを塗布した後に、250℃以上300℃未満の温度に溶融した錫が貯留された槽に通すことが望ましい。横巻きシールド部41を形成した線材を槽に通すときの線速度は、例えば、40m/min以上80m/min以下であり、より好ましくは、50m/min以上70m/min以下である。これにより、横巻きシールド部41を一括して覆う一括めっき部42が形成されるとともに、後述する金属間化合物411cがシールド部41を構成する金属素線411と一括めっき部42との間に形成される。
【0027】
一括めっき部42を形成する際、溶融した錫(すなわち、溶融めっき)に接触する部分のめっき層411bを構成する銀は槽内の錫に拡散し、金属素線411と一括めっき部42との間(すなわち、金属線411aと一括めっき部42との間であって、当該金属線411の表面と接する部分)に銅と錫を含む金属間化合物411cが形成される。本発明者らがSEM(走査型電子顕微鏡)を用いたEDX分析(エネルギー分散型X線分光法による分析)を行ったところ、金属素線411の表面(金属素線411と一括めっき部42との間)に、銅と錫とからなる金属間化合物411cが層状に存在することが確認できた。すなわち、金属間化合物411cは、溶融めっきからなる一括めっき部42を構成する金属元素(錫等)と金属素線411の主成分を構成する金属元素(銅等)とが金属的に拡散反応して金属素線411の表面に化合物層が形成されたものである。金属間化合物411cの層の厚さは、例えば0.2μm~1.5μm程度である。なお、金属間化合物411cには、めっき層411bを構成する銀が含まれていると考えられるが、金属間化合物411cにおける銀の含有量は、EDX分析で検出が難しい程度のごく微量である。シールド層4は、金属素線411と一括めっき部42との間に金属間化合物411cが形成されることにより、同軸ケーブル1を繰り返し曲げたときや捩ったときに、金属素線411の表面から一括めっき部42が剥がれにくく、金属素線411と一括めっき部42との間に隙間が生じにくくなる。これにより、同軸ケーブル1では、曲げや捩りが加わった場合にも、横巻シールド部41の外側から一括めっき部42によって横巻シールド部41を固定した状態を保つことができ、シールド層4と導体2との距離が変化しにくくなる。そのため、同軸ケーブル1では、曲げや捩りによってシールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰も生じにくくすることができる。金属間化合物411cの層の厚さは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、同軸ケーブル1の横断面(同軸ケーブル1の長手方向に垂直な断面)を観察することにより求められる。
【0028】
一括めっき部42と接触しない部分の金属素線411(めっき時に溶融した錫と接触しない部分の金属素線411)には、銀からなるめっき層411bが残存する。すなわち、ケーブル径方向において内側(絶縁体3側)の部分の金属素線411には、銀からなるめっき層411bが残存する。すなわち、本実施の形態に係る同軸ケーブル1におけるシールド層4は、複数の金属素線411が一括めっき部4によって覆われる外周部分4aよりも、複数の金属素線411が一括めっき部41で覆われていない内周部分4bの導電率が高くなっていることがよい。高周波信号の伝送においては、電流はシールド層4における絶縁体3側に集中するため、銀等の高い導電率を有するめっき層411bがシールド層4の内周部分4bに存在することにより、シールド層4の導電性の低下を抑制し、良好な減衰特性を維持することが可能になる。一括めっき部42を構成する錫めっきの導電率は15%IACSであり、めっき層411bを構成する銀めっきの導電率は108%IACSである。
【0029】
なお、ここでいう外周部分4aとは、金属素線411が溶融めっき時に溶融しためっき(錫等)に接触する部分(すなわち金属間化合物411cが形成された部分)である。また、内周部分4bとは、銀めっき等からなるめっき層411bが残存している部分である。
【0030】
シース5は、例えば、PFAやFEP等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、架橋ポリオレフィン等からなる。本実施の形態では、フッ素樹脂からなるシース5をチューブ押出しにより形成した。
【0031】
(同軸ケーブル1の特性評価)
本実施の形態に係る同軸ケーブル1を作製して実施例とし、特性評価を行った。また、一括めっき部42を省略した以外は実施例と同じ構成の比較例の同軸ケーブルを作製し、同様に特性評価を行った。ケーブル長は、実施例、比較例共に1mとした。なお、実施例における同軸ケーブル1では、導体2として外径が0.02mmの軟銅線からなる金属素線21を7本撚り合わせたものを用い、絶縁体3としてPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)をチューブ押出ししてなるものを用い、横巻シールド部41として外径が0.02mmで表面に銀めっきを有する金属素線411を螺旋状に巻き付けしたものを用い、一括めっき部42として溶融した錫からなる溶融めっきを用い、シース5としてフッ素樹脂からなるものを用いた。
【0032】
まず、周波数特性の評価を行った。周波数特性の評価では、ネットワークアナライザを用いて、伝送特性S21の測定を行った。測定範囲は10MHz~30GHzとし、出力パワーは-8dBmとした。測定結果を図2及び表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
図2及び表1に示すように、実施例の同軸ケーブル1では、20GHz以降まで(例えば、26GHzまで)急激な減衰がみられず、サックアウトが抑制されていることが確認できた。これに対して、比較例の同軸ケーブルでは、12GHz~25GHzの周波数範囲において急激な減衰が発生しており、サックアウトが生じていることが分かる。
【0035】
次に、インピーダンスプロファイルの評価を行った。インピーダンスプロファイルの評価では、Keysight Technologies社製のADS(Advanced Design System)リニアシミュレータを用いて反射特性を時間領域に変換し、ケーブル長手方向のインピーダンスの解析を行った。解析の際の周波数帯域は20GHzとした。解析結果を図3に示す。
【0036】
図3に示すように、実施例の同軸ケーブル1では、時間に対するインピーダンスの傾きが安定しており、ケーブル長手方向でインピーダンスの変動が抑えられていることが分かる。これに対して、比較例の同軸ケーブルでは、時間に対するインピーダンスの傾きが大きく変動しており、ケーブル長手方向でインピーダンスが変動していることが分かる。
【0037】
次に、シールド性能の評価を行った。シールド性能の評価では、EMIテスタを用い、同軸ケーブル1から漏洩する近傍磁界の測定を行った。測定の際の周波数範囲は1MHz~3GHzとし、遠端側は50Ωで終端した。近傍磁界強度が最大となる点での近傍磁界強度の測定結果を図4に示す。
【0038】
図4に示すように、実施例の同軸ケーブル1では、比較例の同軸ケーブルと比較して、近傍磁界強度が低く抑えられており、特に24GHz以下の周波数範囲において、シールド性能が向上していることが確認できた。
【0039】
(ケーブルアセンブリ)
次に、同軸ケーブル1を用いたケーブルアセンブリについて説明する。図5は、本実施の形態に係るケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
【0040】
図5に示すように、ケーブルアセンブリ10は、本実施の形態に係る同軸ケーブル1と、同軸ケーブル1の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材11と、を備えている。
【0041】
端末部材11は、例えば、コネクタ、センサ、コネクタやセンサ内に搭載される基板、あるいは電子機器内の基板等である。図5では、端末部材11が基板11aである場合を示している。基板11aには、導体2が接続される信号電極12、及び、シールド層4が接続されるグランド電極13が形成されている。基板11aは、樹脂からなる基材16に信号電極12及びグランド電極13を含む導体パターンが印刷されたプリント基板からなる。
【0042】
同軸ケーブル1の端末部においては、端末から所定長さの部分のシース5が除去されシールド層4が露出されており、さらに露出されたシールド層4及び絶縁体3の端末部が除去され導体2が露出されている。露出された導体2が半田等の接続材14によって信号電極12に固定され、導体2が信号電極12に電気的に接続されている。また、露出されたシールド層4が半田等の接続材15によってグランド電極13に固定され、シールド層4がグランド電極13に電気的に接続されている。なお、導体2やシールド層4の接続は半田等の接続材14,15を用いずともよく、例えば、固定用の金具に導体2やシールド層4を加締め等により固定することで、導体2やシールド層4を接続してもよい。また、端末部材11がコネクタやセンサである場合、導体2やシールド層4を直接電極や素子に接続する構成としてもよい。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、シールド層4は、絶縁体3の周囲に複数の金属素線411を螺旋状に巻き付けた横巻きシールド部41と、横巻きシールド部41の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部42と、を有し、シールド層41は、複数の金属素線411が一括めっき部42によって覆われた外周部分4aと、複数の金属素線411が一括めっき部42で覆われていない内周部分と4b、を有し、外周部分4aは、複数の金属素線411と一括めっき部42との間に金属間化合物411cを有する。このとき、シールド層4は、複数の金属素線411が一括めっき部42を介して互いに連結された外周部分4aよりも、複数の金属素線411が一括めっき部42で覆われていない内周部分4bの導電率が高いことが好ましい。
【0044】
このように構成することで、シールド層4が一括めっき部42を介して全周で繋がることになり、横巻きシールド部41の金属素線411間の隙間を一括めっき部42で塞ぐことが可能になり、ノイズ特性を向上し、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域(例えば、26GHzまでの周波数帯域)で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル1を実現できる。さらに、シールド層4が一括めっき部42を介して全周で繋がることにより、シース5を除去した際に金属素線411が解けてしまうことが抑制され、端末加工性を向上できると共に、ケーブル端末部におけるシールド層4の乱れを抑制して電気特性を向上させることができる。さらにまた、高周波信号の伝送においては、電流はシールド層4における絶縁体3側に集中するため、シールド層4の外周部分4aよりも内周部分4bの導電率を高くすることで、錫等の比較的導電率が低い金属で一括めっき部42を構成した場合であっても、シールド層4の導電性の低下を抑制し、良好な減衰特性を維持することが可能になる。
【0045】
(変形例)
上記実施の形態では、連結部43の一括めっき部42とシース5との間に空隙6を有する場合について説明したが、図6に示すように、一括めっき部42とシース5との間に空隙6を有さず、一括めっき部42の外面とシース5の内面とが隙間無く接触していてもよい。このとき、連結部43における一括めっき部42の厚さWは、金属素線411の外径(直径)dと同じか、それよりも大きいことがよい。この場合では、一括めっき部42の厚さ(特に連結部43での厚さW)を金属素線411の外径dの130%(1.3×d)以下の範囲で十分に確保することにより、空隙6を有する場合と比べて、金属素線411同士の接合強度を大きくすることができるため、シールド層4の割れの発生を抑制することが可能である。なお、この場合、一括めっき部42は、図6に示すように、隣り合う金属素線411同士の間(例えば、連結部43の位置)において、絶縁体3と対向する内面がシース5側へ凹んだ形状となっていることがよい。
【0046】
また、図7に示すように、金属素線411が絶縁体3に埋め込まれるように配置されていてもよい。この場合、絶縁体3は、金属素線411と接触する部分の表面に、金属素線411と嵌合するくぼみ31を有している。また、金属素線411の周方向における絶縁体3と接触する部分が、絶縁体3のくぼみ31と嵌合している。これにより、金属素線411が絶縁体3に対して固定された状態となるため、金属素線411間の隙間が広がりにくくなる。これにより、同軸ケーブル1では、曲げたときに一括めっき部42に割れがより生じ難くなり、同軸ケーブル1の耐屈曲性をより向上することが可能になる。また、金属素線411が絶縁体3に埋め込まれることで、端末加工時に金属素線411がより解けにくくなり、端末加工をより容易に行うことが可能になる。さらに、金属素線411が絶縁体3に密着されるため、導体2とシールド層4との距離を長手方向において一定に維持することが可能になり、ケーブル長手方向においてインピーダンスを安定して一定に維持することや、所定の周波数帯域(例えば、26GHzまでの周波数帯域)において急激な減衰を生じにくくすることも可能になる。
【0047】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]導体(2)と、前記導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備え、前記シールド層(4)は、前記絶縁体(3)の周囲を覆うように複数の金属素線(411)が螺旋状に巻き付けされた横巻きシールド部(41)と、前記横巻きシールド部(41)の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部(42)と、を有し、前記シールド層(4)は、前記複数の金属素線(411)が前記一括めっき部(42)によって覆われた外周部分(4a)と、前記複数の金属素線(411)が前記一括めっき部(42)で覆われていない内周部分(4b)と、を有し、前記外周部分(4a)は、前記複数の金属素線(411)と前記一括めっき部(42)との間に金属間化合物(411c)を有する、同軸ケーブル(1)。
【0049】
[2]前記シールド層(4)は、前記外周部分よりも、前記内周部分の導電率が高い、[1]に記載の同軸ケーブル。
【0050】
[3]前記シールド層(4)は、周方向に隣り合う前記複数の金属素線(411)が離間しており、離間した前記複数の金属素線(411)同士が前記一括めっき部(42)を介して互いに連結されている、[1]または[2]に記載の同軸ケーブル(1)。
【0051】
[4]前記一括めっき部(42)が錫からなり、前記金属素線(411)が、銀めっき軟銅線からなり、前記金属素線(411)と前記一括めっき部(42)との間に、銅と錫を含む前記金属間化合物(411c)が形成されている、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0052】
[5]前記金属素線(411)は、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、伸びが7%以上20%以下である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)。
【0053】
[6][1]乃至[5]の何れか1項に記載の同軸ケーブル(1)と、前記同軸ケーブル(1)の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材(11)と、を備えた、ケーブルアセンブリ(10)。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…同軸ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…シールド層
41…横巻きシールド部
411…金属素線
411a…金属線
411b…めっき層
411c…金属間化合物
42…一括めっき部
4a…外周部分
4b…内周部分
5…シース
10…ケーブルアセンブリ
11…端末部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7