(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220928BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2018115783
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】北原 圭
(72)【発明者】
【氏名】毛利 宏
(72)【発明者】
【氏名】川勝 俊輝
【審査官】岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/109676(WO,A1)
【文献】特開2004-042796(JP,A)
【文献】特開2003-327149(JP,A)
【文献】特開2009-298371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールから入力される入力操舵角に対して、転舵機構に出力される出力転舵角を独立して制御する車両用操舵装置において、
目標転舵角に対する前記入力操舵角の比率を決定し、前記入力操舵角及び前記比率に応じた前記目標転舵角を算出する転舵角算出部と、
前記目標転舵角を補正し、前記出力転舵角として出力する転舵角補正部とを備え、
前記転舵角補正部は、前記比率が小さい程、前記目標転舵角の高周波成分を大きく抑制するように補正する
車両用操舵装置。
【請求項2】
前記転舵角補正部は、異なる前記比率の間で、前記目標転舵角に対する前記出力転舵角の位相遅れを同等にする
請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記比率は、車両の速度が低くなるほど小さくなる
請求項1または2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記転舵角補正部は、
前記転舵機構における実際の転舵角である実転舵角を取得し、
前記目標転舵角及び前記実転舵角を用いて前記目標転舵角に与える補正角を算出し、
前記目標転舵角と前記実転舵角との誤差を前記補正角の算出にフィードバックする
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記転舵角補正部は、非線形フィルタモデルを用いて、前記目標転舵角の高周波成分を抑制するように補正する
請求項1~
3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
前記非線形フィルタモデルは、ニューラルネットワークを用いて学習される時系列モデルである
請求項5に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングの操舵角と転舵輪の転舵角との比率である舵角比を変更できる車両用操舵装置がある。また、舵角比は、ステアリングのオーバーオールレシオ、オーバーオールギアレシオ、ステアリングギア比等とも呼ばれる。特許文献1は、車両の車速に基づき舵角比(分母を操舵角の変化量とし、分子を転舵角の変化量とする比率)を変更する可変舵角比操舵装置を開示している。この可変舵角比操舵装置は、車速が大きい高車速時には舵角比を小さく、車速が小さい低車速時には舵角比を大きくするように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
舵角比を変更することができる車両用操舵装置では、例えば、車両の低速域では、舵角比を、操舵角の変化量に対する転舵角の変化量が大きくなるように変更することによって、運転者の操舵量を低減する制御が行われる場合がある。この状態では、運転者の操舵に対して反応性がよい転舵が可能である。しかしながら、交差点を曲がる等の車両が微低速で旋回する場合、運転者の操作に過敏な転舵動作は、車両の走行を不安定にする可能性がある。よって、運転者が運転しづらくなる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、舵角比の変化による走行への影響を低減する車両用操舵装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両用操舵装置は、ステアリングホイールから入力される入力操舵角に対して、転舵機構に出力される出力転舵角を独立して制御する車両用操舵装置であって、目標転舵角に対する前記入力操舵角の比率を決定し、前記入力操舵角及び前記比率に応じた前記目標転舵角を算出する転舵角算出部と、前記目標転舵角を補正し、前記出力転舵角として出力する転舵角補正部とを備え、前記転舵角補正部は、前記比率が小さい程、前記目標転舵角の高周波成分を大きく抑制するように補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用操舵装置によると、舵角比の変化による走行への影響を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る車両用操舵装置の全体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のECUの機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、実施の形態1に係る目標ヨーレートの信号の周波数とゲインとの関係を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、実施の形態1に係る目標ヨーレートの信号の周波数と位相遅れとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2に係る車両用操舵装置におけるECUの機能的な構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図5には、実施の形態2に係るフィルタモデルの学習のための構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態に係る車両用操舵装置を、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明される実施の形態は、包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。さらに、各図において、実質的に同一の構成要素に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0010】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係る車両用操舵装置1の構成を説明する。本実施の形態では、車両用操舵装置1は、操舵機構2と転舵機構3とが機械的に接続されずに分離されているステア・バイ・ワイヤシステムを構成するとして、説明する。
図1には、実施の形態1に係る車両用操舵装置1の全体的な構成の一例が模式的に示されている。車両用操舵装置1は、車両Aに搭載されている。
図1に示すように、車両用操舵装置1は、車両Aの運転者によって操作される操舵機構2と、運転者による操舵機構2への入力に応じて転舵輪80を転舵させる転舵機構3とを備えている。転舵輪80は、車両Aの舵取り用の車輪である。操舵機構2と転舵機構3とは、機械的に接続されずに分離されている。
【0011】
操舵機構2は、運転者が操向のために操作する操舵部材としてのステアリングホイール10と、ステアリングホイール10と接続されたステアリングシャフト20と、ステアリングシャフト20に反力を与える反力モータ31と、反力モータ31の回転駆動力をステアリングシャフト20に伝達する第一減速機40とを備える。操舵機構2は、ステアリングシャフト20の回転量、つまり、ステアリングホイール10の操舵角を検出するための操舵角センサ50を、ステアリングシャフト20に備える。
【0012】
第一減速機40は、ステアリングシャフト20及び反力モータ31と接続され、反力モータ31を駆動源として、操舵に対する反力をステアリングシャフト20に付与する。これにより、運転者は、ステアリングホイール10を操作する際に、ステアリングホイール10から重みを感じ、操舵感を感じることができる。第一減速機40は、反力モータ31の回転速度を減速させ且つ回転駆動力を増強してステアリングシャフト20に伝達する。例えば、第一減速機40は、ステアリングシャフト20及び反力モータ31の駆動回転軸とギア係合する少なくとも1つの歯車で構成される。
【0013】
また、車両用操舵装置1は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)100を備える。ECU100は、反力モータ31、及び後述する転舵機構3の転舵モータ32と電気的に接続され、反力モータ31及び転舵モータ32の動作を制御する。転舵モータ32は、その回転駆動力によって転舵輪80を転舵させる。ECU100は、車両Aの速度センサ91、バッテリ92、操舵角センサ50、及び後述する転舵角センサ71とも電気的に接続されている。ECU100は、速度センサ91から車速の信号を取得し、操舵角センサ50から操舵角の信号を取得し、転舵角センサ71から転舵輪80の転舵角の信号を取得する。ECU100は、バッテリ92の電力を反力モータ31及び転舵モータ32に供給し、これらを稼動させる。ECU100は、操舵角センサ50によって検出されるステアリングホイール10の操舵角、及び、速度センサ91によって検出される車速に応じて、反力モータ31に発生させるトルクを制御する。ECU100は、操舵角センサ50、速度センサ91及び転舵角センサ71から取得する情報に基づき、転舵輪80の転舵角(「目標転舵角」とも呼ぶ)を決定する。ECU100は、転舵輪80の転舵角が目標転舵角と等しくなるように、転舵モータ32の回転量及びトルクを制御し、転舵輪80を動作させる。ECU100、反力モータ31、転舵モータ32、速度センサ91、バッテリ92、操舵角センサ50及び転舵角センサ71等の間の通信は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介した通信であってもよい。
【0014】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ及びメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成されてもよい。メモリの例は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、及び、ROM(Read-Only Memory)等の不揮発性メモリであってもよい。ECU100の一部又は全部の機能は、CPUがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。
【0015】
転舵機構3は、転舵輪80に接続されるラックシャフト70と、転舵モータ32と、転舵モータ32の回転駆動力をラックシャフト70に伝達する第二減速機60と、転舵角センサ71とを備える。転舵角センサ71は、転舵輪80の転舵角を検出するためのセンサである。転舵角センサ71は、転舵モータ32の駆動回転軸に設けられている。ECU100は、転舵角センサ71により検出された上記駆動回転軸の回転角度を、転舵輪80の転舵方向の回転角度に換算し、この換算値を転舵輪80の転舵角に決定する。
【0016】
第二減速機60は、転舵モータ32及びラックシャフト70と接続され、転舵モータ32を駆動源として、転舵輪80を転舵させるための力をラックシャフト70に付与する。第二減速機60は、転舵モータ32の回転速度を減速させ且つ回転駆動力を増強してラックシャフト70に伝達し、さらに、転舵モータ32の回転駆動力をラックシャフト70の軸方向の力に変換してラックシャフト70に伝達する。例えば、第二減速機60は、転舵モータ32の駆動回転軸に接続された第一プーリ61と、ラックシャフト70の外周を囲む筒状の第二プーリ62と、第一プーリ61及び第二プーリ62に架け渡される無端状のベルト63と備える。第二プーリ62はボールナットを構成する。第二プーリ62の内周面に形成されたらせん状の溝と、ラックシャフト70の外周面に形成されたらせん状の溝とは、図示しない複数のボールを介して螺合する。このような第二プーリ62及びラックシャフト70は、ボールネジ機構を構成する。転舵モータ32の回転駆動力は、第一プーリ61及びベルト63を介して第二プーリ62を回転させ、第二プーリ62が回転することによって、ラックシャフト70は、第二プーリ62に対して軸方向に往復移動する。これにより、ラックシャフト70は、転舵輪80を転舵させる。なお、第一プーリ61及び第二プーリ62は、ベルト63を介さずに、それぞれの外周面に形成されたギアを介して回転駆動力を伝達可能に係合してもよい。
【0017】
図2を参照しつつ、ECU100による転舵輪80の転舵角制御を説明する。
図2は、
図1のECU100の機能的な構成の一例を示す図である。上述したように、ECU100は、操舵角センサ50の操舵角情報と、速度センサ91の車速情報とを用いて、目標転舵角を算出する。この際、ECU100は、転舵角センサ71を介して検出される転舵輪80の転舵角(「検出転舵角」又は「実転舵角」とも呼ぶ)を目標転舵角の算出にフィードバックすることによって、算出された目標転舵角を補正し、補正後の目標転舵角を用いて、転舵モータ32を制御する。
【0018】
図2に示すように、ECU100は、転舵角算出部101と、転舵角補正部102と、記憶部103とを備える。記憶部103は、種々の情報の格納及び取り出しを可能にする。記憶部103は、例えば、ROM、RAM、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、ハードディスクドライブ、又はSSD(Solid State Disk)等の記憶装置によって実現される。本実施の形態では、記憶部103は、ECU100に含まれているが、ECU100の外部に配置され、ECU100と有線又は無線を介して接続されてもよい。
【0019】
転舵角算出部101は、操舵角センサ50及び速度センサ91から操舵角θ及び車速νを取得する。車速νが速度センサ91によって検出されたタイミングは、操舵角センサ50によって操舵角θが検出されたタイミングと同時又は直後又は近傍である。さらに、転舵角算出部101は、取得された車速νに基づき、目標転舵角に対する操舵角センサ50からの入力操舵角の比率(入力操舵角/目標転舵角)Rを決定し、目標転舵角δを算出する。転舵角算出部101は、目標転舵角δを転舵角補正部102に出力する。
【0020】
ここで、車両用操舵装置1は、操舵角/転舵角の比率である舵角比を任意に変更して、操舵角センサ50からの入力操舵角に対応する目標転舵角を決定することができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「舵角比」とは、分母を転舵角の変化量とし且つ分子を操舵角の変化量とする比率であるとする。つまり、舵角比は、操舵角/転舵角の比率である。さらに、以下において、「入力操舵角/目標転舵角の比率R」を、「目標舵角比R」とも呼ぶ。
【0021】
目標舵角比Rは、車速に応じて予め決められている。例えば、目標舵角比Rは、車速が高い高速域では大きくされ、運転者によるステアリングホイール10の操舵に対する転舵動作の反応が鈍くされる。また、目標舵角比Rは、車速が低い低速域では小さくされ、運転者によるステアリングホイール10の操舵に対する転舵動作の反応が鋭くされる。つまり、ステアリングホイール10の操舵量に対する転舵量の大きさが大きくされる。目標舵角比Rは、車速に応じて、段階的に変化するように設定されてもよく、車速に連動して漸次的に変化するように設定されてもよい。
【0022】
上述のような目標舵角比Rはそれぞれ、各車速と対応付けられて、記憶部103に予め格納されている。転舵角算出部101は、車速νに対応する目標舵角比Rを記憶部103から取得し、取得された目標舵角比Rを用いて、目標転舵角δを算出する。転舵角算出部101は、目標転舵角δと、当該目標転舵角δの算出に用いられた目標舵角比Rと、当該目標転舵角δの算出に用いられた車速νとを、互いに対応付けて、転舵角補正部102に出力する。
【0023】
転舵角補正部102は、互いに対応する目標転舵角δ、目標舵角比R及び車速νを転舵角算出部101から取得し、転舵角センサ71から実転舵角δ*を取得する。転舵角補正部102は、取得された目標転舵角δ、目標舵角比R及び車速νを用いて、実転舵角δ*によるフィードバックを伴った補正後の目標転舵角δaを算出する。このような転舵角補正部102は、取得部1021と、規範モデル算出部1022と、仮想車両算出部1023と、補助舵角算出部1024と、転舵角決定部1025とを含む。補正後の目標転舵角δaは、出力転舵角の一例である。
【0024】
取得部1021は、転舵角算出部101から、互いに対応する目標転舵角δ、目標舵角比R及び車速νを取得する。取得部1021は、目標転舵角δ及び車速νを互いに対応つけて、転舵角決定部1025に出力する。また、取得部1021は、目標転舵角δ、目標舵角比R及び車速νを互いに対応つけて、規範モデル算出部1022に出力する。
【0025】
規範モデル算出部1022は、取得された目標転舵角δ及び車速νを用いて、車両Aに発生させるヨーレート(「目標ヨーレート」とも呼ぶ)γmを算出する。目標ヨーレートγmは、上記目標転舵角δ及び車速νで車両Aが旋回するときに車両Aに発生し得る推定ヨーレートである。目標転舵角及び車速からの目標ヨーレートγmの算出は、既知の様々な方法を用いて行うことができる。例えば、車両Aに対応する車両モデルが、規範モデルとして記憶部103に予め格納されている。上記車両モデルの例は、車両Aにおける目標転舵角δ、車速ν及び目標ヨーレートγmの関係を示す伝達関数である。このような伝達関数は、車両Aの諸元及び実験等から決定可能である。規範モデル算出部1022は、記憶部103の伝達関数を参照し、当該伝達関数に目標転舵角δ及び車速νを入力することによって、目標ヨーレートγmを算出する。
【0026】
さらに、規範モデル算出部1022は、目標ヨーレートγmと、当該目標ヨーレートγmに対応する目標転舵角δと、当該目標転舵角δに対応する目標舵角比Rとを用いて、目標ヨーレートγmの高周波ゲインを低下する処理を行う。ゲインは、目標ヨーレートγmの信号の振幅Amに対するゲイン変更後の目標ヨーレートγmaの信号の振幅Amaの比率に対応する。ゲインは、20log10(振幅Ama/振幅Am)で示される。つまり、ゲインは、目標ヨーレートγmの信号の振幅Amに対するゲイン変更後の目標ヨーレートγmaの信号の振幅Amaの倍率に対応する。
【0027】
図3Aには、横軸の目標ヨーレートγmの信号の周波数と、縦軸のゲインとの関係が示されている。なお、横軸は、対数目盛りである。
図3Bには、横軸の目標ヨーレートγmの信号の周波数と、縦軸の位相遅れとの関係が示されている。なお、横軸は、対数目盛りである。位相遅れは、目標ヨーレートγmの信号に対して、ゲイン変更後の目標ヨーレートγmaの信号が遅れる応答遅れの位相である。位相遅れは、入力操舵角θの信号の受信に対する、目標ヨーレートγmaの信号の応答遅れでもある。
【0028】
図3Aに示すように、目標舵角比Rに応じて、目標ヨーレートγmの信号の周波数とゲインとの関係が、複数設定されている。このような関係は、ゲイン特性とも呼ばれる。本実施の形態では、目標舵角比Rの値が大きい高領域と、目標舵角比Rの値が小さい低領域と、高領域及び低領域の間の中領域との3つの領域について、上記関係が設定されている。いずれの領域においても、目標ヨーレートγmの信号の高周波領域において、ゲインが低くされている。さらに、目標舵角比Rが小さくなる程、高周波領域のゲインが低くされている。このため、目標舵角比Rが小さくなる程、ステアリングホイール10への入力に対する転舵動作量が高周波領域において小さくなる。記憶部103には、
図3Aに示すような複数のゲイン特性が予め格納されている。
【0029】
また、
図3Bには、
図3Aに示される目標ヨーレートγmの高領域、中領域及び低領域それぞれに対応する位相遅れと周波数との関係が示されている。いずれの領域においても、目標ヨーレートγmの信号の高周波領域において、位相遅れが小さくなる。つまり、高周波領域において、ステアリングホイール10への入力に対する転舵実行タイミングのレスポンスが鋭くなる。さらに、高領域、中領域及び低領域それぞれの領域において、位相遅れの特性が同じである。よって、目標舵角比Rに関係なく、応答の位相が変わらない。そして、例えば、ゲインの低下量が大きくなるに従い増加する可能性がある位相遅れの低下量が低減される。なお、高領域、中領域及び低領域それぞれの領域における位相特性は同じでなくてもよい。記憶部103には、複数の位相特性が予め格納されている。
【0030】
このように、規範モデル算出部1022は、目標ヨーレートγmと、これに対応する目標舵角比Rと、
図3A及び
図3Bに示すような関係とを用いて、目標ヨーレートγmの信号に対して高周波ゲインを低下させ且つ応答の位相遅れを低減した目標ヨーレートγmaの信号を生成し、補助舵角算出部1024に出力する。以下において、目標ヨーレートγmaを、「第二目標ヨーレートγma」と呼び、目標ヨーレートγmを、「第一目標ヨーレートγm」とも呼ぶ。
【0031】
仮想車両算出部1023は、転舵角センサ71を介して転舵輪80の実転舵角δ*を取得し、速度センサ91から車速νを取得する。実転舵角δ*及び車速νが転舵角センサ71及び速度センサ91によって検出されたタイミングは、操舵角センサ50によって操舵角θが検出されたタイミングと同時又は直後又は近傍である。仮想車両算出部1023は、取得された実転舵角δ*及び車速νを用いて、車両Aに発生しているヨーレート(「推定ヨーレート」とも呼ぶ)γe及び横滑り角(「推定横滑り角」とも呼ぶ)βを算出する、つまり推定する。推定ヨーレートは、上記実転舵角δ*及び車速νで車両Aが旋回するときに車両Aに発生し得るヨーレートである。推定横滑り角は、車両Aの重心の進行方向と車両Aの向き(車両の中心線の方向)とのなす角度である。実転舵角及び車速からの推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βの算出は、既知の様々な方法を用いて行うことができる。例えば、推定ヨーレートγeの算出は、第一目標ヨーレートγmの算出と同様にして可能である。仮想車両算出部1023は、記憶部103に格納された車両Aに対応する車両モデルを示す伝達関数を参照し、当該伝達関数に実転舵角δ*及び車速νを入力することによって、推定ヨーレートγeを算出する。仮想車両算出部1023は、推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βを補助舵角算出部1024に出力する。
【0032】
補助舵角算出部1024は、規範モデル算出部1022から取得される第二目標ヨーレートγmaと、仮想車両算出部1023から取得される推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βとを用いて、目標転舵角δを補正するための補正舵角δcを算出する。具体的には、補助舵角算出部1024は、第二目標ヨーレートγmaにフィードバック係数K3を乗算し、推定ヨーレートγeにフィードバック係数K1を乗算し、推定横滑り角βにフィードバック係数K2を乗算する。補助舵角算出部1024は、各フィードバック係数が乗算された第二目標ヨーレートγma、推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βを用いて、補正舵角δcを算出する。そして、補助舵角算出部1024は、補正舵角δcを転舵角決定部1025に出力する。補正舵角δcの算出は、既知の様々な方法を用いて行うことができる。例えば、補正舵角δcは、以下の式により算出可能である。
δc=K3×γma+K1×γe+K2×β
【0033】
なお、本実施の形態では、フィードバック係数K1、K2及びK3は、補助舵角算出部1024によって算出される。具体的には、補助舵角算出部1024は、推定ヨーレートγeと第二目標ヨーレートγmaとの差である出力誤差e(e=γe-γma)を用いて、下記の式1に示す評価関数を算出し、この評価関数を最小にするフィードバック係数K1、K2及びK3を算出する。なお、下記の評価関数において、qは、重み係数(定数)である。δは、入力操舵角θに対応する目標転舵角である。出力誤差eは、目標転舵角δと実転舵角δ*との誤差に対応する。よって、目標転舵角δと実転舵角δ*との誤差が、補正舵角δcの算出にフィードバックされる。
【0034】
【0035】
転舵角決定部1025は、補助舵角算出部1024から取得される補正舵角δcを、取得部1021から取得される目標転舵角δに加算することによって、補正後の目標転舵角である補正目標転舵角δaを算出する。補正目標転舵角δa=目標転舵角δ+補正舵角δcである。ECU100は、転舵角決定部1025によって決定された補正目標転舵角δaで転舵輪80を転舵させるように、転舵モータ32を制御する。
【0036】
上述のような実施の形態1に係る車両用操舵装置1のECU100は、入力操舵角θに対応する目標転舵角δに基づき、第一目標ヨーレートγmを算出し、さらに、第一目標ヨーレートγmの高周波ゲインを低くすることによって、第二目標ヨーレートγmaを算出する。また、ECU100は、実転舵角δ*に基づき、車両Aの推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βを算出する。ECU100は、第二目標ヨーレートγma、推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βに基づき、補正舵角δcを算出し、補正舵角δc及び目標転舵角δから補正目標転舵角δaを算出し、補正目標転舵角δaを転舵モータ32を制御するための目標転舵角とする。なお、ECU100は、目標転舵角δと実転舵角δ*との誤差を、第二目標ヨーレートγma、推定ヨーレートγe及び推定横滑り角βに基づく補正舵角δcの算出にフィードバックすることによって、入力情報である目標転舵角δに対する適合精度を向上した転舵制御を行う。
【0037】
上述したように、実施の形態1に係る車両用操舵装置1は、ステアリングホイール10から入力される入力操舵角に対して、転舵機構3に出力される出力転舵角を独立して制御する。車両用操舵装置1のECU100は、目標転舵角に対する入力操舵角の比率である目標舵角比Rを決定し、入力操舵角及び目標舵角比Rに応じた目標転舵角を算出する転舵角算出部101と、目標転舵角を補正し、出力転舵角として出力する転舵角補正部102とを備える。転舵角補正部102は、目標舵角比Rが小さい程、目標転舵角の高周波成分を大きく抑制するように補正する。
【0038】
上記態様によると、舵角比が小さくなるに従い、ステアリングホイール10への操舵に対する転舵動作の反応が過敏になる。そして、車両用操舵装置1は、このような状況下において、目標転舵角の高周波成分、つまり、転舵速度が大きい成分を大きく抑制する。このため、運転者が、交差点を曲がる等の大きな旋回角での旋回ためにステアリングホイール10を大きく操舵した場合であっても、車両Aが過敏に反応し転舵することが抑えられる。このため、運転者は、過敏に反応する転舵動作に対応するために、ステアリングホイール10を把持し直す等の持ち替え操作をする必要がなくなる。また、車両Aが高速で走行する場合に、舵角比を小さくしても、車両Aの安定性が保たれる。また、操舵角が小さい領域において、転舵速度が大きい成分が大きく抑制されるため、車両Aの直進走行時のふらつきが抑えられる。さらに、全車速域で舵角比を小さくしても、車両Aは安定して走行するため、全車速域でステアリングホイール10の操作量の低減が可能である。このように、車両用操舵装置1は、運転者の運転のしやすさを向上することができる。このような車両用操舵装置1は、舵角比の変化による走行への影響を低減することができる。
【0039】
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置1において、転舵角補正部102は、異なる目標舵角比Rの間で、目標転舵角に対する出力転舵角の位相遅れを同等にする。上記態様によると、ステアリングホイール10への操舵の入力に対する転舵動作の高周波領域における応答の遅れが、目標舵角比Rに関係なく同等である。よって、運転者は、舵角比が変化しても、違和感なく操舵することができる。
【0040】
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置1において、目標舵角比Rは、車両Aの速度が低くなるほど小さくなる。上記態様によると、運転者は、車両Aの速度が低くなるほど、少ない操舵量で大きな転舵角で車両Aを旋回させることができる。車両Aの速度が低くなるほど、車両Aは、旋回のために大きな転舵角を必要とするため、運転者は、車両Aを運転しやすくなる。
【0041】
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置1において、転舵角補正部102は、転舵機構3における実際の転舵角である実転舵角を取得し、目標転舵角及び実転舵角を用いて目標転舵角に与える補正角を算出し、目標転舵角と実転舵角との誤差を補正角の算出にフィードバックする。上記構成によると、補正角は、目標転舵角及び実転舵角を用いて算出されるため、車両Aの状態を反映することができる。つまり、出力転舵角は、車両Aの状態を反映することができる。さらに、補正角は、上記誤差のフィードバックを受けるため、目標転舵角に対する出力転舵角の精度が向上する。よって、正確な転舵動作が可能になる。
【0042】
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置1では、規範モデル算出部1022は、第一目標ヨーレートγm、目標転舵角δ及び目標舵角比Rを用いて、第一目標ヨーレートγmの高周波ゲインを低下する処理を行ったが、これに限定されない。例えば、規範モデル算出部1022は、目標転舵角δ及び目標舵角比Rを用いて、目標転舵角δの高周波ゲインを低下する処理を行ってもよい。この場合も、
図3A及び
図3Bに示すような関係が用いられる。具体的には、
図3A及び
図3Bに対応する図における横軸は、目標転舵角δの信号の周波数を示す。
図3Aに対応する図における縦軸は、目標転舵角δのゲインを示す。
図3Bに対応する図における縦軸は、ゲイン変更後の目標転舵角δの信号の位相遅れを示す。そして、規範モデル算出部1022は、高周波ゲインを低下後の目標転舵角を用いて、第二目標ヨーレートγmaを算出する。
【0043】
[実施の形態2]
実施の形態2に係る車両用操舵装置を説明する。実施の形態2に係る車両用操舵装置では、ECU200は、機械学習により構築されたフィルタモデルを用いて、目標転舵角から目標ヨーレートを算出する。以下において、実施の形態1と異なる点を中心に説明し、実施の形態1と同様の点の説明を省略する。
【0044】
図4には、実施の形態2に係る車両用操舵装置におけるECU200の機能的な構成の一例が示されている。
図4に示すように、ECU200は、転舵角算出部101と、転舵角補正部202と、記憶部103とを備える。転舵角補正部202は、取得部2021と、フィルタ部2027と、転舵角決定部2025とを含む。取得部2021は、転舵角算出部101から目標転舵角δ及びこれに対応する車速νを取得する。
【0045】
取得部2021は、目標転舵角δをフィルタ部2027に出力し、車速νを転舵角決定部2025に出力する。フィルタ部2027は、目標転舵角δを用いて、第二目標ヨーレートγmaを算出し、転舵角決定部2025に出力する。さらに、フィルタ部2027は、目標転舵角δを記憶部103に記憶させる。これにより、記憶部103では、これまでに取得された複数の目標転舵角が、取得された順序と対応付けられて、例えば、時系列データとして蓄積される。なお、記憶部103への目標転舵角δの記憶は、転舵角算出部101又は取得部2021によって行われてもよい。転舵角決定部2025は、車速ν及び第二目標ヨーレートγmaを用いて、目標転舵角δを補正した補正目標転舵角δaを算出する。例えば、転舵角決定部2025は、実施の形態1で説明した規範モデルの伝達関数の逆演算を行うことによって、車速ν及び第二目標ヨーレートγmaから補正目標転舵角δaを算出する。
【0046】
フィルタ部2027の詳細を説明する。フィルタ部2027は、フィルタモデルを用いて、入力データに対する出力データを出力する。フィルタモデルは、非線形のフィルタモデルであり、目標転舵角δ、及び目標転舵角δの過去値を入力データとし、第二目標ヨーレートγmaを出力データとする非線形の時系列モデルである。目標転舵角δの過去値は、目標転舵角δよりも前に取得され且つ記憶部103に蓄積された目標転舵角である。フィルタモデルは、記憶部103に格納されている。フィルタ部2027は、上記のような入力データに対して、例えば実施の形態1のような、目標舵角比Rに応じた高周波ゲインの低下処理と応答の位相遅れの抑制処理とが行われた第二目標ヨーレートγmaを出力する。なお、時系列モデルは、時系列データにおける2時点間の変数の間にある規則を与えるモデルである。時系列データは、時間の流れと共に順番に観測又は取得されるデータである。例えば、操舵角センサ50によって検出される操舵角は、時系列データであり、各操舵角から算出される目標転舵角は、時系列データである。
【0047】
本実施の形態では、フィルタモデルは、非線形自己回帰型の時系列モデルである。フィルタモデルは、学習データを用いて学習することによって出力データの出力精度を向上する。フィルタモデルに適用される学習モデルは、Deep Learning(深層学習)等のニューラルネットワークを用いた機械学習モデルであるが、他の学習モデルであってもよい。例えば、学習モデルは、Random Forest、又はGenetic Programming等を用いた機械学習モデルであってもよい。
【0048】
フィルタモデルの機械学習は、ECU200によって行われてもよく、ECU200とは離れた位置に配置された図示しないサーバ装置等の外部機器によって行われてもよい。サーバ装置等の外部機器で学習されたフィルタモデルは、不揮発性メモリ等の記録媒体、又は、インターネットなどの通信網等を介した無線通信により、記憶部103に送られてもよい。
【0049】
フィルタモデルの学習には、教師信号あり学習(「教師あり学習」とも呼ばれる)が用いられる。教師あり学習では、入力データ、つまり入力信号に対するフィルタモデルの出力が、教師信号と合致するようにニューラルネットワーク内の重み付けが調整される。本実施の形態では、ニューラルネットワークにおいて、現在の値y(t)は、下記の式2に示すように、教師信号y(t)及び入力信号x(t)のそれぞれの過去のデータの関数として予測される。なお、fは、非線形関数である。フィルタモデルの学習は、事前に作成された教師信号を用いて行われ、学習終了後はフィルタモデルからの出力y(t)が入力y(t-1)に接続され、クローズドループのニューラルネットワークとされる。
【0050】
【0051】
フィルタモデルの学習方法の詳細を説明する。
図5には、実施の形態2に係るフィルタモデル2027aの学習のための構成の一例が示されている。上述したように、
図5の構成は、ECU200に含まれていてもよく、サーバ装置等の外部機器に含まれていてもよい。ECU200に含まれる場合、
図5のフィルタ部2027Aは、
図4のフィルタ部2027である。フィルタモデル2027aの学習は、フィルタ部2027A及び教師信号生成部2027Bによって行われる。フィルタ部2027Aは、フィルタモデル2027a及び車両モデル2027bを含み、教師信号生成部2027Bは、車両モデル2027b及びゼロ位相フィルタ(Zero Phase Filter)2027cを含む。
【0052】
フィルタモデル2027aは、入力データに対して、目標舵角比Rに応じた高周波ゲインの低下処理と応答の位相遅れの抑制処理とを行う。このため、
図5に示すように、教師信号の生成には、ゼロ位相フィルタ2027cが用いられる。ゼロ位相フィルタ2027cとは、入力データの過去の値だけでなく未来の値も使うことにより、出力の位相遅れをゼロにできるオフラインフィルタである。ゼロ位相フィルタ2027cの位相遅れをゼロにできるという位相特性を利用して、ゲインと位相とを独立に変更可能な教師信号の作成が可能である。なお、オンラインは、車両の走行中を示し、オフラインは、車両の非走行時を示す。オフラインフィルタは、事前に取得されたデータ、及び、人工的に作成されたデータ等の車両の非走行時に取得されるデータを使用する。
【0053】
オフラインフィルタでは未来の値を使用できるが、オンラインフィルタでは過去の値だけしか使用できない。そして、実際にフィルタモデル2027aを使用するときはオンラインであるから過去の値だけしか使えない。そこで、ニューラルネットワークの非線形性を使用することで、フィルタモデル2027aは、オンラインフィルタでありながら、ゼロ位相フィルタ2027cに近い特性を擬似的に実現することができる。教師信号を用いてオフラインで学習されたフィルタモデル2027aを用いることにより、オンラインフィルタでも教師信号に近い特性を模擬できる。
【0054】
教師信号生成部2027Bは、目標転舵角等の入力信号が入力されると、入力信号を、車両モデル2027bに入力し、車両モデル2027bからヨーレート信号として出力する。なお、車両モデル2027bは、対象とする車両の特性をあらわすモデルであり、例えば、実施の形態1における車両モデルを示す伝達関数である。さらに、教師信号生成部2027Bは、ヨーレート信号を、ゼロ位相フィルタ2027cに入力し、ゼロ位相フィルタ2027cからヨーレート信号を教師信号として出力する。このような教師信号は、事前に計算され、フィルタモデル2027aの学習に用いられる。教師信号は、1つの車両に関するデータから生成される教師信号に限定されず、例えば、同様の特性の複数の車両に関するデータから生成される汎用的な教師信号であってもよい。
【0055】
また、フィルタモデル2027aの学習では、フィルタ部2027Aは、目標転舵角等の入力信号を車両モデル2027bに入力し、車両モデル2027bから出力されるヨーレート信号をフィルタモデル2027aに入力する。また、フィルタ部2027Aは、入力信号を、車両モデル2027bを介さずに、フィルタモデル2027aにも入力する。入力信号は、目標転舵角と、当該目標転舵角の過去値とを含む。入力信号の例は、目標転舵角の時系列データである。よって、フィルタモデル2027aには、目標転舵角及び当該目標転舵角の過去値(x1~xn)と、これら目標転舵角から生成されるヨーレートとが入力される。入力された目標転舵角及びヨーレートの信号は、フィルタモデル2027aからヨーレート信号として出力される。フィルタ部2027Aは、フィルタモデル2027aから出力されたヨーレート信号が教師信号と合致するように、フィルタモデル2027aを構成するニューラルネットワーク内のノード間の重み付けを調整する。
【0056】
なお、ニューラルネットワークは、入力層及び出力層を含む複数のノード層で構成されている。ノード層には、1つ以上のノードが含まれる。ニューラルネットワークが、例えば、入力層、中間層及び出力層の3つのノード層で構成される場合、ニューラルネットワークは、入力層のノードに入力された情報について、入力層から中間層への出力処理、中間層での処理、中間層から出力層への出力処理、出力層での処理を順次行い、入力情報に適合する出力結果を出力する。なお、1つの層の各ノードは、次の層の各ノードと接続されており、ノード間の接続には、重み付けがされている。1つの層のノードの情報は、ノード間の接続の重み付けが付与されて、次の層のノードに出力される。
【0057】
また、フィルタモデル2027aは、複数のゲイン特性に対応するように構築される。このため、ゼロ位相フィルタ2027cは、位相特性を変えずに複数のゲイン特性に対応するように作成される。車両モデル2027bには、車両に対応した固有振動数が設定される。ゼロ位相フィルタ2027cには、ゲイン特性それぞれに対応した固有振動数が設定される。このようなゼロ位相フィルタ2027cは、位相特性が同一であり且つゲイン特性が異なる複数の車両仕様の周波数応答を示す。周波数応答は、操舵角に対するヨーレートの周波数応答である。実施の形態1の
図3A及び
図3Bで説明したように、高領域、中領域及び低領域の3つのゲイン特性が考慮される場合、ゼロ位相フィルタ2027cは、3つのゲイン特性に対応した固有振動数が設定され得る。上述のように構築されたフィルタモデル2027aは、ゲイン及び位相遅れの関係が非線形であっても、目標転舵角δに対応する適切な第二目標ヨーレートγmaを算出することができる。
【0058】
上述のように学習されたフィルタモデル2027aは、記憶部103に記憶される。そして、ECU200の転舵角補正部202のフィルタ部2027は、車両Aの走行中に取得される目標転舵角δと、記憶部103から取得される目標転舵角δの過去値とを、記憶部103に記憶された車両モデルに入力することによって、目標転舵角δ及びその過去値に対応するヨーレートを取得する。上記車両モデルは、車両モデル2027bと同様である。さらに、フィルタ部2027は、目標転舵角δとその過去値と上記ヨーレートとを、記憶部103のフィルタモデル2027aに入力することによって、第二目標ヨーレートγmaを算出し転舵角決定部2025に出力する。目標転舵角δとその過去値からなるデータは、目標舵角比Rに相関する。このようなフィルタ部2027は、目標舵角比Rに応じた高周波ゲインの低下と応答の位相遅れの抑制とを反映した第二目標ヨーレートγmaを出力する。
【0059】
実施の形態2に係る車両用操舵装置のその他の構成及び動作は、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。また、実施の形態2に係る車両用操舵装置によると、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0060】
さらに、実施の形態2に係る車両用操舵装置のECU200において、転舵角補正部202は、非線形フィルタモデルを用いて、目標転舵角の高周波成分を抑制するように補正する。上記構成によると、ゲイン及び位相遅れの様々な関係に対応して、高周波成分を適切に抑制することが可能になる。例えば、ゲイン及び位相遅れが線形関係である場合、位相遅れを小さくすると高周波でのケインが大きくなる関係がある。
【0061】
また、実施の形態2に係る車両用操舵装置のECU200において、非線形フィルタモデルは、ニューラルネットワークを用いて学習される時系列モデルである。ニューラルネットワークを用いることによって、ゲイン及び位相遅れの様々な関係に対応する適切な非線形フィルタモデルを、構築することが可能になる。
【0062】
[その他]
以上、本発明の1つ以上の態様に係る車両用操舵装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の1つ以上の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0063】
例えば、実施の形態2に係る車両用操舵装置の転舵角補正部202は、フィルタモデル2027aを有するフィルタ部2027の代わりに、ローパスフィルタを有するフィルタ部を備えてもよい。ローパスフィルタは、目標転舵角の高周波成分、又は、目標転舵角から算出される目標ヨーレートの高周波成分を除去するフィルタであってもよい。さらに、ローパスフィルタは、例えば実施の形態1のように、目標舵角比Rに応じて、除去対象とする高周波成分を異ならせてもよい。これによっても、舵角比の変化による走行への影響を低減することが可能である。
【0064】
また、実施の形態に係る車両用操舵装置は、ステア・バイ・ワイヤシステムを構成するとして説明されたが、これに限定されない。車両用操舵装置は、舵角比を可変であるいかなる操舵装置であってもよい。例えば、車両用操舵装置は、操舵機構と転舵機構とが機械的に接続されており、操舵機構と転舵機構との間に、上記比率を変更する可変機構を備える構成であってもよい。又は、車両用操舵装置は、左右独立操舵可能なステア・バイ・ワイヤシステムを構成してもよい。上記ステア・バイ・ワイヤシステムでは、左右の転舵輪それぞれの転舵機構は、互いに機械的に結合されておらず、操舵機構とも機械的に結合されていない。左右の転舵機構は、各転舵機構に設けられたアクチュエータによって動作する。
【0065】
また、上記で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0066】
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを1つの機能ブロックとして実現したり、1つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る車両用操舵装置は、舵角比を可変である車両用操舵装置に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 車両用操舵装置、2 操舵機構、3 転舵機構、10 ステアリングホイール、32 転舵モータ、50 操舵角センサ、71 転舵角センサ、80 転舵輪、91 速度センサ、100,200 ECU、101 転舵角算出部、102,202 転舵角補正部、A 車両