(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】多層配線基板および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20220928BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220928BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20220928BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20220928BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220928BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220928BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20220928BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H05K3/46 S
H05K1/03 650
C09J7/35
C09J7/29
C09J201/00
C09J11/04
H05K3/46 T
H05K1/03 610H
H05K1/03 610R
H05K3/46 G
B32B15/082 B
H01L23/12 N
(21)【出願番号】P 2019501329
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018005932
(87)【国際公開番号】W WO2018155418
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2017031408
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 聡子
【審査官】柴垣 宙央
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-011456(JP,A)
【文献】特開2016-124982(JP,A)
【文献】特開2005-089691(JP,A)
【文献】特開2001-203466(JP,A)
【文献】特開2003-133814(JP,A)
【文献】特開2006-024618(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053309(WO,A1)
【文献】特開2014-207297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/03
C09J 7/35
C09J 7/29
C09J 201/00
C09J 11/04
B32B 15/082
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその一面に形成されている導体パターンを有するフッ素樹脂基板と、
前記フッ素樹脂基板を接着するための接着層
(但し、当該接着層がポリイミド樹脂を含む場合を除く)と、
を含み、
前記接着層が、熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、かつ、20%以上300%以下の破断伸び率を有し、
前記熱硬化性樹脂は、変性ポリフェニレンエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びビスマレイミドからなる群より選択される少なくとも1種を含む、多層配線基板。
【請求項2】
前記接着層の引張り弾性率が、1GPa以下である、請求項1記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記接着層が、0.002以下の誘電正接を有するフィラーを含む、請求項1または2記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記フッ素樹脂基板の誘電率が100%であるときの、前記接着層の誘電率が、70~130%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項5】
前記接着層上の伝送損失が、20GHzにおいて、0~-3dB/70mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記接着層の誘電率が、1.6~3.5であり、前記接着層の誘電正接が、0.0005~0.005である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層配線基板を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多層配線基板、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は、小型化・高性能化が進み、情報伝達に使用される電気信号のさらなる高速化が必要とされている。高速電気信号を伝達する際には、信号の損失が生ずる。電気信号がより高速になるにつれて、この信号の損失は、大きくなる。この損失を低減する手法として、一般的に、回路材料にフッ素樹脂基板が、使用されている。
【0003】
また、部品の高機能化に伴い、回路基板等、特に、高周波回路に適した多層配線基板の回路材料は、高多層化されている。従来、多層化するには、低誘電率・低誘電正接(高周波特性に優れる)熱可塑性樹脂を、接着層として用いてきた。
【0004】
多層化したフッ素樹脂基板として、弗素樹脂製の絶縁基板に接着されている銅箔を含む銅張積層板が知られている。この銅張り積層板の特徴は、粗化処理も黒化処理もされていない平滑面を両面に有する銅箔が、LCPとPFAとの複合フィルムを介して、絶縁基板に接着されていることである(特許文献1)。また、積層された複数のフッ素樹脂系基材層により形成され、かつ、内部に少なくとも1つの導電体層を備える多層プリント回路基板も報告されている(特許文献2)。この回路基板の特徴は、上記の内部導電体層を備えた基材層と、これに隣接する基材層とが、液晶ポリマーからなる接着層を介して互いに接着されていることである。
【0005】
しかしながら、一般に、回路基板に熱可塑性樹脂を用いる場合、多層化のために繰り返し熱をかけた際、層間に位置ずれが起こる、という問題が生じる。ジグを使うことにより、位置ずれを抑制することは可能である。しかし、微小な位置ずれを防ぐことはできない。
【0006】
特に、上記の銅張積層板及び多層プリント回路基板には、いずれも融点が高い液晶ポリマー(LCP)を使用されている。そのため、層間の位置ずれの現象が悪化する。その結果、多層化がより難しくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-098692号公報
【文献】特開2005-268365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行い、層間の位置ずれを抑制することができ、かつ、ピール強度に優れる接着層を使用することにより、フッ素樹脂基板を用いるときの、電気信号の伝送損失を抑制することができる多層配線基板を得た。
【0009】
本開示は、層間の位置ずれを抑制することができ、かつ、ピール強度に優れる接着層を使用することにより、フッ素樹脂基板を用いるときの、電気信号の伝送損失を抑制することができる多層配線基板およびこれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下の構成を有することによって、上記問題を解決することのできる、多層配線基板および半導体装置に関する。
〔1〕少なくともその一面に形成されている導体パターンを有するフッ素樹脂基板と、前記フッ素樹脂基板を接着するための接着層と、を含み、前記接着層が熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、かつ、20%以上300%以下の破断伸び率を有する、多層配線基板。
〔2〕前記接着層の引張り弾性率が、1GPa以下である、上記〔1〕の多層配線基板。
〔3〕前記接着層が、0.002以下の誘電正接を有するフィラーを含む、上記〔1〕または〔2〕の多層配線基板。
〔4〕前記フッ素樹脂基板の誘電率が100%であるときの、前記接着層の誘電率が、70~130%である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかの多層配線基板。
〔5〕前記接着層上の伝送損失が、20GHzにおいて、0~-3dB/70mmである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかの多層配線基板。
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかの多層配線基板を含む、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本開示〔1〕によれば、層間の位置ずれを抑制することができ、かつ、ピール強度に優れる接着層を使用することにより、フッ素樹脂基板を用いるときの、電気信号の伝送損失を抑制することができる多層配線基板を提供することができる。
【0012】
本開示〔6〕によれば、層間の位置ずれが抑制することができ、かつ、ピール強度に優れる接着層により、電気信号の伝送損失を抑制することができる多層配線基板を含む、高信頼性の半導体部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】多層配線基板の断面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の多層配線基板は、少なくともその一面に形成されている導体パターンを有するフッ素樹脂基板と、前記フッ素樹脂基板を接着するための接着層と、を含み、前記接着層が、熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、かつ、20%以上300%以下の破断伸び率を有する。
図1は、多層配線基板の断面の一例を示す模式図である。
図1は、2層配線基板の断面の例である。
図1に示す多層配線基板1は、少なくともその一面に形成されている導体パターン20を有するフッ素樹脂基板30と、フッ素樹脂基板30を接着するための接着層10と、を含む。接着層10は、熱硬化性樹脂の硬化物を含有する。さらに、接着層10の破断伸び率は、20%以上300%以下である。
なお、
図1に示すように、多層配線基板1には、必要に応じ、ヴィアホール(スルーホール)40を形成することができる。
【0015】
〔フッ素樹脂基板〕
フッ素樹脂基板としては、例えば、特開平07-323501号公報あるいは特開2005-268365号公報に記載のフッ素樹脂基板を使用できる。具体的な例として、ガラスクロスに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含浸保持させて得られる、プリプレグから構成したリジッド基板、および、フッ素樹脂繊維と、ガラス繊維などの耐熱性絶縁繊維と、を用いて、湿式抄紙法にて形成することにより得られる、いわゆる抄紙シートが、挙げられる。
【0016】
フッ素樹脂基板に用いるフッ素樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEPPFA)、FEP、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、および、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。これらフッ素樹脂のうち、低誘電率、低誘電正接、耐熱性、および耐薬品性等の観点から、PTFEが、好ましい。なお、PFA等の融点は、好ましくは280℃以上である。フッ素樹脂の成形温度の一例は、320~400℃である。フッ素樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0017】
耐熱性絶縁繊維の例としては、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、およびアルミニウムシリケート繊維等の無機繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)、芳香族ポリエステル繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、および、全芳香族ポリアミド繊維等の有機繊維が、挙げられる。耐熱性、高強度、高弾性率、および安価の観点から、ガラス繊維が好ましい。耐熱性絶縁繊維は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0018】
導体パターンとしては、銅箔のエッチングにより形成される銅配線等が、挙げられる。
【0019】
〔接着層〕
接着層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、かつ、この接着層の破断伸び率は、20%以上300%以下である。
【0020】
熱硬化性樹脂は、接着層に接着性および耐熱性(加熱時の耐溶融性)を付与する。熱硬化性樹脂は、その熱硬化後に、接着層に、20%以上300%以下の破断伸び率を与えるものであれば、特に限定されない。例として、変性ポリフェニレンエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスマレイミド、特殊アクリレート、および変性ポリイミド等が、挙げられる。変性ポリフェニレンエーテルあるいは変性ポリイミドを含有する樹脂が、接着層の破断伸び率および誘電率の観点から、好ましい。特に末端にエチレン性不飽和基(特に、スチレン基)を有する変性ポリフェニレンエーテル(例えば、特開2004-59644号に記載されたもの)は、その小さな極性のため、極性の小さなフッ素樹脂とも、高い接着性を有するので、より好ましい。なお、エポキシ樹脂は、一般的に、単独では、低い破断伸び率および高い誘電率を有するため、好ましくない。熱硬化性樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0021】
熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、硬化剤を必要とする場合がある。その硬化剤は、特に限定されない。例として、イミダゾール系、アミン系、酸無水物系、およびフェノール系の硬化剤が、挙げられる。反応温度および反応時間の観点から、イミダゾール系の硬化剤が、好ましい。1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、および、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールが、より好ましい。
【0022】
接着層には、その他の樹脂を含有させることもできる。その他の樹脂は、熱硬化性樹脂単体では、熱硬化後に、接着層に20%以上の破断伸び率を付与できないときに、伸び率を向上させるために付加される。その他の樹脂の例としては、ポリオレフィン系エラストマーのうち、特に、スチレン系熱可塑性エラストマーとして、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック共重合体等が、挙げられる。これらの水添エラストマーは、誘電率および誘電正接が低いため、好ましい。その他の樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0023】
接着層の破断伸び率は、銅箔とのピール強度の観点から、好ましくは20%以上300%以下である。破断伸び率が20%未満では、接着層が硬く脆くなる。そのため、銅箔とのピール強度が弱くなる。破断伸び率が300%を超えると、積層時に位置ずれが発生し易くなる。ここで、接着層の破断伸び率は、オートグラフで測定することができる。
【0024】
接着層は、多層配線基板のさらなる低伝送損失化の観点から、好ましくは、0.002以下の誘電正接を有するフィラーを含有する。0.002以下の誘電正接を有するフィラーの例としては、フッ素樹脂フィラーおよびシリカフィラー(中空シリカ粒子を含む)が、挙げられる。また、0.002以下の誘電正接を有するフィラーの平均粒径は、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.01~1μmである。ここで、平均粒径は、BECKMAN COULTER社製レーザー回折粒度分布測定装置(型番:LS13320)で測定することができる。誘電正接0.002以下のフィラーは、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0025】
本実施形態の接着層には、本実施形態の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、更に、添加剤を配合することができる。添加剤の例として、レベリング剤、消泡剤、揺変剤、酸化防止剤、顔料、あるいは染料を挙げることができる。
【0026】
接着層の引張り弾性率は、積層体である多層配線基板の内部応力緩和、フッ素樹脂と接着層との間のピール強度の観点から、好ましくは1GPa以下である。また、接着層の引張り弾性率は、プレス時の耐圧の観点から、好ましくは0.1GPa以上である。弾性率が0.1GPaより小さくなると、接着層の耐熱性(加熱プレス時など)が劣り、位置ずれが生じ易くなる。
【0027】
フッ素樹脂基板の誘電率が100%であるとき、接着層の誘電率は、好ましくは70~130%である。この範囲にある接着層の誘電率は、フッ素樹脂基板の誘電率に近似する。そのため、多層配線基板の設計が簡便になる。
【0028】
接着層上の伝送損失は、効率的な電気信号の送受信の観点から、好ましくは、20GHzにおいて、0~-3dB/70mmである。
【0029】
接着層は、低電力(低エネルギー)、部材への熱ダメージ低減の観点から、好ましくは、200℃以下の低温でも積層可能である。
【0030】
〔多層配線基板〕
上述のとおり、本開示の多層配線基板は、少なくともその一面に形成されている導体パターンを有するフッ素樹脂基板と、そのフッ素樹脂基板を接着するための接着層と、を含む。その接着層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含有し、かつ、20%以上300%以下の破断伸び率を有する。この多層配線基板は、フッ素樹脂基板と接着層との間のピール強度、および導体パターンと接着層との間のピ-ル強度に優れる。この優れたピ-ル強度の原因は、投錨効果(アンカー効果)による、と考えられる。接着層の破断伸び率が、導体(銅箔)とのピール強度に寄与することが考えられる。破断伸び率が20%未満または300%を超えると、銅箔ピール強度は弱くなる。なお、フッ素樹脂基板と接着層と間のピール強度が高いため、ピール試験では、フッ素樹脂基板と銅箔との間で剥離が生じたり、フッ素樹脂基板自体が破壊される場合がある。
【0031】
〔半導体装置〕
本開示の半導体装置は、上述の多層配線基板を含む。半導体装置の例としては、ミリ波アンテナおよび無線基地局が、挙げられる。
【実施例】
【0032】
本実施形態について、実施例により説明する。ただし、本実施形態は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部および%は、ことわりのない限り、質量部および質量%を示す。
【0033】
熱硬化性樹脂1として、三菱ガス化学製変性ポリフェニレンエーテル(品名:OPE2St2200)が、使用された。
熱硬化性樹脂2として、三菱ガス化学製変性ポリフェニレンエーテル(品名:OPE2St1200)が、使用された。
熱硬化性樹脂3として、大阪ソーダ製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(品名:LX-01)が、使用された。
熱硬化性樹脂4として、日本化薬製ビフェニル型エポキシ樹脂(品名:NC3000)が、使用された。
熱硬化性樹脂5として、DIC製ナフタレン型エポキシ樹脂(品名:HP4032D)が、使用された。
熱硬化性樹脂6として、ケイ・アイ化成製ビスマレイミドである、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(品名:BMI-70)が、使用された。
熱硬化性樹脂7として、東亞合成製特殊アクリレートである、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド(品名:M-140)が、使用された。
硬化剤1として、四国化成製イミダゾール(品名:1B2PZ)が、使用された。
硬化剤2として、四国化成製イミダゾール(品名:2PHZ)が、使用された。
その他の樹脂1として、クレイトンポリマー製エラストマーSEBS(品名:G1652)が、使用された。
その他の樹脂2として、クレイトンポリマー製エラストマーSEBS(品名:G1657)が、使用された。
その他の樹脂3として、クラレ製エラストマーSEEPS(品名:セプトン4044)が、使用された。
その他の樹脂4として、旭化成ケミカルズ製エラストマーSEBS(品名:タフテックH1052)が、使用された。
その他の樹脂5として、JSR製エラストマーSBS(品名:TR2003)が、使用された。
フィラー1として、ダイキン工業製フッ素樹脂フィラー(品名:ルブロン L-2、平均粒径:2μm)が、使用された。
フィラー2として、アドマテックス シリカフィラー(品名:SE2050、平均粒径:0.5μm)が、使用された。
なお、フィラー1の誘電正接、および、フィラー2の誘電正接は、いずれも0.002以下であった。
【0034】
〔実施例1~4、比較例1~4〕
表1に示す配合で、各成分が計量配合された。その後、それら成分を80℃に加温された反応釜に投入して、回転数250rpmで回転させながら、常圧溶解混合を3時間行った。ただし、硬化剤は、冷却後に加えた。なお、表1には記載していないが、溶解および粘度調整にトルエンを使用した。
【0035】
このようにして得られた接着層用組成物を含むワニスが、支持体(離型処理をほどこしたPETフィルム)の一面に塗布された。このワニスを100℃で乾燥させることにより、支持体付の接着層用フィルム(接着層の厚さ:約25μm、約50μmの2種)を得た。
【0036】
〔接着層の破断伸び率の測定〕
支持体付の接着層用フィルムを、200℃、60min、および1MPaの条件で真空熱プレス硬化させた。硬化後の支持体付の接着層用フィルムを、15mm×150mmに切り出した。支持体を剥がした後、長手方向に、引張り速度200mm/minで、オートグラフで引張り、破断までに伸びた長さを測定した。接着層の破断伸び率は、破断時の長さを、初期の長さで除して得られる値を、パーセントで表示した値である。表1に、接着層の破断伸び率の測定結果を示す。
【0037】
〔接着層の引張り弾性率の測定〕
支持体付の接着層用フィルムを、200℃、60min、および1MPaの条件で、真空熱プレス硬化させた。硬化後の支持体付の接着層用フィルムから、25mm×250mmの支持体付の硬化フィルムを切り出した。支持体付の硬化フィルムから支持体を剥がして試験片を得た後、試験片の厚みを測定した。次いで、オートグラフを用いて、試験片を、その長手方向に、引張速度1mm/minで、引っ張った。そして、1~2mmまでに試験片が伸びた時の、応力ひずみ曲線の傾きを測定した。この値を断面積で除して、接着層の引張り弾性率を求めた。接着層の引張り弾性率は、好ましくは0.1~1GPa以下である。表1に、接着層の引張り弾性率の測定結果を示す。
【0038】
〔ピール強度の測定〕
支持体からはがした接着層用フィルムの一面に、中興化成工業(株)製フッ素樹脂基板(品名:CGS-500)を、他の一面に福田金属箔粉工業(株)製銅箔(厚さ:35μm、品名:CF-T8G-HTE)を、200℃、60min、および2MPaの条件で、真空熱プレスしながら、貼りあわせた。このようにして、積層部材を作製した。その後、JIS K6854-1に準拠して、銅箔またはフッ素樹脂基板をオートグラフで引きはがして、ピール強度(90°ピール)を測定した。ピール強度は、好ましくは7N/cm以上である。表1に、ピール強度の測定結果を示す。
【0039】
〔耐熱性の評価〕
上記と同じ方法で作製した積層部材を、260℃のはんだ浴に1分間浮かべて、剥離および膨れの有無を、目視で確認した。
【0040】
〔接着層の誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)の測定〕
支持体付の接着層用フィルムを、200℃、60min、1MPaの条件で、真空熱プレス硬化させた。硬化後の支持体付の接着層用フィルムから、支持体付の硬化フィルム(70mm×130mm)を切り出した。支持体付の硬化フィルムから支持体を剥離して試験片を得た後、試験片の厚みを測定した。次いで、SPDR法(1.9GHz)により、試験片の誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。誘電率は、好ましくは1.6~3.5、より好ましくは2.0~2.9である。誘電正接は、好ましくは0.0005~0.005である。
【0041】
〔フッ素樹脂基板と接着層の誘電率の比の計算〕
次に、フッ素樹脂基板の誘電率が100%であるときの、接着層の誘電率の比(単位:%)を計算した。使用したフッ素樹脂基板の誘電率は、2.24であった。フッ素樹脂基板の誘電率が100%であるとき、接着層の誘電率は、好ましくは70~130%である。
【0042】
〔接着層の伝送損失の測定〕
支持体を取り除いた後の、厚み50μmの熱硬化前の接着層用フィルムを、2枚の銅箔(福田金属箔粉(株)製、18μm、CF-T9FZ-SV)間に挟み、次いで、200℃、60min、1MPaの条件で、真空熱プレスした。このようにして、銅張基板を作製した。この銅張基板の一面に、インピーダンス50Ωとなるように、エッチング処理により、信号配線長70mmとなる信号配線とグランドパッドを作製した。銅張基板の他の一面は、グランド層とした。グランドパッドとグランド層との接続をとるため、スルーホールを作製したのち、銅めっき処理を行った。これにより、50Ωのマイクロストリップライン基板を作製した。この時、銅めっき処理により配線高さは約30μmとなった。作製した基板を、ネットワークアナライザー(キーサイト製、N5245A)を用いて、20GHzで測定した。得られたSパラメーター挿入損失(S21)の測定値を接着層上の伝送損失と定義した。接着層上の伝送損失は、20GHzにおいて、好ましくは0~-3dB/70mmである。
【0043】
【0044】
表1からわかるように、層間の位置ずれが生じない熱硬化性樹脂を用いた実施例1~4の全てで、接着層の破断伸び率が50~280%であり、接着層の引張り弾性率が、0.23~0.84GPaであり、さらに、ピール強度が高かった。表1には、記載していないものの、実施例1~4の全てで、耐熱性が良好であるだけでなく、接着層の誘電率は2.4~2.5であり、接着層の誘電正接は0.0008~0.0025であり、フッ素樹脂基板と接着層の誘電率の比は107~112%であり、いずれも良好であった。接着層の伝送損失は、実施例1で-2.2dB、実施例2で-2.7dB、実施例3で-2.1dB、および実施例4で-2.3dBであった。これに対して、接着層の破断伸び率が低すぎる比較例1、4では、銅箔とのピール強度が低かった。接着層の破断伸び率が高すぎる比較例2では、フッ素樹脂基板とのピール強度、および、銅箔とのピール強度が、いずれも低かった。接着層の破断伸び率が高すぎる比較例3では、銅箔とのピール強度が低かった。また、表1には、記載していないものの、比較例1の接着層の伝送損失は、-3.6dBであった。
【0045】
上記のように、本開示の多層配線基板は、層間の位置ずれを抑制する熱硬化性樹脂を用いること、および、ピール強度に優れる接着層を使用すること、により、フッ素樹脂基板を用いるときの、電気信号の伝送損失が低い。そのため、本開示の多層配線基板は、非常に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 多層配線基板
10 接着層
20 導体パターン
30 フッ素樹脂基板
40 ヴィアホール(スルーホール)