(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リニアエンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/347 20060101AFI20220928BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01D5/347 110X
G01D5/347 110U
G01D5/245 110W
(21)【出願番号】P 2018080305
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】山室 祐貴
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-030085(JP,A)
【文献】特開2011-237310(JP,A)
【文献】国際公開第2005/090923(WO,A1)
【文献】特開2001-050776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール取付具によって対象物に取り付けられたテープスケールと、前記テープスケール上の光学格子を読み取る検出ヘッドとを備え、アブソリュート測定が可能なリニアエンコーダであって、
前記スケール取付具は、
前記テープスケールの長さ方向の
中央部の一部を前記対象物に押し付けて、該テープスケール
を対象物に対して厚さ方向、幅方向および長さ方向に移動できないように固定する固定部材と、
前記テープスケールの
前記中央部の両側部を収容する溝部を有する
一対の長尺状の収容部材と、を備え、
前記固定部材は、
前記テープスケールの前記中央部が載置される面を有する固定ベースと、
前記固定ベースに載置された前記テープスケールの前記中央部の縁を該固定ベースに押し付ける押え片を有する押え部材と、を含み、
前記収容部材は、前記固定部材の横に
隙間を設けて配置され、
前記テープスケールは、該テープスケールの裏面と前記溝部の底面とが向き合った状態で、前記溝部の長さ方向に挿入されることによって前記溝部に収容され、
前記溝部の開口の幅寸法は、前記テープスケールの幅寸法よりも狭く、
前記溝部の内部の収容空間に前記テープスケールが収容された状態で、前記テープスケールの厚さ方向のクリアランスは、前記検出ヘッドに関して許容されるギャップ変動の大きさ以下であり、かつ、前記テープスケールの幅方向のクリアランスは0.1mm以上であり、
スケール原点が前記テープスケールの固定部分または固定部分の付近と一致していることを特徴とするリニアエンコーダ。
【請求項2】
請求項1記載のリニアエンコーダにおいて
、前記収容部材は
、両面粘着テープで前記対象物に接着固定されている、ことを特徴とするリニアエンコーダ。
【請求項3】
請求項2記載のリニアエンコーダにおいて、前記収容部材の裏面には、複数の裏面凹部が前記溝部の長さ方向に互いに平行に形成されている、ことを特徴とするリニアエンコーダ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のリニアエンコーダにおいて、前記収容部材の側面には、側面凹部が前記溝部の長さ方向に形成されている、ことを特徴とするリニアエンコーダ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のリニアエンコーダにおいて、
前記検出ヘッドは、前記光学格子に対向するレンズと、前記レンズの焦点位置に設けられるアパーチャーと、前記レンズおよび前記アパーチャーを通過した検出光を受光する受光素子アレイと、を有し、テレセントリック光学系を構成している、
ことを特徴とするリニアエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等での直線移動部分の移動量または位置を高精度測定するためのリニアエンコーダに関し、特に、リニアエンコーダを構成するテープスケールを機械装置等の対象物に取り付けるためのスケール取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアエンコーダには、スケールと検出ヘッドが分離されたセパレートタイプがある。セパレートタイプの場合、例えば固定側対象物にスケールを取り付けて、移動側対象物に検出ヘッドを取り付ける。具体的には、スケールの長さ方向が移動方向に沿うようにスケールを固定側対象物に固定し、スケールの目盛面から検出ヘッドまでのギャップ(隙間)が所定値になるように検出ヘッドを移動側対象物に固定する。対象物が移動すると、検出ヘッドがスケールの目盛方向に移動して、どの位置においても目盛を読み取ることができる。
【0003】
検出ヘッドには、出力変動を小さく抑えるために、スケールとのギャップが設定されている。また、実際のギャップはその設定値から変動するので、検出ヘッドの出力変動が許容範囲内になるような、ギャップ変動の許容範囲も定められており、ここでは、「ギャップ許容」とも呼ぶ。
【0004】
スケールとして、薄い金属製のテープスケールを用いる場合が多い。テープスケールのフレキシブル性を利用して、スケールを巻き取ってコンパクトな状態にして運搬・保管することが可能で、剛体のスケールに比べて狭いスペースでの取付作業にも適している。
【0005】
一方、テープスケールが薄いという特徴は、取付方法次第で厚さ方向(ギャップ方向と同じ)へのがたつきを生み、ギャップ許容から外れてしまう場合もある。がたつきを抑えるために、テープスケールの裏面を両面粘着テープや接着剤で対象物の表面に貼り付けるという取付方法もあるが、テープスケールの着脱容易性が得られなくなる。
【0006】
特許文献1のスケール取付具は、テープスケールの一端を固定ブロックで固定し、テープスケールの他端を引張りブロックで常に引張力が生じる状態で固定する。テープスケールの長さ方向に引張力を付与することで、厚さ方向のがたつきが規制される。また、各ブロックは、留めネジを外すことで、テープスケールの端部をいつでも分離させることができて、テープスケールの着脱容易性も満たされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-126000号公報(
図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のスケール取付具には、複雑な構造の引張りブロックが必要であること、スケールの取付面がテープスケールの長さよりも各ブロックの長さ分だけ拡張すること、引張力の調整など取付作業が難しいこと、必要な部品点数が多いこと、等の課題があった。
【0009】
本発明の目的は、第1にテープスケールの厚さ方向のがたつきを適切に規制できること、第2にテープスケールの着脱容易性が得られること、第3に構成部材がシンプルで部品点数も少なくて済むこと、第4に取付作業が容易であること、を満足するスケール取付具およびリニアエンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を鋭意研究し、テープスケールの長さ方向の一部のみを対象物に固定し、その他の部分については固定しないで、その固定されない部分を収容部材の溝部に挿入して収容することにした。そして、収容部材の溝部の形状に着目し、収容されたテープスケールの少なくとも厚さ方向へのがたつきが規制されるように、溝部の形状を特徴的なものにした。その結果、テープスケールを所望の状態で対象物に取り付けるスケール取付具が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るリニアエンコーダは、
スケール取付具によって対象物に取り付けられたテープスケールと、前記テープスケール上の光学格子を読み取る検出ヘッドとを備え、アブソリュート測定が可能なリニアエンコーダであって、
前記スケール取付具は、
前記テープスケールの長さ方向の中央部の一部を前記対象物に押し付けて、該テープスケールを対象物に対して厚さ方向、幅方向および長さ方向に移動できないように固定する固定部材と、
前記テープスケールの前記中央部の両側部を収容する溝部を有する一対の長尺状の収容部材と、を備え、
前記固定部材は、
前記テープスケールの前記中央部が載置される面を有する固定ベースと、
前記固定ベースに載置された前記テープスケールの前記中央部の縁を該固定ベースに押し付ける押え片を有する押え部材と、を含み、
前記収容部材は、前記固定部材の横に隙間を設けて配置され、
前記テープスケールは、該テープスケールの裏面と前記溝部の底面とが向き合った状態で、前記溝部の長さ方向に挿入されることによって前記溝部に収容され、
前記溝部の開口の幅寸法は、前記テープスケールの幅寸法よりも狭く、
前記溝部の内部の収容空間に前記テープスケールが収容された状態で、前記テープスケールの厚さ方向のクリアランスは、前記検出ヘッドに関して許容されるギャップ変動の大きさ以下であり、かつ、前記テープスケールの幅方向のクリアランスは0.1mm以上であり、
スケール原点が前記テープスケールの固定部分または固定部分の付近と一致していることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明では、テープスケールの長さ方向の一部を、固定部材を用いて対象物に固定するが、ここでの固定とは、対象物に対して、厚さ方向、幅方向および長さ方向にテープスケールの一部を移動できない状態にすることを示す。
【0013】
この構成によれば、テープスケールの固定部分は長さ方向の一部のみであり、その他の部分は収容部材の溝部に収容されるだけで固定されない。よって、テープスケールの裏面全体を両面粘着テープなどで対象物に貼り付ける場合と比べると、本発明ではテープスケールをいつでも着脱し易い状態での固定が可能になる。
【0014】
また、スケール取付具は、テープスケールの長さ方向の一部を固定する固定部材と、残りの部分を収容する収容部材とを備えていればよく、構成部材がシンプルで部品点数も少なくて済む。取付作業は、固定部材の横に収容部材を並べて配置し、テープスケールを収容部材の溝部に差し込んで所定の位置にして、スケールの一部のみを固定部材で固定する、という簡単な手順になる。
【0015】
さらに、テープスケールに沿った長尺の収容部材の表(おもて)の面に、テープスケールを収容する溝部が形成されている。溝部は収容部材の表の面に開口した状態に形成されており、溝部の開口の幅がテープスケールの幅よりも狭い。よって、溝部内の収容空間へは、テープスケールを長手方向に挿入することによってのみ、テープスケールを収容することができる。収容されたテープスケールの裏面は溝部の底面と向かい合わせの状態になる。ここで、収容空間の形状を以下のように決めた。収容空間におけるテープスケールの厚さ方向のクリアランスを、リニアエンコーダ用の検出ヘッドに関して許容されるギャップ変動(ギャップ許容)の大きさ以下にする。このように厚さ方向のクリアランスの最大値を定めることにより、テープスケールの厚さ方向のがたつきが規制され、最大でもギャップ許容の大きさ以下のがたつきしか生じない。検出ヘッドの出力変動が小さく抑えられ、リニアエンコーダの高精度測定が可能になる。逆に、厚さ方向のクリアランスの最小値については、少なくとも0.01mm以上を確保することで、溝部へのテープスケールの挿入容易性を確保する。
【0016】
また、収容空間においてテープスケールの幅方向のクリアランスを0.1mm以上にして、収容空間における幅方向への変位量を規制した。
【0017】
なお、テープスケールの長さ方向への規制は固定部材のみであり、収容部材の溝部においては規制されない。取付対象物や周辺環境の温度が変化した場合は、固定部材から離れた位置ほど、テープスケールの熱膨張・収縮による変位が大きくなる。テープスケールの熱膨張による出力変動への影響については、測定ヘッドの出力値に対してスケール材質に基づく一般的な補正処理を実行すればよい。収容部材に対してテープスケールが長さ方向へ自在に移動できる状態である方が、このような補正処理を正確に行うことができる。
【0018】
本発明に係るリニアエンコーダにおいて、
前記固定部材は、前記テープスケールの中央部の少なくとも一部を固定し、
前記収容部材は、前記固定部材を挟んで両側にそれぞれ配置されて前記テープスケールの両側部を収容するとともに、両面粘着テープで前記対象物に接着固定されていることが好ましい。
【0019】
この構成では、テープスケールの長手方向における中央部の少なくとも一部が対象物に固定される。リニアエンコーダでは、アブソリュート測定でのスケールの原点を中央付近に定める場合が多い。スケールの固定部分または固定部分の付近に原点を合わせることによって、熱膨張等による原点の位置ずれを最小限にとどめることができて、測定精度の向上化に役立つ。
【0020】
また、収容部材を両面粘着テープで対象物に固定することで、留めネジでの固定に比べて、収容部材の厚さ寸法を大幅に薄くすることができる。両面粘着テープの粘着層には弾性があるので、対象物への取付け面の表面に多少の凹凸があっても、粘着層がその凹凸を吸収して、収容部材の平坦度および真直度が確保され易くなる。
【0021】
本発明に係るリニアエンコーダにおいて、前記収容部材の裏面には、複数の裏面凹部が前記溝部の長さ方向に互いに平行に形成されていることが好ましい。
【0022】
この構成では、収容部材の裏面に形成された裏面凹部が、両面粘着テープを貼った場合にまぎれこむ気泡の除去に役立つ。
【0023】
本発明に係るリニアエンコーダにおいて、前記収容部材の側面には、側面凹部が前記溝部の長さ方向に形成されていることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、収容部材を剥がれにくくするための剥がれ防止用の留め具を用いる際、その留め具の一部を収容部材の側面の凹部に係止させて、留め具自体を対象物に固定するという方法が可能になる。
【0025】
本発明に係るリニアエンコーダは、
上述のスケール取付具によって対象物に取り付けられたテープスケールと、前記テープスケール上の光学格子を読み取る検出ヘッドとを備え、
前記検出ヘッドは、前記光学格子に対向するレンズと、前記レンズの焦点位置に設けられるアパーチャーと、前記レンズおよび前記アパーチャーを通過した検出光を受光する受光素子アレイとを有し、テレセントリック光学系を構成していることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、検出ヘッドの光学系がテレセントリックに構成されているので、検出ヘッドのギャップ許容が比較的大きな値に設定される。従って、このような特性の検出ヘッドと、検出器ヘッドの出力変動の抑制効果のあるスケール取付具との組み合わせによって、高精度測定を維持しつつスケールとのギャップを大きくとることが可能な優れたリニアエンコーダを構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のスケール取付具およびリニアエンコーダによれば、対象物への固定部分がテープスケールの一部に限定されるので、テープスケールの着脱が容易になる。テープスケールの固定部分以外の厚さ方向の移動については、収容部材によってギャップ許容内に規制され、出力変動の小さい高精度測定を実現できる。スケール取付具として、部品点数が少なくて済み、容易に取付・取外ができるようになる。
本発明の構成によれば、テープスケールの固定部分とスケール原点とを一致させることが容易で、熱膨張による原点の位置ずれを最小限にすることができる。
【0028】
従来のリニアエンコーダでは、テープスケールにテンションを掛けることによって、スケールのがたつきをギャップ許容に入れるようにしており、スケールホルダーの厚さ方向のクリアランスが比較的大きかった。本発明は、テープスケールにテンションを掛けることをしないで、スケールホルダーの溝部の形状および寸法によって、スケールのがたつきをギャップ許容に入れるという発想の転換によってなされたものであり、スケールホルダーの厚さ方向のクリアランスが所定の範囲まで小さく設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るリニアエンコーダの全体構成の立体図である。
【
図2】(A)は前記リニアエンコーダの平面図、(B)は側面図である。
【
図5】前記リニアエンコーダのスケール取付具におけるスケールホルダーの収容スペースを模式的に示した断面図。
【
図6】前記スケールホルダーにおける溝部の形状の変形例を示す断面図である。
【
図7】前記スケールホルダーに剥がれ防止具を適用した例を示す断面図である。
【
図8】前記リニアエンコーダに好適な検出ヘッドの光学構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、第一実施形態のリニアエンコーダの全体構成の立体図であり、スケール取付具100を用いてテープスケール200を対象物である機械装置に取り付けた状態、および、テープスケール200と検出ヘッド300との位置関係を示す。
図2(A)は、リニアエンコーダの全体構成の平面図であり、
図2(B)は、その側面図である。
【0031】
リニアエンコーダは、スケール取付具100と、テープスケール200と、検出ヘッド300とを備える。図には機械装置の外形を省略するが、機械装置のスケール取付面SFは予め所定の平坦度が得られるように加工され、スケール取付具100をネジ留めするためのネジ孔が形成されている。特に限定しない場合は、X-Y-Z軸の直交座標系を使って、スケールの長さ方向をX軸、スケールの幅方向をY軸、スケールの厚さ方向をZ軸として説明する。
【0032】
スケール取付具100は、固定ブロック10と、固定ブロック10の両側に全体として一直線になるように配置された2本のスケールホルダー20とを備える。固定ブロック10は、固定ベース12と、押え部材14と、これら2つの部材を取付面に固定する複数本のネジ18とを有する。
【0033】
図3の断面図を参照すると、平板状の固定ベース12は、厚さ方向に形成された貫通孔を使って取付面SFにネジ留めされる。固定ベース12の表の面にテープスケール200の長さ方向の中央部分が載置されるようになっている。
【0034】
押え部材14は、固定ベース12に対してスケール200の幅方向に並んで配置され、厚さ方向に形成された貫通孔を使って取付面SFにネジ留めされる。押え部材14の上面における固定ベース12側の縁部には、取付面SFに平行に突出した押え片16がある。この押え片16は、固定ベース12上のスケール200の目盛面を部分的に覆う。つまり、押え部材14をネジ18によって取付面SFに固定すると、固定ベース12上に位置するスケール200の縁の一部を押え片16が上方から押すようにして、押え片16と固定ベース12との間でスケール200の縁の一部が挟持される。これによって、スケール200の中央部分は、X、Y、Z軸の全ての方向への移動が規制される。押え部材14によって固定ベース12の上のスケールを固定するので、スケール200にネジ留め用の孔を加工する必要はない。
【0035】
図4の断面図を参照すると、長方形状の断面を有するスケールホルダー20は、例えば、小型化・軽量化のためにアルミニウムを押出成形されて、所望の長さに切除して製造されたものである。スケールホルダー20の表の面には、スケール200を保持する溝部22が、スケールホルダー20の長さ方向に沿って形成されている。また、スケールホルダー20の両側のホルダー側面には側面凹部24がそれぞれ形成され、ホルダー裏面には複数本の裏面凹部26がある。ホルダー裏面に両面粘着テープ50が貼られ、取付面SFの所定位置に貼り付けることによって、スケールホルダー20が取付面SFに固定される。
【0036】
溝部22の詳細形状について、
図4に基づいて説明する。溝部の底面30には高さ方向(Z軸方向)に突出する2条の凸部32がある。凸部32の上面は平坦に加工され、収容されるテープスケール200の裏面が載置される。底面30の幅方向の両端には側壁部34がある。側壁部34は溝部22の内壁面を形成している。それぞれの側壁部34には、その上端部から幅方向の内側に張り出された規制片部36が形成されている。言わば、底面30、側壁部34および規制片部36によって、ホルダー断面がC字を横に倒した形状になっている。溝部22の開口の幅の大きさは、一対の規制片部36同士の隙間で示される。溝部22の形状は、2条の凸部32、両端の側壁部34および規制片部36の形状を含めて、
図4の断面図において左右対称である。溝部22の開口の幅は、テープスケール200の幅よりも狭く、テープスケール200を収納させる際は、スケールホルダー20の長さ方向に沿って、ホルダー端部からスケール200を少しずつ溝部22に挿入していく方法によってのみ、スケール200を収容させることができる。
【0037】
テープスケール200は、テープ状のスケール基材と、その表の面にX方向に帯状に成形された光学格子とを有する。スケール基材は、例えば金属などの光学的に不透明な材質からできている。光学格子は、例えばスケール基材上に成膜されたクロムなどの光に不透明で光の反射率が高い金属薄膜をリソグラフィ加工することにより成形されている。テープスケール200は、フレキシブル性があり、リールなどに巻き取ってコンパクトな状態にして取り扱うことができる。
【0038】
検出ヘッド300の幅は、スケールホルダー20の幅よりも広く、検出ヘッド300の下面がスケールホルダー20に収容されたテープスケール200を非接触で部分的に覆う。検出ヘッド300の下面には光の出入口が設けられており、ヘッド内の光源からの測定光がこの出入口からスケール表面に向けて照射される。検出ヘッド300の下面からテープスケールの表面までの隙間(GAP)が所定の値になるように、検出ヘッド300が配置されている。検出ヘッド300は、移動側の対象物に固定されており、所定のGAPを維持した状態でスケール200の長さ方向に沿って移動する。検出ヘッド300から出射される光がテープスケールの光学格子に照射されると、光学格子で変調された光が反射光となって検出ヘッド300に戻って検出される。検出ヘッド300からの検出信号はケーブル310を通じて、機械装置の制御部などに送られる。
【0039】
図5の斜線でハッチングを付けた範囲がテープスケール200を収容する空間(収容スペース40と呼ぶ。)である。収容スペース40の高さHは、凸部32から規制片部36までの間隔で示される。収容スペース40の幅Wは、左右の側壁部34の間隔で示される。
【0040】
本実施形態のスケール取付具は、
図6(A)~(C)のように様々な特徴的な形状の溝部22A~22Cを備えたスケールホルダー20A~20Cを採用することができる。テープスケール200の幅をWs、厚さをHsで示す。
図6(A)に示す溝部22Aは、底面30の凸部32が1条だけのものであり、
図6(B)に示す溝部22Bは、底面30の凸部32が2条あるものである。凸部32は1条でもよいが、2条ある方が、凸部32の上面を所定の平坦度に加工する作業が容易になる。
図6(C)は、溝部22Cの開口において、両側の規制片部36の内側に、厚さ方向の下方に突出する突起部38がそれぞれ形成されたものである。突起部38は、テープスケール200の厚さ方向の移動量を所定内の大きさに限定するためにある。これらの様々な溝部の形状によって、テープスケール200の厚さ方向の移動量が規制されて、検出ヘッドのギャップ許容値以下に抑えられる。突起部38を設ければ、厚さ方向のクリアランスを所望の大きさにする加工が一層容易になる。
【0041】
図7に、スケールホルダーの側面凹部24を利用した剥がれ防止具52の構成を示す。剥がれ防止具52は、ホルダー20Dの両側にそれぞれ配置されて両面テープ50で取付面SFに固定されている。剥がれ防止具52は、ホルダー20Dの側面に向けて突出する係止片を有し、この係止片が側壁凹部24に係合した状態で固定されている。これにより、スケールホルダー20Dの剥がれ防止機能が高まる。
図1、2には比較的短めのテープスケール用の取付具を示しているが、本発明のスケール取付具の適用範囲は、0.5mから10mまでの長さのスケールホルダーであり、好ましくは2mから6mまでの長さのスケールホルダーである。また、中央の固定ブロックの片側に配置するスケールホルダーを隙間を設けて一列に配置した複数のスケールホルダーで構成してもよい。
【0042】
図8に、本実施形態に好適な検出ヘッド300の光学構成の例を示す。検出ヘッド300の受光系は、共通の光軸上に配置されたスケール側レンズ320、アパーチャー330、検出側レンズ340および受光素子アレイ350を備え、両側テレセントリック光学系を構成する。両側テレセントリック光学系では、アパーチャー330の位置に各焦点が合うように2つのレンズ320,340が前後に配置されている。
図8のようにスケール側からの平行光はレンズ320によってアパーチャー330に集光され、アパーチャー330を通過した光が再びレンズ340によって平行光となって出力される。また、図示しないが、検出ヘッド300には、光源からの光をスケール表面に向けて照射する照射光学系が設けられており、上記のレンズ320を兼用して光源光をスケール表面に照射させることもできる。このように検出ヘッド300は、両側テレセントリック光学系を構成しているので、深い焦点深度が得られて、スケールの相手機械への取り付け、特にスケールの厚さ方向に関しての位置決めに厳密さを要求しない、という利点を有する。そのため、従来のような張力装置でテンションを掛けて、スケールの厚さ方向の変位を極限まで抑えることで、スケールの真直度を確保するというような必要性がなくなった。本実施形態のスケール取付具では、テンション無しの状態でスケールを保持することができるため、リニアエンコーダの適用範囲が広まる。
【0043】
ここで、
図2に示すリニアエンコーダの取付手順について説明する。まず、固定ブロック10の固定ベース12、2本のスケールホルダー20を、取付面SFに一列に配置し、それぞれを取付面SFに固定する。テープスケール200の長さ方向の一端を、一方のスケールホルダー20の端部から溝部に差し込んで、スケール200を収容スペースに収容させる。次に、押え部材14を、固定ベース12の側方に配置して、その押え部材14がテープスケール200の長さ方向の中央付近の片方の縁辺部分を取付面SFに押し付けるようにして固定する。このような簡単な手順で、テープスケール200の取付けが完了する。
【0044】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)
図2において、テープスケール200は、長さ方向の中央部分のみが固定ブロック10で固定され、中央部分の両側は、スケールホルダー20に収容されるだけで固定されない。よって、テープスケールの裏面全体を両面粘着テープなどで対象物に貼り付けて固定する場合よりも、本発明のスケール取付具100を使って、スケールの中央部分のみを固定する方が、後でスケールを取り外す作業が容易になる。
【0045】
(2)スケール取付具100は、テープスケール200の長さ方向の中央部分を固定する固定ブロック10と、その両側部分を収容するスケールホルダー20とを備えていればよく、構成部材がシンプルで部品点数も少なくて済む。
【0046】
(3)取付作業者は、固定ブロック10の両側にスケールホルダー20を配置し、テープスケール200を、片側のスケールホルダー20の溝部22に挿入し、固定ベース12の上面を経由させて、もう片側のスケールホルダー20の溝部22に挿入させる。そして、固定ベース12上に載っているスケール200の中央部分を押え部材14で押さえて、スケール200を固定する。テープスケール200を取り外す場合は逆の手順になる。このような簡単な手順で取付作業および取外作業を短時間で実施することができる。
【0047】
(4)
図6(A)~(C)に示すように、収容スペースでのテープスケール200の厚さ方向のクリアランス(H-Hs)を、検出ヘッド300に関して許容されるギャップ変動(ギャップ許容)の大きさ以下にすることができる。これによって、収容されたスケールは、溝部22の形状によって、その厚さ方向のがたつきが規制され、最大でもギャップ許容の大きさまでのがたつきに抑えられる。検出ヘッド300の出力変動が小さく抑えられ、リニアエンコーダの高精度測定が可能になる。なお、この厚さ方向のクリアランス(H-Hs)の最小値については、少なくとも0.01mm以上を確保することで、溝部22へのテープスケール200の挿入容易性が確保される。
【0048】
(5)収容スペース40においてテープスケール200の長さ方向への移動は規制されない。固定ブロック10から離れた位置になるほど、スケール200の熱膨張による変位が生じる。テープスケール200の熱膨張による出力変動への影響については、検出ヘッド300の出力値に対してスケール材質毎の補正値を付与すればよい。スケールホルダー20に対してテープスケール200が長さ方向へ自在に移動できる状態である方が、このような熱膨張への補正を正確に行うことができる。
【0049】
(6)
図1に示すように、テープスケール200の長手方向における中央部分が取付面SFに固定される。アブソリュート形式のリニアエンコーダでは、スケール原点を中央に定める場合が多く、この構成によれば、スケール200の固定部分とスケール原点とを一致させることが容易で、熱膨張による原点の位置ずれを最小限にすることができる。
【0050】
(7)
図4に示すように、スケールホルダー20を両面粘着テープ50で取付面SFに固定することで、ネジ固定よりも、ホルダーを大幅に薄くすることができる。また、両面粘着テープ50の粘着層には弾性があり、機械装置側の取付面SFの表面またはスケールホルダー20の裏面に多少の凹凸が残存していたとしても、粘着層がその凹凸による影響を吸収して、スケールホルダー20の平坦度および真直度が確保される。
【0051】
(8)
図4に示すように、スケールホルダー20の裏面に形成された裏面凹部26が、両面粘着テープ50を貼った場合にまぎれこむ気泡の除去に役立つ。
【0052】
(9)
図8のように検出ヘッド300の受光系が両側テレセントリックに構成されていれば、検出ヘッド300のギャップ許容が比較的大きな値になり、テープスケール200のがたつきをスケールホルダー20で規制し易くなる。テレセントリック光学系の検出ヘッドには、例えば、ギャップ2mmに対するギャップ許容が±0.1mmであるものがある。これを本発明に適用する場合、スケールホルダー20の収容スペース40の厚さ方向のクリアランスを0.2mm以下にしさえすればよく、このクリアランスが比較的大きな値になるので、ホルダー20へのスケール挿入作業が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るスケール取付具は、光電式や静電容量式等の種々の検出原理に基づく、インクリメンタル型またはアブソリュート型のリニアエンコーダに適用される。
【符号の説明】
【0054】
10 固定ブロック(固定部材)
20 スケールホルダー(収容部材)
22 溝部
24 側面凹部
26 裏面凹部
40 収容スペース
50 両面粘着テープ
52 剥がれ防止具
100 スケール取付具
200 テープスケール
300 検出ヘッド
320 スケール側レンズ
330 アパーチャー
340 検出側レンズ
350 受光素子アレイ