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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】流量制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018134354
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2020013269
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】長井 健太郎
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-201708(JP,A)
【文献】特開2018-092622(JP,A)
【文献】特開2002-341947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられた流体抵抗と、
前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、
前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出部と、
設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御器と、を備え、
前記制御器が、
前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、
前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するように構成されていることを特徴とする流量制御装置。
【請求項2】
前記制御器が、
前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記下流側バルブの開度を予め定められた維持開度で一定に保つように制御するとともに、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するように構成されている請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記上流側バルブと前記流体抵抗との間に設けられた上流側圧力センサをさらに備え、
前記制御器が、前記下流側バルブの開度が前記所定開度よりも小さい場合には、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量であり、前記下流側バルブを通過する流体の流量であるバルブ流量との偏差に基づいて前記下流側バルブを制御するとともに、設定圧力と前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力との偏差である圧力偏差に基づいて前記上流側バルブを制御する請求項1又は2記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記設定圧力が、所定の目標圧力値で一定に保たれた立ち上がり区間と、前記立ち上がり区間から目標圧力値が連続的に低下する圧力低下区間と、含む請求項3記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記所定開度が、全開の開度である請求項1乃至4いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記制御器が、
前記下流側バルブの開度を制御する下流側バルブ制御部と、
前記上流側バルブの開度を制御する上流側バルブ制御部と、
前記下流側バルブの開度が前記所定開度よりも小さい場合には第1設定指令を前記上流側バルブ制御部及び前記下流側バルブ制御部へ出力し、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には第2設定指令を前記上流側バルブ制御部及び前記下流側バルブ制御部へ出力する設定指令出力部をさらに備えた請求項3又は4いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記下流側バルブ制御部が、
前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量であり、前記下流側バルブを通過する流体の流量であるバルブ流量との偏差に基づいて算出した操作量を前記下流側バルブへ出力する初期流量制御部と、
一定に保たれた操作量を前記下流側バルブへ出力する開度維持部と、
前記第1設定指令が入力されている場合には前記初期流量制御部から操作量を出力させ、前記第2設定指令が入力されている場合には前記開度維持部に操作量を出力させる下流側制御切替部と、を備えた請求項6記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記上流側バルブ制御部が、
設定圧力と前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力との偏差である圧力偏差に基づいて算出した操作量を前記上流側バルブへ出力する圧力制御部と、
前記流量偏差に基づいて算出した操作量を前記上流側バルブへ出力する後期流量制御部と、
前記第1設定指令が入力されている場合には前記圧力制御部から操作量を出力させ、前記第2設定指令が入力されている場合には前記後期流量制御部に操作量を出力させる上流側制御切替部と、を備えた請求項6又は7いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間に設けられた下流側圧力センサと、
前記抵抗流量と、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量であるバルブ流量を算出するバルブ流量算出部と、をさらに備え、
前記流量偏差が、前記設定流量と前記バルブ流量との偏差である請求項1記載の流量制御装置。
【請求項10】
前記上流側バルブと前記流体抵抗との間に設けられた上流側圧力センサをさらに備え、
前記抵抗流量算出部が、前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力、及び、前記下流側圧力に基づいて、前記抵抗流量を算出する請求項9記載の流量制御装置。
【請求項11】
流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法であって、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出ステップと、
設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御ステップと、を備え、
前記制御ステップにおいて、
前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、
前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御することを特徴とする流量制御方法。
【請求項12】
流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置に用いられる流量制御プログラムであって、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出部と、
設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御器と、しての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記制御器が、
前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、
前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するように構成されていることを特徴とする流量制御プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のバルブを備えた流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、流量センサと、流量センサの上流側に設けられた上流側バルブと、流量センサの下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置がある。このような流量制御装置では、上流側バルブは圧力センサで測定される測定圧力がフィードバックされ、その開度が制御される。また、下流側バルブは、流量センサで測定される測定流量がフィードバックされ、その開度が制御される。
【0003】
しかしながら、このような流量制御装置は上流側バルブだけでなく、下流側バルブも存在しているため、1つのバルブだけが設けられた流量制御装置と比較すると、圧力損失が大きくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004―280688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、流量制御における応答性を高めながら、下流側バルブによる圧力損失を低減できる流量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る流量制御装置は、流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間に設けられた下流側圧力センサと、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出部と、前記抵抗流量と、設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御器と、を備え、前記制御器が、前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
このようなものであれば、例えば前記下流側バルブが全閉されており、流路に流体が流れていない状態から流量制御が開始されるような過渡応答時には最も下流側にある前記下流側バルブを制御して、流体の供給対象と流量点の位置を近づけることにより時間遅れを低減し、応答性の良い流量制御を実現できる。
【0008】
さらに、前記流路を流れる流体の流量が前記設定流量とほぼ一致し、前記下流側バルブが所定開度まで開放された場合には、前記上流側バルブによる流量制御へと切り替えることができる。
【0009】
したがって、例えば定常状態となった場合には、前記下流側バルブについては流量制御が行われず、その開度が変動させないようにできる。したがって、定常状態において前記下流側バルブは開放された状態で保つことができるようになるので、従来よりも圧力損失を低減できる。
【0010】
また、前記上流側バルブによる流量制御が継続されるので、流体の供給圧力の変動やその他の外乱があったとしても一定流量で維持し続けることができる。さらに、前記上流側バルブは前記流体抵抗よりも上流側に設けられているので、流量制御を高速で実現するのに適した圧力がチャージされやすい。加えて、前記下流側バルブによる初期の流量フィードバック制御において前記下流側バルブがほぼ全開の開度となり、これ以上開度を変化させる余裕がなくなっている場合でも、前記上流側バルブによる流量フィードバック制御に切り替えられることによりさらに開度を変更できるようになり、流量制御を引き続き継続することができる。
【0011】
前記上流側バルブによる流量フィードバック制御が開始されてからは、前記下流側バルブが圧力損失をできるだけ生じさせないようにするには、前記制御器が、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記下流側バルブの開度を予め定められた維持開度で一定に保つように制御するとともに、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するように構成されていればよい。なお、維持開度は流量制御の切り替えの基準となる前記所定開度と同じ開度であってもよいし、異なる開度出会っても構わない。
【0012】
前記下流側バルブによる流量制御時において前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間の容積に十分な圧力で流体がチャージされて、高速応答が実現されやすくするとともに、前記下流側バルブから前記上流側バルブへと流量制御が切り替えられる時点において前記上流側バルブがある程度開放された状態が実現されるようにし切り替えによる制御の不連続性が緩和されるようにするには、前記上流側バルブと前記流体抵抗との間に設けられた上流側圧力センサをさらに備え、前記制御器が、前記下流側バルブの開度が前記所定開度よりも小さい場合には、前記設定流量と前記バルブ流量との偏差に基づいて前記下流側バルブを制御するとともに、設定圧力と前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力との偏差である圧力偏差に基づいて前記上流側バルブを制御するものであればよい。
【0013】
前記上流側バルブ及び前記下流側バルブとの間の流体の圧力を低下させて、前記設定圧力としては、所定の目標圧力値で一定に保たれた立ち上がり区間と、前記立ち上がり区間から目標圧力値が連続的に低下する圧力低下区間と、含むものが挙げられる。このような設定圧力であれば、前記立ち上がり区間において前記下流側バルブによる流量フィードバック制御が開始された直後に多量の流体が前記上流側バルブと前記下流側バルブとの間の空間に流入させることができ、流路を流れる流体の流量が前記設定流量に一致するまでに必要な時間を短縮できる。また、流量が安定してからは前記圧力低下区間では目標圧力値が所定時間かけて連続的に低下していくので、実際に流れている流量を前記設定流量とほぼ一致させながら、流体の圧力を低下させることができる。このため、前記上流側バルブによる流量制御が開始された時点では、微小な流量変化であっても感度良く制御することができ、定常状態でのロバスト性を向上させることが可能となる。
【0014】
前記下流側バルブから前記上流側バルブへと流量制御が切り替えられた以降において前記下流側バルブによる圧力損失を最も低減できるようにするには、前記所定開度が、全開の開度であればよい。
【0015】
前記下流側バルブから前記上流側バルブへと流量制御を切り替えられるようにするための具体的な構成としては、前記制御器が、前記下流側バルブの開度を制御する下流側バルブ制御部と、前記上流側バルブの開度を制御する上流側バルブ制御部と、前記下流側バルブの開度が前記所定開度よりも小さい場合には第1設定指令を前記上流側バルブ制御部及び前記下流側バルブ制御部へ出力し、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には第2設定指令を前記上流側バルブ制御部及び前記下流側バルブ制御部へ出力する設定指令出力部をさらに備えたものが挙げられる。
【0016】
前記下流側バルブ制御部が、前記下流側バルブの開度に応じて制御態様を切り替えられるようにするには、前記下流側バルブ制御部が、前記設定流量と前記バルブ流量との偏差に基づいて算出した操作量を前記下流側バルブへ出力する初期流量制御部と、一定に保たれた操作量を前記下流側バルブへ出力する開度維持部と、前記第1設定指令が入力されている場合には前記初期流量制御部から操作量を出力させ、前記第2設定指令が入力されている場合には前記開度維持部に操作量を出力させる下流側制御切替部と、を備えたものであればよい。
【0017】
前記上流側バルブ制御部が、前記下流側バルブの開度に応じて制御態様を切り替えられるようにするには、前記上流側バルブ制御部が、前記圧力偏差に基づいて算出した操作量を前記上流側バルブへ出力する圧力制御部と、前記流量偏差に基づいて算出した操作量を前記上流側バルブへ出力する後期流量制御と、前記第1設定指令が入力されている場合には前記圧力制御部から操作量を出力させ、前記第2設定指令が入力されている場合には前記後期流量制御に操作量を出力させる上流側制御切替部と、を備えたものであればよい。
【0018】
流量フィードバックに使用される流量が前記下流側バルブを通過する流体の流量を示し、測定点と制御点を一致させることによってさらに時間遅れを低減して、流量制御の応答性をさらに向上させられるようにするには、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間に設けられた下流側圧力センサと、前記抵抗流量と、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量であるバルブ流量を算出するバルブ流量算出部と、をさらに備え、前記流量偏差が、前記設定流量と前記バルブ流量との偏差であればよい。
【0019】
前記バルブ流量を算出するために必要な前記下流側圧力を利用しながら、前記抵抗流量も算出できるようにして、流量測定に必要となる部品点数を低減できるようにするには、前記抵抗流量算出部が、前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力、及び、前記下流側圧力に基づいて、前記抵抗流量を算出するものであればよい。
【0020】
本発明に係る流量制御方法は、流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法である。具体的にこの流量制御方法は、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出ステップと、設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御ステップと、を備え、前記制御ステップにおいて、前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御することを特徴とする。このような流量制御方法であれば、過渡応答時には高速の応答性を実現できるとともに定常状態となった以降については前記下流側バルブによる圧力損失をできる限り発生させないようにできる。
【0021】
既存の流量制御装置において例えばプログラムをアップデートすることにより、本発明に係る流量制御装置と同様の効果を得られるようにするには、流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の上流側に設けられた上流側バルブと、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置に用いられる流量制御プログラムであって、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量を算出する抵抗流量算出部と、設定流量と前記抵抗流量との偏差、又は、前記設定流量と前記抵抗流量から算出される流量との偏差である流量偏差に基づいて前記上流側バルブ又は前記下流側バルブを制御する制御器と、しての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記制御器が、前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい場合には、前記流量偏差に基づいて前記下流側バルブを制御し、前記下流側バルブの開度が前記所定開度以上の場合には、前記流量偏差に基づいて前記上流側バルブを制御する上流側バルブ制御部と、を備えたことを特徴とする流量制御プログラムを用いればよい。
【0022】
なお、流量制御プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等の記憶媒体に記憶されたものであっても構わない。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明に係る流量制御装置では、前記下流側バルブの開度が所定開度よりも小さい間には、流体の供給対象に対して流量の制御点をできる限り近づけた状態として、高速の流量制御を実現できる。また、前記下流側バルブの開度が所定開度以上となった以降は前記上流側バルブでの流量制御に切り替えることで、流量が安定している状態では供給対象から流量の制御点を遠ざけて、外乱等の影響を受けにくいロバストな制御を実現できる。加えて、さらに前記下流側バルブについては開放された状態を保つことができるようになるので、複数のバルブを備えながらも圧力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る流量制御装置の過渡応答時の状態を示す模式図。
図2】第1実施形態に係る流量制御装置の定常応答時の状態を示す模式図。
図3】第1実施形態に係る流量制御装置の制御動作を示すフローチャート。
図4】第1実施形態に係る流量制御装置の制御態様を示す模式的グラフ。
図5】本発明の第2実施形態に係る流量制御装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<構成の説明>
本発明の第1実施形態に係る流量制御装置100について各図を参照しながら説明する。
【0026】
第1実施形態の流量制御装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいてチャンバに対して流体であるガスを設定流量で供給するために用いられるものである。ここで、設定流量は、ある流量値から別の流量値へ階段状に立ち上がる、あるいは、立ち下がるステップ信号である。このような設定流量に対して流量制御装置100が実現する流量が所定時間内に追従するようにしてある。
【0027】
すなわち、流量制御装置100は、図1及び図2に示すように、流路に設けられたセンサ、バルブからなる流体機器と、当該流体機器の制御を司る制御機構COMと、を備えている。
【0028】
流路に対して上流側から順番に供給圧センサP0、上流側バルブV1、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2、下流側バルブV2が設けてある。ここで、流体抵抗Rは例えば層流素子であり、その前後に流れるガス流量に応じた差圧を発生する。
【0029】
供給圧センサP0は、上流側から供給されるガスの圧力をモニタリングするためのものである。なお、供給圧センサP0については供給圧が安定していることが保証されている場合等には省略してもよい。
【0030】
上流側圧力センサP1は、流路において上流側バルブV1と流体抵抗Rとの間における容積である上流側容積内にチャージされているガスの圧力である上流側圧力を測定するものである。
【0031】
下流側圧力センサP2は、流路において流体抵抗Rと下流側バルブV2との間における容積である下流側容積Vにチャージされているガスの圧力である下流側圧力を測定するものである。
【0032】
このように上流側圧力センサP1と下流側圧力センサP2は、上流側バルブV1、流体抵抗R、下流側バルブV2で形成される2つの容積の圧力をそれぞれ測定している。また、別の表現をすると、上流側圧力センサP1と下流側圧力センサP2は、流体抵抗Rの前後に配置されたそれぞれの容積内の圧力を測定するものである。
【0033】
上流側バルブV1、及び、下流側バルブV2は、第1実施形態では同型のものであり、例えばピエゾ素子によって弁体が弁座に対して駆動されるピエゾバルブである。上流側バルブV1、及び、下流側バルブV2はそれぞれ操作量として入力される電圧に応じて開度が変更される。
【0034】
次に制御機構COMについて詳述する。
【0035】
制御機構COMは、例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、入出力手段等を具備するいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されている流量制御プログラムが実行されて各種機器が協業することにより、少なくとも抵抗流量算出部1、バルブ流量算出部2、制御器Cとしての機能を発揮する。
【0036】
抵抗流量算出部1は、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2とともにいわゆる差圧式の流量センサFMを構成するものである。つまり、抵抗流量算出部1は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力を入力として、流体抵抗Rを流れるガス流量である抵抗流量を算出し、出力するものである。ここで、抵抗流量算出部1で用いられる流量の算出式は既存のものを用いることができる。抵抗流量算出部1が算出する抵抗流量は、連続的に変化するものであるが、下流側バルブV2の制御により実現される当該下流側バルブV2を通過している実際の流量に対して所定の時間遅れが発生している。
【0037】
バルブ流量は、抵抗流量算出部1で算出される抵抗流量と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力とに基づいて、下流側バルブV2から流出するガス流量であるバルブ流量を算出し、出力する。より具体的には、バルブ流量算出部2は、流体抵抗Rと下流側バルブV2との間の下流側容積に対して流入するガス流量である抵抗流量と、下流側容積Vから流出するガス流量であるバルブ流量の差の定数倍が、下流側圧力の時間変化量と等しいことに基づいてバルブ流量を算出している。
【0038】
すなわち、バルブ流量算出部2は、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力の時間変化量を算出する変化量算出部21と、抵抗流量と下流側圧力の時間変化量に基づいてバルブ流量を算出するバルブ流量出力部22とを備えている。
【0039】
以下ではバルブ流量が抵抗流量と下流側圧力の時間変化量に基づいて算出できる点について説明する。
【0040】
下流側圧力をP、下流側容積の体積をV、ガスの温度をT、気体定数をR,質量をnとした場合、気体の状態方程式からP=nRT/Vとなる。この式について時間微分を取ると、
【0041】
【数1】
【0042】
また、質量の時間微分は単位時間当たりに下流側容積Vに流出入するガス流量と比例関係にあるので、抵抗流量をQ、バルブ流量をQ、定数をaとすると、
【0043】
【数2】
【0044】
各式からバルブ流量Qについて、解くと、
【0045】
【数3】
【0046】
AはR、T、V、aをまとめた関数であり、下流側圧力の時間変化量に対して関数Aを乗じた値は、下流側容積に対する流出入流量である。この式から、実測される値である抵抗流量と下流側圧力の時間変化量である時間微分に基づいて、バルブ流量を算出可能であることが分かる。
【0047】
第1実施形態では、変化量算出部21は、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力の時間変化量として時間微分を算出する。なお、時間微分は、下流側圧力の時系列データから差分を取ることで算出できる。
【0048】
バルブ流量出力部22は、例えば予め実験等で求めておいた定数Aと、入力される抵抗流量と変化量算出部21から入力される下流側圧力の時間微分からバルブ流量を算出し、下流側バルブ制御部4、上流側バルブ制御部5、及び、設定指令出力部3からなる制御器Cに対して出力する。
【0049】
制御器Cは、上流側バルブV1又は下流側バルブV2のいずれか一方についてバルブ流量に基づき流量制御を行う。言い換えると、この制御器Cは、例えば設定流量において目標値が立ち上がる部分については下流側バルブV2による流量制御を行い、設定流量において目標値が一定に保たれている部分に実際の流量がほぼ追従してからは上流側バルブV1による流量制御を行う。具体的には制御器Cは、下流側バルブV2の開度が流量制御によって大きくなり、最大開度となった時点からは下流側バルブV2についてはその最大開度を維持し、上流側バルブV1による流量制御に切り替える。
【0050】
このような制御態様を実現するために制御器Cは、設定指令出力部3、下流側バルブ制御部4、及び、上流側バルブ制御部5を備えている。
【0051】
設定指令出力部3は、下流側バルブV2の開度が所定開度である全開の開度よりも小さい場合には第1設定指令を上流側バルブ制御部5及び下流側バルブ制御部4へ出力し、下流側バルブV2の開度が全開の開度である場合には第2設定指令を上流側バルブ制御部5及び下流側バルブ制御部4へ出力する。下流側バルブ制御部4及び上流側バルブ制御部5は入力されている第1設定指令、又は、第2設定指令に応じて制御態様を変化させるように構成されている。また、設定指令出力部3は例えば下流側バルブV2に印加されている電圧をモニタリングしており、この電圧の値が全開時に印加される電圧よりも小さい場合には第1設定指令を出力し、全開時に印加される電圧である場合には第2設定指令を出力するように構成してある。
【0052】
下流側バルブ制御部4は、下流側バルブV2の開度が所定開度である全開よりも小さい場合にはユーザ等によって予め設定される設定流量とバルブ流量算出部2により算出されるバルブ流量との偏差である流量偏差に基づいて下流側バルブV2の開度を制御する。また、下流側バルブV2の開度が全開となった場合には下流側バルブV2を全開の開度で維持し続ける。
【0053】
具体的には、下流側バルブ制御部4は、下流側バルブV2を流量フィードバック制御する初期流量制御部41と、下流側バルブV2の開度を全開で維持する開度維持部42と、入力される第1設定指令又は第2設定指令に応じて、初期流量制御部41、開度維持部42のいずれか一方にのみ下流側バルブV2を制御させる下流側制御切替部43と、を備えている。
【0054】
初期流量制御部41は、少なくとも例えば流量が立ち上がり部分のような過渡状態において下流側バルブV2を流量フィードバック制御する。この初期流量制御部41は、設定流量とバルブ流量との偏差によるPID演算により算出する。初期流量制御部41は、算出された操作量に相当する電圧を下流側バルブV2に対して出力する。すなわち、本実施形態では設定流量とバルブ流量との偏差による流量フィードバック制御により操作量である印加電圧が適宜変更される。初期流量制御部41によって下流側バルブV2が制御されている間は、バルブ流量は下流側バルブV2から流出している流量を算出した値であるので、流量の測定点と流量の制御点がほぼ一致することになる。したがって、バルブ流量と実際の流量との間にはほとんど時間遅れが存在しないため、流量の立ち上がり時の応答性を高めることができる。なお、初期流量制御部41は後述する後期流量制御部52に先行して流量フィードバック制御を行うものである、ここで、初期流量制御とはステップ状の設定流量が入力された場合において過渡応答状態とそれに続く定常状態の一部における流量制御を意味する。また、後期流量制御とは初期流量制御に引き続く流量制御を意味する。
【0055】
開度維持部42は、初期流量制御部41によって下流側バルブV2が制御されていない場合に、下流側バルブV2の開度を制御する。このとき、開度維持部42は算出されるバルブ流量によらず、予め定められた維持開度で下流側バルブV2の開度を維持する。第1実施形態では下流側バルブV2が維持下位度である最大の開度となる操作量を出力し続ける。
【0056】
下流側制御切替部43は、第1設定指令が入力されている場合には図1に示すように初期流量制御部41により下流側バルブV2の流量フィードバック制御を行わせ、第2設定指令が入力されている場合には図2に示すように開度維持部42により下流側バルブV2を最大開度での維持に切り替える。
【0057】
上流側バルブ制御部5は、下流側バルブV2の開度が所定開度である全開よりも小さい場合にはユーザ等によって予め設定される設定圧力と上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力との偏差である圧力偏差に基づいて上流側バルブV1を制御する。また、下流側バルブV2の開度が全開となった場合には、設定流量とバルブ流量との偏差に基づいて上流側バルブV1を制御する。
【0058】
具体的には上流側バルブ制御部5は、上流側バルブV1を圧力フィードバック制御する圧力制御部51と、上流側バルブV1を流量フィードバック制御する後期流量制御部52と、上流側バルブV1について圧力制御部51又は後期流量制御部52のいずれか一方が制御するように制御を切り替える上流側制御切替部53と、を備えている。
【0059】
圧力制御部51は、設定流量中で目標値が立ち上がる過渡状態において設定圧力と上流側圧力の偏差が小さくなるように上流側バルブV1の圧力フィードバック制御を行う。この圧力フィードバック制御も、例えば設定圧力と上流側圧力の偏差に基づくPID演算を行って操作量が算出され、その操作量に応じた電圧が上流側バルブV1に対して出力される。
【0060】
後期流量制御部52は、設定流量中で一定の目標値が保たれており、下流側バルブV2を通過している流量がほぼ追従している定常状態において、設定流量とバルブ流量との偏差に基づいて上流側バルブV1の流量フィードバック制御を行う。後期流量制御部52も、例えば初期流量制御部41と同様の制御アルゴリズムによって上流側バルブV1に対して出力する電圧を制御している。
【0061】
上流側制御切替部53は、図1に示すように第1設定指令が入力されている場合には圧力制御部51に上流側バルブV1の制御を行わせ、図2に示すように第2設定指令が入力されている場合には後期流量制御部52により上流側バルブV1の制御を行わせるように制御を切り替える。
【0062】
<動作の説明>
このように構成された流量制御装置100について、ステップ状の設定流量が入力された場合の流量制御動作について図3のフローチャート、及び、図4のグラフを参照しながら説明する。
【0063】
設定流量において例えば目標値がゼロから所定値まで立ち上がると、(ステップS1)、下流側バルブV2は当初は全閉されているので、設定指令出力部3は第1設定指令を上流側バルブ制御部5、及び、下流側バルブ制御部4にそれぞれ出力する(ステップS2)。
【0064】
下流側制御切替部43は、図1に示すように初期流量制御部41から下流側バルブV2へ操作量を出力させるように制御を切り替える。一方、上流側制御切替部53は圧力制御部51から上流側バルブV1へ操作量を出力させるように制御を切り替える(ステップS3)。
【0065】
この結果、下流側バルブ制御部4は設定流量とバルブ流量の偏差に基づく流量フィードバック制御によって下流側バルブV2の制御を開始する(ステップS4)。また、上流側バルブ制御部5は設定圧力と上流側圧力の偏差に基づく圧力フィードバック制御によって上流側バルブV1の制御を開始する(ステップS5)。
【0066】
図4のグラフに示すように目標値に追従するまでの過渡応答時に下流側バルブV2は設定流量とバルブ流量との偏差に応じた初期開度でほぼ維持される。また、設定圧力にはバルブ流量が高速で目標値まで立ち上がるのに適した圧力が実現されるように一定の目標値が設定された立ち上がり区間が設定してある。この設定圧力の一定の目標値に上流側圧力が一致するように上流側バルブV1の制御が行われる。
【0067】
そして、設定流量の目標値とバルブ流量がほぼ一致する時点からは、設定流量の目標値を維持し続けるために下流側バルブV2が合わせて開放されていく。これは下流側バルブV2が開放されることにより、上流側バルブV1と下流側バルブV2との間において圧力低下が生じ、バルブ流量が低下しようとする。流量フィードバックにより、このようなバルブ流量の低下は瞬時に防がれるように下流側バルブV2が制御され、より開度が大きくなっていく。このような作用が制御周期ごとに繰り返されることになるので、下流側バルブV2の開度は大きくなっていく一方、上流側圧力及び下流側圧力は低下していく。なお、第1実施形態ではこのような圧力低下に合わせて、設定流量とバルブ流量が一致する時点又はその近傍から設定圧力が最大値から所定値まで低下させるように圧力低下区間が設定してある。すなわち、図4のグラフに示すように設定流量とバルブ流量が一致してから上流側バルブV1での流量制御が開始されるまでの間に定常状態での微小な流量変化への感度を高くすることができる定常時用圧力まで設定圧力は連続的に低下するように設定されている。図4に示されるように圧力制御が実施されることにより、流量の立ち上がり時と定常状態においてそれぞれ応答性のよい流量制御を実現するのに適した圧力が実現される。また、圧力を低下させる際に不連続に目標圧力値が変化する部分が存在しないので、設定流量で保たれているバルブ流量がずれてしまうことを防ぐことができる。
【0068】
図3のフローチャートに示すように設定指令出力部3は、下流側バルブV2の開度が全開となったかどうかを下流側バルブV2に印加されている電圧に基づいて常に判定している(ステップS6)。下流側バルブV2の開度が全開ではない場合には、ステップS4及びS5の制御状態が維持される。
【0069】
設定指令出力部3が下流側バルブV2の開度が全開となったと判定した場合には、第2設定指令を上流側バルブ制御部5、及び、下流側バルブ制御部4のそれぞれに出力する(ステップS7)。
【0070】
下流側制御切替部43は、図2に示すように開度維持部42から下流側バルブV2へ操作量を出力させるように制御を切り替える。一方、上流側制御切替部53は後期流量制御部52から上流側バルブV1へ操作量を出力させるように制御を切り替える(ステップS8)。
【0071】
この結果、下流側バルブ制御部4は下流側バルブV2を最大開度で開放し続ける(ステップS9)。また、上流側バルブ制御部5は、設定流量とバルブ流量の偏差に基づく流量フィードバック制御によって上流側バルブV1の制御を開始する(ステップS10)。すなわち、下流側バルブV2が最大開度となってからは、実質的に流体抵抗Rの上流側に設けられた上流側バルブV1のみで流量制御が継続されることになる。
【0072】
<効果の説明>
このように構成された第1実施形態の流量制御装置100によれば、少なくとも設定流量が例えばゼロから所定値まで立ち上がる過渡応答時については、下流側バルブV2において制御点と測定点を一致させた流量制御を行うことができる。すなわち、算出されたバルブ流量によって流量測定における遅れを低減して、過渡応答が収束するまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0073】
また、下流側バルブV2の流量制御によってバルブ流量が一定値に安定した後は、下流側バルブV2が全開となった時点で下流側バルブV2はその最大開度を維持しつつ、上流側バルブV1による流量フィードバック制御へと切り替えることができる。
【0074】
このため、バルブ流量が一定値に安定している定常状態では下流側バルブV2が実質的に流路に存在しない状態を実現して、下流側バルブV2による圧力損失を大幅に低減できる。加えて、定常状態では下流側バルブV2が全開で上流側バルブV1のみが流量フィードバック制御されるので、図4のグラフに示すように上流側バルブV1と下流側バルブV2間の空間において圧力変動が生じにくく、安定したロバストな流量制御を実現できる。
【0075】
次に本発明の第2実施形態に係る流量制御装置100について図5を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0076】
第2実施形態の流量制御装置100は、制御器Cが流量偏差として設定流量と抵抗流量の偏差を用いて、上流側バルブV1及び下流側バルブV2を制御するように構成されている。具体的には制御器Cは、下流側バルブV2の開度が所定開度である全開よりも小さい場合には、初期流量制御部41にのみ抵抗流量を入力し、下流側バルブV2による流量フィードバック制御を行う。また、制御器Cは、下流側バルブV2の開度が全開となった場合には、後期流量制御部52にのみ抵抗流量を入力し、上流側バルブV1による流量フィードバック制御に切り替える。このように下流側バルブV2の開度に応じて抵抗流量が入力される先を切り替えることにより、流量フィードバック制御を切り替える流量入力切替部6を制御器Cは備えている。
【0077】
このような第2実施形態の流量制御装置100では、例えばステップ状の設定流量が設定されている場合には、過渡応答を含む初期流量制御時にはチャンバ等のガスの供給対象に近い下流側バルブV2による流量フィードバック制御を行い、下流側バルブV2の開度が全開となってからは上流側バルブV1による流量フィードバック制御を行うように切り替えることができる。したがって、過渡応答時には供給対象の近くに流量の制御点を設定して時間遅れを小さくして制御の応答性を高めることができる。また、定常状態のような流量が安定してからは供給対象から遠い上流側バルブV2による流量フィードバック制御を行い、外乱等にたいして影響を受けにくい、ロバストな制御を実現できる。また、上流側バルブV1による流量フィードバック制御が行われている場合には、下流側バルブV2では流量による開度の変動が生じず、下流側バルブV2がノーマルオープンタイプのものであれば開放された状態が保たれる。したがって、上流側バルブV1による流量フィードバック制御時には下流側バルブV2は実質的に存在しない状態を作り、従来の複数のバルブを有する流量制御装置と比較して圧力損失を大幅に低減することができる。
【0078】
その他の実施形態について説明する。
【0079】
下流側バルブによる流量制御から上流側バルブによる流量制御に切り替えるのは、下流側バルブが全開となった場合に限られない。下流側バルブが予め定めた所定開度となった場合に、下流側バルブによる流量制御から上流側バルブへの流量制御へと切り替えるように制御器を構成してもよい。所定開度としては、全開から所定値だけ小さい開度が挙げられる。また、所定開度は、上流側バルブによる流量制御時において下流側バルブで発生する圧力損失が許容できる値となる開度が好ましい。
【0080】
設定指令出力部において下流側バルブが所定開度となったかどうかを判定するための構成は、下流側バルブに印加されている電圧を取得するものに限られない。例えば、初期流量制御部において算出される操作量に基づく値や、設定流量において目標値が立ち上がった時点からの経過時間に基づいて下流側バルブが所定開度となったと判定するようにしてもよい。下流側バルブに弁体の位置を検出する変位センサを設けておき、この変位センサの出力に基づいて下流側バルブが所定開度となったかどうかを設定指令出力部が判定するようにしてもよい。このように本明細書において下流側バルブが所定開度となった場合とは、実際に下流側バルブの開度が所定開度となった場合だけでなく、開度に関連する、あるいは、換算可能な測定値や算出値が所定開度に対応する値になった場合を含む。
【0081】
初期流量制御部と後期流量制御部については、第1実施形態ではそれぞれ同じ制御アルゴリズムによって流量フィードバック制御を行うように構成されていたが、それぞれの制御アルゴリズムや制御係数、フィードバックされる流量の種類は異なっていても構わない。
【0082】
例えば初期流量制御部は過渡応答の収束時間やオーバーシュートを要求仕様に対して最適化するような制御係数を設定し、後期流量制御部は外乱等に対してロバストとなるように初期流量制御部とは異なる制御係数を設定してもよい。定常状態では抵抗流量とバルブ流量は出力されている値とはほぼ一致することになるので、後期流量制御部については、バルブ流量をフィードバックするのではなく、抵抗流量をフィードバックするようにしてもよい。この場合には、抵抗流量は微分演算を含んでいない分だけ、下流側圧力センサの測定ノイズが拡大して重畳されず、ノイズ影響が流量フィードバック制御に現れにくくできる。したがって、後期流量制御部による流量制御をさらに安定させることが可能となる。
【0083】
第1実施形態では、下流側バルブによる流量フィードバック制御が行われている間は、上流側バルブは圧力フィードバック制御が行われていたが、上流側圧力をフィードバックせずに上流側バルブが例えば所定開度を維持するように制御しても構わない。
【0084】
第1実施形態では流量センサは上流側圧力センサ、流体抵抗、下流側圧力センサ、抵抗流量算出部からなる圧力式の流量センサであったが、その他の測定原理を用いた流量センサであっても構わない。例えば流体抵抗の上流側と下流側をバイパスする細管を設け、この細管の上流側と下流側の温度に基づいて流量を測定する熱式の流量センサを設けても構わない。すなわち、熱式流量センサは、細管を流れる流体の上流側の温度に基づく出力をする第1コイルと、細管の下流側の温度に基づく出力をする第2コイルと、第1コイルと第2コイルの出力から流量に応じた出力を生成する流量検出回路と、抵抗流量算出部を備えたものであればよい。抵抗流量算出部は、流量検出回路の出力に基づいて抵抗流量を算出するように構成さればよい。
【0085】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の一部又は全部を組み合わせたり、各実施形態の一部を変形したりしても構わない。
【符号の説明】
【0086】
100・・・流量制御装置
V1 ・・・上流側バルブ
V2 ・・・下流側バルブ
P1 ・・・上流側圧力センサ
P2 ・・・下流側圧力センサ
R ・・・流体抵抗
V ・・・下流側容積
1 ・・・抵抗流量算出部
2 ・・・バルブ流量算出部
21 ・・・変化量算出部
22 ・・・バルブ流量出力部
3 ・・・設定指令出力部
4 ・・・下流側バルブ制御部
41 ・・・初期流量制御部
42 ・・・開度維持部
43 ・・・下流側制御切替部
5 ・・・上流側バルブ制御部
51 ・・・圧力制御部
52 ・・・後期流量制御部
53 ・・・上流側制御切替部
図1
図2
図3
図4
図5