(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】人工皮革基材及び銀付調人工皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/04 20060101AFI20220928BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20220928BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220928BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220928BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
D06N3/04
B32B5/00 Z
B32B27/30 A
B32B27/40
D06N3/14 102
(21)【出願番号】P 2019515705
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2018016625
(87)【国際公開番号】W WO2018203494
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017091274
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】中山 公男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隼紀
(72)【発明者】
【氏名】成本 直人
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124444(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076204(WO,A1)
【文献】特開2015-55023(JP,A)
【文献】特開昭55-128078(JP,A)
【文献】特開2017-2419(JP,A)
【文献】特開2012-117154(JP,A)
【文献】特開昭60-181370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛と、前記布帛に付与された、高分子弾性体と微粒子と可塑剤と、を含み、
前記高分子弾性体は(メタ)アクリル系高分子弾性体とポリウレタンとを
含む、人工皮革基材であり、
前記微粒子はモース硬度4以下である、硫酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,炭酸マグネシウム,水酸化マグネシウム
,及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み
、
前記人工皮革基材中に、前記微粒子を15~40質量%含み、
剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm
2である、人工皮革基材。
【請求項2】
前記人工皮革基材中に、前記高分子弾性体を15~40質量%含む請求項
1に記載の人工皮革基材。
【請求項3】
前記人工皮革基材中に、前記可塑剤を0.5~5質量%含む請求項
1または2に記載の人工皮革基材。
【請求項4】
前記人工皮革基材中に、前記布帛を25~69.5質量%含む請求項1
~3の何れか1項に記載の人工皮革基材。
【請求項5】
前記人工皮革基材中に、前記高分子弾性体を15~40質量%
、前記可塑剤を0.5~5質量%含む請求項1に記載の人工皮革基材。
【請求項6】
前記微粒子と前記(メタ)アクリル系高分子弾性体の合計に対する前記(メタ)アクリル系高分子弾性体の割合が5~50質量%である請求項1
~5の何れか1項に記載の人工皮革基材。
【請求項7】
前記微粒子の見かけ密度と前記(メタ)アクリル系高分子弾性体の見掛け密度との合計が0.15~0.4g/cm
3である請求項1
~6の何れか1項に記載の人工皮革基材。
【請求項8】
前記微粒子は、炭酸カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1
~7の何れか1項に記載の人工皮革基材。
【請求項9】
前記布帛が平均繊度0.7dtex以下の繊維の不織布を含む請求項1
~8の何れか1項に記載の人工皮革基材。
【請求項10】
前記繊維がポリアミド系繊維である請求
項9に記載の人工皮革基材。
【請求項11】
請求項1
~10の何れか1項に記載の前記人工皮革基材と、前記人工皮革基材の少なくとも一面に形成された銀面調樹脂層を含む銀付調人工皮革。
【請求項12】
前記銀面調樹脂層の厚さが30~300μmである請求
項11に記載の銀付調人工皮革。
【請求項13】
前記銀面調樹脂層は、コーティング膜である請求
項11また
は12に記載の銀付調人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工皮革基材及びそれを用いた銀付調人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、布帛の内部の空隙に高分子弾性体を含浸付与して得られる人工皮革基材に、銀面調の樹脂層を積層した、銀付調人工皮革が知られている。銀付調人工皮革は、天然皮革の代替品として、靴,衣料,手袋,鞄,ボール等の表皮材や、建造物や車輌の内装材として用いられている。
【0003】
天然皮革は、緻密なコラーゲン繊維を含むために、しなやかさと充実感とを兼ね備える。天然皮革の充実感は、曲げたときに、丸みを帯びて高級感のある細かな折れシワを形成させる。また、銀付調皮革は表面平坦性に優れ、平坦な銀面を形成しても凹凸が目立たちにくい。しかし、安定した品質の天然皮革を入手することは困難であった。また、コラーゲン繊維は耐熱性や耐水性が低い。そのために天然皮革は、耐熱性や耐水性が要求される用途に使用することが困難であった。天然皮革の耐熱性や耐水性を向上させるために、銀面調の樹脂層(以下、単に銀面層とも称する)を厚くする方法もある。しかし、銀面層を厚くした場合には、天然皮革の長所であるしなやかさが低下する。
【0004】
一方、銀付調人工皮革は、品質安定性,耐熱性,耐水性,耐摩耗性,メンテナンス性に優れる。しかし、次のような問題があった。銀付調人工皮革は、布帛の内部に高分子弾性体で充填されていない空隙を含むために充実感が低かった。また、そのために、銀付調人工皮革を曲げたときには、銀付調皮革のように丸みを帯びて折れず、座屈して折れて粗いシワを発生させていた。
【0005】
上述した問題を解決した銀付調人工皮革としては、例えば、下記特許文献1は、充填剤と液状の不揮発性油と高分子弾性体とを含有する人工皮革基材に、銀面調の樹脂層を積層して得られる、高い充実感を有する銀付調人工皮革を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、銀付調人工皮革は布帛の内部に空隙を含む。そのために銀付調人工皮革は銀付調皮革に比べて、充実感が低く、また、銀付調人工皮革を曲げたときには、天然皮革の銀付調皮革のように丸みを帯びて折れず、座屈して折れて粗いシワを発生させるという欠点が有った。特に、薄い銀面層や鏡面のようなフラットシボ調の銀面層を有する銀付調人工皮革の場合、折れシワが不均一になりやすく、粗い折れシワが発生して銀付調人工皮革の高級感を低下させることがあった。このような充実感の不足や折れシワの不均一さや粗い折れシワの発生を低減させるために、布帛に付与する高分子弾性体の含有割合を高めた場合、銀付調人工皮革は、高分子弾性体の反発感によってゴムライクで剛直な風合いになってしまう。また、別の問題として、表面平坦性が劣るという欠点もあった。
【0008】
本発明は、しなやかさと充実感とを兼ね備え、折り曲げたときには丸みを帯びて折れ曲がって細かな折れシワを発生させ、また、表面平坦性にも優れた、銀付調人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、布帛と、布帛に付与された、高分子弾性体と微粒子と可塑剤と、を含み、高分子弾性体は(メタ)アクリル系高分子弾性体とポリウレタンとを含む人工皮革基材である。そして、微粒子はモース硬度4以下である、硫酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,炭酸マグネシウム,水酸化マグネシウム,及び水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、人工皮革基材中に、前記微粒子を15~40質量%含み、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2である人工皮革基材である。このような人工皮革基材を用いれば、銀付調皮革のようなしなやかさと充実感とを兼ね備え、折り曲げたときに丸みを帯びて細かな折れシワを発生させ、また、表面平坦性にも優れた、銀付調人工皮革を製造できる。
【0010】
また、本発明の他の一局面は、上記人工皮革基材と、人工皮革基材の少なくとも一面に形成された銀面調樹脂層を含む銀付調人工皮革である。このような銀付調人工皮革は、しなやかさと充実感とを兼ね備え、折り曲げたときに丸みを帯びて細かな折れシワを発生させやすい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、しなやかさと充実感とを兼ね備え、折り曲げたときに丸みを帯びて細かな折れシワを発生させ、また、表面平坦性にも優れた、銀付調人工皮革が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の人工皮革基材は、布帛と、布帛に付与された高分子弾性体と微粒子と可塑剤とを含み、高分子弾性体は(メタ)アクリル系高分子弾性体とポリウレタンとを含み、微粒子はモース硬度4以下であり、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2である。以下、本実施形態の人工皮革基材について、詳しく説明する。
【0013】
布帛としては、不織布,織物,編物等を含む繊維構造体が挙げられる。これらの中では、不織布が、繊維の粗密ムラが低くなることにより、しなやかさと充実感と表面平坦性とを兼ね備えた人工皮革基材が得られやすい点からとくに好ましい。以下、代表例として、不織布を用いる場合について、詳しく説明する。
【0014】
繊維の平均繊度は、0.001~2.5dtex、さらには、0.001~0.9dtex、とくには、0.001~0.7dtex、ことには、0.001~0.5dtex、さらには0.001~0.3dtexであることが好ましい。繊維の繊度は、人工皮革基材の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率2000倍で撮影することにより測定できる。詳しくは、SEMで得られた写真から、繊維の断面積を計測し、断面積と繊維を形成する樹脂の比重から、算出することができる。平均繊度は、写真から万遍なく求めた平均的な100個の繊維の繊度の平均値として求めることができる。
【0015】
繊維を形成する樹脂はとくに限定されないが、例えば、ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6-12等のポリアミド(ナイロン);ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、PETまたは変性PET;ポリ乳酸;ポリアミド6,ポリアミド12,ポリアミド6-12;ポリプロピレンが好ましい。しなやかさや表面平坦性により優れた人工皮革基材を形成する点からは、ポリアミドがとくに好ましい。また、繊維中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、柔軟化剤,整毛剤,防汚剤,親水化剤,滑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,難燃剤等の添加剤を配合してもよい。
【0016】
人工皮革基材中の布帛の含有割合はとくに限定されないが、25~69.5質量%であることが、形態安定性と、しなやかさと、平坦性と、のバランスに優れた人工皮革基材が得られる点から好ましい。
【0017】
高分子弾性体は、(メタ)アクリル系高分子弾性体とポリウレタンとを少なくとも含む。高分子弾性体は、布帛を形成する繊維を拘束して人工皮革基材に、形態安定性、しなやかさ、充実感等を付与する。(メタ)アクリル系高分子弾性体は、とくに、しなやかさ、表面平坦性、細かな折れシワ、充実感を付与する。また、ポリウレタンは、とくに、形態安定性、機械的特性、剛性を付与する。
【0018】
(メタ)アクリル系高分子弾性体は、エチレン性不飽和モノマーの組み合わせ、具体的には、例えば、エチレン性不飽和モノマーの各種モノマー及び必要に応じて用いられる架橋性モノマー等を適宜組み合わせて重合することにより得られる。なお、「(メタ)アクリル系」の表記は、アクリル系またはメタクリル系を意味する。
【0019】
エチレン性不飽和モノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸エチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、メタクリル酸メチル、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、エチレン、プロピレン、ビニルピロリドン、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
架橋性モノマーとは、(メタ)アクリル系高分子弾性体に架橋構造を形成させるモノマーである。架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の多官能エチレン性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルのような水酸基を有する各種モノマー;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体等の架橋構造を形成しうる反応性基を有する多官能エチレン性不飽和モノマー等が挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリル系高分子弾性体は、ガラス転移温度(Tg)が-60~10℃、さらには-50~-5℃であることが、とくにしなやかな人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。なお、(メタ)アクリル系高分子弾性体のTgが低すぎる場合には粘着性が高くなって製造工程や実用上で問題が生じることがある。
【0022】
(メタ)アクリル系高分子弾性体は100%モジュラスが0.4~5MPa、さらには、0.7~4MPaであることが好ましい。このような範囲の場合には、(メタ)アクリル系高分子弾性体が布帛の繊維を充分に拘束することにより、とくにしなやかな人工皮革基材が得られやすい。
【0023】
ポリウレタンとしては、従来から人工皮革基材の製造に用いられているポリウレタンがとくに限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、平均分子量200~6000の高分子ポリオール,有機ポリイソシアネート,及び鎖伸長剤を、所定のモル比で反応させることにより得られるポリカーボネート系ポリウレタンや、ポリエーテル系ポリウレタン等の各種ポリウレタンが挙げられる。とくには、60質量%以上がポリカーボネート系ポリウレタンであるポリウレタンが耐久性に優れる点から好ましい。
【0024】
ポリウレタンは、100%モジュラスが1~10MPa、さらには、2~8MPaであることが好ましい。このような範囲の場合には、形態安定性、機械的特性にすぐれ、しなやかな人工皮革基材が得られやすい。
【0025】
人工皮革基材中の高分子弾性体の含有割合としては、15~40質量%であることが好ましい。このような範囲の場合には、充実感と表面平坦性に優れ、折り曲げたときに丸みを帯びて折れ曲がって細かな折れシワを発生させやすい人工皮革基材が得られやすい。
【0026】
また、ポリウレタンと(メタ)アクリル系高分子弾性体との総量に対する(メタ)アクリル系高分子弾性体の含有割合は、5~90質量%、さらには5~70質量%であることが好ましい。
【0027】
人工皮革基材は、モース硬度4以下、好ましくはモース硬度0.5~4の微粒子を含む。モース硬度4以下の微粒子としては、モース硬度4以下の金属,金属酸化物,無機化合物,有機化合物,無機有機化合物等が挙げられる。モース硬度が4以下の微粒子は、人工皮革基材に、優れた充実感と表面平坦性を付与し、また、折り曲げたときに丸みを帯びて折れ曲がって細かな折れシワを発生させやすくする。
【0028】
一般的な微粒子の硬度は、例えば、黒鉛(モース硬度0.5~1,以下同様),タルク(1),石膏(1),鉛(1.5),硫酸カルシウム(1.6~2),亜鉛(2),銀(2),琥珀(2~2.5),ケイ酸アルミニウム(2~2.5),酸化セリウム(2.5),水酸化マグネシウム(2~3),マイカ(2.8),アルミニウム(2~2.9),水酸化アルミニウム(3),炭酸カルシウム(3),炭酸マグネシウム(3~4),大理石(3~4),銅(2.5~4),真鍮(3~4),酸化マグネシウム(4),酸化亜鉛(4~5),鉄(4~5),ガラス(5),酸化鉄(6),酸化チタン(5.5~7.5),シリカ(7),アルミナ(9),シリコンカーバイド(9),ダイヤモンド(10)程度である。本実施形態の人工皮革基材は、モース硬度4以下の微粒子を含む。微粒子のモース硬度が4を超える場合には、しなやかさが低下する。モース硬度は公知の方法で測定できる。また、硬度については、モース硬度の他に、新モース硬度、ビッカース硬度(HV)、ショア硬度(HS)、ヌーブ硬度などが知られている。モース硬度1~4は、ビッカース硬度(HV)では1~350、ショア硬度(HS)では1~40、ヌーブ硬度では1~300に、ほぼ対応する。本実施形態においては、モース硬度4以下の微粒子に対応する、他の硬度測定法により測定された硬度の微粒子も含む。
【0029】
モース硬度4以下の微粒子(以下、単に微粒子とも称する)としては、例えば、黒鉛,タルク,石膏,硫酸カルシウム,琥珀,ケイ酸アルミニウム,水酸化マグネシウム,マイカ,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,酸化マグネシウムが挙げられる。これらの中で、硫酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,炭酸マグネシウム,水酸化マグネシウム,水酸化アルミニウムが、化学的安定性及び熱的安定性に優れ、粒子径が均質な純度が高いものが入手しやすい点から用いられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
なお、化学的安定性は、実用上使用するpH範囲、例えばpH4~12での水や熱水に膨潤したり、溶解しにくい性質である。また、熱安定性は、150℃以上、好ましくは200℃以上の熱分解温度及び融点を有する特性である。また、微粒子の溶解度は1%以下であることが好ましい。また、モース硬度4以下の微粒子とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、モース硬度4超の微粒子を含んでもよい。また、例えば、柔軟化剤,整毛剤,防汚剤,親水化剤,滑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,難燃剤等を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
微粒子の平均粒子径は、0.5~10μm、さらには1~7μmであることが、布帛中の空隙に、均一に付与されやすい点から好ましい。平均粒子径が小さすぎる場合には人工皮革基材が硬くなる傾向がある。
【0032】
また、微粒子の真比重は、1.2~4.5g/cm3であることが、布帛中の空隙に均一に付与されやすく、充実感にとくに優れた人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。
【0033】
微粒子の含有割合は、人工皮革基材中に15~40質量%であることが、充実感と表面平坦性に優れ、折り曲げたときに丸みを帯びて折れ曲がって細かな折れシワを発生させやすい人工皮革基材が得られやすくなる。微粒子の含有割合が高すぎる場合には、表面平坦性が低下しやすくなる傾向がある。
【0034】
また、微粒子と(メタ)アクリル系高分子弾性体との総量に対する、(メタ)アクリル系高分子弾性体の割合としては、5~50質量%、さらには、5~40質量%であることが、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚みとの積が200~400mm2である人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。
【0035】
本実施形態の人工皮革基材は可塑剤を含む。可塑剤は、布帛,高分子弾性体,微粒子を柔軟化して塑性変形性を向上させるために配合される。可塑剤としては、液状,粘調状,ロウ状,固形、の油脂または脂肪酸エステルが挙げられる。その具体例としては、例えば、脂肪酸エステル,パラフィンオイル等の炭化水素系オイル,炭化水素系ワックス,カルバナワックス,フタル酸エステル,リン酸エステル,ヒドロキシカルボン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、融点が60℃以下、好ましくは23℃で液状である可塑剤、とくには脂肪酸エステルが、しなやかさと充実感とを兼ね備えた風合いを有する人工皮革基材が得られる点から好ましい。
【0036】
脂肪酸エステルはアルコールと酸とをエステル化した化合物である。その具体例としては、例えば、1価アルコールエステル,多塩基酸の1価アルコールエステル,多価アルコールの脂肪酸エステルおよびその誘導体,グリセリンの脂肪酸エステル等が挙げられる。アルコールとしては、メチルアルコール,イソプロピルアルコール,n-ブチルアルコール,イソブチルアルコール,n-オクチルアルコール,2-エチルヘキシルアルコール,n-デシルアルコール,イソデシルアルコール,ラウリルアルコール,イソトリデシルアルコール,ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ステアリルアルコール,オクチルドデシルアルコール,グリセリン,ソルビタン,ポリオキシエチレンソルビタン,ポリオキシエチレンソルビトール,エチレングリコール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,ペンタエリスリトール,ポリオキシエチレンビスフェノールAなどが挙げられる。また、酸としては、カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミリスチル酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,ベヘニン酸,ヤシ脂肪酸,メタクリル酸,2-エチルヘキサン酸,フタル酸,アジピン酸,アゼライン酸,マレイン酸,セバシン酸,トリメリット酸などが挙げられる。
【0037】
脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、2-エチルヘキサン酸セチル,ヤシ脂肪酸メチル,ラウリン酸メチル,ミリスチン酸イソプロピル,パルミチン酸イソプロピル,パルミチン酸2-エチルヘキシル,ミリスチン酸オクチルドデシル,ステアリン酸メチル,ステアリン酸ブチル,ステアリン酸2-エチルヘキシル,ステアリン酸イソトリデシル,オレイン酸メチル,ミリスチン酸ミリスチル,ステアリン酸ステアリル,オレイン酸イソブチル,フタル酸ジノルマルアルキル,フタル酸ジ2-エチルヘキシル,フタル酸ジイソノニル,フタル酸ジデシル,フタル酸ジトリデシル,トリメリット酸トリノルマルアルキル,トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル,トリメリット酸トリイソデシル,アジピン酸ジイソブチル,アジピン酸ジイソデシル,ソルビタンモノラウレート,ソルビタンモノパルミテート,ソルビタンモノステアレート,ソルビタントリステアレート,ソルビタンモノオレエート,ソルビタントリオレエート,ソルビタンモノステアレート,ソルビタンセスキオレエート,ソルビタンモノラウレート,ソルビタンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート,ポリオキシエチレントリオレエート,ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート,ソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンモノラウレート,ポリオキシエチレンモノラウレート,ポリエチレングリコールモノステアレート,ポリエチレングリコールモノオレエート,ポリエチレングリコールジステアレート,ポリエチレングリコールビスフェノールAラウリン酸エステル,ペンタエリスリトールモノオレエート,ペンタエリスリトールモノステアレート,ペンタエリスリトールテトラパルミテート,ステアリン酸モノグリセライド,ステアリン酸モノグリセライド,パルミチン酸モノグリセライド,オレイン酸モノグリセライド,ステアリン酸モノ・ジグリセライド,2-エチルヘキサン酸トリグリセライド,ベヘニン酸モノグリセライド,カプリル酸モノ・ジグリセライド,カプリル酸トリグリセライド,メタクリル酸ラウリル等が挙げられる。
【0038】
脂肪酸エステルの中では、しなやかさと充実感とを兼ね備えた風合いを有する人工皮革基材がとくに得られやすい点から、融点が60℃以下、好ましくは23℃で液状である脂肪酸エステル、とくには、炭素数12~18の脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルが好ましい。
【0039】
可塑剤の含有割合は特に限定されないが、人工皮革基材中に0.5~5質量%、さらには1~5質量%、とくには2~4質量%であることが、しなやかさを向上させる効果が充分に発現する点から好ましい。可塑剤の含有割合が高すぎる場合には、難燃性を低下させたり、ブリードアウトしてベタツキを発生させたりする傾向がある。
【0040】
本実施形態の人工皮革基材は、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2である。従来の人工皮革基材においては、表面硬度としなやかさとの関係はトレードオフであった。本実施形態の人工皮革基材は、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2に調整されたことにより、高い表面硬度としなやかさとを兼ね備える。剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積は200~400mm2であり、210~350mmであることが好ましい。剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が、200mm2未満の場合には、表面硬度またはしなやかさの何れかが不足して、粗い折れシワを発生させやすくなる。また、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が、400mm2を超える場合には、腰がなく充実感に乏しかったり、表面が硬すぎてボキボキとした折れを生じやすい人工皮革基材が得られやすくなる。
【0041】
剛軟度は人工皮革基材のしなやかさの程度を示す。人工皮革基材の剛軟度はソフトネステスターで測定される。人工皮革基材の剛軟度としては、1.8~6mm、さらには2~5mmであることが、しなやかさと充実感とのバランスに優れた人工皮革基材が得られる点から好ましい。なお、剛軟度は、銀付調人工皮革を製造する場合においては、銀面層を形成する面から測定することが好ましい。
【0042】
また、デュロメータショアC硬度は表面硬度を示す。人工皮革基材のデュロメータショアC硬度は、48~80、さらには、52~76であることが、表面平坦性がとくに高く、細かな折れシワをとくに発現させやすい人工皮革基材が得られる点から好ましい。なお、デュロメータショアCは剛軟度を測定する側と同じ側で測定し、銀付調人工皮革を製造する場合においては、銀面層を形成する側を測定することが好ましい。
【0043】
人工皮革基材の厚さは、特に限定されないが、100~3000μm、さらには300~2000μm程度であることが、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚みとの積が200~400mm2である人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。
【0044】
人工皮革基材の見かけ密度は、0.45~0.85g/cm3、さらには0.55~0.80g/cm3であることが、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚みとの積が200~400mm2である人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。また、特に、ポリアミド系繊維の極細繊維の不織布を布帛として用いた場合、見かけ密度が0.55~0.80g/cm3、さらには、0.60~0.75g/cm3であることが好ましい。
【0045】
また、人工皮革基材の見かけ密度に占める、モース硬度4以下の微粒子の見かけ密度と(メタ)アクリル系高分子弾性体の見かけ密度との合計としては、0.15~0.40g/cm3であることが、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚みとの積が200~400mm2である人工皮革基材が得られやすい点から好ましい。
【0046】
次に、上述した人工皮革基材の製造方法について説明する。本実施形態においては、布帛として極細繊維の不織布を用いる場合について、代表例として詳しく説明する。
【0047】
極細繊維の不織布は、例えば、海島型(マトリクス-ドメイン型)複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理し、極細繊維化処理することにより得られる。本実施形態においては、海島型複合繊維を用いる場合について詳しく説明するが、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いてもよい。また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接極細繊維を紡糸してもよい。なお、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維の具体例としては、例えば、剥離分割型繊維や花弁型繊維等が挙げられる。
【0048】
極細繊維の不織布の製造方法としては、例えば、海成分の熱可塑性樹脂と島成分の熱可塑性樹脂とを用いて海島型複合繊維を溶融紡糸してウェブを製造し、ウェブを絡合処理した後、海島型複合繊維から海成分を選択的に除去して島成分の熱可塑性樹脂からなる極細繊維を形成する方法が挙げられる。
【0049】
海成分の熱可塑性樹脂としては、島成分の熱可塑性樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,エチレンプロピレン樹脂,エチレン酢酸ビニル樹脂,スチレンエチレン樹脂,スチレンアクリル樹脂などが挙げられる。
【0050】
ウェブを製造する方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維の海島型複合繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維ウェブを形成する方法や、長繊維をステープルにカットして短繊維ウェブを形成する方法等が挙げられる。これらの中では、緻密さ及び充実感に優れている点から長繊維ウェブが特に好ましい。なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が3~80mm程度になるように意図的に切断された短繊維ではない繊維を意味する。極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。なお、絡合時のニードルパンチや、表面のバフィングにより、製造工程において不可避的に長繊維の一部が切断されて短繊維になることもある。また、形成されたウェブには形態安定性を付与するために融着処理を施してもよい。
【0051】
絡合処理としては、例えば、ウェブを5~100枚程度重ね、ニードルパンチや高圧水流処理する方法が挙げられる。
【0052】
極細繊維の不織布の製造においては、はじめに、選択的に除去できる海島型複合繊維の海成分(マトリクス成分)を構成する熱可塑性樹脂と、極細繊維を形成する樹脂成分である海島型複合繊維の島成分(ドメイン成分)を構成する熱可塑性樹脂とを溶融紡糸し、延伸することにより海島型複合繊維を得る。
【0053】
海島型複合繊維の海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、水蒸気による湿熱収縮処理等の繊維収縮処理を施すことにより、海島型複合繊維を緻密化して充実感を向上させることができる。
【0054】
海島型複合繊維の海成分は、ウェブを形成させた後の適当な段階で溶解または分解して除去される。このような分解除去または溶解抽出除去により海島型複合繊維が極細繊維化されて、繊維束状の極細繊維が形成される。
【0055】
布帛に、(メタ)アクリル系高分子弾性体やポリウレタンを含む高分子弾性体を付与する方法は特に限定されない。一例としては、(メタ)アクリル系高分子弾性体のエマルジョンや水分散液とポリウレタンのエマルジョンや水分散液とを混合した分散液を布帛に含浸した後、乾燥させる方法が挙げられる。また、他の例としては、ポリウレタン系高分子弾性体または(メタ)アクリル系高分子弾性体の何れか一方のみを布帛に予め付与した後、他の一方のみをさらに付与してもよい。なお、海島型複合繊維から製造される極細繊維の不織布を用いる場合には、これらの高分子弾性体は、極細繊維化前の海島型複合繊維の不織布に付与されても、極細繊維の不織布に付与されてもよい。
【0056】
極細繊維が極細繊維発生型繊維に由来する繊維束を形成している場合には、高分子弾性体は繊維束の内部に含浸していても、繊維束の外部に付着していても、繊維束の内部と外部に付着していてもよい。高分子弾性体が繊維束の内部に含浸している場合には、繊維束を形成する極細繊維の拘束を調整することにより風合いを調整することができる。例えば、海島型複合繊維を極細繊維化処理した場合、海島型複合繊維から水溶性熱可塑性樹脂が除去されて極細繊維束の内部に空隙が形成される。このように形成された空隙には、毛細管現象により高分子弾性体の分散液が侵入しやすい。そのため、繊維束の内部に高分子弾性体が付与された場合には、不織布の形態安定性が高くなる。
【0057】
(メタ)アクリル系高分子弾性体とポリウレタンと微粒子と可塑剤とを布帛の空隙に付与する方法は特に限定されない。具体的には、例えば、布帛に、ポリウレタンと(メタ)アクリル系高分子弾性体と微粒子と可塑剤とを含む分散液を含浸させ、乾燥することによりそれらを付与する方法が挙げられる。
【0058】
また、布帛が、海島型複合繊維から製造される極細繊維の不織布である場合には、海島型複合繊維を極細化する前にポリウレタンを付与し、極細化した後に、(メタ)アクリル系高分子弾性体と微粒子と可塑剤とを含む分散液を付与して乾燥することが、生産工程上好ましい。また、このような工程によれば、(メタ)アクリル系高分子弾性体と微粒子と可塑剤とが、極細繊維の繊維束の内部にも付与される点から好ましい。なお、海島型複合繊維を極細化する前に(メタ)アクリル系高分子弾性体や可塑剤を付与した場合には、極細化する工程における処理により、(メタ)アクリル系高分子弾性体が劣化や変形したり、可塑剤が脱落しやすくなる。
【0059】
また、布帛が、海島型複合繊維から製造される極細繊維の不織布である場合には、海島型複合繊維を極細化する前にポリウレタンと微粒子とを付与し、極細化した後に、(メタ)アクリル系高分子弾性体と可塑剤とを含む分散液を付与して乾燥するようにして付与してもよい。
【0060】
また、布帛が、海島型複合繊維から製造される極細繊維の不織布である場合には、海島型複合繊維を極細化する前に微粒子とポリウレタンと(メタ)アクリル系高分子弾性体を付与し、極細化した後に、可塑剤を含む水分散液を付与して乾燥してもよい。このような工程によれば、微粒子と高分子弾性体とが混在一体化してさせて均一に付与されやすい。
【0061】
なお、微粒子が高分子弾性体の内部に存在することが、本発明の効果がとくに顕著に発現しやすい点から好ましい。
【0062】
このようにして本実施形態の人工皮革基材が得られる。人工皮革基材は、必要に応じてスライス処理またはバフィング処理することにより厚さ調整及び平坦化処理されたり、揉み柔軟化処理、空打ち柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理が施されてもよい。
【0063】
また、人工皮革基材の充実感としなやかさとを調整する目的で、人工皮革基材に柔軟加工することも好ましい。柔軟加工の方法は特に限定されない。具体例としては、例えば、人工皮革基材を弾性体シートに密着させてタテ方向(製造ラインのMD)に機械的に収縮させ、その収縮状態で熱処理してヒートセットする方法が好ましい。このような方法によれば、人工皮革基材に、その平坦性を向上させながら柔軟化させることができる。
【0064】
また、人工皮革基材は、必要に応じて、スライス処理やバフィング処理による厚み調整や平坦化処理が施されてもよい。
【0065】
本実施形態の人工皮革基材は、人工皮革基材に銀面層を形成させた銀付調人工皮革の製造に好ましく用いられる。銀面層は単層の樹脂層であっても、表皮層の樹脂層と接着剤層とを含むような複数層からなる積層構造であってもよい。
【0066】
人工皮革基材に銀面層を形成する方法は特に限定されない。具体的には、例えば、乾式造面法やダイレクトコート法により、ポリウレタンや(メタ)アクリル系高分子弾性体等の高分子弾性体を含む銀面調の樹脂層を形成する。乾式造面法は、剥離シート上に銀面調の表皮層を形成するための着色した樹脂を含む塗液を塗布した後、乾燥させることにより被膜を形成し、被膜を人工皮革基材の表面に接着剤層を介して貼りあわせた後、剥離シートを剥離する方法である。また、ダイレクトコート法は、銀面層を形成するための樹脂液を人工皮革基材の表面に直接、ロールコーターやスプレーコーターにより塗布した後、乾燥させることにより銀面層を形成する方法である。ダイレクトコート法によれば、銀面層として薄い銀面調コーティング膜を形成することができる。このような銀面調コーティング膜の厚さとしては、10~1000μm、さらには30~300μmであることが好ましい。
【0067】
このようにして本実施形態の銀付調人工皮革が得られる。本実施形態の銀付調人工皮革の見掛け密度は、0.60~0.85g/cm3、さらには0.65~0.80g/cm3であることが、高い充実感が得られる点から好ましい。また、本実施形態の銀付調人工皮革は、天然皮革のようなしなやかさと高い充実感とを兼ね備えている。具体的には、例えば、ソフトネステスターで測定された剛軟度が銀付調人工皮革の厚み0.5mmの場合では、3.5mm以上、より好ましくは4.0mm以上であり、厚み0.7mmの場合では3.0mm以上、厚み1mmの場合では2.5mm以上であり、厚み1.0mmの場合では3.0mm以上、厚み1.5mmの場合では2.0mm以上であることが好ましい。
【0068】
本実施形態の人工皮革基材を用いることにより、しなやかさと充実感とを兼ね備え、折り曲げたときに丸みを帯びて細かな折れシワを発生させ、また、表面平坦性に優れた銀付調人工皮革が得られる。このような銀付調人工皮革は、靴、鞄、インテリア、壁装、雑貨などの高級感が求められる各種用途に用いられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
〈人工皮革基材の製造〉
海成分として水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(PVA)、島成分として変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ-ト(IPA6-PET)を用いた。口金温度260℃に設定された、海成分中に均一な断面積の島成分が200個分布されるような断面を形成するノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金にPVAとIPA6-PETをそれぞれ供給し、ノズル孔から溶融状態のストランドを吐出させた。このとき、海成分と島成分との質量比が島成分/海成分=70/30となるように圧力調整しながら供給した。
【0071】
そして、溶融状態のストランドを平均紡糸速度が3700m/分となるように吸引装置で吸引して延伸することにより、平均繊度3.3dtexの海島型複合繊維の長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合繊維の長繊維は、可動型のネット上に連続的に堆積された後、表面の毛羽立ちを抑えるために42℃の金属ロールで軽くプレスされた。そして、ネットから剥離させた堆積された海島型複合繊維の長繊維を、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させて、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、目付31g/m2のウェブを得た。
【0072】
得られたウェブをクロスラッパー装置を用いて総目付が330g/m2になるように12層重ね、針折れ防止油剤をスプレーした後、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの1バーブ針を用い、針深度10mmにて両面から交互に3500パンチ/cm2の条件でニードルパンチした。ニードルパンチ処理によるウェブの面積収縮率は68%であった。このようにして、目付600g/m2の絡合ウェブを得た。
【0073】
そして、巻き取りライン速度10m/分で絡合ウェブを70℃、50%RH湿度下に30秒間通して湿熱収縮させた。湿熱収縮処理による絡合ウェブの面積収縮率は47%であった。そして、絡合ウェブに水分散ポリウレタン(エマルジョン)を含浸付与した後、150℃で乾燥させることにより第1の高分子弾性体としてポリウレタンを凝固させた。なお、ポリウレタンエマルジョンは、100%モジュラスが2.5MPa、ガラス転移温度が-25℃の水分散非晶性ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを固形分で21質量%と、硫酸ナトリウム1.5質量%とを含むエマルジョンであった。そして、海成分であるPVAを溶解除去するために、ポリウレタンを付与された絡合ウェブに対して、95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返し行った。そして、120℃で乾燥することにより、平均繊度0.015dtexの極細長繊維を200本含む繊維束が3次元的に交絡した不織布を含む第1の中間体シートを作製した。
【0074】
そして、第1の中間体シートの表面をバフィング処理することにより第2の中間体シートに仕上げた。第2の中間体シートは、極細長繊維85質量%及びポリウレタン15質量%を含み、目付680g/m2、見掛け密度0.60g/cm3のシートであった。
【0075】
次に、第2の中間体シートに第2の高分子弾性体としてアクリル系高分子弾性体とモース硬度3の炭酸カルシウムと可塑剤を付与した。具体的には、炭酸カルシウム(モース硬度3)を30質量%、アクリル系高分子弾性体を10質量%、及び主成分の炭素数が20~50である23℃で液状の脂肪酸エステルを4質量%含む水分散液を調製した。なお、炭酸カルシウムは平均粒子径2.5μmであった。また、アクリル系高分子弾性体は、100%モジュラス0.8MPa、ガラス転移温度-17℃であった。
【0076】
そして、第2の中間体シートに対して100%のピックアップ率になるように水分散液を含浸させ、さらに、120℃で水分を乾燥させて人工皮革基材を得た。人工皮革基材は、不織布59質量%、ポリウレタン10.5質量%、アクリル系高分子弾性体7質量%、炭酸カルシウム21質量%、脂肪酸エステル2.5質量%を含んでいた。
【0077】
そして、人工皮革基材に、タテ方向(長さ方向)に5.0%収縮させる収縮加工処理が施された。収縮加工処理は、収縮部のドラム温度120℃、ヒートセット部のドラム温度120℃、搬送速度10m/分に設定した収縮加工装置(小松原鉄工(株)製、サンフォライジング機)を用いて実施した。収縮処理後の人工皮革基材は、厚さ1.4mm、目付1035g/m2、見掛け密度0.74g/cm3であった。また、収縮処理後の人工皮革基材における各成分の見掛け密度は、布帛である極細長繊維の不織布0.44g/cm3、ポリウレタン0.08g/cm3、アクリル系高分子弾性体0.05g/cm3、炭酸カルシウム0.16g/cm3、脂肪酸エステル0.019g/cm3であった。また、アクリル系高分子弾性体と炭酸カルシウムの見掛け密度の合計は0.21g/cm3であった。また、炭酸カルシウムと(メタ)アクリル系高分子弾性体の合計に対する(メタ)アクリル系高分子弾性体の割合は25質量%であった。
【0078】
そして、デュロメータ(ショア)C硬度、剛軟度及び厚さを以下の方法により求めた。デュロメータ(ショア)C硬度は63であり、剛軟度は2.8mmであり、厚さは1.4mmであった。そして、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積は247mm2であった。
【0079】
(デュロメータ(ショア)C硬度)
JIS K7312に準拠して測定した。具体的には、デュロメータアスカーゴムC硬度計(高分子計器(株)製)を用いて、銀面層を形成する側の人工皮革基材の表面のデュロメータ(ショア)C硬度を測定した。
【0080】
(剛軟度)
ソフトネステスター(皮革ソフトネス計測装置ST300:英国、MSAエンジニアリングシステム社製)を用いて剛軟度を測定した。具体的には、直径25mmの所定のリングを装置の下部ホルダーにセットした後、下部ホルダーに人工皮革基材をセットした。そして、上部レバーに固定された直径5mmの金属製のピンを人工皮革基材に向けて押し下げた。そして、上部レバーを押し下げて上部レバーがロックしたときの数値を読み取った。なお、数値は侵入深さを表し、数値が大きいほどしなやかであることを表す。
【0081】
(厚さ)
人工皮革基材の厚みは、JIS L1096A法に準拠して測定した。
【0082】
〈銀付調人工皮革の製造〉
収縮処理後の人工皮革基材の表面に銀面調コーティング膜をダイレクトコート法を用いて形成することにより銀付調人工皮革を得た。具体的には、収縮処理後の人工皮革基材の表面にポリウレタン溶液をリバースコーターを用いて塗布し、乾燥することによりアンダーコート層を形成した。アンダーコート層は、水滴3mLを滴下したときの吸水時間が3分間以上になる程度である膜厚10μm程度に調整した。次に、アンダーコート層の表面に、顔料及びポリウレタン、アクリル系高分子弾性体を含む表皮中間層形成用樹脂液を塗布することにより膜厚30μmの表皮中間層を形成した。そして表皮中間層の表面に、膜厚30μmの表皮トップコート層を形成することにより銀付調人工皮革を得た。表皮トップコート層は、岩田カップ(IWATA NK-2 12s)で30cpに調整されたラッカーをスプレー塗布することにより形成された。このようにして厚み1.45mm、目付1075g/m2、見掛け密度0.74g/m2の銀付調人工皮革が得られた。
【0083】
〈銀付調人工皮革の評価〉
得られた銀付調人工皮革の特性を以下のようにして評価した。
【0084】
(折れシワ・風合い)
20×20cmに切りだした銀付調人工皮革のサンプルを調製した。そして、表面を目視したときに中央部を境にして内側に曲げたときの外観や掴んだときの外観を以下の基準で判定した。
A:曲げたときに丸みを帯びたように曲がり、緻密で細かな折れシボが発生した。
B:ゴム的な風合いで反発感が強い、または、著しく充実感の低い風合いであって曲げた時に粗いシボが発生した。
C:風合いが硬く、曲げたときにボキボキとした折れが発生した。
【0085】
(平坦性)
20×20cmに切りだした銀付調人工皮革のサンプルを調製した。そして、銀付表面を観察し、表面凹凸の程度を以下の基準で判定した。
A:凹凸が少なくフラット感に優れ、艶が有って高級感が有る。
B:凹凸が目立ち、高級感に劣る。
【0086】
(見掛け密度)
JIS L1913に準じて、厚さ(mm)および目付(g/cm2)を測定し、これらの値から見掛け密度(g/cm2)を算出した。
【0087】
以上の評価結果を下記表1に示す。
【0088】
【0089】
[実施例2]
海成分としてポリエチレン(PE)、島成分として6-ナイロン(6Ny)を用いた。口金温度260℃に設定された、海成分中に均一な断面積の島成分が200個分布した断面を形成するノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金にPEと6Nyとをそれぞれ供給し、ノズル孔から吐出させた。このとき、海成分と島成分との質量比が島成分/海成分=50/50となるように圧力調整しながら供給した。
【0090】
そして、吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が2.5dtexの海島型複合繊維の長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合繊維の長繊維は、可動型のネット上に連続的に堆積され、42℃の金属ロールで軽く押さえ、表面の毛羽立ちを抑えた。そして、海島型複合繊維の長繊維をネットから剥離し、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させた。このようにして、線圧200N/mmで熱プレスして目付34g/m2の長繊維ウェブを得た。
【0091】
次に、得られたウェブをクロスラッパー装置を用いて総目付が400g/m2になるように12層重ね、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの1バーブ針を用い、針深度10mmにて両面から交互に2500パンチ/cm2でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は75%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は540g/m2であった。絡合ウェブを140℃で熱処理した後、プレスして表面を平滑にして絡合不織布の比重を0.33g/cm3とした。
【0092】
そして、第1の高分子弾性体として、100%モジュラスが8.0MPa、ガラス転移温度が-22℃の固形分15質量%のN-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたポリエーテル/エステル系ポリウレタンと、モース硬度3で平均粒子径2.5μmの炭酸カルシウムを固形分比率で57/43で混合し、絡合不織布へ含浸付与した後、DMFと水の混合液中で凝固させた後、湯洗した。そして、熱トルエンで海島型複合繊維中の海成分であるPEを抽出除去し、140℃で乾燥することにより、繊度0.01dtexの極細長繊維を200本含む繊維束が3次元的に交絡した不織布を含む第1の中間体シートを作製した。
【0093】
そして、第1の中間体シートの表面をバフィング処理することにより第2の中間体シートに仕上げた。そして、第2の中間体シートに、実施例1で用いたものと同様のアクリル系高分子弾性体と可塑剤とを含む水分散液を100%のピックアップ率になるように含浸させ、さらに、120℃で水分を乾燥させ、収縮加工処理することにより、表2に示したような組成の人工皮革基材を得た。
【0094】
そして、実施例1で得られた人工皮革基材に代えて、上記人工皮革基材を用いた以外は同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例3~7]
【0096】
実施例1の各成分の組成を、表1に示したように変更した以外は、実施例1または実施例2と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。なお、実施例5,6は参考例である。
【0097】
[比較例1]
実施例1において、炭酸カルシウムを添加しない以外は同様にして人工皮革基材を得、評価した。また、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
[比較例2]
実施例1において、アクリル系高分子弾性体を添加しない以外は同様にして人工皮革基材を得、評価した。また、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表2に示す。
【0100】
[比較例3]
実施例1において、炭酸カルシウムの代わりにシリカを用い、可塑剤を添加しなかった以外は同様にして、人工皮革基材を得、評価した。また、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表2に示す。
【0101】
[比較例4]
実施例1において、炭酸カルシウムの代わりに、表2に示すアルミナを用い、表2に示す質量比率に変更した以外は同様にして人工皮革基材を得、評価した。また、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表2に示す。
【0102】
[比較例5]
実施例2において、アクリル系高分子弾性体を用いず、炭酸カルシウムを表2に示す質量比率に変更した以外は同様にして人工皮革基材を得、評価した。また、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例6]
実施例1の各成分の組成を、表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
【0104】
剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2である実施例1~7で得られた銀付調人工皮革は、しなやかな風合いを有し充実感に優れ、細かな折れシワを生じさせ、表面凹凸が少なくフラット感に優れ、艶が有って高級感に優れていた。一方、比較例1~4は、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200mm2未満である。モース硬度4以下の微粒子を添加していない比較例1で得られた銀付調人工皮革は、充実感が不足し折れシワや表面平坦性も不良であった。また、アクリル系高分子弾性体を添加していない比較例2で得られた銀付調人工皮革は、充実感、折れシワが不良であった。また、モース硬度が4超のシリカを微粒子として用い、可塑剤を添加していない比較例3は、風合いが硬くボキボキとした粗い折れシワとなった。また、モース硬度が4超で大きい微粒子を用いた比較例4は、風合いが硬くボキボキとした粗い折れシワとなり、表面の平坦性が劣っていた。また、剛軟度とデュロメータショアC硬度と厚さとの積が200~400mm2であっても、アクリル系高分子弾性体を含有せず、微粒子の量も少ない比較例5は、充実感が不足し折れシワや表面平坦性も不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る人工皮革基材は、天然皮革のような、しなやかさと表面平坦性、細かな折れシワ、更には充実感の有る風合いとを兼ね備えた銀付人銀付調人工皮革の製造に用いられる、このような銀付調人工皮革は、靴、鞄、衣料、手袋、インテリア、車輌内装、輸送機内装、建築物内装用途などに好ましく用いられる。