(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220928BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220928BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220928BHJP
C09G 1/02 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2019520288
(86)(22)【出願日】2018-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2018019858
(87)【国際公開番号】W WO2018216733
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017104877
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】百田 怜史
(72)【発明者】
【氏名】浅田 真希
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130965(JP,A)
【文献】特開2008-186898(JP,A)
【文献】国際公開第2014/126051(WO,A1)
【文献】特開2015-067773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、塩基性化合物と、研磨対象物の表面を保護する作用を有する水溶性高分子Aと、増粘作用を有する水溶性高分子Bと、水と、を含み、
前記水溶性高分子Bの重量平均分子量が50,000以上
1,100,000以下であり、
標準試験1から得られる前記水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1が40%以下であり、
標準試験2から得られる前記水溶性高分子Bの基板吸着パラメータ2が20%以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子Bが、ポリアクリル酸を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子Aが、セルロース誘導体を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
酸化剤を実質的に含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
キレート剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
有機酸および有機酸塩の少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記研磨用組成物のpHは、8以上12以下の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記研磨対象物が単結晶シリコン基板である、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物およびこれを用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半導体、またはこれらの合金;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体ウェーハ材料等は、平坦化などの各種要求により研磨がなされ、各種分野で応用されている。
【0003】
中でも、集積回路等の半導体素子を作るために、高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面を持つミラーウェーハを作るため、シリコンウェーハを研磨する技術については様々な研究がなされている。
【0004】
研磨では、ウェーハ表面を高精度な鏡面に仕上げ、かつヘイズの少ないものとするため、砥粒(たとえば、コロイダルシリカなどのコロイド状の粒子)を含有する研磨用組成物が用いられる。たとえば、特開2004-128070号公報(米国特許出願公開第2004/0127047号明細書に対応)では、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子化合物、および水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径およびレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が特定の範囲であるコロイダルシリカ、あるいは前記平均一次粒子径および前記平均二次粒子径が特定の範囲であるヒュームドシリカである研磨用組成物が提案されている。
【0005】
また、特開2011-61089号公報では、研磨材と、ヒドロキシエチルセルロースと、塩基性化合物とを含有し、前記ヒドロキシエチルセルロースは、重量平均分子量が30万~300万のヒドロキシエチルセルロースを加水分解することにより調製されたヒドロキシエチルセルロースである研磨液組成物が提案されている。
【発明の概要】
【0006】
最近、シリコンウェーハ等の研磨に適用される研磨用組成物について、砥粒の分散性や研磨レート、およびヘイズの低減といった性能を維持しつつ、ウェーハ表面の加工均一性を高めるために増粘化させるという新たな要求が高まっている。しかしながら、この新たな要求に対しては、これまで十分な知見がないというのが現状であった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減などの性能を維持しつつ、増粘化された研磨用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、かような研磨用組成物を用いた研磨方法の提供もまた目的とする。
【0008】
上記課題は、砥粒と、塩基性化合物と、研磨対象物の表面を保護する作用を有する水溶性高分子Aと、増粘作用を有する水溶性高分子Bと、水と、を含み、前記水溶性高分子Bの重量平均分子量が50,000以上であり、標準試験1から得られる前記水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1が40%以下であり、標準試験2から得られる前記水溶性高分子Bの基板吸着パラメータ2が20%以下である、研磨用組成物によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0010】
〔研磨用組成物〕
本発明の一形態は、砥粒と、塩基性化合物と、研磨対象物の表面を保護する作用を有する水溶性高分子Aと、増粘作用を有する水溶性高分子Bと、水と、を含み、前記水溶性高分子Bの重量平均分子量が50,000以上であり、標準試験1から得られる前記水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1が40%以下であり、標準試験2から得られる前記水溶性高分子Bの基板吸着パラメータ2が20%以下である、研磨用組成物である。
【0011】
本発明者らは、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減などの性能を維持しながら、研磨用組成物を増粘化させる検討を行った。その過程で、特開2004-128070号公報(米国特許出願公開第2004/0127047号明細書に対応)および特開2011-61089号公報に記載の研磨用組成物に含まれるヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子の添加量を単純に増やす検討を行ったところ、増粘化は一応達成されるものの、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減等の研磨用組成物に本来求められる性能が低下してしまうことを知見した。
【0012】
このような検討結果に基づいて、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、驚くべきことに、研磨対象物の表面を保護する作用を有する水溶性高分子Aと、重量平均分子量が5万以上であり、標準試験1から得られる砥粒吸着パラメータ1が40%以下であり、かつ標準試験2から得られる基板吸着パラメータ2が20%以下である、増粘作用を有する水溶性高分子Bとを併用することにより、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減などの性能を維持しつつ、増粘化された研磨用組成物が得られることを見出した。
【0013】
本発明の研磨用組成物により上記効果が得られる作用機序は不明であるが、以下のように考えられる。すなわち、本発明に係る研磨用組成物に含まれる水溶性高分子Aは、研磨対象物の表面を保護する作用を有する。かような水溶性高分子Aは、研磨対象物の表面に水溶性高分子膜を形成するため、研磨対象物のヘイズを低減することができる。また、本発明に係る研磨用組成物に含まれる水溶性高分子Bは、重量平均分子量が50,000以上であることから、研磨用組成物を増粘させる作用を有する。また、水溶性高分子Bは、標準試験1により得られる砥粒吸着パラメータ1および標準試験2により得られる基板吸着パラメータ2が、特定の値以下であるため、砥粒に過度に吸着することがなく、研磨用組成物中での砥粒の分散性を良好に維持でき、さらに研磨対象物の表面にも過度に吸着することがなく、研磨用組成物による研磨レートを良好に維持することができる。かような水溶性高分子Aと水溶性高分子Bとを併用した本発明に係る研磨用組成物は、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減などの性能を維持しつつ、増粘化が達成される。
【0014】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0015】
以下、本発明に係る研磨用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0016】
<砥粒>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒を必須に含む。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。
【0017】
砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。特に好ましい砥粒としてシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子としてはコロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。
【0019】
シリカ粒子の中でも、コロイダルシリカおよびフュームドシリカが好ましく、コロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカまたはフュームドシリカを使用した場合、特にコロイダルシリカを使用した場合には、研磨工程においてシリコンウェーハの表面に発生するスクラッチが減少する。
【0020】
ここで、好ましい研磨対象物であるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程とポリシング工程とを経て高品質な鏡面に仕上げられる。そして、上記ポリシング工程は、通常、予備研磨工程(予備ポリシング工程)と仕上げ研磨工程(ファイナルポリシング工程)とを含む複数の研磨工程により構成されている。たとえば、シリコンウェーハを大まかに研磨する段階(たとえば、予備研磨工程)では加工力(研磨力)の高い研磨用組成物が使用され、より繊細に研磨する段階(たとえば、仕上げ研磨工程)では研磨力の低い研磨用組成物が使用される傾向にある。このように、使用される研磨用組成物は、研磨工程ごとに求められる研磨特性が異なるため、研磨用組成物に含まれる各成分の含有量もまた、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、異なったものが採用されうる。
【0021】
上記のように、研磨用組成物に含まれる砥粒においても、その含有量や粒子径は、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、それぞれ異なったものが採用されうる。
【0022】
砥粒の含有量の増加によって、研磨対象物の表面に対する研磨レートが向上する。一方、砥粒の含有量の減少によって、研磨用組成物の分散安定性が向上し、かつ、研磨された面の砥粒の残渣が低減する傾向となる。
【0023】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の含有量は、特に制限されないが、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以下であることが最も好ましい。
【0024】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の含有量は、特に制限されないが、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0025】
また、砥粒の粒子径の増大によって、研磨対象物の表面を機械的に研磨しやすくなり、研磨レートが向上する。一方、砥粒の粒子径の減少によって、ヘイズが低減しやすくなる。
【0026】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、5nm以上が好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがさらにより好ましい。また、予備研磨工程に用いられる砥粒の平均一次粒子径は、100nm以下が好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、5nm以上が好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均一次粒子径は、60nm以下が好ましく、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましい。また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、250nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。
【0029】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることが特に好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
一般に、水溶性高分子および砥粒を含有する研磨用組成物中では、水溶性高分子によって媒介された砥粒の凝集体が形成され易い。そのため、水溶性高分子および砥粒を含有する研磨用組成物では、水溶性高分子を含有しない研磨用組成物と比べ、研磨用組成物中に存在する粒子の平均粒子径が大きくなる傾向にある。本明細書において「研磨用組成物中に存在する粒子」とは、水溶性高分子によって媒介された砥粒の凝集体だけでなく、凝集体を形成していない砥粒も包含する用語として用いられる。
【0031】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中に存在する粒子の平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましい。また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中に存在する粒子の平均二次粒子径は、250nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中に存在する粒子の平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることが特に好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中に存在する粒子の平均二次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、たとえば、BET法により測定される比表面積から算出される。砥粒の比表面積の測定は、たとえば、マイクロメリティックス社製の「Flow SorbII 2300」を用いて行うことができる。また、砥粒および研磨用組成物中に存在する粒子の平均二次粒子径は、たとえば動的光散乱法により測定され、たとえば日機装株式会社製の「ナノトラック(登録商標)UPA-UT151」を用いて測定することができる。
【0034】
<塩基性化合物>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、塩基性化合物を必須に含む。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象物の面をエッチングにより化学的に研磨する働き、および砥粒の分散安定性を向上させる働きを有する。また、塩基性化合物は、pH調整剤として用いることができる。
【0035】
塩基性化合物の具体例としては、第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩、第四級アンモニウム化合物、アンモニアまたはその塩、アミンなどが挙げられる。
【0036】
第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩において、第2族元素としては、特に制限されないが、アルカリ土類金属を好ましく用いることができ、たとえば、カルシウムが挙げられる。また、アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩としては、たとえば、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどの水酸化物、塩化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、およびリン酸塩などの塩が挙げられる。具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム;炭酸テトラメチルアンモニウム、炭酸テトラエチルアンモニウム、炭酸テトラブチルアンモニウムなどの炭酸テトラアルキルアンモニウム;塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウムなどの塩化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
【0038】
他のアンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
【0039】
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジンなどが挙げられる。
【0040】
ここで、塩基性化合物は、その期待される機能に応じて好ましい化合物を選択することができる。
【0041】
ここで、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における塩基性化合物としては、研磨レート向上の観点から、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化第四級アンモニウム化合物、アンモニアを用いることが好ましい。また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における塩基性化合物としては、研磨レート向上の観点から、炭酸塩または炭酸水素塩などを含むことが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムなどを含むことが好適である。取り扱いのしやすさという観点から、水酸化第四級アンモニウム化合物およびアンモニアがさらに好ましく、アンモニアが最も好ましい。
【0042】
また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における塩基性化合物としては、研磨後の研磨対象物に付着して残らないという観点から、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属を含まないものが好まれる。よって、塩基性化合物としては、たとえば、水酸化第四級アンモニウム化合物、アミン、アンモニアであることが好ましく、取り扱いのしやすさという観点から、水酸化第四級アンモニウム化合物およびアンモニアがさらに好ましく、アンモニアが最も好ましい。
【0043】
研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.003質量%以上であることがより好ましい。塩基性化合物の含有量を増加させることによって、高い研磨レートが得られ易くなる。他方で、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。塩基性化合物の含有量を減少させることによって、ヘイズが低減されやすくなる。
【0044】
なお、仕上げ研磨工程に近づくにつれて、塩基性化合物の含有量を段階的に少なくしていくとよい。好ましい実施形態は、予備研磨用組成物の塩基性化合物の含有量が最も多い形態であり、その含有量は仕上げ研磨用組成物における塩基性化合物の含有量の2倍以上20倍以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
<水溶性高分子A>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、研磨対象物の表面を保護する作用を有する水溶性高分子Aを必須に含む。水溶性高分子Aは、研磨対象物の表面に水溶性高分子膜を形成するため、研磨対象物のヘイズを低減することができる。
【0046】
水溶性高分子Aとしては、分子中に、カチオン基、アニオン基およびノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。具体的な水溶性高分子Aとしては、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造などを含むものが挙げられる。凝集物の低減や洗浄性向上などの観点から、ノニオン性の水溶性高分子を好ましく採用し得る。好適例として、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー(含窒素水溶性高分子)、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、デンプン誘導体などが例示される。
【0047】
水溶性高分子Aは、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ポリビニルアルコール、およびセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、窒素原子を含有するポリマーおよびセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0048】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、EOとPOとのランダム共重合体などが挙げられる。EOとPOとのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体などであり得る。上記トリブロック体には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。通常は、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性などの観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(たとえば5以上)であることがさらに好ましい。
【0049】
窒素原子を含有するポリマーとしては、モノマー単位中に窒素原子を1個以上有するもの、または側鎖の一部に窒素原子を1個以上有するものであれば特に限定されない。窒素原子を含有するポリマーの形成に用いられるモノマーとしては、たとえば、アミン、イミン、アミド、イミド、カルボジイミド、ヒドラジド、ウレタンなどが挙げられ、その構造は、鎖状、環状、1級、2級、3級のいずれであってもよい。また、窒素原子がカチオンの一部となる塩の構造を有する含窒素水溶性高分子であってもよい。また、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。塩の構造を有する含窒素水溶性高分子としては、たとえば、第四級アンモニウム塩が挙げられる。また、含窒素水溶性高分子としては、たとえば、水溶性ナイロンなどの重縮合系ポリアミド、水溶性ポリエステルなどの重縮合系ポリエステル、重付加系ポリアミン、重付加系ポリイミン、重付加系(メタ)アクリルアミド、アルキル主鎖の少なくとも一部に窒素原子を有する水溶性高分子、側鎖の少なくとも一部に窒素原子を有する水溶性高分子などが挙げられる。なお、側鎖に窒素原子を有する水溶性高分子は、側鎖に第四級窒素を有する水溶性高分子も含む。重付加系の含窒素水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン、ポリN-ビニルホルムアミド、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルピペリジンなどが挙げられる。また、含窒素水溶性高分子は、ビニルアルコール構造、メタクリル酸構造、ビニルスルホン酸構造、ビニルアルコールカルボン酸エステル構造、オキシアルキレン構造などの親水性を有する構造を部分的に有するものであってもよい。また、これらのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型といった複数種の構造を有する重合体であってもよい。含窒素水溶性高分子は、分子中の一部または全部にカチオンを持つもの、アニオンを持つもの、アニオンとカチオンとの両方を持つもの、ノニオンを持つもの、等のいずれであってもよい。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、たとえばN-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体、N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの単独重合体および共重合体、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの単独重合体および共重合体、N-アルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの単独重合体および共重合体、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド型のモノマーの単独重合体および共重合体、N-ビニル型モノマーの単独重合体および共重合体等が挙げられる。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの具体例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン等が挙げられる。N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの具体例としては、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの具体例としては、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N-アルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの具体例としては、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド型モノマーの具体例としては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N-ビニル型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0050】
ポリビニルアルコールについて、ケン化度は特に限定されない。また、ポリビニルアルコールとして、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基を有するカチオン化ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン化ポリビニルアルコールとしては、たとえば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するものが挙げられる。
【0051】
「セルロース誘導体」とは、セルロースの持つ水酸基の一部が他の異なった置換基に置換されたものをいう。セルロース誘導体としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体およびプルランが挙げられる。
【0052】
デンプン誘導体としては、アルファ化デンプン、プルラン、シクロデキストリンなどが挙げられる。なかでもプルランが好ましい。
【0053】
上記水溶性高分子Aは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記水溶性高分子Aの中でも、研磨対象物のヘイズをより低減しやすいという観点からは、水溶性高分子Aは、セルロース誘導体を含んでいると好ましい。水溶性高分子Aとしてセルロース誘導体を用いると、他の水溶性高分子を用いた場合と比較して、研磨対象物(特にシリコンウェーハ)表面においてより水溶性高分子膜が形成されやすく、ヘイズの低減効果がより向上する。さらに、セルロース誘導体の中でも研磨対象物表面において水溶性高分子膜が形成されやすく、ヘイズ低減効果が高いという観点から、ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0055】
水溶性高分子Aの重量平均分子量は、研磨レートの向上とヘイズを低減させるという観点から、ポリエチレンオキサイド換算で2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の水溶性高分子Aの重量平均分子量は10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましい。また、水溶性高分子Aの重量平均分子量が上記範囲内であると、研磨用組成物の分散安定性や、研磨対象物をシリコンウェーハ(シリコン基板)としたとき、シリコンウェーハの洗浄性の観点からも好ましい。なお、水溶性高分子Aの重量平均分子量は、GPC法(水系、ポリエチレンオキサイド換算)により測定された値を採用することができる。
【0056】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子Aの含有量は、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、それぞれ異なったものが採用されうる。
【0057】
水溶性高分子Aの含有量の増加によって、研磨対象物表面での水溶性高分子膜形成が促進され、ヘイズを低減することができる。一方、水溶性高分子Aの含有量の減少によって、研磨レートが向上する。
【0058】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中の水溶性高分子Aの含有量(二種以上用いる場合はその合計量)としては、研磨面の濡れ性を向上させ、また、ヘイズをより低減させる観点から、1×10-6質量%以上であることが好ましく、5×10-5質量%以上であることがより好ましく、1×10-4質量%以上であることがさらに好ましい。他方で、研磨レートを向上させる観点から、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることがさらにより好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中の水溶性高分子Aの含有量(二種以上用いる場合はその合計量)としては、研磨面の濡れ性を向上させ、また、ヘイズをより低減させる観点から、1×10-4質量%以上であることが好ましく、1×10-3質量%以上であることがより好ましく、2×10-3質量%以上であることがさらに好ましい。他方で、研磨レートを向上させる観点から、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
上記のうち、特に、研磨用組成物中の水溶性高分子Aとして、セルロース誘導体(たとえばヒドロキシエチルセルロース)を用いる場合、ポリビニルピロリドンと併用してもよい。
【0061】
<水溶性高分子B>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、増粘作用を有する水溶性高分子Bを必須に含む。本発明に係る水溶性高分子Bは、重量平均分子量が50,000以上であることから、研磨用組成物を増粘させる作用を有する。また、水溶性高分子Bは、標準試験1により得られる砥粒吸着パラメータ1が40%以下であるため、砥粒に過度に吸着することがなく、研磨用組成物中での砥粒の分散性を良好に維持できる。さらに、水溶性高分子Bは、標準試験2により得られる基板吸着パラメータ2が20%以下であるため、研磨対象物の表面に過度に吸着することがなく、研磨用組成物による研磨レートを良好に維持することができる。上記の水溶性高分子Aと当該水溶性高分子Bとを併用した本発明に係る研磨用組成物は、砥粒の分散性、研磨レート、およびヘイズの低減などの性能を維持しつつ、増粘化が達成される。
【0062】
水溶性高分子Bの重量平均分子量は、50,000以上である。水溶性高分子Bの重量平均分子量が50,000未満である場合、砥粒の分散性などの性能を維持しつつ研磨用組成物を増粘させる作用が得られない。水溶性高分子Bの重量平均分子量は、100,000以上であることが好ましく、200,000以上であることがより好ましい。また、水溶性高分子Bの重量平均分子量は、研磨用組成物の保存安定性の観点から、7,000,000以下であることが好ましく、5,000,000以下であることがより好ましく、3,000,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることが特に好ましい。
【0063】
なお、水溶性高分子Bの重量平均分子量は、GPC法(水系、ポリエチレンオキサイド換算)により測定された値を採用することができる。
【0064】
水溶性高分子Bは、標準試験1により得られる砥粒吸着パラメータ1が40%以下である。ここで、「砥粒吸着パラメータ1」とは、水溶性高分子Bの砥粒への吸着のしやすさを表しており、砥粒吸着パラメータ1が40%以下であることにより、水溶性高分子Bの砥粒への吸着が起こりにくく、研磨用組成物中での砥粒の分散性が向上する。砥粒吸着パラメータ1が40%を超える場合、水溶性高分子Bの砥粒への吸着がより起こりやすく、研磨用組成物中の砥粒の分散性が低下する。砥粒吸着パラメータ1は、40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒吸着パラメータ1の下限値は、通常0%である。
【0065】
砥粒吸着パラメータ1は、下記に示す方法で標準試験1を行い下記式1により算出することができる。
【0066】
・標準試験1:砥粒吸着パラメータ1の算出
下記標準液を作製し、この標準液を下記の遠心分離条件で遠心分離し、上澄み液を回収する。
【0067】
≪標準液の組成≫
砥粒の濃度が0.46質量%、アンモニアの濃度が0.009質量%、および水溶性高分子Bの濃度が0.017質量%である水分散液
≪遠心分離条件≫
遠心分離機:ベックマン・コールター株式会社製、Avanti(登録商標) HP-30I
回転数:20000rpm
遠心分離時間:30min
標準液および上澄み液の全有機炭素濃度(TOC)を、下記測定装置を用いて測定し、標準液の測定値をC1とし、上澄み液の測定値をC2として、下記式1により、砥粒吸着パラメータ1を算出する:
TOC測定装置:株式会社島津製作所製、TOC-5000A。
【0068】
【0069】
また、水溶性高分子Bは、標準試験2により得られる基板吸着パラメータ2が20%以下である。ここで、「基板吸着パラメータ2」とは、水溶性高分子Bの研磨対象物への吸着のしやすさを表しており、基板吸着パラメータ2が20%以下であることにより、水溶性高分子Bが研磨対象物に対して吸着しにくくなり、研磨用組成物による研磨レートが向上する。基板吸着パラメータ2が20%を超える場合、水溶性高分子Bの研磨対象物への吸着がより起こりやすく、研磨用組成物による研磨レートが低下する。基板吸着パラメータ2は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。なお、基板吸着パラメータ2の下限値は、通常0%である。
【0070】
基板吸着パラメータ2は、下記に示す方法で標準試験2を行い下記式2により算出することができる。
【0071】
・標準試験2:基板吸着パラメータ2の算出
下記2種の標準液を作製する:
リファレンス標準液:アンモニア 1.3質量%の水溶液
評価用標準液:アンモニアの含有量が1.3質量%であり、水溶性高分子Bの含有量が0.18質量%である水溶液。
【0072】
実施例に記載の<シリコンウェーハ前処理>の方法で前処理した単結晶シリコン基板を、60mm×30mmのチップ型に切断し評価用基板を作製する。この評価用基板の重量をW0とする。また、当該評価用基板を、約5質量%のHF(フッ化水素)水溶液に30秒間浸漬した後(自然酸化膜除去)、脱イオン水でリンスする。このようにして酸化膜処理した評価用基板を、25℃にて評価用標準液に12時間浸漬した後、脱イオン水でリンスし乾燥させ重量測定する。この重量をW1とする。浸漬前後の重量差(W0-W1)とシリコンの比重とから、エッチングレート(E.R.)を算出する。別途、上記と同様の方法で、リファレンス標準液を用いて求めたエッチングレートをαとし、下記式2により、基板吸着パラメータ2を算出する。
【0073】
【0074】
上記のような性状を示す水溶性高分子Bの具体的な種類としては、ポリアクリル酸、またはその塩等が挙げられる。水溶性高分子Bは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
中でも、研磨用組成物の保存安定性の観点から、水溶性高分子Bはポリアクリル酸を含むことがより好ましい。
【0076】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子Bの含有量は、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、それぞれ異なったものが採用されうる。
【0077】
水溶性高分子Bの含有量の増加によって、増粘することができる。一方、水溶性高分子Bの含有量の減少によって、研磨用組成物の保存安定性が向上できる。
【0078】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における水溶性高分子Bの含有量は、特に制限されないが、1×10-6質量%以上であることが好ましく、5×10-5質量%以上であることがより好ましく、0.0001質量%以上であることがさらに好ましい。また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における水溶性高分子Bの含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることがさらにより好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましい。
【0079】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における水溶性高分子Bの含有量は、特に制限されないが、1×10-6質量%以上であることが好ましく、5×10-5質量%以上であることがより好ましく、0.0001質量%以上であることがさらに好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における水溶性高分子Bの含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることがさらにより好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましい。
【0080】
<水>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、水を必須に含む。水は、他の成分を溶解させる溶媒または分散させる分散媒としての働きを有する。
【0081】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。たとえば、遷移金属イオンの合計含有量が100質量ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、たとえば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、たとえば、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0082】
<他の成分>
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、水溶性高分子A、水溶性高分子Bおよび水以外に、必要に応じて他の成分を含有してもよい。しかし、一方で、本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が研磨対象物(たとえばシリコンウェーハ)に供給されることにより、該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が形成され、これにより研磨レートが低下しうる。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(たとえば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含されうる。
【0083】
研磨用組成物に含まれうる他の成分としては、たとえば、キレート剤、防腐剤・防カビ剤、界面活性剤、その他公知の添加剤(たとえば、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
(キレート剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、キレート剤を含有していてもよい。キレート剤は、研磨用組成物中に元々含まれている金属不純物や研磨中に研磨対象物や研磨装置から生じる、あるいは外部から混入する金属不純物を捕捉して錯体を形成することで、研磨対象物への金属不純物の残留を抑制する。特に、研磨対象物が半導体の場合、金属不純物の残留を抑制することで半導体の金属汚染を防止し、半導体の品質低下を抑制する。
【0085】
キレート剤としては、たとえば、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。
【0086】
アミノカルボン酸系キレート剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0087】
有機ホスホン酸系キレート剤の具体例としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリエチレンテトラミンヘキサ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1,-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸などが挙げられる。
【0088】
これらのキレート剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
キレート剤の中でも、有機ホスホン酸系キレートが好ましく、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)がより好ましい。
【0090】
研磨用組成物中のキレート剤の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましい。キレート剤の含有量を増加させることによって、研磨対象物に残留する金属不純物を抑制する効果が高まる。また、研磨用組成物中のキレート剤の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は0.5質量%未満であることが好ましく、0.3質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることがさらに好ましく、0.05質量%未満であることが最も好ましい。キレート剤の含有量を減少させることによって、研磨用組成物の保存安定性がより保たれる。
【0091】
(防腐剤・防カビ剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、防腐剤・防カビ剤をさらに含んでいてもよい。
【0092】
防腐剤および防カビ剤としては、たとえば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0093】
これら防腐剤および防カビ剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
(界面活性剤)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0095】
アニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0096】
カチオン性界面活性剤の例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、およびアルキルアミン塩等が挙げられる。
【0097】
両性界面活性剤の例としては、アルキルベタインおよびアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0098】
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミドが含まれる。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型トリブロック体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック体)、EOとPOとのランダム共重合体、およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。かような界面活性剤は、ヘイズの低減や洗浄性を向上させたりする目的で添加されうる。
【0099】
研磨用組成物中における界面活性剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、研磨レート向上の観点から、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましい。界面活性剤の重量平均分子量の増大によって、研磨レートが向上する。
【0100】
界面活性剤の重量平均分子量は、ヘイズを低減する観点から、10000未満であることが好ましく、9500以下であることがより好ましい。
【0101】
これら界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
(その他公知の添加剤)
研磨用組成物は、必要に応じて研磨用組成物に一般に含有されている公知の添加剤、たとえば有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩等をさらに含有してもよい。
【0103】
有機酸としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸等のジカルボン酸、クエン酸等のポリカルボン酸、有機スルホン酸、および有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩としては、たとえば、有機酸のナトリウム塩およびカリウム塩等のアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0104】
無機酸としては、たとえば、硫酸、硝酸、塩酸、および炭酸等が挙げられる。無機酸塩としては、無機酸のナトリウム塩およびカリウム塩等のアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0105】
有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
研磨用組成物中の有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は0.00005質量%以上であることが好ましく、0.0001質量%以上であることがより好ましく、0.0005質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は0.5質量%未満であることが好ましく、0.3質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることがさらに好ましく、0.05質量%未満であることが最も好ましい。
【0107】
〔研磨用組成物の形態等〕
本発明に係る研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤以上から構成する多剤型であってもよい。また、上記で説明した研磨用組成物は、そのまま研磨に使用されてもよいし、研磨用組成物の濃縮液に水を加えて希釈する、あるいは多剤型の研磨用組成物の場合は水と構成成分の一部を含有する水溶液とを加えて希釈する、などの調製方法により調製して研磨に使用してもよい。たとえば、研磨用組成物の濃縮液を保管および/または輸送した後に、使用時に希釈して研磨用組成物を調製することができる。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。
【0108】
濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、たとえば、体積換算で2倍以上100倍以下程度とすることができ、5倍以上50倍以下程度であることが好ましい。より好ましい一態様に係る研磨用組成物の濃縮倍率は、10倍以上40倍以下である。
【0109】
本発明に係る研磨用組成物は、アルカリ性であると好ましく、そのpHは、8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましく、9.5以上であることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。一方、pHは、12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、10.8以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHが低くなると、表面の精度が向上する傾向にある。
【0110】
以上より、本発明に係る研磨用組成物のpHは、8以上12以下の範囲であることが好ましく、9以上11以下の範囲であることがより好ましく、9.5以上10.8以下の範囲であることが特に好ましい。特に、研磨対象物がシリコンウェーハである場合、研磨用組成物のpHは、上記範囲であると好ましい。
【0111】
研磨用組成物は、これを再使用する際に、必要に応じてpHが上記範囲になるように調整してもよい。pHの調整には、公知のpH調整剤を用いてもよいし、上記塩基性化合物を用いてもよい。研磨用組成物のpHの値は、pHメーターにより確認することができる。なお、詳細な測定方法は実施例に記載する。
【0112】
〔研磨対象物〕
本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いて研磨する研磨対象物は、特に制限されず、種々の材料および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材料としては、たとえば、シリコン材料、アルミニウム、ニッケル、タングステン、鋼、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケー卜ガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等が挙げられる。また、研磨対象物は、上記材料のうち、複数の材料により構成されていてもよい。
【0113】
これらの中でも、本発明に係る研磨用組成物の効果がより顕著に得られることから、シリコン材料であることが好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る研磨用組成物が、シリコン材料の研磨に用いられることが好ましい。
【0114】
また、シリコン材料は、シリコン単結晶、アモルファスシリコンおよびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含むことが好ましい。シリコン材料としては、本発明の効果をより顕著に得ることができるとの観点から、シリコン単結晶またはポリシリコンであることがより好ましく、シリコン単結晶であることが特に好ましい。すなわち、研磨対象物は、単結晶シリコン基板であると好ましい。
【0115】
さらに、研磨対象物の形状は特に制限されない。本発明に係る研磨用組成物は、たとえば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨に好ましく適用され得る。
【0116】
〔研磨方法〕
本発明のその他の形態としては、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法が提供される。本発明に係る研磨用組成物は、ヘイズの低減効果に優れるため、仕上げ研磨工程において特に好適に用いられる。すなわち、本発明に係る研磨方法は、仕上げ研磨工程において好適に用いられる。したがって、本発明によれば、上記研磨用組成物を用いた仕上げ研磨工程を含む研磨物の製造方法(たとえば、シリコンウェーハの製造方法)もまた提供される。なお、仕上げ研磨工程とは、目的物の製造プロセスにおける最後の研磨工程(すなわち、その工程の後にはさらなる研磨を行わない工程)を指す。本発明に係る研磨用組成物は、また、仕上げ研磨工程よりも上流の研磨工程(粗研磨工程と最終研磨工程との間の工程を指す)、たとえば仕上げ研磨工程の直前に行われる研磨工程に用いられてもよい。
【0117】
本発明に係る研磨用組成物は、上述のように、単結晶シリコン基板の研磨に特に好ましく使用される。特に、本発明に係る研磨用組成物は、単結晶シリコン基板の仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物として好適である。より具体的には、本発明に係る研磨用組成物は、仕上げ研磨工程よりも上流の工程によって、表面粗さが0.01nm以上100nm以下の表面状態に調製された単結晶シリコン基板の研磨へ適用されると好適である。
【0118】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を用いることができる。
【0119】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布タイプ、ポリウレタンタイプ、スウェードタイプ等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0120】
研磨条件は、研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、適宜設定される。
【0121】
予備研磨工程では、定盤の回転速度は、10rpm以上100rpm以下程度であることが好ましく、20rpm以上50rpm以下程度であることがより好ましい。この際、上部回転定盤と下部回転定盤との回転速度は別であってもよいが、通常はウェーハに対して同じ相対速度に設定される。また、仕上げ研磨工程では、片面研磨装置が好適に使用でき、定盤の回転速度は、10rpm以上100rpm以下程度であることが好ましく、20rpm以上50rpm以下程度であることがより好ましく、25rpm以上50rpm以下程度であることがさらに好ましい。このような回転速度であると、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することができる。
【0122】
研磨対象物は、通常、定盤により加圧されている。この際の圧力は、適宜選択することができるが、予備研磨工程では、5kPa以上30kPa以下程度であることが好ましく、10kPa以上25kPa以下程度であることがより好ましい。また、仕上げ研磨工程の場合、5kPa以上30kPa以下程度であることが好ましく、10kPa以上20kPa以下程度であることがより好ましい。このような圧力であると、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することができる。
【0123】
研磨用組成物の供給速度も定盤のサイズに応じて適宜選択することができるが、経済性を考慮すると、予備研磨工程の場合、通常0.1L/分以上5L/分以下程度であることが好ましく、0.2L/分以上2L/分以下程度であることがより好ましい。また、仕上げ研磨工程の場合、通常0.1L/分以上5L/分以下程度であることが好ましく、0.2L/分以上2L/分以下程度であることがより好ましい。かような供給速度により、研磨対象物の表面を効率よく研磨し、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することがでる。
【0124】
研磨用組成物の研磨装置における保持温度としても特に制限はないが、研磨レートの安定性、ヘイズレベルの低減といった観点から、いずれも通常15℃以上40℃以下程度が好ましく、18℃以上25℃以下程度がより好ましい。
【0125】
上記の研磨条件(研磨装置の設定)に関しては単に一例を述べただけであり、上記の範囲を外れてもよいし、適宜設定を変更することもできる。このような条件は当業者であれば適宜設定可能である。
【0126】
さらに、研磨後に洗浄・乾燥を行うことが好ましい。これら操作の方法や条件は特に制限されず、公知のものが適宜採用される。たとえば、研磨対象物を洗浄する工程として、SC-1洗浄を行うと好ましい。「SC-1洗浄」とは、たとえばアンモニアと過酸化水素水との混合液(たとえば40℃以上80℃以下)を用いて行う洗浄方法である。SC-1洗浄を行い、たとえばシリコンウェーハの表面を薄くエッチングすることにより、このシリコンウェーハ表面のパーティクルを除去することができる。
【実施例】
【0127】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0128】
[実施例1~5および比較例1~7]
(1)研磨用組成物の調製
下記表2に示される組成となるように、以下の材料を脱イオン水中で混合することにより、pHが10.4である実施例1~5および比較例1~7の研磨用組成物をそれぞれ調製した(混合温度:約20℃、混合時間:約5分)。なお、研磨用組成物(液温:20℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 商品名:LAQUA(登録商標))により確認した。このとき、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に挿入し、2分以上経過し、安定した後の値を測定した。
【0129】
・砥粒(コロイダルシリカ、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:60nm)
・塩基性化合物(アンモニア水(29質量%))
・水溶性高分子A
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(重量平均分子量:500,000)
・水溶性高分子B
PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量:1,100,000、100,000、200,000)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(重量平均分子量:500,000)
PEO-PPO-PEO:PEO-PPO-PEO型トリブロック体
(重量平均分子量:9,000)
PEO-PPOランダム:EOとPOとのランダム共重合体
(重量平均分子量:1,000,000)
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量:100,000)
・キレート剤
EDTPO:エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)
・有機酸塩(クエン酸三アンモニウム)。
【0130】
さらに、砥粒の平均一次粒子径は、表面積測定装置(マイクロメリティックス社製 商品名:Flow Sorb II 2300)を用いて測定された値である。
【0131】
(2)評価
<シリコンウェーハ前処理>
単結晶シリコン基板(直径:200mmまたは300mm、p型、結晶方位<100>、COPフリー)を、下記表1に示す組成で調製した標準スラリーIを用いて条件1で研磨し、さらに下記表1に示す組成で調製した標準スラリーIIを用いて条件2で研磨した。
【0132】
【0133】
≪前処理条件≫
(条件1)
研磨機:枚葉研磨機 PNX-332B(株式会社岡本工作機械製作所製)
研磨パッド:POLYPAS(登録商標) FP55(不織布タイプ、厚さ約2mm、密度約0.3g/cm3、圧縮率約7%、圧縮弾性率約90%、硬度約50°、フジボウ愛媛株式会社製)
研磨荷重:20kPa
プラテン(定盤)回転数:20rpm
ヘッド(キャリア)回転数:20rpm
研磨用組成物の供給速度:1L/min
研磨時間:2.5min
定盤冷却水の温度:20℃
研磨用組成物の保持温度:20℃。
【0134】
(条件2)
研磨機:枚葉研磨機 PNX-332B(株式会社岡本工作機械製作所製)
研磨パッド:POLYPAS(登録商標) 27NX(スウェードタイプ、厚さ約1.5mm、密度約0.4g/cm3、圧縮率約20%、圧縮弾性率約90%、硬度約40°、平均開孔径約45μm、開孔率約25%、フジボウ愛媛株式会社製)
研磨荷重:15kPa
プラテン(定盤)回転数:30rpm
ヘッド(キャリア)回転数:30rpm
研磨用組成物の供給速度:2L/min
研磨時間:2.5min
定盤冷却水の温度:20℃
研磨用組成物の保持温度:20℃。
【0135】
≪洗浄および乾燥≫
上記研磨後の単結晶シリコン基板を、さらに洗浄液(NH4OH(29質量%):H2O2(31質量%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比))を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分、その後超純水による周波数950kHzの超音波発振器を取り付けたリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。その後、IPA蒸気乾燥を行った。
【0136】
以上のようにして、研磨、洗浄および乾燥を行い、シリコンウェーハの前処理を行った。
【0137】
<標準試験1:砥粒吸着パラメータ1の算出>
下記標準液を作製し、この標準液を下記の遠心分離条件で遠心分離し、上澄み液を回収した。
【0138】
≪標準液の組成≫
砥粒の濃度が0.46質量%、アンモニアの濃度が0.009質量%、および水溶性高分子Bの濃度が0.017質量%である水分散液
≪遠心分離条件≫
遠心分離機:ベックマン・コールター株式会社製、Avanti(登録商標) HP-30I
回転数:20000rpm
遠心分離時間:30min
標準液および上澄み液の全有機炭素濃度(TOC)を、下記測定装置を用いて測定し、標準液の測定値をC1とし、上澄み液の測定値をC2として、下記式1により、砥粒吸着パラメータ1を算出した:
TOC測定装置:株式会社島津製作所製、TOC-5000A。
【0139】
【0140】
<標準試験2:基板吸着パラメータ2の算出>
下記2種の標準液を作製した:
リファレンス標準液:アンモニアの含有量が1.3質量%の水溶液
評価用標準液:アンモニアの含有量が1.3質量%であり、水溶性高分子Bの含有量が0.18質量%である水溶液。
【0141】
上記<シリコンウェーハ前処理>の方法で前処理した単結晶シリコン基板を、60mm×30mmのチップ型に切断し評価用基板を作製した。この評価用基板の重量をW0とした。また、当該評価用基板を、約5質量%のHF(フッ化水素)水溶液に30秒間浸漬した後(自然酸化膜除去)、脱イオン水でリンスした。このようにして酸化膜処理した評価用基板を、25℃にて評価用標準液に12時間浸漬した後、脱イオン水でリンスし乾燥させ重量測定した。この重量をW1とした。浸漬前後の重量差(W0-W1)とシリコンの比重とから、エッチングレート(E.R.)を算出した。別途、上記と同様の方法で、リファレンス標準液を用いて求めたエッチングレートをαとし、下記式2により、基板吸着パラメータ2を算出した。
【0142】
【0143】
<D90>
実施例および比較例の研磨用組成物に存在する粒子のD90(体積基準における積算粒子径分布の小粒子径側からの積算質量が90%となる粒子径)を、日機装株式会社製、UPA-UT151を用いて測定した(単位:μm)。D90が小さいと、砥粒の分散性に優れていることを示す。
【0144】
<研磨レート(R.R.)>
上記<シリコンウェーハ前処理>の方法で前処理した単結晶シリコン基板の重量W2を測定した。測定後、約3質量%のHF(フッ化水素)水溶液に浸漬し、脱イオン水でリンスを行った。次いで、実施例および比較例の研磨用組成物を用いて下記条件3の研磨条件で研磨した。研磨後、上記のようなSC-1洗浄およびスピン乾燥を行って重量W3を測定した。研磨前後の重量差(W2-W3)とシリコンの比重とから、研磨レート(R.R.、単位:nm/min)を算出した。
【0145】
(条件3)
研磨機:枚葉研磨機 PNX-322(株式会社岡本工作機械製作所製)
研磨パッド:POLYPAS(登録商標) 27NX(スウェードタイプ、厚さ約1.5mm、密度約0.4g/cm3、圧縮率約20%、圧縮弾性率約90%、硬度約40°、平均開孔径約45μm、開孔率約25%、フジボウ愛媛株式会社製)
研磨荷重:15kPa
プラテン(定盤)回転数:30rpm
ヘッド(キャリア)回転数:30rpm
研磨用組成物の供給速度:0.4L/min
研磨時間:5min
定盤冷却水の温度:20℃
研磨用組成物の保持温度:20℃。
【0146】
<ヘイズ>
上記のようにして前処理した単結晶シリコン基板を、上記標準スラリーIを用いて上記条件1で研磨し、さらに実施例および比較例の研磨用組成物を用いて上記条件2で研磨した。その後SC-1洗浄およびIPA蒸気乾燥を行い、ケーエルエー・テンコール株式会社製の「Surfscan SP2」を用いて、基板のヘイズ(DWOモード)を測定した。
【0147】
<粘度>
実施例および比較例の研磨用組成物の40倍濃縮液の25℃での粘度を、柴田科学株式会社製の細管式動粘度計 キャノンフェンスケで測定した(単位:mPa・s)。
【0148】
実施例および比較例の研磨用組成物の評価結果を下記表3に示す。
【0149】
【0150】
【0151】
上記の結果から、実施例1~5の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物と比較して、砥粒の分散性(D90)、研磨レート、およびヘイズを良好なものに維持しつつ、増粘することが可能であることが分かった。
【0152】
比較例1の研磨用組成物は、D90、研磨レート、およびヘイズが良好ではあるが、水溶性高分子Bがないため、増粘することができなかった。比較例2は、D90、研磨レート、および粘度は良好ではあるが、水溶性高分子Aがないため、ヘイズが悪化した。比較例3および5の研磨用組成物は、水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1および基板吸着パラメータ2が高すぎて、D90が大きくなり、研磨レートが低下した。比較例4の研磨用組成物は、水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1および基板吸着パラメータ2が高すぎ、さらに分子量が小さいため、増粘効果を十分に得ることができなかった。比較例6の研磨用組成物は、水溶性高分子Bの砥粒吸着パラメータ1は低いものの基板吸着パラメータ2が高すぎて、ヘイズが悪化した。比較例7の研磨用組成物は、水溶性高分子Bの分子量が小さいため、十分な増粘効果を得ようとすると、砥粒の分散性(D90)が悪化した。
【0153】
なお、本出願は、2017年5月26日に出願された日本特許出願第2017-104877号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。