(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】二次電池正極用ステンレス箔集電体および二次電池
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220928BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20220928BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20220928BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220928BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220928BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/54
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
C21D9/46 Q
(21)【出願番号】P 2020527664
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025737
(87)【国際公開番号】W WO2020004595
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2018122407
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】永田 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】福田 将大
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直樹
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/081834(WO,A1)
【文献】特開2015-97173(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008658(WO,A1)
【文献】特開2009-167486(JP,A)
【文献】特開2005-310424(JP,A)
【文献】特開平9-22701(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146133(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087519(WO,A1)
【文献】特開2008-133498(JP,A)
【文献】特開2011-47041(JP,A)
【文献】特開2015-210917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
H01M 4/00- 4/84
H01M 10/00-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.001~0.030%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~1.00%、
Cr:12~18%
、
Ti:0.10%または16(%C+%N)のどちらか大きい方の値以上
、0.80%以下、を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
不純物として
P :0.050%以下、
S :0.030%以下、
N :0.0300%以下に制限したステンレス鋼であって、
厚さが1μm以上20μm以下であり、
表面硬度がビッカース硬さでHv300以下であることを特徴とする二次電池正極用ステンレス箔集電体。
ここで%C、%Nは、それぞれステンス鋼に含まれるC含有量およびN含有量を示し、含まれない場合は0を代入する。
【請求項2】
前記ステンレス鋼が、さらに、質量%で、
Sn:0.01~1.00%、
Nb:0.30%以下、
Al:0.500%以下、
Ni:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
V :0.50%以下、
Zr:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Mg:0.005%以下、
B :0.0050%以下、および
Ca:0.0050%以下、
の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
【請求項3】
前記集電体の表面に正極合剤を塗布し、プレスした後に正極活物質と前記集電体との電気的接触抵抗を測定した場合、前記正極合剤の充填率が74%の時に電気的接触抵抗が100Ω以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
【請求項4】
前記集電体の少なくとも一部に設けられる正極活物質、導電補助剤およびバインダーからなる正極合剤の充填率が50%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
【請求項5】
前記正極活物質がLiCoO
2、LiNi
1/3CO
1/3Mn
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、およびLiFePO
4から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
【請求項6】
前記ステンレス鋼が光輝焼鈍をしていないことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
【請求項7】
正極に、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体を有することを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に代表される二次電池の正極に用いる、ステンレス箔を適用した集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される二次電池の電極は、電極層と集電体からなる。リチウム(Li)イオン電池の場合、電極層は、充放電時にLiイオンの吸蔵放出が可能な活物質、電子導電性の向上を助ける導電助剤、活物質同士あるいは活物質と集電体を結着するためのバインダーから構成されている。集電体は、活物質を支持し、電極層と外部へつながるリード線に電流を流す役割を担っている。
【0003】
従来、二次電池の正極活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO2、以下「LCO」と称する。)、三元系材料としてLiNi1/3CO1/3Mn1/3O2(以下「NCM」と称する。)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4、以下「LMO」と称する。)、Ni系材料としてLiNi0.8Co0.15Al0.05O2(以下「NCA」と称する。)、およびリン酸鉄リチウム(LiFePO4、以下「LFP」と称する。)が使用されている。また、集電体としては、導電性の高いアルミニウム(Al)箔が使用されている。
【0004】
これら活物質に、必要に応じて導電助剤やバインダーを付加して(正極活物質と導電助剤、バインダーを混合したものも含み、これらを「正極合剤」と呼ぶ。)、さらに溶媒(例えばNMP(n-メチルピロリドン)を配合し製造したスラリーを集電体材料であるAl箔に塗布乾燥し、プレス加工して、活物質の粒子間、および粒子と集電体間の接触面積を増大させ、抵抗を低くして、二次電池に適用している。
【0005】
一方、近年の二次電池は、モバイル機器だけでなく電気自動車などへの適用から、高出力長寿命化の要求が急激に高まってきている。例えば初期の電気自動車へ搭載されたリチウムウイオン二次電池の正極合剤の密度は2.58g/cm2(充填率は約50%)であったが、最近の電気自動車へ要求される正極合剤の密度は3.64g/cm2(充填率は70%以上)にまで高まっている。今後はさらなる高容量化のため、正極合剤の充填率を高くすることが要求されている。
【0006】
このため、正極用集電体には、高いプレス圧に対しても破損や変形せず、プレス後に正極合剤が剥離せず、かつ導電性の良好な材料が求められている。従来使用しているAl箔は、導電性は高いものの、機械的強度が低く、高いプレス圧を負荷した際に、しわが発生したり、穴が開いたり、また破壊(切断)したりする。このような状態になると、電極の製造歩留が大幅に低下してしまう他、電池特性に影響する重大な問題に発展することもある。また、大電流を流しても電池電圧が低下しないように、電池の内部抵抗を低減させることも同時に求められており、そのためには正極合剤が集電体にプレス加圧時に適度に食い込み、電気的接触抵抗が低いことも同時に求められる。即ち、正極合剤が食い込んでも破断しないような高強度な集電体である必要がある。そのため、二次電池の小型高容量化の目的を達成するため新たな正極用集電体が求められている。
【0007】
さらに、Liイオンの授受に寄与しない集電体は、これらの電子機器や自動車への搭載を前提としたとき、できるだけ薄厚化、軽量化することが求められる。特に小型化のために、薄厚化は必至であり、現在使用されているアルミニウム箔(Al箔)は機械的強度の面で限界に近づいており、二次電池を構成する材料まで立ち戻った新たな材料の提案が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-222696号公報
【文献】特開2013-101919号公報
【文献】特開2010-33782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二次電池の小型高容量化に資する正極用集電材には、高いプレス圧でロールプレスしても破断せず、ピンホールやシワも発生しないような機械的強度(引張強度、耐ピンホール性など)が求められている。それと同時に正極合剤と集電体の電気的接触抵抗を低減させることも求められている。すなわち、正極合剤と正極集電体をプレスすることにより、正極合剤を集電体に食い込ませ、それらの接触面積を増大させ、電気的な接触抵抗を下げることが求められている。二次電池の高出力化に伴い、ますます大電流を流しても電池電圧が内部抵抗による電圧降下によって低下しにくい性能が求められている。すなわち接触抵抗の低下が求められており、そのためプレス圧も高圧化していくことになる。また、活物質から電子の放出、吸収を繰り返すことにより集電体も膨張と収縮を繰り返す。電池の高密度化に伴い、この膨張収縮がより激しくなってきている。このため、従来のAl箔は、機械的強度が限界に達しており、これ以上の薄厚化はできない。こうした問題を解消するため、Al箔に代わりステンレス箔の適用が検討されている。
【0010】
特許文献1には、正極用集電体ではないが負極用集電体へステンレス箔を適用することが提案されている。通常、二次電池の負極の場合、負極活物質は炭素系材料(黒鉛系材料)が使用され、集電体には銅(Cu)箔が使用される。集電体にステンレス箔を適用したとしても活物質である炭素系材料も導電性を有するため、電流は炭素系材料を流れるため、炭素系材料とステンレス箔間の通電性はあまり問題にならない。また、炭素材料自体も柔らかいため、集電体への食い込が少なく、集電体となるステンレス箔へのダメージはあまり問題にならない。これらのことから、負極用集電体へのステンレス箔の適用が提案されている。
【0011】
特許文献2には、二次電池だけではなく電気二重層キャパシタの集電体などへのステンレス箔の適用が提案されている。特に、二次電池の正極に関しては、正極活物質としてLFPに代表されるリン酸鉄系正極活物質が注目されているが、そのエネルギー密度や導電性を高めるため、高いプレス圧での加工が必要となっている。このため、プレス加工でも変形せず、またピンホールやシワが発生しないよう、高い引張強度が要求されている。そのため、特許文献2では、厚みが15μm以下で、200℃における抗張力が500MPa以上であり、幅10mmにおける0.2%ひずみが生じるときの荷重が50N以上であり、幅10mmにおける破断荷重が70N以上であり、かつ集電体として機能する電位範囲が0~4.2Vvs.Li + /Liであるステンレス箔を用いる蓄電デバイス用集電体材料が提案されている。
【0012】
特許文献3には、リチウム二次電池の負極用集電体として、特異な粗面化表面を有するフェライト系ステンレス鋼が提案されている。これは、負極の集電体に使用されている銅箔が、電池の過放電などで銅(Cu)が溶出し、これが充電時に再析出してスパークなどの致命的現象を引き起こすことを抑制することを目的としている。そのため、銅よりは高耐食性の材料であるステンレス鋼に置き換えることを提案している。しかし、ステンレス鋼は不働態皮膜のため、銅に比べて活物質との接触抵抗が増大するため、これを回避するため特殊な粗面化表面にすることが提案されている。
【0013】
しかし、特許文献1は、負極用集電体を前提としており、正極と負極では求められる技術課題が異なり、高プレス圧化による活物質の食い込みに関しては課題がない。そのため単にステンレス箔を正極用集電体に適用したとしても、正極合剤の食い込みが少なく、接触面積が十分確保できない。
【0014】
特許文献2は、正極合剤と集電体となるステンレス箔との接触面積を増して、接触抵抗を下げることが課題認識されているものの、ステンレス箔に関しては具体的な提案がなく、単にステンレス箔が適用できる程度の提案にしかなっていない。
【0015】
特許文献3は、表面を粗面化することにより、接触面積を増大することを目的としている。しかし、表面粗面化は追加工程になるため高コストになる。さらに、そもそも特許文献3も負極集電体を前提としていることから、正極と負極では求められる技術課題が異なり、硬さのある正極活物質との接触抵抗や、さらには高プレス圧化による正極活物質の食い込みに関しては課題認識がない。また、耐食性を考慮してステンレス鋼を適用しているが、実際に実施しているのは18Cr鋼や22Cr鋼であり、低Cr化した際の耐食性の劣化については課題が解決されていないのが実状である。
【0016】
正極用集電体には負極とは異なる耐食性も要求される。例えば、正極活物質としてNCAやNCMを適用した場合、水系バインダーと混合することによりスラリーがアルカリ性になり、Al箔を腐食させる。そのため、従来のようにAl箔を集電体に適用する場合、NCAやNCMを水洗して使用し、アルカリ性化を抑制している。しかし、水洗することにより、NCAやNCMの容量が低下し、電池性能の低下を招いている。また、何らかの原因により正極活物質や正極合剤の層にき裂が入り電解液が集電体に接触する場合もある。このため、正極用集電体には、アルカリや電解液に対し高い耐食性が求められている。
【0017】
すなわち、正極用集電体に、単にステンレス箔を適用しただけでは、機械的強度は確保できるものの、正極合剤との接触面積が確保できず、二次電池の正極として十分な導電性が確保できない場合がある。一方、接触面積を確保するため不働態皮膜を抑制して耐食性を犠牲にすると、二次電池として機能しなくなる。こうしたことがステンレス箔を正極用集電体に適用する場合の問題となっている。
【0018】
本発明は、二次電池正極用集電体にステンレス箔を適用した場合、機械的強度だけでなく、正極活物質や正極合剤との接触面積を増大して導電性を確保しつつ、アルカリや電解液に対しての耐食性も確保することを課題とし、そのようなステンレス箔を使用した二次電池正極用集電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討し、以下の知見を得た。
(a)一般に、ステンレス箔の表面はCrやNiの不働態皮膜があり、その不働態皮膜により耐食性が確保されている。しかし、ステンレス箔と正極合剤の接触抵抗は、この不働態皮膜があるため悪化する。これは、不働態皮膜が硬く、正極合剤が不働態皮膜を破ることができず、十分な接触面積を確保することができないからである。一方で、この不働態皮膜がないと、電解液との接触による腐食が進み、電極としての機能が低下する。
【0020】
(b)そこで、本発明者らは、ステンレス箔表面の硬度を低下させつつ、耐食性を確保できるステンレス箔であれば、正極用集電体に適用できることを発想した。表面硬度を低下させるためには、例えばBA処理(光輝焼鈍)を行えばできるが、コスト的に高価になる。そのため、本発明者らは、BA処理をせずに表面硬度は低いが耐食性を有するステンレス箔を鋭意開発した。その結果、Crを減らしSnを微量含有すること、若しくはTiを含有してC(炭素)やN(窒素)を固定化することにより、耐食性を確保しつつ、表面硬度を低下させることができることを見出した。このようなステンレス箔を正極用集電体に適用することにより、高いプレス圧にも破損することなく、表面硬度が低くいため正極合剤との接触面積を確保でき、正極合剤との導電性を確保できることを確認した。さらに耐食性も確保されているため、電解液によるステンレス箔の腐食も抑制できることを確認した。
【0021】
(c)表面硬さが適度に低く、耐食性を有するステンレス箔を二次電池の正極用集電体に適用することにより、従来のアルミ箔に比較して板厚を薄くすることができるだけでなく、アルミ箔では破損するプレス圧にも耐えることから、正極合剤の高充填率化も達成できることを確認した。正極用集電体において、正極合剤を高充填率化することにより、集電体との接触抵抗を低下させ、二次電池の高電圧化、高出力化に対応することができる。すなわち、集電体の厚さ低減効果と高電圧化、高出力化効果が相乗し、二次電池の小型高容量化に資する集電体となる。
【0022】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その主旨は以下のとおりである。
[1]
質量%で、
C :0.001~0.030%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~1.00%、
Cr:12~18%、を含み、
さらに
SnおよびTiの少なくとも一方を含み、
SnまたはTiのどちらか一方が
(a)Sn:0.01~1.00%、
(b)Ti:0.10%または16(%C+%N)のどちらか大きい方の値以上、
を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
不純物として
P :0.050%以下、
S :0.030%以下、
N :0.0300%以下に制限したステンレス鋼であって、
厚さが1μm以上20μm以下であり、
表面硬度がビッカース硬さでHv300以下であることを特徴とする二次電池正極用ステンレス箔集電体。
ここで%C、%Nは、それぞれステンス鋼に含まれるC含有量およびN含有量を示し、含まれない場合は0を代入する。
[2]
前記ステンレス鋼が、さらに、質量で、
Nb:0.30%以下、
Al:0.500%以下、
Ni:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
V :0.50%以下、
Zr:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Mg:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、および
Ca:0.0050%以下 の1種または2種以上を含むことを特徴とする[1]に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
[3]
前記集電体の表面に正極合剤を塗布し、プレスした後に正極活物質と前記集電体との電気的接触抵抗を測定した場合、前記正極合剤の充填率が74%の時に電気的接触抵抗が100Ω以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
[4]
前記集電体の少なくとも一部に積層される正極活物質、導電補助剤およびバインダーからなる正極合剤の充填率が50%以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
[5]
前記正極活物質がLiCoO2、LiNi1/3CO1/3Mn1/3O2、LiMn2O4、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、およびLiFePO4から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする[4]に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
[6]
前記ステンレス鋼が光輝焼鈍をしていないことを特徴とする[1]~[5]のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体。
[7]
正極に、[1]~[6]のいずれか1項に記載の二次電池正極用ステンレス箔集電体を有することを特徴とする二次電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、板厚が薄く、機械強度だけでなく正極活物質や正極合剤との接触面積を確保して接触電気伝導性がよく、耐高電位溶出性を有し、アルカリや電解液に対しての耐食性をも有した二次電池正極用集電体を得ることがきる。
本発明の集電体は、同様な電極構成を持っていれば電解質が有機溶媒以外となる電池(例えばイオン液体や固体電解質)でも効力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、プレス後の正極合剤の充填率と電気的接触抵抗の関係を示す図である。
【
図2】
図2は、プレス後の正極合剤と集電体との電気的接触抵抗を測定する概念図である。
図2(a)は測定要領を示す概念図である。
図2(b)は測定時の等価電気回路を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0026】
[成分の限定理由]
まず、本発明に係るステンレス箔の成分の限定理由について説明する。
【0027】
C(炭素)は、耐食性を劣化させるため、その含有量の上限を0.030%とする。耐食性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは0.020%、より好ましくは0.010%、さらに好ましくは0.005%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、その含有量の下限を0.001%とする。耐食性や製造コストを考慮すると、その下限は、好ましくは0.002%とするとよい。
【0028】
Si(シリコン)は、脱酸元素として含有される場合がある。しかし、Siは、固溶強化元素であり、加工性の低下抑制から上限を1.00%とする。加工性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限を、好ましくは0.60%、より好ましくは0.30%、さらに好ましくは0.20%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、Si含有量の下限を0.01%とする。加工性や製造コストを考慮すると、その下限を、好ましくは0.05%とするとよい。
【0029】
Mn(マンガン)は、発銹の起点となるMnSを生成し耐食性を阻害する元素であるため、その含有量は少ないほど良い。耐食性の低下抑制からその含有量の上限を1.50%とする。耐食性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは1.00%、より好ましくは0.30%、さらに好ましくは0.20%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、Mnの含有量の下限を0.01%とする。好ましくは、耐食性と製造コストを考慮すると、その下限を0.05%とするとよい。
【0030】
Cr(クロム)は、フェライト系ステンレス鋼の構成元素であり耐食性を確保するための必須の元素である。本発明の耐食性を確保するために下限は12%とする。しかし、含有量が多いと、ステンレス箔表面に硬いCrの不働態皮膜を形成するため上限は18%とする。後述するが、耐食性の観点から本発明に係るステンレス箔はSnを含有し、その耐食性を向上させてもよい。一方、耐食性劣化要因であるCやNを固定化させるためTiを含有し、その耐食性を向上させてもよい。ステンレス箔の表面硬度を低減させる観点から、Crの含有量は、好ましくは17%以下、若しくは16%以下、さらに好ましくは15%以下とするとよい。また、耐食性を確保する観点から、Crの含有量は、好ましくは13%以上、さらに好ましくは14%以上にするとよい。
【0031】
Sn(錫)は、CrやMoの合金化ならびに希少元素であるNiやCo等の含有に頼ることなく、耐食性を確保するために必須の元素である。従来のステンレス鋼(例えば例えばSUS430LX)と同等の耐食性を得るために、Snの含有量の下限を0.01%とした。耐食性をより確保するため、好ましくは、0.05%以上、より好ましくは0.10%以上とするとよい。しかし、過度の含有は、表面光沢や製造性の低下につながるとともに、耐食性向上効果も飽和する。そのため、1.00%以下とした。耐食性や表面光沢を考慮すると、その含有量は0.5%以下、より好ましくは、0.30%以下、さらに好ましくは、上限を0.20%以下にするとよい。
【0032】
Ti(チタン)は、C、Nを固定する安定化元素としてCr炭窒化物による鋭敏化を防ぎ、耐食性を向上させる効果を有する元素である。この効果を確保する観点からTiの含有量は0.10%以上であって、且つ16×(%C+%N)以上あるとよい。(乗算を示す記号「×」を省略し、16(%C+%N)と記載する場合がある。)従って、Ti含有量は、0.10%または16(%C+%N)のどちらか大きい値以上であるとよい。ここで%C、%Nは、それぞれステンス鋼に含まれるC含有量(質量%)およびN含有量(質量%)を示し、含まれない場合は0を代入する。Ti含有量の上限は特に限定しないが、過度な含有は、介在物起因のへげ疵や酸化皮膜中へのTi濃化により耐食性の低下を招く。従って、Ti含有量の上限を0.80%にするとよく、好ましくは0.40%以下とするとよい。
【0033】
SnとTiは、前述したように、ともに耐食性を向上させる元素である。ステンレス箔の表面硬度を低減させる観点から、Cr含有量を減少させることが好ましいが、Crを減らした分、耐食性を補償する観点から、SnとTiの一方若しくは両方を含有するとよい。両方を含有する場合は、SnまたはTiのどちらか一方が上記の含有量の範囲であればよい。
【0034】
P(リン)は、不純物元素であり、製造性や溶接性を阻害する元素であるため、その含有量は少ないほど良い。製造性や溶接性の低下抑制からその含有量の上限を0.050%とする。製造性や溶接性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは0.040%、より好ましくは0.030%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、Pの含有量の下限を0.005%とするとよい。より好ましくは、製造コストを考慮して0.010%とするとよい。
【0035】
S(硫黄)は、不純物元素であり、耐食性や熱間加工性を阻害するため、その含有量は少ないほど良い。耐食性や熱間加工性を確保するため、Sの含有量の上限は0.0300%とする。耐食性や熱間加工性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは0.0100%、より好ましくは0.0050%、さらに好ましくは0.0030%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、好ましくはその含有量の下限を0.0001%とするとよい。より好ましくは、耐食性や製造コストを考慮して0.0002%とするとよい。
【0036】
上記含有する元素の他は、Fe(鉄)および不可避的不純物である。不可避的不純物とは、ステンレス箔集電体を製造する過程で意図せずに含有される元素をいう。
【0037】
上記元素の他に、Feに代えて、Nb:0.30%以下、Al:0.500%以下、Ni:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、V :0.50%以下、Zr:0.50%以下、Co:0.50%以下、Mg:0.005%以下、B :0.0050%以下、Ca:0.0050%以下、およびN :0.0300%以下、のうち1種または2種以上を適宜含有してもよい。
【0038】
Nb(ニオブ)は、本発明のステンレス箔のような微量Sn含有鋼において耐食性の向上効果を有する元素である。しかし、過度な含有は、鋼の再結晶温度を上昇させて、逆に耐食性の低下をもたらす。従って、上限を0.30%とする。その効果は0.05%以上から発現する。好ましくは、耐食性および製造性を考慮して0.10以上、および0.20%以下とするとよい。
【0039】
Alは、脱酸元素として有効な元素である。しかし、過度の含有は加工性や靭性および溶接性の劣化をもたらすため、Alの含有量の上限を0.500%とした。加工性、靭性や溶接性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは0.100%、より好ましくは0.050%、さらに好ましくは0.030%とするとよい。また、精錬コストを考慮して、その含有量の下限は0.005%にするとよい。より好ましくは0.010%にするとよい。
【0040】
Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Co(コバルト)は、Snとの相乗効果により耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。但し、0.50%を超えると、材料コストの上昇を招くため、各々の含有量の上限を0.50%とするとよい。これら元素は希少であるため、含有する場合、NiやCuの好ましい範囲は0.10~0.40%、Moの好ましい範囲は0.10~0.30%にするとよい。また、V、Zr、Coの好ましい範囲は0.02~0.30%にするとよい。含有する場合は、その効果が発現する0.01%以上、好ましくは0.02%以上とするとよい。より好ましくは効果発現が顕著となる0.05%以上とする。
【0041】
Mg(マグネシウム)は、溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成し脱酸剤として作用する他、TiNの晶出核として作用する。TiNは凝固過程においてフェライト相の凝固核となり、TiNの晶出を促進させることで、凝固時にフェライト相を微細生成させることができる。凝固組織を微細化させることにより、製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止できる他、加工性の向上をもたらすため必要に応じて含有してもよい。但し、0.005%を超えると製造性が劣化するため、上限を0.0050%とする。含有する場合は、これら効果を発現する0.0001%以上とする。好ましくは、製造性を考慮して、その含有量を0.0003~0.0020%とする。
【0042】
B(ボロン)は、熱間加工性や2次加工性を向上させる元素であり、フェライト系ステンレス鋼への含有は有効であるので、必要に応じて含有してもよい。しかし、過度の含有は、伸びの低下をもたらすため、上限を0.0050%とする。含有する場合は、これら効果を発現する0.0003%以上とする。好ましくは、材料コストや加工性を考慮して、その含有量を0.0005~0.0020%とするとよい。
【0043】
Ca(カルシウム)は、熱間加工性や鋼の清浄度を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。しかし、過度の含有は、製造性の低下やCaSなどの水溶性介在物による耐食性の低下につながるため、上限を0.0050%とする。含有する場合は、これら効果を発現する0.0003%以上とする。好ましくは、製造性や耐食性を考慮して、その含有量を0.0003~0.0015%とするとよい。
【0044】
N(窒素)は不純物であり、Cと同様に耐食性を劣化させる。Nの含有量は少ないほど良いため、0.0300%以下に制限するとよい。耐食性の観点からその含有量は少ないほど良く、その上限は、好ましくは0.0200%、より好ましくは0.0120%とするとよい。また、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、好ましくは下限を0.0010%とするとよい。より好ましくは、耐食性や製造コストを考慮して下限を0.0050%とするとよい。
【0045】
[表面硬さ:Hv300以下]
本発明に係るステンレス箔集電体に適用するステンレス箔の表面硬度は、ビッカース硬度(Hv)で300以下である。従来用いられているステンレス鋼の場合(例えば、特許文献2で提案されているSUS304)、圧延まま(箔圧延後にBA処理などの熱処理をしない材料)の場合にはビッカース硬度(Hv)は300を超える(例えばSUS304ではHv320)ことから、本発明に係るステンレス箔は通常のステンレス箔より表面硬度が低いことが分かる。
【0046】
図1には、プレス後の正極合剤の充填率と電気的接触抵抗(以下、単に「接触抵抗」と称する場合がある。)の関係を示す。接触抵抗の測定方法は後述する。
図1から分かるように、表面硬度が低下すれば、接触抵抗も低下する。また、プレス圧を上げて正極合剤の充填率が上がるほど、接触抵抗は低下する。これは、正極合剤の充填率を上げるため、集電体に正極合剤塗布後プレス加工をする際に、正極合剤中の正極活物質が集電体表面に食い込み、接触面積が増大するためと考えられる。これらのことから、集電体となるステンレス箔の表面のビッカース硬度は、低い方が電気特性上好ましい。従って、ステンレス箔表面硬度は低い方が好ましい。従来材との対比から、Hv300以下がよく、好ましくはHv290以下にするとよい。
【0047】
ステンレス箔の表面硬度は、箔圧延後のステンレス箔を光輝焼鈍(BA処理)しても下げることができる。しかし、BA処理はコスト的に高価になることと、正極合剤の充填率を上げていくと、BA処理したステンレス箔とBA処理をしないステンレス箔では、接触抵抗が同等程度になるため、BA処理の効果が得られなくなる(
図1)。このため、本発明における二次電池用ステンレス箔集電体は、BA処理をしなくてもよく、すなわち圧延のままの材料を適用することができる。
【0048】
一方で、耐食性の観点からステンレス箔表面に一定のCr等の不動態皮膜を確保しなければならい。不働態被膜は、その特性により硬度が変化するが、耐食性を確保する観点から表面硬度の下限は決まる。本発明において、一定の耐食性を確保するためには、例えばCr含有量で12%以上が好ましいため、表面硬度はHv180以上あればよい。表面硬度は耐食性との兼ねあいで決まる。この観点から、好ましくは、ステンレス箔表面硬度はHv190以上、さらにはHv200以上あると好ましい。なお、ビッカース硬度の測定は、JIS Z 2244:2009に準拠すればよい。但し、ステンレス箔が極めて薄いため、試験力(圧子の押し込み荷重)は5gfとした。
【0049】
[電気的接触抵抗]
図1に、プレス後の正極合剤の充填率と電気的接触抵抗の関係を示す。正極合剤と正極用集電体との電気的接触抵抗は、正極用集電体の周囲に正極合剤を塗布し、プレスしたのち、
図2(a)に示すように正極合剤に電極を接触させて測定した。このとき、事前に測定した正極合剤の電気抵抗(R
film)、ステンレス箔および比較としてのAl箔の電気抵抗(R
foil)をあらかじめ測定し
図2(b)に示す等価回路に基づく以下の(式1)から算出した。
1/(R測定値)=1/R
film+1/(2×R+R
foil) ・・・(式1)
【0050】
図1に示すように、本発明に係るステンレス箔集電体の場合、正極合剤の充填率が50%の時に電気的接触抵抗が150Ω~190Ω程度、前記正極合剤の充填率が74%の時に電気的接触抵抗が100Ω以下であることを確認した。従来のステンレス箔の場合、圧延まま材(ハード材)で正極合剤の充填率が50%の時に電気的接触抵抗が200Ωを超え、前記正極合剤の充填率が74%の時に電気的接触抵抗が100Ωを超えることから、本発明に係るステンレス箔集電体の接触抵抗が低いことが分かる。これらのことから、本発明に係るステンレス箔集電体のように、表面硬さがHv300以下であれば、正極合剤の充填率が74%の時に電気的接触抵抗が100Ω以下になることが分かる。
【0051】
従来のAl箔の場合、Al箔表面のビッカース硬さはHv40程度である。同じプレス圧をかけてその電気的接触抵抗を測定した結果を
図1に示す。その結果、正極合剤の充填率が50%の時に電気的接触抵抗が100Ω程度に、前記正極合剤の充填率が75%の時に電気的接触抵抗が40Ω程度である。表面が柔らかいため、正極合剤の食い込みが大きく、その分接触抵抗がよくなったものと思われる。しかし、Al箔の場合、正極合剤充填率が63%のプレス時に破損が確認されていることから、実用的ではないことが確認された。
【0052】
従来のAl箔に比べ、ステンレス箔は電気伝導性が劣るため、電極全体としての電気特性が悪化するのではないかと思われるかもしれない。しかし、電極抵抗の構成要素としては、集電体金属内部の電気抵抗もさることながら、正極活物質や導電助剤、バインダー、またはそれらの界面などの抵抗要素がある。表1に、本発明に係るステンレス箔、比較材としてのAl箔、導電助剤(アセチレンブラック)の電気特性を示す。電気伝導性を、銅を100%とした評価指数で比較すると、ステンレス箔は2~3%程度と低いものの、導電助剤であるアセチレンブラックと比較した場合、5桁以上も高い導電率を有している。代表的な正極活物質であるLCO、LMOなどの酸化物の導電率も10-9~10-1S/cmと、ステンレス鋼に比較して非常に低い。従って、電池内部の抵抗要素の中で一番抵抗が大きい要素が電池全体の応答性を律速すると考えれば、ステンレス箔の低い導電率は大きな問題にならないといえる。ちなみにAl箔は、銅の63%であり、ステンレス箔の20倍近くある。しかし、電池内部の抵抗要素の中で一番抵抗が大きい要素が電池全体の応答性を律速すると考えれば、Al箔より低いステンレス箔の導電性は、大きな問題にはならない。むしろ、プレス圧を上げ、正極合剤の充填率を高めることにより、接触抵抗が150Ωから60Ωクラスに半減できることを考えると、その効果は大きいと思われる。
【0053】
【0054】
[板厚]
本発明に係るステンレス箔は、板厚20μm以下である。従来の正極用集電体に用いるAl箔の板厚が20μmであるので、それより薄い板厚であることが望ましいからである。集電体としてのステンレス箔の板厚は薄ければ薄い方が望ましいので、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下の板厚にするとよい。板厚の下限は、特に限定しない。求められる強度等の条件や、製造技術上の問題から決定される。現在の製造技術では、板厚1μm以上にすることが好ましい。
【0055】
[正極合剤の充填率]
電池性能の向上に伴い、正極合剤の充填率は高い方向に動いている。
図1に示すように、正極合剤の充填率が上がると、集電体との接触抵抗が下がることは前述したとおりである。本発明に係るステンレス箔集電体は、正極合剤の充填率が低くても、従来のステンレス箔と対比すると正極合剤との接触抵抗は低くすることができる。
【0056】
一方、本発明に係るステンレス箔集電体の接触抵抗は、アルミ箔に比べると高い。しかしながら、正極合剤充填率が50%以上になると、アルミ箔では強度不足となり、破損するおそれがある。正極合剤充填率が60%以上になると、アルミ箔が破損する可能性が著しく高くなる。さらに、
図1からも分かるように、本発明に係るステンレス箔集電体は、正極合剤充填率が65%の時に、従来の正極合剤充填率50%時のアルミ箔集電体との接触抵抗と同程度の接触抵抗になる。この観点から、本発明に係るステンレス箔集電体は、正極合剤を充填率50%以上になるようにプレス加工するときに、特にその効果を奏すると言える。さらに好ましくは正極合剤充填率が60%以上、さらには65%以上、より好ましくは70%以上、もっと好ましくは75%以上に適用すると、特に効果を奏する。
【0057】
念のために申し添えておくが、本発明に係るステンレス箔集電体は、充填率50%未満でも使用できることは言うまでもない。充填率50%未満であっても、従来のステンレス箔に比べ、低い接触抵抗を得ることができる。
【0058】
正極合剤の充填率は正極合剤の塗布密度を正極合剤の真密度で除した値を百分率表示したものである。即ち、正極合剤塗布密度÷正極合剤真密度=充填率(%)である。
まず、正極材、導電助剤、バインダーを所定量秤量し、有機溶媒へ投入し、攪拌して塗布用スラリーを作成した後、アプリケータを用いて集電体となる金属箔上へ塗布し、有機溶媒を乾燥させ電極を作製する。この電極をロールプレスした後にφ15mmパンチで円形に打ち抜き、重量と厚みを計測する。あらかじめ同一サイズに打ち抜いておいた金属箔の重量と厚みを差し引いたものが、塗布した正極合剤の重量と体積となる。この重量を体積で除したものが正極合剤の塗布密度である。正極合剤の真密度は、正極材、導電助剤、バインダーのそれぞれの密度と配合比から計算できる。こうして得られた正極合剤の塗布密度と真密度から正極合剤の充填率を算出することができる。
【0059】
[製造方法]
次に本発明に係るステンレス箔の製造方法について説明する。本発明に係るステンレス箔の製造工程は、通常のステンレス箔の製造工程と概ね同じである。まず、真空度が10
-1(Torr)以下の真空雰囲気中で原料を溶解し、Mn、Si、Mg、Al等の脱酸剤を加えて溶湯の組成を調整した後、スラブに鋳造する。なお、スラブの鋳造工程は、前述した鋼組成を電気炉で溶製し、前記溶湯を精錬した後、連続鋳造により、厚さが150mm~250mmのスラブを製造する工程としても良い。次に、前記スラブを3.0mm~200mm厚になるまで熱間圧延した後、コイリング(巻取工程)する。コイリングされた前記熱間圧延板は、冷間圧延と焼鈍とを交互に行うことによって、板厚1.00μm以上20.00μm以下のステンレス箔に加工し、最後に表面洗浄し、製品となる。冷間圧延の回数及び圧下率は特に制限されないが、最終の板厚を得るための箔圧延工程における圧下率が5.0~80.0%の範囲内になるように圧延を行うことが好ましい。これは、圧下率が高ければ高いほど、加工硬化により表面硬さが高くなるためである。ただし、本発明に係るステンレス箔は、最終の箔圧延後に光輝焼鈍(BA焼鈍)を行う必要はない。BA焼鈍をしなくても、十分表面硬さを低減させることができるからである。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
表2の成分を有するフェライト系ステンレス鋼を溶製し、通常の熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍を行った後に、通常の箔圧延(圧延まま材(ハード材))により板厚10μmのステンレス箔にし、試料を準備した。
【0061】
得られたステンレス箔の表面硬さをJIS Z 2244: 2009に準拠してビッカース硬さで求めた。このとき、試験力(圧子の押し込み荷重)は5gfとした。
【0062】
耐食性は、正極環境に近い電解質にステンレス箔試験片を浸漬し、そのアノード電流を測定することにより溶出性を評価した。電解液は、非水系溶媒(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比1:3で混合)したものに電解質として1mol/L(Lはリットルを意味する。)のLiPF6を溶解させたものを用いた。ステンレス箔の試料(板厚10μm×30mm角)を作製し、上記電解質に浸漬し、対極としてLi板を、電位基準極としてLi箔を浸漬し、電極間電位(ステンレス箔と電位基準極の間の電位差)が3.5Vおよび4.0Vの時のアノード電流を測定した。アノード電流が高いほど、溶出が多いこと、即ち耐食性に劣ることを示す。
【0063】
接触抵抗は、正極合剤の充填率が概ね74%になるようロールプレスにより圧縮して正極用集電体の試験片を作成し、正極合剤の充填率、正極合剤の電気抵抗(Rfilm)、ステンレス箔およびAl箔の電気抵抗(Rfoil)を測定し、前記式1に基づき、正極合剤とステンレス箔集電体の電気的接触抵抗を測定した。正極合剤の種類、充填率の算出方法、電気的接触抵抗の測定方法など詳細は後述する実施例2に記載する。
【0064】
測定結果を表3に示す。1鋼、2鋼、3鋼、4鋼、6鋼、9鋼による試験片は、表面硬さもHv300以下であり、電気的接触抵抗も低めの値を示した。さらにこれらの試験片はアノード電流も少なく、耐食性も比較的よいことが確認された。
なお、参考例として6鋼、7鋼をBA(光輝焼鈍)処理した試験片での結果も示す。本発明の実施態様に係る試験片は、BA処理した試験片にはかなわないものの、それらと遜色のない、耐食性と電気的接触性を有することが確認された。
【0065】
【0066】
【0067】
[実施例2]
ステンレス箔表面に正極合剤塗布し、プレスしてできた正極用集電体において、正極合剤の充填率とステンレス箔との電気的接触抵抗を測定した。
【0068】
ステンレス箔(圧延まま材(ハード材))は、表2の1鋼(
図1の本発明材1)と2鋼(
図1の本発明材2)、および7鋼(
図1の比較材1)を用いた。板厚は、どちらも10μmのステンレス箔を用いた。7鋼については、表面硬度を変化させるため、BA処理(焼鈍温度500℃)を施したもの(
図1の比較材(BA材))と、施していないもの(圧延まま材(ハード材))(
図1の比較材1)を用いた。比較のため、従来正極用集電体に使用しているAl箔(厚さ20μm)(
図1のAl箔)を用いた。それぞれの材料の表面硬さも
図1に示した。
【0069】
正極合剤として、正極材(LiCoO2、日本化学工業製、セルシードC-5H、平均粒径6μm)、導電助剤(イメリス・グラファイト&カーボン製、品名:KS6およびSUPER-C65)、バインダー(クレハ製、KFポリマー#9100)を用い、重量比で正極材:KS6:SUPER-C65:バインダー=92:3:1:4にて秤量し、有機溶媒(NMP:N-メチル-2-ピロリドン)へ投入・撹拌・分散させて塗布用スラリーを作製した。アプリケータを用いて集電体となる金属箔上へ塗布し、NMPを乾燥させた後の塗布物重量(正極材+導電助剤+バインダー)が約20mg/cm2となる電極を作製した。この正極合剤を塗布した電極をロールプレス法にて圧縮した。正極合剤の充填率が概ね50%、65%、74%になるように圧縮した。
【0070】
こうして、正極用集電体の試験片を作成し、正極合剤の充填率、正極合剤の電気抵抗(R
film)、ステンレス箔およびAl箔の電気抵抗(R
foil)を測定し、前記式1に基づき、正極合剤とステンレス箔集電体の電気的接触抵抗を測定した。測定結果を
図1に示す。
なお、正極合剤の充填率は次のようにして測定した。上記作製した電極をロールプレスした後にφ15mmパンチで円形に打ち抜き、重量と厚みを計測する。あらかじめ同一サイズに打ち抜いておいた塗布前金属箔の重量と厚みを差し引いたものが、塗布物の重量と体積となる。塗布物の92%が正極材重量であり、φ15mm円形の面積×厚み=塗布物体積となるので、正極材重量÷塗布物体積=正極塗布密度と算出される。正極材の真密度は公知であり(例えばLiCoO
2は5.2g/cm
3)、正極塗布密度÷正極材信密度=充填率(%)として測定することができる。
【0071】
図1から分かるように、プレス圧を上げ正極合剤の充填率を上げると電気的接触抵抗は低下することが分かる。これは、プレス圧が上がり、正極合剤がステンレス箔表面に食い込み、ステンレス箔表面の不働態被膜を破り、ステンレス箔との接触面積を増大させたためと考えられる。Al箔の場合も同様に、正極合剤とAl箔との接触面積が増大したためと考えられる。なお、Al箔の場合、正極合剤充填率が63%および72%の時に、一部破損(ピンホールとそれを起点にした亀裂)が確認された。本発明材1(1鋼)、本発明材2(2鋼)、比較材1(5鋼)のステンレス箔では、どの充填率でも破損はないことが確認された。
【0072】
なお、本発明は、本明細書で紹介した実施態様に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る集電体は、リチウムイオン電池などの二次電池の正極用として利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 集電体
2 正極合剤
3 電極