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特許7148674半導体検出器、放射線検出器及び放射線検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】半導体検出器、放射線検出器及び放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20220928BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01L31/00 A
G01T1/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021082617
(22)【出願日】2021-05-14
(62)【分割の表示】P 2016249917の分割
【原出願日】2016-12-22
(65)【公開番号】P2021132224
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】102015000087736
(32)【優先日】2015-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516387107
【氏名又は名称】フォンダチオーネ ブルーノ ケスラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】アントニーノ ピチォット
(72)【発明者】
【氏名】ペルルイージ ベルッティ
(72)【発明者】
【氏名】マウリチオ ボスカルディン
(72)【発明者】
【氏名】ニコーラ ゾルジ
(72)【発明者】
【氏名】松永 大輔
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-092448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0173733(US,A1)
【文献】J. D. Segal et al.,"A new structure for controlling dark current due to surface generation in drift detectors",Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A,1998年,Vol.414,pp.307-316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/115-31/119
G01T 1/24
IEEE Xplore
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出するための半導体検出器において、
放射線の入射により電子及び正孔を生じる第1半導体部と、
前記電子又は前記正孔に基づいた信号を出力する信号出力電極と、
ポリシリコンを主成分とし、第1のドーパントがドープされており、前記第1半導体部中の不純物を獲得するゲッタリング部と、
第2のドーパントがドープされており、前記第1半導体部よりもドーパント濃度が高くなっている第2半導体部とを備え、
前記第1半導体部及び前記第2半導体部の主成分はシリコンであり、
前記第1半導体部は板状であり、
前記第2半導体部は、前記第1半導体部の一面に設けられ、前記第1半導体部に接しており、
前記ゲッタリング部は、前記第2半導体部と異なる型のシリコンでなり、前記第2半導体部の上に設けられ、前記第2半導体部に接しており、前記第1半導体部には接しておらず、
前記第2半導体部は、前記第1のドーパントが前記ゲッタリング部から前記第1半導体部へ侵入することがない深さを有すること
を特徴とする半導体検出器。
【請求項2】
前記第1半導体部の他面は放射線の入射面であること
を特徴とする請求項1に記載の半導体検出器。
【請求項3】
前記第2半導体部は複数の曲線部からなり、
前記ゲッタリング部は、前記複数の曲線部の夫々の上に設けられていること
を特徴とする請求項2に記載の半導体検出器。
【請求項4】
記ゲッタリング部の主成分はn型のポリシリコンであること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の半導体検出器。
【請求項5】
前記第2半導体部には、前記信号出力電極へ前記電子又は前記正孔が集まるような電界を前記第1半導体部内に生成させるための電圧が印加されること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の半導体検出器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の半導体検出器と、
該半導体検出器が実装された回路基板と、
前記半導体検出器及び前記回路基板を保持するベースプレートと
を備えることを特徴とする放射線検出器。
【請求項7】
放射線を検出する請求項1乃至5のいずれか一つに記載の半導体検出器と、
該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、
該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項8】
放射線を照射された試料から発生する放射線を検出する放射線検出装置において、
試料へ放射線を照射する照射部と、
前記試料から発生した放射線を検出する請求項1乃至5のいずれか一つに記載の半導体検出器と、
該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、
該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出するための半導体検出器、放射線検出器及び放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する方法の一つに、半導体検出器を用いる方法がある。半導体検出器の内で、面積が大きく低ノイズで検出を行うことができるものにSDD(Silicon Drift Detector)がある。SDDには、内部にリーク電流が発生するという問題がある。リーク電流はノイズの原因となるので、リーク電流を可及的に低減させることが求められる。従来、リーク電流を低減させるためにSDDを冷却することが行われてきた。特許文献1には、SDDとSDDを冷却する冷却部とを有する放射線検出器が開示されている。SDDを有する放射線検出器は、例えば、試料から発生した放射線を放射線検出器で検出して試料の分析を行う放射線検出装置に備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-92448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SDDを使用するためには冷却部が必要となり、SDDを真空中又は乾燥ガス中に配置するためにSDDをハウジングで覆う必要がある。このため、SDDを用いた放射線検出器の小型化には限界がある。放射線検出器を備えた放射線検出装置では、放射線検出器のサイズが大きいことによって、適切な位置に放射線検出器を配置することが困難になる等、設計の自由度が低くなる。このため、放射線検出装置の適切な設計により放射線検出の精度を向上させることが困難である。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、リーク電流を低減するための冷却条件を緩和、例えば冷却部を簡素化するか又は冷却部を無くす等により、放射線検出器の小型化及び放射線検出精度の向上を可能にする半導体検出器、放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体検出器は、放射線を検出するための半導体検出器において、放射線の入射により電子及び正孔を生じる第1半導体部と、前記電子又は前記正孔に基づいた信号を出力する信号出力電極と、ポリシリコンを主成分とし、第1のドーパントがドープされており、前記第1半導体部中の不純物を獲得するゲッタリング部と、第2のドーパントがドープされており、前記第1半導体部よりもドーパント濃度が高くなっている第2半導体部とを備え、前記第1半導体部及び前記第2半導体部の主成分はシリコンであり、前記第1半導体部は板状であり、前記第2半導体部は、前記第1半導体部の一面に設けられ、前記第1半導体部に接しており、前記ゲッタリング部は、前記第2半導体部と異なる型のシリコンでなり、前記第2半導体部の上に設けられ、前記第2半導体部に接しており、前記第1半導体部には接しておらず、前記第2半導体部は、前記第1のドーパントが前記ゲッタリング部から前記第1半導体部へ侵入することがない深さを有することを特徴とする。
【0007】
第1半導体部中の不純物は、第2半導体部を通ってゲッタリング部にトラップされ、減少する。第1半導体部中の不純物が減少することにより、半導体検出器のリーク電流が低減される。また、ゲッタリング部は第2半導体部に接している一方で第1半導体部には接していないので、ゲッタリング部に含まれるドーパントが第1半導体部へ流出することがなく、ゲッタリング部は放射線検出の性能に悪影響を及ぼさない。このようにゲッタリング部は半導体検出器の動作に悪影響を与えることが無いので、半導体検出器の製造工程の最後までゲッタリング部を設けておき、ゲッタリング部を設けたままで半導体検出器を使用することが可能である。従って、半導体検出器の製造工程でゲッタリング部を除去する必要が無く、製造工程の途中で意図せず混入する不純物を製造工程の最後まで確実にトラップすることができる。
【0008】
本発明に係る半導体検出器は、前記第1半導体部の他面は放射線の入射面であることを特徴とする。
【0009】
第1半導体部の他面から放射線を入射させることにより、ゲッタリング部が放射線の入射に影響しないように放射線を検出することができる。
【0010】
本発明に係る半導体検出器は、前記第2半導体部は複数の曲線部からなり、前記ゲッタリング部は、前記複数の曲線部の夫々の上に設けられていることを特徴とする。
【0011】
第1半導体部の一面に設けられており第2半導体部をなす複数の曲線部の上に設けられていることにより、半導体検出器の広い範囲にゲッタリング部が設けられる。第1半導体部中の不純物からゲッタリング部までの距離が短くなり、不純物が容易にトラップされる。
【0012】
本発明に係る半導体検出器では、前記ゲッタリング部の主成分はn型のポリシリコンであることを特徴とする。
【0013】
第2半導体部に直接接触しているゲッタリング部はポリシリコンで形成されており、シリコンからなる第1半導体部に含まれる不純物がゲッタリング部にトラップされる。
本発明に係る半導体検出器では、前記第2半導体部には、前記信号出力電極へ前記電子又は前記正孔が集まるような電界を前記第1半導体部内に生成させるための電圧が印加されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る放射線検出器は、本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が実装された回路基板と、前記半導体検出器及び前記回路基板を保持するベースプレートとを備えることを特徴とする。
【0015】
冷却以外の方法で半導体検出器のリーク電流が低減され、半導体検出器を冷却する冷却部を省くか又は小さくすることができる。
【0016】
本発明に係る放射線検出装置は、本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0017】
半導体検出器を用いた放射線検出器を小型化することができる。このため、放射線検出器を備えた放射線検出装置の設計の自由度が向上する。
【0018】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線を照射された試料から発生する放射線を検出する放射線検出装置において、試料へ放射線を照射する照射部と、前記試料から発生した放射線を検出する本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0019】
半導体検出器を用いた放射線検出器を小型化することができる。このため、放射線検出器を備えた放射線検出装置の設計の自由度が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明にあっては、冷却以外の方法でリーク電流を低減させることができる。半導体検出器を冷却する冷却部を省くか又は小さくして放射線検出器を構成することが可能となり、放射線検出器が小型化する。放射線検出器を備えた放射線検出装置の設計の自由度が向上し、適切な設計により高精度での放射線の検出が可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】半導体検出器の模式的な断面構造及び半導体検出器の電気的な接続態様を示すブロック図である。
図2】半導体検出器の模式的斜視図である。
図3】半導体検出器を備える放射線検出器の模式的斜視図である。
図4】実施形態1に係る放射線検出器の模式的断面図である。
図5】放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】リーク電流の測定結果を示す特性図である。
図7】実施形態2に係る放射線検出器の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、半導体検出器の模式的な断面構造及び半導体検出器の電気的な接続態様を示すブロック図である。図2は、半導体検出器の模式的斜視図である。半導体検出器1は、SDD(Silicon Drift Detector)である。半導体検出器1は、Si(シリコン)からなる円板状又は角板状のSi層11を備えている。Si層11の成分は例えばn型のSiである。Si層11は第1半導体部である。Si層11の一面の中央には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極14が設けられている。信号出力電極14の成分は、Si層11と同型のSiでリン等の特定のドーパントがドープされたものである。信号出力電極14には特定のドーパントがSi層11よりも高濃度にドープされている。また、Si層11の一面には、多重のリング状電極12が設けられている。リング状電極12の成分は、Si層11とは異なる型のSiである。例えば、リング状電極12の成分は、ホウ素等の特定のドーパントがSiにドープされたp+Siである。リング状電極12でのドーパント濃度はSi層11よりも高濃度になっている。リング状電極12は、Si層11に接して設けられている。複数のリング状電極12はほぼ同心であり、複数のリング状電極12のほぼ中心に信号出力電極14が位置している。図中には三つのリング状電極12を示しているが、実際にはより多くのリング状電極12が形成されている。複数のリング状電極(曲線部)12は、第2半導体部である。なお、リング状電極12の形状は円環が変形した形状であってもよく、多重のリング状電極12は同心でなくともよい。また、リング状電極12は一部が分断されていてもよい。また、信号出力電極14は、多重のリング状電極12の中心以外の位置に配置されていてもよい。
【0023】
Si層11の他面には、バイアス電圧が印加される電極である裏側電極16がほぼ全面に形成されている。裏側電極16の成分はSi層11とは異なる型のSiである。例えば、裏側電極16の成分はp+Siである。また、各リング状電極12の上には、ゲッタリング部13が形成されている。ゲッタリング部13は、Si中の不純物を獲得することができる性質を有する。例えば、ゲッタリング部13の成分はn型のポリシリコンである。n型のポリシリコンは、Siから不純物を獲得する。例えば、ゲッタリング部13を構成するn型のポリシリコンは、リン又はヒ素がドープされている。リング状電極12の上にゲッタリング部13が設けられていることによって、ゲッタリング部13はリング状電極12に接している。Si層11の一面で信号出力電極14及びリング状電極12が形成されていない部分には、絶縁層15が形成されている。絶縁層15の成分は、例えばSiO2 である。絶縁層15によって、ゲッタリング部13はSi層11には接していない。また、多重のリング状電極12の内、最も信号出力電極14に近いリング状電極12と最も信号出力電極14から遠いリング状電極12とに設けられたゲッタリング部13の上には、金属電極17が設けられている。信号出力電極14の上には、金属電極18が設けられている。図2では、金属電極17及び18を省略してある。なお、最も信号出力電極14に近いリング状電極12及び最も信号出力電極14から遠いリング状電極12とは別のリング状電極12に設けられたゲッタリング部13の上にも金属電極17が設けられていてもよい。
【0024】
金属電極17には、電圧印加部31が接続している。最も信号出力電極14に近いリング状電極12と最も信号出力電極14から遠いリング状電極12とには、金属電極17及びゲッタリング部13を通して電圧印加部31から電圧を印加される。電圧印加部31は、最も信号出力電極14に近いリング状電極12と最も信号出力電極14から遠いリング状電極12との間で電位差が発生するように、電圧を印加する。例えば、最も信号出力電極14に近いリング状電極12の電位が高く、最も信号出力電極14から遠いリング状電極12の電位が低くなるように電圧が印加される。また、半導体検出器1は、隣接するリング状電極12の間に、所定の電気抵抗が発生するように構成されている。例えば、隣接するリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分の成分を調整することで、電気抵抗を介して二つのリング状電極12が接続されるチャネルが形成されている。即ち、複数のリング状電極12は、電気抵抗を介して数珠つなぎに接続されている。このような複数のリング状電極12に電圧印加部31から電圧が印加されることによって、夫々のリング状電極12は、外側のリング状電極12から内側のリング状電極12に向けて順々に変化する電位を有する。例えば、リング状電極12の電位は、外側から内側に向けて順々に増加する。なお、複数のリング状電極12の中に、電位が同じ隣接する一対のリング状電極12が含まれていてもよい。複数のリング状電極12の電位によって、Si層11内には、外側から中央にかけて電位が徐々に変化する電界が生成される。例えば、段階的に中央に近いほど電位が高く外側ほど電位が低くなる電界が生成される。更に、電圧印加部31は、リング状電極12と裏側電極16との間に電位差が発生するように、裏側電極16にバイアス電圧を印加する。例えば、リング状電極12よりも裏側電極16の電位が低くなるようにバイアス電圧が印加され、Si層11の内部には、信号出力電極14に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。このように、電圧印加部31は、Si層11内で放射線により発生した電子又は正孔が信号出力電極14へ集まるような電界をSi層11内に生成させるべく、電圧を印加する。
【0025】
信号出力電極14には、金属電極18を介して前置増幅器21が接続されている。前置増幅器21には、主増幅器32が接続されている。半導体検出器1は、全体的に円板状又は角板状になっており、裏側電極16が形成されている側の面が放射線の入射面となるように使用される。X線、電子線又は粒子線等の放射線は、裏側電極16を通過してSi層11内へ入射し、Si層11内で放射線のエネルギーに応じた量の電荷が発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷(例えば電子)は、Si層11の内部の電界によって移動し、信号出力電極14へ集中して流入する。例えば、放射線のエネルギーに応じた量の電子が発生し、発生した電子が信号出力電極14へ流入する。信号出力電極14へ流入した電荷は電流信号となって前置増幅器21へ入力される。前置増幅器21は、電流信号を電圧信号へ変換し、主増幅器32へ出力する。主増幅器32は、前置増幅器21からの電圧信号を増幅し、半導体検出器1へ入射した放射線のエネルギーに応じた強度の信号を出力する。主増幅器32は、本発明における出力部に対応する。
【0026】
図3は、半導体検出器1を備える放射線検出器2の模式的斜視図であり、図4は、実施形態1に係る放射線検出器2の模式的断面図である。放射線検出器2は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状のハウジング25を備えている。ハウジング25の先端には、放射線を通過させる窓26が設けられている。ハウジング25の内部には、半導体検出器1と、回路基板22と、遮蔽板23と、ベースプレート24とが配置されている。ベースプレート24はステムとも言う。半導体検出器1は、回路基板22の表面に実装されており、窓26に対向する位置に配置されている。回路基板22には、配線が形成され、前置増幅器21が実装されている。回路基板22には、半導体検出器1へ電圧を印加するための配線と、前置増幅器21から主増幅器32へ信号を出力するための配線とが形成されている。回路基板22は、遮蔽板23を介在させてベースプレート24に固定されている。
【0027】
ベースプレート24は、回路基板22及び遮蔽板23が載置されて固定される平板状の部分と、ハウジング25の底部を貫通している部分とを有している。半導体検出器1を実装した回路基板22がベースプレート24に固定されていることによって、ベースプレート24は半導体検出器1及び回路基板22を保持している。遮蔽板23は、X線を遮蔽する材料で形成されており、回路基板22とベースプレート24との間に配置されている。遮蔽板23は、ベースプレート24に放射線が入射した場合にベースプレート24から発生した二次X線を、半導体検出器1へ入射しないように遮蔽する。更に、放射線検出器2は、ハウジング25の底部を貫通した複数のリードピン27を備えている。リードピン27は、ワイヤボンディング等の方法で回路基板22に接続されている。電圧印加部31による半導体検出器1への電圧の印加と、前置増幅器21から主増幅器32への信号の出力はリードピン27を通じて行われる。なお、ベースプレート24は、遮蔽板23と接触していてもよく、回路基板22と接触していてもよい。
【0028】
図5は、放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器2には、半導体検出器1及び前置増幅器21が含まれている。電圧印加部31及び主増幅器32は、放射線検出器2の外部に配置されている。前置増幅器21は、一部が回路基板22に実装され、他の部分が回路基板22の外部に配置されていてもよい。放射線検出装置は、試料5を保持する試料保持部51と、X線、電子線又は粒子線等の放射線を試料5へ照射する照射部33と、照射部33の動作を制御する照射制御部34とを備えている。照射部33から試料5へ放射線が照射され、試料5では蛍光X線等の放射線が発生する。放射線検出器2は、試料5から発生した放射線が半導体検出器1へ入射することができる位置に配置されている。図中には、放射線を矢印で示している。前述したように、主増幅器32は、半導体検出器1が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する。主増幅器32には、出力した信号を処理する信号処理部41が接続されている。信号処理部41は、主増幅器32が出力した各値の信号をカウントし、放射線のエネルギーとカウント数との関係、即ち放射線のスペクトルを生成する処理を行う。信号処理部41は、本発明におけるスペクトル生成部に対応する。
【0029】
信号処理部41は、分析部42に接続されている。分析部42は、演算を行う演算部及びデータを記憶するメモリを含んで構成されている。信号処理部41は、生成したスペクトルを示すデータを分析部42へ出力する。分析部42は、信号処理部41からのデータを入力され、入力されたデータが示すスペクトルに基づき、試料5に含まれる元素を同定する処理を行う。分析部42は、試料5に含まれる各種の元素の量を計算する処理を行ってもよい。分析部42には、液晶ディスプレイ等の表示部44が接続されている。表示部44は、分析部42による処理の結果を表示する。また、表示部44は、信号処理部41に接続されており、信号処理部41が生成したスペクトルを表示する。更に、放射線検出装置は、全体の動作を制御する制御部43を備えている。制御部43は、電圧印加部31、主増幅器32、照射制御部34及び分析部42に接続されており、各部の動作を制御する。制御部43は、例えば、パーソナルコンピュータで構成されている。制御部43は、使用者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じて放射線検出装置の各部を制御する構成であってもよい。また、制御部43及び分析部42は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0030】
本実施形態では、ゲッタリング部13は、シリコンでなるSi層11及びリング状電極12から不純物を獲得する。Si層11中の鉄、銅、ニッケル、クロム又は金などの不純物は、リング状電極12を通り、ゲッタリング部13でトラップされる。このため、Si層11内の不純物濃度が減少する。半導体検出器1に発生するリーク電流の原因は、Si層11中の不純物である。Si層11内の不純物が減少することによって、リーク電流が低減される。リーク電流が低減することによって、半導体検出器1から出力される信号のノイズが低減される。即ち、本実施形態では、半導体検出器1を冷却することなくリーク電流が低減される。
【0031】
本実施形態に係る半導体検出器1とゲッタリング部13を備えていないSDDとでリーク電流を比較する実験を行った。実験では、電圧印加部31からリング状電極12に電圧を印加し、放射線が入射していない状態で、信号出力電極14から出力されるリーク電流を測定した。図6は、リーク電流の測定結果を示す特性図である。横軸は最も信号出力電極14から遠いリング状電極12に印加されたバイアス電圧を示し、縦軸は信号出力電極14から出力されるリーク電流を示す。また、本実施形態に係る半導体検出器1から得られたリーク電流の測定結果を実線で示し、ゲッタリング部13を備えていないSDDから得られたリーク電流の測定結果を破線で示す。バイアス電圧が-150Vのときのリーク電流を比較すると、図6に示すように、半導体検出器1がゲッタリング部13を備えることによってリーク電流が約1/5に低減することが確認された。
【0032】
従来、SDDを約7℃冷却することによりリーク電流が約1/2になることが知られている。ゲッタリング部13によりリーク電流が約1/5へ低減されるという実験結果は、半導体検出器1がゲッタリング部13を備えることにより、半導体検出器1を約16℃冷却した場合と同等の効果が得られることを示している。従って、半導体検出器1は、ゲッタリング部13を備えていないものに比べて、約16℃高い温度でも動作することが可能である。例えば、半導体検出器1は、冷却をせずに室温で動作することが可能である。
【0033】
本実施形態では、SDDである半導体検出器1を冷却せずにリーク電流を低減させることができるので、図4に示すように、冷却部を省いて放射線検出器2を構成することが可能である。このように、本実施形態では、従来必要であった部品を省いて放射線検出器2を構成することができるので、放射線検出器2の小型化を促進することが可能となる。放射線検出器2が小型化することによって、放射線検出装置の設計の自由度が向上する。設計の自由度が向上することにより、適切な位置に放射線検出器2を配置する等、放射線検出装置を適切に設計することが可能となる。例えば、試料5からの放射線が最適な立体角で半導体検出器1へ入射する位置に放射線検出器2を配置することにより、放射線検出の精度を向上させることができる。従って、本実施形態に係る放射線検出装置を用いることにより、高精度での放射線の検出が可能となる。
【0034】
ゲッタリング部13は、Si層11の放射線の入射側とは逆の面に設けられたリング状電極12の上に設けられており、その他の部分には設けられていない。Si層11の内部、又は放射線の入射側の面に設けられてはいないので、ゲッタリング部13は、Si層11への放射線の入射及びSi層11内での電荷の生成に影響を及ぼすことが無く、ゲッタリング部13によって放射線の検出効率が低下することは無い。また、ゲッタリング部13は、Si層11と直接に接していないので、ゲッタリング部13からSi層11へホウ素、リン又はヒ素等のドーパントが侵入することが無く、Si層11の成分が変化して特性が変化することが防止される。ゲッタリング部13はリング状電極12に接しているものの、リング状電極12は、ドーパント濃度がSi層11よりも高濃度であり、ゲッタリング層13からのドーパントの影響を相殺するために十分に深いので、ゲッタリング部13からのドーパントの影響はほとんど無い。このため、ゲッタリング部13は半導体検出器1の性能に悪影響を及ぼさない。ゲッタリング部13は半導体検出器1の動作に悪影響を与えることが無いので、ゲッタリング部13を設けたままで半導体検出器1を使用することが可能である。即ち、半導体検出器1の製造時に途中でゲッタリング部13を除去する必要が無く、製造工程の最後までゲッタリング部13を設けておくことができる。従って、半導体検出器1の製造工程の途中で意図せず混入する不純物を製造工程の最後まで確実にトラップすることができる。
【0035】
また、Si層11の一面に設けられた複数のリング状電極12の上に設けられていることで、ゲッタリング部13は、半導体検出器1の一面の広い範囲に設けられている。半導体検出器1のごく一部ではなく広くゲッタリング部13が設けられているので、Si層11内の不純物からゲッタリング部13までの距離が短く、不純物が容易にゲッタリング部13にトラップされる。従って、効果的にリーク電流が低減され、放射線検出の精度が向上する。
【0036】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る放射線検出器2の模式的断面図である。放射線検出器2は、半導体検出器1を冷却するための冷却部28を備えている。例えば、冷却部28はペルチェ素子である。ベースプレート24の平板状の部分には、冷却部28の放熱部分が熱的に接触している。遮蔽板23は、冷却部28と回路基板22との間に配置されており、冷却部28の吸熱部分に熱的に接触している。遮蔽板23は、冷却部28又はベースプレート24に放射線が入射した場合に冷却部28又はベースプレート24から発生したX線を、半導体検出器1へ入射しないように遮蔽する。半導体検出器1の熱は、回路基板22及び遮蔽板23を通じて冷却部28に吸熱され、冷却部28からベースプレート24へ伝わり、ベースプレート24を通じて放射線検出器2外へ放熱される。放射線検出器2のその他の構成は実施形態1と同様である。また、放射線検出装置の構成は、実施形態1と同様である。
【0037】
本実施形態では、冷却部28で半導体検出器1を冷却することに加えて、ゲッタリング部13の作用により、半導体検出器1のリーク電流を低減させている。冷却部28による冷却能力を低下させても半導体検出器1を動作させることができるので、冷却部28を小型化して放射線検出器2の小型化を促進することが可能となる。また、冷却部28による冷却だけでは十分にリーク電流を低減させることができない大きさの半導体検出器1でも、ゲッタリング部13を備えることにより、動作が可能である。従って、入射面積を大きくした半導体検出器1を用いることが可能となり、放射線検出の効率を向上させることができる。また、ゲッタリング部13を備えた半導体検出器1を冷却部28で冷却することにより、従来よりもリーク電流が低減され、半導体検出器1から出力される信号のノイズがより低減される。従って、放射線検出の精度を向上させることができる。
【0038】
なお、以上の実施形態1及び2では、半導体検出器1が多重のリング状電極12を備えた形態を示したが、半導体検出器1は、多重のリング状電極12の代わりに、リング状以外の形状の複数の曲線状電極を備えた形態であってもよい。夫々の曲線状電極は、信号出力電極14までの距離が互いに異なる。複数の曲線状電極は、電圧印加部31から電圧が印加され、順々に異なる電位を呈し、Si層11内に信号出力電極14へ向けて電位が徐々に変化する電界を生成させる。例えば、各曲線状電極の形状は弧状であってもよい。
【0039】
また、以上の実施形態1及び2では、半導体検出器1がSDDである例を示したが、半導体検出器1は、PINダイオードを用いた検出器等、SDD以外の検出器であってもよい。また、半導体検出器1は、ゲッタリング部13がp+Siでなるリング状電極12に接して設けられた形態に限るものではない。ゲッタリング部13は、放射線検出のために内部に電界が生成される第1半導体部よりもドーパント濃度が高い第2半導体部であれば、接して設けられることが可能である。例えば、ゲッタリング部13は、n+Siでなる半導体部に接して設けられていてもよい。また、実施形態1及び2では、ゲッタリング部13の成分がポリシリコンである形態を示したが、Si中の不純物を獲得する性質のある材料であれば、ゲッタリング部13の成分はポリシリコン以外の物質であってもよい。
【0040】
また、実施形態1及び2では、第1半導体部(Si層11)がn型半導体でなり第2半導体部(リング状電極12)がp型半導体でなる例を主に示したが、半導体検出器1は、第1半導体部がp型半導体でなり第2半導体部がn型半導体でなる形態であってもよい。また、実施形態1及び2では、放射線により発生した電子が信号出力電極14へ集中して流入する形態を主に示したが、半導体検出器1は、放射線により発生した正孔が信号出力電極14へ集中して流入する形態であってもよい。また、放射線検出装置は、照射部33を備えておらず、外部から入射した放射線を検出する形態であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体検出器
11 Si層(第1半導体部)
12 リング状電極(第2半導体部)
13 ゲッタリング部
14 信号出力電極
2 放射線検出器
21 前置増幅器
22 回路基板
24 ベースプレート
28 冷却部
31 電圧印加部
32 主増幅器(出力部)
33 照射部
41 信号処理部(スペクトル生成部)
44 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7