(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】トリテルペノイド高含有種子抽出物の製造方法及びトリテルペノイド高含有種子抽出物
(51)【国際特許分類】
C07J 73/00 20060101AFI20220929BHJP
C07D 493/14 20060101ALI20220929BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220929BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20220929BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20220929BHJP
A61P 3/06 20060101ALN20220929BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20220929BHJP
A61P 39/02 20060101ALN20220929BHJP
A61K 31/37 20060101ALN20220929BHJP
A61K 36/752 20060101ALN20220929BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
C07J73/00
C07D493/14
A61P35/00
A61P29/00
A61P25/04
A61P3/06
A61P25/00
A61P39/02
A61K31/37
A61K36/752
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2018044352
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】512264921
【氏名又は名称】株式会社 沖縄リサーチセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】禹 済泰
(72)【発明者】
【氏名】照屋 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山野 亜紀
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0237885(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0116509(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102153615(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108642117(CN,A)
【文献】日本農芸化学会誌,1991年,65(6),pp.987-992
【文献】Proceedings of the International Society of Citriculture,1983年,1981(2),901-905
【文献】Food Sci. Technol. Int. ,1995年,1(2),74-76
【文献】Journal of Chromatography ,1993年,639,295-302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
C07D
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(
5)を含む、トリテルペノイド含有種子抽出物の製造方法
であって、前記トリテルペノイドはノミリン及びリモニンである、前記方法。
(1)柑橘類の種子を、
60vol%~80vol%エタノールを用いた抽出処理に供することにより、種子粗抽出液を得る工程
(2)前記種子粗抽出液を、加水処理及び濃縮処理に供することにより、種子粗抽出物を得る工程
(3)前記種子粗抽出物を、酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
(4)前記第1の沈殿物を、乾燥処理及び洗浄処理に供することにより、第2の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第2の上清を得る工程
(5)前記第2の上清を、静置処理に供することにより、第3の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【請求項2】
以下の工程(1)~(3)及び(6)~(7)を含む、トリテルペノイド含有種子抽出物の製造方法であって、前記トリテルペノイドはノミリン及びリモニンである、前記方法。
(1)柑橘類の種子を、60vol%~80vol%エタノールを用いた抽出処理に供することにより、種子粗抽出液を得る工程
(2)前記種子粗抽出液を、加水処理及び濃縮処理に供することにより、種子粗抽出物を得る工程
(3)前記種子粗抽出物を、酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
(6)前記第1の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第4の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第4の上清を得る工程
(7)前記第4の上清を、乾燥処理、
エタノールを用いた溶媒添加処理及び静置処理に供することにより、第5の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【請求項3】
さらに下記の工程(8)を含む、請求項
2に記載の方法。
(8)前記第5の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第6の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【請求項4】
前記柑橘類は、シークヮーサー(Citrus depressa)、ウンシュウミカン(C.unshiu)、タチバナ(C.tachibana)、コウジ(C.leiocarpa)、ギリミカン(C.tardiva)、ジミカン(C.succosa)、キシュウ(C.kinokuni)、コベニミカン(C.erythrosa)、スンキ(C.sunki)、チチュウカイマンダリン(C.deliciosa)、キング(C.nobilis)、ポンカン(C.retuculata)、ダンシータンジェリン(C.tangerina)、ハナユ(C.hanayu)、マンダリンオレンジ(C.reticulata)、サンキ(C.sunki)、コウライタチバナ(C.nippokoreana)、シラヌヒ及び清見からなる群から選ばれる少なくとも1種の柑橘類である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の沈殿物は、ノミリンの含有量に対して、リモニンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記第4の沈殿物
又は前記第5の沈殿
物は、リモニンの含有量に対して、ノミリンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物である、請求項
2に記載の方法。
【請求項7】
前記第6の沈殿物は、リモニンの含有量に対して、ノミリンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シークヮーサーなどの柑橘類の種子を用いたトリテルペノイド高含有種子抽出物の製造方法及びトリテルペノイド高含有種子抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類が生合成するトリテルペノイドとして、リモニン、ノミリン、イーチャンギン、オバクノンなどのリモノイドが知られている。リモノイドは一般的には苦味を呈することから、リモノイドが多く含まれる部分、例えば、果皮や種子などは、柑橘類を加工する際に除かれる。
【0003】
一方で、リモノイドの中には、抗腫瘍作用、解毒代謝酵素の活性作用、麻酔時の睡眠時間短縮作用、鎮痛作用、血清脂質代謝改善作用などの生理活性を有するものがある(特許文献1を参照)。
【0004】
リモノイドのうち、オバクノンの製造方法については、特許文献2において知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-083150号公報
【文献】特開平6-199864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法によれば、ノミリンをアセトニトリルに溶解し、次いで得られた溶液を、アルカリ処理に供することにより、オバクノンが得られる。しかし、特許文献2には、柑橘類の種子からノミリンを単離する方法については、詳細な開示がない。
【0007】
また、例えば、柑橘類の果皮に含まれるリモノイドの総量は0.01wt%程度であり、非常に微量である。このような微量のリモノイドを、工業的規模で効率良く得る方法は、ほとんど知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、工業的規模での実施が可能であるように、簡便かつ経済的な、リモノイドなどのトリテルペノイドを高濃度で含有するトリテルペノイド含有抽出物を製造する方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、柑橘類の種子を抽出処理に供することにより得た種子粗抽出液を、加水処理に供し、次いで酸処理及び加塩処理に供することにより、ノミリンやリモニンなどのトリテルペノイドの含有量が大きい種子抽出物が得られることを見出した。さらに得られた種子抽出物を、該種子抽出物の水分含量に応じた処理に供することにより、ノミリン及びリモニンのいずれか一方の含有量が大きく、かつ、これらの量が全体の60wt%以上を占めるトリテルペノイド高含有物を製造することに成功した。本発明はこのような知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0010】
したがって、本発明の一態様によれば、以下の[1]~[8]に示す方法が提供される。
[1]以下の工程(1)~(3)を含む、トリテルペノイド含有種子抽出物の製造方法。
(1)柑橘類の種子を、トリテルペノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、種子粗抽出液を得る工程
(2)前記種子粗抽出液を、加水処理及び濃縮処理に供することにより、種子粗抽出物を得る工程
(3)前記種子粗抽出物を、酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
[2]さらに下記の工程(4)及び(5)を含む、[1]に記載の方法。
(4)前記第1の沈殿物を、乾燥処理及び洗浄処理に供することにより、第2の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第2の上清を得る工程
(5)前記第2の上清を、静置処理に供することにより、第3の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
[3]さらに下記の工程(6)及び(7)を含む、[1]に記載の方法。
(6)前記第1の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第4の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第4の上清を得る工程
(7)前記第4の上清を、乾燥処理、溶媒添加処理及び静置処理に供することにより、第5の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第5の上清を得る工程
[4]さらに下記の工程(8)を含む、[3]に記載の方法。
(8)前記第5の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第6の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
[5]前記柑橘類は、シークヮーサー(Citrus depressa)、ウンシュウミカン(C.unshiu)、タチバナ(C.tachibana)、コウジ(C.leiocarpa)、ギリミカン(C.tardiva)、ジミカン(C.succosa)、キシュウ(C.kinokuni)、コベニミカン(C.erythrosa)、スンキ(C.sunki)、チチュウカイマンダリン(C.deliciosa)、キング(C.nobilis)、ポンカン(C.retuculata)、ダンシータンジェリン(C.tangerina)、ハナユ(C.hanayu)、マンダリンオレンジ(C.reticulata)、サンキ(C.sunki)、コウライタチバナ(C.nippokoreana)、シラヌヒ及び清見からなる群から選ばれる少なくとも1種の柑橘類である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記トリテルペノイドは、リモノイドである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]前記リモノイドは、リモニン、ノミリン、ノミリン酸、デアセチルノミリン、イーチャンギン及びオバクノンからなる群から選ばれる少なくとも1種のリモノイドである、[6]に記載の方法。
[8]前記第2の沈殿物は、ノミリンの含有量に対して、リモニンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物である、[1]~[2]及び[5]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9]前記第4の沈殿物、前記第5の沈殿物又は前記第6の沈殿物は、リモニンの含有量に対して、ノミリンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物である、[1]及び[3]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
【0011】
本発明の別の一態様によれば、以下の[10]~[11]に示す抽出物が提供される。
[10]原料が柑橘類の種子であり、かつ、1~90wt%のトリテルペノイドを含有する、トリテルペノイド含有種子抽出物。
[11][1]~[9]のいずれか1項に記載の方法によって得られる、1~90wt%のトリテルペノイドを含有する、トリテルペノイド含有種子抽出物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様の方法によれば、複雑な設備や装置などがなくとも、柑橘類の種子から簡便な工程によって、夾雑物の量を低減して、トリテルペノイドの含有量を著しく高めた、トリテルペノイド高含有物を得ることができる。したがって、本発明の一態様の方法は、工業的規模での実施が可能であるように、簡便かつ経済的に、トリテルペノイド高含有物を製造することができる方法である。また、本発明の一態様の方法によれば、所望のとおりに、ノミリン及び/又はリモニンの含有量の大きいトリテルペノイド高含有物を製造することができる。
【0013】
本発明の一態様のトリテルペノイド含有種子抽出物によれば、トリテルペノイド含有抽出物それ自体又はトリテルペノイド含有種子抽出物から精製して得られる精製トリテルペノイドを有効成分とした、抗腫瘍作用、解毒代謝酵素の活性作用、麻酔時の睡眠時間短縮作用、鎮痛作用、血清脂質代謝改善作用などの生理活性作用を期待した多種多様な飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の態様の方法を模式化したフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の第2の態様の方法を模式化したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一態様である方法及び抽出物の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0016】
本発明の一態様の方法は、柑橘類の種子を、抽出処理、加水処理、酸処理及び加塩処理などに順次供することにより、トリテルペノイドを高含有する種子抽出物を製造する方法に関する。より具体的に、本発明の一態様の方法は、少なくとも以下の工程(1)~(3)を含む。
(1)柑橘類の種子を、トリテルペノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、種子粗抽出液を得る工程
(2)前記種子粗抽出液を、加水処理及び濃縮処理に供することにより、種子粗抽出物を得る工程
(3)前記種子粗抽出物を、酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【0017】
トリテルペノイド含有種子抽出物は、柑橘類の種子を原料として、トリテルペノイドを比較的高い濃度で含有する。
【0018】
トリテルペノイドは、通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、トリテルペノイドとは、5個の炭素からなるイソプレン単位が6個結合して30個の炭素原子から構成される脂溶性の化合物群ということができる。本発明の一態様の方法で得られる抽出物に含まれるトリテルペノイドとしては、ラクトン環及びフラン環の両方を有する環式化合物であるリモノイドが好ましく、リモニン、ノミリン、ノミリン酸、デアセチルノミリン、イーチャンギン及びオバクノンがより好ましく、リモニン及びノミリンがさらに好ましい。
【0019】
柑橘類は、種子にトリテルペノイドを含有する柑橘類植物であれば特に限定されない。柑橘類としては、例えば、キノット、ジャッファ・オレンジ、ジョッパ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、福原オレンジ、ブラッドオレンジ、ベルガモットなどのオレンジ類;オランジェロ、グレープフルーツなどのグレープフルーツ類;カボス、清岡橙、コブミカン、三宝柑、シークヮーサー、シトロン、スダチ、ダイダイ、新姫、ブッシュカン、ゆうこう、柚柑、ユズ、ライム、レモンなどの香酸柑橘類;カクテルフルーツ、カワノナツダイダイ、黄蜜柑、ジャバラ、湘南ゴールド、スウィーティー、夏ミカン、八朔(ハッサク)、はるか、媛小春、日向夏などの雑柑類;安芸の輝き(デコポン)、伊予柑、愛媛果試第28号、清見、佐賀果試34号(デコポン)、師恩の恵、シラヌヒ(デコポン)、せとか、せとみ、大将季(デコポン)、タンカン、はるみ、肥の豊(デコポン)、マーコット、麗紅などのタンゴール類;アグリフルーツ、サマーフレッシュ、スイートスプリング、セミノール、タンジェロ、ミネオラなどのタンジェロ類;安政柑、河内晩柑、晩白柚、ブンタン(ザボン)などのブンタン類;温州ミカン、大津四号、カラマンシー、甘平、紀州ミカン、コウジ(柑橘類)、桜島ミカン、タチバナ、藤中みかん、ポンカン、マンダリンオレンジなどのミカン類;カラタチなどのカラタチ属;長葉金柑、長実金柑、寧波金柑、福州金柑、香港金柑、丸実金柑などのキンカン属などが挙げられるが、好ましくはミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ミカン区の柑橘類及びミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜族ダイダイ区の柑橘類であり、より好ましくはシークヮーサー(Citrus depressa)、ウンシュウミカン(C.unshiu)、タチバナ(C.tachibana)、コウジ(C.leiocarpa)、ギリミカン(C.tardiva)、ジミカン(C.succosa)、キシュウ(C.kinokuni)、コベニミカン(C.erythrosa)、スンキ(C.sunki)、チチュウカイマンダリン(C.deliciosa)、キング(C.nobilis)、ポンカン(C.retuculata)、ダンシータンジェリン(C.tangerina)、ハナユ(C.hanayu)、マンダリンオレンジ(C.reticulata)、サンキ(C.sunki)、コウライタチバナ(C.nippokoreana)、シラヌヒ及び清見などであり、さらに好ましくはシークヮーサーである。また、これらの柑橘類は1種又は2種以上であればよく、上記具体例として挙げた柑橘類の交配種であってもよい。
【0020】
柑橘類の種子は、種子のみであっても、種子にフラベド(外果皮)、アルベド(中果皮)、維管束、油胞、果心、じょうのう、果肉(砂じょう)などが付着したものであってもよいが、種子のみであることが好ましい。柑橘類から種子を得る方法は特に限定されず、例えば、公知の機械的な方法や手動による方法などが挙げられる。
【0021】
柑橘類の種子は、収穫直後のものであっても、収穫した後に乾燥処理、粉砕処理、細片化処理及びこれらを組み合わせた処理などの前処理に供したものであってもよい。本発明の一態様の方法に供するまでに時間を要する場合、柑橘類の種子の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵することが好ましい。
【0022】
柑橘類の種子の前処理としては、例えば、乾燥処理と細断化処理又は粉砕処理を組み合わせることにより、柑橘類の種子を乾燥粉末化することができる。この際、乾燥処理及び粉砕処理は同時に行ってもよく、又はいずれを先に行ってもよいが、作業の簡便性から乾燥処理を先に行った後に粉砕処理を行うことが好ましい。
【0023】
乾燥処理は特に限定されないが、例えば、柑橘類の種子の水分含量が該種子の全体量に対して10質量%(wt%)以下、好ましくは5wt%以下となるように乾燥する処理などが挙げられる。乾燥処理は、例えば、天日で乾燥する方法、乾燥機を用いて熱風乾燥、温風乾燥、高圧蒸気乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、流動乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、30℃~140℃、好ましくは40℃~100℃にて加温により柑橘類の種子やトリテルペノイドが変質しない温度及び時間で行われ得る。
【0024】
細断化処理は特に限定されないが、例えば、柑橘類の種子を最大長が5mm以下、好ましくは3mm以下の大きさになるように細断化する処理などが挙げられる。細断化処理は、例えば、ハサミ、包丁及びカッターなどの刃物、フードプロセッサー及びスライサーなどの細断化用の機器や器具などを用いて、当業者が通常使用する任意の方法により、柑橘類の種子を粗みじん切り、みじん切り、スライスなどにする処理が挙げられる。柑橘類の種子の細断物は、その形状については特に限定されず、例えば、立方体状、直方体状、楕円状、円状、不定形状のものなどが挙げられる。
【0025】
粉砕処理は特に限定されないが、例えば、ミキサー、ジューサー、クラッシャー、ミル、ブレンダー、マスコロイダー、石臼などの粉砕用の機器や器具などを用いて、当業者が通常使用する任意の方法により、柑橘類の種子を粉砕する処理が挙げられる。
【0026】
工程(1)では、柑橘類の種子を、トリテルペノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、種子粗抽出液を得る。
【0027】
トリテルペノイド可溶性溶媒は、トリテルペノイドを溶解することができる溶媒であれば特に限定されず、例えば、リモニンやノミリンに対して溶解性を示す溶媒、具体的にはエタノールや酢酸エチルなどの有機溶媒やこれらの有機溶媒と水との混合溶媒などが挙げられ、好ましくはエタノールと水との混合溶媒である含水エタノールである。トリテルペノイド可溶性溶媒として含水エタノールを用いる場合、例えば、20vol%(=20%(v/v))~100vol%エタノールとすることが好ましい。エタノール濃度が20vol%未満では抽出効率が悪い傾向にある。抽出効率に加えて、安全性及び工業化の観点からすれば、トリテルペノイド可溶性溶媒は、60vol%~80vol%エタノールがより好ましい。
【0028】
抽出処理の条件は、柑橘類の種子中のトリテルペノイドが溶媒に溶解するのに適した条件であれば特に限定されず、柑橘類の種子の状態や使用量、トリテルペノイド可溶性溶媒の種類や使用量に応じて適宜設定できる。抽出処理の条件は、例えば、柑橘類の種子とトリテルペノイド可溶性溶媒とから得られる処理溶液を適宜サンプリングすることにより、該処理溶液中のトリテルペノイドの濃度を確認することにより決定することができる。
【0029】
抽出処理の具体的条件としては、柑橘類の種子に対して2質量倍~10質量倍の20vol%~100vol%エタノールを用いて、10℃~40℃、好ましくは室温付近で、数時間~数日間の条件などが挙げられるが、これに限定されない。種子粗抽出液中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、種子粗抽出液を乾燥及び濃縮処理に供した場合の種子粗抽出液の濃縮物に含まれるリモニン及び/又はノミリンの含有量が、該濃縮物の全体量に対して、それぞれ3wt%以上であり、好ましくは4wt%以上であり、より好ましくは5wt%以上である。ただし、種子粗抽出液中のトリテルペノイドは、リモニンの含有量より、ノミリンの含有量が多くなる傾向にある。リモニン及びノミリンの含有量の測定は、後述する実施例に記載の方法によって実施すればよい。
【0030】
種子粗抽出液は、種子に由来する残渣を含む。そこで、後段の工程(2)の処理効率の観点から、工程(1)によって得た種子粗抽出液を、遠心分離やろ過などの通常知られている固液分離手段に供して、種子の残渣を取り除いた液体成分として取得することが好ましい。
【0031】
工程(2)では、工程(1)によって得られた種子粗抽出液を、加水処理及び濃縮処理に供することにより、種子粗抽出物を得る。
【0032】
加水処理は、種子粗抽出液に水を加えることにより種子粗抽出液におけるトリテルペノイドが水に溶解するような条件で実施する処理であれば特に限定されず、例えば、種子粗抽出液に対して0.01倍~3倍、好ましくは0.1倍~1倍の水と種子粗抽出液とを接触させて、10℃~40℃、好ましくは室温付近で、数分間~数時間~数日間、静置又は撹拌することにより実施できる。
【0033】
濃縮処理は、種子粗抽出液を通常知られる濃縮手段によって、種子粗抽出液における液体成分が揮散して減容化するような条件で実施する処理であれば特に限定されず、例えば、蒸発濃縮、減圧濃縮などの公知の濃縮手段によって、種子粗抽出液における液体成分を揮散させることにより実施できる。濃縮の程度は特に限定されないが、例えば、種子粗抽出物に含まれる液体成分の大部分が水であるようにして、1/2~1/20程度にまで減容化する程度などが挙げられる。
【0034】
種子粗抽出液を加水処理及び濃縮処理に供することにより得られる種子粗抽出物は、エマルジョンを呈し、遠心分離によっては分離が困難なものとして得られることが好ましい。
【0035】
工程(3)では、工程(2)によって得られた種子粗抽出物を、酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る。
【0036】
酸処理は、種子粗抽出物を酸性にする条件で実施する処理であれば特に限定されず、例えば、種子粗抽出物を酸性付近、好ましくはpHを1~3付近にし得る酸を用いて実施し得る。使用する酸は、通常酸処理に用いられる酸であれば特に限定されず、例えば、塩酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、硫酸、リン酸、柑橘類の果汁及びその抽出物などの無機酸及び有機酸などが挙げられるが、好ましくは塩酸である。酸は、水などのトリテルペノイド不溶性溶媒との混合物であってもよい。
【0037】
加塩処理は、種子粗抽出物と塩とを混合する条件で実施する処理であれば特に限定されず、例えば、酸性にした種子粗抽出物に、塩を加えて軽く混ぜることにより、実施し得る。塩の添加は、一度に全量の塩を加えることによって実施してもよく、少量の塩を数回に分けて加えることによって実施してもよい。使用する塩は、通常加塩処理に用いられる塩であれば特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの無機塩及び有機塩などが挙げられるが、好ましくは塩化ナトリウムである。
【0038】
塩の使用量は、酸性にした種子粗抽出物からトリテルペノイドが析出する程度の量であれば特に限定されず、例えば、塩化ナトリウムを使用する場合は、種子粗抽出物に対して0.1mg/ml~10mg/mlになるような量を使用することができる。なお、塩は、1度に、又は数回に分けて使用することができる。
【0039】
酸処理及び加塩処理の条件としては、種子粗抽出物をこれらの処理に供することによりトリテルペノイドが析出する限り、その他の条件は特に限定されない。酸処理及び加塩処理は、酸処理をした後に加塩処理をしてもよく、酸処理と加塩処理とを同時的に実施してもよい。種子粗抽出物は、酸処理及び加塩処理に供した後、数秒~数分~数時間、静置することが好ましい。
【0040】
種子粗抽出物を酸処理及び加塩処理に供することにより、第1の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得ることができる。第1の沈殿物を、液体成分から分離したければ、遠心分離やろ過などの通常知られている固液分離手段を利用すればよい。固液分離手段後の第1の沈殿物は、通常、水を含んだ湿潤状態にある。また、固液分離手段によって、第1の沈殿物と分離された液体成分は、本明細書では第1の上清とよぶ。第1の上清は、ノミリン及びリモニンの含有量が検出下限未満であることが好ましい。
【0041】
本発明の一態様の方法の具体的な方法である、本発明の第1の態様の方法は、工程(1)~(3)に加えて、さらに下記の工程(4)及び(5)を少なくとも含む。
(4)前記第1の沈殿物を、乾燥処理及び洗浄処理に供することにより、第2の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第2の上清を得る工程
(5)前記第2の上清を、静置処理に供することにより、第3の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【0042】
工程(4)では、工程(3)によって得られた第1の沈殿物を、乾燥処理及び洗浄処理に供することにより、第2の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第2の上清を得る。
【0043】
工程(4)における乾燥処理は、上記した乾燥処理によって、例えば、第1の沈殿物の水分含量が該沈殿物の全体量に対して5wt%以下、好ましくは1wt%以下となるように乾燥する。乾燥手段は特に限定されないが、凍結乾燥することが好ましい。
【0044】
工程(4)における洗浄処理は、乾燥処理を経た第1の沈殿物に対して、少量のトリテルペノイド貧溶媒を用いて、該沈殿物中のトリテルペノイド以外の不純物を溶出するように実施すれば、特に限定されない。洗浄処理は、例えば、沈殿物に対して十分に少ない量のエタノール、好ましくは沈殿物 100mg~5,000mgに対して、エタノール 0.5ml~1.5mlを加え、両者を軽く混合して、次いで遠心分離などすることにより沈殿物と上清とを分離することを1回~複数回繰り返すことなどにより実施することができる。洗浄処理により最終的に得られた沈殿物が、第2の沈殿物である。また、洗浄処理により沈殿物と分離した上清は、洗浄操作を繰り返す度に回収し、これらをまとめたものが第2の上清である。
【0045】
第2の沈殿物中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第2の沈殿物に含まれるノミリンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、20wt%以上であり、好ましくは25wt%以上であり;第2の沈殿物に含まれるリモニンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、30wt%以上であり、好ましくは35wt%以上であり;及び/又は、第2の沈殿物に含まれるノミリン及びリモニンの合計含有量が、該沈殿物の全体量に対して、50wt%以上であり、好ましくは60wt%以上であり、より好ましくは70wt%以上である。
【0046】
第2の沈殿物中のトリテルペノイドは、リモニンの含有量がノミリンよりも多くなる傾向にある。ノミリンの含有比率の高い種子粗抽出液から、リモニンの含有比率の高い第2の沈殿物が得られるということは、工程(1)~(4)を含む方法はリモニンを大量に得るための優れた方法であることを示す。
【0047】
工程(5)では、工程(4)で得られた第2の上清を、静置処理に供することにより、第3の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る。
【0048】
静置処理は、通常知られているとおりの静置処理であれば特に限定されず、例えば、格別な手段を講じることなく、第2の上清を0℃~30℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、十分な量の沈殿が確認されるまで放置することにより実施し得る。このようにして確認された沈殿が、第3の沈殿物である。第3の沈殿物を、液体成分から分離したければ、遠心分離やろ過などの通常知られている固液分離手段を利用すればよい。第3の沈殿物と分離した液体成分は、第3の上清である。第3の沈殿物は、所望により、洗浄処理に使用した溶媒を除去することにより、乾燥した第3の沈殿物が得られる。
【0049】
第3の沈殿物中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第3の沈殿物に含まれるリモニンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、20wt%以上であり、好ましくは25wt%以上であり;第3の沈殿物に含まれるノミリンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、30wt%以上であり、好ましくは35wt%以上であり;及び/又は、第3の沈殿物に含まれるノミリン及びリモニンの合計含有量が、該沈殿物の全体量に対して、50wt%以上であり、好ましくは60wt%以上である。第3の上清中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第3の上清に含まれるリモニン及びノミリンの含有量が、該上清の全体量に対して、それぞれ数wt%程度である。
【0050】
第2の沈殿物及び第3の沈殿物の収量は特に限定されないが、例えば、第2の沈殿物の量は、柑橘類の種子の全体量に対して、0.1mg/g以上であることが好ましく、1.0mg/g以上であることがより好ましく、2.0mg/g以上であることがさらに好ましく;及び/又は、第3の沈殿物の量は、柑橘類の種子の全体量に対して、0.1mg/g以上であることが好ましく、1.0mg/g以上であることがより好ましく、1.5mg/g以上であることがさらに好ましい。
【0051】
第2の沈殿物及び第3の沈殿物におけるリモニン及びノミリンの回収率は特に限定されないが、例えば、リモニンの回収率は、種子粗抽出液の濃縮物に含まれるリモニンの含有量に基づいて、40wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましく、60wt%以上であることがさらに好ましく;及び/又は、ノミリンの回収率は、種子粗抽出液の濃縮物に含まれるノミリンの含有量に基づいて、30wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、50wt%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の一態様の方法の具体的な方法である、本発明の第2の態様の方法は、工程(1)~(3)に加えて、さらに下記の工程(6)及び(7)を少なくとも含む。
(6)前記第1の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第4の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第4の上清を得る工程
(7)前記第4の上清を、乾燥処理、溶媒添加処理及び静置処理に供することにより、第5の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【0053】
本発明の一態様の方法の具体的な方法である、本発明の第3の態様の方法は、工程(1)~(3)及び(6)~(7)に加えて、さらに下記の工程(8)を少なくとも含む。
(8)前記第5の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第6の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る工程
【0054】
工程(6)では、工程(3)によって得られた第1の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第4の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物及び第4の上清を得る。
【0055】
工程(6)における洗浄処理は、湿潤状態にある第1の沈殿物に対して、少量のトリテルペノイド貧溶媒を用いて、該沈殿物中のトリテルペノイド以外の不純物を溶出するように実施すれば、特に限定されない。洗浄処理は、例えば、沈殿物に対して十分に少ない量のエタノール、好ましくは沈殿物 100mg~5,000mgに対して、エタノール 0.5ml~1.5mlを加え、両者を軽く混合して、次いで遠心分離などすることにより沈殿物と上清とを分離することを1回~複数回繰り返すことなどにより実施することができる。洗浄処理により最終的に得られた沈殿物が、第4の沈殿物である。また、洗浄処理により沈殿物と分離した上清は、洗浄操作を繰り返す度に回収し、これらをまとめたものが第4の上清である。
【0056】
第4の沈殿物中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第4の沈殿物に含まれるノミリンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、30wt%以上であり、好ましくは35wt%以上であり、より好ましくは40wt%以上であり;第4の沈殿物に含まれるリモニンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、25wt%以上であり、好ましくは30wt%以上であり、より好ましくは35wt%以上であり;及び/又は、第4の沈殿物に含まれるノミリン及びリモニンの合計含有量が、該沈殿物の全体量に対して、60wt%以上であり、好ましくは70wt%以上であり、より好ましくは80wt%以上である。
【0057】
第4の沈殿物中のトリテルペノイドは、ノミリンの含有量がリモニンよりも多くなる傾向にある。したがって、工程(1)~(3)及び(6)を含む方法はノミリンを大量に得るための優れた方法であることを示す。
【0058】
工程(7)では、工程(6)で得られた第4の上清を、乾燥処理、溶媒添加処理及び静置処理に供することにより、第5の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る。
【0059】
工程(7)における乾燥処理は、第4の上清が液体であることから、液体が蒸散するような乾燥処理であることが好ましく、凍結乾燥処理がより好ましい。
【0060】
溶媒添加処理は、第4の上清の乾燥物に対して、少量のトリテルペノイド貧溶媒を用いて、該乾燥物中のトリテルペノイド以外の不純物を溶出するように実施すれば特に限定されない。溶媒添加処理は、例えば、第4の上清の乾燥物に対して十分に少ない量のエタノール、好ましくは該乾燥物 100mg~1,000mgに対して、エタノール 10ml~20mlを加え、両者を混合することにより実施できる。
【0061】
工程(7)における静置処理は、工程(5)における静置処理と同様に実施すれば特に限定されず、例えば、格別な手段を講じることなく、溶媒添加処理に供した第4の上清の乾燥物を、0℃~30℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、十分な量の沈殿が確認されるまで放置することにより実施し得る。このようにして確認された沈殿が、第5の沈殿物である。第5の沈殿物を、液体成分から分離したければ、遠心分離やろ過などの通常知られている固液分離手段を利用すればよい。第5の沈殿物と分離した液体成分は、第5の上清である。
【0062】
工程(8)では、工程(7)によって得られた第5の沈殿物を、洗浄処理に供することにより、第6の沈殿物としてトリテルペノイド含有種子抽出物を得る。
【0063】
工程(8)における洗浄処理は、工程(6)における洗浄処理と同様に実施すれば、特に限定されない。すなわち、洗浄処理は、例えば、沈殿物に対して十分に少ない量のエタノール、好ましくは沈殿物 100mg~5,000mgに対して、エタノール 0.5ml~1.5mlを加え、両者を軽く混合して、次いで遠心分離などすることにより沈殿物と上清とを分離することを1回~複数回繰り返すことなどにより実施することができる。洗浄処理により最終的に得られた沈殿物が、第6の沈殿物である。また、洗浄処理により沈殿物と分離した上清は、洗浄操作を繰り返す度に回収し、これらをまとめたものが第6の上清である。
【0064】
第6の沈殿物中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第6の沈殿物に含まれるリモニンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、10wt%以下であり、好ましくは5wt%以下であり;及び/又は、第6の沈殿物に含まれるノミリンの含有量が、該沈殿物の全体量に対して、50wt%以上であり、好ましくは60wt%以上であり、より好ましくは70wt%以上である。第6の上清中のトリテルペノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、第6の上清に含まれるリモニン及びノミリンの含有量が、該上清の全体量に対して、それぞれ数wt%程度である。
【0065】
第6の沈殿物中のトリテルペノイドは、ノミリンの含有量がリモニンよりも多くなる傾向にあり、実質的にノミリンのみを含有するものとすることができる。したがって、工程(1)~(3)及び(6)~(8)を含む方法は、ノミリンを大量に得るための優れた方法であることを示す。
【0066】
第4の沈殿物及び第6の沈殿物の収量は特に限定されないが、例えば、第4の沈殿物の量は、柑橘類の種子の全体量に対して、0.1mg/g以上であることが好ましく、1.0mg/g以上であることがより好ましく、2.0mg/g以上であることがさらに好ましく;及び/又は、第6の沈殿物の量は、柑橘類の種子の全体量に対して、0.1mg/g以上であることが好ましく、0.5mg/g以上であることがより好ましい。
【0067】
第4の沈殿物及び第6の沈殿物におけるリモニン及びノミリンの回収率は特に限定されないが、例えば、リモニンの回収率は、種子粗抽出液の濃縮物に含まれるリモニンの含有量に基づいて、10wt%以上であることが好ましく、20wt%以上であることがより好ましく、30wt%以上であることがさらに好ましく;及び/又は、ノミリンの回収率は、種子粗抽出液の濃縮物に含まれるノミリンの含有量に基づいて、30wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、50wt%以上であることがさらに好ましい。
【0068】
本発明の一態様の方法により、第1の沈殿物、第2の沈殿物、第3の沈殿物、第4の沈殿物、第5の沈殿物及び/又は第6の沈殿物として、リモニンやノミリンといったトリテルペノイドを高濃度で含有するトリテルペノイド含有種子抽出物が得られる。
【0069】
トリテルペノイド含有種子抽出物は、例えば、経口用組成物又は外用組成物の原料として使用する場合には、水などで洗浄することが好ましい。トリテルペノイド含有種子抽出物は、さらなる精製工程に供してもよい。例えば、採取及び水洗浄したトリテルペノイド含有種子抽出物とトリテルペノイド可溶性溶媒(良溶媒)とを混合したものを固液分離し、次いでトリテルペノイド不溶性溶媒(貧溶媒)を用いて結晶化することによって、不純物が低減されたトリテルペノイド含有種子抽出物を得ることができる。
【0070】
本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程途中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0071】
以下に、本発明の一態様の方法の具体的態様として、
図1及び
図2を参照して、柑橘類の種子を原料として、トリテルペノイドを高濃度で含有するトリテルペノイド含有種子抽出物を製造する方法を説明するが、本発明の製造方法は以下のものに限定されない。
【0072】
乾燥し、かつ、ハサミやミキサーで細断又は粉砕した柑橘類の種子1を、種子に対して5倍容の10vol%~80vol%エタノールに加えて、10℃~30℃で、2日間~4日間で実施する抽出処理10に供することにより、種子粗抽出液50を得る。次いで、種子粗抽出液50を、種子粗抽出液に対して0.5倍容の水を用いた後に濃縮する加水・濃縮処理11に供し、エタノールが揮散し0.2倍容にまで減容して、エマルジョンの種子粗抽出物51を得る。
【0073】
種子粗抽出物51に、無機酸を加えてpHを1~3に調整した後、種子粗抽出物に対して0.1倍~0.2倍の無機塩を加えて、数秒間~数分間~数時間静置する酸・加塩・静置処理12を実施した後、遠心分離することにより、湿潤状態の第1の沈殿物52及び第1の上清53を得る。
【0074】
図1に示すとおりに、本発明の第1の態様の方法では、第1の沈殿物52を、該沈殿物から水分を除去するように乾燥し、次いで得られた乾燥物にエタノールを加えて軽く振り混ぜて遠心分離をすることを複数回繰り返して洗浄する乾燥・洗浄処理20に供する。洗浄後に第2の沈殿物60を得て、洗浄ごとの上清を回収することにより第2の上清61を得る。第2の沈殿物60は、ノミリンの含有量に対して、リモニンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物であることが好ましい。
【0075】
第2の上清61を、数分間~数時間~数日間静置する静置処理21に供する。静置処理後に遠心分離することにより、第3の沈殿物62及び第3の上清63を得る。
【0076】
図2に示すとおり、第1の沈殿物52を、湿潤状態のまま、エタノールを加えて軽く振り混ぜて遠心分離をすることを複数回繰り返して洗浄する洗浄処理30に供する。洗浄後に第4の沈殿物70を得て、洗浄ごとの上清を回収することにより第4の上清71を得る。第4の沈殿物70は、リモニンの含有量に対して、ノミリンの含有量が大きいトリテルペノイド含有種子抽出物であることが好ましい。
【0077】
第4の上清71を、水分を除去するように乾燥して、次いで得られた乾燥物に少量のトリテルペノイド不溶性溶媒(貧溶媒)を添加して混合し、次いで数分間~数時間~数日間静置する乾燥・溶媒添加・静置処理31に供する。該処理31後の溶液を遠心分離することにより第5の沈殿物72及び第5の上清73を得る。第5の沈殿物72をエタノールを用いた洗浄及び遠心分離を複数回繰り返すことによる洗浄処理32に供して、第6の沈殿物74及び第6の上清75を得る。第6の沈殿物は、リモニンの含有量に対して、ノミリンの含有量が非常に大きいトリテルペノイド含有種子抽出物であることが好ましく、実質的にリモニンを含有しないトリテルペノイド含有種子抽出物であることがより好ましい。
【0078】
本発明の一態様の方法で製造されるトリテルペノイド含有種子抽出物は、別の態様として、本発明に包含され得る。すなわち、本発明のトリテルペノイド含有種子抽出物は、柑橘類の種子由来であり、かつ、従来技術に比してトリテルペノイドを高濃度で含有する組成物であれば特に限定されないが、例えば、経口用組成物又は外用組成物の原料として適用することによる製品製造の際のコストの点から、該抽出物の乾燥質量あたりのトリテルペノイドの含有量は、例えば、下限として、1wt%以上であり、好ましくは40wt%以上であり、より好ましくは50wt%以上であり、さらに好ましくは60wt%以上であり、なおさらに好ましくは70wt%以上であり;上限として、100wt%以下であり、好ましくは90wt%以下である。本発明の一態様のトリテルペノイド含有種子抽出物は、本発明の一態様の方法によって得られるものである。
【0079】
本発明のトリテルペノイド含有種子抽出物の用途は特に限定されず、例えば、トリテルペノイドが有する抗腫瘍作用、解毒代謝酵素の活性作用、麻酔時の睡眠時間短縮作用、鎮痛作用、血清脂質代謝改善作用といった生理活性を期待して、飲食品や医薬品といった経口用組成物、化粧品といった外用組成物などの各組成物の原料又は該組成物そのものとして利用され得る。本発明のトリテルペノイド含有種子抽出物におけるトリテルペノイドの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定され得る。
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0081】
[例1.ノミリン及びリモニンの測定方法]
ノミリン及びリモニンの含有量(mg)は、カラムとしてCOSMOSIL 5C18-AR-2カラム及び移動相としてMeOH:H2O=20:80~100:0を用いて、流速1ml/min、測定波長215.0nmに設定して、リモニンを約16分、ノミリンを約17分のリテンション・タイムを有するピークとして検量線法により測定した。
【0082】
[例2.ノミリン及びリモニンを高含有するシークヮーサー種子抽出物の製造方法(1)]
乾燥させたシークヮーサーの種子 10.0gを、ハサミで大まかに細断した。細断した種子を、80vol%エタノール 50mLに加えて、室温で3日間抽出処理に供することにより、シークヮーサー種子粗抽出液を得た。シークヮーサー種子粗抽出液を乾燥及び濃縮処理に供することにより、シークヮーサー種子粗抽出液の濃縮物 583.8mgを得た。該濃縮物のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ34.9mg(6.0wt%)及び34.5mg(5.9wt%)であった。
【0083】
シークヮーサー種子粗抽出液 50mlを、20mlの水を加えた上で濃縮処理に供し、エタノールが揮散したところで濃縮処理を終了して、種子粗抽出物を得た。得られた種子粗抽出物は、エマルジョンであり、遠心分離によっては層分離しないものであった。
【0084】
得られた種子粗抽出物 15mlに、塩酸を加えてpHを1~3に調整した後、NaCl 50mg~100mgを加えて、軽く振り混ぜて、粗抽出物混合物を得た。得られた粗抽出物混合物を、5分間静置した後、遠心分離することにより、第1の上清及び第1の沈殿物を得た。このうち、第1の上清についてノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、両物質ともに検出下限未満であった。
【0085】
第1の沈殿物を凍結乾燥処理に供して、水分を除去した凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物165mgを、エタノール 1mlで2回洗浄した。すなわち、凍結乾燥物にエタノールを加えた後、軽く振り混ぜて遠心分離をすることにより、沈殿物と上清とを得た。この沈殿物について同様の操作をさらに1度繰り返して、第2の沈殿物 36.6mgを得て、さらに上清を回収することにより第2の上清を得た。第2の沈殿物のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ11.1mg(30.2wt%)及び16.0mg(43.8wt%)であった。すなわち、ノミリン及びリモニンといったトリテルペノイドが74%以上含有するシークヮーサー種子抽出物を得ることができた。
【0086】
第2の上清を、一日静置した後、遠心分離することにより、第3の沈殿物 22.3mg及び第3の上清 106.0mgを得た。第3の沈殿物のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ8.6mg(38.7wt%)及び5.8mg(26.1wt%)であった。また、第3の上清のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ3.7mg(3.5wt%)及び2.3mg(2.2wt%)であった。
【0087】
以上の結果より、第2の沈殿物及び第3の沈殿物として、ノミリン及びリモニンをそれぞれ19.7mg及び21.8mgを得た。シークヮーサー種子粗抽出液のノミリン及びリモニンの含有量はそれぞれ33.1mg及び32.5mgであったことから、これを基準とすれば、第2の沈殿物及び第3の沈殿物におけるノミリン及びリモニンの回収率は、それぞれ60%及び67%であった。
【0088】
また、シークヮーサー種子粗抽出液の含有量はリモニンの方が少ないことを鑑みれば、第2の沈殿物のリモニンの含有量がノミリンよりも多いということは驚くべき結果であった。したがって、本方法は、リモニンを大量に得るための優れた方法であることがわかった。
【0089】
[例3.ノミリン及びリモニンを高含有するシークヮーサー種子抽出物の製造方法(2)]
乾燥させたシークヮーサーの種子 300.0gを、ミキサーで粗く砕いた。砕いた種子を、80vol%エタノール 1Lに加えて、室温で3日間抽出処理に供することにより、シークヮーサー種子粗抽出液を得た。シークヮーサー種子粗抽出液を乾燥及び濃縮処理に供することにより、シークヮーサー種子粗抽出液の濃縮物を得て、ノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ約1,200mg及び1,000mgであった。
【0090】
シークヮーサー種子粗抽出液 1Lを、300mlの水を加えた上で濃縮処理に供し、エタノールが揮散したところで濃縮処理を終了して、種子粗抽出物 150mlを得た。得られた種子粗抽出物は、エマルジョンであり、遠心分離によっては層分離しないものであった。
【0091】
得られた種子粗抽出物 50ml×3回(計150ml)に、塩酸を加えてpHを1~3に調整した後、1回あたりNaCl 150mgを3回に分けて加え、軽く振り混ぜて、粗抽出物混合物を得た。得られた粗抽出物混合物を、5分間静置した後、遠心分離することにより、第1の上清及び第1の沈殿物を得た。このうち、上清についてノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、両物質ともに検出下限未満であった。
【0092】
第1の沈殿物 3.3gを、エタノール 1mlで3回洗浄した。すなわち、第1の沈殿物にエタノールを加えた後、軽く振り混ぜて遠心分離をすることにより、沈殿物と上清とを得た。この沈殿物についてさらに同様の操作を2度繰り返して、第4の沈殿物 901.4mgを得て、さらに上清を回収することにより第4の上清を得た。このとき、ノミリンを溶解し、リモニンを沈殿させるために、第1の沈殿物は乾燥させずに含水状態のものを用いた。第4の沈殿物のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ394.5mg(43.8wt%)及び336.5mg(37.3wt%)であった。すなわち、ノミリン及びリモニンといったトリテルペノイドが81%以上含有するシークヮーサー種子抽出物を得ることができた。
【0093】
第4の上清を凍結乾燥処理に供して水分を除いた。得られた凍結乾燥物 2.4gとエタノール 15mlとの混合溶液を、3日間静置した後、遠心分離することにより第5の沈殿物及び第5の上清を得た。第5の沈殿物をエタノールを用いた洗浄及び遠心分離を3回繰り返すことにより、第6の沈殿物 339.8mg及び第6の上清 2,100mgを得た。第6の沈殿物のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ257.0mg(75.6wt%)及び0mg(0wt%)であった。また、第6の上清のノミリン及びリモニンの含有量を測定したところ、それぞれ45.5mg(2.2wt%)及び6.1mg(0.3wt%)であった。
【0094】
以上の結果より、第4の沈殿物及び第6の沈殿物として、ノミリン及びリモニンをそれぞれ651.5mg及び336.5mgを得た。シークヮーサー種子粗抽出液のノミリン及びリモニンの含有量はそれぞれ1,200mg及び1,000mgであったことから、これを基準とすれば、第4の沈殿物及び第6の沈殿物におけるノミリン及びリモニンの回収率は、それぞれ54%及び34%であった。
【0095】
本方法では、ノミリンの含有量が大きい第4の沈殿物及び第6の沈殿物を得ることができた。特に、第6の沈殿物がノミリンを含有し、リモニンをほとんど含有しないものであるということは非常に驚くべき結果であった。したがって、本方法は、ノミリンを大量に得るための優れた方法であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などの分野で有用であり、特に抗腫瘍用組成物、解毒代謝酵素の活性用組成物、麻酔時の睡眠時間短縮用組成物、鎮痛用組成物、血清脂質代謝改善用組成物又はこれらの組成物の原料を製造できる点で有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 柑橘類の種子
2 リモニン高含有種子抽出物
3 ノミリン高含有種子抽出物
10 抽出処理
11 加水処理及び濃縮処理
12 酸処理、加塩処理及び静置処理
20 乾燥処理及び洗浄処理
21 静置処理
30 洗浄処理
31 乾燥処理、溶媒添加処理及び静置処理
32 洗浄処理
50 種子粗抽出液
51 種子粗抽出物
52 第1の沈殿物
53 第1の上清
60 第2の沈殿物
61 第2の上清
62 第3の沈殿物
63 第3の上清
70 第4の沈殿物
71 第4の上清
72 第5の沈殿物
73 第5の上清
74 第6の沈殿物
75 第6の上清