(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】偽造防止印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20220929BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20220929BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20220929BHJP
B42D 25/23 20140101ALI20220929BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/378
B42D25/24
B42D25/23
(21)【出願番号】P 2019080109
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087632(JP,A)
【文献】特開2017-100331(JP,A)
【文献】特開2017-205950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00 - 3/18
B41M 7/00 - 9/04
B42D 15/02
B42D 25/00 - 25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、有彩色で部分的に濃度が異なる印刷画像を備え、拡散反射光下で観察すると、前記印刷画像の濃淡による可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、潜像画像が視認される偽造防止印刷物であって、前記印刷画像は、光輝性を有する有彩色インキにより形成された第一の画像と、無彩色インキにより形成された第二の画像が重畳して成り、前記第二の画像は、前記無彩色インキによって形成された画像の黒成分の最大濃度が0.5以下の範囲で部分的に濃度が異なることで前記潜像画像を現して成り、前記第一の画像は、拡散反射光下で前記印刷画像が有する濃度から、前記第二の画像の濃度を減じた濃度を有し、部分的に濃度が異なることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記第一の画像の最大面積率と最小面積率の差が70%以下であって、前記第一の画像の最小面積率が20%以上であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
基材の少なくとも一部に、有彩色で部分的に濃度が異なる印刷画像を備え、拡散反射光下で観察すると、前記印刷画像の濃淡による可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、潜像画像が視認される偽造防止印刷物であって、前記印刷画像は、無彩色インキにより形成され、部分的に濃度が異なることで前記潜像画像を現した第二の画像と、拡散反射光下で前記印刷画像が有する濃度から、前記第二の画像の濃度を減じた濃度を有して、前記二の画像と重畳する有彩色の画像を備え、前記有彩色の画像は、光輝性を有する有彩色のインキにより形成され、部分的に濃度が異なる第一の画像と、前記第一の画像を形成するインキと同じ色相のインキ及び/又は前記無彩色のインキにより形成され、部分的に濃度が異なることで前記潜像画像を現した第三の画像から成ることを特徴とする偽造防止印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察できる画像が入射する光の角度に応じて、異なる画像に変化する偽造防止印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、印刷物の観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
しかし、ホログラムは、インキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間が掛かり、かつ、高価である。このことから、金属インキや干渉マイカ、酸化フレークマイカ、アルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様な画像変化を実現した、一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が存在している。
【0004】
本出願人は、一般的、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、特定の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を既に出願している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照)。
【0005】
特許文献1及び特許文献2の技術は、光輝性インキによる画像の上に透明なインキによる画像を重ね合わせて偽造防止印刷物を形成する技術であり、潜像を形成するインキが透明であることから、光輝性インキによる画像に対して色調整を行う必要がなく、また、潜像が拡散反射光下で可視化されることもなく、画像のスイッチ性に優れる技術である。しかし、目視不可能な透明なインキを使用するために、製造時の印刷品質の管理が困難であるという課題があった。具体的には、インキが全く印刷されない脱刷トラブルが発生した場合でも、肉眼では不可視である透明なインキを使用していることから、作業者が迅速に品質異常を発見することが難しいという問題があった。
【0006】
そのための対策としては、透明なインキに紫外線励起タイプの発光顔料を混合した透明な発光インキを使用し、印刷作業時に紫外線を照射して透明インキが問題なく印刷されているか否かを判断するのが一般的であった。しかし、このような対策を用いた場合、製造時の品質管理は可能となる反面、紫外線照射時に出現する発光画像を見ることで、潜像の構成を容易に把握できてしまうことから、偽造者に偽造防止技術の構造の手掛かりを与えてしまう可能性があり、偽造に対する耐性に関して課題があった。
【0007】
一方、特許文献3の技術は、光輝性材料と、光輝性材料と等色の有色インキをペアインキとしてそれぞれ二つの画像を構成し、画像のチェンジ効果を実現した技術である。また、特許文献4の技術の一つの形態では、光輝性インキと、光輝性インキよりも淡い(濃度の低い)色彩の有色インキをペアインキとして用い、拡散反射光下と正反射光下で画像のチェンジ効果を実現した技術である。また、特許文献5の技術は、光輝性インキと、光輝性インキと同じ色相の濃いインキをペアインキとして、拡散反射光下と正反射光下で画像のチェンジ効果を実現した技術である。このように、特許文献3から特許文献5までの技術は、有色のインキを用いることで印刷した図柄が目視可能であり、前述した問題を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4604209号公報
【文献】特許第5358819号公報
【文献】特許第5245102号公報
【文献】特許第5360725号公報
【文献】特開2017-100331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セキュリティ印刷物に施す偽造防止技術は、現実にはそれ単体のみで用いられるわけではなく、地紋や彩紋、肖像や文字等の様々なデザイン要素と一体となって印刷物の一部を構成することから、偽造防止技術の形成だけのためにインキ数を多く用いた場合には、当然のことながら、その他のデザイン要素に用いることができるインキの数が制限される。例えば、特許文献1及び特許文献2の技術は、光輝性インキと透明インキを用いることから、数に限りのある印刷機のユニット、例えば、4色印刷機(4胴の印刷機)で印刷する場合に、2ユニットを占有することで、偽造防止技術以外の意匠に割り当てられるインキが減少して、印刷物全体の色彩設計に制約があった。
【0010】
また、特許文献3から特許文献5までの技術は、二つの有色のインキをペアインキとして用いて形成可能な技術であり、潜像の隠蔽性も高く、透明インキを用いる必要がないものの、ペアインキ同士は少なくとも色相が同じである必要があった。このため、印刷ユニットの数の限りがある印刷機によって、特許文献3から特許文献5までの偽造防止技術を形成する場合、その他のデザイン要素に用いる有色インキと同色系の光輝性インキを用いなければならず、拡散反射光下と正反射光下で画像のチェンジ効果を奏する印刷画像の色彩設計上の制約があった。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、有彩色の光輝性インキと無彩色インキをペアインキとして形成する、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を有する印刷物であって、色彩の制約を受けることなく作製できる偽造防止印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも一部に、有彩色で部分的に濃度が異なる印刷画像を備え、拡散反射光下で観察すると、印刷画像の濃淡による可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、潜像画像が視認される偽造防止印刷物であって、印刷画像は、光輝性を有する有彩色インキにより形成された第一の画像と、無彩色インキにより形成された第二の画像が重畳して成り、第二の画像は、無彩色インキによって形成された画像の黒成分の最大濃度が0.5以下の範囲で部分的に濃度が異なることで潜像画像を現して成り、第一の画像は、拡散反射光下で印刷画像が有する濃度から、第二の画像の濃度を減じた濃度を有し、部分的に濃度が異なることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第一の画像の最大面積率と最小面積率の差が70%以下であって、第一の画像の最小面積率が20%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも一部に、有彩色で部分的に濃度が異なる印刷画像を備え、拡散反射光下で観察すると、印刷画像の濃淡による可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、潜像画像が視認される偽造防止印刷物であって、印刷画像は、無彩色インキにより形成され、部分的に濃度が異なることで潜像画像を現した第二の画像と、拡散反射光下で印刷画像が有する濃度から、第二の画像の濃度を減じた濃度を有して、第二の画像と重畳する有彩色の画像を備え、有彩色の画像は、光輝性を有する有彩色のインキにより形成され、部分的に濃度が異なる第一の画像と、第一の画像を形成するインキと同じ色相のインキ及び/又は無彩色のインキにより形成され、部分的に濃度が異なることで潜像画像を現した第三の画像から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偽造防止印刷物を構成する二つの画像は、一つは有彩色インキ、もう一つは無彩色インキで形成できる。従来の技術のように色相の同じ二つのインキを用いる必要がなく、インキ選択の自由度が高い。特に特許文献5の技術と比較すると、有彩色インキ(光輝性インキ)の色彩の選択肢が格段に広く、ゆえに印刷画像の色彩設計の自由度が高い。
【0016】
また、本発明の偽造防止印刷物は、特許文献2及び特許文献3に記載の従来技術のような透明インキを使用しないため、潜像画像を発光させて管理する必要がなく、無彩色インキによって形成された画像の品質を目視で管理すればよい。そのため、二つの画像が重なり合って印刷画像として完成品となったのちは、その構成を見破ることは困難であり、偽造に対する耐性が高い。
【0017】
本発明で用いる無彩色インキは、基本的に淡い灰色から濃い灰色であり、これらは通常のプロセスカラー印刷物で用いられる黒インキから流用可能である。このため、本技術を形成するために二つのペアインキを専用に用意する必要がなく、偽造防止技術の形成のためだけに用意する必要があるのは、実質、光輝性を有した有彩色インキ1色のみとなる。このため、本技術は印刷ユニットに1胴を用いれば構成可能であり、その他の印刷胴には偽造防止技術以外のデザイン要素を形成するために、異なる色のインキを投入できる。結果として印刷物中の偽造防止技術以外の他のデザイン要素の色彩設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。
【
図3】本発明における第一の画像の構成の概要を示す。
【
図4】本発明における第一の画像の濃度の算出方法の概要図を示す。
【
図5】本発明における偽造防止印刷物の層構造を示す。
【
図6】本発明における偽造防止印刷物の効果を示す。
【
図7】本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。
【
図8】本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。
【
図9】本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0020】
(第一の実施の形態)
まず、本発明の実施の形態について、
図1から
図6を用いて説明する。
図1に、本発明における偽造防止印刷物(1)を示す。偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、有彩色の印刷画像(3)を有する。
図1は、基材(2)の一部に印刷画像(3)が形成された例であるが、基材(2)全体に印刷画像(3)が形成される構成でもよい。印刷画像(3)は、拡散反射光下では可視画像を表す。なお、第一の実施の形態における可視画像は、漢字の「桜」とそれを取り囲む円を指す。すなわち、本発明においては、拡散反射光下において印刷画像(3)が表す図柄全体が可視画像である。なお、本発明において、可視画像が表す画像は、「桜」の文字に限定されるものではなく、他の文字、記号や、他の図柄であってもよいし、人物や風景のような多階調画像であってもよい。また、本実施の形態では、印刷画像(3)の外周に楕円を配置して成るが、これは、本明細書の説明において、それぞれの画像の位置関係を把握しやすくするためのアクセサリーであり、その機能とは無関係である。
【0021】
印刷画像(3)は、
図2に示す第一の画像(4)と第二の画像(5)が重畳されて成る。第一の画像(4)は、光輝性を有する有彩色のインキ(以下「有彩色インキ」という。)によって形成され、第二の画像(5)は、無彩色の通常のインキ(以下「無彩色インキ」という。)によって形成される。第二の画像(5)は単体で潜像画像(第一の実施の形態では、「桜の花びら」の図柄)を表現するが、第一の画像(4)は、それ単体で可視画像を表すのではなく、第二の画像(5)と重なり合うことで可視画像を表現する。
【0022】
第一の実施の形態において、可視画像は単純な二値画像を表現して成る。この場合、
図3に示すように、第一の画像(4)は、情報部(4A)及び背景部(4B)から成る。情報部(4A)は、その輪郭によって拡散反射光下で印刷画像(3)が表す漢字の「桜」の文字を構成して成り、情報部(4A)は、更に、後述する第二の画像(5)の潜像部(5A)と重畳する第一の情報部(4A-1)と、それ以外の第二の情報部(4A-2)から成る。一方の背景部(4B)は、第一の画像(4)から情報部(4A)を除いた画像であり、背景部(4B)は、更に、第二の画像(5)の潜像部(5A)と重畳する第一の背景部(4B-1)と、それ以外の第二の背景部(4B-2)から成る。
【0023】
一方、第二の画像(5)は、
図2に示すように、潜像部(5A)及び背景部(5B)から成り、正反射光の特定の角度において印刷画像(3)の中に現れる潜像画像を構成して成る。潜像部(5A)は、その輪郭によって「桜の花びら」の図柄を構成して成り、背景部(5B)は、印刷画像(3)と同じ大きさであって、印刷画像(3)の領域から潜像部(5A)の領域を除いた領域として、潜像部(5A)に接して成る。潜像部(5A)と背景部(5B)はいずれかが濃く、いずれかが淡い、濃淡の異なる関係で潜像画像を表現することができる。潜像部(5A)が濃い場合には、画像はポジとなり、背景部(5B)が濃い場合には画像はネガとなる。また、潜像部(5A)と背景部(5B)のいずれかは0より大きい任意の面積率で形成される必要があるが、もう一方は面積率0であってもよい。
【0024】
本実施の形態において以降の説明では、潜像部(5A)の面積率が背景部(5B)の面積率より高く、背景部(5B)の面積率を0とした構成で説明する。本発明においては、正反射光下において印刷画像(3)が表す図柄全体を潜像画像とする。第二の画像(5)は、インキ中の色材として光輝性顔料を含むことなく、色材として黒か灰色の顔料や染料を含んだ通常の無彩色インキで形成される。
【0025】
第一の実施の形態のように、可視画像を二値画像で表現する場合、第一の画像(4)における情報部(4A)と背景部(4B)は必ず所定の濃度を有し、かつ、互いに濃度の差を有する必要がある。これは、可視画像を濃淡によって表すための必須の条件である。なお、第一の画像(4)における情報部(4A)と背景部(4B)が有する所定の濃度の詳細については後述するが、情報部(4A)と背景部(4B)が有彩色インキによって20%以上の面積率で形成され、二つの領域が有彩色インキの色彩を備えることである。第一の画像(4)の情報部(4A)と背景部(4B)には所定の濃度が必須であるが、第二の画像(5)の潜像部(5A)あるいは、背景部(5B)のどちらか一方の反射濃度は0、すなわち、無彩色インキによって形成されない領域があってもよい。
【0026】
加えて、第一の画像(4)のそれぞれの領域、第一の情報部(4A-1)、第二の情報部(4A-2)、第一の背景部(4B-1)、第二の背景部(4B-2)は、異なる濃淡を有して成る。この第一の画像(4)の各領域の濃淡の構成について説明する。第一の画像(4)の濃淡とは、印刷画像(3)が拡散反射光下で表す可視画像の濃度から、同じ位置に重なる第二の画像(5)の濃度を差し引いた濃度で構成される。
図4を用いて具体的に説明する。
【0027】
本発明の偽造防止印刷物(1)において、印刷画像(3)の第一の画像(4)が有彩色インキで、第二の画像(5)が無彩色インキで構成される。第一の画像(4)の濃度の算出は、基本的に黒成分の反射濃度Dbを主体に算出する。仮に、印刷画像(3)が濃い茶色で形成されていると仮定し、
図4に示すように、印刷画像(3)中の漢字の「桜」の文字が黒成分の反射濃度Dbで1.0の濃度を有し、印刷画像(3)のその他の領域が黒成分の反射濃度Dbで1.3の濃度を有するとし、第二の画像(5)の潜像部(5A)が黒成分の反射濃度Dbで0.2の濃度を有する場合、第一の画像(4)のそれぞれの領域の濃度は、印刷画像(3)の濃度から第二の画像(5)それぞれの領域の濃度を減じた関係となっている。
【0028】
図4に示す構成の印刷画像(3)において、第一の情報部(4A-1)は、印刷画像(3)の漢字の「桜」の文字の黒成分の反射濃度1.0から第二の画像(5)の潜像部(5A)の黒成分の反射濃度Db0.2を減じた反射濃度Db0.8となり、第二の情報部(4A-2)は、印刷画像の漢字の「桜」の文字の黒成分の反射濃度Db1.0のままとなる。また、第一の背景部(4B-1)は、印刷画像(3)の「桜」以外の黒成分の反射濃度Db1.3から第二の画像(5)の潜像部(5B)の黒成分の反射濃度Db0.2を減じた反射濃度Db1.1となり、第二の背景部(4B-2)は、印刷画像(3)の「桜」以外の領域の黒成分の反射濃度Dbで1.3のままとなる。なお、第一の画像(4)の黒成分よりも第二の画像(5)の黒成分の反射濃度Dbが高い場合、後述する第二の実施の形態の構成を用いることができる。
【0029】
本発明の第一の実施の形態において、第二の画像(5)の黒成分の反射濃度Dbが一定の値を超えると、潜像の隠蔽性が損なわれることから、第二の画像(5)の中の黒成分の最大反射濃度Dbは0.5を超えてはならない。これは本発明の第一の実施の形態の偽造防止印刷物(1)を構成する上での必須事項である。第二の画像(5)が表す潜像画像の隠蔽効果が高い構成とするために、望ましくは、第二の画像(5)の中の黒成分の最大反射濃度Dbは、0.3以下であることが好ましい。また、正反射光下で潜像画像のコントラストを得るために、第二の画像(5)の潜像部(5A)の反射濃度Dbは、0.1以上であることが好ましい。
【0030】
黒成分の反射濃度Dbが決まれば、その反射濃度の高低に基づいて面積率に換算して、第一の画像(4)の設計が完成する。例えば、反射濃度1.3の第二の背景部(4B-2)の面積率を仮に85%とするならば、反射濃度0.8の第一の情報部(4A-1)の面積率はその反射濃度の比率から約52%とし、反射濃度1.0の第二の情報部(4A-2)の面積率は約65%とし、反射濃度1.1の第一の背景部(4B-1)の面積率は約72%とすればよい。このとき、第一の画像(4)の中の最大面積率と最小面積率の差異を60%以下、かつ、第一の画像(4)の中の最小面積率が20%以上となるように設計することが望ましい。有彩色インキの濃度に依存するが、基本的には第一の画像(4)の最大面積率と最小面積率の差異が70%を超えたり、第一の画像(4)の中の最小面積率が20%より小さくなったりすると、潜像画像の隠蔽性が大きく低下して、拡散反射光下で潜像画像が可視化する問題が生じる場合がある。このような問題が生じた場合には、後述する第二の実施の形態の構成を用いる必要がある。
【0031】
本発明においては、第一の画像(4)の濃度を黒成分の反射濃度Dbのみをベースに設計するが、本来、有彩色で構成される第一の画像(4)の色成分には、黒成分の反射濃度Db以外に、青成分の反射濃度Dc、赤成分の反射濃度Dm、黄成分の反射濃度Dyがそれぞれ任意の値を有して存在する。そのため、第一の画像(4)と第二の画像(5)が重なって印刷画像(3)となった場合、黒成分以外の青、赤、黄のバランスが狂い、部分的に大きな色味の差異が生じて、潜像画像が可視化されるおそれがある。この問題を防ぐために、まず、第一の画像(4)の中の最大面積率と最小面積率の差異を70%以下、かつ、最小面積率を20%以上として設計することが望ましい。これは、有彩色インキと無彩色インキの色相の違いを可能な限り、小さく止めるための工夫である。
【0032】
一般に無彩色インキでは、黒成分の反射濃度Db、青成分の反射濃度Dc、赤成分の反射濃度Dm、黄成分の反射濃度Dyが、ほぼ均等な値でバランスよく存在するのに対して、有彩色インキは、黒成分の反射濃度Db、青成分の反射濃度Dc、赤成分の反射濃度Dm、黄成分の反射濃度Dyがそれぞれ任意の値で存在する。このため、仮に、有彩色インキと無彩色インキを単純に併置で配置した場合、この各色成分の反射濃度のバランスの違いに由来する色相の違いを解消する手段はない。しかし、本発明においては、二つのインキを重畳させ、二つのインキ間にある色相の違いを擬似的に濃度差に変換することで、第一の情報部(4A-1)と第二の情報部(4A-2)に第二の画像(5)が積層された場合及び第一の背景部(4B-1)と第二の背景部(4B-2)に第二の画像(5)が積層された場合の色彩を等色化することを可能としている。
【0033】
まず、第二の画像(5)を構成する無彩色インキは、有彩色インキの特定の色相を表現することは不可能だが、単純な濃淡(濃度差)、あるいは明暗(明暗差)を表現することはできる。そこで、第一の画像(4)中の有彩色インキの面積率を一定以上(最小面積率20%以上)に保ち、第一の画像(4)の全ての領域に必ず有彩色インキが配置される構成とすれば、第一の画像(4)中において色相の差異はなくなる。このとき、第一の画像(4)中に存在するのは有彩色インキによる単純な濃度差のみとなることから、第一の画像(4)の中にある濃度差を、ペアインキである無彩色インキで補完することが可能となる。当然、有彩色インキによる濃度と無彩色インキの濃度は、その色成分ごとの反射濃度のバランスが異なるため、全く同じではないが、第一の画像(4)中の濃度差が大きくなければ(最大面積率と最小面積率の差異が70%以下)、無彩色インキで濃度を補完した領域、例えば、第一の情報部(4A-1)と第二の情報部(4A-2)の色成分の違いを一見して認識することは難しくなる。
【0034】
無彩色は基本的に、黒、青、赤、黄の基本的な色成分をバランスよく保持しているため、あらゆる色相の色彩を補完するのに最も適当な色彩であるといえるが、無彩色インキが有彩色インキに代わって補完できる濃度には制限がある。有彩色インキと無彩色インキの二つの色彩の関係にもよるが、一定の濃度以上では第一の画像(4)の濃度差を無彩色インキで補完する効果は損なわれる。これが、無彩色インキで構成する第二の画像(5)中の黒成分の反射濃度を0.5以下とする理由である。
【0035】
以上のように、本発明の第一の実施の形態において、色相の異なる有彩色インキと無彩色インキを用いているにも関わらず、可視画像中に潜像画像を隠蔽できるのは、二つのインキを重畳し、第一の画像(4)に適切な面積率の制限を設け、第二の画像(5)の無彩色インキの濃度に制限を設けているためであり、これらの制約なしに本発明の効果を得ることは難しい。
【0036】
本発明において、有彩色インキによって形成された第一の画像(4)の中の濃度差を、無彩色インキによって形成された第二の画像(5)の濃淡で補完する方法は、いいかえれば、印刷画像(3)(可視画像)の明度を揃えることで潜像画像をカモフラージュする方法であるともいえる。当然のことながら、有彩色と無彩色間の色の差が大きい場合には、色相の違いをカバーしきれず、潜像画像を完全に不可視にできない場合も有りうる。その場合の対処法については、第二の実施の形態で説明する。
【0037】
続いて、第一の画像(4)を構成する有彩色インキと、第二の画像(5)を構成する無彩色インキの具体的な色彩及び光学特性について説明する。まず、第一の画像(4)を構成する有彩色インキについて説明する。
【0038】
有彩色インキについては、拡散反射光下において目視可能な所定の濃度を有する必要がある。また、有彩色インキの色彩は基材(2)と同じ色相でもよいし、基材(2)と異なる色相でもよいが、基材(2)と異なる色彩の有彩色インキを用いる方が、拡散反射光下の可視画像の視認性が高いことから好ましい。また、有彩色インキによって形成した第一の画像(4)の黒成分の反射濃度Dbは、無彩色インキによって形成した第二の画像(5)の黒成分の反射濃度Db以上の濃度を有していることが、第二の画像(5)の隠蔽性を高める上で望ましい。ただし、この条件を満たさなくても第二の実施の形態で説明する構成を用いれば、潜像画像の隠蔽効果は保たれる。本発明において、ペアインキ間の色相の制約がなくなったことで、拡散反射光下における印刷画像(3)の色彩設計上の選択肢が大きく広がった。例えば、第二の画像(5)を無彩色とした場合、特許文献5では、色相設計上の制約から印刷画像(3)の色彩は無彩色にせざるを得なかったが、本発明においては、印刷画像(3)に対して青、赤、黄等のあらゆる有彩色を用いることができる。
【0039】
有彩色インキの光学特性については、正反射光下において光を強く反射して色彩が淡く変化する、いわゆる明暗フリップフロップ性か、正反射光下において光を強く反射して色相が変化する、いわゆるカラーフリップフロップ性の少なくとも一方の特性を有している必要がある。本明細書においては、明暗フリップフロップ性か、カラーフリップフロップ性の少なくとも一方の特性を有することを「光輝性を有する」と定義する。いずれにしても、有彩色インキは拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が大きく異なる必要があり、その変化が大きければ大きいほど、正反射光下で出現する潜像画像の視認性は高くなる。
【0040】
明暗フリップフロップ性を有する有彩色インキとしては、青金色や赤金色等の市販の有彩色のメタリックインキを用いてもよい。また、無彩色である銀インキに赤、青、黄等の着色顔料を配合して有彩色化してもよい。これらのインキに用いることが可能な顔料としては、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末、リン化鉄等が存在する。
【0041】
一方、カラーフリップフロップ性を有する有彩色インキとしては、二色性パールインキと呼ばれる物体色を有したパールインキを用いてもよいし、市販のパールインキを着色して用いてもよいし、透明なパール顔料と着色顔料を配合した着色パールインキ等を作製して用いてもよい。また、カラーフリップフロップ性が発現する光輝性材料としては、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料等の一般的なパール顔料や、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等が存在する。これらを活用することで、光輝性を有する有彩色インキとすることができる。以上が、有彩色インキの説明である。
【0042】
続いて、第二の画像(5)に用いる無彩色インキについて説明する。本発明において用いる無彩色インキには、灰色、黒色インキ等を用いればよい。ただし、いずれも第二の画像(5)を形成した場合に、少なくとも目視可能な濃度を有している必要がある。色彩は、デザインの自由度を高める上では、黒色インキを用いることが最も望ましい。本発明の特徴の一つは、ペアインキの一つである無彩色インキを、地紋や彩紋、文字等の偽造防止技術以外のデザイン要素を構成するインキと共通化することで、偽造防止技術の形成だけのために2色の専用のインキを用いなくてもよいところにある。黒インキをベタで用いて印刷画像(3)以外の文字や地紋を構成し、本発明の第二の画像(5)を形成する領域は、面積率をやや低くして灰色として用いる構成が、最も効率的である。
【0043】
また、無彩色インキの光学特性については、マットであることが望ましい。正反射光下において光を強く反射することなく、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が大きく変化しないことが望ましい。これは、有彩色インキの正反射光下の色彩と無彩色インキの正反射光下の色彩の違いが大きいほど、正反射光下で出現する潜像画像の視認性が高まるためである。以上が、無彩色インキの説明である。
【0044】
なお、有彩色インキと無彩色インキに蛍光顔料、燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料やIR吸収顔料、フォトクロミック顔料、示温材料、サーモクロミック材料等の機能性材料を加えてもよい。
【0045】
続いて、第一の画像(4)と第二の画像(5)の積層順序について、
図5を用いて説明する。本発明の偽造防止印刷物(1)は、
図5に示すように基材(2)に第一の画像(4)を印刷したのち、第二の画像(5)を重畳して形成する。潜像画像の隠蔽性を考慮すると、第二の画像(5)の上に第一の画像(4)が重なる積層順序が好ましい。しかし、
図5に示す層構造の場合、上に重なった無彩色インキによって第一の画像(4)に入射する入射光が遮断され、正反射光下の潜像画像の視認性が高い効果が発揮される。このため、潜像画像の視認性を考慮すると、第一の画像(4)の上に第二の画像(5)が重なる積層順序が望ましい。
【0046】
以上の構成で作製した偽造防止印刷物(1)の効果について
図6を用いて説明する。光源(6)と偽造防止印刷物(1)と観察者(7)の位置関係を、
図6(a)に示すような、拡散反射光が支配的な観察角度で観察した場合には、観察者には可視画像である漢字の「桜」の文字が視認される。拡散反射光下において、潜像画像である桜の花びらのマークは、視認できない。
【0047】
一方、偽造防止印刷物(1)を、
図6(b)に示すような、正反射光が支配的な観察角度で観察した場合には、第一の画像(4)の示す可視画像である漢字の「桜」の文字が完全に消失し、潜像画像である桜の花びらのマークが視認される。
【0048】
本発明の二つの画像がチェンジする基本的な原理は、以下のとおりである。
図6(a)に示す拡散反射光が支配的な観察角度においては、印刷画像(3)中の濃度の違いによって可視画像が視認される。可視画像の中の潜像画像は不可視であるか、あるいは可視画像の濃淡の中に紛れて認識不可能な状態となる。また、一方の
図6(b)に示すような、正反射光が支配的な観察角度においては、光輝性を有する有彩色インキで構成された第一の画像(4)が入射した光を正反射して淡く変化することで、第二の画像(5)以外の領域の目視上の濃度差が相対的に小さくなり、階調(濃淡)が圧縮されて第一の画像(4)が不可視となる。一方の第二の画像(5)の色彩は変化せず、結果として正反射光下では第二の画像(5)が表す潜像画像が視認される。これが本発明の偽造防止印刷物(1)において画像のチェンジ効果が生じる原理である。
【0049】
以上のように、本発明においては、観察角度の違いによって画像がチェンジする効果を有する偽造防止印刷物(1)を、有彩色インキと無彩色インキの組合せによって作製することができる。以上が、第一の実施の形態の説明である。
【0050】
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態は、第一の画像(4)と第二の画像(5)に加えて、特定の色相の色成分を追加する第三の画像(8)を形成した偽造防止媒体(1)である。第一の画像(4)と第二の画像(5)の基本的な構成や作製方法等については、第一の実施の形態の例と同じであるため説明を省略する。
【0051】
第一の実施の形態で説明した方法、すなわち、第一の画像(4)の中の有彩色の濃度差を第二の画像(5)の無彩色で補完する方法は、有彩色インキと無彩色インキの色彩の関係によっては、第二の画像(5)を完全に隠蔽できない場面が生じ得る。具体的には、第一の画像(4)の有彩色において、特定の色相の色成分が極端に高い色彩である場合や、第一の画像(4)の有彩色が黒成分の少ない淡い色彩である場合である。第二の実施の形態は、このような場合に、第二の画像(5)もしくは、第一の画像(4)に足りない色成分を第三の画像(8)によって補完することで、第二の画像(5)の隠蔽効果を高めた構成である。
【0052】
仮に、第一の画像(4)の有彩色が黄色の彩度の高い色彩の場合であって、第一の画像(4)に第二の画像(5)が重畳する部分において、黄色成分が不足しているために潜像画像を隠蔽できない場合、
図7に示すように、不足している黄色成分で第二の画像(5)の潜像部(5A)を塗りつぶした構成を有する第三の画像(8)を、第二の画像(5)と重畳させて加刷する。なお、第三の画像(8)は、通常の着色インキを用いて形成する。
【0053】
また、仮に、第一の画像(4)の有彩色が黒成分の少ない淡い色彩の場合であって、印刷画像中の第二の画像(5)部分の方の黒成分が濃いために潜像画像を隠蔽できない場合、
図8に示すように、不足している黒色成分で構成した第二の画像(5)の背景部(5B)を塗りつぶした第三の画像(8)を、第二の画像(5)と重畳させて加刷する。
【0054】
さらに、仮に、第一の画像(4)の有彩色が黄色の彩度の高い色彩であって、かつ、第一の画像(4)の有彩色が黒成分の少ない淡い色彩の場合、
図9に示すように、不足している黄色成分で第二の画像(5)の潜像部(5A)を塗りつぶし、かつ、不足している黒色成分で第二の画像(5)の背景部(5B)を塗りつぶした構成を有する第三の画像(8)を、第二の画像(5)と重畳させて加刷する。
【0055】
このように、第二の実施の形態の偽造防止印刷物(1)は、第一の画像(4)、第二の画像(5)に加えて、第三の画像(8)が有する色彩も含めて、拡散反射光が支配的な条件の観察で第二の画像(5)の隠蔽性が向上した印刷画像(3)を形成している。しかし、一方で第三の画像(8)を用いると、作業上の手間が増え、基本的に刷色数が増える場合が多いため、可能な限り第三の画像(8)を用いない、第一の実施の形態で説明した形態で完成させることが望ましい。
【0056】
なお、この第三の画像(8)を用いる形態は、偽造防止印刷物(1)の印刷にあたって、黒、青、赤、黄を基本とするプロセスカラー印刷と有彩色インキによる印刷が行われていることを前提に適用することが望ましい。この場合、潜像画像の隠蔽に不足している色成分を、プロセスカラー印刷部で補完することは容易であり、刷色数を増やすこともなく効率的である。
【0057】
第三の画像(8)の積層順序は、
図7に示すように第三の画像(8)と第二の画像(5)のネガポジの状態が同じであれば、第三の画像(8)を第一の画像(4)より上の層に印刷することが望ましい。逆に、
図8のように第三の画像(8)と第二の画像(5)のネガポジの状態が逆転しているのであれば、第三の画像(8)を第一の画像(4)より下の層に印刷することが望ましい。これは、正反射光下で出現する潜像画像の視認性を高めるための工夫である。
図9の形態であれば、第三の画像(8)は第一の画像(4)の上にあっても下にあっても特に差異はない。
【0058】
以上のように、第一の画像(4)及び第二の画像(5)に加えて、それぞれの領域に不足している色成分を補完する第三の画像(8)を加えることによって、第一の画像(4)と第二の画像(5)の重ね合わせだけでは埋められなかった色成分を補い、その効果を更に高めることができる。以上が、第二の実施の形態の説明である。
【0059】
なお、本発明でいう拡散反射光が支配的な角度とは、正反射光がほとんどなく、拡散反射光の割合が極めて大きな角度を指す。一方、正反射光が支配的な角度とは、拡散反射光が少なく、正反射光の割合が多い角度を指す。
【0060】
第一の画像(4)と第二の画像(5)の重ね合わせに際して、画像の境界部の輪郭を太らせて二つの画像同士をオーバーラップさせることで刷合わせの冗長性を確保することができる。有彩色インキと無彩色インキの濃度によって適正な範囲は異なるが、具体的には0.05mmから0.30mm程度のオーバーラップした領域を設けてもよい。オーバーラップが大きくなると刷合わせは容易だが、オーバーラップ部の濃度は高くなり、潜像部(5A)の隠蔽性が低下するため、インキの濃度に応じて適正な値に止める必要がある。
【0061】
本発明における偽造防止印刷物(1)の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、金属インクを用いることが可能であればIJPやレーザプリンタ、昇華型プリンタ等の各種デジタル出力機でも形成でき、この場合には一枚一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
【0062】
第一の実施の形態及び第二の実施の形態においては、可視画像及び潜像画像に二値画像を用いたが、これに限定されるものではなく、それぞれの画像に写真や絵画のような多階調画像を用いてもよい。
【0063】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した偽造防止印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
本発明の実施例について、実施の形態と同様に
図1から
図6を用いて説明をする。実施例では、基材(2)として白色のファンシーペーパー(グラディオスCC 日本製紙株式会社製)を用いた。
【0065】
第一の画像(4)を形成する有彩色インキは、カラーフリップフロップ性を有した光輝性顔料である干渉色アルミニウム顔料(クロマシャイン 東洋アルミニウム社製)をUVワニスの中に10%配合した光輝性インキを用いた。本インキは、拡散反射光下で茶色であって、正反射光下で淡い黄色から緑色に光る、カラーフリップフロップ性を有する。第二の画像(5)を形成する無彩色インキは、マット系の灰色インキ(UVL 特練 P420C マットグレー T&K TOKA製)を用いた。
【0066】
第一の画像(4)及び第二の画像(5)の各部の反射濃度は、実施の形態で説明した数値とし、第二の画像(5)の最大反射濃度は0.2とした。印刷画像(3)の積層順序としては
図5に示した構成とした。第一の画像(4)を、有彩色インキを用いてUVスクリーン印刷で印刷したのち、第二の画像(5)を、無彩色インキを用いてUVオフセット印刷で印刷した。
【0067】
図6に本発明の偽造防止印刷物(1)の効果を示す。
図6(a)は、観察者が拡散反射光下で偽造防止印刷物(1)を観察した場合に視認される画像であり、印刷画像(3)の中には可視画像である漢字の「桜」の文字が視認された。一方、
図6(b)に示すように、観察者が正反射光下の特定の観察角度で偽造防止印刷物(1)を観察した場合、印刷画像(3)の中から漢字の「桜」の文字は消失し、代わりに第二の画像(5)が表す潜像画像である桜の花びらのマークが黄色の光の中に茶色で視認された。以上のように、二つの異なる画像がチェンジする効果が確認できた。
【符号の説明】
【0068】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 第一の画像
5 第二の画像
4A 情報部
4A-1 第一の情報部
4A-2 第二の情報部
4B 背景部
4B-1 第一の背景部
4B-2 第二の背景部
5A 潜像部
5B 背景部
6 光源
7 観察者
8 第三の画像