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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】半透複合膜及び半透複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/10 20060101AFI20220929BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01D71/10
B01D71/56
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/02
B01D69/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021516140
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017221
(87)【国際公開番号】W WO2020218302
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019081319
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌克
(72)【発明者】
【氏名】田中 正喜
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107008166(CN,A)
【文献】WANG, Xiao et al.,Nanofiltration membranes based on thin-film nanofibrous composites,Journal of Membrane Science,2014年,469,pp.188-197
【文献】山口翔大,セルロースナノファイバーのシランカップリング処理,広島県立総合技術研究所東部工業技術センター研究報告,2018年,31,pp.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/06- 71/10
B01D 71/56
B01D 69/00- 69/02
B01D 69/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体上に、架橋ポリアミドと、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーとを含む半透膜を有し、
前記シランカップリング剤は、2つの第1官能基を有する第1シランカップリング剤と、3つの前記第1官能基と前記第1官能基以外の第2官能基を1つ有する第2シランカップリング剤と、を含み、
前記第1官能基は、前記セルロースナノファイバーの水酸基と結合する、半透複合膜。
【請求項2】
請求項において、
前記第1シランカップリング剤は、ジメチルジメトキシシランであり、
前記第2シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシランである、半透複合膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記半透膜における前記セルロースナノファイバーに対する前記シランカップリング剤の質量比が0.63以上12.5以下である、半透複合膜。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項において、
前記半透膜における前記セルロースナノファイバーの含有量が0.07質量%以上7.7質量%以下であり、
前記セルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が3nm以上200nm以下である、半透複合膜。
【請求項5】
多孔性支持体上に、架橋ポリアミドと、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーとを含む半透膜を有し、
pH6~8、温度25℃、濃度3.2%のNaCl水溶液を操作圧力5.5MPaで1時間供給したときの水透過流束が1.2m/(m・day)以上で、NaCl阻止率
が99.0%以上である、半透複合膜。
【請求項6】
シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、アミン成分と、を含む混合液を得る工程と、
前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって架橋ポリアミドを生成して半透複合膜を得る工程と、
を含み、
前記混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、0質量%を超え0.4質量%未満であり、
前記シランカップリング剤は、2つの第1官能基を有する第1シランカップリング剤と、3つの前記第1官能基と前記第1官能基以外の第2官能基を1つ有する第2シランカップリング剤と、を含み、
前記第1官能基は、前記セルロースナノファイバーの水酸基と結合する官能基であり、
前記第1シランカップリング剤と前記第2シランカップリング剤との質量比は、4:1である、半透複合膜の製造方法。
【請求項7】
請求項において、
前記混合液を得る工程における前記セルロースナノファイバーに対する前記シランカップリング剤の質量比が0.63以上12.5以下である、半透複合膜の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記混合液を得る工程の前に、水に前記セルロースナノファイバーが分散したセルロースナノファイバー水分散液とカチオン界面活性剤と前記シランカップリング剤とを混合してCNF分散液を得る工程をさらに含み、
前記CNF分散液において、前記セルロースナノファイバーに前記カチオン界面活性剤及び前記シランカップリング剤が結合し、
前記混合液を得る工程は、前記CNF分散液と前記アミン成分とを混合する、半透複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な半透複合膜及び半透複合膜の製造方法に関するものである。本発明によって得られる半透複合膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
世界的な水不足と水の汚染に対応するため、半透膜の性質を利用した逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)による分離膜技術・水処理技術が注目されている。その中でも1nm以下の孔径により塩分などのイオン成分も除去できる芳香族ポリアミドを用いた逆浸透膜が、透水性や塩除去性の高い分離膜として海水淡水化プラントにおいて広く普及している(特許文献1)。
【0003】
一方、近年、天然セルロース繊維をナノサイズに解繊したセルロースナノファイバーが
注目されている。天然セルロース繊維は、木材などのパルプを原料とするバイオマスであって、これを有効利用することによって、環境負荷低減が期待される。このような環境負荷低減が期待されるセルロースナノファイバーを用いた複合材料が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-169332号公報
【文献】特開2011-208293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、環境負荷を低減する半透複合膜及び半透複合膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
[1]本発明に係る半透複合膜の一態様は、
多孔性支持体上に、架橋ポリアミドと、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーとを含む半透膜を有し、
前記シランカップリング剤は、2つの第1官能基を有する第1シランカップリング剤と、3つの前記第1官能基と前記第1官能基以外の第2官能基を1つ有する第2シランカップリング剤と、を含み、
前記第1官能基は、前記セルロースナノファイバーの水酸基と結合することを特徴とする。
【0008】
【0009】
]前記半透複合膜の一態様において、
前記第1シランカップリング剤は、ジメチルジメトキシシランであり、
前記第2シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシランであることができる。
【0010】
]前記半透複合膜の一態様において、
前記半透膜における前記セルロースナノファイバーに対する前記シランカップリング剤の質量比が0.63以上12.5以下であることができる。
【0011】
]前記半透複合膜の一態様において、
前記半透膜における前記セルロースナノファイバーの含有量が0.07質量%以上7.7質量%以下であり、
前記セルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が3nm以上200nm以下であることができる。
【0012】
本発明に係る半透複合膜の他の一態様は、
多孔性支持体上に、架橋ポリアミドと、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーとを含む半透膜を有し、
pH6~8、温度25℃、濃度3.2%のNaCl水溶液を操作圧力5.5MPaで1時間供給したときの水透過流束が1.2m/(m・day)以上で、NaCl阻止率が99.0%以上であることができる。
【0013】
]本発明に係る半透複合膜の製造方法の一態様は、
シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、アミン成分と、を含む混合液を得る工程と、
前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって架橋ポリアミドを生成して半透複合膜を得る工程と、
を含み、
前記混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、0質量%を超え0.4質量%未満であり、
前記シランカップリング剤は、2つの第1官能基を有する第1シランカップリング剤と、3つの前記第1官能基と前記第1官能基以外の第2官能基を1つ有する第2シランカップリング剤と、を含み、
前記第1官能基は、前記セルロースナノファイバーの水酸基と結合する官能基であり、
前記第1シランカップリング剤と前記第2シランカップリング剤との質量比は、4:1であることを特徴とする。
【0014】
]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記混合液を得る工程における前記セルロースナノファイバーに対する前記シランカップリング剤の質量比が0.63以上12.5以下であることができる。
【0015】
【0016】
]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記混合液を得る工程の前に、水に前記セルロースナノファイバーが分散したセルロースナノファイバー水分散液とカチオン界面活性剤と前記シランカップリング剤とを混合してCNF分散液を得る工程をさらに含み、
前記CNF分散液において、前記セルロースナノファイバーに前記カチオン界面活性剤及び前記シランカップリング剤が結合し、
前記混合液を得る工程は、前記CNF分散液と前記アミン成分とを混合することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境負荷が低減される半透複合膜及び半透複合膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、半透複合膜100を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、シランカップリング剤の添加量と水透過流束(操作圧力5.5MPa)との関係を示すグラフである。
図3図3は、シランカップリング剤の添加量と脱塩率(操作圧力5.5MPa)との関係を示すグラフである。
図4図4は、シランカップリング剤の添加量と水透過流束(操作圧力0.75MPa)との関係を示すグラフである。
図5図5は、シランカップリング剤の添加量と脱塩率(操作圧力0.75MPa)との関係を示すグラフである。
図6図6は、混合液におけるCNF濃度と水透過流束(操作圧力5.5MPa)との関係を示すグラフである。
図7図7は、混合液におけるCNF濃度と脱塩率(操作圧力5.5MPa)との関係を示すグラフである。
図8図8は、シランカップリング剤の添加量と半透膜の表面における算術平均高さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
A.半透複合膜
本発明の一実施の形態に係る半透複合膜は、多孔性支持体上に、架橋ポリアミドとシランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーとを含む半透膜を有することを特徴とする。
【0021】
図1は、半透複合膜100を模式的に示す縦断面図である。
【0022】
半透複合膜100は、多孔性支持体102上に半透膜104が設けられる。多孔性支持体102は、少なくとも一方の面を半透膜104によって覆われる。半透膜104は、架橋ポリアミド120(以下、架橋芳香族ポリアミドの例について説明するが、これに限られるものではない)とセルロースナノファイバー110とを含む。半透膜104の表面105は、全体が架橋芳香族ポリアミド120によって覆われる。半透複合膜100は、セルロースナノファイバー110を含むことにより環境負荷を低減することができる。
【0023】
半透膜104は、架橋芳香族ポリアミド120中に、セルロースナノファイバー110を含む。半透膜104は、架橋芳香族ポリアミド120がマトリクスとなり、隣接する解繊されたセルロースナノファイバー110の間が架橋芳香族ポリアミド120で満たされている。なお、半透膜104を走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope(STEM))を用いて分析することによりセルロースナノファイバー110の存在を検出することができる。
【0024】
半透膜104の厚みは、10nm以上200nm以下であることができ、さらに10nm以上150nm以下であることができる。半透膜104の厚さが10nm以上であれば膜厚より細い例えば繊維径が3nm程度のセルロースナノファイバー110によって半透膜104を補強することが可能となる。半透膜104の厚さが150nm以下であれば半透膜104を逆浸透膜に用いた場合に実用的な水透過流束が得られると推測される。
【0025】
半透複合膜100は、セルロースナノファイバー110の補強効果により耐圧性に優れるため、比較的高い操作圧力でも使用することができる。操作圧力を高くできることは半透膜104を逆浸透膜として用いた場合に水透過流束を高くすることに貢献する。
【0026】
多孔性支持体102は、半透膜104に力学的強度を与えるために設けられる。多孔性支持体102は、実質的には分離性能を有さなくてもよい。
【0027】
多孔性支持体102としては、公知の半透複合膜の多孔性支持体を適用することができる。例えば、特許第5120006号公報に記載されている多孔性支持体を採用することができる。
【0028】
多孔性支持体102の厚さは、10μm~200μmであることができ、さらに30μm~100μmが好ましい。多孔性支持体102は、対称構造でも非対称構造でもよいが、薄膜の支持機能と通液性を両立させる上で、非対称構造であることができる。
【0029】
多孔性支持体102は、表面から裏面にわたって微細な孔を有する。多孔性支持体102における半透膜104が形成される側面の平均孔径は、0.1nm以上100nm以下であることができ、当該側面の大部分が直径数十nm以下であることができる。多孔性支持体102は織布、不織布等による裏打ちにて補強されていてもよい。
【0030】
半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量は、0.01質量%以上12.3質量%以下であることが好ましく、さらに0.07質量%以上7.7質量%以下であることが好ましい。セルロースナノファイバー110の含有量が0.07質量%以上であれば半透複合膜の環境負荷の低減が可能となる。セルロースナノファイバー110の含有量が0.07質量%以上であれば芳香族ポリアミド単体の半透膜に比べ水透過流束特性が向上する。本発明者の実験によればセルロースナノファイバー110の含有量が7.7質量%以下であれば、セルロースナノファイバーの水分散液を塗布し易く半透複合膜100の製造が容易である。半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量は、界面重合の反応式から求められる。なお、半透膜におけるセルロースナノファイバーの含有量は、シランカップリング剤の質量を含まない。
【0031】
また、半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量が0.07質量%以上であることで、半透膜104の表面の凹凸を大きくすることができる。これにより、半透膜104の表面積が増加し水透過特性を向上させることができる。また、半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量が7.7質量%を超えると、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、アミン成分とを含む混合液の粘度が上がり加工性が低下し、分離機能層に欠陥が生じやすくなり透水性能や脱塩性能の低下が起きるが、半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量が7.7質量%以下であれば、混合液の粘度上昇が少なく欠陥のない分離機能層を形成することができ、透水性能、脱塩性能の低下を防ぐことができる。
【0032】
セルロースナノファイバー110の含有量の求め方についてm-フェニレンジアミンとトリメシン酸クロライドとの架橋反応を例に説明する。界面重合による架橋反応で生成するポリアミドは、m-フェニレンジアミンの2つの-NH2基及びトリメシン酸クロライドの3つの-COCl基が完全に反応しているのではなく部分的には残っているが、まず下記反応式(1)のように3モルのm-フェニレンジアミン(324.4g)と2モルのトリメシン酸クロライド(530.9g)が重合し、ポリアミド(636.7g)が生成するものと仮定した。
【0033】
【化1】
【0034】
半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量(CNF含有量(質量%))は、下記式(1)により算出することができる。上記反応式(1)と、m-フェニレンジアミンとセルロースナノファイバーを含む水溶液の組成により、生成されるポリアミドの質量を求め、次にm-フェニレンジアミンとトリメシン酸クロライドとの界面重合の際の未反応m-フェニレンジアミンの量を求め、実際に生成するポリアミドの質量(Ma)を算出することができる。この未反応のm-フェニレンジアミンの質量は後述する実験により測定し生成されるポリアミドの質量推定を行い、セルロースナノファイバーの含有量(質量%)を決めることができる。m-フェニレンジアミンとトリメシン酸クロライドとの組み合わせ以外についてもそれぞれの反応式に適用して同様に質量推定等を行うことでCNF含有量を決定できる。
【0035】
【数1】
【0036】
半透複合膜100は、架橋芳香族ポリアミド120中にセルロースナノファイバー110を含むことにより脱塩率に優れると共に水透過流束に優れる。半透複合膜100は、半透膜104におけるセルロースナノファイバー110の含有量が0.07質量%~7.7質量%であり、pH6~8、温度25℃、濃度3.2%のNaCl水溶液を操作圧力5.5MPaで1時間供給したときの水透過流束が1.2m/(m・day)以上で、NaCl阻止率が99.0%以上であることができる。
【0037】
半透複合膜100の水透過流束は、次のように測定した。すなわち、φ25mm(有効面積3.46cm)の半透複合膜のテストセルを膜テスト装置に装着し、純水を操作圧力5.5Mpa、流量300mL/minで2時間供給し、水透過流束を安定させた。クロスフローろ過方式により、温度25℃、3.2質量%の塩化ナトリウム水溶液を操作圧力5.5MPa、流量300mL/minで供給し水透過流束を測定した。
【0038】
半透複合膜100によって分離する溶液の種類としては、例えば、高濃度かん水、海水、濃縮海水などがある。
【0039】
半透複合膜は、例えば、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレームのモジュールに組み込んで、また中空糸は束ねた上でモジュールに組み込んで使用することができる。
【0040】
B.原料
まず、半透複合膜の製造方法に用いる各原料について説明する。
【0041】
B-1.セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が3nm~200nmであることができ、さらに3nm~150nmであることができ、特に3nm~100nmのセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束であることができる。すなわち、セルロースナノファイバー110は、シングルセルロースナノファイバー単体、またはシングルセルロースナノファイバーが複数本集まった束を含むことができる。ここで本明細書において「~」で示す数値範囲は上限と下限を含む。セルロースナノファイバーのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均値で、10~1000であることができ、さらに10~500であることができ、特に100~350であることができる。セルロースナノファイバーの繊維径及びアスペクト比の平均値は、電子顕微鏡の視野内のセルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー水分散液として提供される。該水分散液は、酸化セルロース繊維を含んでもよい。セルロースナノファイバーは、公知の種々の方法により得られたものも使用することが可能である。
【0042】
セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー水分散液として提供される。該水分散液は、酸化セルロース繊維を含んでもよい。セルロースナノファイバーは、公知
の種々の方法により得られたものも使用することが可能である。セルロースナノファイバーは木材などのパルプを原料とするバイオマスであるため、セルロースナノファイバーを有効利用することによって環境負荷低減が期待される。
【0043】
セルロースナノファイバー水分散液(以下「水分散液」という)は、セルロースナノファイバーの固形分が0.01質量%~5質量%であることができ、好ましくは0.1質量%~2質量%であることができる。水分散液におけるセルロースナノファイバー固形分が0.01質量%未満であると後述する乾燥工程に時間を要することになり、5質量%を超えるとセルロースナノファイバーの凝集塊が生じやすい。また、水分散液は、例えば、セルロースナノファイバーの固形分が1質量%になるまで希釈した水分散液であることができる。さらに、水分散液は、光透過率が40%以上であることができ、さらに光透過率が60%以上であることができ、さらに80%以上であることができる。水分散液の光透過率は、紫外可視分光光度計を用いて、波長660nmでの光透過率として測定することができる。
【0044】
公知のセルロースナノファイバーの原料としては、木材等の植物性材料に由来するものであることができる。植物性材料の原料を用いるセルロースナノファイバーの作製方法としては、例えば、原料に化学的処理を施して解繊しやすい状態にした後に機械的なせん断力による物理的処理を施して原料を解繊し製造したものや、高圧ホモジナイザー法、グラインダー摩砕法、凍結粉砕法、強剪断力混練法、ボールミル粉砕法など公知の機械的な高せん断力を用いた方法により物理的に原料を解繊し製造したものを使用することができる。
【0045】
セルロースナノファイバーは、アニオン性基を有することができる。アニオン性基を有するセルロースナノファイバーは、原料に化学処理を施す際に、または物理的に解繊したものに対して、アニオン性基を導入して、さらに微細化(解繊)することで得られる。微細化工程では、アニオン性基の反発作用によって解繊しやすい。アニオン性基としては、例えば、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンテート基(-OCSS)及びこれらの塩のいずれか1種以上を含む。アニオン性基を有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、カルボキシル基またはカルボキシル基の塩を有する酸化セルロースナノファイバー、リン酸基またはリン酸基の塩を有するリン酸エステル化セルロースナノファイバー、硫酸基または硫酸基の塩を有する硫酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸基または亜リン酸基の塩を有する亜リン酸エステル化セルロースナノファイバー、ザンテート基またはザンテート基の塩を有するザンテート化セルロースナノファイバーなどがある。酸化セルロースナノファイバーとしては、例えば、TEMPO酸化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバーなどがある。
【0046】
B-1-1.酸化セルロースナノファイバー
酸化セルロースナノファイバーとしてTEMPO酸化セルロースナノファイバーを含む水分散液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程と、酸化セルロース繊維を微細化処理する微細化工程とを含む製造方法によって得ることができる。
【0047】
酸化工程は、原料となる天然セルロース繊維に対して水を加え、ミキサー等で処理して、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。ここで、天然セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ、綿系パルプ、バクテリアセルロース等が含まれる。より詳細には、木材パルプとしては、例えば針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等を挙げることができ、綿系パルプとしては、コットンリンター、コットンリントなどを挙げることができ、非木材系パルプとしては、麦わらパルプ、バガスパルプ等を挙げることができる
。天然セルロース繊維は、これらの少なくとも1種以上を用いることができる。
【0048】
酸化工程としては、TEMPO酸化の場合には、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して酸化セルロース繊維を得る。酸化工程としては、セルロースを酸化する公知の方法を採用することができる。セルロースの酸化触媒として使用可能なN-オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-フォスフォノオキシ-TEMPO等を用いることができる。酸化セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルの束であることができる。酸化セルロース繊維は微細化工程においてセルロースナノファイバーに解繊することができる。
【0049】
微細化工程は、酸化セルロース繊維を水等の溶媒中で撹拌処理することができ、セルロースナノファイバーを得ることができる。微細化工程における撹拌処理は、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。このようにして得られた水分散液中のセルロースナノファイバーの繊維径の平均値は、3nm~10nmであることができ、さらに3nm~4nmであることができる。この水分散液中のセルロースナノファイバーのアスペクト比の平均値は、20~350であることができ、さらに20~250であることができ、さらに50~200であることができる。
【0050】
また、酸化セルロースナノファイバーとしてカルボキシメチル化セルロースを含む水分散液は、例えば、マーセル化工程、エーテル化工程、及び微細化工程によって製造することができる。
【0051】
マーセル化工程は、天然セルロース繊維と分散媒、マーセル化剤を混合してマーセル化処理を行う。分散媒は、例えば、低級アルコールの単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を使用する。低級アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどである。マーセル化剤は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属を使用する。
【0052】
エーテル化工程は、マーセル化処理の後、カルボキシメチル化剤を添加してエーテル化反応を行う。カルボキシメチル化剤は、例えばモノクロロ酢酸ナトリウムなどである。
【0053】
微細化工程は、エーテル化反応後、上述の微細化工程と同様に行うことができ、例えば高圧ホモジナイザー等によって微細化処理することでカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを得ることができる。こうして得られるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと同じ繊維径とアスペクト比を有することができる。
【0054】
B-1-2.リン酸エステル化セルロースナノファイバー
リン酸エステル化セルロースナノファイバーの水分散液は、例えば、乾燥したまたは湿潤状態のセルロース繊維原料にリン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維原料の分散液にリン酸またはリン酸誘導体の水溶液を添加する方法などで得ることができる。これら方法においては、通常、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理、加熱処理等を行う。ここで、リン酸またはリン酸誘導体としては、リン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。これにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応してリ
ン酸エステルが形成され、リン酸基またはその塩が導入される。リン酸基またはその塩が導入されたセルロース繊維は、上述の微細化工程を行うことにより、リン酸エステル化セルロースナノファイバーを得ることができる。こうして得られるリン酸エステル化セルロースナノファイバーは、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと同じ繊維径とアスペクト比を有することができる。
【0055】
B-2.カチオン界面活性剤
カチオン界面活性剤は、セルロースナノファイバー同士の水素結合による凝集を抑制する。カチオン界面活性剤は、1級~3級のアミン塩及び4級アンモニウム塩のいずれか1つ以上を含むことができる。カチオン界面活性剤は、炭素数(C数)が1~40、好ましくは2~20、更に好ましくは10~18の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム塩であることができる。炭素数が多い方が隣接するセルロースナノファイバーの水素結合による凝集を抑制する効果が高いと推測できる。塩としては塩化物、臭化物等であることができる。
【0056】
炭素数が1~40の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム等のトリメチルアンモニウム塩;塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化トリメチルステアリルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニム等が挙げられる。
【0057】
CNF分散液におけるセルロースナノファイバーに対するカチオン界面活性剤の質量比は0.3倍~0.7倍であることができ、さらに0.43倍~0.52倍であることができる。セルロースナノファイバーに対するカチオン界面活性剤の質量比が0.3倍~0.7倍であればセルロースナノファイバー表面のカルボキシル基へ作用させることで、混合液におけるセルロースナノファイバーの再凝集を抑制し、混合液の粘度を低下することができるため、多孔支持体への塗布が容易となり生産性が向上する。CNF分散液におけるセルロースナノファイバーに対するカチオン界面活性剤の質量比が0.7倍を超えると複合材料中での界面活性剤量が多くなり、加工性が低下するとともに、複合材料の諸物性が低下する。
【0058】
B-3.シランカップリング剤
シランカップリング剤は、セルロースナノファイバーに結合することができる。シランカップリング剤は、セルロースナノファイバーの水酸基と結合する官能基を含む。
【0059】
水分散液は、水酸基の一部がカルボキシル化等することで電荷反発により解繊された状態でセルロースナノファイバーとして存在するが、カルボキシル化等していない水酸基は水分散液の水がなくなれば水素結合により再びセルロースナノファイバー同士を凝集させる。シランカップリング剤は、このセルロースナノファイバーに残されている水酸基と結合する官能基を有する。この官能基を以下「第1官能基」という。第1官能基は、例えば、水分散液に添加した状態で加水分解する加水分解性基であることができる。
【0060】
加水分解性基としては、ケイ素に直接結合したメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基などのアルコキシ基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブ
タノキシム基などのオキシム基、が挙げられる。加水分解性基は、アルコキシ基であることができ、反応性が高いメトキシ基であることができる。
【0061】
シランカップリング剤は、第1官能基以外の第2官能基を有することができる。第2官能基は、ポリアミドに対して相互作用を有することが好ましい。相互作用とは、第2官能基がポリアミドとの間で共有結合若しくは配位結合による相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス力などを有することである。第2官能基としては、例えば、ビニル基等のアルケニル基、デシル基等のアルキル基、スチリル基等のアリール基、フルオロ基、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基などが挙げられる。第2官能基は、ビニル基であることができる。
【0062】
シランカップリング剤は、2つの第1官能基を有する第1シランカップリング剤と、3つの第1官能基と第1官能基以外の第2官能基を1つ有する第2シランカップリング剤と、を含むことができる。第1シランカップリング剤と第2シランカップリング剤との質量比は、4:1であることができる。
【0063】
第1シランカップリング剤は、ジメチルジメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメチルジエトキシシランなどがあげられる。第1シランカップリング剤は、ジメチルジメトキシシランであることができる。
【0064】
第2シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。第2シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシランであることができる。
【0065】
半透膜におけるセルロースナノファイバーに対するシランカップリング剤の質量比は、0.63以上12.5以下であることができ、好ましくは2.0以上12.5以下であることができる。ここで、複数種類のシランカップリング剤を用いる場合の「シランカップリング剤の質量」は、半透膜の製造に用いられるシランカップリング剤の総量である。セルロースナノファイバーに対するシランカップリング剤の質量比を2.0以上12.5以下とすることにより、半透複合膜における優れた脱塩率を維持しつつ、水透過流束に優れることができる。
【0066】
B-4.ポリアミド
ポリアミドは、芳香族系のポリアミドであることができる。半透膜におけるポリアミドは、架橋体である。
【0067】
芳香族系ポリアミドは、芳香族アミン成分を含む。芳香族系ポリアミドは、全芳香族系ポリアミドであることができる。芳香族アミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン、N-メチル-m-フェニレンジアミンおよびN-メチル-p-フェニレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの芳香族多官能アミンが好ましく、これらは単独で用いてもよく若しくは2種類以上併用してもよい。
【0068】
架橋芳香族ポリアミドは、COO、NH4 、及びCOOHからなる群から選択され
る官能基を有することができる。
【0069】
B-5.多孔性支持体
多孔性支持体102としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどを用いることができる。ポリスルホンは化学的、機械的、熱的に安定性が高いため、多孔性支持体102に好適である。
【0070】
C.半透複合膜の製造方法
次に、半透複合膜の製造方法について説明する。本発明の一実施の形態に係る半透複合膜の製造方法は、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、アミン成分と、を含む混合液を得る工程と、前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって半透複合膜を得る工程と、を含む。混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、0質量%を超え、0.4質量%未満である。「混合液」は、少なくともシランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、アミン成分と、を含む。混合液は、多孔性支持体に対する塗工液である。混合液を得る工程の前に、水分散液とシランカップリング剤とを混合してCNF分散液を得る工程をさらに含むことができる。
【0071】
C-1.CNF分散液を得る工程
CNF分散液を得る工程は、水分散液とシランカップリング剤とを混合してCNF分散液を得る。「CNF分散液」は、シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーと、水と、を含む。CNF分散液を得る工程は、水分散液とカチオン界面活性剤とシランカップリング剤とを混合してCNF分散液を得てもよい。その場合には、「CNF分散液」は、カチオン界面活性剤をさらに含んでもよい。混合方法は公知の方法を用いることができ、例えばマグネティックスターラーや超音波攪拌機等を用いることができる。
【0072】
水分散液にシランカップリング剤を混合することによって、セルロースナノファイバーの水酸基にシランカップリング剤が結合する。シランカップリング剤が結合したセルロースナノファイバーを用いて製造される半透複合膜は、水透過流束に優れ、しかも脱塩率が低下することもない。
【0073】
水分散液にカチオン界面活性剤を混合することによって、セルロースナノファイバーのカルボキシル基にカチオン界面活性剤が結合する。カチオン界面活性剤が結合した水分散液は、カチオン界面活性剤を添加する前に比べて粘度が低くなるとともにチクソ性が抑制されるため後述する多孔性支持体に塗布する際の取り扱いに優れる。ここで、カチオン界面活性剤は、シランカップリング剤を添加する前に添加することが好ましい。
【0074】
C-2.混合液を得る工程
混合液を得る工程は、例えば、アミン成分を含む第1水溶液とCNF分散液とを混合して、アミン成分とセルロースナノファイバーとを含む混合液を得る工程を含むことができる。第1水溶液は、水とアミン成分を含む。アミン成分としては、上記B-4で説明した芳香族アミンから少なくとも1種を選択できる。CNF分散液中では、上記C-1で説明したセルロースナノファイバーにシランカップリング剤が結合している。また、CNF分散液を得る工程でカチオン界面活性剤を混合した場合には、CNF分散液中でセルロースナノファイバーにはカチオン界面活性剤とシランカップリング剤が結合している。混合液は、第1水溶液と水分散液またはCNF分散液とを混合してえられる。この混合方法は公知の方法を用いることができ、例えばマグネティックスターラーや超音波攪拌機等を用いることができる。
【0075】
混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、0質量%を超え、0.4質量%未満であることができる。さらに、混合液における芳香族アミン成分の濃度は0.5質量%以上6.0質量%以下であり、セルロースナノファイバー110の濃度は0.005質量%以上0.3質量%以下であることができる。混合液における芳香族アミンが0.5質量%以上であれば、半透膜として必要な複合膜活性層の厚みと架橋密度が形成できるために、好適な脱塩率と透水性が実現可能となり好ましい。また当該芳香族アミンが、6.0質量%以下であれば、半透膜中の未反応の残留アミンが少ないため膜透過水中に溶出する可能性が低くなり、この範囲にすることが好ましい。また、混合液におけるセルロースナノファイバーが0質量%を超えると水透過流束の向上が得られると考えられ、0.4質量%以上であるとポリアミド単体の半透複合膜に比べて水透過流束の向上が得られないため、この範囲にすることが好ましい。なお、混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、シランカップリング剤の質量を含まない。
【0076】
C-3.半透複合膜を得る工程
半透複合膜100を得る工程は、上記のようにして得られた混合液を多孔性支持体102に接触させた後、多孔性支持体102に付着した混合液中の芳香族アミンを架橋反応させる。
【0077】
混合液は、多孔性支持体102に塗布し乾燥する。そののち架橋剤を含む溶液をさらに塗布し、重縮合反応を起こさせて架橋させ、室温で乾燥した後蒸留水で洗浄して半透膜104を形成する。こうして、上記「A.半透複合膜」で説明した半透複合膜100を作成できる。半透膜104は、架橋ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む。半透膜104におけるセルロースナノファイバーはシランカップリング剤が結合している。
【0078】
混合液を多孔性支持体102に塗布する工程は、バーコーターを用いて均一に塗布することができる。均一に塗布できればバーコーターに限らず他の公知の装置を採用してもよい。
【0079】
架橋剤としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライドなどの酸クロライド成分を含む有機溶媒溶液を用いることができる。また、架橋剤以外に界面重合で副生する塩酸を捕捉するための塩基性物質を含有させる。当該塩基性物質としては、トリエチルアミン、ピリジン等を挙げることができる。
【0080】
シランカップリング剤は、架橋ポリアミドと相互作用を有することができる。そのため、半透膜104におけるセルロースナノファイバーはシランカップリング剤を介して架橋ポリアミドと結合し、半透膜104を補強することができる。
【0081】
半透複合膜の用途は、例えば、海水、かん水脱塩の処理などがある。また、半透複合膜の用途は、半透膜が耐汚染性に優れるため、例えば、食品工業排水処理、産業プロセス排水処理、活性汚泥処理水のRO前処理などがある。
【0082】
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
【0083】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を
含む。
【実施例
【0084】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(1)実施例1のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
(1-1)多孔性支持体の作製
単糸繊度0.5デシテックスのポリエステル繊維と1.5デシテックスのポリエステル繊維との混繊糸からなる、通気度0.7cm/cm・秒、平均孔径7μm以下の湿式不織布であって、縦30cm、横20cmの大きさの物を、ガラス板上に固定し、その上に、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒のポリスルホン濃度15重量%の溶液(20℃)を、総厚み210μm~215μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積してポリスルホンの多孔性支持体を製造した。
【0086】
(1-2)混合液の作製
セルロースナノファイバー濃度が0.5質量%の水分散液200gに、第1シランカップリング剤(ジメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製のKBM-22)を2gと、第2シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製のKBM-1003)を0.5gと、を加えてマグネティックスターラーを用いて撹拌混合し、蒸留水を加え全量を250gとしてCNF分散液(セルロースナノファイバー濃度が0.4質量%)を得た。CNF分散液におけるセルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比は、1:2:0.5であった。次に、m-フェニレンジアミン7.5gに蒸留水100gを加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌混合して得た第1水溶液と、CNF分散液75gとを、マグネティックスターラーを用いて撹拌混合し、50gの蒸留水に溶かした添加剤(SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)0.45g、CSA(カンファスルホン酸)15g、TEA(トリエチルアミン)7.5g、IPA(イソプロピルアルコール)18g)を加え、蒸留水で全量を300gとし、マグネティックスターラーを用いて撹拌して混合液を得た。多孔性支持体に対する塗工液としての混合液は、m-フェニレンジアミン2.5質量%、セルロースナノファイバー0.10質量%(シランカップリング剤が結合した質量ではない)、SCA0.25質量%(「SCA」は、シランカップリング剤の総量である)、SLS0.15質量%、CSA5.0質量%、TEA2.5質量%、IPA6.0質量%を含む。
【0087】
(1-3)半透複合膜の作製
80cmの多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で混合液を塗布した後、多孔性支持体表面から余分な水溶液をエアーナイフで除去した後、トリメシン酸クロライド0.18質量%を含む室温のIPソルベント溶液5mlを膜表面が完全に濡れるように塗布した。膜から余分な溶液を除去するために膜面を鉛直に保持して液切りし、その後、120℃の恒温槽中で3分間乾燥後、蒸留水に浸漬洗浄することで、実施例1の半透複合膜を得た。
【0088】
(1-4)セルロースナノファイバー含有量の推定
半透膜内のセルロースナノファイバー含有量は、下記反応式(1)と未反応のm-フェニレンジアミンの量を求める実験とから推定した。
【0089】
【化1】
【0090】
上記反応式(1)は3モルのm-フェニレンジアミン(324.4g)と2モルのトリメシン酸クロライド(530.9g)が重合し、ポリアミド(636.7g)が生成するもので、1gのポリアミドは0.51gのm-フェニレンジアミンから生成されることを示す。
【0091】
具体的な推定の手順として、まず塗布されたm-フェニレンジアミンの全量が上記反応式(1)により界面重合すると仮定した。塗布されたm-フェニレンジアミンの全量に対するセルロースナノファイバーの量は混合液におけるm-フェニレンジアミンとセルロースナノファイバーの濃度の比から算出した。次に未反応のm-フェニレンジアミンの比率を実験により求めて実際に界面重合するm-フェニレンジアミンを算出し、セルロースナノファイバー含有量(質量%)を算出した。なお、CSAは後述の加圧純水洗浄の際に溶けて流れ出てしまうのでセルロースナノファイバー含有量の算出には影響しない。
【0092】
具体的には、セルロースナノファイバーを含まない測定用第1溶液と、セルロースナノファイバー0.2質量%を含む測定用第2溶液を用いて、未反応のm-フェニレンジアミンを求める実験を次のように行った。セルロースナノファイバーを含まない測定用サンプルは、2質量%のm-フェニレンジアミン、0.15質量%のSLS、6質量%のIPAを含む測定用第1溶液を多孔性支持体に塗布し、トリメシン酸クロライド0.1質量%を含む室温のIPソルベント溶液を塗布して界面重合させ余分なトリメシン酸クロライド溶液を極力液切りし、120℃で5分間乾燥し測定用サンプルを作製した。セルロースナノファイバーを含む場合は測定用第1溶液に0.2質量%のセルロースナノファイバーを加えた以外は同様にしてサンプルを作製した。
【0093】
乾燥後の測定用サンプルをリングポンチで打ち抜き精密天秤で秤量した。これを純水で加圧洗浄・乾燥後、同様に秤量した。この洗浄前後の質量差を質量差iとした。質量差iは純水洗浄により洗い流された物質の質量とみることができる。多孔性支持体に塗布する水溶液はm-フェニレンジアミンの他、SLS及びIPAを含む。ここで、IPAは乾燥時に飛散するものとし、未反応m-フェニレンジアミンの質量を質量aとした。質量aは質量差iからSLSの分を差し引くことにより求めた。半透膜中に残存していたSLSは、測定用第1溶液及び測定用第2溶液中のm-フェニレンジアミンとSLSの質量比(1対0.075)及び多孔性支持体に塗布されたm-フェニレンジアミンの総量とから求めた。m-フェニレンジアミンの総量は、後述する質量c(質量bに対応するm-フェニレンジアミン換算質量)と未反応m-フェニレンジアミンの量とを合計することにより求めた。ここで未反応m-フェニレンジアミンの量は、まず、質量差iを未反応m-フェニレンジアミンと仮定し質量cと合計してm-フェニレンジアミン総量αとし、これに0.075を乗じてSLS質量βとし、質量差iからSLS質量βを差し引いて未反応m-フェニレンジアミンαとした。
【0094】
次に、未反応m-フェニレンジアミンαと質量cを合計してm-フェニレンジアミン総量αとし、これに0.075を乗じてSLS質量βを求め、質量差iからSLS質量βを差し引いて未反応m-フェニレンジアミンαとした。同様の計算を繰り返し未反応m-フェニレンジアミンの値を収斂させて未反応m-フェニレンジアミンの質量とした。なお、低濃度のトリメシン酸溶液を使用し、かつ、界面重合後のトリメシン酸溶液の液切りを十分行っているので、測定用サンプル中に残存する未反応のトリメシン酸クロライドの量はSLSの量と比較すると1ケタ小さく無視できるものとした。
【0095】
【数2】
【0096】
次に、このサンプルをクロロホルムに短時間浸漬し多孔性支持体を溶解してポリアミド膜を採取した。この膜を150℃で乾燥した後秤量しポリアミド膜の質量bとした。ポリアミド1gは0.51gのm-フェニレンジアミンから生成するので、質量bに0.51を乗じm-フェニレンジアミンに換算した質量c(0.51×質量b)とした。未反応m-フェニレンジアミンの比率dは下記式(3)により求めたが、No.1~No.3がセルロースナノファイバーを含まない場合、No.4~No.6がセルロースナノファイバーを含む場合でほぼ同じ値となった。セルロースナノファイバーの含有率を推定する際にはこの6回の平均値を用いた。表1に6回の実験と計算で得た数値を示した。
【0097】
【数3】
【0098】
セルロースナノファイバー含有量はセルロースナノファイバーを含むポリアミドの質量に対するセルロースナノファイバーの質量の比で求めた。塗布されたセルロースナノファイバーは端部が多孔性支持体の細孔部に入ったとしても多孔性支持体の深部には入らず表層に全量が存在し測定用第2溶液の塗布液厚を15μmと仮定して、セルロースナノファイバーの濃度からセルロースナノファイバーの質量を算出し、これを質量eとした。
【0099】
生成されるポリアミドの質量については、塗布されたm-フェニレンジアミンの全量が界面重合するときに生成するポリアミドの質量を質量fとし、測定用第2溶液の塗布液厚が15μmの場合のm-フェニレンジアミンの質量をその濃度から算出した。実際に生成するポリアミドの質量を質量hとすれば、未反応m-フェニレンジアミンにより質量hは質量fより小さくなる。塗布されたm-フェニレンジアミンの全量は質量aと質量cの和と考えることができるので、質量hは下記式(4)により求めた。
【0100】
【数4】
【0101】
比率dは、測定用第2溶液のm-フェニレンジアミン濃度、セルロースナノファイバーの濃度等、半透膜作製条件により変動するものであるが、ここでは比率dが0.27で一定とし質量hを求めた。この質量hを用いて、半透膜内のセルロースナノファイバーの含有量(CNF含有量)(質量%)は下記式(1)により求めた。
【0102】
【数1】
【0103】
実施例1の半透複合膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0104】
【表1】
【0105】
(2)実施例2のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:5:1.25とした以外は実施例1と同様にして実施例2のサンプルを作製した。
【0106】
上記(1)と同様に実施例2のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行
った。実施例2の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0107】
(3)実施例3のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:10:2.5とした以外は実施例1と同様にして実施例3のサンプルを作製した。
【0108】
上記(1)と同様に実施例3のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。実施例3の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0109】
(4)実施例4のサンプルの作製(CNF0.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程における多孔性支持体に対する塗工液としての混合液は、m-フェニレンジアミン2.5質量%、セルロースナノファイバー0.025質量%(シランカップリング剤が結合した質量ではない)、SCA0.313質量%(「SCA」は、シランカップリング剤の総量である)、SLS0.15質量%、CSA5.0質量%、TEA2.5質量%、IPA0.0質量%を含むように調整し、セルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:10:2.5とした以外は実施例1と同様にして実施例4のサンプルを作製した。
【0110】
(5)実施例5のサンプルの作製(CNF0.07質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程における多孔性支持体に対する塗工液としての混合液は、m-フェニレンジアミン5.0質量%、セルロースナノファイバー0.005質量%(シランカップリング剤が結合した質量ではない)、SCA0.063質量%(「SCA」は、シランカップリング剤の総量である)、CSA6.0質量%、TEA3.0質量%を含むように調整し、セルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:10:2.5とし、トリメシン酸クロライド0.10質量%を含む室温のIPソルベント溶液7mlを使用した以外は実施例1と同様にして実施例のサンプルを作製した。
【0111】
(6)実施例6のサンプルの作製(CNF7.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程における多孔性支持体に対する塗工液としての混合液は、m-フェニレンジアミン2.5質量%、セルロースナノファイバー0.3質量%(シランカップリング剤が結合した質量ではない)、SCA0.188質量%(「SCA」は、シランカップリング剤の総量である)、CSA6.0質量%、TEA3.0質量%を含むように調整し、セルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:0.5:0.125とし、トリメシン酸クロライド0.10質量%を含む室温のIPソルベント溶液7mlを使用した以外は実施例1と同様にして実施例のサンプルを作製した。
【0112】
)参考例1のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程のCNF分散液に第1シランカップリング剤及び第2シランカップリング剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして参考例1のサンプルを作製した。
【0113】
上記(1)と同様に参考例1のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。参考例2の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0114】
)参考例2のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤:第2シランカップリング剤の質量比を1:20:5とした以外は実
施例1と同様にして参考例2のサンプルを作製した。
【0115】
上記(1)と同様に参考例2のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。参考例2の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0116】
)比較例1のサンプルの作製(CNF0.0質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程におけるCNF分散液を用いずに他は実施例1と同様にして架橋ポリアミド単体のサンプルを作製した。
【0117】
10)比較例2のサンプルの作製(CNF0.0質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程における混合液は、m-フェニレンジアミン3.0質量%、SCA0.125質量%(「SCA」は、シランカップリング剤の総量である)、SLS0.15質量%、CSA6.0質量%、TEA3.0質量%、IPA6.0質量%として、それ以外は比較例1と同様にして比較例2のサンプルを作製した。
【0118】
11)比較例3のサンプルの作製(CNF0.0質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程における混合液のSCAを0.313質量%とした以外は比較例2と同様にして比較例3のサンプルを作製した。
【0119】
12)透過流束及び脱塩率の測定
半透複合膜100の水透過流束は次のように測定した。
【0120】
12-1)高圧クロスフローテスト:φ25mm(有効面積3.46cm)の半透複合膜のテストセルを膜テスト装置に装着し、純水を操作圧力5.5MPa、流量300mL/minで3時間供給し、水透過流束を安定させた。次にクロスフローろ過方式により、温度25℃、3.2質量%の塩化ナトリウム水溶液を操作圧力5.5MPa、流量300mL/minで供給し、10分ごとに水透過流束を測定し、供給開始後から50分から1時間までの水透過流束を測定した。
【0121】
また、水透過流束の測定とともに水透過流束を測定したときの脱塩率(NaCl阻止率)も測定した。脱塩率は、供給水及び透過水の電気伝導度を堀場社製電気伝導率計(ES-71)で脱塩率は供給開始から1時間後の値とした。電気伝導度を測定し、この電気伝導度を換算して得られるNaCl濃度から、次の式(5)により脱塩率(%)を求めた。
【0122】
【数5】
【0123】
実施例1~3、参考例1,2及び比較例1~3のCNF分散液におけるシランカップリング剤の総添加量(質量%)に対する水透過流束(m/(day・m))を表2及び図2に示した。表2、図2及び図3における「SCA」は、シランカップリング剤の総量である。また、CNF分散液におけるシランカップリング剤の総添加量(質量%)に対する脱塩率(%)を表2及び図3に示した。実施例4、実施例5、実施例6の各測定結果については、表2に示した。
【0124】
12-2)低圧クロスフローテスト:φ25mm(有効面積3.46cm)の半透複合膜のテストセルを膜テスト装置に装着し、クロスフローろ過方式により、温度25℃、0.05質量%の塩化ナトリウム水溶液を操作圧0.75MPa、流量500mL/m
inで供給し、10分ごとに水透過流束を測定し、供給開始後から2時間40分から3時間10分までの30分間の水透過流束を測定した。脱塩率(NaCl阻止率)も上記(12-1)と同様に測定し供給開始から3時間後の値を求めた。
【0125】
実施例1~3、参考例1,2及び比較例1~3のCNF分散液におけるシランカップリング剤の総添加量(質量%)に対する水透過流束(m/(day・m))を表2及び図4に示した。表2における「SCA」は、シランカップリング剤の総量(質量%)である。CNF分散液におけるシランカップリング剤の総添加量(質量%)に対する脱塩率(%)を表2及び図5に示した。実施例4、実施例5、実施例6の各測定結果については、表2に示した。
【0126】
【表2】
【0127】
表2及び図2に示すように、高圧クロスフローテストにおける水透過流束は比較例1~比較例3のサンプルが0.916m/(m・day)~0.991m/(m・day)に対し、実施例1~6のサンプルは1.219m/(m・day)~1.457m/(m・day)であった。また、表2及び図3に示すように、比較例1~比較例3のサンプルに比べて、実施例1~6のサンプルは、脱塩率が同等程度の99.06%以上であった。
【0128】
表2及び図4に示すように、低圧クロスフローテストにおける水透過流束は比較例1~比較例3のサンプルが0.250m/(m・day)~0.313m/(m・day)に対し、実施例1~6のサンプルは0.408m/(m・day)~0.849m/(m・day)であった。また、表2及び図5に示すように、比較例1~比較例3のサンプルに比べて、実施例1~6のサンプルは、脱塩率が同等程度の99.16%以上であった。
【0129】
次に、実施例7、実施例8、参考例3として、混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度を変化させたサンプルを作成し、それらのサンプルを用いて透過流束及び脱塩率の測定を行った。なお、比較例1は、上記()と同様に架橋ポリアミド単体のサンプルとした。
【0130】
13)実施例7のサンプルの作製(CNF1.4質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度を0.05質量%とし、セルロースナノファイバー:第1シランカップリング剤の質量比を1:10とした以外は実施例1と同様にして実施例7のサンプルを作製した。なお、実施例7では第2シランカップリング剤は配合しなかった。
【0131】
上記(1)と同様に実施例7のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。実施例7の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は1.4質量%であった。
【0132】
14)実施例8のサンプルの作製(CNF2.7質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度を0.10質量%とした以外は実施例7と同様にして実施例8のサンプルを2つ作製した。
【0133】
上記(1)と同様に実施例8のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。実施例8の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は2.7質量%であった。
【0134】
15)参考例3のサンプルの作製(CNF5.3質量%)
上記(1)のサンプルの作製工程の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度を0.20質量%とした以外は実施例7と同様にして参考例3のサンプルを2つ作製した。
【0135】
上記(1)と同様に参考例3のサンプルのセルロースナノファイバー含有量の推定を行った。参考例3の半透膜のセルロースナノファイバーの含有量は5.3質量%であった。
【0136】
16)透過流束及び脱塩率の測定
上記(12)と同様に高圧クロスフローテストを実施し、半透複合膜100の水透過流束及び脱塩率を測定した。
【0137】
実施例7,8、参考例3及び比較例1の混合液におけるCNF濃度(質量%)に対する水透過流束(m/(day・m))を表3、図6(高圧クロスフロー)に示した。表3及び図6における「SCA」は、シランカップリング剤の総量である。また、混合液におけるCNF濃度(質量%)に対する脱塩率(%)を表3、図7(高圧クロスフロー)に示した。
【0138】
【表3】
【0139】
表3及び図6に示すように、高圧クロスフローテストにおける水透過流束は参考例3及び比較例1のサンプルが0.583m/(m・day)と0.957m/(m・day)であったのに対し、実施例7,8のサンプルは1.207m/(m・day
)~1.353m/(m・day)であった。また、表3及び図7に示すように、比較例1のサンプルに比べて、実施例7,8のサンプルは、脱塩率が同等程度の99.00%以上であった。
【0140】
17)実施例9のサンプルの作製(CNF1.4質量%)
カチオン界面活性剤(東京化成工業株式会社製、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム)をCNFの質量1に対して0.5を配合してCNF分散液及び混合液を得てCNFの濃度を0.05質量%とした以外は実施例1と同様に実施例9の半透複合膜のサンプルを作製した。混合液の粘度を音叉振動式レオメータ(株式会社エ-・アンド・デイ製 RV-10000A)で測定した結果、混合液の粘度は、1.8mPa・秒であり、実施例1~3,7,8の混合液(4.6~5.5mPa・秒)に比べて粘度が低いため、またチクソ性が観測できない程度に抑制され、多孔性支持体に対する塗布が容易で生産性が向上した。
【0141】
さらに、実施例9のサンプルを実施例1と同様に透過流束及び脱塩率の測定を行ったところ、カチオン界面活性剤を配合したことによる水透過流束1.203m/day及び脱塩率99.29%となり特性の低下は見られなかった。
【0142】
18)算術平均高さ(Sa)の測定
参考例1、参考例2及び実施例1~実施例3のサンプルの逆浸透膜の表面を、原子間力顕微鏡5500AFM/SPM(Agilent Technologies, Inc./東陽テクニカ社製)を用いて、JIS B0601-2013に準拠する算術平均粗さRa(二次元)を三次元表面性状パラメータに拡張したISO25178に準拠した算術平均高さ(Sa)を測定した。測定条件は、探針がSiNカンチレバー(製品名「SI-DF20」、SIIナノテクノロジ社製、材質:SiN、探針の長さ:12.5μm、先端半径:10nm)、走査モードがコンタクトモード、走査範囲が5μm×5μm四方であった。測定結果を表4及び図8に示した。
【0143】
【表4】
【0144】
表4及び図8に示すように、参考例1及び参考例2のサンプルの逆浸透膜の表面よりも実施例1~実施例3のサンプルの逆浸透膜の表面の算術平均高さ(Sa)の方が大きくなっている。この表面の算術平均高さの増加は、分離機能層であるポリアミド膜表面の突起が大きくなり分離機能層の表面積が増加していることを示し、そのため水透過流束が大きくなったものと考えられる。
【符号の説明】
【0145】
100…半透複合膜、102…多孔性支持体、104…半透膜、105…表面、110…セルロースナノファイバー、120…架橋芳香族ポリアミド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8