(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/02 20060101AFI20220929BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220929BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20220929BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20220929BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220929BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220929BHJP
C09C 3/00 20060101ALI20220929BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20220929BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20220929BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220929BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220929BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20220929BHJP
C09J 163/02 20060101ALI20220929BHJP
C09J 7/00 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L63/02
C08K3/36
C08K5/5425
C08K9/06
H01L23/30 R
C09C3/00
C09C3/12
C09C3/08
C09J11/04
C09J11/06
C09J163/00
C09J163/02
C09J7/00
(21)【出願番号】P 2017244936
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】梶田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文子
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171208(JP,A)
【文献】特開2005-170771(JP,A)
【文献】特開2005-171209(JP,A)
【文献】特開2008-081591(JP,A)
【文献】国際公開第2013/061688(WO,A1)
【文献】特開平06-232296(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104917(WO,A1)
【文献】特開2005-146141(JP,A)
【文献】特許第6822651(JP,B2)
【文献】特開2018-104634(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199904(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/50
C09C 1/30
C09C 3/00-3/12
C09J 7/30
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 163/00
C09J 163/02
H01L 21/60
H01L 23/29
H01L 23/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤
、(C2)シリカフィラー
、および、(D2)シランカップリング剤を含有する樹脂組成物であり、前記(C2)成分のシリカフィラーが、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質により表面のシラノール基が中和されているシリカフィラーであって、さらに、
樹脂組成物に配合する前にシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とするシリカフィラーである、樹脂組成物。
【請求項2】
前記pKaが9.4以上の塩基性物質が、3-メトキシプロピルアミン(3MOPA)、および、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤、および、メタクリル系シランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物を室温下で24時間後放置した際、樹脂組成物の粘度の増加率が初期の粘度から100%未満である、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)成分のエポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および、アミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の硬化剤が、アミン系硬化剤、および、イミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C2)シリカフィラーの真球度が、0.9以上である、請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C2)シリカフィラーの平均粒径が、0.05~80μmである、請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C2)シリカフィラーの含有量が、樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、30~60質量部である、請求項1~
8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
半導体封止材用である、請求項1~
9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
キャピラリーフロー封止用である、請求項1~
10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する半導体封止材。
【請求項13】
請求項1~
9のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する一液型接着剤。
【請求項14】
請求項1~
9のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する接着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材、電子部品製造時に使用される一液型接着剤、半導体実装時にNCF(Non Conductive Film)として使用される接着フィルムとして使用される樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置は、バンプ電極を介して基板上の電極部と半導体素子とが接続された構造を持っている。この構造の半導体装置は、温度サイクル等の熱付加が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題となっている。この不良発生を抑制するためにアンダーフィルと呼ばれる半導体封止材を用いて、半導体素子と基板との間のギャップを封止し、両者を互いに固定することによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
【0003】
半導体封止材の供給方法としては、半導体素子と、基板上の電極部と、を接続させた後、半導体素子の外周に沿って半導体封止材を塗布(ディスペンス)し、毛細管現象を利用して、両者の間隙に半導体封止材を注入するキャピラリーフローが一般的である。半導体封止材の注入後、該半導体封止材を加熱硬化させることで両者の接続部位を補強する。
【0004】
半導体封止材は、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れることが求められる。また、半導体封止材で封止した部位が、耐湿性、耐サーマルサイクル性等に優れることが求められる。
【0005】
上記の要求を満足するため、半導体封止材としては、エポキシ樹脂を主剤とするものが広く用いられている。
半導体封止材によって封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させるためには、無機物質からなる充填材(以下、「無機充填材」という。)を半導体封止材に添加することにより、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数差のコントロールを行うことや、バンプ電極を補強することが有効であることが知られている(特許文献1参照)。
この目的で添加される無機充填材としては、電気絶縁性が高いこと、および、熱膨張係数が低いことから、シリカフィラーが好ましく用いられている。
【0006】
しかしながら、半導体封止材中でシリカフィラーが凝集しやすく、不均一で、粘度が高く、その結果、流動性が低く、更なる成形性向上を図ることができないという問題があった。
【0007】
上記の問題を解決するため、シリカフィラーの配合量を高めるために、該シリカフィラーをシランカップリング剤で表面処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-173103号公報
【文献】特開2016-8280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シランカップリング剤で表面処理したシリカフィラーを使用した場合でも、半導体封止材の増粘が起こり、貯蔵安定性に劣る場合があることが明らかになった。
【0010】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、半導体封止材等の用途に使用される樹脂組成物における貯蔵安定性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C1)シリカフィラー、および、(D1)シランカップリング剤を含有する樹脂組成物であり、前記(C1)成分のシリカフィラーが、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理されていることを特徴とするシリカフィラーである、樹脂組成物(1)を提供する。
【0012】
また、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および、(C2)シリカフィラーを含有する樹脂組成物であり、前記(C2)成分のシリカフィラーが、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理した後、さらに、シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とするシリカフィラーである、樹脂組成物(2)を提供する。
【0013】
本発明の樹脂組成物(2)は、さらに、(D2)シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の樹脂組成物(1),(2)において、前記pKaが9.4以上の塩基性物質が、3-メトキシプロピルアミン(3MOPA)、および、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0015】
本発明の樹脂組成物(1),(2)において、前記シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤、および、メタクリル系シランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
本発明の樹脂組成物(1),(2)において、樹脂組成物を室温下で24時間後放置した際、樹脂組成物の粘度の増加率が初期の粘度から100%未満であることが好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物(1),(2)において、前記(A)成分のエポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および、アミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物(1),(2)において、前記(B)成分の硬化剤が、アミン系硬化剤、および、イミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物(1),(2)のいずれかを含有する半導体封止材を提供する。
【0020】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物(1),(2)のいずれかを含有する一液型接着剤を提供する。
【0021】
また、本発明は、本発明の樹脂組成物(1),(2)のいずれかを含有する接着フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物は、貯蔵安定性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の樹脂組成物(1)は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C1)シリカフィラー、および、(D1)シランカップリング剤を含有する。本発明の樹脂組成物(1)の各成分について、以下に記載する。
【0025】
(A)エポキシ樹脂
本発明の樹脂組成物は、半導体封止材、電子部品製造時に使用される一液型接着剤、半導体実装時にNCFとして使用される接着フィルムとして使用されるため、(A)成分として、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含有する。
【0026】
エポキシ樹脂は、エポキシ基を分子内に1つ以上有する化合物であり、加熱によりエポキシ基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化することができる。エポキシ基は、硬化物特性の点から、1分子に2つ以上含まれていることが好ましい。
【0027】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物又はこれらの誘導体(例えば、アルキレンオキシド付加物)、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールE、水素添加ビスフェノールF、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール等の脂環構造を有するジオール又はこれらの誘導体、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の脂肪族ジオール又はこれらの誘導体等をエポキシ化した2官能性エポキシ樹脂;トリヒドロキシフェニルメタン骨格、アミノフェノール骨格を有する3官能性エポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等をエポキシ化した多官能性エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂である。
【0028】
(A)成分のエポキシ樹脂は、室温(25℃)で液状であることが好ましく、単独で、又は混合物として室温で液状であるようにすることができる。反応性の希釈剤を使用して、液状とすることもでき、反応性希釈剤としては、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテルなどの1官能の芳香族グリシジルエーテル類、脂肪族グリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0029】
(B)硬化剤
本発明の樹脂組成物は、(B)成分として、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤を含有する。
(B)成分として使用する硬化剤はエポキシ樹脂の硬化剤である限り特に限定されない。(B)成分の硬化剤の具体例としては、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤が挙げられる。これらの中でも、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤が好ましい。
【0030】
アミン系硬化剤の具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、m-キシレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン等の脂肪族アミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジン等のピペラジン型のポリアミン等の脂肪族アミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン等の芳香族アミンが挙げられる。中でも、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタンが好ましい。
【0031】
イミダゾール系硬化剤の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-イミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が挙げられる。中でも、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、および、1-シアノエチル-2-エチル-4-イミダゾールが好ましい。
また、イミダゾール系硬化剤としては、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤も用いてもよい。マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤の具体的としては、例えば、HX3941HP、HXA3942HP、HXA3922HP、HXA3792、HX3748、HX3721、HX3722、HX3088、HX3741、HX3742、HX3613(いずれも旭化成ケミカルズ社製、商品名)等、PN-23J、PN-40J、PN-50(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名)、FXR-1121(富士化成工業株式会社製、商品名)を挙げることができる。
【0032】
(B)成分の硬化剤の有効量は硬化剤の種類によって異なる。硬化剤の種類ごとに、その有効量を以下に示す。
アミン系硬化剤の場合、その有効量は、(A)成分~(D1)成分の合計100質量部に対し、1~30質量部であることがより好ましく、10~20質量部であることがさらに好ましい。
イミダゾール系硬化剤の場合、その有効量は、(A)成分~(D1)成分の合計100質量部に対し、1~30質量部であることがより好ましく、15~25質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
(C1)シリカフィラー
(C1)成分のシリカフィラーは、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理されている。
シリカフィラーを塩基性物質で表面処理するのは、シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基を塩基性物質で中和するためである。
【0034】
シリカフィラーの表面には酸性のシラノール基が存在するため、半導体封止材に添加した際に以下の問題を生じるおそれがある。
【0035】
(1)シリカフィラー表面のシラノール基が酸触媒として働き、半導体封止材に含まれるエポキシ樹脂のホモ重合が進行して、半導体封止材の増粘や意図せぬ硬化が起こり得る。
【0036】
(2)一般に半導体封止材へのフィラー配合量を高めるために、シリカフィラーをシランカップリング剤で表面処理して用いることがあるが、この場合フィラー自体が酸触媒として働き、シランカップリング剤の変質が促進され、フィラーの凝集や取扱性悪化が起こり得る。またシランカップリング剤は樹脂組成物に直接配合して用いることもできるが、この場合もシリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基によってシランカップリング剤の加水分解が促進され、多量のアルコールが生成することで、増粘等の不具合が顕著になるおそれがある。
【0037】
シリカフィラーは、半導体封止材以外に、電子部品製造時に使用される一液型接着剤や、半導体実装時にNCF(Non Conductive Film)として使用される接着フィルムにも添加されるが、これらの用途においても、上述した(1),(2)の問題が懸念される。
【0038】
塩基性物質で表面処理すると、シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基に塩基性物質が化学吸着して、該シラノール基が中和される。
塩基性物質として、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質を用いる理由は以下に記載する通り。
シリカフィラーは保管中に吸湿していることがあり、シリカフィラーを使用する際にその水分による悪影響が懸念されることから、使用に先立って予備乾燥が実施されることが多い。シリカフィラーの場合、予備乾燥は150℃程度の温度で4h程度実施される。
この予備乾燥の際に、中和処理によってシリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基に化学吸着していた塩基性物質又は塩基性混合物が脱離してしまい、中和処理による効果を発揮できない場合がある。
シラノール基に化学吸着している塩基性物質の、シリカフィラーの予備乾燥のような加熱時における脱離しやすさには、塩基性物質のpKaが影響する。すなわち、pKaが小さい塩基性物質ほど、加熱時において、シラノール基から脱離しやすく、pKaが大きい塩基性物質ほど、加熱時において、シラノール基から脱離しにくい。
そして、上述したシリカフィラーの予備乾燥条件の場合、pKaが9.4以上の塩基性物質であれば、シラノール基からの脱離が抑制される。
【0039】
(C1)成分のシリカフィラーは、表面に存在する酸性のシラノール基が、塩基性物質により中和されているため、シリカフィラー表面のシラノール基が酸触媒として働き、(A)成分のエポキシ樹脂のホモ重合が進行して、樹脂組成物の増粘や意図せぬ硬化が防止される。
また、シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基が、塩基性物質により中和されているため、シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基によって、(D1)成分のシランカップリング剤の加水分解が促進され、多量のアルコールが生成することで、増粘等の不具合が生じるおそれがない。
【0040】
pKaが9.4以上の塩基性物質としては、例えば、ベンジルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-アミノ-1-プロパノール、3-アミノペンタン、3-メトキシプロピルアミン(3MOPA)、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピペリジン、ピロリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)が挙げられる。これらの中でも、3-メトキシプロピルアミン(3MOPA)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)がより好ましい。
これらの塩基性物質は1種のみ使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
塩基性物質による表面処理方法は、使用する塩基性物質に応じて適宜選択する。上記で例示した塩基性物質はいずれも常温で液体または気体である。そのため、塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で、該雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることにより、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させて、シリカフィラーを表面処理できるため好ましい。
なお、上記手順にしたがって、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させる場合は、上記雰囲気をさらに加熱することにより、具体的には、上述したシリカフィラーの予備乾燥の条件まで加熱することにより、シリカフィラー表面に存在するシラノール基に化学吸着しなかった塩基性物質を除去することができる。
但し、上記した手順は、塩基性物質による表面処理手順の一例を示したものであり、塩基性物質による表面処理手順はこれに限定されず、使用する塩基性物質に応じて適宜選択することができる。例えば、DBUのように分子量が大きく気化しにくい塩基性物質を使用する場合は、塩基性物質を含有する溶液中にシリカフィラーを浸漬させることにより、シリカフィラー表面を表面処理してもよい。また、塩基性物質を含む溶液を、シリカフィラーに噴霧することによって、シリカフィラー表面を表面処理してもよい。
【0042】
(C1)成分のシリカフィラーは、その製造方法により限定されない。たとえば、金属シリコンを酸素と反応させて得られる球状シリカ粉体、粉砕シリカを溶融して得られる球状シリカ粉体、シリカ粉砕物が例示される。
また、ゾルゲル法、沈降法、水溶液湿式法により得られるシリカフィラーが例示される。
これらのシリカフィラーは1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(C1)成分のシリカフィラーの形状は特に限定されず、粒状、粉末状、りん片等のいずれの形態であってもよい。なお、シリカフィラーの形状が粒状以外の場合、シリカフィラーの平均粒径とはシリカフィラーの平均最大径を意味する。
但し、真球度0.8以上の略真球状の形状をなすことが、本発明の樹脂組成物の用途が半導体封止材の場合、該半導体封止材中でのシリカフィラーの分散性、および、半導体封止材の注入性が向上するとともに、シリカフィラーをより最密充填状態に近づけるという観点から好ましい。本明細書における「真球度」は、「粒子の最大径に対する最小径の比」と定義する。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果、観測される最大径に対する最小径の比が0.8以上であればよい。(C)成分のシリカフィラーは、真球度が0.9以上であることが好ましい。
【0044】
(C1)成分の表面処理を施すシリカフィラーのサイズは特に限定されず、以下に記載するように、本発明の樹脂組成物の用途に応じて適宜選択することができる。
【0045】
本発明の樹脂組成物(1)を半導体封止材として使用する場合、(C1)成分のシリカフィラーの平均粒径が0.05~80μmであることが、半導体封止材の粘度調整、半導体封止材の注入性、ボイドの発生防止等の観点から好ましく、0.1~15μmであることがより好ましく、0.1~3μmであることがさらに好ましい。
また、平均粒径が上記の範囲であることに加えて、粒度分布がきわめてそろったものを使用することがより好ましい。具体的には、平均粒径±0.2μmの粒度分布が全体の90%以上であるものを使用することがより好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物(1)を電子部品製造時に用いる一液型接着剤として使用する場合、(C1)成分のシリカフィラーの平均粒径は、0.007~10μmであることが好ましく、0.1~6μmであることがより好ましい。
【0047】
本発明の樹脂組成物(1)を用いて作成した接着フィルムをNCFとして使用する場合、(C1)成分のシリカフィラーの平均粒径は、0.01~1μmであることが狭ギャップへの広がり性、透明性の理由から好ましく、0.05~0.3μmであることがより好ましい。
【0048】
本発明の樹脂組成物(1)において、(C1)成分のシリカフィラーの含有量は、本発明の樹脂組成物(1)の用途により異なるが、本発明の樹脂組成物(1)を半導体封止材として用いる場合は、本発明の樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、30~60質量部であることが好ましく、40~55質量部であることがより好ましい。
【0049】
(D1)シランカップリング剤
本発明の樹脂組成物(1)では、樹脂組成物中に(C1)成分のシリカフィラー、および、(D1)成分のシランカップリング剤を別々に添加し、インテグラルブレンド法により、(C1)成分のシリカフィラーを(D1)成分のシランカップリング剤で表面処理する。シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基に、pKa9.4以上の塩基性物質が化学吸着しているため、シランカップリング剤で表面処理したシリカフィラーを加熱処理した際に、シラノール基から塩基性物質が脱離するのが抑制されている。そのため、シリカフィラー表面のシラノール基が触媒となって過剰なシランカップリング剤のアルコキシドの加水分解や、エポキシ系シランカップリング剤に含まれるエポキシ基の開裂が進行し、表面処理の効果が損なわれるおそれがない。
【0050】
また、(D1)成分のシランカップリング剤は、本発明の樹脂組成物(1)を半導体封止材として使用した場合に、ICチップや基板に対する密着性を向上させる効果も奏する。
【0051】
(D1)成分のシランカップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。これらの中でも、エポキシ系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤が好ましい。
【0052】
エポキシ系シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM402、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBE402、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE403、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
メタクリル系シランカップリング剤の具体例としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学株式会社製)、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM502、信越化学株式会社製)、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBE502、信越化学株式会社製)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE503、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0054】
本発明の樹脂組成物(1)において、(D1)成分のシランカップリング剤の含有量は、本発明の樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、0.1~2.0質量部であることが好ましく、0.2~1.0質量部であることがより好ましい。
【0055】
本発明の樹脂組成物(2)は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および、(C2)シリカフィラーを含有する。本発明の樹脂組成物(2)の各成分のうち、(A)成分のエポキシ樹脂、および(B)成分の硬化剤については、本発明の樹脂組成物(1)と同様であり、(C2)成分のシリカフィラーが、本発明の樹脂組成物(1)の(C1)成分のシリカフィラーとは異なる。(C2)成分のシリカフィラーについて以下に記載する。
【0056】
(C2)シリカフィラー
(C2)成分のシリカフィラーは、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理した後、さらに、樹脂組成物に配合する前に、シランカップリング剤で表面処理されている。
上述したように、シリカフィラー表面に存在する酸性のシラノール基に、pKa9.4以上の塩基性物質が化学吸着しているため、シランカップリング剤で表面処理したシリカフィラーを加熱処理した際に、シラノール基から塩基性物質が脱離するのが抑制されている。そのため、シリカフィラー表面のシラノール基が触媒となって過剰なシランカップリング剤のアルコキシドの加水分解や、エポキシ系シランカップリング剤に含まれるエポキシ基の開裂が進行し、表面処理の効果が損なわれるおそれがない。
共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質による表面処理、および表面処理を施すシリカフィラーについては、(C1)成分のシリカフィラーと同様である。
表面処理に用いるシランカップリング剤としては、本発明の樹脂組成物(1)において、(D1)成分のシランカップリング剤として記載したものを用いることができる。
【0057】
シランカップリング剤による表面処理方法は特に限定されず、例えば、撹拌法、湿式法、乾式法等により実施することができる。
撹拌法は、予めシランカップリング剤とシリカフィラーとを撹拌装置に仕込み、適切な条件で撹拌する方法である、上記撹拌装置としては、ヘンシェルミキサー等の高速回転で撹拌・混合が可能なミキサーを用いることができるが、特に限定されるものではない。
湿式法は、表面処理しようとするシリカフィラーの表面積に対して十分な量のシランカップリング剤を水または有機溶剤に溶解して表面処理溶液とする。得られた表面処理溶液に対してシリカフィラーを添加し、スラリー状となるように撹拌する。撹拌によってシランカップリング剤およびシリカフィラーを十分反応させた後、濾過や遠心分離等の方法によりシリカフィラーを表面処理溶液から分離し、加熱乾燥する。
乾式法は、攪拌装置によって高速攪拌しているシリカフィラーに、シランカップリング剤の原液あるいは溶液を均一に分散させて処理する方法である。上記撹拌装置としては、ヘンシェルミキサー等の高速回転で撹拌・混合が可能なミキサーを用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0058】
本発明の樹脂組成物(2)は、さらに、(D2)成分として、シランカップリング剤を含有してもよい。(D2)成分として、シランカップリング剤を含有させた場合、本発明の樹脂組成物(2)を半導体封止材として使用した際に、ICチップや基板に対する密着性が向上する効果を奏する。(D2)成分のシランカップリング剤については、本発明の樹脂組成物(1)における(D1)成分のシランカップリング剤と同様である。
【0059】
本発明の樹脂組成物(1),(2)は、上記以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。
このような成分の具体例としては、金属錯体、レベリング剤、着色剤、イオントラップ剤、消泡剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、ホウ酸化合物等の安定剤などを配合することができる。また、本発明の樹脂組成物(1),(2)を接着フィルムとして使用する場合、上記に加えて、表面調整剤、レオロジー調整剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、エラストマー成分などを配合することができる。各配合剤の種類、配合量は常法通りである。
【0060】
本発明の樹脂組成物(1),(2)は、慣用の方法により製造することができる。具体的には、上述した成分を混合し、攪拌して調製される。混合攪拌は、ニーダー、ヘンシェルミキサー、ハイブリッドミキサー、ロールミル、ボールミル等を用いて行うことができるが、勿論、これに限定されない。各成分を同時に混合しても、一部成分を先に混合し、残り成分を後から混合するなど、適宜変更しても差支えない。
本発明の樹脂組成物(1),(2)を接着フィルムとして使用する場合、上記の手順で調製された樹脂組成物を溶剤で希釈してワニスとし、これを支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥させた後、支持体付の接着フィルム、または、支持体から剥離した接着フィルムとして提供することができる。
【0061】
本発明の樹脂組成物(1)は、(C1)成分のシリカフィラーが、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理されており、樹脂組成物に配合後、インテグラルブレンド法により、(D)成分のシランカップリング剤で該シリカフィラーが表面処理されているため、経時的な増粘が起こりにくく貯蔵安定性が良好である。この点については、(C2)成分のシリカフィラーが、共役酸の酸解離定数(pKa)が9.4以上の塩基性物質で表面処理した後、樹脂組成物に配合する前に、さらにシランカップリング剤で表面処理されている本発明の樹脂組成物(2)についても同様である。
【0062】
本発明の樹脂組成物(1),(2)は、下記式で表される、樹脂組成物を室温下で24時間後放置した際、樹脂組成物の粘度の増加率(増粘率)が、初期の粘度から100%未満であることが好ましい。
増粘率(%)=(24時間放置後粘度(Pa・s)-初期粘度(Pa/s))/初期粘度(Pa/s)×100
【0063】
本発明の樹脂成物(1),(2)は、後述する実施例に記載の手順で測定される接着強度が20kg以上であることが好ましい。
【0064】
本発明の樹脂組成物(1),(2)は、半導体封止材として使用した場合に、キャピラリーフローによる注入性が良好である。具体的には、後述する実施例に記載の手順でギャップへの注入性を評価した際に、3分後の注入距離が18mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。
【0065】
上述した特性を有することにより、本発明の樹脂組成物(1),(2)は、半導体封止材、一液型接着剤、接着フィルムとして好ましく使用できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1~17、比較例1~8)
下記表に示す配合割合となるように、各成分をハイブリッドミキサーで混合、分散させた後、真空脱泡を行い、評価用樹脂組成物を調製した。なお、表中の各組成に関する数値は質量部を表している。
なお、(C)成分のシリカフィラーは、塩基性物質で表面処理した後、若しくは、さらに、シランカップリング剤で表面処理した後、さらに、予備乾燥として150℃4時間加熱処理したサンプルを配合した。
【0068】
(A)エポキシ樹脂
(A1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名EXA835LV、DIC株式会社製、エポキシ当量165)
(A2)アミノフェノール型エポキシ樹脂、製品名jER630、三菱化学株式会社製、エポキシ当量94)
【0069】
(B)硬化剤
(B1)アミン系硬化剤(4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、製品名KAYAHARD A-A、日本化薬株式会社製)
(B2)マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤(製品名HX3088、旭化成イーマテリアルズ株式会社製)
【0070】
(C)シリカフィラー
(C1)VMC法(Vaporized Metal Combustion Method)で作製されたシリカフィラー(製品名SO-E2(株式会社アドマテックス製、平均粒径0.5μm、以下同様)2000g)に対し、塩基性物質として、3-メトキシプロピルアミン(3MOPA、pKa=10.49(水中の値、化学便覧基礎編 改定五版より)3.6mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱(3MOPAの沸点(120℃,1atm)~沸点より20℃低い温度が目安)することにより表面処理した。
(C2)シリカフィラー(SO-E2)(2000g)をイソプロパノールに分散させ、塩基性物質として、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU、pKa=12.5(サンアプロ株式会社ホームページより)3.6mmolを添加したのち、遠心分離をおこない、上清を除去して沈殿を乾燥させることにより表面処理した。
(C3)シリカフィラー(C1)に対し、以下の手順でエポキシ系シランカップリング剤による表面処理を実施した。
シリカフィラー(C1)(2000g)をミキサーにいれ、高速撹拌しながらエポキシ系シランカップリング剤のイソプロパノール溶液(信越化学工業株式会社KBM403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン);20.0gをイソプロパノール32.0gに用時溶解したもの)を噴霧した。これをバットに移して適宜撹拌しながら加熱し、イソプロパノールを除去することにより、エポキシ系シランカップリング剤により表面処理した。
(C4)シリカフィラー(C1)に対し、以下の手順でメタクリル系シランカップリング剤による表面処理を実施した。シリカフィラー(C1)(2000g)をミキサーにいれ、高速撹拌しながらメタクリル基を有するシランカップリング剤のイソプロパノール溶液(信越化学工業株式会社KBM503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン);20.0gをイソプロパノール32.0gに用時溶解したもの)を噴霧した。これをバットに移して適宜撹拌しながら加熱し、イソプロパノールを除去することにより、メタクリル系シランカップリング剤により表面処理した。
(C5)シリカフィラー(製品名Sciqas(堺化学株式会社、平均粒径0.1μm、2000g)に対し、塩基性物質として、3-メトキシプロピルアミン10.0mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱することにより表面処理した。
(C6)シリカフィラー(製品名SO-E5(株式会社アドマテックス製、平均粒径1.5μm)に対し、塩基性物質として、3-メトキシプロピルアミン1.8mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱することにより表面処理した。
(C7)ゾルゲル法で作製されたシリカフィラー(製品名KE-S50(株式会社日本触媒製、平均粒径0.5μm、2000g)に対し、塩基性物質として、3-メトキシプロピルアミン3.6mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱する。続いて、これをミキサーにいれ、高速撹拌しながらエポキシ系シランカップリング剤のイソプロパノール溶液(KBM403 20.0gをイソプロパノール32.0gに用時溶解したもの)を噴霧した。これをバットに移して適宜撹拌しながら加熱し、イソプロパノールを除去することにより表面処理した。
(C´1)シリカフィラー(SO-E2)に対し、塩基性物質による表面処理、シランカップリング剤による表面処理のいずれも実施しなかった。
(C´2)シリカフィラー(SO-E2)2000gに対して、塩基性物質として、アンモニア水(pKa=9.36(水中の値、化学便覧基礎編 改定五版より)3.6mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱することにより表面処理した。(2.0mL)を加え、ふたをして1時間加熱した。その後ふたを開けてさらに加熱し、水分と過剰なアンモニアを除去することにより表面処理した。
(C´3)シリカフィラー(SO-E2)2000gに対して、塩基性物質として、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(HMDS、pKa=7.55(水中の値、化学便覧基礎編 改定五版より)3.6mmolを加え、ふた付きの容器中で加熱することにより表面処理した。
(C´4)(C´1)のシリカフィラーを、(C3)と同様の手順でエポキシ系シランカップリング剤(KBM403)で表面処理した。
(C´5)(C´1)のシリカフィラーを、(C4)と同様の手順でメタクリル系シランカップリング剤(KBM503)で表面処理した。
【0071】
(D)シランカップリング剤
(D1)エポキシ系シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、製品名KBM403、信越化学工業株式会社製)
(D2)メタクリル系シランカップリング剤(3-メタクリロプロピルメトキシシラン、製品名KBM503、信越化学工業株式会社製)
【0072】
得られた評価用樹脂組成物を用いて、以下に示す評価を実施した。
【0073】
調製した評価用樹脂組成物について、ブルックフィールド社製回転粘度計HBDV-1(スピンドルSC4-14使用)用いて、50rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定した。次に、評価用樹脂組成物を密閉容器に入れて25℃、湿度50%の環境にて24時間保管した時点における粘度を同様の手順でそれぞれ測定した。得られた結果から下記式を用いて増粘率を算出した。
増粘率(%)=(24時間保管後粘度(Pa・s)-初期粘度(Pa/s))/初期粘度(Pa/s)×100
【0074】
調製した評価用樹脂組成物について、以下の手順で接着強度を測定した。
(1)試料をガラスエポキシ基板上に2mmφの大きさで孔版印刷する。
(2)印刷した試料上に2mm×2mmのSiチップを乗せる。これを送風乾燥機を用いて165℃で2時間熱硬化させる。
(3)卓上万能試験機(アイコーエンジニアリング株式会社製1605HTP)にてシェ
ア強度を測定する。
【0075】
(注入性)
2枚のガラス基板の間にアルミテープを用いて50μmのギャップを設けて、半導体素子の代わりにガラス板を固定した試験片を作製した。この試験片を110℃に設定したホットプレート上に置き、ガラス板の一端側に評価用樹脂組成物を塗布し、3分間後の注入距離を測定した。この手順を2回実施し、測定値の平均値を注入時間の測定値とした。
【0076】
実施例1~17は、いずれも増粘率が100%未満であり、貯蔵安定性が良好であった。実施例1は、(C)成分のシリカフィラーの表面処理に使用するpKaが9.4以上の塩基性物質として、3MOPA(pKa=10.49)を使用した実施例である。実施例2は、(C)成分のシリカフィラーの表面処理に使用するpKaが9.4以上の塩基性物質として、DBU(pKa=12.5)を使用した実施例である。実施例3は、実施例1に対し、(D)成分のシランカップリング剤を、エポキシ系シランカップリング剤(KBM403)から、メタクリル系シランカップリング剤(KBM503)に変えた実施例である。実施例4は、(C)成分のシリカフィラーを、pKaが9.4以上の塩基性物質として、3MOPAで表面処理した後、樹脂組成物に配合する前に、さらに、シランカップリング剤として、KBM403で表面処理し、(D)成分のシランカップリング剤を添加しなかった実施例である。実施例5は、実施例4に対し、(D)成分のシランカップリング剤として、KBM403を添加した実施例である。実施例6は、実施例4に対し、(C)成分のシリカフィラーの表面処理に用いるシランカップリング剤をKBM403から、KBM503に変えた実施例である。実施例7は、実施例1に対し、(C)成分のシリカフィラーを、樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、50質量部から40質量部に変えた実施例である。実施例8は、実施例1に対し、(C)成分のシリカフィラーを、樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、50質量部から55質量部に変えた実施例である。実施例9は、実施例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の硬化剤の当量比を1:1から0.8:1に変えた実施例である。実施例10は、実施例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の硬化剤の当量比を1:1から1.2:1に変えた実施例である。実施例11は、実施例1に対し、(D)成分のシランカップリング剤を、樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、0.5質量部から0.2質量部に変えた実施例である。実施例12は、実施例1に対し、(D)成分のシランカップリング剤を、樹脂組成物の各成分の合計質量100質量部に対して、0.5質量部から1.0質量部に変えた実施例である。実施例13は、実施例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂をビスフェノールF型エポキシ樹脂(EXA835LV)から、アミノフェノール型エポキシ樹脂(jER630)に変えた実施例である。実施例14は、実施例1に対し、(B)成分の硬化剤をアミン系硬化剤(KAYAHARD A-A)から、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤(HX3088)に変えた実施例である。(B)成分の硬化剤としてマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤(HX3088)を使用した実施例14は、他の実施例に比べて樹脂組成物の初期粘度が高いが、増粘率は100%未満であり、貯蔵安定性は良好である。実施例15は、実施例7に対し、(C)成分のシリカフィラーを、平均粒径0.5μmのSO-E2から、小粒径であるSciqas(平均粒径0.1μm)に変えた実施例である。実施例16は、実施例1に対し、(C)成分のシリカフィラーを、平均粒径0.5μmのSO-E2から、大粒径であるSO-E5(平均粒径1.5μm)に変えた実施例である。実施例17は、実施例4に対し、(C)成分のシリカフィラーを、VMC法(Vaporized Metal Combustion Method)で作製されたSO-E2から、ゾルゲル法で作製されたKE-S50に変えた実施例である。実施例1、3と、実施例4、6の比較から明らかなように、3MOPAによる表面処理後のシランカップリング剤による表面処理に、インテグラルブレンド法を用いた場合、および撹拌法を用いた場合のいずれの場合も貯蔵安定性を向上する効果が好ましく発揮された。
比較例1~8は、いずれも増粘率が100%以上であり、貯蔵安定性が劣っていた。比較例1は、シリカフィラーを塩基性物質およびシランカップリング剤のいずれでも表面処理しなかった例である。比較例2,3は、それぞれ、シリカフィラーをpKaが9.4未満の塩基性物質(アンモニア水(pKa=9.36)、HMDS(pKa=7.55))で表面処理した例である。比較例4は、比較例1に対し、(D)成分のシランカップリング剤をKBM403から、KBM503に変えた例である。比較例5,6は、シリカフィラーに対し、塩基性物質で表面処理することなく、それぞれ、シランカップリング剤(KBM403、KBM503)により表面処理した例である。比較例5,6の結果から、シリカフィラーに対し、塩基性物質で表面処理することなく、シランカップリング剤により表面処理した場合は、貯蔵安定性を向上する効果が得られないことが確認された。比較例7は、比較例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂をビスフェノールF型エポキシ樹脂(EXA835LV)から、アミノフェノール型エポキシ樹脂(jER630)に変えた比較例である。比較例8は、比較例1に対し、(B)成分の硬化剤をアミン系硬化剤(KAYAHARD A-A)から、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤(HX3088)に変えた比較例である。
なお、実施例1~17はいずれも比較例1~8に比べて注入性が良好であり、実施例1~7、9、10、12、15、16は注入性が特に良好であった。
【0077】
【0078】
【0079】