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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】放電探知システム及び放電探知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/67 20060101AFI20220929BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N21/67 A
G01N21/88 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018210111
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076643
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】西 孝裕樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 信也
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-215076(JP,A)
【文献】特開2018-009799(JP,A)
【文献】特開2011-069721(JP,A)
【文献】特開2006-203823(JP,A)
【文献】特開2017-049025(JP,A)
【文献】特開2013-152155(JP,A)
【文献】特開2014-137227(JP,A)
【文献】特開2014-153298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物体から生じた放電光を入射させるための複数の光ファイバであって互いに異なる光学的距離を有する前記複数の光ファイバと、
前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を検出して前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を出力する光センサと、
前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定する信号処理系と、
を備え
前記信号処理系は、前記検出信号のピーク時刻と前記放電光が入射した光ファイバの光学的距離に基づいて前記放電光が入射した光ファイバの端部の位置から前記放電光の発生位置までの光学的距離を算出し、算出した前記光学的距離に基づいて前記放電光の発生エリアを特定するように構成される放電探知システム。
【請求項2】
被検物体から生じた放電光を入射させるための複数の光ファイバであって互いに異なる光学的距離を有する前記複数の光ファイバと、
前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を検出して前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を出力する光センサと、
前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定する信号処理系と、
を備え、
前記信号処理系は、前記複数の光ファイバのうち3つ以上の光ファイバに前記放電光が入射した場合には、前記3つ以上の光ファイバに入射した前記放電光の検出信号の各ピーク時刻と、前記3つ以上の光ファイバの各光学的距離に基づいて、前記3つ以上の光ファイバの各端部の位置から前記放電光の発生位置までの各光学的距離を算出し、算出した前記各光学的距離に基づいて前記放電光の発生位置を特定するように構成される放電探知システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の放電探知システムを用いて前記放電光の発生エリアを特定する放電探知方法。
【請求項4】
互いに異なる光学的距離を有する複数の光ファイバの少なくとも1つに被検物体から生じた放電光を入射させるステップと、
前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を光センサで検出することによって、前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を取得するステップと、
前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定するステップと、
を有し、
前記検出信号のピーク時刻と前記放電光が入射した光ファイバの光学的距離に基づいて前記放電光が入射した光ファイバの端部の位置から前記放電光の発生位置までの光学的距離を算出し、算出した前記光学的距離に基づいて前記放電光の発生エリアを特定する放電探知方法。
【請求項5】
互いに異なる光学的距離を有する複数の光ファイバの少なくとも1つに被検物体から生じた放電光を入射させるステップと、
前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を光センサで検出することによって、前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を取得するステップと、
前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定するステップと、
を有し、
前記複数の光ファイバのうち3つ以上の光ファイバに前記放電光が入射した場合には、前記3つ以上の光ファイバに入射した前記放電光の検出信号の各ピーク時刻と、前記3つ以上の光ファイバの各光学的距離に基づいて、前記3つ以上の光ファイバの各端部の位置から前記放電光の発生位置までの各光学的距離を算出し、算出した前記各光学的距離に基づいて前記放電光の発生位置を特定する放電探知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放電探知システム及び放電探知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機では静電気や落雷によって燃料タンク内で放電が発生し、爆発することが無いように放電やスパーク光の確認試験が実施されている(例えば特許文献1参照)。典型的な航空機の放電確認試験は、燃料が充填されていない燃料タンクの供試体に電流を流し、多数のカメラや鏡を設置して撮影することによって行われる。供試体に電流が流れることによって放電が生じると、放電光がカメラで撮影される。このため、検査員が撮影結果の目視によって放電光を発見すれば、放電の発生箇所を特定することができる。
【0003】
一方、複数の光ファイバの端部を異なる位置に配置し、光ファイバに放電光を入射させることによって放電光の発生位置を検出する発光位置特定システムも提案されている(例えば特許文献2参照)。また、航空機や航空機以外を対象とする放電位置や大きさ等の測定装置も知られている(例えば特許文献3及び特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-049025号公報
【文献】特開2013-200213号公報
【文献】特開平01-184474号公報
【文献】特開2013-152155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のカメラでの撮影による放電確認試験の場合、被検査体の形状が複雑であると、多数のカメラや鏡の設置が必要になるという問題がある。逆に、カメラや鏡の配置が不十分であると、放電の見落としが発生する恐れがある。また、検査員が写真を目視して放電を確認する場合、検査員の労力や熟練を要する。
【0006】
一方、複数の光ファイバの端部を異なる方向に向けて配置する場合においても、光ファイバに入射した放電光を検出するための光センサを光ファイバの数だけ準備することが必要となる。このため、被検査体の形状が複雑であると、必要な光ファイバの本数が増加し、光センサの増加に繋がる。
【0007】
そこで本発明は、放電の発生位置を高精度かつ簡易に探知できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る放電探知システムは、被検物体から生じた放電光を入射させるための複数の光ファイバであって互いに異なる光学的距離を有する前記複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を検出して前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を出力する光センサと、前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定する信号処理系とを備え、前記信号処理系は、前記検出信号のピーク時刻と前記放電光が入射した光ファイバの光学的距離に基づいて前記放電光が入射した光ファイバの端部の位置から前記放電光の発生位置までの光学的距離を算出し、算出した前記光学的距離に基づいて前記放電光の発生エリアを特定するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る放電探知システムは、被検物体から生じた放電光を入射させるための複数の光ファイバであって互いに異なる光学的距離を有する前記複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を検出して前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を出力する光センサと、前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定する信号処理系とを備え、前記信号処理系は、前記複数の光ファイバのうち3つ以上の光ファイバに前記放電光が入射した場合には、前記3つ以上の光ファイバに入射した前記放電光の検出信号の各ピーク時刻と、前記3つ以上の光ファイバの各光学的距離に基づいて、前記3つ以上の光ファイバの各端部の位置から前記放電光の発生位置までの各光学的距離を算出し、算出した前記各光学的距離に基づいて前記放電光の発生位置を特定するように構成されるものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る放電探知方法は、上述した放電探知システムを用いて前記放電光の発生エリアを特定するものである。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る放電探知方法は、互いに異なる光学的距離を有する複数の光ファイバの少なくとも1つに被検物体から生じた放電光を入射させるステップと、前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を光センサで検出することによって、前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を取得するステップと、前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定するステップとを有し、前記検出信号のピーク時刻と前記放電光が入射した光ファイバの光学的距離に基づいて前記放電光が入射した光ファイバの端部の位置から前記放電光の発生位置までの光学的距離を算出し、算出した前記光学的距離に基づいて前記放電光の発生エリアを特定するものである。
また、本発明の実施形態に係る放電探知方法は、互いに異なる光学的距離を有する複数の光ファイバの少なくとも1つに被検物体から生じた放電光を入射させるステップと、前記複数の光ファイバの少なくとも1つに入射した前記放電光を光センサで検出することによって、前記放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を取得するステップと、前記検出信号のピーク時刻に基づいて少なくとも前記放電光の発生エリアを特定するステップとを有し、前記複数の光ファイバのうち3つ以上の光ファイバに前記放電光が入射した場合には、前記3つ以上の光ファイバに入射した前記放電光の検出信号の各ピーク時刻と、前記3つ以上の光ファイバの各光学的距離に基づいて、前記3つ以上の光ファイバの各端部の位置から前記放電光の発生位置までの各光学的距離を算出し、算出した前記各光学的距離に基づいて前記放電光の発生位置を特定するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る放電探知システムの構成図。
図2図1に示す光センサから信号処理系に出力される放電光の検出信号の一例を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る放電探知システム及び放電探知方法について添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る放電探知システムの構成図である。
【0014】
放電探知システム1は、被検物体Oに電流を流して放電光の発生エリア又は発生位置を特定するシステムである。放電探知システム1は、電流発生回路2、電流検出回路3、複数の光ファイバ4、単一又は複数の光センサ5、信号処理系6、暗箱7、入力装置8及び表示装置9を用いて構成することができる。
【0015】
放電光の発生エリア又は発生位置の探知対象となる被検物体Oは暗箱7内に設置される。図1に示す例では、板状のパネルに横断面がI型の補強材を取付けた典型的な形状を有する航空機部品を模擬した供試体が被検物体Oとなっている。被検物体Oは炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の繊維強化プラスチック(FRP)や金属で構成される物体とすることができる。
【0016】
電流発生回路2は、暗箱7内に設置された被検物体Oに電流を印加する回路である。放電探知システム1で航空機部品の放電確認試験を行う場合であれば、雷電流を模擬した電流を電流発生回路2から被検物体Oに印加することができる。被検物体Oに電流が流れると、放電が生じる恐れがある。そこで、被検物体Oに電流を流した場合に放電が生じるか否かに加えて、放電が生じた場合にどの発生エリア又は発生位置で放電が起こるのかを放電探知システム1で放電光を検出することによって検査することができる。
【0017】
電流検出回路3は、被検物体Oへの電流の印加タイミングを検出する回路である。被検物体Oを電流が流れると電磁波は誘起される。このため、電流検出回路3は、被検物体Oを流れる電流値を検出する非接触式の電流プローブ等の他、電磁波を検出するアンテナを用いて構成することができる。電流検出回路3において検出された被検物体Oへの電流の印加タイミングは、電流印加の検知信号として信号処理系6に通知される。
【0018】
複数の光ファイバ4は、互いに異なる光学的距離(光路長)を有する。光学的距離は、光が実際に媒体を伝播する距離に媒体の屈折率を乗じた値となる。従って、複数の光ファイバ4の屈折率が同一である場合には、複数の光ファイバ4の長さが互いに異なる長さに決定される。
【0019】
各光ファイバ4の一端は暗箱7内に設置された被検物体Oの不確かな位置において発生し得る放電光を入射させることが可能な位置に配置される。図1に示す例では、互いに異なる長さL1、L2、L3、L4、L5、L6を有する6本の光ファイバ4(L1)、4(L2)、4(L3)、4(L4)、4(L5)、4(L6)の一端が暗箱7の四方の壁に設けられた貫通孔に差し込まれた状態で固定されている。このため、影になる部分が生じるような複雑な形状を有する被検物体Oから生じた放電光であっても、複数の光ファイバ4(L1)、4(L2)、4(L3)、4(L4)、4(L5)、4(L6)の少なくとも1つの一端に入射させることができる。
【0020】
各光ファイバ4の他端は光センサ5と接続される。光センサ5は光ファイバ4ごとに接続してもよいが、複数の光ファイバ4の全部又は複数の一部に共通の光センサ5を接続するようにしても良い。複数の光ファイバ4の全部又は複数の一部の端部を共通の光センサ5と接続する場合には、複数の光ファイバ4の全部又は複数の一部の端部を光ファイバカプラ10を介して共通の光センサ5と接続することができる。
【0021】
これにより、共通の光センサ5で複数の光ファイバ4の全部又は複数の一部に入射した放電光を検出することが可能となる。このため、光センサ5の数を低減し、放電探知システム1の構成を簡易にすることができる。
【0022】
図1に示す例では、6本の光ファイバ4(L1)、4(L2)、4(L3)、4(L4)、4(L5)、4(L6)の各端部が光ファイバカプラ10を介して単一の光センサ5と接続されている。尚、光ファイバカプラ10としては、複数本の光ファイバを加熱溶融した後、融着延伸して製作される溶融ファイバカプラが代表的である。
【0023】
光センサ5は、複数の光ファイバ4の少なくとも1つに入射した放電光を検出し、放電光の強度の時間変化に対応する振幅の時間変化を有する検出信号を信号処理系6に出力する光検出器である。光センサ5は、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)やフォトダイオード等の光電変換素子で構成することができる。光電変換素子で構成される光センサ5からは、放電光の検出信号が電気信号として信号処理系6に出力される。
【0024】
信号処理系6は、光センサ5から出力された放電光の検出信号に対する信号処理によって放電光の発生エリア又は発生位置を検出する機能を有している。放電光の検出信号は、光電変換素子で構成される光センサ5からアナログの電気信号として出力されるため、信号処理系6は、A/D(analog-to-digital)変換器やコンピュータ等の電気回路で構成することができる。
【0025】
図2図1に示す光センサ5から信号処理系6に出力される放電光の検出信号の一例を表すグラフである。
【0026】
図2において横軸は時間(ns)を示し、縦軸は放電光の相対強度(任意単位)を示す。光センサ5から信号処理系6に出力される放電光の検出信号の波形は、例えば図2に示すような波形となる。
【0027】
具体的には、光ファイバ4間において光学的距離が異なるため、放電光が光ファイバ4の入射側の端部から光センサ5側における端部まで伝播するためにかかる時間が光ファイバ4間において異なる。従って、複数の光ファイバ4に放電光が入射した場合には、放電光の強度のピーク時刻が異なる複数の放電光が光センサ5において検出される。この場合、信号処理系6では、異なる時刻において複数のピークを呈する放電光の強度の時間変化を表す検出信号が取得され、ピーク時刻の数は放電光が入射した光ファイバ4の数に相当する。
【0028】
電流検出回路3において検出された電流の印加タイミングを基準とし、被検物体Oへの電流の印加タイミングを初期時刻T0として放電光の検出信号のピーク時刻を公知のピーク検出処理によって信号処理系6において自動検出すると、各ピーク時刻は、電流の印加タイミングから放電光が発生するまでの時間、放電光が発生してから空気中を伝播して対応する光ファイバ4の端部に到達するまでの時間及び対応する光ファイバ4の一端から他端まで放電光が伝播する時間を、初期時刻T0に加算した時刻となる。
【0029】
放電光の発生位置は被検物体Oの表面上における不確かな位置となる。従って、電流の印加タイミングから放電光が発生するまでの時間と、放電光が発生してから空気中を伝播していずれか1つ又は複数の光ファイバ4の端部に到達するまでの時間は、不確かである。これに対して、各光ファイバ4の一端から他端まで放電光が伝播する時間は、各光ファイバ4の光学的距離で一意に定まる。
【0030】
そこで、放電光が被検物体Oの表面上において発生する可能性があるどの位置で発生して複数の光ファイバ4の少なくとも1つに入射しても、放電光の検出信号のピーク時刻が同一時刻とならないように複数の光ファイバ4間における光学的距離の差を決定することができる。そうすると、信号処理系6において放電光の検出信号のピーク時刻を自動検出すれば、放電光の検出信号のピーク時刻と複数の光ファイバ4の各光学的距離に基づいて複数の光ファイバ4のうちのいずれの光ファイバ4に放電光が入射したのかを特定することができる。
【0031】
このため、複数の光ファイバ4に入射した放電光を共通の光センサ5で検出しても、放電光が伝播した単一又は複数の光ファイバ4を信号処理系6において特定することができる。換言すれば、光ファイバ4間における光学的距離を十分に変えれば、複数の光ファイバ4に入射した放電光の検出信号を多重化することができる。
【0032】
具体例として、被検物体Oのどの位置で放電光が発生して光ファイバ4に入射しても長さがL1の光ファイバ4(L1)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L1)が時刻T1(>T0)と時刻T2(>T1)との間に、長さがL2の光ファイバ4(L2)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L2)が時刻T2と時刻T3(>T2)との間に、長さがL3の光ファイバ4(L3)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L3)が時刻T3と時刻T4(>T3)との間に、長さがL4の光ファイバ4(L4)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L4)が時刻T4と時刻T5(>T4)との間に、長さがL5の光ファイバ4(L5)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L5)が時刻T5と時刻T6(>T5)との間に、長さがL6の光ファイバ4(L6)を伝播した放電光の強度のピーク時刻PT(L6)が時刻T6よりも後に、それぞれなるように、6本の光ファイバ4(L1)、4(L2)、4(L3)、4(L4)、4(L5)、4(L6)の長さL1、L2、L3、L4、L5、L6を決定することができる。
【0033】
そうすると、図2に例示されるように、長さがL1の光ファイバ4(L1)を放電光が伝播した場合にピークが生じ得るピーク時刻PT(L1)においてピークを呈する放電光の信号波形S(L1)、長さがL4の光ファイバ4(L4)を放電光が伝播した場合にピークが生じ得るピーク時刻PT(L4)においてピークを呈する放電光の信号波形S(L4)並びに長さがL5の光ファイバ4(L5)を放電光が伝播した場合にピークが生じ得るピーク時刻PT(L5)においてピークを呈する放電光の信号波形S(L4)を含む放電光の検出信号が信号処理系6において取得された場合には、長さがL1の光ファイバ4(L1)、長さがL4の光ファイバ4(L4)及びL5の光ファイバ4(L5)に放電光が入射及び伝播したと自動判定することができる。
【0034】
信号処理系6において放電光が入射した光ファイバ4を特定できれば、放電光が入射した光ファイバ4の端部の位置に基づいて放電光の発生エリアについても信号処理系6において自動的に特定することができる。すなわち、放電光が入射したと判定された光ファイバ4の端部に放電光が入射し得るエリアにおいて放電光が発生したと自動判定することができる。
【0035】
具体例として、図1に例示されるように放電光が入射したと判定された、長さがL1の光ファイバ4(L1)、長さがL4の光ファイバ4(L4)及びL5の光ファイバ4(L5)の各端部が、被検物体Oの特定のエリアに向けて配置されている場合であれば、当該特定のエリアが放電光の発生エリアであると信号処理系6において自動判定することができる。
【0036】
このように、複数の光ファイバ4の光学的距離及び端部の位置を適切に決定すれば、単一又は複数の光ファイバ4に入射及び伝播した放電光の検出信号のピーク時刻に基づいて、少なくとも放電光の発生エリアを信号処理系6において自動的に特定することが可能となる。特に、PMT等の光センサ5は時間分解能が高く、発光時間がナノ秒台である放電光であっても検出することが可能である。このため、光ファイバ4間において光学的距離を変えれば、放電光の検出信号のピーク時刻の相違を信号処理系6において十分な精度で検出することができる。
【0037】
尚、異なる光ファイバ4を伝播して光センサ5で検出された放電光の強度のピーク時刻を互いに異なる時刻とするためには、複数の光ファイバ4のうち最も光学的距離の差が小さい2つの光ファイバ4間における光学的距離の差を、2つの光ファイバ4のうち光学的距離が短い方の光ファイバ4の端部から、放電光が発生し得る被検物体Oの表面における位置までの光学的距離の最大長さと、2つの光ファイバ4のうち光学的距離が長い方の光ファイバ4の端部から、放電光が発生し得る被検物体Oの表面における位置までの光学的距離の最小長さとの間における差よりも長くすることが適切である。但し、図2に例示されるように光ファイバ4の光学的距離を一定間隔で変化させれば、各光ファイバ4の長さの決定と、信号処理系6における放電光の検出信号に対する信号処理を単純化することができる。
【0038】
各光ファイバ4の端部から、放電光が発生し得る被検物体Oの表面における位置までの光学的距離は、被検物体Oのサイズが大きい程、長くなる。従って、放電光の強度のピーク時刻の取り得る時間範囲を、光ファイバ4間においてオーバーラップさせないためには、被検物体Oのサイズが大きい程、光ファイバ4間における光学的距離の差を大きくすることが必要となる。
【0039】
一方、異なる光ファイバ4を伝播した放電光の強度のピーク時刻が理論的に異なる時刻になったとしても、放電光の強度を表す信号波形が大幅にオーバーラップする場合には、異なるピーク時刻として検出できなくなる可能性がある。異なる光ファイバ4を伝播した放電光の強度のピーク時刻を別々に検出するためには、異なる光ファイバ4を伝播した放電光の強度を表す信号波形の立上りから立下りまでの期間についてもできるだけオーバーラップしないようにすることが望ましい。
【0040】
放電光の強度を表す信号波形の立上りから立下りまでの期間は放電期間に相当する。放電は、ボルテージスパークと、サーマルスパークとに大別される。ボルテージスパークは、被検物体Oに電圧を印加した際に、印加電圧に起因して電流が流れるタイミングでナノ秒オーダの短い期間に生じる放電である。一方、サーマルスパークは、被検物体Oを流れた電流によるジュール熱に起因して電流が流れてから10μs程度遅れて生じるプラズマである。サーマルスパークの期間は、100μs程度であり、ボルテージスパークと比較すると桁違いに長い。
【0041】
典型的なボルテージスパークによって生じる放電光の強度を表す信号波形は鋭利な波形となる。このため、ボルテージスパークが継続する期間に基づいて理論的に計算すると、ボルテージスパークによって生じた放電光の強度を表す信号波形を異なる光ファイバ4間でオーバーラップさせないためには、各光ファイバ4の端部からスパークの発生位置までの距離の差を考慮しない場合、光ファイバ4間における光学的距離の差を1m以上とすれば良いことになる。従って、複数の光ファイバ4間における光学的距離の差を少なくとも1m以上とすれば、信号処理系6において、ボルテージスパークによって生じた放電光の発生エリアを良好な感度で特定することが可能となる。
【0042】
実際に光ファイバ4間における光学的距離の差を5mとして、金属電極間において発生させたボルテージスパークによる放電光を4本の光ファイバ4に入射させて検出した結果、各放電光の信号波形を光ファイバ4間でオーバーラップさせずに検出できることが確認された。
【0043】
一方、サーマルスパークによって生じる放電光の信号波形は時間方向に広がりを持っている。そこで、サーマルスパークによって生じた放電光の強度を表す信号波形が異なる光ファイバ4間でオーバーラップしてもピーク時刻が峻別できるようにするための条件をサーマルスパークが継続する期間に基づいて理論的に計算すると、各光ファイバ4の端部からスパークの発生位置までの距離の差を考慮しない場合、光ファイバ4間における光学的距離の差を50m以上とすれば良いことになる。従って、複数の光ファイバ4間における光学的距離の差を少なくとも50m以上とすれば、信号処理系6において、サーマルスパークによって生じた放電光の発生エリアを良好な感度で特定することが可能となる。
【0044】
但し、サーマルスパークによって生じる放電光の信号波形は鋭利な波形とならず、ノイズ除去処理や検出条件によってはピークが顕著に現れない場合があることから、複数の光ファイバ4間における光学的距離の差を70m以上とすることが十分な感度を得る観点から望ましいと考えられる。実際に、光ファイバ4間における光学的距離の差を70mとして、複雑な形状を有する被検物体Oから発生したサーマルスパークによる放電光を2本の光ファイバ4に入射させて検出した結果、2つのピーク時刻をオーバーラップさせずに検出できることが確認された。
【0045】
放電光の検出信号のピーク時刻は、上述したように放電光が入射した光ファイバ4の端部の位置から放電光の発生位置までの光学的距離によっても変化する。従って、信号処理系6において放電光の検出信号のピーク時刻を自動検出すれば、放電光の検出信号のピーク時刻と放電光が入射した光ファイバ4の光学的距離に基づいて、放電光が入射した光ファイバ4の端部の位置から放電光の発生位置までの光学的距離を算出することができる。
【0046】
すなわち、放電光の検出信号のピーク時刻から、放電光が光ファイバ4を伝播するために要した時間だけ遡った時刻が、光ファイバ4の端部の位置に放電光が到達した時刻であると考えることができる。このため、空気中における光速から光ファイバ4の端部の位置から放電光の発生位置までの光学的距離を算出することができる。光ファイバ4の端部の位置から放電光の発生位置までの光学的距離が算出できると、放電光の発生位置は被検物体Oの表面上における位置であることから、放電光の発生エリアを限定することができる。具体的には、光ファイバ4の端部の位置から一定の距離だけ離れた被検物体Oの表面上における位置、つまり半径が一定の仮想的な球面と被検物体Oの表面との交線を、放電光の発生エリアとして自動的に特定することができる。
【0047】
従って、複数の光ファイバ4のうち3つ以上の光ファイバ4に放電光が入射した場合には、3つ以上の光ファイバ4に入射した放電光の検出信号の各ピーク時刻と、放電光が入射した3つ以上の光ファイバ4の各光学的距離に基づいて、放電光が入射した3つ以上の光ファイバ4の各端部の位置から放電光の発生位置までの各光学的距離を算出することができる。この場合には、放電光が入射した3つ以上の光ファイバ4の各端部の位置から放電光の発生位置までの各光学的距離に基づいて、放電光の発生位置を幾何学的に特定することが可能である。すなわち、信号処理系6において、放電光が入射した3つ以上の光ファイバ4の各端部を中心とする3つ以上の球面の交点として、幾何学的に放電光の発生位置を自動検出することができる。
【0048】
信号処理系6において取得された情報は、必要に応じて表示装置9に表示させることができる。また、入力装置8から必要な情報を信号処理系6に入力することができる。具体例として、被検物体Oの表面の空間位置情報を信号処理系6における情報処理に使用する場合であれば、被検物体Oの表面形状を表すソリッドモデル等の3次元座標データを信号処理系6に入力することができる。
【0049】
以上のような放電探知システム1及び放電探知方法は、光学的距離が異なる複数の光ファイバ4の各一端を異なる位置に配置し、光学的距離が異なる複数の光ファイバ4を放電光が伝播するために要する時間が僅かに異なる性質を利用して、放電光の発生エリアを特定するようにしたものである。
【0050】
このため、放電探知システム1及び放電探知方法によれば、従来の放電確認試験のように死角が生じないように多数のカメラや鏡を設置する作業はもちろん、検査員による写真の観察や複数のカメラのシャッターを一斉に切る操作及び装置も不要となる。特に、光ファイバ4の設置は、カメラや鏡の設置と比較して容易である。加えて、光センサ5を複数の光ファイバ4で共通化することが可能である。
【0051】
その結果、放電確認試験に要する時間とコストを低減することができる。また、光ファイバ4の端部の位置及び向きを容易に調整できるため、被検物体Oの形状が複雑であっても、死角の発生を低減することができる。すなわち、放電確認試験を高精度かつ簡易に行うことが可能となる。
【0052】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0053】
1 放電探知システム
2 電流発生回路
3 電流検出回路
4 光ファイバ
5 光センサ
6 信号処理系
7 暗箱
8 入力装置
9 表示装置
10 光ファイバカプラ
O 被検物体
図1
図2