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特許7149191CoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】CoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20220929BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C23C14/14 F
C23C14/34 A
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/10
H01L43/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019005072
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020111810
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
(72)【発明者】
【氏名】森田 正
(72)【発明者】
【氏名】呉 承俊
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082124(JP,A)
【文献】国際公開第2018/203554(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072162(WO,A1)
【文献】特開2019-161164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
C23C 14/34
H01L 21/8239
H01L 29/82
H01L 43/10
H01L 43/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoZnMnを主成分とするターゲットをスパッタすることによって、非晶質なCoZnMn膜を形成することと、
前記CoZnMn膜を加熱することによって、前記CoZnMn膜を結晶化させることと、を含み、
x、y、および、zは、以下の条件を満たす
5≦x≦7.9
2≦y≦4
0.1≦z≦2
x+y+z=10
CoZnMn膜の形成方法。
【請求項2】
前記CoZnMn膜を形成することは、前記CoZnMn膜を形成する空間における圧力が、0.1Pa以上0.6Pa以下であることを含む
請求項1に記載のCoZnMn膜の形成方法。
【請求項3】
前記CoZnMn膜を結晶化させることは、前記CoZnMn膜の温度が300℃以上400℃以下であることを含む
請求項1または2に記載のCoZnMn膜の形成方法。
【請求項4】
前記CoZnMn膜を結晶化させることは、前記CoZnMn膜を6℃/分以上80℃/分以下の速度で300℃以上400℃以下まで昇温させることを含む
請求項3に記載のCoZnMn膜の形成方法。
【請求項5】
焼成されたCoZnMnが主成分であり、x、y、および、zが以下の条件を満たす
5≦x≦7.9
2≦y≦4
0.1≦z≦2
x+y+z=10
CoZnMnターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体から形成される記憶層中に生じるスキルミオンを記憶単位として用いたスキルミオン磁気記憶素子が提案されている。スキルミオン磁気記録素子が備える記憶層は、カイラル磁性体によって形成される。スキルミオン磁気記憶素子を実用化するためには、常温である20℃付近においてスキルミオンを生じるカイラル磁性体が必要である。こうしたカイラル磁性体として、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMnが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/072162号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、CoZnMnがスキルミオン磁気記憶素子の磁性体として機能する上では、CoZnMnが数百nm以下程度の厚さを有した薄膜であることが求められる。しかしながら、CoZnMn薄膜の形成方法は、未だ確立されていない。
【0005】
本発明は、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMnの薄膜を形成することを可能としたCoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのCoZnMn膜の形成方法は、CoZnMnを主成分とするターゲットをスパッタすることによって、非晶質なCoZnMn膜を形成することと、前記CoZnMn膜を加熱することによって、前記CoZnMn膜を結晶化させることを含む。x、y、および、zは、以下の条件を満たす。5≦x≦7.9、2≦y≦4、0.1≦z≦2、x+y+z=10。
【0007】
上記課題を解決するためのCoZnMnターゲットは、焼成されたCoZnMnが主成分であり、x、y、および、zが以下の条件を満たす。5≦x≦7.9、2≦y≦4、0.1≦z≦2、x+y+z=10。
【0008】
上記各構成によれば、CoZnMn膜を形成するためのターゲットとして、5≦x≦7.9、2≦y≦4、かつ、0.1≦z≦2を満たすターゲットを用いるため、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜を形成することが可能である。
【0009】
上記CoZnMn膜の形成方法において、前記CoZnMn膜を形成することは、前記CoZnMn膜を形成する空間における圧力が、0.1Pa以上0.6Pa以下であることを含んでもよい。
【0010】
上記構成によれば、非晶質なCoZnMn膜を形成する際に、CoZnMn膜を形成する空間、すなわちターゲットがスパッタされる空間の圧力が0.1Pa以上0.6Pa以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜が形成される確実性を高めることが可能である。
【0011】
上記CoZnMn膜の形成方法において、前記CoZnMn膜を結晶化させることは、前記CoZnMn膜の温度が300℃以上400℃以下であることを含んでもよい。上記構成によれば、CoZnMn膜を結晶化させる場合にCoZnMn膜の温度が300℃以上であることによって、CoZnMn膜を結晶化させる確実性を高めることが可能である。また、CoZnMn膜の温度が400℃以下であることによって、Znの蒸発が抑えられ、結果として、CoZnMn膜におけるZnの割合が小さくなることが抑えられる。
【0012】
上記CoZnMn膜の形成方法において、前記CoZnMn膜を結晶化させることは、前記CoZnMn膜を6℃/分以上80℃/分以下の速度で300℃以上400℃以下まで昇温させることを含んでもよい。
【0013】
上記構成によれば、CoZnMn膜を加熱する際の昇温速度が6℃/分以上80℃/分以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜が得られやすい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】CoZnMn膜をCoZnMn膜が形成される基板とともに示す断面図。
図2】CoZnMn膜を形成するためのスパッタ装置の一例を示すブロック図。
図3】CoZnMn膜を加熱するためのアニール装置の一例を示すブロック図。
図4】CoZnMn膜の形成方法を説明するためのフローチャート。
図5】CoZnMn膜に対するX線回折によって得られたスペクトル。
図6】試験例1のCoZnMn膜に対するX線回折によって得られたスペクトル。
図7】試験例2のCoZnMn膜に対するX線回折によって得られたスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図7を参照して、CoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲットの一実施形態を説明する。以下では、CoZnMn膜の形成方法、および、試験例を順に説明する。
【0016】
[CoZnMn膜の形成方法]
図1から図5を参照して、CoZnMn膜の形成方法を説明する。
図1が示すように、CoZnMn膜11は、例えばシリコン基板12上に形成される。シリコン基板12は、シリコン層12aと酸化シリコン層12bとから形成される。シリコン基板12の厚さ方向において、シリコン層12aがシリコン基板12の大部分を占めている。酸化シリコン層12bは、シリコン基板12の熱酸化によって、シリコン基板12の表面に形成された層である。CoZnMn膜11は、酸化シリコン層12b上に形成される。
【0017】
シリコン基板12は、単結晶シリコンから形成されてもよいし、多結晶シリコンから形成されてもよい。また、CoZnMn膜11が形成される成膜対象は、シリコン基板12に限らず、例えば、ガラス基板、および、サファイア基板などでもよい。本実施形態において、β‐Mn型のCoZnMn膜11を得るためには、シリコン基板12とCoZnMn膜11との間に位置する下地層は不要である。
【0018】
CoZnMn膜11は、CoZnMnから形成される。CoZnMn膜11がβ‐Mn型の結晶構造を有する場合には、a、b、および、cは、以下の条件を満たす。
3≦a≦5
3≦b≦5
1≦c≦3
a+b+c=10
【0019】
図2は、CoZnMn膜11の形成に用いられるスパッタ装置の模式的な構造を示している。
図2が示すように、スパッタ装置20は、真空槽21を備えている。真空槽21はシリコン基板12を収容し、かつ、シリコン基板12に対してCoZnMn膜11が形成される成膜空間を区画している。真空槽21内には、シリコン基板12を支持する支持部22が位置している。支持部22は、例えばシリコン基板12を支持するステージである。
【0020】
真空槽21内において、支持部22と対向する位置にCoZnMnターゲット23の被スパッタ面が露出している。CoZnMnターゲット23は、バッキングプレート24に固定されている。バッキングプレート24にはターゲット電源25が接続されている。本実施形態において、ターゲット電源25は直流電源である。なお、ターゲット電源25は、交流電源でもよい。CoZnMnターゲット23には、バッキングプレート24を介して電圧が印加される。なお、CoZnMnターゲット23およびバッキングプレート24のなかで、少なくともCoZnMnターゲット23の被スパッタ面のみが真空槽21内に露出していればよい。
【0021】
バッキングプレート24に対してCoZnMnターゲット23とは反対側には、磁気回路26が位置している。磁気回路26は、CoZnMnターゲット23の被スパッタ面に漏洩磁場を形成する。スパッタ装置20は、被スパッタ面と対向する方向から見て、被スパッタ面に対する磁気回路26の位置を変えるための変更機構を備えてもよい。
【0022】
真空槽21には、排気部27とスパッタガス供給部28とが接続されている。排気部27は、真空槽21内を減圧する。排気部27は、例えばバルブとポンプとを含んでいる。スパッタガス供給部28は、スパッタガスを所定の流量で真空槽21内に供給する。スパッタガス供給部28はマスフローコントローラーであり、真空槽21の外部に位置するガスボンベに接続されている。スパッタガス供給部28は、例えばアルゴンガスをスパッタガスとして真空槽21内に供給する。スパッタガス供給部28は、アルゴンガス以外の希ガスをスパッタガスとして真空槽21内に供給してもよい。
【0023】
スパッタ装置20では、支持部22にシリコン基板12が配置されると、排気部27によって成膜空間内が所定の圧力にまで減圧される。次いで、スパッタガス供給部28からスパッタガスが供給された後に、ターゲット電源25からCoZnMnターゲット23に電圧が印加されることによって、被スパッタ面の周囲にプラズマが生成される。結果として、CoZnMnターゲット23がスパッタされ、シリコン基板12上にCoZnMn膜11が形成される。スパッタ装置20では、CoZnMnターゲット23のスパッタが行われているときに、シリコン基板12における温度の制御を行っていない。すなわち、スパッタ装置20では、CoZnMnターゲット23のスパッタが行われているときに、スパッタ粒子からの入熱以外にシリコン基板12に対して熱エネルギーを与えていない。これによって、シリコン基板12上には、非晶質なCoZnMn膜11が形成される。
【0024】
図3は、CoZnMn膜11の加熱に用いられるアニール装置の模式的な構造を示している。
図3が示すように、アニール装置30は、真空槽31を備えている。真空槽31はCoZnMn膜11が形成されたシリコン基板12を収容し、かつ、CoZnMn膜11を加熱する処理空間を区画している。真空槽31内には、シリコン基板12を支持する支持部32が位置している。支持部32は、例えばシリコン基板12を支持するステージである。
【0025】
真空槽31内には、加熱部33が位置している。加熱部33は、例えば赤外線ランプであってもよいし、セラミックヒーターであってもよい。真空槽31には、排気部34とガス供給部35とが接続されている。排気部34は、真空槽31内を減圧する。排気部34は、例えばバルブとポンプとを含んでいる。ガス供給部35は、不活性ガスを所定の流量で真空槽31内に供給する。ガス供給部35はマスフローコントローラーであり、真空槽31の外部に位置するガスボンベに接続されている。ガス供給部35は、不活性ガスとしてアルゴンガスを真空槽31内に供給する。ガス供給部35は、アルゴンガス以外の不活性ガスを真空槽31内に供給してもよい。
【0026】
アニール装置30では、支持部32にシリコン基板12が配置されると、排気部34によって処理空間内が所定の圧力にまで減圧される。次いで、ガス供給部35から不活性ガスが供給された後に、加熱部33によってCoZnMn膜11が加熱される。これにより、非晶質なCoZnMn膜11が結晶化される。
【0027】
β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11の形成は、上述したスパッタ装置とアニール装置とを用いて行われる。CoZnMn膜11の形成方法は、非晶質なCoZnMn膜11を形成することと、CoZnMn膜を結晶化させることを含む。非晶質なCoZnMn膜11を形成することでは、CoZnMnを主成分とするターゲットをスパッタする。x、y、および、zは、以下の条件を満たす。
【0028】
5≦x≦7.9
2≦y≦4
0.1≦z≦2
x+y+z=10
CoZnMn膜11を結晶化させることでは、CoZnMn膜11を加熱する。以下、図4を参照して、CoZnMn膜11の形成方法をより詳しく説明する。
【0029】
図4が示すように、CoZnMn膜11の形成方法は、成膜工程(ステップS11)とアニール工程(ステップS12)とを含んでいる。成膜工程では、CoZnMn膜11を形成するためのターゲットとして、焼成されたCoZnMnが主成分であり、かつ、x、y、および、zが上述した条件を満たすCoZnMnターゲット23を用いる。このように、CoZnMn膜11を形成するためのターゲットとして、5≦x≦7.9、2≦y≦4、かつ、0.1≦z≦2を満たすターゲットを用いるため、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11を形成することが可能である。
【0030】
CoZnMn膜11を形成することでは、CoZnMn膜11を形成する成膜空間における圧力が、0.1Pa以上0.6Pa以下であることが好ましい。非晶質なCoZnMn膜11を形成する際に、CoZnMn膜11を形成する空間、すなわちターゲットがスパッタされる空間の圧力が0.1Pa以上0.6Pa以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11が形成される確実性を高めることが可能である。
【0031】
CoZnMn膜11を結晶化させることでは、CoZnMn膜11の温度が300℃以上400℃以下であることが好ましい。CoZnMn膜11を結晶化させる場合にCoZnMn膜11の温度が300℃以上であることによって、CoZnMn膜11を結晶化させる確実性を高めることが可能である。また、CoZnMn膜11の温度が400℃以下であることによって、Znの蒸発が抑えられ、結果として、CoZnMn膜11におけるZnの割合が小さくなることが抑えられる。
【0032】
また、CoZnMn膜11を結晶化させることでは、CoZnMn膜11を6℃/分以上80℃/分以下の速度で300℃以上400℃以下まで昇温させることが好ましい。CoZnMn膜11を加熱する際の昇温速度が6℃/分以上80℃/分以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11が得られやすい。
【0033】
図5は、CoZnMn膜11の一例に対するX線回折の結果として得られたスペクトルである。図5が示すスペクトルにおいて、縦軸は、X線回折の強度(Intensity(counts))である。
【0034】
図5が示すように、結晶化したCoZnMn膜11は、第1ピークP1、第2ピークP2、および、第3ピークP3を有している。第1ピークP1の回折角2θが42°以上44°以下であり、第2ピークP2の回折角2θが45°以上46°以下であり、第3ピークP3の回折角2θが47°以上48°以下である。
【0035】
第1ピークP1は、結晶面が(221)であるCoZnMnの結晶を示し、第2ピークP2は、結晶面が(310)であるCoZnMnの結晶を示し、かつ、第3ピークP3は、結晶面が(311)であるCoZnMnの結晶を示している。そして、3つのピークのなかで、第1ピークP1の強度が最も高く、かつ、第3ピークP3の強度が最も低い。すなわち、こうしたスペクトルは、CoZnMn膜11が、β‐Mn型の結晶構造を有することを示している。
【0036】
[試験例]
図6および図7を参照して、試験例を説明する。
[試験例1]
50.8mmの直径を有したシリコン基板を準備し、シリコン基板上に200nmの厚さを有したCoZnMn膜を形成した。CoZnMn膜を形成する際の条件を以下のように設定した。
【0037】
・ターゲット組成 CoZnMn
・供給電力 直流 200W
・スパッタガス アルゴンガス
・スパッタガス流量 7~30sccm
【0038】
また、成膜空間の圧力を0.030Pa(試験例1‐1)、0.10Pa(試験例1‐2)、0.60Pa(試験例1‐3)、および、1.0Pa(試験例1‐4)の各々に設定し、各圧力においてCoZnMn膜を形成した。次いで、各圧力において形成したCoZnMn膜を以下の条件で加熱した。
【0039】
・処理空間の圧力 1×10-4Pa
・加熱温度 400℃
・加熱時間 10分
・加熱温度に到達するまでの時間 60分
【0040】
このように、試験例1では、処理空間の温度、すなわちCoZnMn膜の温度を室温(約20℃)から400℃まで約6℃/分の速度で昇温させた。そして、CoZnMn膜の温度が加熱温度である400℃に到達してから10分間にわたって、CoZnMn膜を400℃に維持した。
【0041】
[試験例2]
試験例1と同様に、成膜区間の圧力を0.030Pa(試験例2‐1)、0.10Pa(試験例2‐2)、0.60Pa(試験例2‐3)、および、1.0Pa(試験例2‐4)の各々に設定し、かつ、それ以外の条件も試験例1と同様に設定して、CoZnMn膜を形成した。次いで、各圧力において形成したCoZnMn膜を以下の条件で加熱した。
【0042】
・処理空間の圧力 1×10-3Pa
・加熱温度 400℃
・加熱時間 10分
・加熱温度に到達するまでの時間 5分
【0043】
このように、試験例2では、処理空間の温度、すなわちCoZnMn膜の温度を室温(約20℃)から400℃まで約76℃/分の速度で昇温させた。そして、CoZnMn膜の温度が加熱温度である400℃に到達してから10分間にわたって、CoZnMn膜を400℃に維持した。
【0044】
[評価結果]
試験例1のCoZnMn膜、および、試験例2のCoZnMn膜について、X線回折装置(BRUKER社製、AXS D8 DISCOVER)を用いてX線回折によるスペクトルを得た。各CoZnMn膜に対するX線回折の結果として得られたスペクトルは、図6および図7に示す通りであった。
【0045】
なお、図6(a)が試験例1‐1のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図6(b)が試験例1‐2のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図6(c)が試験例1‐3のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図6(d)が試験例1‐4のCoZnMn膜におけるスペクトルである。また、図7(a)が試験例2‐1のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図7(b)が試験例2‐2のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図7(c)が試験例2‐3のCoZnMn膜におけるスペクトルであり、図7(d)が試験例2‐4のCoZnMn膜におけるスペクトルである。各スペクトルにおいて、縦軸は、X線回折の強度(Intensity(counts))である。
【0046】
図6が示すように、試験例1‐2のCoZnMn膜、試験例1‐3のCoZnMn膜、および、試験例1‐4のCoZnMn膜の各々において、X線回折によるスペクトルが、第1ピーク、第2ピーク、および、第3ピークを有することが認められた。また、第1ピークの回折角2θが42°以上44°以下であり、第2ピークの回折角2θが45°以上46°以下であり、かつ、第3ピークの回折角2θが47°以上48°以下であることが認められた。そして、3つのピークにおいて、第1ピークの強度が最も高く、かつ、第3ピークの強度が最も低いことが認められた。このように、試験例1‐2のCoZnMn膜、試験例1‐3のCoZnMn膜、および、試験例1‐4のCoZnMn膜の各々は、β‐Mn型の結晶構造を有することが認められた。
【0047】
一方で、図7が示すように、試験例2‐2のCoZnMn膜において、X線回折によるスペクトルが、第1ピーク、第2ピーク、および、第3ピークを有することが認められた。また、第1ピークの回折角2θが42°以上44°以下であり、第2ピークの回折角2θが45°以上46°以下であり、かつ、第3ピークの回折角2θが47°以上48°以下であることが認められた。そして、3つのピークにおいて、第1ピークの強度が最も高く、かつ、第3ピークの強度が最も低いことが認められた。このように、試験例2‐2のCoZnMn膜は、β‐Mn型の結晶構造を有することが認められた。
【0048】
このように、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜を得る上では、成膜空間の圧力が0.1Pa以上1.0Pa以下であることが好ましく、0.1Paであることがさらに好ましいことが認められた。また、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜を得ることが可能な圧力の範囲を拡張する上では、アニール工程における昇温速度が約76℃/分であるよりも、約6℃/分であることが好ましいことが認められた。
【0049】
以上説明したように、CoZnMn膜の形成方法、および、CoZnMnターゲットの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)CoZnMn膜11を形成するためのターゲットとして、5≦x≦7.9、2≦y≦4、かつ、0.1≦z≦2を満たすターゲットを用いるため、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11を形成することが可能である。
【0050】
(2)非晶質なCoZnMn膜11を形成する際に、成膜空間の圧力が0.1Pa以上0.6Pa以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11が形成される確実性を高めることが可能である。
【0051】
(3)CoZnMn膜11を結晶化させる場合にCoZnMn膜11の温度が300℃以上であることによって、CoZnMn膜11を結晶化させる確実性を高めることが可能である。また、CoZnMn膜11の温度が400℃以下であることによって、Znの蒸発が抑えられ、結果として、CoZnMn膜11におけるZnの割合が小さくなることが抑えられる。
【0052】
(4)CoZnMn膜11を加熱する際の昇温速度が6℃/分以上80℃/分以下であることによって、β‐Mn型の結晶構造を有したCoZnMn膜11が得られやすい。
【0053】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[加熱温度]
・非晶質なCoZnMn膜を結晶化させることが可能であれば、非晶質なCoZnMn膜を加熱する温度は、300℃未満でもよい。あるいは、非晶質なCoZnMn膜を加熱する温度は、β‐Mn型の結晶構造が得られる組成が維持されれば、400℃よりも高くてもよい。
【0054】
[昇温速度]
・CoZnMn膜を昇温させる速度は、6℃/分よりも小さくてもよいし、80℃/分よりも大きくてもよい。いずれの場合であっても、非晶質なCoZnMn膜を加熱することによって結晶化させることが可能であることから、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0055】
[圧力]
・CoZnMn膜を成膜する際の成膜空間の圧力は、0.1Paよりも小さくてもよいし、0.6Paよりも大きくてもよい。この場合であっても、CoZnMn膜11を形成するためのターゲットとして、5≦x≦7.9、2≦y≦4、0.1≦z≦2、および、x+y+z=10を満たすCoZnMnターゲット23を用いる以上は、上述した(1)に準じた効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
11…CoZnMn膜、12…シリコン基板、12a…シリコン層、12b…酸化シリコン層、20…スパッタ装置、21,31…真空槽、22,32…支持部、23…CoZnMnターゲット、24…バッキングプレート、25…ターゲット電源、26…磁気回路、27,34…排気部、28…スパッタガス供給部、30…アニール装置、33…加熱部、35…ガス供給部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7