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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】熱伝導性複合シリコーンゴムシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/20 20060101AFI20220929BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20220929BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20220929BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220929BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20220929BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B25/20
B32B7/022
B32B7/027
C09J7/38
C09J183/04
C09J7/25
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019113297
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020203457
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-509025(JP,A)
【文献】特開2004-311577(JP,A)
【文献】特開2013-086433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/38
C09J 183/04
C09J 7/25
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.8W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性シリコーンゴムシートと、該熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に、0.5~10μmの厚みで設けられた、70℃における絶対粘度が700Pa・s以下である熱軟化性シリコーンレジン層とを有する熱伝導性複合シリコーンゴムシートであって、
前記熱軟化性シリコーンレジン層は、常温で0.5N/25mm以上の粘着力を有し、かつ、
前記熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられた熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さいものであることを特徴とする熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項2】
前記熱伝導性複合シリコーンゴムシートを60℃環境下2ヶ月間保管した後に、前記熱軟化性シリコーンレジン層が、前記保管をする前に比べて70%以上の粘着力を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項3】
前記熱伝導性シリコーンゴムシートのシリコーンゴム成分がジメチルシロキサン単位からなり、熱軟化性シリコーンレジン層のフェニル変性率が20mol%以上のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項4】
前記熱伝導性シリコーンゴムシートが、ガラスクロス及び/又はプラスチックフィルムを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器内の発熱部品と放熱部品との間に設置され、放熱に用いられる熱伝導性複合シリコーンゴムシートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバーターや、電源などの電子機器に使用されるトランジスタやダイオードなどの半導体は、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱による機器の温度上昇は動作不良、機器の破壊を引き起こす。そのため、動作中の半導体の温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中の半導体の温度上昇を抑えるために、アルミニウムや銅等熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、上記半導体が発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
【0004】
半導体とヒートシンクとの間は、電気的に絶縁されていなければならず、従来はプラスチックフィルムなどを介在させていた。しかし、プラスチックフィルムは極めて熱伝導率が低いためヒートシンクへの熱の伝達を著しく妨げてしまう。そこで、その対応策として、シリコーンのようなポリマーに熱伝導性充填剤を充填し、熱伝導性を付与した熱伝導性シリコーンゴムシートを用いることで、絶縁性と熱伝導性を両立できることが知られている。
【0005】
また、半導体のような発熱体とヒートシンクのような冷却板との間に熱伝導性シリコーンゴムシートを実装する際は、熱伝導性シリコーンゴムシートをネジやバネクリップのようなもので固定する。しかし、実装時の工程上の問題により、熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に粘着性が求められる。というのも、実装の際に、熱伝導性シリコーンゴムシートの実装箇所を合わせる必要があるためである。粘着層がないと、固定の際に望みの実装箇所からずれてしまう可能性がある。また、実装工程の事情で、熱伝導性シリコーンゴムシートを垂直に貼り付けなければならないこともある。
【0006】
熱伝導性シリコーンゴムシートに粘着層を付与することは既知の技術であり、粘着層を付与することで、実装工程上の粘着性の問題は解決した(特許文献1、2、3、4)。しかし、これまでの熱伝導性シリコーンゴムシートに付与する粘着層は厚みが10~50μm程度であり、その粘着層の厚みが厚いために、熱伝導性が著しく悪くなる。熱伝導性を改善しようとして、粘着層の厚みを薄くすると、確かに熱伝導性は改善するが、粘着力が低下してしまう。また、粘着層自体に熱伝導性を付与するという考えもあるが、粘着層に熱伝導性を付与するには熱伝導性充填剤を添加する必要があり、こちらもまた粘着力低下の原因となる。そこで、粘着力を確保するには粘着層の厚みを厚くすることが考えられるが、粘着層の厚みを厚くすると熱伝導性が犠牲になる。このように粘着力と熱伝導性は背反関係にあり、熱伝導性をできるだけ犠牲にせずに、粘着力を付与する方法が長年必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-348542号公報
【文献】特開2014-193598号公報
【文献】特開2018-193491号公報
【文献】特願2018-544987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に粘着層を設けた、熱伝導性複合シリコーンゴムシートにおいて、熱伝導性をできるだけ犠牲にせずに、粘着力を付与することができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決するために、本発明は、熱伝導性シリコーンゴムシートと、該熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に、0.5~10μmの厚みで設けられた、70℃における絶対粘度が700Pa・s以下である熱軟化性シリコーンレジン層とを有する熱伝導性複合シリコーンゴムシートであって、
前記熱軟化性シリコーンレジン層は、常温で0.5N/25mm以上の粘着力を有し、かつ、
前記熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられた熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さいものであることを特徴とする熱伝導性複合シリコーンゴムシートを提供する。
【0010】
本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートであれば、発熱体と冷却部材との界面に実装したとき、発熱体からの熱で熱軟化性シリコーンレジン層が軟化し流動性を持つことで被着体との接触状態が改善され、熱伝導性が高くなる。このため、熱伝導性と粘着力を、ともに十分に付与することができる。
【0011】
このとき、前記熱伝導性複合シリコーンゴムシートを60℃環境下2ヶ月間保管した後に、前記熱軟化性シリコーンレジン層が、前記保管をする前に比べて70%以上の粘着力を有するものであることが好ましい。
【0012】
このようなものであれば、製造初期との粘着力の差が大きくなりすぎず、実装工程で貼り付けるために必要な荷重などの条件が大きく変わることがないため、生産効率の低下の恐れがない。
【0013】
またこのとき、前記熱伝導性シリコーンゴムシートのシリコーンゴム成分がジメチルシロキサン単位からなり、熱軟化性シリコーンレジン層のフェニル変性率が20mol%以上のものであることが好ましい。
【0014】
このようなものであれば、熱伝導性シリコーンゴムシートのシリコーンゴム成分と熱軟化性シリコーンレジン層のレジン成分の相溶性が良好になりすぎないため、熱軟化性シリコーンレジン層のレジン成分が熱伝導性シリコーンゴムシート中に分散することによる、保管中の粘着力の低下を抑制することができる。
【0015】
またこのとき、前記熱伝導性シリコーンゴムシートが、ガラスクロス及び/又はプラスチックフィルムを含有するものであることが好ましい。
【0016】
ガラスクロスを含有するものであれば、強度的に優れたものとなる。また、プラスチックフィルムを含有するものであればより電気的絶縁性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートであれば、発熱体と冷却部材との界面に実装したとき、発熱体からの熱で熱軟化性シリコーンレジン層が軟化し流動性を持つことで被着体との接触状態が改善され、熱伝導性が高くなる。このため、熱伝導性と粘着力を、ともに十分に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明は、熱伝導性シリコーンゴムシートと、該熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に、0.5~10μmの厚みで設けられた、70℃における絶対粘度が700Pa・s以下である熱軟化性シリコーンレジン層とを有する熱伝導性複合シリコーンゴムシートであって、
前記熱軟化性シリコーンレジン層は、常温で0.5N/25mm以上の粘着力を有し、かつ、
前記熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、前記熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられた熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さいものであることを特徴とする熱伝導性複合シリコーンゴムシートである。
【0020】
本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、熱伝導性シリコーンゴムシートと該熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられた熱軟化性シリコーンレジン層とを有する。熱軟化性シリコーンレジン層は熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設ければよく、両面に設けることもできる。
【0021】
[熱伝導性シリコーンゴムシート]
熱伝導性シリコーンゴムシートは、例えば、シリコーンポリマーに熱伝導性充填剤および硬化剤などを添加し、混錬した熱伝導性シリコーン組成物を、任意の方法でシート状に成型し、硬化させたものである。
【0022】
混錬は、プラネタリーミキサー、ニーダー、二本ロールのようなせん断力を有する混錬方法により行うことが好ましいが、特に限定されるものではない。熱伝導性シリコーン組成物をシート状に成型する方法はカレンダー成型、コーティング成型、押し出し成型など挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0023】
熱伝導性シリコーンゴムシートの熱伝導率は、0.8W/mK以上が好ましく、さらに好ましくは1.2W/mK以上である。0.8W/mK以上の熱伝導率であれば、発熱体の熱を冷却部位に十分に伝えることができる。熱伝導率に特に上限はなく、シート状に成型出来るのであれば熱伝導率は高い方が、発熱体からの熱を冷却部位により効率的に伝えることができるので、好ましい。
【0024】
熱伝導性シリコーンゴムシートの厚みは0.08mm以上1.2mm以下が好ましい。0.08mm以上であれば十分な絶縁性を確保できる。また、1.2mm以下であれば、高い絶縁性を確保するとともに、発熱体からの熱を冷却部位に十分に伝えることができる。
【0025】
熱伝導性シリコーンゴムシートの硬さはショアA硬度で60以上98以下が好ましい。ショアA硬度が60以上であれば、熱伝導性複合シリコーンゴムシート実装時のネジやクリップの固定圧力で厚みが変化してしまうことによる絶縁性の不安定化を抑制することができる。また、ショアA硬度が98以下であれば、硬くなりすぎることがない。
【0026】
熱伝導性シリコーンゴムシートはガラスクロス及び/又はプラスチックフィルムを含んでいてもよい。例えば、補強効果を狙ってガラスクロスや絶縁効果を狙ってプラスチックフィルムなどの材料を含有させることが挙げられる。例えば、熱伝導性シリコーンゴムシートを、2層のシリコーンゴム層と、それらの間に介在する中間層とを含むものとし、その中間層として、上記材料を含有させることができる。
【0027】
熱伝導性シリコーンゴムシートは既に様々な製品が市場に販売されており、TC-20CG(信越化学工業製)、TC-30BG(信越化学工業製)、TC-15TAP-2(信越化学工業製)、TC-20TAG-8(信越化学工業製)、TC-20TA-1(信越化学工業製)、TC-20TAG-2(信越化学工業製)、TC-20TAP-2(信越化学工業製)等が挙げられる。これらはあくまで例であり、これらに限定されるものではない。
【0028】
[熱軟化性シリコーンレジン層]
熱軟化性シリコーンレジン層は熱軟化性シリコーンレジンを含むものである。熱軟化とは、常温では固体であるが、加熱されて流動化することである。すなわち、熱伝導性シリコーンゴムシートに、粘着層として熱軟化性シリコーンレジン層を積層させた熱伝導性複合シリコーンゴムシートを発熱体と冷却部材の界面に実装したとき、発熱体からの熱で熱軟化性シリコーンレジン層が軟化し流動性を持つことで被着体との接触状態が改善され、熱伝導性が高くなる。
【0029】
熱軟化性シリコーンレジン層の70℃における絶対粘度は700Pa・s以下である。好ましくは300Pa・s以上700Pa・s以下である。700Pa・sより大きいと、常温時に十分な粘着力が得られない。
【0030】
絶対粘度は、HAAKE RotoVisco 1(ロトビスコ)回転式粘度計を用いて測定することができる。具体的には、鉛直な中心軸の上下にそれぞれ水平に配置された二つの円板の下方側の平らな円板(直径20mm)と上方のコーン型円板(直径20mm、コーン角2度、トランク0.1mm)との間に試料のシリコーン樹脂を挟み、該平らな円板を固定し、前記中心軸を回転軸としてその周りで該コーン型円板を回転速度10s-1で回転させて測定することができる。
【0031】
熱軟化性シリコーンレジンの具体例としては下記式(1)~(3)に示すものがあげられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0032】
下記式(1)のように、2官能性構造単位(D単位)及び3官能性構造単位(T単位)を特定組成で有するシリコーン樹脂を挙げることができる。

φ Vi (1)

(ここで、Dはジメチルシロキサン単位(即ち、(CHSiO)を、Tφはフェニルシロキサン単位(即ち、(C)SiO3/2)、DViはメチルビニルシロキサン単位(即ち、(CH)(CH=CH)SiO)を表し、((m+n)/p(モル比)=0.25~4.0、(m+n)/m(モル比)=1.0~4.0である。)
【0033】
また、下記式(2)のように、例えば、1官能性構造単位(M単位)、2官能性構造単位(D単位)及び3官能性構造単位(T単位)を特定組成で有するシリコーン樹脂を挙げることができる。

φ Vi (2)

(ここで、Mはトリメチルシロキサン単位(即ち、(CHSiO1/2)を表し、D、Tφ及びDViは上記の通りであり、(m+n)/p(モル比)=0.25~4.0、(m+n)/m(モル比)=1.0~4.0、L/(m+n)(モル比)=0.001~0.1である。)
【0034】
更に、下記式(3)のように、例えば、1官能性構造単位(M単位)、2官能性構造単位(D単位)及び4官能性構造単位(Q単位)を特定組成で有するシリコーン樹脂を挙げることができる。

Vi (3)

(ここで、QはSiO4/2を表し、M、D及びDViは上記の通りであり、(m+n)/q(モル比)=0.25~4.0、(m+n)/m(モル比)=1.0~4.0、L/(m+n)(モル比)=0.001~0.1である。)
【0035】
また熱軟化性シリコーンレジンは単独で用いてもよいし、2種以上混合してもよい。
【0036】
もちろん、可塑剤、耐熱向上剤などの添加材を必要に応じて添加してもよい。
【0037】
[熱軟化性シリコーンレジン層の厚み]
熱軟化性シリコーンレジン層の厚みは、0.5~10μmである。好ましくは1~5μmである。0.5μmよりも薄いと十分な粘着力が得られない。また10μmより厚いと粘着力は高くなるが、熱抵抗の上昇が大きくなる。
【0038】
[熱軟化性シリコーンレジン層の粘着力]
熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱軟化性シリコーンレジン層の粘着力は、0.5N/25mm以上である。好ましくは0.7N/25mm以上である。0.5N/25mmより小さいと位置合わせのために被着体に貼り付けた時に、簡単にずれてしまい、熱伝導性複合シリコーンゴムシートが垂直状態に置かれる場合には短時間で落下してしまう。
【0039】
なお、粘着力は以下の方法で測定することができる。
【0040】
JIS C 2107に準拠し、SUS板に対して、25mm幅の上記熱伝導性複合シリコーンゴムシートの粘着層側を張り付けて25℃で30min間放置した後に引っぱり速度300mm/分にて180°剥離したときの剥離力を計測することができる。
【0041】
[熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗]
熱軟化性シリコーンレジン層は、熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に設けられた熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さくなるようにする。好ましくは片面1層あたり0.15cm・K/W以下である。0.3cm・K/W以上だと熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に比べて、熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が高くなりすぎてしまう。熱軟化性シリコーンレジン層を設ける目的は、上述のように実装時の位置合わせでずれないようにするためなので、実装後には不要になるものであり、熱抵抗への影響は極力小さくなることが理想である。なお、熱抵抗はASTMD6470に準拠したTIM-Tester(Analysistech社製)を用いて、測定温度50℃、圧力100psiの測定値とすることができる。
【0042】
[60℃環境下2ヶ月間保管後の粘着力]
熱伝導性複合シリコーンゴムシートを60℃環境下2ヶ月間保管した後の粘着力は初期(保管をする前)に比べて70%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上である。70%以上であれば初期との粘着力の差が大きくなりすぎず、実装工程で貼り付けるために必要な荷重などの条件が大きく変わることがないため、生産効率の低下の恐れがない。
【0043】
熱伝導性シリコーンゴムシートのシリコーンゴム成分がジメチルシロキサン単位からなり、熱軟化性シリコーンレジン層のレジン成分のフェニル含有率が20mol%以上であることが好ましい。20mol%以上であれば熱伝導性シリコーンゴムシートのシリコーンゴム成分と熱軟化性シリコーンレジン層のレジン成分の相溶性が高すぎず、熱軟化性シリコーンレジン層のレジン成分が熱伝導性シリコーンゴムシート中に分散することによる、保管中の粘着力の低下を抑制することができる。
【0044】
このような熱伝導性複合シリコーンゴムシートであれば、発熱体と冷却部材との界面に実装したとき、発熱体からの熱で熱軟化性シリコーンレジン層が軟化し流動性を持つことで被着体との接触状態が改善され、熱伝導性が高くなる。このため、熱伝導性と粘着力を、ともに十分に付与することができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1~8]
実施例1~8では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート1~4のいずれかに、下記熱軟化性シリコーンレジン層1~3のいずれかを片面のみに形成させて熱伝導性複合シリコーンゴムシートを得た。このとき、熱軟化性シリコーンレジン層の厚みは0.5~10μmの範囲で変化させた。表1にそれらを示す。
【0047】
[比較例1~9]
比較例1~5では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート1、2、4のいずれかに、下記粘着層1又は2を片面のみに形成させた。また、比較例6では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート2に、下記レジン層1を片面のみに形成させた。また、比較例7では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート2に、下記熱伝導性シリコーンレジン層1を片面のみに形成させた。また、比較例8では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート2に、下記熱軟化性シリコーンレジン層1を0.4μmの厚みで片面のみに形成させた。また、比較例9では、下記熱伝導性シリコーンゴムシート4に、下記熱軟化性シリコーンレジン層2を11μmの厚みで片面のみに形成させた。
このようにして、比較例1~9の複合シートを得た。表2にそれらを示す。なお、表2中の厚みは、熱伝導性シリコーンゴムシートに形成された粘着層、熱軟化性レジン層、熱伝導性シリコーンレジン層、熱軟化性シリコーンレジン層の厚みである。
【0048】
[熱伝導性シリコーンゴムシート]
1.TC-20TA-1 (信越化学工業製)(熱伝導性シリコーンゴムシート1)
2.TC-20TAG-2(信越化学工業製)(熱伝導性シリコーンゴムシート2)
3.TC-20TAG-8(信越化学工業製)(熱伝導性シリコーンゴムシート3)
4.TC-20TAP-2(信越化学工業製)(熱伝導性シリコーンゴムシート4)
【0049】
[熱軟化性シリコーンレジン層]
以下、式中のシリコーンの構造単位は、上記と同様であり、Mはトリメチルシロキサン単位(即ち、(CHSiO1/2)、Dはジメチルシロキサン単位(即ち、(CHSiO)、DViはメチルビニルシロキサン単位、Tφはフェニルシロキサン単位(即ち、(C)SiO3/2)、QはSiO4/2を表す。
【0050】
1. 熱軟化性シリコーンレジン層1
下記式(1)の85%キシレン溶液を熱伝導性シリコーンゴムシートにコンマコーターにて塗工、80℃で10分間乾燥させて熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
φ Vi (1)
m=45、n=55、p=55
70℃における絶対粘度;200Pa・s
【0051】
2. 熱軟化性シリコーンレジン層2
下記式(2)の85%キシレン溶液を熱伝導性シリコーンゴムシートにコンマコーターにて塗工、80℃で10分間乾燥させて熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
φ Vi (2)
L=20、m=25、n=50、p=55
70℃における絶対粘度;300Pa・s
【0052】
3. 熱軟化性シリコーンレジン層3
下記式(3)の85%キシレン溶液を熱伝導性シリコーンゴムシートにコンマコーターにて塗工、80℃で10分間乾燥させて熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
Vi (3)
L=20、m=30、q=5、n=20、
70℃における絶対粘度;700Pa・s
【0053】
[粘着層]
1. 粘着層1(付加硬化型粘着層)
(A-1) アルケニル基を有し、フェニル基を5mol%含む直鎖状オルガノポリシロキサン(アルケニル基量0.006mol/100g、粘度5000Pa・s(25℃))を100部、
(B-1) 下記式(4)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを1.6部、
【化1】
(C-1) 5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液を0.6部、
(D-1) エチニルメチリデンカルビノールを0.2部、
(E-1) MQシリコーンレジンのキシレン溶液(不揮発分60%、M/Q=0.85(モル比))、キシレン溶液の粘度として500cpを100部。
調製方法:上記(A-1)、(D-1)、(E-1)成分を品川ミキサーに仕込み、攪拌し均一化させ、その後に(C-1)成分を添加し攪拌し均一化させ、さらに(B-1)成分を添加し、攪拌均一化させ、粘着層1組成物を得る。
上記成分を有する粘着層1組成物を熱伝導性シリコーンゴムシートにコンマコーターにて塗工、80℃で10分間乾燥させ、120℃10分間で硬化させて粘着層1を熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
【0054】
2. 粘着層2(過酸化物硬化型粘着層)
(A-2) KR101-10(信越化学工業製)を100部、
(B-2) ナイパーBMT-K40(日本油脂製)を3部、
(C-3) トルエンを38部。
調製方法:上記(A-2)~(C-3)成分を品川ミキサーに仕込み、攪拌し粘着層2組成物を得て、これを、コンマコーターを用いて熱伝導性シリコーンゴムシートに塗工、80℃で10分乾燥させ、150℃で5分硬化させて粘着層2を熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
【0055】
[レジン層]
1. レジン層1
下記式(2)の85%キシレン溶液を熱伝導性シリコーンゴムシートにコンマコーターにて塗工、80℃で10分間乾燥させて熱伝導性シリコーンゴムシートに所定の厚みで形成する。
φ Vi (2)
L=17、m=6、n=8、p=35
70℃における絶対粘度;1000Pa・s
【0056】
[熱伝導性シリコーンレジン層]
1. 熱伝導性シリコーンレジン層1
(A-3)(下記式(1)で示される熱軟化性レジン層1)
φ Vi (1)
m=45、n=55、p=55
70℃における絶対粘度;200Pa・sのキシレン溶液
を100部、
(B-3) 熱伝導性フィラーとして中心粒径2μmの球状アルミナを200部。
調製方法:上記(A-3)~(B-3)成分を品川ミキサーに仕込み、攪拌し熱伝導性シリコーンレジン組成物1を得て、これをコンマコーターを用いて熱伝導性シリコーンゴムシートに塗工、80℃で10分間乾燥させて、熱伝導性シリコーンレジン層1を所定の厚みで形成する。
【0057】
[評価方法]
[熱抵抗の差]
上記のようにして得られた実施例1~8の熱軟化性複合シリコーンゴムシート及び比較例1~9の複合シートの熱軟化性シリコーンレジン層、粘着層1および2、レジン層、熱伝導性シリコーンレジン層をそれぞれ形成する前の熱抵抗と形成した後の熱抵抗を測定し、その差を確認する。なお、熱抵抗はASTMD6470に準拠したTIM-Tester(Analysistech社製)を用いて、測定温度50℃、圧力100psiで測定した。
[粘着力]
上述の方法で熱伝導性複合シリコーンゴムシート及び複合シートの粘着力を確認する。即ち、JIS C 2107に準拠し、SUS板に対して、25mm幅の上記熱伝導性複合シリコーンゴムシートの粘着層側を張り付けて25℃で30min間放置した後に引っぱり速度300mm/分にて180°剥離したときの剥離力を計測した。
これらの測定結果を表1、2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
比較例1、2のように付加硬化型の粘着層1を18μmの厚みで積層させた複合シートは、十分な粘着力を有するものの、熱軟化しないために、熱伝導性シリコーンゴムシートとの熱抵抗の差が0.8および0.78cm・K/Wと大きくなってしまう。一方、比較例3のように、粘着層1の厚みをできるだけ薄くした場合、熱抵抗の差は小さくなるが、粘着力が非常に小さくなり、発熱体と冷却部材との界面に実装するとき、実装工程中に問題が起こってしまう。比較例4のように過酸化物硬化型の粘着層2を用いた場合でも、粘着層2の厚みを厚くすると高い粘着力が得られるが、熱軟化しないために、熱抵抗の差が大きくなってしまう。比較例5のように粘着層2の厚みを薄くすると熱抵抗の差は小さくなるが、やはり粘着力が十分得られなくなる。また、比較例6のように、70℃の場合の粘度が700Pa・s以上の熱軟化性レジン層を用いたところ、十分な粘着力を得ることができなかった。また、比較例7のように熱伝導性シリコーンレジン層を熱伝導性シリコーンゴムシートに積層させた場合も、熱抵抗の差は小さくなるが、十分な粘着力は得られない。また、比較例8のように熱伝導性シリコーンゴムシートに熱軟化性シリコーンレジン層の厚みを0.4μmと、0.5μmより薄く積層させた場合も、熱抵抗の差は小さくなるものの、十分な粘着力は得られない。また、比較例9のように熱伝導性シリコーンゴムシートに熱軟化性シリコーンレジン層を11μmと、10μmより厚く積層させた場合は、熱抵抗の差が大きくなってしまう。
このように、比較例1~9の複合シートは、粘着力が足りないことや、発熱体から発生した熱の放熱を妨げてしまうことにより、発熱体と冷却部材との界面に実装する際に問題が生じてしまう。
【0061】
一方、実施例1~8の熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に、70℃の時の粘度が700Pa・s以下である熱軟化性シリコーンレジン層を0.5~10μmの厚みで設けたものであり、常温環境下で0.5N/25mm以上の粘着力を有し、かつ、熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さいものであった。
【0062】
以上述べてきたように、熱伝導性シリコーンゴムシートの少なくとも片面に70℃における絶対粘度が700Pa・s以下の熱軟化性シリコーンレジン層を0.5~10μmの厚みで設けたものであって、常温環境下で0.5N/25mmの粘着力を有し、かつ、熱伝導性複合シリコーンゴムシートの熱抵抗が、熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗に、熱軟化性シリコーンレジン層の片面1層あたり0.3cm・K/Wを足した値より小さい本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、実装工程中に求められる十分な粘着力を持ち、かつ熱伝導性シリコーンゴムシートと熱伝導性複合シリコーンゴムシートとの熱抵抗の差を小さくすることができる。このようなものであれば、熱伝導性と粘着力をともに十分に有するものとなるため、半導体のような発熱体とヒートシンクのような冷却板との間に実装する際に好適なものとなる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。