(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】複合部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C23C18/20
(21)【出願番号】P 2020567994
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018968
(87)【国際公開番号】W WO2020250610
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-12-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2019108741
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康之
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】太田 一平
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098680(WO,A1)
【文献】特開2013-159784(JP,A)
【文献】特開平03-291383(JP,A)
【文献】特開2014-196556(JP,A)
【文献】特開2006-307084(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045805(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に無機粒子層を有し、該無機粒子層の最表層における接触する無機粒子どうしの面積充填率が80%以上であり、該基材が樹脂基材であり、
該無機粒子層が、平均粒径1~500nmの無機粒子からなるものであり、該無機粒子層の上にメッキ層を有する複合部材。
【請求項2】
前記無機粒子層が、厚さ1~1500nmである、請求項
1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記樹脂基材の樹脂が、環状ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂から選択される樹脂である請求項1
または2に記載の複合部材。
【請求項4】
請求項1~
3いずれかの項に記載の複合部材の製造方法であって、少なくとも、移流集積法により基材上に無機粒子層を形成する第1工程、該無機粒子層上にメッキを施す第2工程を有する、複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にメッキを施した基材と金属メッキの複合部材およびその製造方法に関する。詳しくは、特定の方法及び条件により基材表面を物理的に粗化することにより、化学エッチング処理を不要とした基材と金属メッキの複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品等の基材にメッキを施すための従来技術としては、例えば、先ず基材表面を強酸や強アルカリ等の薬品で化学的にエッチングを行い、続いてパラジウム-錫コロイド溶液に浸漬して触媒付与し、更に活性化工程を経て基材表面に金属パラジウムを析出させることで基材表面にメッキを可能にする方法が良く知られ、一般的に行われている。
【0003】
また、その他の方法として、エアーブラスト処理や液体ホーニング処理で基材表面を機械的に粗面化する、またはレーザで粗面化することにより、化学エッチング処理が不要な無電解メッキ方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-105551号公報
【文献】特開2000-239422号公報
【文献】特開2016-138304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基材表面が酸やアルカリ等の化学薬品でエッチングされ難いもの、例えば樹脂基材の中でも優れた耐薬品性を有する結晶性熱可塑性樹脂を用いた基材は、一般的にはメッキ加工に対して不適である。またエアーブラスト処理や液体ホーニング処理、レーザ処理には、特殊な設備を導入する必要があり、また基材表面全体の処理状態を均質に制御するには条件等の微妙な調整が必要であり、処理状態のばらつきの抑制が困難であった。
【0006】
そこで本発明の目的は、基材表面へのメッキを可能にするための化学エッチングが不要で、また、メッキ密着性に有効な物理的粗化表面を形成する際に、簡便な処理によりばらつきの少ない品質を得ることが可能な複合部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記によって達成された。
1.基材上に無機粒子層を有し、該無機粒子層の上にメッキ層を有する複合部材。
2.前記無機粒子層が、平均粒径1~500nmの無機粒子からなるものである、前記1に記載の複合部材。
3.前記無機粒子層が、厚さ1~1500nmである、前記1または2に記載の複合部材。
4.前記無機粒子層が、最密充填した無機粒子からなるものである、前記1~3いずれかに記載の複合部材。
5.前記基材が、樹脂基材である前記1~4いずれかに記載の複合部材。
6.前記樹脂基材を構成する樹脂が、結晶性熱可塑性樹脂である前記5に記載の複合部材。
7.前記1~6いずれかに記載の複合部材の製造方法であって、少なくとも、移流集積法により基材上に無機粒子層を形成する第1工程、該無機粒子層上にメッキを施す第2工程を有する、複合部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、基材と密着性のよいメッキ層を有する複合部材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の複合部材の一実施態様を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0011】
<複合部材>
本発明の複合部材は、基材上に無機粒子層を有し、該無機粒子層の上にメッキ層を有する複合部材であることを特徴とする。
【0012】
≪基材上の無機粒子層≫
本発明の基材上の無機粒子層(以下、単に粒子層ともいう)は、平均粒径1~500nmの無機粒子からなるものであることが好ましい。また、層の厚さは1~1500nmであることが好ましい。この層は、最密充填した無機粒子層であることが好ましい。具体的には、例えばいわゆる移流集積法を利用して無機粒子が配列した層であることが好ましい。
【0013】
この方法による粒子層は、粒子が横毛管力によって集積し、最密構造を形成することが知られている。本発明では、この粒子層を2つの部材の接合に使用することを特徴とする。つまり本発明では、基材上に形成した最密構造を有する無機粒子層が接合材の役目を果たすという、これまでにない接合方法による複合部材を提供する。
【0014】
なお、基材の接合面上にムラなく無機粒子が分散した状態とするためには、無機粒子が基材の表面に二次元配列(一層のみで存在)した状態よりも、複数層に重ね塗りされた状態で存在している方が好ましいが、一方で無機粒子層が極端に厚い場合、層内で無機粒子が厚さ方向に幾重にも三次元的に積層された状態となり、無機粒子同士の境界からの剥離による基材とメッキ層の接合強度の低下が発生するおそれがあるため、無機粒子層の厚さは、無機粒子が基材の接合面全体に均一に二次元的に配列(5層以下、例えば1~3層で配列)した状態となることが好ましい。
【0015】
無機粒子としては、シリカ粒子、チタン粒子、アルミナ粒子等の通常の無機物粒子、金属粒子、金属酸化物粒子を適用することができる。平均粒径は好ましくは1~500nmであり、より好ましくは10~100nmであり、さらに好ましくは20~50nmである。無機粒子層の厚さは、好ましくは1~1500nmであって、10~300nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましい。
【0016】
本発明の無機粒子層は、最密充填であることが好ましい。無機粒子が全て同寸法の真球状である場合、最密充填時の体積充填率は理論上約74%であるが、実際には無機粒子の形状はある程度バラつくことが通常である。また、無機粒子が厚さ方向に積層されている場合であっても、メッキ層との接合を考慮する場合、最表層の無機粒子の充填状態の影響が大きいと考えられるため、ここでいう最密充填とは、無機粒子層の最表層における無機粒子の面積充填率が、80%以上であることをいい、85%以上がさらに好ましい。
【0017】
なお、無機粒子の平均粒径および無機粒子層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定した。具体的には、基材上に形成した無機粒子層の表面をTEMにより撮影した画像上で、無作為に抽出した10個の無機粒子の直径を測定して平均粒径を求め、同様に無機粒子層の断面をTEMにより撮影した画像上で、層の厚さを無作為の5箇所において測定した平均値を無機粒子層の厚さとした。
【0018】
また最密充填であるか否かは、基材の無機粒子層形成面における任意の領域(1μm×1μm)をTEMにより撮影し、最表層における無機粒子の充填状態の観察によって決定した。ここで、観察領域内において無機粒子が厚さ方向に積層され、かつその積層状態が均一ではない場合は、適宜画像処理を行うことで平均化した面積充填率を求めればよい。
【0019】
≪基材≫
本発明の粒子層を形成するための基材は、移流集積法を適用することができる素材からなる基材であれば制限はなく、樹脂、ガラス、セラミック、金属等を用いることができるが、形状加工の容易性からは樹脂基材であることが好ましく、意匠性や透光性等からはガラス基材であることが好ましく、耐熱性からはセラミック基材や金属基材であることが好ましい。
【0020】
好ましい樹脂としては環状ポリオレフィン(COP、COC)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(AS、ABS等)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性樹脂(LCP)、フッ素樹脂(PTFE)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂(PI)等の熱硬化性樹脂であり特に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶性樹脂(LCP)が好ましく用いられる。これら樹脂の熱伝導率は1.0W/m・K以下であるため、後述する無機粒子を分散させる媒質を均一に乾燥・揮発させやすい。
【0021】
≪表面粗さが、Rz=Rmax±10%、かつRmax=1~10μmである基材≫
本発明の粒子層を形成する基材の表面は、表面粗さを、Rz=Rmax±10%、かつRmax=1~10μmとすることが好ましい。より好ましいRzはRmax±5%である。また、Rmaxは1.5~8μmであることがより好ましく、2~5μmであることがさらに好ましい。このような面粗さとすることで、無機粒子の充填性を向上させることができる。
【0022】
このような表面粗さとするためには、基材を作製する際に、要求される表面粗さに適した成形型を用いること、製造後の基材表面を研磨すること、基材表面をプラズマ、紫外線、コロナ放電等の活性種で処理すること、または基材表面に物理的及び/又は化学的に凹凸を形成及び/又は除去すること、基材に凹凸を生じるような粒子を含有させること等によって調整することができる。
【0023】
なお本発明の表面粗さは、JIS B 0601:1982に準拠し、接触式表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、輪郭形状測定器サーフテストSV-3000CNC)によって、平板状成形品の中央部の流動直角方向15mmの範囲を測定した。
【0024】
≪メッキ層およびその製造方法≫
本発明のメッキ層は、通常の方法により無機粒子層上に形成することができる。例えば、触媒付与の工程は、基材上に形成した無機粒子層を錫、パラジウム系の混合触媒液に数分間浸漬し、無機粒子層上に金属パラジウムを析出させるために、塩酸、硫酸などの酸で活性化処理を行う。この活性化処理により、パラジウムの触媒機能が発現して無電解メッキが可能になる。メッキ層を形成する金属としては、銅、銀、金、錫、ニッケル等が挙げられる。
【0025】
例えば、無電解銅メッキをする場合、硫酸銅29g/リットル、炭酸ナトリウム25g/リットル、酒石酸塩140g/リットル、水酸化ナトリウム40g/リットル、37%ホルムアルデヒド150ミリリットルからなる無電解メッキ液(pH11.5)が用いられ、無機粒子層を有する基材をこの液に浸漬すると、還元剤(ホルムアルデヒド)により銅イオンが還元され金属銅となって無機粒子層上に析出する。この無電解メッキ処理により、通常、15~20分で、0.5~1.0μmの厚みのメッキ層が形成される。メッキ層の厚みは、形成するメッキ層のパターン等により適宜設定すれば良く、0.05~10μmが好ましく、0.1~8μmがより好ましく、0.2~5μmがさらに好ましい。
【0026】
≪樹脂基材への添加物≫
基材として樹脂基材を用いる場合、樹脂基材を構成する樹脂中には、その他無機充填剤を含有してもよい。無機充填剤としてはガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク、マイカ、シリカ等の繊維状、板状、粒状、粉状の無機充填剤が挙げられ、特に樹脂基材上に形成する無機粒子層に用いられる無機物と同質の無機充填材を含有する場合、樹脂基材の無機粒子層とメッキ層との親和性が優れる点で好ましい。
【0027】
また、粒径としては0.1~50μmの無機充填材を含むことが好ましく、無機充填剤のアスペクト比が1~3であるものを含むことが好ましい。無機充填剤の含有量は、樹脂基材を構成する樹脂に対して5~50質量%含有することが好ましい。
【0028】
その他エラストマを、樹脂基材を構成する樹脂に含有させてもよい。好ましいエラストマとしては、エチレン-エチルアクリレート共重合体(例えば、(株)NUC製NUC-6570等)等のオレフィン系重合体や、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリメタクリル酸エステルのアクリル系重合体(例えば、アイカ工業(株)製ゼフィアック、スタフィロイド等)等が挙げられる。
【0029】
これらのエラストマは、共重合体としても良いし、コアシェル粒子の形状であっても、本発明の基材として用いる樹脂基材を構成する樹脂組成物に混合することができるのであれば、有効に使用することができる。
【0030】
エラストマとしてはグリシジル基を含有することも好ましく、グリシジル基を含有するエラストマとしてはエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体やエチレン-グリシジルメタクリレート-アクリル酸メチル共重合体のようなグリシジル基含有オレフィン系共重合体(例えば、住友化学(株)製ボンドファースト)が挙げられる。
【0031】
エラストマの含有量としては、基材を構成する樹脂組成物中の1~30質量%含有することが好ましく、エラストマがグリシジル基を含有するエラストマである場合は、グリシジル基の含有量が基材を構成する樹脂組成物中の0.01~1質量%であることが好ましい。
【0032】
本発明においては、上記の特性を有する基材上に形成した無機粒子層とメッキ層が強い接合力を発揮する理由を下記のように推定している。基材上の無機粒子層は、まず基材との接着力が、移流集積法により最密構造を有するように形成されることにより、発揮される。そして、最密構造の粒子層表面形状に対する追随性に優れかつ最密構造の表面積の大きさから、結果としてメッキ層との接合力が強いと考えている。
【0033】
<複合部材の製造方法>
≪基材の製造方法≫
本発明の基材は通常の方法により成形することができ、樹脂基材の場合は例えば射出成形や押出成形等の方法により基材となる樹脂成形品を作製すればよい。基材は、意匠性、機能性、他部材との固定などの要求に応じ、適宜切削や溶着といった加工がなされたものを用いても良い。
≪無機粒子層の製造方法≫
本発明では、基材表面の層を構成する無機粒子を、水、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の液相中に分散させた液体に、基材を浸漬して引き上げることで、いわゆる移流集積法により基材表面に無機粒子層が形成された基材を製造することができる。
【0034】
無機粒子層の形成時における無機粒子の配列しやすさの観点から、液相に用いる媒質は25℃における粘度が0.1~100mPa・sであることが好ましく、0.5~50mPa・sであることがより好ましく、1~30mPa・sであることがさらに好ましい。また、媒質中の無機粒子の含有量は5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0035】
ただし、基材表面上に無機粒子が緻密に配列した層を形成することができるのであれば、移流集積法に限定されず、ブラシやスプレーによる塗布、スピンコートなどの各種薄膜形成法を用いることもできる。ここで、無機粒子層を形成する際に、メッキ層との接合に用いる箇所以外については、意匠性等の要求により必要に応じ、塗布した液体を拭き取る、あるいはあらかじめ基材にマスキングを施しておくことで、無機粒子層を設けないようにしてもよい。
【0036】
本発明では、無機粒子を分散させた液体を基材表面に配置した後、液体分を乾燥・揮発させることで、実質的に無機粒子のみからなる層が形成された基材を製造することができる。ここで、無機粒子が均質に配列した層を形成するには、液体分の乾燥・揮発を均一に進行させることが望ましく、その観点からは、液相の媒質は沸点が50~200℃のものが好ましく、60~160℃のものがより好ましく、70~130℃のものがさらに好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、基材として樹脂基材を用いた実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお特に記載の無い場合、評価は23℃50%RHの測定室において行った。
[接合強度の評価]
【0038】
<樹脂基材の製造(粒子層の形成)>
イソプロピルアルコール中に粒径25nmのシリカ粒子を15質量%分散含有する液体中に、下記のようにして作製した樹脂基材を浸してから樹脂面が液面に対し垂直になるように引き上げる操作を1回行うことで、樹脂基材面に対しシリカ粒子を移流集積法により塗布し、23℃で乾燥させてイソプロピルアルコールを揮発させ、基材表面に無機粒子層を形成して樹脂基材を製造した。無機粒子層形成面の任意の領域(1μm×1μm)をTEM観察したところ、シリカ粒子の面積充填率は約90%であり最密充填状態で配列していることが確認された。
【0039】
また、液体中のシリカ粒子濃度および基材の浸漬回数を調整することにより、無機粒子層の厚さを表1に示すように変化させた。
【0040】
<複合部材の製造(メッキ層の形成)>
シリカ粒子層を形成した樹脂基材を、錫-パラジウムコロイド触媒溶液に浸漬、塩酸による活性化処理を行った後、無電解銅メッキ液に25分間浸漬してメッキを行った。得られた無電解銅メッキ皮膜の厚さは約1.5μm程度であった。次いで、更に電気銅メッキを約30μm程度行った。
【0041】
≪樹脂基材≫
PPS樹脂組成物1:ポリプラスチックス株式会社製ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物「ジュラファイド(登録商標)」 1135MF1を、シリンダ温度320℃、金型温度150℃、射出速度20mm/sec、保圧力60MPaにて射出成形し、80mm×80mm×3mmの平板状の成形品を得て、これを樹脂基材とした。なお、メッキ層を形成する面の表面粗さは、Rz=Rmax±10%、かつRmax=1~10μmであった。
【0042】
<接合強度評価:セロハンテープ剥離テスト≫
試験片のメッキ部分に市販のセロハンテープを貼り付け、その上から指で良くこすって試験片表面に密着させた後、セロハンテープの一端を指でつまんで一挙にテープを剥がして、メッキ部分の剥離状況を観察し評価した。結果の判定は、○(剥離せずまたは一部に剥離)、×(著しい剥離)の評価基準を用いて行った。
結果を表1に示す。
【0043】
なお、比較例1では、射出成形後、シリカ粒子層の形成を行っていない樹脂基材を使用して、上記と同様に触媒浸漬、活性化処理、無電解銅メッキおよび電気銅メッキを行った。
【0044】
【0045】
上記の通り、本発明の複合部材は、化学エッチング処理なしに、さらに簡便な処理で優れた接合強度を有する。なお、上記では基材として樹脂基材を使用したが、当業者であれば本発明のメカニズムから、ガラス、セラミック、金属等の他の材質からなる基材においても同様の効果を奏することが理解可能である。
【0046】
このようにして基材表面の無機粒子層を介してメッキ層が形成された複合部材は、基材を構成する素材の加工性、強度、耐熱性、電気特性、意匠性などの各種特性を生かしつつ、メッキ層の接合強度に優れたものとなるため、例えばアンテナ、コネクタ、電子回路等の各種電子部品、あるいはそれらを収納する筐体の電磁波シールド部品などに利用することができ、特に近年の5G通信などの高周波電子部品のような微細パターンのメッキ処理が要求される用途などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 基材
2 無機粒子層
3 メッキ層