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  • 特許-薄膜トランジスタおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20220929BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L21/368 Z
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
H01L29/78 618G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021055043
(22)【出願日】2021-03-29
(62)【分割の表示】P 2017031562の分割
【原出願日】2017-02-22
(65)【公開番号】P2021103791
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【弁理士】
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】宮川 幹司
(72)【発明者】
【氏名】中田 充
(72)【発明者】
【氏名】辻 博史
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/208
H01L 21/336
H01L 21/368
H01L 29/76
H01L 29/772
H01L 29/78
H01L 51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも、ゲート電極、ゲート絶縁膜、塗布型酸化物半導体層、およびソース・ドレイン電極を有する構成とされ、前記塗布型酸化物半導体層は、前記ゲート絶縁膜の上部または下部に位置するように、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともに、フッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布し、酸化してなることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記塗布型酸化物半導体層が、少なくともインジウムと亜鉛の金属成分、およびフッ素を含むことを特徴とする請求項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記塗布型半導体前駆体溶液を構成する溶媒は、水が主成分であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記塗布型半導体前駆体溶液を酸化する処理が、マイクロ波照射および紫外光照射のいずれかによる加熱処理、または焼成処理であることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
基板上に、少なくとも、ゲート電極、ゲート絶縁膜、塗布型酸化物半導体層、およびソース・ドレイン電極を形成し、
インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともにフッ素イオンを有する添加剤であるフッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を作成し、
前記塗布型酸化物半導体層が前記ゲート絶縁膜の上部または下部に位置するように、前記塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布し、この後酸化することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布する工程が、前記所定のベース上に、まず、前記フッ素イオンを有する添加剤を含まない塗布型半導体前駆体溶液を塗布して薄膜を形成し、その後、該薄膜上に前記フッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を塗布して薄膜を形成する工程、であることを特徴とする請求項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electro-Luminescence)素子((OLED(Organic Light Emitting Diode))やLCD(Liquid Crystal Display)を駆動するために用いられる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)、および薄膜トランジスタの製造方法に関し、特に、移動度が大きく製造が容易な塗布型酸化物半導体をチャネルに用いるように構成した薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体は、高精細・高解像のディスプレイデバイス向けの駆動用トランジスタとして適用され、スパッタリング等の真空成膜法によって製造されたものにおいて良好な半導体特性が得られることが知られている。
特に、In-Ga-Znを金属種とするIGZO系の酸化物半導体TFTにおいては、通常、5~10cm2/Vs以上の移動度を示すことが知られている。
しかし、酸化物半導体TFTの製造に真空成膜法を用いた場合、大がかりな真空装置が必要であるため、生産効率の低下、製造コストの上昇および環境負荷の増大といった問題が生じており、さらに100インチ以上の超大型ディスプレイの実現を考えると、真空チャンバー内では製造サイズに限界があり、新しい成膜技術によって形成される酸化物半導体TFTの開発が急務である。
すなわち、真空を必要とせず大気圧下で簡便に成膜される酸化物半導体であることが必要とされる。
【0003】
そのような酸化物半導体として、塗布プロセスにより製造される塗布型酸化物半導体が注目されており、その研究開発も盛んになされている。
塗布型酸化物半導体は、金属酸化物の前駆体溶液を塗布して酸化させることにより形成される。例えば、有機金属塩を用い熱酸化等により形成されたものが知られている(特許文献1を参照)。また、金属アルコキシド(M-OR)を前駆体として用い、例えば400度以上の高温処理によって酸化処理を行なうことで形成される酸化物半導体も知られている。
なお、酸化物半導体を形成する材料としては種々の報告がなされており、In-Ga-Znを金属種とするIGZO系、In-ZnをベースとするIZO系、およびIn-Sn-Gaを金属種とするITZO系等の報告が多くなされている。さらにインジウムやガリウム等の環境負荷が大きい材料を使用しないレアメタルフリーの酸化物半導体材料(Zn-O系やZn-Sn-O系)の研究も進められている(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-42689号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jpn. J. Appl. Phys. 53, 02BA02 (2014) Review of solution-processed oxide thin-film transistors
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塗布プロセスにより作製された塗布型酸化物半導体材料の大きな問題の1つは、真空下における清浄な雰囲気中でのスパッタリング等により成膜された酸化物半導体とは異なり、前駆体溶液中に多く含まれている残留有機物(不純物)が、そのまま酸化物半導体中に多く含まれてしまうことにある。
すなわち、塗布型酸化物半導体においては、上記前駆体溶液中に含まれていた残留有機物(不純物)が障害となって、キャリアの移動度を大きくすることができず、良好なスイッチング特性を得ることが困難となっていた。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、有機物等の残留量が大きい塗布型酸化物半導体において、従来よりも大きいキャリア移動度を得ることができる薄膜トランジスタ、および薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するために、本発明の薄膜トランジスタは、
基板上に、少なくとも、ゲート電極、ゲート絶縁膜、塗布型酸化物半導体層、およびソース・ドレイン電極を有する構成とされ、前記塗布型酸化物半導体層は、前記ゲート絶縁膜の上部または下部に位置するように、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともに、フッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布し、酸化してなることを特徴とするものである。
ここで、「所定のベース」とは、塗布型酸化物半導体層を作成するために、塗布型半導体前駆体溶液が塗布される層を称し、塗布型酸化物半導体がボトムゲート構造の場合には、通常、ゲート絶縁膜が「所定のベース」に相当し、トップゲート構造の場合には、通常、基板やソース・ドレイン電極が「所定のベース」に相当する。
下述する、薄膜トランジスタの製造方法の構成において用いられる「所定のベース」との用語についても同様である。
また、前記塗布型酸化物半導体層が、少なくともインジウムと亜鉛の金属成分、およびフッ素を含むことが好ましい。
また、前記塗布型半導体前駆体溶液を構成する溶媒は、水が主成分であることが好ましい。
また、前記塗布型半導体前駆体溶液を酸化する処理が、マイクロ波照射および紫外光照射のいずれかによる加熱処理、または焼成処理であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、
基板上に、少なくとも、ゲート電極、ゲート絶縁膜、塗布型酸化物半導体層、およびソース・ドレイン電極を形成し、
インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともにフッ素イオンを有する添加剤であるフッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を作成し、
前記塗布型酸化物半導体層が前記ゲート絶縁膜の上部または下部に位置するように、前記塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布し、この後酸化することを特徴とするものである。
この場合において、前記塗布型半導体前駆体溶液を所定のベース上に塗布する工程が、前記所定のベース上に、まず、前記フッ素イオンを有する添加剤を含まない塗布型半導体前駆体溶液を塗布して薄膜を形成し、その後、該薄膜上に前記フッ化水素酸を含む溶液を含む塗布型半導体前駆体溶液を塗布して薄膜を形成する工程、であることが好ましい。
【0011】
ところで、本願発明を、上述したように、塗布型酸化物半導体層を形成する際に、前駆体溶液を所定の金属成分とフッ素が含まれるように構成したことにより移動度が高く、良好な半導体特性を得ることができる(本願明細書、段落0015~0017参照)。
従来の塗布型酸化物半導体においては、スパッタ等を用いて作製された酸化物半導体層に比べて、どうしても残留有機物やイオン性不純物が多いために、移動度が低くなって半導体特性が劣化したものとなっていた。
【0012】
これでは、製造設備を簡便とし得る塗布型の酸化物半導体を利用することが難しい(本願明細書段落0003参照)。
このような、本願発明と従来技術の差は、金属イオンとフッ素イオンとの結合関係に基づく、酸化物半導体層の結晶性の違い、および残留有機物やイオン性不純物とフッ素との結合関係の均一性等によるものと考えられるが、酸化物半導体層へのフッ素の侵入度合や、フッ素と残留有機物等の微妙な結合関係の相違により、その移動度も大幅に変化するものであるから、その違いに係る構造または特性を文言により一概に特定することは不可能である。
【0013】
一方、本願発明と従来技術に係る結晶性あるいは結合状態の違いについては、X線回折(XRD)またはX線光電分光(XPS)等を用いて測定することが原理的には可能であり、塗布型の場合には不純物等の影響を測定することができる。しかし、1、2点であればこれを測定することは可能かもしれないが、本願発明と従来技術の塗布型酸化物半導体をそれぞれ統計上有意となる数だけ製造あるいは購入し、XRDまたはXPSスペクトラムの数値的特徴を測定し、その統計的処理をした上で、本願発明と従来技術を区別する有意な指標とその値を見いださなければならず、膨大な時間とコストがかかるものである。しかも、従来技術については膨大な可能性があるため、統計上有意となる数を一義的に決めることもできない。
【0014】
上記のような指標とその値を見いだし、これによって本願発明の特徴を物の構造又は特性により直接特定することは、およそ実際的ではない。
そこで、本願出願人においては、請求項1~4に係る薄膜トランジスタについて、やむを得ず、物の製造方法の発明に係る請求項の記載スタイルで表現するようにしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る、薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタの製造方法によれば、上記塗布型半導体前駆体溶液として、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種以上の金属成分、およびフッ素イオンを有する添加剤を含んでいる。すなわち、フッ素を酸化物半導体の前駆体溶液中に導入することにより、フッ素が金属元素と結合し残留成分(不純物)量を抑制する機能を有するとともに、フッ素が酸素と置換し、その結果、余った電子が自由電子を増加させることになると考えられる。また、このような塗布型酸化物半導体においては、フッ素は前駆体溶液中で既に混合されているから、半導体中でも均一に分散され、後から熱処理等によって、表面から侵入させる場合等と比べると、全体的に特性が均一化することが考えられる。
【0016】
これにより、本発明に係る薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタの製造方法によれば、キャリアの移動度を大幅に向上させることができる。
【0017】
なお、特開2016-72562号公報に記載された技術においては、塗布型の酸化物半導体に用いられる前駆体溶液として、金属塩水和物とフッ素を含有するアルコールを含むものを開示しているが、この技術は濡れ性の問題を改善することを主目的としており、その目的が本願発明とは異なっている。また、この公報記載の技術によっては、アルコールを用いているので、炭素原子が不純物的にフッ素と結合するように機能し、本発明とは発明の方向性が全く異なっているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの断面構造を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタ(TFT)、および薄膜トランジスタの製造方法を図面を用いて説明するが、まずは、その参考となる参考形態について説明する。
【0020】
≪参考形態≫
図1は、参考形態に係るTFTの断面構造を示すものであり、基板1上に、ゲート電極2、ゲート絶縁膜3、塗布型酸化物半導体からなる半導体層4、ソース・ドレイン電極6が積層して構成される。酸化物からなる半導体層4は塗布手法を用いて形成されている。なお、図示されてはいないが、半導体層4上にエッチング保護層を設けてもよい。
【0021】
上記基板1は、例えば石英、ガラスやプラスチックフィルムから構成されるが、フレキシブルなプラスチックフィルムで構成することにより、フレキシブルなディスプレイ(例えば有機ELディスプレイ)に適用することが可能である。プラスチックフィルムとしては、たとえばPET、PEN、ポリイミドなどが挙げられ、場合によってはステンレスなどの金属板を用いることができる。なお、図示していないが、表面にバリア層や平坦化層(無機薄膜や有機薄膜)をスパッタリング等により成膜形成することができる。
【0022】
また、上記ゲート電極2は、例えば、金、チタン、クロム、アルミニウム、モリブデンまたはそれらの合金や積層膜等により形成することができる。膜厚は、例えば10~100nmとされる。なお、ゲート電極2は、フォトリソグラフィー法(紫外線露光による微細加工技術)等を用いて、必要な大きさ、形状に、パターニングされている。
【0023】
また、上記ゲート絶縁膜3は、比誘電率の高い無機酸化物皮膜により構成される。このような無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等が挙げられる。それらのうち、特に好ましいものとしては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、および酸化チタンが挙げられる。
さらに、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。膜厚に、例えば100nmから300nmとされる。
【0024】
また、上記半導体層(塗布型酸化物半導体層)4は、金属成分を含む酸化物前駆体溶液を塗布法によりゲート絶縁膜3上に塗布して薄膜化し、半導体化することにより形成する。
上記酸化物前駆体溶液は、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含み、この選択された金属成分のうち少なくとも1つが金属フッ化物塩からなる。
具体的なフッ化金属塩としては、フッ化インジウム、フッ化亜鉛、フッ化ガリウムが上げられる。
【0025】
またその他の金属成分の構成としては、金属原子含有化合物が挙げられ、金属原子含有化合物には、金属原子を含む、金属塩、ハロゲン化金属化合物、有機金属化合物等を挙げることができる。その他の金属元素としては、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることができる。
【0026】
また金属元素含有化合物として、インジウム酸化物(InO)、亜鉛酸化物(ZnO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)、亜鉛-スズ酸化物(ZnSnO)、チタン酸化物(TiO)等の金属酸化物を微粒子化し分散したものを混入した前駆体溶液であってもよい。
【0027】
また、金属フッ化物塩以外の金属塩としては、硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩といった無機酸塩から形成されるものを用いることができる。具体的なインジウム化合物としては、塩化インジウム(Indium Chloride)、酢酸インジウム(Indium acetate)、硝酸インジウム(Indium nitrate)などが挙げられる。亜鉛化合物としては、塩化亜鉛(Zinc chloride)、酢酸亜鉛(Zinc acetate)、酢酸亜鉛水和物(Zinc acetate hydrate)、硝酸亜鉛(Zinc nitrate)が亜鉛化合物として挙げられる。またスズ化合物としては、塩化スズ(Tin chloride)、酢酸スズ(Tin acetate)などが挙げられる。
【0028】
これらの金属塩を溶媒に溶解させ、前駆体溶液を作製する。溶解させる溶媒としては、水や、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、アセトニトリル等を用いることができる。また安定化剤として、モノエタノールアミンやアセチルアセトン等を混ぜてもよい。
溶解度を改善させるために、水素イオン濃度を酸または塩基性に変え溶解性を改善させることもできる。
【0029】
また、水素イオン濃度を変更し、酸性を塩基性にあるいは塩基性を酸性に替えて、溶解性を改善するようにしてもよい。
溶媒としては、残留成分が残りにくい分子量がより小さい溶媒が好ましく、特に水を用いることが残留成分を少なくするという点においてより好ましい。
前駆体溶液の調整は、金属塩濃度を溶液の濃度が0.1mol/Lから1mol/Lとなるように秤量して、溶液中にて撹拌して溶解することで得られる。
【0030】
このようにして得られた前駆体溶液をゲート絶縁膜3の上面(図1の紙面上方向の表面)に塗布することにより前駆体溶液の薄膜を形成する。
また、半導体層4の厚みは、溶液濃度によって、また、溶液を塗布する回数によっても調整することができる。
なお、この厚みとしては1nmから100nmとすることが好ましい。
上記塗布する手法は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法等の印刷法等を用いることができる。
【0031】
また、塗布された薄膜を、酸化させるための手法である乾燥・焼成を行うことによって、半導体層4を得ることができる。すなわち、この塗布処理の後に、プリベーク処理を、100~150℃で5~10分程度行い、塗布膜を乾燥させ、その後大気中にて金属塩の酸化を促進させるための焼成処理を行う。この焼成処理は150~400℃で0.5~6時間行い半導体層4を形成する。
【0032】
また、この乾燥、焼成処理としては、自然乾燥や熱・冷・室温風乾燥、赤外光乾燥、減圧乾燥などを用いることができる。また、マイクロ波による加熱装置による反応であっても、また水銀ランプといった紫外線による酸化処理を用いても半導体処理を行うことができる。それぞれの焼成プロセスは大気中だけでなく、酸素中、窒素、アルゴンといったガス雰囲気中において行うことでもよい。
【0033】
また、上述したソース・ドレイン電極6は、ITO、IZO等の透明材料の他、Al、Ag、Cr、Mo、Ti等の金属材料やこれらの合金を用いて形成することができる。二層以上を積層することによりコンタクト抵抗を低減させることができ、また密着性を向上させることができるので好ましい。
【0034】
また、エッチング溶液としてはリン酸・酢酸・硝酸の混酸(PANエッチャント)やシュウ酸等様々なエッチング液を用いることができる。
なお、ソース・ドレイン電極6をウエットエッチングでパターニングする際には、半導体層4へのダメージをより緩和するために、エッチングストップ層を導入して半導体特性の劣化を抑制することも可能である。
【0035】
ところで、塗布型酸化物半導体における残留成分は、主に前駆体溶液に含まれている成分が主成分であり、塗布型酸化物半導体の半導体特性を改善させるためには残留成分を減らすことが極めて重要である。塩化物塩や硝酸塩、あるいは酢酸塩等を用いた場合において、残留することが予想される塩化物イオンや硝酸イオン、有機系残留成分は、酸化物半導体においてキャリア伝導性を阻害する成分である。しかしながら、本参考形態におけるフッ化物金属における残留成分であるフッ素は塗布型半導体層において伝導性を改善するドーパントとしてふるまう。よって、塗布型半導体層中に含まれる欠陥としてふるまう残留成分を低減させることができ、より優れた塗布型半導体を提供することができる。
これにより、良好なスイッチング特性を示す、塗布型半導体素子を作製することができる。
【0036】
次に、参考形態に係る薄膜トランジスタの製造方法について説明する。
まず、塗布型酸化物半導体をTFT素子のチャネル層として用いることを前提として説明する。すなわち、この場合には、塗布型酸化物半導体を製造する前に、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3を図1に示すように積層形成しておく。
【0037】
すなわち、ガラスや樹脂等からなる基板1を洗浄し、基板1の表面にバリア層や平坦化層(無機薄膜や有機薄膜)を形成し(図示せず)、その後、ゲート電極2を積層し、必要な形状にパターニングする。なお、微細形状をパターニングするには、フォトリソグラフィー(紫外線露光による微細加工技術)を用いる。次に、ゲート電極2上および基板1(ゲート電極2が形成されていない領域)上にゲート絶縁膜3を形成する。ゲート絶縁膜3としては、シリコン酸化膜(SiO2)を400nmの厚みに形成したものを用いる。成膜は化学気相成長法やスパッタリング法を用いる。勿論、有機材料を用いて成膜することもできる。
【0038】
この後、ゲート絶縁膜3上に半導体層(塗布型酸化物半導体)4を形成する。すなわち、半導体層4は、所定の酸化物前駆体溶液を塗布法によりゲート絶縁膜3上に塗布して薄膜化し、乾燥することにより形成する。
まず、半導体の前駆体溶液を調整する、塗布型半導体溶液調整工程を行う。
このとき前駆体溶液としては、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含み、この選択された金属成分のうち少なくとも1つが金属フッ化物塩からなる。
【0039】
すなわち、この金属酸化物の金属塩を生成する。金属塩の詳細については、上述しているので、ここでは説明を省略する。
次に、これらの金属塩を溶媒に溶解させ、前駆体溶液を作製する。溶解させる溶媒としては、前述した、水や、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等を用いることができる。
この後、金属塩濃度を溶液の濃度が0.1mol/Lから1mol/Lとなるように秤量し、溶液中にて撹拌し溶解することにより得られる。
【0040】
次に、得られた前駆体溶液をゲート絶縁膜3上に塗布する。
半導体層4の塗布厚みは、溶液濃度および塗布する回数によって、例えば1nmから100nmの所定の厚さに調整する。
塗布する方法は、前述したように、スプレーコート法、スピンコート法、印刷法等を用いることができる。
【0041】
また、塗布された薄膜を、酸化させるための手法である乾燥・焼成を行うことによって、半導体層4を得る。
【0042】
次に、ソース・ドレイン電極6を形成する。半導体層4上にエッチングストップ層を導入すれば半導体特性の劣化を抑制することができるので好ましい。電極の材料としては、ITO、IZOなどの透明電極や、Al、Ag、Cr、Mo、Tiなどの金属電極やこれらの合金を用いることができる。
<参考例1、2>
【0043】
以下、参考形態に対応する参考例1、2に係る塗布型酸化物半導体(TFT)について、比較例1、2との比較を行うことにより説明する。
(概要)
厚みが200nmの熱酸化膜が付された低抵抗シリコンウエハを用い、参考例1、2のTFTと比較例1、2のTFTを作製した。
【0044】
すなわち、参考例1においては、シリコンウエハ上に塗布型半導体層をスピンコート法により塗布し、焼成炉にて焼成することにより形成した。この後、塗布型半導体層をフォトリソグラフィー法によってアイランド状にパターニングした。
ソース・ドレイン電極はメタルマスクを用いてそのままスパッタリングをすることにより、パターニング化し、参考例TFT素子のサンプルを作製した。なお、ゲート電極として低抵抗シリコンを用い、ゲート絶縁膜として熱酸化膜を用い、ソース・ドレイン電極としてモリブデンを用いた。
【0045】
<参考例1の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、フッ化ガリウム (GaF3 Aldrich製)、フッ化亜鉛4水和物 (ZnF2・4H2O Aldrich製)を秤量し、それぞれ純水中に溶解させ、下表1に示す塗布型半導体前駆体溶液を作製した。このときサンプルの濃度は0.15 mol/Lとした。
【表1】
その後、室温にて、6時間撹拌することで完全に溶解した状態の前駆体溶液を作製した。
続いて、得られた前駆体溶液をスピンコート法によりシリコンウエハ上に塗布し、150℃のホットプレート上にて10分間乾燥させた。その後、300度の大気雰囲気オーブンにて1時間焼成処理を行うことにより半導体層を形成した。
このときの膜厚は15 nmであった。
この後半導体層をフォトリソグラフィー法によりアイランド状にパターニング化し、塗布型半導体層を形成した。続いてメタルマスクを用い、モリブデンでDCスパッタリング法によりソース・ドレイン電極を形成し、参考例1の評価用TFTサンプルを作製した。
【0046】
<参考例2の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、フッ化亜鉛4水和物 (ZnF2・4H2O Aldrich製)を秤量し、それぞれ純水中に溶解させ、下表2に示す塗布型半導体前駆体溶液を作製した。このときサンプルの濃度は0.15 mol/Lとした。
【表2】
その後は、上記参考例1と同様にして、参考例2の評価用TFTサンプルを作製した。
【0047】
<比較例1の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸ガリウム水和物(Ga(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸亜鉛水和物(Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製)を秤量し、それぞれ純水中に溶解させ、下表3に示す塗布型半導体前駆体溶液を作製した。このときサンプルの濃度は0.15 mol/Lとした。
【表3】
その後は、上記参考例1と同様にして、評価用比較例1のTFTサンプルを作製した。
【0048】
<比較例2の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸亜鉛水和物(Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製)を秤量し、それぞれ純水中に溶解させ、下表4に示す塗布型半導体前駆体溶液を作製した。このときサンプルの濃度は0.15 mol/Lとした。
【表4】
その後は、上記参考例1と同様にして、比較例2の評価用TFTサンプルを作製した。
【0049】
<参考例1、2の評価>
上述したようにして得られた参考例1、2および比較例1、2のサンプルを比較して、参考例1、2のTFTの評価を行う。
上記各サンプルについて、電界効果移動度(移動度)を測定し、その測定結果を下表5に示す。
【表5】
このように、In、Zn、SnおよびGaから選ばれる2種類以上の金属成分が含まれ、そのうちの少なくとも1つが金属フッ化塩である参考例1、2においては、そのような条件を満たしていない比較例1、2に比べて、より優れた半導体特性が得られた。
【0050】
≪実施形態≫
実施形態に係る塗布型酸化物半導体(および薄膜トランジスタ(以下、単にTFTと称する))は、図1に示す上記参考形態に係るTFTと同様の層構成をなしており、共通する部分についての説明は、重複記載により煩雑となることを避けるために、参考形態における説明によって代替し、以下において、参考形態とは異なる点を中心として説明する。
また、実施形態に係る塗布型酸化物半導体も、上述した参考形態と同様に、実施形態に係るTFT内の塗布型酸化物半導体として用いることを前提としている。しかし、上記参考形態のものが、塗布型酸化物半導体の前駆体溶液として、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含み、この選択された金属成分のうち少なくとも1つが金属フッ化物塩からなるものであるのに対し、この実施形態のものは、塗布型酸化物半導体の前駆体溶液として、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともに、フッ素イオンを有する添加剤を含むものである点において相違している。
【0051】
また、実施形態に係るTFTは、基板1上に、ゲート電極2、ゲート絶縁膜3、塗布型酸化物半導体からなる半導体層4、ソース・ドレイン電極6を積層して構成される。ただし、この実施形態に係る半導体層4は、この半導体層4の前駆体溶液が、前述したように、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムから選択される2種類以上の金属成分を含むとともに、フッ素イオンを有する添加剤を含んでいる。
【0052】
ここで、上記基板1、ゲート電極2、ゲート絶縁膜3、ソース・ドレイン電極6の具体的な構成は上記参考形態のものと同様であるので、詳しい説明は省略する。
半導体層4の前駆体溶液としては上述した金属成分およびフッ素イオンを有する添加剤を含んでいる。
具体的なフッ素イオンを含む添加剤としては、下記のフッ素化合物が挙げられる。
例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化ホウ酸、フッ化臭素、フッ化アンモニウム(NH4F)、一水素二フッ化 アンモニウム(NH4FHF)、フッ化メチルアミン(CH3NH3F)、フッ化エチルアミン(C2H5NH3F)、フッ化ブチルアミン(C4H9NH3F)、フッ化ジメチルアミン((CH3)2NH2F)、フッ化ジエチルアミン((C2H5)2NH2F)、フッ化トリエチルアミン((C2H5)3NHF)等が挙げられる。
【0053】
その他の金属成分の構成としては、参考形態と同様である。
金属元素含有化合物としても、参考形態と同様である。
また、金属塩としても、参考形態と同様で、硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩といった無機酸塩から形成されるものを用いることができる。具体的なインジウム化合物としては、塩化インジウム(Indium Chloride)、酢酸インジウム(Indium acetate)、硝酸インジウム(Indium nitrate)などが挙げられる。亜鉛化合物としては、塩化亜鉛(Zinc chloride)、酢酸亜鉛(Zinc acetate)、酢酸亜鉛水和物(Zinc acetate hydrate)、硝酸亜鉛(Zinc nitrate)が亜鉛化合物として挙げられる。またスズ化合物としては、塩化スズ(Tin chloride)、酢酸スズ(Tin acetate)等が挙げられる。
【0054】
溶媒としても、参考形態と同様であり、残留成分が残りにくい分子量がより小さい溶媒が好ましく、特に水を用いることが残留成分を少なくするという点においてより好ましい。
前駆体溶液の調整も、参考形態と同様に、金属塩濃度を溶液の濃度が0.1 mol/Lから1 mol/Lとなるように秤量して、溶液中にて撹拌して溶解することで得られる。
このようにして得られた前駆体溶液を基板1上に塗布することにより前駆体溶液の薄膜を形成する。
半導体層4の厚みとしても、参考形態と同様に、1 nmから100 nmとすることが好ましい。
【0055】
前駆体溶液を塗布する方法は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法などの印刷法等、参考形態と同様である。なお、塗布する際に基板上をUVやオゾン、アッシングなどで表面改質を適切な強度で行ってもよい。
塗布された薄膜を、酸化のための乾燥・焼成を行うことによって、半導体層4を得るが、実際の手順は、参考形態の場合と同様である。
【0056】
なお、本実施形態においては、半導体膜の塗布に関して、複数回に分けて処理することもでき、またその際の材料組成が異なる酸化物半導体の前躯体溶液を用いて形成することができる。フッ素イオン濃度が濃い場合(20%以上の場合)には、例えばフッ化水素酸の反応性により絶縁膜の表面をエッチングするおそれがある。この際には、フッ素イオンを含まない前躯体溶液を塗布し、薄膜形成した後、フッ素イオンを含む前躯体溶液を薄膜形成することにより、絶縁膜の表面を保持したまま良好なフッ素イオンを含む塗布型酸化物半導体膜を形成することができる。
その後の、ソース・ドレイン電極6を形成する手法は、参考形態のものと同様である。
【0057】
塗布型半導体における残留成分は、主に前駆体溶液に含まれている成分が主成分であり、塗布型半導体の半導体特性を改善させるためには残留成分を減らすことが極めて重要である。塩化物塩や硝酸塩、酢酸塩等を用いた場合において、残留することが予想される塩化物イオンや硝酸イオン、有機系の残留物は、酸化物半導体においてキャリア伝導性を阻害する成分である。しかしながら、本実施形態におけるフッ素イオンを含む添加剤を微量混入させることによりフッ素の有する高い電気陰性度から金属原子へ選択的に結合が促進され、結果として塗布型半導体層中に含まれる欠陥としてふるまう残留成分を低減させることができ、より優れた塗布型半導体を提供することができる。またフッ素は塗布型半導体層において伝導性を改善するドーパントとしてふるまう。これにより、良好なスイッチング特性を示す、塗布型半導体素子を作製することができる。
<実施例1、2>
【0058】
以下、本発明の実施形態に対応する実施例1、2に係るTFTについて、比較例3に係る塗布型酸化物半導体(TFT)の場合と比較することにより説明する。
(概要)
厚みが200nmの熱酸化膜が付された低抵抗シリコンウエハを用い、実施例1、2のTFT、比較例3のTFTを各々作製した。
【0059】
すなわち、実施例1、2においては、シリコンウエハ上に塗布型半導体層をスピンコート法により塗布し、焼成炉にて焼成することにより形成した。この後、塗布型半導体層をフォトリソグラフィー法によってアイランド状にパターニングした。
ソース・ドレイン電極はメタルマスクを用いてそのままスパッタリングをすることにより、パターニング化し、実施例TFT素子のサンプルを作製した。ソース・ドレイン電極として、モリブデンを用いた。なお、ゲート電極として低抵抗シリコンを用い、ゲート絶縁膜として熱酸化膜を用い、ソース・ドレイン電極としてモリブデンを用いた。
【0060】
<実施例1の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸ガリウム水和物(Ga(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸亜鉛水和物(Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製)を秤量し、添加剤としてフッ化水素酸(0.6%)を加え、それぞれ純水中に溶解させ、下表6に示す塗布型半導体前駆体溶液を作成した。このときサンプルの濃度は0.3 mol/Lとした。
【表6】
その後、室温にて、6時間撹拌することで完全に溶解した状態の前駆体溶液を作製した。
【0061】
続いて、得られた前駆体溶液をスピンコート法によりシリコンウエハ上に塗布し、150℃のホットプレート上にて10分間乾燥させた。その後、300度の大気雰囲気オーブンにて1時間焼成処理を行うことにより半導体層を形成した。
このときの膜厚は15 nmであった。
この後半導体層をフォトリソグラフィー法によりアイランド状にパターニング化し、塗布型半導体層を形成した。続いてメタルマスクを用い、モリブデンでDCスパッタリング法によりソース・ドレイン電極を形成し、実施例1の評価用TFTサンプルを作製した。
【0062】
<実施例2の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸ガリウム水和物(Ga(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸亜鉛水和物(Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製)を秤量し、添加剤としてフッ化水素酸(0.3%)を加え、それぞれ純水中に溶解させ、下表7に示す塗布型半導体前駆体溶液を作成した。このときサンプルの濃度は0.3 mol/Lとした。
【表7】
その後は、上記実施例1と同様にして、実施例2の評価用TFTサンプルを作製した。
【0063】
<比較例3の具体的な説明>
硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸ガリウム水和物(Ga(NO3)3・xH2O Aldrich製)、硝酸亜鉛水和物(Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製)を秤量し、それぞれ純水中に溶解させ、下表8に示す塗布型半導体前駆体溶液を作製した。このときサンプルの濃度は0.3 mol/Lとした。
【表8】
その後は、上記実施例1と同様にして、比較例3の評価用TFTサンプルを作製した。
【0064】
<実施例1、2の評価>
上述したようにして得られた実施例1、2および比較例3のサンプルを比較して、実施例1、2のTFTの評価を行う。
上記各サンプルについて、電界効果移動度(移動度)を測定し、その測定結果を下表9に示す。
【表9】
このように、In、ZnおよびGaから選ばれる2種類以上の金属成分が含まれるとともに、フッ素イオンを有する添加剤を含む実施例1、2においては、そのような条件を満たしていない比較例3に比べて、より優れた半導体特性が得られた。
【0065】
本発明の薄膜トランジスタ、および薄膜トランジスタの製造方法としては、上記実施形態に記載したものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、上記塗布型半導体前駆体溶液に含まれる金属成分としては、インジウム、亜鉛、スズおよびガリウムのうちの2種類であっても良いし、3種類あるいは全種類であっても良い。
【0066】
また、本発明の薄膜トランジスタとしては、上記実施形態に限られるものではなく、実施形態において示す各層間に他の層を介在させる構成とすることも可能である。
また、上記実施形態においては、塗布型酸化物半導体として、ボトムゲート型の構成のものについて説明しているが、本発明に係る薄膜トランジスタの塗布型酸化物半導体としては、トップゲート型の構成のものも、同様に適応し得る。但し、トップゲート型の塗布型酸化物半導体の場合には、塗布型半導体前駆体溶液は、通常、ソース・ドレイン電極や基板上に塗布されて酸化物半導体層が形成されることになる。
また、塗布型酸化物半導体は、薄膜トランジスタのチャンネル層として用いられるものに限られず、液晶、プラズマ、EL等の表示素子、太陽電池、さらにはタッチパネルや各種電極等にも好適に用いることができる。
【0067】
なお、本発明の実施形態においては、半導体層は塗布型とされており、それ以外の各層は必ずしも塗布型とはされていないが、全ての層を塗布型とするようにしてもよく、この場合には、真空中で処理を行うためのシステムを全て不要とすることができる。
また、上述した薄膜トランジスタを用いて表示駆動部を形成し、例えば、有機ELディスプレイ(OLED)やLCD等の種々の表示装置を形成することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 半導体層(塗布型酸化物半導体層)
6 ソース・ドレイン電極
図1