IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリプラスチックス株式会社の特許一覧

特許7149374異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム
<>
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図1
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図2
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図3
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図4
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図5
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図6
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図7
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図8
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図9
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図10
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図11
  • 特許-異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】異方性樹脂成形体の膨潤挙動の予測方法および予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20220929BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C45/76
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021088925
(22)【出願日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青木 現
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059116(JP,A)
【文献】特開2016-203584(JP,A)
【文献】特開2012-178101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
G06F 30/00-30/398
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性フィラーを含有する樹脂材料からなる異方性樹脂成形体における、薬液の浸透挙動および膨潤挙動のうち一方または両方を予測する方法であり、
前記異方性樹脂成形体を複数の第1領域に要素分割して、前記異方性樹脂成形体を得るときの前記異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成する第1領域準備ステップ(S1)と、
前記複数の第1領域のそれぞれについて、前記異方性フィラーの配向状態を算出する配向状態算出ステップ(S2)と、
前記異方性フィラーを含有しない前記樹脂材料であるベース樹脂からなる特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記成形体の寸法変化量と浸透時間の測定値から、前記寸法変化量の時間依存性を算出する寸法変化率算出ステップ(S3)と、
前記特定形状と同一の形状を有する樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割して、液体浸透量解析用モデルを作成する第2領域準備ステップ(S4)と、
前記複数の第2領域のそれぞれについて、前記寸法変化量の時間依存性から、前記特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を求める液体浸透量算出ステップ(S5)と、
前記異方性フィラーと、前記樹脂材料が複合された成形体モデルを構成し、前記成形体モデルを、前記異方性フィラーからなる領域と前記ベース樹脂からなる領域とが区別された複数の第3領域に要素分割して物性値取得用モデルを作成する第3領域準備ステップ(S6)と、
少なくとも、前記複数の第3領域のそれぞれに当てはまる前記異方性フィラーまたは前記ベース樹脂の物性値と、前記ベース樹脂の前記液体浸透量の時間依存性の値から、前記異方性樹脂成形体における膨潤率の分布を算出する膨潤率算出ステップ(S7)と、
前記配向状態解析用モデルを基に構造解析用モデルを得る構造解析用モデル作成ステップ(S8)と、
前記構造解析用モデル作成ステップ(S8)で得られる構造解析用モデルに基づいて、前記配向状態算出ステップ(S2)で得られる前記異方性フィラーの配向状態と、前記膨潤率算出ステップ(S7)で得られる前記異方性樹脂成形体の膨潤率と、前記液体浸透量算出ステップ(S5)で得られる前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、前記異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する膨潤状態算出ステップ(S9)と
を含む、予測方法。
【請求項2】
前記第3領域準備ステップ(S6)は、前記ベース樹脂の密度、前記異方性フィラーの密度、前記異方性フィラーの寸法、および前記異方性フィラーの体積含有率のうち少なくともいずれかを含むCAD形状に基づいて、前記樹脂材料の成形体モデルを構成する、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記膨潤状態算出ステップ(S9)は、以下の数式(c)で計算される液体による膨潤ひずみεを用いて、前記膨潤状態を算出する、請求項1または2に記載の予測方法。
【数1】
数式(c)中、Aは、液体の浸透による膨潤係数である。
【請求項4】
前記膨潤状態算出ステップ(S9)は、以下の数式(d)で計算される液体による異方性膨潤ひずみεsX、εsYおよびεsZを用いて、前記膨潤状態を算出する、請求項1から3のいずれか1項に記載の予測方法。
【数2】
数式(d)中、εsXは、前記樹脂材料の主軸方向であるX方向に沿った膨潤ひずみであり、εsYは、前記樹脂材料のX方向に直交する方向であるY方向に沿った膨潤ひずみであり、εsZは、前記樹脂材料のX方向およびY方向に直交する方向であるZ方向に沿った膨潤ひずみであり、AsXは、前記樹脂材料の主軸方向であるX方向に沿った膨潤係数であり、AsYは、前記樹脂材料のX方向に直交する方向であるY方向に沿った膨潤係数であり、AsZは、前記樹脂材料のX方向およびY方向に直交する方向であるZ方向に沿った膨潤係数であり、ここで、εsY≧εsZおよびAsY≧AsZである。
【請求項5】
前記液体浸透量算出ステップ(S5)は、熱伝導解析を用いて、前記異方性樹脂成形体の表面部における放射率を境界条件として、前記膨潤率の分布を算出する、請求項1から4のいずれか1項に記載の予測方法。
【請求項6】
前記膨潤状態算出ステップ(S9)は、熱伝導解析を用いて、前記異方性樹脂成形体の表面部における放射率を境界条件として、前記膨潤状態を算出する、請求項1から5のいずれか1項に記載の予測方法。
【請求項7】
前記寸法変化率算出ステップ(S3)は、前記ベース樹脂の成形体として、前記異方性樹脂成形体と同一の形状を有するものを用いる、請求項1から6のいずれか1項に記載の予測方法。
【請求項8】
異方性フィラーを含有する樹脂材料からなる異方性樹脂成形体における、薬液の浸透挙動および膨潤挙動のうち一方または両方を予測するプログラムであり、
前記異方性樹脂成形体を複数の第1領域に要素分割して、前記異方性樹脂成形体を得るときの前記異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成する第1領域準備ステップ(S1)と、
前記複数の第1領域のそれぞれについて、前記異方性フィラーの配向状態を算出する配向状態算出ステップ(S2)と、
前記異方性フィラーを含有しない前記樹脂材料であるベース樹脂からなる特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記成形体の寸法変化量と浸透時間の測定値から、前記寸法変化量の時間依存性を算出する寸法変化率算出ステップ(S3)と、
前記特定形状と同一の形状を有する樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割して、液体浸透量解析用モデルを作成する第2領域準備ステップ(S4)と、
前記複数の第2領域のそれぞれについて、前記寸法変化量の時間依存性から、前記特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を求める液体浸透量算出ステップ(S5)と、
前記異方性フィラーと、前記樹脂材料が複合された成形体モデルを構成し、前記成形体モデルを、前記異方性フィラーからなる領域と前記ベース樹脂からなる領域とが区別された複数の第3領域に要素分割して物性値取得用モデルを作成する第3領域準備ステップ(S6)と、
少なくとも、前記複数の第3領域のそれぞれに当てはまる前記異方性フィラーまたは前記ベース樹脂の物性値と、前記ベース樹脂の前記液体浸透量の時間依存性の値から、前記異方性樹脂成形体における膨潤率の分布を算出する膨潤率算出ステップ(S7)と、
前記配向状態解析用モデルを基に構造解析用モデルを得る構造解析用モデル作成ステップ(S8)と、
前記構造解析用モデル作成ステップ(S8)で得られる構造解析用モデルに基づいて、前記配向状態算出ステップ(S2)で得られる前記異方性フィラーの配向状態と、前記膨潤率算出ステップ(S7)で得られる前記異方性樹脂成形体の膨潤率と、前記液体浸透量算出ステップ(S5)で得られる前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、前記異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する膨潤状態算出ステップ(S9)と
を含む、予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性樹脂成形体の薬液浸透挙動の予測および異方性膨潤挙動の予測方法およびその予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の分野では、車体の軽量化のために、熱可塑性樹脂の射出成形体からなる樹脂成形体によって、金属部品を代替する動きが進められている。熱可塑性樹脂の中でも耐薬品性、特に耐燃料性に優れる組成物においては、燃料油と直接接触する部品、例えば燃料ポンプモジュール、燃料ポンプインペラー等に代表される燃料搬送ユニット等の大型部品にも用いられている。
【0003】
しかし、それらの樹脂成形体を、自動車のように長期間にわたって用いられる製品に用いた場合、樹脂成形体を燃料に長期間にわたって浸漬させたときに膨潤が発生することで、成形品寸法が変わり、場合によっては部品間のクリアランスがなくなることにより、燃料供給に不具合が生じる原因になることが懸念されている。そのため、膨潤挙動の予測及び解析の手法や、対策が求められている。
【0004】
また、昨今では、バイオディーゼル燃料のように燃料成分が多様化しており、自動車部品用の樹脂成形体では、耐薬品性、寸法安定性のさらなる向上が求められている。
【0005】
このような観点から、例えば特許文献1には、樹脂成形体の薬品浸漬による破壊箇所の予測方法が記載されている。
【0006】
しかし、この方法では膨潤挙動は求められないため、膨潤挙動の予測手法が求められていた。また、特許文献2には、異方性樹脂成形体の構造解析方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-059116号公報
【文献】特開2016-203584号公報
【0008】
この方法では異方性フィラーを含有する異方性樹脂成形体の異方性熱膨張挙動、弾性率異方性について考慮して、荷重や強制変位に対する発生応力、発生ひずみの評価、熱による変形などを計算にて予測が可能であるが、異方性を示す膨潤挙動に関しては求められない。そして、ガラス繊維など、繊維状のフィラーを含む熱可塑性樹脂では、膨潤挙動に異方性があるため、燃料等の薬品の浸漬による、異方性樹脂成形体の寸法変化予測及び解析も困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、無機物フィラーを含んだような樹脂組成物の組成によることなく、薬液浸透挙動、膨潤挙動を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、計算機支援工学(CAE)による流動解析と構造解析を組み合わせて、薬品浸漬に伴う膨潤挙動を予測し、また、膨潤挙動の予測に基づいて製品形状の設計を変更することあるいは、膨潤が少ない樹脂組成物を変更して、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
異方性フィラーを含有する樹脂材料からなる異方性樹脂成形体における、薬液の浸透挙動および膨潤挙動のうち一方または両方を予測する方法であり、
前記異方性樹脂成形体を複数の第1領域に要素分割して、前記異方性樹脂成形体を得るときの前記異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成する第1領域準備ステップ(S1)と、
前記複数の第1領域のそれぞれについて、前記異方性フィラーの配向状態を算出する配向状態算出ステップ(S2)と、
前記異方性フィラーを含有しない前記樹脂材料であるベース樹脂からなる特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記成形体の寸法変化量と浸透時間の測定値から、前記寸法変化量の時間依存性を算出する寸法変化率算出ステップ(S3)と、
前記特定形状と同一の形状を有する樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割して、液体浸透量解析用モデルを作成する第2領域準備ステップ(S4)と、
前記複数の第2領域のそれぞれについて、前記寸法変化量の時間依存性から、前記特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を求める液体浸透量算出ステップ(S5)と、
前記異方性フィラーと、前記樹脂材料が複合された成形体モデルを構成し、前記成形体モデルを、前記異方性フィラーからなる領域と前記樹脂部からなる領域とが区別された複数の第3領域に要素分割して物性値取得用モデルを作成する第3領域準備ステップ(S6)と、
少なくとも、前記複数の第3領域のそれぞれに当てはまる前記異方性フィラーまたは前記樹脂部の物性値と、前記ベース樹脂の前記液体浸透量の時間依存性の値から、前記異方性樹脂成形体における膨潤率の分布を算出する膨潤率算出ステップ(S7)と、
前記配向状態解析用モデルを基に構造解析用モデルを得る構造解析用モデル作成ステップ(S8)と、
前記構造解析用モデル作成ステップ(S8)で得られる構造解析用モデルに基づいて、前記配向状態算出ステップ(S2)で得られる前記異方性フィラーの配向状態と、前記膨潤率算出ステップ(S7)で得られる前記異方性樹脂成形体の膨潤率と、前記液体浸透量算出ステップ(S5)で得られる前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、前記異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する膨潤状態算出ステップ(S9)と
を含む、予測方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、異方性樹脂成形体の薬液浸透挙動の予測および異方性膨潤挙動の予測方法であって、異方性樹脂成形体の薬品浸漬による薬液浸透挙動および異方性膨潤挙動の予測する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】燃料等の薬品の浸漬による、薬液浸透挙動、膨潤挙動予測方法の一例を示すフローチャートである。
図2】樹脂部、フィラー部の代表体積要素における要素分割の状態の一例を示す図である。
図3】一連の解析プログラムを実現するためのハードウェア資源Hの一例を示す図である。
図4】平板形状をCADデータとして作成し、これにランナー、ゲート等を書き加えて作成した流動解析モデルの全体図である。
図5】樹脂流動解析によって得られる異方性フィラーの配向方向分布である。
図6】測定終了時の寸法変化率を100%として、各浸漬時間における寸法変化率との比、およびS4にて熱放射率を3と設定した場合の相対膨潤率を示すグラフである。
図7】試料のXYZ方向(フィラー主配向方向、フィラー垂直方向、フィラー肉厚方向)を示す図である。
図8】要素分割後の構造解析用モデルを示す図である。
図9】構造解析用モデルの膨張後の変形の様子を示す図である。
図10】寸法変化率の薬液浸透時間依存性の実測値と解析値を示すグラフである。
図11】浸漬時間48時間後の濃度分布を示す図である。
図12】CAEなどにより飽和膨潤浸漬時間と100%飽和濃度について各放射率の算出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<薬液浸透挙動、膨潤挙動の予測方法>
本発明の予測方法は、異方性フィラーを含有する樹脂材料からなる異方性樹脂成形体における、薬液の浸透挙動および膨潤挙動のうち一方または両方を予測する方法であり、
前記異方性樹脂成形体を複数の第1領域に要素分割して、前記異方性樹脂成形体を得るときの前記異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成する第1領域準備ステップ(S1)と、
前記複数の第1領域のそれぞれについて、前記異方性フィラーの配向状態を算出する配向状態算出ステップ(S2)と、
前記異方性フィラーを含有しない前記樹脂材料であるベース樹脂からなる特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記成形体の寸法変化量と浸透時間の測定値から、前記寸法変化量の時間依存性を算出する寸法変化率算出ステップ(S3)と、
前記特定形状と同一の形状を有する樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割して、液体浸透量解析用モデルを作成する第2領域準備ステップ(S4)と、
前記複数の第2領域のそれぞれについて、前記寸法変化量の時間依存性から、前記特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を求める液体浸透量算出ステップ(S5)と、
前記異方性フィラーと、前記異方性フィラーが混合される樹脂部とを含んだ前記樹脂材料の成形体モデルを構成し、前記成形体モデルを、前記異方性フィラーからなる領域と前記樹脂部からなる領域とが区別された複数の第3領域に要素分割して、物性値取得用モデルを作成する第3領域準備ステップ(S6)と、
少なくとも、前記複数の第3領域のそれぞれに当てはまる前記異方性フィラーまたは前記樹脂部の物性値と、前記ベース樹脂の前記液体浸透量の時間依存性の値から、前記異方性樹脂成形体における膨潤率の分布を算出する膨潤率算出ステップ(S7)と、
前記配向状態解析用モデルを基に構造解析用モデルを得る構造解析用モデル作成ステップ(S8)と、
前記構造解析用モデル作成ステップ(S8)で得られる構造解析用モデルに基づいて、前記配向状態算出ステップ(S2)で得られる前記異方性フィラーの配向状態と、前記膨潤率算出ステップ(S7)で得られる前記異方性樹脂成形体の膨潤率と、前記液体浸透量算出ステップ(S5)で得られる前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、前記異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する膨潤状態算出ステップ(S9)とを含む。
【0016】
図1は、燃料等の薬品の浸漬による、薬液浸透挙動、膨潤挙動予測方法の一例を示すフローチャートである。
【0017】
<流動解析用モデル作成ステップS1>
S1は、異方性樹脂成形体を複数の第1領域に要素分割して、前記異方性樹脂成形体を得るときの前記異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成する第1領域準備ステップである。
【0018】
流動解析用モデル作成ステップS1では、樹脂成形体を微小な領域に分割して、繊維配向状態の解析の実施に必要なモデルを作成する。例えば、先ず、CADインターフェース等を利用して、樹脂成形体の形状をパソコン等に取り込む、あるいはCADシステムにより樹脂成形体の形状を作成し、モデル化範囲を設定する。次いで、要素分割プリプロセッサ等で有限要素法等の要素分割を行うことで樹脂成形体を複数の領域に分割して、解析用のモデルを作成する。
【0019】
要素の形状は、四面体1次要素、2次要素、六面体1次要素、2次要素等が選択可能である。また、要素分割数が十分細かくないと、高い計算精度が得られない。一方、要素分割数が多い場合、計算時間が多大になるため、要素数は少ないことが求められる。したがって、計算精度、計算時間等を考慮して、適宜好ましい分割数を採用する。
【0020】
また、今回のように有限要素法を用いた樹脂流動解析により配向状態を取得する場合、異方性樹脂成形体の肉厚方向に対し、5分割以上で要素分割することが好ましい。5分割以上であると構造解析の精度が安定する。
【0021】
異方性フィラーとしては、繊維状、楕円体状、粒状、板状フィラーなどが挙げられる。具体例としては、タルク、マイカ、カオリン、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維等が想定される。
【0022】
<繊維配向計算ステップS2>
S2は、前述の複数の第1領域のそれぞれについて、前記異方性フィラーの配向状態を算出する配向状態算出ステップである。
繊維配向計算ステップS2では、樹脂流動解析を用い、S1にて得られたモデルを用い、配向状態をシミュレートするのが好ましい。
【0023】
樹脂流動解析の手法を用いた繊維配向状態のシミュレートは特に限定されるものでなく、公知の有限要素法を用いた樹脂流動解析ソフトウェアを用いて行うことができる。例えば、AUTODESK社製のAUTODESK SIMULATION MOLDFLOW INSIGHTや、東レエンジニアリング社製の3D TIMON、Core Tech社製のMoldex 3D等を用いることができる。
【0024】
配向状態の種類は特に限定されるものでなく、例えば、配向度、配向方向等が挙げられる。
【0025】
配向度に関する配向度情報は、通常3×3のマトリクスにて表現される。このマトリクスから、3方向の固有ベクトル、固有値を求める。それぞれの固有ベクトルから配向方向が得られる。またそれぞれの固有値から配向度が得られる。
【0026】
<ベース樹脂部分膨張率測定ステップS3>
S3は、異方性フィラーを含有しない前記樹脂材料であるベース樹脂からなる特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記成形体の寸法変化量と浸透時間の測定値から、前記寸法変化量の時間依存性を算出する寸法変化率算出ステップである。
【0027】
ベース樹脂部分膨張率測定ステップS3では、樹脂組成物の内、ベースとなる樹脂部分のみの場合にて薬液浸透による寸法変化の浸透時間依存性を測定する。なお、膨潤率計算の精度向上のため、フィラーを含有している樹脂組成物と同じ形状を用いることが望ましい。
【0028】
<構造解析用モデル作成ステップS4>
S4は、特定形状と同一の形状を有する樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割して、液体浸透量解析用モデルを作成する第2領域準備ステップである。
【0029】
構造解析用モデル作成ステップS4では、薬液浸透による寸法変化の浸透時間依存性を測定する際に用いた形状のCADデータを作成し、要素分割を行う。次に、要素分割プリプロセッサ等で有限要素法等の要素分割を行うことで樹脂成形体を複数の領域に分割して、解析用のモデルを作成する。薬液浸透は、肉厚方向にも進展するため、薬液浸透状態の解析精度を考慮すると、流動解析用モデル作成ステップS1と同様な肉厚方向の分割方法が望ましい。
【0030】
<非定常薬液浸透量計算ステップS5>
S5は、複数の第2領域のそれぞれについて、前記寸法変化量の時間依存性から、前記特定形状の成形体を液体に浸漬したときの、前記ベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を求める液体浸透量算出ステップである。
【0031】
非定常薬液浸透量計算ステップS5では、S4にて得られた構造解析用のモデルを用いて、薬液浸透量の計算をする。薬液浸透の計算方法は以下に示す。
【0032】
薬液浸透の挙動は、下記式(a)に示されるFickの拡散方程式に従い、樹脂に膨潤した薬液の濃度Cに比例して、寸法が拡大するものとする。
【0033】
【数1】
(式(a)中、Cは濃度、Dは拡散係数、tは時間、xは位置である。)
【0034】
このうち、拡散係数Dは、下記式(b)によって求められる。この式における、透過係数P、溶解度係数S、密度ρは、温度、薬液の種類、浸透する樹脂の状態等によって変動する。
【0035】
【数2】
(式(b)中、Dは拡散係数[m/h]であり、Pは透過係数(Permeability Constant)[kg・m/h・N]であり、Sは溶解度係数(Solubility Constant)[kg/N・m]であり、ρは密度[kg/m]である。)
【0036】
Fickの拡散方程式は、ポアソン方程式とも呼ばれ、非定常熱伝導方程式と同形であるため、例えば伝熱解析を行うことで、薬液の拡散に関する挙動を予測できる。より具体的には、薬液の濃度を温度に置き換え、伝熱解析に用いられる比熱と熱伝導率の比率をDに置き換え、且つ、膨潤挙動の時間依存性を測定した結果を膨張挙動の線膨張率に置き換えることにより、簡単な実験と計算によって予測できる。さらに、樹脂の結晶化度が高いほど拡散係数Dは小さくなるため、Fickの拡散方程式を用いることで、樹脂の結晶化度による影響も考慮することができる。
【0037】
上記の手法により、薬液の濃度が判れば、膨潤量が計算できる。膨潤量は薬液の濃度に比例することが知られているため、薬液による膨潤ひずみεsは、
【0038】
【数3】
As: 薬液浸透度による膨潤係数
と計算できる。
【0039】
上記の式にて薬液浸透度による膨潤係数Asは、ガラス繊維などのフィラーを含む場合は、射出成形時の流動状態に応じて配向状態が決まり、フィラーの形状によって異方性を持つ場合がある。樹脂種によっては、樹脂自体に異方性がある場合も想定される。加熱による樹脂組成物の線膨張係数はSchapery、Chamberlain、Rosen-Hashinモデルなどが知られているが、薬液浸透による異方性膨潤挙動への適用は知られていないため、S1、S2に示すような代表体積要素を用いる方法が望ましい。
【0040】
膨潤量は薬液の濃度に比例することが知られているが、膨潤挙動に異方性がある場合、薬液による異方性膨潤ひずみεsX 、εsY , εsZ は、異方性膨潤係数AsX , AsY 、AsZを用いて計算できる。
【0041】
【数4】
【0042】
εsX :対象材料の主軸方向の膨潤ひずみ
εsY :材料主軸方向に直交する方向の膨潤ひずみ
εsZ :材料主軸方向に直交する方向の膨潤ひずみ
εsY ≧ εsZ という関係を有する。
【0043】
sX :対象材料の主軸方向の膨潤係数
sY :材料主軸方向に直交する方向の膨潤係数
sZ :材料主軸方向に直交する方向の膨潤係数
sY ≧ AsZ という関係を有する。
【0044】
薬液浸透による膨潤量の計算は、濃度を熱に置き換えることにより、熱膨張として、公知の構造解析用計算プログラムを用いることができる。より具体的には、Ansys Inc.社製のANSYS、Dassault Systems S.E社製のABAQUS等を用いることができる。
【0045】
<代表体積要素作成ステップS6>
S6は、異方性フィラーと、前記異方性フィラーと、前記樹脂材料が複合された成形体モデルを構成し、前記成形体モデルを、前記異方性フィラーからなる領域と前記樹脂部からなる領域とが区別された複数の第3領域に要素分割して、物性値取得用モデルを作成する第3領域準備ステップである。
【0046】
代表体積要素作成ステップS6では、単純化されたフィラー部形状とそれを包含する樹脂部のモデルを作成し、それぞれの領域を要素分割することで、物性値取得用の解析用モデルを準備する。
【0047】
図2は、樹脂部、フィラー部の代表体積要素における要素分割の状態の一例を示す。
【0048】
<異方性膨潤解析用物性値取得ステップS7>
S7は、少なくとも、前記複数の第3領域のそれぞれに当てはまる前記異方性フィラーまたは前記樹脂部の物性値と、前記ベース樹脂の前記液体浸透量の時間依存性の値から、前記異方性樹脂成形体における膨潤率の分布を算出する膨潤率算出ステップである。
【0049】
異方性膨潤解析用物性値取得ステップS7では、樹脂部、フィラー部それぞれに弾性率、ポアソン比、線膨張率を入力し、構造解析を行い、変形あるいは温度荷重を与え、フィラー長手方向に沿った方向、フィラー長手方向に垂直となる方向の応力、寸法から物性値を得る。
【0050】
この際、特許文献2に示す方法で、数式を用いて異方性膨潤解析用物性値を取得することも可能であるが、この場合、ベース樹脂部分に異方性物性がある場合には数式を変更する必要があり、フィラーが複数種類存在する場合などに対して物性値の取得が難しい。代表体積要素を用いる方法により、様々なフィラー/樹脂の組み合わせに対し、物性値取得が容易になる。
【0051】
<構造解析用モデル作成ステップS8>
S8は、配向状態解析用モデルを基に構造解析用モデルを得る構造解析用モデル作成ステップである。
【0052】
構造解析用モデル作成ステップS8では、S1にて得られた流動解析用のモデルの内、節点、要素を構造計算用ソフトウェアに応じたフォーマットにあわせて作成していく。その際、参考文献2に示すように流動解析用の要素分割と構造解析用の要素分割を別として、流動解析にて得られた結果情報を構造解析用の境界条件として用いることも可能である。
【0053】
しかしながら、繊維配向情報をより詳細に得るためには肉厚方向に5分割以上で要素分割することが望ましく、その状態で計算精度を上げるために要素アスペクト比などの要素分割品質を上げることが求められ、要素数が膨大となり、構造解析時点での計算コストが増大する。そのため、本手法では流動解析用のモデルを変換することにより、計算コストを低減させることを事例として用いた。
【0054】
<膨潤状態計算ステップS9>
S9は、構造解析用モデル作成ステップS8で得られる構造解析用モデルに基づいて、配向状態算出ステップS2で得られる異方性フィラーの配向状態と、膨潤率算出ステップS7で得られる異方性樹脂成形体の膨潤率と、液体浸透量算出ステップS5で得られるベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する膨潤状態算出ステップである。
【0055】
構造解析ステップS9は、S8にて作成した構造解析モデルに基づいて異方性樹脂成形体の構造解析を行うステップである。このステップでは、S2にて作成したフィラー配向状態の情報と、S7にて設定した物性情報と、S5にて求めた薬液浸透濃度の時間依存性を含む構造解析モデル情報を用い、構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して構造解析を実行する。
【0056】
計算結果から、異方性樹脂成形体の変形をシミュレートできる。
【0057】
ここで、フィラーの材質はガラス繊維などの無機物が対象となり、樹脂組成物に含まれる一般的な無機物フィラーの場合、薬液浸透はほぼ0と見なして計算する。従ってベース樹脂部分の薬液浸透時の濃度時間依存性を用いることができる。
【0058】
フィラーの材質が例えば樹脂を用いた繊維など、薬液浸透がベース樹脂部分に対して無視できない場合は、別途S6にて用いた代表体積要素を用いて拡散係数を求め、S9にて計算することも可能である。
【0059】
<解析プログラム>
本発明における流動解析用モデル及び構造解析用モデルの要素分割や、薬液浸透量、膨潤状態の計算は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現されることが好ましい。
【0060】
図3は、一連の解析プログラムを実現するためのハードウェア資源Hの一例を示す。ハードウェア資源Hは、情報処理装置1と、設計者からの各種要求を受け付ける入力装置2と、情報処理装置1が行った解析結果を出力する出力装置3とを備えている。また、情報処理装置1は、LAN(Local Area Network)等のネットワークNWを介して、CAD装置4に接続されている。
【0061】
情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)10と、RAM(Random Access Memory)等により構成される主記憶装置20と、入力装置2及び出力装置3との間でデータ授受を行うI/Oインタフェース30と、ハードディスク等により構成される補助記憶装置40と、ネットワークNWに接続されている装置との間で行うデータ授受の制御を行うネットワークインタフェース(NWインタフェース)50と、を備える。
【0062】
補助記憶装置40には、上述した一連のステップを情報処理装置1に実行させるための解析プログラム41が格納されている。解析プログラム41は、代表体積要素分割プログラム41Aと、流動解析用の要素分割プログラム41Bと、構造解析用要素変換プログラム41Cと、S4を情報処理装置1に実行させるための流動解析・繊維配向計算プログラム41Dと、構造解析を用いた薬液浸透量計算プログラム41Eと、構造解析を用いた薬液浸透量計算プログラム41Fを含んで構成される。本発明に係る構造解析方法は、CPU10が補助記憶装置40に格納されている解析プログラム41を主記憶装置20にロードして実行することにより実現される。
【0063】
上記の実施形態では、第1領域準備ステップS1から破壊発生予測ステップS5に至るまでの各ステップは、複数のプログラムが組み合わせられて実行されることで行われているが、これに限られることなく、最初から一体として構築されたプログラムでもよく、また、実行されるコンピュータの形態や規模、設置場所等も限定されるものではない。
【実施例
【0064】
以下、実施態様を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0065】
〔実施態様1〕
〔流動解析用モデル作成ステップS1〕
寸法 100mm×100mm、厚み3mmの平板形状をCADデータとして作成し、これにランナー、ゲート等を書き加えた流動解析モデルを作成した。このときの流動解析モデルの全体図を図4に示す。このCADモデルについて、有限要素分割を行った。
要素:四面体1次要素(分割数376033)
【0066】
〔繊維配向解析ステップS2〕
繊維配向状態を求めるために使用した樹脂流動解析には、AUTODESK社AUTODESK SIMULATION MOLDFLOW INSIGHTを用いた。成形条件を境界条件として与え、解析を実行した。
【0067】
樹脂:カーボン繊維20%強化ポリオキシメチレン(ポリプラスチックス社製ジュラコン(登録商標)、CH-20)
樹脂の温度:210℃
成形型の温度:80℃
射出流量:12.6cm/s
保圧圧力:70MPa
保圧時間:30秒
冷却時間:10秒
【0068】
樹脂流動解析によって得られる異方性フィラーの配向方向分布を図5に示す。
【0069】
〔ベース樹脂膨潤率測定ステップS3〕
≪試験片の作成≫
図4に示すような寸法 100mm×100mm、厚み3mmの平板形状を用いて、以下に示す樹脂、成形条件にて射出成型を行い、試験片を得た。
樹脂:非強化ポリオキシメチレン(ポリプラスチックス社製ジュラコン(登録商標)、M90-44)
樹脂の温度:210℃
成形型の温度:80℃
射出流量:12.6cm/s
保圧圧力:70MPa
保圧時間:30秒
冷却時間:10秒
【0070】
≪寸法変化率測定≫
40℃に保った恒温水槽にて試験片を水中に一定期間浸漬させた時の質量および寸法変化率を測定した。試験片を浸漬させる前に、50℃乾燥機中に24時間放置後、デシケーター中にて放冷した。試験片を水中に浸漬させ取り出した後、23℃/50%Rhに24時間放置し、各流動方向、流動垂直方向の寸法変化率の浸漬時間依存性を測定した。
【0071】
〔構造解析用モデル作成ステップS4〕
ベース樹脂部の膨潤率は別の形状、別の条件でも求められるが、今回の膨潤率の測定はベース樹脂、フィラーを含む樹脂組成物とも同じ平板形状を用いたため、S1にて作成した要素分割モデルを構造解析ソフト用に要素、節点のフォーマットを変換したモデルを用いた。
【0072】
〔非定常薬液浸透量計算ステップS5〕
S4にて作成したモデルを用い、物性データ、境界条件を与え薬液浸透時の濃度の浸漬時間依存性を計算する。薬液拡散の濃度を温度と見なして伝熱解析を用い計算する。
境界条件として、「Visual Basicによる数値解析プログラム、黒田英夫著、CQ出版、2002年4月20日、p118-149」に示すような熱放射境界条件を用いた。得られた結果は1℃を1%と換算する。
【0073】
境界条件:平板部分の表面を熱放射境界として、熱放射率を設定温度100℃、初期条件温度を0℃とした。
物性値 比熱 1370 熱伝導率 0.37 密度 1.4E-9
【0074】
S3にて得られた寸法変化率を元に、薬液浸透度による膨潤係数Asを飽和膨潤時の膨張率0.20%と設定し、膨潤率の浸漬時間依存性を実測値に近くなるように放射率を増減させて、最適値を求める。構造解析用計算プログラムとして、株式会社アライドエンジニアリング製のADVENTURE CLUSTERを用いた。図12はCAEなどにより飽和膨潤浸漬時間と100%飽和濃度について各放射率の算出結果を示したものである。
【0075】
図6に測定終了時の寸法変化率を100%として、各浸漬時間における寸法変化率との比、およびS4にて熱放射率を3と設定した場合の相対膨潤率を示す。図11に浸漬時間48時間後の濃度分布を示す。
【0076】
上記の例から、本予測方法により、フィラーを含有しない樹脂組成物成形体において薬液浸透状態を精度よく予測が可能であることが分かる。
【0077】
〔代表体積要素作成ステップS6〕
樹脂組成物における膨潤率を求めるために、樹脂部、フィラー部の密度、フィラー部の寸法、フィラーの体積含有率から、樹脂部の中にフィラー部が含まれるCAD形状を作成し、それぞれを要素分割する。上記のような形状は単純であるため、ソフトウェア上でCAD形状作成から要素分割までをAltair Engineering Inc.製
Multiscaledesignerを用いて図2に示す代表体積要素を作成した。
【0078】
〔異方性膨潤解析用物性値取得ステップS7〕
S6にて作成した代表体積要素を用い、樹脂組成物における膨潤率を求める。代表体積要素モデルに温度荷重100℃を与え、図7に示すXYZ方向(フィラー主配向方向、フィラー垂直方向、フィラー肉厚方向)における寸法変化から、フィラーを含む樹脂組成物の膨張率を求めた。また、実際の射出成形品の繊維配向はフィラーの方向の分散、フィラーの方向の向きは一様ではない。
【0079】
そこで、Moldflow上の繊維配向計算仮定であるフィラーの分散度の比、
フィラー主配向方向:フィラー垂直方向:フィラー肉厚方向=100:80:20
から、異方性膨潤係数AsX 、AsY、AsZはそれぞれ、
sX:5.25×10-6
sY:1.45×10-5
sZ:1.56×10-5
と設定した。
【0080】
〔構造解析用モデル作成ステップS8〕
S1にて作成した要素分割モデルから、ゲート部、ランナー部、スプルー部を消去し、平板部を構造解析ソフト用に要素、節点のフォーマットを変換したモデルを用いた。要素分割後のモデルを図8に示す。
【0081】
〔膨潤状態計算ステップS9〕
S8にて作成した要素分割モデルに、S2で求めた繊維配向状態、S5にて求めた薬液浸透時の濃度時間依存性、S7にて求めた異方性膨潤解析用物性値を与え、拘束条件として、1点を、XYZ方向を拘束、別の1点をYZ方向に、別の1点をZ方向に与えた。構造解析用計算プログラムとして、株式会社アライドエンジニアリング製のADVENTURE CLUSTERを用いた。膨張後の変形の様子を図9に示す。
【0082】
より詳細には各浸漬時間において、すべての要素において濃度を求める。その濃度を元に、異方性膨潤係数AsX 、AsY、AsZに比例させて膨張させる。構造計算にて要素間の結合、位置関係を考慮して、各時間における流動方向、流動垂直方向全体の膨張量を求めた。
【0083】
<実測値との比較>
S3に示す非強化ポリオキシメレンにて求めた寸法変化率と同じ方法、同じ条件でカーボン繊維20%強化ポリオキシメチレンを用い寸法変化率の薬液浸透時間依存性をもとめた。これを実測値として図10に示す。S9にてもとめた、膨張率の薬液浸透時間依存性を同時に示す。
【0084】
図10に示される通り、実施態様1において予測された薬品の浸漬に伴うフィラーを含む樹脂組成物の薬液浸透時の膨潤率時間依存性の傾向は、平板部樹脂流動方向、流動垂直方向とも実測値とほぼ一致した。
【0085】
従って、本発明の方法によれば、薬品浸漬に伴う樹脂成形体の破壊の予測及び、耐薬品性に優れた樹脂成形体の作製が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0086】
H ハードウェア資源
1 情報処理装置
2 入力装置
3 出力装置
4 CAD装置
10 CPU
20 主記憶装置
30 I/Oインタフェース
40 補助記憶装置
41 解析プログラム
41A 代表体積要素分割プログラム
41B 流動解析用要素分割プログラム
41C 構造解析用要素変換プログラム
41D 繊維配向状態計算プログラム
41E 薬液浸透量計算プログラム
41F 異方性膨潤状態計算プログラム
50 ネットワークインタフェース
NW ネットワーク

【要約】      (修正有)
【課題】樹脂組成物の組成によることなく、薬液浸透挙動、および異方性膨潤挙動を予測する方法を提供する。
【解決手段】異方性フィラーを含有する樹脂材料からなる異方性樹脂成形体における、薬液の浸透挙動および膨潤挙動のうち一方または両方を予測する方法であって、異方性フィラーの配向状態解析用モデルを作成するステップ、液体浸透量解析用モデルを作成するステップ、物性値取得用モデルを作成するステップ、構造解析用モデルを作成するステップ、の各ステップを含むステップの後、異方性フィラーの配向状態、異方性樹脂成形体の膨潤率、およびベース樹脂の液体浸透量の時間依存性を用いて構造解析を行い、異方性樹脂成形体における膨潤状態を算出する予測方法である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12