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特許7149423基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20220929BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20220929BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L21/31 B
H01L21/318 B
C23C16/455
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021532593
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027901
(87)【国際公開番号】W WO2021009838
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110263(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125395(WO,A1)
【文献】特開2016-034042(JP,A)
【文献】特開2004-023043(JP,A)
【文献】特開2016-157884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/318
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を残留させる条件下で行う基板処理方法。
【請求項2】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量の方が、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量よりも多くなる条件下で行う基板処理方法。
【請求項3】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量の方が、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量よりも多くなる条件下で行う基板処理方法。
【請求項4】
(a)では、前記基板の表面への前記疑似触媒の吸着反応が反応律速となる条件下で、前記疑似触媒を供給する請求項1~3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
(a)では、前記疑似触媒が単独で存在した場合に成膜が進行しない条件下で、前記疑似触媒を供給する請求項1~4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
(c)では、前記原料が単独で存在した場合に成膜が進行しない条件下で、前記原料を供給する請求項1~5のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記疑似触媒はホウ素およびハロゲンを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記疑似触媒は、BCl、BF、BBr、およびBIのうち少なくともいずれかを含む請求項1~7のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記原料はSi-H結合を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記原料はSi-N結合およびSi-C結合のうち少なくともいずれかを更に含む請求項9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(e)前記処理室内の前記基板に対して第2原料を供給する工程と、
(f)前記処理室内に残留する前記第2原料を排出する工程と、を更に有する請求項1~10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
(g)前記処理室内の前記基板に対して反応体を供給する工程と、
(h)前記処理室内に残留する前記反応体を排出する工程と、を更に有する請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を残留させる条件下で行う半導体装置の製造方法。
【請求項14】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量の方が、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量よりも多くなる条件下で行う半導体装置の製造方法。
【請求項15】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行い、
(b)を、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量の方が、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量よりも多くなる条件下で行う半導体装置の製造方法。
【請求項16】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する疑似触媒供給系と、
前記処理室内の基板に対して原料を供給する原料供給系と、
前記処理室内に残留する物質を排出する排出系と、
前記処理室内の基板を加熱するヒータと、
(a)前記処理室内の基板に対して前記疑似触媒を供給する処理と、(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する処理と、(c)前記処理室内の前記基板に対して前記原料を供給する処理と、(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する処理と、を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する処理を行わせ、(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行わせるか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行わせ、(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を残留させる条件下で行わせるように、前記疑似触媒供給系、前記原料供給系、前記排出系、および前記ヒータを制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項17】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する疑似触媒供給系と、
前記処理室内の基板に対して原料を供給する原料供給系と、
前記処理室内に残留する物質を排出する排出系と、
前記処理室内の基板を加熱するヒータと、
(a)前記処理室内の基板に対して前記疑似触媒を供給する処理と、(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する処理と、(c)前記処理室内の前記基板に対して前記原料を供給する処理と、(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する処理と、を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する処理を行わせ、(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行わせるか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行わせ、(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量の方が、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量よりも多くなる条件下で行わせるように、前記疑似触媒供給系、前記原料供給系、前記排出系、および前記ヒータを制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項18】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する疑似触媒供給系と、
前記処理室内の基板に対して原料を供給する原料供給系と、
前記処理室内に残留する物質を排出する排出系と、
前記処理室内の基板を加熱するヒータと、
(a)前記処理室内の基板に対して前記疑似触媒を供給する処理と、(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する処理と、(c)前記処理室内の前記基板に対して前記原料を供給する処理と、(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する処理と、を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する処理を行わせ、(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させ、(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行わせるか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行わせ、(b)を、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量の方が、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量よりも多くなる条件下で行わせるように、前記疑似触媒供給系、前記原料供給系、前記排出系、および前記ヒータを制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項19】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する手順と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する手順と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する手順と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する手順と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する手順と、
(a)において、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させる手順と、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行う手順と、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の少なくとも一部を残留させる条件下で行う手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項20】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する手順と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する手順と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する手順と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する手順と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する手順と、
(a)において、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させる手順と、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行う手順と、
(b)を、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量の方が、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の脱離量よりも多くなる条件下で行う手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項21】
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する手順と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する手順と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する手順と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する手順と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する手順と、
(a)において、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させる手順と、
(a)を、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分を存在させる条件下で行うか、もしくは、前記凹部の上部および下部の両方に、前記疑似触媒の物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行う手順と、
(b)を、前記凹部の下部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量の方が、前記凹部の上部への前記疑似触媒の物理吸着成分の残留量よりも多くなる条件下で行う手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法、基板処理方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する基板処理工程が行われる場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/045099号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板の表面に形成された凹部内の膜による埋め込み特性を向上させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)処理室内の基板に対して疑似触媒を供給する工程と、
(b)前記処理室内に残留する前記疑似触媒を排出する工程と、
(c)前記処理室内の前記基板に対して原料を供給する工程と、
(d)前記処理室内に残留する前記原料を排出する工程と、
を含むサイクルを所定回数行い、前記基板の表面に形成された凹部内を埋め込むように膜を形成する工程を有し、
(a)では、前記疑似触媒の前記基板の表面への化学吸着が不飽和となる条件下で前記疑似触媒を前記基板の表面へ吸着させる技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、基板の表面に形成された凹部内の膜による埋め込み特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置における縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を縦断面図で示す図である。
図2】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置における縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を図1のA-A線断面図で示す図である。
図3】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラの概略構成図であり、コントローラの制御系をブロック図で示す図である。
図4】本開示の一態様における基板処理工程でのガス供給シーケンスを示す図である。
図5】(a)はトリシリルアミンの化学構造式を、(b)はモノクロロトリシリルアミンの化学構造式をそれぞれ示す図である。
図6】(a)は1,3-ジシラプロパンの化学構造式を、(b)は1,4-ジシラブタンの化学構造式を、(c)は1,3-ジシラブタンの化学構造式を、(d)は1,3,5-トリシラペンタンの化学構造式を、(e)は1,3,5-トリシラシクロヘキサンの化学構造式を、(f)は1,3-ジシラシクロブタンの化学構造式をそれぞれ示す図である。
図7】(a)は処理室内のウエハに対して疑似触媒を供給した後のウエハの表面における断面部分拡大図であり、(b)は処理室内に残留する疑似触媒を排出した後のウエハの表面における断面部分拡大図であり、(c)は処理室内のウエハに対して原料を供給した後のウエハの表面における断面部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、図1図4を用いて説明する。
【0009】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は加熱機構(温度調整部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0010】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の筒中空部には、処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0011】
処理室201内には、ノズル249a,249bが、反応管203の下部側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a,249bには、ガス供給管232a,232bがそれぞれ接続されている。
【0012】
ガス供給管232a,232bには、上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a,241bおよび開閉弁であるバルブ243a,243bがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a,232bのバルブ243a,243bよりも下流側には、ガス供給管232c~232fがそれぞれ接続されている。ガス供給管232c~232fには、上流側から順に、MFC241c~241fおよびバルブ243c~243fがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232fは、例えばSUS(ステンレス鋼)等の金属材料により構成される。
【0013】
図2に示すように、ノズル249a,249bは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a,249bは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。ノズル249a,249bの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a,250bがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の中心を向くようにそれぞれ開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。ノズル249a,249bは、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成されている。
【0014】
ガス供給管232aからは、ウエハ200上に形成される膜を構成する主元素であるシリコン(Si)を含む第1原料(第1原料ガス)が、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。原料ガスとは、気体状態の原料、例えば、常温常圧下で液体状態である原料を気化することで得られるガスや、常温常圧下で気体状態である原料等のことである。第1原料ガスとしては、例えば、Siと窒素(N)との化学結合(Si-N結合)を含み、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等のアルキル基非含有のガスであるトリシリルアミン(N(SiH、略称:TSA)ガスを用いることができる。図5(a)に化学構造式を示すように、TSAは、Si-N結合およびSiと水素(H)との化学結合(Si-H結合)を含む物質であり、1分子中に3つのSi-N結合と、9つのSi-H結合と、を含んでいる。TSAは、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン非含有の原料でもある。TSAにおける1つのN(中心元素)には、3つのSiが結合している。TSAは、Siソース、Nソースとしても作用する。
【0015】
ガス供給管232bからは、疑似触媒(疑似触媒ガス)が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。疑似触媒ガスとしては、例えば、ホウ素(B)、および、ハロゲンとしてのClを含むハロボランの一種であるトリクロロボラン(BCl)ガスを用いることができる。BClガスは、後述する基板処理工程において、ウエハ200上への膜の形成を促進させる触媒的な作用を発揮する。ここで、「触媒」とは、化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応の速度を変化させる物質のことである。本態様の反応系におけるBClガスは、反応の速度等を変化させる触媒的な作用を有するが、それ自身が化学反応の前後で変化する場合がある。例えば、BClガスは、TSAガスと反応する際に、分子構造の一部が分解し、それ自身が化学反応の前後で変化する場合がある。すなわち、本態様の反応系におけるBClガスは、触媒的な作用を有するが、厳密には「触媒」ではない。このように、「触媒」のように作用するが、それ自身は化学反応の前後で変化する物質を、本明細書では、「疑似触媒」と称する。
【0016】
ガス供給管232cからは、ウエハ200上に形成される膜を構成する主元素であるSiを含む第2原料(第2原料ガス)が、MFC241c、バルブ243c、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。第2原料ガスとしては、例えば、Siと炭素(C)との化学結合(Si-C結合)を含み、ハロゲン非含有のガスである1,4-ジシラブタン(SiHCHCHSiH、略称:1,4-DSB)ガスを用いることができる。図6(b)に化学構造式を示すように、1,4-DSBは、Si-C結合、Si-H結合、および、CとHとの化学結合(C-H結合)等を含む物質であり、1分子中に2つのSi-C結合と、6つのSi-H結合と、4つのC-H結合と、を含んでいる。1,4-DSBは、アルキレン基としてのエチレン基(C)を含み、後述するアルキル基非含有の原料でもある。1,4-DSBにおけるCが有する4つの結合手のうち、1つはSi-C結合を構成しており、2つはC-H結合を構成している。本明細書では、1,4-DSBのことを、単にDSBとも称する。DSBは、Siソース、Cソースとして作用する。
【0017】
ガス供給管232dからは、反応体(反応ガス)として、例えば、酸素(O)含有ガスが、MFC241d、バルブ243d、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。O含有ガスは、酸化剤(酸化ガス)、すなわち、Oソースとして作用する。O含有ガスとしては、例えば、酸素(O)ガスを用いることができる。
【0018】
ガス供給管232e,232fからは、不活性ガスとしての窒素(N)ガスが、それぞれMFC241e,241f、バルブ243e,243f、ガス供給管232a,232b、ノズル249a,249bを介して処理室201内へ供給される。Nガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0019】
主に、ガス供給管232a,232c、MFC241a,241c、バルブ243a,243cにより、原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、疑似触媒供給系が構成される。主に、ガス供給管232d、MFC241d、バルブ243dにより、反応体供給系が構成される。主に、ガス供給管232e,232f、MFC241e,241f、バルブ243e,243fにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0020】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243fやMFC241a~241f等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232fのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232f内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243fの開閉動作やMFC241a~241fによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232f等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0021】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排出(排気)する排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、圧力センサ245、APCバルブ244により、排出系(排気系)が構成される。真空ポンプ246を排出系に含めて考えてもよい。
【0022】
反応管203の下方には、反応管203の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、反応管203の下端と当接するシール部材としてのOリング220が設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、例えばSUS等の金属材料により構成され、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0023】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が水平姿勢で多段に支持されている。
【0024】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0025】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0026】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する成膜処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する成膜処理における各手順をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることが出来るように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0027】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241f、バルブ243a~243f、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。
【0028】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241fによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243fの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作等を制御するように構成されている。
【0029】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリ等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0030】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200上にシリコン窒化膜(SiN膜)を形成する基板処理シーケンス例、すなわち成膜シーケンス例について、図4を用いて説明する。なお、本態様では、ウエハ200として、その表面にトレンチやホール等の凹部が形成された基板を用いる例について説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0031】
図4に示す基板処理シーケンスでは、
処理室201内のウエハ200に対して疑似触媒としてBClガスを供給するステップAと、
処理室201内に残留するBClガスを排出するステップBと、
処理室201内のウエハ200に対して原料としてTSAガスを供給するステップCと、
処理室201内に残留するTSAガスを排出するステップDと、
を含むサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行い、ウエハ200の表面に形成された凹部内を埋め込むように、膜として、SiN膜を形成するステップを有し、
ステップAでは、BClのウエハ200の表面への化学吸着が不飽和となる条件下でBClをウエハ200の表面へ吸着させる。
【0032】
本明細書では、図4に示すガス供給シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例や他の態様の説明においても同様の表記を用いることとする。
【0033】
(BCl→P→TSA→P)×n ⇒ SiN
【0034】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0035】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)される。その後、図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220を介して反応管203の下端をシールした状態となる。
【0036】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される(圧力調整)。また、処理室201内のウエハ200が所望の温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される(温度調整)。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。真空ポンプ246の稼働、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0037】
(成膜ステップ)
その後、以下のステップA~Dを順次実施する。
【0038】
[ステップA]
このステップでは、処理室201内のウエハ200に対してBClガスを供給する。具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へBClガスを流す。BClガスは、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき、ウエハ200に対してBClガスが供給される。このときバルブ243e,243fを開き、ガス供給管232e,232f内へNガスを流すようにしてもよい。
【0039】
本ステップでは、BClのウエハ200の表面への化学吸着が不飽和となる条件下でBClをウエハ200の表面へ吸着させるように、ウエハ200に対してBClガスを供給する。このような条件下でウエハ200に対してBClガスを供給することにより、ウエハ200の最表面へのBClの化学吸着を飽和させることなく、ウエハ200の最表面にBClを吸着させることが可能となる。その結果、図7(a)に示すように、ウエハ200上、すなわち、ウエハ200上に形成された凹部内等に、第1層(初期層)として、BClの吸着成分を含む層、すなわち、BおよびClを含む層を形成することが可能となる。なお、このとき、更に、処理室201内におけるBClガスの気相中での分解(気相分解)、すなわち、熱分解を抑制可能な条件下で、BClガスを供給するのが好ましい。これにより、後述する各条件、各吸着状態を実現することが容易となる。
【0040】
図7(a)において、〇印はBClの物理吸着成分を、●印はBClの化学吸着成分をそれぞれ表している。BClの物理吸着成分とは、ウエハ200上に物理吸着したBClのことである。BClの化学吸着成分とは、BClに含まれるBがウエハ200上に化学吸着することで生成された物質のことである。BClに含まれるBがウエハ200の表面に化学吸着する際、BClに含まれるBに結合するClの大部分は維持されるが、Clの一部は脱離することとなる。BClの化学吸着成分の吸着状態は、BClの物理吸着成分の吸着状態と比べて安定であり、後述するステップBを行った際においてBClの物理吸着成分よりもウエハ200の表面から脱離しにくい吸着状態となる。
【0041】
ウエハ200の表面に吸着したこれらの物質(BClの物理吸着成分、化学吸着成分)は、後述するステップCにおいて、ウエハ200の表面上で成膜反応(後述する第2層の形成反応)を進行させる疑似触媒として作用する。以下、疑似触媒として作用するこれらの物質を、便宜上、BCl(xは1~3)とも称する。また、疑似触媒として作用する第1層を、疑似触媒層とも称する。
【0042】
上述したように、本ステップでは、BClのウエハ200の表面への化学吸着が不飽和となる条件下でBClをウエハ200の表面へ吸着させる。本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、図7(a)に示すように、少なくとも物理吸着成分を含むこととなる。なお、この図に示すように、本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、物理吸着成分および化学吸着成分の両方を含むことがある。また、条件によっては、本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、化学吸着成分を含まず、物理吸着成分を含むことがある。
【0043】
なお、本ステップを、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部の両方に、BClの物理吸着成分を存在させる条件下で行うことができる。この場合、本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部のそれぞれにおいて、少なくとも物理吸着成分を含むこととなる。
【0044】
また、本ステップを、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部の両方に、BClの物理吸着成分および化学吸着成分の両方を存在させる条件下で行うことができる。この場合、本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部のそれぞれにおいて、物理吸着成分および化学吸着成分の両方を含むこととなる。
【0045】
また、本ステップを、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部の両方に、BClの化学吸着成分を存在させず、BClの物理吸着成分を存在させる条件下で行うことができる。この場合、本ステップでのBClのウエハ200の表面への吸着成分は、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部および下部のそれぞれにおいて、化学吸着成分を含まず、物理吸着成分を含むこととなる。
【0046】
また、本ステップでは、ウエハ200の表面へのBClの吸着反応が反応律速となる条件下で、ウエハ200に対してBClガスを供給することができる。また、本ステップでは、処理室201内にBClガスが単独で存在した場合に成膜が進行しない条件下で、ウエハ200に対してBClガスを供給することができる。これらの場合、例えば、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部等でのBClガスの過剰な消費を抑制し、凹部の下部に対してBClガスを確実に供給することが可能となる。結果として、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部から下部にわたり、あますとこなく、第1層を形成することが可能となる。
【0047】
本ステップにおける処理条件としては、
BClガス供給流量:1~5000sccm、好ましくは5~500sccm
ガス供給流量(各ガス供給管):0~10000sccm
各ガス供給時間:1~60秒、好ましくは1~30秒
処理温度:200~500℃、好ましくは300~450℃
処理圧力:20~1000Pa、好ましくは30~500Pa
が例示される。
【0048】
なお、本明細書における「200~500℃」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「200~500℃」とは「200℃以上500℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。
【0049】
このような処理条件範囲内で各処理条件を適宜調整することで、上述の各条件を実現することができ、上述のBClの凹部内への各吸着状態を実現することが可能となる。
【0050】
なお、処理温度が200℃未満となると、BClがウエハ200の表面に吸着しにくくなることがあり、成膜レートが低下する場合がある。処理温度を200℃以上の温度とすることで、これを解消することが可能となる。処理温度を300℃以上の温度とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0051】
処理温度が500℃を超えると、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部等でBClガスが過剰に消費され、凹部の下部に対してBClガスが供給されにくくなる場合がある。この場合、上述のBClの凹部内への各吸着状態を実現することが難しくなる場合がある。処理温度を500℃以下の温度とすることで、これを解消することが可能となる。処理温度を450℃以下の温度とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0052】
処理圧力が20Pa未満となると、BClガスをウエハ200の表面に形成された凹部の下部へ効率的に供給する(到達させる)ことが困難となる場合がある。処理圧力を20Pa以上の圧力とすることで、これを解消することが可能となる。処理圧力を30Pa以上の圧力とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0053】
処理圧力が1000Paを超えると、BClのウエハ200の表面への化学吸着が飽和しやすくなる場合がある。処理圧力を1000Pa以下の圧力とすることで、これを解消することが可能となる。処理圧力を500Pa以下の圧力とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0054】
疑似触媒ガスとしては、BClガスの他、トリフルオロボラン(BF)ガス、トリブロモボラン(BBr)ガス、トリヨードボラン(BI)ガス、トリメチルボラン(B(CH)ガス、トリエチルボラン(B(C)ガス等を用いることができる。
【0055】
不活性ガスとしては、Nガスの他、Arガス、Heガス、Neガス、Xeガス等の希ガスを用いることができる。この点は、後述するステップB~D等においても同様である。
【0056】
[ステップB]
ウエハ200上に第1層が形成された後、バルブ243bを閉じ、処理室201内へのBClガスの供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するBClガス等を処理室201内から排出する。このとき、バルブ243e,243fを開き、処理室201内へNガスを供給する。Nガスはパージガスとして作用する。これらにより、処理室201内に浮遊するBClガスを除去することが可能となる。そしてこれにより、後述するステップCを、処理室201内にBClガスが浮遊していない状態(非浮遊の状態)で行うことが可能となる。
【0057】
本態様では、本ステップを、後述するように、ウエハ200の表面へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部が残留する条件下で行うことができる。例えば、本ステップを、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、この凹部の下部へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を残留させる条件下で行うことができる。また例えば、本ステップを、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部へのBClの物理吸着成分の脱離量の方が、この凹部の下部へのBClの物理吸着成分の脱離量よりも多くなる条件下で行うことができる。
【0058】
このような条件下で本ステップを行うことにより、図7(b)に示すように、ウエハ200の表面へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を残留させることが可能となる。また、ウエハ200の表面に形成された凹部の下部へのBClの物理吸着成分の残留量の方を、この凹部の上部へのBClの物理吸着成分の残留量よりも多くすることが可能となる。
【0059】
本ステップにおける処理条件としては、
ガス供給流量:1~10000sccm
ガス供給時間:1~60秒、好ましくは5~30秒
処理圧力:1~1000Pa、好ましくは30~500Pa、より好ましくは100~500Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップAにおける処理条件と同様とする。
【0060】
このような処理条件範囲内で各処理条件を適宜調整することで、上述の各条件を実現することができ、上述のBClの物理吸着成分の凹部内への残留状態を実現することが可能となる。
【0061】
処理圧力が10Pa未満となると、ウエハ200の表面へBClの物理吸着成分を残留させることが困難となる場合がある。例えば、ウエハ200の表面に形成された凹部の上部へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を脱離させつつ、この凹部の下部へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を残留させることが困難となる場合がある。処理圧力を10Pa以上の圧力とすることで、これを解消することが可能となる。処理圧力を30Pa以上、より好ましくは100Pa以上の圧力とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0062】
処理圧力が1000Paを超えると、処理室201内からのBClガス等の排出が困難となり、後述するステップCにおいて、処理室201内に浮遊するBClガスとTSAガスとの気相反応により、処理室201内に異物が発生する場合がある。処理圧力を1000Pa以下の圧力とすることで、これを解消することが可能となる。処理圧力を500Pa以下の圧力とすることで、これを確実に解消することが可能となる。
【0063】
[ステップC]
このステップでは、処理室201内にBClガスが浮遊していない状態で、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第1層に対してTSAガスを供給する。具体的には、バルブ243a,243e,243fの開閉制御を、ステップAにおけるバルブ243b,243e,243fの開閉制御と同様の手順で行う。TSAガスは、MFC241aにより流量制御され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき、ウエハ200に対してTSAガスが供給される。
【0064】
本ステップにおける処理条件としては、
TSAガス供給流量:1~2000sccm
TSAガス供給時間:1~300秒
処理圧力:1~2000Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップAにおける処理条件と同様とする。
【0065】
上述の条件下でウエハ200に対してTSAガスを供給することにより、第1層に含まれるBClの疑似触媒作用によって疑似触媒反応を生じさせ、これにより、TSAの分子構造の一部を分解させることが可能となる。そして、TSAの分子構造の一部が分解することで生成された物質、例えば、Si-N結合等を含む中間体を、ウエハ200の表面に吸着(化学吸着)させることが可能となる。これにより、図7(c)に示すように、ウエハ200上、すなわち、ウエハ200の表面に形成された凹部内等に、第2層として、SiおよびNを含む層であるシリコン窒化層(SiN層)を形成することが可能となる。図7(c)において、網掛け部は第2層を示している。
【0066】
TSAガスは、図5(a)に示すようにSi-H結合により終端されていることからウエハ200の表面に吸着しにくい特性を有するが、上述のBClの疑似触媒作用を利用することにより、その分子構造の一部が分解し(例えばSi-H結合の一部が切断され)、ウエハ200の表面へ効率的に吸着するようになる。すなわち、第2層の形成は、第1層中に含まれるBClの疑似触媒作用によって進行するものであり、気相反応ではなく表面反応が主体となって進行する。なおこのとき、処理室201内にはBClガスが浮遊していないことから、第2層の形成を、気相反応ではなく表面反応によって進行させることが、確実に可能となる。
【0067】
ここで、上述したように、ステップBでは、ウエハ200の表面へのBClの物理吸着成分の少なくとも一部を残留させるとともに、ウエハ200の表面に形成された凹部の下部へのBClの物理吸着成分の残留量を、この凹部の上部へのBClの物理吸着成分の残留量よりも多くするようにしている。これにより、ウエハ200の表面に形成された凹部の下部において生じさせるBClの疑似触媒作用を、この凹部の上部において生じさせるBClの疑似触媒作用よりも強くすることができる。そしてこれにより、ウエハ200上に形成された凹部の下部において生じさせる第2層の形成反応を、この凹部の上部において生じさせる第2層の形成反応よりも進行させやすくすることができる。結果として、図7(c)に示すように、ウエハ200の表面に形成された凹部の下部に形成される第2層の厚さを、この凹部の上部に形成される第2層の厚さよりも、厚くすることが可能となる。
【0068】
なお、本ステップでは、処理室201内にTSAガスが単独で存在した場合に成膜が進行しない条件下で、ウエハ200に対してTSAガスを供給することができる。このような条件下で本ステップを行うことにより、第2層の形成を、気相反応ではなく表面反応によって進行させることが、より確実に行えるようになる。その結果、ウエハ200上に形成された凹部の下部における第2層の形成レートを、この凹部の上部における第2層の形成レートよりも、より確実に大きくすることが可能となる。
【0069】
なお、上述の条件下では、TSAガスのSi-N結合の少なくとも一部は切断されることなく保持される。そのため、第2層は、SiおよびNを、Si-N結合の形で含む層となる。また、上述の条件下では、第1層に含まれていたBClは、TSAガスとの反応の際に、その大部分が消費される。その結果、第2層に含まれるBClの量は、不純物レベルにまで低下する。第2層は、不純物レベルのBを含むことから、第2層を、Bを含むSiN層と称することもできる。第2層は、Bの他、ClやH等も不純物として含み得る。
【0070】
第1原料としては、TSAガスの他、モノクロロシリルアミン(N(SiHSiHCl)ガス等を用いることができる。図5(b)に、モノクロロシリルアミンの化学構造式を示す。モノクロロシリルアミンは、1分子中に3つのSi-N結合を含み、アルキル基非含有の物質である。図5(a)、図5(b)に示すように、これらの物質は、Si-H結合およびSi-N結合を含む。また、これらの物質は、ウエハ200上に形成されるSiN膜のアッシング耐性、ウェットエッチング耐性、ドライエッチング耐性等(以下、これらを総称して加工耐性ともいう)を低下させる要因となり得る以下の結合、例えば、2つ以上、3つ以上、または全て(4つ)の結合手にCが結合したC同士の結合(以下、この結合を単にC-C結合と称する)、CとOとの化学結合(C-O結合)、Siとアルキル基(R)との化学結合(Si-R結合)、NとHとの化学結合(N-H結合)、NとOとの化学結合(N-O結合)を全く含まない。
【0071】
[ステップD]
ウエハ200上に第2層を形成した後、バルブ243aを閉じ、処理室201内へのTSAガスの供給を停止する。そして、ステップBと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排出する。これらにより、処理室201内に浮遊するTSAガスを除去することが可能となる。そしてこれにより、次のサイクルにおけるステップAを、処理室201内にTSAガスが浮遊していない状態(非浮遊の状態)で行うことが可能となる。
【0072】
本ステップにおける処理条件としては、
ガス供給流量:10~10000sccm
ガス供給時間:1~300秒
処理圧力:0.1~100Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップAにおける処理条件と同様とする。
【0073】
[所定回数実施]
上述したステップA~Dを非同時に、すなわち、同期させることなく行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、ウエハ200の表面に形成された凹部内を埋め込むように、所定組成および所定膜厚のSiN膜を形成することができる。この膜は、SiおよびNをSi-N結合の形で含み、また、加工耐性を低下させる要因となり得る結合を含まないことから、加工耐性に優れた膜となる。
【0074】
上述のサイクルは複数回繰り返すのが好ましい。すなわち、上述のサイクルを1回行うことで形成されるSiN層の厚さを所望の膜厚よりも小さくし、SiN層を積層することで形成されるSiN膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すのが好ましい。上述した理由から、成膜ステップでは、ウエハ200上に形成された凹部の下部におけるSiN層の形成レートの方が、この凹部の上部におけるSiN層の形成レートよりも大きくなる。そのため、上述のサイクルを複数回繰り返すことにより、SiN膜を、ウエハ200の表面に形成された凹部内の下部から上部に向かってボトムアップさせながら形成することが可能となる。結果として、凹部内を埋め込むSiN膜は、ボイドやシームを内包しない埋め込み特性に優れた膜となる。
【0075】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
成膜ステップが終了した後、ガス供給管232e,232fのそれぞれからNガスを処理室201内へ供給し、排気管231より排出する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0076】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、反応管203の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態で、反応管203の下端から反応管203の外部に搬出される(ボートアンロード)。成膜ステップを実施した後のウエハ200は、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0077】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す一つ又は複数の効果が得られる。
【0078】
(a)本態様によれば、ウエハ200上に形成された凹部の下部におけるSiN層の形成レートを、この凹部の上部におけるSiN層の形成レートよりも大きくすることが可能となる。これにより、凹部内においてSiN膜をボトムアップさせながら形成することができ、結果として、凹部内に形成されるSiN膜を、ボイドやシームを内包しない埋め込み特性に優れた膜とすることが可能となる。
【0079】
これは、ステップAにおいて、BClのウエハ200の表面への化学吸着が不飽和となる条件下でBClをウエハ200の表面へ吸着させているためである。仮に、ステップAにおいて、BClのウエハ200の表面への化学吸着が飽和する条件下でBClをウエハ200の表面へ吸着させるようにした場合、ウエハ200の表面に形成された凹部内の大部分の吸着サイトにBClが化学吸着し、凹部の上部および下部を含む全面に均一にBClの化学吸着層が形成されることとなる。BClの化学吸着成分はパージガスによる作用では脱離させることが難しいことから、この場合において、ステップBを行ったとしても、この凹部の上部および下部にBClの化学吸着成分が均一に残留することとなる。これにより、ステップCにおいて、この凹部の下部において生じさせるBClの疑似触媒作用を、この凹部の上部において生じさせるBClの疑似触媒作用よりも強くすることが困難となる。結果として、上述の効果が得られにくくなる。
【0080】
これに対し、本態様によれば、ステップAにおいて、ウエハ200の表面に形成された凹部内へのBClの化学吸着を飽和させないことから、凹部の上部および下部を含む全面に均一にBClの化学吸着層が形成されることはなく、BClが化学吸着しない吸着サイトが保持されることとなり、ステップBにおいて、凹部の上部と下部とで、BClの吸着成分の脱離量すなわち残留量を上述のように変えることができる。これにより、ステップCにおいて、凹部の下部において生じさせるBClの疑似触媒作用を、この凹部の上部において生じさせるBClの疑似触媒作用よりも強くすることが可能となり、上述の効果が適正に得られるようになる。
【0081】
(b)本態様によれば、成膜ステップの他にエッチングステップを追加で行うことなく、ウエハ200の表面に形成された凹部内をSiN膜で埋め込むことが可能となる。すなわち、凹部内への膜の埋め込み処理を含む基板処理の生産性の低下を回避することが可能となる。
【0082】
(c)本態様によれば、ウエハ200上に形成されるSiN膜を、SiおよびNをSi-N結合の形で含み、加工耐性を低下させる要因となり得る結合を含まない、加工耐性に優れた膜とすることが可能となる。
【0083】
(d)上述の効果は、BClガス以外の上述の疑似触媒ガスを用いる場合や、TSAガス以外の上述の第1原料ガスを用いる場合や、Nガス以外の上述の不活性ガスを用いる場合にも、同様に得ることができる。
【0084】
(4)変形例
本態様における基板処理シーケンスは、図4に示す態様に限定されず、以下の変形例のように変更することができる。また、これらの変形例は任意に組み合わせることができる。なお、特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の基板処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とする。
【0085】
(変形例1)
以下に示す成膜シーケンスのように、ステップA~Dに加え、処理室201内のウエハ200に対して第2原料としてDSBガスを供給するステップEと、処理室201内に残留するDSBガスを排出するステップFと、を更に有するサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行い、ウエハ200の表面に形成された凹部内を埋め込むように、膜として、シリコン炭窒化膜(SiCN膜)を形成するようにしてもよい。
【0086】
(BCl→P→TSA→P→DSB→P)×n ⇒ SiCN
【0087】
ステップEでは、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第2層に対してDSBガスを供給する。具体的には、バルブ243c,243e,243fの開閉制御を、ステップAにおけるバルブ243b,243e,243fの開閉制御と同様の手順で行う。DSBガスは、MFC241cにより流量制御され、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき、ウエハ200に対してDSBガスが供給される。ステップEにおける処理条件は、例えば、ステップCにおける処理条件と同様とすることができる。このような処理条件下でウエハ200に対してDSBガスを供給することにより、第2層に含まれるBClの疑似触媒作用によって疑似触媒反応を生じさせ、これにより、DSBの分子構造の一部が分解することで生成された物質、例えば、Si-C結合等を含む中間体を、第2層上に吸着(化学吸着)させることが可能となる。これにより、ウエハ200上に形成された凹部内等に、第3層として、Si、C、およびNを含む層であるシリコン炭窒化層(SiCN層)を形成することが可能になる。
【0088】
第2原料としては、DSBガスの他、1,3-ジシラプロパン(SiHCHSiH、略称:1,3-DSP)ガス、1,3-ジシラブタン(SiHCHSiHCH、略称:1,3-DSB)ガス、1,3,5-トリシラペンタン(SiHCHSiHCHSiH、略称:1,3,5-TSP)ガス、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(SiHCHSiHCHSiHCH、略称:1,3,5-TSCH)ガス、1,3-ジシラシクロブタン(SiHCHSiHCH、略称:1,3-DSCB)ガス、トリシリルメタン((SiHCH)ガス等を用いることができる。図6(a)に1,3-DSPの化学構造式を、図6(c)に1,3-DSBの化学構造式を、図6(d)に1,3,5-TSPの化学構造式を、図6(e)に1,3,5-TSCHの化学構造式を、図6(f)に1,3-DSCBの化学構造式をそれぞれ示す。これらの物質は、Si-H結合およびSi-C結合を含み、ハロゲンを全く含まない。また、これらの物質は、ウエハ200上に形成されるSiCN膜の加工耐性を低下させる要因となり得るC-C結合、C-O結合、Si-R結合、N-H結合、N-O結合を、ほとんど、或いは、全く含まない。
【0089】
ステップFにおける処理手順、処理条件は、ステップDにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。ステップFにより、処理室201内に浮遊するDSBガスを除去することが可能となる。
【0090】
本変形例においても、図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。また、本変形例によれば、ウエハ200上に形成されるSiCN膜を、SiおよびNをSi-N結合の形で含み、SiおよびCをSi-C結合の形で含み、加工耐性を低下させる要因となり得る結合を含まない、加工耐性に優れた膜とすることが可能となる。
【0091】
(変形例2)
以下に示す成膜シーケンスのように、ステップA~Dに加え、処理室201内のウエハ200に対して反応体としてOガスを供給するステップGと、処理室201内に残留するOガスを排出するステップHと、を更に有するサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行い、ウエハ200の表面に形成された凹部内を埋め込むように、膜として、シリコン酸窒化膜(SiON膜)を形成するようにしてもよい。
【0092】
(BCl→P→TSA→P→O→P)×n ⇒ SiON
【0093】
ステップGでは、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第2層に対してOガスを供給する。具体的には、バルブ243d,243e,243fの開閉制御を、ステップAにおけるバルブ243b,243e,243fの開閉制御と同様の手順で行う。Oガスは、MFC241dにより流量制御され、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき、ウエハ200に対してOガスが供給される。ステップGにおける処理条件は、例えば、ステップCにおける処理条件と同様とすることができる。このような処理条件下でウエハ200に対してOガスを供給することにより、第2層の少なくとも一部を酸化(改質)させることが可能となる。これにより、ウエハ200上に形成された凹部内等に、第3層として、Si、O、およびNを含む層であるシリコン酸窒化層(SiON層)を形成することが可能となる。
【0094】
反応体(O含有ガス)としては、Oガスの他、亜酸化窒素(NO)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO)ガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO)ガス、オゾン(O)ガス、過酸化水素(H)ガス、水蒸気(HOガス)、Oガス+水素(H)ガス等を用いることができる。
【0095】
ステップHにおける処理手順、処理条件は、ステップDにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。ステップHにより、処理室201内に浮遊するOガスを除去することが可能となる。
【0096】
本変形例においても、図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。
【0097】
(変形例3)
成膜ステップを行った後、ヒータ207の温度を適正に調整し、後処理として、ウエハ200の表面の凹部内を埋め込むように形成された膜を熱処理(アニール処理)するようにしてもよい。
【0098】
本ステップにおける処理条件としては、
ガス供給流量(各ガス供給管):0~20000sccm
処理温度:600~1000℃
処理圧力:0.1~100000Pa
処理時間:1~300分
が例示される。
【0099】
本変形例においても、図4に示す成膜シーケンスと同様の効果が得られる。また、アニール処理を行うことにより、ウエハ200上に形成された膜中に含まれるH等の不純物を、膜中から脱離させることが可能となる。また、ウエハ200上に形成された膜を緻密化させ、この膜の加工耐性をさらに高めることが可能となる。また、ウエハ200上に形成された膜が大気中に暴露された際等における膜の誘電率増加を回避することも可能となる。
【0100】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0101】
例えば、以下に示す成膜シーケンスにより、ウエハ200の表面に形成された凹部内を埋め込むように、シリコン炭化膜(SiC膜)、SiCN膜、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を形成してもよい。これらの場合においても、図4を用いて説明した上述の態様や上述の変形例と同様の効果が得られる。
【0102】
(BCl→P→DSB→P)×n ⇒ SiC
(BCl→P→DSB→P→TSA→P)×n ⇒ SiCN
(BCl→P→DSB→P→O→P)×n ⇒ SiOC
(BCl→P→TSA→P→DSB→P→O→P)×n ⇒ SiOCN
(BCl→P→DSB→P→TSA→P→O→P)×n ⇒ SiOCN
【0103】
基板処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、基板処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、基板処理を迅速に開始できるようになる。
【0104】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0105】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0106】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例と同様な処理手順、処理条件にて成膜処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0107】
また、上述の態様や変形例等は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例等の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【符号の説明】
【0108】
200 ウエハ(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7