(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】生体電極、生体電極の製造方法、及び生体信号の測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/25 20210101AFI20220929BHJP
A61B 5/265 20210101ALI20220929BHJP
A61B 5/259 20210101ALI20220929BHJP
【FI】
A61B5/25 ZDM
A61B5/265
A61B5/259
(21)【出願番号】P 2022527235
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048074
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2021040742
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】池田 譲
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 修
(72)【発明者】
【氏名】野中 汐里
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸士
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2546264(JP,Y2)
【文献】特開2021-003591(JP,A)
【文献】特開2019-180467(JP,A)
【文献】特表平07-500994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体電極であって、多孔質の伸縮性基材と、珪素を含有する粘着性の導電膜と、導電路とを有し、前記導電膜が前記多孔質の伸縮性基材の片面に形成されており、前記導電路が前記導電膜に接続し、かつ前記伸縮性基材を貫通し反対側に露出しているか、前記伸縮性基材の側面に露出して
おり、
前記珪素を含有する粘着性の導電膜が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩から選ばれるイオン性材料(A)を含有している
ものであることを特徴とする生体電極。
【請求項2】
前記多孔質の伸縮性基材が不織布又はメンブレン膜であることを特徴とする請求項1に記載の生体電極。
【請求項3】
前記イオン性材料(A)が下記一般式(1)-1から(1)-4で示される部分構造を有するものであることを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載の生体電極。
【化1】
(一般式(1)-1中、Rf
1及びRf
2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1及びRf
2が酸素原子である場合、Rf
1及びRf
2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf
3及びRf
4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1からRf
4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。一般式(1)-2、一般式(1)-3及び一般式(1)-4中、Rf
5、Rf
6及びRf
7は、それぞれ、フッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。一般式(1)-1から一般式(1)-4中、M
+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、
及びカリウムイオ
ンから選択されるイオンである。一般式(1)-2中、mは、1~4の整数である。)
【請求項4】
前記イオン性材料(A)が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上を有するイオン性ポリマーであることを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の生体電極。
【化2】
(一般式(2)中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、R
12、及びR
14は、それぞれ独立に、単結合、又は炭素数1~13の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エステル基、エーテル基、又はこれらの両方を有していてもよい。R
7は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子、及び-NR
19-基のいずれかである。R
19は水素原子、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、及びフェニル基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。YはR
4とともに環を形成してもよい。Rf
1’及びRf
5’は、それぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、及びa7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M
+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、
及びカリウムイオ
ンから選択されるイオンである。)
【請求項5】
前記イオン性材料(A)が、前記アンモニウム塩を構成するアンモニウムイオンとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることを特徴とする請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載の生体電極。
【化3】
(一般式(3)中、R
101d、R
101e、R
101f及びR
101gはそれぞれ、水素原子、炭素数1~15の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は一般式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【請求項6】
前記(A)成分に加えて、シリコーン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の(A)成分以外の粘着性の樹脂(B)成分を含有するものであることを特徴とする請求項
1から請求項
5のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項7】
前記(B)成分として、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものであることを特徴とする請求項
6に記載の生体電極。
【請求項8】
前記(B)成分として、更にR
xSiO
(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO
2単位を有するシリコーン樹脂を含有するものであることを特徴とする請求項
6又は請求項
7に記載の生体電極。
【請求項9】
(C)成分として、カーボン粉、金属粉、珪素粉、及びチタン酸リチウム粉から選択される1つ以上をさらに含有するものであることを特徴とする請求項
1から請求項
8のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項10】
前記カーボン粉が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項
9に記載の生体電極。
【請求項11】
前記導電路が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項
10のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項12】
前記導電路が、スナップ形状であることを特徴とする請求項1から請求項
11のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項13】
前記伸縮性基材と前記導電膜を合わせた膜厚が、1mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項
12のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項14】
前記伸縮性基材と前記導電膜を合わせた膜厚が、500μm以下であることを特徴とする請求項
13に記載の生体電極。
【請求項15】
前記伸縮性基材が粘着層を有しているものであることを特徴とする請求項1から請求項
14のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項16】
前記導電膜の上をリリースライナーで覆ったものであることを特徴とする請求項1から請求項
15のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項17】
前記リリースライナーが、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリロニトリル、セロファン、及び紙から選ばれ、前記フッ素樹脂以外はフッ素系の剥離剤又はシリコーン/フッ素系の剥離剤が塗布されているものであることを特徴とする請求項
16に記載の生体電極。
【請求項18】
多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路を作製するか、伸縮性基材の側面に露出するように前記伸縮性基材上に導電路を作製し、肌に貼り付ける側の導電路に接続されるように珪素を含有する粘着性の導電膜を形成することを特徴とする請求項1から請求項
17のいずれか一項に記載の生体電極の製造方法。
【請求項19】
前記多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路または前記伸縮性基材の側面に露出する前記伸縮性基材上の導電路の肌に貼り付ける側に前記珪素を含有する粘着性の導電膜を、リリースライナー上に形成した前記珪素を含有する粘着性の導電膜を転写することにより形成するか、導電路上に直接印刷することによって形成することを特徴とする請求項
18に記載の生体電極の製造方法。
【請求項20】
リリースライナー上に珪素を含有する粘着性の導電膜材料を塗布し、硬化することを特徴とする請求項
18又は請求項
19に記載の生体電極の製造方法。
【請求項21】
請求項1から請求項
17のいずれか一項に記載の生体電極を肌に貼り付け、入浴もしくはシャワー後、又は入浴もしくはシャワー中に生体信号を測定することを特徴とする生体信号の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚に接触し、皮膚からの電気信号によって心拍数等の体の状態を検知することができる生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。特に、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延によって、深刻な医療負荷がかかっており、ウイルスに感染していない人の在宅医療の必要性とこれの加速が叫ばれている。
【0003】
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが販売されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、シャワーや入浴や発汗等のある日常生活において長時間使用した場合にも生体信号を採取できること、痒みや肌アレルギーがないことや快適性が求められる。また、これらに加えて、装着感がないほどに軽量かつ薄膜であること、低コストかつ生産性高く製造できることも求められている。
【0004】
Apple Watchに代表される時計型デバイスや、Radarを使った非接触型のセンシングによって心電図の計測が可能になってきている。しかしながら、医療向けの高精度な心電図の測定には体の数カ所に生体電極を貼り付けるタイプの心電計が依然として必要である。
【0005】
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料の、例えば特許文献1に記載の水と電解質を含む親水性ゲルを用いた生体電極が広く用いられている。親水性ゲルは、水を保持するための親水性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を親水性ゲルに接した塩化銀の還元反応によって電気信号に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT-PSS(Poly-3,4-ethylenedioxythiophene-Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、上記の水と電解質を含む親水性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまう問題、シャワーや入浴で水に接するとゲル(導電ゲル)が膨らんで肌から剥がれてしまうという問題があり、耐水性を上げるためにゲルの保護膜を取り付けるなどの工夫がされている(特許文献3)。耐水性を上げるためにゲルに接する基材に耐水性基材を用いると皮膚呼吸が出来なくなってしまい長期貼り付け中に痒みが生じてしまうという問題、ゲルや基材の枚数が増え、これを複合したときの膜厚が厚くなるために肌に装着したときの違和感が高くなり、服との摩擦で剥がれやすくなるという様々な問題があり、長期の装着が難しかった。
【0007】
一方、PEDOT-PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題、導電ポリマー含有の服を連続して何日も着ていることによる不快感の増大、入浴中は服を脱ぐ必要があるため入浴中の計測が不可能なことや、洗濯中に繊維から導電ポリマーが剥がれ落ちる問題があった。
【0008】
導電性シリコーンを用いた乾式生体電極が提案されている(特許文献4)。ここで、本来絶縁性のシリコーンゴム中に界面活性剤および洗浄剤と定義されるスルホン酸のアルカリ金属塩がペンダントされたシリコーン化合物が添加されることによってイオン導電性が向上し、生体信号を感知するものである。
【0009】
前述の特許文献4に記載の生体電極は、粘着性を有するものではない。体が動いても正確に生体信号をとれるようにするためには、生体電極が常に肌に接している必要がある。そのため、生体電極には粘着性が必要である。前述導電ゲルの中には粘着性が無いものもあり、導電ゲルの周辺に取り付けた粘着層によって粘着性を確保している場合もあるが、より安定な生体信号を得るためには導電層自体に粘着性を有している必要がある。
【0010】
シリコーン粘着剤にイオン性のポリマーを混合した生体電極材料が提案されている(特許文献5、6)。これらのものは、肌アレルギー性が低く、撥水性が高く、痒みや剥がした後の肌の赤みの発生を抑える効果のあるシリコーン粘着剤に、高いイオン導電性と肌を通過しないイオン性のポリマーを組み合わせることによって、毎日の入浴や運動を含む長期貼り付けにおいても剥がれることが無く、安定的な生体信号を得ることが出来るものであるが、更なる長期貼り付け装着における快適性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2013/039151号
【文献】特開2015-100673号公報
【文献】特開2000-271100号公報
【文献】特表2018-515279号公報
【文献】特開2018-126496号公報
【文献】特開2018-130533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、生体信号の感度が高く、生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても、長期間肌に貼り付けても生体信号の感度が大幅に低下することがなく、肌の痒み、赤斑、かぶれなどがなく快適な生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、生体電極であって、多孔質の伸縮性基材と、珪素を含有する粘着性の導電膜と、導電路とを有し、前記導電膜が前記多孔質の伸縮性基材の片面に形成されており、前記導電路が前記導電膜に接続し、かつ前記伸縮性基材を貫通し反対側に露出しているか、前記伸縮性基材の側面に露出している生体電極を提供する。
【0014】
このような生体電極であれば、生体信号の感度が高く、生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても、長期間肌に貼り付けても生体信号の感度が大幅に低下することがなく、肌の痒み、赤斑、かぶれなどがなく快適な生体電極となる。
【0015】
また、本発明では前記多孔質の伸縮性基材が不織布又はメンブレン膜であることが好ましい。
【0016】
このような伸縮性基材であれば、肌に長期間貼り付けても皮膚呼吸が可能な生体電極とすることができる。
【0017】
また、本発明では前記珪素を含有する粘着性の導電膜が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれるイオン性材料(A)を含有しているものが好ましい。
【0018】
このような粘着性の導電膜であれば、常に肌に密着し、水に浸けた状態でも吸水によって膨潤することが無く、長時間粘着性をキープして安定的な電気信号を得ることができる。
【0019】
この場合、前記イオン性材料(A)が下記一般式(1)-1から(1)-4で示される部分構造を有するものであることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)-1中、Rf
1及びRf
2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1及びRf
2が酸素原子である場合、Rf
1及びRf
2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf
3及びRf
4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1からRf
4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。一般式(1)-2、一般式(1)-3及び一般式(1)-4中、Rf
5、Rf
6及びRf
7は、それぞれ、フッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。一般式(1)-1から一般式(1)-4中、M
+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。一般式(1)-2中、mは、1~4の整数である。)
【0020】
イオン性材料(A)がこのような部分構造を有するものであれば、導電性及び生体適合性により優れた生体電極とすることができる。
【0021】
また、前記イオン性材料(A)が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上を有するイオン性ポリマーであることがより好ましい。
【化2】
(一般式(2)中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、R
12、及びR
14は、それぞれ独立に、単結合、又は炭素数1~13の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エステル基、エーテル基、又はこれらの両方を有していてもよい。R
7は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子、及び-NR
19-基のいずれかである。R
19は水素原子、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、及びフェニル基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。YはR
4とともに環を形成してもよい。Rf
1’及びRf
5’は、それぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、及びa7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M
+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。)
【0022】
イオン性材料(A)がこのような構造を有するものであれば、導電性及び生体適合性により一層優れた生体電極とすることができる。
【0023】
また、本発明では前記イオン性材料(A)が、前記アンモニウム塩を構成するアンモニウムイオンとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることが好ましい。
【化3】
(一般式(3)中、R
101d、R
101e、R
101f及びR
101gはそれぞれ、水素原子、炭素数1~15の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は一般式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0024】
このようなアンモニウムイオンを含有するイオン性材料(A)を含むものであれば、導電性及び生体適合性に更に優れた生体電極とすることができる。
【0025】
また、本発明では前記(A)成分に加えて、シリコーン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の(A)成分以外の粘着性の樹脂(B)成分を含有するものであることが好ましい。
【0026】
このような樹脂(B)は、(A)イオン性材料(塩)と相溶して塩の溶出を防ぎ、金属粉、炭素粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉等の導電性向上剤を保持し、撥水性付与のためのシリコーンを含有し、粘着性を発現させることができる。
【0027】
この時、前記(B)成分として、アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するものであることが好ましい。
【0028】
このような樹脂(B)は、イオン性材料(A)と相溶して塩の溶出を防ぐことができる。
【0029】
この時、前記(B)成分として、更にRxSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂を含有するものであることが好ましい。
【0030】
このような樹脂(B)を用いても、イオン性材料(A)と相溶して塩の溶出を防ぐことができる。
【0031】
また、本発明では(C)成分として、カーボン粉、金属粉、珪素粉、及びチタン酸リチウム粉から選択される1つ以上をさらに含有するものであることが好ましい。
【0032】
カーボン粉及び金属粉は、導電性向上剤として働き、より優れた導電性を付与でき、珪素粉やチタン酸リチウム粉は、イオン受容の感度を更に高めることができるので、より好適な生体電極となる。
【0033】
この時、前記カーボン粉が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることが好ましい。
【0034】
このようなカーボン粉を含ませることにより、より高い導電性を提供できる。
【0035】
また、本発明では前記導電路が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【0036】
本発明の生体電極では、このような導電路を好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明では前記導電路が、スナップ形状であることが好ましい。
【0038】
このような導電路であれば、生体信号を受信し、それを処理するためのデバイスとの接合を簡便に行うことができる。
【0039】
また、本発明では前記伸縮性基材と前記導電膜を合わせた膜厚が、1mm以下であることが好ましい。
【0040】
このような膜厚であれば、薄膜であり、装着感が少なく快適である。
【0041】
この時、前記伸縮性基材と前記導電膜を合わせた膜厚が、500μm以下であることがより好ましい。
【0042】
このような膜厚であれば、より快適である。
【0043】
また、本発明では前記伸縮性基材が粘着層を有しているものであることが好ましい。
【0044】
このような伸縮性基材であれば、生体電極の粘着力を増大させることができる。
【0045】
また、本発明では、前記導電膜の上をリリースライナーで覆ったものであることが好ましい。
【0046】
このような生体電極を好適に用いることができる。
【0047】
この時、前記リリースライナーが、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリロニトリル、セロファン、及び紙から選ばれ、前記フッ素樹脂以外はフッ素系の剥離剤又はシリコーン/フッ素系の剥離剤が塗布されているものであることが好ましい。
【0048】
本発明の生体電極に用いられるリリースライナーが上記のようなものであれば、導電膜からの剥離が容易となる。
【0049】
また、本発明は、多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路を作製するか、伸縮性基材の側面に露出するように前記伸縮性基材上に導電路を作製し、肌に貼り付ける側の導電路に接続されるように珪素を含有する粘着性の導電膜を形成する上記生体電極の製造方法を提供する。
【0050】
このような製造方法によれば、生体信号の感度が高く、生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても、長期間肌に貼り付けても生体信号の感度が大幅に低下することがなく、肌の痒み、赤斑、かぶれなどがなく快適な生体電極を、低コストで容易に製造できる。
【0051】
この時、前記多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路または前記伸縮性基材の側面に露出する前記伸縮性基材上の導電路の肌に貼り付ける側に前記珪素を含有する粘着性の導電膜を、リリースライナー上に形成した前記珪素を含有する粘着性の導電膜を転写することにより形成するか、導電路上に直接印刷することによって形成することができる。
【0052】
このような製造方法によれば、より簡便に本発明の生体電極を製造できる。
【0053】
この時、リリースライナー上に珪素を含有する粘着性の導電膜材料を塗布し、硬化することが好ましい。
【0054】
このような製造方法によれば、さらに簡便に本発明の生体電極を製造できる。
【0055】
また、本発明では上記生体電極を肌に貼り付け、入浴もしくはシャワー後、又は入浴もしくはシャワー中に生体信号を測定する生体信号の測定方法を提供する。
【0056】
本発明の生体電極は、撥水性を有しているため、このような生体信号の測定方法を行うことができる。
【発明の効果】
【0057】
以上のように、本発明の生体電極、その製造方法及び生体信号の測定方法であれば、生体信号の感度が高く、生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても、長期間肌に貼り付けても生体信号の感度が大幅に低下することがなく、肌の痒み、赤斑、かぶれがなく快適な生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、上下スナップが導電膜の中心に配置されている。
【
図2】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略鳥瞰図である。
【
図4】本発明の生体電極の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の生体電極の製造方法の他の一例を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の生体電極の製造方法の更に他の一例を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の生体電極の製造方法の更に他の一例を示す概略断面図である。
【
図8】末端がメス型コネクタにつながる引き出し配線の生体電極を示す概略断面図である。
【
図9】末端がオス型コネクタにつながる引き出し配線の生体電極を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施形態で作製した生体電極の写真である。
【
図11】本発明の実施形態で作製した生体電極の各部品の厚みを示す概略断面図である。
【
図12】本発明の実施形態で作製した生体電極の多孔質膜と導電膜が重なる部分の厚みを示す概略断面図である。
【
図13】本発明の実施形態で作製した生体電極の各部品の直径を示す概略断面図である。
【
図14】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、上下スナップが導電膜の外側に配置されている。
【
図15】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略断面図であり、上下スナップが導電膜の外側に配置されている。
【
図16】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略鳥瞰図で、上下スナップが導電膜の外側に配置されている。
【
図17】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、上部スナップの表面が平坦な形状になっている。
【
図18】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、上下スナップがシリコーン導電膜の外側に配置されており、かつ下部スナップがシリコーン導電膜で覆われている。
【
図19】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略断面図であり、上下スナップがシリコーン導電膜の外側に配置されており、かつ下部スナップがシリコーン導電膜で覆われている。
【
図20】本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略鳥観図であり、上下スナップがシリコーン導電膜の外側に配置されており、かつ下部スナップがシリコーン導電膜で覆われている。
【
図21】本発明の実施形態で作製した生体電極の写真であり、上下スナップがシリコーン導電膜の外側に配置されており、かつ下部スナップがシリコーン導電膜で覆われている。
【
図22】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、上下スナップが導電膜の外側でかつ不織布を貫通して反対側に位置している。
【
図23】本発明の実施形態で作製した
図22で示される生体電極の写真である。
【
図24】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、
図22に示される生体電極の上下スナップが取り付けられていない形態である。
【
図25】本発明の実施形態で作製した
図24で示される生体電極の写真である。
【
図26】本発明の実施形態で作製した
図24で示される生体電極に導電配線とクリップを取り付けた写真である。
【
図27】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、
図24に示される生体電極の導電配線とフィルムを導電繊維に置き換えた形態である。
【
図28】
図14に示される本発明の生体電極の、導電膜と導電配線とフィルムに穴を空けた概略図である。
【
図29】
図14に示される本発明の生体電極の、導電膜と導電配線とフィルムと不織布に穴を空けた概略図である。
【
図30】
図14に示される本発明の生体電極の、導電膜と導電配線とフィルムと粘着層以外の場所の不織布と粘着層に穴を空けた概略図である。
【
図31】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、導電膜に接触している導電配線が不織布を貫通していない形態である。
【
図32】本発明の生体電極を示す概略断面図であり、
図31の導電配線とフィルムを導電繊維に置き換えた形態である。
【
図33】導電膜の上下それぞれをリリースライナーで挟んだシートの写真である。
【
図34】本発明の実施例における生体信号の測定の際の、人体に対する電極及びアースの貼り付け場所を示す図である。
【
図35】本発明の実施例の生体電極を用いて得られる1つの心電図波形である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
上述のように、高感度かつ低ノイズの生体信号を発現するための高導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても生体信号を計測することが出来、長期間肌に貼り付けても肌荒れや痒みがなく、軽量で薄膜な生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法の開発が求められていた。
【0060】
心臓の鼓動に連動して肌表面からナトリウム、カリウム、カルシウムイオンが放出される。生体電極は、肌から放出されたイオンの増減を電気信号に変換する必要がある。そのために、イオンの増減を伝達するためのイオン導電性に優れた材料が必要である。心臓の鼓動に連動して肌表面の電位も変動する。この電位変動は僅かであり、微弱電流をデバイスに伝えるための電子伝導性も必要である。
【0061】
塩化ナトリウムや塩化カリウムを含有する親水性ゲルは高いイオン導電性と電子導電性を有するが、水が乾いてしまうと導電性を失う。また、入浴やシャワーによって塩化ナトリウムや塩化カリウムが生体電極外に溶出してしまうことによっても導電性が低下する。
【0062】
金や銀などの金属を用いた生体電極は微弱電流だけを検知し、イオン導電性が低いため生体電極としての感度が低い。カーボンは金属同様に電子伝導性を有するが、金属よりも電子伝導性が低く、金属以上に生体電極としての感度が低い。
【0063】
PEDOT-PSSに代表される導電ポリマーは電子伝導性とイオン導電性の両方を有するが、分極が低いためにイオン導電性が低い。
【0064】
フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドの塩は分極性が高く、高いイオン導電性を有する。これをカーボン等と組み合わせることによって、高いイオン導電性と電子伝導性の両方を発現させることが出来る。
【0065】
生体電極膜を肌に貼り付けて安定的に生体信号を得るためには粘着性が必要である。一方、長時間貼り付けて剥がした後に肌上に残渣があると発疹や肌荒れの原因となりかねない。
【0066】
発疹や肌荒れや痒み等のもう一つの原因としては、皮膚呼吸が出来ないことが挙げられる。1週間以上の長時間貼り付けることを想定している医療用の絆創膏は、なるべく皮膚呼吸が行えるようにするために、絆創膏の基材を薄膜にし、通気性の高い不織布にすることや、汗を放出しやすくするために、表面に凹凸が付いているエンボス加工を施すなどの工夫がなされている。
【0067】
金属製のスナップが中心部を貫通している不織布に従来の珪素を含有しないゲル電極を貼り付けた生体電極は、これを肌に貼り付けた状態で入浴すると、不織布は容易に水が通過するためにゲルが膨潤し体積が膨張し、肌から剥がれ落ちてしまう。水の浸透を防ぐために、前述の特許文献3に記載のように防水カバーを取り付けると、生体電極の厚みが増して快適な装着感とはならなくなる。
【0068】
もし、薄膜の不織布に防水性の導電膜を組み合わせることが出来れば、入浴によっても導電性が低下することがない。しかも導電膜が粘着性を有していれば安定的に生体信号を感知することが可能となる。
【0069】
防水性の導電膜としては、シリコーンを含有する導電膜を挙げることが出来る。更に、シリコーンを含有する粘着剤としては、シリコーン粘着剤、ウレタン粘着剤、アクリル粘着剤を挙げることが出来る。これらの粘着剤の中では、高い撥水性、肌のかぶれの低さ、皮膚呼吸が可能との観点で、シリコーン粘着剤が最も好ましい。
【0070】
基本性質として、シリコーンは絶縁体である。よって、シリコーン含有の粘着剤をベースとする場合は、導電性向上のための材料が必要である。導電性向上剤としては、金属粉や炭素粉を挙げることが出来るが、前述の通り、肌から放出されるのは微弱な電位だけでなく、ナトリウム、カリウムカルシウムなどのイオンである。よって、イオンの増減に対して敏感なイオン導電性が高い性質が必要である。
【0071】
イオン電池のイオン導電性を向上させるために、イオン液体の添加が検討されている。中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、中和塩になる前の酸の状態で酸強度が高くなればなるほど、この塩は生体刺激性が強いという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性はトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性が両立されなければならない。
【0072】
イオン化合物の分子量が大きくなればなるほど肌への浸透性が低下し、肌への刺激性が低下する特性がある。そこで、特開2018-099504号公報に記載のフルオロスルホン酸、特開2018-126496号公報に記載のフルオロスルホンイミド、及び特開2018-130533号公報に記載のN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、特開2019-180467号公報に記載の銀塩等を有するイオンポリマーを添加した生体電極が提案されている。
【0073】
前記イオンポリマーが添加されているのは、シリコーンを含有する粘着材であり、これによって常に肌に密着し、水に浸けた状態でも吸水によって膨潤することが無く、長時間粘着性をキープして安定的な電気信号を得ることができる。しかし、これら生体電極は非多孔質の導電性基材上に上記イオンポリマーを含む組成物を用いて生体接触層を形成している。
【0074】
本発明者らは、このように上記課題について鋭意検討を重ねた結果、下記構成の生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法を見出し、本発明を完成させた。
【0075】
即ち、本発明は、生体電極であって、多孔質の伸縮性基材と、珪素を含有する粘着性の導電膜と、導電路とを有し、前記導電膜が前記多孔質の伸縮性基材の片面に形成されており、前記導電路が前記導電膜に接続し、かつ前記伸縮性基材を貫通し反対側に露出しているか、前記伸縮性基材の側面に露出しているものである生体電極である。
【0076】
本発明の生体電極は、撥水性を有しているために、日常的なシャワーや入浴することも可能である。入浴後やシャワー後の生体信号の測定だけでなく、入浴中やシャワー中の測定も可能である。
【0077】
心電図の測定だけでなく、筋電図や脳波、呼吸数の測定も可能である。また、肌から放出されるシグナルを測定するだけでなく、肌に電気信号を与えることによって、筋肉に信号を伝えることや、脳波をコントロールすることも可能である。例えば、パフォーマンスを高めたり疲労を低減するための水泳中の筋肉への刺激や、入浴中のリラクゼーションを高めたりする用途に使うことが考えられる。
【0078】
高感度な生体電極を構成するためには高いイオン導電性だけでなく、高い電子伝導性も必要である。電子伝導性を高めるには、イオンポリマーに加えて金属粉やカーボン粉を添加することが効果的である。
【0079】
上記珪素を含有する粘着性の導電膜の形成に、上記イオンポリマーを用いることもできる。イオンポリマーにシリコーンを含有している場合は、その他に必ずしもシリコーンを含む必要はない。
【0080】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
<生体電極>
本発明の生体電極は、多孔質の伸縮性基材と、珪素を含有する粘着性の導電膜と、導電路とを有し、前記導電膜が前記多孔質の伸縮性基材の片面に形成されており、前記導電路が前記導電膜に接続し、かつ前記伸縮性基材を貫通し反対側の面に露出しているか、前記伸縮性基材の側面に露出しているものである生体電極である。また、本発明の生体電極は、多孔質膜を貫通する導電路上、又は多孔質膜上の導電路に形成された生体接触層となるシリコーン含有粘着性の導電膜を有するものである。
【0082】
図を用いて簡単に説明する。本発明の生体電極10の一例についてその断面を
図1に示す。不織布1-1と、粘着層1-2と、補強フィルム1-3とを有する多孔質の伸縮性基材1と、上部スナップ2-1と、下部スナップ2-2とを有する導電路2と、導電膜3と、リリースライナー4とを有する生体電極10である。
【0083】
<導電膜の組成物>
以下、本発明の生体電極の導電膜を形成する各成分について、更に詳細に説明する。
【0084】
[(A)イオン性材料(塩)]
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)イオン性材料(導電性材料)として配合される塩は、(A)のイオン性材料として、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれるイオン性の繰り返し単位を有するポリマーを含有することができる。
【0085】
フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれるイオン性材料(A)は、下記一般式(1)-1から(1)-4で示される部分構造を有するものであることができる。
【化4】
(一般式(1)-1中、Rf
1及びRf
2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1及びRf
2が酸素原子である場合、Rf
1及びRf
2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf
3及びRf
4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1からRf
4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。一般式(1)-2、一般式(1)-3及び一般式(1)-4中、Rf
5、Rf
6及びRf
7は、それぞれ、フッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。一般式(1)-1から一般式(1)-4中、M
+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。一般式(1)-2中、mは、1~4の整数である。)
【0086】
上記一般式(1)-1、(1)-2で示されるフルオロスルホン酸、(1)-3で示されるスルホンイミド、(1)-4で示されるN-カルボニルスルホンアミドのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる1種以上の繰り返し単位が下記一般式(2)で表される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上を有するイオン性ポリマーであることが好ましい。
【化5】
(一般式(2)中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、R
12、及びR
14は、それぞれ独立に、単結合、又は炭素数1~13の直鎖状、分岐状若しくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エステル基、エーテル基、又はこれらの両方を有していてもよい。R
7は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子、及び-NR
19-基のいずれかである。R
19は水素原子、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、及びフェニル基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。YはR
4とともに環を形成してもよい。Rf
1’及びRf
5’は、それぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、及びa7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M
+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。)
【0087】
上記一般式(2)においてa1~a7はそれぞれ繰り返し単位A1~A7の比率である。
【0088】
(繰り返し単位A)
上記一般式(2)で示される繰り返し単位A1~A7のうち、繰り返し単位A1~A5を得るためのフルオロスルホン酸塩モノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
上記一般式繰り返し単位A6を得るためのスルホンイミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
上記一般式繰り返し単位A7を得るためのN-カルボニルスルホンアミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0117】
【0118】
【化33】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は前述の通り。)
【0119】
また、前記イオン性材料(A)が、前記アンモニウム塩を構成するアンモニウムイオンとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオン(アンモニウムカチオン)を含有するものであることが好ましい。
【化34】
(一般式(3)中、R
101d、R
101e、R
101f及びR
101gはそれぞれ、水素原子、炭素数1~15の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は一般式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0120】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとしては、3級又は4級のアンモニウムイオンが特に好ましい。
【0138】
(繰り返し単位B)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7に加えて、導電性を向上させるためにグライム鎖を有する繰り返し単位Bを共重合することも出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位Bを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位を共重合することによって、肌から放出されるイオンのドライ電極膜内での移動を助長し、ドライ電極の感度を高めることが出来る。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
(繰り返し単位C)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、Bに加えて、導電性を向上させるために、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アンモニウム塩、ベタイン、アミド基、ピロリドン、ラクトン環、ラクタム環、スルトン環、スルホン酸のナトリウム塩、スルホン酸のカリウム塩を有する親水性の繰り返し単位Cを共重合することも出来る。親水性の繰り返し単位Cを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。これらの親水性基を含有する繰り返し単位を共重合することによって、肌から放出されるイオンの感受性を高め、ドライ電極の感度を高めることが出来る。
【0144】
【0145】
【0146】
(繰り返し単位D)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B、Cに加えて、粘着能を付与させる繰り返し単位Dを有することが出来る。繰り返し単位Dを得るためのモノマーは、具体的には下記のものを例示することができる。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
(繰り返し単位E)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B、C、Dに加えて、架橋性の繰り返し単位Eを共重合することも出来る。架橋性の繰り返し単位Eはオキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位を挙げることが出来る。
【0152】
オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位Eを得るためのモノマーは、具体的には下記に挙げることができる。
【0153】
【0154】
【0155】
ここでRはメチル基又は水素原子である。
【0156】
(繰り返し単位F)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B、C、D、Eに加えて、珪素を有する繰り返し単位Fを有することが出来る。繰り返し単位Fを得るためのモノマーは、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0157】
【0158】
【0159】
(繰り返し単位G)
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料の(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B、C、D、E、Fに加えて、フッ素を有する繰り返し単位Gを有することが出来る。
【0160】
フッ素を有する繰り返し単位Gを得るためのモノマーは、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
ここでRは水素原子、又はメチル基である。
【0169】
(A)成分のイオン性材料を合成する方法の1つとして、繰り返し単位A1~A7、B、C、D、E、F、Gを与えるモノマーのうち所望のモノマーを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合し、共重合体の高分子化合物を得る方法を挙げることができる。
【0170】
重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等が例示できる。重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。加熱温度は、好ましくは50~80℃であり、反応時間は、好ましくは2~100時間、より好ましくは5~20時間である。
【0171】
ここで、イオン性材料(A)中における繰り返し単位A1~A7、B、C、D、E、F、Gの割合は、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0≦a5<1.0、0≦a6<1.0、0≦a7<1.0、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0、0≦b<1.0、0≦c<1.0、0≦d<1.0、0≦e<0.9、0≦f<0.9、0≦g<0.9、好ましくは0≦a1≦0.9、0≦a2≦0.9、0≦a3≦0.9、0≦a4≦0.9、0≦a5≦0.9、0≦a6≦0.9、0≦a7≦0.9、0.01≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.9、0.03≦b≦0.9、0≦c≦0.8、0≦d≦0.8、0≦e<0.8、0≦f<0.8、0≦g<0.8、より好ましくは0≦a1≦0.8、0≦a2≦0.8、0≦a3≦0.8、0≦a4≦0.8、0≦a5≦0.8、0≦a6≦0.8、0≦a7≦0.8、0.02≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.8、0.05≦b≦0.9、0≦c≦0.7、0≦d≦0.5、0≦e<0.3、0≦f<0.7、0≦g<0.7である。b~gはそれぞれ繰り返し単位B~Gの比率である。
【0172】
なお、例えば、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b+c+d+e+f+g=1とは、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gを含む高分子化合物において、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%であることを示し、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b+c+d+e+f+g<1とは、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%未満でA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、G以外に他の繰り返し単位を有していることを示す。
【0173】
(A)成分の分子量は、供に重量平均分子量として500以上が好ましく、より好ましくは1,000以上、1,000,000以下であり、更に好ましくは2,000以上、500,000以下である。また、重合後に(A)成分に組み込まれていないイオン性モノマー(残存モノマー)が少量であれば、生体適合試験でこれが肌に染みこんでアレルギーを引き起こす恐れがなくなるため、残存モノマーの量は減らすのが好ましい。残存モノマーの量は、(A)成分全体100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましい。また、(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、分子量や分散度、重合モノマーの異なる2種以上を混合で使用してもよい。ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。
【0174】
[(B)樹脂]
本発明の生体電極に用いられる導電膜を形成するための材料に配合される(B)樹脂は、上記の(A)イオン性材料(塩)と相溶して塩の溶出を防ぎ、金属粉、炭素粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉等の導電性向上剤を保持し、撥水性付与のためのシリコーンを含有し、粘着性を発現させるための成分である。(A)のイオン性材料にシリコーンを含有し粘着性を有している場合は、(B)樹脂は必ずしも必要ではないし、(B)樹脂にシリコーンを含んでいなくても良い。なお、樹脂は、上述の(A)成分以外の樹脂であればよく、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上であることがさらに好ましく、特には、シリコーン系、シリコーン含有のアクリル系、及びシリコーン含有のウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらの中でも、シリコーン系粘着剤が、撥水性、皮膚呼吸性、貼り付けたときの肌の痒み等の不快感が少ない点で最も好ましい。
【0175】
粘着性のシリコーン系の樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1~10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
【0176】
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
【0177】
また、シリコーン系の樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
【0178】
粘着性のアクリル系の樹脂としては、例えば、特開2016-011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。イオンポリマーにシリコーンを含んでいない場合は、撥水性向上のためにシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合する必要がある。
【0179】
粘着性のウレタン系の樹脂としては、例えば、特開2000-256640号公報のポリウレタンポリオール化合物に多官能イソシアネート化合物の反応物、特開2019-076695号公報、特開2019-076696号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、側鎖にシロキサン結合を有するものを用いることができる。
【0180】
また、導電膜から(A)成分が溶出することによる導電性の低下を防止するために、本発明の生体電極の導電膜の組成物において、(B)樹脂は上述の(A)成分との相溶性が高いものであることが好ましい。また、多孔質膜や導電路から導電膜の剥離を防止するために、本発明の生体電極の導電膜の組成物において、(B)樹脂は多孔質膜や導電路に対する接着性が高いものであることが好ましい。(B)樹脂を多孔質膜や導電路やイオンポリマーとの相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いること、粘着性を有している樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有するポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、粘着性シリコーン樹脂等が挙げられる。また、一方で、導電膜を含む生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、本発明の生体電極の導電膜の組成物において、(B)樹脂は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、シリコーンを含有する樹脂を用いることが効果的である。
【0181】
本発明の生体電極の導電膜の組成物において、(B)成分の配合量は、イオンポリマー(A)100質量部に対して0~2000質量部とすることが好ましく、10~1000質量部とすることがより好ましい。また、(A)成分はそれぞれ、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
【0182】
なお、後述のように、導電膜は生体信号を得るための導電膜の組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。
【0183】
(B)成分としてアルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いる場合には、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
【0184】
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
【0185】
なお、白金触媒の添加量は、(A)と(B)を合わせた樹脂100質量部に対して5~2,000ppm、特には10~500ppmの範囲とすることが好ましい。
【0186】
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体的には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0187】
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0~10質量部、特に0.05~3質量部の範囲とすることが好ましい。
【0188】
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
【0189】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
【0190】
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱分解型のラジカル発生剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジ-tert-アミルパーオキシド、ジ-n-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
【0191】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N-スルホニルオキシイミド、オキシム-O-スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008-111103号公報の段落[0122]~[0142]、特開2009-080474号公報に記載されているものが挙げられる。
【0192】
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0193】
[(C)成分]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には(C)成分として、カーボン粉、金属粉、珪素粉、及びチタン酸リチウム粉から選択される1つ以上をさらに含有することができる。(C)成分のうち、カーボン粉及び金属粉は電子導電性を高めるために添加され、珪素粉、及びチタン酸リチウム粉はイオン受容の感度を高めるために添加される。
【0194】
[金属粉]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、電子導電性を高めるために、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉を添加することもできる。金属粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0195】
金属粉の種類として導電性の観点では金、銀、白金が好ましく、価格の観点では銀、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロムが好ましい。生体適合性の観点では貴金属が好ましく、これらの観点で総合的には銀が最も好ましい。
【0196】
金属粉の形状としては、球状、円盤状、フレーク状、針状を挙げることが出来るが、フレーク状の粉末を添加したときの導電性が最も高くて好ましい。金属粉のサイズは100μm以下、タップ密度が5g/cm3以下、比表面積が0.5m2/g以上の、比較的低密度で比表面積が大きいフレークが好ましい。
【0197】
[カーボン材料]
導電性向上剤として、カーボン材料を添加することができる。カーボン材料としては、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層、多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。特にカーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることが好ましい。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0198】
[珪素粉]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、イオン受容の感度を高めるために、珪素粉を添加することが出来る。珪素粉としては、珪素、一酸化珪素、炭化珪素からなる粉体を挙げることが出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。珪素粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0199】
[チタン酸リチウム粉]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、イオン受容の感度を高めるために、チタン酸リチウム粉を添加することが出来る。チタン酸リチウム粉としては、Li2TiO3、LiTiO2、スピネル構造のLi4Ti5O12の分子式を挙げることが出来、スピネル構造品が好ましい。又、カーボンと複合化したチタン酸リチウム粒子を用いることも出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。これらは炭素との複合粉であっても良い。チタン酸リチウム粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0200】
[任意成分]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、粘着性付与剤、架橋剤、架橋触媒、イオン性添加剤、有機溶剤などの任意成分を含むことができる。
【0201】
[粘着性付与剤]
また、本発明の生体電極の導電膜の組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。
【0202】
[架橋剤]
本発明の生体電極の導電膜の組成物にはエポキシ系の架橋剤を添加することも出来る。この場合の架橋剤は、エポキシ基やオキセタン基を1分子内に複数有する化合物である。添加量としては、樹脂100質量部に対して1~30質量部である。
【0203】
[架橋触媒]
本発明の生体電極の導電膜の組成物にはエポキシ基やオキセタン基を架橋するための触媒を添加することも出来る。この場合の触媒は、特表2019-503406号公報中、段落[0027]~[0029]に記載されているものを用いることが出来る。添加量としては、樹脂100質量部に対して0.01~10質量部である。
【0204】
[イオン性添加剤]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、イオン導電性を上げるためのイオン性添加剤を添加することが出来る。生体適合性を考慮すると、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、サッカリン、アセスルファムカリウム、特開2018-044147号公報、同2018-059050号公報、同2018-059052号公報、同2018-130534公報の塩を挙げることが出来る。
【0205】
本発明の生体電極の導電膜の組成物において、下記一般式(4)に記載のポリグリセリン基を有するシリコーン化合物を含有することもできる。ポリグリセリン基を有するシリコーン化合物の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部とすることが好ましく、0.5~60質量部とすることがより好ましい。また、ポリグリセリン基を有するシリコーン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
【化72】
(式中、R
1は同一又は非同一の炭素数1~10の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、R
2は式(4)-1又は式(4)-2で表されるポリグリセリン基構造を有する基であり、R
3、R
4は同一又は非同一のR
1又はR
2であり、R
4同士が結合してエーテル基となり環を形成しても良い。aは0~6であり、bは0~4であり、a+bは0~10である。但し、bが0の時はR
3の少なくとも1つがR
2である。R
5は炭素数2~10のアルキレン基又は炭素数7~10のアラルキレン基であり、cは0~10、dは2~6である。)
【0206】
このようなポリグリセリン基を有するシリコーン化合物としては、例えば以下を例示することが出来る。
【0207】
【0208】
【0209】
[有機溶剤]
また、本発明の生体電極の導電膜の組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2-エチル-p-キシレン、2-プロピルトルエン、3-プロピルトルエン、4-プロピルトルエン、1,2,3,5-テトラメチルトルエン、1,2,4,5-テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4-フェニル-1-ブテン、tert-アミルベンゼン、アミルベンゼン、2-tert-ブチルトルエン、3-tert-ブチルトルエン、4-tert-ブチルトルエン、5-イソプロピル-m-キシレン、3-メチルエチルベンゼン、tert-ブチル-3-エチルベンゼン、4-tert-ブチル-o-キシレン、5-tert-ブチル-m-キシレン、tert-ブチル-p-キシレン、1,2-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5-トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤、n-ヘプタン、イソヘプタン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、1,6-ヘプタジエン、5-メチル-1-ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1-メチル-1,4-シクロヘキサジエン、1-ヘプチン、2-ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3-ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-メチル-1-シクロヘキセン、3-メチル-1-シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4-メチル-1-シクロヘキセン、2-メチル-1-ヘキセン、2-メチル-2-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、n-オクタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチル-2-メチルペンタン、3-エチル-3-メチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、2-エチル-1-ヘキセン、2-メチル-1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、1,7-オクタジエン、1-オクチン、2-オクチン、3-オクチン、4-オクチン、n-ノナン、2,3-ジメチルヘプタン、2,4-ジメチルヘプタン、2,5-ジメチルヘプタン、3,3-ジメチルヘプタン、3,4-ジメチルヘプタン、3,5-ジメチルヘプタン、4-エチルヘプタン、2-メチルオクタン、3-メチルオクタン、4-メチルオクタン、2,2,4,4-テトラメチルペンタン、2,2,4-トリメチルヘキサン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,2-ジメチル-3-ヘプテン、2,3-ジメチル-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-3-ヘプテン、3,5-ジメチル-3-ヘプテン、2,4,4-トリメチル-1-ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、1-エチル-2-メチルシクロヘキサン、1-エチル-3-メチルシクロヘキサン、1-エチル-4-メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3-トリメチルシクロヘキサン、1,1,4-トリメチルシクロヘキサン、1,2,3-トリメチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8-ノナジエン、1-ノニン、2-ノニン、3-ノニン、4-ノニン、1-ノネン、2-ノネン、3-ノネン、4―ノネン、n-デカン、3,3-ジメチルオクタン、3,5-ジメチルオクタン、4,4-ジメチルオクタン、3-エチル-3-メチルヘプタン、2-メチルノナン、3-メチルノナン、4-メチルノナン、tert-ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、1,9-デカジエン、デカヒドロナフタレン、1-デシン、2-デシン、3-デシン、4-デシン、5-デシン、1,5,9-デカトリエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン、α-フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1,4-デカジイン、1,5-デカジイン、1,9-デカジイン、2,8-デカジイン、4,6-デカジイン、n-ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1-ウンデセン、1,10-ウンデカジエン、1-ウンデシン、3-ウンデシン、5-ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4-エン、n-ドデカン、n-トリデカン、2-メチルウンデカン、3-メチルウンデカン、4-メチルウンデカン、5-メチルウンデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、1,3-ジメチルアダマンタン、1-エチルアダマンタン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルn-ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-sec-ブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-sec-ペンチルエーテル、ジ-tert-アミルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、水などを挙げることができる。
【0210】
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10~50,000質量部の範囲とすることが好ましい。
【0211】
[その他添加剤]
本発明の生体電極の導電膜の組成物には、シリカ粒子を混合することも出来る。シリカ粒子は表面が親水性であり、親水性のイオンポリマーやポリグリセリンシリコーンとのなじみが良く、疎水性のシリコーン粘着剤でのイオンポリマーやポリグリセリンシリコーンのシリコーン粘着剤での分散性を向上させることが出来る。シリカ粒子は乾式、湿式どちらでも好ましく用いることが出来る。フルオロスルホンアミド塩やフルオロスルホンイミド塩で修飾されたシリカ粒子を添加することも出来る。
【0212】
上記に挙げられる導電膜の組成物を混合し、必要によっては濾過を行い、導電膜溶液を作製する。
【0213】
<生体電極>
以下、本発明の生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0214】
本発明の生体電極10の断面は
図1に示される。不織布1-1と、粘着層1-2と、補強フィルム1-3とを有する多孔質の伸縮性基材1と、上部スナップ2-1と、下部スナップ2-2とを有する導電路2と、導電膜3と、リリースライナー4とを有する生体電極10である。導電膜3の厚み分だけ出っ張った形になっており、導電膜3がより肌に粘着しやすい形態になっている。
【0215】
図2は、本発明の生体電極の各部品を分解した概略断面図、
図3はその鳥瞰図である。多孔質の伸縮性基材(多孔質膜)である不織布1-1を貫通する導電路として、上下で挟み込む形の上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が示されている。補強フィルム1-3は
図1の様に導電膜3に接する側でも良いし、肌とは反対側の不織布1-1の表面あるいはその両方でも良いし、あるいは無くても良い。補強フィルム1-3は電気導電性を有していてもよい。電気導電性を有するためには、プラスチック膜表面を銀、銅、鉄、SUS、塩化銀などの導電膜で覆っても良いし、前記金属フィルムを用いても良いし、金属をコートした繊維布を用いてもよい。
【0216】
多孔質膜は皮膚呼吸を行うためのものであり、伸縮性を有している。伸縮性は少なくとも5%、好ましくは10%以上である。多孔質膜は、繊維状であっても、連続穴を有しているメンブレン膜であっても良い。繊維状の膜としては不織布が好ましい。多孔質膜の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、PET、PEN、ポリウレタン、ポリイミド、テトラフルオロエチレンを挙げることが出来る。不織布等の多孔質膜に用いられる繊維やメンブレン膜は抗菌処理を行っていてもよい。多孔質の伸縮性基材と導電膜を合わせた膜厚は1mm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは500μm以下である。薄膜な方が装着感が少なくて快適であるが、薄膜すぎるとリリースライナーを剥がして肌に張り付けるときに皴になったり、膜の強度が低下して剥がれやすくなったりするので、最適な膜厚を選択する必要があり、例えば5μm以上とすることができる。
【0217】
多孔質膜には粘着剤による粘着層1-2を付けることが出来る。導電膜の粘着性だけでは不十分な場合に生体電極の剥がれ落ちを防止するために、導電膜の周辺の粘着層は効果的である。多孔質膜用の粘着剤は前述のシリコーン系、アクリル系、ウレタン系を用いることが出来る。但し、導電膜の粘着性が十分に高い場合は多孔質膜の粘着層は必ずしも必要ではない。
【0218】
多孔質膜を貫通している導電路はスナップ型が好ましいが、スナップは挟み込む形でもなくても良いし、スナップでなくて配線でも構わない。スナップの材質は金属であっても導電炭素であっても良い。導電路が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、炭素、及び導電性ポリマーから選ばれる1種以上を含むものが好ましい。スナップの内部まで導電性でなくても良く、この場合は樹脂製のスナップの表面だけを金属や炭素でコートする。ゲル電極の場合は下部スナップの下面のゲルに接触する面は塩化銀にする必要があるが、本発明のイオンポリマーは高分極なので、塩化銀の還元反応を利用しなくても電気信号を伝えることが出来るため、塩化銀は有ってもなくても良い。
【0219】
スナップの内部が樹脂で、炭素でコートされている場合は、生体電極を肌に貼り付けたままレントゲン撮影を行ってもこれがX線を通過するために陰とならない。炭素に加えて、金、白金、銀等の貴金属でコートされている場合は、MRI等の強磁場環境下に於いても発熱することが無く好適である。
【0220】
図2、3中の補強フィルム1-3は、柔らかくて伸縮性のある不織布1-1と、硬い下部スナップ2-2の界面の応力緩和のために挿入している。補強フィルム1-3はPET、PEN、TPU等のフィルムを適用することが出来る。応力緩和だけの用途なので有っても無くても良い。
【0221】
[生体電極の製造方法]
図4では本発明の生体電極の製造方法の一例が示されている。ここで、粘着層付き不織布シートに穴を開け、スナップで上下を挟む。補強フィルムを使う場合は、粘着層付き不織布シートと下部スナップの間に挟むと良い。シリコーン含有粘着性の導電膜は、リリースライナー上に印刷する。印刷方法は、スクリーン印刷、ステンシル印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷を挙げることが出来る。印刷した後に溶剤の乾燥と硬化のためにベークを行う。最後にリリースライナーが着いた状態で導電膜をスナップに圧着させて生体電極が出来上がる。
【0222】
本発明の生体電極は前記導電膜の上をリリースライナーで覆ったものであることが好ましい。リリースライナー上の全面にシリコーン含有粘着性の導電膜を塗布し、溶剤を蒸発させてベーク等による膜の硬化後にもう一方の膜表面もリリースライナーで覆い、所定の形状にレーザーや鋭利な刃でカットし、片側のリリースライナーを剥がし、片側のリリースライナーが着いた状態で導電膜をスナップに圧着させて生体電極を作製することも出来る。
【0223】
リリースライナー上の全面にシリコーン含有粘着性の導電膜を塗布する場合、バーコートやロールコートを用い、平板上のリリースライナーに塗布したり、ロール上のリリースライナーにロールツーロールで連続塗布することが出来る。粘着性の導電膜の膜厚は1~1000μmの範囲が好ましく、より好ましくは5~500μmの範囲である。
【0224】
前記リリースライナーが、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリロニトリル、セロファン、及び紙から選ばれ、前記フッ素樹脂以外はフッ素系の剥離剤又はシリコーン/フッ素系の剥離剤が塗布されているものであることが好ましい。これらの基材用の素材は単体でもよいが、複数ラミネートした基材であってもよい。例えば、紙などの繊維上にシリコーン粘着剤溶液を塗布すると繊維中に溶液がしみ込んで、硬化後に剥離することができなくなる。このため、紙の上に他のプラスチックフィルムを張り合わせて、その上にフッ素系剥離剤をコートする。
【0225】
リリースライナーは導電膜から剥がす必要があるため、剥離をスムーズに行うために伸縮性が無い基材の方が好ましい。
【0226】
シリコーン粘着剤ベースの導電膜を剥離させるためには、リリースライナーの基材上にフッ素系の剥離剤が塗布されていることが必要である。剥離剤としては、具体的には例えば特開2011-201033号公報、特開2020-100764号公報に記載されているフルオロシリコーン剥離剤をコートする。
【0227】
粘着性の導電膜を2枚のリリースライナーで挟む場合、特定の形状にカットした後に片方のリリースライナーを剥がして粘着面を下部スナップに貼り付けるが、片方のリリースライナーを剥がすときに異差剥離が起こらない場合がある。両方のリリースライナーの剥離力が同じ場合に異差剥離しづらくなる。この場合、どちらか一方のリリースライナーの剥離剤の種類や基材の厚みを変えて剥離力を変えてやる必要がある。基材が厚いほど剥離力が大きくなる傾向にあるので、同じ剥離剤を用いた場合では膜厚の異なる2枚のリリースライナー基材を用いる。
【0228】
粘着性の導電膜をリリースライナー上に塗布し、もう一方のリリースライナーとして繊維状や細かな凹凸や穴が形成されたリリースライナーを用いることも出来る。繊維状や細かな凹凸や穴が形成されたリリースライナーは、粘着性の導電膜との接触面積が小さいので剥離力を軽減でき、異差剥離の問題が生じにくい。
【0229】
粘着性の導電膜は、ゲル電極の様に水などの揮発性成分を含んでいないので、成分の蒸発による性能劣化が起こらないため、繊維状や穴が形成されたリリースライナーで覆って長期間保管することが可能である。
【0230】
図5では、リリースライナー全面に導電膜を塗布する場合を示す。塗布に於いては、ロールコート、バーコート、スリットコート、スプレーコート、スピンコート等の方法を挙げることが出来る。塗布、ベークの後、所定のサイズにカットし、下部スナップ上に圧着転写させる。転写後のリリースライナーは導電膜領域だけなので、周辺の粘着部分も覆うために大面積のリリースライナーに張り替えを行う。
図5では、導電膜の片面をリリースライナーで覆った場合、
図6では両面を覆った場合である。
【0231】
図7では、スナップで上下を挟んだ不織布を上下反転させ、下部スナップ上に直接導電膜を形成する。導電膜の形成は、周辺に粘着層が存在しているので、これに接触することが無い非接触の印刷方法が好ましい。非接触の印刷は、インクジェット印刷やノズルジェット印刷を挙げることができる。
【0232】
図4、
図5や
図6のプロセスを比較すると、
図4の方がシンプルでスループットも高く好適である。
図4~7の中で最もシンプルなのは
図7のプロセスである。
【0233】
上部スナップの代わりに下部スナップから配線を伸ばし、末端にメス型コネクタを取り付けたのが
図8である。
図9ではオス型コネクタが示されている。上部スナップを無くして下部スナップだけにすることも出来る。
【0234】
実際に作製した生体電極の写真を
図10に示す。左が肌に張り付ける黒色の導電膜側、右が上部スナップ側を表側にしている。
【0235】
図10に示された作製した生体電極の厚みが
図11と12に示されている。導電膜の膜厚は20μm、多孔質膜と導電膜を合わせた膜厚が390μmと薄い膜厚構成である。
【0236】
図10に示された作製した生体電極の各部品のサイズが
図13に示されている。
【0237】
生体シグナルを取り出すためのスナップを、導電膜の外側に配置することもできる。肌に張り付けた生体電極のスナップを測定装置につなぐときに
図1に示されるセンタースナップ型だと僅かに応力がかかり、これによって導電膜3が肌から剥がれかかり、生体信号の感度が低下することがある。生体電極のスナップを測定装置につなぐときの導電膜3にかかる応力を低減するためには、
図14に示されるように、スナップを導電膜の外側に配置する形態が好ましい。この場合、導電膜3と下部スナップ2-2とは導電路として導電配線1-5で繋ぐ必要がある。導電配線1-5は伸縮性を有する方が好ましい。
図14では、フィルム1-4上に形成された導電配線1-5が示されているが、フィルム1-4と導電配線1-5はそれぞれ伸縮性を有することが好ましい。蛇腹形状の導電配線は伸縮性を有するが、伸縮性の導電配線であれば直線状の配線レイアウトを用いることができ、面積が狭くて好ましい。この時、伸縮性のフィルムとしては、例えばポリウレタンシートが好適である。その上に、伸縮性の樹脂に導電フィラーと溶剤が混合された導電ペーストを印刷して導電配線を形成する。
【0238】
図15は、本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略断面図であり、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が導電膜3の外側に配置されている。
【0239】
図16は、本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略鳥瞰図で、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が導電膜3の外側に配置されている。
【0240】
図17に示されるように、上部スナップ2-1を平らにすることもできる。この場合は、磁力を用いて上部スナップ2-1と測定装置のコード端子を結合させることができる。
【0241】
図18に示されるように、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2を導電膜3の外側に配置し、かつ下部スナップ2-2を導電膜3で覆うこともできる。この場合は、導電膜3は導電配線1-5と導電性の下部スナップ2-2の両方に接しているので、高い導電性を発現することができる。
【0242】
図19は、本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略断面図であり、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が導電膜3の外側に配置されており、かつ下部スナップ2-2が導電膜3で覆われている。
【0243】
図20は、本発明の生体電極を組み立てる前の部品構成の一例を示す概略鳥観図であり、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が導電膜3の外側に配置されており、かつ下部スナップ2-2が導電膜3で覆われている。
【0244】
図21は、本発明の実施形態で作製した生体電極の写真であり、上部スナップ2-1と下部スナップ2-2が導電膜3の外側に配置されており、かつ下部スナップ2-2が導電膜3で覆われている。
【0245】
図22に示されるように、不織布1-1の反対側に、伸縮膜に形成された導電配線1-5を挟む上部スナップ2-1と下部スナップ2-2を配置することもできる。
【0246】
実際に作製した生体電極の写真を
図23に示す。左が肌に張り付ける黒色の導電膜側、右が上部スナップ側を表側にしている。
【0247】
図24に示されるように、スナップを付けなくてもよい。実際に作製した生体電極の写真を
図25に示す。左が肌に張り付ける黒色の導電膜側、右が導電配線側を表側にしている。この場合は
図26に示されるように、導電性のクリップなどで挟んでデバイスと導電させる。
【0248】
図27に示されるように、伸縮性フィルム上に印刷された導電配線を導電路として導電繊維1-6にすることもできる。導電繊維は、繊維表面に金属や導電ポリマーをコートした形態で、伸縮性と導電性を兼ねそろえる。
【0249】
本発明は、皮膚呼吸可能な不織布上に形成された粘着性の導電膜を有する生体電極であるが、汗を外部に逃がすための空孔を有していてもよい。皮膚と導電膜の間に汗が溜まると導電膜が皮膚から剥がれて生体信号の感度が低下するためである。
図28は空孔を導電膜と導電配線に開けた場合、
図29はそれに加えて不織布まで開けた場合、
図30は導電膜の外側の粘着層と不織布にまで開けた場合である。
【0250】
図28~30の空孔のサイズは直径が3mm以下、好ましくは2mm以下であり、空隙率が20%以下の面積が好ましい。穴の開いた面積が20%以上になると強度低下により肌からの剥がれが生じ、生体電極部分の面積が減少するために生体信号の感度が低下する。
【0251】
図31に示されるように導電配線1-5を導電膜3側に配置することもできる。この場合は、導電配線1-5が不織布1-1を貫通しないので製造が簡便である。
【0252】
図32に示されるように導電配線とフィルムを導電繊維1-6に置き換えることも可能である。
【0253】
以下、本発明の生体電極の各構成材料について、更に詳しく説明する。
【0254】
[生体接触層]
本発明の生体電極は、多孔質膜を貫通する導電路上に形成された生体接触層となるシリコーン含有粘着性の導電膜を有するものである。この導電膜は、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であり、導電性及び粘着性を有する。導電膜は、上述の本発明の生体電極の導電膜の組成物の硬化物であり、即ち、上述の(A)イオン性材料(塩)、(B)樹脂等の添加剤を含有するシリコーン含有の粘着性の樹脂層である。
【0255】
なお、導電膜の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーであり、粘着しにくい性質である。
【0256】
生体電極の導電膜の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。導電膜が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで導電膜の厚さを選択することができる。
【0257】
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004-033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から導電膜が剥がれるのを防止するために、導電膜以外に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、上記のように、導電膜の組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
【0258】
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開平5-082405号公報、特開平5-009505号公報のホックとの接合部品を用いても良いし、生体電極から突き出たホックと導電配線を接続してデバイスと接続する。又は、特開2004-033468号公報に記載の印刷によって形成した配線とデバイスを載せた伸縮性基材を肌に貼り付けることが出来る。この場合、防水性のデバイスを用いることによって、入浴又はシャワー中の心電図の測定も可能となる。
【0259】
<生体電極の製造方法>
また、本発明では、多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路を作製するか、伸縮性基材の側面に露出するように前記伸縮性基材上に導電路を作製し、肌に貼り付ける側の導電路に接続されるように珪素を含有する粘着性の導電膜を形成する生体電極の製造方法を提供する。
【0260】
この時、前記多孔質の伸縮性基材を貫通する導電路の肌に貼り付ける側または前記伸縮性基材の側面に露出する前記伸縮性基材上の導電路の肌に貼り付ける側に前記珪素を含有する粘着性の導電膜を、リリースライナー上に形成した前記珪素を含有する粘着性の導電膜を転写することにより形成するか、導電路上に直接印刷することによって形成することが好ましい。
【0261】
さらに、リリースライナー上に珪素を含有する粘着性の導電膜材料を塗布し、硬化することにより形成することが好ましい。
【0262】
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される多孔質の伸縮性基材、導電膜等は、上述のものと同様でよい。
【0263】
導電路上に導電膜の組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、直接塗布する方法、他の基板上に塗布後に転写させる方法がある。どちらの方法においても、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
【0264】
また、伸縮性基材上に導電膜の組成物を塗布することもできる。伸縮性基材上に導電膜の組成物を塗布する方法は、特に限定されず、上述の方法が好適である。
【0265】
導電膜の組成物の硬化方法は、特に限定されず、導電膜の組成物に使用する(A)、(B)成分の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の導電膜の組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
【0266】
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、導電膜の組成物に使用する(A)、(B)成分の種類によって適宜選択すればよいが、例えば50~250℃程度が好ましい。
【0267】
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
【0268】
硬化後の導電膜表面に水滴を付けたり、水蒸気やミストを吹きかけると肌とのなじみが向上し、素早く生体信号を得ることが出来る。水蒸気やミストの水滴のサイズを細かくするためにアルコールと混合した水を用いることも出来る。水を含んだ脱脂綿や布と接触させて膜表面を濡らすことも出来る。
【0269】
硬化後の導電膜表面を濡らす水は塩を含んでいても良い。水と混合させる水溶性塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれることが好ましい。
【0270】
前記水溶性塩は、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、アセスルファムカリウム、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム、カルボン酸カルシウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ベタインから選ばれる塩であることができる。なお、上述の高分子化合物(A)は、前記水溶性塩に含まれない。
【0271】
より具体的には、上記の他に酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ピバル酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、エナント酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、ペラルゴン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ウンデシル酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、トリデシル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ペンタデシル酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、マルガリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、アジピン酸二ナトリウム、マレイン酸二ナトリウム、フタル酸二ナトリウム、酪酸ナトリウム、2-ヒドロキシ酪酸ナトリウム、3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム、2-オキソ酪酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、1-ノナンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、1-ウンデカンスルホン酸ナトリウム、ココイルセチオン酸ナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウミドプロピル、イソ酪酸カリウム、プロピオン酸カリウム、ピバル酸カリウム、グリコール酸カリウム、グルコン酸カリウム、メタンスルホン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、グリコール酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、3-メチル-2-オキソ酪酸カルシウム、メタンスルホン酸カルシウムが挙げられる。ベタインは分子内塩の総称で、具体的にはアミノ酸のアミノ基に3個のメチル基が付加した化合物であるが、より具体的にはトリメチルグリシン、カルニチン、トリメチルグリシン、プロリンベタインを挙げることが出来る。
【0272】
前記水溶性塩は、さらに炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールを含有することができ、前記アルコールがエタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ジグリセリン、又はポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物から選ばれるものであることが好ましく、前記ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物が上記一般式(4)で示されるものであることがより好ましい。
【0273】
塩含有水溶液による前処理方法は、硬化後の導電膜の組成物(生体電極膜)上に噴霧法、水滴ディスペンス法等で生体電極膜を塗らすことが出来る。サウナのように高温高湿状態で塗らすことも出来る。塗らした後は乾燥を防止するために、シートで覆うことも出来る。シートは肌に貼り付ける直前に剥がす必要があるので、剥離剤がコートされているか、剥離性のテフロンフィルムが用いられる。剥離シートで覆われたドライ電極は、長期間の保存のためにはアルミニウムなどでカバーされた袋で封止される。アルミニウムでカバーされた袋の中での乾燥を防止するためには、この中に水分を封入しておくことが好ましい。
【0274】
塩含有水溶液を吹きかける前処理法は、一般式(2)記載の繰り返し単位を有するイオン性ポリマーを含有するドライ電極において最も有効であるが、PEDOT-PSS、塩化銀、カーボンや金属を含有する導電性繊維からなるドライ電極においても有効である。
【0275】
生体電極が貼り付けられる側の肌を、貼り付ける直前に水や水を含有するエタノールやグリセリンなどのアルコールを含有する布で拭いたり、スプレー塗布したりすることは、肌の表面を湿らせてより短時間で高感度かつ高精度な生体信号を取る上で有効である。前記水含有布で拭くことは、肌を湿らすだけでなく、肌表面の油脂を取り除く効果もあり、これによっても生体信号の感度が向上する。
【0276】
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【0277】
<生体信号の測定方法>
また、本発明では、本発明の生体電極を肌に貼り付け、入浴もしくはシャワー後、又は入浴もしくはシャワー中に生体信号を測定する生体信号の測定方法を提供する。
【0278】
本発明の生体電極は、撥水性を有しているため、このような生体信号の測定方法を行うことができる。
【0279】
入浴もしくはシャワー後、又は入浴もしくはシャワー中に測定すること以外については特に限定されず、従来の測定方法を用いることができる。
【実施例】
【0280】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0281】
導電膜溶液に配合したイオン性ポリマー1は、以下のようにして合成した。各モノマーの20質量%シクロペンタノン溶液を反応容器に入れて混合し、反応容器を窒素雰囲気下-70℃まで冷却し、減圧脱気、窒素ブローを3回繰り返した。室温まで昇温後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマー全体1モルに対して0.01モル加え、60℃まで昇温後、15時間反応させ、エバポレーターによりシクロペンタノンを蒸発させた。得られたポリマーの組成は、ポリマー溶液の一部を乾燥後、1H-NMRにより確認した。また、得られたポリマーの分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。
イオン性ポリマー1を以下に示す。
【0282】
イオン性ポリマー1
Mw=38,100
Mw/Mn=1.91
【化75】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0283】
同様の方法で、下記イオン性ポリマー2~14を重合した。
【0284】
イオン性ポリマー2
Mw=36,100
Mw/Mn=1.93
【化76】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0285】
イオン性ポリマー3
Mw=150,600
Mw/Mn=1.85
【化77】
【0286】
イオン性ポリマー4
Mw=44,400
Mw/Mn=1.94
【化78】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0287】
イオン性ポリマー5
Mw=43,100
Mw/Mn=1.88
【化79】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0288】
イオン性ポリマー6
Mw=41,200
Mw/Mn=1.72
【化80】
【0289】
イオン性ポリマー7
Mw=43,600
Mw/Mn=1.93
【化81】
【0290】
イオン性ポリマー8
Mw=31,600
Mw/Mn=2.10
【化82】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0291】
イオン性ポリマー9
Mw=55,100
Mw/Mn=2.02
【化83】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0292】
イオン性ポリマー10
Mw=87,500
Mw/Mn=2.01
【化84】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0293】
イオン性ポリマー11
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化85】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0294】
イオン性ポリマー12
Mw=97,100
Mw/Mn=2.20
【化86】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0295】
イオン性ポリマー13
Mw=68,900
Mw/Mn=2.26
【化87】
【0296】
イオン性ポリマー14
Mw=67,300
Mw/Mn=2.00
【化88】
【0297】
導電膜溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1~4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMe2Vi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を還流させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF-99を用いた。
【0298】
導電膜溶液にアクリル系の粘着性樹脂として配合したアクリル粘着剤ポリマー1、2を以下に示す。
【0299】
アクリル粘着剤ポリマー1
Mw=560,000
Mw/Mn=2.69
【化89】
【0300】
アクリル粘着剤ポリマー2
Mw=410,000
Mw/Mn=2.87
【化90】
【0301】
ウレタン粘着剤としては、三洋化成工業(株)品のポリシックUPS-1AとポリシックUPS-1Bの混合品を用いた。これらのウレタン粘着剤は、シリコーンを含んでいないものである。
【0302】
導電膜溶液に配合した有機溶剤の説明を以下に示す。
アイソパーG:イソパラフィン系溶剤 スタンダード石油製
アイソパーM:イソパラフィン系溶剤 スタンダード石油製
DGDE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
【0303】
導電膜溶液に添加剤として配合したチタン酸リチウム粉、白金触媒、導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)、金属粉として配合した銀フレーク、付加反応制御剤として配合した1-エチニルシクロヘキサノールを以下に示す。
チタン酸リチウム粉:Sigma-Aldrich社製 サイズ200nm以下
白金触媒:信越化学工業製 CAT-PL-50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックLi-400
多層カーボンナノチューブ:Sigma-Aldrich社製 直径110~170nm、長さ5~9μm
銀フレーク:Sigma-Aldrich社製 平均サイズ10μm
付加反応制御剤:1-エチニルシクロヘキサノール
【0304】
[導電膜溶液1~13、比較導電膜溶液1]
表1、2に記載の組成で、イオン性ポリマー、粘着性樹脂、有機溶剤、及び添加剤(チタン酸リチウム粉、白金触媒、導電性向上剤)、金属粉、付加反応制御剤をブレンドし、300メッシュのステンレスフィルターでろ過し、導電膜溶液(導電膜溶液1~13、比較導電膜溶液1)を調製した。
【0305】
【0306】
【0307】
(生体電極の作製)
伸縮性基材として、多孔質膜1としてアクリル粘着剤が塗布された伸縮性が20%のポリエチレン不織布(400μm厚み)、多孔質膜2としてアクリル粘着剤が塗布された伸縮性が50%のポリウレタン不織布(400μm厚み)、多孔質膜3としてウレタン粘着剤が塗布された伸縮性が20%のポリエチレン不織布(380μm厚み)、多孔質膜4としてシリコーン粘着剤が塗布された伸縮性が20%のポリエチレン不織布(330μm厚み)、多孔質膜5としてアクリル粘着剤が塗布された伸縮性が20%のウレタンメンブレン膜(150μm厚み)を用いた。比較例用の非多孔質膜として、伸縮性が10%の膜厚50μmのTPUシートを用いた。
【0308】
導電路として、プラスチック表面に銀がコートされた上下スナップをスナップ1、カーボンがコートされたスナップ2、銀でコートされて下部スナップの導電膜との接触部が塩化銀でコートされているスナップ3を用いた。
【0309】
比較例3としては、市販のゲル電極ベースの生体電極(Kendall H135SG)を用いた。
【0310】
スナップの周りの補強フィルムとしては厚さ20μmのPETフィルムを用いた。
【0311】
図4に示されるプロセスで生体電極の製造を行った。粘着剤付きの多孔質膜又はTPUシート、及びPETフィルムにパンチングで穴を開け、上下スナップで挟んだ。導電膜の印刷は、テフロンシート上に各導電膜溶液又は比較導電膜溶液をスクリーン印刷し、125℃で15分間ベークして直径17mm、厚み20μmの導電膜のパターンを形成した。これを下部スナップ上に圧着転写し、その上にリリースライナーを貼り付けた。
【0312】
(リリースライナー上のシリコーン粘着導電膜の作製)
(1)
図4に示されるリリースライナー上のシリコーン粘着導電膜パターンの作製
リリースライナー上に、上記導電膜溶液を用い、スクリーン印刷機を用いてステンシル穴開きマスクでシリコーン粘着導電膜パターンを印刷し、室温にて風乾10分後125℃で10分間オーブン中で硬化させ、膜厚50μmのシリコーン粘着導電膜パターンを形成した。
【0313】
(2)
図6に示されるリリースライナーで挟まれたシリコーン粘着導電膜作製
リリースライナー上に、オールグッド(株)製自動フィルムアプリケーター(スリットコーター)を用い、上記導電膜溶液を塗布し、室温にて風乾10分後125℃で10分間オーブン中で硬化させた。スリットコーターのスリット幅をそれぞれ350μm、550μm、740μmとし、それぞれ硬化後の膜厚が50μm、100μm、150μm厚みのシリコーン粘着導電膜を形成した。50μm厚品は、表3中の実施例16、19、20、21に適用、膜厚100μm品は実施例17、膜厚150μm品は実施例18の生体電極の作製に適用した。
【0314】
リリースライナーとしては、下記のものを用いた。
1:ニッパ(株)製PETセパレーターSS1A(100μm厚み)
2:ニッパ(株)製PETセパレーターSS1A(50μm厚み)
3:ニッパ(株)製PETセパレーターFSD5(100μm厚み)
4:ニッパ(株)製PETセパレーターFSD5(38μm厚み)
5:テフロン繊維シート(280μm厚み)
PETセパレーターSS1Aの剥離力よりも、PETセパレーターFSD5の剥離力が低く、より剥離しやすい。又、PETセパレーターSS1A(100μm厚み)よりもPETセパレーターSS1A(50μm厚み)の方が剥離力が低い。PETセパレーターFSD5(38μm厚み)よりもテフロン繊維シートの方が剥離力が低い。
【0315】
シリコーン粘着導電材溶液を塗布、硬化後に貼り付けるリリースライナーは、シリコーン粘着導電材溶液を塗布するリリースライナーよりも剥離力を低くする必要がある。上下2枚のリリースライナーが同じ場合剥離力が同じだと、異差剥離が出来なくなる場合があるためである。
【0316】
表3中、リリースライナーが2つ記載されている場合、左側がシリコーン粘着導電膜溶液を塗布する方で、右側が硬化後のシリコーン粘着導電膜を覆う方である。
【0317】
実施例16の生体電極の作製に用いた上下にリリースライナーを貼り付けた幅16cm、長さ29cm、シリコーン粘着導電膜の厚み50μmのシートの写真を
図33に示す。
【0318】
【0319】
(生体接触層の厚さ測定)
上記の生体電極の作製で作製した生体電極において、多孔質膜と導電膜を合わせた厚さをマイクロメーターを用いて測定した。基材がTPUシートの場合はTPUシートと導電膜を合わせた厚みを測定した。これらの厚みを生体接触層の厚さとした。結果を表3に示す。
【0320】
(生体信号の測定)
生体電極のリリースライナーを剥がし、貼り付け直前に貼り付けの場所の肌を水で湿らせたガーゼで拭いて、心電計のプラス電極を
図34中の人体のLAの場所、マイナス電極をLLの場所、アースをRAの場所に貼り付けた。
貼り付け直後と、毎日同時刻に、椅子に座った安静状態で、オムロンヘルスケア(株)製携帯心電計HCG-901とを生体電極のスナップと導電線の先に取り付けたクリップで挟んで接続し、心電図の測定を行った。測定していない時は、生体電極は体に貼り付けたままの状態とし、前記携帯心電計と電線のみを外した。1日1回、15分から30分の間、約40℃の風呂に入浴した。結果を表3に示す。
図35に示されるPQRSTU波に代表されるECGシグナルが現れるかどうかを確認し、この波形が出てこなくなるまで計測を行った。
【0321】
【0322】
表3の実施例1~23に示されるように、伸縮性基材として多孔質膜を用い、珪素を含有する粘着性の導電膜と導電路を有する本発明の生体電極では、貼り付けてから長い間生体信号が採取可能であった。一方、伸縮性基材として穴が空いていないTPUシートを用いた比較例1の場合は、皮膚呼吸が出来ないために痒みが発生し、貼り付け3日後に剥がしてしまった。伸縮性基材として多孔質膜を用いた場合でも、導電膜として珪素を含有していない比較例2の場合は、水による劣化が生じ、生体信号の採取日が短くなった。市販のゲル電極の比較例3の場合は、生体接触層の厚みが本発明の生体電極の生体接触層の厚みより厚くなるうえ、1日目の入浴時にゲルが膨潤して剥がれてしまった。実施例の生体電極の多孔質膜と導電膜を合わせた厚みは薄膜で、肌に貼り付けた装着感が無く快適であった。
【0323】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【要約】
本発明は、生体電極であって、多孔質の伸縮性基材と、珪素を含有する粘着性の導電膜と、導電路とを有し、前記導電膜が前記多孔質の伸縮性基材の片面に形成されており、前記導電路が前記導電膜に接続し、かつ前記伸縮性基材を貫通し反対側に露出しているものであることを特徴とする生体電極である。これにより、生体信号の感度が高く、生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても、長期間肌に貼り付けても生体信号の感度が大幅に低下することがなく、肌の痒み、赤斑、かぶれがなく快適な生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法が提供される。