(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】アザフルバレン化合物、その製造方法及び電気化学測定用組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 235/20 20060101AFI20220930BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C07D235/20 CSP
G01N27/416 300Z
(21)【出願番号】P 2019023563
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】中野 健央
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真人
(72)【発明者】
【氏名】宮下 真人
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/102069(WO,A2)
【文献】特表2010-530845(JP,A)
【文献】特開2009-238927(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121077(WO,A1)
【文献】Chemistry of Materials,2001年,Vol.13(5),p.1770-1777
【文献】Journal of Heterocyclic Chemistry,1999年,Vol.36(4),p.1001-1012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 235/20
G01N 27/416
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は、炭素数7から20のアルキル基を表す。R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1から20のアルキル基を表す。)で示されるアザフルバレン化合物。
【請求項2】
R
1が炭素数7から10のアルキル基であり、R
2が水素原子であり、R
3及びR
4が、各々独立に、水素原子又は炭素数1から10のアルキル基である請求項1に記載のアザフルバレン化合物。
【請求項3】
一般式(1a)又は(1b)
【化2】
(式中、R
1及びR
2は前記と同じ意味を表す。)で示される、請求項1又は2のいずれかに記載のアザフルバレン化合物。
【請求項4】
一般式(2)
【化3】
(式中、R
1は、炭素数7から20のアルキル基を表す。R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1から20のアルキル基を表す。)で示されるビスイミダゾール化合物と、酸化剤とを反応させる、一般式(1)
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は前記と同じ意味を表す)で示されるアザフルバレン化合物の製造方法。
【請求項5】
酸化剤が二酸化マンガンである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3いずれか一項に記載のアザフルバレン化合物を含む電気化学測定用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元反応に安定な新規なアザフルバレン化合物及びその製造方法に関するものである。また、該アザフルバレン化合物を用いた電気化学測定用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池は携帯機器や車載電源に活用されており、今後ますますの需要拡大が予想される。一方で、現行の二次電池用正極材料にはコバルト等のレアメタルが用いられており、供給リスクが懸念されている。このため、資源的制約がない有機二次電池用正極材料が注目されている。二次電池用正極材料として使用される有機化合物としては、酸化状態と還元状態の双安定性を有し、酸化還元反応が可逆かつ円滑に進行するものが好ましい。
【0003】
非特許文献1には、ベンゾ環上に置換基を持つアザフルバレン類の合成が開示されているが、その置換基は本発明のアザフルバレン化合物とは異なり、また、その電気化学的性質については一切触れられていない。
【0004】
また、特許文献1には、二次電池用正極材料としてアザフルバレン類が例示されているが、アザフルバレン骨格上の置換位置等は限定されておらず、その置換基も本発明のアザフルバレン化合物とは異なる。また、化合物の合成もなされておらず、それらの電気化学的性質についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Heterocyclic Chemistry,1999年,36巻,1001頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電気化学的に安定なアザフルバレン化合物と、該化合物を含む電気化学測定用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、種々の置換基を有する新規なアザフルバレン化合物を合成し、それらが電気化学測定を行うための有機溶媒への良好な溶解性を有していることを見出した。また、サイクリックボルタンメトリー測定により、該アザフルバレン化合物は可逆に酸化還元反応が進行し、その還元電位が二次電池用有機正極材料に適したものであることも併せて見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
[1]
以下の一般式(1)
【0010】
【0011】
(式中、R1は、炭素数7から20のアルキル基を表す。R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1から20のアルキル基のいずれかを表す。)で示されるアザフルバレン化合物;
[2]
R1が炭素数7から10のアルキル基であり、R2が水素原子であり、R3及びR4が、各々独立に、水素原子又は炭素数1から10のアルキル基のいずれかである前記[1]に記載のアザフルバレン化合物;
[3]
以下の一般式(1a)又は(1b)
【0012】
【化2】
(式中、R
1及びR
2は前記と同じ意味を表す。)で示される、前記[1]又は[2]のいずれかに記載のアザフルバレン化合物;
に関する。
【0013】
また本発明は、
[4]
以下の一般式(2)
【0014】
【0015】
(式中、R1は、炭素数7から20のアルキル基を表す。R2、R3及びR4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1から20のアルキル基のいずれかを表す。)で示されるビスイミダゾール化合物と、酸化剤とを反応させる、一般式(1)
【0016】
【0017】
(式中、R1、R2、R3及びR4は前記と同じ意味を表す)で示されるアザフルバレン化合物の製造方法;
[5]
酸化剤が二酸化マンガンである前記[4]に記載のアザフルバレン化合物の製造方法;
[6]
前記[1]~[3]に記載のアザフルバレン化合物を含む電気化学測定用組成物。
に関する。
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のアザフルバレン化合物におけるR1、R2、R3及びR4の定義について説明する。
【0020】
R2、R3及びR4で表される炭素数1から20のアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、メチル基、シクロヘキシルメチル基、エチル基、2-シクロペンチルエチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-シクロプロピルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、2-メチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2-ペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、4,4-ジメチルペンタン-2-イル基、3-ペンチル基、3-エチルペンタン-3-イル基、シクロペンチル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、3-エチルシクロペンチル基、ヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-ヘキシル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、5,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、3-ヘキシル基、2,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、シクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、4-プロピルシクロヘキシル基、4,4-ジメチルシクロヘキシル基、ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、オクチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノニル基、5-ノニル基、デシル基、2-デシル基、5-デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等を例示することができる。これらのうち、本発明のアザフルバレン化合物の溶解性が良い点で、炭素数7から10のアルキル基が好ましく、オクチル基がさらに好ましい。
【0021】
R2、R3及びR4としては、合成が容易である点で、水素原子が好ましい。
【0022】
R1で表される炭素数7から20のアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的には、シクロヘキシルメチル基、2-シクロペンチルエチル基、3-エチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンタン-2-イル基、3-エチルペンタン-3-イル基、2,5-ジメチルシクロペンチル基、3-エチルシクロペンチル基、2-メチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、5,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、2,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、4-エチルシクロヘキシル基、4-プロピルシクロヘキシル基、4,4-ジメチルシクロヘキシル基、ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、オクチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノニル基、5-ノニル基、デシル基、2-デシル基、5-デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等を例示することができる。これらのうち、本発明のアザフルバレン化合物の溶解性が良い点で、炭素数7から10のアルキル基が好ましく、オクチル基がさらに好ましい。
【0023】
本発明のアザフルバレン化合物(1)としては、特に限定するものではないが、以下の1-1~1-42に示す構造の化合物を具体的に例示することができる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【化18】
1-1から1-42で示される化合物のうち、溶解性が良い点で、本発明のアザフルバレン化合物としては1-1、1-2、1-3で示される化合物が好ましい。
【0038】
次に、本発明のアザフルバレン化合物(1)の製造方法について説明する。
【0039】
本発明のアザフルバレン化合物(1)は、次の工程1から3により製造することができる。
【0040】
【化19】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は前記と同じ意味を表す。R
9及びR
10は各々独立に、水素原子又は炭素数1から4のアルキル基のいずれかを表す。)
工程1は、フェニレンジアミン(3a)とシュウ酸化合物(4)とを反応させ、工程2で用いるベンゾイミダゾール化合物(5)を製造する工程である。
【0041】
工程1に用いるフェニレンジアミン(3a)は、例えば、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2004年,14巻,4903頁に開示されている方法を用いて製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0042】
工程1に用いるシュウ酸化合物(4)は公知の方法により合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0043】
シュウ酸化合物(4)におけるR9及びR10で表される炭素数1から4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基等を例示することができる。これらのうち、収率がよい点でエチル基が好ましい。
【0044】
工程1に用いるフェニレンジアミン(3a)とシュウ酸化合物(4)とのモル比に特に制限はないが、収率がよい点で3:1から1:2の範囲にあることが好ましく、2:1から1:1の範囲にあることがさらに好ましい。
【0045】
工程1は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、具体的には、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。これらのうち、収率がよい点で、アルコールが好ましく、エチレングリコールがさらに好ましい。
【0046】
工程1を実施する際の反応温度には特に制限はないが、50℃から250℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することができ、収率がよい点で120℃から200℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0047】
ベンゾイミダゾール化合物(5)は、工程1の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華又は分取HPLC等で精製してもよいが、精製を行わずに工程2に供してもよい。
【0048】
工程2は、ベンゾイミダゾール化合物(5)とフェニレンジアミン(3b)とを反応させ、本発明のアザフルバレン化合物(1)の製造に用いるビスイミダゾール化合物(2)を製造する工程である。
【0049】
工程2に用いるフェニレンジアミン(3b)は、工程1にて記載したフェニレンジアミン(3a)と同様に入手することができる。
【0050】
工程2に用いるベンゾイミダゾール化合物(5)とフェニレンジアミン(3b)とのモル比に特に制限はないが、収率がよい点で1:1から1:10の範囲にあることが好ましく、1:4から1:8の範囲にあることがさらに好ましい。
【0051】
工程2は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、工程1にて例示した溶媒と同様のものを例示することができ、収率がよい点で、アルコールが好ましく、エチレングリコールがさらに好ましい。
【0052】
工程2を実施する際の反応温度には特に制限はないが、50℃から250℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することができ、収率がよい点で180℃から200℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0053】
ビスイミダゾール化合物(2)は、工程2の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華又は分取HPLC等で精製してもよいが、精製を行わずに工程3に供してもよい。
【0054】
工程3は、ビスイミダゾール化合物(2)と酸化剤とを反応させ、本発明のアザフルバレン化合物(1)を製造する工程(以下、本発明の製造法とも称する。)である。
【0055】
本発明の製造法に用いる酸化剤は特に限定するものではないが、具体的には、二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、ヘキサニトラトセリウムアンモニウム(CAN)等の無機酸化剤、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)等の有機酸化剤、酸素、過酸化水素を例示することができる。これらのうち、反応後の処理が簡便な点で無機酸化剤が好ましく、二酸化マンガンがさらに好ましい。
【0056】
本発明の製造法に用いる酸化剤とビスイミダゾール化合物(2)とのモル比に特に制限はないが、本発明のアザフルバレン化合物(1)を十分量製造するために100:1から2:1の範囲にあることが好ましく、30:1から2:1の範囲にあることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の製造法は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、具体的には、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、CPME、THF、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N,N’-ジメチルプロピレンウレア(DMPU)等のウレア又はジメチルスルホキシド(DMSO)を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。溶媒の使用量に特に制限はない。これらのうち、原料であるビスイミダゾール化合物(2)の溶解性がよい点で、エーテルが好ましく、THFがさらに好ましい。
【0058】
本発明の製造法を実施する際の反応温度には特に制限はないが、通常は20℃から200℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することがでる。
【0059】
本発明の製造法を実施する際の反応時間には特に制限はないが、5から300時間の範囲から適宜選択された反応時間にて実施することができ、本発明のアザフルバレン化合物(1)を十分量製造するために20時間以上反応させることが好ましい。
【0060】
本発明のアザフルバレン化合物(1)は、本発明の製造法の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、PTLC等で精製してもよい。
【0061】
また、本発明のアザフルバレン化合物(1)に含まれるアザフルバレン化合物(1a)及び(1b)(以下、本発明のアザフルバレン化合物(1a)及び(1b)と称する。)は、次の反応式に示される工程4及び5により製造することができる。
【0062】
【0063】
(式中、R1、R2、R9及びR10は前記と同じ意味を表す。)
工程4は、フェニレンジアミン(3a)とシュウ酸化合物(4)とを反応させ、本発明のアザフルバレン化合物(1a)及び(1b)の製造に用いるビスイミダゾール化合物(2a)を製造する工程である。
【0064】
工程4に用いるフェニレンジアミン(3a)とシュウ酸誘導体(4)とのモル比に特に制限はないが、収率がよい点で2:1から10:1の範囲にあることが好ましく、4:1から8:1の範囲にあることがさらに好ましい。
【0065】
工程4は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、工程1にて例示した溶媒と同様のものを例示することができ、収率がよい点で、アルコールが好ましく、エチレングリコールがさらに好ましい。
【0066】
工程4を実施する際の反応温度には特に制限はないが、収率がよい点で50℃から250℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することができ、180℃から200℃の範囲から適宜選択された温度にて実施することが好ましい。
【0067】
ビスイミダゾール化合物(2a)は、工程4の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華又は分取HPLC等で精製してもよいが、精製を行わずに工程5に供してもよい。
【0068】
工程5は、ビスイミダゾール化合物(2a)と、酸化剤とを反応させ、本発明のアザフルバレン化合物(1a)及び(1b)を製造する工程(以下、本発明の製造法とも称する。)である。
【0069】
本発明の製造法に用いる酸化剤としては、工程3にて例示した酸化剤と同様のものを例示することができ、反応後の処理が簡便な点で無機酸化剤が好ましく、二酸化マンガンがさらに好ましい。
【0070】
工程5に用いる酸化剤とビスベンゾイミダゾール化合物(2)とのモル比に特に制限はないが、本発明のアザフルバレン化合物(1)を十分量製造するために100:1から2:1の範囲にあることが好ましく、30:1から2:1の範囲にあることがさらに好ましい。
【0071】
工程5は溶媒中で実施することができる。用いることのできる溶媒に特に制限はなく、反応を阻害しない溶媒であればよい。このような溶媒としては、工程3にて例示した溶媒と同様のものを例示することができ、これらのうち、原料であるビスイミダゾール化合物(2a)の溶解性が大きい点で、エーテルを用いることが好ましく、THFがさらに好ましい。
【0072】
工程5を実施する際の反応温度には特に制限はないが、通常は20℃から200℃から適宜選択された温度にて実施することができる。
【0073】
本発明のアザフルバレン化合物(1a)及び(1b)は、工程5の反応の終了後に通常の処理を行うことで得ることができる。必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー、PTLC等で精製してもよい。
【0074】
次に、本発明のアザフルバレン化合物(1)を含む電気化学測定用組成物の調製方法について説明する。
【0075】
該電気化学測定用組成物は、本発明のアザフルバレン化合物(1)を、電解質化合物と共に溶媒に溶解することにより、調製することができる。
【0076】
該電気化学測定用組成物の調製に用いる電解質としては、当業者が電気化学測定に通常用いるものを挙げることが出来、例えば、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラエチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムトシラート、テトラブチルアンモニウムトシラート等のアンモニウム塩、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム等のリチウム塩を例示することができる。これらのうち、溶解性が良い点でアンモニウム塩が好ましく、ヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウムがさらに好ましい。電解質の使用量に特に制限はなく、電解質の濃度が、好ましくは0.001から5.0M、さらに好ましくは0.01から2.0Mの範囲から適宜選ばれた濃度となるように電解質を使用することができる。
【0077】
該電気化学測定用組成物の調製に用いる溶媒としては、適当な電位窓を有している有機溶媒であれば特に制限はなく、ジエチルエーテル、THF、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のエステル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル、ニトロメタン、DMF、DMSO、ヘキサメチルリン酸トリアミド等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。これらのうち、本発明のアザフルバレン化合物の溶解性が良く、電位窓が適切である点でアセトニトリル、ジクロロメタン、ジエチルカーボネートが好ましく、ジクロロメタンがさらに好ましい。
【0078】
該電気化学測定用組成物の調製に用いる本発明のアザフルバレン化合物の濃度は、好ましくは0.01から10mM、さらに好ましくは0.1から2mMの範囲から適宜選ばれた濃度となるように本発明のアザフルバレン化合物を加えることができる。
【0079】
該電気化学測定用組成物の調製において、電解質等を溶解させる方法は、例えば、撹拌、振盪、超音波照射等、当業者の良く知る方法を用いることができる。この際、加熱してもよい。
【0080】
次に、該電気化学測定用組成物を用いるサイクリックボルタンメトリー測定の方法について説明する。
【0081】
サイクリックボルタンメトリー測定は、本発明の電気化学測定用組成物に作用電極、参照電極及び対電極を挿入し、専用の市販装置を用いることで測定することができる。
【0082】
該作用電極としては、特に制限はないが、白金電極、グラッシーカーボン電極等の電極を挙げることができる。これらのうち、電子授受が円滑に進行する白金電極が好ましく、表面積が大きいワイヤ状白金電極がさらに好ましい。
【0083】
該参照電極としては、特に制限はなく、一般に市販されているAg/AgCl電極、Ag/Ag+電極等を用いることができる。
【0084】
該対電極としては、一般的な白金電極を用いることができる。形状に特に制限はないが、板状、ワイヤ状のものが挙げられる。これらのうち、表面積が大きい点で、ワイヤ状の白金電極が好ましい。
【0085】
本発明のアザフルバレン化合物は、サイクリックボルタンメトリー測定により可逆な酸化還元反応の進行が見られたことから、リチウムイオン電池など、二次電池用正極材料としての利用が見込める。
【発明の効果】
【0086】
本発明のアザフルバレン化合物は酸化状態と還元状態の双安定性を有し、その還元電位は既存材であるアントラキノン類と比べ高いものであることから、高い起電力を持つ二次電池用有機正極材としての利用が見込める。
【実施例】
【0087】
以下、実施例、参考例、及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0088】
本発明のアザフルバレン化合物等の同定には、以下の分析方法を用いた。1H-NMRの測定には、Bruker ASCENDTM AVANCE III HD(400MHz)を用いた。1H-NMRは、重クロロホルム(CDCl3)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。また、試薬類は市販品を用いた。
【0089】
参考例-1
【0090】
【0091】
アルゴン雰囲気下、4-メチル-1,2-フェニレンジアミン(3.35g,27mmol)にシュウ酸ジエチル(1.02g,6.8mmol)及びエチレングリコール(14mL)を加え、200℃で30時間撹拌した。この反応混合物に蒸留水を加え析出した固体をろ取した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=20:1、1%トリエチルアミン添加)で精製し、目的の5,5’-ジメチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(2.95g,11mmol,82%)を得た。
1H―NMR(CDCl3)δ2.44(s,6H),3.78(s,2H),7.12(d,J=8.1Hz,2H),7.37-7.42(m,2H),7.48-7.55(m,2H).
参考例-2
【0092】
【0093】
アルゴン雰囲気下、4-ヘキシル-1,2-フェニレンジアミン(3.00g,13mmol)にシュウ酸ジエチル(0.55mL,3.9mmol)及びエチレングリコール(7.8mL)を加え、200℃で35時間撹拌した。この反応混合物に蒸留水を加え析出した固体をろ取した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=20:1、1%トリエチルアミン添加)で精製し、目的の5,5’-ジへキシル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(1.23g,3.1mmol,78%)を得た。
1H―NMR(CDCl3)δ0.84(t,J=6.6Hz,6H),1.25-1.33(m,12H),1.55-1.62(m,4H),2.66(t,J=7.7Hz,4H),7.12(d,J=8.5Hz,2H),7.40(m,2H),7.53(m,2H).
参考例-3
【0094】
【0095】
アルゴン雰囲気下、4-オクチル-1,2-フェニレンジアミン(6.01g,27mmol)にシュウ酸ジエチル(1.00g,6.8mmol)及びエチレングリコール(14mL)を加え、200℃で37時間撹拌した。この反応混合物に蒸留水を加え析出した固体をろ取した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=10:1、1%トリエチルアミン添加)で精製したのち、エタノール洗浄し、目的の5,5’-ジオクチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(2.73g,5.9mmol,88%)を得た。
1H―NMR(CDCl3)δ0.84(t,J=6.8Hz,6H),1.22-1.30(m,20H),1.55-1.62(m,4H),2.66(t,J=7.6Hz,4H),7.13(d,J=8.4Hz,2H),7.40(m,2H),7.51-7.56(m,2H).
参考例-4
【0096】
【0097】
アルゴン雰囲気下、4-オクチル-1,2-フェニレンジアミン(1.52g,6.8mmol)にシュウ酸ジエチル(1.00g,6.8mmol)及びエチレングリコール(14mL)を加え、200℃で25時間撹拌した。この反応混合物に蒸留水を加え析出した固体をろ取した。得られた固体をエタノール洗浄により精製し、目的の5-オクチル-ベンゾイミダゾール-2-カルボン酸(1.29g,4.7mmol,69%)を得た。
1H―NMR(DMSO-d6)δ0.85(t,J=6.8Hz,3H),1.24-1.29(m,10H),1,49-1.55(m,2H),2.52(t,J=7.5Hz,2H)6.90-6.92(m,2H),7.02(d,J=8.8Hz,1H),11.8(m,2H)
参考例-5
【0098】
【0099】
アルゴン雰囲気下、5-オクチル-ベンゾイミダゾール-2-カルボン酸(1.00g,3.6mmol)に1,2-フェニレンジアミン(2.63g,24mmol)及びエチレングリコール(7.5mL)を加え、200℃で27時間撹拌した。この反応混合物に蒸留水を加え析出した固体をろ取した。得られた固体をエタノール洗浄により精製し、目的の5-オクチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(279mg,0.81mmol,22%)を得た。
1H―NMR(CDCl3)δ0.84(t,J=6.9Hz,3H),1.22-1.30(m,10H),1.55-1.62(m,2H),2.66(t,J=7.6Hz,2H),7.15(d,J=8.9Hz,1H),7.29-7.33(m,2H),7.40-7.44(m,1H),7.55-7.57(m,1H),7.60-7.75(m,2H)
参考例-6
【0100】
【化26】
アルゴン雰囲気下、参考例-1で得られた5,5’-ジメチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(300mg,1.1mmol)に二酸化マンガン(2.01g,23mmol)及びテトラヒドロフラン(12mL)を加え、室温で48時間攪拌した。この反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧乾固した。得られた固体をPTLC(クロロホルム:酢酸エチル=5:1)によって精製し、目的の2-(5’-メチル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-メチル-2H-ベンゾイミダゾールと2-(6’-メチル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-メチル-2H-ベンゾイミダゾールを混合物として得た(47mg,0.18mmol,14%)。
1H―NMR(CDCl
3)δ2.71(s,3.18H),2.72(s,2.82H),7.78(dd,J=1.9,9.1Hz,1.06H),7.79(dd,J=1.9,9.1Hz,0.94H),8.12-8.14(m,2H)8.29(d,J=9.1Hz,2H).
参考例-7
【0101】
【化27】
アルゴン雰囲気下、参考例-2で得られた5,5’-ジへキシル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(300mg,0.73mmol)に二酸化マンガン(1.28g,15mmol)及びテトラヒドロフラン(7.5mL)を加え、室温で51時間攪拌した。この反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧乾固した。得られた固体をPTLC(ヘキサン:クロロホルム=2:1)によって精製し、目的の2-(5’-ヘキシル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-ヘキシル-2H-ベンゾイミダゾールと2-(6’-ヘキシル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-ヘキシル-2H-ベンゾイミダゾールを混合物として得た(15mg,0.040mmol,5%)。
1H―NMR(CDCl
3)δ0.91(t,J=7.0Hz,6H),1.30-1.41(m,8H),1.43-1.50(m,4H),1.79-1.87(m,4H),2.94-2.98(m,4H),7.80(dd,J=1.9,9.1Hz,0.7H),7.81(dd,J=1.9,9.1Hz,1.3H),8.11-8.12(m,2H)8.30(d,J=9.1Hz,2H).
実施例-1
【0102】
【化28】
アルゴン雰囲気下、参考例-3で得られた5,5’-ジオクチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(100mg,0.22mmol)に二酸化マンガン(390mg,4.4mmol)及びテトラヒドロフラン(2.0mL)を加え、室温で67時間攪拌した。この反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧乾固した。得られた固体をPTLC(ヘキサン:クロロホルム=3;1)によって精製し、目的の2-(5’-オクチル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-オクチル-2H-ベンゾイミダゾールと2-(6’-オクチル-2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-オクチル-2H-ベンゾイミダゾールを混合物として得た(5mg,0.010mmol,5%)。
1H―NMR(CDCl
3)δ0.88(t,J=7.0Hz,6H),1.22-1.48(m,20H),1.79-1.88(m,4H),2.94-2.98(m,4H),7.80(dd,J=1.9,9.0Hz,0.38H),7.81(dd,J=1.9,9.0Hz,1.62H),8.12-8.13(m,2H)8.31(d,J=9.0Hz,2H).
実施例-2
【0103】
【0104】
アルゴン雰囲気下、5-オクチル-2,2’-ビスベンゾイミダゾール(100mg,0.314mmol)に二酸化マンガン(546mg,6.29mmol)及びテトラヒドロフラン(3.1mL)を加え、室温で50時間攪拌した。この反応混合物をセライトろ過し、ろ液を減圧乾固した。得られた固体をPTLC(クロロホルム:酢酸エチル=10:1)によって精製し、目的の2-(2H-ベンゾイミダゾロ-2’-イリデン)-5-オクチル-2H-ベンゾイミダゾール(2mg,0.0060mmol,2%)を得た。
1H―NMR(CDCl3)δ0.88(t,J=7.0Hz,3H),1.25-1.40(m,10H),1.79-1.87(m,2H),2.96(t,J=7.6Hz,2H),7.82(dd,J=1.8,9.2Hz,1H),7.94-7.99(m,2H),8.12-8.13(m,1H),8.31(d,J=9.2Hz,1H),8.39-8.44(m,2H).
試験例-1
(電気化学測定組成物の調製)
空気下、20mLメスフラスコに、実施例-1で得られたアザフルバレン化合物(4.0mg,0.0087mmol)及びヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム(3.37g,8.7mmol)を取り、ジクロロメタンでメスアップした。室温で1時間放置し、固体が析出せず、溶液状態を保持していることを確認した。
【0105】
試験例-2
(サイクリックボルタンメトリー測定)
実施例-3で調製した電気化学測定組成物に、アルゴンガスを10分間バブリングすることで溶存酸素を除去した。そこに、作用電極として白金電極、参照電極として内部液を飽和KCl水溶液としたAg/AgCl電極、対電極として白金電極を差し込み、測定装置と繋いだ。測定装置としては、HSV-110(北斗電工株式会社)を使用した。
【0106】
測定条件について、初期電位印加時間を1s、電位窓を-1.5~0.4V、繰り返し回数を5、Slope Rangeを10mV/s、Slope Valueを5とし、測定を行った。結果として、可逆な2電子酸化及び還元を示すボルタモグラムが得られ、該アザフルバレン化合物は酸化/還元状態の双安定性を有することが確認できた。
【0107】
また、該アザフルバレン化合物の還元電位は-0.47VvsAg/AgClであり、2.78VvsLi/Li+と算出された。