(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】被覆基板
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20220930BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20220930BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20220930BHJP
E06B 3/66 20060101ALI20220930BHJP
E06B 3/67 20060101ALI20220930BHJP
E06B 9/24 20060101ALN20220930BHJP
【FI】
C03C17/36
B32B17/06
C03C17/34 Z
E06B3/66 Z
E06B3/67 A
E06B9/24 Z
(21)【出願番号】P 2019559037
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2018060964
(87)【国際公開番号】W WO2018202595
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-15
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515327188
【氏名又は名称】エージーシー グラス コムパニー ノース アメリカ
(73)【特許権者】
【識別番号】518428303
【氏名又は名称】エージーシー ビードロス ド ブラジル エルティーディーエー
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ボスガエルド, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ペルー, ウジェニー
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-147978(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第818561(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0268260(US,A1)
【文献】特開2000-262367(JP,A)
【文献】特開2002-363496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/00-17/44
B32B17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・基板と、
・前記基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に与えられた、物理蒸着によって堆積された1つ以上の層を含む軟質コーティング
、ただし、前記軟質コーティングは、日射制御又は断熱低Eコーティングである、と、
・前記軟質コーティング上の前記面の少なくとも一部分の上に与えられたゾル-ゲルコーティングと
を含む被覆基板であって、前記ゾル-ゲルコーティングが、
0.10~3の範囲の酸化チタンTiO
2/酸化ケイ素SiO
2、
0.10~3の範囲の酸化ジルコニウムZrO
2/酸化ケイ素SiO
2、
0~0.03の範囲の酸化ビスマスBi
2O
3/酸化ケイ素SiO
2、
0~0.03の範囲の酸化セリウムCeO
2/酸化ケイ素SiO
2
の理論重量比で酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含むことを特徴とする、被覆基板。
【請求項2】
前記基板がガラス基板である、請求項1に記載の被覆基板。
【請求項3】
前記ゾル-ゲルコーティングが、前記軟質コーティングを与えられた前記基板の前記面の少なくとも一部分の上に、且つ前記軟質コーティングと直接接触して与えられる、請求項1
又は2に記載の被覆基板。
【請求項4】
前記ゾル-ゲルコーティングが、前記軟質コーティングの少なくとも実質的に全部の上に、且つ前記軟質コーティングと直接接触して与えられる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の被覆基板。
【請求項5】
前記ガラス基板が熱処理される、請求項2~
4のいずれか一項に記載の被覆基板。
【請求項6】
前記ガラス基板が焼戻しされる、請求項
5に記載の被覆基板。
【請求項7】
a)前記基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に軟質コーティングを形成するステップ
、ただし、前記軟質コーティングは、日射制御又は断熱低Eコーティングである、と、
b)前記軟質コーティング上の前記面の少なくとも一部分の上にゾル-ゲル溶液を適用するステップと、
c)前記ゾル-ゲル溶液を硬化して、
0.10~3の範囲の酸化チタンTiO
2/酸化ケイ素SiO
2、
0.10~3の範囲の酸化ジルコニウムZrO
2/酸化ケイ素SiO
2、
0~0.03の範囲の酸化ビスマスBi
2O
3/酸化ケイ素SiO
2、
0~0.03の範囲の酸化セリウムCeO
2/酸化ケイ素SiO
2
の理論重量比で酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含むゾル-ゲルコーティングを得るステップと
を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の被覆基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板がガラス基板である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガラス基板を加熱する次のステップを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラス基板を加熱するステップが焼戻しステップである、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
請求項2~
6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの被覆基
板を含むグレイジングユニットであって、前記軟質コーティング及び前記ゾル-ゲルコーティングを与えられた前記被覆基板の表面が前記ユニットの外側に面する、グレイジングユニット。
【請求項12】
前記グレイジングユニットが、1つのガラスパネルを含む単層グレイジングユニットである、請求項
11に記載のグレイジングユニット。
【請求項13】
前記グレイジングユニットが、空間によって分離された少なくとも2つのガラスパネルを含む複層グレイジングユニットである、請求項
11に記載のグレイジングユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質コーティング上の保護ゾル-ゲルコーティングの存在のため、耐機械性、耐化学性及び耐食性が増加した日射制御又は断熱低Eコーティングなどの軟質コーティングを与えられた被覆基板に関する。本発明は、そのような被覆基板の製造プロセスにも関する。特に、本発明は、加熱処理され得る軟質コーティング及び保護ゾル-ゲルコーティングを与えられた被覆ガラス基板、並びに前記被覆ガラス基板を含む複層グレイジング及び積層グレイジングに関する。
【背景技術】
【0002】
日射制御又は断熱低Eコーティングなどの軟質コーティングの多くは、低い放射率を提出し、そしてそれらのIR反射能力のためグレイジング中で使用されて、グレイジングの正確なエネルギー制御が可能となり、それによって、熱損失が減少し、且つ/又はグレイズ構造の過熱を避けることができる。残念なことに、ほとんどの軟質コーティングの限定的な耐機械性、耐化学性及び耐食性のため、それらの使用は制限される。実際に、そのようなコーティングは、それらの製造の間又はそれらの寿命の間に環境への曝露によって容易にダメージを受ける可能性がある。他の材料又は物体との接触又は摩擦などの機械的作用によって、引っ掻き傷又は擦り傷が生じる可能性がある。化学的環境(湿度、温度など)の変更、又は清浄剤若しくは日用品などの化学薬品との接触によって、軟質コーティング表面の劣化が導かれる。そのような劣化の結果は、美的及び機能的の両方である可能性がある。これは特に、金属ベースの赤外線反射層に依存する軟質コーティングに関して真である。金属ベースの赤外線反射層を有さないいくつかの軟質コーティングはグレイジングの外面上で使用可能であるが、それらの耐久性は、化学蒸着(CVD)によって製造された硬質コーティングの耐久性には達しない。
【0003】
ガラスシート上でのコーティングの製造の間に、被覆シートはしばしば、(a)輸送の間の他のシートなどに対する摩擦;(b)切断若しくはエッジシーミングステップの間及び/又はその付近にガラス取扱者によって使用されるペンチ;(c)ガラス取扱者が着用するグローブによって引き起こされる摩耗;(d)洗浄ステップ間のブラシ;並びに(e)製造業者施設におけるいずれかのステップの間に引き起こされる他の種類の摩擦/摩耗の1つ以上のために引っ掻き傷を生じる。さらに、腐食もダメージの有意な原因であり、これはしばしば、高湿度条件、酸性雨、並びに/或いは輸送、貯蔵及び/又は取扱いの間に被覆物品上に集まる傾向がある他の材料によって引き起こされる。
【0004】
上記種類のダメ―ジは、熱処理(例えば、焼戻し)の前に生じることが多いが、被覆シートの焼戻しは典型的にそのようなダメージを増大する。例えば、焼戻し前に引き起こされたわずかな腐食が、被覆シートを廃物にさせる有意な欠陥を熱処理の間に導く可能性がある。
【0005】
多くの用途又は市場によって、軟質コーティング、特に、それらの光学エネルギー特性及びIRスペクトル部分を遮断するそれらの能力のため、日射制御又は断熱低Eコーティングが要求されている。しかしながら、軟質コーティングの限定的な耐機械性、耐化学性及び/又は耐食性のため、単層グレイジングの場合、インテリア又はエクステリアでの使用、或いは複層グレイジングの場合、外部位置、すなわち、グレイジングの外部表面上でのそれらの使用が制限される。
【0006】
保護低Eコーティングを有するグレイジングを得るための周知の方法は、Penjerex(登録商標)PX-7060S又はPenjerex(登録商標)PX-8080の名称でNittoによって市販されるものなどの省エネ遮光フィルムを使用することである。これらの接着性フィルムは、ポリエステルフィルムによって保護された低Eコーティングを含有する。しかしながら、耐久性の理由のため、そのようなフィルムは建物のインテリアと接触するグレイジングの表面上にのみ使用されることが可能であり、それらは熱処理が不可能であり、そして窓製造業者又は最終使用者が現場でそれを設置することが義務付けられる。
【0007】
ガラス上の低Eアンダーコート上のゾル-ゲルコーティングの堆積が米国特許出願公開第20070243391号明細書に開示されている。ゾル-ゲルコーティングは紫外線(UV)放散の効率的な遮断を目的としており、そしてUV遮断剤として非常に高い量の酸化セリウムを含む。米国特許出願公開第20070243391号明細書には、低Eコーティングの機械的、化学的及び腐食保護、並びに低Eコーティングの放射率に及ぼすこのようなゾル-ゲルコーティングの影響についての記載はない。
【0008】
したがって、被覆基板、特に、コーティングの放射率及び/又は美観に有意な影響を及ぼすことなく、耐機械性、耐化学性及び耐食性が改善された軟質コーティングを与えられたガラス基板を開発することが必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
この背景に対して、我々は、
・基板と、
・基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に与えられた軟質コーティングと、
・軟質コーティング上の前記面の少なくとも一部分の上に与えられたゾル-ゲルコーティングと
を含む被覆基板であって、ゾル-ゲルコーティングが、酸化チタン、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含む被覆基板を提供する。
【0010】
本発明の1つの目的は、少なくとも1つの実施形態において、ゾル-ゲルコーティングの存在のために耐機械性、耐化学性及び耐食性が改善された軟質コーティングを含む被覆基板を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、物理蒸着(Physical Vapor Deposition)(PVD)によって堆積され、且つ日射制御又は断熱低Eコーティングの放射率が有意に影響を受けることなく、ゾル-ゲルコーティングの存在のために耐機械性、耐化学性及び耐食性が改善された日射制御又は断熱低Eコーティングを含む被覆基板を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、ゾル-ゲルコーティングの存在のために長時間持続する軟質コーティングを有する被覆基板を提供することである。
【0013】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、日射制御又は断熱低Eコーティングの放射率が有意に影響を受けることなく、ゾル-ゲルコーティングの存在のために長時間持続する、PVDによって堆積された日射制御又は断熱低Eコーティングを有する被覆基板を提供することである。
【0014】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、環境に暴露可能であり、すなわち、環境と接触する基板の面上に適用可能である、長時間持続する軟質コーティングを有する被覆基板を提供することである。
【0015】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、熱処理をするために適切であるか、又は焼戻しをするために適切である被覆ガラス基板を提供することである。
【0016】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングによって被覆された表面が、機械、化学及び腐食攻撃に耐性を示すために適切である、被覆基板を提供することである。
【0017】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、建築物、家電製品、輸送機関(自動車、バス、ボート、列車、路面電車など)又は温室などの用途における省エネのための長時間持続する被覆基板を提供することである。
【0018】
本発明のなおさらに別の目的は、少なくとも1つの実施形態において、消費者又は最終使用者への供給時に軟質コーティングがすでに保護されており、追加的な保護ステップを実行する必要のない被覆基板を提供することである。
【0019】
本発明は、被覆基板の製造プロセスも提供する。
【0020】
本発明は、基板がガラスである被覆基板を含むグレイジングユニット、特に単層又は複層グレイジングユニットを提供する。
【0021】
本発明の目的は、少なくとも1つの実施形態において、改善された耐機械性、耐化学性及び耐食性のため、軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングによって被覆された被覆ガラス基板の表面がユニットの外側と面する、すなわち、グレイジングのエクステリアと接触することを可能にするグレイジングユニットを提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の態様において、
・基板と、
・基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に与えられた軟質コーティングと、
・軟質コーティング上の前記面の少なくとも一部分の上に与えられたゾル-ゲルコーティングと
を含む被覆基板であって、ゾル-ゲルコーティングが、
0.10~3の範囲の酸化チタンTiO2/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化ビスマスBi2O3/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化セリウムCeO2/酸化ケイ素SiO2
の理論重量比で酸化チタン、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含む被覆基板が提供される。
【0023】
本発明による基板は、例えば、ガラス、並びにポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)などの透明ポリマーなどのいずれの基板であることも可能である。本発明による基板は、フラットであっても、又は湾曲/屈曲していてもよい。好ましくはガラス基板である。本発明によれば、基板は、より好ましくはガラスシートである。一実施形態によると、ガラスシートはフロートガラスシートである。「フロートガラスシート」という用語は、還元条件下で溶融スズの浴上に溶融ガラスを注ぎ入れることからなるフロート法によって形成されるガラスシートを意味するものとして理解される。フロートガラスシートは、既知の様式で、「空気面」及び「スズ面」を含み、後者は、シートの表面付近のガラス本体中でスズが豊富な面である。「スズが豊富」という用語は、実質的にゼロであり得るか、又はゼロでなくてもよい(スズがない)コアのガラスの組成に対してスズの濃度の増加を意味するものとして理解される。したがって、フロートガラスシートは、特に、例えば、約10ミクロンの深さまでの電子マイクロプローブによって測定され得る酸化スズ含有量によって、他のガラス製造法によって得られるシートから容易に区別可能である。多くの場合、そして例証として、この含有量は1~5重量%であり、表面から最初の10ミクロンにわたって集積化されている。
【0024】
或いは別の実施形態によると、ガラスシートは、キャスト又は引抜ガラスシートである。
【0025】
そのマトリックス組成が特に制限されず、したがって、異なる分類に属し得る本発明によるガラスシートは、ガラスから製造される。ガラスは、ソーダ-ライム-シリケートガラス、アルミノ-シリケートガラス、アルカリ-フリーガラス、ボロ-シリケートガラスなどであってよい。それは、透明、超透明(extra-clear)/低鉄含有量又は着色ガラスシートであり得る。好ましくは、本発明のガラスシートは、ソーダ-ライムガラス又はアルミノ-シリケートガラスから製造される。ガラスシートの非限定的な例は、Planibel(登録商標)Clear、Linea Azzura(登録商標)、Dragontrail(登録商標)、Tirex(登録商標)、Falcon(登録商標)、Clearvision(登録商標)、Clearlite(登録商標)である。
【0026】
本発明のガラスシートは、長さ、幅、形状及び/又は厚さなどのいずれかの所望の寸法であることが可能である。一実施形態において、本発明のガラスシートは、0.1~25mmの厚さを有し得る。
【0027】
本発明の目的に関して、軟質コーティングは、物理蒸着(PVD)、特にマグネトロンスパッタリングによって堆積された1つ以上の層を含むコーティングである。特に、軟質コーティングは、典型的に2層以上の誘電体層によって包囲される1つ以上の金属ベースの赤外線反射層を含んでよい。金属ベースの赤外線反射層は、銀をベースとすることが最も多いが、例えば、ニッケル、クロム、ニオブ、タングステン、ジルコニウム、チタンステンレス鋼又はその混合物などの金属をベースとしていてもよい。誘電体層は、1種以上の金属酸化物又は金属窒化物又は金属酸窒化物又は金属炭化物又はダイヤモンド様炭素層を含んでもよい。軟質コーティングは、いずれの金属層も含まなくてもよく、そして1種以上の金属酸化物又は金属窒化物又は金属酸窒化物又は金属炭化物又はダイヤモンド様炭素層又は透明導電性酸化物の1つ以上の層のみを含んでもよい。
【0028】
PVDによって製造される軟質コーティングは、一般に、制限された耐機械性、耐化学性及び耐食性を有するため、外部環境との接触するそれらの使用可能性は制限される。
【0029】
軟質コーティングは、特に日射制御又は断熱低Eコーティングである。例えば、限定されないが、そのような日射制御又は断熱低Eコーティングは、一重銀、二重銀又は三重銀コーティング積層体、或いは全て参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2005012200号パンフレット、国際公開第2006122900号パンフレット、国際公開第2007138097号パンフレット、国際公開第2011147875号パンフレット、国際公開第2011147864号パンフレット、国際公開第2013079400号パンフレット、国際公開第2014191472号パンフレット、国際公開第2014191474号パンフレット、国際公開第2014191484号パンフレットのいずれかのコーティングのいずれかであり得る。
【0030】
本発明の骨格において適切な軟質コーティングは、例えば、旭硝子(Asahi Glass Company)によって販売されるSunlux又はStopsolである。本発明に関して適切である日射制御又は断熱低Eコーティングの例は、これらも旭硝子(Asahi Glass Company)によって販売される、Silver Smart 30/51/69、Planibel AS、iplustop 1.1T、iplustop advanced 1.0Tである。
【0031】
本発明の軟質コーティングは、基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に与えられる。それは、前記面の一部分の上又は実質的に前記面の全部分の上に与えられることが可能である。いわゆるエッジ削除(edge deleted)ガラスシートの場合のように、それが表面の一部の上で与えられることが可能である。この場合、軟質コーティングは、被覆ガラスシートの表面の周囲で除去される。或いは、それは前記面の実質的に全部においても与えられることが可能である。実体(本明細書中、表面)の実質的に全部とは、本発明の骨格において、実体の少なくとも90%が被覆され、好ましくは実体の少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、最も好ましくは100%が被覆されていることを意味する。軟質コーティングは、基板のいずれかの面又は両面の上に与えられることが可能である。
【0032】
本発明において主張されるゾル-ゲルコーティングは、
0.10~3の範囲の酸化チタンTiO2/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化ビスマスBi2O3/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化セリウムCeO2/酸化ケイ素SiO2
の理論重量比で酸化チタン、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含む。
【0033】
主張された範囲は、範囲の限界も含む。
【0034】
ゾル-ゲルコーティングの金属酸化物の理論的重量は、次式:
理論重量=n(金属酸化物前駆体).Meq(金属酸化物)
(式中、n(金属酸化物前駆体)は、ゾル-ゲル溶液中に存在する所与の金属酸化物の前駆体の全金属当量数である。当量は、本明細書中、その一般的な意味を有し、すなわち、前駆体中の金属元素の数を掛けた前駆体のモル数である。ゾル-ゲル溶液次第で、所与の金属酸化物の1種以上の前駆体が存在してもよい。単一の前駆体が存在する場合、nは、所与の前駆体の金属当量数である。例えば、n1が第1の前駆体の金属当量数であり、且つn2が第2の前駆体の金属当量数である2種の前駆体n=n1+n2が存在する場合、Meq(金属酸化物)は、g/eqで表される金属酸化物の金属当量である。金属当量は、金属酸化物中の金属元素の数で割った金属酸化物のモル重量である(Bi2O3に関して、金属当量は2で割られたモル重量である))
によって定義される。
【0035】
同一理論重量の式がメタロイド及び非金属種に当てはまることは注意されなければならない。例えば、SiO2に関して、
理論重量(SiO2)=n(SiO2).Meq(SiO2)
であるが、式中、n(SiO2)は1を掛けたSiO2のモル数であり、Meq(SiO2)はモル重量と同じである。
【0036】
酸化チタンTiO2/酸化ケイ素SiO2の理論重量比は0.10~3の範囲である。この比率は、好ましくは少なくとも0.25、より好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも1である。この比率は、好ましくは最高2.5まで、より好ましくは最高2まで、最も好ましくは最高1.5までである。
【0037】
酸化ビスマスBi2O3/酸化ケイ素SiO2の理論重量比は0~0.03の範囲である。この比率は、好ましくは最高0.02まで、より好ましくは最高0.01までである。
【0038】
酸化セリウムCeO2/酸化ケイ素SiO2の理論重量比は0~0.03の範囲である。この比率は、好ましくは最高0.02まで、より好ましくは最高0.01までである。
【0039】
理論重量比及び比率は、本文中で区別されずに使用されるであろう。
【0040】
本発明による酸化チタンの量によって、ゾル-ゲルコーティング及び軟質コーティングを含む層システムの耐化学性及び耐食性を有利に改善することが可能となる。
【0041】
少量でのドーピング剤としての酸化セリウムの任意選択的な使用は、それが色に対して有意に影響を与えないため、特に低い黄変作用を有するため、有利である。
【0042】
ゾル-ゲルコーティングは、酸化ジルコニウム及び/又は酸化リンをさらに任意選択的に含み得る。酸化ジルコニウムが存在する場合、酸化ジルコニウム/酸化ケイ素比は0.10~3の範囲である。この比率は、好ましくは少なくとも0.25、より好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも1である。この比率は、好ましくは最高2.5まで、より好ましくは最高2まで、最も好ましくは最高1.5までである。酸化チタン/酸化ジルコニウムの比率は0.10~10である。この比率は、好ましくは少なくとも0.25、より好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも1である。この比率は、好ましくは最高6まで、より好ましくは最高4まで、最も好ましくは最高2までである。
【0043】
酸化ジルコニウムは、存在する場合、その引掻抵抗などのゾル-ゲルコーティングの耐機械性の改善、及び耐湿性の改善に関与する。それは特にゾル-ゲルコーティングの耐湿性を改善する。範囲の下限未満の量では有意な影響は生じない。したがって、範囲の上限より高い量は、酸化ケイ素及び/又は酸化チタンの量を制限するであろう。ゾル-ゲルコーティング中、酸化ケイ素の量が低すぎると接着性に対して有害であり得るが、酸化チタンの量が少なすぎると耐化学性に対して有害となり得る。
【0044】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明の被覆基板は、0.10~3の範囲の酸化ジルコニウムZrO2/酸化ケイ素SiO2の理論重量比で酸化ジルコニウムをさらに含むゾル-ゲルコーティングを含む。
【0045】
ゾル-ゲルコーティングは、Al2O3、Fe2O3、SnO2又はそれらのいずれかの混合物などの他の金属酸化物を任意選択的にさらに含んでもよい。それらはコーティング組成物の最大3重量%の全量で存在してよい。重量パーセントとは、同一重量単位で表されるコーティングの重量によって割られた前記金属酸化物の重量に100を掛けたものを意味する。この値は乾燥含有量で表される。
【0046】
ゾル-ゲルコーティングは、例えば、着色成分(例えば、無機顔料)又は疎水性若しくは疎油性若しくはオムニフォビック(omniphobic)特性を付与する部分などの特定の添加剤又は部分をさらに任意選択的に含んでよい。
【0047】
ゾル-ゲルコーティングは、軟質コーティングを与えられた基板の表面の少なくとも一部分の上及び軟質コーティングの上に与えられる。軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングの両方とも基板の実質的に全表面を被覆することが可能であるか、又はそれらは両方とも表面の同一部分を被覆することが可能であるか、又は軟質コーティングが表面の一部分を被覆することが可能であり、且つゾル-ゲルコーティングが基板の表面の大部分若しくは実質的に全部分を被覆することが可能である。ゾル-ゲルコーティングは軟質コーティングの上に与えられ、且つそれは軟質コーティングと直接接触することが可能であるか、或いは1つ以上の中間層によって軟質コーティングと分離していることが可能である。ゾル-ゲルコーティングは、好ましくは軟質コーティングと直接接触した状態で与えられ、すなわち、それら両方が存在する表面部分の上で軟質コーティングとゾル-ゲルコーティングの間に中間層は存在しない。より好ましくは、軟質コーティングと直接接触した状態で、そして少なくとも実質的に全軟質コーティングの上で与えられる。
【0048】
ゾル-ゲルコーティングの厚さは、典型的に50~500nmの範囲である。厚さは、好ましくは少なくとも100nmであり、好ましくは最大350nmまでである。厚さが非常に薄い場合、コーティングの保護効果はそれほど効率的ではなく、そして厚さ非常に厚い場合、ゾル-ゲルの収縮率のため、ゾル-ゲル溶液の硬化の間にコーティング中にクラックを生じるリスクが高い。
【0049】
軟質コーティング上の本発明のゾル-ゲル層の存在は、機械的、化学的及び腐食攻撃に対する軟質コーティングの保護を有利にもたらす。換言すれば、本発明による被覆基板は、ゾル-ゲルコーティングの存在のために改善された耐機械性、耐化学性及び耐食性を有する軟質コーティングを含む。それによって、PVD法によって製造された軟質コーティング、特に日射制御又は断熱低Eコーティングの使用を、それらが外部環境と接触する用途まで拡大することが可能となる。それらは、例えば、単層グレイジングの場合、インテリア又はエクステリアでの使用、或いは複層グレイジングの場合、外部位置、すなわち、それらが外部環境に面するグレイジングの外部表面上で使用され得る。
【0050】
日射制御又は断熱低Eコーティング上の本発明のゾル-ゲルコーティングの存在は、有利に日射制御又は断熱低Eコーティングの放射率に有意に影響を与えない。それは、ゾル-ゲルコーティングがある状態及びない状態でEN 12898に従って測定された放射率が、最大5%まで、好ましくは最大3%までしか異ならないことを意味する。
【0051】
本発明の特定の実施形態において、被覆基板は熱処理される。本実施形態において、基板はガラスである。この熱処理は、(湾曲としても知られる)屈曲、(強化としても知られる)焼鈍し又は焼戻しプロセスにおいて実施するものの1つであってよい。安全性の目的のため、建築物及び自動車用途においてますます多くの熱処理ガラスが必要とされているため、これは有利である。熱処理は当業者に既知であり、そして周知の方法に従って実行される。それは、一般に、数秒~数時間、空気中で300~800℃、例えば、400℃~710℃の温度までガラスシートを加熱することを含む。条件は、熱処理の種類、ガラスシートの厚さ及び特性、適用された軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングの種類次第で変更される。この処理は、衝撃を受けた場合に、いわゆる焼戻しガラスシートが小片で安全に破砕するように、ガラスの表面とコアとの間に応力差を導入するために加熱ステップ後の急速冷却ステップを含んでもよい。冷却ステップがそれほど強力ではない場合、次いでガラスは単に焼鈍しされ、そしていずれにしてもより良好な耐機械性を与えるであろう。
【0052】
本実施形態の特定の変形において、被覆ガラス基板は焼戻しされる。その安全性及び強度の結果として、窓、シャワードア、建築物のガラスドア及びテーブル、冷蔵庫受皿を含む様々な要求の厳しい用途において、防弾ガラスの成分として、並びに様々な種類のプレート及び料理道具として、焼戻しガラスが使用される。
【0053】
本発明の別の目的は、
a)基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に軟質コーティングを形成するステップと、
b)軟質コーティング上の前記面の少なくとも一部分の上にゾル-ゲル溶液を適用するステップと、
c)ゾル-ゲル溶液を硬化して、
0.10~3の範囲の酸化チタンTiO2/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化ビスマスBi2O3/酸化ケイ素SiO2、
0~0.03の範囲の酸化セリウムCeO2/酸化ケイ素SiO2
の理論重量比で酸化チタン、酸化ケイ素、並びに任意選択的な酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を含むゾル-ゲルコーティングを得るステップと
を含む、本発明による被覆基板の製造プロセスを提供することである。
【0054】
基板、軟質コーティング、ゾル-ゲルコーティングは、上記の通りである。
【0055】
このプロセスは、軟質コーティングを形成するステップを含む。軟質コーティングは、当業者に既知のいずれかの技術に従って基板上に形成される。それは、例えば、周知のマグネトロンスパッタリング法によってスパッタリングすることによって適用されてもよい。
【0056】
軟質コーティングは、基板の少なくとも一面の少なくとも一部分の上に形成される。それは、前記面の一部分の上又は実質的に前記面の全部分の上に提供されることが可能である。いわゆるエッジ削除ガラスシートの場合のように、それが表面の一部の上で与えられることが可能である。この場合、軟質コーティングは、被覆ガラスの表面の周囲で除去される。或いは、それは前記面の実質的に全部においても与えられることが可能である。軟質コーティングは、基板のいずれかの面又は両面の上に与えられることが可能である。
【0057】
本発明による被覆基板の製造プロセスは、軟質コーティングを与えられた基板の表面の少なくとも一部分の上に、且つ軟質コーティングの上に、ゾル-ゲル溶液を適用するステップを含む。
【0058】
ゾル-ゲル溶液は既知の方法によって調製され、且つ
-少なくとも1種の酸化ケイ素前駆体と、
-少なくとも1種の酸化チタン前駆体と、
-任意選択的に少なくとも1種の酸化ビスマス及び/又は酸化セリウム前駆体と、
-溶媒又は溶媒の混合物と、
-水と
を含む。
【0059】
適切な酸化ケイ素前駆体は、ケイ素アルコキシドである。例えば、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTES)、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTMS)など。好ましい酸化ケイ素前駆体は、テトラエチルオルトシリケート及びメチルトリエトキシシランである。種々の酸化ケイ素前駆体の組合せを使用することもできる。
【0060】
適切な酸化チタン前駆体は、例えば、チタン(IV)イソプロポキシド、チタン(IV)ブトキシド又はチタン(IV)tert-ブトキシドである。チタン(IV)イソプロポキシド及びチタン(IV)ブトキシドが好ましい。そのような前駆体の組合せを使用することもできる。
【0061】
ゾル-ゲル溶液は、酸化ビスマス又は酸化セリウム前駆体、或いは酸化ビスマス及び酸化セリウム前駆体の混合物を任意選択的にさらに含んでもよい。
【0062】
酸化ビスマス又は酸化セリウムの適切な前駆体は、ビスマス又はセリウム塩、或いは金属アルコキシドなどの有機金属誘導体である。そのようなビスマス前駆体の例は、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、クエン酸ビスマス、酢酸ビスマス、リン酸ビスマスなどである。酸化セリウムの前駆体の例は、硝酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、セリウムアセチルアセトネートなどである。それらの水和物の形態でも特定の種が存在し得、それもまた適切な前駆体である。好ましくは、酸化ビスマスの前駆体は硝酸ビスマスであり、そして酸化セリウムの前駆体は硝酸セリウムである。そのような前駆体の組合せを使用することもできる。
【0063】
ゾル-ゲル溶液は、ジルコニウム(IV)ブトキシド、ジルコニウム(IV)イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)tert-ブトキシドなどのジルコニウムアルコキシドの形態、又はジルコニウム(IV)アセチルアセトネートなどのジルコニウム(IV)塩の形態の酸化ジルコニウム前駆体を任意選択的にさらに含んでもよい。ジルコニウム(IV)ブトキシド又はジルコニウム(IV)イソプロポキシドが好ましい。そのような前駆体の組合せを使用することもできる。
【0064】
ゾル-ゲル溶液は、リン酸などの酸化リン前駆体及び/又はトリエチルホスフィットなどのホスフィットアルコキシドを任意選択的にさらに含んでもよい。トリエチルホスフィットが好ましい。
【0065】
ゾル-ゲル溶液は、Al2O3、Fe2O3、SnO2などの1種又はいくつかの他の金属酸化物の前駆体を任意選択的にさらに含んでもよい。そのような前駆体の例は、相当する硝酸塩又は塩化物塩である。
【0066】
使用される溶媒又は溶媒混合物は、ゾル-ゲルの調製のために当業者に既知のいずれかのものであることが可能である。これらの溶媒は、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール;又はアセトン及びメチルエチルケトンなどのケトンなどの水と混和性の溶媒である。水-混和性溶媒として、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール及び酸化メシチルも挙げることができる。溶媒の混合物を使用することもできる。
【0067】
任意選択的に触媒が使用されてもよく、ゾル-ゲル調製のために当業者に既知の触媒の中でも、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸;又は酢酸、クエン酸、ギ酸などの有機酸を選択することができる。硝酸及び塩酸が好ましい。
【0068】
任意選択的に安定化剤も使用されてもよく、ゾル-ゲル調製のために当業者に既知の安定化剤の中でも、例えば、アセチルアセトン、エチルアセトアセテート又はヒドロキシプロピルセルロースを選択することができる。エチルアセトアセテートが好ましい。
【0069】
ゾル-ゲル溶液は、最終コーティングに容易な維持特性を付与するための疎水性若しくは疎油性若しくはオムニフォビック物質、着色成分(例えば、無機顔料)などの他の添加剤をさらに任意選択的に含み得る。
【0070】
ゾル-ゲル溶液は、バーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、噴霧(すなわち、LP粉砕、HVLP粉砕、エアレス粉砕又は組合せの噴霧技術、Airmix(登録商標)、DUO(登録商標)など)、超音波粉砕、エレクトロスプレー粉砕、カーテンコーティング、ローラーコーティング、スリットコーティング、フローコーティング、浸漬法;或いはスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷及び湾曲表面印刷などの印刷方法などの種々の方法によって基板上に適用可能である。
【0071】
ゾル-ゲル溶液は、軟質コーティングを与えられた基板の表面の少なくとも一部の上に、且つ軟質コーティングの上に適用される。軟質コーティング及びゾル-ゲル溶液の両方とも基板の実質的に全表面を被覆することが可能であるか、若しくはそれらは両方とも表面の同一部分を被覆することが可能であるか、又は軟質コーティングが表面の一部分を被覆することが可能であり、且つゾル-ゲル溶液が基板の表面の大部分若しくは実質的に全部分を被覆することが可能である。
【0072】
ゾル-ゲル溶液は、基板上に軟質コーティングを形成するステップの直後に適用されてもよく、或いは1つ又はいくつかの任意選択的な中間ステップがその間に実行されてもよい。
【0073】
任意選択的な中間ステップは、例えば、軟質コーティング及びゾル-ゲル溶液の間での1つ以上の中間層の適用であってよい。中間層が適用されない場合、ゾル-ゲル溶液は軟質コーティングに直接接触し、すなわち、それら両方が存在する表面の部分で軟質コーティング及びゾル-ゲル溶液の間に中間層が存在しない。ゾル-ゲル溶液が、少なくとも実質的に全軟質コーティング上で軟質コーティングと直接接触している状態で与えられることが好ましい。したがって、中間層を適用するステップが実行されないことが好ましい。
【0074】
別の任意選択的な中間ステップは、基板を軟質コーティング適用ラインからゾル-ゲルコーティング適用ラインまで移動させることであり得る。
【0075】
本発明による被覆基板の製造プロセスは、ゾル-ゲル溶液を硬化して、本発明のゾル-ゲルコーティングを得るステップを含む。再び、このステップは、当業者に既知の条件下で実行される。
【0076】
硬化するステップは、その間に溶媒及び水が蒸発してゾル-ゲルが得られる、ゾル-ゲル溶液を乾燥させる段階を含む。この段階は、一般に、室温~300℃の温度で実行される。温度及び時間条件は、適用されるゾル-ゲルコーティングの種類次第で変更される。
【0077】
硬化するステップは、ゾル-ゲルコーティングを得るためのゾル-ゲルの第2段階の高密度化を含む。この段階は、一般に、300~800℃の温度で実行される。特に400~710℃で実行されてよい。温度及び時間条件は、適用される軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングの種類次第で変更される。
【0078】
得られる固体ゾル-ゲルコーティングは、通常、シートのような様式で展開した均一なネットワークである。本発明のネットワークは、連続又は独立気泡であることが可能である。
【0079】
基板がガラス基板である本発明の特定の実施形態において、高密度化段階は、被覆ガラス基板の屈曲/湾曲、焼鈍し/強化、又は焼戻しに関連する熱処理の間に実行されてよい。本実施形態の特定の変形において、高密度化段階は、被覆ガラス基板の焼戻しの間に実行されてよい。
【0080】
本発明による、又は本発明のプロセスに従って得られる被覆基板は、例えば、建築物、家庭用品(オーブン、冷蔵庫、食物ディスプレイ)、輸送機関(自動車、バス、ボート、列車、路面電車など)或いは温室などの用途で使用されてよい。
【0081】
それは、ゾル-ゲルコーティングの存在のため、耐機械性、耐化学性及び耐食性感謝が改善された軟質コーティングを有利に含む。これらの改善された性能のため、そのような軟質コーティングの使用は、特に被覆基板がガラス基板である場合、それらが外部環境と接触する用途まで拡大することが可能となる。したがって、本発明による、又は本発明のプロセスに従って得られる被覆基板は、グレイジングユニットの分野で特に興味深い。したがって、本発明の別の目的は、本発明による、又は本発明のプロセスに従って得られる少なくとも1つの被覆ガラス基板を含み、軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングを与えられた被覆ガラス基板の表面がユニットの外側に面するグレイジングユニットを提供することである。
【0082】
グレイジングユニットは、単層グレイジングユニット、すなわち、単一ガラスパネルを含むグレイジングユニットであってよい。この場合、ガラスパネルは、本発明による被覆ガラス基板、又はそのような被覆ガラス基板を含む積層ガラスである。両方の場合において、軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングを与えられた被覆ガラス基板の表面がユニットの外側に面する。
【0083】
グレイジング単位は、複層グレイジングユニットであってもよい。複層グレイジングユニットとは、空間によって分離された少なくとも2つのガラスパネルを含むグレイジングユニットを意味する。例えば、二重グレイジング又は三重グレイジングであり得る。空間には断熱ガスが充填されていてもよく、又は複層グレイジングは減圧断熱グレイジングであってもよい。前記複層グレイジングユニットのガラスパネルは、ガラスシート又は積層ガラス又はこれらの組合せであってよい。複層グレイジングの少なくとも1つのガラスパネルは、本発明による被覆ガラス基板、又はそのような被覆ガラス基板を含む積層ガラスである。両方の場合において、軟質コーティング及びゾル-ゲルコーティングを与えられた被覆ガラス基板の表面がユニットの外側に面する。
【0084】
被覆ガラス基板は、さらに熱処理可能であるか、又は焼戻し可能である。安全性の目的のため、建築物及び自動車用途においてますます多くの熱処理ガラスが必要とされているため、これは有利である。その安全性及び強度の結果として、窓、シャワードア、建築物のガラスドア及びテーブル、冷蔵庫受皿を含む様々な要求の厳しい用途において、防弾ガラスの成分として、並びに様々な種類のプレート及び料理道具として、焼戻しガラスが使用される。
【0085】
軟質コーティングが日射制御又は断熱低Eコーティングである場合、ゾル-ゲルコーティングは、日射制御又は断熱低Eコーティングの放射率に有意に影響を与えない。
【0086】
本発明のグレイジングユニットは、建築物、輸送機関(自動車、バス、ボート、列車、路面電車など)又は温室などの用途における省エネのために使用され得る。
【実施例】
【0087】
本発明の実施形態を実施例によってさらに説明するが、これらは例示的な目的で与えられるものであり、且つ本発明の範囲を制限するように意図されない。
【0088】
比較例1:SiO2 TiO2ゾル-ゲル溶液の調製
室温で、17.02gのチタン(IV)ブトキシド及び10.42gのテトラエチルオルトシリケートを、3.32gのエチルアセトアセテート及び121.60gの2-エトキシ-エタノールの混合物に添加することによって前駆体混合物を調製する。0.022gの硝酸(65%)を3.60gの脱イオン水中で希釈し、そして前駆体混合物中に滴下して添加する。混合物を室温で48時間攪拌する。
【0089】
2mlの混合物をクリーンな低E被覆ガラス基板(旭硝子(Asahi Glass Company)によって市販されるPlanibel AS)上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0090】
実施例2及び3:本発明によるSiO2 TiO2 ZrO2ゾル-ゲル溶液の調製
室温で、A1gのエチルアルコール、A2gのアセチルアセトネート及びA3gのチタン(IV)ブトキシドを混合することによって溶液Aを調製する。室温で、B1gのエチルアルコール、B2gのアセチルアセトン及びB3gのジルコニウムプロポキシドを混合することによって溶液Bを調製する。室温で2時間の撹拌下、溶液B中に溶液Aを滴下して添加することによって溶液Cを調製する。D1gのエチルアルコール、D2gのアセチルアセトネート及びD3gのテトラエチルオルトシリケートを混合することによって溶液Dを調製する。D4gの0.1M塩酸溶液を溶液Dに添加する。D5gの脱イオン水を溶液Dに添加する。溶液Dを室温で2時間撹拌する。室温で1時間の撹拌下、溶液C中に溶液Dを滴下して添加することによって最終溶液を得る。
【0091】
2mlの最終溶液をクリーンな低E被覆ガラス基板(旭硝子(Asahi Glass Company)によって市販されるPlanibel AS)上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0092】
【0093】
比較例4:P2O5ドープSiO2 TiO2ゾル-ゲル溶液の調製
室温で、13.60gのチタン(IV)ブトキシドを、10.41gのエチルアセトアセテート及び45.06gの2-エトキシ-エタノールの混合物に添加することによって前駆体混合物を調製する。混合物を60分間室温で撹拌する。0.722gのトリエチルホスフィットを混合物に添加し、そして30分間撹拌する。10.42gのテトラエチルオルトシリケートを混合物に添加し、そして30分間撹拌する。0.018gの65%硝酸を添加する。溶液を24時間攪拌する。
【0094】
2mlの溶液をクリーンな低E被覆ガラス基板(旭硝子(Asahi Glass Company)によって市販されるPlanibel AS)上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0095】
比較例5:SiO2ベースのゾル-ゲル溶液の調製
室温で、8.12gのテトラエチルオルトシリケートを66.80gのエチルアルコールに添加し、10分間撹拌することによって前駆体混合物を調製する。0.1857gの5M硝酸を1.4gの脱イオン水中で希釈し、そして前駆体混合物中に滴下して添加する。得られる混合物を室温で24時間攪拌する。
【0096】
2mlの混合物をクリーンな低E被覆ガラス基板(旭硝子(Asahi Glass Company)によって市販されるPlanibel AS)上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0097】
特性評価
実施例1~4、比較例5において調製された試料を耐機械性、耐化学性及び耐食性に関して評価する。
【0098】
次の方法に従って特性を評価する:
-ISO9227-2012による中性塩噴霧。EN1096-2012による分析及び結果:
塩噴霧キャビネットはElcometer 1120である。被覆ガラス基板を乾燥後及び高密度化後に評価する。試料を1~5までで評価し、5は悪化なし、1は非常に悪化していることを示す。試験結果を表2及び3にまとめる。
-45℃~55℃の熱サイクル(1時間、45℃から55℃まで加熱し、1時間、55℃から45℃まで冷却する)及び98%の相対湿度を有する気候チャンバー(Weiss WK31000/40)。被覆ガラス基板を乾燥後及び高密度化後に評価する。気候チャンバー中での処理後の基板を1~5までで評価し、5は悪化なし、1は非常に悪化していることを示す。試験結果を表4及び5にまとめる。ASTM D2486による乾燥ブラシ試験:
この試験は、Elcometer 1720摩耗及び耐洗浄性試験機で実行される。この試験は、ASTM D2486規格に記載されるように、ナイロン剛毛ブラシで500又は1000サイクル、被覆ガラスをこすることからなった。表面は照明下での反射について試験される。摩耗した領域の外観が識別可能である場合、試料は「ko」であると考えられ、これは良好な耐機械性を有さないことを意味する。摩耗した領域及び摩耗していない領域の差異がない場合、コーティングは「ok」であると考えられ、これは本発明によって良好な耐機械性を有することを意味する。被覆ガラス基板を乾燥後及び高密度化前に評価する。試験結果を表6にまとめる。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実施例2及び3並びに比較例1及び4の被覆基板では、1000サイクル後に試験に合格しない比較例5の被覆基板と比較して、耐機械性が改善された(表6)。
【0105】
酸化ジルコニウムを含有する実施例2及び3は、中性塩噴霧及び気候チャンバー試験において高密度化後に改善された耐湿性を示す(表3及び5)。
【0106】
放射率測定:
放射率(ε)は、実施例3による試料に関して算出する。相当する参照試料(160℃で12分間及び670℃で3.5分間の熱処理後のゾル-ゲルコーティングのないPlanibel AS)の放射率も算出する。放射率は、EN673及びISO 10292に従って算出される。
【0107】
【0108】
本発明によるゾル-ゲルを有する試料及びゾル-ゲルコーティングのないPlanibel ASの間の放射率の差異は0.01である。Planibel ASの放射率は、ゾル-ゲルコーティングの存在によって有意に影響を受けない。
【0109】
実施例6:本発明によるCeO2ドープSiO2 TiO2 ZrO2ゾル-ゲル溶液の調製
A1gのエチルアルコール、A2gのアセチルアセトネート及びA3gのチタン(IV)ブトキシドを混合することによって溶液Aを調製する。溶液Aを室温で10分間撹拌する。B1gのエチルアルコール、B2gのアセチルアセトン、B3gのジルコニウムプロポキシド及びB4gの硝酸セリウム(III)六水和物を混合することによって溶液Bを調製する。溶液Bを室温で10分間撹拌する。室温で撹拌下、溶液B中に溶液Aを注ぎ入れることによって溶液Cを調製する。B中にAを注ぎ入れることは、添加時間が2時間かかるような様式で滴下によって実行されなければならない。D1gのエチルアルコール、D2gのアセチルアセトネート及びD3gのテトラエチルオルトシリケートを混合することによって溶液Dを調製する。D4gの0.1M塩酸溶液を溶液Dに添加する。D5gの脱イオン水を溶液Dに添加する。溶液Dを室温で2時間撹拌する。室温で撹拌下、溶液C中に溶液Dを注ぎ入れることによって最終溶液を得る。C中にDを注ぎ入れることは、添加時間が1時間かかるような様式で滴下によって実行されなければならない。
【0110】
2mlのゾル-ゲルを標準的なソーダ-ライムガラス上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0111】
重量パーセント比CeO2/SiO2は0.011である。
【0112】
【0113】
比較例7及び8:SiO2 TiO2 ZrO2 CeO2ゾルゲル溶液の調製
A1gのエチルアルコール、A2gのアセチルアセトネート及びA3gのチタン(IV)ブトキシドを混合することによって溶液Aを調製する。溶液Aを室温で10分間撹拌する。B1gのエチルアルコール、B2gのアセチルアセトン、B3gのジルコニウムプロポキシド及びB4gの硝酸セリウム(III)六水和物を混合することによって溶液Bを調製する。溶液Bを室温で10分間撹拌する。室温で撹拌下、溶液B中に溶液Aを注ぎ入れることによって溶液Cを調製する。B中にAを注ぎ入れることは、添加時間が2時間かかるような様式で滴下によって実行されなければならない。D1gのエチルアルコール、D2gのアセチルアセトネート及びD3gのテトラエチルオルトシリケートを混合することによって溶液Dを調製する。D4gの0.1M塩酸溶液を溶液Dに添加する。D5gの脱イオン水を溶液Dに添加する。溶液Dを室温で2時間撹拌する。室温で撹拌下、溶液C中に溶液Dを注ぎ入れることによって最終溶液を得る。C中にDを注ぎ入れることは、添加時間が1時間かかるような様式で滴下によって実行されなければならない。
【0114】
2mlのゾル-ゲルを標準的なソーダ-ライムガラス上にスピンコーティングする。次いで、ガラスを12分間160℃において乾燥させ、そして670℃において3.5分間、空気下で高密度化を実行する。
【0115】
重量パーセント比CeO2/SiO2は、比較例7に関しては0.40であり、そして比較例8に関しては2.3である。
【0116】
【0117】
色彩測定:
参照試料(標準的なソーダライムガラス)、実施例6並びに比較例7及び8の乾燥後の試料の色彩をCIELAB 1976値(L*a*b*)によって定義する。それらは発光物D65/10°によって測定される。結果を表10に報告する。
【0118】
【0119】
b*値の増加は黄変に相当する。表10から、本発明による実施例6のゾル-ゲルコーティングは、比較例7及び8の組成物のようなより高い酸化セリウム含有量を有する組成物と比較して、低い黄変作用を有することは明らかである。