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特許7150049パターン計測方法、計測システム、及びコンピュータ可読媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】パターン計測方法、計測システム、及びコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/00 20060101AFI20220930BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
G01B15/00 K
H01J37/22 502E
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020556375
(86)(22)【出願日】2018-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2018041036
(87)【国際公開番号】W WO2020095346
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 歩未
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】備前 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水谷 俊介
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-239107(JP,A)
【文献】特開2019-012766(JP,A)
【文献】特開平11-248442(JP,A)
【文献】特開2010-175249(JP,A)
【文献】特許第6316578(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/175150(WO,A1)
【文献】特開平06-310075(JP,A)
【文献】米国特許第06930308(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00 - 15/08
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測ツールを用いて試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得し、当該取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を抽出し、当該抽出された第1の特徴と第2の特徴を、第1の特徴、第2の特徴、及び凹部の深さ指標値の関係を示すモデルに入力することによって、凹部の深さ指標値を導く方法であって、
前記第1の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から後方散乱電子信号情報に基づいて抽出した特徴であって、
前記第2の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から二次電子信号情報に基づいて抽出した特徴である、方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記凹部は、トレンチ、ビア、或いはその両方である方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1の特徴は、凹部の底の輝度に関連する値である方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記輝度に関する値を、前記凹部の寸法或いは面積より狭い領域で取得する方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記第2の特徴は、凹部の幅又は面積に関する値である方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1の特徴は、後方散乱電子画像に基づいて抽出した特徴であって、
前記第2の特徴は、前記後方散乱電子画像と同時に撮像した二次電子画像に基づいて抽出した特徴である、方法。
【請求項7】
計測ツールを用いて試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得し、当該取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を抽出し、当該抽出された第1の特徴と第2の特徴を、第1の特徴、第2の特徴、及び凹部の深さ指標値の関係を示すモデルに入力することによって、凹部の深さ指標値を導く方法であって、
前記凹部は閉図形パターンであり、以下の演算式に基づいて前記深さ指標値を導く方法。
深さ指標値=(閉図形パターンの面積に関する値/閉図形パターン内部の輝度に関する値)(Nは任意の正数)
【請求項8】
請求項において、
前記Nは0.5である方法。
【請求項9】
計測ツールを用いて試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得し、当該取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を抽出し、当該抽出された第1の特徴と第2の特徴を、第1の特徴、第2の特徴、及び凹部の深さ指標値の関係を示すモデルに入力することによって、凹部の深さ指標値を導く方法であって、
前記凹部は溝状のパターンであり、以下の演算式に基づいて前記深さ指標値を導く方法。
深さ指標値=(溝幅の寸法に関する値/溝内部の輝度に関する値)(Nは任意の正数)
【請求項10】
請求項において、
前記Nは1.0である方法。
【請求項11】
請求項1において、
前記導かれた深さ指標値を、当該深さ指標値とパターン深さとの関係情報を記憶するデータベースに参照することによって、パターン深さを導く方法。
【請求項12】
請求項1において、
前記画像或いは輝度分布は、荷電粒子ビームの走査に基づいて得られるものであって、当該荷電粒子ビームの侵入深さは、深さ指標値の導出対象である凹部が形成された膜の膜厚より短い方法。
【請求項13】
試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得するように構成された計測ツールと、前記取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するように構成されたコンピュータを備え、
当該コンピュータは更に、前記導出された第1の特徴と第2の特徴と、当該第1の特徴、第2の特徴及び凹部の深さ指標値との関係を示すモデルを用いて、深さ指標値を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するシステムであって、
前記第1の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から後方散乱信号情報に基づいて抽出した特徴であって、
前記第2の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から二次電子信号情報に基づいて抽出した特徴である、システム
【請求項14】
請求項13において、
前記計測ツールは、前記第1の特徴を前記凹部の寸法或いは面積より狭い領域で取得するように構成されたシステム。
【請求項15】
請求項13において、
前記凹部の種類を選択する入力装置を備え、前記コンピュータは当該入力装置によって入力された凹部の種類に応じたモデルを用いて、前記深さ指標値を導出するシステム。
【請求項16】
試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得するように構成された計測ツールと、前記取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するように構成されたコンピュータを備え、当該コンピュータは更に、前記導出された第1の特徴と第2の特徴と、当該第1の特徴、第2の特徴及び凹部の深さ指標値との関係を示すモデルを用いて、深さ指標値を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するシステムであって、
前記コンピュータは、前記凹部の種類が閉図形パターンである場合は、前記第2の特徴として閉図形の面積に関する値を導出するように構成されており、
前記コンピュータは、以下の演算式に基づいて前記深さ指標値を導くように構成されているシステム。
深さ指標値=(閉図形パターンの面積に関する値/閉図形パターン内部の輝度に関する値)(Nは任意の正数)
【請求項17】
試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得するように構成された計測ツールと、前記取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するように構成されたコンピュータを備え、当該コンピュータは更に、前記導出された第1の特徴と第2の特徴と、当該第1の特徴、第2の特徴及び凹部の深さ指標値との関係を示すモデルを用いて、深さ指標値を導出するように構成されたコンピュータ可読プログラムを実行するシステムであって、
前記コンピュータは、前記凹部の種類が溝状パターンである場合は、前記第2の特徴として溝状パターンの幅に関する値を導出するように構成されており、
前記コンピュータは、以下の演算式に基づいて前記深さ指標値を導くように構成されているシステム。
深さ指標値=(溝幅の寸法に関する値/溝内部の輝度に関する値)(Nは任意の正数)
【請求項18】
請求項13において、
前記コンピュータは、前記導かれた深さ指標値を、当該深さ指標値とパターン深さとの関係情報を記憶するデータベースに参照することによって、パターン深さを導くように構成されているシステム。
【請求項19】
計測ツールによって得られた画像、或いは輝度分布から、試料上に形成された凹部の深さ情報を生成するためのコンピュータで実行される方法を実施するためのコンピュータシステムで実行可能なプログラム命令を保存する非一時的コンピュータ可読媒体であって、
コンピュータで実行される方法は、
計測ツールを用いて試料上に形成された凹部を含む領域の1以上の画像或いは輝度分布を取得し、当該取得された1以上の画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を抽出し、当該抽出された第1の特徴と第2の特徴を、第1の特徴、第2の特徴、及び凹部の深さ指標値の関係を示すモデルに入力することによって、凹部の深さ指標値を導く方法であり、
前記第1の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から後方散乱信号情報に基づいて抽出した特徴であって、
前記第2の特徴は、前記1以上の画像或いは輝度分布から二次電子信号情報に基づいて抽出した特徴である、非一時的コンピュータ可読媒体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パターンの高さや深さを計測する方法、及び装置に係り、特に穴や溝等の凹部の深さを計測する方法、システム、及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料に形成された穴や溝に電子ビームを照射したときに、穴や溝の底で反射し、穴や溝の側壁を突き抜けて試料上に放出される後方散乱電子の検出に基づいて、穴や溝の深さを推定する走査電子顕微鏡が開示されている。特許文献1には、穴や溝が深い程、突き抜け距離が長くなり、深い程、像が暗くなるという現象を利用して、明るさ(信号量)情報から深さを推定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6316578号(対応米国特許USP9,852,881)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の手法によれば、明るさ情報に基づいて、パターンの深さを測定することができるが、試料を突き抜けて放出される電子の量に応じて変化する明るさを評価するという原理上、試料の材質の違いやパターン密度の違いに応じて、求められる深さが変化する場合がある。
【0005】
以下に、試料の材質やパターン密度等が異なる場合であっても、高精度に試料上に形成された凹部の深さを計測する方法、システム、及びコンピュータ可読媒体を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一態様として、計測ツールを用いて試料上に形成された凹部を含む領域の画像或いは輝度分布を取得し、当該取得された画像或いは輝度分布から、凹部内部の第1の特徴と、凹部の寸法或いは面積に関する第2の特徴を抽出し、当該抽出された第1の特徴と第2の特徴を、第1の特徴、第2の特徴、及び凹部の深さ指標値の関係を示すモデルに入力することによって、凹部の深さ指標値を導く方法、当該方法を実行するための1以上のコンピュータシステム上で実行可能なプログラム命令を格納する非一時的なコンピュータ可読媒体、及び当該方法を実現するシステムを提案する。
【発明の効果】
【0007】
上記方法或いは構成によれば、試料の材質やパターン密度等が異なる場合であっても、高精度に試料上に形成された凹部の深さを計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】深さ計測システムの一例を示す図。
図2】深さ計測システムの他の一例を示す図。
図3】深さ計測システムの他の一例を示す図。
図4】深さ計測システムの他の一例を示す図。
図5】深さ計測工程を示すフローチャート。
図6】深さ計測工程を示すフローチャート。
図7】試料に侵入した電子の移動軌跡を示す図。
図8】入射電子のデータベースと、電子顕微鏡の装置条件設定画面の一例を示す図。
図9】電子顕微鏡の動作プログラムであるレシピを設定する設定画面の一例を示す図。
図10】電子顕微鏡の動作プログラムであるレシピを設定する設定画面の一例を示す図。
図11】深さと深さ指標値を関連付けて記憶するデータベースの一例を示す図。
図12】トレンチパターンの拡大像と断面像を示す図。
図13】試料に電子ビームが照射されていない状態(電子ビーム照射に起因して検出される電子が存在しない状態)における画像と、画像の輝度分布を示す図。
図14】低フレーム画像とその輝度分布の一例を示す図。
図15】明るさ値とコントラスト値を設定するGUI画面の一例を示す図。
図16】トレンチにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図17】ホールパターンにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図18】楕円パターンにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図19】四角形パターンにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図20】複数のホールパターンにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図21】ビアイントレンチにビームを走査したときに得られる画像の一例を示す図。
図22】パターンの輝度評価領域の一例を示す図。
図23】評価結果表示画面の一例を示す図。
図24】評価結果表示画面の一例を示す図。
図25】深さ情報を求めるコンピュータシステムの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
半導体デバイスの複雑化微細化に伴い、エッチングはデバイスの出来を左右する重要な工程となっている。以下に説明する実施例は、主に走査電子顕微鏡を用いたパターンの高さや深さの計測法に係り、特に、低加速(電子ビームの試料への到達エネルギーが低い)における画像のグレ-レベル(輝度)を用いた深さ計測技術に関するものである。低加速における深さ計測は、高加速よりも深さの感度が良好であり、周辺パタ-ンの影響を受けないため、構造ごとに検量線を用意しなくても、高精度な深さ計測が可能である。
【0010】
また、発明者はシミュレーションや実験より、穴構造では(穴の面積/穴底のグレ-レベル)のN乗、溝構造では(溝幅/溝底のグレ-レベル)のN乗と、穴や溝の深さとの間に線形性があることを新たに見出した。以下に、この線形性を利用した深さ計測法について説明する。なお、Nは正数であり、これまでの評価より0.5や1が良いことが確認された。
【0011】
計測対象は、穴や溝など凹みのあるパタ-ンであり、その穴溝などの底の輝度値(グレ-レベル)と穴など囲まれたパタ-ンはその面積、溝など囲まれていないパタ-ンはその幅を計測し、指標値(面積又は幅/輝度値)を算出することでそのパタ-ンの深さを計測する。なお、深さ指標値は実際の深さの値を示すものであっても良く、深さの程度に応じて変化する値であっても良い。
【0012】
発明者のシミュレーションにより、電子顕微鏡条件(エネルギー、角度弁別、引上げ電界有無)が固定された状態で、穴径や深さの異なるパターンにビームを照射すると、穴径が小さく深いほど穴底の信号量が減少することが確認できた。更にパターンの深さと、√(面積/穴底の信号量)は線形関係にあり、√(面積/穴底の信号量)に基づいて求められる値を指標値とすることによって、パターンの深さ計測が行えることが確認できた。溝構造の場合は、パターンの深さと√(溝幅/穴底の信号量)が線形関係にあり、√(溝幅/穴底の信号量)に基づいて溝の深さ計測が行えることが確認できた。
【0013】
以下に試料上に形成されたパターン等の深さ(高さ)を計測するための深さ計測システムについて図面を用いて説明する。
【0014】
図1は深さ計測装置の一例を示す図であり、走査電子顕微鏡(計測ツール)を含む深さ(高さ)計測システムの一例を示す図である。深さ計測システムは、撮像部101、全体制御部102、信号処理部103、入出力部104および記憶部105を備えている。
【0015】
撮像部101は、電子銃106、電子銃106から照射された電子線107(電子ビーム)を集束する集束レンズ108、及び集束レンズ108を通過した電子ビームを更に集束する集束レンズ109を備えている。撮像部101は更に、電子線107を偏向する偏向器110 、電子線107の集束する高さを制御する対物レンズ111を備えている。
【0016】
以上のような走査電子顕微鏡内に設けられた光学素子を通過した電子ビームは、ステージ113上に載せられた試料112に照射される。電子ビームの照射によって試料から放出される二次電子(Secondary Electron:SE)や後方散乱電子(Backscattered Electron:BSE)等の放出電子114は、放出電子偏向用の偏向器115(二次電子アライナ)によって所定の方向に導かれる。偏向器115は所謂ウィーンフィルタであり、電子ビームを偏向させることなく、放出電子114を所定の方向に選択的に偏向させる。
【0017】
放出電子114を角度弁別するために設けられた検出絞り116を通過した放出電子114は、反射板117に衝突し、当該衝突によって反射板117から放出される二次電子(三次電子118)はウィーンフィルタ等(図示せず)によって、検出器119に導かれる。また、検出絞り116への放出電子114の衝突によって発生する二次電子(三次電子120)を検出するための検出器121も設けられている。
【0018】
また、図1に例示する走査電子顕微鏡には、電子ビームの通過を一部制限するシャッター130、電子ビームを光軸外に偏向することによって、試料112への電子ビームの到達を制限するブランキング偏向器131、及びブランキング偏向器131によって偏向された電子ビームを受け止めるブランキング用電極132が設けられている。
【0019】
上記したような走査電子顕微鏡内に設けられた光学素子は、全体制御部102によって制御される。
反射板117に設けられた開口は、電子線107を通過させるものであり、十分小さくすることで、試料112上に形成された半導体パターンの穴底ないし溝底から鉛直上向きに放出された二次電子を選択的に検出することができる。一方で、偏向器115で二次電子を偏向し、鉛直上向きに放出された二次電子を、反射板117の開口を通過しないようにすることもできる。また、反射板117と検出絞り116の間に設けられたエネルギーフィルタ122により、鉛直上向きに放出された二次電子のエネルギーを選別することが出来る。
【0020】
信号処理部103では、検出器119、121の出力に基づいてSEM画像を生成する。信号処理部103では、図示しない走査偏向器の走査と同期して、フレームメモリ等に検出信号を記憶させることで画像データを生成する。フレームメモリに検出信号を記憶する際、フレームメモリの走査位置に対応する位置に検出信号を記憶させることで、信号プロファイル(一次元情報)、SEM画像(二次元情報)を生成する。
【0021】
図2は深さ計測装置の他の一例を示す図である。図1の装置と同様に、撮像部101、全体制御部102、信号処理部103、入出力部104、および記憶部105を備えている。図2に例示した装置と、図1に例示した装置との違いは、軸外に配置された検出器119に放出電子114を導くための偏向器123(第2の二次電子アライナ)を設けた点にある。図2の検出器119は、放出電子114が衝突する位置に検出面を持ち、例えば、検出面に入射した放出電子は、検出面に設けられたシンチレータによって光信号に変換される。この光信号はフォトマルチプライヤによって増幅されると共に電気信号に変換され、検出器の出力となる。また、検出器119の直前に設けられたエネルギーフィルタ122により、光軸近傍に通過軌道を持つ放出電子114を、エネルギー弁別することができる。
【0022】
図3は深さ計測装置の更に他の一例を示す図である。図1との相違点は、上下2段の検出器119、121がいずれも放出電子114の軌道上に配置された直接検出器である点にある。検出器119に設けられた開口は、電子線107を通過させるものであり、十分小さくすることで、試料112上に形成された深孔や深溝の底から放出され、パターン中心近傍を通過して試料表面上に脱出した二次電子を検出することができる。必要に応じて偏向器115で二次電子を偏向することで、深孔等から脱出した光軸近傍を通過する電子を、検出器119の開口外(検出器119の検出面)に導くことができる。また、検出器119の直前にあるエネルギーフィルタ122aあるいは検出器121の直前にあるエネルギーフィルタ122bを用いたエネルギーフィルタリングにより、放出電子114をエネルギー弁別することができる。
【0023】
図4は深さ計測装置の更に他の一例を示す図である。図2の下段の検出器が、反射板11のような二次電子変換電極に、放出電子114を衝突させることによって発生する二次電子(放出電子自体が二次電子であるため、放出電子の衝突によって更に発生する電子を三次電子と称する場合がある)を検出器に導いて検出する方式を採用しているのに対し、図4はそれに代えて下段の検出器121を放出電子114の軌道上に配置している。
【0024】
偏向器123によって、検出器121の電子ビーム通過開口を通過した放出電子を検出器119に向かって偏向することで、光軸近傍を通過する放出電子を選択的に検出器119で検出することが可能となる。偏向器123によって偏向される放出電子は、検出器121に通過を遮られることなく、検出器121の上部に到達した電子であり、言わば光軸近傍を通過する電子のみが選択されたものである。このような放出電子は、それ以外の放出電子と比較すると、深孔や深溝の底部の電子が多く含まれており、検出器119によって検出される電子に基づいて信号波形や画像を形成することによって、孔底や溝底の情報を強調することが可能となる。また、検出器119の直前にあるエネルギーフィルタ122aあるいは検出器121の直前にあるエネルギーフィルタ122bにより、鉛直上向きの二次電子を含む二次電子114のエネルギーを選別することが出来る。本実施例では、電子ビームを走査することによって得られる画像や輝度分布を用いて、試料上に形成された凹部の深さ指標値を求める例について説明するが、これに限られることはなく、集束イオンビーム装置等の他の計測ツールを用いるようにしても良い。
【0025】
図25は、図1~4に例示するような走査電子顕微鏡の出力に基づいて生成されるSEM画像2501から、深さ情報を求めるコンピュータシステム2502を示している。コンピュータシステム2502は1以上のコンピュータサブシステムから構成されても良く、当該コンピュータシステム2502によって実行される1以上のコンポーネントを含んでいる。図25に例示するようなコンピュータシステム250は、図1~4に例示した走査電子顕微鏡の信号処理部103、或いはその一部として、走査電子顕微鏡のモジュールとすることもできる。
【0026】
測長値/面積値演算処理部2503では、所定の記憶媒体、或いは走査電子顕微鏡に設けられた画像生成用のプロセッサ等から受領したSEM画像2501を用いて、SEM画像に表示されたパターンの寸法値、或いはパターンの面積値を求める。例えば、寸法値の場合、画像の輝度分布情報である信号プロファイルをSEM画像に基づいて生成し、信号プロファイルのピーク間の距離等を求めることによって、パターンの一次元寸法を算出する。また、面積値の具体的な求め方については後述する。輝度評価部2504では、例えば深さを評価するパターンの一部(例えばホールパターンの場合、ホールパターンの中心位置)の輝度(グレーレベル)を評価する。
【0027】
深さ演算部2505では、後述する演算式、測長値/面積値、及び輝度値を用いてパターンの深さ(高さ)演算を実行する。深さ演算に用いられる演算式は、入力装置2506を用いた試料情報入力に基づいて、当該試料情報と関連付けて記憶された演算式が、メモリ(データベース)2507から読み出され、深さ演算に供される。深さ演算部によって演算された深さ情報は、コンピュータシステムの出力として、表示装置等に表示され、所定の記憶媒体に記憶される。
【0028】
以下に、上記深さ計測システム、或いはコンピュータシステムを用いた深さ計測手順を、図5に例示するフローチャートを用いて説明する。図5は、ウェハ面内やウェハ間におけるパターン深さの変化やトレンドが得られるフローの一例である。深さ計測装置の入出力部104より必要な情報を入力することによって、動作プログラム(レシピ)を生成すると共に、記憶部105に記憶させておき、撮像部101、全体制御部102、信号処理部103などは、レシピに記憶された動作条件に従って、各構成要素を制御する。
【0029】
撮像部101等は、レシピ(プログラム)に記憶された情報に従って、画像取得条件を設定(ステップ151)し、信号処理部103等は、画像が所定の明るさ、コントラストとなるように光電子増倍管のゲインやアンプのオフセットを調整する(ステップ152)。更に撮像部101等は、走査電子顕微鏡の視野を深さ計測対象となるパターンに位置付けるように、ステージ113を移動させる駆動機構(リニアモータなど)を制御する(ステップ153)。
【0030】
次に電子ビームの走査によって得られる電子の検出に基づいて、信号波形、或いは画像の少なくとも一方(画像等)を生成、取得(ステップ154)し、信号処理部103、或いはコンピュータシステム2502は、深さ計測するパターンの幅又は面積を計測(ステップ155)する。更に、深さ計測するパターンの輝度(グレーレベル)を計測(ステップ156)し、深さ演算部2505は[数1]を用いて、深さ指標値を算出する(ステップ158)。
[数1]
深さ指標値D=(パターン幅W又はパターン面積A/輝度B)
Nは正数である。数1は、パターン(凹部)底部の輝度B(第1の特徴)、パターン幅W又はパターン面積A(第2の特徴)、及びパターンの深さ指標値との関係を示す数理モデルであり、当該数理モデルに、輝度Bとパターン幅W、或いは面積Aを入力することによって、パターンの深さ指標値を導出する。なお、輝度評価領域の輝度値を用いて深さ指標値を導出する例について以下に説明するが、輝度値に代えて輝度値に応じて変化する他のパラメータであっても良い。例えば基準輝度値に対する差分値や、所定輝度範囲毎に割り当てられた指標値等が考えられる。更に、面積や寸法も面積や寸法に応じて変化する他のパラメータに置き換えることも可能である。
【0031】
次に、全体制御部102は、同一の試料上に未測定点が存在するか否かを判定(ステップ159)し、未測定点がある場合には、ステップ153以降の処理を繰り返すことによって、所望の計測点の計測を実行する。
【0032】
以上のような処理を行うことによって、2次元像からパターンの深さや高さのような3次元情報を取得することが可能となる。なお、深さ計測するパターン情報や計測方法は事前にレシピに設定していることとする。
【0033】
深さ指標値Dは絶対値である必要はなく、例えば深さの程度を示す指標値、或いは基準となる深さとの関係(例えば基準となる深さより深い、浅い、同程度)が判る値であれば良い。具体的には、深さの程度に応じて1~nのような深さのレベルを深さ情報として出力するようにしても良いし、基準深さの指標値DよりDが大きいか否かの判定を行い、大きい場合は深い、小さい場合は浅いとする結果を深さ情報として出力するようにしても良い。
【0034】
図6は、パターン深さと指標値との関係を記憶したデータベースを参照して、より正確にパターン深さの絶対値を求める工程を示すフローチャートである。ステップ151~158は、図5と同じである。図6に例示する処理例によれば、深さ指標値Dをデータベースに参照(ステップ161)し、当該指標値に対応する深さを読み出すことによって、パターンの深さを決定する(ステップ160)。メモリ2507等に、深さ指標値Dと実際の深さとの関係を示す演算式や関数等を、試料の種類や走査電子顕微鏡の装置条件ごとに予め記憶しておき、入力された試料情報や設定された走査電子顕微鏡の装置条件に応じて読み出し、上記深さ決定の演算に供することで、深さや高さ計測を実現する。深さ計測するパターン情報や計測方法は事前にレシピに設定することができる。
【0035】
ステップ151にて設定される取得条件の中には、試料に対する入射電子のエネルギーが含まれる。以下に、入射電子のエネルギーの決め方の一例について説明する。入射エネルギーは、電子ビームを加速させる加速電圧(Vacc)と、試料に印加される負電圧(リターディング電圧Vr)との差分によって求められ、全体制御102は、予めレシピとして設定されたビーム条件となるように、加速電圧と負電圧を印加する。
【0036】
なお、本実施例で説明する深さ計測では、深さ計測対象となるパターンの底部近傍への入射に基づいて得られる電子を検出する一方で、底部より更に深く侵入した電子に基づいて得られる電子の発生を抑制することによって、高精度な深さ計測を実現する。具体的には、図7(a)に例示するように、試料201の溝ないし穴の底部近傍に電子ビーム202を照射したときに、底部近傍で発生した電子203は試料201上に放出されるけれども、入射電子が底部より深く侵入することによって発生する電子204は、試料201上に放出されない程度のエネルギーでビームを照射する。検出器205によって、孔底で発生し、孔から放出される電子206を選択的に検出するために、エネルギーフィルタ207によるエネルギー弁別を行うこともできる。なお、図7(b)に例示するように、孔底近傍より深く入射電子が侵入し、その結果得られる電子208は、孔底以外の情報を含んでいるため、深さ計測の精度を低下させる要因となる。よって、電子208を発生させない程度の低い入射エネルギーを選択することが望ましい。
【0037】
深さ計測に用いる電子ビームのエネルギー202は、数2で示すような電子の侵入長R210が膜厚211(想定されるパターン深さ)よりも短くなるように決定すると良い(図7(c)参照)。
[数2]
【0038】

Rは侵入深さ(nm)、Eは入射電子のエネルギー(keV)、Aは原子量、ρは密度(g/cm)、Zは試料の原子番号である。
【0039】
以下に、具体的な入射エネルギーの設定手順、及び当該設定手順に沿って装置条件を設定する走査電子顕微鏡について説明する。図8(a)は、入射電子のエネルギー、或いは試料の膜厚を決定するために用いられるデータベースの一例を示す図であり、図8(b)は電子顕微鏡のビーム条件の設定画面である。これらのデータや設定画面は、例えばコンピュータシステム2502に設けられた入力装置の表示画面に表示され、使用者は表示画面から必要な情報の入力や確認を行うことができる。また、データベース等はメモリ2507に予め記憶されており、入力装置2506を用いた試料情報の入力等に基づいて、深さ演算部2505は、入射エネルギー等の演算を実行する。図8(a)に例示するようなデータベースには予め試料材料の材料名、原子量(A)、密度(ρ)(g/cm)、原子番号(Z)等のデータ250を記憶させておく。
【0040】
図9は走査電子顕微鏡の動作条件を設定するレシピ設定画面の一例を示す図であり、図9(a)は設定対象を選択する選択画面の一例を示す図である。画面650のRecipeボタン651を押すとRecipe Setting画面(図9(b))が開き、SEM Conditionボタン663を押すと、 図8(b)に例示するSEM Condition画面251が開く。 SEM Condition画面251で情報を入力することによって、入射電子エネルギーを設定することができる。
【0041】
SEM Condition画面251のMaterialタブ252より試料の材料を選択する。Materialタブ252には、記憶させたデータ250の材料名が表示される。Thickness253に試料の想定される膜厚(nm)253を入力し、calculateボタン254を押すと、Thickness253に入力された膜厚を、数2のRとして、数2に基づいた入射電子のエネルギーEを算出することができる。求められたEを、Accelerating Voltage255に表示する。求めた入射電子のエネルギーEが深さ計測における上限となるため、それ以下の入射電子のエネルギーを用いることで最適な入射エネルギーを決定することが可能となる。
Accelerating Voltage255を参照し、入射エネルギー設定欄256に設定する入射電子のエネルギーを入力し、Setボタン257を押すとレシピに入射電子のエネルギーが設定され、記憶部105やメモリ2507に記憶される。
【0042】
次に、入射エネルギー以外の他の計測パラメータの設定法について説明する。パラメータ(設定情報)は装置の入出力部104等からに入力され、レシピとして記憶部105等に記憶される。なお、画面650には、 Recipeボタン651の他に、Imageボタン652とResultボタン652が設けられている。
【0043】
Recipeボタン651を押すとRecipe Setting画面660が開き、深さ計測に必要なパラメータの設定が可能となる。Imageボタン652を押すと図15(c)に例示するようなImage Operation画面830が表示され、撮像した画像を確認することができる。Resultボタン653を押すと、図23に例示するようなResult画面850が表示され、計測した結果を確認することができる。
【0044】
図9(b)に例示するRecipe Setting画面660には、Measurementボタン661、Pattern Recognitionボタン662、SEM Conditionボタン663が設けられている。
【0045】
Measurementボタン661を押すと、図9(c)に例示するMeasurement画面670が開き、計測に必要なパラメータ設定が可能となる。MS List671では設定している計測内容の一覧が確認できる。Addボタン672を押すと、図10(a)に例示するMeasurement Setting画面680が開き、計測するパターンに応じた計測方法を選択することができる。 登録している計測を削除する時は、 MS List671よりその計測を選択し、Deleteボタン673を押して削除することができる。また、登録している計測内容を編集する場合は、Editボタン674を押しMeasurement Setting画面680を開いて編集することができる。
【0046】
図10(a)に例示するMeasurement Setting画面680で計測パラメータの登録/編集する手順の一例を以下に示す。Measurement Setting画面680 のMeasurementのタブ681を開くと、図10(b)に例示するMeasurement選択一覧684が開き、パターンに応じた計測方法を選択することができる。
【0047】
次にパターンの形状に応じた計測法の選択手順について説明する。例えば、トレンチの計測条件を設定する場合、Measurement選択一覧680のMeasurementのタブ681でWidth685を選択する。Width選択時にObjectタブ682を開くと、図10(c)に例示するようにトレンチを計測する項目687が表示される。深さ計測を実施する場合は、図10(c)のように計測対象を選択する。
【0048】
まず、Space688を選択することによって、トレンチの幅(スペース)を計測対象として選択する。また、Space(GL)689を選択することによって、トレンチ(スペース)内の輝度を計測対象として選択する。更にSpace(Index)690を選択することによって、所定の記憶媒体から数3のような数理モデル(演算式)を読み出し、当該演算式、トレンチの幅(W)、及びトレンチ内の輝度(GL)に基づいて深さ指標値(I)の演算を実行する設定を行う。Nは正数である。
[数3]
I=(W/GL)
図10(d)は計測対象としてホールパターンを選択したときのobject選択画面の一例を示す図である。ホールパターン以外に楕円パターン、正方形パターン、及び長方形パターンを選択したときも同等のobject選択となる。深さ計測において、ホールを計測する場合は、Measurement選択一覧680でHole691を選択する。Measurementのタブ681でHole選択時にObjectタブ682を開くと、ホールを計測する項目693が選択できる。
【0049】
ホールの深さを計測対象とする場合、まず、Area694を選択することによって、ホールの面積を計測対象として選択する。また、Area(GL)695を選択することによって、ホール内の輝度を計測対象として選択する。更にArea(Index)696を選択することによって、所定の記憶媒体から数4のような数理モデルを読み出し、当該演算式、ホールパターンの面積(A)、及びホール内部の輝度(GL)に基づいて深さ指標値(I)の演算を実行する設定を行う。Nは正数である。
[数4]
I=(A/GL)
Measurement681、Object682で設定した計測パラメータは、Saveボタン683を押すと、 図9(c)に例示するMeasurement画面670のMS List671に追加される。
【0050】
更に計測条件設定工程では、図9に例示するようなGUI画面を用いて、Measurement画面670 のDepth Measurement700を有効にする。ここを有効とし、MS List671に深さ計測に必要な計測パラメータが設定されていれば、図5に例示するような処理が自動的に実行される。画像取得条件設定工程では、数3、数4等の演算を行う場合の指数N701の数値を入力することができる。
【0051】
また、図6に例示するように、パターン深さと指標値との関係を記憶したデータベースを参照して深さを求める場合は、図9(c)に例示するDepth DB702を有効とすることによって、データベースを参照することが可能となる。図9(c)のボタン703を押すと、図11(b)に例示するような事前登録されたデータベースのリスト613が表示される。リスト613には、パターン名614、深さ指標値610、深さ611、及び深さ指標値の演算に供される指数612が関連付けて記憶されたデータベースが複数表示される。図11(b)に例示するようなGUI画面上でチェックボタン615をチェックすることによってデータベースを選択する。選択したパターン名614は図9(c)に例示するMeasurement画面670の704に表示され、確認することができる。使用するデータを指定してあれば、Graphボタン705を押して深さと深さの指標値のグラフ608を表示し、確認することができる。
【0052】
図6に例示する処理工程にて用いられるデータベース161は、深さ指標値と実際のパターンの深さの関係情報が記憶されている。対象パターンの実際の深さは、AFM(Atomic Force Microscope:AFM)を用いた深さ計測や、ホールパターン等の断面像からその深さを計測することによって予め計測しておくことによって得ることができる。対象パターンの深さ計測する手法は断面解析やAFMに限定はされず、対象パターンの深さが分かる手法であればよい。
【0053】
例えば、図12(a)(b)に例示するトレンチパターンの場合、SEM画像600、601から得られる寸法値、輝度値を、数3、数4等の演算式に代入することによって、深さ指標値(I1,I2)602、603を求めると共に、断面像604、605から深さ(D1,D2)606、607を計測する。このように、対象パターンの深さを計測する手法を併用して、図11(a)に例示するような深さ指標値と深さとの関係情報を生成し、データベースとして記憶する。より具体的には、複数の対象パターンに対し、数3、数4等の演算式を用いた計算によって得られる深さ指標値と、深さの実測値を計測し、深さ指標値の変化に対する実測値の変化を示す近似曲線を生成し、当該近似曲線、或いは最適関数を所定の記憶媒体に記憶することによって、データベースとする。
【0054】
更に当該データベースには、数3、数4の演算に用いられる指数N701が併せて記憶されている。指数N701は以下のようにして求め、深さ計測時の演算に適用できるように、所定の記憶媒体に記憶される。例えば、深さ計測の測定対象パターンが穴形状(例えば円形のような閉図形のホールパターン)の場合、穴底部から開口を見込む立体角は、概ね穴面積すなわち穴直径の2乗に比例し、且つ穴の深さに比例することから、輝度値GLも概ね穴直径の2乗に比例し、穴の深さに比例すると仮定すれば、指数Nは0.5となる。即ち、数5に基づいて、深さ(D)を求めることができる。
[数5]
D=(A/GL)0.5
また、深さ計測の対象パターンが溝形状の場合、溝底部から開口を見込む立体角は、概ね溝幅に比例し、且つ溝の深さに比例することから、輝度値GLも概ね溝幅に比例し、溝の深さに比例すると仮定すれば、指数Nは1.0となる。即ち、数6に基づいて、深さ(D)を求めることができる。
[数6]
D=W/GL
以上のように、パターンの形状や種類に応じた適切な指数を、パターンの種類に応じて予め登録しておくことによって、計測対象に応じた適切な深さ計測を行うことが可能となる。
【0055】
一方で発明者らは、電子線の散乱シミュレーションと実験とから、nは一般に正の数であるものの、上記のような理想値0.5や1.0とは必ずしも一致しないことを見出した。そこで、シミュレーションや実験などにより、計測するパターンに応じた適切なN値を求めることが望ましい。
【0056】
以上のようなデータベースを構築するための具体的な手順として、まず、図12に例示するようなトレンチパターン600、601について、図5に例示するような計測を行うことによって、深さ指標値(Depth Index)I、Iを計測する。次に、断面観察像などから、トレンチパターンの高さ(Depth)D、Dを計測する。
【0057】
上述のような計測を同種の複数のパターンについて実行し、深さ指標値610と深さ611との関係情報を生成すると共に、当該関係情報と上述のような手法に基づいて求めた指数612が関連付けて記憶されたデータベースを所定の記憶媒体に記憶する。データベースは識別情報614(例えばパターンの種類を特定できる情報)を併せて記憶させておいても良く、図11(b)に例示するGUI画面上で選択ボタン615を選択することによって、深さ計測条件を選択できるようにしても良い。
【0058】
信号処理部103や深さ演算部2505は、以上のようにして設定されたデータベース(深さ計測条件)を、図6のステップ161で読み出し、その後の演算処理に適用する。
【0059】
なお、グレーレベルを用いた深さ計測を行う場合、計測対象によって、画像の明るさやコントラストが変動しないように、光電子増倍管等のゲインやアンプのオフセットを固定する。このような装置条件の決定法として、以下のような手法があるがこの限りではない。
【0060】
最初に、明るさを固定する装置条件の決定法について説明する。まず、図1~4に例示するような走査電子顕微鏡を制御して、電子ビームを試料に照射しない状態(検出器によって、試料から放出される電子が検出されない状態)で、検出器の出力に基づいて図13(a)に例示するような画像を生成する。電子ビームの試料への到達を遮断するためには、例えばシャッター130を閉じたり、偏向器131によってビームを軸外に偏向(ブランキング)することが考えられる。
【0061】
次に、図13(b)に例示するような画像の輝度ヒストグラムを生成する。図13(a)に例示するように、電子が検出されない状態で、検出器の出力に基づいて画像を生成すると、輝度がほぼゼロの暗い画像が生成される。この状態で輝度分布751が輝度ゼロとならず(0より大きな輝度範囲752)、且つ最大輝度との差異A753が十分に大きくなる輝度分布751を決定する。決定された輝度分布751、或いは当該輝度分布を実現するための増幅器のオフセット、或いは明るさ値が計測条件(レシピ)として所定の記憶媒体に記憶される。
【0062】
次に、適切なコントラストを設定する手法について説明する。まず、電子顕微鏡に撮像対象となる試料112を導入し、深さ計測の対象となるパターンに電子顕微鏡の視野が位置づけられるように、ステージ113を制御する。次に、電子顕微鏡を用いて図14に例示するような画像760を取得する。この際、画像取得時のドーズ量が少ないほど輝度分布の広がりが大きく、装置が表現できる最大輝度に振り切れていないかの確認が容易なため、通常の画像生成と比較して、低ドーズ(低フレーム)条件で画像を取得する。この画像生成の際、図13にて説明した手法で取得したオフセット値を装置に設定することによって、画像を生成する。このとき、図14(b)に例示するような輝度ヒストグラムを生成し、輝度分布761の最大値753が振り切れないように(輝度分布761の最大輝度754が、装置が表現できる最大輝度以下となるように)、或いは、明るい側の輝度割合を決めて、検出器のゲインを設定する。 ゲイン(コントラスト)設定時には、計測パターンごとにゲイン(コントラスト)設定を行うこともできるし、複数の異なる計測対象パターンの計測を考慮して、ゲイン設定を行うこともできる。具体的には、複数の計測対象パターンの計測時に、輝度分布の最大値が振り切れることがないように、装置が表現できる最大輝度より所定輝度B754分、低い最大輝度となるように、ゲイン設定を行う。所定輝度B754は数値やパーセント等で決定してもよい。このようにして決められたゲイン、或いはコントラスト値を所定の記憶媒体に、深さ計測時の計測条件として記憶される。
【0063】
図1~4に例示するような走査電子顕微鏡に設けられた全体制御部102や信号処理部103は、図5図6に例示するフローチャートに従って、自動深さ計測を行う際に、ステップ152にて、明るさとコントラスト値を設定し、当該設定がされた状態で得られたグレーレベルと、幅或いは面積に基づいて、深さ計測を実施する。
【0064】
図15は、明るさ値とコントラスト値を設定するGUI画面の一例を示す図である。図15に例示するようなGUI画面は、入出力部104、或いは別に設けられた表示装置に表示され、GUI画面から入力された情報(パラメータ)は、全体制御部102や信号処理部103に送られ、入力パラメータに応じた制御や信号処理が行われる。
【0065】
明るさとコントラストを設定するために、まず、図9(a)に例示する画面650の Recipeボタン651を押し、Recipe Setting画面660(図9(b))を開く。このGUI画面上でPattern Recognitionボタン662を押すと、図15(a)に例示するPattern Recognition画面800が開く。Pattern Recognition画面800上には、明るさとコントラストの設定を行うABC項目801があり、自動設定する場合はABCC(Auto Brightness Contrast Control)802を選択し、明るさコントラストを固定する場合はFix-ABC803を選択することで、切替えが可能となっている。
【0066】
Fix-ABC803を選択した場合は、詳細設定ボタン804が有効となり、ボタンを押すと、図15(b)に例示するFix-ABC Setting画面810が 開く。この画面では、上述で示した手法を用いることで、信号処理部103は、検出器や増幅器のゲインやオフセットを調整して、自動的に明るさ値812やコントラスト値821を求められる。全体制御部102は、Fix-ABC Setting画面810で、Brightnessボタン811が押されると、上述のような手順で明るさを設定し、そのときの装置パラメータ(オフセット)を、所定の記憶媒体に記憶する。装置パラメータに対応する明るさ値は、805や812に表示される。また、任意に明るさを設定したい場合は、 812に値を入力することもできる。
【0067】
図15(b)に例示するGUI画面上に設けられたImageボタン813を押すと、図15(c)に例示するImage Operation画面830が表示され、明るさ値設定時の画像831(図13(a)に示した一次電子遮断時の画像が表示される)を確認することができる。また、Profileボタン814を押すと、図15(d)に例示するProfile画面840が表示され、明るさ値設定時の輝度分布841を確認することができる。
【0068】
図15(b)に例示するFix-ABC Setting画面810で、Contrastボタン820を押すと、上述のような手順でコントラスト値を設定し、そのときの装置パラメータ(ゲイン)を所定の記憶媒体に記憶させる。装置パラメータに対応するコントラスト値は、806や821に表示される。また、任意にコントラスト値を設定したい場合は、821に値を入力することもできる。
【0069】
計測の対象となるパターン情報の登録を行うときは、パターンの座標情報を入力する。具体的には図15(b)に例示するGUI画面上に設けられたReg.ボタン822を押して、その座標を記憶することができる。その座標はPosition824で確認することができる。任意の計測位置を設定したい場合は、そのパターンの座標をPosition824に入力することもできる。また、図15(b)に例示するGUI画面上には、計測対象座標を移動させるためのMoveボタン823が設けられており、このボタン選択に基づいて、計測位置を設定するようにしても良い。Imageボタン825を押すと、図15(c)に例示するImage Operation画面830が表示され、明るさ値やコントラスト値が設定された画像831を確認することができる。また、Profileボタン826を押すと、図15(d)に例示するProfile画面840が表示され、明るさ値設定時の輝度分布841を確認することができる。
【0070】
次に、以上のように設定されたデータベースや装置パラメータに基づいて、パターンの深さ指標値を算出する具体的な処理内容について説明する。後述するような処理は、信号処理部103やコンピュータシステム2502によって行われる。以下にパターンの輝度と、パターン幅、或いは面積に基づいて深さ計測を実施する具体的な手法について説明する。
【0071】
図16(a)に図5、6のステップ154で取得される画像の一例を示す。画像301は2次電子(SE)像である。深さ指標値を求めるため、ステップ155、156では、画像301を用いて、トレンチ(領域304)の輝度値305(GLTx-SE)と、トレンチの幅303(WTx)を求める。輝度値305は例えばプロファイル波形302のトレンチ(溝)に対応する位置の輝度値から算出する。本例の場合、画像301内に含まれるトレンチの輝度の平均GLTAve-SEを、画像301におけるトレンチの輝度値とする。更に幅の平均値WTAveを画像301におけるトレンチの幅値とする。
【0072】
図16(b)に図5、6のステップ154で取得される画像の一例を示す。画像306は後方散乱電子(BSE)像である。上記SE像と同様に、溝幅(WTx、WTAve)303を計測する。この場合、各トレンチで得られる信号波形を加算平均することによって得られる平均信号波形を生成し、その上でピーク間の寸法値を求めるようにしても良い。更に、溝幅計測で認識した領域307の輝度値GLTxAve-BSE、輝度平均値GLTAve-BSEを算出する。
【0073】
SEとBSEを同時検出する複数検出器が設けられている走査電子顕微鏡の場合、SE像で溝領域を特定し、特定された溝領域内のBSEの平均輝度を求めるようにしても良い。また、BSE像のコントラストが低い場合などは、SE像を用いて溝幅(WTx、WTAve)を計測しても良いし、その逆でもよい。
【0074】
ステップ158では、上述のようにして得られた溝幅、輝度値、及び数7或いは数8を用いて、深さ指標値(IT-SE、IT-BSE)を算出する。
[数7]
T-SE=(WTx-SE,BSE/GLTx-SE
[数8]
T-BSE=(WTx-SE,BSE/GLTx-BSE
また、輝度平均値GLTAve-SE、或いはGLTxAve-BSEを輝度値とする場合には、数9或いは数10を用いて深さ指標値を算出する。
[数9]
T-SE=(WTx-SE,BSE/GLTAve-SE
[数10]
T-BSE=(WTx-SE,BSE/GLTxAve-BSE
更に、複数のトレンチの平均溝幅WTAveを溝幅とする場合には、数11或いは数12を用いて深さ指標値を算出する。
[数11]
T-SE=(WTAve-SE,BSE/GLTAve-SE
[数12]
T-BSE=(WTAve-SE,BSE/GLTxAve-BSE
以上のように輝度値と寸法値(上述の例では溝の幅)の2つの情報に基づいて、深さ計測を実施することによって、試料の材質やパターン密度の違いによらず、正確な深さ計測を行うことが可能となる。
【0075】
次に、ホールパターンの深さを計測する例について説明する。図17(a)は、ステップ154で取得された二次電子画像(SE画像)の一例を示す図である。図17(a)に例示する画像には、1つのホールパターン350が含まれている。トレンチの場合、形状指標値として線幅を計測したが、ホールパターンのような閉図形の場合は、ホールの面積を計測する。具体的には、得られた画像の輝度プロファイル351からエッジ位置(P1~Pn)を特定し、複数の方向について輝度プロファイル上のピーク間の寸法2rを求める。複数の2rを平均して平均値2rave353を算出し、πrave を解くことによって、ホールの面積AreaH-SE354を求める(ステップ155)。更に、エッジ内(ホール内)の輝度GLH-SE355を計測する(ステップ156)。輝度はエッジより内側の所定領域(例えばエッジから所定距離離れた点を境界線とする内部領域)の輝度を平均することによって求めても良い。
【0076】
図17(b)は、ホールパターン360の後方散乱電子画像(BSE画像)の一例を示す図である。SE画像と同様に、面積AreaH-BSE361と輝度GLH-BSE362を計測する。
【0077】
SE画像と同時撮像したBSE画像を用いて輝度値を算出する場合は、SE画像の面積計算で認識した領域354と同じ領域で輝度GLH-BSE362を計測するようにしても良い。また、面積計測と輝度計測は同一画像を用いなくても良い。(例えば、面積をSE画像で計測し、輝度をBSE画像で計測する)
以上のようにして求められた面積値、輝度値を数13、数14に代入することによって、深さ指標値を算出する。
[数13]
H-SE=(AreaH-SE,BSE/GLH-SE
[数14]
H-BSE=(AreaH-SE,BSE/GLH-BSE
図18は、楕円パターン画像の一例を示す図である。(a)はSE画像、(b)はBSE画像の一例を示している。楕円パターンでもホールパターン同様、底部の輝度と面積を計測する。楕円の場合は、複数方向の輝度プロファイル401から複数方向の直径(例えば402)の寸法値を求め、その中から最大値a(図18(a)の例ではP5-P13)と、最小値b(図18(a)の例ではP1-P9)を抽出し、πabを解くことによって、AreaO-SEを求める。また、楕円内部の輝度GLO-SEを計算する。BSE画像でも同様に楕円パターン410の面積AreaO-BSEと、楕円内部の輝度GLO-BSEを求める。以上のようにして求められた輝度と面積を、(面積/輝度)に代入することによって、深さ指標値を算出する。SE画像と同時撮像したBSE像を用いて輝度値を算出する場合は、SE画像の面積計算で認識した領域と同じ領域で輝度平均値を計測することも可能である。
【0078】
図19は正方形や長方形パターン500、510からそれぞれの面積(AreaS/R-SE503、AreaS/R-BSE511)と、内部輝度(GLS/R-SE504、GLS/R-BSE512)を求め、(面積/輝度)から、深さ指標値を算出する。面積はx方向の輝度プロファイル501と、y方向の輝度分布502から得られた寸法値a、bを乗算することによって算出することができる。
【0079】
SE画像と同時撮像したBSE像を用いて輝度値を算出する場合は、SE画像の面積計算で認識した領域と同じ領域で輝度平均値を計測することも可能である。
【0080】
次に視野内に複数のパターンが含まれている場合の深さ指標値計測法について説明する。図20は、視野内に複数のパターン(25個のホールパターン)が含まれているSEM画像の一例を示す図であり、図20(a)はSE画像550、図20(b)はBSE画像560の一例を示している。このように視野内に複数のパターンが含まれている場合、数15、16を用いて平均面積値(AreaH-SE-Ave、AreaH-BSE-Ave)を求める。AH1-SE・・・、AreaH1-BSE・・・は、画像処理に基づいて得られる各ホールの面積値である。
[数15]
AreaH-SE-Ave=Average(AH1-SE+AH2-SE+AH3-SE+・・・+AHn-SE
[数16]
AreaH-BSE-Ave=Average(AH1-BSE+AH2-BSE+AH3-BSE+・・・+AHn-BSE
また、輝度値の平均値(GLH-SE-Ave、GLH-BSE-Ave)を、数17、18を用いて算出する。GLH1-SE・・・、GLH1-BSE・・・は、画像処理に基づいて得られる各ホール中心部を含む領域の輝度値である。
[数17]
GLH-SE-Ave=Average(GLH1-SE+GLH2-SE+GLH3-SE+・・・+GLHn-SE
[数18]
GLH-BSE-Ave=Average(GLH1-BSE+GLH2-BSE+GLH3-BSE+・・・+GLHn-BSE
以上のようにして求められた平均面積値(AreaH-SE-Ave,AreaH-BSE-Ave)と平均輝度値(GLH-SE-Ave,GLH-BSE-Ave)から、数19、数20を用いて深さ指標値IH-SE-Ave、IH-BSE-Ave算出する。
[数19]
H-SE-Ave=(AreaH-SE-Ave/GLH-SE-Ave
[数20]
H-BSE-Ave=(AreaH-BSE-Ave/GLH-BSE-Ave
視野内に複数のパターンが含まれている場合のもう一つの深さ指標値計測として、パターンごとの面積と輝度を用いて深さ指標値を算出し、数21、22を用いて求める手法もある。(AH1-SE/GLH1-SE)・・・、H1-BSE/GLH1-BSE)・・・は、画像処理に基づいて得られる各ホールの深さ指標値である。
[数21]
H-SE-Ave=Average((AH1-SE/GLH1-SE)+(AH2-SE/GLH2-SE)+(AH3-SE/GLH3-SE)+・・・+(AHn-SE/GLHn-SE
[数22]
H-BSE-Ave=Average((AH1-BSE/GLH1-BSE)+(AH2-BSE/GLH2-BSE)+(AH3-BSE/GLH3-BSE)+・・・+(AHn-BSE/GLHn-BSE
図20に例示するように、視野内に複数の同一形状パターンが存在する場合には、上述のような演算を行うことによって、高精度な高さ評価を行うことが可能となる。一方、視野内の複数のパターンの深さを比較する場合は、個別の面積値と輝度値、或いは複数の領域単位の平均面積値と平均輝度値に基づいて、深さ指標値を算出するようにしても良い。
【0081】
図21は、トレンチ(溝状パターン)の下部にホールパターン(ビア)が形成されたビアイントレンチの電子顕微鏡画像の一例を示す図である。図21(a)はSE画像900、図21(b)はBSE画像920である。図21は、図5図6に例示したフローチャートのステップ154にて取得された画像を例示している。図21(a)に例示するように、電子顕微鏡画像上では、トレンチ910の内部にホールパターン901が存在しているように見える。このようなパターンの深さ指標値を算出するために、ホールパターンの面積AreaHT-SE903を図17の説明で用いた演算式に基づいて求めると共に、輝度プロファイル911を用いて、トレンチ910の幅WTH-SE912を求める。更に、ホールパターン901の内部の輝度GLHT-SE904と、ホールパターン領域を除いたトレンチ910内の輝度GLTH-SE913を計測する。
【0082】
図19(b)に例示するBSE画像920を用いて深さ指標値を算出する場合も、SE画像と同じ要領で、ホールの面積AreaHT-BSE、トレンチ幅WTH-BSE、ホールの輝度GLHT-BSE、及びトレンチの輝度GLTH-BSEを計測する。SE画像と同時撮像したBSE画像を用いて輝度値を算出する場合には、SE画像によって特定されたホール、トレンチの領域内で輝度値、或いは平均輝度値を計測することも可能である。また、その逆を行うようにしても良い。また、面積計測と輝度計測は同一画像を用いなくても良い。(例えば、面積や幅をSE画像で計測し、輝度をBSE画像で計測する)
上述のようにして求められた面積値、寸法値、及び輝度値を、予め記憶された(面積or寸法値/輝度値)に代入することによって、ホールやトレンチの深さ指標値を求めることができる。トレンチの長手方向の寸法が小さい場合(例えば視野内にトレンチ全体が表示されているような場合)は、長方形とみなし、図19に例示するように面積値(トレンチの幅の寸法値×トレンチの長手方向の寸法値)の算出に基づいて、深さ指標値を算出するようにしても良い。
【0083】
なお、ビアイントレンチと単なるビアを比較すると、単なるビアは、孔底から試料表面に至るまで細い筒状体であるのに対し、ビアイントレンチの場合、途中からトレンチとなる(途中から空間が開ける)ため、単なるビアと比較すると孔底から放出される電子が試料表面に脱出し易くなり、相対的に明るくなることが考えられる。よって、パターンの形成条件(上層の有無や上層パターンの面積や寸法値)に応じたN値を用意しておくことによって、上層の状態によらず、高精度に深さ指標値を算出することが可能となる。また、パターンの形成状態に応じて、底部の輝度値を補正する補正係数をあらかじめ用意しておき、パターンの形成状態の選択に基づいて、輝度補正を行うことで、上層の形成状態によらず、正確に深さに応じた輝度を求めるようにしても良い。ビアイントレンチの場合、ビアとトレンチでNの異なる複数のモデルを用意しておき、計測用途に応じて使い分けることが考えられる。また、ビアと試料表面との間の寸法(深さ)が同じであったとしても、トレンチの深さが異なると、ビア底の輝度も変化するため、まず、トレンチの深さを計測し、当該深さに応じて穴底の輝度やビア深さ指標値を補正するような処理も考えられる。
【0084】
図16図17では、いずれも溝底や孔底の輝度が、試料表面の輝度より低くなる例を示しているが、溝底や孔底に位置するパターンの材料や電子顕微鏡の装置条件によっては、溝底や孔底の輝度の方が高くなる場合がある。このような場合であっても数1のような数理モデルを用いた深さ推定を行うことが可能である。特に、BSE画像で底の輝度が高くなることがあるので、試料を構成する材料、及び検出条件(特にSE検出或いはBSE検出)の少なくとも1つの選択に応じて、高輝度領域の輝度値を求めるか低輝度領域の輝度値を求めるかを自動的に選択するようなアルゴリズムを用意しておくことによって、適切な領域の輝度評価に基づく深さ推定を行うことが可能となる。
【0085】
ホールやトレンチの底の深さを適正に評価するためには、パターンのエッジ等を含まない底部のみを選択的に評価することが望ましい。ホールやトレンチの深さに応じて、底部の明るさが変化するという原理を利用する深さ評価法では、底部の明るさを適正に評価する必要がある。そこで図22に例示するように線幅や孔径より狭い或いは小さい溝領域や孔領域を選択すると良い。具体的には、図22(a)に例示するように、SEM画像に表示されたトレンチ301の幅WTnを計測し、WTnより狭くなるように輝度評価領域(幅STn)を設定する。その上で底部321の輝度GLTnを評価する。また、ホールパターンも同様であり、図22(b)に例示するように、ホール350について、複数方向のホール径の算出に基づいて、ホール面積AreaH-SEを求め、AreaH-SEより直径が2SHn分、小さくなるように範囲を狭めた領域を、輝度評価領域として設定する。その上で底部381の輝度GLHnを設定する。領域を狭める手法の一例として、狭め量に相当するピクセル数や寸法を指定する方法がある。このように範囲を狭めた輝度評価を行うことによって、高精度な深さ評価を行うことが可能となる。なお、計測を行わなくとも、輝度プロファイルに基づいてエッジ抽出を行い、当該エッジから所定量離間した位置に評価領域の枠を設定するようにしても良い。
【0086】
また、輝度評価領域を設定する他の手法として、トレンチパターンについて、当該トレンチパターンの長手方向に直交する方向の輝度分布を示すラインプロファイルを形成し、ラインプロファイル内の暗い部分(例えば所定の閾値より低輝度部分)を特定し、暗部領域の中心を特定すると共に、当該中心を基準として所定数画素数分の平均輝度をトレンチ底部の輝度と定義するようにしても良い。また、SE画像と異なりBSE画像は、上述のように溝底に位置する材料の種類によっては、溝底の方が試料表面より高輝度となる場合がある。そこで、高輝度領域を特定し、当該高輝度領域の中心を特定すると共に、当該高輝度領域の中心を基準として、輝度評価領域を設定するようなアルゴリズムを用意しておくことによって、適切な輝度評価領域選択に基づく、高精度な深さ推定を行うことが可能となる。また、輝度評価領域の大きさを、画素数や寸法値で設定可能としておくことによって、試料の出来栄えに応じた適切な輝度評価領域の選択を行うことができる。また、ホールパターンのような閉図形やトレンチ(溝状パターン)の下部にホールパターン(ビア)が形成されたビアイントレンチなどの構造においても上述手法を用いて輝度評価領域の選択を行うことができる。
【0087】
次に、深さ計測結果の出力例について説明する。図23は計測結果の表示例を示す図である。図9に例示する画面650のResultボタン653を押して、Result画面850を表示させ、深さ計測の結果を確認することができる。 Measurement Dataボタン851を押すと、Measurement Data一覧860(図23(b))が表示される。一覧には、画像名861や画像取得座標862、測定結果863などが表示されている。Measurement Data一覧860よりそのリストを選択864し、クリックするとImage Operation画面830(図23(c))に撮像した画像870が表示される。Re-MSボタン871を押すとMeasurement画面670を表示して、計測結果を確認したり、再計測することができる。再計測した結果に変更する場合は、Saveボタン872を押しMeasurement Data一覧860に反映する。
【0088】
図23(a)に例示するResult画面850のMAPボタン852を押すと、図24(a)に例示するMAP画面880が表示し、深さ計測したウェハやショットなどの分布881を確認できる。分布を確認する計測結果を、図24(b)に例示するObjectタブ882で選択することができ、それぞれの計測結果883の分布を確認できる。Rangeタブ884は分布を表示する範囲を、その時の色をColorタブ885で選択できる。Autoボタン886を押すと、自動で各計測結果に合った表示範囲や表示する色を決定することもできる。
【0089】
図23(a)に例示するResult画面850のHistogramボタン853を押すと図24(c)に例示するHistogram画面890が表示し、深さ計測結果をヒストグラムで確認できる。ヒストグラムを確認する計測結果をObjectタブ892で選択することができ、図24(b)で例示した計測結果選択画面同様、それぞれの計測結果のヒストグラムを確認できる。Rangeタブ893では分布を表示する範囲を、その時の色をColorタブ894で選択できる。Autoボタン895を押すと、自動で各計測結果に合った表示範囲や表示する色を決定することもできる。
【符号の説明】
【0090】
101…撮像部(走査電子顕微鏡)、102…全体制御部、103…信号処理部、104…入出力部、105…記憶部、106…電子銃、107…電子線、108…集束レンズ、109…集束レンズ、110…偏向器、111…対物レンズ111、112…試料、113…ステージ、114…放出電子、115…偏向器、116…検出絞り、117…反射板、118…二次電子、119…検出器、120…二次電子、121…検出器、123…エネルギーフィルタ
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