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特許7150256環状カーボネート開環重合による重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】環状カーボネート開環重合による重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/30 20060101AFI20221003BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C08G64/30
C08G64/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018080876
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019189688
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏文
(72)【発明者】
【氏名】磯野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】紺野 貴史
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-532750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172574(US,A1)
【文献】特開平7-126221(JP,A)
【文献】特開平7-10920(JP,A)
【文献】特開平7-126360(JP,A)
【文献】特開2004-536953(JP,A)
【文献】MAKIGUCHI Kosuke et al.,Diphenyl Phosphate as an Efficient Cationic Organocatalyst for Controlled/Living Ring-Opening Polymerization of δ-Valerolactone and ε-Caprolactone,Macromolecules,2011年,44,1999-2005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00 - 64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、ポリオールを開始剤として環状カーボネートを開環重合して重合体を得る重合体の製造方法であって、
前記触媒が、カルボン酸アルカリ金属塩であり、
前記触媒の使用量が、環状カーボネート100モルに対して0.1~10モルであり、
前記ポリオールの使用量が、環状カーボネート100モルに対して0.1~5モルであり、
前記重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]が、1.8以下である ことを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
開始剤としてのポリオールが、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、又は1,4-ブタンジオールである請求項に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
環状カーボネートが、1,3-ジオキサン-2-オン又は5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オンである請求項1又は2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]が、1.2以下である請求項1~3のいずれか1つに記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状カーボネートを開環重合することにより、重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、高い耐衝撃性、耐熱性、透明性を備える材料であるため、機械部品、電気絶縁性材料、自動車部品、光ディスク等の情報機器材料、ヘルメット等の安全防護材料等として用いられている。
【0003】
カーボネートを原料とするポリカーボネート合成には、主として有機塩基触媒や強酸性触媒が用いられる。しかし、この様な触媒を用いた反応系では副反応も多く、得られる重合体の分子量分布が広くなること、つまり、均一な重合体が得られにくくなるという問題があった。さらに、触媒自体の取り扱いの安全性等に問題があり、環境や人体への配慮から毒性の低い触媒の利用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-126221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、安全性が高い触媒を用い、均一なポリカーボネートを得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の触媒の存在下において、ポリオールを開始剤として用いて環状カーボネートを開環重合することにより、均一なポリカーボネートが得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、触媒の存在下、ポリオールを開始剤として環状カーボネートを開環重合して重合体を得る重合体の製造方法であって、
前記触媒が、カルボン酸、リン酸、又はリン酸エステルと、アルカリ金属との塩、チオウレア誘導体、及びベタイン型化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする重合体の製造方法を提供する。
【0008】
前記触媒は、カルボン酸アルカリ金属塩であることが好ましい。
【0009】
前記開始剤としてのポリオールは、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、又は1,4-ブタンジオールであることが好ましい。
【0010】
前記環状カーボネートは、1,3-ジオキサン-2-オン又は5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、安全性の高い触媒を使用することにより、分子量分布の狭いポリカーボネートを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、触媒の存在下、ポリオールを開始剤として環状カーボネートを開環重合して重合体を得る重合体の製造方法であって、前記触媒が、カルボン酸、リン酸、又はリン酸エステルと、アルカリ金属との塩、チオウレア誘導体、及びベタイン型化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする重合体の製造方法に関する。以下、前記発明を「本発明の製造方法」と称することがある。
【0013】
[環状カーボネート]
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、テトラフルオロエチレンカーボネート等の5員環カーボネート;1,3-ジオキサン-2-オン(トリメチレンカーボネート)、1,3-ブチレンカーボネート、5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オン(5,5-ジメチル-トリメチレンカーボネート)、ネオペンチレンカーボネート、5,5-ジエチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5,5-ジフェニル-1,3-ジオキサン-2-オン等の6員環カーボネート;7員環カーボネートや8員環カーボネート以上の大環状カーボネートおよびその誘導体等が挙げられる。この中でも、6員環カーボネートが好ましく、1,3-ジオキサン-2-オン(トリメチレンカーボネート)、5,5-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-オン(5,5-ジメチル-トリメチレンカーボネート)がより好ましい。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
[触媒]
本発明の製造方法にて用いられる触媒は、カルボン酸、リン酸、又はリン酸エステルと、アルカリ金属との塩、チオウレア誘導体、及びベタイン型化合物からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0015】
カルボン酸、リン酸、又はリン酸エステルと、アルカリ金属との塩は、具体的には、カルボン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、リン酸エステルアルカリ金属塩を意味する。
【0016】
カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、2,2-ジメチルプロパン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、安息香酸等の飽和又は不飽和カルボン酸;トリフルオロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸(例えば、フッ化カルボン酸)が挙げられる。この中でも、飽和カルボン酸が好ましく、酢酸、プロパン酸、ブタン酸がより好ましく、酢酸がさらに好ましい。
【0017】
リン酸エステルとしては、例えば、メチルホスフェート、エチルホスフェート、ブチルホスフェート、ブトキシエチルホスフェート、2-エチルヘキシルホスフェート、フェニルホスフェート、ナフチルホスフェート等のリン酸モノエステル;ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジエチルヘキシルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニルホスフェート等のリン酸ジエステル等が挙げられる。
【0018】
カルボン酸、リン酸、又はリン酸エステルと塩を形成する金属としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)であれば特に限定されないが、開環重合反応活性の観点からは、リチウム、ナトリウム、カリウムであることがより好ましく、ナトリウムであることが特に好ましい。
【0019】
チオウレア誘導体としては、例えば、下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環式基またはこれらの2以上が結合した基であって、置換基として水酸基、カルボキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい基を示す。また、R1及びR2は、アルキル基を介して環を形成していてもよい。
【0022】
チオウレア誘導体としては、例えば、N,N’-ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、N,N’-ジイソプロピルチオ尿素、N,N’-ジシクロヘキシルチオ尿素、1,3-ジ(o-トリル)チオ尿素、1,3-ジ(p-トリル)チオ尿素、1,1-ジフェニル-2-チオ尿素、1-(1-ナフチル)-2-チオ尿素、1-フェニル-2-チオ尿素、p-トリルチオ尿素、o-トリルチオ尿素、イソチオシアン酸3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルとアミノ酸又はその誘導体との反応物(例えば、下記式(1-1)、式(1-2)、式(1-3)で示される化合物)が挙げられる。
【0023】
【化2】
【0024】
なお、チオウレア誘導体を触媒として使用する場合は、イミダゾール等のアミンを助触媒として用いることが、反応活性の観点から好ましい。特に式(1-1)で示される化合物を触媒として用いる場合にその効果が顕著に示される。その一方で、式(1-2)及び(1-3)で示される化合物には分子内にイミダゾール環を有するため助触媒としての効果は低い。
【0025】
ベタイン型化合物としては、例えば下記式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化3】
【0027】
式中、R3、R4、及びR5は、同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0028】
本発明の製造方法にて用いられる触媒は、カルボン酸アルカリ金属が好ましく、より好ましくはカルボン酸ナトリウム、最も好ましくは酢酸ナトリウムである。
【0029】
触媒の使用量としては、環状カーボネート100モルに対して、例えば0.01~10モル、好ましくは0.1~5モル、特に好ましくは0.5~3モルである。触媒と環状カーボネートのモル比を上記範囲内とすることにより得られる重合体の分子量分布が狭くなる傾向がある。
【0030】
[開始剤]
本発明の製造方法では、ポリオールを開始剤として使用する。ポリオールを使用することにより重合反応が制御され、分子量分布の狭い重合体が得られる。
【0031】
ポリオールとしては水酸基を2以上有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコールのエーテル重合体;カテコール、ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック等の芳香族多価アルコールが挙げられる。この中でも、脂肪族多価アルコールが好ましく、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールがより好ましく、1,3-プロパンジオールが特に好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
本発明においては、なかでも、脂肪族多価アルコールを開始剤として使用することが好ましい。脂肪族多価アルコールの炭素数は特に限定されないが、例えば、2~6であることが好ましく、より好ましくは3~4である。本発明の製造方法では上記開始剤を使用することにより、従来法(例えば、モノオールを開始剤として使用する場合)と比較して、目的とする重合体を効率よく得ることができ、得られた重合体は分子量分布が狭い。
【0033】
前記ポリオールの使用量としては、環状カーボネート100モルに対して、例えば0.1~30モル、好ましくは0.5~10モル、特に好ましくは1~5モルである。ポリオールと環状カーボネートのモル比を上記範囲内とすることにより得られる重合体の分子量分布が狭くなる傾向がある。
【0034】
本発明の製造方法では、溶剤を用いてもよい。溶剤としては反応に不活性な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0035】
本発明の製造方法における反応温度は、例えば30~200℃、好ましくは50~150℃、特に好ましくは60~120℃である。反応温度を上記範囲内とすることにより、反応速度が速くなり、得られた重合体の分解反応が抑えられるためか、分子量分布の狭い重合体が得られる傾向がある。また、反応時間は、例えば0.05~10時間、好ましくは0.1~2時間であり、前記範囲内において、反応温度が高い場合は短めに、反応温度が低い場合は長めに調整することが好ましい。更に反応圧力は例えば0.7~1.3気圧、好ましくは0.8~1.2気圧、特に好ましくは0.9~1.1気圧であり、常圧下(1気圧下)で行うことが最も好ましい。
【0036】
また、反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法では、開環重合反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法で行うこともできる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0038】
[重合体]
本発明の製造方法により得られる重合体(以下、本発明の重合体と称することがある)は、開始剤としてポリオールを用いるため、ポリカーボネートポリオール(つまり、カーボネート構造を持ち、ヒドロキシ基を末端に有するポリオール)である。したがって、例えば、前記ポリオールとイソシアネート化合物(例えばジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等)とを反応させることで、耐熱性、耐候性、耐衝撃性、耐薬品性の高いポリウレタン樹脂を得ることが可能である。このため、前記ポリウレタン樹脂を含む組成物はコート剤等に用いることができる。また、その硬化物は機械部品、電気絶縁性材料、自動車部品、光ディスク等の情報機器材料、ヘルメット等の安全防護材料等として用いることができる。
【0039】
本発明の重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、例えば1.8以下、好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.16以下である。したがって、前記重合体は、樹脂原料や樹脂改質剤等としても好適に使用することができる。なお、重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算のものを意味する。
【0040】
本発明の重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、300~50000が好ましく、より好ましくは500~10000、さらに好ましくは1000~8000である。数平均分子量は特に限定されないが、300~50000が好ましく、より好ましくは500~10000、さらに好ましくは1000~8000である。
【実施例
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
フラスコに、環状カーボネートとして4.0mmolのトリメチレンカーボネート(TMC)、開始剤として80μmolの1,3-プロパンジオール、触媒として40μmolの酢酸ナトリウムを加え、アルゴン雰囲気下、80℃において撹拌し、重合反応を実施した。25分後、安息香酸及びCH2Cl2を加えて重合を停止した。その後、溶媒を減圧留去し、重合体を得た。
【0043】
[実施例2]
環状カーボネートとして4.0mmolの5,5-ジメチル-トリメチレンカーボネート(DMTMC)を用い、100μLのトルエンを加えたこと以外は実施例1と同様にして、重合体を得た。
【0044】
[比較例1]
開始剤として80μmolの3-フェニル-1-プロパノールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、重合体を得た。
【0045】
[比較例2]
開始剤として80μmolの3-フェニル-1-プロパノールを用いたこと以外は実施例2と同様にして、重合体を得た。
【0046】
実施例1及び2、比較例1及び2における反応温度、転化率、数平均分子量、分子量分布を表1にまとめた。
【0047】
【表1】
【0048】
(分子量の測定)
得られた重合体の数平均分子量と分子量分布はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により算出した。
GPC測定条件を以下に示す。
装置:Shodex GPC-101
カラム名:Shodex K-805L(×2本)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
【0049】
表1からも理解できる通り、本発明の製造方法により得られる重合体(実施例1及び2)の分子量分布は狭いことが明らかとなった。