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特許7150317電子素子及びその製造方法並びに磁気抵抗素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】電子素子及びその製造方法並びに磁気抵抗素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/10 20060101AFI20221003BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01L43/10
H01L43/08 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018167801
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020043165
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 啓
(72)【発明者】
【氏名】杉原 敦
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 新治
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100415(JP,A)
【文献】特開2017-103419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179374(US,A1)
【文献】国際公開第2016/080373(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0229643(US,A1)
【文献】特開2003-228815(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135251(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/10
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、下地層と、電子素子層とが、順に積層された積層構造を有する電子素子であって、
前記基板は、シリコン(001)単結晶基板であり、
前記下地層は、化学量論的組成よりAlを過剰に含むXAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶の下地層であり、表面にAlの偏析領域を有することを特徴とする、電子素子。
【請求項2】
前記下地層は、Alを53原子%以上60原子%以下含むことを特徴とする、請求項1記載の電子素子。
【請求項3】
前記電子素子層は、単結晶介在層を介して、前記下地層上に積層されることを特徴とする、請求項1または2記載の電子素子。
【請求項4】
前記単結晶介在層は、bcc構造であるCr、W、Nb、V、Fe、Ta、FeCo、fcc構造であるAu、Ag、Pt、Pd、Al、Rh、Ir、cubic構造であるTiN、NbN、HfN、MoN、TaN、VN、ZrN、CrN、AlN、L10構造あるいはD022構造あるいはL12構造のXY(X=Fe、Co、Mn、Ni、Ag、Y=Al、Mg、Pt、Pd.Si、Ga、Ge)からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、請求項3記載の電子素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の電子素子が、前記電子素子層として、第1の強磁性層と、第2の強磁性層と、第1及び第2の強磁性層の間に設けられた非磁性層とを少なくとも備える磁気抵抗積層構造を有することを特徴とする、磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記磁気抵抗積層構造の前記非磁性層が絶縁体からなることを特徴とする、請求項5記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
シリコン(001)単結晶基板上に、化学量論的組成よりAlを過剰に含むXAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶の下地層であって、表面にAlの偏析領域を有する下地層を成膜する下地層形成工程と、
前記下地層上に、電子素子層を順に形成する電子素子層形成工程と、
を含むことを特徴とする、電子素子の製造方法。
【請求項8】
前記下地層形成工程は、300℃以上450℃以下の温度で前記下地層を成膜することを特徴とする、請求項7記載の電子素子の製造方法。
【請求項9】
前記下地層形成工程後で、前記電子素子層形成工程前に、
単結晶介在層を、前記下地層上に積層形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7または8記載の電子素子の製造方法。
【請求項10】
前記電子素子層形成工程が、第1の強磁性層の形成工程と、第1及び第2の強磁性層の間に設けられた非磁性層の形成工程と、第2の強磁性層の形成工程とを少なくとも備える磁気抵抗積層構造形成工程であることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項記載の電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶基板上に形成される高性能の結晶性の高い電子素子及びその製造方法に関し、例えば磁気抵抗素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気抵抗素子の研究開発が進み、磁気メモリ(MRAM)の記録素子、ハードディスクドライブ(HDD)の再生ヘッド、HDDのアシスト記録のための高周波発振素子、磁気センサ等に利用されている。しかしながら、磁気抵抗素子が多結晶体で構成されているために、多数の結晶粒の存在に起因した、素子間の記録書込特性や読出特性のバラツキが問題である。また、素子の特性、例えば磁気抵抗比等の高性能化が望まれている。なお、磁気抵抗比とは、二つの状態の抵抗の差ΔRを低い方の抵抗値Rで割った値をいう。
【0003】
磁気抵抗素子には、絶縁体層をトンネルバリア層として有するトンネル磁気抵抗効果層を備えるトンネル磁気抵抗素子、巨大磁気抵抗効果層を備える面直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子等が知られている。トンネル磁気抵抗素子は、主たる層として、下部強磁性層と上部強磁性層と、上部と下部強磁性層の間に非磁性のトンネルバリア層を設けた構造を有する。
【0004】
特許文献1では、大口径のシリコン単結晶基板上へ強磁性薄膜の(001)面をエピタキシャル成長させた単結晶磁気抵抗素子が、報告されている。特許文献1には、磁気抵抗素子の1例として、シリコン基板と、該シリコン基板に積層されたB2構造の下地層と、該B2構造の下地層に積層された第1の非磁性層と、下部強磁性層及び上部強磁性層、並びに当該下部強磁性層と当該上部強磁性層の間に設けられた第2の非磁性層を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層と、を備える磁気抵抗素子が示されている。また、他の例として、シリコン基板と、該シリコン基板に積層されたB2構造の下地層と、該B2構造の下地層に積層された、下部強磁性層及び上部強磁性層、並びに当該下部強磁性層と当該上部強磁性層の間に設けられた絶縁体層を有する積層体層を少なくとも一つ有するトンネル磁気抵抗効果層と、を備える磁気抵抗素子が示されている。特許文献1では、前記シリコン基板はSi(001)単結晶基板を用いている。また、前記B2構造の下地層はNiAl、CoAl、FeAlである。また、前記第1の非磁性層はAg、V、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、Ta、Ru、Re、Rh、NiO、CoO、TiN、CuNからなる群から選ばれた少なくとも一種である。下部強磁性層や上部強磁性層は、Co基ホイスラー合金、Fe、CoFeからなる群から選ばれた少なくとも一種からなる。前記第2の非磁性層はAg、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、TaおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなる。前記絶縁体層はNaCl構造及びスピネル構造からなる絶縁体でありMgO系酸化物、Al、MgAl、ZnAl、MgCr、MgMn、CuCr、NiCr、GeMg、SnMg、TiMg、SiMg、CuAl、Li0.5Al2.5、γ-Alから選ばれた少なくとも一種からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-103419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、トンネル磁気抵抗素子として、例えば、下部強磁性層と上部強磁性層として、bcc(001)配向したCoFeBをベースとする強磁性体を用い、トンネルバリア層として、cubic(001)配向したMgOをベースとする非磁性層を用いる構造が知られている。しかし、実用化されているトンネル磁気抵抗素子は多結晶体である。例えば、MRAMの記録素子直径サイズを15nmにまで小さくとすると、結晶粒サイズ(5nm程度)にくらべて高々3倍程度であることから、個々の結晶粒のわずかな傾きやラフネスが平均化されずに、素子特性として顕在化してしまうという問題がある。即ち、多結晶からなる素子構造では素子特性に限界がある。またCoFeBをベースとする強磁性体では、記録素子直径サイズを20nm未満にした場合に、垂直磁気異方性エネルギーが不足するために記録保持特性が保てないという問題がある。
【0007】
そこで、素子として単結晶化が期待されている。単結晶化すれば、ウェーハ内に単一の結晶粒しか存在しないため、特性のバラツキを抑制する効果が望まれる。さらに、下部強磁性層・上部強磁性層としてCoFeB以外の材料を用いることによる特性向上がもたらされると推測される。
【0008】
単結晶の磁気抵抗素子として、例えば単結晶MgO基板を用いる技術開発が進められてきた。一方、半導体技術で用いられるSiウェーハ上への単結晶磁気抵抗素子の実現が強く期待されていた。
【0009】
特許文献1では、面直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子やトンネル磁気抵抗素子を、Si(001)単結晶基板を用いて製造することが提案されている。特許文献1では、面直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子を作製した実施例では、磁気抵抗比28%の特性が得られたことが報告されている。しかし、特許文献1では、それ以上の磁気抵抗比の実施結果は報告されていない。また、トンネル磁気抵抗素子の実施結果は報告されていない。
【0010】
特許文献1では、Si(001)単結晶基板上にNiAlのB2構造下地層を設けた例で、NiAl層の平坦性として、(001)方向単結晶膜で最小の平均表面粗さ(Ra)が1.17nmであるものが得られたことが報告されている。また、NiAl層上にさらにAgを(001)配向単結晶成長させた例で、成膜したままでの平均表面ラフネスが0.94nm、ポストアニールした場合の平均表面ラフネスが0.29nmまで改善したことが報告されている。平均表面ラフネスの数値が低いほど平坦性が良い。
【0011】
一般に、B2型構造とは、塩化セシウムを典型とするXY型の結晶構造をいい、X:Yが1:1の組成比を持つ結晶である。
【0012】
ところで、CPP-GMR素子では、算術平均表面粗さ(Ra)が0.3nm程度と粗くても良好な磁気抵抗比を得ることが可能である。それは、下部強磁性層と上部強磁性層の間に設けられる第2の非磁性層がAgのような金属であるからである。一方、トンネル磁気抵抗素子のように、下部強磁性層と上部強磁性層の間に設けられた第2の非磁性層が絶縁体層である場合、即ち、MgOやスピネル系(例えばMgAlO)のような絶縁体や半導体を用いる場合は、算術平均表面粗さ(Ra)が0.3nm程度では不十分な平坦度であり、表面起伏が粗いために磁気抵抗比は低くなる。磁気抵抗比は、磁気抵抗素子の最も重要な性能指標であり、MRAMでは、その数値が高いほどデータ書込が省電力となり、かつデータ読出の信頼性が向上する。磁気センサやHDD再生ヘッドでは、その数値が高いほど感度が向上する。
【0013】
また、磁気抵抗素子の製造において、基板温度が500℃等のように高いと、成膜時に使用する装置、例えば静電チャック等の上限温度(およそ400℃)を上回ってしまい、実用的ではなかった。
【0014】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、本発明は、Si(001)単結晶基板上に電子素子層を設ける際のB2構造下地層の表面が、より平坦化された電子素子を提供することを目的とする。また、これにより高性能化を実現した電子素子を提供することを目的とする。また、高性能化を実現した磁気抵抗素子を提供することを目的とする。また、Si(001)単結晶基板上に電子素子層を設ける際のB2構造下地層の表面をより平坦化できる、電子素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0016】
(1) 基板と、下地層と、電子素子層とが、順に積層された積層構造を有する電子素子であって、前記基板は、シリコン(001)単結晶基板であり、前記下地層は、化学量論的組成よりAlを過剰に含むXAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶の下地層であることを、特徴とする、電子素子。
(2) 前記下地層は、Alを53原子%以上60原子%以下含むことを特徴とする、前記(1)記載の電子素子。
(3) 前記下地層は、表面にAlの偏析領域を有することを特徴とする、前記(1)又は(2)記載の電子素子。
(4) 前記電子素子層は、単結晶介在層を介して、前記下地層上に積層されることを特徴とする、前記(1)乃至(3)のいずれか1項記載の電子素子。
(5) 前記単結晶介在層は、bcc構造であるCr、W、Nb、V、Fe、Ta、FeCo、fcc構造であるAu、Ag、Pt、Pd、Al、Rh、Ir、cubic構造であるTiN、NbN、HfN、MoN、TaN、VN、ZrN、CrN、AlN、L10構造あるいはD022構造あるいはL12構造のXY(X=Fe、Co、Mn、Ni、Ag、Y=Al、Mg、Pt、Pd.Si、Ga、Ge)からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、前記(4)記載の電子素子。
(6) 前記(1)乃至(5)のいずれか1項記載の電子素子が、前記電子素子層として、第1の強磁性層と、第2の強磁性層と、第1及び第2の強磁性層の間に設けられた非磁性層とを少なくとも備える磁気抵抗積層構造を有することを特徴とする、磁気抵抗素子。
(7) 前記磁気抵抗積層構造の前記非磁性層が絶縁体からなることを特徴とする、前記(6)記載の磁気抵抗素子。
(8) シリコン(001)単結晶基板上に、化学量論的組成よりAlを過剰に含むXAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶の下地層を成膜する下地層形成工程と、前記下地層上に、電子素子層を順に形成する電子素子層形成工程と、を含むことを特徴とする、電子素子の製造方法。
(9) 前記下地層形成工程は、300℃以上450℃以下の温度で成膜することを特徴とする、前記(8)記載の電子素子の製造方法。
(10) 前記下地層形成工程後で、前記電子素子層形成工程前に、単結晶介在層を、前記下地層上に積層形成する工程を含むことを特徴とする、前記(8)又は(9)記載の電子素子の製造方法。
(11) 前記電子素子層形成工程が、第1の強磁性層の形成工程と、第1及び第2の強磁性層の間に設けられた非磁性層の形成工程と、第2の強磁性層の形成工程とを少なくとも備える磁気抵抗積層構造形成工程であることを特徴とする、前記(8)乃至(10)のいずれか1項記載の電子素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Si(001)単結晶基板上に電子素子層を設ける際のB2構造下地層の表面が、従来技術に比べて著しく平坦化された。例えば、算術平均表面粗さ(Ra)は、0.145nmにも達した。本発明によれば、Si(001)単結晶基板上に電子素子層を設ける際のB2構造下地層の表面が、従来より平坦化されることにより、平坦面の上に、単結晶介在層を介して若しくは介さずに形成される、電子素子層の結晶性が高くなり、高性能化を実現できる。
【0018】
本発明によれば、電子素子層として磁気抵抗積層構造を形成した場合、磁気抵抗比が向上する。本発明の磁気抵抗素子は、従来技術のXAlが化学量論比の組成の場合に比較して、磁気抵抗比が1桁以上、ほぼ2桁増加した。例えば、磁気抵抗比は、215%にまで達した。
【0019】
本発明によれば、シリコン(001)単結晶基板を用いて、単結晶の電子素子機能の主体となる電子素子層を成長させることが可能となる。本発明では、XAl単結晶層の表面が平坦性に優れているので、XAl単結晶層上に単結晶成長可能な層、たとえばbcc構造であるCr、W、Nb、V、Fe、Ta、FeCo、fcc構造であるAu、Ag、Pt、Pd、Al、Rh、Ir、cubic構造であるTiN、NbN、HfN、MoN、TaN、VN、ZrN、CrN、AlN、L21構造あるいはB2構造のCo基フルホイスラー材料(CoYZ: Y=Mn、Fe、Ti、V、Cr、 Z=Al、Si、Ga、Ge、Sn)、L10構造あるいはD022構造のMn基垂直磁化材料(MnGa、MnGe)、L10構造の垂直磁化材料(XY: X=Fe、Co、Ni、Crあるいはその合金、Y=Pd、Pt、Rhあるいはその合金)を電極又は磁性層その他として備える電子素子を実現できる。よって、従来単結晶化できなかった電子素子の単結晶化も実現できる。
【0020】
本発明の組成のB2構造下地層を用いることにより、(001)配向単結晶Siウェーハ上に(001)配向した単結晶トンネル磁気抵抗素子等の電子素子を成長させることが可能になる。
【0021】
本発明の方法によれば、基板温度を従来より低い温度で、NiAl層の成膜することが可能となる。例えば、400℃未満での成膜工程を可能とすることができる。本発明によれば、B2構造の下地層を従来より低い温度で成膜できるので、製造工程として、省エネルギーな工程であり、静電チャックその他の機器が使用可能となるので、産業上の効果が大である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本発明の磁気抵抗素子の第1の基本構造を説明する断面図である。
図1B】本発明の磁気抵抗素子の第2の基本構造を説明する断面図である。
図2】実施例1-1と1-2で製造した磁気抵抗素子の特性を示す図である。
図3】実施例1-2で製造した磁気抵抗素子をAFMにより観察した像である。
図4】第1の実施形態の磁気抵抗素子の断面をTEMにより観察した像である。
図5】第2の実施形態の磁気抵抗素子の特性を示す図である。
図6】第3の実施形態の磁気抵抗素子の特性を示す図である。
図7】第4の実施形態の磁気抵抗素子の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について以下説明する。
【0024】
本発明の実施形態では、磁気抵抗素子等の電子素子において、シリコン(001)単結晶基板上に積層する磁気抵抗素子層の単結晶化を実現するために、シリコン(001)単結晶基板と磁気抵抗素子層との間に、特定の組成比のB2型構造の単結晶の下地層を用いる。下地層として、XAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶の下地層であって、化学量論的組成よりAlを過剰に含む下地層を用いる。Alの組成比は、B2構造の結晶構造を維持できる範囲内で過剰であれば、化学量論的組成(50原子%)に比べて、平坦性が向上し、同時に磁気抵抗比が向上する。過剰とは例えば、Alが51原子%以上である。実施例の結果から、磁気抵抗比の増加が顕著に見られる53原子%以上60原子%以下がより好ましい。さらに、54原子%以上59原子%以下がより好ましく、磁気抵抗比がより改善し、安定する。さらに、54原子%以上58原子%以下がより好ましく、磁気抵抗比がさらに改善し、安定する。B2構造の下地層は、10nm以上200未満であることが好ましい。また、シリコンの上層への拡散抑制と良好な平坦性のためには、10nm以上50nm未満であることがより好ましい。
【0025】
本発明の実施形態の電子素子の第1及び第2の基本構造について、それぞれ図1A及びBを参照して以下説明する。
【0026】
図1Aは、本発明の電子素子の第1の基本構造を説明する断面図である。第1の基本構造は、シリコン(001)単結晶基板1と、B2構造下地層2と、単結晶介在層3と、電子素子層(4、5、6)とを備える。電子素子が磁気抵抗素子の場合、単結晶介在層は非磁性層であり、電子素子層4、5、6は磁気抵抗積層構造であり、下部強磁性層4と非磁性層5と上部強磁性層6とを含む。
【0027】
図1Bは、本発明の電子素子の第2の基本構造を説明する断面図である。第2の基本構造は、シリコン(001)単結晶基板1と、B2構造下地層2と、電子素子層(4、5、6)とを備える。電子素子が磁気抵抗素子の場合、電子素子層(4、5、6)は磁気抵抗積層構造であり、下部強磁性層4と非磁性層5と上部強磁性層6とを含む。
【0028】
第1及び第2の基本構造において、いずれもシリコン(001)単結晶基板を用いて、単結晶の電子素子機能の主体となる電子素子層を成長させることが可能となる。XAl単結晶層の表面が著しく平坦性に優れているので、XAl単結晶層上に単結晶成長した層を備える電子素子を作製できる。
【0029】
単結晶介在層3の材料は、bcc構造であるCr、W、Nb、V、Fe、Ta、FeCo、fcc構造であるAu、Ag、Pt、Pd、Al、Rh、Ir、cubic構造であるTiN、NbN、HfN、MoN、TaN、VN、ZrN、CrN、AlN、L10構造あるいはD022構造あるいはL12構造のXY(X=Fe、Co、Mn、Ni、Ag、Y=Al、Mg、Pt、Pd.Si、Ga、Ge)からなる群から選ばれた少なくとも一種である。膜厚は、0.5nm以上100nm未満が好ましい。
【0030】
電子素子層の例である磁気抵抗積層構造を構成する各層として、次の材料が挙げられる。単結晶の場合、下部強磁性層・上部強磁性層の材料としては、単結晶Feやbcc構造のFeCo、L21構造あるいはB2構造のCo基フルホイスラー材料(CoYZ: Y=Mn、Fe、Ti、V、Cr、 Z=Al、Si、Ga、Ge、Sn)、L10構造あるいはD022構造のMn基垂直磁化材料(MnGa、MnGe)、L10構造の垂直磁化材料(XY: X=Fe、Co、Ni、Crあるいはその合金、Y=Pd、Pt、Rhあるいはその合金)といった材料が挙げられる。なお、本発明においては、トンネル磁気抵抗素子の場合、基板から非磁性トンネルバリア層までの積層構造が少なくとも単結晶であればよい。上部強磁性層が多結晶であってもよい。その場合、上部強磁性層として、多結晶CoFeB等も挙げられる。トンネル磁気抵抗素子の場合、下部強磁性層の膜厚は、1nm以上50nm未満が好ましく、上部強磁性層の膜厚は、1nm以上が好ましい。面直電流巨大磁気抵抗素子の場合、下部強磁性層の膜厚は、3nm以上10nm未満が好ましく、上部強磁性層の膜厚は、3nm以上10nm未満が好ましい。
【0031】
トンネル磁気抵抗素子の非磁性層としては、MgO系酸化物(MgFeO、MgMnO、MgTiO、MgVO、MgCuO、MgZnO)、スピネル系絶縁体(MgAlO、MgGaO4、γ-Al)、カルコパライト系化合物半導体(CuIn1-xGaSe、ZnSe、CuGaSe、ZnS、CuInS)等が挙げられる。非磁性層のトンネルバリア層の膜厚は、膜厚が0.5nm以上4nm未満が好ましい。
【0032】
巨大磁気抵抗効果層の下部及び上部強磁性層の間に設けられる非磁性層は、Ag、Cr、W、Mo、Au、Pt、Pd、TaおよびRhからなる群から選ばれた少なくとも一種からなる。非磁性層の膜厚は、1nm以上20nm未満が好ましい。
【0033】
なお、第1や第2の基本構造の説明では、上部強磁性層の上に形成する層については説明していないが、磁気抵抗素子の種類や種々の用途に応じて必要とされる積層構造が、上部強磁性層の上に付加される。これらを総称して、本発明では、キャップ層という。例えば、磁化固定層(IrMn膜等)、保護層等が挙げられる。FeやCoなどの面内磁化をもつ材料では磁化方向固定層が必要であるが、STT-MRAMに用いられる垂直磁化をもつ材料では、層間交換結合により強固な磁化固定がもたらされ、磁化方向固定層が不要である。磁気抵抗が発現するために重要な層は上部強磁性層までである。本発明では、上述の基本構造にさらにキャップ層を設けた構造で実用化される。
【0034】
本実施形態における下地層等の各層の成膜は、従来の磁気抵抗素子で用いられている薄膜技術で実施できる。例えば、スパッタ法、真空蒸着法が挙げられる。また、XAlの組成比の調整は、スパッタ法の場合は、複数のターゲットを用いる放電出力値を制御することにより、行うことができる。また、所望の組成比を有するターゲットを予め準備してもよい。真空蒸着法の場合、複数のソースを用いて各成膜レートを制御することにより、行うことができる。また、所望の組成比を有するソースを予め準備してもよい。
【0035】
(第1の実施形態)
本実施形態は、電子素子におけるB2構造下地層としてNiAlを用いる場合に関する。本実施形態について、図を参照して、以下詳しく説明する。本実施形態では、第1の基本構造において、B2構造下地層としてNiAlを用い、その組成を変化させた場合の特性を調べた。本実施形態では、例として磁気抵抗素子を作製して、特性として磁気抵抗比を調べた。
【0036】
本実施形態の磁気抵抗素子は、シリコン(001)単結晶基板1と、B2構造下地層2と、Crからなる単結晶介在層3と、Fe/Coからなる下部強磁性層4、MgAlOからなる非磁性層5、Co/Feからなる上部強磁性層6の積層構造とを備える。さらに、キャップ層を備えるので、本実施形態の積層構造は、シリコン(001)/NiAl/Cr/Fe/Co/MgAlO/Co/Fe/IrMn/Ta/Ruである。
【0037】
[実施例1-1]
シリコン(001)単結晶基板1を準備した。加熱した前記単結晶基板上に、NiAl膜(30nm厚)を、アルゴンガス雰囲気で、NiターゲットとAlターゲットを用いた多元同時スパッタ法により、エピタキシャル成長させた。基板温度の条件を、300~450℃に設定して複数の試料を作製した。NiAlの組成比は、NiターゲットとAlターゲットの放電出力値を制御することにより変化させて、複数の試料を作製した。次に、Cr膜(30nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた後に、230℃、20分間のランプによる表面加熱処理をした。次に、Fe膜(3nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた。次に、Co膜(0.4nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた。次に、MgAlO膜(2nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた後に、450℃、6分間のランプによる表面加熱処理をした。次に、Co膜(0.4nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた。次に、Fe膜(2.5nm厚)を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた後に、180℃、7分間のランプによる表面加熱処理をした。次に、Fe膜の磁化方向固定のために、IrMn膜(10nm厚)を、磁界中、室温、クリプトンガス雰囲気でスパッタ法により、エピタキシャル成長させた。IrMn膜は磁化方向固定層である。次に、Ta膜を、室温、クリプトンガス雰囲気でスパッタ法により、成膜した。次に、Ru膜を、室温、アルゴンガス雰囲気でスパッタ法により、成膜した。Ta膜およびRu膜は、表面保護のための層である。
【0038】
[実施例1-2]
MgAlOからなる非磁性層5の成膜において、酸素欠損がないようにMgAlOスパッタ成膜直後に、酸素ガス雰囲気にMgAlO表面を曝露させ、その後に450℃、6分間のランプによる表面加熱処理を行った。酸素ガス雰囲気への曝露時間と磁気抵抗比の関係を予め調べ、磁気抵抗比が最高となるように曝露時間を決定した。
【0039】
図2に、実施例1-1と1-2で製造した磁気抵抗素子の特性を示す。横軸がAl組成比(原子%)で、縦軸が磁気抵抗比(%)である。実施例1-1による結果を黒四角印で示し、実施例1-2による結果を円印で示す。作製した磁気抵抗素子のNiAl層の組成は、蛍光X線解析およびICP発光分光分析により同定した。磁気抵抗比は、多端子プローブ面内通電トンネル磁気抵抗測定装置により、室温において計測した。
【0040】
実施例1-1によるものは、図2に示すように、Al組成比が49.5原子%で磁気抵抗比2%(以下、「Al49.5原子%でMR比2%」のように示す。)、Al50.1原子%でMR比2%、Al50.6原子%でMR比5%、Al51.5原子%でMR比37%、Al52.4原子%でMR比98%、Al53.2原子%でMR比142%、Al54原子%でMR比149%、Al55.9原子%でMR比146%、Al57.6原子%でMR比143%、Al59原子%でMR比144%、Al59.7原子%でMR比146%、Al60.4原子%でMR比146%、Al61.2原子%でMR比144%、Al63原子%でMR比130%、Al64原子%でMR比120%、であった。
【0041】
実施例1-2によるものは、図2に示すように、Al54原子%でMR比157%、Al55原子%でMR比200%、Al55.7原子%でMR比215%、Al57.6原子%でMR比196%、Al59.5原子%でMR比165%であった。
【0042】
図2に示すように、Al組成比が、50原子%よりも過剰、例えば、51原子%以上64原子%以下の広い範囲で50原子%の場合より高い磁気抵抗比を示していることが分かる。Al組成比が52原子%以上64原子%以下の範囲で磁気抵抗比およそ70%以上、Al組成比が53原子%以上60原子%以下で磁気抵抗比およそ131%以上が得られた。また、磁気抵抗素子の非磁性層の最適条件に基づいた作製を行った場合は、Al組成が54原子%以上59原子%以下で、さらに優れた磁気抵抗比149%以上を示していることが分かる。磁気抵抗比の最高値215%を得ることができた。
【0043】
実施例1-2のAl組成比55.7原子%における、NiAl層(30nm厚)表面の5um平方のエリアを、原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。図3に、AFMによる像を示す。縦横軸は、5um平方のエリアを示し、図の濃淡は、表面の凹凸を示す。表面のAFM観察の結果によれば、算術平均表面粗さ(Ra)は、0.145nmであった。50原子%の場合の従来技術に比べて、著しく良好な平坦性が得られた。
【0044】
以上の結果から、磁気抵抗比の高低はNiAl層の平坦性を反映すると考えられる。より平坦であるほど、より高い磁気抵抗比が得られる。本実施形態のように、(001)配向絶縁体トンネルバリアと(001)配向強磁性体によって構成される磁気抵抗素子においては、コヒーレントトンネリングを発現メカニズムとする磁気抵抗比が、(001)結晶配向度に敏感である。つまり平坦性が磁気抵抗比の大小を左右する。XY型のB2型結晶構造は、化学量論組成ではX:Y=50:50原子%であるが、本実施形態の実施例の結果によれば、Alが50原子%よりも過剰となることにより、NiAl層の表面平坦性が向上することが分かる。
【0045】
図4は、本実施形態の磁気抵抗素子の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した像を積層順に並べた図である。像では、Siウェーハから磁気抵抗素子のキャップ層を除く最上層まで単結晶成長していることが確認された。このとき、NiAl層とその上層のCr層との界面は、原子レベルでの超平坦性を示しており、その上のCr層、Fe/Co層、MgAlO層、Co/Fe層の平坦性および単結晶高配向性を与えている。またNiAl層の格子面間隔および配向より、NiAlはB2構造であることがわかった。Siウェーハ表面は平坦性が悪いものの、この条件で堆積したNiAl層により、各層が平坦かつ単結晶である磁気抵抗素子が実現される。観察した際に、組成プロファイルを取得したところ、NiAl層表面にAlがわずかに偏析したことがわかった。このAl偏析が表面平坦性をもたらしている可能性が考えられ、Al偏析を生じさせるためのAl過剰組成である可能性が高い。
【0046】
図4の断面TEM像によれば、NiAl層上に(001)配向した単結晶Cr層が得られている。従来技術として、単結晶MgO基板上に成長したCr(001)層上にL21構造あるいはB2構造のCo基フルホイスラー材料(CoYZ: Y=Mn、Fe、Ti、V、Cr、 Z=Al、Si、Ga、Ge、Sn)、L10構造あるいはD022構造のMn基垂直磁化材料(MnGa、MnGe)、L10構造の垂直磁化材料(XY: X=Fe、Co、Ni、Crあるいはその合金、Y=Pd、Pt、Rhあるいはその合金)といった材料の形成が実現している。本実施形態のAl過剰のNiAl層を用いれば、大径Si単結晶ウェーハ上においても、単結晶MgO基板で開発されているこれらの高性能材料を下部強磁性層・上部強磁性層とする磁気抵抗素子の形成が可能である。
【0047】
(第2の実施形態)
本実施形態は、電子素子におけるB2構造下地層としてCoAlを用いる場合に関する。その他は第1の実施形態で説明したと同様である。
【0048】
[実施例2]
B2構造下地層として用いるCoAlの組成を変化させた磁気抵抗素子を複数作製し、それぞれの場合の特性を調べた。図5に、本実施形態の磁気抵抗素子の特性を示す。横軸がCoAlにおけるAl組成比(原子%)で、縦軸が磁気抵抗比(%)である。
【0049】
実施例2によるものは、図5に示すように、Al50.4原子%でMR比3%、Al51.7原子%でMR比3%、Al53.1原子%でMR比118%、Al54.6原子%でMR比150%、Al56原子%でMR比110%、Al57.5原子%でMR比110%、Al60原子%でMR比20%、であった。
【0050】
図5に示すように、XがCoの場合においても、磁気抵抗比の変化を調べた結果、Al組成比の最適範囲はXがNiの場合と同様の傾向にあることがわかった。図5に示すように、Al組成比が、50原子%よりも過剰、例えば、52原子%以上60原子%以下の広い範囲で、50原子%の場合より高い磁気抵抗比を示していることが分かる。Al組成比が53原子%以上60原子%以下で磁気抵抗比20%以上が得られた。また、Al組成が54原子%以上59原子%以下で、さらに優れた磁気抵抗比56%以上を示していることが分かる。Al組成が54原子%以上58原子%以下で、さらに優れた磁気抵抗比およそ90%以上を示していることが分かる。磁気抵抗比の最高値150%を得ることができた。
【0051】
(第3の実施形態)
本実施形態は、電子素子におけるB2構造下地層が、XAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶で、特に、XがCoとNiの複数元素からなる場合に関する。その他は第1の実施形態で説明したと同様である。
【0052】
[実施例3]
B2構造下地層として、(CoNi100―x45Al55(但し、xは0以上100以下。)で表される組成xを変化させた下地層を用いて、磁気抵抗素子を作製した。第1及び第2の実施形態から、最適なAl組成比がおよそ55原子%であるので、Al=55原子%とした場合の、NiとCoを0:100から100:0まで混合させた場合の磁気抵抗比の変化を調べた。図6に、本実施形態の磁気抵抗素子の特性を示す。横軸がCoの混合割合原子%(x)で、縦軸が磁気抵抗比(%)である。図6に示すように、全域において磁気抵抗比100%以上が得られることがわかった。Al組成が上述の範囲にあれば、X=Ni-Coの混合組成でも優れた磁気抵抗比が得られることが分かる。
【0053】
(第4の実施形態)
本実施形態は、電子素子におけるB2構造下地層を形成する工程の温度条件に関する。本実施形態で特に記載する点を除いて、第1の実施形態で説明したと同様である。
【0054】
[実施例4]
本実施例では、Al組成比を55原子%としたB2構造下地層を成膜する際の、シリコン基板温度を変えた場合の磁気抵抗比を調べた。図7は、本実施例の磁気抵抗比の計測結果である。横軸はSi(001)単結晶基板のウェーハ温度(300℃から450℃まで)で、縦軸は作製した磁気抵抗素子の磁気抵抗比(%)である。図7によれば、ウェーハ温度が300℃以上450℃以下で十分優れた磁気抵抗比が得られることが分かる。また、340℃まで下げた条件で製造した場合でも、ウェーハ温度が450℃の場合とほぼ同じ磁気抵抗比210%以上が得られた。よって、340℃以上450℃以下であることが、より好ましい。Al組成が最適範囲にある場合、静電ウェーハチャック機構を使用可能な最高温度400℃未満の成膜プロセスを可能とする。
【0055】
(第5の実施形態)
本実施形態では、第2の基本構造の電子素子(磁気抵抗素子)について説明する。第1乃至3の実施形態に示すように、B2構造の下地層の表面が平坦性がよいので、第1の基本構造でB2構造下地層の上に設けられる単結晶非磁性層を、適宜省略し、第2の基本構造で電子素子を作製することができる。
【0056】
(第6の実施形態)
本実施形態では、B2構造下地層として、XAl(Xは、Ni及びCoから選択される1以上の金属)からなるB2型構造の単結晶を用いた場合の、面直電流巨大磁気抵抗素子について説明する。本実施形態の面直電流巨大磁気抵抗素子は、(001)シリコン基板と、該シリコン基板に積層されたAl過剰のXAlからなるB2構造の下地層と、該B2構造の下地層に積層された任意で設けられる単結晶介在層の非磁性層と、下部強磁性層及び上部強磁性層、並びに当該下部強磁性層と当該上部強磁性層の間に設けられた非磁性層を有する積層体層を少なくとも一つ有する巨大磁気抵抗効果層と、を備える。例えば、前記下地層の上に、L21構造あるいはB2構造のCo基フルホイスラー材料(CoYZ: Y=Mn、Fe、Ti、V、Cr、 Z=Al、Si、Ga、Ge、Sn)である下部強磁性層、非磁性層(Ag、Al、Mg)、上部強磁性層を積層し、面直電流巨大磁気抵抗素子を作製する。
【0057】
(第7の実施形態)
第1乃至6の実施形態では、磁気抵抗素子の例について説明したが、電子素子は、磁気抵抗素子に限定されない。シリコン(001)単結晶基板の上に、Al過剰なXAl単結晶層を形成し、その平坦性に優れた単結晶層表面の上に、単結晶成長可能な層、例えば、L21構造あるいはB2構造のCo基フルホイスラー材料(CoYZ: Y=Mn、Fe、Ti、V、Cr、 Z=Al、Si、Ga、Ge、Sn)、L10構造あるいはD022構造のMn基垂直磁化材料(MnGa、MnGe)、L10構造の垂直磁化材料(XY: X=Fe、Co、Ni、Crあるいはその合金、Y=Pd、Pt、Rhあるいはその合金)といった材料の層を、電極又は磁性層その他として備える電子素子を作製する。
【0058】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の磁気抵抗素子等の電子素子は、単結晶化を実現可能とすることから、磁気抵抗比などの素子特性を格段に改善でき、また製造工程の省エネルギー化を図ることができるので、産業上有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 シリコン(001)単結晶基板
2 B2構造下地層
3 単結晶介在層
4 下部強磁性層
5 非磁性層
6 上部強磁性層

図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7