(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】インピーダンス測定システムおよびインピーダンス測定方法ならびに被検出物質の検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20221003BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N33/53 M
G01N33/53 S
(21)【出願番号】P 2019517732
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2018018427
(87)【国際公開番号】W WO2018207937
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017095715
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】床波 志保
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖之
(72)【発明者】
【氏名】西村 勇姿
(72)【発明者】
【氏名】田村 守
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-501486(JP,A)
【文献】特表2015-508506(JP,A)
【文献】特開2000-125846(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170758(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192937(WO,A1)
【文献】Yasuyuki Yamamoto,Development of a rapid bacterial counting method based on photothermal assembling,OPTICAL MATERIALS EXPRESS,2016年04月,Vol.6 No.4,pp.1280-1285
【文献】植田眞由,マイクロ流路中でのレーザー光誘起熱的相転移による極微量タンパク質検出法の開発 ,第77回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],2016年09月,p.11-252(14p-P18-3)
【文献】Takuya Iida,Submillimetre Network Formation by Light-induced Hybridization of Zeptomole-level DNA,SCIENTIFIC REPORTS,2016年12月,Vol.6 No.37768,pp.1-9
【文献】Shiho Tokonami,Open Bridge-Structured Gold Nanoparticle Array for Label-Free DNA Detection,Anal.Chem.,2008年,Vol.80,pp.8071-8075
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 33/48-33/98
C12M1/00-1/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射されると発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含み、複数の微小物体が分散した分散液を保持可能に構成された保持部材と、
前記光発熱部材に照射するための光を発する光源と、
前記光源からの光照射に起因する前記光発熱部材の発熱により前記分散液が加熱されることで生じた前記分散液中の対流によって前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記複数の微小物体が集積し、前記第1の電極と前記第2の電極との間が前記複数の微小物体により架橋された状態において、前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記複数の微小物体のインピーダンスを測定するように構成されたインピーダンス測定装置と
、
前記光源を制御するように構成された制御装置とを備え
、
前記制御装置は、前記光発熱部材により前記分散液が加熱されることで前記分散液中に発生するマイクロバブルのサイズが前記第1の電極と前記第2の電極との間の距離よりも大きくなるように、前記光源を制御する、インピーダンス測定システム。
【請求項2】
前記第1および第2の電極は、前記光発熱部材を挟むように互いに離間して配置される、請求項
1に記載のインピーダンス測定システム。
【請求項3】
前記光発熱部材は、前記第1および第2の電極のいずれか一方に含まれる、請求項
1に記載のインピーダンス測定システム。
【請求項4】
前記保持部材は、互いに対向するように配置された一対のくし型電極を含み、
前記第1の電極は、前記一対のくし型電極のうちの一方のくし型電極であり、
前記第2の電極は、前記一対のくし型電極のうちの他方のくし型電極である、請求項
1~3のいずれか1項に記載のインピーダンス測定システム。
【請求項5】
液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する、被検出物質の検出システムであって、
光を照射されると発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含み、前記液体試料を保持可能に構成された保持部材と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間のインピーダンスを測定するように構成されたインピーダンス測定装置と、
前記液体試料が前記被検出物質を特異的に付着可能なホスト分子を含む場合に、前記光発熱部材に光を照射し、前記光発熱部材の発熱により前記液体試料を加熱して前記液体試料中に対流を生じさせることで前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記被検出物質を集積させて前記第1の電極と前記第2の電極との間を前記被検出物質によって架橋させることが可能に構成された光源と、
前記インピーダンスを監視することによって前記被検出物質を検出するように構成された検出装置とをさらに備え
、
前記光源は、前記液体試料中に発生するマイクロバブルのサイズが前記第1の電極と前記第2の電極との間の距離よりも大きくなるように前記液体試料を加熱する、被検出物質の検出システム。
【請求項6】
液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する、被検出物質の検出システムであって、
前記液体試料を保持可能に構成された保持部材を備え、
前記保持部材は、
光を照射されると発熱する光発熱部材と、
第1および第2の電極と、
前記第1および第2の電極の間において前記保持部材上に修飾され、前記被検出物質を特異的に付着可能なホスト分子を含み、
前記検出システムは、
前記第1の電極と前記第2の電極との間のインピーダンスを測定するように構成されたインピーダンス測定装置と、
前記光発熱部材に光を照射し、前記光発熱部材の発熱により前記液体試料を加熱して前記液体試料中に対流を生じさせることで前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記被検出物質を集積させて前記第1の電極と前記第2の電極との間を前記被検出物質によって架橋させることが可能に構成された光源と、
前記インピーダンスを監視することによって前記被検出物質を検出するように構成された検出装置とをさらに備え
、
前記光源は、前記液体試料中に発生するマイクロバブルのサイズが前記第1の電極と前記第2の電極との間の距離よりも大きくなるように前記液体試料を加熱する、被検出物質の検出システム。
【請求項7】
前記検出装置は、前記インピーダンスの変化量が所定の判定量を上回った場合に前記被検出物質が検出されたと判定する一方で、所定期間が経過するまでの前記インピーダンスの変化量が前記判定量を下回った場合には前記被検出物質が検出されなかったと判定する、請求項
5または6に記載の被検出物質の検出システム。
【請求項8】
前記被検出物質は、ターゲットDNAおよびターゲットRNAのうちの少なくとも一方であるターゲット核酸であり、
前記ホスト分子は、前記ターゲット核酸との間でハイブリダイゼーションを起こすプローブ核酸である、請求項
5~7のいずれか1項に記載の被検出物質の検出システム。
【請求項9】
前記被検出物質は、抗原であり、
前記ホスト分子は、前記抗原との間で抗原抗体反応を起こす抗体である、請求項
5~7のいずれか1項に記載の被検出物質の検出システム。
【請求項10】
光照射により発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含む保持部材に、複数の微小物体が分散した分散液を保持させるステップと、
前記保持させるステップの後に前記光発熱部材に光を照射するステップと、
前記光発熱部材の発熱により前記分散液が加熱されることで生じた前記分散液中の対流を用いて、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記複数の微小物体を集積させることにより前記第1の電極と前記第2の電極との間を前記複数の微小物体によって架橋させるステップと、
前記架橋させるステップの後に前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記複数の微小物体のインピーダンスを測定するステップとを含
み、
前記架橋させるステップは、前記分散液が加熱されることで前記分散液中に発生するマイクロバブルのサイズを前記第1の電極と前記第2の電極との間の距離よりも大きくするステップを含む、インピーダンス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インピーダンス測定システムおよびインピーダンス測定方法ならびに被検出物質の検出システムに関し、より特定的には、微小物体のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定システムおよびインピーダンス測定方法と、液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出するための被検出物質の検出システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、細菌、ウイルスまたはDNAなど、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する微小な物体(以下、「微小物体」とも称する)を検出するための手法が開発されている。たとえば細菌等の検出手法としては、培養法、PCR(Polymerase Chain Reaction)法およびELIZA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法などの様々な手法が既に実用化されている。これらの手法を用いることで、細菌等を高精度に検出することが可能である。しかしながら、これらの手法による検出には、一般に長時間(たとえば10数時間~数日程度)が必要となる。そのため、より迅速な検出手法が求められている。
【0003】
一方、電極間のインピーダンスを測定することで細菌等を検出する手法が提案されている。たとえば非特許文献1には、陰極を用いた誘導泳動により細菌を陽極に誘導し、陽極に誘導された細菌のインピーダンスを測定する手法が開示されている。このように、非特許文献1に開示された手法では、電極(陽極)の周囲の細菌の密度を高める濃縮器として電極(陰極)が機能する(たとえば非特許文献1の要旨および
図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/192937号
【文献】国際公開第2015/170758号
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Hamada, H. Takayama, Y. Shonishi, L. Mao, M. Nakano, J Suehiro, "A rapid bacteria detection technique utilizing impedance measurement combined with positive and negative dielectrophoresis", Sensors and Actuators B, 181, 439-445, (2013).
【文献】Y. Yamamoto, E. Shimizu, Y. Nishimura, T. Iida, S. Tokonami, "Development of a rapid bacterial counting method based on photothermal assembling", Optical Materials Express, Vol. 6, No. 4, 1280 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微小物体のインピーダンスを適切に測定するためには、電極近傍に一定量以上の微小物体が存在することが必要とされるが、非特許文献1に開示の手法では、電極(陽極)の周囲の比較的広範囲に細菌が誘導される。このため、電極近傍の細菌密度が十分に高くなりにくい。その結果、細菌のインピーダンスを測定可能になるまでの時間が長時間になり得る点において、非特許文献1に開示の手法には改善の余地がある。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、微小物体のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定システムまたはインピーダンス測定方法において、インピーダンスを迅速に測定可能な技術を提供することである。
【0008】
また、本開示の他の目的は、液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する、被検出物質の検出システムにおいて、被検出物質を迅速に検出可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示のある局面に従うインピーダンス測定システムは、保持部材と、光源と、インピーダンス測定装置とを備える。保持部材は、光を照射されると発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含み、複数の微小物体が分散した分散液を保持可能に構成される。光源は、光発熱部材に照射するための光を発する。インピーダンス測定装置は、光源からの光照射に起因する光発熱部材の発熱により分散液が加熱されることで生じた分散液中の対流によって第1の電極と第2の電極との間に複数の微小物体が集積し、第1の電極と第2の電極との間が複数の微小物体により架橋された状態において、第1の電極と第2の電極との間の複数の微小物体のインピーダンスを測定するように構成されている。
【0010】
(2)好ましくは、インピーダンス測定システムは、光源を制御するように構成された制御装置をさらに備える。制御装置は、光発熱部材により分散液が加熱されることで分散液中に発生するマイクロバブルのサイズが第1の電極と第2の電極との間の距離よりも大きくなるように、光源を制御する。
【0011】
(3)好ましくは、第1および第2の電極は、光発熱部材を挟むように互いに離間して配置される。
【0012】
(4)好ましくは、光発熱部材は、第1および第2の電極のいずれか一方に含まれる。
(5)好ましくは、保持部材は、互いに対向するように配置された一対のくし型電極を含む。第1の電極は、上記一対のくし型電極のうちの一方のくし型電極である。第2の電極は、上記一対のくし型電極のうちの他方のくし型電極である。
【0013】
(6)本開示の他の局面に従う被検出物質の検出システムは、液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する。検出システムは、保持部材と、インピーダンス測定装置と、光源と、検出装置とを備える。保持部材は、光を照射されると発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含み、液体試料を保持可能に構成される。インピーダンス測定装置は、第1の電極と第2の電極との間のインピーダンスを測定するように構成される。光源は、液体試料が被検出物質を特異的に付着可能なホスト分子を含む場合に、光発熱部材に光を照射し、光発熱部材の発熱により液体試料を加熱して液体試料中に対流を生じさせることで第1の電極と第2の電極との間に被検出物質を集積させて第1の電極と第2の電極との間を被検出物質によって架橋させることが可能に構成されている。
【0014】
(7)本開示のさらに他の局面に従う被検出物質の検出システムは、液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する。検出システムは、液体試料を保持可能に構成された保持部材を備える。保持部材は、光を照射されると発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極と、第1および第2の電極の間において保持部材上に修飾され、被検出物質を特異的に付着可能なホスト分子を含む。検出システムは、インピーダンス測定装置と、光源と、検出装置とをさらに備える。インピーダンス測定装置は、第1の電極と第2の電極との間のインピーダンスを測定するように構成される。光源は、光発熱部材に光を照射し、光発熱部材の発熱により液体試料を加熱して液体試料中に対流を生じさせることで第1の電極と第2の電極との間に被検出物質を集積させて第1の電極と第2の電極との間を被検出物質によって架橋させることが可能に構成される。検出装置は、インピーダンスを監視することによって被検出物質を検出するように構成されている。
【0015】
(8)好ましくは、光源は、分散液中に発生するマイクロバブルのサイズが第1の電極と第2の電極との間の距離よりも大きくなるように分散液を加熱する。
【0016】
(9)好ましくは、検出装置は、インピーダンスの変化量が所定の判定量を上回った場合に被検出物質が検出されたと判定する一方で、所定期間が経過するまでのインピーダンスの変化量が判定量を下回った場合には被検出物質が検出されなかったと判定する。
【0017】
(10)好ましくは、被検出物質は、ターゲットDNAおよびターゲットRNAのうちの少なくとも一方であるターゲット核酸である。ホスト分子は、ターゲット核酸との間でハイブリダイゼーションを起こすプローブ核酸である。
【0018】
(11)好ましくは、被検出物質は、抗原である。ホスト分子は、抗原との間で抗原抗体反応を起こす抗体である。
【0019】
(12)本開示のさらに他の局面に従うインピーダンス測定方法は、第1~第4のステップを含む。第1のステップは、光照射により発熱する光発熱部材と、第1および第2の電極とを含む保持部材に、複数の微小物体が分散した分散液を保持させるステップである。第2のステップは、保持させるステップ(第1のステップ)の後に光発熱部材に光を照射するステップである。第3のステップは、光発熱部材の発熱により分散液が加熱されることで生じた分散液中の対流を用いて、第1の電極と第2の電極との間に複数の微小物体を集積させることにより第1の電極と第2の電極との間を複数の微小物体によって架橋させるステップである。第4のステップは、架橋させるステップ(第3のステップ)の後に第1の電極と第2の電極との間の複数の微小物体のインピーダンスを測定するステップである。
【0020】
(13)架橋させるステップ(第4のステップ)は、分散液が加熱されることで分散液中に発生するマイクロバブルのサイズを第1の電極と第2の電極との間の距離よりも大きくするステップを含む。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、微小物体のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定システムまたはインピーダンス測定方法において、インピーダンスを迅速に測定することができる。
【0022】
また、本開示によれば、液体試料に含まれる可能性がある被検出物質を検出する、被検出物質の検出システムにおいて、被検出物質を迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施の形態1に係る微小物体の電気的特性測定システムの構成を概略的に示す図である。
【
図2】測定キットの構成を詳細に説明するための図である。
【
図3】実施の形態1における微小物体の電気的特性の測定方法を示すフローチャートである。
【
図4】微小物体の集積メカニズムを説明するための図である。
【
図5】微小物体の集積作用を利用した電極間の電気的特性の測定メカニズムを説明するための図である。
【
図6】微小物体の集積(架橋)に伴う電極間の電気抵抗の時間変化を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1の実施例における測定キットの構成を示す図である。
【
図8】本実施例における電極の構成をより詳細に説明するための図である。
【
図9】比較例における電極間の電気抵抗の時間変化の測定例を示す図である。
【
図10】
図9に示した3回の測定のうちの3回目の測定における電極近傍の画像である。
【
図11】本実施例における電極間の電気抵抗の時間変化の測定例を示す図である。
【
図12】本実施例における電気抵抗測定時における電極近傍の画像である。
【
図13】電気抵抗の濃度依存性を説明するための図である。
【
図14】分散液D3,D4におけるレーザスポット近傍の画像である。
【
図15】比較例における電極上の集積物の同定結果を説明するための図である。
【
図16】本実施例における電極上の集積物の同定結果を説明するための図である。
【
図17】本実施例における金ナノ粒子の電気伝導率の算出手法を説明するための図である。
【
図18】実施の形態2におけるターゲットDNAの検出原理を説明するための概念図である。
【
図19】検出キットの構成を詳細に説明するための図である。
【
図20】ハイブリダイゼーションを利用した電極間の電気的特性の測定メカニズムを説明するための第1の図である。
【
図21】ハイブリダイゼーションを利用した電極間の電気的特性の測定メカニズムを説明するための第2の図である。
【
図22】実施の形態2における被検出物質(ターゲットDNA)の検出方法を示すフローチャートである。
【
図23】相補鎖DNAまたはミスマッチDNAを含む分散液における電極間の電気抵抗の時間変化を説明するための図である。
【
図24】電極間の電気抵抗の時間変化の測定結果を平均化した図である。
【
図25】実施の形態2の実施例における被検出物質(相補鎖DNA)の検出方法を示すフローチャートである。
【
図26】実施の形態2の実施例2における検出キットの構成を示す図である。
【
図27】くし型電極においてマイクロバブルが発生する様子の観察結果を示す図である。
【
図28】くし型電極間の集積物の測定例を示す図である。
【
図29】レーザ光の照射停止後における、くし型電極近傍の画像である。
【
図30】くし型電極における電気抵抗の測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
本開示において、「微小物体」との用語は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する物体を意味する。微小物体の形状は特に限定されず、たとえば球形、楕円球形、ロッド形状、コイル形状等である。微小物体が楕円球形の場合、楕円球の短軸方向および長軸方向の長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がロッド形状の場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がコイル形状の場合、コイルの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。
【0026】
微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズ、PM(Particulate Matter)、ナノコイルなどが挙げられる。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介してビーズの表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する樹脂からなる粒子である。「PM」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する粒子状物質である。PMの例としては、PM2.5、SPM(Suspended Particulate Matter)が挙げられる。「ナノコイル」とは、ナノメートルオーダーのサイズ(幅または長さ)を有するコイルである。
【0027】
微小物体は、生体由来の物質(生体物質)であってもよい。より具体的には、微小物体は、細胞、微生物(細菌、真菌等)、生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類等)、抗原(アレルゲン等)およびウイルスを含み得る。なお、本開示における「被検出物質」は、上記「微小物体」であってもよい。
【0028】
本開示において、「ナノメートルオーダー」には、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。「マイクロメートルオーダー」には、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。したがって、「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまで」との用語は、1nmから1000μmまでの範囲を示すが、典型的には数十nm~数百μmの範囲を示し、好ましくは100nm~100μmの範囲を示し、より好ましくは1μm~数十μmの範囲を示し得る。
【0029】
本開示において、電極間のインピーダンスとは、電極間に電場が印可された場合の電圧と電流との比を意味する。そのため、インピーダンスは、電極間に直流(直流電圧または直流電流)が印加された場合の直流抵抗と、電極間に交流(交流電圧または交流電流)が印加された場合の交流インピーダンスとを含む。また、詳細は後述するが、電極間のインピーダンスの測定結果から、微小物体の電気的特性を算出したり、電極間における微小物体(被検出物質)の有無を判定したりすることが可能である。ここで微小物体の「電気的特性」とは、微小物体に印加された電場に対する微小物体の応答性を意味する。電気的特性の例としては、電気抵抗率(あるいは電気伝導率)、キャパシタンス、インダクタンス、誘電率、キャリア(電子、ホール)の濃度または移動度などが挙げられる。
【0030】
本開示において、「マイクロバブル」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する気泡である。
【0031】
本開示において、「ハイブリダイゼーション」とは、少なくとも2種の一本鎖核酸の間での再会合反応を意味する。ハイブリダイゼーションには、2種の一本鎖核酸の全体間での再会合反応に限らず、ある一本鎖核酸の一部分と、他の一本鎖核酸の一部分との間での再会合反応を含み得る。以下に説明する実施の形態2では、塩基配列が相補的な関係にある一本鎖DNAの間で二重鎖が形成される。しかし、ハイブリダイゼーションはこれに限定されず、たとえば、1個の一本鎖DNAと1個のRNAとの間、または2個のRNAの間での二重鎖形成を含む。
【0032】
本開示において、「架橋」とは、電極上または電極間に配置された複数の微小物体同士を結び付けたり複数の微小物体間に結合を形成させたりすることによって、当該電極間を電気的に接続することを意味する。微小物体間の結び付き、あるいは結合の種類は特に限定されず、化学結合(共有結合、イオン結合または金属結合)であってもよいし、分子間力による結合(水素結合、極性分子間に働く引力による結合またはファンデルワールス力による結合)であってもよい。
【0033】
[実施の形態1]
実施の形態1では、電極間のインピーダンスを測定し、その測定結果に基づいて微小物体の電気的特性を算出する構成について説明する。以下では、x方向およびy方向は、水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は、鉛直方向を表す。重力の向きは、z方向下方である。z方向上方を「上方」と略し、z方向下方を「下方」と略す場合がある。
【0034】
<電気的特性測定システムの構成>
図1は、実施の形態1に係る微小物体の電気的特性測定システム(以下、「測定システム」とも略す)1の構成を概略的に示す図である。
図1を参照して、測定システム1は、測定キット2と、XYZ軸ステージ10と、調整機構20と、サンプル供給部30と、レーザ光源40と、光学部品50と、対物レンズ60と、照明光源70と、撮影機器80と、マルチメータ90と、制御装置100とを備える。
【0035】
測定キット2は、測定対象となる微小物体M(
図4参照)が分散した分散液Dを保持する。分散液Dの分散媒は、十分に高い絶縁性(低い導電性)を有する液体であり、たとえば水である。測定キット2の詳細な構成については
図2にて説明する。測定キット2は、XYZ軸ステージ10上に載置される。
【0036】
調整機構20は、制御装置100からの指令に応じて、XYZ軸ステージ10と対物レンズ60との相対的な位置関係を調整する。本実施の形態では、対物レンズ60の位置が固定されている。そのため、XYZ軸ステージ10のx方向、y方向およびz方向の位置調整により、XYZ軸ステージ10と対物レンズ60との相対的な位置関係が調整される。なお、調整機構20としては、たとえば、顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなどの駆動機構(図示せず)を用いることができるが、調整機構20の具体的な構成は特に限定されない。調整機構20は、対物レンズ60の位置を調整できるように構成されていてもよい。
【0037】
サンプル供給部30は、制御装置100からの指令に応じて、測定キット2上に分散液D(サンプル)を供給する。サンプル供給部30としては、たとえばディスペンサを用いることができる。
【0038】
レーザ光源40は、制御装置100からの指令に応じて、たとえば近赤外(たとえば波長800nm)のレーザ光L1を発する。ただし、レーザ光L1の波長は、後述する光発熱部材110(
図2参照)の材料の吸収波長域に含まれる波長であれば、特に限定されない。レーザ光源40の波長は、近赤外域に含まれる他の波長(たとえば1064nm)であってもよいし、近赤外域以外の波長域(たとえば可視光域)に含まれる波長であってもよい。なお、レーザ光源40は、本開示に係る「光源」に相当する。
【0039】
光学部品50は、たとえば、ミラー、ダイクロイックミラーまたはプリズムを含んで構成される。測定システム1の光学系は、レーザ光源40からのレーザ光L1が光学部品50により対物レンズ60へと導かれるように調整される。
【0040】
対物レンズ60は、レーザ光源40からのレーザ光L1を集光する。対物レンズ60により集光された光は測定キット2上の分散液Dに照射される。ここで「照射する」とは、レーザ光L1が分散液Dを通過する場合を含む。すなわち、対物レンズ60により集光された光のビームウエストが分散液D内に位置する場合に限定されない。なお、光学部品50および対物レンズ60は、たとえば倒立型顕微鏡本体または正立型顕微鏡本体(いずれも図示せず)に組み込むことができる。
【0041】
照明光源70は、制御装置100からの指令に応じて、測定キット2上の分散液Dを照らすための白色光L2を発する。一例として、ハロゲンランプを照明光源70として採用することができる。対物レンズ60は、分散液Dに照射された白色光L2を取り込むためにも用いられる。対物レンズ60により取り込まれた白色光L2は、光学部品50により撮影機器80へと導かれる。
【0042】
撮影機器80は、制御装置100からの指令に応じて、白色光L2が照射された分散液Dを撮影し、撮影された画像(動画または静止画)を制御装置100に出力する。撮影機器80には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むビデオカメラが用いられる。
【0043】
マルチメータ90は、測定キット2に設けられた電極111と電極112との間(
図2参照)の電気抵抗(インピーダンス)を測定するように構成された測定装置(インピーダンス測定装置)ある。より具体的には、マルチメータ90は、制御装置100からの指令に応じて、たとえば、電極111,112間に定電流を流しつつ電極111,112間の電圧を測定し、その測定結果を制御装置100に出力する。
【0044】
制御装置100は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力ポートとを含んで構成されるマイクロコンピュータである。制御装置100は、測定システム1に含まれる各機器(調整機構20、サンプル供給部30、レーザ光源40、照明光源70、撮影機器80およびマルチメータ90)を制御する。また、制御装置100は、マルチメータ90からの測定結果に所定の演算処理を施すことによって、分散液Dの電気的特性(後述の例では電気抵抗R)を算出する。さらに、制御装置100は、撮影機器80により撮影された画像に所定の画像処理を施すことが可能に構成されている。
【0045】
なお、実施の形態1においては、マルチメータ90により定電流制御を行ないつつ電極111,112間の電圧を測定する構成を例に説明する。しかし、マルチメータ90に代えてガルバノスタットまたはポテンショスタット(いずれも図示せず)を本開示に係る「インピーダンス測定装置」として用いてもよい。ガルバノスタットを用いた場合には、電極111,112間を定電流が流れる場合の電極111,112間の電圧が測定される。ポテンショスタットを用いた場合には、電極111,112間に定電圧を印加した場合に電極111,112間を流れる電流が測定される。
【0046】
また、測定システム1の光学系は、レーザ光源40からのレーザ光L1を測定キット2に照射することが可能であるととともに、測定キット2に照射された白色光L2を撮影機器80に取り込むことが可能であれば、
図1に示した構成に限定されない。たとえば、測定システム1の光学系は、光ファイバ等を含んで構成されてもよい。また、測定システム1において、調整機構20、サンプル供給部30、対物レンズ60、照明光源70および撮影機器80は必須の構成要素ではない。
【0047】
図2は、測定キット2の構成を詳細に説明するための図である。
図2を参照して、測定キット2は、基板11と、光発熱部材110と、電極111,112とを含む。なお、
図2では、図面が煩雑になるのを防ぐため、分散液D中の微小物体Mの図示を省略している。
【0048】
基板11は、XYZ軸ステージ10上に載置され、分散液Dを保持する。基板11は、電気的絶縁性を有するとともに、レーザ光源40からのレーザ光L1および照明光源70からの白色光L2に対して光学的に透明である。基板11の材料としては、たとえばガラスまたは石英ガラスを用いることができる。
【0049】
なお、基板11は、本開示に係る「保持部材」の一例に相当する。
図2では、本開示に係る「保持部材」として平面上の基板を用いた構成を例に示す。しかし、本開示に係る「保持部材」は、分散液Dを保持可能な形状であれば特に限定されず、立体形状を有する容器(たとえば直方体形状または円筒形状の容器)であってもよい。
【0050】
電極111,112の各々は、基板11上に形成されている。電極111(第1の電極)は陽極であり、電極112(第2の電極)は陰極である。各電極111,112は、膜厚がナノメートルオーダーの金属薄膜であり、たとえば白金薄膜である。基板11と電極111との間には、基板11と電極111との接着性(たとえば石英ガラスと白金薄膜との接着性)を高めるための接着層121が形成されている。同様に、基板11と電極112との間には接着層122が形成されている。各接着層121,122は、たとえばチタン薄膜である。なお、電極111,112の基板11上への接着性を確保することができれば、接着層121,122は必須ではない。
【0051】
光発熱部材110は、たとえば、電極111と電極112との間において基板11上に形成されている。言い換えると、電極111および電極112は、光発熱部材110を挟むように互いに離間して配置されている。光発熱部材110は、膜厚がナノメートルオーダーの金属薄膜であり、たとえば白金薄膜である。
図2では、基板11と光発熱部材110との間にも基板11と光発熱部材110との接着性を高めるための接着層120(たとえばチタン薄膜)が形成されているが、接着層120は必須ではない。また、
図2には、光発熱部材110が楕円状に形成された例が示されているが、光発熱部材110の形状は特に限定されず、たとえば真円状、正方形状、長方形状であってもよい。
【0052】
光発熱部材110は、レーザ光源40からのレーザ光L1を吸収し、レーザ光L1の光エネルギーを熱エネルギーに変換する。より詳細に説明すると、金属薄膜を構成する金属ナノ粒子(たとえば白金ナノ粒子)の自由電子は表面プラズモンを形成し、レーザ光L1によって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金属ナノ粒子は熱を発生させる。以下では、この効果を「光発熱効果」とも称する。
【0053】
光発熱部材110の材料は、レーザ光L1の波長域(本実施の形態では800nm)における光熱変換効率が高い材料であることが好ましい。光発熱部材110の材料は、白金に限定されるものではなく、光発熱効果を生じ得る白金以外の金属元素(たとえば金もしくは銀)または金属ナノ粒子集積構造体(たとえば金ナノ粒子もしくは銀ナノ粒子を用いた構造体)であってもよい。あるいは、光発熱部材110の材料は、レーザ光L1の波長域の光吸収率が高く、かつ導電性を有する金属以外の材料であってもよい。そのような材料としては、黒体に近い材料(たとえばカーボンナノチューブ黒体)が挙げられる。光発熱部材110の厚みは、レーザ光L1の出力(レーザ出力)ならびに光発熱部材110の材料の吸収波長域および光熱変換効率を考慮して、設計的または実験的に決定される。
【0054】
<測定フロー>
図3は、実施の形態1における微小物体Mの電気的特性の測定方法を示すフローチャートである。
図3ならびに後述する
図23および
図26に示すフローチャートは、所定条件成立時(たとえばユーザが図示しない測定開始ボタンを操作したとき)に実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップ(以下、Sと略す)は、基本的には制御装置100によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部が制御装置100内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
【0055】
図1~
図3を参照して、S101において、微小物体Mが分散した分散液Dが準備される。準備された分散液Dは、サンプル供給部30内に蓄えられる。
【0056】
S102において、制御装置100は、測定キット2をXYZ軸ステージ10上に設置する。この処理は、たとえば基板11の送り機構(図示せず)により実現することができる。
【0057】
S103において、制御装置100は、測定キット2を照射するための白色光L2を発するように照明光源70を制御するとともに、測定キット2の撮影を開始するように撮影機器80を制御する。
【0058】
S104において、制御装置100は、レーザ光源40からのレーザ光L1が光発熱部材110に照射されるように、調整機構20を制御することによってXYZ軸ステージ10の水平方向の位置を調整する。この水平方向の位置調整は、たとえば、撮影機器80により撮影された画像から、パターン認識の画像処理技術を用いて光発熱部材110の外形パターンを抽出することによって実現することができる。
【0059】
また、制御装置100は、レーザ光L1のビームウエストが適切な高さとなるように、調整機構20を制御することによってXYZ軸ステージ10の鉛直方向の位置を調整する。ビームウエストの鉛直方向の位置(高さ)は、レーザ光L1の波長および対物レンズ60の仕様(倍率等)から既知である。よって、XYZ軸ステージ10の鉛直方向の位置を調整することで、狙った高さにビームウエストを設定することができる。
【0060】
S105において、制御装置100は、適量の分散液Dが保持されるように、サンプル供給部30を制御することによって分散液Dを測定キット2上に滴下させる。分散液Dの滴下量は、たとえば数μL~数百μL程度の微量であってもよいし、より多量であってもよい。
【0061】
なお、S103~S105の処理の順序は、これに限定されない。たとえば、測定キット2への白色光L2の照射開始および測定キット2の撮影開始(S103の処理)に先立って、分散液Dを測定キット2上に滴下(S105の処理)してもよい。また、分散液Dの滴下後にXYZ軸ステージ10の鉛直方向の位置を調整(S104の処理)してもよい。
【0062】
S106において、制御装置100は、電極111,112間の電気抵抗Rを測定する。より詳細には、制御装置100は、マルチメータ90を制御することによって、測定キット2の電極111,112間に定電流を流しつつ電極111,112間の電圧を測定する。電極111,112間の電圧を、電極111,112間を流れる電流(定電流)により除算することで、電極111,112間の電気抵抗Rを算出することができる。
【0063】
S107において、制御装置100は、レーザ光L1の照射(以下、「光照射」とも記載する)を開始するようにレーザ光源40を制御する。レーザ光源40からのレーザ光L1は対物レンズ60により集光され、集光された光が光発熱部材110に照射される。
【0064】
S108において、制御装置100は、たとえば光照射開始時刻から所定期間が経過した場合(たとえば数十秒~数分経過後)に、電極111,112間の電気抵抗測定を終了するようにマルチメータ90を制御する。
【0065】
なお、光照射開始前(S107の処理の開始前)に電極111,112間の電気抵抗測定を開始(S106の処理)することは必須ではなく、光照射開始後(たとえばS107の処理開始時刻から所定期間経過後)に電極111,112間の電気抵抗測定を開始してもよい。S106~S108の処理の詳細については後述する。
【0066】
S109において、制御装置100は、測定キット2へのレーザ光L1の照射を停止するようにレーザ光源40を制御する。また、制御装置100は、測定キット2への白色光L2の照射を停止するように照明光源70を制御する。
【0067】
S110において、制御装置100は、S106~S108にて測定された電極111,112間の電気抵抗Rに基づいて、微小物体Mの電気的特性(たとえば
図17にて説明する微小物体Mの電気伝導度κ)を算出する。これにより、一連の処理が終了する。
【0068】
なお、S103の処理は、分散液Dを観察(画像を撮影)するための処理であって、微小物体Mの電気的特性の測定に必須の処理ではない。したがって、S103の処理を含まないフローチャートを実行した場合でも微小物体Mの電気的特性を測定することができる。
【0069】
また、電極111,112間に直流電圧(または直流電流)を印加することは必須ではない。電極111,112間に交流電圧(または交流電流)を印加し、電極111,112間の交流インピーダンス測定を行なってもよい。たとえば誘電泳動により分散液D中の細菌を電極付近に集積する誘導泳動インピーダンス測定法(DEPIM:Dielectrophoretic Impedance Measurement)に代えて(詳細は非特許文献1参照)、以下に説明するメカニズムに従って微小物体を電極111,112近傍に集積し、それとともに電極111,112間のインピーダンス変化を測定することができる。
【0070】
<測定メカニズム>
続いて、S106~S108の処理における微小物体Mの電気的特性の測定メカニズム(電気抵抗Rの測定メカニズム)について詳細に説明する。実施の形態1では、レーザ光源40からのレーザ光L1の照射により微小物体Mが集積される。
【0071】
図4は、微小物体Mの集積メカニズムを説明するための図である。
図4(A)に示すように、レーザ光L1の照射を開始すると、レーザ光L1の照射位置(レーザスポット)において、光発熱部材110の光発熱効果により、レーザスポット近傍が局所的に加熱される。そうすると、レーザスポット近傍の分散液D(分散媒)が局所的に沸騰してレーザスポットにマイクロバブルMBが発生する(
図4(B)参照)。マイクロバブルMBは、時間の経過とともに成長する。
【0072】
レーザスポットに近いほど分散液Dの温度は高い。つまり、光照射により分散液D中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して、分散液D中に規則的な対流(熱対流または浮力対流)Cが定常的に発生する(
図4(C)参照)。対流Cの方向は、一旦マイクロバブルMBに向かい、その後、マイクロバブルMBから遠ざかる方向である。
【0073】
このように対流が生じる理由は以下のように説明することができる。すなわち、マイクロバブルMBが生じた領域の上方に存在する分散液Dが、加熱により相対的に希薄となり浮力によって上昇する。それとともに、マイクロバブルMBの水平方向に存在する相対的に低温の液体がマイクロバブルMBに向けて流入する。
【0074】
微小物体Mが対流Cに乗ってマイクロバブルMBに向けて運ばれることによって、微小物体Mがレーザスポット近傍に集積される(
図4(D)参照)。その後、光照射を停止すると対流Cは弱まり、やがて止まる。
【0075】
このように、光照射に伴う光発熱部材110の光発熱効果により対流Cを生じさせることによって、レーザスポット近傍に微小物体Mを集積することが可能になる。また、微小物体Mの集積に要する時間を大幅に短縮することができる。そこで、実施の形態1においては、光発熱部材110の光発熱効果による微小物体Mの集積作用を積極的に利用して、電極111,112間の電気抵抗R(微小物体Mの電気的特性)が測定される。
【0076】
図5は、微小物体Mの集積作用を利用した電極111,112間の電気的特性の測定メカニズムを説明するための図である。
図5(A)を参照して、光照射を開始すると、
図4(B)にて説明したように、マイクロバブルMBが光発熱部材110上に発生する。この時点では、電極111と光発熱部材110との間、および、電極112と光発熱部材110との間には、微小物体Mは、ほとんど集積されていない。このため、電極111と電極112との間に存在する分散媒(たとえば水)の電気抵抗Rがマルチメータ90により測定される。
【0077】
その後、
図5(B)に示すように、対流Cに乗って運ばれてきた微小物体Mが、電極111と電極112との間に集積される。そして、電極111と電極112との間の微小物体Mの集積量が増加すると、ある時点で電極111と電極112との間が微小物体Mにより架橋される(
図5(C)参照)。そうすると、マルチメータ90により測定される電気抵抗Rの主成分が、分散媒の電気抵抗から、電極111と電極112との間に集積された微小物体Mの電気抵抗へと変化する。
【0078】
なお、
図5(C)には、電極111と電極112との間が微小物体Mにより直接的に架橋された例を示す。しかし、光発熱部材110が導電性材料(たとえば白金などの金属)により形成されている場合には、電極111と光発熱部材110との間が微小物体Mにより架橋されるとともに、電極112と光発熱部材110との間が微小物体Mにより架橋されてもよい。
【0079】
図6は、微小物体Mの集積(架橋)に伴う電極111,112間の電気抵抗Rの時間変化を説明するための図である。
図6ならびに後述する
図9、
図11、
図23、
図24および
図30において、横軸は経過時間を示す。以下に示す測定結果では、電気抵抗Rの測定開始時刻を初期時刻(0で示す)とした。以下の例では電気抵抗Rの測定開始時刻よりも前に分散液Dが滴下されているが、電気抵抗Rの測定開始時刻を分散液Dの滴下時刻と一致させてもよい。縦軸は、電極111,112間の電気抵抗Rを示す。
【0080】
初期時刻における電気抵抗Rは、R0(分散媒の種類に依存するが、たとえばメガオームオーダーの抵抗値)である(
図5(A)参照)。しかし、時刻tcにおいて電極111と光発熱部材110との間が微小物体Mにより架橋されるとともに電極112と光発熱部材110との間が微小物体Mにより架橋されると、すなわち、電極111と電極112との間が微小物体Mにより架橋されると(
図5(C)参照)、電気抵抗Rは、R0からRcへと変化する。たとえば非導電性の分散媒中に導電性の微小物体Mが分散している場合には、電気抵抗Rは、
図6に示すように急激に低下する。この低下後の電気抵抗Rcは、主に微小物体Mの電気抵抗Rを表している。
【0081】
電極111,112間の距離は既知である。そのため、詳細は
図17にて説明するが、たとえば微小物体Mのサイズ(長さおよび高さ)が既知であれば、微小物体Mの電気的特性を算出することができる。具体的には、電気抵抗R(単位:Ω)から微小物体Mの電気抵抗率ρ(単位:Ω・m)を算出することが可能である。さらに、電気抵抗Rまたは電気抵抗率ρから、コンダクタンスG(単位:Ω
-1=S)および電気伝導率κ(単位:Ω
-1・m
-1=S・m
-1)を算出することもできる。
【0082】
以上のように、実施の形態1によれば、レーザ光L1を光発熱部材110に照射し、それによる光発熱部材110の光発熱効果により対流Cを生じさせる。対流Cを用いることで、レーザスポット近傍に微小物体Mを迅速に集積することが可能になる。そして、微小物体Mが集積されて電極111,112間が微小物体Mにより架橋されると、微小物体Mの電気的特性を測定することができる。
【0083】
[実施の形態1の実施例]
以下、実施の形態1の1つの実施例として、金ナノ粒子を電極間に集積することで、金ナノ粒子の電気伝導率κを測定する構成について説明する。
【0084】
<測定キットの構成>
図7は、実施の形態1の実施例における測定キット2Aの構成を示す図である。
図7には、上方から下方に向けて見た測定キット2Aの構成が示されている。測定キット2Aには、たとえばビー・エー・エス株式会社製の導電率測定用電極を用いることができる。
【0085】
図7を参照して、測定キット2Aは、石英ガラスからなる基板11Aと、基板11A上に形成された8本の電極151~158(
図8参照)とを含む。測定キット2Aには、8本の電極151~158に対応して、8本の接続ピン131~138と、8本の配線141~148とが形成されている。電気伝導率κの測定時には、接続ピン131~138のうちのいずれか2本にマルチメータ90のクリップ(
図1参照)が取り付けられる。配線141~148は、接続ピン131~138と電極151~158とを電気的に接続する。
【0086】
図8は、本実施例における電極151~158の構成をより詳細に示す図である。
図7および
図8を参照して、8本の電極151~158の各々は、白金電極である。図示しないが、各電極は、チタン薄膜である接着層を介して基板11A上に接着されている。
【0087】
8本の電極151~158のうちの隣接する2本の電極間の距離は、様々な値に設定されている。たとえば
図8下部の拡大図に示すように、電極151と電極152との間の距離は、100μmである。電極152と電極155との間の距離は、10μmである。電極155と電極153との間の距離は、20μmである。電極153と電極156との間の距離は、30μmである。電極156と電極154との間の距離は、50μmである。電極154と電極157との間の距離は、100μmである。電極157と電極158との間の距離は、100μmである。
【0088】
このように8本の電極151~158のうちのいずれか2本(必ずしも隣接する2本でなくてもよい)の電極を選択することによって、電極間距離を所望の値とすることができる。本実施例では、電極間距離が10μmとなる電極152と電極155とを選択した。なお、
図7および
図8では8本の電極が形成された構成を例に説明するが、電極の本数は、2以上であれば特に限定されない。
【0089】
測定キット2Aでは、実施の形態1における測定キット2(
図2参照)と異なり、電極151~158間に光発熱部材110が設けられていない。これは、電極152,155が本開示に係る「光発熱部材」を兼ねているためである。言い換えると、光発熱部材は、電極152,155のいずれか一方(本実施例では電極152)に含まれている。そのため、レーザ光源40からのレーザ光L1は、電極152,155のいずれか一方(電極152)に照射される。
【0090】
本実施例では、金ナノ粒子を分散質として含み、超純水を分散媒として含む分散液Dを用いた。金ナノ粒子の直径は、30nmであった。金ナノ粒子の濃度は、7.8×10-10Mであった。金ナノ粒子の分散液Dの滴下量は、5μLであった。
【0091】
本実施例における電気抵抗測定の特徴を明確にするため、まず、比較例における電気抵抗測定について説明する。比較例における電気抵抗測定では、レーザ光源40からのレーザ光L1の照射が行なわれない点において、本実施例における電気抵抗測定と異なる。それ以外の比較例に係る測定システムの構成は、本実施例に係る測定システム(
図1、
図7および
図8参照)の対応する構成と同等である。
【0092】
なお、比較例および本実施例における電気抵抗測定では、測定条件を統一するために以下のような手順で測定を行なった。すなわち、測定対象となる分散液Dの滴下に先立ち、2μLのリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」(Phosphate Buffered Saline)とも記載する)を測定キット2上に滴下した。PBSとは、塩化ナトリウム(NaCl、濃度:1.4×10-5M)と塩化カリウム(KCl、濃度:2.7×10-3M)とリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4、濃度:1.0×10-4M)との混合溶液である。そして、PBSの滴下時刻から10分間が経過した後に、電極152,155間のPBSの電気抵抗Rを測定した。電気抵抗Rが4.7MΩ±0.4MΩの範囲内にあることが確認された場合に、測定条件が統一されたと判定し、分散液Dを測定キット2上にさらに滴下した。
【0093】
<比較例>
図9は、比較例における電極152,155間の電気抵抗Rの時間変化の測定例を示す図である。なお、
図9および後述する
図11では、縦軸の電気抵抗Rが対数目盛りで示されている。
【0094】
比較例では、電極152,155間の電気抵抗Rを3回測定した。
図9(A)~
図9(C)に1回目~3回目の電気抵抗Rの測定結果をそれぞれ示す。
図10は、
図9に示した3回の測定のうちの3回目の測定における電極152,155近傍の画像である。
【0095】
図9(A)~
図9(C)に示すように、3回の測定のいずれにおいても電気抵抗Rの急激な低下が観測された。
図9(C)において電気抵抗Rの急激な低下が初めて生じた時刻t1における電極152,155近傍の様子を
図10(A)の画像に示す。この画像から、電極152と電極155との間に何らかの物質(実際には
図15および
図16にて後述するように金ナノ粒子)による架橋が生じたことが観察された。
【0096】
また、光照射中には、
図10(B)の画像に示すように、電極152と電極155との間に直方体形状の結晶が生成する様子が観察された。この結晶は、後述するエネルギー分散型X線分析(
図15および
図16参照)により、PBS由来の塩化ナトリウムであることが同定された。その一方で、
図10(B)に対応する時刻t2においては、電気抵抗Rの大きな変化は確認されなかった。このことから、電気抵抗Rの急激な低下は、結晶生成によるものではなく、金ナノ粒子の架橋によるものと考えられる。
【0097】
また、時刻t3対応するに
図10(C)の画像より、時間が経過すると電極152,155上の分散液Dが蒸発により消失し、少量の金ナノ粒子およびPBSの結晶が電極152,155間に存在していることが分かる。
【0098】
比較例における3回の測定の結果、分散液Dを滴下した時刻(0)から電気抵抗Rに大きな変化が生じた時刻(たとえば
図9(C)における時刻t1)までの平均時間は、42分26秒であった。以下、この時間(電気抵抗Rの急激な低下が生じるまでの平均時間)を「平均測定時間」とも称する。このように、比較例では、金ナノ粒子の電気抵抗Rの測定に長時間を要する。また、電気抵抗Rの変化が生じた時刻が3回の測定毎に異なり、ばらつきが相対的に大きい。
【0099】
<本実施例>
図11は、本実施例における電極152,155間の電気抵抗Rの時間変化の測定例を示す図である。
図11に示した例では、陽極である電極152にレーザ光L1を照射した。なお、各電極152,155は、エタノールと超純水とを用いて予め洗浄されている。事前の予備実験(
図12参照)の結果に基づき、レーザ出力は、15mWに設定した。また、マルチメータ90による定電流を500nAに設定した。そして、電極152と電極155との間の電気抵抗Rを5回測定した。1回目~5回目の電気抵抗Rの測定結果を
図11(A)~
図11(E)にそれぞれ示す。
【0100】
図11(A)~
図11(E)を参照して、5回の測定の結果、平均測定時間は69秒であった。つまり、比較例と本実施例とを比較すると、本実施例では、平均測定時間を約30分の1に短縮することができた。このように、本実施例によれば、比較例と比べて、平均測定時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0101】
また、前述のように、比較例では、電気抵抗Rの急激な低下が生じるまでの時間のばらつきが大きい。これは、以下のように説明することができる。すなわち、測定開始時には、電極152と電極155との間は、金ナノ粒子が希薄な状態である。パーコレーション理論によれば、金ナノ粒子の密度が所定量以上になることで電極152,155間の電気抵抗Rが急激に低下する。しかし、比較例における電気抵抗測定では、レーザ光源40からのレーザ光L1の照射が行なわれないため、対流が生じない。そのため、金ナノ粒子同士が衝突する確率が低く、高密度化しにくい。よって、パーコレーションによる電気抵抗Rの低下に要するばらつきが大きくなる(パーコレーション理論の詳細については、M. T. Connor, S. Roy, T. A. Ezquerra, and F. J. Balta Calleja, Phys. Rev. B, 57, 2286 (1998).およびK.Ogura, R. C. Patil, H. Shiigi, T. Tonosaki, and M. Nakayama, J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 38, 4343 (2000).を参照)。
【0102】
これに対し、本実施例によれば、光発熱効果を用いて積極的に対流(いわば強制対流)を生じさせる。これにより、対流が生じていない場合と比べて、金ナノ粒子同士の衝突確率が高まるので、金ナノ粒子が高密度化しやすくなる。したがって、本実施例では、比較例と比べて、パーコレーションによる電気抵抗Rの低下に要するばらつきが小さくなるため、平均測定時間のばらつきを低減することができる。
【0103】
<レーザ出力依存性>
図12は、本実施例における電気抵抗測定時における電極152,155近傍の画像である。
図12(A)~
図12(C)は、レーザ出力を10mW、15mWおよび20mWに設定した場合の電極152,155近傍の画像をそれぞれ示す。レーザスポットの位置は各画像の中央である。なお、
図12および後述する
図14において、図中の数値は、分散液Dの滴下時刻から経過時間を示している。
【0104】
レーザ出力を15mWに設定した場合、
図12(B)に示すように、電極152近傍におけるマイクロバブルMBの発生および対流Cの発生が確認された。このように、制御装置100は、マイクロバブルMBのサイズ(直径)が電極152,155間の距離よりも大きくなるように、レーザ光源40からのレーザ光L1の出力を制御することが好ましい。この理由は以下のように説明される。
【0105】
図4にて説明したように、光照射により発生する対流Cの方向は、一旦マイクロバブルMBに向かい、その後、マイクロバブルMBから遠ざかる方向である。つまり、対流Cの方向が反転するため、マイクロバブルMBと基板11との間に対流Cの流速がゼロとなる「淀み領域」が生じる。この場合、マイクロバブルMBは、対流Cを堰き止めるマイクロメートルオーダーの「流体ストッパ」として機能し、それにより微小物体Mの多くは、淀み領域近傍に滞留して集積される。このような集積メカニズムによれば、マイクロバブルMBのサイズが電極152,155間の距離よりも大きくなると、それに伴って淀み領域が電極152から電極155まで延びることとなる。したがって、電極152,155間を架橋するように微小物体Mが集積され易くなる。
【0106】
レーザ出力を10mWに設定した場合には、
図12(A)に示すように、マイクロバブルMBも対流Cも発生しなかった。このため、図示しないが、レーザ出力を15mWに設定した場合と同程度の時間スケール(
図12に示した例では300秒)では、電気抵抗Rの変化は生じなかった。
【0107】
一方、レーザ出力を20mWに設定した場合には、レーザ出力を15mWに設定した場合と比べて、より大きなマイクロバブルMBの発生が確認されるとともに、より激しい対流Cの発生が確認された(
図12(C)参照)。しかしながら、5回の測定結果の平均測定時間は、85秒であった。つまり、レーザ出力を20mWに設定した場合の平均測定時間は、レーザ出力を15mWに設定した場合の平均測定時間よりも長くなった。これは、レーザ出力を高めることで過度に激しい対流Cが発生したため、金ナノ粒子が電極152,155間に滞留しにくくなり、金ナノ粒子の集積量が減ったことによると考えられる。
【0108】
さらに、レーザ出力を20mWに設定した場合、図示しないが、測定によってはマイクロバブルMBが電極152上を移動する様子が確認された。また、マイクロバブルMBに移動に伴い、電気抵抗Rの変動が測定された。これは、激しい対流CによってマイクロバブルMBが移動し、それにより、マイクロバブルMB近傍に一旦集積されていた金ナノ粒子のうちの一部が離散してしまったためと考えられる。
【0109】
このように、レーザ出力には、マイクロバブルMBおよび対流Cを発生させるのに必要な下限値と、金ナノ粒子の安定的な集積に必要な上限値とが存在する。そのため、レーザ出力は、事前の実験結果またはシミュレーション結果に基づいて、上限値と下限値との間の範囲内に設定することが望ましい。本実施例では、前述の実験結果に基づき、レーザ出力を15mWに設定した。
【0110】
<金ナノ粒子の濃度依存性>
図13は、金ナノ粒子の電気抵抗測定における金ナノ粒子の濃度依存性の測定結果を示す図である。本実施例では、金ナノ粒子の濃度が異なる4種類の分散液D1~D4を準備した。金ナノ粒子の濃度は、分散液D1~D4の順に低い。電極152,155間の電気抵抗Rを分散液D1,D2,D4については5回測定し、分散液D3については7回測定した。
【0111】
各分散液D1~D4について、電気抵抗Rの変化が生じた比率(=電気抵抗Rの変化が生じた回数/全測定回数)と、電気抵抗R(平均値)と、平均測定時間(分散液の滴下から電気抵抗Rの変化が生じるまでに要した平均時間)とを
図13(A)に示す。また、
図13(B)の横軸は金ナノ粒子の濃度を示し、縦軸は電気抵抗Rを示す。
【0112】
図13(A)および
図13(B)を参照して、分散液D1においては、すべての測定において電気抵抗Rの変化が確認された。分散液D1~D3を比較すると、金ナノ粒子の濃度が低くなるに従って、電気抵抗Rの変化が生じる比率が低下するとともに平均測定時間が長くなった。その一方で、分散液D1~D3の間では、金ナノ粒子の濃度にかかわらず、電気抵抗Rは、ほぼ等しかった。また、各分散液D1~D3における電気抵抗Rのばらつきは、電気抵抗Rの標準偏差をエラーバーで示すように、十分に小さかった。
【0113】
図14は、分散液D3,D4におけるレーザスポット近傍の画像である。
図14(A)は、分散液D3におけるレーザスポット近傍の画像を示し、
図14(B)は、分散液D4におけるレーザスポット近傍の画像を示す。「0秒」と示す画像は、光照射開始前の画像である。「100秒」と示す画像は、分散液の滴下から100秒経過後における光照射中の画像である。「300秒」と示す画像は、分散液の滴下から300秒経過後に光照射を停止した直後の画像である。
【0114】
図14(A)に示すように、分散液D3においては、電極152,155間が金ナノ粒子により架橋される。一方、分散液D4では、
図14(B)に示すように、ある程度の金ナノ粒子が電極152の近傍に集積される様子は確認されるものの、電気抵抗Rの変化は生じなかった(
図13(A)および
図13(B)を参照)。この測定結果から、本実施例において測定可能な金ナノ粒子の下限濃度(測定限界濃度)は、分散液D3の濃度である1.6×10
-10Mであることが分かった。
【0115】
<集積物の同定>
続いて、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)装置を用いて電極152,155上の集積物を同定(元素分析)した結果について説明する。
【0116】
図15は、比較例における電極152,155上の集積物の同定結果を説明するための図である。
図16は、本実施例における電極152,155上の集積物の同定結果を説明するための図である。
図15(A)は光学顕微鏡像を示し、
図15(B)はSEM像を示し、
図15(C)はEDX像を示す。
図16(A)~
図16(C)についても同様である。
【0117】
まず、
図15(A)および
図16(A)に示した光学顕微鏡像を比較すると、電極152,155の周囲の集積物の集積量および集積範囲に大きな差異が存在することが分かった。また、
図15(B)および
図16(B)のSEM像から、電極152,155上の集積物が粒子状物質の集積によるものであることが確認された。また、各粒子状物質の粒子径(直径)がほぼ均一であり、数十μm程度であることが分かった。さらに、
図15(C)および
図16(C)を参照して、EDXによる元素分析結果から、電極152,155の周囲に集積物が金であることが同定された。
【0118】
<電気伝導率の算出>
最後に、電極間の電気抵抗Rの測定結果に基づいて、金ナノ粒子の電気伝導率κを算出した結果について説明する。本実施例では、以下のような条件の下に電気伝導率κを算出した。
【0119】
図17は、本実施例における金ナノ粒子200の電気伝導率の算出手法を説明するための図である。
図17を参照して、電極152と電極155との間の距離dは、10μmである(
図8参照)。また、金ナノ粒子200の集積範囲の幅wを光学顕微鏡像から読み取り、78.8μmとした。さらに、電極152,155間に集積された金ナノ粒子200が単層状に配列されていると仮定し、金ナノ粒子200の集積物の高さhを金ナノ粒子200の粒子径である30μmとした。また、
図13に示した分散液D1における電気抵抗Rの測定結果から、R=1.89kΩとした。
【0120】
電気導電率κを算出するための下記関係式(1)に上記の各数値を代入し、金ナノ粒子200の電気伝導率κを求めた。その結果、本実施例における電気伝導率κは、2.24×10-3[Ω-1cm-1]と算出された。
【0121】
κ=d/(W×h×R) ・・・(1)
粒子径2nmの金ナノ粒子の電気伝導率の文献値は、2.67×10-3[Ω-1cm-1]である。よって、粒子径が異なるため単純には比較できないものの、本実施例による測定値の文献値に対する相対誤差は、16%である。このように、本実施例によれば、電気伝導率κを高精度に測定可能であることが確認できた。
【0122】
以上のように、本実施例によれば、電極152へのレーザ光L1の照射による光発熱効果を用いて電極152近傍に金ナノ粒子を集積する。光発熱効果を用いることで、金ナノ粒子の集積に要する時間を大幅に短縮することができる。金ナノ粒子が電極152近傍に集積されることで、電極152と電極155との間が金ナノ粒子により架橋される。そうすると、測定システム1の測定対象が、電極152と電極155との間の分散媒の電気抵抗から、電極152と電極155との間を架橋した金ナノ粒子の電気抵抗へと遷移するこのようにして測定された電気抵抗Rから電気伝導率κを高精度に算出することができる。
【0123】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、液体試料に含まれる可能性がある微小物体である被検出物質を検出するための検出システムについて説明する。実施の形態2に係る検出システムは、測定キット2に代えて検出キット2Bを備える点において、実施の形態1に係る測定システム1(
図1および
図2参照)と異なる。検出キット2Bの構成については
図19にて説明する。また、実施の形態2では、制御装置100が本開示に係る「検出装置」に相当する。実施の形態2に係る検出システムの他の構成(全体構成)は、測定システム1の構成と基本的に同等であるため、説明は繰り返さない。
【0124】
<被検出物質の検出原理>
実施の形態2において、被検出物質はDNAである。このDNAを「ターゲットDNA」とも称する。実施の形態2に係る検出システムでは、ターゲットDNAの検出に金属ナノ粒子が用いられる。金属ナノ粒子は、たとえば金ナノ粒子である。金ナノ粒子の各々は、ターゲットDNAを特異的に付着可能なDNAにより修飾されている。ターゲットDNAを特異的に付着可能なDNAを以下、「プローブDNA」とも称する。プローブDNAは、本開示に係る「ホスト分子」の一例に相当する。
【0125】
なお、金属ナノ粒子は、金ナノ粒子に限定されず、たとえば銀ナノ粒子または銅ナノ粒子等であってもよい。また、ターゲットDNAに代えてターゲットRNAを用いてもよいし、プローブDNAに代えてプローブRNAを用いてもよい。ターゲットDNAおよびターゲットRNAを包括的に「ターゲット核酸」と呼び、プローブDNAおよびプローブRNAを包括的に「プローブ核酸」と呼ぶ。
【0126】
図18は、実施の形態2におけるターゲットDNAの検出原理を説明するための概念図である。ターゲットDNAおよびプローブDNAの塩基配列の例を
図18(A)に示す。
図18(A)に示すように、実施の形態2において、ターゲットDNA210は、たとえば24個のアデニン(Aで表す)の塩基配列を有する一本鎖DNAである。このターゲットDNA210を検出するために、ターゲットDNA210を特異的に付着させる2種類のプローブDNA211,212が準備される。
【0127】
プローブDNA211は、3’末端にたとえばチオール基(SHで表す)を有する一本鎖DNAである。プローブDNA211は、チオール基と5’末端との間に、ターゲットDNAの3’末端側の塩基配列と相補的な塩基配列を有する。この相補的な塩基配列は、12個のチミン(Tで表す)である。
【0128】
一方、プローブDNA212は、5’末端にたとえばチオール基を有する一本鎖DNAである。プローブDNA212は、3’末端とチオール基との間に、ターゲットDNAの5’末端側の塩基配列と相補的な塩基配列を有する。この相補的な塩基配列は、12個のチミンである。
【0129】
図18(B)に示すように、実施の形態2では、2種類の金ナノ粒子201,202が準備される。金ナノ粒子201は、プローブDNA211により修飾されている。金ナノ粒子202は、プローブDNA212により修飾されている。なお、金ナノ粒子201,202をプローブDNA211,212でそれぞれ修飾するための方法としては、公知の手法を用いることができる。
【0130】
ターゲットDNA210を含む液体に金ナノ粒子201,202が導入されると、ターゲットDNA210とプローブDNA211との間、および、ターゲットDNA210とプローブDNA212との間でハイブリダイゼーションが起こる。これにより、金ナノ粒子201,202が液体中に分散している場合には、金ナノ粒子201,202が凝集する。
【0131】
図19は、検出キット2Bの構成を詳細に説明するための図である。
図19を参照して、検出キット2Bは、基板11Bと、電極111B,112Bとを含む。
【0132】
電極111Bは陽極であり、電極112Bは陰極である。各電極111B,112Bは、膜厚がナノメートルオーダーの金属薄膜(たとえば白金薄膜または金薄膜)である。電極111B,112Bのうちの一方は、実施の形態1の実施例で説明したように、本開示に係る「光発熱部材」を兼ねている。
【0133】
ターゲットDNA210を含む可能性がある液体試料SPは、電極111B,112Bを覆うように滴下される。なお、基板11Bおよび接着層121B,122Bは、基本的に実施の形態1における測定キット2の対応する構成(
図2参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。本実施の形態では、以下に説明する2通りの構成(第1および第2の構成)のうちの少なくとも一方を採用することにより電気抵抗測定が実現される。
【0134】
図20は、ハイブリダイゼーションを利用した電極111,112間の電気的特性(たとえば電気抵抗R)の測定メカニズムを説明するための第1の図である。
図20(A)を参照して、第1の構成では、金ナノ粒子201,202が液体試料SP中に分散している。金ナノ粒子201,202は微小であるが、
図20および後述する
図21では模式的に拡大して図示されている。
【0135】
液体試料SPに被検出物質であるターゲットDNA210が含まれていない場合には、電極111Bと電極112Bとの間に液体試料SPの分散媒が存在する。分散媒は絶縁性の液体(たとえば水)であるため、電極111Bと電極112Bとは電気的に絶縁されている。
【0136】
一方、液体試料SPにターゲットDNA210が含まれている場合には、
図20(B)に示すように、ターゲットDNA210とプローブDNA211との間、および、ターゲットDNA210とプローブDNA212との間でハイブリダイゼーションが起こり、金ナノ粒子201,202が凝集する。その結果、電極111Bと電極112Bとの間が金ナノ粒子201,202の凝集体により架橋される。ハイブリダイゼーションが起こり、一本鎖DNAの相補的な塩基同士が結合することで導電性が高まる。その結果、金ナノ粒子201,202および二重鎖DNA(ハイブリダイゼーション後のプローブDNA211,212およびターゲットDNA210)を介して電極111Bと電極112Bとの間の電気抵抗が低下する。
【0137】
図21は、ハイブリダイゼーションを利用した電極111,112間の電気的特性(たとえば電気抵抗R)の測定メカニズムを説明するための第2の図である。
図21(A)を参照して、第2の構成では、金ナノ粒子201,202が電極111Bと電極112Bとの間の基板11B上に予め固定されている。金ナノ粒子201と金ナノ粒子202との間隔は、金ナノ粒子201と金ナノ粒子202との間でDNAのハイブリダイゼーションが起こり得る程度(たとえばターゲットDNA210の長さ以下)に密である。なお、金ナノ粒子201,202は、チオール基を用いた手法などの公知の手法によって基板11B上に固定することができる。
【0138】
液体試料SPにターゲットDNA210が含まれていない場合、ある金ナノ粒子201と、その金ナノ粒子201に隣接する金ナノ粒子202との間は、分散媒により電気的に絶縁されている。したがって、電極111Bと電極112Bとは電気的に絶縁されている。
【0139】
これに対し、液体試料SPにターゲットDNA210が含まれている場合には、
図21(B)に示すように、金ナノ粒子201に修飾されたプローブDNA211とターゲットDNA210との間でハイブリダイゼーションが起こるとともに、金ナノ粒子202に修飾されたプローブDNA212とターゲットDNA210との間でハイブリダイゼーションが起こる。その結果、電極111Bと電極112Bとの間が架橋されて電気的に導通する。
【0140】
液体試料SP中にターゲットDNA210が含まれている場合には、電極111Bと電極112Bとの間がハイブリダイゼーションにより導通すると、電気抵抗Rは、液体試料SPの分散媒の電気抵抗値から、金ナノ粒子201,202と二重鎖DNAとの凝集体(
図20(B)参照)の電気抵抗値、または、電極111Bと電極112Bとの間の架橋構造(
図21(B)参照)の電気抵抗値へと低下する。このように、電極111Bと電極112Bとの間の電気抵抗Rを監視することで、ターゲットDNA210を検出することができる。
【0141】
なお、図示しないが、
図20および
図21に示した2通りの構成を組み合わせることも可能である。また、金ナノ粒子201,202を基板11B上に固定するのに代えて、金ナノ粒子201,202を固定するためのチオール基のみを基板11B上に修飾し、金ナノ粒子201,202を液体試料SP中に分散させておいてもよい。
【0142】
<検出フロー>
図22は、実施の形態2における被検出物質(ターゲットDNA210)の検出方法を示すフローチャートである。
図22を参照して、S201~S205の処理は、実施の形態1におけるS101~S105の処理(
図3参照)とそれぞれ同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0143】
S206において、制御装置100は、電極111B,112B間の電気抵抗Rを測定する(測定を開始または継続する)ようにマルチメータ90を制御する。また、S207において、制御装置100は、光照射を開始(継続)するようにレーザ光源40を制御する。
【0144】
S208において、制御装置100は、電極111,112間の電気抵抗Rが変化したか否かを判定する。より詳細には、電気抵抗Rの初期値(
図21ではR0)からの低下量が基準量よりも大きかったり、電気抵抗Rの低下速度(単位時間当たりの低下量)が基準速度よりも速くなったりした場合に、制御装置100は、電気抵抗Rが変化したと判定する。
【0145】
制御装置100は、電極111B,112B間の電気抵抗Rが変化するまでは、処理をS206に戻して電気抵抗測定を継続する(S208においてNOかつS210においてNO)。所定期間(たとえば数十秒~数分)が経過するまでに電気抵抗Rが変化した場合(S208においてYES)、制御装置100は、液体試料SP中にターゲットDNA210が検出されたと判定する(S209)。一方、電気抵抗Rが変化することなく所定期間が経過した場合(S208においてNOかつS210においてYES)、制御装置100は、液体試料SP中にはターゲットDNA210は検出されなかったと判定する(S211)。なお、電気抵抗Rの変化の有無の判定に経過時間(所定期間)を用いるのに代えて、電気抵抗Rの変化の有無の判定を所定回数行なってもよい。
【0146】
その後、制御装置100は、電気抵抗測定を終了するようにマルチメータ90を制御する(S212)。また、制御装置100は、レーザ光L1および白色光L2の照射を停止するようにレーザ光源40および照明光源70をそれぞれ制御する(S213)。これにより、一連の処理が終了する。
【0147】
なお、電気抵抗Rを測定している間、レーザ光L1を継続的に照射することは必須ではない。たとえば、S207にてレーザ光L1を予め定められた時間だけ照射し、その後、レーザ光L1の照射を停止してから電気抵抗Rの変化の有無を判定してもよい(S208)。この場合、レーザ光L1の照射と、レーザ光L1の照射停止と、電気抵抗Rの測定(電気抵抗Rの変化の有無の判定)とがS210の所定期間が経過するまで繰り返し実行されることになる。
【0148】
以上のように、実施の形態2によれば、液体試料SP中に含まれる可能性がある被検出物質であるターゲットDNA210を、電極111B,112B間の電気抵抗Rの変化を監視することで検出することができる。また、レーザ光源40からのレーザ光L1を照射することにより、レーザ光L1の照射を行なわない場合と比べて、ターゲットDNA210の検出に要する期間(S210における所定期間)を短縮することができる。
【0149】
[実施の形態2の実施例1]
以下、実施の形態2の1つの実施例として、
図20に示した第1の構成における電気抵抗Rの測定結果について説明する。この実施例における各プローブDNA211,212の塩基配列は、
図18にて説明した例と同様に、12個のチミン(T)である。
【0150】
検出対象(被検出物質)としては、図示しないが、異なる塩基配列を有する2種類の一本鎖DNAを準備した。一方の一本鎖DNAは、
図18にて説明したターゲットDNA210と同様に、24個のアデニン(A)からなる。アデニンとチミンとは相補的な関係にあるため、この一本鎖DNAを「相補鎖DNA」と称する。他方の一本鎖DNAは、24個のチミン(T)からなる。チミン同士はハイブリダイゼーションを起こさないミスマッチの関係にあるため、この一本鎖DNAを「ミスマッチDNA」と称する。分散液中の相補鎖DNA、ミスマッチDNAおよびプローブDNA212,212の濃度は、いずれも1μMであった。各分散液の滴下量は、5μLであった。
【0151】
図23は、相補鎖DNAまたはミスマッチDNAを含む分散液における電極111B,112B間の電気抵抗Rの時間変化を説明するための図である。
図23(A)は、相補鎖DNAを含む分散液での測定結果を示し、
図23(B)は、ミスマッチDNAを含む分散液での測定結果を示す。
図23(A)および
図23(B)の各々には、4回の測定結果が示されている。
【0152】
図23(A)を参照して、相補鎖DNAを含む分散液において、数分(2分~6分程度)で電気抵抗Rの急激な低下が検出されることが分かる。これは、
図20にて説明したように、相補鎖DNAとプローブDNA211,212とのハイブリダイゼーションにより電極111B,112間が架橋されたことによるものと考えられる。また、
図23(A)に示した結果より、電気抵抗Rの低下が生じるまでの時間のばらつきが、ある程度大きい(2~3分程度である)ことが分かる。
【0153】
続いて
図23(B)を参照して、ミスマッチDNAを含む分散液においても電気抵抗Rの急激な低下が生じることが分かる。ただし、相補鎖DNAを含む分散液での測定結果と比べて、電気抵抗Rが低下するまでの時間が長く、電気抵抗Rが低下するまでの時間のばらつきも大きい。ミスマッチDNAを含む分散液においても電気抵抗Rが低下する理由としては、導電性を有する金ナノ粒子201,202が時間の経過とともに電極111B,112間に堆積したためと考えられる。なお、
図23に示す測定結果はDNA濃度(相補鎖DNA濃度またはミスマッチDNA濃度)が1μMの場合のものであるが、このような電気抵抗Rの低下はDNA濃度が500nM(すなわち半分)の場合にも確認された。
【0154】
このように、ミスマッチDNAを含む分散液であっても電気抵抗Rの急激な低下が生じる。また、相補鎖DNAを含む分散液およびミスマッチDNAを含む分散液のいずれにおいても、電気抵抗Rが低下するまでの時間のばらつきが比較的大きい。したがって、DNAの塩基配列の違いを検出するためには、以下に説明するように、電気抵抗Rの時間変化を複数回測定し、その測定結果を平均化することが望ましい。
【0155】
図24は、電極111B,112B間の電気抵抗Rの時間変化の測定結果を平均化した図である。
図24には、相補鎖DNAを含む分散液での電気抵抗測定を9回行なった場合の測定結果の平均値が示されている。ミスマッチDNAを含む分散液についても同様である。
【0156】
図24を参照して、相補鎖DNAを含む分散液における電気抵抗Rの平均値(「相補鎖平均抵抗」と称する)の方が、ミスマッチDNAを含む分散液における電気抵抗Rの平均値(「ミスマッチ平均抵抗」と称する)と比べて、下限に達するまでの時間が短いことが分かる。よって、相補鎖平均抵抗が下限に達する一方で、ミスマッチ平均抵抗は下限に達しない時間範囲において、電気抵抗Rを測定すればよい。より具体的には、
図24に示す例では、約280秒から約450秒までの時間範囲において相補鎖平均抵抗とミスマッチ平均抵抗との差が大きい。この時間範囲において、相補鎖平均抵抗は0.15MΩでありミスマッチ平均抵抗は0.75MΩである。したがって、約280秒から約450秒までの時間範囲における電気抵抗Rを複数回測定し、その測定結果の平均値と相補鎖平均抵抗(0.15MΩ)およびミスマッチ平均抵抗(0.75MΩ)とを比較することにより、DNAの塩基配列の違いを検出することができる。
【0157】
図25は、実施の形態2の実施例における被検出物質(相補鎖DNA)の検出方法を示すフローチャートである。
図25を参照して、S301の測定準備との処理は、紙面の都合上、実施の形態2におけるS201~S205の処理(
図22参照)は包括的に記載したものである。
【0158】
S302において、制御装置100は、レーザ光L1の照射を開始するようにレーザ光源40を制御する。そして、制御装置100は、所定期間が経過するまでは光照射を継続させ(S303においてNO)、所定期間が経過すると(S303においてYES)、レーザ光L1の照射を停止するようにレーザ光源40を制御する(S304)。ここで、所定期間とは、
図24に示した例における約280秒から約450秒までの時間範囲内の期間(たとえば300秒)である。
【0159】
S305において、制御装置100は、電極111B,112B間の電気抵抗Rを測定するようにマルチメータ90を制御する。
【0160】
S306において、電気抵抗Rの測定回数が規定の測定回数(規定回数)に達したか否かを判定する。電気抵抗Rの測定回数が規定回数に達していない場合(S305においてNO)、制御装置100は、処理をS301に戻す。これにより、規定回数に達するまで電気抵抗Rの測定が繰り返される。たとえば、
図19に示した検出キット2Bをアレイ状に配列させておくことで、電気抵抗Rの順次測定を繰り返すことができる。
【0161】
電気抵抗Rの測定回数が規定回数に達すると(S306においてYES)、制御装置100は、処理をS307に進め、規定回数分の電気抵抗Rの平均値を算出する。そして、制御装置100は、電気抵抗Rの平均値が所定の基準値以下であるか否かを判定する。基準値は、
図24に示した例では、0.15MΩと0.75MΩとの間の抵抗値(たとえば0.30MΩ)である。
【0162】
電気抵抗Rの平均値が基準値以下である場合(S308においてYES)、制御装置100は、被検出物質である相補鎖DNAが検出されたと判定する(S309)。一方、電気抵抗Rの平均値が基準値よりも高い場合(S308においてNO)には、制御装置100は、被検出物質は検出されなかった(あるいは、
図24の例ではミスマッチDNAが検出された)と判定する(S310)。これにより、一連の処理が終了する。
【0163】
以上のように、本実施例によれば、相補鎖平均抵抗とミスマッチ平均抵抗との差が大きいとして予め定められた時間範囲内において、電極111B,112B間の電気抵抗Rが複数回測定される。そして、電気抵抗Rの測定結果の平均値が基準値以下であるか否かが判定される。これにより、被検出物質(相補鎖DNA)と塩基配列が異なる一本鎖DNA(ミスマッチDNA)が液体試料に含まれていた場合であっても、塩基配列の違いを判別し、被検出物質を正確に検出することができる。
【0164】
[実施の形態2の実施例2]
続いて、実施の形態2の他の実施例として、くし型電極を含む検出キットが採用された構成について説明する。この実施例における検出対象(被検出物質)は、前述の実施例1と同様に、ターゲットDNA210(
図8参照)である。なお、くし型電極を含む測定キットは、実施の形態1に係る電気的特性測定システムにおいても、たとえば
図7に示す測定キット2Aに代えて適用可能である。
【0165】
<検出キットの構成>
図26は、実施の形態2の実施例2における検出キット3の構成を示す図である。
図26(A)は、検出キット3の模式図を示す。
図26(A)を参照して、検出キット3においては、ケーブル32の先端(一方端)に基板31が設けられており、その基板31上面にくし型電極301,302が形成されている。
【0166】
図26(B)にくし型電極の拡大図を示す。
図26(B)に示すように、くし型電極301,302は、互いに対向するように配置された一対の電極である。より詳細には、くし型電極301,302の各々は、ストライプ状に配列された複数の電極を含む。くし型電極301とくし型電極302とは、くし型電極301の複数の電極とくし型電極302の複数の電極とが互いに噛みあわせられるように配置されている。くし型電極301に含まれる複数の電極のうちのいずれか1つの電極(2以上であってもよい)が本開示に係る「第1の電極」に相当し、くし型電極302に含まれる複数の電極のうちのいずれか1つの電極(2以上であってもよい)が本開示に係る「第2の電極」に相当する。また、
図26に示す例では、くし型電極301,302のうちの少なくとも一方が本開示に係る「光発熱部材」を兼ねている。ただし、光発熱部材を別途設けてもよい。
【0167】
基板31は、電気的絶縁性を有するとともに光学的に透明な材料により形成され、たとえばスライドガラスなどのガラス基板である。
【0168】
図示しないが、ケーブル32の他方端(基板31が設けられていない方の先端)は、制御装置100(
図1参照)に電気的に接続されている。他の構成は、測定システム1の構成と基本的に同等であるため、説明は繰り返さない。
【0169】
<くし型電極におけるDNA集積結果>
この測定例では、以下に説明するように、まず、ターゲットDNA210(相補鎖DNA)を含む分散液Dを検出キット3(くし型電極301,302)上に滴下し、ターゲットDNAとプローブDNAとの間でハイブリダイゼーションが起こることを確認した。
【0170】
分散液Dにおける塩化ナトリウム濃度は0.2Mであり、リン酸濃度は10mMであった。分散液Dの滴下量は、15μLであった。レーザ光源40からのレーザ光の波長は800nmであり、基板31透過後のレーザ出力は17mWであった。光照射時間は10分間とした。
【0171】
図27は、くし型電極301,302においてマイクロバブルMBが発生する様子の観察結果を示す図である。
図27では、図中左側にくし型電極301,302近傍の光学顕微鏡像を示し、右側にくし型電極301,302近傍(同じ箇所)の蛍光観察像を示す。
【0172】
図27を参照して、レーザ光L1の照射により、レーザスポット近傍にマイクロバブルMBが発生したことが確認された。また、そのマイクロバブルMBの直径が電極301と電極302との間の距離よりも大きいことが確認された。
【0173】
本実施例では、ターゲットDNA210の塩基対間に蛍光色素が挿入されており、その蛍光色素の励起波長の光を検出キット3に照射すると、ターゲットDNA210が存在する箇所(すなわち、ターゲットDNAとプローブDNAとのハイブリダイゼーションが起こった箇所)から蛍光が発せられる。
【0174】
図28は、くし型電極301,302間の集積物の測定例を示す図である。
図28には、レーザ光L1の照射停止後に分散液Dを乾燥させた状態でのくし型電極301,302近傍の様子が示されている。図中上側にレーザ光L1を照射した箇所の光学顕微鏡像を示し、下側に光学顕微鏡像と同じ箇所の蛍光観察像を示す。なお、ここではハイブリダイゼーションにより架橋が生じていることを確認するため、ターゲットDNAは蛍光標識したものを用いた(プローブDNAは蛍光標識なし)。ターゲットDNAは5’末端に緑色の発光を示す蛍光色素ALEXA488を標識したものを用いた。
【0175】
図28に示すように、くし型電極301,302間の集積物から発せられた蛍光が蛍光観察像において観察された。このことから、蛍光標識された相補鎖のターゲットDNAとプローブDNAとの間でハイブリダイゼーションが起こって架橋されたことが確認されたと言える。
【0176】
<くし型電極における電気抵抗測定>
最後に、ターゲットDNA210が相補鎖DNAである場合の電気抵抗Rの低下の仕方について、ミスマッチDNAでの電気抵抗Rの低下の仕方と対比しながら説明する。
【0177】
図29は、レーザ光L1の照射停止後における、くし型電極301,302近傍の画像である。図中上側に相補鎖DNAが分散液Dに含まれる場合の光学顕微鏡像を示し、下側に相補鎖DNAに代えてミスマッチDNAが分散液D中に含まれる場合の光学顕微鏡像を示す。
図29より、分散液D中のDNAが相補鎖DNAであってもミスマッチDNAであっても、くし型電極301,302近傍に集積物が形成されたことが分かる。
【0178】
図30は、くし型電極301,302における電気抵抗Rの測定例を示す図である。
図30(A)の縦軸は、くし型電極301,302間の電気抵抗Rを線形目盛りで示す。
図30(B)の縦軸は、くし型電極301,302間の電気抵抗Rを対数目盛りで示す。
【0179】
図30(A)を参照して、分散液D中にミスマッチDNAが含まれる場合、電気抵抗Rの低下に光照射開始時から約280秒を要したのに対し、分散液D中に相補鎖DNAが含まれる場合には、光照射開始時から約100秒後には電気抵抗Rが低下した。この傾向は、
図24に示した電気抵抗(相補鎖平均抵抗およびミスマッチ平均抵抗)の抵抗の傾向と一致している。このように、くし型電極301,302を採用する実施例2においても、電気抵抗Rの低下に要する時間から、分散液D中のDNAが相補鎖DNAであるかミスマッチDNAであるかを区別することが可能である(
図25のフローチャート参照)。
【0180】
また、
図30(B)に示すように、ミスマッチDNAと相補鎖DNAとでは、低下後の電気抵抗Rの大きさが数倍異なっていた。このことから、低下後の電気抵抗Rの大きさを所定の基準値と比較することにより、分散液D中のDNAが相補鎖DNAであるかミスマッチDNAであるかを区別することもできる。つまり、光照射開始時から十分に時間が経過した後の電気抵抗Rの大きさが基準値以上である場合にはミスマッチDNAが含まれていると判定し、低下後の電気抵抗Rの大きさが基準値未満である場合には相補鎖DNAが含まれていると判定することができる。
【0181】
一対のマイクロ電極(互いに平行に配置された一対の間隔がマイクロメートルオーダーの電極)として
図7のような導電率測定用電極の一部を用いた例(
図24参照)では、相補鎖DNAをターゲットDNAとして用いた場合でも光照射開始時から電気抵抗Rが低下するまでに約300秒を要したのに対し、本実施例では、電気抵抗Rの低下が約100秒で起こった。このように、くし型電極301,302を用いると、通常の電極を用いる場合と比べて、電気抵抗Rが低下するまでの時間が短くなるので、ターゲットDNA210の検出時間を短縮することが可能になる。その理由は以下の通りである。
【0182】
まず、くし型電極では、上記一対のマイクロ電極と比べて、正極と負極との組合せの数が多いので、ハイブリダイゼーションによる架橋が起こり得る箇所の数も多い。これらの箇所のうちのいずれか1つでも架橋されれば電気抵抗Rが低下するため、電気抵抗Rの低下が起こり易い。
【0183】
より具体的には、くし型電極301,302の対では、各々が有する複数の電極が交互に配列されている。そのため、くし型電極301,302のうちの一方が有する各電極の両側には、反対極(くし型電極301,302のうちの他方)が有する2本の電極が対向配置されている。したがって、交互配列された複数の電極のいずれかにレーザ光を照射すれば、レーザ光が照射された電極と、その電極の両側に対向配置された反対極の2本の電極のうちの少なくとも一方との間で架橋が生じ得る。その結果、くし型電極301,302との間の電気抵抗Rの低下が生じ得る。
【0184】
さらに、一般に、くし型電極間の距離(より詳細には、一方のくし型電極に含まれる複数の電極のうちの一本の電極と、それに隣接する、他方のくし型電極に含まれる複数の電極のうちの一本の電極との間の距離)は、上記一対のマイクロ電極間の距離よりも狭い。たとえば、
図8に示した測定キット2Aの8本の電極151~158の場合、隣接する2本の電極間の距離が最小の10μmの部分を利用したのに対し、
図29および
図30に示した例では、くし型電極301,302間の距離は5μmであった。電極間の距離が狭いと、電極間の架橋に必要なプローブDNAを修飾した金ナノ粒子とターゲットDNAの数が少なくてよく、ハイブリダイゼーションの発生数が少なくてよくなり、その結果として短時間で架橋が起こり易くなる。
【0185】
それに加えて、
図4にて微小物体Mの集積メカニズムを説明したように、微小物体Mの効率的な集積にはマイクロバブルMBのサイズが電極間の距離よりも大きくなるように成長することが望ましいが、電極間の距離が狭いほど、そのようなサイズにまでマイクロバブルMBが成長するのに要する時間が短くなる。以上の理由により、本実施例によれば、くし型電極301,302を用いることでターゲットDNA210の検出時間を短縮することができる。
【0186】
なお、実施の形態1,2では、プローブDNA211,212とターゲットDNA210との間のハイブリダイゼーションを用いた例を説明したが、被検出物質の検出方法はこれに限定されない。たとえば、図示しないが、被検出物質が抗原である場合には、抗原との間で抗原抗体反応を起こす抗体をナノ粒子に修飾することで、被検出物質を検出することができる。
【0187】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0188】
1 測定システム、2,2A 測定キット、2B,3 検出キット、10 XYZ軸ステージ、11,11A,11B,31 基板、111,111B,112,112B,151~158 電極、301,302 くし型電極、20 調整機構、30 サンプル供給部、32 ケーブル、40 レーザ光源、50 光学部品、60 対物レンズ、70 照明光源、80 撮影機器、90 マルチメータ、100 制御装置、110 光発熱部材、120,121,121B,122,122B 接着層、131~138 接続ピン、141~148 配線、200~202 金ナノ粒子、210 ターゲットDNA、211,212 プローブDNA、D,D1~D4 分散液、SP 液体試料、M 微小物体。