(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】潤滑油用分散剤及びその製造方法、並びに潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 133/16 20060101AFI20221003BHJP
C10M 141/06 20060101ALI20221003BHJP
C10M 129/76 20060101ALN20221003BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20221003BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221003BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20221003BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221003BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20221003BHJP
【FI】
C10M133/16
C10M141/06
C10M129/76
C10N20:04
C10N40:25
C10N30:04
C10N30:00 Z
C10N20:00 Z
(21)【出願番号】P 2018070380
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100195888
【氏名又は名称】竹原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】甲嶋 宏明
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 頼由
(72)【発明者】
【氏名】葛西 杜継
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-101070(JP,A)
【文献】特開2014-080526(JP,A)
【文献】特開昭61-258897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、ポリアミン(C)とを原料とする、下記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物並びに当該含窒素化合物のホウ素化物及び当該含窒素化合物のアシル化物から選択される1種以上の化合物を含む潤滑油用分散剤であって、
【化1】
【化2】
(上記一般式(1)~(4)において、R
1、R
3、R
4、R
7、及びR
9は、それぞれ独立して、ポリブテニル基及びポリイソブテニル基から選択されるアルケニル基、又は、水素化ポリブテニル基及び水素化ポリイソブテニル基から選択されるアルキル基であり、当該アルケニル基及び当該アルキル基は、分子量分布(Mw/Mn)が1.80以下であり、質量平均分子量(Mw)が500~5,000である。 R
2、R
5、R
6、R
8、R
10、及びR
11は、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキレン基である。 m、n、p、q、及びrは、それぞれ独立して、1~10の整数である。)
ポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす、潤滑油用分散剤。
(α)
1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、
1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が
14以上である。
(β)
1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、
1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
【請求項2】
Sb/Saが
15.6以上であり、Sd/Scが5以上である、請求項1に記載の潤滑油用分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の潤滑油用分散剤と、潤滑油基油とを含有する、潤滑油組成物。
【請求項4】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体を更に含む、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体が、下記一般式(5)で表される化合物である、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【化3】
(R
12及びR
13は、それぞれ独立して、炭素数6~24のアルキル基又はアルケニル基であり、sは1又は2である。)
【請求項6】
内燃機関に用いられる、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の潤滑油用分散剤の製造方法であって、
以下の反応工程(S1)及び(S2)を有し、
・反応工程(S1):ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、を反応させる工程
・反応工程(S2):反応工程(S1)で得られた反応生成物(X)と、ポリアミン(C)と、を反応させて含窒素化合物を得る工程
ポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす、潤滑油用分散剤の製造方法。
(α)
1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、
1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が
14以上である。
(β)
1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、
1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
【請求項8】
反応工程(S1)及び(S2)の後に、さらに反応工程(S3A)を有する、請求項7に記載の潤滑油用分散剤の製造方法。
・反応工程(S3A):反応工程(S2)で得られた含窒素化合物をホウ素化合物と反応させて、該含窒素化合物のホウ素化物を得る工程。
【請求項9】
反応工程(S1)及び(S2)の後に、さらに反応工程(3B)を有する、請求項7に記載の潤滑油用分散剤の製造方法。
・反応工程(S3B):反応工程(S2)で得られた含窒素化合物をカルボン酸化合物と反応させて、含窒素化合物のアシル化物を得る工程。
【請求項10】
ポリオレフィン(A)とマレイン酸化合物(B)との配合比率が(B/A)が、モル比で、1~1.5である、請求項7~9のいずれか1項に記載の潤滑油用分散剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油用分散剤及びその製造方法、並びに当該潤滑油用分散剤を含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題が世界規模でクローズアップされており、自動車等の車両に対しては「排ガス浄化性」及び「省燃費性」が強く要求されている。かかる要求に伴い、自動車等の車両に用いられる潤滑油組成物にも、「排ガス浄化性」及び「省燃費性」のさらなる改善が要求されている。
「排ガス浄化性」については、内燃機関、特にディーゼルエンジンの排出ガス中の窒素酸化物(NOx)及び粒子状排出物(PM)等に起因する環境汚染への対策が重要な課題である。
【0003】
NOx削減のための具体策としては、ピーク燃焼温度を下げることが挙げられる。ピーク燃焼温度は、排出ガスの再循環(EGR)率を高めること、燃料噴射時期の遅延等によって達成し得る。しかし、NOx削減を目的としてピーク燃焼温度を低下させると、黒煙やPMの排出量が増加する。そのため、排出ガスの後処理装置の併用が必要となる。排出ガスの後処理装置としては、PMトラップ等が検討されている。PMトラップは、一般的にはフィルター構造を有している。
【0004】
ところで、従来、内燃機関用の潤滑油組成物、特にディーゼルエンジン用の潤滑油組成物には、清浄剤と分散剤とが併用されている。
「清浄剤」とは、主に高温運転において劣化物の沈積を予防及び抑制する機能を有する添加剤を意味している。
「分散剤」とは、比較的低温で発生するスラッジ等を油中に分散するための添加剤である。
清浄剤としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくともいずれかの金属を含む金属系清浄剤が一般的に用いられる。具体的には、当該金属のスルホネート、フェネート、サリチレート、ホスホネート、及びこれらの過塩基化合物等が金属系清浄剤として用いられる。
そのため、潤滑油組成物に含まれる金属系清浄剤中の金属分が排ガスに混入し、排出ガスの後処理装置のフィルターを閉塞する恐れがある。
【0005】
排出ガスの後処理装置のフィルター閉塞の問題への対応策として、金属系清浄剤の使用量を低減することや、金属系清浄剤に代えて無灰系清浄剤を使用すること等が挙げられる。しかし、このような対応策のみでは、潤滑油組成物に求められる高温清浄性等の特性の維持が難しい。そこで、潤滑油組成物に求められる高温清浄性等の特性を維持すべく、清浄剤と併用される分散剤が各種提案されており、無灰系分散剤も各種提案されている。
【0006】
このような無灰系分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸アミド、及びアルキルコハク酸アミド等の含窒素化合物が各種提案されている。
例えば、特許文献1には、コハク酸イミド及びコハク酸アミド、またはそれらの混合物を無水フタル酸又はエチレンカーボネートで後処理したコハク酸イミド及びコハク酸アミド等が分散剤として有用であることが記載されている。
また、特許文献2には、分散剤として用いられるコハク酸イミド組成物の製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2012-513495号公報
【文献】特開2010-43272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のとおり、自動車等の車両に用いられる潤滑油組成物には、「排ガス浄化性」に加えて、「省燃費性」のさらなる改善も要求されている。潤滑油組成物の「省燃費性」を改善する手法の一つとして、潤滑油組成物の低粘度化が挙げられる。
しかしながら、無灰系分散剤として用いられている前記含窒素化合物は、潤滑油組成物を高粘度化させてしまうため、「省燃費性」の改善に際して障害となり得る。
【0009】
詳細に説明すると、前記含窒素化合物は、一般的には、前記含窒素化合物自体と、前記含窒素化合物の合成原料であるポリオレフィンの未反応物(以下、「未反応ポリオレフィン」ともいう)が混合された状態で取り扱われる。ポリオレフィンは高分子量で高沸点のため蒸留できず、また各種溶剤への溶解性も前記含窒素化合物と同程度であることから、未反応ポリオレフィンを除去するのが困難なためである。
そのため、前記含窒素化合物を潤滑油組成物に添加する場合、分散剤として機能する有効成分である含窒素化合物自体の添加量を十分に確保しようとすると、未反応ポリオレフィンも必然的に多く添加されてしまう。
しかし、前記含窒素化合物が高粘度である一方で、未反応ポリオレフィンも高粘度である。そのため、余分に添加され、分散剤として何ら寄与しない未反応ポリオレフィンが潤滑油組成物をより高粘度化させる要因となる。
【0010】
そのため、従来は、潤滑油組成物を低粘度化するために、低粘度の潤滑油基油を用いる等の手法が採用されていた。しかし、低粘度の潤滑油基油を用いると、NOACK値の上昇や引火点の低下といった新たな問題が生じやすい。
そこで、未反応ポリオレフィンの含有量が少ない高純度の前記含窒素化合物を提供し、未反応ポリオレフィンに起因する潤滑油組成物の粘度上昇を抑ることにより、潤滑油基油の選択の自由度を高めることができれば、潤滑油組成物の省燃費性をより向上させやすいと考えられる。加えて、未反応ポリオレフィンの含有量が少ない高純度の前記含窒素化合物を提供することで、有効成分である前記含窒素化合物の添加量をより少量の添加で十分に確保または向上させることができ、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させることができると考えられる。
【0011】
本発明は、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい潤滑油用分散剤及びその製造方法、並びに当該潤滑油用分散剤を含む潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、含窒素化合物であるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸アミド、及びアルキルコハク酸アミド、並びに当該含窒素化合物のホウ素化物又は当該含窒素化合物のアシル化物を合成する際の原料として特定のポリオレフィンを用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]に関する。
[1] ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、ポリアミン(C)とを原料とする、下記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物並びに当該含窒素化合物のホウ素化物及び当該含窒素化合物のアシル化物から選択される1種以上の化合物を含む潤滑油用分散剤であって、
【化1】
【化2】
(上記一般式(1)~(4)において、R
1、R
3、R
4、R
7、及びR
9は、それぞれ独立して、ポリブテニル基及びポリイソブテニル基から選択されるアルケニル基、又は、水素化ポリブテニル基及び水素化ポリイソブテニル基から選択されるアルキル基であり、当該アルケニル基及び当該アルキル基は、分子量分布(Mw/Mn)が1.80以下であり、質量平均分子量(Mw)が500~5,000である。
R
2、R
5、R
6、R
8、R
10、及びR
11は、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキレン基である。
m、n、p、q、及びrは、それぞれ独立して、1~10の整数である。)
ポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす、潤滑油用分散剤。
(α)
1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、
1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が2以上である。
(β)
1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、
1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
[2] 上記[1]に記載の潤滑油用分散剤と、潤滑油基油とを含有する、潤滑油組成物。
[3] 上記[1]に記載の潤滑油用分散剤の製造方法であって、
以下の反応工程(S1)及び(S2)を有し、
・反応工程(S1):ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、を反応させる工程
・反応工程(S2):反応工程(S1)で得られた反応生成物(X)と、ポリアミン(C)と、を反応させて含窒素化合物を得る工程
ポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす、潤滑油用分散剤の製造方法。
(α)
1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、
1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が2以上である。
(β)
1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、
1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい潤滑油用分散剤及びその製造方法、並びに当該潤滑油用分散剤を含む潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ポリブテンの
1H-NMRスペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0017】
[潤滑油用分散剤]
本発明の潤滑油用分散剤は、ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、ポリアミン(C)とを原料とする、下記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物並びに当該含窒素化合物のホウ素化物及び当該含窒素化合物のアシル化物から選択される1種以上の化合物を含む。
【0018】
【0019】
【0020】
上記一般式(1)~(4)において、R1、R3、R4、R7、及びR9は、それぞれ独立して、ポリブテニル基及びポリイソブテニル基から選択されるアルケニル基、又は、水素化ポリブテニル基及び水素化ポリイソブテニル基から選択されるアルキル基である。
なお、上記一般式(2)中、R3及びR4は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
本発明において、前記アルケニル基及び前記アルキル基の分子量分布(Mw/Mn)は1.80以下である。分子量分布(Mw/Mn)が1.80より大きいと、含窒素化合物をより高粘度化させやすくするアルケニル基やアルキル基が混在し、潤滑油組成物をより高粘度化させやすい潤滑油用分散剤となってしまう。そのため、使用できる潤滑油基油の粘度が制限されるといった問題が生じ得る。
なお、本発明の一態様において、潤滑油組成物の高粘度化を抑えて、より粘度の低い潤滑油組成物を調製しやすくする観点から、前記アルケニル基及び前記アルキル基の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.75以下であり、より好ましくは1.70以下であり、更に好ましくは1.65以下である。
【0022】
また、本発明において、前記アルケニル基及び前記アルキル基の質量平均分子量(Mw)は500~5,000である。
前記アルケニル基及び前記アルキル基の質量平均分子量(Mw)が500未満であると、潤滑油基油への溶解性が低下する。また、潤滑油組成物の高温清浄性や分散性を十分に確保できなくなる。
前記アルケニル基及び前記アルキル基の質量平均分子量(Mw)が5,000よりも大きいと、前記含窒素化合物の塩基価を十分に確保できなくなる。
ここで、本発明の一態様において、潤滑油基油への溶解性をより良好にする観点、潤滑油組成物の高温清浄性をより優れたものとする観点、及び前記含窒素化合物の塩基価をより向上させる観点から、、前記アルケニル基及び前記アルキル基の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは600~4,000であり、より好ましくは700~3,000であり、更に好ましくは800~2,500である。
【0023】
なお、本発明において、前記アルケニル基及び前記アルキル基の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、前記アルケニル基及び前記アルキル基の生成源であるポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)について、後述する実施例に記載の方法で評価することができる。
【0024】
上記一般式(1)~(4)において、R2、R5、R6、R8、R10、及びR11は、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキレン基である。
前記アルキレン基の炭素数が1であると、潤滑油基油に対する溶解性が低下する。
また、前記アルキレン基の炭素数が5より大きいと、潤滑油組成物の高温清浄性を十分に確保できなくなる。
ここで、本発明の一態様において、潤滑油基油に対する溶解性をより良好にする観点、及び潤滑油組成物の高温清浄性をより優れたものとする観点から、前記アルキレン基は、好ましくは炭素数2~4であり、より好ましくは炭素数2~3であり、更に好ましくはエチレン基である。
なお、上記一般式(2)中、R5及びR6は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、上記一般式(4)中、R10及びR11は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
上記一般式(1)~(4)において、m、n、p、q、及びrは、それぞれ独立して、1~10の整数である。
m、n、p、q、及びrが10より大きいと、潤滑油基油に対する溶解性が低下する。
ここで、本発明の一態様において、潤滑油基油に対する溶解性をより良好にする観点、及び潤滑油組成物の高温清浄性をより優れたものとする観点から、m、n、p、q、及びrは、2~6の整数であることが好ましく、2~5の整数であることがより好ましい。
【0026】
そして、本発明の潤滑油用分散剤は、ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす。
(α)1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が2以上である。
(β)1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
【0027】
図1に、ポリブテンの
1H-NMRスペクトルの一例を示す。
図1に示す
1H-NMRスペクトルには、末端オレフィンに帰属されるピークと、内部オレフィンに帰属されるピークとが存在する。
図1に示す
1H-NMRスペクトルにおいて、末端オレフィンに帰属されるピークのうち、末端ビニリデン基に帰属されるピークは、4.40~5.00ppmと1.76~2.10ppmに存在する。
詳細には、
図1に示す末端ビニリデン基のb、d、e、及びfに帰属される4つのピークが存在する。
・末端ビニリデン基のb及びdに帰属されるピークb及びピークd:4.40~5.00ppm
・末端ビニリデン基のアリル位メチレン基のeに帰属されるピークe及び末端ビニリデン基のアリル位メチル基のfに帰属されるピークf:1.76~2.10ppm
また、
図1に示す
1H-NMRスペクトルにおいて、末端オレフィンのうち、内部ビニリデン基に帰属されるピークが、4.40~5.00ppmに存在する。
詳細には、
図1に示す内部ビニリデン基のcに帰属される1つのピークが存在する。
・内部ビニリデン基のcに帰属されるピークc:4.40~5.00ppm
一方、
図1に示す
1H-NMRスペクトルにおいて、内部オレフィンに帰属されるピークは、5.01~5.60ppmと1.65~1.75ppmに存在する。
詳細には、
図1に示す内部オレフィンのa、g、及びhに帰属される3つのピークが存在する。
・内部オレフィンのaに帰属されるピークa:5.01~5.60ppm
・内部オレフィンのアリル位メチル基のg及びhに帰属されるピークg及びピークh:1.65~1.75ppm
【0028】
そして、1H-NMRスペクトルにおける5.01~5.60ppmの積分値を計算することでピークaの積分値が計算されてSaが得られる。
1H-NMRスペクトルにおける4.40~5.00ppmの積分値を計算することで、ピークb、c、及びdの積分値の合計が計算されてSbが得られる。
1H-NMRスペクトルにおける1.65~1.75ppmの積分値を計算することで、ピークg及びhの積分値の合計が計算されてScが得られる。
1H-NMRスペクトルにおける1.76~2.10ppmの積分値を計算することで、ピークe及びfの積分値の合計が計算されてSdが得られる。
【0029】
本発明では、下記条件の少なくともいずれかを満たす、ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)を原料として用いる。
(α)Sb/Saが2以上である。
(β)Sd/Scが1以上である。
上記条件の双方を満たさない場合、末端ビニリデン基の含有量が少ないポリオレフィンを用いることになる。そのため、ポリオレフィン(A)のマレイン化反応率が低下して、未反応ポリオレフィンが増加する。その結果、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物並びに当該含窒素化合物のホウ素化物及び当該含窒素化合物のアシル化物から選択される1種以上の化合物を含む潤滑油用分散剤は、少量の添加で潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させるのが困難となり、低粘度の潤滑油組成物を調製し難くなる。
なお、本発明の一態様において、マレイン化反応率をより向上させて、未反応ポリオレフィンをより低減させる観点から、条件(α)におけるSb/Saは、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上が更に好ましく、16以上がより更に好ましい。
また、同様の観点から、条件(β)におけるSd/Scは、5以上が好ましく、5.2以上がより好ましく、5.5以上が更に好ましく、6.0以上がより更に好ましい。
【0030】
ところで、マレイン酸化合物は、電子吸引基であるカルボキシル基の存在によって、オレフィン部位が電子プアーな状態にある。そのため、ポリオレフィン(A)をマレイン化する際には、ポリオレフィン(A)が電子リッチであることが好ましいと考えられる。したがって、有機電子論の観点からいえば、末端ビニリデン基を有するポリオレフィンよりも、内部オレフィンを有するポリオレフィンの方が、マレイン化反応に関与するオレフィン部位が電子リッチであるため、内部オレフィンを有するポリオレフィンの方がマレイン化反応は起こりやすいといえる。
一方で、内部オレフィンを多く含むポリオレフィンは、立体障害により反応が進行し難くなる。
これらの理由から、マレイン化反応の反応率の予測は困難である。
本発明では、このように予測が困難なマレイン化反応の反応率について、1H-NMRスペクトルを用いて原料となるポリオレフィンを規定することで、反応率を向上させて、未反応ポリオレフィンを低減することを可能にしている。このことを利用することによって、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい潤滑油用分散剤の提供を可能としている。
【0031】
[潤滑油用分散剤の製造方法]
本発明の潤滑油用分散剤の製造方法は、以下の反応工程(S1)及び(S2)を有する。
・反応工程(S1):ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、を反応させる工程
・反応工程(S2):反応工程(S1)で得られた反応生成物(X)と、ポリアミン(C)と、を反応させて含窒素化合物を得る工程
そして、ポリオレフィン(A)が、下記(α)及び(β)の少なくともいずれかの条件を満たす。
(α)1H-NMRスペクトルにおいて5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値(Sa)と、1H-NMRスペクトルにおいて4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値(Sb)との比(Sb/Sa)が2以上である。
(β)1H-NMRスペクトルにおいて1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値(Sc)と、1H-NMRスペクトルにおいて1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値(Sd)との比(Sd/Sc)が1以上である。
【0032】
<反応工程(S1)>
反応工程(S1)では、ポリブテン及びポリイソブテンから選択される1種以上のポリオレフィン(A)と、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される1種以上のマレイン酸化合物(B)と、を反応させる。反応工程(S1)により、ポリオレフィン(A)のマレイン化反応が生じ、アルケニルコハク酸無水物及びアルキルコハク酸無水物の少なくともいずれか一方が反応生成物(X)として得られる。
【0033】
本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S1)におけるポリオレフィン(A)とマレイン酸化合物(B)との配合比率(B/A)は、高い反応生成物収率と低い不純物生成率の観点より、モル比で、0.2~5が好ましく、0.75~2がより好ましく、1~1.5が更に好ましい。
また、本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S1)における反応温度は、100~250℃が好ましく、180~250℃がより好ましく、200~250℃が更に好ましい。
なお、反応工程(S1)では、溶媒として、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用してもよい。
また、反応収率をより向上させる観点から、適宜触媒を用いてもよい。
【0034】
<反応工程(S2)>
反応工程(S2)では、反応工程(S1)で得られた反応生成物(X)と、ポリアミン(C)と、を反応させて含窒素化合物を得る。反応工程(S2)により、反応工程(S1)で得られた反応生成物(X)である、アルケニルコハク酸無水物及びアルキルコハク酸無水物の少なくともいずれか一方がイミド化又はアミド化し、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物が得られる。
【0035】
ポリアミン(C)は、例えば直鎖状又は分岐状のアルキレン基を有する非環構造のポリアルキレンポリアミン及び環構造を有するポリアルキレンポリアミンから選択される1種以上であり、最終生成物であるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸アミド、及びアルキルコハク酸アミドの構造に応じて適宜選択される。
ここで、ポリアミン(C)は、下記一般式(6)及び(7)で表される非環構造のポリアミンであることが好ましい。
【0036】
【0037】
上記一般式(6)及び(7)中、R21、R22、及びR23は、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2~4のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2~3のアルキレン基であり、更に好ましくはエチレン基である。
なお、上記一般式(7)において、R22及びR23は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、上記一般式(6)及び(7)中、t及びuは、1~10の整数であり、好ましくは2~6の整数であり、より好ましくは2~5の整数である。
【0038】
上記一般式(6)及び(7)で表される非環構造のポリアルキレンポリアミンを例示すると、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘキサエチレンオクタミン等が挙げられる。
【0039】
本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S2)における、反応工程(1)で得られた反応生成物(X)とポリアミン(C)との配合比率(C/X)は、モル比で、0.2~5が好ましく、0.4~2がより好ましく、0.45~1.9が更に好ましい。
また、本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S2)における反応温度は、100~200℃が好ましく、110~190℃がより好ましく、120~180℃が更に好ましい。
なお、反応工程(S2)では、溶媒として、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用してもよい。
【0040】
ここで、アルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸アミド、及びアルキルコハク酸アミドのうち、上記一般式(1)で表されるモノイミド構造体、上記一般式(2)で表されるビスイミド構造体、上記一般式(3)で表されるモノアミド構造体、及び上記一般式(4)で表されるビスアミド構造体は、主に反応工程(2)における、反応工程(1)で得られた反応生成物(X)に対するポリアミン(C)の仕込み量によって作り分けることができる。
すなわち、反応生成物(X)とポリアミン(C)との配合比率(C/X)が0.80~1.2であれば、通常、モノイミド構造体又はモノアミド構造体が主に生成される。
反応生成物(X)とポリアミン(C)との配合比率(C/X)が0.4~0.6であれば、通常、ビスイミド構造体が主に生成される。
反応生成物(X)とポリアミン(C)との配合比率(C/X)が1.8~2.0であれば、通常、ビスアミド構造体が主に生成される。
【0041】
<反応工程(S3A)>
本発明の潤滑油用分散剤は、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物のホウ素化物であってもよい。
本発明の一態様の製造方法は、上記反応工程(1)及び(2)の後に、さらに以下の反応工程(S3A)を有する
・反応工程(S3A):反応工程(S2)で得られた含窒素化合物をホウ素化合物と反応させて、該含窒素化合物のホウ素化物を得る工程。
【0042】
反応工程(S3A)では、反応工程(S2)で得られた含窒素化合物、すなわち、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物をホウ素化合物と反応させる。
当該ホウ素化合物は、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物をホウ素化できる化合物であれば特に限定されないが、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、及びホウ酸エステル等が挙げられ、好ましくはホウ酸である。
【0043】
本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S3A)における、含窒素化合物とホウ素化合物の配合比率(ホウ素化合物/含窒素化合物)は、モル比で、0.05~5が好ましく、0.1~4がより好ましい。
また、本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S3A)における反応温度は、50~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。
なお、反応工程(S3A)では、溶媒として、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用してもよい。
【0044】
<反応工程(S3B)>
本発明の潤滑油用分散剤は、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物のアシル化物であってもよい。
本発明の一態様の製造方法は、上記反応工程(1)及び(2)の後に、さらに以下の反応工程(S3B)を有する
・反応工程(S3B):反応工程(S2)で得られた含窒素化合物をカルボン酸化合物と反応させて、該含窒素化合物のアシル化物を得る工程。
【0045】
反応工程(S3B)では、反応工程(S2)で得られた含窒素化合物、すなわち、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物をカルボン酸化合物と反応させる。
当該カルボン酸化合物は、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物をアシル化できる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、無水酢酸、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ウンデカン酸、ラウリン酸(ドデカン酸)、トリデシル酸(トリデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸(ペンタデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、及びステアリン酸(オクタデカン酸)等が挙げられる。
【0046】
本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S3B)における、含窒素化合物とカルボン酸化合物の配合比率(カルボン酸化合物/含窒素化合物)は、モル比で、0.05~5が好ましく、0.1~4がより好ましい。
また、本発明の一態様の製造方法において、反応工程(S3B)における反応温度は、50~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。
なお、反応工程(S3B)では、溶媒として、例えば炭化水素油等の有機溶剤を使用してもよい。
【0047】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、前記潤滑油用分散剤と、潤滑油基油とを含有する。
前記潤滑油用分散剤は、従来の含窒素化合物を含む潤滑油用分散剤と比較して未反応ポリオレフィンの含有量が少ないため、有効成分となる含窒素化合物を相対的に多く含む。したがって、前記潤滑油用分散剤の潤滑油組成物中含有量を低減することができ、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい。
本発明の一態様の潤滑油用分散剤において、上記一般式(1)~(4)で表される含窒素化合物並びに当該含窒素化合物のホウ素化物及び当該含窒素化合物のアシル化物から選択される1種以上の化合物(以下、「有効成分」ともいう)の含有量は、未反応ポリオレフィンも含めて、滑油用無灰系清浄剤の全量(100質量%)基準で、50~100質量%含有することが好ましく、60~100質量%含有することがより好ましく、70~100質量%含有することが更に好ましく、80~100質量%含有することがより更に好ましく、90~100質量%含有することが更になお好ましい。
本発明の潤滑油用分散剤は、従来の潤滑油用分散剤と比較して未反応ポリオレフィンの含有量が少ないため、有効成分を相対的に多く含む。したがって、少量の添加でも有効成分濃度を十分に高めることができ、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させ得る。また、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすく、省燃費性に優れる潤滑油組成物を調製しやすくできる。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、かかる観点から、前記潤滑油用分散剤の含有量が、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは0.1~20質量%、更に好ましくは0.5~10質量%、より更に好ましくは1~8質量%、更になお好ましくは2~6質量%である。
【0048】
<潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物に用いられる潤滑油基油は、特に制限はなく、潤滑油基油として使用可能な鉱油及び合成油から選択される1種以上を用いることができる。
【0049】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油等が挙げられる。
これらの鉱油は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、鉱油としては、API(米国石油協会)の基油カテゴリーにおいて、グループ1、2、及び3のいずれに分類されるものでもよいが、スラッジ生成をより抑制することができ、また粘度特性及び酸化劣化等に対する安定性をより向上させる観点から、グループ2、3に分類されるものが好ましい。
【0051】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、及びα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等)等のポリα-オレフィン類;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等の各種エステル油;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリグリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレンなどが挙げられる。
【0052】
潤滑油基油は、上記の鉱油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。また、上記の合成油を単独で、又は複数種組み合わせて用いてもよい。さらには、上記の鉱油を1種以上と上記の合成油を1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0053】
潤滑油基油の動粘度及び粘度指数については特に制限はないが、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性をより優れたものとし、潤滑油基油の取扱性をより良好なものとする観点から、動粘度及び粘度指数は、以下の範囲とすることが好ましい。
すなわち、潤滑油基油(D)の100℃動粘度は、1~50mm2/sであることが好ましく、2~20mm2/sであることがより好ましく、3~15mm2/sであることが更に好ましい。
潤滑油基油(D)の40℃動粘度は、1~200mm2/sであることが好ましく、5~160mm2/sであることがより好ましく、10~130mm2/sであることが更に好ましい。
潤滑油基油(D)の粘度指数は、80以上が好ましく、90以上がより好ましく、100以上が更に好ましい。
本明細書において、動粘度、及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
【0054】
<アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、前記潤滑油用分散剤及び前記潤滑油基油に加えて、さらにアルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体を含有することが好ましい。アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体を含有することで、潤滑油組成物の高温清浄性及びスラッジ分散性がさらに向上する。
【0055】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体としては、例えば下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
上記一般式(5)において、R12及びR13は、それぞれ独立して、炭素数6~24のアルキル基又はアルケニル基であり、sは1又は2である。
ここで、潤滑油基油への溶解性の観点、及び添加する質量当たりの性能の観点から、上記一般式(5)におけるR12及びR13は、炭素数10~18のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましく、炭素数12~16のアルキル基又はアルケニル基であることがより好ましい。
【0058】
上記一般式(5)で表されるアルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体を例示すると、(ヘキシルヒドロキシ安息香酸)ヘキシルフェニルエステル、(ヘキシルヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(オクチルヒドロキシ安息香酸)オクチルフェニルエステル、(ノニルヒドロキシ安息香酸)ノニルフェニルエステル、(ノニルヒドロキシ安息香酸)ヘキサデシルフェニルエステル、(ドデシルヒドロキシ安息香酸)ノニルフェニルエステル、(ドデシルヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(ドデシルヒドロキシ安息香酸)ヘキサデシルフェニルエステル、(ヘキサデシルヒドロキシ安息香酸)ヘキシルフェニルエステル、(ヘキサデシルヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(テトラデシルヒドロキシ安息香酸)テトラデシルフェニルエステル、(ヘキサデシルヒドロキシ安息香酸)ヘキサデシルフェニルエステル、(エイコシルヒドロキシ安息香酸)エイコシルフェニルエステル、及び(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル等が挙げられ、好ましくは(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステルである。
【0059】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体の含有量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1~5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である
【0060】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体と前記潤滑油用分散剤の配合割合(アルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体/前記潤滑油用分散剤)は、質量比で、1/99~99/1、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは20/80~80/20である。
【0061】
<その他の添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記潤滑油用分散剤及びアルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体以外の他の成分を含んでいてもよい。
当該他の成分としては、潤滑油組成物に通常配合される酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦調整剤、極圧剤、他の分散剤、粘度指数向上剤、流動点向上剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、抗乳化剤及び着色剤およびその他の添加剤が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
[潤滑油組成物の各種物性]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性をより優れたものとする観点から、100℃動粘度、40℃動粘度、及び粘度指数が、以下に説明する範囲であることが好ましい。なお、当該潤滑油組成物の40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283-2000に準じて測定及び算出される値である。
【0063】
<潤滑油組成物の100℃動粘度>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、3~20mm2/sであることが好ましく、4~15mm2/sであることがより好ましく、5~15mm2/sであることが更に好ましい。
【0064】
<潤滑油組成物の40℃動粘度>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、30~150mm2/sであることが好ましく、40~140mm2/sであることがより好ましく、50~130mm2/sであることが更に好ましい。
【0065】
<潤滑油組成物の粘度指数>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、100以上が好ましく、105以上がより好ましい。
【0066】
[潤滑油組成物の用途]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関に使用されることが好ましい。
本発明の潤滑油組成物に含まれる本発明の一態様の潤滑油用分散剤は、潤滑油組成物の高温清浄性及び塩基価に優れ、清浄剤としての機能も発揮し得る。そのため、金属系清浄剤を併用する際に、当該金属系清浄剤の使用量を低減することができる。具体的には、排ガス処理装置のフィルター類の閉塞の問題を抑制することができ、排ガス処理装置の長寿命化を図り、内燃機関を長期に亘り良好に作動させ得る。
また、本発明の潤滑油組成物に含まれる前記潤滑油用分散剤は、未反応ポリオレフィンの含有量が少ないため、少量の添加で十分な量の有効成分を潤滑油組成物中に含有させ得る。そのため、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすく、省燃費性に優れる潤滑油組成物を調整しやすい。
しかも、本発明の潤滑油組成物に含まれる前記潤滑油用分散剤は、少量の添加量であっても有効成分の添加量を従来よりも向上させ得る。したがって、前記有効成分のうち清浄剤として機能する分量を従来よりも増やすことができること、及び、前記有効成分がより多くのスラッジやその前駆体等を分散させることによって清浄剤により中和すべき物質が低減することの少なくともいずれかの効果により、長期に亘って潤滑油組成物の清浄性を維持しつつ、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすいものとできる。
当該潤滑油組成物は、内燃機関以外にも、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤ油、その他一般機械等の工業用ギヤ油等のギヤ油、更には、油圧機械、タービン、圧縮機、工作機械、切削機械、歯車(ギヤ)、流体軸受け、転がり軸受けを備える機械等にも好適に用いられる。
【0067】
したがって、本発明の一態様としては、当該潤滑油組成物を充填した内燃機関が挙げられる。内燃機関としては、ガソリンエンジン及び/又はディーゼルエンジンが挙げられる。
さらに、本発明の一態様としては、当該潤滑油組成物を充填した駆動系機構、工業設備等が挙げられる。
【0068】
したがって、本発明の一態様としては、当該潤滑油組成物を充填した内燃機関が挙げられる。内燃機関としては、ガソリンエンジン及び/又はディーゼルエンジンが挙げられる。
さらに、本発明の一態様としては、当該潤滑油組成物を充填した工業設備、駆動系機構等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[物性値の測定方法]
以下に説明する製造例において実施した物性値の測定方法は以下のとおりである。
【0071】
<質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
原料として用いたポリブテンの質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の条件で測定し、標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)として評価した。
・SEC装置:東ソー製 HLC-8220GPC
・カラム:東ソー製 TSKguardcolumn HXL-H + TSKgel GMH-XL 2本 + G2000H-XL 1本
・溶媒:テトラヒドロフラン(和光純薬工業製安定剤不含特級)
・検出器:示差屈折率(RI)検出器、UV検出器
・濃度:0.1w/v%
・注入量:100μl
・流速:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・検量線用標準試料:東ソー製TSK標準ポリスチレン
・解析ソフト:GPC-8020model2
【0072】
<1H-NMRスペクトル>
原料として用いたポリブテンの1H-NMRスペクトルは、以下の条件で測定した。
・NMR装置:ブルカー・バイオスピン製 DRX500
・分光計:ブルカー・バイオスピン製 AVANCE III HD
・プローブ:5mmφTCIクライオプローブ
・データポイント数:64k
・ダミースキャン回数:2回
・積算回数:64回
・観測中心:6.175ppm
・観測幅:20ppm
・acquisition time:3.28秒
・relaxation delay:10秒
・NMR試料管:5mmφ
・サンプル量:5~15mg
・測定溶媒:重クロロホルム
・測定温度:室温
なお、以降の説明では、1H-NMRスペクトルにおいて観測される各種ピークの積分値を以下のように呼ぶ。
・5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値:Sa
・4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値:Sb
・1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値:Sc
・1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値:Sd
「5.01~5.60ppmに存在するピークの積分値」に対する「4.40~5.00ppmに存在するピークの積分値」は「Sb/Sa」ともいう。
「1.65~1.75ppmに存在するピークの積分値」に対する「1.76~2.10ppmに存在するピークの積分値」は「Sd/Sc」ともいう。
【0073】
<けん化価>
生成物のけん化価は、JIS K 2503-2010に基づいて測定した。
【0074】
<塩基価>
生成物の塩基価は、JIS K2501 2003に基づく塩酸法により測定した。
【0075】
<動粘度>
生成物の100℃動粘度は、JIS K2283-2000に準じて測定した。
【0076】
[製造例1~4及び比較製造例1~4]
以下に説明する製造例1~4及び比較製造例1~4により、ポリブテニルコハク酸無水物C1~C4及びポリブテニルコハク酸無水物D1~D4を調製した。
原料として使用したポリブテンA1-A4及びポリブテンB1-B4の詳細は、後述する表1に示す。
【0077】
<製造例1>
500mLのオートクレーブに、ポリブテンA1を240g、臭化セチルを0.3g(0.001mol)、無水マレイン酸を25.9g(0.264mol)を投入して窒素置換し、240℃で5時間反応させた。次いで、210℃に降温し、未反応の無水マレイン酸と臭化セチルを減圧留去した後、140℃に降温して加圧濾過し、ポリブテニルコハク酸無水物C1を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物C1の収量は247gであり、けん化価は97mgKOH/gであった。
【0078】
<製造例2>
ポリブテンA1をポリブテンA2に変更し、製造例1と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物C2を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物C2の収量は249gであり、けん化価は96mgKOH/gであった。
【0079】
<製造例3>
ポリブテンA1をポリブテンA3に変更すると共に、ポリブテンA3の投入量を312gに変更し、製造例1と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物C3を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物C3の収量は315gであり、けん化価は74mgKOH/gであった。
【0080】
<製造例4>
ポリブテンA1をポリブテンA4に変更すると共に、ポリブテンA4の投入量を276gに変更し、さらに、臭化セチルの投入量を0.15g(0.0005mol)に変更し、無水マレイン酸の投入量を12.9g(0.132mol)に変更して、製造例1と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物C4を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物C4の収量は272gであり、けん化価は40mgKOH/gであった。
【0081】
<比較製造例1>
ポリブテンA1をポリブテンB1に変更し、製造例1と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物D1を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物D1の収量は246gであり、けん化価は70mgKOH/gであった。
【0082】
<比較製造例2>
ポリブテンA2をポリブテンB2に変更し、製造例2と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物D2を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物D2の収量は252gであり、けん化価は68mgKOH/gであった。
【0083】
<比較製造例3>
ポリブテンA3をポリブテンB3に変更し、製造例3と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物D3を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物D3の収量は318gであり、けん化価は52mgKOH/gであった。
【0084】
<比較製造例4>
ポリブテンA4をポリブテンB4に変更すると共に、ポリブテンB4の投入量を275gに変更し、製造例4と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸無水物D4を得た。
ポリブテニルコハク酸無水物D4の収量は275gであり、けん化価は27mgKOH/gであった。
【0085】
原料として使用したポリブテンA1-A4及びポリブテンB1-B4の詳細と、ポリブテニルコハク酸無水物C1~C4及びポリブテニルコハク酸無水物D1~D4のけん化価を表1に示す。
【0086】
【0087】
表1から以下のことがわかる。
質量平均分子量が1,000である製造例1~2で得られたポリブテニルコハク酸無水物C1~C2と比較製造例1~4で得られたポリブテニルコハク酸無水物D1~D2とを比較すると、ポリブテニルコハク酸無水物C1~C2のほうがけん化価が高いことから、マレイン化反応率が高く、未反応ポリブテンの量が少ないと考えられる。
質量平均分子量が1,300である製造例3で得られたポリブテニルコハク酸無水物C3と比較製造例3で得られたポリブテニルコハク酸無水物D3との比較、及び、質量平均分子量が2,300である製造例4で得られたポリブテニルコハク酸無水物C4と比較製造例4で得られたポリブテニルコハク酸無水物D4との比較においても同様の傾向が見られた。
【0088】
[製造例5~8及び比較製造例5~8]
以下に説明する製造例5~8及び比較製造例5~8により、ポリブテニルコハク酸イミドE1~E4及びポリブテニルコハク酸イミドF1~F4を調製した。
【0089】
<製造例5>
1Lセパラブルフラスコ中に、製造例1で得たポリブテニルコハク酸無水物C1を50g(約0.043mol)、トリエチレンテトラミン(TETA)を3.5g(0.024mol)、ジエチレントリアミン(DETA)を2.5g(0.024mol)、鉱油(150ニュートラル留分の鉱油、100℃動粘度:5.3mm2/s)を19g投入し、窒素気流下、150℃で4時間反応させた。次いで、200℃に昇温し、未反応のTETA及びDETAと生成水とを減圧留去した後、140℃に降温して加圧濾過し、ポリブテニルコハク酸イミドE1を得た。
ポリブテニルコハク酸イミドE1の収量は71gであり、塩基価は49.9mgKOH/gであり、100℃動粘度は277mm2/sであった。
【0090】
<製造例6>
ポリブテニルコハク酸無水物C1を、製造例2で得たポリブテニルコハク酸無水物C2に変更し、製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドE2を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物C2の投入量は50g(約0.043mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドE2の収量は70gであり、塩基価は50.3mgKOH/gであり、100℃動粘度は276mm2/sであった。
【0091】
<製造例7>
ポリブテニルコハク酸無水物C1を、製造例3で得たポリブテニルコハク酸無水物C3に変更すると共に、トリエチレンテトラミン(TETA)の投入量を2.6g(0.018mol)に変更し、ジエチレントリアミン(DETA)の投入量を1.8g(0.018mol)に変更して、製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドE3を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物C3の投入量は50g(約0.033mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドE3の収量は67gであり、塩基価は34.0mgKOH/gであり、100℃動粘度は317mm2/sであった。
【0092】
<製造例8>
ポリブテニルコハク酸無水物C1を、製造例4で得たポリブテニルコハク酸無水物C4に変更すると共に、トリエチレンテトラミン(TETA)の投入量を1.5g(0.010mol)に変更し、ジエチレントリアミン(DETA)の投入量を1.0g(0.010mol)に変更して、製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドE4を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物C4の投入量は50g(約0.018mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドE4の収量は64gであり、塩基価は22.2mgKOH/gであり、100℃動粘度は486mm2/sであった。
【0093】
<比較製造例5>
ポリブテニルコハク酸無水物C1を、比較製造例1で得たポリブテニルコハク酸無水物D1に変更すると共に、トリエチレンテトラミン(TETA)の投入量を2.5g(0.017mol)に変更し、ジエチレントリアミン(DETA)の投入量を1.8g(0.017mol)に変更し、鉱油の投入量を18gに変更して、製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドF1を得た。
ポリブテニルコハク酸イミドF1の収量は68gであり、塩基価は38.4mgKOH/gであり、100℃動粘度は282mm2/sであった。
【0094】
<比較製造例6>
ポリブテニルコハク酸無水物D1を、比較製造例2で得たポリブテニルコハク酸無水物D2に変更し、比較製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドF2を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物D2の投入量は50g(約0.030mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドF2の収量は67gであり、塩基価は37.9mgKOH/gであり、100℃動粘度は289mm2/sであった。
【0095】
<比較製造例7>
ポリブテニルコハク酸無水物D1を、比較製造例3で得たポリブテニルコハク酸無水物D3に変更すると共に、トリエチレンテトラミン(TETA)の投入量を1.9g(0.013mol)に変更し、ジエチレントリアミン(DETA)の投入量を1.3g(0.013mol)に変更して、比較製造例5と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドF3を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物D3の投入量は50g(約0.023mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドF3の収量は64gであり、塩基価は27.1mgKOH/gであり、100℃動粘度は313mm2/sであった。
【0096】
<比較製造例8>
ポリブテニルコハク酸無水物D3を、比較製造例4で得たポリブテニルコハク酸無水物D4に変更して、比較製造例7と同様の方法で、ポリブテニルコハク酸イミドF4を得た。
なお、ポリブテニルコハク酸無水物D4の投入量は50g(約0.023mol)である。
ポリブテニルコハク酸イミドF4の収量は61gであり、塩基価は16.2mgKOH/gであり、100℃動粘度は494mm2/sであった。
【0097】
ポリブテニルコハク酸イミドE1~E4及びポリブテニルコハク酸イミドF1~F4を150ニュートラル留分の鉱油(40℃動粘度31.38mm2/s、100℃動粘度5.40mm2/s、粘度指数=105、硫黄含有量=2質量ppm未満)で希釈した評価油の塩基価及び100℃動粘度を表2に示す。
なお、鉱油による希釈率は、ポリブテニルコハク酸イミドの原料であるポリブテンの数平均分子量が同一のものが同一希釈率となるように設定した。
【0098】
【0099】
表2に示す結果から、以下のことがわかる。
原料ポリブテンの数平均分子量が1,000である製造例5のポリブテニルコハク酸イミドE1、製造例6のポリブテニルコハク酸イミドE2、比較製造例5のポリブテニルコハク酸イミドF1、比較製造例6のポリブテニルコハク酸イミドF2を比較すると、ポリブテニルコハク酸イミドE1、ポリブテニルコハク酸イミドE2の塩基価を極めて高くできることがわかる。
また、原料ポリブテンの数平均分子量が1,300である製造例7のポリブテニルコハク酸イミドE3と比較製造例7のポリブテニルコハク酸イミドF3とを比較した場合、及び、原料ポリブテンの数平均分子量が2,300である製造例8のポリブテニルコハク酸イミドE4と比較製造例8のポリブテニルコハク酸イミドF4とを比較した場合にも、同様の傾向が見られる。
これらの結果から、製造例5~8で得られたポリブテニルコハク酸イミドE1~E4は、少量の添加で潤滑油組成物中の分散剤としての有効成分濃度を十分に確保しやすく、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすいものであることがわかる。
【0100】
[製造例9~12]
以下に説明する製造例9~12により、ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE5~E6及びアシル化ポリブテニルコハク酸イミドE7~E8を調製した。
【0101】
<製造例9>
200mLのセパラブルフラスコ中に、製造例5で得たポリブテニルコハク酸イミドE1を50g(約0.021mol)とホウ酸を5.8g(0.094mol)投入し、窒素気流下、150℃で4時間反応させた。次いで、150℃で生成水を減圧留去した後、加圧濾過し、ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE5を得た。
ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE5の収量は50gであり、塩基価は47.2mgKOH/gであり、ホウ素含有量は1.9質量%であった。
【0102】
<製造例10>
ホウ酸の投入量を2.9g(0.047mol)とし、製造例9と同様の方法で、ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE6を得た。
ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE6の収量は50gであり、塩基価は48.0mgKOH/gであり、ホウ素含有量は1.0質量%であった。
【0103】
<製造例11>
200mLのセパラブルフラスコ中に、製造例5で得たポリブテニルコハク酸イミドC1を50g(約0.021mol)とラウリン酸を8.5g(0.0425mol)投入し、窒素気流下、160℃で5時間反応させて、アシル化ポリブテニルコハク酸イミドE7を得た。
アシル化ポリブテニルコハク酸イミドE7の収量は57gであり、塩基価は1.9mgKOH/gであった。
【0104】
<製造例12>
200mLのセパラブルフラスコ中に、製造例5で得たポリブテニルコハク酸イミドC1を50g(約0.021mol)と無水酢酸を4.3g(0.0425mol)投入し、窒素気流下、140℃で5時間反応させて、次いで、残存酢酸を減圧留去して、アシル化ポリブテニルコハク酸イミドE8を得た。
アシル化ポリブテニルコハク酸イミドE8の収量は53gであり、塩基価は5.3mgKOH/gであった。
【0105】
ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミドE5及びE6、並びに、アシル化ポリブテニルコハク酸イミドE7及びE8を、150ニュートラル留分の鉱油(40℃動粘度31.38mm2/s、100℃動粘度5.40mm2/s、粘度指数=105、硫黄含有量=2質量ppm未満)で希釈した評価油の塩基価を表3に示す。
【0106】
【0107】
[実施例1~10及び比較例1~4]
以下に説明する実施例1~10及び比較例1~4の潤滑油組成物を調製し、ホットチューブ試験を実施した。
【0108】
<実施例1~4及び比較実施例1~4>
500ニュートラル留分の鉱油(40℃動粘度90.11mm2/s、100℃動粘度11.04mm2/s、粘度指数=108、硫黄含有量=5質量ppm未満)に、製造例5~8で得たポリアルケニルコハク酸イミドE1~E4及び比較製造例5~8で得たポリアルケニルコハク酸イミドF1~F4を5質量%を配合して潤滑油組成物を調製した。この潤滑油組成物の性能をホットチューブ試験(230℃)により評価した。潤滑油組成物の性状、評価結果を表4に示す。
【0109】
<実施例5~8>
製造例9~12で得たホウ素化ポリアルケニルコハク酸イミドE5~E6及びアシル化ポリアルケニルコハク酸イミドE7~E8を用いた以外は、実施例1と同様に潤滑油組成物を調製した。この潤滑油組成物の性能をホットチューブ試験(250℃)により評価した。評価結果を表5に示す。
【0110】
<実施例9及び10>
500ニュートラル留分の鉱油(40℃動粘度90.11mm2/s、100℃動粘度11.04mm2/s、粘度指数=108、硫黄含有量=5質量ppm未満)、に、ドデシルサリチル酸ドデシルフェニルエステル2質量%と製造例9~10で得たホウ素化ポリアルケニルコハク酸イミドE5~E6を5質量%を配合して潤滑油組成物を調製した。この潤滑油組成物の性能をホットチューブ試験(270℃)により評価した。評価結果を表6に示す。
【0111】
<評価方法>
JPI-5S-55-99に準拠してホットチューブ試験を行った。具体的には、内径2mmのガラス管に、ガラス管の温度を230℃、250℃、又は270℃に保ちながら、該ガラス管内に各実施例及び比較例の潤滑油組成物を0.3mL/時間で、空気を10mL/分で16時間流し続けた。その後、以下の評価を行った。
【0112】
(1)ホットチューブ試験評点
上記ホットチューブ試験後、ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、無色透明の場合は10点、黒の場合は0点として11段階の評点をつけた。透明度が高いほど評点が高く、高温における清浄性及び安定性並びにスラッジ分散性が高いことを示す。
ホットチューブ試験評点は、4以上であればよく、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは9以上、より更に好ましくは10である。
【0113】
(2)堆積物量
上記ホットチューブ試験後、試験前後のガラス管質量の増加量をガラス管内に付着した堆積物量とした。堆積物量が少ないほど、高温における清浄性及び安定性が高いことを示す。
堆積物量は、3.0mg以下であればよく、好ましくは2.5mg以下、より好ましくは2.0mg以下、更に好ましくは1.5mg以下、より更に好ましくは1.0mg以下である。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表4~表6より、以下のことがわかる。
表4の実施例1~4の潤滑油組成物及び比較例1~4の潤滑油組成物は、アルケニルコハク酸イミドE1~E4及びF1~F4の含有量が全て同一であるにも関わらず、実施例1~4の潤滑油組成物の方が、ホットチューブ試験における評点が優れており、堆積物量も少なかった。
したがって、表2に示す結果も勘案すると、アルケニルコハク酸イミドE1~E4は、潤滑油組成物の高温清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい潤滑油用分散剤として好適である。
また、表5に示す結果から、アルケニルコハク酸イミドのホウ素化物E5及びE6、並びにアルケニルコハク酸イミドのアシル化物E7及びE8を含む実施例5~8の潤滑油組成物は、実施例1~4の潤滑油組成物よりも高温におけるホットチューブ試験における評点が優れており、堆積物量も少なかった。
したがって、表3に示す結果も勘案すると、アルケニルコハク酸イミドのホウ素化物E5及びE6、並びに、アルケニルコハク酸イミドのアシル化物E7及びE8は、潤滑油組成物のより高温における清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい潤滑油用分散剤として好適である。
さらに、表6に示す結果から、アルケニルコハク酸イミドのホウ素化物E5及びE6に加えてアルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体をさらに添加した実施例9及び10の潤滑油組成物は、さらに高温でもホットチューブ試験における評点が優れており、堆積物量も少なかった。
したがって、潤滑油組成物に本発明の潤滑油用分散剤を添加すると共にアルキル置換ヒドロキシ芳香族エステル誘導体を添加することで、潤滑油組成物のさらに高温における清浄性、塩基価、及びスラッジ分散性を維持又は向上させながらも、低粘度の潤滑油組成物を調製しやすい。