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特許7150465ポリイミド前駆体組成物、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂、ポリイミド膜、及び光学装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂、ポリイミド膜、及び光学装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20221003BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221003BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
H05B33/14 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018087681
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189832
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】引田 二郎
(72)【発明者】
【氏名】西條 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
(72)【発明者】
【氏名】小松 伸一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046019(WO,A1)
【文献】特開2010-180349(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00 - 73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂前駆体成分(B)と、溶剤(S)とを含有する、ポリイミド前駆体組成物であって
前記樹脂前駆体成分(B)が、ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又はポリアミド酸(B3)を含み、
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1):
【化1】
(式(b1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、及び-NHR4gで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3):
【化2】
(式(b3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、n1、n2、n3、n4、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、ポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1-1):
【化3】
(式(b1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3-1):
【化4】
(式(b3-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1-2):
【化5】
(式(b1-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3-2):
【化6】
(式(b3-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、請求項2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1-3):
【化7】
(式(b1-3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3-3):
【化8】
(式(b3-3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、請求項3に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1-4):
【化9】
(式(b1-4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3-4):
【化10】
(式(b3-4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、請求項3に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項6】
前記ジアミン成分(B1)が、下記式(b1-5):
【化11】
(式(b1-5)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
前記ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3-5):
【化12】
(式(b3-5)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は前記式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、請求項4に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項7】
前記環Y、及び前記環Yが、それぞれベンゼン環であり、前記Rが単結合である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項8】
前記テトラカルボン酸二無水物成分(B2)が、脂環式基を含むテトラカルボン酸二無水物を含み、前記Zが、脂環式基を含む4価の有機基である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項9】
前記テトラカルボン酸二無水物成分(B2)が、下記式(b2):
【化13】
(式(b2)中、Rb1、Rb2、及びRb3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基及びフッ素原子からなる群より選択される1種を示し、mは0以上12以下の整数を示す。)
で表されるノルボルナン-2-スピロ-α-シクロアルカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物類を含み、
前記Zが、下記式(b2-1)
【化14】
(式(b2-1)中、Rb1、Rb2、Rb3、及びmは、前記式(b2)と同様である。)
で表される4価の有機基である、請求項8に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項10】
下記式(b3):
【化15】
(式(b3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、及び-NHR4gで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
は、4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸。
【請求項11】
前記Zが、脂環式基を含む4価の有機基である、請求項10に記載のポリアミド酸。
【請求項12】
前記Zが、下記式(b2-1)
【化16】
(式(b2-1)中、Rb1、Rb2及びb3 は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基及びフッ素原子からなる群より選択される1種を示し、mは、0以上12以下の整数を示す。)
で表される4価の有機基である、請求項11に記載のポリアミド酸。
【請求項13】
下記式(b4):
【化17】
(式(b4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、及び-NHR4gで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
は、4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリイミド樹脂。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を形成することと、
前記塗膜を加熱することにより前記塗膜中の樹脂前駆体成分(B)に由来するポリアミド酸を閉環させる閉環することと、を含む、ポリイミド膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を硬化させてなるポリイミド膜。
【請求項16】
請求項13に記載のポリイミド樹脂を含むポリイミド膜。
【請求項17】
屈折率が1.61以上である、請求項15又は16に記載のポリイミド膜。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか1項に記載のポリイミド膜を備える、光学装置。
【請求項19】
OLED照明装置である、請求項18に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の前駆体成分を含有するポリイミド前駆体組成物と、当該ポリイミド前駆体組成物における前駆体成分として好適なポリアミド酸と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド樹脂と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド膜と、前述のポリイミド膜を備える光学装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、機械的強度、及び絶縁性や、低誘電率等の特性を有するため、種々の素子や、多層配線基板等の電子基板のような電気・電子部品において、絶縁材や保護材として広く使用されている。
【0003】
ポリイミド樹脂としては、例えば、優れた機械的特性や耐熱性を有することから、従来から宇宙・航空用途等の先端産業において、全芳香族ポリイミド(例えば、商品名「カプトン」)が使用されている。このような全芳香族ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応により合成される。前述のカプトンについては、耐熱性高分子の中でも最高クラスの耐熱性(ガラス転移温度(Tg):410℃)を示すものであることが知られている(非特許文献1を参照)。
【0004】
また、ポリイミド樹脂について透明性を高める観点から、脂環式骨格を含むポリイミド樹脂についての研究が進められてきた(非特許文献2を参照)。
このような脂環式ポリイミドとしては、脂環式テトラカルボン酸二無水物と脂環式ジアミンとの反応、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応、及び芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂環式ジアミンとの反応により得られる樹脂の3種が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】エンジニアリングプラスチック、共立出版、1987年発行、p88
【文献】Macromolecules、27巻、1994年発行、p1117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
OLED照明装置等に使用される膜については、光の取り出し効率の点から、高屈折率であることが求められる。しかし、前述したような従来知られるポリイミド樹脂については、高屈折率化について改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高屈折率のポリイミド膜を与えるポリイミド前駆体組成物と、当該ポリイミド前駆体組成物における前駆体成分として好適なポリアミド酸と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド樹脂と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド膜と、前述のポリイミド膜を備える光学装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フルオレン骨格等の多環式骨格中の同一の炭素原子上に、特定の構造のアミノ基含有芳香族基が2つ結合した芳香族ジアミン化合物をジアミン成分(B1)として樹脂前駆体成分に含有させるか、前述の特定の構造の芳香族ジアミン化合物に由来する構造を有する構成単位を含むポリアミド酸(B3)を樹脂前駆体成分(B)として用いて、ポリイミド樹脂又はポリイミド膜を形成することにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第一の態様は、樹脂前駆体成分(B)と、溶剤(S)とを含有する、ポリイミド前駆体組成物であって
樹脂前駆体成分(B)が、ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又はポリアミド酸(B3)を含み、
ジアミン成分(B1)が、下記式(b1):
【化1】
(式(b1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含み、
ポリアミド酸(B3)が、下記式(b3):
【化2】
(式(b3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、n1、n2、n3、n4、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む、ポリイミド前駆体組成物である。
【0010】
本発明の第二の態様は、下記式(b3):
【化3】
(式(b3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
は、4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸である。
【0011】
本発明の第三の態様は、下記式(b4):
【化4】
(式(b4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
は、4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリイミド樹脂である。
【0012】
本発明の第四の態様は、第一の態様にかかるポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を形成することと、
塗膜を加熱することにより塗膜中の樹脂前駆体成分(B)に由来するポリアミド酸を閉環させることと、を含む、ポリイミド膜の製造方法である。
【0013】
本発明の第五の態様は、第一の態様にかかるポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を硬化させてなるポリイミド膜である。
【0014】
本発明の第六の態様は、第三の態様にかかるポリイミド樹脂を含むポリイミド膜である。
【0015】
本発明の第7の態様は、第五の態様、又は第六の態様にかかるポリイミド膜を備える、光学装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高屈折率のポリイミド膜を与えるポリイミド前駆体組成物と、当該ポリイミド前駆体組成物における前駆体成分として好適なポリアミド酸と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド樹脂と、前述のポリイミド前駆体組成物を用いて製造し得るポリイミド膜と、前述のポリイミド膜を備える光学装置とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪ポリイミド前駆体組成物≫
ポリイミド前駆体組成物は、樹脂前駆体成分(B)と、溶剤(S)とを含有する。また、ポリイミド前駆体組成物は、促進剤(A)を含んでいてもよい。
以下、ポリイミド前駆体組成物に含まれる、必須又は任意の成分について順に説明する。
【0018】
<促進剤(A)>
ポリイミド前駆体組成物は、樹脂前駆体成分(B)のイミド化を促進させる成分として、促進剤(A)を含んでいてもよい。このような促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、トリエチルアミン等の3級アミン系化合物、アミノ酸系化合物等)等が挙げられ、イミダゾール系化合物が好ましい。
イミダゾール系化合物(A1)としては、そのままの形で樹脂前駆体成分(B)のイミド化を促進させる化合物であってもよく、熱や光等のエネルギーの作用によって、樹脂前駆体成分(B)のイミド化を促進させるイミダゾール化合物を発生させる化合物であってもよい。
ポリイミド前駆体組成物の経時安定性が良好であることから、イミダゾール系化合物(A1)としては、熱や光等のエネルギーの作用によって、樹脂前駆体成分(B)のイミド化を促進させるイミダゾール化合物を発生させる化合物が好ましい。このようなイミダゾール系化合物(A1)としては、公知の熱イミダゾール発生剤や、光イミダゾール発生剤を特に制限なく用いることができる。
【0019】
イミダゾール系化合物(A1)の好適な例としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。下記式(1)で表される化合物は、加熱によりイミダゾール化合物を発生させる熱イミダゾール発生剤に該当する。
【0020】
【化5】
(式(1)中、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rは置換基を有してもよい芳香族基であり、Rは置換基を有してもよいアルキレン基であり、Rは、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホナト基、又は有機基であり、nは0以上3以下の整数である。)
【0021】
式(1)中、Rは水素原子又はアルキル基である。Rがアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐鎖アルキル基であってもよい。当該アルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上20以下が好ましく、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。
【0022】
として好適なアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチル-n-ヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基が挙げられる。
【0023】
式(1)中、Rは、置換基を有してもよい芳香族基である。置換基を有してもよい芳香族基は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基でもよく、置換基を有してもよい芳香族複素環基でもよい。
【0024】
芳香族炭化水素基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。芳香族炭化水素基は、単環式の芳香族基であってもよく、2以上の芳香族炭化水素基が縮合して形成されたものであってもよく、2以上の芳香族炭化水素基が単結合により結合して形成されたものであってもよい。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アンスリル基、フェナンスレニル基が好ましい。
【0025】
芳香族複素環基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。芳香族複素環基は、単環式基であってもよく、多環式基であってもよい。芳香族複素環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、及びベンゾイミダゾリル基が好ましい。
【0026】
フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、及び有機基が挙げられる。フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が複数の置換基を有する場合、当該複数の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
芳香族基が有する置換基が有機基である場合、当該有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基等が挙げられる。この有機基は、該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。この有機基は、通常は1価であるが、環状構造を形成する場合等には、2価以上の有機基となり得る。
【0028】
芳香族基が隣接する炭素原子上に置換基を有する場合、隣接する炭素原子上に結合する2つの置換基はそれが結合して環状構造を形成してもよい。環状構造としては、脂肪族炭化水素環や、ヘテロ原子を含む脂肪族環が挙げられる。
【0029】
芳香族基が有する置換基が有機基である場合に、当該有機基に含まれる結合は本発明の効果が損なわれない限り特に限定されず、有機基は、酸素原子、窒素原子、珪素原子等のヘテロ原子を含む結合を含んでいてもよい。ヘテロ原子を含む結合の具体例としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、アゾ結合等が挙げられる。
【0030】
有機基が有してもよいヘテロ原子を含む結合としては、式(1)で表されるイミダゾール化合物の耐熱性の観点から、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合(-NR-:Rは水素原子又は1価の有機基を示す)ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:Rは水素原子又は1価の有機基を示す)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合が好ましい。
【0031】
有機基が炭化水素基以外の置換基である場合、炭化水素基以外の置換基の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。炭化水素基以外の置換基の具体例としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアルミ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホナト基、アルキルエーテル基、アルケニルエーテル基、アルキルチオエーテル基、アルケニルチオエーテル基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基等が挙げられる。上記置換基に含まれる水素原子は、炭化水素基によって置換されていてもよい。また、上記置換基に含まれる炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれでもよい。
【0032】
フェニル基、多環芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基が有する置換基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基、炭素原子数1以上12以下のアリール基、炭素原子数1以上12以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上12以下のアリールオキシ基、炭素原子数1以上12以下のアリールアミノ基、及びハロゲン原子が好ましい。
【0033】
としては、式(1)で表されるイミダゾール化合物を安価且つ容易に合成でき、イミダゾール化合物の水や有機溶剤に対する溶解性が良好であることから、それぞれ置換基を有してもよいフェニル基、フリル基、チエニル基が好ましい。
【0034】
式(1)中、Rは、置換基を有してもよいアルキレン基である。アルキレン基が有していてもよい置換基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキレン基が有していてもよい置換基の具体例としては、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても、分岐鎖アルキレン基であってもよく、直鎖アルキレン基が好ましい。アルキレン基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上20以下が好ましく、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。なお、アルキレン基の炭素原子数には、アルキレン基に結合する置換基の炭素原子を含まない。
【0035】
アルキレン基に結合する置換基としてのアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基であっても、分岐鎖アルコキシ基であってもよい。置換基としてのアルコキシ基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上3以下が特に好ましい。
【0036】
アルキレン基に結合する置換基としてのアミノ基は、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であってもよい。モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基の炭素原子数は特に限定されないが、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上3以下が特に好ましい。
【0037】
として好適なアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、n-プロパン-1,3-ジイル基、n-プロパン-2,2-ジイル基、n-ブタン-1,4-ジイル基、n-ペンタン-1,5-ジイル基、n-ヘキサン-1,6-ジイル基、n-ヘプタン-1,7-ジイル基、n-オクタン-1,8-ジイル基、n-ノナン-1,9-ジイル基、n-デカン-1,10-ジイル基、n-ウンデカン-1,11-ジイル基、n-ドデカン-1,12-ジイル基、n-トリデカン-1,13-ジイル基、n-テトラデカン-1,14-ジイル基、n-ペンタデカン-1,15-ジイル基、n-ヘキサデカン-1,16-ジイル基、n-ヘプタデカン-1,17-ジイル基、n-オクタデカン-1,18-ジイル基、n-ノナデカン-1,19-ジイル基、及びn-イコサン-1,20-ジイル基が挙げられる。
【0038】
は、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホナト基、又は有機基であり、nは0以上3以下の整数である。nが2以上3以下の整数である場合、複数のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
が有機基である場合、当該有機基は、Rについて、芳香族基が置換基として有していてもよい有機基と同様である。
【0040】
が有機基である場合、有機基としては、アルキル基、芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基が好ましい。アルキル基としては、炭素原子数1以上8以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基がより好ましい。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アンスリル基、及びフェナンスレニル基が好ましく、フェニル基、及びナフチル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。芳香族複素環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、及びベンゾイミダゾリル基が好ましく、フリル基、及びチエニル基がより好ましい。
【0041】
がアルキル基である場合、アルキル基のイミダゾール環上での結合位置は、2位、4位、5位のいずれも好ましく、2位がより好ましい。Rが芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基である場合、これらの基のイミダゾール上での結合位置は、2位が好ましい。
【0042】
上記式(1)で表されるイミダゾール化合物の中では、安価且つ容易に合成可能であり、水や有機溶剤に対する溶解性に優れる点から、下記式(1-1)で表される化合物が好ましく、式(1-1)で表され、Rがメチレン基である化合物がより好ましい。
【0043】
【化6】
(式(1-1)中、R、R、R、及びnは、式(1)と同様であり、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基であり、ただし、R、R、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素原子以外の基である。)
【0044】
、R、R、R、及びRが有機基である場合、当該有機基は、式(1)におけるRが置換基として有する有機基と同様である。R、R、R、及びRは、イミダゾール化合物の溶剤(S)に対する溶解性の点から水素原子であるのが好ましい。
【0045】
中でも、R、R、R、R、及びRのうち少なくとも1つは、下記置換基であることが好ましく、Rが下記置換基であるのが特に好ましい。Rが下記置換基である場合、R、R、R、及びRは水素原子であるのが好ましい。
-O-R10
(R10は水素原子又は有機基である。)
【0046】
10が有機基である場合、当該有機基は、式(1)におけるRが置換基として有する有機基と同様である。R10としては、アルキル基が好ましく、炭素原子数1以上8以下のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0047】
上記式(1-1)で表される化合物の中では、下記式(1-1-1)で表される化合物が好ましい。
【化7】
(式(1-1-1)において、R、R、及びnは、式(1)と同様であり、R11、R12、R13、R14、及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基であり、ただし、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つは水素原子以外の基である。)
【0048】
式(1-1-1)で表される化合物の中でも、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つが、前述の-O-R10で表される基であることが好ましく、R15が-O-R10で表される基であるのが特に好ましい。R15が-O-R10で表される基である場合、R11、R12、R13、及びR14は水素原子であるのが好ましい。
【0049】
式(1)で表されるイミダゾール化合物の好適な具体例としては、以下のものが挙げられる。
【化8】
【0050】
ポリイミド前駆体組成物における、促進剤(A)又はイミダゾール系化合物(A1)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。促進剤(A)又はイミダゾール系化合物(A1)の含有量は、後述の樹脂前駆体成分(B)100質量部に対して、例えば1質量部以上であり、上限は特に限定されないが、例えば60質量部以下である。5質量部以上50質量部以下がより好ましく、10質量部以上40質量部以下が特に好ましい。かかる範囲の量の促進剤(A)又はイミダゾール系化合物(A1)を用いることにより、引張強度及び破断伸びに優れ、且つ耐熱性に優れるポリイミド膜を形成しやすい。
【0051】
<樹脂前駆体成分(B)>
樹脂前駆体成分(B)は、ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又はポリアミド酸(B3)を含む。以下、モノマー成分と、ポリアミド酸(B3)とについて説明する。
【0052】
〔モノマー成分〕
モノマー成分は、前述の通り、ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなる。以下、ジアミン成分(B1)と、テトラカルボン酸二無水物成分(B2)とについて説明する。
【0053】
(ジアミン成分(B1))
ジアミン成分は、下記式(b1):
【化9】
(式(b1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物を含む。
【0054】
式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物に由来する構造が、ポリイミド樹脂に導入されることによって、樹脂前駆体成分(B)を用いて形成されるポリイミド樹脂は高い屈折率と低リタデーションを示す。
【0055】
上記式(b1)において、環Y、環Y、環Y、及び環Yとしては、例えば、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、ナフタレン環等のC8-20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10-16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式芳香族炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環等)等の縮合2乃至4環式芳香族炭化水素環]等が挙げられる。環Y、環Y、環Y、及び環Yは、それぞれ、ベンゼン環又はナフタレン環であるのが好ましく、ベンゼン環であるのがより好ましい。環Y及び環Yは、同一でも異なっていてもよくいずれの環もベンゼン環であることが特に好ましい。環Y及び環Yは、同一でも異なっていてもよくいずれの環もベンゼン環であることが特に好ましい。
【0056】
式(b1)において、X、及びXは、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-である。これらの結合の向きは特に限定されない。例えば、Xが-CO-NH-である場合、環Y側にカルボニル基(-CO-)が存在しても、環Y側にアミノ基(-NH-)が存在してもよい。
【0057】
式(b1)において、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bとしては、非反応性置換基、例えば、;アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、より好ましくはC1-6アルキル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基等のC5-10シクロアルキル基、好ましくはC5-8シクロアルキル基、より好ましくはC5-6シクロアルキル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のC6-14アリール基、好ましくはC6-10アリール基、より好ましくはC6-8アリール基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等のC6-10アリール-C1-4アルキル基等)等の1価の炭化水素基;
アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のC1-12アルコキシ基、好ましくはC1-8アルコキシ基、より好ましくはC1-6アルコキシ基等)、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等のC5-10シクロアルコキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等のC6-10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基)等の-OR4aで示される基;
アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等のC1-12アルキルチオ基、好ましくはC1-8アルキルチオ基、より好ましくはC1-6アルキルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(シクロヘキシルチオ基等のC5-10シクロアルキルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基)等の-SR4bで示される基;
アシル基(アセチル基等のC1-6アシル基等);
アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基等のC1-4アルコキシ-カルボニル基等);
ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等);
シアノ基;
アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のC1-12アルキルアミノ基、好ましくはC1-8アルキルアミノ基、より好ましくはC1-6アルキルアミノ基等)、シクロアルキルアミノ基(シクロヘキシルアミノ基等のC5-10シクロアルキルアミノ基等)、アリールアミノ基(フェニルアミノ基等のC6-10アリールアミノ基)、アラルキルアミノ基(例えば、ベンジルアミノ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルアミノ基)等の-NHR4cで示される基;
ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等のジ(C1-12アルキル)アミノ基、好ましくはジ(C1-8アルキル)アミノ基、より好ましくはジ(C1-6アルキル)アミノ基等)、ジシクロアルキルアミノ基(ジシクロヘキシルアミノ基等のジ(C5-10シクロアルキル)アミノ基等)、ジアリールアミノ基(ジフェニルアミノ基等のジ(C6-10アリール)アミノ基)、ジアラルキルアミノ基(例えば、ジベンジルアミノ基等のジ(C6-10アリール-C1-4アルキル)アミノ基)等の-N(R4dで示される基、が好ましい。
【0058】
1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bが1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基である場合、これらの基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0059】
これらの置換基の好ましい例は、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基の好ましい例と同様である。
【0060】
1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bが、それぞれ複数存在する場合、複数の基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bの置換位置は特に限定はされない。
【0061】
式(b1)において、n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましいである。n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。n5及びn6は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0062】
式(b1)において、Rは単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で示される基、-NH-で示される基、又は-S-で示される基であり、典型的には単結合である。置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、1価の炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基等のC1-6アルキル基)、アリール基(フェニル基等のC6-10アリール基)等]等が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、珪素原子等が挙げられる。
【0063】
以上説明した式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物としては、下記式(b1-1):
【化10】
(式(b1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物が好ましい。式(b1-1)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0064】
上記式(b1-1)で表される芳香族ジアミン化合物としては、下記式(b1-2):
【化11】
(式(b1-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物が好ましい。式(b1-2)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0065】
上記式(b1-2)で表される芳香族ジアミン化合物としては、下記式(b1-3):
【化12】
(式(b1-3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物が好ましい。式(b1-3)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0066】
また、上記式(b1-2)で表される芳香族ジアミン化合物としては、下記式(b1-4):
【化13】
(式(b1-4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物も好ましい。式(b1-4)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0067】
上記式(b1-3)で表される芳香族ジアミン化合物としては、下記式(b1-5):
【化14】
(式(b1-5)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数である。)
で表される芳香族ジアミン化合物が好ましい。式(b1-5)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0068】
以上説明した式(b1)と、式(b1-1)~式(b1-5)とにおいて、環Y、及び環Yが、それぞれベンゼン環であり、Rが単結合であるのが好ましい。つまり、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物はフルオレン環を含むのが好ましい。
【0069】
以上説明した式(b1)で表される芳香族アミン化合物の好ましい具体例としては、下記式の、9位に2つの同一の置換基を有するフルオレン化合物が挙げられる。
【化15】
【0070】
【化16】
【0071】
また、上記の化合物における、アミド結合(-CO-NH-)を、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-に置換した化合物も、式(b1)で表される化合物の好適な例として挙げられる。
【0072】
前述の式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物の製造方法は特に限定されない。
前述の式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物は、例えば、下記式(b1-I)で表される芳香族ジニトロ化合物が有するニトロ基(-NO)を水素化してアミノ基(-NH)に変換することにより製造することができる。
【0073】
【化17】
(式(b1-I)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様である。)
【0074】
上記式(b1-I)で表される化合物としては、下記式(b1-I-1):
【化18】
(式(b1-I-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0075】
式(b1-I)で表される化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、下記式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、下記式(b1-Ib)で表される化合物と、下記式(b1-Ic)で表される化合物と:
【化19】
(式(b1-Ia)、式(b1-Ib)、及び式(b1-Ic)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(b1-I)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(b1-1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(b1-I)で表される化合物を製造することができる。
ここで、X1a及びX2aが同一の基である場合、式(b1-Ib)で表される化合物と、式(b1-Ic)で表される化合物とは、同一の化合物であっても、異なる化合物であってもよく、同一の化合物であるのが好ましい。
また、式(b1-Ia)で表される化合物と、式(b1-Ib)で表される化合物、及び式(b1-Ic)で表される化合物との反応は、3つの化合物を同時に混合して行われてもよく、式(bI-Ia)で表される化合物に対して、式(b1-Ib)で表される化合物、及び式(b1-Ic)で表される化合物のいずれか一方の化合物を加えた後に、他方の化合物を加えて行われてもよい。
【0076】
基X1aと基X1bとの反応は、基Xを生成させ、基X2aと基X2bとの反応は、基Xを生成させる。
基X1aと基X1bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせは、それぞれ独立に、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせ、
アミノ基(-NH)と、イソシアネート基との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせ、
水酸基とイソシアネート基との組み合わせ、又は、
カルバモイル基(-CO-NH)と、イソシアネート基との組み合わせである。
これらの組み合わせについて、例えば、基X1aと基X1bとの組み合わせが、カルボキシ基とアミノ基との組み合わせである場合、X1aがカルボキシ基でありX1bがアミノ基であってもよく、X1aがアミノ基でありX1bがカルボキシ基であってもよい。
【0077】
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせは、-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせは、-CO-O-を生成させる組み合わせである。
アミノ基(-NH)と、イソシアネート基との組み合わせは、-NH-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせは、-CO-NH-CO-を生成させる組み合わせである。
水酸基とイソシアネート基との組み合わせは、-O-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルバモイル基(-CO-NH)と、イソシアネート基との組み合わせは、-CO-NH-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
【0078】
上記式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、下記式(b1-Ib)で表される化合物と、下記式(b1-Ic)で表される化合物とを反応させる方法は特に限定されない。反応方法は、基X1aと基X1bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせとを勘案して、公知の方法から適宜選択される。
【0079】
式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、下記式(b1-Ib)で表される化合物と、下記式(b1-Ic)で表される化合物とを反応させる際のこれらの使用量は、所望する量の式(b1-I)で表される化合物を生成させることができれば特に限定されない。式(b1-Ib)で表される化合物の使用量と、式(b1-Ic)で表される化合物の資料量とは、それぞれ独立に、式(b1-Ia)で表される化合物1モルに対して、0.5モル以上2モル以下が好ましく、0.7モル以上1.5モル以下がより好ましく、0.9モル以上1.1モル以下が特に好ましい。
【0080】
式(b1-1)で表される芳香族ジニトロ化合物が有するニトロ基(-NO)を水素化してアミノ基(-NH)に変換する方法は特に限定されず、公知のニトロ基の水素化方法から適宜選択される。典型的には、パラジウム触媒の存在下に式(b1-I)で表される芳香族ジニトロ化合物を水素と接触させる方法が挙げられる。
【0081】
芳香族ジアミン化合物は、例えば、下記式(b1-II)で表される芳香族化合物が有するZ-NH-、又はZ-NH-で表される保護されたアミノ基を脱保護して、アミノ基(-NH)に変換することにより製造することができる。
【0082】
【化20】
(式(b1-II)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様であり、Z、及びZはそれぞれアミノ基を保護し、且つ脱保護可能な保護基である。)
【0083】
上記式(b1-II)で表される化合物としては、下記式(b1-II-1):
【化21】
(式(b1-II-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様であり、Z、及びZはそれぞれアミノ基を保護し、且つ脱保護可能な保護基である。)
で表される化合物が好ましい。
【0084】
、及びZとしての保護基とは、アミノ基を、特定の化学反応条件に対して実質的に不活性である異なる化学基に変換する官能基を指す。保護基は、良好な収率で簡単且つ選択的に除去され得る。保護基の例には、ホルミル基、アセチル基、ベンジル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチジルジフェニルシリル基、tert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、p-メトキシベンジル基、メトキシメチル基、トシル基、トリフルオロアセチル基、トリメチルシリル(TMS)基、フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、2-トリメチルシリルエトキシカルボニル基、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(CBZ)、2-トリメチルシリル-エタンスルホニル(SES)、トリチル及び置換トリチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、ニトロ-ベラトリルオキシカルボニル(NVOC)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
式(b1-II)で表される化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、下記式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、下記式(b1-IIb)で表される化合物と、下記式(b1-IIc)で表される化合物と:
【化22】
(式(b1-Ia)、式(b1-IIb)、及び式(b1-IIc)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様であり、Z、及びZは式(b1-II)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(b1-II)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(b1-II)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(b1-II)で表される化合物を製造することができる。
【0086】
基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとについては、式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、式(b1-Ib)で表される化合物と、式(b1-Ic)で表される化合物との反応について説明した通りである。
【0087】
式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、下記式(b1-IIb)で表される化合物と、下記式(b1-IIc)で表される化合物とを反応させる際のこれらの使用量は、所望する量の式(b1-II)で表される化合物を生成させることができれば特に限定されない。式(b1-IIb)で表される化合物の使用量と、式(b1-IIc)で表される化合物の使用量とは、それぞれ独立に、式(b1-Ia)で表される化合物1モルに対して、0.5モル以上2モル以下が好ましく、0.7モル以上1.5モル以下がより好ましく、0.9モル以上1.1モル以下が特に好ましい。
【0088】
-NH-、又はZ-NH-で表される保護されたアミノ基を脱保護して、アミノ基(-NH)に変換する方法は、従来公知の方法であれば特に制限はされない。脱保護は、保護基の種類に応じた公知の手段により行われる。
【0089】
また、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物は、下記式(b1-IIIb)で表される化合物と、下記式(b1-IIIc)で表される化合物と、下記式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と:
【化23】
(式(b1-Ia)、式(b1-IIIb)、及び式(b1-IIIc)、及び中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(b1)と同様であり
基X1aは、基X1bとの反応により、式(b1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(b1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて製造できる。
この方法によれば、副反応が生じやすい場合がある、ニトロ基の水素化や、保護されたアミノ基の脱保護等の工程が不要であることから、式(b1)で表される芳香族アミン化合物の合成が容易である。
【0090】
基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとについては、式(b1-Ia)で表される芳香族化合物と、式(b1-Ib)で表される化合物と、式(b1-Ic)で表される化合物との反応について説明した通りである。
ただし、式(a1-Ia)で表される芳香族化合物と、式(a1-IIIb)で表される化合物と、式(a1-IIIc)で表される化合物とを反応させる場合、基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとは、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせ、又は
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせに限定される。
【0091】
ジアミン成分(B1)は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物とともに、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物に該当しない他のジアミン化合物を含んでいてもよい。
かかる他のジアミン化合物の好ましい例としては、下記式(2)で表されるジアミン化合物が挙げられる。他のジアミン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
N-Rb10-NH・・・(2)
(式中、Rb10は、炭素原子数6以上40以下のアリール基である。ただし、式(2)で表されるジアミン化合物は、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物に該当しない。)
【0092】
式(2)中のRb10として選択され得るアリール基は、炭素原子数が6以上40以下、好ましくは6以上30以下、より好ましくは12以上20以下であるアリール基である。
アリール基の炭素原子数が40を超えると、得られるポリイミド樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。アリール基の炭素原子数が6未満であると、得られるポリイミド樹脂の溶媒に対する溶解性が低下する傾向がある。
【0093】
式(2)中のRb10としては、得られるポリイミド樹脂の屈折率の高さと、耐熱性と、溶媒への溶解性とのバランスの観点から下記式(3)~(9)で表される基のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0094】
【化24】
(式(5)~(7)、及び式(9)中、R11は、水素原子、臭素原子、フッ素原子、水酸基、メチル基、エチル基、及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される1種を示す。
式(6)中、Qは、-C-、-CONH-C-NHCO-、-NHCO-C-CONH-、-O-C-CO-C-O-、-OCO-C-COO-、-OCO-C-C-COO-、-OCO-、-O-、-S-、-CO-、-CONH-、-SO-、-SO-、-C(CF-、-C(CH-、-CH-、-CH=CH-、-C≡C-、-O-C-C(CH-C-O-、-O-C-C(CF-C-O-、-O-C-S-C-O-、-O-C-SO-C-O-、-O-C-SO-C-O-、-C(CH-C-C(CH-、-O-C-C-O-、-O-C-O-、-O-C10-O-、及び-O-CBr-C(CH-CBr-O-、下記式(10):
【化25】
で表される基よりなる群から選択される1種を示す。
式(7)中、Aは、-S-、-SO-、又は-SO-を示す。
式(10)中、Qは、単結合、-C(CF-、-C(CH-、又は-CH-を示す。
-C-はベンゼンジイル基(フェニレン基)を示し、ベンゼン-1,4-ジイル基(p-フェニレン基)が好ましい。
-C10-はナフタレンジイル基を示し、ナフタレン-1,6-ジイル基、ナフタレン-1,5-ジイル基、及びナフタレン-1,4-ジイル基が好ましい。
-CBr-は、ジブロモフェニレン基を示し、3,5-ジブロモベンゼン-1,4-ジイル基が好ましい。)
【0095】
式(5)~(7)、及び式(9)中のR11としては、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の観点から、水素原子、臭素原子、フッ素原子、メチル基又はエチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0096】
式(6)中のQとしては、得られるポリイミド樹脂の耐熱性と、溶媒への溶解性とのバランスの観点から、-O-C-O-、-O-、-C(CH-、-CH-、又は-O-C-C(CH-C-O-、-CONH-、が好ましく、-O-C-O-、又は-O-が特に好ましい。
また、屈折率の高いポリイミド樹脂を得やすい点からは、式(6)中のQとしては、-S-、-SO-、-SO-、-O-C-S-C-O-、-O-C-SO-C-O-、又は-O-C-SO-C-O-が好ましい。
【0097】
式(3)~(9)で表される基の中では、得られるポリアミド樹脂の屈折率と、屈折率以外の他の特性のバランスを取りやすい点から、式(5)~(9)で表される基がより好ましく、式(6)~(9)で表される基が特に好ましい。
【0098】
式(2)で表されるジアミン化合物の好適な具体例としては、
4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルフィド、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルフィド、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルジベンゾチオフェン、及び2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のジアミノスルフィド類;
4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホキシド、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホキシド、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルジベンゾチオフェン-5-オキシド、及び2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のジアミノスルホキシド類;
4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、及び3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルジベンゾチオフェン-5,5-ジオキシド等のジアミノスルホン類;
2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジブロモフェニル}プロパン等のブロモ置換ジアミン類;
4,4’-ジアミノスチルベン、3,3’-ジアミノスチルベン、及び3,4’-ジアミノスチルベン等の炭素-炭素二重結合含有ジアミン類;
4,4’-ジアミノジフェニルアセチレン、3.3’-ジアミノジフェニルアセチレン、3,4’-ジアミノジフェニルアセチレン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-5-(2-フェニルエチニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-5-(2-フェニルエチニル)ベンゼン、及び2,4-ジアミノ-4’-フェニルエチニルジフェニルエーテル等の炭素-炭素三重結合含有ジアミン類;
3,3’-ジフェニル-4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス{3-フェニル-4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ナフタレン、及び1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ナフタレン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ナフタレン等の多環芳香族ジアミン類が挙げられる。
【0099】
ジアミン成分(B1)における、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物の量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ジアミン成分(B1)の質量に対する、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物の質量の比率は、例えば、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。ジアミン成分(B1)は、式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物のみを含んでいてもよい。
【0100】
モノマー成分中のジアミン成分(B1)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
モノマー成分中のジアミン成分(B1)の含有量は、後述するテトラカルボン酸二無水物成分(B2)の量がジアミン成分(B1)1モルに対して0.2モル以上2モル以下である量が好ましく、0.3モル以上1.2モル以下である量がより好ましい。
【0101】
(テトラカルボン酸二無水物成分(B2))
テトラカルボン酸二無水物成分(B2)は、従来よりポリイミド樹脂の製造に使用されているテトラカルボン酸二無水物であれば特に限定されない。テトラカルボン酸二無水物成分(B2)は、2種以上のテトラカルボン酸二無水物を組み合わせて含んでいてもよい。
【0102】
得られるポリイミド樹脂の優れた透明性と、優れた機械的特性との両立の観点からは、テトラカルボン酸二無水物成分(B2)が、脂環式基を含むテトラカルボン酸二無水物を含むのが好ましく、下記式(b2)で表されるノルボルナン-2-スピロ-α-シクロアルカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物類を含むのがより好ましい。
【化26】
(式(b2)中、Rb1、Rb2、及びRb3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基及びフッ素原子からなる群より選択される1種を示し、mは0以上12以下の整数を示す。)
【0103】
式(b2)中のRb1として選択され得るアルキル基は、炭素原子数が1以上10以下のアルキル基である。アルキル基の炭素原子数が10を超える場合、得られるポリイミド樹脂の耐熱性が低下しやすい。Rb1がアルキル基である場合、その炭素原子数は、耐熱性に優れるポリイミド樹脂を得やすい点から、1以上6以下が好ましく、1以上5以下がより好ましく、1以上4以下がさらに好ましく、1以上3以下が特に好ましい。
b1がアルキル基である場合、当該アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
【0104】
式(b2)中のRb1としては、得られるポリイミド樹脂が耐熱性に優れる点から、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1以上10以下のアルキル基がより好ましい。式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の入手や精製が容易である点から、式(b2)中のRb1は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基であるのがより好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。
式(b2)中の複数のRb1は、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の精製が容易であることから、同一の基であるのが好ましい。
【0105】
式(b2)中のmは0以上12以下の整数を示す。mの値が12超である場合、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の精製が困難である。
式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の精製が容易である点から、mの上限は5が好ましく、3がより好ましい。
式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の化学的安定性の点から、mの下限は1が好ましく、2がより好ましい。
式(b1)中のmは、2又は3が特に好ましい。
【0106】
式(b2)中のRb2、及びRb3として選択され得る炭素原子数1以上10以下のアルキル基は、Rb1として選択され得る炭素原子数1以上10以下のアルキル基と同様である。
b2、及びRb3は、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の精製が容易である点から、水素原子、又は炭素原子数1以上10以下(好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1以上4以下、特に好ましくは1以上3以下)のアルキル基であるのが好ましく、水素原子又はメチル基であるのが特に好ましい。
【0107】
式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロヘキサノン-6’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロプロパノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロブタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘプタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロオクタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロノナノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロウンデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロドデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロトリデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロテトラデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロペンタノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロヘキサノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0108】
また、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、フィルム特性、熱物性、機械物性、光学特性、電気特性の調整の観点から、下記式(b2-1):
【化27】
(式(b2-1)中、Rb1、Rb2、Rb3、mは、式(b2)中のRb1、Rb2、Rb3、mと同義である。)
で表される化合物(B2-1)及び下記式(b2-2):
【化28】
(式(b2-2)中、Rb1、Rb2、Rb3、mは、式(b2)中のRb1、Rb2、Rb3、mと同義である。)
で表される化合物(B2-2)のうちの少なくとも1種を含有し、且つ、化合物(B2-1)及び化合物(B2-2)の総量が30モル%以上であるものが好ましい。
【0109】
式(b2-1)で表される化合物(B2-1)は、2つのノルボルナン基がトランス配置し且つ該2つのノルボルナン基のそれぞれに対してシクロアルカノンのカルボニル基がエンドの立体配置となる式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の異性体である。
式(b2-2)で表される化合物(B2-2)は、2つのノルボルナン基がシス配置し且つ該2つのノルボルナン基のそれぞれに対してシクロアルカノンのカルボニル基がエンドの立体配置となる式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の異性体である。
なお、このような異性体を上記比率で含有するテトラカルボン酸二無水物の製造方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、国際公開第2014/034760号に記載の方法等を適宜採用してもよい。
【0110】
テトラカルボン酸二無水物成分(B2)は、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物のその他のテトラカルボン酸二無水物を含んでいてもよい。
【0111】
その他のテトラカルボン酸二無水物類の好適な例としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]-ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、(4H,8H)-デカハイドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]-ペンタデカン-5,6,12,13-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
なお、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用する場合は、形成される膜に着色が生じる場合がある。この場合、形成される膜の着色の程度を考慮して、その使用量を適宜変更するのが好ましい。
【0112】
テトラカルボン酸二無水物成分(B2)の総量に対する、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物の量の比率は、典型的には50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であるのが特に好ましい。
テトラカルボン酸二無水物成分(B2)と、ジアミン成分(B1)との量関係は、前述の通りである。
【0113】
〔ポリアミド酸(B3)〕
樹脂前駆体成分(B)がポリアミド酸(B3)を含む場合、当該ポリアミド酸(B3)は、下記式(b3):
【化29】
(式(b3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、n1、n2、n3、n4、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリアミド酸を含む。
【0114】
式(b3)で表される構成単位は、前述の式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物と同様、式(b3)で表される構成単位の構造を有することによって、樹脂前駆体成分(B)を用いて形成されるポリイミド樹脂は高い屈折率と低リタデーションを示す。
【0115】
式(b3)中のZは、4価の有機基であれば、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
としては、典型的には、前述のテトラカルボン酸二無水成分(B2)について例示した化合物から2つの酸無水物基を除いた4価の残基である。
としては、着色が少なく高透明なポリイミド樹脂を得やすい点から、脂環式基を含む4価の有機基が好ましく、式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物2つの酸無水物基を除いた4価の残基が好ましい。
つまり、Zとしては、下記式(b2-1)
【化30】
(式(b2-1)中、Rb1、Rb2、Rb3、及びmは、式(b2)と同様である。)
で表される4価の有機基が好ましい。
【0116】
式(b3)で表される構成単位としては、下記式(b3-1):
【化31】
(式(b3-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位が好ましい。式(b3-1)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0117】
式(b3-1)で表される構成単位としては、下記式(b3-2):
【化32】
(式(b3-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位が好ましい。式(b3-2)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0118】
式(b3-2)で表される構成単位としては、下記式(b3-3):
【化33】
(式(b3-3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位が好ましい。式(b3-3)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0119】
式(b3-2)で表される構成単位としては、下記式(b3-4):
【化34】
(式(b3-4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位も好ましい。式(b3-4)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0120】
式(b3-4)で表される構成単位としては、下記式(b3-5):
【化35】
(式(b3-5)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、n1、n2、n5、及びn6は式(b1)と同様であり、n7及びn8は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、Zは4価の有機基である。)
で表される構成単位が好ましい。式(b3-5)において、n7及びn8としては、それぞれ、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0121】
ポリアミド酸(B3)の製造方法は特に限定されない。ポリアミド酸(B3)は、典型的には前述のジアミン成分(B1)と、テトラカルボン酸二無水物成分(B2)との反応により製造される。
ポリアミド酸は、前述の式(b2)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン成分(B1)とから誘導される構成単位を含むのが好ましく、前述の化合物(B2-1)とジアミン成分(B1)とから誘導される構成単位、及び前述の化合物(B2-2)とジアミン成分(B1)とから誘導される構成単位とを、化合物(B2-1)及び化合物(B2-2)と同様のモル比率で含有するのがより好ましい。
【0122】
ポリアミド酸を合成する際の、ジアミン成分(B1)及びテトラカルボン酸二無水物成分(B2)の比率は、モノマー成分について説明したジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)の比率と同様である。
【0123】
ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)との反応は、通常、有機溶剤中で行われる。ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)との反応に使用される有機溶剤は、ジアミン成分(B1)及びテトラカルボン酸二無水物成分(B2)を溶解させることができ、ジアミン成分(B1)及びテトラカルボン酸二無水物成分(B2)と反応しない有機溶剤であれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0124】
ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)との反応に用いる有機溶剤としては、例えば、後述の溶剤(S)を好ましく用いることができる。
かかる有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸(B3)の溶剤(S)への溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0125】
ポリアミド酸(B3)合成時に、有機溶剤は、例えば、ジアミン成分(B1)の質量とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)の質量の合計が、反応液中0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下である量用いられる。
【0126】
ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とを反応させる際には、反応速度向上と高重合度のポリアミド酸を得るという観点から、有機溶剤中に塩基化合物をさらに添加してもよい。
このような塩基性化合物としては特に制限されないが、例えば、トリエチルアミン、テトラブチルアミン、テトラヘキシルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-ウンデセン-7、ピリジン、イソキノリン、α-ピコリン等が挙げられる。
このような塩基化合物の使用量は、テトラカルボン酸二無水物成分1当量に対して、0.001当量以上10当量以下が好ましく、0.01当量以上0.1当量以下がより好ましい。
【0127】
ジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とを反応させる際の反応温度は、反応が良好に進行する限り、特に制限されない。反応温度は15℃以上30℃以下が好ましい。反応は、不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。反応時間も特に制限されないが、例えば、10時間以上48時間以下が好ましい。
【0128】
以上、説明した通り、樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含む。
【0129】
樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1-1)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3-1)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含むのが好ましい。
【0130】
樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1-2)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3-2)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含むのが好ましい。
【0131】
樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1-3)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3-3)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含むのが好ましい。
【0132】
樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1-4)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3-4)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含むのが好ましい。
【0133】
樹脂前駆体成分(B)は、上記式(b1-5)で表される芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分(B1)とテトラカルボン酸二無水物成分(B2)とからなるモノマー成分、及び/又は、上記式(b3-5)で表される構成単位を有するポリアミド酸(B3)を含むのが好ましい。
【0134】
<溶剤(S)>
ポリイミド前駆体組成物は、溶剤(S)を含有する。ポリイミド前駆体組成物は、膜を形成可能である限り、固体を含むペーストであってもよく、溶液であってもよい。均質で平滑な膜を形成しやすい点で、ポリイミド前駆体組成物は溶液であるのが好ましい。溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0135】
溶剤(S)の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で、特に限定されない。好適な溶剤(S)の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ピリジン、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;ヘキサメチルホスホリックトリアミド;アセトニトリル;乳酸エチル、及び乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、及びエチルセルソルブアセテート、グライム等のエーテル類;シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が挙げられる。
【0136】
溶剤は、また、下記式(S1)で表される化合物を含むのが好ましい。
【化36】
(式(S1)中、RS1及びRS2は、それぞれ独立に炭素原子数1以上3以下のアルキル基であり、RS3は下記式(S1-1)又は下記式(S1-2):
【化37】
で表される基である。式(S1-1)中、RS4は、水素原子又は水酸基であり、RS5及びRS6は、それぞれ独立に炭素原子数1以上3以下のアルキル基である。式(S1-2)中、RS7及びRS8は、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基である。)
【0137】
式(S1)で表される化合物のうち、RS3が式(S1-1)で表される基である場合の具体例としては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、及びN,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0138】
式(S1)で表される化合物のうち、RS3が式(S1-2)で表される基である場合の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N,N,N’,N’-テトラエチルウレア等が挙げられる。
【0139】
式(S1)で表される化合物の例のうち、特に好ましいものとしては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアが好ましい。N,N,2-トリメチルプロピオンアミドの大気圧下での沸点は175℃であって、N,N,N’,N’-テトラメチルウレアの大気圧下での沸点は177℃である。このように、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアは、モノマー成分及びポリアミド酸を溶解可能な溶媒の中では比較的沸点が低い。
このため、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアから選択される少なくとも1種を含む溶剤(S)を含有するポリイミド前駆体組成物を用いると、ポリイミド膜形成時の加熱において、生成するポリイミド膜中に溶剤が残存しにくく、得られるポリイミド膜の引張伸度の低下等を招きにくい。
【0140】
さらに、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’-テトラメチルウレアは、EU(欧州連合)でのREACH規則において、有害性が懸念される物質であるSVHC(Substance of Very High Concern、高懸念物質)に指定されていないように、有害性が低い物質である点でも有用である。
【0141】
溶剤(S)中の、式(S1)で表される化合物の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。溶剤の質量に対する式(S1)で表される化合物の比率は、典型的には、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%であるのが最も好ましい。
【0142】
ポリイミド前駆体組成物中の溶剤(S)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ポリイミド前駆体組成物中の溶剤(S)の含有量は、ポリイミド前駆体組成物中の固形分含有量に応じて適宜調整される。ポリイミド前駆体組成物中の固形分含有量は、例えば、1質量%以上80質量%以下であり、5質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0143】
<その他の成分>
ポリイミド前駆体組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記成分以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、塩基発生剤成分、モノマー等の重合性成分、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、及び着色剤等が挙げられる。
また、ポリイミド前駆体組成物は、ケイ素含有樹脂、ケイ素含有樹脂前駆体、及びシランカップリング剤からなる群より選択される1種以上のケイ素含有化合物を含んでいてもよい。ケイ素含有樹脂としては、例えばシロキサン樹脂又はポリシランが挙げられる。ケイ素含有樹脂前駆体としては、例えばシロキサン樹脂又はポリシランの原料モノマーとなるシラン化合物が挙げられる。
ポリイミド前駆体組成物が、ケイ素含有化合物を含む場合、ポリイミド前駆体組成物又はポリイミド前駆体組成物を用いて形成されるポリイミド樹脂と、被塗布体との密着性が良好である。この効果は、被塗布体の材質がガラスである場合に顕著である。被塗布体に密着させることができるので、ポリイミド膜形成のプロセスマージンが向上する。また、ポリイミド前駆体組成物がケイ素含有化合物を含むと、後述のUVレーザーによる剥離工程の際、被塗布体又は支持体からのポリイミド膜の剥離性を向上させるためにUVレーザーの露光量を高くした場合でも、剥離時の白濁が抑制されやすい。
【0144】
<ポリイミド前駆体組成物の調製>
ポリイミド前駆体組成物を調製する方法としては、特に限定されず、例えば、樹脂前駆体成分(B)として上述の各種モノマー成分、及びポリアミド酸(B3)よりなる群から選択される少なくとも1つと、溶剤(S)と、必要に応じ上述のその他の成分とを配合することにより調製することができる。
【0145】
樹脂前駆体成分(B)としては、モノマー成分とポリアミド酸(B3)との両方を配合してもよい。通常、モノマー成分のみ又はポリアミド酸(B3)のみを配合することで十分である。
ポリイミド前駆体組成物には、溶剤(S)に、樹脂前駆体成分(B)としてモノマー成分を配合した後に、ポリアミド酸を生成させて得られた組成物も包含される。
ポリイミド前駆体組成物の調製において、各成分を配合(添加)する順序としては、特に限定されない。
【0146】
≪ポリイミド樹脂≫
以上説明したポリイミド前駆体組成物に含まれる樹脂前駆体成分(B)を、縮合及びイミド化、又はイミド化させることによってポリイミド樹脂が得られる。
ポリイミド樹脂は、下記式(b4):
【化38】
(式(b4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
は、4価の有機基である。)
で表される構成単位を有するポリイミド樹脂である。
上記式(4)中の、各略号は、それぞれポリイミド前駆体組成物に関して樹脂前駆体成分(B)について説明した通りである。
ポリイミド樹脂は上記式(B4)で表される構成単位を備えることにより高い屈折率と低リタデーションを示す。
【0147】
≪ポリイミド膜の製造方法≫
ポリイミド膜の製造方法は、
前述のポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を形成することと、
塗膜を加熱することにより塗膜中の樹脂前駆体成分(B)に由来するポリアミド酸を閉環させることと、
を含む。
以下、塗膜を形成することについて「形成工程」とも記し、ポリアミド酸を閉環させることについて「閉環工程」とも記す。以下、各工程について説明する。
【0148】
<形成工程>
形成工程では、上述のポリイミド前駆体組成物を被塗布体の表面に塗布して、ポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を形成する。塗布方法としては、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、ダイコート等が挙げられる。塗膜の厚さは、特に限定されない。典型的には、塗膜の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下であり、2μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上50μm以下がより好ましい。塗膜の厚さは、塗布方法やポリイミド前駆体組成物の固形分濃度や粘度を調節することにより、適宜制御することができる。
【0149】
塗膜の形成後、閉環工程に移行する前に、塗膜中の溶剤(S)を除去する目的で、塗膜を加熱してもよい。加熱温度や加熱時間は、ポリイミド前駆体組成物に含まれる成分に熱劣化や熱分解が生じない限り特に限定されない。塗膜中の溶剤(S)の沸点が高い場合、減圧下に塗膜を加熱してもよい。
【0150】
<閉環工程>
閉環工程では、上記形成工程で形成された塗膜を加熱することにより、塗膜中の樹脂前駆体成分(B)に由来するポリアミド酸を閉環させる。閉環により、ポリアミド酸がポリイミド樹脂に変化する。その結果、ポリイミド樹脂を含む膜が形成される。
【0151】
上記塗膜を加熱する場合、加熱温度は、例えば、100℃以上500℃以下、好ましくは120℃以上350℃以下、より好ましくは150℃以上350℃以下に設定される。このような範囲の温度で樹脂前駆体成分(B)を加熱することにより、樹脂前駆体成分(B)や生成するポリイミド樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、ポリイミド膜を生成させることができる。
【0152】
また、樹脂前駆体成分(B)の加熱を高温で行う場合、多量のエネルギーの消費や、高温での処理設備の経時劣化が促進される場合があるため、樹脂前駆体成分(B)の加熱を低めの温度(「低温ベーク」ということがある。)で行うことも好ましい。具体的には、樹脂前駆体成分(B)を加熱する温度の上限を、例えば220℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下、さらにより好ましくは150℃以下にすることができる。このような比較的低温で加熱する場合であっても、本発明においては、比較的短時間の加熱で十分にポリイミド樹脂を生成させることができる。
【0153】
加熱時間は、塗膜の組成、厚さ等にもよるが、下限値として、例えば0.5時間、好ましくは1時間、より好ましくは1.5時間、上限値として、例えば4時間、好ましくは3時間、より好ましくは2.5時間とすることができ、かかる加熱時間は、例えば130℃以上150℃以下、代表的には140℃で加熱する場合にも適用することができる。
【0154】
低温ベークにより、ポリアミド酸の高分子量化を進めることができ、好ましくは分子量分布をあまり広げることなく高分子量化を進めることができる。低温ベークによるポリアミド酸の高分子量化は、特に、樹脂前駆体成分(B)としてモノマー成分を配合する場合に、形成されるポリアミド酸の高分子量化を進める点で、好適である。
ポリイミド前駆体組成物がイミダゾール系化合物(A1)を含有する場合には、低温ベークを行う際、イミダゾール系化合物(A1)が通常塗膜中に残存している。ポリアミド酸について、イミダゾール系化合物(A1)の作用により高分子量化が進み、得られるポリイミド膜の引張強度、及び破断伸びを優れたものにすることができる。
【0155】
このように、ポリイミド前駆体組成物がイミダゾール系化合物(A1)を含有する場合、比較的低温で加熱することによっても、従来のポリイミド膜よりも引張強度、及び破断伸びに優れるポリイミド膜を得やすい。イミダゾール系化合物(A1)は、触媒として作用しているものと考えられる。得られるポリイミド膜は、引張伸度に優れることから機械的特性に優れるものと思われる。
【0156】
塗膜の加熱としては、また、低温ベークを行った後に、低温ベークにおける加熱温度よりも高温による加熱(「高温ベーク」ということがある。)を行う段階的加熱(「ステップベーク」ともいう。)を行ってもよい。
高温ベークは、加熱温度の上限として、例えば500℃以下、好ましくは450℃以下、より好ましくは420℃以下、さらに好ましくは400℃以下にすることができ、加熱温度の下限として、例えば220℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上、さらにより好ましくは380℃以上にすることができる。
高温ベークにおける加熱時間は、塗膜の組成、厚さ等にもよるが、下限値として、例えば10分以上、好ましくは20分程度以上、必要に応じて1時間以上としてもよく、上限値として、例えば4時間、好ましくは3時間、より好ましくは2.5時間とすることができ、かかる加熱時間は、例えば390℃以上410℃以下、代表的には400℃で加熱する場合にも適用することができる。
【0157】
段階的加熱を行う場合、低温ベークは省略してもよい。特に、樹脂前駆体成分(B)としてモノマー成分を配合する場合、低温ベークを行わなくても十分に高分子量のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0158】
ポリイミド樹脂への変換は、低温ベークによっても本発明の課題を解決するのに十分な程度に行うことができ、例えば、未閉環構造を実質的になくして閉環反応を実質的に完結することもできるが、低温ベーク後に未閉環構造が一部残存してもよい。高温ベークを行うことにより、閉環反応を実質的に完結することができる。
【0159】
<剥離工程>
被塗布体又は閉環工程時の支持体として、ガラス基板を使用した場合、UVレーザー等を用いて、ポリイミド前駆体組成物を用いて得られたポリイミド膜を剥離してもよい。
【0160】
≪ポリイミド膜≫
前述の通り、上記のポリイミド前駆体組成物からなる塗膜を硬化させることによりポリイミド膜が形成される。このようにして形成されるポリイミド膜は、前述の式(b4)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂を含むポリイミド膜と言い換えることもできる。
かかるポリイミド膜は、前述の式(b1)で表される芳香族ジアミンに由来する骨格に起因して高い屈折率と低リタデーションを示す。このため、かかるポリイミド膜は、従来から広く知られている、高屈折率膜を備える光学装置に好ましく適用することができる。
ここで、光学装置とは、照明装置や、表示装置等のある程度サイズの大きなデバイスのみならず、発光素子、光電変換素子、レンズ素子等に代表される微小な素子も含む。
【0161】
ポリイミド膜の屈折率は、例えば波長589nmの光線での測定値として1.61以上が好ましく、1.63以上がより好ましく、1.65以上が特に好ましい。
【0162】
また、式(b1)で表される芳香族ジアミンに由来する骨格に起因して高屈折率に加えて、リタデーションも低い。このため、上記のポリイミド膜は、OLED照明装置や液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の膜材料として好適に使用される。一例として上記のポリイミド膜をOLED照明装置に使用することにより、光線の取り出し効率を高めつつ、簡易な構造、軽量且つ薄肉化可能な照明装置を製造できる。
【実施例
【0163】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【0164】
〔合成例1:芳香族ジアミン化合物(9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレン)の合成〕
温度計、滴下漏斗、及び撹拌翼を備えた四つ口フラスコに、4-アミノ安息香酸(2.74g、0.02mol)のピリジン溶液に塩化チオニル2mLを添加した。塩化チオニルを添加した後、室温でフラスコの内容物を3時間撹拌して、4-アミノベンゾイルクロライドを得た。得られた4-アミノベンゾイルクロライドに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(3.48g、0.01mol)を加え、5時間撹拌した。得られた反応液を一定の速度で撹拌された0~5℃の氷水に少しずつ注いた後、固液分離を行った。未反応の4-アミノ安息香酸を除去するため、分離された湿体を濃度10質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液で4回洗った。次いで、湿体を無水メタノールで洗浄後、80℃で乾燥し、9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを収率58%で得た。
9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンのH-NMR測定結果は以下の通りである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d6)δ=9.72(2H,s),7.94(2H,d),7.70(4H,d),7.65(4H,d),7.3-7.5(6H,m)
【0165】
〔実施例1〕
<テトラカルボン酸二無水物の調製>
国際公開第2011/099518号の合成例1、実施例1及び実施例2に記載された方法に従って、下記式で表されるテトラカルボン酸二無水物(ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物)を調製した。
【化39】
【0166】
<ポリアミド酸の調製>
先ず、30mlの三口フラスコをヒートガンで加熱して十分に乾燥させた。次に、三口フラスコ内の雰囲気ガスを窒素で置換し、三口フラスコ内を窒素雰囲気とした。三口フラスコ内に、合成例1で得た芳香族ジアミン0.5280g(0.90mmol)を添加した後、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)を3.50g添加した。三口フラスコの内容物を撹拌して、TMU中に芳香族ジアミンが分散した液を得た。
次に、三口フラスコ内に上記式のテトラカルボン酸二無水物0.3459g(0.90mmol)添加した後、窒素雰囲気下に、室温(25℃)で24時間フラスコの内容物を撹拌して反応液を得た。このようにして反応液中にポリアミド酸が20質量%(TMU溶剤:80質量%)となる反応液を形成した。
【0167】
<イミダゾール化合物の添加工程>
上述のようにして得られた反応液に、窒素雰囲気下で、イミダゾール化合物(0.262g、反応液を100質量部とした場合に対して6.0質量部)を加えた。次いで、反応液を、25℃で24時間撹拌して、イミダゾール化合物とポリアミド酸とを含む液状のポリイミド前駆体組成物を得た。
【0168】
<ポリイミドフィルムの調製>
ガラス基板(大型スライドグラス、松浪硝子工業株式会社製の商品名「S9213」、縦:76mm、横52mm、厚さ1.3mm)上に、上述のようにして得られたポリイミド前駆体組成物を、加熱硬化後の塗膜の厚さが10μmとなるようにスピンコートして、塗膜を形成した。次いで、塗膜の形成されたガラス基板を70℃のホットプレート上に載せて0.5時間静置して、塗膜から溶媒を蒸発させて除去した。
溶媒の除去後、塗膜の形成されたガラス基板を5L/分の流量で窒素が流れているイナートオーブンに投入した。イナートオーブン内で、窒素雰囲気下、25℃の温度条件で0.5時間静置した後、80℃の温度条件で0.5時間加熱し、さらに300℃の温度条件で30分加熱し、360℃(最終加熱温度)の温度条件で30分加熱して塗膜を硬化させて、ガラス基板上にポリイミドからなる薄膜(ポリイミドフィルム)がコートされたポリイミドコートガラスを得た。
【0169】
得られたポリイミドコートガラスを、90℃の湯の中に浸漬して、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させて、ポリイミドフィルム(縦76mm、横52mm、厚さ10μmの大きさのフィルム)を得た。
【0170】
得られたポリイミドフィルムの材質である樹脂の分子構造を同定するため、IR測定機(日本分光株式会社製、商品名:FT/IR-4100)を用いて、ポリイミドフィルムの試料のIRスペクトルを測定した。
測定の結果、ポリイミドフィルムの材質である樹脂のIRスペクトルでは、イミドカルボニルのC=O伸縮振動が1704.4cm-1に観察されることが分かった。このような結果等に基づいて同定された分子構造から、得られたポリイミドフィルムは、確かにポリイミド樹脂からなるものであることが確認された。
【0171】
〔比較例1〕
透明ポリイミドフィルム(ネオプリム(登録商標)L-3430(三菱ガス化学株式会社製)厚み100μm)を標品として用いた。
なお、比較例1のポリイミドフィルムに含まれるポリイミド樹脂の構造は、前述の式(b4)で表される構成単位を含む構造ではない。
【0172】
〔比較例2〕
合成例1で得た芳香族ジアミン0.5280g(0.90mmol)を、市販の4,4’-ジアミノベンズアニリド0.2045g(0.90mmol:DABAN)に変更することの他は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体組成物と、ポリイミドフィルムとを得た。
【0173】
実施例1及び比較例1のポリイミドフィルムについて、以下の方法に従って、熱分解温度、ガラス転移温度、熱膨張率、引張強度、破断伸び、全光線透過率、ヘイズ(濁度)、黄色度(YI)、及び屈折率の評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0174】
<熱分解温度(Td5%:5%重量減少温度)>
5%重量減少温度は、各実施例及び各比較例で得られたフィルムから、それぞれ2~4mgの試料を準備し、これをアルミ製サンプルパンに入れ、測定装置として熱重量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の商品名「TG/DTA7200」)を使用して、窒素ガス雰囲気下、走査温度を30℃から550℃に設定し、昇温速度10℃/分の条件で加熱して、用いた試料の重量が5%減少する温度を測定することにより求めた。
【0175】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)の値(単位:℃)を以下のようにして測定した。すなわち、各ポリイミドフィルムから切り出した縦20mm、横5mmの大きさの試料を用い、且つ、測定装置として熱機械的分析装置(リガク製の商品名「TMA8311」)を用いて、窒素雰囲気下、引張りモード(49mN)、昇温速度5℃/分の条件で測定を行ってTMA曲線を求め、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿することにより、ポリイミドフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)の値(単位:℃)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0176】
<熱膨張率(CTE)の測定>
フィルムのCTE(単位:ppm/K)は以下のようにして求めた。すなわち、先ず、各樹脂フィルムから、縦:20mm、横:5mmの大きさの測定用のフィルムを形成した。次に、得られた測定用のフィルムを真空乾燥(120℃、1時間)した後、窒素雰囲気下で200℃で1時間熱処理することにより、測定試料(乾燥フィルム)を調製した。次いで、得られた測定試料(乾燥フィルム)を用い、測定装置として熱機械的分析装置(リガク製の商品名「TMA8311」)を利用して、窒素雰囲気下、引張りモード(49mN)、昇温速度5℃/分の条件を採用して、50℃~200℃における試料の長さの変化を測定して、100℃~200℃の温度範囲における1℃あたりの長さの変化の平均値を求めることにより測定した。得られた結果を表1に示す。
【0177】
<引張強度及び破断伸びの測定>
フィルムの引張強度(単位:MPa)及び破断伸び(単位:%)は、以下のようにして測定した。すなわち、先ず、各樹脂フィルムを、それぞれ、SD型レバー式試料裁断器(株式会社ダンベル製の裁断器(型式SDL-200))に、株式会社ダンベル製の商品名「スーパーダンベルカッター(型:SDMK-1000-D、JIS K7139(2009年発行)のA22規格に準拠)」を取り付けて、各樹脂フィルムの大きさが、全長:75mm、タブ部間距離:57mm、平行部の長さ:30mm、肩部の半径:30mm、端部の幅:10mm、中央の平行部の幅:5mmとなるように裁断して、ダンベル形状の試験片(JIS K7139 タイプA22(縮尺試験片)の規格に沿ったもの)を、測定試料として、それぞれ調製した。次いで、電気機械式万能材料試験機(INSTRON製の型番「5943」)を用いて、測定試料を掴み具間の幅が57mm、掴み部分の幅が10mm(端部の全幅)となるようにして配置した後、ロードセル:1.0kN、試験速度:5mm/分の条件で測定試料を引っ張る引張試験を行って、引張強度及び破断伸びの値を求めた。なお、このような試験は、JIS K7162(1994年発行)に準拠した試験とした。また、破断伸びの値(%)は、試料のタブ部間距離(=掴み具間の幅:57mm)をL0、破断するまでの試料のタブ部間距離(破断した際の掴み具間の幅:57mm+α)をLとすると、下記式:
[破断伸び(%)]={(L-L0)/L0}×100
を計算して求めた。得られた結果を表1に示す。
【0178】
<全光線透過率、ヘイズ(濁度)及び黄色度(YI)の測定>
全光線透過率、ヘイズ(濁度)の測定には測定装置として日本電色工業株式会社製の商品名「ヘーズメーターNDH-5000」を用い、黄色度(YI)の測定には測定装置としては日本電色工業株式会社製の商品名「分光色彩計SD6000」を用いた。なお、全光線透過率は、JIS K7361-1(1997年発行)に準拠した測定を行うことにより求め、ヘイズ(濁度)は、JIS K7136(2000年発行)に準拠した測定、黄色度(YI)はASTM E313-05(2005年発行)に準拠した測定を行うことにより求めた。
【0179】
<屈折率(589nm)の測定>
各実施例及び各比較例で得られたフィルム等の屈折率は、測定装置として屈折率測
定装置(株式会社アタゴ製の商品名「NAR-1T SOLID」)を用い、589nm
の光源下、23℃の温度条件で測定した。
【0180】
【表1】
【0181】
また、実施例1のポリイミドフィルム、及び比較例2のポリイミドフィルムについて、屈折率(589nm)と、リタデーション(589nm)と、全光線透過率との比較を行った。リタデーション(589nm)については、以下の方法で測定した。
【0182】
<厚み方向のリタデーション(Rth)の測定>
厚み方向のリタデーション(Rth)は、各実施例及び各比較例で製造したポリイミドフィルム(縦:76mm、幅:52mm)をそのまま測定試料とし、測定装置としてAXOMETRICS社製の商品名「AxoScan」を用い、各々のポリイミドフィルムの屈折率(上述の屈折率の測定により求められたフィルムの589nmの光に対する屈折率)の値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下、波長589nmの光を用いて、厚み方向のリタデーションを測定した後、求められた厚み方向のリタデーションの測定値(測定装置の自動測定による測定値)を用いて、フィルムの厚み10μmあたりのリタデーション値に換算することにより求めた。リタデーションについて200nm以下である場合を○と判定し、200nm超である場合を×と判定した。
【0183】
【表2】
【0184】
表1及び表2によれば、前述の式(b4)で表される構成単位を含むポリイミド樹脂を含むポリイミドフィルムは、高屈折率であり、リタデーションが低く、全光透過率が高く、また、機械的特性や熱的特性についても市販品と遜色ないか優れることが分かる。