(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】電子線照射装置および電子ビームの位置合わせ方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/04 20060101AFI20221003BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20221003BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20221003BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20221003BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01J37/04 B
G21K5/04 E
H01J37/147 B
H01J37/22 502B
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2019029446
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 賢治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真一
(72)【発明者】
【氏名】田島 涼
(72)【発明者】
【氏名】狩俣 努
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-183004(JP,A)
【文献】特開昭61-190839(JP,A)
【文献】特開2014-22165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アライナを通過した電子ビームを複数の電極を有する偏向器で偏向させる電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法であって、
前記複数の電極の1つに試験電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、
各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項2】
前記電子ビームの位置を含む画像において、基準位置から最も離れている電子ビームの像の位置に基づいて、前記位置ずれを特定する、請求項1に記載の電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項3】
前記位置ずれが明確でない場合、
前記複数の電極の1つに前記試験電圧より大きい電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、
各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて電子ビームの位置ずれを特定する、請求項1または2に記載の電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項4】
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整した後、前記位置ずれがキャンセルされたか否かを確認する、請求項1乃至3のいずれかに記載の電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項5】
前記複数の電極の1つに確認電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、各電子ビームに対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて、前記位置ずれがキャンセルされたか否かの確認を行う、請求項4に記載の電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項6】
アライナを通過した電子ビームを複数の磁極を有する偏向器で偏向させる電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法であって、
前記複数の磁極の1つに試験電流を流し、他の磁極に基準電流を流して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の磁極のそれぞれについて行い、
各磁極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子ビームの位置合わせ方法。
【請求項7】
電子ビームを偏向して前記電子ビームの位置合わせをするアライナと、
複数の電極を有し、前記アライナを通過した電子ビームを偏向させる偏向器と、
前記アライナによる偏向を調整する調整手段と、を備え、
前記調整手段は、
前記複数の電極の1つに試験電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、
各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子線照射装置。
【請求項8】
電子ビームを偏向して前記電子ビームの位置合わせをするアライナと、
複数の磁極を有し、前記アライナを通過した電子ビームを偏向させる偏向器と、
前記アライナによる偏向を調整する調整手段と、を備え、
前記調整手段は、
前記複数の磁極の1つに試験電流を流し、他の磁極に基準電流を流して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の磁極のそれぞれについて行い、
各磁極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームの位置合わせ機能を有する電子線照射装置および電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏向器を介して電子ビームを試料に照射する電子線検査装置やSEM(Scanning Electron Microscope)に用いられる電子線照射装置では、電子ビームの位置合わせを行う必要がある。位置合わせを行うために、偏向器における複数の電極のそれぞれに電流計を接続し、どの電極にどれだけの電流が流れたかを測定し、プロファイルを生成することが行われてきた。
【0003】
しかし、偏向器における電極の数だけ電流計を接続する必要があり、調整コストが高くなるし、手間もかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、簡易に電子ビームの位置合わせを行うことができる電子線照射装置、および、簡易な電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、アライナを通過した電子ビームを複数の電極を有する偏向器で偏向させる電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法であって、前記複数の電極の1つに試験電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子ビームの位置合わせ方法が提供される。
【0007】
前記電子ビームの位置を含む画像において、基準位置から最も離れている電子ビームの像の位置に基づいて、前記位置ずれを特定してもよい。
【0008】
前記位置ずれが明確でない場合、前記複数の電極の1つに前記試験電圧より大きい電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて電子ビームの位置ずれを特定してもよい。
【0009】
前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整した後、前記位置ずれがキャンセルされたか否かを確認してもよい。
【0010】
具体例として、前記複数の電極の1つに確認電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、各電子ビームに対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて、前記位置ずれがキャンセルされたか否かの確認を行ってもよい。
【0011】
本発明の別の態様によれば、アライナを通過した電子ビームを複数の磁極を有する偏向器で偏向させる電子線照射装置における電子ビームの位置合わせ方法であって、前記複数の磁極の1つに試験電流を流し、他の磁極に基準電流を流して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の磁極のそれぞれについて行い、各磁極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子ビームの位置合わせ方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、電子ビームを偏向して前記電子ビームの位置合わせをするアライナと、複数の電極を有し、前記アライナを通過した電子ビームを偏向させる偏向器と、前記アライナによる偏向を調整する調整手段と、を備え、前記調整手段は、前記複数の電極の1つに試験電圧を印加し、他の電極に基準電圧を印加して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の電極のそれぞれについて行い、各電極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子線照射装置が提供される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、電子ビームを偏向して前記電子ビームの位置合わせをするアライナと、複数の磁極を有し、前記アライナを通過した電子ビームを偏向させる偏向器と、前記アライナによる偏向を調整する調整手段と、を備え、前記調整手段は、前記複数の磁極の1つに試験電流を流し、他の磁極に基準電流を流して前記電子ビームの像を検出することを、前記複数の磁極のそれぞれについて行い、各磁極に対応する前記電子ビームの像の位置に基づいて前記電子ビームの位置ずれを特定し、前記電子ビームの位置ずれがキャンセルされるよう前記アライナの偏向を調整する、電子線照射装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
簡易に電子ビームの位置合わせをできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る電子線照射装置を模式的に示す図。
【
図2A】電子源1と2次ビームの位置との関係を模式的に示す図。
【
図2B】電子源1と2次ビームの位置との関係を模式的に示す図。
【
図2C】電子源1の電子ビームの位置合わせを模式的に示す図。
【
図5】アライナ2の調整手法の概略を説明するフローチャート。
【
図6A】2次ビームの像を含む画像の一例を模式的に示す図。
【
図6B】2次ビームの像を含む画像の一例を模式的に示す図。
【
図7】アライナ2の調整手法の詳細を説明するフローチャート。
【
図9A】8極の偏向器において電子ビームの位置ずれがある場合の画像を模式的に示す図。
【
図9B】8極の偏向器において電子ビームの位置合わせ後の画像を模式的に示す図。
【
図10】本発明を適用したSEMを模式的に示す図。
【
図11】本発明を適用したマルチSEMを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る電子線照射装置を模式的に示す図である。電子線照射装置は、ガンユニット10の筐体11内に配置された電子源1(ガン)およびアライナ2と、コラム20の筐体21内に配置された偏向器3(多極子)、試料Wが載置されるステージ4および検出器5(フォトマルチプライヤ)とを備えている。以下、アライナ2および偏向器3は複数の電極を有する静電偏向器であるとする。
【0018】
電子源1は電子ビームを発生させる。アライナ2は、後述する偏向器3の位置合わせのために、電子源1からの電子ビームを偏向させる。アライナ2を通過した電子ビームは、ガンユニット10の筐体11の開口およびコラム20の筐体21の開口を通って、コラム20内に入る。偏向器3はステージ4上の試料Wをスキャンするために電子ビームを偏向する。検出器5は試料Wで反射された電子ビームを検出し、電子ビームの像を含む画像を形成する。以下、電子源1から試料Wに照射される電子ビームを1次ビームと呼び、試料Wから検出器5までの電子ビームを2次ビームと呼ぶことがある。
【0019】
ガンユニット10の筐体11とコラム20の筐体21はボルト(不図示)などで互いに固定されて組み立てられる。筐体どうしの組み立て誤差がなく、電子源1の取り付け誤差もない理想的な状態であれば、偏向器3におけるすべての電極に基準電圧(例えば、0V)を印加した場合、1次ビームは試料Wの中心に到達する。その結果、検出器5によって形成される画像の中心(基準位置)に2次ビームの像Pが現れる(
図2A参照)。
【0020】
しかし、実際には、ガンユニット10の筐体11とコラム20の筐体21とがずれて組み立てられたり、電子源1に取り付け誤差があったりすると、偏向器3におけるすべての電極に基準電圧を印加した場合であっても、1次ビームは試料Wの中心からずれた位置に到達する。その結果、検出器5によって形成される画像の中心からずれた位置に2次ビームの像が現れる。例えば、1次ビームがx方向にずれている場合、2次ビームの像Pもx方向にずれて現れる(
図2B参照)。
【0021】
偏向器3の直前にアパーチャが配置される場合には1次ビームの位置調整は不要であるが、レンズ(不図示)やアライナ2の構成によっては偏向器3に起因する収差や歪が顕著になることがある。そのような場合に、位置の調整が必要となる。
【0022】
このような場合の調整用にアライナ2が用いられる。すなわち、偏向器3におけるすべての電極に基準電圧を印加した場合に、試料Wの中心に1次ビームが到達するよう、言い換えると、2次ビームの像が画像の中心に位置するよう、アライナ2で調整(電子ビームを偏向)して電子ビームの位置合わせを行う必要がある(
図2C参照)。
【0023】
以下、アライナ2および偏向器3の構成例を説明した上で、アライナ2の調整手法を説明する。
【0024】
図3は、アライナ2を模式的に示す上面図である。アライナ2は複数(本実施形態では、+x方向、-x方向、+y方向および-y方向の4つ)の電極2xp,2xm,2yp,2ymを有する。例えば、+x方向の電極2
xpに正電圧を印加すると、1次ビームは+x方向に偏向する。各電極に印加する電圧と、1次ビームの偏向方向および偏向量との関係は一意に定まり、シミュレーションや計算で把握できる。なお、少なくとも4つの電極を設けることで、1次ビームを任意の方向に偏向できる。
【0025】
上述したように、アライナ2は、偏向器3におけるすべての電極に基準電圧を印加した場合に、電子源1からの1次ビームが試料Wの中心に到達するよう調整される。すなわち、アライナ2の各電極には固定の電圧が印加される。
【0026】
図4は、偏向器3を模式的に示す上面図である。偏向器3もアライナ2と同様の構成とすることができ、複数(本実施形態では、+x方向、-x方向、+y方向および-y方向の4つ)の電極3xp,3xm,3yp,3ymを有する。例えば、+x方向、-x方向、+y方向の電極3xp,3xm,3ypを基準電圧に固定し、-y方向の電極3ymに印加する電圧を徐々に高くすることで、試料Wにおける1次ビームが到達する位置は-y方向に徐々に移動する。
【0027】
上述したように、偏向器3は試料Wをスキャンするために用いられる。
【0028】
図5は、アライナ2の調整手法の概略を説明するフローチャートである。
【0029】
まず、偏向器3における1つの電極に試験電圧(例えば、基準電圧+30V)を印加し、他の3つの電極に基準電圧を印加し、2次ビームの像を取得する。以上を各電極3xp,3xm,3yp,3ymについて行う(ステップS1)。そして、その結果から1次ビームが、当該電極において(この場合、偏向器3)どの方向にどの程度ずれているかを特定する(ステップS2)。
【0030】
図6Aは、2次ビームの像を含む画像の一例を模式的に示す図であり、試料Wの中心に黒丸があるパターンを観察した場合を示している。点Pxp,Pxm,Pyp,Pymは、それぞれ電極3xp,3xm,3yp,3ymに試験電圧を印加した場合に現れる2次ビームの像の位置である。
図6Aでは、点Pxp,Pxm,Pyp,Pymを4頂点とする四角形(以下、「四角形Pxp,Pxm,Pyp,Pym」という)は正方形となっており、中心Oと各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymとの距離は互いに等しい。この場合、点Pxp,Pxm,Pyp,Pymはそれぞれ理論上の座標と一致し、1次ビームの位置ずれはないと特定される。
【0031】
図6Bは、2次ビームの像を含む画像の一例を模式的に示す図である。
図6Bでは、四角形Pxp,Pxm,Pyp,Pymは正方形となっていない。そして、中心Oと位置Px0との距離が最も長い(なお、点PxOは点Pxpの理論上の座標を示す)。この場合、1次ビームは電極3xm側(左側)にずれており、具体的には点Pxmと点Pxpを結ぶ直線上にある。そして、点O-点Pxm間の距離に対する点O-点Pxp間の距離が長いほど、ずれ量が大きい。
図6Bでは、1次ビームと電極3xmとの距離が他の電極との距離より近く、他の電極の電界の影響を受けて、電極3xmから本来の電圧が1次ビームにかからず、偏向量が理論値より少なくなっているのである。
【0032】
このように、中心Oから最も離れている点(電子ビームの像)の位置に基づいて、1次ビームがずれている方向と、ずれている量が特定される。
【0033】
図5に戻り、ステップS2で特定された位置ずれをキャンセルするよう、アライナ2の偏向を調整する(ステップS3)。具体的には、アライナ2の偏向方向を調整すべく、
図6Bに示すように位置ずれが生じているのであれば、電極2xp側に偏向すべく、アライナ2の電極2xm,2yp,2ymは基準電圧とし、電極2xpに基準電圧より+高い電圧を印加する。また、アライナ2の偏向量を調整すべく、電圧の大きさは、
図6Bの点O-点Pxm間の距離に対する点O-点Pxp間の距離に相当(比例)するものとする。なお、
図7を用いて後述するが、必ずしも1回の調整で正確に位置ずれをキャンセルできるとは限らないので、位置ずれをキャンセルできたかを確認し、できていない場合にはさらなる調整をするのがよい。
【0034】
以上のようにすることで、各電極に流れる電流を測定するといった手間をかけることなく、簡便にアライナ2の各電極に印加すべき電圧を調整できる。
【0035】
図7は、アライナ2の調整手法の詳細を説明するフローチャートである。
【0036】
まず、
図5のステップS1で説明したように、偏向器3における1つの電極に試験電圧を印加し、他の3つの電極に基準電圧を印加し、2次ビームの像を取得する。以上を各電極について行う(ステップS1)。そして、その結果から1次ビームの位置ずれが明確か否かを判断する(ステップS1a)。
【0037】
例えば、
図8Aに示すように、四角形Pxp,Pxm,Pyp,Pymがわずかに正方形になっていない場合、どのような位置ずれが発生しているのか明確ではない。具体的には、中心Oと各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymとの距離の最大値と最小値との差が閾値以下である場合、位置ずれが不明確と判断してもよい。あるいは、各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymと、各理論値との距離の最大値が閾値以下である場合に、位置ずれが不明確と判断してもよい。
【0038】
位置ずれが不明確である場合、偏向量がより大きくなるよう、偏向器3の各電極に印加する電圧を大きく設定して(ステップS1b)、ステップS1を行う。例えば、1度目のステップS1で印加したのが基準電圧+30Vである場合、2度目のステップS2ではその2倍の基準電圧+60Vとする。
【0039】
このようにすることで、
図8Bに示すように、四角形Pxp,Pxm,Pyp,Pymの正方形からのずれが大きくなる。
【0040】
以上を位置ずれが明確になるまで行い、位置ずれを特定する(ステップS2)。そして、特定された位置ずれをキャンセルするよう、アライナ2の各電極に印加する電圧を印加する(ステップS3)。
【0041】
そして、この状態で位置ずれがキャンセルされたことを確認すべく、偏向器3における1つの電極に確認電圧(例えば、基準電圧+30V)を印加し、他の3つの電極に基準電圧を印加し、2次ビームの像を取得する。以上を各電極について行う(ステップS3a)。
【0042】
これにより位置ずれがキャンセルされていれば(ステップS3bのYES)、調整処理を完了する。位置ずれがキャンセルされたか否かは、四角形Pxp,Pxm,Pyp,Pymが正方形とみなせるか否かで判断できる。具体的には、中心Oと各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymとの距離の最大値と最小値との差が閾値以下である場合、位置ずれがキャンセルされたと判断してもよい。あるいは、各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymと、各理論値との距離の最大値が閾値以下である場合に、位置ずれがキャンセルされたと判断してもよい。また、各点Pxp,Pxm,Pyp,Pymと、各理論値との距離の絶対値和が閾値以下である場合に、位置ずれがキャンセルされたと判断してもよい。
【0043】
一方、位置ずれがキャンセルされていない場合(ステップS3bのNO)、再度アライナ2を調整する(ステップS3)。具体的には、前回のステップS3で調整が不足している場合、偏向量が大きくなるようアライナ2の各電極に印加する電圧を大きくする。逆に、前回のステップS3で調整が過剰であった場合、偏向量が小さくなるようアライナ2の各電極に印加する電圧を小さく(例えば半分に)する。
【0044】
以上を位置ずれがキャンセルされるまで行う。
【0045】
このように、本実施形態では、偏向器3の各電極に1つずつ試験電圧を印加して2次ビームの像を検出することで電子ビームの位置ずれを特定し、この位置ずれをキャンセルするようアライナ2の偏向を調整する。そのため、簡易にアライナ2の調整が可能となる。
【0046】
なお、上述した調整手法の少なくとも一部を手動で行ってもよいし、調整手段を設けて自動で行ってもよい。また、アライナ2および/または偏向器3は、電極を備える静電偏向器でなく磁極を備える磁場偏向器であってもよく、この場合、上記説明における電圧の印加を、磁極に電流を流す(磁界を与える)ことに置き換えればよい。さらに、電極や磁極の数に制限はなく、例えばn極である場合、上記説明における「正方形」を「正n角形」に置き換えればよい。また、電子ビームの調整を行うのは電子源1の近傍(直下)に設けられるアライナ2に限られず、中心を位置合わせしたい偏向器やレンズの上流側(例えば直上)に配置したアライナで行ってもよい。
【0047】
さらに、偏向器3における極数は4つに限られず、例えば8極あるいはそれ以上であってもよい。8極の場合、1次ビームの位置ずれがあると、
図9Aに示すように、1つの電極に対応する点が大きく中心から外れて「白鳥座」のような8点となる。この場合も上述した手法で位置合わせをすることで、
図9Bに示すほぼ正八角形することができる。
【0048】
以上説明した電子ビームの位置合わせ手法は、電子線検査装置やSEMに適用可能である。
【0049】
図10はSEMの概略構成を示す概略図である。電子源1は、カソード1a、ウェーネルト1b、アノード1cからなる三極電子銃で、カソード1aはLaB
6の熱カソードを空間電荷制限条件で動作させている。
【0050】
電子源1から放出され、アライナ61aを通過した一次電子線で正方形の成形開口61bを照射し、コンデンサアライナ2で電子銃クロスオーバの像をNA開口62に結像させる。成形開口61bの像はレンズ61cとレンズ63とによりレンズ63の少し下に縮小像として形成され、さらに対物レンズ64で試料W上に微小なプローブを作る。走査電源65は、電子線が偏向器3,66で二段偏向され、試料W上で200μm角をラスタ走査あるいはベクタ走査できるよう設計されている。
【0051】
そして、E×Bレンズ63と偏向器66との間に配置される偏向器3の上方(電子源1側)に電子ビームの位置合わせを行うためのアライナ2’が配置され、上述した位置合わせに用いられる。
【0052】
対物レンズ64には、電極間あるいはレンズと試料Wとの間で放電を起こさない範囲で最も収差係数が小さくなるような電圧を与えることのできる電源67が接続可能とされている。しかしながら、電位コントラスト測定時用として、試料Wの負電圧68よりさらに低い電圧69も印加できるようにするため、切り換えスイッチ70が設けられている。
【0053】
試料面から放出された二次電子でSEM画像を得る時は、減速電界型対物レンズ64の下極として試料Wに隣接して光軸に近い領域に設けた軸対称電極71には、電源67から電圧が供給される。すべての二次電子は対物レンズ64を通過し、E×B分離器66によって
図10で見て右方へ偏向され、二次電子検出器5で検出される。そして、画像形成回路72でSEM画像が形成される。
【0054】
一方、電位コントラストを測定する時は、スイッチ70を切り換えて、電極71に試料Wよりさらに低い電圧69を供給する。これによって、軸上ポテンシャルが試料Wよりさらに低い値になる領域が形成される。この軸上ポテンシャルが試料W上の高い電位を持つパターンから放出された二次電子を追い戻す値になるよう調整することによって、電位コントラストを測定することができる。
【0055】
図11は、マルチSEMの概略構成を示す概略図である。
図11のマルチSEMにおいて、電子源1のショットキー・シールド1dからW-Zrのエミッタ1eを、通常の使用条件より100μm程度、突出させた状態に設定している。アライナ80を介して、エミッタ1eの5つの方向、すなわち、エミッタ1eの中心先端から光軸方向、および周辺の4つの部分からの4方向に電子ビームが放射され、これら一次電子ビームは、コンデンサレンズ81によって集束され、円周上に4つの小さな開口が設けられた第1のマルチ開口板82を照射する。光軸方向の電子ビームは、第1のマルチ開口板82によって遮断される。第1のマルチ開口板82の4つの開口を通過した電子ビームは、縮小レンズ83の手前の点84にクロスオーバを形成し、そして、縮小レンズ83及び対物レンズ85によって縮小され、試料W上に結像される。静電偏向器3及びEXB偏向器86により、4つの一次電子ビームが同時に、X-Yステージ(不図示)上に載置された試料Wの表面をラスタスキャンされる。
【0056】
そして、縮小レンズ83とEXB偏向器86との間に配置される静電偏向器3の上方(電子源1側)に電子ビームの位置合わせを行うためのアライナ2’が配置され、上述した位置合わせに用いられる。
【0057】
一次電子ビームの照射により、試料Wの表面から二次電子ビームが放出され、該電子ビームは対物レンズ85で加速され、EXB偏向器86により一次光学系から分離され、拡大レンズ88,89により第2のマルチ開口板90の検出面に結像する。そして、第2のマルチ開口板90の4つの開口を通過した二次電子ビームが、マルチ検出器5によって検出される。これにより、電気信号に変換され、電気信号は画像形成回路91において画像形成される。
図11において、92はCPUであり、レンズ系及びステージの制御を行うとともに、画像形成回路91において得られた画像を分析して、試料Wの欠陥検出、線幅測定等の評価を行う。
【0058】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0059】
1 電子源
2,2’ アライナ
2xp,2xm,2yp,2ym 電極
3 偏向器
3xp,3xm,3yp,3ym 磁極
4 ステージ
5 検出器
10 ガンユニット
11 筐体
20 コラム
21 筐体
100 電子線検査装置