IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

特許7150874香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法
<>
  • 特許-香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法 図1
  • 特許-香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法 図2
  • 特許-香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法 図3
  • 特許-香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法 図4
  • 特許-香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/12 20060101AFI20221003BHJP
   A23G 1/32 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
A23G1/12
A23G1/32
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020556090
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043344
(87)【国際公開番号】W WO2020095913
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018208411
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018208412
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 啓介
(72)【発明者】
【氏名】眞名田 典之
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512052(JP,A)
【文献】3つの香味の違いを体感できる「明治ザ・チョコレート 3つのカカオ香味セット」10月30日より数量限定発売、株式会社 明治、プレスリリース[online]、2018年10月25日、[検索日:2022年1月31日]、retrieved from the internet <URL:https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2018/20181025_01.html>
【文献】Van Thi Thuy Ho,Yeasts are essential for cocoa bean fermentation,International Journal of Food Microbiology,2014年,174,pp.72-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香気特徴が強いチョコレートであって、
前記香気特徴がフルーティ香及びフローラル香であり、
前記フルーティ香の香気成分として酢酸イソアミルを含有し、
香気成分としてさらに酢酸を含有し、
香気成分をSPMEファイバーで吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で測定したときに、酢酸のピーク面積に対する酢酸イソアミルのピーク面積の比率が0.000710以上であ
前記酢酸イソアミルのピーク面積が27,000以上である、チョコレート。
【請求項2】
前記フローラル香の香気成分としてリナロールを含有する、請求項1に記載のチョコレート。
【請求項3】
カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上を含有する、請求項1又は2に記載のチョコレート。
【請求項4】
少なくともカカオ原料と糖原料とを密閉型粉砕装置で粉砕する粉砕工程を含む、チョコレートの製造方法であって、
前記粉砕工程の前に、前記カカオ原料を密閉型粉砕機中で磨砕する磨砕工程を含み、
前記磨砕工程における前記カカオ原料がカカオニブである、チョコレートの製造方法。
【請求項5】
香気特徴の強いチョコレートを製造することができる、請求項に記載のチョコレートの製造方法。
【請求項6】
前記香気特徴が、フルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方である、請求項に記載のチョコレートの製造方法。
【請求項7】
前記香気特徴が少なくともフルーティ香である、請求項又はに記載のチョコレートの製造方法。
【請求項8】
前記香気特徴が少なくともフローラル香である、請求項のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
【請求項9】
前記チョコレートに含まれる香気成分が、酢酸イソアミル及び酢酸の少なくとも一方を含む、請求項に記載のチョコレートの製造方法。
【請求項10】
前記粉砕工程において、チョコレート原料すべてをまとめて前記密閉型粉砕装置中で粉砕する、請求項のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
【請求項11】
前記密閉型粉砕装置が、ボールミル、ストーンミル、ジェットミル、コロイドミル、レファイナーコンチェ、ディスクミル、又はビーズミルである、請求項10のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
【請求項12】
前記カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上をチョコレート中に残存させることができる、請求項11のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
【請求項13】
前記チョコレートに含まれる香気成分がリナロールを含む、請求項に記載のチョコレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気特徴の強いチョコレート及び香気特徴の強いチョコレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、人気のある食品として広く流通しており、近年、特定の成分を配合したり、成分の配合割合を調節したりすること等により、喫食者の嗜好にあわせて風味や食感を工夫した商品が開発されている(例えば、特許文献1~3等)。
【0003】
従来、チョコレートは、ローストしたカカオニブを磨砕してカカオマスを得る磨砕工程、カカオマスと副原料とを混合する混合工程、混合したチョコレート原料を微粒化する微粒化工程(リファイニング)、微粒化したチョコレート原料を練りあげる精練工程(コンチング)、チョコレート原料の温度を調節して結晶化させる調温工程(テンパリング)、チョコレート原料を型に入れ冷却して固化させる冷却固化工程等を経て製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-18087号公報
【文献】特開2017-221138号公報
【文献】特開2016-187322号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、種々の風味や食感を有するチョコレートを開発するため鋭意研究を重ねたところ、従来のチョコレートの製造方法では、磨砕工程において、グラインダー等の開放系の装置を用いてカカオニブをカカオマスに磨砕するため、カカオ原料に含まれる揮発性の香気成分が激しく飛散してしまうことを見出した。さらに、ロールレファイナー等を用いる微細化工程や精練工程も開放系で処理されることから、香気成分が飛散してしまうことを見出した。
その結果、チョコレートの原料として香気の強いカカオ豆を選択しても、その香気特徴を最大限に活かした、香気特徴が強いチョコレートを製造することは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、香気特徴の強い新規なチョコレート、及び香気特徴の強いチョコレートを製造するための新規なチョコレートの製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明によれば、以下の香気特徴の強い新規なチョコレート、及び香気特徴の強いチョコレートを製造するための以下の新規なチョコレートの製造方法を提供できる。
1.香気特徴が強いチョコレート。
2.前記香気特徴がフルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方である、1に記載のチョコレート。
3.前記香気特徴が少なくともフルーティ香である、1又は2に記載のチョコレート。
4.前記香気特徴が少なくともフローラル香である、1~3のいずれかに記載のチョコレート。
5.香気成分として酢酸イソアミルを含有する、1~4のいずれかに記載のチョコレート。
6.香気成分をSPMEファイバーで吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で測定したときに、前記酢酸イソアミルのピーク面積が27,000以上である、5に記載のチョコレート。
7.香気成分としてさらに酢酸を含有する、5又は6に記載のチョコレート。
8.香気成分をSPMEファイバーで吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で測定したときに、酢酸のピーク面積に対する酢酸イソアミルのピーク面積の比率が0.000710以上である、7に記載のチョコレート。
9.カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上を含有する、1~8のいずれかに記載のチョコレート。
10.少なくともカカオ原料と糖原料とを密閉型粉砕装置中で粉砕する工程を含む、チョコレートの製造方法。
11.香気特徴の強いチョコレートを製造することができる、10に記載のチョコレートの製造方法。
12.前記香気特徴が、フルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方である、11に記載のチョコレートの製造方法。
13.前記香気特徴が少なくともフルーティ香である、11又は12に記載のチョコレートの製造方法。
14.前記香気特徴が少なくともフローラル香である、11~13のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
15.香気成分が、酢酸イソアミル及び酢酸の少なくとも一方である、13に記載のチョコレートの製造方法。
16.前記粉砕工程において、チョコレート原料すべてをまとめて前記密閉型粉砕装置中で粉砕する、10~15のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
17.前記密閉型粉砕装置が、ボールミル、ストーンミル、ジェットミル、コロイドミル、レファイナーコンチェ、ディスクミル、又はビーズミルである、10~16のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
18.前記カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上をチョコレート中に残存させることができる、10~17のいずれかに記載のチョコレートの製造方法。
【0008】
本発明によれば、香気特徴の強い新規なチョコレート、及び香気特徴の強いチョコレートを製造するための新規なチョコレートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1及び比較例1のチョコレートと市販品のチョコレートについて酢酸イソアミルの分析結果を示す図である。
図2図2は、実施例1及び比較例1のチョコレートと市販品のチョコレートについて酢酸の分析結果を示す図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1で得られたチョコレート生地について香気成分(酢酸イソアミル及び酢酸)の分析結果を示す図であり、カカオ原料における酢酸イソアミル又は酢酸の量を100%としたときのチョコレート生地における酢酸イソアミル又は酢酸の残存率(%)を示す。
図4図4は、実施例2、3及び比較例7~10のチョコレートについて酢酸イソアミルの分析結果を示す図である。
図5図5は、実施例3及び比較例8のチョコレートについてリナロールの分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(香気特徴の強いチョコレート)
以下、本発明のチョコレートの好適な実施形態について、具体的に説明する。
【0011】
本発明のチョコレートは、香気特徴が強いことを特徴とするものである。本発明のチョコレートは、例えば後述する新規な製造方法を用いて製造することにより、主としてカカオ豆に由来する香気成分の放散を抑制することができ、香気特徴の強いチョコレートを提供することができる。
【0012】
一般的にチョコレートにおける香気特徴としては、例えば、フルーティ香、フローラル香、ナッティ香、ロースト香、カカオ香、等が挙げられる。これらのうち、フルーティ香、フローラル香といった香気は、主に、原料であるカカオ豆に由来する。ナッツ香、カカオ香といった香気は、原料であるカカオ豆に由来するだけでなく、カカオ原料を焙炒(ロースト)する焙炒工程等の工程によって発現させることができる成分がある。ロースト香は、焙炒工程等の製造工程の影響を大きく受ける。
いずれの香気も、その香気を発現する成分は揮発性が高いため、熱や環境の影響で飛散しやすい。製造工程において付加することができず、原料に由来する含量を維持することが特に求められる香気として、フルーティ香、フローラル香が挙げられる。
【0013】
本発明のチョコレートの一態様において、香気特徴は、フルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方である。本発明のチョコレートの別の態様において、香気特徴は、フルーティ香である。
【0014】
本発明のチョコレートの一態様は、カカオ原料中に含まれているフルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方を呈する成分が高含量で維持されているチョコレートである。また、本発明のチョコレートの一態様は、カカオ原料中に含まれている、フルーティ香を呈する成分、フローラル香を呈する成分、又は、フルーティ香を呈する成分及びフローラル香を呈する成分が高含量で維持されているチョコレートである。前記フルーティ香を呈する成分として、酢酸イソアミルが好ましい。また、前記フローラル香を呈する成分として、リナロールが好ましい。
【0015】
本発明のチョコレートの一態様は、香気成分として酢酸イソアミルを含有することが好ましい。また、本発明のチョコレートの一態様は、香気成分として、酢酸イソアミルと、さらに酢酸を含有することが好ましい。
【0016】
本発明において、香気成分の分析値は、チョコレートに含有される香気成分をSPMEファイバーで吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で測定したときに測定されるピーク面積を意味する。香気成分の分析値は、具体的には、チョコレートの試料2gを粉砕して、20mlバイアル瓶容器に封入し 、37℃で15分間保持した後、ヘッドスペースをSPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS)に30分間吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(カラム:極性カラム、カラムオーブン温度:40℃~220℃、昇温速度:3℃/分、キャリアーガス:He)で測定したときに測定されるピーク面積である。酢酸イソアミルのピークは、質量電荷比がm/z=87におけるピークであり、酢酸のピークは、質量電荷比がm/z=60におけるピークである。リナロールのピークは、質量電荷比がm/z=93におけるピークである。
【0017】
本発明のチョコレートの一態様は、香気成分として酢酸イソアミルを含有し、酢酸イソアミルの分析値が27,000以上であることを特徴とする。酢酸イソアミルの分析値は、好ましくは、30,000以上であり、より好ましくは、35,000以上である。また、本発明のチョコレートの別の態様は、好ましくは、香気成分として酢酸イソアミル及び酢酸を含有する。
【0018】
本発明のチョコレートの一態様は、香気成分としてリナロールを含有し、リナロールの分析値が、16,000以上、好ましくは、18,000以上、より好ましくは、20,000以上である。
【0019】
本発明のチョコレートの別の態様は、香気成分として酢酸イソアミル及び酢酸を含有し、酢酸の分析値に対する酢酸イソアミルの分析値の比率が0.000710以上であることを特徴とする。酢酸の分析値に対する酢酸イソアミルの分析値の比率は、好ましくは、0.000800以上であり、より好ましくは、0.000900以上であり、さらにより好ましくは、0.000950以上である。
酢酸イソアミルの分析値、酢酸の分析値、及びこれらの分析値の比率は、前述のとおり、ガスクロマトグラフィー質量分析法により測定することができる。
【0020】
本発明のチョコレートの一態様は、カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上を含有することが好ましく、より好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上含有する。
【0021】
(チョコレートの製造方法)
以下、本発明のチョコレートの製造方法の好適な実施形態について、具体的に説明する。
本発明のチョコレートの製造方法は、少なくともカカオ原料と糖原料とを密閉型粉砕機中で粉砕する工程を有することを特徴とするものである。本発明の製造方法によれば、主としてカカオ豆に由来する香気成分の放散を抑制することにより、香気特徴の強いチョコレートを製造することができる。
本発明のチョコレートは、例えば少なくともカカオ原料と糖原料とを密閉型粉砕機中で粉砕する工程を有することを特徴とする製造方法により製造することができる。本発明の製造方法によれば、主としてカカオ豆に由来する香気成分の放散を抑制することにより、香気特徴の強いチョコレートを製造することができる。
【0022】
従来の一般的なチョコレートの製造方法は、原料を混合する混合工程と、原料を微細化する微細化工程を少なくとも含み、さらに、混合工程の前に、カカオ原料を磨砕する磨砕工程を含む。従来の製造方法では、各工程で異なる複数の装置を用いて各工程が実施され、装置としては開放型の装置が一部の工程又は全工程で使用されてきた。
一方、本発明の製造方法では、密閉型の粉砕装置を用いて、少なくともカカオ原料と糖原料とを粉砕する粉砕工程を実施することにより、従来の製造方法では得ることができなかった、香気特徴が強いチョコレートを製造することができる。
【0023】
本発明において、カカオ原料としては、カカオ豆、カカオニブ、カカオマスが挙げられる。香気成分を多く含むカカオ原料としては、ベネズエラ、ドミニカ、マダガスカル、ブラジル、エクアドル、ペルー、サントメ・プリンシペ産、等のカカオ豆が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法の一態様においては、少なくともカカオ原料と糖原料とを密閉型粉砕機中で粉砕する工程の前に、カカオ原料を密閉型粉砕機中で磨砕する磨砕工程を含んでもよい。これにより、カカオ原料の磨砕と、磨砕されたカカオ原料と糖原料の粉砕を、一貫して密閉系で行うことができ、香気特徴が強いチョコレートを製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法の一態様においては、粉砕工程において、チョコレート原料すべてをまとめて密閉型粉砕装置中で粉砕してもよい。これにより、少ない工程で効率よくチョコレートを製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法においては、カカオ原料及び糖原料に加えて、当技術分野において既知の任意の原料を添加してもよい。この任意の原料としては、例えば、ココアバター、レシチン、乳化剤、等が挙げられる。
【0027】
本発明の製造方法において、密閉型粉砕装置とは、密閉された空間内で被処理物であるチョコレート原料を所望の粒度に微細化するための装置である。密閉空間で微細化することにより、原料に含まれる香気成分が大気に放散されてしまうのを防止し、製造されるチョコレートに強い香気特徴を付与することができる。
【0028】
本発明において使用できる密閉型粉砕装置としては、これらに限定されないが、例えば、ボールミル、ストーンミル、ジェットミル、コロイドミル、レファイナーコンチェ、ディスクミル、ビーズミル、等が挙げられる。チョコレートの喫食時に滑らかな食感を付与する観点から、粉砕処理により得られるチョコレート生地の粒子径D90を30μm以下にすることができれば、粉砕方式は特に限定されない。チョコレート生地の粒度分布及び粒子径D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができ、例えば、実施例に記載する方法により測定できる。
【0029】
本発明の製造方法によれば、カカオ原料中に含まれているフルーティ香及びフローラル香の少なくとも一方を呈する成分が、処理後においても高い含量で維持されているチョコレート生地を得ることができる。また、本発明の製造方法の一態様によれば、カカオ原料中に含まれている、フルーティ香を呈する成分、フローラル香を呈する成分、又は、フルーティ香を呈する成分及びフローラル香を呈する成分が、処理後においても高い含量で維持されているチョコレート生地を得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法の一態様によれば、フルーティ香の指標成分のひとつである酢酸イソアミルが高含量であるチョコレート生地を得ることができる。また、本発明の製造方法の一態様によれば、フルーティ香を感じやすくする成分である酢酸が高含量であるチョコレート生地を得ることができる。
【0031】
本発明の製造方法により得られたチョコレート生地から製造されるチョコレートは、原料であるカカオ豆が有するフルーティ香及びフローラル香が高含量で維持された、優れた品質を有する。前記フルーティ香の成分として、酢酸イソアミルが好ましい。前記フローラル香の成分として、リナロールが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によれば、カカオ原料中に含まれる香気成分の80%以上をチョコレート中に残存させることができ、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上残存させることができる。前記香気成分として、フルーティ香を呈する成分、及び/又はフローラル香を呈する成分が好ましい。
【実施例
【0033】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
表1に示すチョコレート原料の全量を密閉粉砕機(ボールミル)に投入し、混合した原料について粒子径D90が30μm以下となるまで磨砕して、チョコレート生地を得た。カカオマスは、ブラジル産カカオ豆由来のカカオニブを密閉環境下で粉砕することにより得た。
粒度の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、SALD-2200)により体積基準で行った。具体的には、粉砕したチョコレート原料を50℃の湯煎で融解し、0.1gをイソプロピルアルコール10g中に分散し、それを、イソプロピルアルコールを入れた測定セルに0.05g加え、測定用サンプルとした。測定波長は680nmとした。
得られたチョコレート生地を型に充填し、冷却した後、離型して、チョコレートを得た。
【0035】
【表1】
【0036】
比較例1
表1に示すチョコレート原料を使用し、従来の一般的な製造方法にしたがってチョコレートを製造した。具体的には、カカオマス、砂糖、レシチンの一部、及び乳化剤を加えてミキサーにより混合した後、ロールレファイナーで粒子径D90が30μm以下となるまで微細化し、ココアバターとレシチンの残部とを加えて撹拌混合することにより、チョコレート生地を得た。カカオマスは、ブラジル産カカオ豆由来のカカオニブを開放系のグラインダーを用いて粉砕することにより得たものである。粒度の測定は、実施例1と同様に行った。チョコレート生地を型に充填し、冷却した後、離型してチョコレートを得た。尚、グラインダー、ロールレファイナーは、非密閉型の装置を使用した。
【0037】
チョコレート生地及びチョコレートの評価
(1)香気成分の分析
実施例1と比較例1において、原料であるカカオマス又はカカオニブと粉砕処理後のチョコレート生地について、サンプリングした試料の香気成分を分析した。各試料2gをそれぞれ粉砕して、分析用の20mlバイアル瓶容器に封入し 、37℃で15分間保持した後、ヘッドスペースをSPME(固相マイクロ抽出)にて30分間吸着・濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)に供した。GC/MSの条件は以下のとおりである。
・SPMEファイバー:DVB/CAR/PDMS
・GC/MSカラム:極性カラム
・カラムオーブン温度:40℃~220℃、昇温速度:3℃/分
・キャリアーガス:He
【0038】
香気成分として、フルーティ香の指標成分のひとつとして挙げられる酢酸イソアミルと、フルーティ香を感じやすくする成分である酢酸について測定した。酢酸イソアミルの質量電荷比m/zは87、酢酸の質量電荷比m/zは60とした。
実施例1と比較例1について、酢酸イソアミルと酢酸のピーク面積を図1及び図2に示す。
カカオ原料(カカオマス又はカカオニブ)中の酢酸イソアミル又は酢酸の量(ピーク面積)を100%としたときの、チョコレート生地中の酢酸イソアミル又は酢酸の量(ピーク面積)の割合を算出し、残存率(%)として評価した。結果を図3に示す。
【0039】
(2)官能評価
実施例1と比較例1で得られたチョコレートについて、チョコレート専門パネル6名により官能評価を実施した。官能評価は、酸味、フルーティ香の2項目について、実施例1と比較例1で製造したチョコレートを-3点~+3点(0.5刻み)で評価し、パネル6名の評点の平均値を算出した。評点の基準は、「-3:非常に弱い」、「-2:弱い」、「-1:やや弱い」、「0:普通」、「+1:やや強い」、「+2:強い」、「+3:非常に強い」とした。パネルは、同じ試料については同じ評点をつけることができるように十分に訓練されており、評価の前にパネル全員の間で、酸味、フルーティ香という風味について、1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかを共通にした。結果を、表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
図3に示すとおり、本発明の一態様であるチョコレートを製造するための実施例1のチョコレート生地において、酢酸イソアミル及び酢酸の残存率は95%以上であった(それぞれ104%、96%)。一方、従来の製造方法により得られた比較例1のチョコレート生地において、酢酸イソアミルの残存率は49%、酢酸の残存率は75%であった。
本発明の一態様であるチョコレートを製造するための実施例1のチョコレート生地において、カカオ原料中の酢酸イソアミル及び酢酸はチョコレート生地中においても残存率80%以上の高含量で維持されていた。すなわち、フルーティ香とそれを感じやすくする成分の両方が保持されていた。一方、従来の製造方法により得られた比較例1のチョコレート生地においては、香気成分が製造工程の過程で飛散してしまい、酢酸イソアミル及び酢酸ともにチョコレート生地中における残存率は低かった。
また、本発明の一態様であるチョコレートを製造するための実施例1のチョコレート生地においては、フローラル香についても、上述したフルーティ香と同程度以上の残存率が達成される。後述する各実施例で得られるチョコレートにおいても、フローラル香及びフルーティ香を、実施例1と同程度以上の残存率で残存させることができる。
【0042】
官能評価により、実施例1により得られたチョコレートは、従来の製造方法により得られた比較例1のチョコレートよりも高いフルーティ香を有していると評価された。
【0043】
比較例2~6
市販のチョコレート商品のうち、カカオ分含量が高いチョコレート商品5種について、実施例1と同様に香気成分を分析した。香気成分として酢酸イソアミルと酢酸の含有量(ピーク面積)を測定し、実施例1及び比較例1と比較した。市販のチョコレート商品は以下のとおりである。
A社製品1、A社製品2、B社製品1、B社製品2、C社製品
【0044】
香気成分の含有量の分析値(ピーク面積)の結果を図1及び2に示す。図1及び2に示すとおり、本発明のチョコレートは、市販されているカカオ分含量が高いチョコレート商品よりも、酢酸イソアミル及び酢酸の含有量が明らかに高かった。
また、酢酸の含有量の分析値(ピーク面積)に対する酢酸イソアミルの含有量の分析値(ピーク面積)の比率を表3に示す。本発明のチョコレートは、市販されているカカオ分含量が高いチョコレート商品よりも、酢酸イソアミル分析値/酢酸分析値の比率が明らかに高かった。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例2
実施例1とは異なるドミニカ産のカカオ豆を用いて、実施例1と同様の配合及び工程によりチョコレートを得た。得られたチョコレートについて、実施例1と同様に香気成分を分析した。
【0047】
比較例7
実施例2と同様の原料を用いて、比較例1と同様にして従来の一般的な製造方法にしたがってチョコレートを製造した。得られたチョコレートについて、実施例1と同様に香気成分を分析した。
【0048】
実施例3
実施例1、2とは異なるペルー産のカカオ豆を用いて、実施例1と同様の配合及び工程によりチョコレートを得た。得られたチョコレートについて、実施例1と同様に香気成分を分析した。ただし、香気成分として、酢酸イソアミルと酢酸に加えて、リナロールについても測定した。リナロールの質量電荷比m/zは93とした。
【0049】
比較例8
実施例3と同様の原料を用いて、比較例1と同様にして従来の一般的な製造方法にしたがってチョコレートを製造した。得られたチョコレートについて、実施例1と同様に香気成分を分析した。ただし、実施例3と同様にして、酢酸イソアミルと酢酸に加えて、リナロールについても測定した。実施例3と比較例8について、リナロールのピーク面積を図5に示す。
【0050】
比較例9及び10
比較例2~6とは異なる、ペルー産カカオ豆がカカオ分として70%配合された市販チョコレート商品2種について、実施例1と同様に香気成分を分析した。
【0051】
香気成分(酢酸イソアミル)の含有量の分析値(ピーク面積)の結果を図4に、酢酸の含有量の分析値(ピーク面積)に対する酢酸イソアミルの含有量の分析値(ピーク面積)の比率を表4に示す。図4及び表4に示すとおり、本発明のチョコレートは、従来の一般的な製造方法により得られたチョコレート、及び、一般的に香気特徴が強いとされるペルー産カカオ豆が高含量で配合された市販チョコレート商品よりも、酢酸イソアミルの含有量が明らかに高く、さらに、酢酸イソアミル分析値/酢酸分析値の比率が明らかに高かった。
また、図5より、本発明のチョコレートである実施例3のチョコレート(リナロールのピーク面積=21,505)は、同じ配合として従来の一般的な製造方法により得られた比較例8のチョコレート(リナロールのピーク面積=14,179)よりも、リナロールの含有量が明らかに高かった。
【0052】
【表4】
【0053】
官能評価
実施例3と比較例8で得られたチョコレートについて、チョコレート専門パネル5名により官能評価を実施した。官能評価は、フローラル香について、実施例3と比較例8で製造したチョコレートを+1点~+7点(0.5刻み)で評価し、パネル5名の評点の平均値を算出した。評点の基準は、「+1:非常に弱い」、「+2:弱い」、「+3:やや弱い」、「+4:普通」、「+5:やや強い」、「+6:強い」、「+7:非常に強い」とした。パネルは、同じ試料については同じ評点をつけることができるように十分に訓練されており、評価の前にパネル全員の間で、フローラル香という風味について、1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかを共通にした。結果を、表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
官能評価により、実施例3により得られたチョコレートは、従来の製造方法により得られた比較例8のチョコレートよりも高いフローラル香を有していると評価された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、主としてカカオ原料に由来する香気特徴を保持した香気特徴の強いチョコレートを提供することができる。本発明のチョコレートは、喫食者の多様な嗜好性を満足させることができる。
本発明の製造方法は、製造過程において、主としてカカオ原料に由来する香気特徴が消失してしまうのを抑制することができ、香気特徴の強いチョコレートを製造することができる。本発明の製造方法により、喫食者の多様な嗜好性を満足させるチョコレートを提供することができる。
【0057】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。
図1
図2
図3
図4
図5