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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】試薬キット、測定キットおよび測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221003BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 501M
G01N33/543 525C
G01N33/543 575
G01N33/543 501J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020569705
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003296
(87)【国際公開番号】W WO2020158835
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2019015663
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】大内 亮
(72)【発明者】
【氏名】繁村 武尊
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004168(WO,A1)
【文献】特開2016-057145(JP,A)
【文献】特開平08-178921(JP,A)
【文献】特表2009-537018(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107015004(CN,A)
【文献】特開平09-104699(JP,A)
【文献】特開平10-282105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 33/543
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、
(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、
反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファー、
とを含む、血清アミロイドAの測定のための試薬キット。
【請求項2】
前記第一の粒子の平均粒径が、70nm以上500nm以下である、請求項1に記載の試薬キット。
【請求項3】
血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質により修飾され、かつ標識を有しない第二の粒子をさらに含む、請求項1または2に記載の試薬キット。
【請求項4】
前記第二の粒子の平均粒径が、70nm以上500nm以下である、請求項3に記載の試薬キット。
【請求項5】
前記標識が、蛍光色素を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の試薬キット。
【請求項6】
前記血清アミロイドAが、ネコ血清またはネコ血漿中の血清アミロイドAである、請求項1から5の何れか一項に記載の試薬キット。
【請求項7】
前記バッファーが、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸またはN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシンである、請求項1から6の何れか一項に記載の試薬キット。
【請求項8】
前記第一の結合物質が抗体である、請求項1から7の何れか一項に記載の試薬キット。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の試薬キットと、血清アミロイドAまたは前記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第三の結合物質が固定されている第一の金属膜が形成された基板とを含む、血清アミロイドAのための測定キット。
【請求項10】
前記基板に、血清アミロイドAと結合性を有さず、前記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第四の結合物質が固定された第二の金属膜がさらに形成されている、請求項9に記載の測定キット。
【請求項11】
血清アミロイドAを含む生体試料と、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファーとの混合液を調製する工程;
血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第三の結合物質が固定されている第一の金属膜が形成された基板の一端の注入口に、前記混合液を添加する工程;
前記混合液を前記基板上に流下させる工程;および、
前記第一の金属膜上の標識の情報を取得する工程、
を含む、生体試料中の血清アミロイドAの測定方法。
【請求項12】
前記混合液を調製する際に、前記生体試料が、生理食塩水によって4倍以上100倍以下の希釈倍率で希釈されている、請求項11に記載の血清アミロイドAの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清アミロイドAの測定のための試薬キット、血清アミロイドAのための測定キットおよび生体試料中の血清アミロイドAの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって検出対象物質の存在を確認する方法である。また、検出対象物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識された検出対象物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち検出対象物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
また、このような蛍光検出法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献1などに提案されている。これは、プラズモン共鳴を生じさせるため、透明な支持体上の所定領域に金属層を設けたセンサチップを備え、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属層形成面と反対の面側から、全反射角以上の所定の角度で励起光を入射させ、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光を増強させることによりシグナル/ノイズ(S/N)を向上させるものである。
【0004】
血清アミロイドA(Serum Amyloid A:SAAとも表記する)は、分子量約11,600の非常に疎水性の高いタンパク質で、生体に感染、腫瘍および外傷等の種々のストレスが加わり、それに起因して炎症が生じた際に、血中における濃度が鋭敏に増加するという性質をもっている。このため、しばしば炎症の程度を知るための炎症マーカーとして、血中のSAA濃度が免疫学的測定方法を用いて測定されている。
【0005】
しかし、SAAは疎水性が高いためか、通常血中ではほとんどが高比重リポタンパク質(high-density lipoprotein:HDL)と会合していることが知られている。SAAの抗原決定基はリポタンパク質の内部の外界と接触していない部分に隠されており、そのままでは抗体と反応できないことがある。したがって、免疫学的な測定に際して、隠れた抗原決定基を露出させるための前処理が必要となることが多い。例えば、特許文献2には、組織因子アポ蛋白の測定法においてHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が12以上である非イオン系界面活性剤を2~15重量%配合することが記載されている。
【0006】
また、一般的に抗原抗体反応に基づく定量測定法においては、極まれに対照法による定量値から大きく外れた測定値を示す検体(以下、乖離検体)が存在することがしばしば問題となる。乖離検体の問題としては、多数の検体の測定値と対照法による定量値との相関係数が1から外れてしまう問題(対照法との相関の悪化)と、1つの乖離検体(特に高値側に乖離する)による高値乖離(医師が診断を誤る一因となり得る)の問題がある。解離する原因は個々の乖離検体によって別であったり同じであったりする。一例として、特許文献3の段落0063には、テストエリア上にブロッキング剤として結合させたBSAと蛍光粒子側に結合させたBSAとの間を非特異反応的に架橋する抗BSA抗体のような物質が原因で、対照法からの乖離が発生することが記載されている。特許文献3には、この乖離検体に対しては、蛍光粒子の表面のブロッキング剤の一部をBSAからダミー抗体である抗CRP抗体に置き換えることが有力な改善方法であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-190880号公報
【文献】国際公開WO92/12429号
【文献】国際公開WO2017/150518号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
界面活性剤処理によって血清アミロイドAがHDLとの会合状態から脱し、反応部位が外界に露出することは特許文献2の記載から明らかである。しかし、表面プラズモン励起による蛍光検出法(SPF法)による測定系に、特許文献2に記載のように2~15重量%の非イオン系界面活性剤を添加すると、HDLからの解離は進む一方で抗原抗体反応が強く抑制され、シグナル強度が著しく低下してしまう問題が発生する。
【0009】
特許文献3に記載されている改善方法は有効であるが、このような方法でも乖離を防止することができない検体が存在し、この検体の乖離を改善することが望まれている。
【0010】
本発明の第一の課題は、血清アミロイドAのHDLからの解離を促進し、抗原抗体反応の反応を行わせることにより簡易的および迅速な血清アミロイドAの測定を可能とする、血清アミロイドAの測定のための試薬キット、測定キットおよび測定方法を提供することである。
また、本発明の第二の課題は、血清アミロイドAの測定において対照法から大きく乖離する検体に対して乖離を低減することができる、血清アミロイドAの測定のための試薬キット、測定キットおよび測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファーとを組み合わせて使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、
(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、
反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファー、
とを含む、血清アミロイドAの測定のための試薬キット。
[2] 上記第一の粒子の平均粒径が、70nm以上500nm以下である、[1]に記載の試薬キット。
[3] 血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質により修飾され、かつ標識を有しない第二の粒子をさらに含む、[1]または[2]に記載の試薬キット。
[4] 上記第二の粒子の平均粒径が、70nm以上500nm以下である、[3]に記載の試薬キット。
[5] 上記標識が、蛍光色素を含む、[1]から[4]の何れか一に記載の試薬キット。
[6] 上記血清アミロイドAが、ネコ血清またはネコ血漿中の血清アミロイドAである、[1]から[5]の何れか一に記載の試薬キット。
[7] 上記バッファーが、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸またはN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシンである、[1]から[6]の何れか一に記載の試薬キット。
[8] 上記第一の結合物質が抗体である、[1]から[7]の何れか一に記載の試薬キット。
[9] [1]から[8]の何れか一に記載の試薬キットと、血清アミロイドAまたは上記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第三の結合物質が固定されている第一の金属膜が形成された基板とを含む、血清アミロイドAのための測定キット。
[10] 上記基板に、血清アミロイドAと結合性を有さず、上記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第四の結合物質が固定された第二の金属膜がさらに形成されている、[9]に記載の測定キット。
[11] 血清アミロイドAを含む生体試料と、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファーとの混合液を調製する工程;
血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第三の結合物質が固定されている第一の金属膜が形成された基板の一端の注入口に、上記混合液を添加する工程;
上記混合液を上記基板上に流下させる工程;および、
上記第一の金属膜上の標識の情報を取得する工程、
を含む、生体試料中の血清アミロイドAの測定方法。
[12] 上記混合液を調製する際に、上記生体試料が、生理食塩水によって4倍以上100倍以下の希釈倍率で希釈されている、[11]に記載の血清アミロイドAの測定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明による試薬キット、測定キットおよび測定方法によれば、SAAを簡易的かつ迅速に免疫学的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、センサチップの概略図を示す。
図2図2は、センサチップの分解図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0016】
[試薬キット]
本発明の試薬キットは、
血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、
(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、
反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファー、
とを含む、血清アミロイドAの測定のための試薬キットである。
本発明の試薬キットは、上記の通り、第一の粒子と、非イオン性界面活性剤と、バッファーとを含むが、第一の粒子と非イオン性界面活性剤とバッファーとは混合物としてキットに含まれていてもよいし、別々にキットに含まれていてもよい。
本発明では特定のHLB値を有する界面活性剤を低濃度で配合することにより、界面活性剤を使用していても抗原抗体反応が阻害されず、十分な強度のSPFシグナルを得ることができる。
【0017】
(血清アミロイドA)
本発明における被検物質は、血清アミロイドA(SAA)である。SAAは炎症マーカーとして有用である。血清アミロイドAとしては、例えば、ネコ血清またはネコ血漿中の血清アミロイドAを挙げることができる。
【0018】
(界面活性剤)
非イオン性界面活性剤の特性は、当業界では一般的にHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)で表され、HLB値の計算方法にはいくつかの異なる方法がある。本発明においては、有機概念図(新版 有機概念図-基礎と応用 三共出版 1984年初版)に基づいた有機性値と無機性値を用いて、(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20の範囲であり、かつ、分子量が1000以下の範囲である非イオン性界面活性剤を使用することにより、本発明のSPF測定系において良好なシグナル強度が得られることがわかった。
【0019】
従来技術においては、好ましいHLB値を有する界面活性剤を使用することが知られているが、本発明ではHLB値だけでなく、界面活性剤分子の大きさも重要な因子となり、ある特定の範囲内であることが必須である。すなわち、血清アミロイドAをHDLから解離させるのに適したHLB値を持つだけでは不十分で、その分子量が大きすぎると、必然的に分子の体積が大きくなり、解離した後の抗原抗体反応をするために必要な血清アミロイドAへの抗体の接近が妨げられ、特に低濃度検体におけるシグナルの低下を引き起こすため、ある特定の大きさとなるような分子量の範囲内であることが必須であることが推定される。
【0020】
血清中ではSAAの大部分が高比重リポ蛋白質(HDL)と会合した状態で存在していることが知られている。そのため、血清アミロイドAと結合性を有する第一の結合物質および第三の結合物質に対する血清アミロイドAの認識部位がHDLに遮蔽されており、第一の結合物質および第三の結合物質が血清アミロイドAに結合できないという問題がある。本発明は、このような現象を解決するために、界面活性剤を用いて血清アミロイドAをHDLから解離させることにより、正確に血清中のSAAを定量することが可能になる。
【0021】
本発明において使用する界面活性剤は、分子量1000以下の非イオン性界面活性剤である。非イオン性界面活性剤の分子量が1000を超えると、HDLと同じように検体として認識される部位を遮蔽してしまう場合があり、正確にSAAの測定ができなくなる場合があることから、分子量が1000以下の非イオン性界面活性剤を使用する。界面活性剤の分子量の下限は、好ましくは200以上であり、より好ましくは300以上である。界面活性剤の分子量の上限は、好ましくは900以下であり、より好ましくは800以下であり、さらに好ましくは700以下であり、特に好ましくは600以下である。
【0022】
本発明においては、結合物質の結合性に比較的影響を及ぼさない非イオン性界面活性剤を用いる。イオン性界面活性剤の場合には、生体試料中の電荷を有する基と相互作用することにより測定に影響を及ぼす場合があり、SAAを正確に測定することが難しくなることから、本発明においては非イオン性界面活性剤を用いる。非イオン性界面活性剤は、別の呼称として、ノニオン性界面活性剤と表記される場合がある。陰イオン系の界面活性剤はアニオン性界面活性剤、陽イオン系の界面活性剤はカチオン性界面活性剤、両性イオン系の界面活性剤はベタインと記載されることがある。本発明では、ノニオン性、即ち、非イオン性界面活性剤が用いられる。具体的な非イオン性界面活性剤としては、エーテル型の界面活性剤が好ましい。
【0023】
界面活性剤としては、疎水性基を有する単糖類または疎水性基を有する二糖類も好ましい。疎水性基を有する単糖類または疎水性基を有する二糖類としては、より好ましくは、グルコース骨格またはマルトース骨格を有する化合物である。グルコース骨格またはマルトース骨格を有する化合物としては、下記式(2)または下記式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【化1】
式中、R11は、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアルケニルオキシ基、置換されていてもよいアルキニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルチオ基、置換されていてもよいアルケニルチオ基、置換されていてもよいアルキニルチオ基を示し、R12、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に、水素原子、または置換されていてもよい炭化水素基を示す。但し、R12、R13、R14およびR15のうち少なくとも3つは水素原子である。
式中、R21は、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアルケニルオキシ基、置換されていてもよいアルキニルオキシ基、置換されていてもよいアルキルチオ基、置換されていてもよいアルケニルチオ基、置換されていてもよいアルキニルチオ基を示し、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28はそれぞれ独立に、水素原子、または置換されていてもよい炭化水素基を示す。但し、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28のうち少なくとも3つは水素原子である。
【0024】
式(2)または式(3)で表される化合物のさらに好ましい例としては、さらに下記式(2A)または下記式(3A)で表される化合物を挙げることができる。
【化2】
【0025】
【化3】
式中、R11およびR21は、式(2)および式(3)における定義と同義である。
【0026】
式(2A)で表される化合物としては、以下の界面活性剤を使用することが好ましい。
n-オクチル-β-D-グルコシド(同仁化学社製O001)。式(2A)におけるR11がオクチルオキシ基である化合物。
【0027】
式(3A)で表される化合物としては、以下の界面活性剤を使用することが好ましい。
n-ドデシル-β-D-マルトシド(同仁化学社製D316)
n-デシル-β-D-マルトシド(同仁化学社製D382)
【0028】
炭化水素基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基およびアルキニルチオ基はそれぞれ置換されていてもよいが、置換基としては、下記の置換基群Aに記載の置換基が挙げられる。置換基群Aの置換基は、置換基群Aの置換基によりさらに置換されていてもよい。
置換基群A:
スルファモイル基、シアノ基、イソシアノ基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロ基、ニトロシル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、カルバモイル基、アシル基、アルデヒド基、カルボニル基、アリール基、アルキル基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、エテニル基、エチニル基、シリル基、およびトリアルキルシリル基(トリメチルシリル基等)。
【0029】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を挙げることができる。炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、一般的には1~20であり、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~12である。
アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基およびアルキニルチオ基の炭素数は特に限定されないが、一般的には1~20であり、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~12である。
【0030】
(バッファー(緩衝液))
本発明では、乖離検体のなかで本発明の後述する第二の粒子だけでは乖離が改善しないものに対して乖離を改善するために、反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファーを用いることを特徴とする。本発明の測定値の対照法との乖離は抗原抗体反応における様々な夾雑物質によって起こっていると考えられ、そのメカニズムも個々に異なる。従って、例えば夾雑物質との反応性が反応のpHによって変化するとの考えに基づき、抗原抗体反応に影響を及ぼさなくなるようにpHを調整することで本課題を達成した。
【0031】
本発明に用いるバッファーとしては、グッドバッファーが好ましく、反応液のpHを5.5~7.0、または8.5~9.0に調整可能なものが好ましく用いられる。反応液のpHを5.5~7.0に調整可能なものとしては、
MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、
ADA(N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸)、
PIPES(ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)セスキナトリウム塩一水和物)、
ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、
Bis-Tris(ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン)、
MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)、
BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、
MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)、
TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、
HEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸)
が好ましく、MESが特に好ましく用いることができる。
反応液のpHを8.5~9.0に調整可能なものとしては、
POPSO(ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)二水和物)、
HEPPSO(2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸)一水和物)、
EPPS(3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸)、
Tricine(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン)、
Bicine(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)、
TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)
CHES(N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸)
が好ましく、Bicineが特に好ましく用いることができる。
【0032】
(第一の結合物質)
本発明で用いる第一の結合物質は、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する物質である。第一の結合物質としては、抗体を使用できるが、これに限定されるものではない。好ましくは、第一の結合物質は抗体である。第一の結合物質が抗体である場合は、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する抗体として、例えば、血清アミロイドAによって免疫された動物の血清から調製する抗血清や、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、血清アミロイドAによって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、またはFv]などを用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。さらに、その抗体がキメラ抗体などの場合のように、修飾を加えられたものでもよいし、また市販の抗体でも、動物血清や培養上清から公知の方法により調製した抗体でも使用可能である。
【0033】
抗体は、その動物種やサブクラス等によらず使用できる。例えば、本発明に用いることが可能な抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ウシ、ニワトリなど免疫反応が起こり得る生物に由来する抗体、具体的には、マウスIgG、マウスIgM、ラットIgG、ラットIgM、ハムスターIgG、ハムスターIgM、ウサギIgG、ウサギIgM、ヤギIgG、ヤギIgM、ヒツジIgG、ヒツジIgM、ウシIgG、ウシIgM、トリIgY等であり、ポリクローナルもしくはモノクローナルのどちらも使用可能である。
【0034】
特に、静電相互作用により血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質としては、抗血清アミロイドA抗体が好ましく用いられる。本発明ではサンドイッチ方式を選択することが好ましく、この場合には、ペアとなる抗体を基板に被覆する必要があるが、基板および第一の粒子上の両方に、これらの抗SAAモノクローナル抗体を用いることが可能である。
【0035】
(第一の粒子)
本発明で用いる第一の粒子は、上記した第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する粒子である。
第一の粒子は、乾燥粒子であることが好ましいが、特に限定はされない。第一の粒子としては、免疫測定に通常用いられ得る粒子として、例えば、ポリスチレンビーズなどの高分子粒子、ガラスビーズ等のガラス粒子を用いることができる。第一の粒子の材質の具体例としては、スチレン、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ブタジエン、塩化ビニル、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどのモノマーを用いた高分子、または2つ以上のモノマーを用いた共重合体などの合成高分子があり、これらを均一に懸濁させたラテックスが好ましい。また、その他の有機高分子粉末や無機物質粉末、微生物、血球や細胞膜片、リポソームなどが挙げられる。
【0036】
ラテックス粒子を使用する場合、ラテックスの材質の具体例としては、ポリスチレン、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。ラテックスとしては、単量体としてスチレンを少なくとも含む共重合体が好ましく、スチレンと、アクリル酸またはメタクリル酸との共重合体が特に好ましい。ラテックスの作製方法は特に限定されず、任意の重合方法により作製することができる。但し、抗体標識の際に界面活性剤が存在すると抗体固定化が困難となるため、ラテックスの作製には、無乳化剤乳化重合、即ち界面活性剤などの乳化剤を用いない乳化重合が好ましい。
【0037】
第一の粒子は標識を有する。標識は、蛍光を発することが好ましい。重合により得られたラテックス自体が蛍光性である場合には、そのまま蛍光ラテックス粒子として使用することができる。重合により得られたラテックスが非蛍光性の場合には、ラテックスに蛍光物質(蛍光色素など)を添加することによって、蛍光ラテックス粒子を作製することができる。即ち、蛍光ラテックス粒子は、水および水溶性有機溶剤を含むラテックス粒子の溶液に蛍光色素を添加して攪拌することなどにより、蛍光色素をラテックス粒子の内部に含浸させることにより製造することが可能である。
【0038】
標識を有する第一の粒子としては、蛍光色素を含有したリポゾ-ムやマイクロカプセル等を蛍光粒子として使用することもできる。蛍光発色は、紫外光等を吸収して励起し、基底状態に戻る際に放出されるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、黄緑(励起波長505nm/放出波長515nm、以下同じ)、青(350~356nm/415~440nm)、赤(535~580nm/575~605nm)、オレンジ(540nm/560nm)、レッド・オレンジ(565nm/580nm)、クリムゾン(625nm/645nm)、ダークレッド(660nm/680nm)などの蛍光発色が用いられ得る。これらの蛍光を発する蛍光粒子は、例えば、Invitrogen社から入手可能であり、同社においてFluoSpheres(登録商標)の商品名で市販されている。
【0039】
標識を有する第一の粒子の粒径は、平均粒径として定義される。第一の粒子の平均粒径は、特に限定されず、好ましい範囲は、粒子の材質や血清アミロイドAを定量する濃度範囲、測定機器などによって異なるが、70nm以上500nm以下であることが好ましく、70nm以上300nm以下であることがより好ましく、80nm以上250nm以下であることがさらに好ましく、90nm以上200nm以下であることが特に好ましい。
【0040】
本発明に用いられる粒子の平均粒径は、市販の粒度分布計等で計測することが可能である。粒度分布の測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されているが、これらの測定法の中で、動的光散乱法で計測することが好ましく、本発明では、平均粒径は、25℃にて、粘度0.8872CP(0.8872mPa・s)、水の屈折率1.330の条件で測定したメジアン径(50%径、d50)として求めるものとする。
【0041】
本発明で用いる第一の粒子は、上記した第一の結合物質により修飾されている。標識を有する第一の粒子に、第一の結合物質を結合するための方法は特に限定されない。例えば、特開2000-206115号公報やモレキュラープローブ社FluoSpheres(登録商標)ポリスチレンマイクロスフィアF8813に添付のプロトコールなどに記載されており、免疫凝集反応用試薬を調製する公知の方法がいずれも使用可能である。また、抗体などの結合物質を粒子に固定化する方法としては、物理吸着を用いた方法、および共有結合による化学結合を用いた方法、のいずれの方法も採用可能である。抗体などの結合物質を粒子に固定させた後に結合物質が被覆されていない粒子表面を覆うブロッキング剤として、公知の物質、例えば、BSA(ウシ血清アルブミン)やスキムミルク、カゼイン、大豆由来成分、魚由来成分、ポリエチレングリコールなどや、これらの物質やこれらと性質が同じである物質を含む市販の免疫反応用ブロッキング剤などが使用可能である。これらのブロッキング剤は、必要に応じて熱や酸・アルカリ等により部分変性などの前処理を施すことも可能である。
【0042】
(第二の結合物質)
本発明の試薬キットはさらに、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質により修飾され、かつ標識を有しない第二の粒子を含んでいてもよい。
血清アミロイドAを含む陽性となる被検試料だけでなく、血清アミロイドAを含まない陰性の被検試料に対しても反応して陽性となる被検試料が存在しており、擬陽性の解決が課題として認識されている。このような擬陽性を示す原因は明確にはなっていないが、血清中に含まれる何らかの因子が存在して非特異反応を起こすことが原因の一つではないかと考えられている。本発明では、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質により修飾され、かつ標識を有しない第二の粒子を併用することで、このような問題を解決することが好ましい。
【0043】
第二の結合物質としては、血清アミロイドAと特異的な結合性を有さない物質を使用することができ、上記したような擬陽性を示す原因物質に結合する可能性のある物質を使用することが好ましく、さらに第一の結合物質に対して親和性を有しない化合物を使用することが好ましい。第二の結合物質としては、抗体、あるいは抗体に対して結合するタンパク質(Protein A、Protein G)などを使用することができ、抗体が好ましい。例えば、第二の結合物質が抗体である場合には、その抗原によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、血清アミロイドAによって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、またはFv]などを用いることが可能である。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。さらに、その抗体がキメラ抗体などの場合のように、修飾を加えられたものでもよいし、また市販の抗体でも、動物血清や培養上清から公知の方法により調製した抗体も使用可能である。本発明では、第二の結合物質として、特に抗CRP抗体を使用する態様が好ましい。
【0044】
(第二の粒子)
第二の粒子は、標識を有しない。また第二の粒子は乾燥粒子であることが好ましいが、特に限定されない。
第二の粒子としては、免疫測定に通常用いられ得る粒子として、例えば、ポリスチレンビーズなどの高分子粒子、ガラスビーズ等のガラス粒子を用いることができる。第二の粒子の材質の具体例としては、スチレン、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ブタジエン、塩化ビニル、酢酸ビニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどのモノマーを用いた高分子、または2つ以上のモノマーを用いた共重合体などの合成高分子があり、これらを均一に懸濁させたラテックスが好ましい。また、その他の有機高分子粉末や無機物質粉末、微生物、血球や細胞膜片、リポソームなどが挙げられる。
【0045】
ラテックス粒子を使用する場合、ラテックスの材質の具体例としては、ポリスチレン、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。ラテックスとしては、単量体としてスチレンを少なくとも含む共重合体が好ましく、スチレンと、アクリル酸またはメタクリル酸との共重合体が特に好ましい。ラテックスの作製方法は特に限定されず、任意の重合方法により作製することができる。但し、抗体標識の際に界面活性剤が存在すると抗体固定化が困難となるため、ラテックスの作製には、無乳化剤乳化重合、即ち界面活性剤などの乳化剤を用いない乳化重合が好ましい。
【0046】
第二の結合物質で結合された第二の粒子の粒径は、平均粒径として定義される。第二の粒子の平均粒径は、粒子の材質や血清アミロイドAを定量する濃度範囲、測定機器などによって異なるが、70nm以上500nm以下であることが好ましく、100nm以上200nm以下であることがより好ましく、120nm以上180nm以下であることがさらに好ましく、130nm以上170nm以下であることが特に好ましい。
第一の粒子と第二の粒子の使用比率については、第一の粒子に対する第二の粒子の質量比が1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、2~6であることが更に好ましい。
【0047】
[測定キット]
本発明の測定キットは、上記した本発明の試薬キットと、血清アミロイドAまたは上記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第三の結合物質(即ち、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第三の結合物質、または上記第一の結合物質と特異的な結合性を有する第三の結合物質)が固定されている第一の金属膜が形成された基板とを含む。上記基板には、血清アミロイドAと結合性を有さず、第一の結合物質と特異的な結合性を有する第四の結合物質が固定された第二の金属膜がさらに形成されていてもよい。
【0048】
(第三の結合物質)
第三の結合物質は、血清アミロイドAまたは第一の結合物質と特異的な結合性を有する物質である限り特に限定されないが、好ましい例としては、抗原、抗体、またはこれらの複合体が挙げられ、抗体を用いることが好ましい。第三の結合物質が抗体である場合は、血清アミロイドAに対して特異性を有する抗体として、例えば、血清アミロイドAによって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、血清アミロイドAによって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、またはFv]などを用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。さらに、その抗体がキメラ抗体などの場合のように、修飾を加えられたものでもよいし、また市販の抗体でも、動物血清や培養上清から公知の方法により調製した抗体でも使用可能である。
【0049】
抗体は、その動物種やサブクラス等によらず使用できる。例えば、本発明に用いることが可能な抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ウシ、ニワトリなど免疫反応が起こり得る生物に由来する抗体、具体的には、マウスIgG、マウスIgM、ラットIgG、ラットIgM、ハムスターIgG、ハムスターIgM、ウサギIgG、ウサギIgM、ヤギIgG、ヤギIgM、ヒツジIgG、ヒツジIgM、ウシIgG、ウシIgM、トリIgY等であり、ポリクローナルもしくはモノクローナルのどちらも使用可能である。断片化抗体は、少なくとも1つの抗原結合部位を持つ、完全型抗体から導かれた分子であり、具体的にはFab、F(ab’)2等である。これらの断片化抗体は、酵素あるいは化学的処理によって、もしくは遺伝子工学的手法を用いて得られる分子である。
【0050】
第一の結合物質と特異的な結合性を有する第三の結合物質としては、特に限定されないが、好ましい例としては、抗原、抗体、またはこれらの複合体が挙げられる。抗体の調製方法および抗体の種類は、上記した内容と同様である。
【0051】
(第四の結合物質)
第四の結合物質は、血清アミロイドAと結合性を有さず、第一の結合物質と特異的な結合性を有する物質である。第四の結合物質としては、例えば、第一の結合物質(抗体)に対する抗体、結合物質(抗体)に対して結合するタンパク質(Protein A、Protein G)など、第一の結合物質に対して親和性を持つ化合物を使用することが好ましく、中でも更に好ましくは、抗体を使用することができる。抗体の調製方法および抗体の種類は、第三の結合物質について記載した内容と同様である。また、標識を有する第一の粒子に結合した第一の結合物質の一部が、第四の結合物質とリガンド-非リガンドの関係となる化合物を好ましく用いることができる。
【0052】
(結合物質を基板に固定化する方法)
抗体などの第三の結合物質および第四の結合物質を基板に固定化する方法は、例えば、Nunc社の提供するTech Notes Vol.2-12などに記載されており、一般的なELISA(酵素結合免疫吸着法)試薬を調製する公知の方法がいずれも使用可能である。また、基板上に自己組織化単分子膜(SAM)などを配することによる表面修飾を施しても良く、結合物質としての抗体を基板に固定化する方法としては、物理吸着を用いた方法、および共有結合による化学結合を用いた方法のいずれの方法も採用可能である。抗体を基板に固定させた後に抗体が被覆されていない基板表面を覆うブロッキング剤として、公知の物質、例えば、BSA(ウシ血清アルブミン)やスキムミルク、カゼイン、大豆由来成分、魚由来成分、ポリエチレングリコールなどや、これらの物質やこれらと性質が同じである物質を含む市販の免疫反応用ブロッキング剤などが使用可能である。これらのブロッキング剤は、必要に応じて熱や酸・アルカリ等により部分変性などの前処理を施すことも可能である。
【0053】
(基板)
本発明で用いる基板は、金属膜が形成された基板であり、その形態は特に限定されないが、後述する表面プラズモン励起による蛍光検出法(SPF法)を行う場合には、後述する流路、および表面に反応部位である金属膜を有する基板を使用することが好ましい。金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るような物質を用いることができる。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の金属が挙げられ、特に金が好ましい。上記の金属は単独または組み合わせて使用することも可能である。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。金属膜の膜厚は特に制限はないが、例えば、0.1nm以上500nm以下であるものが好ましく、更には、1nm以上200nm以下であるものが好ましく、特に1nm以上100nm以下であるものが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上、10nm以下であるのが好ましい。
【0054】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができるが、基板への金属膜の良好な付着性を実現するために、スパッタリング法により金属膜を形成することが好ましい。
【0055】
金属膜は、好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置されている」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む。本発明で使用することができる基板としては例えば、一般的な光学ガラスの一種であるBK7(ホウ珪酸ガラス)等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。SPF法による蛍光検出のための基板の一例としては、ポリメチルメタクリレート上に、金膜をスパッタリング法で作製した基板などを挙げることができる。
【0056】
[血清アミロイドAの測定方法]
本発明による生体試料中の血清アミロイドAの測定方法は、
血清アミロイドAを含む生体試料と、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質により修飾され、かつ標識を有する第一の粒子と、(無機性値/有機性値)×10で定義されるHLB値が17~20であり、かつ分子量が1000以下である少なくとも一種の非イオン性界面活性剤と、反応液のpHを5.5~7.0または8.5~9.0に調整可能なバッファーとの混合液を調製する工程;
血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第三の結合物質が固定されている第一の金属膜が形成された基板の一端の注入口に、上記混合液を添加する工程;
上記混合液を上記基板上に流下させる工程;および、
上記第一の金属膜上の標識の情報を取得する工程、
を含む。
【0057】
生体試料としては、被検物質である血清アミロイドAを含む可能性のある試料である限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料、特には動物(特に、ネコ、イヌ、またはヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、または喀痰)若しくは排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、粘膜や皮膚などを挙げることができる。
【0058】
非イオン性界面活性剤は、SAAを含む生体試料の前処理に使用される。前処理液としては、事前に界面活性剤を含む液を準備し、検体液に混合して使用する使用方法や、生体試料液そのものに、乾燥した固形分の界面活性剤を添加して、検体液に溶かしこむ使用方法が用いられる。この場合、生体試料液と界面活性剤を混合した混合液中の界面活性剤の濃度としては、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上2質量%以下が特に好ましい。濃度が、0.01質量%以上であると有効にSAAをHDLから分離することが可能となり、濃度が10質量%以下であると、界面活性剤の影響を受けにくい状態で、標識を有する第一の粒子上の第一の結合物質や、あるいは基板上の第一の金属膜上に固定された第二の結合物質と、SAAとが反応することが可能となる。
【0059】
上記混合液は、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質により修飾された第二の粒子をさらに含んでいてもよい。
また本発明による血清アミロイドAの測定方法は、上記混合液を、血清アミロイドAと結合性を有さず、上記第一の結合物質に対して結合性を有する第四の結合物質が固定された第二の金属膜に接触させる工程と、上記第二の金属膜から上記標識に応じたシグナルを検出する工程と、上記第二の金属膜から検出したシグナルを用いて上記第一の金属膜から検出したシグナルを補正する工程とをさらに含んでいてもよい。
【0060】
(測定方法)
本発明の測定方法は、血清アミロイドAの存在の有無の検出や血清アミロイドAの量の測定(すなわち、定量)などを含む、最も広い概念として解釈される。本発明の測定方法の具体的な実施態様としてはサンドイッチ法または競合法が挙げられ、サンドイッチ法が好ましい。
【0061】
<サンドイッチ法>
サンドイッチ法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により血清アミロイドAを測定することができる。まず、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質、および血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第三の結合物質を予め用意しておく。第一の結合物質を、標識を有する第一の粒子に結合させて、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質で修飾された第一の粒子を作製する。次いで第三の結合物質を用意し、基板上に固定して反応部位(テストエリア)とする。また、第四の結合物質を用意し、基板上に固定してコントロールエリアとする。別途、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質を用意し、標識を有さない第二の粒子に結合させて、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質で修飾された標識を有しない第二の粒子を作製する。上記の第一の粒子と、第二の粒子を混合して容器に収納し、乾燥させる。血清アミロイドAを含む可能性のある被検試料(またはその抽出液)と、第一の粒子と第二の粒子の混合物と、界面活性剤とを混合し、この混合した液を基板に適用し、基板上の流路上を展開させて反応部位に接触させる。被検試料中に血清アミロイドAが存在する場合には、反応部位で、血清アミロイドAと、第一の粒子に結合した第一の結合物質との間、および血清アミロイドAと反応部位上の第三の結合物質との間で反応(抗原および抗体を用いた場合には、抗原抗体反応)が起こり、血清アミロイドAの量に応じた第一の粒子が反応部位上に固定される。サンドイッチ法では、反応部位上に固定した第三の結合物質と、血清アミロイドAとの反応、および血清アミロイドAと第一の粒子に結合している第一の結合物質との反応が終了した後、基板上のテストエリアおよびコントロールエリアで結合しなかった第一の粒子を除去する目的で、洗浄を行うこともできる。次いで反応部位に結合した第一の粒子からのシグナル強度を検出することで、正確な血清アミロイドAの濃度を測定することができる。なお、蛍光強度と血清アミロイドAの濃度は、正の相関関係がある。
【0062】
<競合法>
競合法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により血清アミロイドAを測定することができる。競合法は、サンドイッチ法でアッセイすることができない低分子化合物の抗原を検出する手法として当業界においてよく知られている。まず、血清アミロイドAと特異的な結合性を有する第一の結合物質と、血清アミロイドAと特異的な結合性を有しない第二の結合物質を予め調製する。次いで第一の結合物質を第一の粒子に結合させ、第二の結合物質を第二の粒子に結合させる。また、第一の結合物質に対して結合性を有する、血清アミロイドAそのもの、または血清アミロイドAと類似な部位を持ち血清アミロイドAと同様の第一の結合物質に対するエピトープを持つ化合物を基板上に固定し反応部位とする。次に、第一の粒子と、第二の粒子を混合して容器に収納し、乾燥させる。血清アミロイドAを含む可能性のある被検試料(またはその抽出液)と、第一の粒子と第二の粒子の混合物と、界面活性剤を混合し、基板上の流路上を展開させて反応部位に接触させる。被検試料中に血清アミロイドAが存在しない場合には、第一の粒子に結合した第一の結合物質と、反応部位上に固定した第一の結合物質に対して結合性を有する血清アミロイドAそのものまたは血清アミロイドAと同様の第一の結合物質抗体に対するエピトープを持つ類似化合物とにより、基板上で反応が起こる。一方、血清アミロイドAが存在する場合には、第一の結合物質に血清アミロイドAが結合するため、第一の結合物質に対して結合性を有する、血清アミロイドAそのもの、または血清アミロイドAと類似な部位を持ち血清アミロイドAと同様の第一の結合物質抗体に対するエピトープを持つ化合物との、反応部位上における反応が阻害され、標識を有する第一の粒子が反応部位上へ固定することが阻害される。競合法では、予め、血清アミロイドAの濃度が異なる血清アミロイドAの量が既知である試料を複数用意し、この試料および結合物質標識蛍光粒子を反応部位上に接触させつつ、反応部位からの蛍光シグナルを異なる複数の時刻で測定する。この複数の測定結果から、各血清アミロイドA濃度において、蛍光量の時間変化(傾き)を求める。この時間変化をY軸、血清アミロイドA濃度をX軸としてプロットし、最小二乗法等の適宜ふさわしいフィッティング方法を用いて、蛍光量の時間変化に対する血清アミロイドAの濃度の検量線を取得する。このように取得した検量線に基づき、目的とする被検試料を用いた蛍光量の時間変化の結果から、被検試料に含まれる血清アミロイドAの量を定量することができる。
【0063】
(流路)
本発明の好ましい態様においては、血清アミロイドAを含む可能性のある被検試料(またはその抽出液)と、標識を有する第一の粒子と、界面活性剤と、さらに所望により第二の粒子とを混合した混合物を調製する。この混合物を基板上に適用し、流路に展開することができる。流路とは、被検試料と、標識を有する第一の粒子(および所望により第二の粒子)とを反応部位まで流下する通路であれば、特に制限はない。好ましい流路の態様としては、標識を有する第一の粒子(および所望により第二の粒子)を含む被検試料液を点着する点着口、第三の結合物質が固定化された反応部位としての金属薄膜、および金属薄膜を越えて流路が存在し、被検試料が、金属薄膜上を通過できる構造を有するものである。好ましくは、金属薄膜に対して、点着口とは反対側に、吸引口を設けることができる。
【0064】
(標識に応じたシグナルを検出する方法)
本発明においては、標識に応じたシグナルを検出する。上記の通り標識は蛍光を発することが好ましく、この場合には、蛍光を検出することにより、標識に応じたシグナルを検出することができる。蛍光の検出方法としては、例えば、蛍光強度を検出することができる機器、具体的には、マイクロプレートリーダー、または表面プラズモン励起による蛍光検出法(SPF法)を行うためのバイオセンサーなどを用いて蛍光強度を検出することが好ましい。蛍光強度の検出は、通常、抗原抗体反応後一定時間、例えば、数分~数時間後に終了する。免疫複合体の形成の度合いを蛍光強度として検出することにより、蛍光強度と血清アミロイドAの濃度の関係から、血清アミロイドAの濃度を定量することができる。なお、蛍光の測定の形態は、プレートリーダー測定でもよいし、フロー測定でもよい。なお、SPF法は、落射励起による蛍光検出法(落射蛍光法)よりも高感度に測定することができる。
【0065】
表面プラズモン蛍光(SPF)バイオセンサーとしては、例えば、特開2008-249361号公報に記載されているような、所定波長の励起光を透過させる材料から形成された光導波路と、この光導波路の一表面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを光導波路に通し、上記光導波路と金属膜との界面に対して表面プラズモンを発生させる入射角で入射させる光学系と、上記表面プラズモンによって増強されたエバネッセント波によって励起されたことによって発生する蛍光を検出する蛍光検出手段とを備えたセンサーを用いることができる。
【0066】
(血清アミロイドAの量の測定方法)
本発明におけるSPF法での血清アミロイドAの定量方法の一例としては、以下の方法により血清アミロイドAを定量することができる。具体的には、各濃度既知の血清アミロイドAを含む試料を準備し、蛍光を検出する部位を流下させつつ、蛍光検出部位からの蛍光シグナルを異なる複数の時刻で測定する。この複数の測定結果から、各血清アミロイドA濃度において、蛍光量の時間変化(傾き)を求める。この時間変化をY軸、血清アミロイドA濃度をX軸としてプロットし、最小二乗法等の適宜ふさわしいフィッティング方法を用いて、蛍光量の時間変化に対する血清アミロイドA濃度の検量線を取得する。光シグナルシステムとしては、血清アミロイドAごとに対応する検量線に基づき、目的とする被検試料の血清アミロイドA量を特定することができる。
【0067】
本発明における表面プラズモン励起による蛍光検出(SPF)系は、基板上の金属薄膜上に固定化された血清アミロイドAの量に依存した蛍光物質からの蛍光を検出するアッセイ方法であり、溶液中での反応の進行により、光学的な透明度の変化を、例えば濁度として検出する、いわゆるラテックス凝集法とは異なる方法である。ラテックス凝集法では、ラテックス試薬中の抗体感作ラテックスと検体中の抗原が、抗体反応により結合し、凝集する。この凝集塊は時間と共に増大し、この凝集塊に近赤外光を照射して得られた単位時間当たりの吸光度変化から、抗原濃度を定量化する方式が、ラテックス凝集法である。本発明では、ラテックス凝集法に比べて、非常に簡便な血清アミロイドAの検出方法を提供できる。
【0068】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下の化学式においてEtはエチルを示す。
【実施例
【0069】
以下の界面活性剤を使用した。
D316:n-ドデシル-β-D-マルトシド(同仁化学社製)、下記式(A)においてRがドデシルオキシ基である化合物
D382:n-デシル-β-D-マルトシド(同仁化学社製)、下記式(A)においてRがデシルオキシ基である化合物
【化4】
【0070】
O393:n-オクチル-β-D-マルトシド (同仁化学社製)
【化5】
【0071】
ラウレス10:POE(10)ラウリルエーテル(日本エマルジョン社製EMALEX(登録商標)EMALEX 710)
ラウレス20:POE(20)ラウリルエーテル(日本エマルジョン社製EMALEX(登録商標)720)
ラウレス30:POE(30)ラウリルエーテル(日本エマルジョン社製EMALEX(登録商標)EMALEX 730
ラウリン酸ポリグリセリル-5:グリセリン5-12アルキルエステル(太陽化学社製サンソフトA-12E-C)
ミリスチン酸ポリグリセリル-5:グリセリン5-14アルキルエステル(太陽化学社製サンソフトA-14E-C)
カプリル酸ポリグリセリル-6:グリセリン6-8アルキルエステル(太陽化学社製サンソフトQ-81F-C)
【0072】
<実施例1>
(1)平均粒子径150nmラテックス粒子の製造
スチレン(富士フイルム和光純薬社製)30g(288mmol)とアクリル酸(富士フイルム和光純薬社製)3g(42mmol)を超純水440mLに懸濁させ、95℃に昇温し、過硫酸カリウム(KPS)(富士フイルム和光純薬社製)1gを超純水10mLに溶解させた水溶液を添加し、95℃、250rpmで6時間攪拌した。その後、10,000rpmで6時間遠心分離を3回行い、ラテックス粒子を得た。最後に、得られたラテックス粒子を超純水に再分散させた。固形分濃度が1質量%となるように、純水を添加して希釈液を調製した。粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))を用いて、温度25℃で測定したメジアン径(d=50)として求めたところ、ラテックス粒子の平均粒子径は150nmであった。
【0073】
(2)蛍光ラテックス粒子の作製
上記のように作製した平均粒子径150nmのラテックス粒子の固形分濃度2質量%の水分散液100mLにメタノール100mLを加え、10分間、室温で攪拌した。一方、別途用意したN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1mL、CHCl 9mLおよびエタノール16mLに溶解させた蛍光色素 (NK136、林原生物化学研究所製)12mgを60分間かけてゆっくりラテックス溶液に滴下した。滴下完了後、エパポレーターで有機溶媒を減圧留去した後、遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)水溶液への再分散を3回繰り返し、精製を行うことで、蛍光ラテックス粒子を調製した。
【0074】
(3)モノクローナル抗体の作製
抗SAAモノクローナル抗体(Anti-SAA)および抗CRP(C反応性タンパク質)モノクローナル抗体は、マウス腹水法を用いて、以下のように作製した。
Hytest社より購入したSAAを用いて、マウスに免疫した後に脾臓細胞を抽出し、ミエローマ(製品名P3-X63-Ag8-U1、コスボバイオ社製)と混合し、ポリエチレングリコール(PEG)法にて細胞融合を実施した。使用細胞としては、最終免疫してから3日後に採取した脾臓細胞を使用した。細胞比は、脾臓細胞:ミエローマ=10:1とした。細胞播種は、脾臓細胞として0.5~1.0×10cells/wellで96well plateに播種した。使用した培地は、RPMI-1640(Roswell Park Memorial Institute medium)、10%FBS(ウシ胎児血清:Fetal bovine serum)、およびHAT(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン混合培地、hypoxanthine-aminopterin-thymidine medium)を適宜使用した。最終的に増殖した融合細胞(ハイブリドーマ)をマウス腹腔内に注射し、一定期間の経時後に腹水を取り出し、遠心分離、精製工程を経て得られたものを抗SAAモノクローナル抗体(Anti-SAA)として採取した。また、抗SAAモノクローナル抗体の作製と同様にして、大腸菌の培養液から精製したCRP(オリエンタル酵母工業(株)社製)を用いて、抗CRPモノクローナル抗体を作製した。
【0075】
(4)抗SAA抗体で修飾した蛍光ラテックス粒子の調製
抗SAA抗体で修飾した蛍光粒子を、以下の通り調製した。
2質量%(固形分濃度)蛍光ラテックス粒子水溶液(平均粒子径150nm)275μLに、50mmol/LのMES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)バッファー(pH6.6)溶液88μLを加え、5mg/mLの抗SAAモノクローナル抗体(Anti-SAA)176μLを添加し、室温で15分間攪拌した。その後、10mg/mLのEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、富士フイルム和光純薬社製)水溶液を5μL加え、室温で2時間撹拌した。2mol/LのGlycine(富士フイルム和光純薬社製)水溶液を8.8μL添加して15分間撹拌した後、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行い、蛍光ラテックス粒子を沈降させた。その後上清を取り除き、PBS溶液(pH7.4)を500μL加え、超音波洗浄機により蛍光ラテックス粒子を再分散させた。再度、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行って上清を除いた後、1質量%BSAを含むPBS(pH7.4)溶液500μLを加えて、蛍光ラテックス粒子を再分散させることで、抗SAA抗体結合蛍光ラテックス粒子の1質量%溶液を調製した。
【0076】
(5)蛍光標識をしない抗CRP抗体で修飾したラテックス粒子の作製
2質量%(固形分濃度)ラテックス粒子水溶液(平均粒子径150nm)300μLに、250mmol/LのMESバッファー(pH5.6)溶液96μLおよび超純水25mLを加え、さらに5mg/mLの抗CRPモノクローナル抗体182μLを添加した。得られた混合物を室温で15分間攪拌した。その後、10mg/mLのEDC(N-ethyl-N’-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)水溶液9.6μLを加え、得られた混合物を室温で2時間撹拌した。2mol/Lのグリシン(富士フイルム和光純薬社製)水溶液を30μL添加して、得られた混合物を30分間撹拌した後、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行い、ラテックス粒子を沈降させた。上清を取り除き、沈殿物にPBS溶液(pH7.4)を600μL加え、超音波洗浄機によりラテックス粒子を再分散させた。再度、遠心分離(15,000rpm、4℃、15分)を行って上清を除いた後、沈殿物に1質量%BSAを含むPBS(pH7.4)溶液600μLを加えて、ラテックス粒子を再分散させた。このようにして抗CRP抗体結合ラテックス粒子の1質量%溶液を調製した。
【0077】
(6)乾燥粒子の作製
超純水240μL、20質量%のスクロース水溶液417μL、20質量%のBSA水溶液229μL、(4)で調製した、抗SAA抗体で修飾した蛍光ラテックス粒子(平均粒子径150nm)を1質量%含む分散液125μL、0.8mol/LのMES緩衝液(pH=6.5)899μLを混合した。ポリプロピレン(プライムポリマー社製、プライムポリプロ ランダムPPグレード)を基体としたカップを準備し、上記混合液40μLをカップ内に点着した。その後、スーパードライ乾燥機(TOYOリビング社、ウルトラスーパードライ00シリーズ)を用いて、24時間かけて含水量を12%以下となるまで乾燥させ、その後、25℃50%RH(相対湿度)の環境で15日間保存することで、表1に示す実験水準1に示した乾燥粒子を作製した。また、下記の実施例2、比較例4に使用した乾燥粒子の作製においては、上記で調製した、蛍光標識をしない抗CRP抗体で修飾したラテックス粒子を、抗SAA抗体修飾蛍光ラテックス粒子の質量に対して5倍量混合し、他は同様に乾燥粒子を調製した。
【0078】
(7)基板の作製
ポリメチルメタクリレート(PMMA、三菱レイヨン社製、アクリペットVH-001)を基体とした基板の片面に、テストエリアおよびコントロールエリア共に幅4mm、厚さが36nmとなるように、テストエリアに用いる金膜と、その隣に、コントロールエリアに用いる金膜とを、マグネトロンスパッタリング法により作製した。この基板を幅5mmとなるように裁断して基板を作製した。この基板のテストエリアの金膜上には、抗SAAモノクローナル抗体を含む液(濃度:10μg/mL in150mmol NaCl)を点着し、1時間、25℃にてインキュベートし、物理吸着させて固定化を行った。
【0079】
(8)基板の洗浄およびブロッキング
このように調製した基板をセンサチップの流路に取り付ける前に、予め調製した洗浄用溶液(0.05質量%Tween(登録商標)20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウラート、富士フイルム和光純薬社製)を含むPBS溶液(pH7.4))を300μL用いて3回繰り返し洗浄した。洗浄終了後、金膜上の抗体の未吸着部分のブロッキングを行うため、1質量%カゼイン(Thermo Scientific社製)を含むPBS溶液(pH7.4)を300μL添加し、1時間、室温で静置した。上記の洗浄用溶液で洗浄後、安定化剤としてImmunoassay Stabilizer(ABI社製)300μLを添加し、室温で30分間放置し、溶液を除去して乾燥機を用いて水分を完全に取り除いた。
【0080】
(9)センサチップの作製
特開2010-190880号公報の第2の実施形態の構成となるように、作製した基板を流路に封入し、流路型センサチップを作製した。その概略図を図1および図2に示した。図1は、センサチップ1の概略図であり、図2は、センサチップ1の分解図である。センサチップ1は、上部部材2、中間部材3および基板4から構成されている。上部部材2には、第一の容器5および第二の容器6が設けられている。なお、第一の容器5および第二の容器6を併せて、容器群7と称する。基板4には、流路10が形成されており、流路10の上には、検出領域8および参照領域9が形成されている。
【0081】
(10)被検試料の準備
ネコの血清は、北山ラベスから購入した交雑種の血清を使用し、被検物質である血清アミロイドAの濃度が異なる被検試料(検体)No.1およびNo.2を用意した。
【0082】
(11)対照法での測定
免疫測定で、当業者により使用されているELISAキット(Phase SAA Assay(cat.no.TP-802) : Tridelta社製 対照キット)を用い、取り扱い説明書に従い、(10)で準備した被検試料No.1およびNo.2のSAA濃度を測定した。被検試料No.1およびNo.2のSAA濃度は、20.0μg/mLと80.1μg/mLであった。
【0083】
(12)蛍光粒子を用いたSAAの免疫測定
(10)で準備した被検試料(ネコの血清)No.1を10μL秤量し、非イオン性界面活性剤であるn-ドデシル-β-D-マルトシド(製品名:D316、同仁化学製)の0.33質量%の生理食塩水溶液90μLを充分に混合して、被検試料の混合液1を作製した。この混合液の界面活性剤D316の濃度は、0.30質量%であった。次に、(4)で調製した、抗SAA抗体標識蛍光粒子を点着し乾燥させたカップに、作製した混合液1を添加し、10分間、十分に攪拌した。次に、上記で作製した基板を封入した流路型センサチップの注入口に蛍光粒子と混合した混合液1を点着した。点着後、ポンプ吸引を行いながら混合液1を10μL/minの速度で流路を流下させ、SAA抗体を固定した金面上の蛍光強度を1.5分間継続して測定した。各基板において得られた蛍光強度の単位時間における蛍光シグナル値の増加速度を求めた。被検試料No.2に対しても同様にして、単位時間における蛍光シグナル値の増加速度を求めた。表1にその結果を示した。表1の「シグナル値」は「シグナル値の増加速度」を表す。
【0084】
<実施例2>
実施例1において、界面活性剤をD316の代わりに、n-デシル-β-D-マルトシド(商品名:D382、同仁化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にして、蛍光シグナル値の増加速度を被検試料No.1およびNo.2に対してそれぞれ求めた。
【0085】
<比較例1~7>
界面活性剤を実施例1のものから表1に記載したものに変更すること以外は実施例1と同様に行い、蛍光シグナル値の増加速度を被検試料No.1およびNo.2に対してそれぞれ求めた。
【0086】
(13)検量線の作成
続いて、北山ラベスから購入した交雑種の血清を使用し、被検物質の濃度が異なる被検試料(検体)No.3~7を用意した。(11)に記載の対照法による測定を行ってSAA濃度を測定したところ、それぞれ2.9μg/mL、5.5μg/mL、60.8μg/mL、111.0μg/mL、159.1μg/mLであった。この被検試料(検体)No.3~7を用いて、実施例1、2、および比較例1~7に記載のキットを用いてそれぞれ、被検試料(検体)No.3~7のシグナルを測定し、実施例1、2、および比較例1~7に記載のキットに対してそれぞれ、検量線を作成した。
【0087】
(14)多検体相関の測定
動物病院にて採血された様々な種類のネコ血清500検体について、実施例1、2、および比較例1~7に記載のキットを用いてそれぞれシグナルを測定し、(13)で作成した検量線からSAA濃度をそれぞれ算出し、(11)で記載した対照法で測定した既知濃度との相関を評価した結果を「多検体相関」として表1および表2に示した。表1および表2において、シグナル値(20)は、SAA濃度が20μg/mLでのシグナル値を示し、シグナル値(80)は、SAA濃度が80μg/mLでのシグナル値を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
<シグナル強度の評価基準>
A:良好(SAA濃度が20μg/mLでのシグナル値が300以上、かつSAA濃度が80μg/mLでのシグナル値が1200以上)
B:比較的良好(SAA濃度が20μg/mLでのシグナル値が100以上、かつSAA濃度が80μg/mLでのシグナル値が400以上であり、A領域を除くもの)
C:不十分(SAA濃度が20μg/mLでのシグナル値が100未満、またはSAA濃度が80μg/mLでのシグナル値が400未満)
【0091】
<多検体相関の評価基準>
A:良好(500検体の本発明によるSAA測定値と対照法によるSAA測定値との相関プロットの線形近似線の相関係数Rが0.90以上)
B:比較的良好(500検体の本発明によるSAA測定値と対照法によるSAA測定値との相関プロットの線形近似線の相関係数Rが0.80以上0.90未満)
C:不十分(500検体の本発明によるSAA測定値と対照法によるSAA測定値との相関プロットの線形近似線の相関係数Rが0.80未満)
-:シグナル強度が弱く、検量線が作成できず、定量できなかった。
【0092】
表1および表2から、非イオン系の界面活性剤(ノニオン)でHLB値が17から20の範囲内、且つ、分子量1000以下の界面活性剤を用いること、および、反応液のpHを5.5~7.0、または8.5~9.0に調整可能なバッファーを含むことで、本発明の効果、すなわちシグナル強度と多検体相関(相関)が良好となること、が発現することを確認した。
【0093】
(実施例3~6、および比較例8~10)
実施例1で使用した0.8mol/LのMES緩衝液(pH=6.5)899μLの代わりに、表3に記載のバッファーを用いて表3のpHになるように調整した以外は実施例1と同様に行い、実施例3~6、および比較例8~10のサンプルを作製した。比較例8は、実施例1中の0.8mol/LのMES緩衝液(pH=6.5)899μLを超純水に変更して作製した。なお、表3に記載のpHとは、カートリッジのカップに検体を分注し、カップ内の乾燥試薬を充分に撹拌して完全に溶解させた時の反応液のpHである。比較例8はバッファーを含まないため、血清のpHを反映した値であると推定された。実施例3~6、および比較例8~10のサンプルに対して、上記(13)に記載した方法でそれぞれの検量線を求めた。
【0094】
(15)高値乖離検体の測定
更に、(14)の多検体相関の測定で使用した500検体の中でネコSAAの基準範囲と考えられる20μg/mL未満であり、且つ、最も対照法の測定値から比較例8による測定値が高値に乖離した検体(1検体)について、実施例1、3~6、比較例8~10のキットでそれぞれの検量線からそのSAA値を求めた測定結果を表3に示す。表3には、対照法で測定した測定値も示す(対照法の欄)。
【0095】
【表3】
【0096】
表3から、ネコにおけるSAAの基準範囲を20μg/mLと仮定した時の目標値(=20μg/mL以下)に対し、本発明のバッファーpH領域で本発明の効果、すなわち高値乖離が目標範囲に改善されることを確認した。
【符号の説明】
【0097】
1 センサチップ
2 上部部材
3 中間部材
4 基板
5 第一の容器
6 第二の容器
7 容器群
8 検出領域
9 参照領域
10 流路
図1
図2