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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20221003BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/153 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021530366
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019026926
(87)【国際公開番号】W WO2021005671
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】圓山 百代
(72)【発明者】
【氏名】榊原 慎
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋也
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-035386(JP,A)
【文献】特開2008-078058(JP,A)
【文献】特開2011-192498(JP,A)
【文献】特開2013-232422(JP,A)
【文献】特表2018-535525(JP,A)
【文献】特開2019-036403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/147
H01J 37/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の一次ビームを試料に照射する荷電粒子線源と、
前記一次ビームのそれぞれに応じて前記試料から放出される各二次ビームを検出する複数の検出器と、
前記一次ビームと異なる方向へ前記二次ビームを偏向させるビームセパレータと、を備える荷電粒子線装置であって、
前記ビームセパレータと前記検出器との間に設けられ、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームの間の位置ずれを補正する偏向器をさらに備え、
前記偏向器は、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームのビーム形状の歪みを前記位置ずれとともに補正し、
前記ビームセパレータは、前記一次ビームと直交する面内において互いに直交する第一の電場と第一の磁場とを形成し、前記一次ビームを直進させて前記二次ビームを偏向させ、
前記偏向器は、互いに直交する第二の電場と第二の磁場とを形成し、
前記第二の電場の大きさと前記第二の磁場の大きさは、前記一次ビームが照射される位置毎に異なる観察像に基づいて調整されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
複数本の一次ビームを試料に照射する荷電粒子線源と、
前記一次ビームのそれぞれに応じて前記試料から放出される各二次ビームを検出する複数の検出器と、
前記一次ビームと異なる方向へ前記二次ビームを偏向させるビームセパレータと、を備える荷電粒子線装置であって、
前記ビームセパレータと前記検出器との間に設けられ、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームの間の位置ずれを補正する偏向器をさらに備え、
前記偏向器は、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームのビーム形状の歪みを前記位置ずれとともに補正し、
前記ビームセパレータは、前記一次ビームと直交する面内において互いに直交する第一の電場と第一の磁場とを形成し、前記一次ビームを直進させて前記二次ビームを偏向させ、
前記偏向器には、互いに直交する第二の電場と第二の磁場とを形成するための電圧と電流が供給され、前記電圧と前記電流の値は、前記二次ビームが前記偏向器によって偏向される角度と、前記ビームセパレータによって生じる前記二次ビームのエネルギー分散と、前記二次ビームのエネルギーとに基づいて設定されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
複数本の一次ビームを試料に照射する荷電粒子線源と、
前記一次ビームのそれぞれに応じて前記試料から放出される各二次ビームを検出する複数の検出器と、
前記一次ビームと異なる方向へ前記二次ビームを偏向させるビームセパレータと、を備える荷電粒子線装置であって、
前記ビームセパレータと前記検出器との間に設けられ、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームの間の位置ずれを補正する偏向器をさらに備え、
前記二次ビームが前記偏向器によって偏向される角度は、前記ビームセパレータに対する前記検出器の傾斜角に基づいて設定され、
前記ビームセパレータによって前記二次ビームが偏向される角度θ1が、前記ビームセパレータに対する前記検出器の傾斜角θと等しいときに、前記偏向器は前記二次ビームと直交する面内において互いに直交する電場と磁場とを形成し、前記二次ビームを直進させるとともに、前記二次ビームの色収差を補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項に記載の荷電粒子線装置であって、
前記偏向器は、前記二次ビームに沿って配置される複数の電極と複数の磁極とを有し、前記二次ビームに対して非対称な電磁場を形成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に係り、特に複数本の荷電粒子線を用い、スループットを向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、電子ビームやイオンビーム等の荷電粒子線を試料に照射することによって試料から放出される二次電子や反射電子等の二次荷電粒子を検出し、試料の微細な構造を観察するための画像を生成する装置であり、半導体の製造工程等に用いられる。半導体の製造工程ではスループットの向上が求められ、複数本の荷電粒子線を試料に照射し、試料から放出される二次荷電粒子を複数の検出器で検出するマルチビーム方式の荷電粒子線装置が用いられることがある。
【0003】
マルチビーム方式の荷電粒子線装置では、試料に照射される荷電粒子線である一次ビームと、試料から放出される二次荷電粒子である二次ビームとを分離するために、一次ビームと異なる方向へ二次ビームを偏向させるビームセパレータが備えられる。ただし、ビームセパレータでは二次ビームに偏向色収差が生じる。
【0004】
特許文献1には、マルチビーム方式の電子線装置において、ビームセパレータである電磁偏向器で生じる偏向色収差を補正するための静電偏向器を備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/101116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、ビームセパレータにおいて生じる二次ビームの間の位置ずれに対する配慮がなされていない。二次ビームは、ビームセパレータによって形成される電場または磁場から作用を受ける区間の長さがビームセパレータに入射する位置に応じて異なり、電場または磁場の中の作用区間が長いほど偏向させられる量が大きくなる。すなわち、ビームセパレータに入射する位置の違いによって二次ビームの間に位置ずれが生じ、位置ずれが大き過ぎると二次ビームの検出に支障をきたす。
【0007】
そこで本発明は、ビームセパレータにおいて生じる二次ビームの間の位置ずれを低減可能な荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、複数本の一次ビームを試料に照射する荷電粒子線源と、前記一次ビームのそれぞれに応じて前記試料から放出される各二次ビームを検出する複数の検出器と、前記一次ビームと異なる方向へ前記二次ビームを偏向させるビームセパレータと、を備える荷電粒子線装置であって、前記ビームセパレータと前記検出器との間に設けられ、前記ビームセパレータにおいて生じる前記二次ビームの間の位置ずれを補正する偏向器をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビームセパレータにおいて生じる二次ビームの間の位置ずれを低減可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の荷電粒子線装置の一例を示す概略図である。
図2】ExBを用いたビームセパレータ105について説明する図である。
図3】ビームセパレータ105が形成する電場Eまたは磁場Bの中の二次ビーム107を説明する図である。
図4】平面302における二次ビーム107の間の位置ずれの一例を示す図である。
図5】偏向器110による二次ビーム107の間の位置ずれの補正について説明する図である。
図6】ビームセパレータ105と偏向器110での二次ビーム107の偏向角について説明する図である。
図7】偏向器110による二次ビーム107のビーム形状の補正について説明する図である。
図8】ExBを用いた偏向器110の電場と磁場の比率を調整する処理の流れの一例を示す図である。
図9】ExBを用いた偏向器110の電場と磁場の比率の調整に用いられる調整用試料901の一例を示す図である。
図10】ExBを用いた偏向器110の電場と磁場の比率の調整に用いられる調整用画面1001の一例を示す図である。
図11】実施例1の荷電粒子線装置の変形例を示す概略図である。
図12】実施例2の荷電粒子線装置の一例を示す概略図である。
図13】実施例3の荷電粒子線装置の一例を示す概略図である。
図14】実施例3の偏向器110の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る荷電粒子線装置の実施例について説明する。荷電粒子線装置は、電子線に代表される荷電粒子線を試料に照射することによって試料を観察する装置であり、走査電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡等の様々な装置がある。以下では、荷電粒子線装置の一例として、複数本の電子線を用いて試料を観察するマルチビーム方式の走査電子顕微鏡について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1を用いて本実施例の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。走査電子顕微鏡は、電子源101、マルチビーム形成部103、ビームセパレータ105、検出器108、偏向器110、制御部120を備える。
【0013】
電子源101は電子を放出して加速することにより、電子ビーム102を生成する装置である。電子源101で生成された電子ビーム102は、マルチビーム形成部103によって複数本の一次ビーム104に分離される。図1には3本に分離された一次ビーム104a、104b 、104cが例示される。一次ビーム104a、104b 、104cはビームセパレータ105に入射し、試料106に向かって進行し、照射される。なお、試料106に照射される一次ビーム104a、104b 、104cは、図示されない集束レンズや対物レンズ、走査用偏向器により、集束と偏向がなされる。
【0014】
一次ビーム104a、104b 、104cが照射された試料106からは、二次電子や反射電子等が二次ビーム107a、107b 、107cとして放出される。二次ビーム107a、107b 、107cは一次ビーム104a、104b 、104cのそれぞれに応じて放出され、ビームセパレータ105に入射して偏向される。
【0015】
図2を用いてビームセパレータ105の一例について説明する。図2は電子源101の側からビームセパレータ105を見た図であり、図2(a)には一次ビーム104に対する作用が、図2(b)には二次ビーム107に対する作用が示される。ビームセパレータ105は、正電極105a、負電極105b、正磁極105c、負磁極105dを有し、正電極105aから負電極105bへの電場Eと、正磁極105cから負磁極105dへの磁場Bを形成する。すなわち、一次ビーム104と直交する面内において、互いに直交する電場Eと磁場Bが形成される。電場Eと磁場Bが直交することからExBと呼ばれる。なお電場Eと磁場Bが直交すれば電極と磁極の数は二極に限られず、八極や十二極としても良い。
【0016】
図2(a)に示されるように、一次ビーム104には電場Eによる力201と磁場Bによる力202が逆方向に作用し、力201と力202の大きさが等しい場合、一次ビーム104は直進する。一方、図2(b)に示されるように、二次ビーム107には電場Eによる力201と磁場Bによる力202が同じ方向に作用するので、二次ビーム107は力201と力202の合力により一次ビーム104とは異なる方向へ偏向させられる。すなわち、ビームセパレータ105によって形成される電場Eと磁場Bの作用により、一次ビーム104と二次ビーム107が分離される。
【0017】
図1の説明に戻る。一次ビーム104a、104b 、104cと異なる方向へ偏向させられた二次ビーム107a、107b 、107cは、後述される偏向器110を介して、検出器108へ入射する。検出器108は、二次ビーム107a、107b 、107cのそれぞれを検出する複数の検出部を有する装置である。検出器108の検出信号は制御部120に送信され、試料106の観察像の生成に用いられる。
【0018】
制御部120は走査電子顕微鏡の各部を制御する装置であり、例えば汎用のコンピュータによって構成される。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリやHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置と、キーボードやマウス等の入力装置と、液晶ディスプレイ等の表示装置を備える。制御部120は、HDDに記憶されるプログラムをメモリに展開してCPUに実行させることにより様々な処理をする。なお、制御部120の一部は、専用の回路基板等のハードウェアによって構成されても良い。制御部120は検出器108から送信される検出信号に基づいて観察像を生成し、表示する。
【0019】
適切な観察像の生成には、試料106から放出される二次ビーム107が検出器108によってもれなく検出されることが望ましい。しかし、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間に位置ずれによって、検出器108による二次ビーム107の検出に支障をきたす場合がある。以降で、二次ビーム107の間に位置ずれについて説明する。
【0020】
図3を用いてビームセパレータ105が形成する電場Eまたは磁場Bの中の二次ビーム107について説明する。ビームセパレータ105が形成する電場Eまたは磁場Bは、二次ビーム107の進行方向に拡がりを有するため、二次ビーム107は、ビームセパレータ105に入射する位置に応じて、電場Eまたは磁場Bから作用を受ける区間の長さが異なる。例えば、偏向させられる二次ビーム107の中の外側の二次ビーム107aの作用区間301aは、内側の二次ビーム107cの作用区間301cよりも長い。その結果、外側の二次ビーム107aは内側の二次ビーム107cよりも大きく偏向させられる。
【0021】
図4を用いて、図3の平面302における二次ビーム107の間に位置ずれについて説明する。なお説明を簡単にするため、平面302には偏向後の二次ビーム107にほぼ直交し、各二次ビーム107が最も集束する試料像面を選択した。また図4には9本の二次ビーム107を例示する。電場Eまたは磁場Bの作用区間301の長さに応じて、各二次ビーム107が偏向させられる量は異なるので、ビームセパレータ105への入射位置の違いによって、平面302に到達する二次ビーム107の間には位置ずれが生じる。すなわち外側の二次ビーム107aは内側の二次ビーム107cよりも大きく偏向させられることによってビーム間隔が拡がる。二次ビーム107の間の位置ずれが大き過ぎると、検出器108に入射できない二次ビーム107が生じ、二次ビーム107の検出に支障をきたす。
【0022】
また二次ビーム107はエネルギー分散を有し、エネルギーに応じて偏向させられる量は異なるのでビーム形状が歪む。すなわち、エネルギーが大きい二次ビーム107は、エネルギーが小さい二次ビーム107よりも、電場Eまたは磁場Bによって偏向させられる量が小さいので、二次ビーム107のビーム形状は図4に示されるように歪む。ビーム形状の歪みは、各二次ビーム107の検出分解能を低下させる。
【0023】
そこで本実施例では、ビームセパレータ105と検出器108との間に設けられる偏向器110によって、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間の位置ずれを補正する。偏向器110は、二次ビーム107をビームセパレータ105とは逆方向に偏向させる装置であり、例えば正電極と負電極とからなる電場セクタや、正磁極と負磁極とからなる磁場セクタである。偏向器110によって図1のように二次ビーム107を偏向させるには、正電極が右側に、負電極が左側に配置される電場セクタや、正磁極が手前に、負磁極が奥に配置される磁場セクタが用いられる。また互いに直交する電場と磁場を形成するExBが偏向器110に用いられても良い。
【0024】
図5を用いて、偏向器による二次ビーム107の間の位置ずれの補正について説明する。図5(a)には偏向器110による偏向の作用が示され、図5(b)には偏向器110によって補正された二次ビーム107が検出器108に入射するときの配置が示される。偏向器110が、二次ビーム107をビームセパレータ105とは逆方向に偏向することにより、図4とは逆方向の位置ずれが二次ビーム107に生じる。その結果、ビームセパレータ105と偏向器110とでそれぞれ生じる位置ずれが打ち消し合い、図5(b)に示されるように位置ずれが低減された二次ビーム107が検出器108に入射できる。また二次ビーム107のエネルギー分散にともなうビーム形状の歪みに関しても、ビームセパレータ105と偏向器110の作用が打ち消し合うので、ビーム形状が改善される。
【0025】
図6を用いて、ビームセパレータ105と偏向器110での二次ビーム107の偏向角について説明する。複数本の二次ビーム107の中心に位置する二次ビーム107bがビームセパレータ105によって偏向させられる角度をθ1、二次ビーム107bが偏向器110によって偏向させられる角度をθ2としたとき、θ1とθ2は逆方向となる。また検出器108への二次ビーム107bの入射角は直角であることが好ましい。そこで、ビームセパレータ105に対する検出器108の傾斜角をθとしたとき、偏向器110による偏向角θ2は次式を満たすことが好ましい。
【0026】
θ2=θ-θ1 … (式1)
図7を用いて、偏向器による二次ビーム107のビーム形状の補正について説明する。図7には、それぞれ異なるエネルギーを有する二次ビーム107bである二次ビーム107b-L、107b-M、107b-Hの軌道が示される。なお二次ビーム107b-Lは低エネルギー、二次ビーム107b-Mは中エネルギー、二次ビーム107b-Hは高エネルギーある。
【0027】
偏向器110での偏向角は、二次ビーム107bのエネルギーに応じて異なり、エネルギーが高いほど小さくなる。そのため、偏向器110が二次ビーム107をビームセパレータ105とは逆方向に偏向することにより、ビーム形状の歪みが改善され、特に二次ビーム107b-L、107b-M、107b-Hの交差点701において、ビーム形状の歪みが消失する。
【0028】
偏向器110が電場セクタまたは磁場セクタである場合、偏向器110の電場または磁場の大きさは偏向角θ2に応じて定められるので、ビーム形状の歪みが消失する点である交差点701の位置も一意に決定される。ビーム形状の歪みが消失した二次ビーム107を検出することで最高の検出分解能になるので、交差点701の位置に検出器108が設けられることがもっとも好ましい。ただし、検出分解能を所定の値以上にする場合は、検出される二次ビーム107のビーム形状の大きさが所定の値以下となる位置、すなわち交差点701の近傍に検出器108が設けられれば良い。
【0029】
また偏向器110がExBである場合、偏向器110による偏向角θ2は、ExBの電場E2による偏向角θ2(E2)と磁場B2による偏向角θ2(B2)により次式で表せる。
θ2=θ2(E2)+θ2(B2) … (式2)
θ2が所定の値となる電場E2と磁場B2の組み合わせは連続的に存在する一方で、電場E2と磁場B2の比率が変わると交差点701の位置も移動する。すなわち、電場E2と磁場B2の比率を調整することにより、交差点701の位置を移動させ、所定の位置に設けられた検出器108の検出分解能を制御することができる。
【0030】
図8を用いて、ExBを用いた偏向器110の電場E2と磁場B2の比率を調整する処理の流れの一例について説明する。
【0031】
(S801)
図9に例示されるような調整用試料901が走査電子顕微鏡の観察視野に配置される。電場E2と磁場B2の比率は、各ビームで取得される画像の違いに基づいて調整される。このため、調整用試料901には複数本の一次ビーム104が照射される位置毎に異なる形状を有するような試料が用いられる。図9には、9本の一次ビーム104が照射される調整用試料901が例示され、9つの各位置が異なる形状を有している。調整用試料901の異なる位置から放出される複数の二次ビーム107が検出器108の中の同じ検出部に入射すると、異なる形状が混在したSEM像となる。すなわち調整用試料901のSEM像の評価に基づいて、例えば次式を用いることにより二次ビーム107の分離度Dを算出できる。
【0032】
D=Si(i)/Si … (式3)
ここでiは複数のビームの通し番号、Siはビーム毎のSEM像の中のi番目のSEM像の信号量の合計、Si(i)はSiに含まれるi番目のビームによる信号量である。(式3)によれば、ビーム毎のSEM像が当該ビームによる信号量だけであればD=1、当該ビームによる信号量を含まなければD=0となる。
【0033】
なお、複数本の一次ビーム104が照射される位置に同一形状が配置される試料を調整用試料901の代わりに用い、ビーム毎のSEM像における形状のずれに基づいて分離度Dが算出されても良い。
【0034】
(S802)
図10に例示される調整用画面1001を用いて、偏向器110の電場E2と磁場B2の比率を操作者が調整する。調整用画面1001は、比率入力部1002と撮影開始ボタン1003とSEM像表示部1004と分離度表示部1005とOKボタン1006を有する。偏向器110の電場E2と磁場B2の比率の調整には、比率入力部1002が用いられる。すなわち、操作者は比率入力部1002に電場E2と磁場B2の比率を入力する。なお偏向器110での偏向角θ2が定められたとき(式2)によって、電場E2と磁場B2のいずれか一方の値から他方の値が算出できるので、電場E2と磁場B2のどちらかの値が入力されるだけでも良い。
【0035】
(S803)
操作者が撮影開始ボタン1003をクリックすることにより、調整用試料901のSEM像が撮影され、制御部120がSEM像を評価することにより二次ビーム107の分離度を算出する。分離度の算出には、例えば(式3)が用いられる。撮影されたSEM像はSEM像表示部1004に表示され、算出された分離度は分離度表示部1005に表示される。なお、本ステップにおいてレンズやアライナが調整されても良い。
【0036】
(S804)
S803で算出された分離度が許容範囲であるか否かが判定される。操作者が判定する場合、分離度が許容範囲であればOKボタンがクリックされて図8の処理の流れは終了となり、許容範囲でなければS802へ戻って比率が再調整される。
【0037】
以上の処理の流れにより、二次ビーム107の分離度が許容範囲となるように、偏向器110の電場E2と磁場B2の比率が調整され、検出分解能を向上できる。なお制御部120が電場E2と磁場B2の比率を変えながらSEM像の撮影と分離度の算出を繰り返し、分離度が予め定められた許容範囲となるように比率を調整しても良い。
【0038】
なお、電場E2と磁場B2を形成するために偏向器110に供給される電圧と電流をV2とI2としたとき、偏向角θ2は次式で表せる。
【0039】
θ2=aV2φ2+bI2φ20.5 … (式4)
ここで、aとbは偏向器110のサイズ等の形状や構成によって定められる定数であり、φ2は二次ビーム107のエネルギーである。
【0040】
また偏向器110で生じる二次ビーム107のエネルギー分散Disp2は次式で表せる。
【0041】
Disp2=cV2φ2+d(I2φ2)0.5 … (式5)
ここで、cとdは偏向器110のサイズ等の形状や構成によって定められる定数である。ビームセパレータ105で生じる二次ビーム107のエネルギー分散Disp1を偏向器110によって打ち消すには次式を満たせばよい。
【0042】
Disp1+Disp2=0 … (式6)
従って偏向角θ2とエネルギー分散Disp1の値が与えられたとき、(式4)~(式6)に基づいて、偏向器110に供給される電圧V2と電流I2を算出できる。すなわち、電圧V2と電流I2は、偏向器110での偏向角θ2とビームセパレータ105でのエネルギー分散Disp1と二次ビーム107のエネルギーφ2に基づいて算出される。偏向器110の電場E2と磁場B2は、算出された電圧V2と電流I2を用いて調整されても良い。算出された電圧V2と電流I2が用いられることにより、偏向器110の電場E2と磁場B2の調整が簡略化できる。
【0043】
図11を用いて、本実施例の走査電子顕微鏡の変形例について説明する。図1では、ビームセパレータ105にExBを用い、一次ビーム104を直進させて試料106に照射する走査電子顕微鏡について説明した。図11には、ビームセパレータ105に電場セクタまたは磁場セクタを用い、一次ビーム104を偏向させて試料106に照射する走査電子顕微鏡が示される。すなわち図1とはビームセパレータ105だけが異なり、他の構成は同じであって、偏向器110が二次ビーム107をビームセパレータ105とは逆方向に偏向させる。
【0044】
以上説明した本実施例の走査電子顕微鏡によれば、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間の位置ずれを低減できる。二次ビーム107の間の位置ずれを低減することにより、各二次ビーム107を検出器に108の各検出部に入射させられるので、二次ビーム107の検出に支障をきたすことがない。また二次ビーム107のビーム形状の歪みも改善されるので検出分解能が向上する。
【実施例2】
【0045】
実施例1では、ビームセパレータ105に対する検出器108の傾斜角θが任意の角度である場合について説明した。本実施例では、ビームセパレータ105と検出器108とが平行である場合について説明する。なお、実施例1と同じ機能を有する構成物については同じ符号を付与して説明を省略する。
【0046】
図12を用いて本実施例の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。本実施例では、ビームセパレータ105と検出器108とが平行に配置される。すなわちビームセパレータ105に対する検出器108の傾斜角θ=0であり、検出器108が重力方向に対して垂直に配置される。図12においても、偏向器110によって二次ビーム107をビームセパレータ105と逆方向に偏向させることによって、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間の位置ずれが補正される。なお、(式1)にθ=0を代入すると、θ2=-θ1となるので、ビームセパレータ105の偏向角θ1と偏向器110の偏向角θ2を等しい絶対値することが好ましい。
【0047】
以上説明した本実施例の走査電子顕微鏡によれば、実施例1と同様に、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間の位置ずれを低減できる。また二次ビーム107のビーム形状の歪みも改善されるので検出分解能が向上する。さらに、検出器108が重力方向に対して垂直に配置されるので、検出器108が重力方向に振動する場合であっても、検出器108に対して二次ビーム107が位置ずれせず、安定的にSEM像を生成できる。
【実施例3】
【0048】
実施例1では、偏向器110によって二次ビーム107をビームセパレータ105と逆方向に偏向させる場合について説明した。本実施例では、偏向器110にExBを用い二次ビーム107を直進させる場合について説明する。なお、実施例1と同じ機能を有する構成物については同じ符号を付与して説明を省略する。
【0049】
図13を用いて本実施例の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。本実施例では、偏向器110にExBが用いられ、二次ビーム107が偏向器110を直進する。すなわち偏向器110での偏向角θ2=0であり、ビームセパレータ105と偏向器110と検出器108が一直線上に配置される。図13ではθ2=0を維持したまま、偏向器110での電場E2と磁場B2の比率を調整することによって、検出器108における二次ビーム107のビーム形状の大きさが制御されて、検出器108の検出分解能が調整される。電場E2と磁場B2の比率は、図8に示される処理の流れに従って調整される。
【0050】
なお、偏向角θ2=0の場合、二次ビーム107の間の位置ずれの補正がやや困難となる。そこで本実施例では、図14に示されるような二次ビーム107に対して非対称な電磁場を形成する偏向器110を用いても良い。図14に示される偏向器110は、二次ビーム107に沿って配置される複数の電極または磁極1401~1405を有する。
【0051】
偏向器110が形成する電場または磁場の拡がりが抑制される側は部分的に電極または磁極1401~1405がONになり、他方の側は全てがONになる。図14には、電極または磁極1403a、1401b~1405bがONになり、電極または磁極1401a、1402a、1404a、1405aがOFFになった場合が例示される。このように電極または磁極1401~1405を動作させることにより、二次ビーム107に対して非対称な電磁場が形成され、図14では非対称な電磁場からの作用区間が、二次ビーム107cでは長くなり、二次ビーム107aでは短くなる。非対称な電磁場からの作用区間を調整することにより、二次ビーム107の間の位置ずれが補正される。
【0052】
以上説明した本実施例の走査電子顕微鏡によれば、非対称な電磁場を形成することにより、ビームセパレータ105において生じる二次ビーム107の間の位置ずれを低減できる。また二次ビーム107のビーム形状の歪みも改善されるので検出分解能が向上する。さらに、二次ビーム107が偏向器110を直進するので、ビームセパレータ105と偏向器110と検出器108が一直線上に配置され、走査電子顕微鏡の製作が容易になる。
【0053】
以上、本発明の荷電粒子線装置の複数の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0054】
101…電子源、102…電子ビーム、103…マルチビーム形成部、104…一次ビーム、105…ビームセパレータ、105a…正電極、105b…負電極、105c…正磁極、105d…負磁極、106…試料、107…二次ビーム、108…検出器、110…偏向器、120…制御部、201…電場Eによる力、202…磁場Bによる力、301…作用区間、302…平面、701…交差点、901…調整用試料、1001…調整用画面、1002…比率入力部、1003…撮影開始ボタン、1004…SEM像表示部、1005…分離度表示部、1006…OKボタン、1401~1405…複数の電極または磁極
図1
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