IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-挿入光源 図1
  • 特許-挿入光源 図2
  • 特許-挿入光源 図3
  • 特許-挿入光源 図4
  • 特許-挿入光源 図5
  • 特許-挿入光源 図6
  • 特許-挿入光源 図7
  • 特許-挿入光源 図8A
  • 特許-挿入光源 図8B
  • 特許-挿入光源 図8C
  • 特許-挿入光源 図8D
  • 特許-挿入光源 図9A
  • 特許-挿入光源 図9B
  • 特許-挿入光源 図9C
  • 特許-挿入光源 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】挿入光源
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/04 20060101AFI20221004BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20221004BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H05H7/04
G21K1/093 Z
H05H13/04 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018064570
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019175766
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勉
(72)【発明者】
【氏名】沖平 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小部 公央
(72)【発明者】
【氏名】加藤 龍好
(72)【発明者】
【氏名】阿達 正浩
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-085600(JP,U)
【文献】特開平07-240300(JP,A)
【文献】特開平08-264299(JP,A)
【文献】特開平10-326700(JP,A)
【文献】特開平11-135300(JP,A)
【文献】特開2001-093700(JP,A)
【文献】特開2001-326099(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0176270(US,A1)
【文献】T. Tanaka et al.,In-Vacuum Undulators,Proceedings of the 27th International Free Electron Laser Conference,米国,Stanford University,2005年08月26日,pp. 370-377
【文献】M. Calvi et al.,Magnetic assessment and modelling of the Aramis undulator beamline,Journal of Synchrotron Radiation,米国,Wiley-Balackwell,2018年04月03日,Vol. 25,pp. 686-705
【文献】C. J. Milne et al.,SwissFEL: The Swiss X-ray Free Electron Laser,Applied Sciences,スイス,MDPI,2017年07月14日,Vol. 7, 720,pp. 1-57
【文献】J. Zhiqiang, D. Hanwen,"Mechanical analysis and optimization for taper mechanism of in-vacuum undulator",High Power Laser and Particle Beams,中国,2011年04月,Vol. 23, No. 4,pp. 1039-1042
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 7/04
G21K 1/093
H05H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の磁石が列状に配置される第1磁石列と、
この第1磁石列が取り付け支持される第1磁石支持体と、
多数の磁石が列状に配置されると共に、前記第1磁石列に対してギャップを介して向かい合う第2磁石列と、
この第2磁石列が取り付け支持される第2磁石支持体と、
第1磁石列、第2磁石列、第1磁石支持体、第2磁石支持体が内部に配置される真空槽と、
第1磁石支持体と第1連結機構を介して一体的に連結され、真空槽の外部に配置された第1ビームと、
第2磁石支持体と第2連結機構を介して一体的に連結され、真空槽の外部に配置された第2ビームと、
前記第1連結機構と第2連結機構の少なくとも一方に設けられ、柔軟性を有する部材により気密封止されたシャフトと、
第1ビームおよび第2ビームの少なくとも一方を前記多数の磁石の配列方向である水平方向に駆動する水平駆動機構と、を備え、
水平駆動機構により前記ギャップを維持したまま、第1磁石列と第2磁石列を相対的に水平方向に移動可能に構成し、かつ、前記気密封止されたシャフトにより前記水平方向の移動中における真空槽内の真空度を維持することを特徴とする挿入光源。
【請求項2】
第1ビームと第2ビームの少なくとも一方は、水平ガイド機構を介してビーム支持基台に支持されており、水平駆動機構により第1ビームと第2ビームの少なくとも一方がビーム支持基台に対して水平移動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の挿入光源。
【請求項3】
水平駆動機構は、モータと、モータにより回転されるボールねじと、ボールねじに係合するブラケットとを含み、モータ及びボールネジが前記ビームに固定され、ブラケットがビーム支持基台に固定されることを特徴とする請求項2に記載の挿入光源。
【請求項4】
真空槽内の真空度は10-7Pa以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の挿入光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに向かい合う第1磁石列と第2磁石列のギャップを維持したまま水平移動させて磁場を調整可能な挿入光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空中において光速近くまで加速された電子ビームが磁界中で曲げられると、電子ビームの移動軌跡の接線方向に放射光を発光し、これをシンクロトロン放射光と呼んでいる。このようなシンクロトロン放射光を発生させる光源を、電子貯蔵リング(電子ビーム蓄積リング)の直線部に設置し、高指向性、高強度、高偏光性などの特性を生かした種々の技術の実用化のための研究が行われている。今日の電子貯蔵リングには、より高いビーム電流、より小さなビーム断面積による高輝度光源である挿入光源(アンジュレータ)が複数設けられている。
【0003】
かかる挿入光源として、例えば、下記特許文献1に開示される挿入光源が知られている。この挿入光源は、多数の磁石が列状に配置される第1磁石列と、多数の磁石が列状に配置される第2磁石列がギャップを介して向かいあう構成を備えており、内部が超高真空に維持される真空槽内に配置されている。第1磁石列と第2磁石列の間には電子ビームが通過するギャップ空間が形成されていて、第1磁石列と第2磁石列は真空槽外部に設けられた駆動機構と気密封止可能な昇降シャフトを介して連結している。第1磁石列と第2磁石列を前記駆動機構により垂直方向に昇降させることで、前記ギャップの大きさを変えて磁場を調整し、放射光の波長を選択することができる(ギャップ調整式挿入光源)。特許文献1の装置においては、第1および第2磁石列が、間に何もはさむことなく向かい合って真空槽内に配置されているので、磁石列間のギャップを4mm程度まで小さくすることが可能である。さらに、磁石列以外の駆動機構やガイド機構等が真空槽の外に配置されているので、高い真空度が得られやすい、という特徴がある。しかしながら、特許文献1に開示の挿入光源において、磁場強度を変えるためにギャップを変えると、磁場分布の積分値が変動し、電子軌道が変動してしまう。電子軌道を一定に保つため、挿入光源の両端部に設けられた補正電磁石で軌道補正を行う必要がある。この操作はギャップ調整ごとに必要であり、挿入光源を電子貯蔵リングに導入するときに、軌道補正のための調整に多大な手間と時間を要してしまう。
【0004】
一方、挿入光源で磁場を調整する方法として、ギャップ調整式以外に、ギャップの大きさは固定で、磁石列を電子ビーム方向(水平方向、長手方向)に動かしてビーム進行方向の磁石列間の位相を調整することで磁場を変える方法(位相調整式挿入光源)が特許文献2に開示されている。特許文献2に開示の挿入光源では、位相調整の際に挿入光源が持つ積分磁場を一定に保つことができるため、磁場強度を変更する度ごとの補正電磁石による軌道補正は修正する必要がない。この方法は、磁石列間に超高真空のビームダクトを配置する楕円偏光アンジュレータ等で実用化されている。楕円偏光アンジュレータでは、磁気回路がビームダクト(真空槽)外にあるため、磁石列を水平方向に動かす駆動機構やガイド機構を容易に設けることができる。しかしながらこの方法では、磁石列間にビームダクトが挟まれる構造であるため、ビームダクトの厚み以下にギャップを小さくすることができず、磁場強度の大きさに限界がある。
【0005】
位相調整式挿入光源を、真空槽内に磁石列を配置して実現したものが特許文献3に開示されている。特許文献3の挿入光源では、リニアベアリング(Miniature linear bearings:ガイド機構に相当)と、駆動機構が磁石列とともに真空槽内に配置され、真空槽外のモータと気密封止可能なシャフト(tube component)によって連結されており、真空槽内の駆動機構を動かすことによって磁石列を水平方向に動かすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-326099号公報
【文献】特開2014-13658号公報
【文献】US2014/0176270公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この方法では、真空槽内にガイド機構や駆動機構等の摩擦が起こる部材を配置しているので、高い真空度が得られにくい。この方法で達成される最終的な真空度は5×10-9torr(6×10-7Pa)であり、近年の挿入光源で必要とされる10-8Pa台に達していない。また、真空槽外に設けられたモータと真空槽内の駆動機構が1か所のtube componentで連結される構造であり、1つの駆動機構で磁石列全体を動かしているため、大型化が難しい。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、磁石列を電子ビーム方向に動かして磁場を変える挿入光源において、従来よりも高い真空度を達成可能な挿入光源を提供することである。さらに好ましくは、例えば磁石列の長さが2m以上に大型化が可能な挿入光源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る挿入光源は、
多数の磁石が列状に配置される第1磁石列と、
この第1磁石列が取り付け支持される第1磁石支持体と、
多数の磁石が列状に配置されると共に、前記第1磁石列に対してギャップを介して向かい合う第2磁石列と、
この第2磁石列が取り付け支持される第2磁石支持体と、
第1磁石列、第2磁石列、第1磁石支持体、第2磁石支持体が内部に配置される真空槽と、
第1磁石支持体と第1連結機構を介して一体的に連結され、真空槽の外部に配置された第1ビームと、
第2磁石支持体と第2連結機構を介して一体的に連結され、真空槽の外部に配置された第2ビームと、
前記第1連結機構と第2連結機構の少なくとも一方に設けられ、柔軟性を有する部材により気密封止されたシャフトと、
第1ビームおよび第2ビームの少なくとも一方を前記多数の磁石の配列方向である水平方向に駆動する水平駆動機構と、を備え、
水平駆動機構により前記ギャップを維持したまま、第1磁石列と第2磁石列を相対的に水平方向に移動可能に構成し、かつ、前記気密封止されたシャフトにより前記水平方向の移動中における真空槽内の真空度を維持することを特徴とするものである。
【0010】
かかる構成による挿入光源の作用・効果を説明する。第1磁石支持体と第2磁石支持体は、それぞれ、第1連結機構、第2連結機構を介して第1ビーム、第2ビームに連結される。第1磁石支持体と第2磁石支持体は真空槽の内部に配置されるが、第1ビーム、第2ビームは真空槽の外部に配置される。水平駆動機構により、第1ビームおよび第2ビームの少なくとも一方を前記多数の磁石の配列方向である水平方向に移動させることで、磁場を変えることができる。この場合、真空槽に対して、第1連結機構と第2連結機構の少なくとも一方には、柔軟性を有する部材により気密封止されたシャフトが設けられている。これにより、真空度を維持したまま、磁石列の水平移動を行うことができる。
【0011】
さらに、磁石列および磁石支持体を水平移動するためのビームや水平駆動機構は、真空槽の外部に配置されている。真空槽の内部で摩擦が発生しないため高い真空度を達成することができる。その結果、磁石列を電子ビーム方向に動かして磁場を変える挿入光源において、従来よりも高い真空度を達成可能な挿入光源を提供することができる。
【0012】
本発明において、真空槽内の真空度は10-7Pa以下であることが好ましい。
【0013】
かかる構成により、近年真空封止型アンジュレータとして要求されている真空度を十分満足することができる。
【0014】
本発明において、第1ビームと第2ビームの少なくとも一方は、水平ガイド機構を介してビーム支持基台に支持されており、水平駆動機構により第1ビームと第2ビームの少なくとも一方がビーム支持基台に対して水平移動するように構成されていることが好ましい。
【0015】
かかる構成により、ビーム支持基台に対してビームを水平移動させて、これと一体的に磁石列を水平移動させることができる。
【0016】
本発明に係る水平駆動機構は、モータと、モータにより回転されるボールねじと、ボールねじに係合するブラケットとを含み、モータ及びボールネジが前記ビームに固定され、ブラケットがビーム支持基台に固定されることが好ましい。
【0017】
かかる構成により、ビームに固定されたモーターによりボールネジを回転させることで、ボールネジに係合したブラケットを相対的に水平移動させることができる。この場合、ブラケットは、ビーム支持基台に固定されているので、ビーム支持基台に対してビームを水平移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る挿入光源の正面側の斜視図
図2】第1実施形態に係る挿入光源の正面図
図3】第1実施形態に係る挿入光源の上方から見た平面図
図4】第1実施形態に係る挿入光源の側面図
図5】第1実施形態に係る挿入光源の縦断面図
図6】水平駆動機構の構成を示す拡大斜視図
図7】磁石列の水平駆動について説明する概略図
図8A】ベローズシャフトとベローズの状態を示す図
図8B】ベローズシャフトとベローズの状態を示す図
図8C】ベローズシャフトとベローズの状態を示す図
図8D図8Cの断面図
図9A】磁石列における各永久磁石の配列と移動態様を示す図
図9B】磁石列における各永久磁石の配列と移動態様を示す図
図9C】磁石列における各永久磁石の配列と移動態様を示す図
図10】磁場特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る挿入光源の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る挿入光源の正面側の斜視図である。図2は、本実施形態に係る挿入光源の正面図である。図3は、本実施形態に係る挿入光源の上方から見た平面図である。図4は、本実施形態に係る挿入光源の側面図である。図5は、本実施形態に係る挿入光源の縦断面図である。図6は、水平駆動機構の構成を示す拡大斜視図である。
【0020】
<挿入光源の全体構成>
図5に示すように、挿入光源は、多数の磁石が列状に配置される第1磁石列M1と、同じく多数の磁石が列状に配置される第2磁石列M2がギャップδを介して向かい合っている。このギャップ空間を電子ビームが通過する。なお、磁石列の具体的な配列は後述するが、特許文献2に挙げたものが例示される。ただし、特定の磁石の配置に限定されるものではない。
【0021】
第1磁石列M1は、第1磁石支持体1により支持され、第2磁石列M2は、第2磁石支持体2により支持される。例えば、第1磁石列M1を構成する個々の磁石が第1磁石支持体1に対してボルト等により結合される。第2磁石列M2も同様である。
【0022】
また、第1磁石列M1と第2磁石列M2の磁石が向かい合う方向は垂直方向であるが、挿入光源としては、上記に限定されるものではなく、水平方向や傾斜方向、また、複数の方向の組み合わせを有していてもよい。図2は、真空槽3が取り外された状態で第1磁石列M1と第2磁石列M2の配列状態を示している。
【0023】
第1磁石列M1と第2磁石列M2は、内部が超高真空(10-5Pa~10-8Pa)に維持される真空槽3の内部に設置される。真空槽3は、形状が円筒形であり、図1図3などに示すように図の左右方向(電子ビームの進行方向)に沿った細長い形状を有している。真空槽3内部の真空度は10-7Pa以下であることが好ましい。真空度が10-7Pa以下であれば、近年真空封止型アンジュレータとして要求されている真空度を十分満足することができる。なお、ギャップδの大きさは後述するギャップ駆動機構により変更することができる。ベース10は、複数個の台座4により載置面の上に載置される。台座4は、前側と後側に適宜の個数を配置することができる。
【0024】
なお、真空槽3は、支持体60によりベース10の上に支持されている。図1などにも示すように、支持体60の上には支持部材61が設けられており、真空槽3の下部を受け止めている。支持体60、支持部材61、真空槽3は、不図示の機械的手段(例えば、ボルトナット)により結合されている。また、支持体60もベース10に対して適宜の機械的手段(例えば、ボルトナット)により結合されている。
【0025】
第1磁石支持体1の上部は、第1連結機構150を介して第1ビーム100に連結される。同様に、第2磁石支持体2の下部は、第2連結機構250を介して第2ビーム200に連結される。なお、第1ビーム100と第2ビーム200は同じ構造であるので、第1ビーム100に関してのみ説明し、第2ビーム200の説明は省略する。第1連結機構150と第2連結機構250も同じ構造であるので、第1連結機構150に関してのみ説明し、第2連結機構250の説明は省略する。
【0026】
第1ビーム100および第2ビーム200は、水平方向に長い直方体の形状を呈している。第1ビーム100には、第1磁石列M1および第1磁石支持体1を水平方向に駆動するための水平駆動機構5が設けられる。第2ビーム2も同様に水平駆動機構5が配置される。
【0027】
図5は磁石位置が後述のニュートラルな状態の時のべローズシャフトの中心を通る断面図である。第1連結機構150は、ベローズシャフト151とベローズ152を備えている。ベローズシャフト151の下部は第1磁石支持体1に連結され、上部はリニアテーブル153に連結される。ベローズ152は、蛇腹形状を有する筒状体であり、柔軟性を有する。ベローズ152の下部は、真空槽3に対して気密封止するように固定され、上部はベローズシャフト151に気密封止するように固定される。この構成により、ベローズシャフト151の水平方向および垂直方向の移動を許容し、かつ、真空槽3の内部の真空度を維持している。第1連結機構150は、水平方向に沿って7か所配置されている。なお配置個数は適宜設定できる。
【0028】
リニアテーブル153の上面と、第1ビーム100の下面は、リニアガイド154により連結されている。このリニアガイド154は、本来、真空槽3の内部を高温にすることによる磁石支持体1の延びを吸収するためのものであり、磁石列により構成される磁気回路に悪影響が出ないようにしている。後述の通り第1磁石列M1および第1磁石支持体1が水平駆動するに際しては、リニアガイド154はリニアテーブル153および第1ビーム100に固定されており、複数のリニアテーブル153を第1ビーム100に連結する役割を担っている。
【0029】
第1ビーム100は、第1サドル300(ビーム支持基台に相当)にリニアガイド301を介して支持されている。リニアガイド301は、図5に示すように、上下に2か所設けられている。第2ビーム200も同様に第2サドル400に支持されている。リニアガイド301により、第1ビーム100は水平方向に移動可能であり、第1磁石列M1を水平方向に移動可能である。第1サドル300は、図1に示すように、水平方向に2か所設けられている。
【0030】
第1ビーム100を水平方向に移動させるための水平駆動機構5が図2図5図6等に示される。水平駆動機構5は、ステッピングモーター50、このステッピングモーター50により回転駆動されるボールネジ51と、このボールネジ51に係合するブラケット52を有している。第2ビーム200にも同じ水平駆動機構5が設けられているが、第1ビーム100と同じであるので説明を省略する。本実施形態では水平駆動機構5が第1ビーム100に設置される例を示したが、水平駆動機構が設置される箇所はこれに限られない。例えば、第1サドル300に設置されてもよい。
【0031】
ステッピングモーター50とボールネジ51は、第1ビーム100に適宜の手段で固定されている。ブラケット52は、図5に示すように、係合部52aと連結部52bを有し、連結部52bが第1サドル300に固定される。連結部52bは、第1ビーム100に形成された穴100aを貫通しており、第1ビーム100とは干渉しない。連結部52の上下にリニアガイド301が配置されている。ボールネジ51が回転すると、相対的にブラケット52が水平移動する。本実施形態においては、ブラケット52に対して、ボールネジ51が水平方向に移動する。すなわち、第1ビーム100が水平方向に移動し、第1連結機構150を介して連結されている第1磁石支持体1、第1磁石列M1が一体的に水平方向に移動する。このとき、べローズシャフト151が移動しても柔軟性を有するべローズ152が変形して追随するので真空槽3は動かない。すなわち、真空槽3の位置はそのままで第1磁石支持体1、第1磁石列M1を移動させることができる。同様に第2磁石列M2も真空槽3の位置はそのままで第1磁石列M1と逆方向に移動させることができる。これにより、第1磁石列M1と、第2磁石列M2の相対的な位置を変化させることができる。
【0032】
本実施形態では、2個で1組のべローズシャフト151がリニアテーブル153に連結されており、リニアテーブル153はリニアガイド154を介して複数個(本実施形態では7個)第1ビーム100に連結されている。すなわち、第1ビーム100を移動させることによってそれに連結された複数組のべローズシャフト151を移動させることが可能である。この構成によって、例えば2m以上の長い磁石列でも無理なく移動させることができ、挿入光源の大型化が可能となる。
【0033】
本実施形態の挿入光源は、磁石列を水平方向に駆動する水平駆動機構5のほかに、ギャップを調整するギャップ駆動機構6も設けられている。これは、磁石列を垂直方向に駆動するためのものである。ギャップ駆動機構6は、本体フレーム11に搭載されており、さらに、第1サドル300はリニアガイド302により垂直方向に移動可能にガイドされる。第2サドル400に関しても同じである。ギャップ駆動機構6を駆動することで、第1サドル300が垂直方向に駆動され、これにより、第1ビーム100、第1連結機構150、第1磁石支持体1、第1磁石列M1も一体的に垂直方向に駆動される。ギャップ駆動機構6は、例えば、特開2017-033769号公報に開示されている機構を用いることができ、詳細は省略する。本実施形態の挿入光源は、位相調整式でありながらギャップ駆動も可能である。ギャップ駆動機構により必要に応じてギャップを広げることができるため、例えば試運転時に電子ビームが磁気回路に当たらないように回避することが可能である。
【0034】
<磁石列の水平駆動>
次に、磁場の調整のために行う磁石列の水平駆動に関して説明する。図7は、水平駆動について説明する概略図である。第1磁石列M1と第2磁石列M2のギャップδは維持したまま、第1磁石列M1と第2磁石列M2を水平方向に移動する。第1磁石列M1と第2磁石列M2の移動方向は、互いに逆である。図7は、第1磁石列M1が右に移動するとき、第2磁石列M2は左に移動することを示す。
【0035】
図9A図9Cは、磁石列における各永久磁石の配列と移動態様を示す図である。個々の磁石は5mmピッチで配列されている。図において白抜きの矢印は、着磁されている磁場の方向を示す。この着磁の方向は4通りであり、これを1組として、周期的に繰り返し配置されている。本実施形態では周期は20mmである。図9Bは、ニュートラルな状態を示す。図9Aは、ニュートラルに対して、第1磁石列M1が右に2.5mm、第2磁石列M2が左に2.5mm移動した状態、図9Cは、ニュートラルに対して、第1磁石列M1が左に2.5mm、第2磁石列M2が右に2.5mm移動した状態を示す。すなわち、ニュートラルに対して±2.5mmの範囲で磁石列を移動させて磁場を調整する。
【0036】
図8A図8Cは、それぞれ、図9A図9Cの状態におけるベローズシャフト151とベローズ152の状態を示す。図8Dは、図8Cの断面図を示す。ベローズシャフト151が水平駆動に移動するのに対応して、柔軟性を有するベローズ152が変形して追従する。これにより、真空槽3の内部の真空度を維持しつつ、磁石列の水平駆動を行うことができる。
【0037】
図10は、ニュートラルに対して±2.5mmの範囲で移動させたときの磁場特性を示すグラフ(計算値)である。Byは水平方向の磁場の大きさ、Bzは垂直方向の磁場の大きさを示す。図10の例は周期長20mmの場合であるが、±2.5mmの磁石列の移動により磁場をゼロから最大に変化させられることがわかる。例えば周期長が24mm以下の位相調整式挿入光源では、動作量が±3mm以下であり、本発明の方法を採用できる。
また、1T以上の挿入光源磁場強度が得られることがわかり、十分な実用性を有している。
【0038】
<別実施形態>
本実施形態に係る挿入光源は、水平駆動機構とギャップ駆動機構の双方を有しているが、水平駆動機構のみを有する挿入光源であってもよい。
【0039】
本実施形態では、第1磁石列と第2磁石列の両方を水平駆動機構により移動させているが、いずれか一方のみを駆動する構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
M1 第1磁石列
M2 第2磁石列
δ ギャップ
1 第1磁石支持体
2 第2磁石支持体
3 真空槽
4 台座
5 水平駆動機構
50 ステッピングモーター
51 ボールネジ
52 ブラケット
100 第1ビーム
150 第1連結機構
151 ベローズシャフト
152 ベローズ
153 リニアテーブル
200 第2ビーム
250 第2連結機構
300 第1サドル
301 リニアガイド
400 第2サドル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10