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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】磁気マーカ
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20221004BHJP
   E01F 11/00 20060101ALI20221004BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20221004BHJP
   G05D 1/03 20060101ALI20221004BHJP
   G08G 1/042 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G06K19/077 248
G06K19/077 156
G06K19/077 296
E01F11/00
G05D1/02 J
G05D1/03
G08G1/042 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018111405
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019215636
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
【審査官】甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-195873(JP,A)
【文献】特開2017-224236(JP,A)
【文献】特開2017-162463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
E01F 11/00
G05D 1/02
G05D 1/03
G08G 1/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に敷設される磁気マーカであって、
無線通信のための電波を送信あるいは受信するためのアンテナを有する無線タグが磁気発生源をなす本体に保持されており、
前記無線タグのアンテナを水分から隔離する防護部を備え
前記アンテナは、導電性材料よりなる導波部を含むと共に、いずれか2つの導波部が対向して配置された隙間を形成しており、
前記防護部は、前記アンテナを水分から隔離する距離が前記隙間の距離よりも長くなるように構成されている磁気マーカ。
【請求項2】
道路に敷設される磁気マーカであって、
無線通信のための電波を送信あるいは受信するためのアンテナを有する無線タグが磁気発生源をなす本体に保持されており、
前記無線タグのアンテナを水分から隔離する防護部を備え
該防護部は、前記無線タグを収容するための凹みである収容部を有し、当該収容部の開口部分の外周に、前記本体と組み合わされたときに液密に接する構造が設けられ、当該液密に接する構造を介在して前記本体と組み合わされた場合に、前記収容部への水分の浸入を防止可能なように構成されている磁気マーカ。
【請求項3】
請求項2において、前記本体は、柱状あるいはシート状をなし、前記無線タグは、柱状をなす本体の端面あるいはシート状をなす本体の表面に配設されており、
前記防護部は、
柱状をなす本体の端面に取り付けられると共に前記液密に接する構造は当該柱状をなす本体の端面及び当該柱状をなす本体の外周側面のうちの少なくともいずれかに対して液密に接する構造、
あるいはシート状をなす本体の表面に取り付けられるように構成されていると共に、前記液密に接する構造は当該シート状をなす本体の表面に対して液密に接する構造、
である磁気マーカ。
【請求項4】
請求項2または3において、前記アンテナは、導電性材料よりなる導波部を含むと共に、いずれか2つの導波部が対向して配置された隙間を形成しており、
前記防護部は、前記アンテナを水分から隔離する距離が前記隙間の距離よりも長くなるように構成されている磁気マーカ。
【請求項5】
請求項1または4において、前記無線タグは、前記電波に重畳される情報を処理するための処理部と、該処理部から電気的に延設された1次アンテナと、を含む電子部品を有し、当該電子部品が前記隙間に配置されている磁気マーカ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項において、前記防護部は、高分子材料を利用して形成されている磁気マーカ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項において、前記本体は、磁性材料である酸化鉄の磁粉が、基材である高分子材料中に分散しているフェライトマグネットであり、
前記防護部は、前記本体の外表面のうちの一部を覆うように該本体に組み合わせられている磁気マーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路に敷設される磁気マーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両側で検出可能に道路に敷設される磁気マーカが知られている(例えば、特許文献1参照。)。磁気マーカを利用すれば、例えば車線に沿って敷設された磁気マーカを利用する自動操舵制御や車線逸脱警報などの各種の運転支援のほか、自動運転を実現できる可能性がある。
【0003】
しかしながら、磁気マーカの検出により取得できる情報は、磁気マーカの有無や、磁気マーカに対する車両の幅方向のずれ量や、磁極性がN極であるかS極であるか等の情報であり、磁気マーカ側から取得できる情報の量や種類が十分とは言えないという問題がある。そこで、本願の出願人は、RFIDタグ等の情報提供部を備えた磁気マーカを提案している(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-202478号公報
【文献】WO2017/187879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような情報提供部を備える磁気マーカであれば、情報量が十分とは言えないという問題を解決し、無線通信を利用してより多くの情報を車両側に提供できるようになる。しかし、磁気マーカの周囲が浸水する可能性がある雨天等では、電波を減衰させる電磁気的な特性を呈する水分の影響によって無線通信の安定性が損なわれるおそれがある。特に、情報提供部にUHF帯域を適用する場合、この問題が顕著に生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、より多くの情報を安定的に提供可能な磁気マーカを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、道路に敷設される磁気マーカであって、
無線通信のための電波を送信あるいは受信するためのアンテナを有する無線タグが磁気発生源をなす本体に保持されており、
前記無線タグのアンテナを水分から隔離する防護部を備えている磁気マーカにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の磁気マーカは、無線タグを備えている。無線タグを備える磁気マーカであれば、無線通信を利用してより多くの情報を車両側に提供できる。一方、磁気マーカの周囲が浸水する可能性がある雨天等では、電波を減衰させる電磁気的な特性を呈する水分の影響によって無線通信の安定性が損なわれるおそれがある。
【0009】
これに対して、本発明の磁気マーカは、水分からアンテナを隔離する防護部を備えている。防護部を備える本発明の磁気マーカであれば、例えば雨天時などで磁気マーカの周囲に水分が存在する場合であっても、無線通信の確実性が損なわれるおそれを抑制できる。
このように本発明の磁気マーカは、より多くの情報を安定的に提供可能な優れた特性の磁気マーカである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における、磁気マーカを示す図。
図2】実施例1における、車両が磁気マーカを検出する様子を例示する説明図。
図3】実施例1における、磁気マーカの磁石を示す図。
図4】実施例1における、RFIDタグの斜視図。
図5】実施例1における、タグの正面図。
図6】実施例1における、RFIDタグの内部構造を示す断面図。
図7】実施例1における、保護カバーの内部構造を示す断面図。
図8】実施例1における、保護カバーの底面図。
図9】実施例1における、保護カバーを備える磁気マーカの断面構造を示す図。
図10】実施例1における、通信性能の評価結果を例示する図。
図11】実施例1における、他の磁気マーカを示す図。
図12】実施例2における、第1の態様の磁気マーカを示す斜視図。
図13】実施例2における、第2の態様の磁気マーカを示す斜視図。
図14】実施例2における、金属箔の展開図。
図15】実施例3における、シート状の磁気マーカを示す図。
図16】実施例3における、RFIDタグを示す図。
図17】実施例3における、シート状の磁気マーカの断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、RFIDタグ(Radio Frequency IDentification Tag、無線タグ)2を備える磁気マーカ1に関する例である。この内容について、図1図11を用いて説明する。
【0012】
磁気マーカ1は、図1及び図2のごとく、例えば車線の中央に沿って配置され、車線逸脱警報やレーンキープアシストや自動運転などの各種の車両制御に利用される道路用のマーカである。この磁気マーカ1では、円柱状の磁石10の一方の端面に、無線通信により情報を提供するRFIDタグ2が保護カバー4に覆われた状態で保持されている。
【0013】
磁気を検出する磁気センサユニット35、及びRFIDタグ2と通信可能なタグリーダユニット36を装備する車両3(図2)であれば、走行中に磁気マーカ1を磁気的に検出できると共に、RFIDタグ2との無線通信によりタグ情報を取得できる。タグ情報としては、例えば、絶対位置を表す情報や、対応する磁気マーカ1の識別情報や、交差点や分岐路などの道路情報等がある。
【0014】
(磁石)
磁気マーカ1の本体(磁気発生源)をなす磁石10(図3)は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料(非導電性材料)中に分散させた等方性フェライトプラスチックマグネット又はフェライトラバーマグネットである。非導電性の高分子材料中に磁粉を分散させた磁石10は、電気伝導率が低いという電気的特性を備えていると共に、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/mという磁気的特性を備えている。
【0015】
直径20mm、高さ28mmの円柱状の磁石10の表面の磁束密度Gsは45mT(ミリテスラ)である。45mTの磁束密度は、例えばオフィス等のホワイトボードや家庭の冷蔵庫の扉等に貼り付けて使用されるマグネットシート等の表面の磁束密度と同等あるいはそれ以下である。この磁石10を含む磁気マーカ1は、車両3のフロア高である地上高100~250mmの範囲において、おおよそ8μT以上の磁気を作用する。例えば、マグネト・インピーダンス素子を有する精度の高いMIセンサ等によれば、磁気マーカ1の磁気を確実性高く検出可能である。
【0016】
磁石10の外周面のうち、RFIDタグ2の取付面となる端面及び外周側面には、導電層16が形成されている。導電層16は、金属メッキ加工処理による厚さ0.03mmの銅メッキ層である。この導電層16は、磁石10の外周面に接しているが、上記の通り磁石10は電気伝導率が低いため、導電層16は磁石10本体と電気的に導通しない状態になっている。
【0017】
(RFIDタグ)
RFIDタグ2(図4)は、細長い短冊状の平板(図示略)をU字状に折り曲げた金属(導電性材料)製のアンテナ23と、シート状のタグ20と、を含んで構成された電子部品である。RFIDタグ2は、図4中の3辺の寸法A、B、Cが、それぞれ、12mm、7mm、9mmのブロック形状を呈している。本例では、寸法Aと寸法Cとで規定される表面が磁石10に対する取付面になっている。
【0018】
タグ20(図5)は、2mm×3mm大のタグシート200の表面にIC(Integrated Circuit)チップ201が実装された電子部品である。無線通信の電波に重畳される情報を処理するための処理部の一例であるICチップ201は、RFIDタグ2に対して無線で供給された電力により動作し、記憶している情報をタグ情報として無線通信により出力する。タグ20は、好ましくはUHF帯の無線タグである。
【0019】
タグシート200は、PET(PolyEthylene Terephthalate)フィルムから切り出したシート状部材である。タグシート200の表面には、銀ペーストよりなる導電性インクの印刷パターンであるアンテナ205が形成されている。アンテナ205は、切り欠きを有する環状を呈し、ICチップ201を配設するためのチップ配設領域(図示略)が切り欠き部分に形成されている。タグシート200にICチップ201を接合すると、アンテナ205がICチップ201と電気的に接続される。
【0020】
タグ20では、アンテナ205がICチップ201から電気的に延設された状態となっている。このアンテナ205は、外部からの電磁誘導によって励磁電流を発生させる給電用のアンテナとしての役割と、情報を無線送信する通信用のアンテナとしての役割と、を併せ持っている。
【0021】
RFIDタグ2では、例えば樹脂材料を注入して固めるインサート成形等により、U字状をなすアンテナ23が横向きに倒れた状態で樹脂中に保持されている(図4参照。)。ブロック形状のRFIDタグ2は、アンテナ23がなすU字の横幅に対応する寸法B(図6参照。)のみ、アンテナ23の寸法と一致し、他の寸法A及びCは、アンテナ23よりも大きくなっている。RFIDタグ2では、U字状のアンテナ23のうち隙間230を介して対面する一対の平板部231が、それぞれ、ブロック形状のRFIDタグ2の外表面に対して面一をなして露出している。本例のRFIDタグ2では、隙間230を介して対向して配置された一対の平板部231が、アンテナ23が備えるいずれか2つの導波部の一例となっている。本例のRFIDタグ2では、一対の平板部231が対面する隙間230の距離であるアンテナギャップGが5mmとなっている。
【0022】
RFIDタグ2では、アンテナ23がなすU字状の内側の底面233に対面するようにシート状のタグ20が樹脂中で保持されている。タグ20とアンテナ23との間には隙間が設けられ、両者が電気的に接触せず樹脂を介して電気的に絶縁された状態にある。RFIDタグ2では、ICチップ201から電気的に延設されたタグ20のアンテナ205が1次アンテナとして機能し、静電結合あるいは電磁結合等により電気的に非接触の状態でアンテナ23と結合する。アンテナ23は、タグ20のアンテナ205が送受する電波を仲介し、電波を増幅して電波強度を高めるアンテナとして機能する。
【0023】
なお、RFIDタグ2におけるタグ20の配設位置としては、断面U字状のアンテナ23の内側に位置していれば良い。アンテナ23がなすU字状の底面233ではなく、アンテナ23の互いに対面する平板部231のうちのいずれか一方と対面するようにシート状のタグ20が保持されていても良い。さらに、U字状の底面233と直交すると共に、互いに対面する平板部231にも直交するよう、シート状のタグ20が保持されていても良い。
【0024】
さらに、タグ20とアンテナ23との間に隙間が設けられ、樹脂を介して両者が電気的に絶縁された状態にあるRFIDタグ2(図6参照。)について、タグ20が内蔵するアンテナ205とアンテナ23とを電気的に接触させても良い。この場合には、タグ20のアンテナ205が、アンテナ23を介在して導電層16と電気的に接触することになる。
【0025】
(保護カバー)
図7の保護カバー4は、水分からアンテナ23を隔離する防護部の一例であり、磁石10の端面に保持されたRFIDタグ2を覆うように取り付けられる。保護カバー4としては、例えばPP(PolyPropylene)あるいはPET等の樹脂材料(高分子材料の一例。)による樹脂成形品を採用できる。なお、保護カバー4の形成材料としては、上記のほか、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アスファルト、或いは磁石10の本体と同じ材質であるフェライトプラスチックマグネットやフェライトラバーマグネット、フェライトプラスチックマグネットやフェライトラバーマグネットの基材をなす高分子材料などを利用しても良い。
【0026】
保護カバー4は、直径D=27mm、高さH1=17mmの円柱外形状をなしている。保護カバー4の一方の端面には、RFIDタグ2及び磁石10の端部を収容するための窪み41が穿設されている。窪み41は、端面からの深さ方向において2段構造を有している。端面側には、磁石10の外形に対応する円形状の深さH2=3mmの1段目の凹み411が設けられ、この円形状の凹み411の底面には、ブロック形状のRFIDタグ2を収容するための直方体形状の2段目の凹みである収容部412が設けられている。なお、保護カバー4については、直径D=30mm、高さH1=25mmの円柱外形状のものであっても良い。
【0027】
保護カバー4は、磁石10に対して液密に装着されたとき、収容部412への水分の浸入を防止する液密構造を有している。この液密構造は、収容部412が凹み411の底面においてのみ開口すると共に、凹み411の内周面が磁石10本体に液密に接するという構造により実現されている。円柱状の磁石10の端面と凹み411の底面との間、及び磁石10の外周側面と凹み411の内周側面との間のうち、少なくともいずれか一方が液密になっている。
【0028】
収容部412では、寸法Yと寸法Xとがなす開口形状が13mm×10mmの矩形をなし、円形状の凹み411の底面からの深さZが8mmとなっている。収容部412の内寸は、RFIDタグ2の外寸(12mm×9mm×7mm)に対して3辺全てについて1mmずつ大きくなっている。このように収容部412をひと回り大きくすることで、磁石10に対するRFIDタグ2の取付位置の誤差を吸収可能としている。また、収容部412の底側の保護カバー4の厚さH3は、保護カバー4の高さH1(17mm)から、凹み411の深さH2(3mm)、及び収容部412の深さZ(8mm)を差し引いた6mmとなっている。
【0029】
なお、収容部412は円形状の凹み411の中央に設けられている。したがって、保護カバー4の径方向の厚さは、収容部412の角部において最小になる。図8のごとく、円形状の凹み411の中心から収容部412の角部までの距離は約8.2mm(6.5の二乗+5の二乗の平方根。三平方の定理。)であるから、収容部412の外周において、直径27mmの保護カバー4の径方向の最小厚さはおよそ5.3mm(27mm/2-8.2mm)となる。
【0030】
(磁気マーカ)
磁気マーカ1は、図9のごとく、RFIDタグ2、磁石10、保護カバー4を組み合わせて組み立てられる。RFIDタグ2は、断面U字状のアンテナ23の平板部231が露出する表面を介して磁石10の端面に取り付けられている。RFIDタグ2の取付は、例えば導電性を有する接着材を利用する接着接合などの化学的な接合であっても良く、超音波振動でRFIDタグ2を加振して接合する超音波金属接合等の物理的な接合であっても良く、ネジ止め等の機械的な接合であっても良い。
【0031】
ここで、RFIDタグ2の取付面をなす磁石10の端面には導電層16が形成されている。一方、RFIDタグ2では、磁石10に対する取付面にアンテナ23が露出している。したがって、上記のように磁石10の端面にRFIDタグ2を接合すれば、アンテナ23が導電層16と電気的に接触する状態となる。したがって、磁気マーカ1の導電層16は、アンテナ23と共に、タグ20が内蔵するアンテナ205の外部アンテナのように機能する。
【0032】
磁気マーカ1では、RFIDタグ2を覆うように保護カバー4が装着されている。磁気マーカ1における保護カバー4は、2段構造の窪み41を構成する1段目の円形状の凹み411に磁石10の端部を収容すると共に、2段目の収容部412にRFIDタグ2を収容している。保護カバー4は、凹み411の弾性変形を伴いながら磁石10の外周面に対して密着して装着され、液密性が確保される。なお、保護カバー4の装着方法としては、接着剤を利用して接合しても良い。
【0033】
RFIDタグ2を覆う保護カバー4の厚さは、上記の通り、RFIDタグ2の寸法B(図4参照。)の方向に相当する円柱状の磁石10の軸方向において6mm、円柱状の磁石10の径方向において約5.3mm以上となっている。アンテナギャップG(隙間230の寸法)で対面する導波部である平板部231を備えるRFIDタグ2の場合、RFIDタグ2の寸法Bの方向の厚さがアンテナ23の性能を左右する。
【0034】
磁気マーカ1の場合、周囲が浸水して保護カバー4の外表面に水分が接するようになると、保護カバー4の外表面に接する水分の境界面が形成される。この水分の境界面は、平板部231と対面するため、一対の平板部231の対面構造によるアンテナ構造と似通った構造が、平板部231と水分の境界面との間にも形成される。この場合、平板部231と水分の境界面との対面構造に電波のエネルギーの一部が作用し、一対の平板部231がなすアンテナ構造が受信する電波のエネルギーが減少する。そして、水分の境界面がなす対面構造に作用した電波のエネルギーは、水分中で発生する渦電流等に変換されて消費されてエネルギー損失となる。
【0035】
詳しくは後述するが、平板部231と水分の境界面との対面構造における隙間が、一対の平板部231の対面構造におけるアンテナギャップG(隙間230の寸法)よりも狭い場合には、アンテナ23の性能劣化が顕著となる傾向にある。ここで、平板部231と水分の境界面の対面構造における隙間は、平板部231と保護カバー4の外表面との間隔であり、この隙間の距離がアンテナ23を水分から隔離できる距離となっている。以下の説明では、一対の平板部231のうちの外側に当たる平板部231と保護カバー4の外表面との距離を、平板部231(アンテナ23)を水分から隔離できる隔離距離Gwという。
【0036】
本例の保護カバー4の場合、磁石10の端面に接する円形状の凹み411の底面を基準とした収容部412の深さZ(図7)が8mmである。この深さZに対応するRFIDタグ2の寸法Bは7mmであるため、磁石10に対してキャップのように保護カバー4を取り付けた磁気マーカ1では、円柱状の磁石10の軸方向において、RFIDタグ2と保護カバー4との間に1mmの隙間が生じる。
【0037】
磁気マーカ1では、アンテナ23の表面がなすRFIDタグ2の外表面から保護カバー4の外表面までの距離が、保護カバー4の厚さ6mmに隙間1mmを足し合わせた7mmとなる。したがって、本例の磁気マーカ1の場合、防護部としての保護カバー4によって確保できる隔離距離Gwが7mmとなっている(図9参照。)。
【0038】
以上のように組み立てられた磁気マーカ1は、例えば、路面30S(図2参照。)に穿設された収容穴31に収容されて埋設される。路面30Sの舗装に用いられるアスファルト等の舗装材料では、骨材として砂利等が利用されている。そのため、路面30Sや路面30Sの内部には無数の孔が形成され、その孔を伝って雨水等が浸透する可能性が高い。そして当然ながら、路面30Sから水分が浸透すれば、磁気マーカ1の周囲が浸水し、RFIDタグ2のアンテナ23に水分が近接する状況に陥る。
【0039】
本例の磁気マーカ1は、RFIDタグ2を覆う保護カバー4を備えている。それ故、磁気マーカ1の周囲が浸水しても、アンテナ23への水分の近接を防止でき、水分からアンテナ23を隔離できる。本例の磁気マーカ1では、上記の通り、水分からアンテナ23を隔離できる隔離距離Gwが7mmとなっている。
【0040】
ここで、RFIDタグ2付きの磁気マーカ1について、発明者らは、RFIDタグ2の通信性能に関する各種の試験を行っている。試験項目の中には、磁気マーカ1を水没させた状態で通信性能を計測する水没試験等が含まれている。そして、発明者らは、保護カバー4の厚さをパラメータとして変更したときの水没試験を通じて、保護カバー4の厚さが通信性能に大きな影響を与えることを見出している。
【0041】
さらに、発明者らは、水没試験の試験結果を解析あるいは評価することで、アンテナ23の平板部231の表面から保護カバー4の外周面までの距離、すなわち水分からのアンテナ23の隔離距離Gwと、アンテナ23の隙間230の距離であるアンテナギャップGと、の間に強い相関関係が存在することを見出している(図10参照。)。
【0042】
図10は、アンテナギャップGと隔離距離Gwとの各組合せについて水没試験を実施した際の通信性能の評価結果を例示している。この水没試験では、水没させた磁気マーカ1の真上1mの位置に設置されたタグリーダユニット36により無線通信を実施したときのエラー率を計測している。同図中のA+、A、A-、Bの通信性能の評価は、エラー率の度合いをわかり易く表示するものである。A+は、タグリーダユニット36とRFIDタグ2とが問題なく通信可能な程度のエラー率の度合いを示している。Aは、A+よりもエラー率が高いものの問題なく通信が可能な程度のエラー率の度合いを示している。A-は、一応通信は可能であるが、外部環境の変化等に応じて通信ができなくなるおそれがある程度のエラー率の度合いを示している。Bは、安定的な通信を実現できない程度のエラー率の度合いを示している。
【0043】
図10の通信性能の評価結果においては、アンテナギャップGよりも隔離距離Gwが小さくなったときに通信が不安定になる傾向が顕著である。一方、アンテナギャップGよりも隔離距離Gwが大きくなると、通信が安定する傾向にある。同図に基づけば、隔離距離Gwとして、アンテナギャップGと同じ値か、あるいはアンテナギャップGを超える値を設定すると良いことがわかる。
【0044】
本例の磁気マーカ1は、図10の通信性能の評価結果を反映して設計されたものである。この磁気マーカ1が備えるRFIDタグ2のアンテナギャップGが5mmである一方、保護カバー4によって隔離距離Gw=7mmが確保されている。アンテナギャップG=5mmに対する隔離距離Gw=7mmの組み合わせは、図10の通信性能の評価結果としてA+印が得られる組み合わせとなっている。
【0045】
防護部の一例である保護カバー4を備える本例の磁気マーカ1は、周囲が浸水した場合であっても、水分からアンテナ23を十分に隔離でき、高い通信性能を維持できる。したがって、この磁気マーカ1によれば、雨天等の環境であっても、車両3との間の無線通信を確実性高く実現できる。なお、RFIDタグ2の表面のうち、磁石10に接する側の表面側では、磁石10が防護部として機能する。この表面側では、磁石10自体によって水分からアンテナ23が隔離される。
【0046】
本例では、本体をなす磁石10の外周面に直接、導電層16を設けているが、この導電層16の外周に、水分の近接を防止するための防護部を設けることも良い。
樹脂材料よりなる樹脂層を磁石10の外周に形成し、その樹脂層の外側に導電層を設けることも良い。あるいは、導電層16を設けた磁石10の外周を樹脂材料によりコーティングし、コーティング層の表面にRFIDタグ2を配設することも良い。メッキ層である導電層16に代えて、金属箔等による導電層を設けることも良い。
保護カバー4と同様の形状を、樹脂材料等のモールド成形により実現しても良い。
【0047】
図11のごとく、インサート成形等により磁石10の内部にRFIDタグ2を仕込むことも良い。この場合、RFIDタグ2のアンテナ23(平板部231)と磁石10の外表面(端面)との距離である隔離距離Gwが、RFIDタグ2のアンテナギャップGよりも長くなるよう、磁石10の内部にRFIDタグ2をインサートすると良い。RFIDタグ2のアンテナギャップGが5mmであれば、インサートされたRFIDタグ2の表面と、磁気マーカ1(磁石10)の端面と、の距離である隔離距離Gwを例えば6mmとすると良い。この磁気マーカ1では、磁石10自体が、RFIDタグ2のアンテナ23を水分から隔離する防護部として機能する。
さらに、RFIDタグ2の構成部品であるアンテナ23及びタグ20が内部に配置されるように、酸化鉄の磁粉が高分子材料(非導電性材料)中に分散する磁石10を成形することも良い。
【0048】
(実施例2)
本例は、実施例1の磁気マーカ1に基づいて、シート状のRFIDタグを採用すると共に、外部アンテナを設けた例である。この内容である第1及び第2の態様について、図12図14を用いて説明する。なお、本例のRFIDタグは、実施例1のRFIDタグを構成するシート状のタグ(図4中の符号20)そのものである。そこで、本例の説明では、RFIDタグ20と表記する。
【0049】
(第1の態様)
図12に例示の磁気マーカ1では、円柱状の磁石10の一方の端面に、直径12mmの略円形状の金属箔24が貼付されていると共に、シート状のRFIDタグ20が保持されている。そして、RFIDタグ20を保持する磁石10の端面には、厚さ5mmの保護カバー43が設けられている。なお、本例の磁石10は、実施例1の磁石とは異なり、外周面に導電層が設けられていない。
【0050】
略円形状の金属箔24は、磁石10の円形状の端面において同心配置されるように貼付されている。それ故、直径12mmの略円形状の金属箔24の外周縁部は、直径20mmの磁石10の端面の外周から4mmほど内周側に奥まって位置している。また、金属箔24には、中心を通過すると共に、一方の端部のみが外部に連通するスリット状の隙間240が設けられている。金属箔24では、幅3mmの隙間240を介して対面する2つのエリア241が形成されている。この2つのエリア241は、隙間240の他方の端部側でつながっており、分離されずに連結されている。
【0051】
スリット状の隙間240の奥側に当たる他方の端部には、2mm×3mm大のシート状のRFIDタグ20が配置されている。金属箔24は、静電結合あるいは電磁結合等により電気的に非接触の状態でRFIDタグ20のアンテナ(1次アンテナ。図5中の符号205)と結合し、外部アンテナとして機能する。隙間240を介して対面する2つのエリア241は、隙間240を挟んで対向配置された導波部の一例をなしている。金属箔24を外部アンテナとして利用するRFIDタグ20では、2つのエリア241の隙間240の幅3mmがアンテナギャップGとなっている。
【0052】
防護部の一例である保護カバー43は、磁石10の端面から延設されている。保護カバー43は、例えば、磁気マーカ1よりも軸方向に長く、磁気マーカ1を隙間なく収容可能な円筒(図示略)を用いて形成できる。例えば、この円筒に磁気マーカ1を収容した状態で、RFIDタグ20を配置した端面側にゴム材料あるいは樹脂材料などを充填し、樹脂材料等が硬化した後に円筒から磁気マーカ1を抜き取れば、図12に例示する保護カバー43を形成できる。
【0053】
保護カバー43の厚さは、アンテナギャップG=3mmを超える寸法を設定すると良い。これにより、外部アンテナとして機能する金属箔24から保護カバー43の外表面までの距離である隔離距離Gwとして、アンテナギャップG=3mmを超える寸法を確保できる。
【0054】
なお、樹脂成形等による保護カバー43に代えて、実施例1に似通ったキャップタイプの保護カバーを採用することも良い。あるいは、シリコーンゴム等の柔軟性を有する材料により円板状の部材を成形し、磁石10の端面に接着接合することで保護カバーを設けることも良い。
【0055】
(第2の態様)
図13のごとく、スリット状の隙間250を設けた金属箔25を磁石10の外周側面に巻き付けるように配置すると共に、そのスリット状の隙間250にシート状のRFIDタグ20を配置することも良い。金属箔25は、図14の展開図のごとく、横長の略長方形状を呈し、横幅の寸法が、磁石10の周囲長よりも短い寸法になっている。したがって、この金属箔25を磁石10に巻き付けるように形成した場合、磁石10の周囲の全周には足らず、周方向における1箇所に隙間が形成された状態になる。
【0056】
図14の展開図のごとく、横長の略長方形状の金属箔25には、長手方向に延在すると共に一方の端部のみが外部に開口するスリット状の隙間250が形成されている。この金属箔25では、幅3mmの隙間250を介して対面する2つのエリア251が形成されている。この2つのエリア251は、隙間250の他方の端部側でつながっており、分離されずに連結されている。
【0057】
スリット状の隙間250の奥側に当たる他方の端部には、2mm×3mmのシート状のRFIDタグ20が配置されている。金属箔25は、上記の第1の態様と同様、静電結合あるいは電磁結合等により電気的に非接触の状態でRFIDタグ20のアンテナ(1次アンテナ。図5中の符号205)と結合し、外部アンテナとして機能する。隙間250を介して対面する2つのエリア251は、隙間250を挟んで対向配置された導波部の一例をなしている。金属箔25を外部アンテナとして利用するRFIDタグ20では、2つのエリア251の隙間250の幅3mmがアンテナギャップGとなっている。
【0058】
外部アンテナとして機能する金属箔25を水分から隔離する防護部の一例である保護カバー43(図13)は、円筒状の樹脂成形品である。円筒状の保護カバー43の厚さは例えば5mmであり、アンテナギャップG=3mmを超える厚さとなっている。円筒状の保護カバー43を磁石10に外挿すれば、外部アンテナとして機能する金属箔25から保護カバー43の表面までの距離である隔離距離GwがアンテナギャップG=3mmを超える寸法になる。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0059】
(実施例3)
本例は、実施例1に基づいて、シート状の磁気マーカに変更した例である。この内容について、図15図17を用いて説明する。
本例の磁気マーカ1は、図15のごとく、磁石シート10の表面に、シート状のRFIDタグ27を保持している。この磁気マーカ1では、防護部の一例である保護シール47がRFIDタグ27を覆うように貼付されている。
【0060】
磁気マーカ1は、直径100mm、厚さ1.5mmの扁平な円形状を呈し、路面への接着接合が可能なマーカである。この磁気マーカ1をなす磁石シート10は、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/mの等方性フェライトラバーマグネットをシート状に成形したものである。
【0061】
RFIDタグ27は、図16のごとく、渦巻状に巻回されたパターンのアンテナ272を採用することで、アンテナの性能を高めたものである。RFIDタグ27は、3mm×4mmのシート状を呈している。このRFIDタグ27は、外部アンテナが必須ではなく、単体で車両側と通信可能である。RFIDタグ27では、渦巻状のアンテナ272の隙間270がアンテナギャップGとなる。このRFIDタグ27では、このアンテナギャップGが0.5mmとなっている。
【0062】
保護シール47は、PP製の直径7mm、厚さ1mmの接着シールである。磁気マーカ1に組み合わせる前の保護シール47は、台紙に保持された状態にある。台紙を剥した側の保護シール47の表面は、接着剤が塗布された接着面をなし、磁石シート10に対してそのまま貼付可能である。
【0063】
本例の磁気マーカ1の場合、図17のごとく、保護シール47の厚さである1mmの寸法が隔離距離Gwとなる。隔離距離Gwが、アンテナギャップG=0.5mmを超えているため、保護シール47の表面に水分が付着等してもRFIDタグ27の通信性能が損なわれることがない。なお、磁気マーカ1の裏面側については、磁石シート10自体の厚みである1.5mmによって、1.5mm以上の隔離距離Gwが確保される。この場合、磁気マーカ1の裏面側については、磁石シート10自体が、RFIDタグ27を水分から隔離する防護部として機能する。
【0064】
本例の保護シール47に代えて、樹脂材料よりなるモールド層を防護部の一例としてRFIDタグ27の表面側に設けることも良い。このモールド層の形成エリアは、磁気マーカ1の表面全体であっても良いが、RFIDタグ27を覆うエリアであれば良く、磁気マーカ1の表面の一部であっても良い。
【0065】
さらに、実施例2の第1の態様のシート状のRFIDタグ(図12中の符号20)と、スリット状の隙間240を設けた金属箔(同符号24)と、を、磁石シート10の表面に配置することも良い。このとき、アンテナギャップGとなる金属箔の隙間が3mm程度であれば、例えば4mm程度の厚さの保護シールあるいは樹脂コーティング等による保護層を磁石シート10の表面に積層することにより防護部を形成すると良い。なお、磁石シート10の厚さが1.5mmであるので、磁石シート10の裏面(RFIDタグが配置されていない側の面)にも、水分からアンテナを隔離する防護部として機能する保護シートあるいはモールド層などを設ける必要がある。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0066】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気マーカ
10 磁石(本体)
16 導電層
2 RFIDタグ(無線タグ)
20 タグ(電子部品)
201 ICチップ(処理部)
205 アンテナ(1次アンテナ)
23 アンテナ
230 隙間
231 平板部(導波部)
3 車両
35 磁気センサユニット
36 タグリーダユニット
30S 路面
31 収容穴
4 保護カバー(防護部)
412 収容部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17