(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20221004BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
D21H21/02
D21H17/67
(21)【出願番号】P 2018115531
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-03-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-500279(JP,A)
【文献】米国特許第05368692(US,A)
【文献】特開平06-192988(JP,A)
【文献】特表平09-503480(JP,A)
【文献】特表2005-522590(JP,A)
【文献】特開2012-167407(JP,A)
【文献】特開2006-016737(JP,A)
【文献】特開2005-273048(JP,A)
【文献】特開2007-291572(JP,A)
【文献】特開2009-024288(JP,A)
【文献】特表2008-505257(JP,A)
【文献】特開2008-069496(JP,A)
【文献】特表平07-506150(JP,A)
【文献】特開平05-247433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-1/78
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘクトライトと分散剤と水とを含むヘクトライトの水性懸濁液であるピッチコントロール剤であって、
前記分散剤が、重量平均分子量1000~10000のアクリル酸塩系ポリマーであり、前記ヘクトライトの含有量が
3~
15質量%であ
り、
pHが9~11である、ピッチコントロール剤。
【請求項2】
前記分散剤が、重量平均分子量1700~7000のアクリル酸塩系ポリマーで
ある、請求項1に記載のピッチコントロール剤。
【請求項3】
前記アクリル酸塩系ポリマーが、アクリル酸塩の単独重合物、アクリル酸塩と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸もしくはその塩との共重合物、又は、アクリル酸塩と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸及びその塩との共重合物である請求項2に記載のピッチコントロール剤。
【請求項4】
前記アクリル酸塩系ポリマーの含有量が0.01~5質量%である、請求項2又は3に記載のピッチコントロール剤。
【請求項5】
20℃における粘度が400~3000mPa・sである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤。
【請求項6】
pH調整剤をさらに含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤を、紙の製造設備の少なくとも一部、パルプの製造設備の少なくとも一部、紙の製造設備における紙及び/又はパルプ、及び、パルプの製造設備におけるパルプ、のうち少なくとも一つの対象物に向けて散布することを含むピッチコントロール方法。
【請求項8】
前記ピッチコントロール剤を含む洗浄水を前記対象物に向けて散布する、請求項
7に記載のピッチコントロール方法。
【請求項9】
前記洗浄水は、前記洗浄水1L当たりの固形分の含有量が0.01~1000mgとなるように、前記ピッチコントロール剤を含む、請求項
8に記載のピッチコントロール方法。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤を、パルプ又は紙の製造工程において、パルプに添加することを含むピッチコントロール方法。
【請求項11】
前記パルプに対して、前記パルプの質量1t当たりの、前記パルプ以外の固形分の質量が0.01~1250gとなるように、前記ピッチコントロール剤を添加する、請求項
10に記載のピッチコントロール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、パルプ又は紙の製造工程におけるピッチ付着を効果的に抑制、防止することができるピッチコントロール剤及びピッチコントロール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ及び紙の製造工程でピッチと言われているものは、木材、パルプ又は紙から遊離した天然樹脂やガム物質、さらには、パルプ又は紙の製造工程で使用される添加薬品などに由来する有機物を主成分とする非水溶性の粘着物質である。一般に、ピッチはパルプ又は紙の製造工程中、特に白水中では、コロイド状になって分散しているが、何らかの外的作用、例えば、大きなせん断力、pHの急激な変化、硫酸バンドの過剰添加などにより、コロイド状態が破壊されて凝集し、巨大化すると考えられている。凝集し、巨大化したピッチはその粘着性によりパルプや紙へ付着し、またファンポンプ、配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロールなどの製造装置へも付着する。さらに、ピッチは後に剥離してパルプや紙へ再付着し、紙の汚点、欠点の発生による品質の低下や、断紙の発生による生産性、作業性の低下などのピッチ障害を引き起こす。
【0003】
ピッチ障害への対策として、界面活性剤、ポリマー、タルク等をピッチコントロール剤として使用することが知られている。例えば、特許文献1には、界面活性剤をピッチコントロール剤に用いることが記載されており、特許文献2には、カチオンポリマーをピッチコントロール剤に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-14068号公報
【文献】特開2004-44067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、紙の多様化による使用薬品類の増加、古紙配合率の増加、古紙品質の悪化、及び、工程で使用する水のクローズド化が進むにつれて、従来にも増してピッチ障害の程度が悪化してきている。ピッチコントロール剤に対しても、より効果的にピッチ障害を抑制できるようにすることが求められている。しかしながら、このような要請に十分耐え得るピッチコントロール剤はまだ得られていないのが実情である。例えば、特許文献1に記載されるような界面活性剤は、泡の発生により、作業性を低下させたり、排水工程での障害を発生させたりするという問題があった。また、特許文献2に記載されるようなカチオンポリマーは、アニオン成分(サイズ剤、紙力剤、消泡剤等)や染料と反応して、ピッチを抑制するという効果が十分発揮できないという問題があった。なお、タルクは、ピッチを不粘着化させる能力が十分高いとはいえず、ピッチ障害をより効果的に抑制しようとすると、使用量を増やす必要があり、結果として設備の摩耗等の問題が生じる恐れがある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、泡の発生が抑制され、高いピッチ抑制効果を発揮し得るピッチコントロール剤、及び、ピッチコントロール方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヘクトライトの水性懸濁液であるピッチコントロール剤を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
[1]ヘクトライトと分散剤と水とを含むヘクトライトの水性懸濁液であるピッチコントロール剤。
[2]前記分散剤が、重量平均分子量1000~10000のアクリル酸塩系ポリマーであり、前記ヘクトライトの含有量が1~20質量%である、[1]に記載のピッチコントロール剤。
[3]前記アクリル酸塩系ポリマーが、アクリル酸塩の単独重合物、アクリル酸塩と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸もしくはその塩との共重合物、又は、アクリル酸塩と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸及びその塩との共重合物である[2]に記載のピッチコントロール剤。
[4]前記アクリル酸塩系ポリマーの含有量が0.01~5質量%である、[2]又は[3]に載のピッチコントロール剤。
[5]pHが7~11である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤。
[6]20℃における粘度が400~3000mPa・sである、[1]~[5]のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤。
[7]pH調整剤をさらに含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤。
[8][1]~[7]のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤を、紙の製造設備の少なくとも一部、パルプの製造設備の少なくとも一部、紙の製造設備における紙及び/又はパルプ、及び、パルプの製造設備におけるパルプ、のうち少なくとも一つの対象物に向けて散布することを含むピッチコントロール方法。
[9]前記ピッチコントロール剤を含む洗浄水を前記対象物に向けて散布する、[8]に記載のピッチコントロール方法。
[10]前記洗浄水は、前記洗浄水1L当たりの固形分の含有量が0.01~1000mgとなるように、前記ピッチコントロール剤を含む、[9]に記載のピッチコントロール方法。
[11][1]~[7]のいずれか1項に記載のピッチコントロール剤を、パルプ又は紙の製造工程において、パルプに添加することを含むピッチコントロール方法。
[12]前記パルプに対して、前記パルプの質量1t当たりの、前記パルプ以外の固形分の質量が0.01~1250gとなるように、前記ピッチコントロール剤を添加する、[11]に記載のピッチコントロール方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、泡の発生が抑制され、高いピッチ抑制効果を発揮し得るピッチコントロール剤、及び、ピッチコントロール方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。
【0011】
<ピッチコントロール剤>
本発明の実施形態に係るピッチコントロール剤は、ヘクトライトと分散剤と水とを含むヘクトライトの水性懸濁液である。
【0012】
ヘクトライトは3面体型スクメタイトの一種であり、Ca、Mgなどの2価陽イオン3個が八面体に組み入れられている。なお、ベントナイト(モンモリロナイトを主成分とする粘土)は、2八面体型スクメタイトの一種であり、Alなどの3価陽イオン2個が八面体に組み入れられている。つまり、ヘクトライトはベントナイトとは異なる構造を有している。
リン酸系分散剤や自由酸形態のカルボン酸系分散剤を使用すると、低溶解度のリン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどが析出したり、ヒドロゲル化したりして、水性懸濁液の安定性を害することがある。これに対して、ヘクトライトの水性懸濁液は、析出物の生成がほとんどなく、ゲル化せず、貯蔵安定性にも優れている。
【0013】
本実施形態のピッチコントロール剤に用いられるヘクトライトは、3八面体型スクメタイトの一種である。ヘクトライトは、天然に産するものであってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。合成ヘクトライトとしては、BYK社製のラポナイトEP、RD、RDS、SL25及びS482;コープケミカル社製のルーセンタイトSWN及びSWF;エレメンティススペシャリティーズ社製のベントンSD-3、HC、EW、MA及びLTなどを挙げることができる。
【0014】
ヘクトライトの体積平均粒子径は、好ましくは0.01~2μm、より好ましくは0.01~1μmである。体積平均粒子径が2μm以下であれば、懸濁状態を良好に維持しやすくなる。体積平均粒子径が0.01μm以上であれば、ヘクトライトが凝集によって沈降またはゲル化するのを回避しやすくなる。体積平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度測定装置により測定することができる。
【0015】
本実施形態のピッチコントロール剤に含まれるヘクトライトの量は、ピッチコントロール剤である水性懸濁液の質量に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。
【0016】
本実施形態に用いられる好ましい分散剤は、アクリル酸塩系ポリマーである。アクリル酸塩系ポリマーは、好ましくはアクリル酸塩のホモポリマー(単独重合物)またはアクリル酸塩と1種類以上の他の単量体とのコポリマー(共重合物)である。アクリル酸塩としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウムなどを挙げることができる。アクリル酸塩系ポリマーは、アクリル酸塩に由来する構造単位の量が、全構造単位に対して、好ましくは70~100モル%である。
【0017】
他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸およびその塩、イタコン酸およびその塩、マレイン酸、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸アンモニウム;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンなどの芳香族ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド;N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミド;2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸およびその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびその塩;イソブチレン、酢酸ビニルなどを挙げることができる。他の単量体は、1種類だけ用いてもよいし2種類以上用いてもよい。これら他の単量体のうち、2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸及び/又はその塩が好ましく、2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸及びその塩がより好ましい。
【0018】
アクリル酸塩系ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1000~10000、より好ましくは1200~9000、さらに好ましくは1500~8000、さらにより好ましくは1700~7000である。重量平均分子量がこの範囲にあるアクリル酸塩系ポリマーは、ヘクトライトの水中での均一分散を助け、貯蔵中の水性懸濁液の粘度の上昇を抑制する。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)による標準ポリアクリル酸換算の値である。
【0019】
ピッチコントロール剤に含まれる分散剤の量は、ピッチコントロール剤である水性懸濁液の質量に対して、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.09~3質量%であり、ヘクトライトの質量に対して、好ましくは0.1~25質量%、より好ましくは0.3~20質量%である。
【0020】
本実施形態のピッチコントロール剤に用いられる水は、その硬度によって特に制限されないが、析出物の抑制という観点から、硬度が、好ましくは0~120mg/L、より好ましくは0~60mg/L、さらに好ましくは0~10mg/L、最も好ましくは0mg/Lである。RO水、脱イオン水、蒸留水などの純水が、最も好ましく用いられる。本実施形態の水性懸濁液に含まれる水の量は、好ましくは75~99質量%、より好ましくは82~97質量%である。
【0021】
本実施形態のピッチコントロール剤として用いられる水性懸濁液は、その調製方法によって特に限定されない。例えば、次の手順で水性懸濁液を調製することができる。まず、容器に入れた常温の純水に所定量のアクリル酸塩系ポリマーを添加し、撹拌することによって溶液を得る。この溶液を強く撹拌しながら所定量のヘクトライトを少しずつ添加する。このヘクトライトが添加された溶液を均一になるまで撹拌することによって水性懸濁液を得ることができる。
【0022】
本実施形態のピッチコントロール剤である水性懸濁液は、その粘度が、好ましくは400~3000mPa・s、より好ましくは700~2000mPa・sである。なお、本願明細書において、水性懸濁液の粘度は、20℃において、ブルックフィールドC形回転粘度計(No.3ローター、30rpm)を用いて、JIS K7117-1の手順により測定した値である。
また、本実施形態のピッチコントロール剤である水性懸濁液は、そのpHが、好ましくは7~11、より好ましくは9~11である。pHを7以上とすることで、アクリル酸塩系ポリマー中の塩形態が減り自由酸形態が増えたり、ヘクトライトのプラス電荷を持ったエッジ部分が、edge to face結合(カードハウス構造)を形成したりして、ゲル化が進みやすくなるのを抑制することができる。pHを11以下とすることで、アルカリ性が強くなりすぎることを防止し、所期のピッチ付着抑制効果を得やすくなる。
【0023】
本実施形態のピッチコントロール剤は、ヘクトライト及び上述した分散剤とは異なる成分をさらに含んでいてもよい。例えば、pH調整剤を含んでいてもよい。
【0024】
<ピッチコントロール方法>
本発明のピッチコントロール方法の第一の態様においては、(a)紙又はパルプの製造工程において、製造設備の少なくとも一部、(b)紙の製造設備における紙及び/又はパルプ、及び、(c)パルプの製造設備におけるパルプ、のうち少なくとも一つの対象物に向けて上述したピッチコントロール剤を散布する。
ピッチコントロール剤の散布の対象となる、ピッチが付着しやすい製造装置の具体的な部位としては、例えば、ワイヤー、フェルト、ロールなどを挙げることができる。ピッチコントロール剤を、紙やパルプの製造設備のうちピッチが付着し得る部位や、紙やパルプに対してピッチコントロール剤を散布することによって、製紙装置やパルプの製造設備にピッチが付着することを防止する。また、製紙途中又は製紙後の紙にピッチが付着するのを防止することができる。
【0025】
上記第一の態様において、ピッチコントロール剤は、洗浄水に添加して散布することが好ましい。また、ピッチコントロール剤は、水溶液として散布することが好ましい。ピッチコントロール剤の散布の方法に特に制限はないが、洗浄シャワーラインに10~1000ppm圧入し、シャワー状に散布あるいは噴霧することが好ましい。
洗浄水に添加するピッチコントロール剤の量は、洗浄水1L当たり好ましくは1~10000mg、より好ましくは2~5000mg、さらに好ましくは5~3000mgである。
洗浄水1L当たりのピッチコントロール剤の添加量が1mg以上であれば、ピッチの付着防止効果が十分に発現しなくなることを防止しやすくなる。洗浄水1L当たりのピッチコントロール剤の添加量は10000mg以下で十分な効果が得られ、通常はこれを超えるピッチコントロール剤を添加する必要はない。
洗浄水にピッチコントロール剤を添加するに当たっては、洗浄水1L当たりの固形分(スメクタイト及び分散剤)の含有量が、好ましくは0.01~1000mg、より好ましくは0.02~500mg、さらに好ましくは0.05~300mgとなるように、ピッチコントロール剤を添加する。また、洗浄水に含まれるヘクトライトの含有量が、洗浄水1Lに対して、好ましくは0.01~700mg、より好ましくは0.1~100mg、さらに好ましくは0.2~90mg、よりさらに好ましくは0.5~80mgとなるように、洗浄水にピッチコントロール剤を添加する。ピッチコントロール剤が添加された洗浄水の分散剤の含有量は、ヘクトライトの質量に対して、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~8質量%、さらに好ましくは0.05~7質量%である。
洗浄水1L当たりの固形分の含有量が0.01mg以上であれば、ピッチの付着防止効果が十分に発現しなくなることを防止しやすくなる。洗浄水1L当たりの固形分の含有量が1000mg以下であれば、十分な効果が得られ、通常はこれを超える含有量となるような量のピッチコントロール剤を添加する必要はない。
【0026】
本発明のピッチコントロール方法の第二の態様においては、パルプ又は紙の製造工程において、上述したピッチコントロール剤をパルプに添加する。パルプに添加することで、パルプや紙を製造する装置にピッチが付着することが防止される。
上記第二の態様において、パルプへのピッチコントロール剤の添加量は、パルプの質量1tに対して、好ましくは1~5000g、より好ましくは2~3000g、さらに好ましくは5~2000gである。
ピッチコントロール剤の添加量がパルプ1tに対して1g以上であれば、パルプへのピッチの付着防止効果が十分に発現しなくなることを防止しやすくなる。ピッチコントロール剤の添加量は、パルプ1tに対して5000g以下で十分な効果が得られ、通常はパルプ1tに対して5000gを超えるピッチコントロール剤を添加する必要はない。
上記第二の態様において、パルプにピッチコントロール剤を添加するに当たっては、パルプの質量1t当たりの、前記パルプ以外の固形分(スメクタイト及び分散剤)の質量が、好ましくは0.01~1250g、より好ましくは0.02~1000g、さらに好ましくは0.05~500、特に好ましくは0.1~250gとなるようにピッチコントロール剤を添加する。
パルプ1tに対する固形分の質量が0.01g以上となる添加量であれば、ピッチの付着防止効果が十分に発現しなくなることを防止しやすくなる。また、ピッチコントロール剤の添加量は、パルプ1tに対する固形分の質量が5000g以下となる添加量で十分な効果が得られ、通常はこれを超えるピッチコントロール剤を添加する必要はない。
【0027】
ピッチコントロール方法の上記第1及び第2の態様において、ピッチコントロール剤と他の成分とを併用してもよい。ピッチコントロール剤と併用し得る成分としては、例えば、有機酸、無機酸、ノニオンポリマーが挙げられる。また、泡が発生しないか泡の発生が実用に差し支えない程度に少なくなる含有量であれば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等の界面活性剤を他の成分として併用することもできる。
【0028】
本発明の実施形態に係るピッチコントロール剤がピッチ付着を効果的に抑制する機構に関しては、これに拘束されるものではないが、一つには、上記ピッチコントロール剤に含まれるヘクトライトが疎水性相互作用によりピッチに付着することで、ピッチの表面がヘクトライトで被覆され、ピッチの粘着性が低下し、結果的にピッチの付着が抑制されるものと推定される。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0030】
<実施例1>
撹拌機を具備した容器に純水を入れ、これに重量平均分子量5500のアクリル酸ナトリウムホモポリマー(Poly-NaAA)を、濃度が0.3質量%になるように添加し、撹拌することによって270gの水溶液を得た。
この溶液を700rpmで撹拌しながら、体積平均粒子径が0.05μm(レーザー回折散乱粒度測定装置ベックマン・コールター社製LS230により測定)の、ヘクトライト粉末30gを少しずつ添加し、均一になるまで40分間撹拌することによって水性懸濁液(ピッチコントロール剤)300gを得た。得られた水性懸濁液の粘度を、20℃において、ブルックフィールドC形回転粘度計(No.3ローター、30rpm)を用いて、JIS K7117-1の手順で測定したところ、1900mPa・sであった。また、pH計を用いて水性懸濁液のpHを測定したところ、pHは10であった。
水溶性アクリレート系接着剤(株式会社レヂテックス製A6001)を、純水100質量部に対して10質量部の割合で純水に混合し、SUS鏡面板の表面に約100μmの厚さに均一に塗布した。
リン酸バッファー(1/15Mリン酸二水素ナトリウム(二水和物)と1/15Mリン酸水素二ナトリウム(12水和物)とを4:6の質量比で混合したpH6.98のリン酸緩衝液)と、前記ピッチコントロール剤とを、9:1の質量比で混合した試料液体を準備した。
この液体に、上述の接着剤層が形成されたSUS製の鏡面板を5分浸漬した後、引き上げて風乾させた。そして、鏡面表面のべたつきを手触りで確認した。
また、上記試料液体を、20℃にて振とう機を用いて300r/minにて30秒撹拌し、泡の発生の有無を目視で確認した。
【0031】
<比較例1>
ピッチコントロール剤を添加していないリン酸バッファーに、上述の接着剤層が形成されたSUS製の鏡面板を5分浸漬した後、引き上げて風乾させた。
そして、鏡面板の表面のべたつきを手触りで確認した。なお、このときの鏡面板の表面のべたつきを「5」とし、一方、べたつきがない状態を「1」として、上述の実施例1及び後述する比較例2~4の鏡面板のべたつき度合いを相対的に評価した。べたつきの度合いが「5」と「1」の間にある場合、その程度が大きい方から「4」「3」「2」の3段階にランク付けした。つまり、べたつきの評価が「1」であればべたつきはなく、評価が「2」以上であればべたつきを生じている。そして、べたつきの度合いが「2」から「5」になるにつれて大きくなることを意味している。
【0032】
<比較例2~4>
ピッチコントロール剤として、比較例2では界面活性剤(ADEKA社製アデカプルロニックL64)の10質量%水溶液を使用し、比較例3ではカチオンポリマー(SNF社製FLOQUAT FL2949)の10質量%水溶液を使用し、比較例4ではタルク10質量%を純水に分散させた分散液を使用した以外は、実施例1と同様の手順で測定を行った。
結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
表1から明らかなように、本発明の実施形態に係るピッチコントロール剤を用いた実施例1では、べたつきがない状態を実現できたが、比較例1~4では、べたつきが残っていた。本発明の実施形態に係る水性懸濁液に接触させることによって、接着剤の露出面がスメクタイトで覆われ、接着剤の露出面の粘着力が低下してべたつきをなくすことができるものと考えられる。一方、接着剤を比較例の液体に接触させても接着剤がスメクタイトで覆われることがないため、べたつきをなくすことができないものと考えられる。以上の結果から、本発明の実施形態に係るピッチコントロール剤が、紙やパルプ、またその製造設備にピッチが付着するのを防止し得ることがわかる。また、比較例2においては泡の発生が見られたが、実施例1では泡の発生がなかった。つまり、本発明の実施形態に係るピッチコントロール剤は、泡の発生が抑制されるので、作業性を低下させたり、排水工程での障害を発生させたりしにくいものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のピッチコントロール剤は、パルプ又は紙の製造工程に用いることができる。当該ピッチコントロール剤を用いることで、パルプ、紙、及び、これらの製造設備にピッチが付着するのを効果的に抑制、防止することができる。