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特許71512591-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/20 20060101AFI20221004BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20221004BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20221004BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C07C17/20
C07C17/25
C07C21/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018148841
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023454
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】河口 聡史
(72)【発明者】
【氏名】藤森 厚史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018412(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/20
C07C 17/25
C07C 21/18
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHCl -CHF-CHCl 、CHCl -CClF-CH Cl、または、CHCl -CF=CHClとフッ化水素とを反応させて、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを製造する、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
フッ素化されたクロミア、または、酸化クロムの存在下、前記反応を行う、製造方法。
【請求項2】
50℃以上の条件下にて前記反応を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
CHCl -CF=CHClとフッ化水素とを反応させて、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを製造する、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(CHCl=CF-CHF。HCFO-1233yd。以下、1233ydとも記す。)は、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンや1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンに代わる、地球温暖化係数(GWP)の小さい化合物であり、各種用途(例えば、洗浄剤、冷媒、熱媒体、発泡剤、溶剤)に適用可能である。
なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、略称として、ハイフン(-)より後ろの数字およびアルファベット小文字部分だけ(例えば、「HCFO-1233yd」においては「1233yd」)を用いる場合がある。
【0003】
1233ydの製造例としては、特許文献1において、3-クロロ-1,1,2,2-テトラフルオロプロパンを脱フッ化水素反応させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/136744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の製造方法では1-クロロ-3,3-ジフルオロプロピンの副生などの問題があり、工業的に有利な新たな製造方法の開発が求められていた。
本発明は、1233ydの新規な製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できるのを見出した。
【0007】
(1) 後述する式(1)で表される化合物とフッ化水素とを反応させて、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを製造する、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
(2) 触媒の存在下にて反応を行う、(1)に記載の製造方法。
(3) 50℃以上の条件下にて反応を行う、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4) Yが後述する式(3)で表される基である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1233ydの新規な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
1233ydは二重結合上の置換基の位置により、幾何異性体であるZ体とE体が存在する。本明細書中では特に断らずに化合物名や化合物の略称を用いた場合には、Z体およびE体から選ばれる少なくとも1種を示し、より具体的には、Z体もしくはE体、または、Z体とE体の任意の割合の混合物を示す。化合物名や化合物の略称の後ろに(E)または(Z)を付した場合には、それぞれの化合物の(E)体または(Z)体を示す。例えば、1233yd(Z)はZ体を示し、1233yd(E)はE体を示す。
【0010】
本発明の1233ydの製造方法は、後述する式(1)で表される化合物(以下、「化合物1」とも記す。)とフッ化水素(HF)とを反応させて、1233ydを得る方法である(以下スキーム参照)。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明の製造方法において、以下の化合物1を原料とする。
【0013】
【化2】
【0014】
式(1)中、Xは、フッ素原子または塩素原子を表す。
Yは、式(2)で表される基または式(3)で表される基を表し、なかでも1233ydの選択率が高く、副生物の生成が少ない点から、式(3)で表される基が好ましい。式(2)および式(3)中、*は結合位置を表す。
式(2) *-CFZ-CHClZ
式(3) *-CF=CHCl
およびZのうち一方は水素原子を表し、ZおよびZのうち他方は塩素原子を表す。
つまり、Yが式(2)で表される基である場合、化合物1は式(1-2)で表される化合物で表され、Yが式(3)で表される基である場合、式(1-3)で表される化合物で表される。
式(1-2) CHClX-CFZ-CHClZ
式(1-3) CHClX-CF=CHCl
式(1-2)の具体例としては、CHClF-CHF-CHCl、CHClF-CClF-CHCl、CHCl-CHF-CHCl(HCFC-241ea)、CHCl-CClF-CHCl(HCFC-241ba)が挙げられる。
式(1-3)の具体例としては、CHClF-CF=CHCl、CHCl-CF=CHCl(HCFO-1231yd)が挙げられる。
化合物1は、公知の方法により合成できる。例えば、241baは、CHClCFClCHClを塩素と反応させることにより製造できる(米国特許第8063257号公報)。
【0015】
本発明の製造方法における、化合物1とフッ化水素との反応は、液相反応および気相反応のいずれでもよい。液相反応とは、液体状態の化合物1をフッ化水素と反応させることをいう。また、気相反応とは、気体状態の化合物1をフッ化水素と反応させることをいう。
【0016】
上記反応(液相反応、気相反応)において、使用される化合物1に対する使用されるフッ化水素のモル比(フッ化水素のモル量/化合物1のモル量)は、1233ydの収率および製造効率を高くできる点から、1~100が好ましく、5~50がより好ましい。
【0017】
上記反応は、バッチ式で行ってもよいし、半連続式、連続流通式で行ってもよい。
反応器の材質の具体例としては、ガラス、鉄、ニッケル、ステンレス鋼が挙げられる。
【0018】
上記反応における好適態様の1つとしては、触媒存在下にて上記反応を行う態様が挙げられる。触媒存在下での反応は、気相反応および液相反応のいずれでも行うことができる。
【0019】
触媒は、化合物1とフッ化水素との反応を効率よく進めることが可能な触媒であれば、よく、例えば、金属触媒が挙げられる。
金属触媒の具体例としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化クロムなどの金属酸化物や、アンチモン、スズ、タリウム、鉄、チタン、タンタルなどの金属ハロゲン化物が挙げられる。上記金属触媒を、活性炭や金属酸化物などの担体に担持させてもよい。
なお、触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
触媒を用いた気相反応の具体的な手順としては、ガス状態に加熱された原料である化合物1とフッ化水素とを反応器内に連続的に供給して、反応器に充填された上記触媒と、ガス状態の化合物1およびフッ化水素とを接触させて、1233ydを得る手順が挙げられる。
なお、副生物の抑制や触媒失活の抑制に有効である点から、反応においてNなどの不活性ガスを用いてもよい。
気相反応における反応温度は、反応活性および1233ydの選択率の点から、50℃以上が好ましく、50~700℃がより好ましく、50~600℃がさらに好ましく、50~400℃が特に好ましい。
なお、気相反応の場合、原料である化合物1をプレヒートした後、反応に供してもよい。プレヒートの温度は、原料を効率的に気化する点から、80~400℃が好ましく、150~400℃がより好ましい。
なお、上記反応温度は使用される触媒に応じて好適な範囲が調整され、例えば、Crのようなクロムベースの酸化物触媒を用いる場合、反応温度は200~600℃が好ましく、250~500℃がより好ましく、FeClを活性炭に担持させた鉄ベースの触媒を用いる場合、反応温度は80~300℃が好ましく、100~250℃がより好ましい。
気相反応における反応系の圧力は、0~0.2MPaであることが好ましい。
気相反応における反応時間は、反応収率および製造効率の点から、1~6000秒間が好ましく、10~1500秒間がより好ましい。なお、反応時間は、反応器内での原料の滞留時間を意味する。
【0021】
また、金属触媒を用いた液相反応の具体的な手順としては、フッ化水素および化合物1の一方と触媒との混合物が液体状態として存在する反応器内に、連続的または非連続的にフッ化水素および化合物1の他方を供給し、反応によって生成する1233ydを反応器内から連続または非連続的に抜き出す手順が挙げられる。
液相反応における反応温度は、反応収率および1233ydの選択率の点から、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
液相反応における反応時間は、反応収率および製造効率の点から、0.5~50時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。なお、反応時間は、反応器内での原料の滞留時間を意味する。
液相反応の場合の反応時間は、反応収率および製造効率の点から、0.1~100時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。なお、反応時間は、反応器内での原料の滞留時間を意味する。
液相反応は、必要に応じて、溶媒の存在下にて実施してもよい。溶媒としては、フッ化水素に不活性な化合物であればよく、例えばCF(CF)nCF(ただし、式中nは、3~6の整数を表す。)で表される炭素数5~8の直鎖パーフルオロアルキル化合物等が挙げられる。
化合物1とフッ化水素との反応により、目的物である1233ydの他に1,3-ジクロロ-2,3-ジフルオロプロペン(HCFO-1232yd)等が副生物として得られる。上記反応により得られた生成物を、蒸留等の公知の方法により精製することによって1233ydが得られる。
【0022】
本発明の製造方法において、1233ydが生成物として得られる。得られる1233ydは、上述したように、1233yd(Z)単独であってもよく、1233yd(E)単独であってもよく、1233yd(Z)と1233yd(E)との混合物であってよい。
得られる1233ydが1233yd(Z)と1233yd(E)との混合物である場合、1233yd(E)の質量に対する、1233yd(Z)の質量の比(1233yd(Z)/1233yd(E))は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。上記比の上限は、通常、100である。
1233yd(Z)は1233yd(E)よりも化学的安定性が高いため、1233yd(Z)の質量の比(1233yd(Z)/1233yd(E))が上記下限値以上であれば、各種用途(例えば、洗浄剤、冷媒、熱媒体、発泡剤、溶剤)において使用しやすい。
【0023】
本発明の製造方法にて得られた生成物中には、目的物である1233yd以外に、不純物が含まれ得る。
不純物の具体例としては、1233ydの異性体である2-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(1233xe)、化合物1のフッ素化がさらに進行して生成する1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(1234ye)が挙げられる。
生成物中における1233xeの含有量は、精製効率の点から、生成物全質量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。上記含有量の下限は、通常、0である。
【0024】
生成物に不純物が含まれる場合、得られた生成物から、1233ydを分離する処理を実施してもよい。
【実施例
【0025】
以下に、例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
(ガスクロマトグラフの条件)
以下の各種化合物の製造において、得られた生成物の組成分析はガスクロマトグラフ(GC)を用いて行った。カラムはDB-1301(長さ60m×内径250μm×厚み1μm、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。
【0027】
(例1:1,1,3,3-テトラクロロ-2-フルオロプロパンから1233ydを合成する方法)
内径1/2インチ、長さ100cmのインコネル600製U字型反応管に、触媒としてクロミア(50mL)を充填し、窒素ガス(150NmL/min)を流しながら300℃まで昇温した。反応管内を大気圧に維持しながら、反応管通過後の粗ガス中の水分が20ppm以下になるまで触媒を乾燥した。触媒の乾燥終了後、フッ化水素(68.3NmL/min)と窒素(34.1NmL/min)との混合ガスを流しながら、300℃で触媒をフッ素化して活性化した。反応管を300℃に加熱し、ガス化させた1,1,3,3-テトラクロロ-2-フルオロプロパン(CHClCHFCHCl。241ea)(17.1NmL/min)と、フッ化水素(85.3NmL/min)とを供給し、反応させた。反応粗ガスは10質量%水酸化カリウム水溶液に流通した。3時間経過後、10質量%水酸化カリウム水溶液中に分離した有機層を回収し、ガスクロマトグラフを用いて、回収した有機層を分析した結果を表1に示す。
【0028】
(例2:1,1,2,3-テトラクロロ-2-フルオロプロパンから1233ydを合成する方法)
例1の原料を241eaから、1,1,2,3-テトラクロロ-2-フルオロプロパン(CHClCClFCHCl。241ba)に変更した以外は、例1と同様の手順で反応を行った。例2で得られた有機層のガスクロマトグラフによる組成分析の結果を、反応の条件などとともに表1に示す。
【0029】
(例3:1,3,3-トリクロロ-2-フルオロプロペンから1233ydを合成する方法)
例1の原料を241eaから、1,3,3-トリクロロ-2-フルオロプロペン(CHClCF=CHCl。1231yd)に変更した以外は、例1と同様の手順で反応を行った。例3で得られた有機層のガスクロマトグラフによる組成分析の結果を反応の条件などとともに表1に示す。
【0030】
表1中、HF/原料[モル比]は、各例で使用された原料の使用量に対する、フッ化水素の使用量のモル比を表す。
原料転化率は、反応に使用した原料のモル量に対する、反応で消費された原料のモル量の割合(単位:%)を表す。
1233yd(Z)選択率は、反応で消費された原料のモル量に対する、生成物中の1233yd(Z)のモル量の割合(単位:%)を表す。
1233yd(E)選択率は、反応で消費された原料のモル量に対する、生成物中の1233yd(E)のモル量の割合(単位:%)を表す。
1232yd選択率は、反応で消費された原料のモル量に対する、生成物中の1232yd(CHClFCF=CHCl)のモル量の割合(単位:%)を表す。
1231yd選択率は、反応で消費された原料のモル量に対する、生成物中の1231yd(CHClCF=CHCl)のモル量の割合(単位:%)を表す。
その他選択率は、反応で消費された原料のモル量に対する、生成物中の上記成分(1233yd(Z)、1233yd(E)、1232yd、1231yd)以外の他の成分のモル量の割合(単位:%)を表す。
【0031】
【表1】